説明

化学強化ガラス

本発明は、リチウムアルミノシリケートガラスの化学強化に関し、これによって、高レベルの表面張力と深い表面張力ゾーンをもたらす、中程度の温度での速やかな強化が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、強化ガラスに関し、詳細には、本発明は、リチウムアルミノシリケートガラスの化学強化に関する。
【背景技術】
【0002】
転移温度T未満で硝酸カリウム溶融物中にガラス基板を浸漬することによる化学強化またはイオン交換は、一般に、薄いおよび非常に薄いシリケートまたはアルミノシリケートガラスの強度を増進するための方法として知られている。化学強化は、好ましくは、4mmより小さい厚さのガラス板に対して用いられる。特殊な用途では、より厚いガラス板を化学強化することもできる。シリケートまたはアルミノシリケートガラスでは、イオン交換は、通常、ガラス中のナトリウムイオンと塩溶融物中のカリウムイオンとの間でのみ行われる。かかる交換では、深さ80μm超での表面圧縮応力は、一般に12時間超という非常に長い交換時間によってのみ実現することができる。
【0003】
さらには、イオン交換の深さは、塩浴中での浸漬時間および塩浴の温度によって決まることが一般に知られている。温度が高ければ高いほど、および継続時間が長ければ長いほど、交換深さは増加する。しかし、交換深さは、表面圧縮応力ゾーンと同一ではない。どのイオンおよびいくつのイオンがガラス内に浸入するかに応じて、ガラス基板のLi含量およびナトリウム含量、ならびにそれら相互の比、およびそれらの他の成分に対する比の関数として、さまざまな表面圧縮応力ゾーンを生成することができる。しかし、通常、表面圧縮応力ゾーンは、交換イオンの深さより深くまでガラス内に延伸する。
【0004】
アルミノシリケートガラスなど市場に流通する通常製造されている化学強化ガラス、または普通のソーダ石灰ガラスは、通常、10重量%超のNaO含量を有し、デフォルトでは、420℃超、好ましくは、約430℃の温度で、および12時間超の強化継続時間で、硝酸カリウム塩浴中で強化される。それによって、表面圧縮応力ゾーンは、30〜70μmの深さに到達する。表面張力の値は、強化ソーダ石灰ガラスの約550MPaとアルミノシリケートガラスの約750MPaの間に存在する。
【0005】
しかし、カバーガラスとしての用途では、引っかき傷が、表面張力ゾーンよりもさらにガラス内まで容易に拡大する恐れがあり、そのために強度が大きく低下するという問題点が存在する。
【0006】
また、鉄道車両のフロントおよびサイド窓および車両の防弾ガラス窓としての用途では、許容可能な短いプロセス時間が実現可能であれば、さまざまに調整可能な80μm超という侵入深さおよび高強度は魅力的であろう。
【0007】
DE 196 16 633 C1には、化学強化により、光学および磁気記憶媒体をコーティングするための基板ガラスとして適切であるアルミノシリケートガラスが記載されている。こうしたガラスでは、深い強化ゾーンおよび高強度が、実現可能であるが、塩浴中での12時間超の長い処理継続時間および420℃超という高温が必要である。
【0008】
DE 196 16 679C1には、350℃〜500℃の温度で硝酸カリウム溶融物を使用してアルミノシリケートガラスを化学強化することが記載されている。表3によれば、約1.5時間処理後の記載されているガラスは、880MPaという表面張力を示すが、圧縮応力ゾーンの厚さが、約15μmしかない。105μmの圧縮応力ゾーンを得るためには、塩浴で15時間処理する必要がある。
【0009】
米国特許第4156755A号には、イオン交換のためのLiO含有アルミノシリケートガラスが記載されている。このガラスでは、短時間で80μm超の厚さを有する圧縮応力ゾーンを得ることが可能であったが、表面張力が、600MPaを超えない。
【0010】
欧州特許第0884289B1号からは、やはり化学強化できる車両用のリチウムアルミノシリケートガラスが知見される。LiO含量は、3〜4.5重量%であり、NaO含量は、6〜13重量%である。表7によれば、このガラスは、380℃の硝酸ナトリウム溶融物で8時間後に、80μmの厚さの圧縮応力ゾーンを実現するが、表面張力が、2600kg/cmしかなく、これは約255MPaに相当する。溶融物中で64時間後でも、表面張力は、339MPaに対応する3450kg/cmしかなく、表面張力の厚さは30μmであり、そのために、より短い時間の場合、非常に薄い表面張力ゾーンを想定しなければならない。
【0011】
米国特許出願公開第2007/0060465A1号には、LiO含量が3〜9%、NaO+KO含量が3%以下であるさまざまなリチウムアルミノシリケートガラスの化学強化が記載されている。記載のガラスは、450℃とアニーリング点の間の温度に暴露される。
【0012】
国際公開第2010/005578A1号には、指定の深さで最大の表面張力を得るためのアルミノシリケートガラスを複数回化学強化することが記載されている。強化を反復し(単一または混合溶融物)、8時間よりかなり長い継続時間である場合にのみ、圧縮応力ゾーンの深さが80μm超である。さらには、表II、実施例13による、圧縮応力ゾーンの深さが81μmにおける得られた圧縮応力は、わずか546MPaである。かかる圧縮応力を実現するためのプロセス時間は、23時間超である。
【0013】
