説明

化合物の精製方法

【課題】純度の高い、正電荷を有する化合物を得る。
【解決手段】正電荷を有する化合物を電気透析により精製する方法であって、陰イオン交換膜と、当該陰イオン交換膜の分画分子量よりも大きな分画分子量を有する陽イオン交換膜とを用いて、脱塩槽に供給された正電荷を有する化合物を陽イオン交換膜を通過させて濃縮槽へ移動させる工程を含む、当該正電荷を有する化合物を精製する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気透析法を用いた正電荷を有する化合物の精製方法、およびこれを用いたカルニチンアミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベタインの一種であるL−カルニチンはビタミンBとも言われ、生体内で脂肪酸の代謝に関係している重要な化合物である。当該化合物は、心臓疾患治療剤、過脂肪質血症治療剤、静脈疾患治療剤等としても注目されている。
【0003】
カルニチンを製造する方法としては、様々な方法が知られているが、カルニチンアミドを加水分解してカルニチンを得る方法がよく用いられている。このとき、純度の低いカルニチンアミドを使用すると、当該加水分解により精製困難な化合物が生じることがあるので、高純度なカルニチンアミドを使用することが望ましい。カルニチンアミドを精製する方法としては、電気透析を用いた方法が知られている(特許文献1及び2参照)。しかしながら、上記の特許文献に記載された一般的な電気透析方法では、カルニチンアミドのような正の電荷を有する化合物の十分な純度が得られなかった。
【0004】
そこで、本発明者らは先に、塩化カルニチンアミドを5〜13質量%含む水溶液を中和した後、電気透析により分画分子量が100以下のイオン交換膜を透過させる方法(特許文献3参照)、及び塩化カルニチンアミドを含む被処理液を電気透析装置の脱塩槽に供給し、濃縮槽内の圧力が脱塩槽内の圧力よりも高い状態で通電し、イオン交換膜を透過させる方法(特許文献4参照)を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−107087号公報
【特許文献2】特開昭60−258487号公報
【特許文献3】特開2009−280504号公報
【特許文献4】特開2010−70551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献に記載された方法では、効率良くカルニチンアミドのような正の電荷を有する化合物を高純度かつ効率的に得ることはできなかった。
【0007】
そこで、本発明の主な目的は、純度の高い正の電荷を有する化合物を効率良く得ることにある。また本発明は純度の高いカルニチンを効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、陰イオン交換膜と、当該陰イオン交換膜の分画分子量よりも大きな分画分子量を有する陽イオン交換膜とを備えた電気透析装置を用いて電気透析を行うことにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の正電荷を有する化合物の精製方法に関する。
【0010】
[1]正電荷を有する化合物を電気透析により精製する方法であって、陰イオン交換膜と、当該陰イオン交換膜の分画分子量よりも大きな分画分子量を有する陽イオン交換膜とを用いて、脱塩槽に供給された正電荷を有する化合物を陽イオン交換膜を通過させて濃縮槽へ移動させる工程を含む、当該正電荷を有する化合物を精製する方法。
【0011】
[2]前記陽イオン交換膜の分画分子量が200〜500である、[1]記載の方法。
【0012】
[3]前記陰イオン交換膜の分画分子量が50〜200である、[1]又は[2]記載の方法。
【0013】
[4]前記正電荷を有する化合物が、下記式(1)
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、R1、R2、R3、R4は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子またはそれぞれ炭素数22以下の1価の炭化水素基を表し、前記炭化水素基中、−CH−並びに−CHのCHはカルボニル基、スルホニル基、−O−又は−S−で置き換えられていてもよく、=CHは=O又は=Sで置き換えられていてもよく、また−CH−のC−H、−CHのC−H、>CH−のC−H、=CH−のC−H並びに=CH、≡CHのC−Hは、N又はC−ハロゲンで置き換えられていてもよく、また、R1、R2、R3、R4は、そのいずれか又は全てが共同して2〜4価の基を表してもよい。)で表される、アミノ基及び/又は4級アミノ基を有する化合物又はその塩である、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
【0016】
[5]前記正電荷を有する化合物が、下記式(2)
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、R1、R2、R3、は式(1)と同様である。Xは水素原子又は炭素数22以下のアルカノイル基を表し、アルカノイル基中の−CH−並びに−CHのCHはR1、R2、R3同様に置き換えられていてもよい。Yはシアノ基、カルバモイル基、炭素数22以下のアルコキシカルボニル基、カルボキシル基から選ばれるいずれか1つの基を表し、カルバモイル基中の水素原子はそれぞれ独立に炭素数22以下の1価の炭化水素基に置き換えられていてもよく、アルコキシカルボニル基中の炭化水素基およびカルバモイル基中の置き換えられた炭化水素基において、−CH−並びに−CHのCHはR1、R2、R3同様に置き換えられていてもよい。)で表される化合物又はその塩である、[1]〜[4]のいずれか記載の方法。
【0019】
[6]前記正電荷を有する化合物が、カルニチンアミドまたはその塩である、[1]〜[5]のいずれか記載の方法。
【0020】
また本発明は、下記の工程を含むカルニチンの製造方法を提供する。
【0021】
下記の工程を含むカルニチンの製造方法。
(工程a)陰イオン交換膜と、当該陰イオン交換膜の分画分子量よりも大きな分画分子量を有する陽イオン交換膜とを用いて電気透析を行い、脱塩槽に供給されたカルニチンアミドハロゲン化物を陽イオン交換膜を通過させて濃縮槽へ移動させることにより、カルニチンアミドハロゲン化物を電気透析により精製する工程
