説明

化学物質が生体に与える影響を検出・予測する方法

【課題】血液学的手法または病理学的手法による脾臓毒性の検出は指標(マーカー)が限られているため、その評価が困難である。
【解決手段】外部環境の変化による生体内の遺伝子発現変化は鋭敏であるため、生体毒性を判別するための遺伝子セットを同定することは、生体毒性が起こる前におよびそれが病理学的検査により実証される前に生体毒性を迅速かつ正確に検出することが可能である。本発明は、その新たな遺伝子セットを用いた生体毒性の検出・予測方法、そのキット、生体毒性の処置方法及び生体毒性の候補薬剤確認方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質が生体に与える影響、生体毒性の検出、診断、予測および/もしくは処置のための方法、および、生体毒性を検出又は予測するためのキットに関する。特に、本発明は、化学物質が生体に与える影響を指標とした化学物質の毒性の検出・予測方法、脾臓毒性の処置の有効性を確認することを助けるための遺伝子発現解析手段およびその結果の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国では、環境と調和した健全な産業活動及び安心・安全な国民生活の実現を目指した化学物質リスク評価・管理システムの構築へ向け、公的な環境安心イノベーションプログラムが進められている。
【0003】
人類が生活する環境の中で、膨大な数の化学物質が利用されており、現在でも年々新しい化学物質が開発され続けている。しかしながら、これらの化学物質が環境中に放出されることにより、人体を含む生態系に有害な影響を及ぼすことが問題となっており、特に化学物質による環境汚染による人体への影響は社会問題にまでなっている。したがって、化学物質のリスク(特に人体に与える影響)を評価することは社会的な要請が強い。
【0004】
これまでの化学物質のリスク評価は、細菌等を用いた単純で簡便な試験、及び、ラット等の実験動物を用いた長期毒性試験によって取得・蓄積されてきた知見を、その基盤としていた。
【0005】
しかし、これらの従来の毒性学的な手法によって獲得される生物学的情報は知見の種類が限られること、並びに、長期毒性試験では費用と効率等の面で問題があることから、これらの課題を解決できる新規の手法の確立が必要であった。
【0006】
近年、急速な発展を見せるゲノム学的なアプローチが、薬剤の有効性評価(ファーマコゲノミクス)(非特許文献1、非特許文献2)、食物の生体への影響評価(ニュートリゲノミクス)(非特許文献3)等と同様に、化学物質の生物学的活性(特にその有害性)の評価にも応用され始めてきた(トキシコゲノミクス)(非特許文献4、非特許文献5)。
【0007】
これらのゲノム学的手法は、全遺伝子を個々のパラメータとして活用できるという、従来の手法では得られない膨大かつ多様な観点による生物学的現象の評価を可能にした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−233105号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Alison H.Harrill et al., Expert Opin. Drug Metab. Tosicol. November;4(11):1379−1389(2008)
【非特許文献2】ElisaGiovannetti et al., Mol. Cancer Ther. 5(6):1387−1394(2006)
【非特許文献3】LiciaIacoviello et al., Genes Nutr. 3:19−24(2008)
【非特許文献4】Preeti Chavanet al., Evid Based Complement Alternat Med. Dec;3(4):447−457(2006)
【非特許文献5】渡邉肇 YAKUGAKUZASSHI:127(12):1967−1974(2007)
【非特許文献6】Paolo Fortinaet al., Nature Biotech. 26:293−294(2008)
【非特許文献7】Gary K Geisset al., Nature Biotech. 26:317−325(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これまでの毒性が未知の化学物質が生体にどのような影響(毒性)があるのかを調べるためには、従来の毒性学的な手法では、獲得される生物学的情報は知見の種類が限られること、並びに、長期毒性試験では費用と効率等の面で問題があった。
【0011】
また、従来の手法では、化学物質の有害性評価の対象となるのは肝臓または脾臓が主であった。しかし、対象となる臓器・組織が変われば、それぞれの臓器・組織に特異的な評価方法が必要となり、かつ、評価手法も異なることが多かった。さらに、化学物質が及ぼすマイナーな臓器へ影響を検査するためには、病理組織学的検査以外には検査方法が存在しないものもあった。
【0012】