化学強化中、一般に、類似のイオン半径を有するイオンのイオン交換における相互拡散係数が大きいので、比較的短時間で交換深さがより深くなるが、交換されるイオンの半径より著しく大きい半径のイオンとの交換では、短いオーダーの範囲に対する影響がより強く、表面圧縮応力が増加する。この効果は、2つの半径の差が大きいほど、より強くなる。したがって、短いプロセス時間での交換深さの調整は、リチウム−ナトリウムカチオン交換を介して行われる。しかし、非常に大きい圧縮応力を必要とする場合、交換は、より重いアルカリ金属のカチオンを用いて実現することができる。しかし、この場合、所定の交換深さおよび用いるカチオンの関数として、長いプロセス時間および高いプロセス温度を考慮に入れなければならない。
【0014】
従来技術のこうした議論から、従来技術から公知である化学強化用のガラスおよび方法では、中程度の温度での急速な強化によって、高レベルの表面張力と共に深い表面張力ゾーンを実現することは、不可能であることが明白であろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】DE 196 16 633 C1
【特許文献2】DE 196 16 679 C1
【特許文献3】米国特許第4156755A号
【特許文献4】欧州特許第0884289B1号
【特許文献5】米国特許出願公開第2007/0060465A1号
【特許文献6】国際公開第2010/005578A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本発明の目的は、かかるガラス、またはかかるガラスから製造される化学強化物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本目的は、特許請求の範囲の独立請求項の主題によって解決される。有利な実施形態および本発明の改良形態は、それぞれの従属請求項に記載されている。本発明は、カバーガラスおよび車両用の窓としての将来の応用のための材料を提供し、その材料は、強化時間および強化温度の低減が顕著であり、同時に、表面張力の増加を実現するものである。
【0018】
好ましくは、ガラス板の形態である本発明による化学強化ガラス物品は、リチウムアルミノシリケートガラスから作製され、前記ガラスは、リチウムアルミノシリケートガラスの特徴として、SiOおよびAlに加えて、一成分としての4.6〜5.4重量%のLiOと、一成分としての8.1〜9.7重量%のNaOとを含み、
前記ガラスは、化学強化により、表面に圧縮応力ゾーンを備え、
前記圧縮応力ゾーンは、ガラス中に深さ少なくとも50マイクロメートル、好ましくは、少なくとも80マイクロメートルまで拡大しており、
圧縮応力ゾーンにおいて、リチウムイオンが、少なくとも部分的に、他のアルカリイオンによって交換されており、
前記圧縮応力ゾーンが、少なくとも600MPa、好ましくは、少なくとも800MPaの圧縮応力レベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
強度の測定は、EN 1288−5による二重リング法を使用して実施され、測定された。
【0020】
圧縮応力ゾーンの表面張力または圧縮応力は、光弾性的に決定することができる。この目的のために、ガラス試料は切断され、表面は、観察方向に垂直に研磨される。次いで、表面の圧縮応力は、顕微鏡およびさまざまな補償要素によって決定することができる。
【0021】
圧縮応力ゾーンの厚さ/深さは、やはり、切断試料で光弾性的に決定することができる。
【0022】
交換深さの測定では、アルカリイオンのエネルギー分散型X線(EDX)深さプロファイルを測定することができる。
【0023】
本発明の目的に特に適切であることが判明したガラスは、以下の組成を有する:
58〜65重量%のSiO
16〜20重量%のAl
好ましくは、0.1〜1重量%のB
4.6〜5.4重量%のLiO、
8.1〜9.7重量%のNaO、
0.05〜1.0重量%のKO、
0.2〜2.0重量%のCaO、
2.5〜5.0重量%のZrO、ならびに
任意選択で、合計の割合で0〜2.5重量%の、成分SnO、CeO,P、およびZnOのうちの1種または複数。
【0024】
好ましいのは、以下の組成範囲である:
SiO 60〜62重量%、
Al 17.5〜19.5重量%、
0.5〜0.7重量%、
LiO 4.8〜5.2重量%、
NaO 8.5〜9.5重量%、
O 0.2〜0.5重量%、
CaO0.5〜1.2重量%、
ZrO 3.2〜3.8重量%、ならびに
SnO、CeO、P、およびZnO 合計の割合で0.25〜1.6重量%。
【0025】
すでに塩溶融物の比較的低温で、高レベルの圧縮応力と共に深い圧縮応力ゾーンを得るために特に好ましいのは、以下の組成である:
SiO 61〜62重量%、
Al 17.5〜18.5重量%、
0.5〜0.7重量%、
LiO 4.9〜5.1重量%、
NaO 8.8〜9.3重量%、
O 0.2〜0.5重量%、
CaO 0.5〜1.2重量%、
ZrO 3.2〜3.8重量%、ならびに
SnO、CeO、P、およびZnO 合計の割合で0.5〜1.0重量%である。
【0026】
本発明によって、特に、対応する組成を有するフロートガラスの窓ガラスを強化することが可能になる。したがって、本改良形態では、強化ガラスは、この場合、2つの非研磨表面を有する。換言すれば、上面および下面は、機械的に研磨されない。具体的には、1つの表面は、火炎研磨によって形成され、他の面は、液体スズ浴上に流すことによって形成される。したがって、フロートガラスの窓ガラスは、一方の火炎研磨表面および反対側のスズ不純物によって識別することができる。
【0027】