(工程b)(工程a)で得られたカルニチンアミドハロゲン化物を加水分解する工程。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、電気透析法を用いた精製方法により、正電荷を有する化合物を含む水溶液から、不純物を高い除去率で分離できるとともに、電気透析時間を短縮することができるため、正電荷を有する化合物の精製を高度にかつ高効率に行うことができる。
【0023】
また本発明によれば、純度の高いカルニチンを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】電気透析装置の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<正電荷を有する化合物を含む水溶液>
本発明において精製の対象となる化合物は、正電荷を有する化合物である。当該化合物の分子量(Mw)は100〜400程度が好ましく、100〜300程度がより好ましく、100〜200程度がさらに好ましい。目的物の分子量がこの範囲であると、陽イオン交換膜(本明細書中、「カチオン膜」と呼ぶことがある)が目詰まりを起こしにくく、効率良く精製を行いやすい。
【0026】
当該正電荷を有する化合物は、炭素数1〜22の有機化合物が好ましく、下記式(1)で表されるアミノ基及び/又は4級アミノ基を有する化合物がより好ましい。
【0027】
【化3】

【0028】
(式中、R1、R2、R3、R4は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子またはそれぞれ炭素数22以下の1価の炭化水素基を表し、前記炭化水素基中、−CH−並びに−CHのCHはカルボニル基、スルホニル基、−O−又は−S−で置き換えられていてもよく、=CHは=O又は=Sで置き換えられていてもよく、また−CH−のC−H、−CHのC−H、>CH−のC−H、=CH−のC−H並びに=CH、≡CHのC−Hは、N又はC−ハロゲンで置き換えられていてもよく、また、R1、R2、R3、R4は、そのいずれか又は全てが共同して2〜4価の基を表してもよい。)。
【0029】
前記式(1)において、炭素数22以下の1価の炭化水素基とは、直鎖状又は分岐状の鎖状炭化水素基、側鎖のない又は側鎖のある単環式炭化水素基、側鎖のない又は側鎖のある多環式炭化水素基、側鎖のない又は側鎖のあるスピロ炭化水素基、側鎖のない又は側鎖のある環集合構造の炭化水素基、あるいは、前記の環式炭化水素基が置換した鎖状炭化水素基のいずれをも含む。また、飽和な炭化水素基並びに不飽和な炭化水素基のいずれをも含む。
【0030】
なお、以下においては、側鎖のない芳香族基、側鎖のある芳香族基、並びに、フェニルフェニル基又は側鎖のあるフェニルフェニル基などを併せて、アリール基といい、このアリール基で置換された直鎖状又は分岐状のアルキル基をアラルキル基という。他の環式炭化水素基に関しても、特に明記しない場合、環上に側鎖のないものとあるものを併せて指す場合には、単にシクロアルキル基等の名称を用いる。鎖状炭化水素基についても、直鎖状のものと分岐状のものを併せて指す場合には、単にアルキル基等の名称を用いる。
【0031】
前記炭化水素基中、−CH−がカルボニル基、スルホニル基、−O−又は−S−で置き換えられると、それぞれケトン、スルホン、エーテル又はチオエーテルの構造が導入され、−CHの−CH−がカルボニル基、−O−又は−S−で置き換わると、それぞれホルミル基(アルデヒド)、水酸基又はメルカプト基に変わり、あるいは、末端の=CHが=O又は=Sに置き換わると、ケトン、チオケトンの構造が導入されることを意味し、また、−CH−のC−HがNに変わると、−NH−となり、>CH−のC−HがNに変わると、>N−となり、=CH−のC−HがNに変わると、=N−となり、末端の−CHのC−HがNに変わると、−NHが導入され、=CHのC−HがNに変わると=NHとなり、≡CHのC−HがNに変わると、≡Nになる。また、−CH、−CH−、=CH−、≡CH又は>CH−のC−HがC−ハロゲンで置き換えられると、当該炭素上へハロゲン原子を置換することになる。なお、炭素鎖中における−O−、−S−、Nへの置き換えは、当該炭化水素基に対する、それぞれオキサ置換、チア置換、アザ置換に当たり、例えば、炭化水素環の環の骨格炭素で起こると、炭化水素環のそれぞれ含酸素複素環、含硫黄複素環、含窒素複素環への変換となる。該炭化水素基中、CH並びにC−Hにおける置き換えは、それぞれ独立に行われてよく、加えて、前記の置き換えを行った後、なお当該炭素上にCH又はC−Hが残存する際には、更に置き換えがなされてもよく、例えば、前記の置き換えにより、−CH−CHの−CO−NH;アミド構造への変換もなされる。
【0032】
本明細書において、ハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を指すが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましい。従って、前記炭化水素基としては、鎖状炭化水素基並びに環式炭化水素基など環構造を有する炭化水素基のいずれをも選択でき、例えば、飽和鎖状炭化水素基である直鎖状又は分岐状のアルキル基、不飽和鎖状炭化水素基である直鎖状又は分岐状のアルケニル基、直鎖状又は分岐状のアルキニル基、直鎖状又は分岐状のアルカジエニル基、飽和な環式炭化水素基であるシクロアルキル基、不飽和な環式炭化水素基であるシクロアルケニル基、シクロアルキニル基、シクロアルカジエニル基、芳香族炭化水素基であるアリール基、アラルキル基、アリールアルケニル基が挙げられる。
【0033】
