説明

化合物及び前記化合物を有する粒子及び前記粒子を有する造影剤

【課題】 粒子などに内包されている場合に、その粒子の周囲に水が存在する条件下で、粒子から漏出しにくい化合物を提供することを目的とする。
【解決手段】 下記の式(1)で示される化合物。
【化1】


ただし、式(1)中のXは4以上20以下の整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物及び前記化合物を有する粒子及び前記粒子を有する造影剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内部の情報を可視化する装置の1つとして、光音響トモグラフィー(Photoacoustic tomography、以下PATと略すことがある)装置が知られている。PAT装置では、被測定体に光を照射することで被測定体から発せられる光音響信号の強度と発生位置を測定することにより、被測定体内部の物質分布を演算して、被測定体の層画像が得られる。
【0003】
ここで、インドシアニングリーンに光が照射されると、インドシアニングリーンは光音響信号を発することが知られている。なお、本明細書において、インドシアニングリーンとは下記の構造で示される化合物を指す。
【0004】
【化1】

【0005】
以下ではインドシアニングリーン(Indocyanine Green)をICGと略すことがある。ICGに光を照射するとICGは光音響信号を発することが知られている。また、ICGは親水性である。
【0006】
特許文献1では、リポソーム中にカプセル封入されたインドシアニングリーンを投与されたマウスに光を照射し、光音響信号を検出している。
【0007】
非特許文献1にはインドシアニングリーンを含有した、ポリ乳酸グリコール酸共重合体のナノ粒子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2002−508760号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Journal of Photochemistry and Photobiology B:Biology,74(2004)29−38
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記、インドシアニングリーンを有する物質は次のような問題がある。特許文献1において、インドシアニングリーンが親水性であるため、リポソームの周囲に水が存在する条件下(例えば生体内)では、インドシアニングリーンがリポソームから漏出する可能性がある。また、非特許文献1においても、ナノ粒子の周囲に水が存在する条件下では、インドシアニングリーンがナノ粒子から漏出する可能性がある。インドシアニングリーンは、リポソームあるいは粒子から漏出すると、粒子の周囲の水と反応して分解してしまう。
【0011】
そのため、例えば、インドシアニングリーンを光音響信号の発信物質として用いた場合、次のような問題がある。つまり、上記リポソームやナノ粒子が生体内など周囲に水が存在する条件下におかれた場合、これらに光を照射して光音響信号を測定すると、得られる光音響信号は小さい。
【0012】
そこで本発明は、粒子などに内包されている場合に、その粒子の周囲に水が存在する条件下で、粒子から漏出しにくい化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第一の本発明は、下記の式(1)で示される化合物である。
【0014】
【化2】


ただし、式(1)中のXは4以上20以下の整数である。
【0015】
第二の本発明は、疎水性の分子と親水性の分子とからなる粒子であり、前記粒子の表面に前記親水性の分子を有し、前記粒子の内部に前記疎水性の分子を有する粒子において、前記粒子は上記式(1)に記載の化合物を内包することを特徴とする。
【0016】
第三の本発明は、親水性の部位と疎水性の部位とを有する両親媒性の分子からなる粒子であり、前記粒子の表面に前記親水性の部位を有し、前記粒子の内部に前記疎水性の部位を有する粒子において、前記粒子は上記式(1)に記載の化合物を内包することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、粒子に内包されている場合に、その粒子の周囲に水が存在する条件下で、粒子から漏出しにくい化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第3の実施形態に係る粒子の構造を示す概略図である。