上述のガラスでは、420℃以下の温度で、1種または複数のアルカリ含有塩溶融物、好ましくは、硝酸アルカリ溶融物を使用して8時間以下の時間内でガラスを化学強化することがいまや可能である。得られたガラスは、好ましくは、携帯通信デバイス、デジタルカメラ、デジタルフォトフレーム、パーソナルデジタルアシスタント(携帯情報端末)(PDA)用のカバーガラスとして、太陽エネルギーデバイス用のカバーガラスとして、またはタッチパネルディスプレー用の基板として使用することができる。特に好ましい用途として、陸上車両用の防弾ガラス窓、および高速列車用のフロントもしくはサイド窓が挙げられる。50μm、好ましくは、80μm超の圧縮応力ゾーン厚さ、および800MPa超の圧縮応力ゾーンの表面張力または圧縮応力を実現するために、塩溶融物中のプロセス時間は、必要なら、4時間以下、さらに3時間以下まで低減することができる。
【0028】
したがって、本発明はまた、化学強化ガラス物品の製造方法であって、
SiOおよびAlに加えて、一成分としての4.6〜5.4重量%のLiOと、一成分としての8.1〜9.7重量%のNaOとを含むガラスを用意し、
前記ガラス物品をアルカリ含有塩溶融物中に保存して、ガラスのアルカリイオンを塩溶融物のより大きいアルカリイオンと交換し、それによってガラス物品の表面に圧縮応力ゾーンを形成し、結果として化学強化ガラスが得られ、
アルカリ含有塩溶融物中での保存を、8時間以下の時間にわたって継続し、
ガラス物品の保存中の塩溶融物の温度が、420℃を超えることなく、
圧縮応力ゾーンの深さが、少なくとも50マイクロメートルであり、
少なくとも600MPaの圧縮応力が発生する方法を提供する。
【0029】
導入部分で述べた刊行物のいくつかは、適切な表面張力および圧縮応力ゾーンを実現するために、硝酸アルカリを使用する化学強化のための一定のLiOまたはNaOの割合を指定している。これまでも800MPa超の表面張力が生成されたが、この場合は、80μm超の深さを有する圧縮応力ゾーンを伴ってはおらず、かつ8時間以内および430℃未満で実現されたものではなかった。米国特許出願公開第2007/60465A1号には、高レベルの表面張力および深い張力ゾーンを備えるガラスが記載されているが、これは、450℃超の高温で、および3重量%未満のNaO含量で実現されている。しかし、こうした温度では、通常の加工作業を妨害する毒性の硝酸塩蒸気がすでに生成している。さらには、高温は、約430℃または420℃未満の温度の場合より高い加工コストが発生する。さらには、プロセスの条件の範囲が非常に狭くなる。その理由は、この場合、ガラスのアニーリング点が処理温度に近いからである。アニーリング温度に接近すると、応力緩和がもたらされる恐れがある。したがって、圧縮応力が不均一になる危険が存在する。
【0030】
リチウムアルミノシリケートガラス基板の調査では、圧縮応力ゾーンの深さと表面張力および化学強化で交換されるイオンとの間の相関関係が観察された。
【0031】
8時間以内の処理継続時間で80μm超の圧縮応力ゾーンの深さを実現する目的では、侵入イオンのイオン半径は、速やかな交換を確実に実施するために、交換されるイオンの半径と大きく異なるべきではない。加えて、侵入イオンのイオン半径は、ガラス基板に含まれる化合物のイオン半径より著しく大きくあるべきでない。
【0032】
速やかな侵入速度の場合、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンとの交換用の理想的な相手は、LiイオンまたはNaイオンである。Liイオンは、イオン半径が約1.45×10−10mであり、Naイオンは、イオン半径が約1.8×10−10mである。ガラスの他の構成成分は以下の半径を有する:
Siイオンは約1.1×10−10m,
Alイオンは1.25×10−10m,
Kイオンは2.2×10−10m、およびZrイオンは1.55×10−10mである。
【0033】
ナトリウムとカリウムの間の相互拡散係数に比べてより大きいリチウムとナトリウムの間の相互拡散係数、およびナトリウムイオンのイオン半径とリチウムイオンおよびガラスの他の構成成分のイオン半径との間の小さい差のために、高い侵入速度が可能になる。これによってガラス基板での速やかな侵入がもたらされる。ナトリウムイオンは、より小さい容積の空隙内によりよく入り込み、そのサイズが小さいために、その侵入が、より大きい半径の他のアルカリ金属ほど影響されない。
【0034】
カリウム含有塩溶融物を使用する場合、リチウムイオンの交換のみが起こるわけではない。これは、圧縮応力ゾーン中のリチウムイオンの濃度がより低いことを示している。この場合、加えて、ガラスの内部に比べて、圧縮応力ゾーン中では、少なくとも圧縮応力ゾーンの一部分では、圧縮応力ゾーン中のカリウム濃度が上昇することが分かっている。
【0035】
8時間以下という適切な時間で80μm超の深さを実現するためには、本発明によるガラスは、少なくとも最小割合のLiO、好ましくは、少なくとも4.6重量%のLiOを含むべきである。LiOが多いほど、交換はより速やかにはなるが、多すぎるLiO含量は、高い表面張力の形成を妨害する。したがって、他方では、LiO含量は、5.4重量%を超えるべきではない。かかるリチウム含量のガラスでは、8時間以下という短いプロセス時間で600MPa超またはさらに高い800MPa超の表面張力を実現することができることが判明した。
【0036】
本発明によれば、深さの調整は、好ましくは、Li−Na交換を介して実現される。ナトリウムより大きいアルカリイオンのみとの交換では、所望の侵入深さを実現するために、430℃超まで温度が上昇し、また8時間超まで時間が延びる。