更に詳しくいえば、直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、1−メチルプロピル基、ペンチル基、1−メチルブチル基、ヘキシル基、1−メチルペンチル基、ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、2−メチルプロピル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、メチルヘキシル基、メチルヘプチル基、メチルオクチル基、メチルノニル基、1,1−ジメチルエチル基、1,1−ジメチルプロピル基、2,6−ジメチルヘプチル基、3,7−ジメチルオクチル基、2−エチルヘキシル基、シクロアルキルアルキル基としては、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ビシクロアルキル基としては、ノルボルニル基、ビシクロ[2.2.2]オクチル基、アダマンチル基が挙げられる。直鎖状又は分岐状のアルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、クロチル基(2−ブテニル基)、イソプロペニル基(1−メチルビニル基)など、シクロアルケニル基又はシクロアルカジエニル基としては、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキサンジエニル基が挙げられる。直鎖状又は分岐状のアルキニル基としては、例えばエチニル基、プロピニル基、ブチニル基などが挙げられる。アリール基としては、例えばフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−フェニルフェニル基、3−フェニルフェニル基、4−フェニルフェニル基、9−アントリル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、エチルフェニル基、メチルエチルフェニル基、ジエチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基が挙げられる。アラルキル基としては、例えばベンジル基、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基、フェネチル基(2−フェニルエチル基)、1−フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、メチルベンジル基、メチルフェネチル基、ジメチルベンジル基、ジメチルフェネチル基、トリメチルベンジル基、エチルベンジル基、ジエチルベンジル基などが挙げられる。アリールアルケニル基としては、例えばスチリル基、メチルスチリル基、エチルスチリル基、ジメチルスチリル基、3−フェニル−2−プロペニル基が挙げられる。
【0034】
前記炭化水素基中のCHがカルボニル基、スルホニル基、O又はSで、又はC−HがN又はC−ハロゲンで置き換えられた基としては、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル、アミド、スルホン、エーテル、エポキシド、チオエーテル、アミン、ニトリル、アルコール、チオール、ハロゲン、複素環(例えば、含酸素複素環、含硫黄複素環、含窒素複素環)の構造を一つ以上含む基が挙げられる。なお、含酸素複素環、含硫黄複素環、含窒素複素環とは、環式炭化水素基の環骨格の炭素がそれぞれ酸素、硫黄、窒素で置き換わるものを意味し、更には、これらヘテロ原子置換が二種以上ある複素環であってもよい。前記の置換を有する炭化水素基としては、例えば、ケトン構造のアセチルメチル基、アセチルフェニル基;カルボン酸構造のカルボキシメチル基、カルボキシエチル基;アミド構造のカルバモイルメチル基、カルバモイルエチル基、カルバモイルプロピル基;スルホン構造のメタンスルホニルメチル基;エーテル構造のメトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、メトキシプロピル基、ブトキシエチル基、エトキシエトキシエチル基、メトキシフェニル基、ジメトキシフェニル基、フェノキシメチル基;エポキシド構造の1,2−エポキシエチル基、2,3−エポキシプロピル基;チオエーテル構造のメチルチオメチル基、メチルチオフェニル基;アミン構造のアミノメチル基、2−アミノエチル基、2−アミノプロピル基、3−アミノプロピル基、2,3−ジアミノプロピル基、2−アミノブチル基、3−アミノブチル基、4−アミノブチル基、2,3−ジアミノブチル基、2,4−ジアミノブチル基、3,4−ジアミノブチル基、2,3,4−トリアミノブチル基、メチルアミノメチル基、ジメチルアミノメチル基、メチルアミノエチル基、プロピルアミノメチル基、シクロペンチルアミノメチル基、アミノフェニル基、ジアミノフェニル基、アミノメチルフェニル基;ニトリル構造のシアノメチル基、シアノエチル基、シアノプロピル基;含酸素複素環のテトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基、モルホリルエチル基;含酸素複素芳香環のフリル基、フルフリル基、ベンゾフリル基、ベンゾフルフリル基;含硫黄複素芳香環のチエニル基;含窒素複素芳香環のピロリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアジアゾリル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピラジニル基、テトラジニル基、キノリル基、イソキノリル基、ピリジルメチル基;アルコール構造の2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、4−ヒドロキシブチル基、2,3−ジヒドロキシブチル基、2,4−ジヒドロキシブチル基、3,4−ジヒドロキシブチル基、2,3,4−トリヒドロキシブチル基、ヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、ヒドロキシメチルフェニル基、ヒドロキシエチルフェニル基;チオール構造の2−メルカプトエチル基、2−メルカプトプロピル基、3−メルカプトプロピル基、2,3−ジメルカプトプロピル基、2−メルカプトブチル基、3−メルカプトブチル基、4−メルカプトブチル基、メルカプトフェニル基;ハロゲン化炭化水素基である2−クロロエチル基、2−クロロプロピル基、3−クロロプロピル基、2−クロロブチル基、3−クロロブチル基、4−クロロブチル基、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、ジフルオロフェニル基、ジクロロフェニル基、ジブロモフェニル基、クロロフルオロフェニル基、トリフルオロフェニル基、トリクロロフェニル基、フルオロメチルフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基;カルボン酸構造とアルコール構造