【図2】各サンプルの吸収スペクトルの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
本実施形態に係る化合物は、下記の式(1)で示される。
【0021】
【化3】

【0022】
ただし、上記の式(1)中のXは4以上20以下の整数である。なお、Xは10以下であることが好ましく、8以下であることがさらに好ましい。以下、式(1)で示される化合物をインドシアニングリーンテトラアルキルアンモニウム塩、あるいはICGテトラアルキルアンモニウム塩とよぶことがある。
【0023】
式(1)で示される化合物は、式(1)中のカチオン部において疎水性のアルキル基を有するので、疎水性である。そのため、式(1)で示される化合物は、疎水性の分子を内部に有する粒子に内包されている場合、粒子の周囲に水が存在する条件下で、粒子から漏出しにくくなる。また、この化合物は有機溶媒など疎水性の溶媒中で扱いやすい。
【0024】
式(1)で示される化合物に光が照射されると、この化合物は光音響信号を発する。すなわち光音響信号発信物質である。そのため、式(1)で示される化合物は、光音響トモグラフィー装置用の造影剤として用いることができる。
【0025】
なお、式(1)で示される化合物は、インドシアニングリーンとテトラアルキルアンモニウムハライド塩をクロロホルム中で塩交換した後、精製することで得られる。
【0026】
(第2の実施形態)
本実施形態に係る粒子は、疎水性の分子と親水性の分子とからなる。そして、粒子の表面に親水性の分子を有し、粒子の内部に疎水性の分子を有する。さらに粒子は上記の式(1)で示される化合物を内包する。
【0027】
ここで、式(1)で示される化合物は疎水性であるので、疎水性の分子の存在する粒子の内部に集まる。そのため、式(1)で示される化合物は粒子から漏出しにくくなる。その結果、式(1)で示される化合物は、粒子の周囲の水と接触しにくくなり、分解しにくくなる。
【0028】
なお、粒子の表面に親水性の分子を有し、粒子の内部に疎水性の分子を有するという特徴を有する本実施形態の粒子としては、以下のようなものが挙げられる。
【0029】
第1に、疎水性の分子からなる粒子の表面に親水性の分子が結合した粒子が挙げられる。この場合、疎水性の分子からなる粒子が式(1)で示される化合物を内包する。
【0030】
第2に、疎水性の分子からなるコア部と親水性の分子からなるシェル部とからなる粒子が挙げられる。この場合、疎水性の分子からなるコア部が式(1)で示される化合物を内包する。
【0031】
第3に、親水性の分子からなる粒子の内部に疎水性の分子が存在する粒子が挙げられる。この場合、式(1)で示される化合物は疎水性の分子が存在する粒子の内部に存在する。なお、このとき疎水性の分子は、コア部を形成していなくてもよく、親水性の分子からなる粒子の内部に分散している場合などが考えられる。
【0032】
なお上記において、疎水性の分子は、疎水性のポリマーであってもよいし、親水性の分子は親水性のポリマーであってもよい。
【0033】
(疎水性の分子及び親水性の分子)
本実施形態に係る疎水性の分子は例えば、下記の式(2)で示される。
【0034】
【化4】

【0035】
ここで、上記の式(2)でnは50以上150以下の整数である。
【0036】
本実施形態に係る親水性の分子は例えば、下記の式(3)で示される。
【0037】
【化5】

【0038】
ここで、上記の式(3)でmは2以上1000以下の整数であり、aは1以上4以下の整数である。Rはメトキシ基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、マレイミド基のいずれかである。
【0039】
(粒径)
本実施形態に係る粒子の粒径は特に限定されるものではないが、10nm以上200nm以下の範囲内にあることが好ましい。粒径が200nm以下であると、後述するように、この粒子を生体内の正常部位に比べて腫瘍部位により多く堆積させることができるからである。また、粒径が10nm以上であると、光音響トモグラフィー装置における造影剤として用いたときに、十分な光音響信号を発するからである。なお、ここでいう粒径とは、親水性の分子と疎水性の分子とICGテトラアルキルアンモニウム塩とからなる粒子全体の粒径である。粒径は動的光散乱法によって測定することができる。
