説明

動物用免疫活性調整剤、及びその調整剤を含有する動物用飼料

【課題】動物の免疫活性を調整する動物用免疫活性調整剤、及びその調整剤を含有する動物用飼料を提供すること。
【解決手段】GTL−001、GTL−002、GTY−001、及びGTY−002を培養して得られた培養液、或いはその培養液を粉末化したものによって達成される。上記4種類の微生物は、それぞれ独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センターに寄託されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物用免疫活性調整剤、及びその調整剤を含有する動物用飼料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年には、イヌ・ネコなどのペットの飼育者が増大しており、これに伴ってペットなどの哺乳動物の健康に配慮した飼料の研究開発が盛んとなってきている。このような研究には、微生物を用いたものがある。例えば、特許文献1及び特許文献2には、そのような技術が開示されている。
【特許文献1】特開2005−154387号公報
【特許文献2】特開2005−021156号公報
【0003】
特許文献1には、ラクトコッカス属乳酸球菌(FERM BP−08559)を用いた免疫調節機能を備えた動物用飼料が開示されている。また、特許文献2には、ラクトバチルス・パラカセイ属乳酸菌(FERM P−19169)を用いた動物用飼料が開示されている。
しかしながら、上記文献に開示された技術は、単一種類の微生物を用いたものであり、いくつかの微生物を組み合わせたときの効果を評価したものについては、十分な研究開発が行われていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、動物の免疫活性を調整する動物用免疫活性調整剤、及びその調整剤を含有する動物用飼料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明者は各地の土壌から有効な微生物を検索したところ、ついに愛知県半田市の土壌から4種類の微生物を分離するに至り、基本的には本発明を完成するに至った。これらの微生物は、本発明者らによって、GTL−001(Lactobacillus paracasei ssp paracasei)、GTL−002(Lactobasillus paracasei ssp paracasei)、GTY−001(Saccharomyces cerevisiae)、及びGTY−002(Pichia membranifasciens)と銘々された。上記微生物は、それぞれ、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センター(〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託されている。
【0006】
こうして、本発明に係る動物用免疫活性調整剤は、GTL−001(受託番号NITE P−135)、GTL−002(受託番号NITE P−136)、GTY−001(受託番号NITE P−137)、及びGTY−002(受託番号NITE P−138)を混合培養して得られたことを特徴とする。
また、上記発明に係る動物用免疫活性調整剤を含有する動物用飼料を提供することができる。
上記4種類の微生物の特徴を説明すると次のようである。
GTL−001は、ラクトバチルス・パラカセイ(Lactobacillus paracasei ssp paracasei)であった。GTL−001の特徴として、下表1に示すものが認められた。
【0007】
【表1】

【0008】
GTL−002は、ラクトバチルス・パラカセイ(Lactobasillus paracasei ssp paracasei)であった。GTL−002の特徴として、下表2に示すものが認められた。
【0009】
【表2】

【0010】
GTY−001は、サッカロミセス・セレヴィジエ(Saccharomyces cerevisiae)であった。GTY−001の特徴として、下表3に示すものが認められた。
【0011】
【表3】

【0012】
GTY−002は、ピチア・メンブラニファシエンス(Pichia membranifasciens)であった。GTY−002の特徴として、下表4に示すものが認められた。
【0013】
【表4】