【0037】
しかし、800MPa超の表面張力を実現するためには、交換の際に、好ましくは、さらなるアルカリイオンを必要とすることが本発明によって示唆されている。こうしたアルカリイオンとして、適切には、例えば、ガラス中のNaイオン、および塩溶融物中のKイオンが挙げられる。また、CsおよびRbイオンの参加も可能である。塩溶融物からの著しく大きいイオンは、表面における応力の著しい増加、したがって、表面張力の増加をもたらす。前述のさまざまな文書には、最大3%、または10%超のNaO含量が記載されている。しかし、3%未満のNaO含量では、例えば、米国特許出願第2007/0060465A1号に記載されているように、約800MPaの表面張力を実現するために450℃超の温度が必要である。10重量%超のNaO含量で約700〜800MPaを実現できるが、これは、約430℃の温度および8時間超の時間においてである。用いたガラスを調査すると、これとは逆に、8.1〜9.6重量%のNaO含量で、800MPa超の表面張力が、420℃未満の温度および8時間以下の時間で得られることが明らかになった。
【0038】
したがって、420℃未満の塩溶融物の温度および8時間以下の処理継続時間内で600MPa超またはさらには800MPa超の表面張力、および50μm超またはさらには80μm超の深さの表面圧縮応力ゾーン(また、層の深さ−DoLとも呼ばれる)を得るためには、本発明によれば、Li0含量が4.6%〜5.4%、NaO含量が8.1%〜9.7%から選択される。
【0039】
本発明に従って、上述のガラスを、370℃〜420℃の温度で好ましくは純粋な(少なくとも純度95%)NaNO溶融物中で1回化学強化すると、塩溶融物中で8時間以下の処理で、厚さ50μm超の圧縮応力ゾーンおよび600MPa超の表面張力を実現できることが判明した。本明細書での強化時間は、2時間〜8時間(また、以下の表2:ガラス17および27を参照されたい)である。他方で、380℃〜400℃の温度で、純(少なくとも純度95%)KNO溶融物を使用してガラス基板を強化する場合、最大1000MPaの表面張力が発生するが、圧縮応力ゾーンの深さ(DoL)は、10〜28μmしかない。
【0040】
したがって、化学強化で使用されるガラスの組成の他に、それぞれの溶融物、および温度や交換時間などのプロセスパラメータの選定が、所望の材料特性のために極めて重要である。上記の議論が実際に示すように、従来技術では、特に短い交換時間または低いプロセス温度が所望される場合、材料特性の限定された組合せしか可能ではない。
【0041】
対照的に、本発明による方法では、上述の組成を好ましくは有するガラスにおいて、比較的短い時間内に低いプロセス温度で、深い交換深さと高レベルの圧縮応力の両方を得ることが可能になる。これは、最も好ましくは、異なるアルカリカチオンを含む溶融物中でガラス物品が連続的に化学強化される逐次プロセスによって、少なくとも2種の異なるアルカリカチオン種を交換することによって実現するのが好ましい。
この場合、第1のステップは、好ましくは、リチウム−ナトリウム交換を含み、続くステップでは、好ましくは、より大きいアルカリカチオンを含む溶融物が使用される。したがって、本発明による方法は、注文に合わせた特性を備えるガラスを得る手段を提供する。
【0042】
8時間以内の処理継続時間で、800MPa超の表面張力および80μm超の深さの圧縮応力ゾーンを実現するためには、1個/数個の他のアルカリ−NO溶融物を用いて第2のステップ(純粋の溶融物または溶融物ブレンド)、第3のステップ(純粋の溶融物または溶融物ブレンド)、または第4のステップ(純粋の溶融物または溶融物ブレンド)を実施することが有利であり、この場合、第2のステップで使用されるアルカリ金属のうちの1種のイオン半径は、第1の溶融物中のもののイオン半径より大きくなければならない。
【0043】
第3または第4のステップでは、アルカリイオンは、やはり、第2のステップより小さくてもよい。好ましくは、この場合、硝酸カリウム(KNO)を、第2のステップで使用すべきであるが、他のアルカリ金属塩を使用することも可能である。KNOの場合に用いられる温度は、好ましくは、380℃〜420℃である。有利には、最大6時間の処理継続期間が、NaNO溶融物でのステップ1に対して十分である。KNOまたはKSOを使用するステップ2では、2時間またはさらにそれ未満を本発明の改良形態に従って予定することができる。任意選択で追加的に実施されるステップ3および4は、全部で1時間未満保持することができる。したがって、全てのステップの和は、8時間未満であり、これは表3に記載されたガラス17および27によって例示されている。
【0044】
したがって、本発明の改良形態では、詳細には含まれているアルカリ金属種が異なっている異なる組成の少なくとも2種のアルカリ塩溶融物でガラス物品の化学強化を連続的に実施することが企図されており、ガラス物品は、全部で最大8時間溶融物中に保存され、それぞれの塩溶融物の強化中の温度は、420℃未満であり、80μm超の深さの圧縮応力ゾーンおよび800MPa超の圧縮応力が得られる。
【0045】
最大8時間以内の処理継続時間で、800MPa超の表面張力および80μmより深い圧縮応力ゾーンを得るための別の可能性は、混合溶融物を使用することである。こうした溶融物ブレンドは、異なるアルカリ金属の塩、好ましくは、アルカリ金属硝酸塩を含む。確実に深くまで侵入するためには、溶融物中のNaNO含量を少なくとも15重量%、好ましくは、15〜25重量%、より好ましくは、約20重量%にすることが都合よい。硝酸塩溶融物ブレンドは、少なくとも2種の異なるアルカリイオン、例えば、NaとK、またはNaとRbを含む。しかし、3または4種の異なるアルカリ金属を含むことも可能である。