を有する1−ヒドロキシ−2−カルボキシエチル基、2−ヒドロキシ−3−カルボキシプロピル基;アミド構造とアルコール構造を有する1−ヒドロキシ−2−カルバモイルエチル基、2−ヒドロキシ−3−カルバモイルプロピル基;アミン構造とアルコール構造を有する2−アミノ−3−ヒドロキシプロピル基、3−アミノ−2−ヒドロキシプロピル基、2−アミノ−3−ヒドロキシブチル基、3−アミノ−2−ヒドロキシブチル基、2−アミノ−4−ヒドロキシブチル基、4−アミノ−2−ヒドロキシブチル基、3−アミノ−4−ヒドロキシブチル基、4−アミノ−3−ヒドロキシブチル基、2,4−ジアミノ−3−ヒドロキシブチル基、3−アミノ−2,4−ジヒドロキシブチル基、2,3−ジアミノ−4−ヒドロキシブチル基、4−アミノ−2,3−ジヒドロキシブチル基、3,4−ジアミノ−2−ヒドロキシブチル基、2−アミノ−3,4−ジヒドロキシブチル基、アミノヒドロキシフェニル基;ニトリル構造とアルコール構造を有する1−ヒドロキシ−2−シアノエチル基、2−ヒドロキシ−3−シアノプロピル基;ハロゲンと水酸基で置換された炭化水素基であるフルオロヒドロキシフェニル基、クロロヒドロキシフェニル基;カルボン酸構造のカルボキシフェニル基が挙げられる。
【0035】
前記式(1)で表されるアミノ基及び/又は4級アミノ基を有する化合物としては、例えば、ビス−1,3−(トリメチルアミノ)−2−プロパノール、3−アミノ−1,2−エポキシプロパン、3−トリメチルアミノ−1,2−エポキシプロパン、4−アミノブチロニトリル、4−アミノ−3−ヒドロキシブチロニトリル、4−アミノ−3−アセトキシブチロニトリル、4−トリメチルアミノ−3−ヒドロキシブチロニトリル、4−トリメチルアミノ−3−アセトキシブチロニトリル、4−アミノブチルアミド、4−アミノ−3−ヒドロキシブチルアミド、4−アミノ−3−アセトキシブチルアミド、4−トリメチルアミノ−3−ヒドロキシブチルアミド、4−トリメチルアミノ−3−アセトキシブチルアミド、4−アミノブチルアルデヒド、4−アミノ−3−ヒドロキシブチルアルデヒド、4−アミノ−3−アセトキシブチルアルデヒド、4−トリメチルアミノ−3−ヒドロキシブチルアルデヒド、4−トリメチルアミノ−3−アセトキシブチルアルデヒド、4−アミノブタン酸、4−アミノブタン酸メチル、4−アミノブタン酸エチル、4−アミノ−3−ヒドロキシブタン酸、4−アミノ−3−ヒドロキシブタン酸メチル、4−アミノ−3−ヒドロキシブタン酸エチル、4−アミノ−3−アセトキシブタン酸、4−アミノ−3−アセトキシブタン酸メチル、4−アミノ−3−アセトキシブタン酸エチル、4−トリメチルアミノ−3−ヒドロキシブタン酸、4−トリメチルアミノ−3−ヒドロキシブタン酸メチル、4−トリメチルアミノ−3−ヒドロキシブタン酸エチル、4−トリメチルアミノ−3−アセトキシブタン酸、4−トリメチルアミノ−3−アセトキシブタン酸メチル、4−トリメチルアミノ−3−アセトキシブタン酸エチルが挙げられる。
【0036】
また、前記式(1)で表されるアミノ基及び/又は4級アミノ基を有する化合物は塩を形成していてもよく、鉱酸塩や、有機酸塩が挙げられ、塩化物塩、臭化物塩が好ましい。
【0037】
特に、下記式(2)で表される化合物(本明細書中、「カルニチン類」ということがある)が好ましい。
【0038】
【化4】

【0039】
(式中、R1、R2、R3、は式(1)と同様である。Xは水素原子又は炭素数22以下のアルカノイル基を表し、アルカノイル基中の−CH−並びに−CHのCHはR1、R2、R3同様に置き換えられていてもよい。Yはシアノ基、カルバモイル基、炭素数22以下のアルコキシカルボニル基、カルボキシル基から選ばれるいずれか1つの基を表し、カルバモイル基中の水素原子はそれぞれ独立に炭素数22以下の1価の炭化水素基に置き換えられていてもよく、アルコキシカルボニル基中の炭化水素基およびカルバモイル基中の置き換えられた炭化水素基において、−CH−並びに−CHのCHはR1、R2、R3同様に置き換えられていてもよい。)。
【0040】
前記式(2)で表される化合物としては、例えば、4−アミノ−3−ヒドロキシブチロニトリル、4−アミノ−3−アセトキシブチロニトリル、4−トリメチルアミノ−3−ヒドロキシブチロニトリル、4−トリメチルアミノ−3−アセトキシブチロニトリル、4−アミノ−3−ヒドロキシブチルアミド、4−アミノ−3−アセトキシブチルアミド、4−トリメチルアミノ−3−ヒドロキシブチルアミド、4−トリメチルアミノ−3−アセトキシブチルアミド、4−アミノ−3−ヒドロキシブタン酸、4−アミノ−3−ヒドロキシブタン酸メチル、4−アミノ−3−ヒドロキシブタン酸エチル、4−アミノ−3−アセトキシブタン酸、4−アミノ−3−アセトキシブタン酸メチル、4−アミノ−3−アセトキシブタン酸エチル、4−トリメチルアミノ−3−ヒドロキシブタン酸、4−トリメチルアミノ−3−ヒドロキシブタン酸メチル、4−トリメチルアミノ−3−ヒドロキシブタン酸エチル、4−トリメチルアミノ−3−アセトキシブタン酸、4−トリメチルアミノ−3−アセトキシブタン酸メチル、4−トリメチルアミノ−3−アセトキシブタン酸エチルが挙げられ、4−トリメチルアミノ−3−ヒドロキシブチロニトリル(本明細書中、「カルニチンニトリル」と呼ぶことがある)、4−トリメチルアミノ−3−ヒドロキシブチルアミド(本明細書中、「カルニチンアミド」と呼ぶことがある)、4−トリメチルアミノ−3−ヒドロキシブタン酸(本明細書中、「カルニチン」と呼ぶことがある)が好ましく、カルニチンアミドが特に好ましい。
【0041】
正電荷を有する化合物を含み、電気透析にかけられる水溶液(本明細書中、「供給液」と呼ぶことがある)において、正電荷を有する化合物と共存する不純物は特に限定されないが、例えば、正電荷を有する目的化合物(Mw)が100〜200であって、分子量(Mw)100〜120の不純物が含まれていても、本発明によれば電気透析によって不純物と正電荷を有する目的化合物を良好に分離することができる。共存する不純物は、電荷を有さない有機化合物であることが好ましい。
【0042】
例えば、供給液は、正電荷を有する化合物としてカルニチンアミド等を含むととともに、不純物として電荷を有さない4−ヒドロキシクロトンアミド(本明細書中、HCAmと呼ぶことがある)及び電荷を有さない3−ヒドロキシグルタロニトリル(本明細書中、Di−CNと呼ぶことがある)を含む水溶液(例えば、粗塩化カルニチンアミド水溶液)が好ましい。