本発明は化学物質の毒性を簡便かつ確実に検出するための指標の一つを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、既存化学物質毒性データベース(http://dra4.nihs.go.jp/mhlw_data/jsp/SearchPage.jsp)に登録されている化学物質の中から任意に選択した複数の化学物質をそれぞれ28日間反復投与したラットの脾臓とそれらの化学物質を溶解した溶媒を投与した対照群のラットの脾臓における遺伝子発現プロファイルを取得し、遺伝子発現レベルを比較することにより、両者間で発現レベルに統計的に有意な差がある遺伝子が59遺伝子存在していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、(1)化学物質が生体に与える影響を遺伝子発現レベルで検出することにより被検化学物質の毒性を検出する方法であって、
(A)前記化学物質の曝露を受けた脾臓組織または脾臓由来の細胞試料に対して、下記のGenBank登録番号で塩基配列が特定される生体応答遺伝子群:
(1)NM_053592、(2)U64030、(3)Y00350、(4)M22642、(5)NM_001107529、(6)NM_017169、(7)NM_001007742、(8)NM_001037095、(9)AW434086、(10)AF035951、(11)NM_053818、(12)NM_001106847、(13)NM_133285、(14)AF367448、(15)XM_222462、(16)NM_012899、(17)NM_053983、(18)NM_001135875、(19)NM_133294、(20)NM_022539、(21)NM_022540、(22)NM_053707、(23)NM_022597、(24)NM_031008、(25)NM_012766、(26)J00750、(27)NM_022381、(28)NM_001029917、(29)NM_001013236、(30)NM_012915、(31)NM_017038、(32)AA851352、(33)NM_001107882、(34)NM_134395、(35)NM_024127、(36)NM_001105968、(37)NM_022588、(38)U10188、(39)X54467、(40)NM_001105833、(41)D14015、(42)NM_001002016、(43)D50564、(44)NM_147135、(45)D89731、(46)NM_001126270、(47)NM_024356、(48)XM_220618、(49)AF039218、(50)NM_013096、(51)NM_001106787、(52)NM_001109537、(53)U97667、(54)NM_001011904、(55)NM_012568、(56)NM_001109227、(57)NM_001105822、(58)L06040、(59)NM_031010、
のうちから選択される少なくとも1以上の生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定する第1の遺伝子発現レベル測定ステップと、
(B)前記化学物質の曝露を受けていない脾臓組織または脾臓由来の細胞試料に対して、前記第1の遺伝子発現レベル取得ステップにおいて選択された前記生体応答遺伝子のそれぞれに対する遺伝子発現レベルを測定する第2の遺伝子発現レベル測定ステップと、
(C)前記第1の遺伝子発現データレベル測定ステップ及び前記第2の遺伝子発現データレベル測定ステップにおける前記遺伝子発現レベルを比較するステップと、
を含むことを特徴とする化学物質の毒性の検出方法、である。
【0015】
特に、(2)前記生体応答遺伝子が少なくとも5個以上であることが望ましく、(3)前記生体応答遺伝子が少なくとも10個以上であることがより望ましい。また、(4)前記生体応答遺伝子が少なくとも20個以上であることがさらに望ましく、(5)前記生体応答遺伝子が少なくとも50個以上であることがさらにより望ましい。
【0016】
更に、(6)上記(1)〜(5)において、前記生体応答遺伝子は、マウス、ラット、イヌ、サルまたはヒトにそれぞれ対応するホモログ、パラログまたはオーソログであってもよい。
【0017】
更に、(7)上記(1)〜(5)において、前記脾臓組織または前記細胞試料は、マウス、ラット、イヌ、サルまたはヒト由来であってもよい。
【0018】
更に、(8)上記(1)〜(7)において、前記遺伝子発現レベルの測定は、RT-PCR法、iAFLP(introduced Amplified Fragment Length Polymorphism)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、nCounter Analysis system、ハイブリダイゼーション法のうちの1つを用いることで決定されてもよい。
【0019】
更に、(9)上記(1)〜(8)において、前記遺伝子の発現レベルが、ハイブリダイゼーション法によって測定されてもよく、(10)前記ハイブリダイゼーション法が、マイクロアレイ法又はブロット法であってもよい。