【0046】
好ましい溶融物ブレンドは、NaNOとKNOの混合物である。NaNO/KNOの場合に使用される温度は、380℃〜420℃である。この場合、交換プロセスのための時間は、やはり、最大でも8時間に保つことができ、これは、表4でガラス17および27で例示されている。
【0047】
1000MPa超の表面張力を実現するために、化学強化において、RbイオンまたはCsイオンを使用することができる。したがって、本発明による方法は、短い交換時間および比較的低いプロセス温度で、その半径がリチウムカチオンより著しく大きいアルカリカチオンをこうして処理したガラス物品内に効果的に組込む可能性を提供する。
【0048】
本発明に従って、短時間で、詳細には、4時間以下で50μmまたは80μmまたはそれ以上の侵入深さを得るために、ガラス中で交換されるアルカリイオン、LiOおよび/またはNaOは、十分な量で存在する。LiOの量は、好ましくは、4.8重量%〜5.2重量%の範囲であり、NaOの量は、好ましくは、8.5重量%〜9.5重量%の範囲である。
【0049】
本発明による方法のこうした実施形態は、ガラス物品の化学強化が、一つまたは複数の溶融物で実施され、その溶融物が、異なるイオン半径を有する少なくとも2種のアルカリイオン種を含むという共通点がある。
【0050】
最大4時間以内で50μm超の交換深さおよび600MPa超の表面張力を実現するために、本発明に従って、380℃〜390℃の温度で純(少なくとも純度95%)NaNO溶融物中で1回、ガラス物品を強化することも可能である(表2;ガラス19および25を参照されたい)。かかる圧縮応力ゾーンを得るための強化時間は、この場合、わずか2〜4時間である。ガラス基板を380℃〜400℃の温度で純(少なくとも純度95%)KNO溶融物を使用して強化する場合、最大1000MPaの表面張力が得られるが、10μm〜28μmのDoLしか得られない。
【0051】
しかし、4時間以下で80μmより深い圧縮応力ゾーンと共に800MPa超もの表面張力を実現するために、1種/数種の他のアルカリ−NO溶融物を使用して第2のステップ(純溶融物または溶融物ブレンド)、任意選択で、さらには第3のステップ(純溶融物または溶融物ブレンド)、任意選択で、さらには第4のステップ(純溶融物または溶融物ブレンド)を実施することが提案されている。この場合、第2のステップで用いられる溶融物中の1つの型のアルカリイオンのイオン半径が、第1の溶融物中より大きいことが有利である。
【0052】
第3または第4のステップでは、アルカリイオンは、やはり、第2のステップより小さくてもよい。好ましくは、KNOが、第2のステップの溶融物の構成成分として使用されるが、他のアルカリ金属塩を使用することも可能である。KNOの場合に使用される温度は、好ましくは、380℃〜400℃である。
【0053】
速やかな強化および深く到達した圧縮応力ゾーンを実現するために、以下のパラメータが好ましい:
NaNO溶融物における第1のステップの強化継続時間が、2時間以下である;
KNO溶融物を使用する第2のステップの強化継続時間が、1.5時間以下である;
第3および第4のステップの継続時間が、合わせて0.5時間未満である。
表3では、ガラス19およびガラス25が、かかるプロセスの例として示されている。
【0054】
4時間未満で>800MPaの表面張力および>80μmの侵入深さを得るための別の可能性は、いわゆる溶融物ブレンドを使用することである。こうした混合溶融物は、異なるアルカリ金属硝酸塩からなる。大きな侵入深さを確実にするためには、少なくとも15重量%、好ましくは、15〜25重量%、より好ましくは、約20重量%のNaNOを含むアルカリ金属塩溶融物が使用される。硝酸塩溶融物ブレンドは、少なくとも2種の異なるアルカリイオン種、例えば、NaとK、またはNaとRbを含む。しかし、3または4種の異なるアルカリ金属を含むことも可能である。
【0055】
好ましい溶融物ブレンドは、NaNOとKNOの混合物である。NaNO/KNOに対して使用される温度は、380℃〜400℃である。交換プロセスに必要である時間は、4時間未満である(表4;ガラス19および25を参照されたい)。
【0056】
4時間以下という特に短い処理時間は、以下のようにして実現することができる:
【0057】
3時間以下という短い時間で50μmまたは80μmまたはそれ以上の侵入深さを実現するために、やはり、十分な量の、ガラス中で交換されるアルカリイオン、すなわち、LiまたはNaを含むガラスが使用される。したがって、Li0の量は、好ましくは、4.9重量%〜5.1重量%であり、Na0の量は、好ましくは、8.8重量%〜9.5重量%である。
【0058】
3時間未満で、>50μmの交換深さおよび>600MPaの表面張力を得るために、380℃〜385℃の温度で純(少なくとも純度95%)NaN0溶融物中で1回、上述のガラス体を化学強化することができる。強化時間は、2〜3時間までも低減することができる。例は、表2のガラス22で示されている。ガラス基板を380℃〜400℃の温度で純(少なくとも純度95%)KNO溶融物を使用して強化する場合、最大1000MPaの表面張力が得られるが、DoL(圧縮応力ゾーンの深さ)は、わずか10μm〜28μmである。
【0059】