【0043】
該水溶液は、例えば、4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルから、微生物の作用により4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミドを製造し、これをトリメチルアミン等を用いて4級アミノ化して得られる、塩化カルニチンアミドを含む水溶液である。
【0044】
供給液におけるカルニチンアミド類の濃度は特に限定されないが、濃度差に起因して、不純物がイオン交換膜を透過することを抑制する点からは、3〜20質量%が好ましく、4〜13質量%がより好ましく、5〜8質量%がさらに好ましい。
【0045】
供給液は、必要に応じて、予め固形分を取り除くことが好ましい。例えば、粗塩化カルニチンアミド水溶液にろ過助剤を添加し、遠心分離、加圧ろ過等によって菌体等の固形分を除去することが好ましい。
【0046】
また、供給液のpHは、目的物が正電荷を持つpHであれば特に限定されず、例えばカルニチンニトリルおよびカルニチンアミドの場合、目的物の加水分解を防ぐ観点から1〜9、好ましくは2〜8程度がよい。また、例えばカルニチンの場合は、目的物が正電荷を持ち、回収率が向上する観点から0〜6で好ましく実施され、1〜4がより好ましい。
【0047】
pH調整の方法は特に限定されず、既知の手法を用いることができる。例えば、粗塩化カルニチンアミド水溶液に、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性水溶液や、塩酸水溶液等の酸性水溶液を添加する方法を挙げることができる。
【0048】
<電気透析装置>
本発明において使用する電気透析装置は特に限定されず、既存の装置を使用することができる。一般的な形態としては、例えば、陰極と陽極との間に、陽極側に陰イオン交換膜を配置し、陰極側に陽イオン交換膜を配置して、脱塩槽と濃縮槽を形成したものが挙げられる。
【0049】
図1は、本発明に好適に用いられる電気透析装置の一例を示した概略構成図である。図中符号1は脱塩側貯留槽、2は濃縮側貯留槽、3は脱塩側循環ポンプ、4は濃縮側循環ポンプ、5、7は脱塩槽、6は濃縮槽、10は処理槽、11は陽極、12は陰極、Aは陰イオン交換膜(アニオン膜)、Cは陽イオン交換膜(カチオン膜)、をそれぞれ示す。
【0050】
本例の装置において、陽極11と陰極12を備えた処理槽10内に、多数の陰イオン交換膜Aと陽イオン交換膜Cとが交互に配列されており、陰イオン交換膜Aと陽イオン交換膜Cとに挟まれて脱塩槽5、7、および濃縮槽6が形成されている。脱塩槽5、7は陽極11側が陰イオン交換膜Aで区画され陰極12側が陽イオン交換膜Cで区画されており、濃縮槽6は陽極11側が陽イオン交換膜Cで区画され陰極12側が陰イオン交換膜Aで区画されている。
【0051】
本例において、陰イオン交換膜Aおよび陽イオン交換膜Cに平行な方向が上下方向であり、脱塩槽5、7、および濃縮槽6の下端にそれぞれ入口5a、7a、6aが設けられ、上端にそれぞれ出口5b、7b、6bが設けられている。
【0052】
脱塩側循環ポンプ3を駆動させると、脱塩側貯留槽1から脱塩槽の入口5a、7aを通って脱塩槽5、7内に液が供給され、脱塩槽の出口5b、7bから流出した脱塩液が脱塩側貯留槽1へ戻って、再び循環されるようになっている。
【0053】
同様に、濃縮側循環ポンプ4を駆動させると、濃縮側貯留槽2から濃縮槽の入口6aを通って濃縮槽6内に液が供給され、濃縮槽の出口6bから流出した濃縮液が濃縮側貯留槽2へ戻って、再び循環されるようになっている。
【0054】
そして、脱塩槽5,7に、電荷を有する有機化合物を含む被処理液を供給し、濃縮槽6に濃縮水(例えば純水)を供給して、陽極11および陰極12間に直流電流を流すことにより、脱塩槽5内のイオンを濃縮槽6へ移動させる方法で電気透析を行う。
【0055】
電気透析における印加電圧は、一対のイオン交換膜に対して0.1〜1.0Vの範囲で設定することが好ましく、0.3〜0.7Vの範囲がより好ましい。電流密度は限界電流密度以下であることが好ましい。
【0056】
<陰イオン交換膜・陽イオン交換膜>
電気透析装置に使用する陰イオン交換膜Aの種類および陽イオン交換膜Cの種類は特に限定はされない。一般的には、一価イオン選択透過処理が施されたイオン交換膜を用いると、不純物の拡散による浸透がより抑制される。
【0057】
陽イオン交換膜Cの分画分子量は200〜500が好ましく、250〜400がより好ましい。かかる分画分子量の陽イオン交換膜Cは市販品から入手可能である。例えば、株式会社アストム製のネオセプタCMX(分画分子量300)が挙げられる。
【0058】
陰イオン交換膜Aの分画分子量は50〜200が好ましく、80〜150がより好ましい。かかる分画分子量の陰イオン交換膜Aは市販品から入手可能である。例えば、株式会社アストム製のネオセプタACS(分画分子量100)が挙げられる。
【0059】
これらは陽イオン交換膜Cの分画分子量の方が、陰イオン交換膜Aの分画分子量よりも大きくなるように組み合わせて用いる。陽イオン交換膜Cの分画分子量と、陰イオン交換膜Aの分画分子量との差は100〜450であることが好ましく、150〜400がより好ましい。このような分画分子量の差を設けることにより、例えば、精製に供される正電荷を有する化合物としてカルニチンアミドを用いた場合に、効率良く精製することができるからである。
【0060】
<精製方法>
まず、供給液を、電気透析装置の脱塩槽5,7に供給し、該電気透析装置の濃縮槽6に純水(濃縮水)を入れる。そして、電極間に所定時間、電圧を印加して、電気透析による精製を行う。
【0061】
電圧を印加すると、目的物である陽イオンが陰極12側に引き寄せられ、陽イオン交換膜Cを透過して濃縮槽6に移動する。また対イオンである陰イオンは陽極11側に引き寄せられ、陰イオン交換膜Aを透過して濃縮槽6に移動する。一方、非電解質の不純物はイオン交換膜を透過できず、脱塩槽5,7内に残留する。したがって、濃縮槽6側の溶液を回収すると、精製の目的とする正電荷を有する化合物を高濃度で含み、非電解質の不純物をほとんど含まない、精製された溶液(本明細書中、「回収液」と呼ぶことがある)が得られる。
【0062】