【0020】
また、(11)上記(10)において、前記ヌクレオチドは、mRNA、cDNA、合成オリゴヌクレオチドであってもよく、さらに、(12)前記ヌクレオチドは、標識化ヌクレオチドであってもよい。
【0021】
さらに、上記(1)〜(7)において、(13)前記遺伝子発現レベルの測定は前記生体応答遺伝子に対応する核酸又は前記生体応答遺伝子によってコードされるタンパク質の存在もしくは量を測定することで決定されてもよい。
【0022】
また、上記(13)において、(14)前記タンパク質の存在もしくは量の測定を免疫学的方法によって行ってもよく、(15)前記免疫学的方法は、前記生体応答遺伝子によってコードされるタンパク質又はその断片に対する特異抗体と標的タンパク質との免疫学的複合体を検出する方法であってもよい。また、(16)前記特異抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、および抗体フラグメントから選択されてもよい。
【0023】
さらに、本発明は、(17)化学物質が生体に与える影響を遺伝子発現レベルで検出することにより被検化学物質の毒性を検出するために用いられる照合データとしての遺伝子発現データベースを作成する方法であって、
(A)2−ブタノンオキシム、m−キシリレンジアミン、3-シアノピリジン、2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、メタクリルアミド、スルホラン、2-イソプロポキシエタノール、ヒドラジン一水和物、4-エチルモルホリン、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、m-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、1-ナフチルアミン-4-スルホン酸ナトリウム四水和物、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、o-ジクロロベンゼン、3,4-キシリジン、N-メチルアニリン、トリレンジイソシアナート、2-(ジブチルアミノ)エタノール、p-クミルフェノール、m-クレゾール、2,3-ジメチルアニリン、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド、フタル酸ジヘプチル、テトラブロモエタン、アジピン酸ジブチル、P-エチルフェノール、ο-t-ブチルフェノールおよびp-(1,1,3,3,-テトラメチルブチル)フェノールのそれぞれについて所定量を所定期間生体または脾臓由来の細胞試料に投与(曝露)するステップと、
(B)前記生体の脾臓組織または前記脾臓由来の前記細胞試料からmRNAを単離して、下記のGenBank登録番号で塩基配列が特定される生体応答遺伝子群:
(1)NM_053592、(2)U64030、(3)Y00350、(4)M22642、(5)NM_001107529、(6)NM_017169、(7)NM_001007742、(8)NM_001037095、(9)AW434086、(10)AF035951、(11)NM_053818、(12)NM_001106847、(13)NM_133285、(14)AF367448、(15)XM_222462、(16)NM_012899、(17)NM_053983、(18)NM_001135875、(19)NM_133294、(20)NM_022539、(21)NM_022540、(22)NM_053707、(23)NM_022597、(24)NM_031008、(25)NM_012766、(26)J00750、(27)NM_022381、(28)NM_001029917、(29)NM_001013236、(30)NM_012915、(31)NM_017038、(32)AA851352、(33)NM_001107882、(34)NM_134395、(35)NM_024127、(36)NM_001105968、(37)NM_022588、(38)U10188、(39)X54467、(40)NM_001105833、(41)D14015、(42)NM_001002016、(43)D50564、(44)NM_147135、(45)D89731、(46)NM_001126270、(47)NM_024356、(48)XM_220618、(49)AF039218、(50)NM_013096、(51)NM_001106787、(52)NM_001109537、(53)U97667、(54)NM_001011904、(55)NM_012568、(56)NM_001109227、(57)NM_001105822、(58)L06040、(59)NM_031010、
のうちから選択される少なくとも1以上の生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定するステップと、
(C)(B)で得られた前記遺伝子発現レベルを対応する前記化学物質、曝露量及び曝露期間とともに遺伝子発現データとしてデータベース化するステップと、