3時間以下で、750MPa超、好ましくは、800MPa超もの表面張力および80μm超の厚さまたは深さの圧縮応力ゾーンを実現するために、一実施形態における本発明は、異なる組成のアルカリ塩溶融物で少なくとも2つのステップでガラス物品の化学強化を実施することを企図しており、第1のステップで使用される溶融物のアルカリイオンより大きいイオン半径を有するアルカリイオンを含む塩が第2の塩溶融物で使用され、強化中の溶融物の温度は、400℃未満である。この場合、全ての塩溶融物中のガラス物品の全保存時間は、3時間以下である。
【0060】
具体的には、本発明の本実施形態の改良形態では、純溶融物または溶融物ブレンドにおける第2のステップに、純溶融物または溶融物ブレンドにおける第3のステップが続き、任意選択で、純溶融物または溶融物ブレンドにおける第4のステップが続く。好ましくは、アルカリ硝酸塩溶融物が使用され、本発明のさらなる別の改良形態に従って、第2のステップで使用されるアルカリイオンの1つの種のイオン半径は、第1の溶融物のイオン半径より大きい。
【0061】
第3または第4のステップでは、アルカリイオンは、やはり、第2のステップより小さくてもよい。好ましくは、この場合、カリウム塩、より好ましくは、KNOを第2のステップとして、使用することができるが、他のアルカリ金属塩を代替としてまたは追加的に使用することも可能である。KNOの場合に使用される温度は、好ましくは、380℃〜390℃である。本発明による方法の本実施形態では、以下のパラメータが有利であることが判明した:NaNO溶融物における第1のステップでは、溶融物中の交換時間が、1.5時間以下である。第2のステップでは、KNO溶融物が使用され、この場合、溶融物中の保存時間は、1.0時間以下である。ステップ3および4の継続時間は、全部で0.5時間未満である。本方法に対する例は、表3のガラス22で示されている。
【0062】
3時間以内で、800MPa超の、圧縮応力ゾーン中の表面張力または圧縮応力レベル、および80μm超の深さを有する侵入深さまたは圧縮応力ゾーンを得るための別の可能性は、いわゆる溶融物ブレンドを使用することである。こうした混合溶融物は、異なるアルカリ金属塩、好ましくは、アルカリ金属硝酸塩からなる。大きな侵入深さを確実に得るために、好ましくは、少なくとも15重量%のNaNOが、溶融物中で使用される。硝酸塩溶融物ブレンドは、少なくとも2種の異なるアルカリイオン、例えば、NaとK、またはNaとRbを含む。しかし、それは、3または4種の異なるアルカリ金属を含むこともできる。400℃未満の温度が、一般に、上述の圧縮応力ゾーンを確立するのに十分である。
【0063】
この目的のための好ましい溶融物は、NaNOとKNOの混合物である。かかるNaNO−KNO溶融物で使用される温度は、好ましくは、380℃〜390℃である。800MPa超の圧縮応力レベルを備える圧縮応力ゾーンおよび80μm超の圧縮応力ゾーンの深さを得るための交換プロセスには、3時間以下の時間が必要である。本方法に対する例は、表4でガラス22に対して示されている。
【0064】
ここで、例示的な実施形態を含む添付の表を詳細に説明する。表1は、本発明のために使用可能な16種のガラスの組成を示す。組成は、重量%で示されている。さらに、密度ρ、線熱膨張係数α、ガラス転移温度Tg、およびガラスの粘度ηが10Pa・s、107.6Pa・s、および1013Pa・sである温度、ならびに弾性率、剛性率、およびクヌープ硬度が示されている。
【0065】
加えて、イオン交換条件が示されている。具体的には、こうした例示的な実施形態では、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、または硝酸カリウム/硝酸ナトリウム溶融物ブレンドが使用された。溶融物組成物中のKNOとNaNOの割合は、それぞれ、重量%で示されている。さらには、塩溶融物のそれぞれの温度が列挙されている。
【0066】
全ての場合において、強化継続時間は、8時間であった。
【0067】
ガラス1〜4は、純硝酸ナトリウム溶融物で強化された。ガラス5〜8では、純硝酸カリウム溶融物が使用され、ガラス9〜16では、硝酸ナトリウム/硝酸カリウム溶融物ブレンドが使用された。
【0068】
最大の圧縮応力は、ガラス5〜8、すなわち、硝酸カリウム溶融物で強化されたガラスで得られた。また、曲げ強度(「破壊モジュラス」−MOR)は、こうしたガラスで最大レベルを示す。しかし、驚くべきことに、他のガラスは、有利な機械特性を示しており、その特性のために、そうしたガラスは、とりわけ、高速列車の車両のガラス窓に特に適している。
【0069】
高速列車用などの車両ガラス窓、または防弾車両用のガラス窓の分野では、ガラスは、さまざまな試験に合格しなければならない。
【0070】
高速列車の風防ガラスは、いわゆる岩石衝突試験(RS942612)に耐えなければならない。この試験は、高速での石による破損のシミュレーションを意図している。重量20gの先を尖らせたアルミニウム形材を400km/時でガラス板に向けて発射する。ガラスは、破壊してはならない。
【0071】
ガラス7、ガラス11、およびガラス15について、表1は、上記の岩石衝突試験でこうしたガラスが耐えた最大速度の実績値を示す。ガラス7は著しく大きい圧縮応力を示す(ガラス11の730MPaおよびガラス15の799MPaに比べて870MPa)が、ガラス11と15(それぞれ、440km/時と540km/時)は、ガラス7(290km/時)よりはるかに速い速度に耐えることは驚くべきことである。ガラス11および15の耐性がより良好であるのは、本発明により圧縮応力ゾーンが深いからである。本発明によるガラス11および15の交換深さは、80μmを超えるが(ガラス11では92μm、ガラス15では87μm)、ガラス7の交換深さは、わずかに16μmである。