本発明において、濃縮側貯留槽2に供給する濃縮液(例えば、水)の質量と、脱塩側貯留層1に供給する正電荷を有する化合物を含む脱塩液の質量は限定されない。濃縮液の質量を脱塩液の質量に対して少なくすることにより、より高濃度で正電荷を有する化合物を含む回収液が得られるので好ましい。
【0063】
例えば、脱塩液の質量に対する濃縮液の質量の比(脱塩液の質量/濃縮液の質量:以下、「濃縮水比率」という。)は、0.2〜0.7(20%〜70%)がより好ましく、0.2〜0.5(20%〜50%)が更に好ましい。
【0064】
本発明の方法によれば、陽イオン交換膜Cの分画分子量が、陰イオン交換膜Aの分画分子量よりも大きくなるように、イオン交換膜を組み合わせて用いることによって、短い電気透析時間であっても、不純物の高い除去率が得られる。
【0065】
より詳細には、精製する対象(目的)である正電荷を有する化合物としてカルニチンアミドイオン(分子量161.77)、対イオンである塩素イオン(分子量35.5)、不純物であるHCAm(分子量101.11)及びDi−CN(分子量110.12)を含む水溶液を、分画分子量100のアニオン膜と、分画分子量300のカチオン膜を用いて電気透析を行うことにより、カルニチンアミドイオンよりも不純物(HCAm、Di−CN)の方が分子量が小さく、かつ不純物の分子量とアニオン膜の分画分子量の差が小さいにもかかわらず、90%程度の高い不純物除去率が得られる。
【0066】
<カルニチンの製造>
本発明の方法により得られたカルニチンアミドは、さらに加水分解を行うことによりカルニチンを得ることも可能である。このようにして得られたカルニチンは、必要に応じてカルニチンを含む溶液のpHを調整した後、例えば、電気透析や晶析のような公知の方法によりさらに精製することも可能である。
【0067】
このときの電気透析は、例えば、pHを6〜8に調整したカルニチンを含む水溶液を脱塩槽に供給して電気透析を行い、脱塩槽側でカルニチン水溶液を得ることもできる。このとき、使用する陽イオン交換膜と陰イオン交換膜の分画分子量に差をつける必要はなく、当該膜の分画分子量を含む電気透析の条件は適宜選択することができる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、実施例に限定されるものではない。なお、特段の断りがない限り、「%」は、「質量%」を表すものとする。
【0069】
不純物量の分析方法
供給液および回収液中の不純物量は、以下に示す高速液体クロマトグラフィー条件により容易に測定することができる。塩化カルニチンアミドの測定は下記<条件1>にて行い、HCAmおよびDi−CNの測定は下記<条件2>にて行った。
【0070】
<条件1>
カラム:Nucleosil 100−N(CH、4.6×250mm(GL science社製)
移動相:50mMリン酸カリウム(pH4.7):アセトニトリル(ATN)=35:65(容量比)
流速:1.0ml/min
検出:UV205nm
リテンションタイム:
塩化カルニチンアミド 7−8min
クロトノベタイン 12−13min
4−ヒドロキシクロトン酸 5.0−5.2min
3−ヒドロキシグルタル酸 14−16min
カルニチン 10−11min。
【0071】
<条件2>
カラム:Inertsil ODS−3V、4.6×250mm(GL science社製)
移動相:0.05%CFCOOH
流速:1.0ml/min
検出:UV205nm、RI
リテンションタイム:
4−ヒドロキシクロトンアミド (HCAm) 4.7min(UV205nm)
3−ヒドロキシグルタロニトリル(Di−CN) 5.7min(RI)。
【0072】
電気透析
本実施例に用いた電気透析装置は、アシライザーS−3型(株式会社アストム製)を用いた。有効膜面積は550cm(脱塩槽10対)である。
【0073】
陽イオン交換膜および陰イオン交換膜としては、以下のものから選択して用いた。
【0074】
(1)陽イオン交換膜(カチオン膜)
分画分子量100:一価イオン選択透過性、ネオセプタCIMS(商品名)、アストム社製
分画分子量300:一価イオン選択透過性を有しない標準膜、ネオセプタCMX(商品名)アストム社製。
【0075】
(2)陰イオン交換膜(アニオン膜)
分画分子量100:一価イオン選択透過性、ネオセプタACS(商品名)、アストム社製
分画分子量300:一価イオン選択透過性を有しない標準膜、ネオセプタAMX(商品名)アストム社製。
【0076】
脱塩槽5または7内の電導度の測定は、電導計内蔵型のアストム社のアシライザーS−3型を用いて行った。電導度は、イオンに解離したカルニチンアミドイオンの残量の目安であり、電導度の値をそろえる(等しくする)ということは、塩化カルニチンアミドの回収率をどの条件でも一定にすることを意味する。本実験では0.6mS/cmの電導度で塩化カルニチンアミドの回収率は99%以上である。
【0077】
<参考例1>
[塩化カルニチンアミドの製造]
(イ)1,3−ジクロロ−2−プロパノールとHCNからの4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの合成
pH電極、pHコントローラーにより制御されたアルカリ投入管を装着し、攪拌器を取り付けた2Lの4つ口フラスコを恒温槽に入れ、フラスコに水637.8g,HCN22.2gを入れ、30%NaOH3.3gでpH7.5に調整した。1,3−ジクロロ−2−プロパノール50.0gを入れ均一になるまで攪拌した。
【0078】
系内のpH7.5〜7.6に維持するように30%NaOHを投入するようにpHコントローラーを設定し、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を持つ大腸菌(Escherichia coli)JM109/pST111の菌体懸濁液100.0g(40kU)を加え、20℃で反応を開始した。1,3−ジクロロ−2−プロパノール73.7gとHCN7.15gを反応開始直後から4時間かけて定速で追添加した。
【0079】
23時間後、30%NaOHは112.75g投入されており、反応液中の4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル濃度は9.0%、反応により消費された1,3−ジクロロ−2−プロパノールからの収率は96.3%であった。