【0040】
(粒子の製造方法)
本実施形態に係る粒子は、たとえば以下の工程を有する製造方法によって得ることができる。
(i) 両親媒性の分子と式(1)で示される化合物を有機溶媒に溶解した溶液を調製する工程
(ii) (i)で得られた溶液から有機溶媒を留去して乾燥物を得る工程
(iii) (ii)で得られた乾燥物に水を加えた上で超音波を照射してミセルを形成する工程
上記(i)の工程で用いる有機溶媒として、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、キシレン、メタノールのいずれか、あるいはこれら2種類以上を混合したものが挙げられる。
上記(ii)の工程において留去とは、(ii)で得られた溶液から有機溶媒を除去して乾燥物を得る操作のことである。留去は、エバポレーター等の減圧装置を利用した方法など従来知られる何れの方法で行うことも可能である。
上記(iii)の工程において、照射する超音波のエネルギーを適宜選択することによって、最終的に得られる粒子サイズを調整することができる。また、上記(iii)の工程においてミセルとは、両親媒性の分子のうち、疎水性の部位が中心に集まり、親水性の部位が表面にでることにより形成された粒状の構造体のことである。
なお、上記(i)(ii)(iii)以外の工程を含んでいてもよい。
【0041】
(光音響トモグラフィー用の造影剤)
本実施形態に係る粒子は、光を吸収して光音響信号を発する。また、上記のように、粒子の中に存在する光音響信号発信物質としての式(1)で示される化合物は、粒子から漏出しにくいため、粒子から発せられる光音響信号は大きい。そのためPAT用の造影剤として利用することができる。
【0042】
本実施形態に係る造影剤は、上記本実施形態に係る粒子と分散媒とを有する。
【0043】
ここで、粒子の粒径が200nm以下であれば、EPR(Enhanced Permeability and Retention)効果を利用することで、生体内の正常部位に比べて腫瘍部位により多くの粒子を集積させることができる。その結果、粒子を生体内に投与した後、生体に光を照射すると、腫瘍部位から発せられる光音響信号は正常部位から発せられる光音響信号よりも大きい。したがって、粒子の粒径を200nm以下とすることにより、本実施形態に係る造影剤は腫瘍部位を特異的に検出することができる。
【0044】
上記の分散媒は、本実施形態に係る粒子を分散させるための液状の物質であり、例えば生理食塩水、注射用蒸留水などが挙げられる。本実施形態に係る造影剤は、上記本実施形態に係る粒子をこの分散媒に予め分散させておいてもよいし、本実施形態に係る粒子と分散媒とをキットにしておき、生体内に投与する前に粒子を分散媒に分散させて使用してもよい。
【0045】
生体内に投与して利用することを考えると、本実施形態に係る粒子は吸収スペクトルのピークを近赤外波長領域に有することが好ましい。これは、近赤外波長領域の光が生体に照射したときに安全で、かつ、生体に対して比較的高い透過性をもつからである。
ここで近赤外波長領域とは650nmから1000nmの波長領域のことである。
【0046】
なお、本実施形態に係る造影剤は、必要に応じて本実施形態に係る粒子及び分散媒の他に薬理上許容できる添加物を有していても良い。
【0047】
(造影方法)
生体内に投与された本実施形態に係る粒子を光音響トモグラフィー装置を用いて検出する方法について説明する。本実施形態に係る粒子を検出する方法は以下の工程を有する。
(a)本実施形態に係る粒子を生体内に投与する工程
(b)生体に光を照射し、生体内に存在する本実施形態に係る粒子から発せられる光音響信号を検出する工程
なお、上記(b)の工程において、生体に照射する光を発生させる装置、粒子から発せられる光音響信号を検出する装置は特に限定されない。
【0048】
また、上記造影方法は、本実施形態に係る造影剤においても適用することができる。
【0049】
(第3の実施形態)
本実施形態について図1を用いて詳細に説明する。なお、前記第1の実施形態と同様の点については説明を省略する。
【0050】
本実施形態に係る粒子は、親水性の部位3と疎水性の部位4とを有する両親媒性の分子2からなり、粒子の表面に親水性の部位を有し、粒子の内部に疎水性の部位を有する。さらに粒子1は光音響信号発信物質5を内包する。光音響信号発信物質5は式(1)で示される化合物である。