【0072】
表2は、NaNO溶融物におけるさまざまな継続時間の単一ステップの化学強化後の、本発明によるガラス物品の特性を示す。ガラス27は、LiOおよびNa0の含量が最小である。このガラスでは圧縮応力が、溶融物中で丁度8時間後に600MPaに到達する。LiOおよびNa0の含量が最大であるガラス17でも、この溶融物では、圧縮応力600MPaを得るのに約8時間の強化継続時間が必要である。
【0073】
LiOおよびNa0の含量が平均であるガラスでも、より速やかに強化することができる。例えば、LiO含量が5重量%、NaO含量が9.48重量%であるガラス22では、650MPaという高レベルの圧縮応力が、この塩溶融物で3時間の保存後にすでに実現されている。したがって、それぞれのガラスで、370℃〜420℃の範囲の温度でのNaNO溶融物中の単一ステップの化学強化によって、塩溶融物中の最大8時間以内の処理で600MPa超の表面張力と共に50μm超の圧縮応力ゾーンが確立された。
【0074】
表3は、2つのステップによる化学強化後の、表2にも列挙されたガラスの機械特性を示す。ガラスは、第1のステップでNaNO溶融物で、続く第2のステップでKNO溶融物で強化された。したがって、この場合、ガラス物品の化学強化は、複数の溶融物で実施され、その溶融物は、異なるイオン半径を有する少なくとも2種のアルカリイオンを含んでいた。具体的には、ガラス物品の化学強化は、含まれたアルカリ金属種が異なっている、異なる組成の2種のアルカリ塩溶融物中で連続的に実施され、そのガラス物品は、全部で最大8時間溶融物中に保存された。
【0075】
表3に示すように、保存の継続時間は、さまざまであった。表3からわかるように、全てのガラスでは、700MPa超、特に、800MPa超の圧縮応力および80μm超の圧縮応力ゾーンの深さが、2つのステップの強化によって実現されている。その2つのステップの強化は、400℃未満の溶融物温度でおよび8時間以内で、第1のステップで使用された溶融物のアルカリイオンより大きいイオン半径を有するアルカリイオン(Kイオン対Naイオン)を含む第2の塩溶融物中の塩を使用する。
【0076】
ガラス22では、800MPa超(841MPa)の表面張力および80μm(82μm)超の厚さの圧縮応力ゾーンさえもが、400℃未満の塩溶融物の温度および3時間以下の全ての塩溶融物中でのガラス物品の全保存時間内で形成することができた。
【0077】
さらには、本発明によるガラスでは、圧縮応力は、8時間超の強化時間でふたたび減少さえすることがわかる。
【0078】
表4は、異なるアルカリ金属の塩を含み、NaNOの含量が少なくとも20重量%である化学強化用の溶融物ブレンドを使用することによって、8時間未満の処理継続時間で800MPa超の表面張力および80μmより深い圧縮応力ゾーンが得られる本発明の例示的な実施形態を列挙する。表2および3の例示的な実施形態と同じガラス組成物が使用された。塩溶融物では、20重量%硝酸ナトリウムと80重量%の硝酸カリウムの混合物が使用された。
【0079】
具体的には、全てのガラスで、測定された交換深さに対応する80μm超の圧縮応力ゾーンおよび800MPa超の圧縮応力レベルが、最大8時間の強化継続時間内でおよび400℃未満の温度で溶融物ブレンドにおいて実現された。この場合、表3に列挙した例示的な実施形態と同様に、12時間というより長い処理継続時間では、圧縮応力ゾーンは幾分深くなるが、圧縮応力はふたたび減少さえすることがわかる。
【0080】
ガラス19、22、および25は、すでに4時間の処理継続時間後に80μm超の圧縮応力ゾーンの深さと共に800MPa超の表面張力レベルを実現する。ガラス22では、こうしたレベルは、溶融物中の3時間の保存後でさえ到達される。
【0081】
上記の例から、本発明によるLiおよびNa含量を有する本発明によるガラスは、ガラス物品を化学強化するためにナトリウム含有塩溶融物、好ましくは、硝酸ナトリウム含有塩溶融物を使用した場合、特に速やかに強化され、深い圧縮応力ゾーンを得ることができることは明白である。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムアルミノシリケートガラスから作製された、好ましくは、ガラス板の形態の化学強化ガラス物品であって、
前記ガラスが、SiOおよびAlに加えて、一成分としての4.6〜5.4重量%のLiOと、一成分としての8.1〜9.7重量%のNaOとを含み、
前記ガラスが、化学強化により、表面に圧縮応力ゾーンを備え、
前記圧縮応力ゾーンが、ガラス中に深さ、少なくとも50マイクロメートル、好ましくは、少なくとも80マイクロメートルまで拡大しており、
圧縮応力ゾーンにおいて、リチウムイオンが、少なくとも部分的に、他のアルカリイオンによって交換されており、
前記圧縮応力ゾーンが、少なくとも600MPa、好ましくは、少なくとも800MPaの圧縮応力レベルを示す、化学強化ガラス物品。
【請求項2】
以下の成分:
58〜65重量%のSiOと、
16〜20重量%のAlと、
0.1〜1重量%のBと、
4.6〜5.4重量%のLiOと、
8.1〜9.7重量%のNaOと、
任意選択で、0.05〜1.0重量%のKOと、
0.2〜2.0重量%のCaOと、
2.5〜5.0重量%のZrOと、
任意選択で、合計の割合で0〜2.5重量%の、成分SnO、CeO、P、およびZnOのうちの1種または複数と
を含む、請求項1に記載の化学強化ガラス物品。