【0080】
この反応液を塩酸でpH5.0に調節し,60℃,100torrで減圧濃縮し、未反応のHCN、1,3−ジクロロ−2−プロパノールを除去した反応液を533g取得した。このとき、4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル17.0%、Di−CN1.5%であった。
【0081】
ここで、1kU(キロユニット)とは20℃、pH8.0の緩衝液中において、1,3−ジクロロ−2−プロパノールから1分間に1mmolのエピクロロヒドリンを生成することができる酵素量を意味する。また、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を持つ大腸菌(Escherichia coli)JM109/pST111は、FERM P−12065として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1中央第6)に平成3年3月1日付け寄託されている。
【0082】
(ロ)4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミドの合成
(培養および反応用菌体液の調整方法)
二トリルヒドラターゼ活性を有するロドコッカス ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J−1(FERM BP−1478)を30L容ジャーファーメンター(高杉製作所社製)にてグルコース2%、尿素1%、ペプトン0.5%、酵母エキス0.3%、塩化コバルト0.05%を含む、20Lの培地(pH7.0)に植菌し、温度30℃で好気的に60時間培養した。上記の方法により培養した菌体を遠心分離により集菌し、50mMリン酸緩衝液(pH7.7)にて同量で2回洗浄後,懸濁し、反応用菌体液とした。
【0083】
(4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミドの合成)
攪拌器を取り付けた1Lの4つ口フラスコを恒温槽に入れ、(イ)で合成した4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル水溶液500gをフラスコに投入し、4%NaOH水溶液で中和してpH7.06とした。
【0084】
次いで、J−1菌6.0gを滴下し反応温度2℃で反応を開始した。4時間後に4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの転化率は100%に達し、この時の反応液の組成は、4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミド13.0%、Di−CN0.3%であった。
【0085】
(ハ) 4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミドの4級アミノ化反応
(ロ)で合成した4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミド水溶液に30%トリメチルアミン水溶液を114.0g加え、30℃で反応を開始した。4時間後に4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミドの転化率は100%に達し、この時の反応液の組成は、塩化カルニチンアミド13.9%、Di−CN0.2%であった。
【0086】
(ニ)pH調整、活性炭処理、濾過
(ハ)で得られた粗塩化カルニチンアミド水溶液を、35%塩酸水溶液でpH7.0に調整し、活性炭6.0gを添加し、室温にて1時間攪拌後、遠心分離機により活性炭を分離し、塩化カルニチンアミド14.7%、Di−CN0.3%、HCAm0.4%を含む水溶液を610g得た。
【0087】
ここで得た水溶液を,塩化カルニチンアミド濃度が7.97%になるように純水で希釈し,電気透析の原料とした。
【0088】
<実施例1>
[塩化カルニチンアミドの精製]
供給液として、塩化カルニチンアミド濃度7.97%の粗塩化カルニチンアミド水溶液300gを電気透析装置の脱塩側貯留槽に入れ、次いで、濃縮水として純水200gを濃縮側貯留槽に入れた(濃縮水比率66.7%)。電圧10Vで電気透析を行った。脱塩槽5内の電導度をモニターし、0.6mS/cmになったところで電気透析を終了した。電気透析時間は60分であった。その結果、回収液として不純物の含有量が低減された精製塩化カルニチンアミド水溶液296.55gを得た。
【0089】
表1に、使用した陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜の分画分子量、濃縮水比率、供給液(粗塩化カルニチンアミド水溶液)と回収液(精製塩化カルニチンアミド水溶液)の組成、塩化カルニチンアミドの回収率と不純物の除去率、および電気透析時間を示す(以下、同様)。
【0090】
<実施例2>
実施例1と同様にして1回目の電気透析を行った。電気透析時間は60分であった。得られた回収液の296.7gを供給液として脱塩側貯留槽に入れ、濃縮水として純水200gを濃縮側貯留槽に入れて、電圧10Vで2回目の電気透析を行った。脱塩槽5内の電導度が0.6mS/cmになったところで電気透析を終了した。電気透析時間は52分であった。
【0091】
<実施例3〜5>
供給液を750g、濃縮水比率を表1に示す通りに変更した他は、実施例1と同様にして電気透析を行った。電気透析時間は150分であった。
【0092】
<比較例1及び2>
実施例1において、カチオン膜またはアニオン膜を表1に示す通りに変更した他は、実施例1と同様にして電気透析を行った(濃縮水比率66.7%)。電気透析時間は150分であった。
【0093】
<比較例3>
比較例2と同様にして1回目の電気透析を行った。得られた回収液を供給液として脱塩側貯留槽に入れ、濃縮水として純水200gを濃縮側貯留槽に入れて、電圧10Vで、脱塩槽5内の電導度が0.6mS/cmになるまで2回目の電気透析を行った。得られた回収液を再び供給液として脱塩側貯留槽に入れ、濃縮水として純水200gを濃縮側貯留槽に入れて、電圧10Vで、脱塩槽5内の電導度が0.6mS/cmになるまで3回目の電気透析を行った。
【0094】
<比較例4>
供給液を750g、濃縮水比率を表1に示す通りに変更した他は、比較例1と同様にして電気透析を行った。電気透析時間は460分であった。