を含むことを特徴とする照合用遺伝子発現データベース作成方法である。
【0024】
さらに、(18)前記生体応答遺伝子が少なくとも5個以上であることが望ましく、(19)前記生体応答遺伝子が少なくとも10個以上であることがより望ましい。また、(20)前記生体応答遺伝子が少なくとも20個以上であることがさらに望ましく、(21)前記生体応答遺伝子が少なくとも50個以上であることがさらにより望ましい。
【0025】
さらに、(22)上記(17)〜(21)において、前記生体応答遺伝子は、マウス、ラット、イヌ、サルまたはヒトにそれぞれ対応するホモログ、パラログまたはオーソログであってもよい。
【0026】
更に、(23)上記(17)〜(22)において、前記脾臓組織または前記細胞試料は、マウス、ラット、イヌ、サルまたはヒト由来であってもよい。
【0027】
更に、(24)上記(17)〜(22)において、前記遺伝子発現レベルの測定は、RT-PCR法、iAFLP(introduced Amplified Fragment Length Polymorphism)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、nCounter Analysis system、ハイブリダイゼーション法のうちの1つを用いることで決定されてもよい。
【0028】
更に、(25)上記(24)において、前記ハイブリダイゼーション法が、マイクロアレイ法又はブロット法であってもよく、(26)前記マイクロアレイ法又はブロット法に用いられるプローブは、ヌクレオチド又はタンパク質であってもよい。
【0029】
また、(27)上記(10)において、前記ヌクレオチドは、mRNA、cDNA、合成オリゴヌクレオチドであってもよく、さらに、(28)前記ヌクレオチドは、標識化ヌクレオチドであってもよい。
【0030】
さらに、上記(17)〜(23)において、(29)前記遺伝子発現レベルの測定は前記生体応答遺伝子に対応する核酸又は前記生体応答遺伝子によってコードされるタンパク質の存在もしくは量を測定することで決定されてもよい。
【0031】
また、上記(17)〜(23)において、(30)前記タンパク質の存在もしくは量の測定を免疫学的方法によって行ってもよく、(31)前記免疫学的方法は、前記生体応答遺伝子によってコードされるタンパク質又はその断片に対する特異抗体と標的タンパク質との免疫学的複合体を検出する方法であってもよい。また、(32)前記特異抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、および抗体フラグメントから選択されてもよい。
【0032】
さらに、本発明は、(33)化学物質が生体に与える影響を遺伝子発現レベルで検出することにより被検化学物質の毒性を検出・予測する方法であって、
(A)2−ブタノンオキシム、m−キシリレンジアミン、3-シアノピリジン、2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、メタクリルアミド、スルホラン、2-イソプロポキシエタノール、ヒドラジン一水和物、4-エチルモルホリン、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、m-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、1-ナフチルアミン-4-スルホン酸ナトリウム四水和物、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、o-ジクロロベンゼン、3,4-キシリジン、N-メチルアニリン、トリレンジイソシアナート、2-(ジブチルアミノ)エタノール、p-クミルフェノール、m-クレゾール、2,3-ジメチルアニリン、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド、フタル酸ジヘプチル、テトラブロモエタン、アジピン酸ジブチル、P-エチルフェノール、ο-t-ブチルフェノールおよびp-(1,1,3,3,-テトラメチルブチル)フェノールのそれぞれについて所定量を一定期間生体または脾臓由来の細胞試料に投与(曝露)するステップと、
(B)前記生体由来の脾臓組織または前記脾臓由来の前記細胞試料からmRNAを単離して、下記のGenBank登録番号で塩基配列が特定される生体応答遺伝子群:
(1)NM_053592、(2)U64030、(3)Y00350、(4)M22642、(5)NM_001107529、(6)NM_017169、(7)NM_001007742、(8)NM_001037095、(9)AW434086、(10)AF035951、(11)NM_053818、(12)NM_001106847、(13)NM_133285、(14)AF367448、(15)XM_222462、(16)NM_012899、(17)NM_053983、(18)NM_001135875、(19)NM_133294、(20)NM_022539、(21)NM_022540、(22)NM_053707、(23)NM_022597、(24)NM_031008、(25)NM_012766、(26)J00750、(27)NM_022381、(28)NM_001029917、(29)NM_001013236、(30)NM_012915、(31)NM_017038、(32)AA851352、(33)NM_001107882、(34)NM_134395、(35)NM_024127、(36)NM_001105968、(37)NM_022588、(38)U10188、(39)X54467、(40)NM_001105833、(41)D14015、(42)NM_001002016、(43)D50564、(44)NM_147135、(45)D89731、(46)NM_001126270、(47)NM_024356、(48)XM_220618、(49)AF039218、(50)NM_013096、(51)NM_001106787、(52)NM_001109537、(53)U97667、(54)NM_001011904、(55)NM_012568、(56)NM_001109227、(57)NM_001105822、(58)L06040、(59)NM_031010、
のうちから少なくとも1以上の生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定するステップと、
(C)(B)で得られた前記遺伝子発現レベルを対応する前記化学物質、曝露量、曝露期間とともに遺伝子発現データとして収集するステップと、
(D)被検化学物質を適当な濃度で一定期間生体または脾臓由来の細胞試料に曝露させるステップと、
(E)前記生体由来の前記脾臓組織または前記脾臓由来の細胞試料からmRNAを単離して、(B)のステップで選択した生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定するステップと、
(F)(E)で得られた前記遺伝子発現レベルを前記被検化学物質、曝露量及び曝露期間とともに遺伝子発現データとして収集するステップと、
(G)(F)で収集された遺伝子発現データを(C)で収集された照合用の対応する遺伝子発現データと比較するステップと、
を含むことを特徴とする化学物質の毒性検出・予測方法である。
【0033】
さらに、(34)前記生体応答遺伝子が少なくとも5個以上であることが望ましく、(35)前記生体応答遺伝子が少なくとも10個以上であることがより望ましい。また、(36)前記生体応答遺伝子が少なくとも20個以上であることがさらに望ましく、(37)前記生体応答遺伝子が少なくとも50個以上であることがさらにより望ましい。
【0034】
さらに、(38)上記(33)〜(37)において、前記生体応答遺伝子は、マウス、ラット、イヌ、サルまたはヒトにそれぞれ対応するホモログ、パラログまたはオーソログであってもよい。
【0035】
更に、(39)上記(33)〜(38)において、前記脾臓組織または前記細胞試料は、マウス、ラット、イヌ、サルまたはヒト由来であってもよい。
【0036】
更に、(40)上記(33)〜(39)において、前記遺伝子発現レベルの測定は、RT-PCR法、iAFLP(introduced Amplified Fragment Length Polymorphism)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、nCounter Analysis system、ハイブリダイゼーション法のうちの1つを用いることで決定されてもよい。
【0037】
更に、(41)上記(40)において、前記ハイブリダイゼーション法が、マイクロアレイ法又はブロット法であってもよく、(42)前記マイクロアレイ法又はブロット法に用いられるプローブは、ヌクレオチド又はタンパク質であってもよい。
【0038】
また、(43)上記(42)において、前記ヌクレオチドは、mRNA、cDNA、合成オリゴヌクレオチドであってもよく、さらに、(44)前記ヌクレオチドは、標識化ヌクレオチドであってもよい。
【0039】
さらに、上記(33)〜(39)において、(45)前記遺伝子発現レベルの測定は前記生体応答遺伝子に対応する核酸又は前記生体応答遺伝子によってコードされるタンパク質の存在もしくは量を測定することで決定されてもよい。
【0040】
また、上記(33)〜(39)において、(46)前記タンパク質の存在もしくは量の測定を免疫学的方法によって行ってもよく、(47)前記免疫学的方法は、前記生体応答遺伝子によってコードされるタンパク質又はその断片に対する特異抗体と標的タンパク質との免疫学的複合体を検出する方法であってもよい。また、(48)前記特異抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、および抗体フラグメントから選択されてもよい。
【0041】
また、本発明は(49)上記(1)〜(48)において用いられるプローブを含むキットであって、該プローブが、前記生体応答遺伝子またはその転写産物に特異的にハイブリダイズする配列を有する分子を含む化学物質の毒性検出・予測キットである。