【請求項3】
以下の成分:
60〜62重量%のSiOと、
17.5〜19.5重量%のAlと、
0.5〜0.7重量%のBと、
4.8〜5.2重量%のLiOと、
8.5〜9.5重量%のNaOと、
0.2〜0.5重量%のKOと、
0.5〜1.2重量%のCaOと、
3.2〜3.8重量%のZrOと、
合計の割合で0.25〜1.6重量%の、成分SnO、CeO,P、およびZnOのうちの1種または複数と
を含む、請求項1または2に記載の化学強化ガラス物品。
【請求項4】
ガラスが、以下の組成:
61〜62重量%のSiO
17.5〜18.5重量%のAl
0.5〜0.7重量%のB
4.9〜5.1重量%のLiO、
8.8〜9.3重量%のNaO、
0.2〜0.5重量%のKO、
0.5〜1.2重量%のCaO、
3.2〜3.8重量%のZrO、ならびに
合計の割合で0.5〜1.0重量%の、SnO、CeO、P、およびZnOを有する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の化学強化ガラス物品。
【請求項5】
SiOおよびAlに加えて、一成分としての4.6〜5.4重量%のLiOと、一成分としての8.1〜9.7重量%のNaOとを含むガラスを用意し、
前記ガラス物品をアルカリ含有塩溶融物中で保存して、ガラスのアルカリイオンを塩溶融物のより大きいアルカリイオンと交換し、それによってガラス物品の表面に圧縮応力ゾーンを形成し、結果として化学強化ガラスが得られ、
アルカリ含有塩溶融物中に保存する前記ステップを、8時間以下の時間にわたって実施し、
ガラス物品の保存中の塩溶融物の温度が、420℃を超えることなく、
圧縮応力ゾーンの深さが、少なくとも50マイクロメートルであり、
少なくとも600MPaの圧縮応力が発生する、
化学強化ガラス物品の製造方法。
【請求項6】
370℃〜420℃の温度でNaNO溶融物中でガラス物品を1回化学強化することによって、塩溶融物中での最大8時間以内の処理で、厚さ50μm超及び表面張力600MPa超の圧縮応力ゾーンが形成される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ガラス物品の化学強化を、1種または複数の溶融物で実施し、1種または複数の溶融物が、異なるイオン半径を有する少なくとも2種のアルカリイオン種を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
800MPa超の表面張力および80μmより深い圧縮応力ゾーンが、化学強化用の溶融物ブレンドを使用することによって最大8時間の処理継続時間で得られ、前記溶融物ブレンドが異なるアルカリ金属塩を含み、前記溶融物ブレンドが好ましくは少なくと15重量%のNaNO含量を有する、請求項5乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
800MPa超の表面張力および80μmより深い圧縮応力ゾーンが、少なくとも2種の異なるアルカリイオンを含む溶融物ブレンドを使用することによって3時間以下で形成され、前記溶融物ブレンドが少なくとも15重量%のNaNOを含み、前記溶融物ブレンドの温度が400℃未満である、請求項5乃至8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ガラス物品の化学強化を、特に含まれるアルカリ金属種が異なっている、異なる組成の少なくとも2種のアルカリ塩溶融物中で連続的に実施し、ガラス物品を合計で最大8時間溶融物中で保存し、それぞれの塩溶融物の強化中の温度が420℃未満であり、深さが80μm超の圧縮応力ゾーンおよび800MPa超の圧縮応力が得られる、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
750MPa超の表面張力および厚さが80μm超の圧縮応力ゾーンが、異なる組成のアルカリ塩溶融物中の少なくとも2つのステップで前記ガラス物品の化学強化を実施することによって形成され、2番目の塩溶融物において、第1のステップで使用される溶融物のアルカリイオンよりイオン半径が大きいアルカリイオンを含む塩が使用され、化学強化中の溶融物の温度が400℃未満であり、全ての塩溶融物中のガラス物品の全保存時間が3時間以下である、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
−携帯通信デバイス、デジタルカメラ、デジタルフォトフレーム、パーソナルデジタルアシスタント(PDA)、太陽エネルギーデバイス用のカバーガラスとしての、または
−タッチパネルディスプレー用の、または
−陸上車両用の防弾ガラス窓としての、または
−高速列車用のフロントもしくはサイド窓としての、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のガラス物品または請求項5乃至11のいずれか1項に記載の方法によって製造可能なガラス物品の使用。

【公表番号】特表2013−520388(P2013−520388A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554252(P2012−554252)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【国際出願番号】PCT/EP2011/000954
【国際公開番号】WO2011/104035
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany
【Fターム(参考)】