【0095】
【表1】

【0096】
表1に示されるように、カチオン膜およびアニオン膜の分画分子量がいずれも100である比較例1は、不純物(HCAm、Di−CN)の除去率は高いが、電気透析時間が150分と長かった。
【0097】
これに対し、カチオン膜の分画分子量が300でアニオン膜の分画分子量が100である実施例1は、不純物(HCAm、Di−CN)の除去率が比較例1と同等であるにもかかわらず、電気透析時間が60分と比較例1より大幅に短縮された。
【0098】
また、カチオン膜およびアニオン膜の分画分子量がいずれも300である比較例2は、比較例1と比べて電気透析時間は50分に短縮されたが、不純物の除去率が低かった。実施例1と比べると、電気透析時間および塩化カルニチンアミドの回収率はほぼ同等であるが、比較例2は不純物の除去率が劣っていた。
【0099】
実施例2は、カチオン膜の分画分子量300かつアニオン膜の分画分子量100で、電気透析を2回繰り返した例である。この例では電気透析時間の合計が112分であり、不純物の非常に高い除去率を達成できた。
【0100】
これに対して、比較例3は、カチオン膜およびアニオン膜の分画分子量がいずれも300で、電気透析を3回繰り返し、電気透析時間の合計は140分であった。塩化カルニチンアミドの回収率は実施例2と同等であるが、Di−CNの除去率は実施例2よりも劣っていた。
【0101】
実施例3〜5は、カチオン膜の分画分子量300かつアニオン膜の分画分子量100で、濃縮水比率をそれぞれ50%、37.5%、20%とした例である。濃縮水比率66.7%である実施例1と不純物の除去率が同等であった。電気透析時間が実施例1と比べて2.5倍の150分となっているが、これは供給液の量が2.5倍の750gになったことに起因しており、濃縮水比率とは関係ない。
【0102】
これに対して、カチオン膜およびアニオン膜の分画分子量がいずれも100で、濃縮水比率40%である比較例4は、電気透析時間が460分と実施例3〜5より大幅に長くなったうえ、カチオン膜の分画分子量が実施例3〜5より小さいにもかかわらず、不純物(HCAm、Di−CN)の除去率が実施例3〜5より劣っていた。
【符号の説明】
【0103】
1 脱塩側貯留槽
2 濃縮側貯留槽
3 脱塩側循環ポンプ
4 濃縮側循環ポンプ
5、7 脱塩槽
6 濃縮槽
10 処理槽
11 陽極
12 陰極
A 陰イオン交換膜(アニオン膜)
C 陽イオン交換膜(カチオン膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正電荷を有する化合物を電気透析により精製する方法であって、陰イオン交換膜と、当該陰イオン交換膜の分画分子量よりも大きな分画分子量を有する陽イオン交換膜とを用いて、脱塩槽に供給された正電荷を有する化合物を陽イオン交換膜を通過させて濃縮槽へ移動させる工程を含む、当該正電荷を有する化合物を精製する方法。
【請求項2】
陽イオン交換膜の分画分子量が200〜500である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
陰イオン交換膜の分画分子量が50〜200である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
正電荷を有する化合物が、下記式(1)
【化1】

(式中、R1、R2、R3、R4は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子またはそれぞれ炭素数22以下の1価の炭化水素基を表し、前記炭化水素基中、−CH−並びに−CHのCHはカルボニル基、スルホニル基、−O−又は−S−で置き換えられていてもよく、=CHは=O又は=Sで置き換えられていてもよく、また−CH−のC−H、−CHのC−H、>CH−のC−H、=CH−のC−H並びに=CH、≡CHのC−Hは、N又はC−ハロゲンで置き換えられていてもよく、また、R1、R2、R3、R4は、そのいずれか又は全てが共同して2〜4価の基を表してもよい。)
で表される、アミノ基及び/又は4級アミノ基を有する化合物又はその塩である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
正電荷を有する化合物が、下記式(2)
【化2】

(式中、R1、R2、R3、は式(1)と同様である。Xは水素原子又は炭素数22以下のアルカノイル基を表し、アルカノイル基中の−CH−並びに−CHのCHはR1、R2、R3同様に置き換えられていてもよい。Yはシアノ基、カルバモイル基、炭素数22以下のアルコキシカルボニル基、カルボキシル基から選ばれるいずれか1つの基を表し、カルバモイル基中の水素原子はそれぞれ独立に炭素数22以下の1価の炭化水素基に置き換えられていてもよく、アルコキシカルボニル基中の炭化水素基およびカルバモイル基中の置き換えられた炭化水素基において、−CH−並びに−CHのCHはR1、R2、R3同様に置き換えられていてもよい。)
で表される化合物又はその塩である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
正電荷を有する化合物がカルニチンアミド又はその塩である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
下記の工程を含むカルニチンの製造方法。
(工程a)陰イオン交換膜と、当該陰イオン交換膜の分画分子量よりも大きな分画分子量を有する陽イオン交換膜とを用いて電気透析を行い、脱塩槽に供給されたカルニチンアミドハロゲン化物を陽イオン交換膜を通過させて濃縮槽へ移動させることにより、カルニチンアミドハロゲン化物を電気透析により精製する工程
(工程b)(工程a)で得られたカルニチンアミドハロゲン化物を加水分解する工程

【図1】
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【公開番号】特開2011−68641(P2011−68641A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189971(P2010−189971)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】