【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、動物に対して優れた免疫活性調整作用を備えた動物用免疫活性調整剤、及びその調整剤を配合した動物用飼料を提供することができる。この飼料は、各種動物の免疫効果を高めるために飼料、ペットフードとして用いることができる。また、本発明の調整剤は、動物の皮膚疾患に対する薬品などに適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
本実施形態の動物用免疫活性調整剤(以下には単に、「調整剤」という)は、適当な栄養を含む培地中で、GTL−001、GTL−002、GTY−001、及びGTY−002を混合培養することにより得ることができる。そのような培地としては、例えば酵母抽出物、麦芽抽出物、ポリペプトン、ブドウ糖などを含有したものを用いることができる。適量の酵母抽出物、麦芽抽出物、ポリペプトン、ブドウ糖を混ぜ、適当量の水(精製水、井戸水、または水道水)を混合し、殺菌処理することにより、培地を作成することができる。
【0016】
次に、上記培地中で、前記4種類の微生物を混合培養し、培養液を製造する。培養液の製造は、培地中への微生物の添加の後、通気培養による一次培養を行った後、冷温による二次培養を行い、加熱殺菌を行う。殺菌後の培養液は、そのまま、或いは粉末加工した後に、調整剤として使用することができる。また、この培養液は、そのまま或いは微生物を除去するために濾過した後に、粉末加工し、調整剤として用いることができる。
【0017】
粉末加工品は、(1)飼料に混合して動物用飼料として、(2)動物用の皮膚外用剤として、或いは(3)動物用サプリメントとして使用することができる。動物とは、イヌ・ネコ等のペット、ウシ・ウマ・ブタ・ニワトリ等の家畜が含まれる。
【0018】
次に、本発明の実施例について、詳細に説明する。
<実施例1> 培地の製造
調整剤の製造工程は、培地の製造(図1を参照)と、培養液の製造(図2を参照)とに大別される。まず、図1を参照しつつ、培地の製造について説明する。
まず、酵母抽出物(BactoTM Yeast extract (Becton, Dickinson and Company))27g、麦芽抽出物(BactoTM Malt extract (Becton, Dickinson and Company))27g、ペプトン(BactoTM pepton (Becton, Dickinson and Company))45g、D(+)−グルコース(和光純薬工業株式会社)90g、及び米ぬか抽出物(RICEO-EX(TSUNO RICE FINE CHEMICALS CO., LTD.))90gと水を混合し、9リットルに調整した。水には、水道水を用いたが、この他にも井戸水、殺菌水などを用いることもできる。
次に、この混合液を121℃にて20分間、加熱殺菌した後、冷却することにより培地を得た。以後、この培地を「GT培地」という。
【0019】
<実施例2> 培養液の製造
次に、図2を参照しつつ、培養液の製造方法について説明する。
実施例1で調製したGT培地に、前述のGTL−001、GTL−002、GTY−001、及びGTY−002の4種類の微生物を添加して混合した。
37℃で24時間或いは48時間の通気培養(一次培養)を行った後、4℃で2週間或いは4週間の低温培養(二次培養)を行った。
二次培養の後に、121℃、20分間の加熱殺菌を行った。この培養液を4℃で冷蔵保存した。
【0020】
<実施例3> ICR系マウス脾細胞に対する効果
GT培地及び実施例2で得た培養液について、ICR系マウスの脾細胞を用いた活性化試験を行った。
ICR系マウスから定法に従って脾細胞を抽出した。この脾細胞をGT培地、及び培養液に添加し、450nmの吸光度を測定することにより免疫活性を測定した。
【0021】
また、免疫細胞を刺激する物質であるconA(コンカナバリンA)、及びLPS(リポポリサッカライド)を使用し、ICR系マウスの脾細胞を用いた試験を行なって免疫活性を測定した。
培養液としては、24時間の一次培養と4週間の二次培養を行ったもの(以下、この培養液を用いた試験群を「A群」という)、48時間の一次培養と2週間の二次培養を行ったもの(以下、この培養液を用いた試験群を「B群」という)、及び48時間の一次培養と4週間の二次培養を行ったもの(以下、この培養液を用いた試験群を「C群」という)の3種類を用いた。
【0022】
また、GT培地及び培養液を用いた試験においては、x100、x50、x25、及びx12.5の4種類の希釈倍率としたものを用いた。すなわち、下表1に示すように、GT培地群(No.4〜No.7)、A群(No.8〜No.11)、B群(No.12〜No.15)、及びC群(No.16〜No.19)として試験を行った。
試薬には、タカラバイオ株式会社のPremix WST-1 Cell Proliferation Assay System を用いた。また、計測装置として、BIO−RAD社製のMICROPLATE READER Model 550 を用いた。
表1及び図3には、試験結果を示した。データは、いずれの群についてもN=3とし、それらのデータについて平均値及び標準偏差を求めた。なお、有意差は、コントロールとの比較において、危険率5%(p<0.05)で計算した(表2においても同様である)。
【0023】
【表5】