【0051】
ここで、式(1)で示される化合物は、疎水性であるため、両親媒性の分子2のうち疎水性の部位4が存在する粒子の内部に集まる。そのため、光音響信号発信物質5は粒子1から漏出しにくくなる。結果的に、光音響信号発信物質5は、粒子1の周囲の水と接触しにくくなり、分解しにくくなる。
【0052】
(両親媒性の分子)
本実施形態に係る両親媒性の分子は親水性の部位と疎水性の部位とを有する。親水性の部位は疎水性の分子を含んでいてもよいが、その部位全体で親水性を示す。疎水性の部位は親水性の分子を含んでいてもよいが、その部位全体で疎水性を示す。
【0053】
本実施形態における両親媒性の分子は、例えば、上記の式(2)で示される疎水性の分子と上記の式(3)で示される親水性の分子とがアミド結合したものである。
【0054】
ここで、上記の式(2)でnは50以上150以下の整数である。また、上記の式(3)でmは2以上1000以下の整数であり、aは1以上4以下の整数である。Rはメトキシ基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、マレイミド基のいずれかである。
【0055】
本実施形態に係る両親媒性の分子は、下記の式(4)の分子と式(5)の分子のいずれか一方が重合した分子、または式(4)と式(5)とがランダムに重合した分子、または式(4)と式(5)とが、・・AABBAA・・のように交互に重合したものでもよい。また、・・AAAAABBBBB・・のように、式(4)が重合した分子と、式(5)が重合した分子とが結合した分子でもよい。ただし、Aは式(4)の構造、Bは式(5)の構造を示すAを示す
【0056】
【化6】

【0057】
ここで、上記の式(4)、(5)中のm1、m2は2以上1000以下の整数である。また、a1、a2は1以上4以下の整数である。R1、R2はメトキシ基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、マレイミド基のいずれかである。
【0058】
(粒径)
本実施形態に係る粒子の粒径とは、両親媒性の分子とICGテトラアルキルアンモニウム塩とからなる粒子全体の粒径である。粒径は動的光散乱法によって測定することができる。
【0059】
なお、本実施形態に係る粒子は、リポソーム(liposome)と、リポソームの疎水性部分に存在する上記式(1)で示される化合物とからなる粒子であってもよい。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0062】
(粒径の測定)
以下で説明する各実施例において行った粒径の測定は、動的光散乱解析装置(大塚電子製、DLS−8000)を用いた。
【0063】
(光音響信号の測定)
以下で説明する各実施例において行った光音響信号の測定は、特開平06−296612号公報を参考に行った。測定条件は以下の通りである。
液体測定セル:ポリスチレン製キュベット
光路長:1mm
光源:波長可変チタンサファイアレーザーLT2211A(Lotis TII製)
波長可変範囲:690〜1000nm
パルス幅:約20ns
パルス光エネルギー:25mJ(波長800nm)
一次励起レーザー:Nd/YAGレーザーLS−2134(Lotis TII製)
一次励起波長532nm(二次高調波)
一次励起パルス幅:16〜18ns
一次励起パルスエネルギー:150mJ
繰返し周波数:10Hz
水浸型超音波探触子:V303(Panametrics−NDT製)
中心周波数:1MHz
エレメントサイズ:13mm
プリアンプ:Model 5682(オリンパス製)
増幅度:+30dB
カットオフ周波数:30MHz
オシロスコープ:DPO 4104(テクトロニクス製)
レーザー光検出用フォトダイオード:DET10A/M(THORLABS製)
【0064】
測定方法は以下の通りである。
試料分散液を液体測定セルに満たし、そのレーザー光照射部位を光音響信号測定用の水を張ったガラス容器に漬けた。チタンサファイアレーザーの発光波長を所定の波長に設定し、前記セルの片面からレーザー光照射部位にレーザーパルス光を照射した。前記セルのレーザー光照射とは反対の面から25mmの位置に前記の水浸型超音波探触子を設置し、この探触子に光音響信号が入力されて生じた電気信号を前記のプリアンプにより増幅して、オシロスコープに入力した。また、レーザーパルス光が測定セルに当たって生じる散乱光フォトダイオードにより電気信号とし、前記のオシロスコープにトリガー信号として入力した。オシロスコープの有する平均処理機能を用いて、128回の信号を積算平均した入力電圧波形を、試料分散液の光音響信号の評価波形と(し、その正負ピーク電圧差を光音響信号強度の評価値と)した。