【0042】
さらに、(50)上記(49)において、前記プローブは、ヌクレオチド又はタンパク質であってもよい。
【0043】
また、(51)上記(50)において、前記ヌクレオチドはmRNA、cDNA、合成オリゴヌクレオチドであってもよい。
【0044】
さらに、(52)上記(50)または(51)において前記ヌクレオチドは、前記生体応答遺伝子のセンス鎖又はアンチセンス鎖とハイブリダイズし、10〜100merであってもよい。
【0045】
また、(53)上記(50)〜(52)において、前記ヌクレオチドは、標識化ヌクレオチドであってもよい。
【0046】
さらに、(54)上記(49)または(50)において、前記プローブは、抗体及び/又はアプタマーであるタンパク質であってもよい。
【0047】
また、(55)上記(49)〜(54)において、前記プローブは、少なくとも1つ以上を固体支持体に固定したDNAマイクロアレイ、DNAチップ、タンパクチップまたは抗体チップを含んでいてもよい。
【0048】
さらに、(56)上記(55)において、前記固体支持体は、ガラス、シリコン、プラスチック又は生体膜であってもよい。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、化学物質を生体に投与した後の臓器における遺伝子発現様式を比較することにより、化学物質が生体に対して毒性を有するか否かを簡便に判定あるいは予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】各種化学物質を適量28日間反復投与した投与群の脾臓重量を化学物質を溶解する際に用いた溶媒を28日間反復投与した対照群の脾臓重量で除した値(相対重量比)をグラフで表す。棒グラフの縦軸は相対重量比(倍)を表し、棒グラフの下段の記号は、それぞれ「nma」はN-メチルアニリンを、「2bo」は2−ブタノンオキシムを、「34x」は3,4-キシリジンを、「2ip」は2-イソプロポキシエタノールを、「23d」は2,3-ジメチルアニリンを、「hmh」はヒドラジン一水和物を表す。
【図2】各種化学物質を適量28日間反復投与した投与群の脾臓と対照群の脾臓と間で統計的有意差(P < 0.01)のある遺伝子群をスチューデントのt検定により抽出し、その抽出した遺伝子数をグラフで表している。縦軸は遺伝子数を表しており、棒グラフの下段にある記号は、それぞれ「nma」はN-メチルアニリンを、「2bo」は2−ブタノンオキシムを、「34x」は3,4-キシリジンを、「2ip」は2-イソプロポキシエタノールを、「23d」は2,3-ジメチルアニリンを、「hmh」はヒドラジン一水和物を表す。
【図3】N-メチルアニリン、2−ブタノンオキシム、3,4-キシリジン、2-イソプロポキシエタノール、2,3-ジメチルアニリン、ヒドラジン一水和物を適量28日間反復投与した投与群の脾臓と対照群の脾臓と間で統計的有意差(P < 0.01)のある遺伝子群をスチューデントのt検定により抽出した遺伝子の発現レベルを表している。上段のアルファベットおよび数値は、それぞれ「C」は対照群を、「1」は2−ブタノンオキシムを、「2」はm−キシリレンジアミンを、「3」は3-シアノピリジンを、「4」は2−(2−アミノエチルアミノ)エタノールを、「5」はテトラヒドロフルフリルアルコールを、「6」はメタクリルアミドを、「7」はスルホランを、「8」は2-イソプロポキシエタノールを、「9」はヒドラジン一水和物を、「10」は4-エチルモルホリンを、「11」はメタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリドを、「12」は塩化ベンジルトリメチルアンモニウムを、「13」はm-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムを、「14」は1-ナフチルアミン-4-スルホン酸ナトリウム四水和物を、「15」は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを、「16」はo-ジクロロベンゼンを、「17」は3,4-キシリジンを、「18」はN-メチルアニリンを、「19」はトリレンジイソシアナートを、「20」は2-(ジブチルアミノ)エタノールを、「21」はp-クミルフェノールを、「22」はm-クレゾールを、「23」は2,3-ジメチルアニリンを、「24」はN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミドを、「25」はフタル酸ジヘプチルを、「26」はテトラブロモエタンを、「27」はアジピン酸ジブチルを、「28」はP-エチルフェノールを、「29」はο-t-ブチルフェノールを、「30」はp-(1,1,3,3,-テトラメチルブチル)フェノールを投与したラットの脾臓サンプルであることを表している。