【0024】
コントロールに比べると、LPSでは、免疫応答が有意(p<0.05)に上昇した。また、GT培地(微生物を培養していないもの)を用いた場合にも、免疫応答の上昇が認められた。特に、x25及びx12.5の希釈倍率においては、有意(p<0.05)に免疫応答の上昇が認められた。このことから、GT培地そのものにも免疫活性を上昇させる成分が含有されていることが分かった。
【0025】
本実施例の培養液を用いた場合には、A群〜C群の全ての群において、コントロールに比べて有意(p<0.05)に免疫応答の上昇が認められた。その上昇割合は、いずれもGT培地よりも高かった。このことから、4種類の微生物を用いた培養液は、ICR系マウス脾細胞に対する免疫応答を有意に上昇させることがわかった。また、A群〜C群については、一部に逆転したデータがあるものの、いずれも濃度依存的に免疫応答を上昇させる傾向が認められた。但し、A群〜C群の間には、有意な差は認められなかった。
【0026】
<実施例4> C57BL/6系マウス脾細胞に対する効果
実施例3のICR系マウス脾細胞に代えて、C57BL/6系マウス脾細胞を用い、実施例3と同様の試験を行なった。但し、培養液は、A群及びC群の2群とした。コントロール及び比較対照については、実施例3と同じものを用いた。
【0027】
表2及び図4には、試験結果を示した。データは、A群のx50及びx25を除き、いずれもN=3とし、それらのデータについて平均値及び標準偏差を求めた。
【0028】
【表6】

【0029】
コントロールに比べると、LPSでは、免疫応答が有意(p<0.05)に上昇した。GT培地(微生物を培養していないもの)を用いた場合には、x25及びx12.5の希釈倍率において、コントロールよりも高い値が認められた。
また、本実施例の培養液を用いた場合には、A群及びC群のいずれについても、コントロールに比べて免疫応答の上昇が認められた。但し、培養液の効果は、conAに比べると高かったものの、LPSの効果には僅かに至らなかった。こうして、培養液の免疫活性効果は、ICR系マウスに対する効果には及ばないものの、C57BL/6系マウスに対しても認められることがわかった。
【0030】
<実施例5>
動物種イヌに、培養液から調整した免疫調整剤を体重あたり10-4g/日、8週間連続給餌した。その結果、免疫機能が良好となることが分かった。
<実施例6>
上記実施例5の追試を行うと共に、イヌ以外の動物種における効果確認を行った。
表7及び表8に示す4匹のイヌまたはネコを用いた免疫調整剤の効果確認試験を行った。表7には、各動物の基礎的なデータを、表8には、免疫調整剤を投与前の病状を示した。
【表7】

【0031】
【表8】

【0032】
上記4匹の動物に対して、培養液から調製した免疫調整剤を2g/日、通常の餌に混ぜて投与した。8週間連続給餌した後の副作用、及び病状の改善程度を表9に示した。
【表9】