【0065】
(退色率の測定)
前述の、漏出のしやすさの度合いとして、本明細書では、退色率という指標を用いる。退色率が大きいほど漏出しやすく、小さいほど漏出しにくい。
【0066】
以下で説明する各実施例において行った退色率の測定は以下のように行った。
まず、各サンプル(粒子の水分散液)の初期(粒子の水分散液が得られてから30分以内)の最大吸収波長(λmax)の吸光度を測定した後、暗所下に放置してλmaxの吸光度の経時変化を測定した。次に、初期のλmaxをA0とし、t日後のλmaxをAtとしたときのt日後の粒子の退色率を、退色率(%)=[(A0−At)/A0]×100、として算出した。
【0067】
<実施例1>
上記の式(2)で示される分子(12.5mg、分子量30000以上50000以下、アルドリッチ製)と上記の式(3)で示される分子(ただし、式(3)中においてRはメトキシ基、aは2である)(94mg、平均分子量10000、SUNBRIGHT ME−100EA、日油製)をクロロホルム(3ml)中で反応させ、両親媒性の分子のクロロホルム溶液を得た。
【0068】
次に、上記の構造で示されるICG(12.5mg、日本公定書協会製)とテトラオクチルアンモニウムブロミド(34mg、東京化成製)をクロロホルム(50ml)中で塩交換した。その後に、精製を行い、ICGテトラオクチルアンモニウム塩(上記の式(1)で示される化合物(X=8))を得た。
【0069】
<実施例2>
(粒子A)
上記ICGテトラオクチルアンモニウム塩(12.5mg)を上記両親媒性の分子のクロロホルム溶液(50ml)に加えて均一に溶解させた。その後、エバポレーターによる減圧留去によってクロロホルムを除去して乾燥物を得た。
【0070】
次に、この乾燥物にミリQ水(20ml)を加えた後に超音波を照射することで、両親媒性の分子からなる粒子がICGテトラオクチルアンモニウム塩を内包する粒子(粒子A)の水分散液を得た。得られた粒子Aの平均粒径は50nmであった。
【0071】
上記で得られた粒子Aの水分散液を用いて、粒子Aの退色率を測定した。その結果を表1と図2(a)に示す。また、上記で得られた粒子Aの水分散液の光音響信号を測定した結果を表2に示す。
【0072】
<実施例3>
実施例1のテトラオクチルアンモニウムブロミドをテトラヘプチルアンモニウムブロミドに替えた以外は実施例1と同じ方法で化合物の合成を行った。その結果、ICGテトラヘプチルアンモニウム塩(上記の式(1)で示される化合物(X=7))を得た。
【0073】
<実施例4>
(粒子B)
実施例2のICGテトラオクチルアンモニウム塩を上記ICGテトラヘプチルアンモニウム塩に替えた以外は実施例1と同じ方法で粒子を調製した。その結果、両親媒性の分子からなる粒子がICGテトラヘプチルアンモニウム塩を内包する粒子(粒子B)の水分散液を得た。得られた粒子Bの平均粒径は45nmであった。
【0074】
上記で得られた粒子Bの水分散液を用いて、粒子Bの退色率を測定した。その結果を表1に示す。また、上記で得られた粒子Bの水分散液の光音響信号を測定した結果を表2に示す。
【0075】
<実施例5>
実施例1のテトラオクチルアンモニウムブロミドをテトラヘキシルアンモニウムブロミドに替えた以外は実施例1と同じ方法で化合物の合成を行った。その結果、ICGテトラヘキシルアンモニウム塩(上記の式(1)で示される化合物(X=6))を得た。
【0076】
<実施例6>
(粒子C)
実施例2のICGテトラオクチルアンモニウム塩を上記ICGテトラキシルアンモニウム塩に替えた以外は実施例1と同じ方法で粒子を調製した。その結果、両親媒性の分子からなる粒子がICGテトラヘキシルアンモニウム塩を内包する粒子(粒子C)の水分散液を得た。得られた粒子Cの平均粒径は50nmであった。
【0077】
上記で得られた粒子Cの水分散液を用いて、粒子Cの退色率を測定した。その結果を表1に示す。また、上記で得られた粒子Cの水分散液の光音響信号を測定した結果を表2に示す。
【0078】
<実施例7>