【0033】
表中、改善評価のスコアは、3:改善、2:やや改善、1:変化なし、0:悪化とした。また、いずれの例においても併用薬はなかった。免疫調整剤の投与によって、食性に問題はなく、試験期間内に消化不良など、消化器系へのネガティブな反応はなかった。試験期間の経過後には、全例において、病状の改善が認められた。
特に、No.1のイヌにおける結果を図5に示した。免疫調整剤を投与前(図5(A)では、腹部全体に掻痒による発赤・角化過剰・脱毛が広範囲に見られ、脂漏性皮膚炎と診断した。投与後1〜3週間は、顕著な変化は見られなかった(図5(B))。しかし、投与後4週後に掻痒・発赤の軽減が見られ、新たな発毛が見られた(図5(C))。更に、投与後8週間では、さらに掻痒・発赤の軽減が見られ腹部皮膚の軟化が見られ、角化過剰も改善された(図5(D))。新たな発毛により、腹部全体が体毛に覆われていた。なお、一般血液性状・体重においても、特に記述するべき変化はなかった。
【0034】
アトピー性皮膚炎やアレルギーによる皮膚炎では、引掻きによる自傷行動が更に皮膚炎の症状を悪化させるため、引掻き行動の抑制が治療にとって重要となる。本実施形態の免疫調整剤の投与では、投与後1−3週間では、臨床的な顕著な変化は現れなかったが、その期間での症状悪化は見られなかった。このことは、皮膚炎を悪化する引掻き行動の抑制を意味していることを示唆している。また、投与後4週目の発毛は、角化過剰を抑制し、明らかな皮膚組織の修復が進行を示していた。
【0035】
本実施形態の免疫調整剤には、生菌は含まれていない。一般的なプロバイオティクスでは、生菌を摂取することが多いが、生菌を投与する場合、従来その個体が保持する腸内細菌層を変化させる可能性がある。その点においては、免疫調整剤は直接的に腸内へ影響するのではく、比較的マイルドに腸内細菌層や腸そのものに影響を与えていると考える。最近の報告では、腸内の死菌はそのまま腸内細菌の栄養源となることから、免疫調整剤は投与した個体が持つ菌類の活性を促すことで整腸作用をもたらす可能性も考えられる。また、免疫調整剤の投与は脾細胞の免疫活性を確認していることから、TH1およびTH2細胞の活性バランスにも関連している可能性も示唆される。
こうして、本実施例の培養液から調整した免疫調整剤(或いは、動物用飼料)は、イヌ及びネコなどの動物においても免疫調整機能を示すことが明らかとなった。
【0036】
このように本実施形態によれば、動物に対して優れた免疫活性調整作用を有する動物用免疫活性調整剤、及びその調整剤を配合した動物用飼料を提供することができた。この飼料は、各種動物の免疫効果を高めるために飼料、ペットフードとして用いることができる。また、調整剤は、動物の皮膚疾患に対する薬品などに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】培地の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】培養液の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】ICR系マウス脾細胞に対する培養液の免疫効果を確認した結果を示すグラフである。
【図4】C57BL/6系マウス脾細胞に対する培養液の免疫効果を確認した結果を示すグラフである。
【図5】イヌに免疫調整剤の投与したときのアレルギー性皮膚炎の状態の変化を示す写真図である。(A)免疫調整剤の投与前、(B)投与3週間後、(C)投与1ヶ月後、及び(D)投与2ヶ月後の状態を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受託番号NITE P−135として寄託されているGTL−001(Lactobacillus paracasei ssp paracasei)。
【請求項2】
受託番号NITE P−136として寄託されているGTL−002(Lactobasillus paracasei ssp paracasei)。
【請求項3】
受託番号NITE P−137として寄託されているGTY−001(Saccharomyces cerevisiae)。
【請求項4】
受託番号NITE P−138として寄託されているGTY−002(Pichia membranifasciens)。
【請求項5】
GTL−001(受託番号NITE P−135)、GTL−002(受託番号NITE P−136)、GTY−001(受託番号NITE P−137)、及びGTY−002(受託番号NITE P−138)を混合培養して得られたことを特徴とする動物用免疫活性調整剤。
【請求項6】
請求項5に記載の動物用免疫活性調整剤を含有することを特徴とする動物用飼料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−117083(P2007−117083A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−253648(P2006−253648)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(505367040)株式会社グローバルテクノロジー (1)
【Fターム(参考)】