実施例1のテトラオクチルアンモニウムブロミドをテトラブチルアンモニウムブロミド(mg、製)に替えた以外は実施例1と同じ方法で化合物の合成を行った。その結果、ICGテトラブチルアンモニウム塩(上記の式(1)で示される化合物(X=4))を得た。
【0079】
<実施例8>
(粒子D)
実施例2のICGテトラオクチルアンモニウム塩を上記ICGテトラブチルアンモニウム塩に替えた以外は実施例1と同じ方法で粒子を調製した。その結果、両親媒性の分子からなる粒子がICGテトラブチルアンモニウム塩を内包する粒子(粒子D)の水分散液を得た。得られた粒子Dの平均粒径は169nmであった。
【0080】
上記で得られた粒子Dの水分散液を用いて、粒子Dの退色率を測定した。その結果を表1に示す。また、上記で得られた粒子Dの水分散液の光音響信号を測定した結果を表2に示す。
【0081】
<比較例1>
上記の式(2)で示されるICG(12.5mg、日本公定書協会製)の水溶液を用いて、退色率を測定した。その結果を表1と図2(b)に示す。また、光音響信号を測定した結果を表2に示す。
【0082】
<比較例2>
(粒子E)
実施例1で得た両親媒性の分子のクロロホルム溶液から、減圧留去によってクロロホルムを除去して、乾燥物を得た。次に、得られた乾燥物にICG(12.5mg、日本公定書協会製)の水溶液(5.4mg、20ml)を加えた後、超音波を照射することによって、ICGを有する粒子Eを得た。粒子Eの退色率を測定した結果を表1と図2(c)に、粒子Eの水分散液の光音響信号を測定した結果を表2に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
(退色率の評価)
表1の結果から、粒子A、B、C、Dの退色率は、ICGの水溶液及び粒子Eに比べて小さいことが確認された。すなわち、粒子からICGテトラアルキルアンモニウム塩が漏出しにくくなったと考えられる。
図2(a)、(b)、(c)はそれぞれ、粒子Aの水分散液、ICGの水溶液、粒子Eの水分散液の吸収スペクトルの経時変化を示したグラフである。ただし、図2(a)、(b)、(c)は、各粒子の水分散液の調製直後に測定した吸収スペクトルのピーク値が2付近となるようにしている。この結果から、粒子AはICGの水溶液、粒子Eに比べて、退色率が小さいことがわかった。
【0086】
(光音響信号の評価)
表2の結果から、粒子A、B、C、Dの水分散液は比較例と比べて大きな光音響信号が得られることが確認された。すなわち、本実施例に係る粒子は、ICGテトラアルキルアンモニウム塩を多く取りこむことができることがわかった。
【0087】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、同等な機能、効果を有する粒子が得られる範囲で、材料、組成条件、反応条件などを自由に変えることができる。
【符号の説明】
【0088】
1 粒子
2 両親媒性の分子
3 親水性の部位
4 疎水性の部位
5 光音響信号発信物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で示される化合物。
【化1】


ただし、式(1)中のXは4以上20以下の整数である。
【請求項2】
疎水性の分子と親水性の分子とからなる粒子であり、
前記粒子の表面に前記親水性の分子を有し、前記粒子の内部に前記疎水性の分子を有する粒子において、
前記粒子は前記請求項1に記載の化合物を内包することを特徴とする粒子。
【請求項3】
親水性の部位と疎水性の部位とを有する両親媒性の分子からなる粒子であり、
前記粒子の表面に前記親水性の部位を有し、前記粒子の内部に前記疎水性の部位を有する粒子において、
前記粒子は前記請求項1に記載の化合物を内包することを特徴とする粒子。
【請求項4】
前記粒子の粒径が10nm以上200nm以下の範囲内にあること特徴とする請求項2または3に記載の粒子。
【請求項5】
前記請求項2乃至4のいずれかに記載の粒子と、分散媒とを有することを特徴とする光音響トモグラフィー用の造影剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−184329(P2011−184329A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49318(P2010−49318)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】