【図4】階層的クラスタ分析を表す。本件発明によって特定された59遺伝子の発現レベルを対照群(16個体)および30種類の化学物質をそれぞれ28日間反復投与したラットの脾臓の遺伝子発現プロファイルから抽出し、それらの発現レベルのデータにより2次元の階層的クラスタ分析を行った。デンドログラムの下のカラムに記載されているアルファベットおよび数値は、それぞれ「C」は対照群を、「1」は2−ブタノンオキシムを、「2」はm−キシリレンジアミンを、「3」は3-シアノピリジンを、「4」は2−(2−アミノエチルアミノ)エタノールを、「5」はテトラヒドロフルフリルアルコールを、「6」はメタクリルアミドを、「7」はスルホランを、「8」は2-イソプロポキシエタノールを、「9」はヒドラジン一水和物を、「10」は4-エチルモルホリンを、「11」はメタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリドを、「12」は塩化ベンジルトリメチルアンモニウムを、「13」はm-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムを、「14」は1-ナフチルアミン-4-スルホン酸ナトリウム四水和物を、「15」は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを、「16」はo-ジクロロベンゼンを、「17」は3,4-キシリジンを、「18」はN-メチルアニリンを、「19」はトリレンジイソシアナートを、「20」は2-(ジブチルアミノ)エタノールを、「21」はp-クミルフェノールを、「22」はm-クレゾールを、「23」は2,3-ジメチルアニリンを、「24」はN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミドを、「25」はフタル酸ジヘプチルを、「26」はテトラブロモエタンを、「27」はアジピン酸ジブチルを、「28」はP-エチルフェノールを、「29」はο-t-ブチルフェノールを、「30」はp-(1,1,3,3,-テトラメチルブチル)フェノールを投与したラットの脾臓サンプルであることを表している。
【発明を実施するための形態】
【0051】
他に特に規定されない限り、本明細書中に使用される用語は、本発明が属する分野における通常の知識を有する者(当業者)によって、一般的に理解されるものと同一の意味を有する。
【0052】
当業者は、本明細書中に記載されるものと同等または類似の多くの方法および物質を認識する。ただし、本発明は本明細書に記載される方法および物質に限定されない。
【0053】
「遺伝子発現レベルを測定する」とは、該遺伝子の発現レベルを検出又は定量する限り特に制限されず、例えば、該遺伝子のmRNAやcDNAを検出又は定量してもよい。さらには、該遺伝子がコードするタンパク質を検出又は定量してもよい。これらの検出又は定量には、該遺伝子又はその遺伝子産物であるペプチド若しくはタンパク質に特異的に結合する分子を用いることが望ましい。遺伝子又はその遺伝子産物であるペプチド若しくはタンパク質に特異的に結合する分子とは、特に制限されないが、該遺伝子に特異的に結合するヌクレオチド、DNA、cDNA、RNA、ペプチド若しくはタンパク質に特異的に結合する抗体等を例示することができる。また、該遺伝子の発現レベルの検出又は定量には、該遺伝子のmRNAもしくはタンパク質の断片またはホモログを用いてもよい。
【0054】
「DNAマイクロアレイ」とは、オリゴヌクレオチドや一本鎖または二本鎖のDNAをガラス基板上などに高密度に配置したものをいい、「DNAマイクロアレイ法」とは、そのDNAマイクロアレイ上で蛍光標識したRNA分子などとハイブリッド形成を行わせて定性的定量的にDNAと結合した核酸の種類や量を測定する手法をいう。
【0055】
「オリゴヌクレオチド」とは、ヌクレオチドが数個重合した分子の総称のことをいう。
【0056】
本明細書中、mRNAの「ホモログ」とは、該mRNAに実質的に類似したヌクレオチドに関連する。「実質的に類似した」とは、当業者によって十分理解され、具体的にはそれぞれの配列類似性が少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%を有することを意味する。
【0057】
また、本明細書中、タンパク質の「ホモログ」とは、該mRNAに実質的に類似したペプチドに関連する。「実質的に類似した」とは、当業者によって十分理解され、具体的にはそれぞれの配列類似性が少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%を有することを意味する。
【0058】
「候補化合物」とは、その毒性について試験される任意の化合物を指す。
【0059】
「化合物に曝露された臓器組織または細胞試料」とは、組織もしくは細胞試料、または試料が由来した動物が、化合物により処理されたことを意味する。
【0060】
「脾臓毒性」とは、多くの疾病もしくは障害のプロセスにより誘発され得るところの急性もしくは慢性の脾臓の不全もしくは機能障害を意味する。
【0061】
「毒性作用」とは、化合物の存在に起因する、生体、臓器系、各臓器、組織、細胞、または細胞内単位に対する有害作用を指す。毒性作用は、生理的もしくは物理的な症状、または細胞もしくは臓器の壊死のような撹乱であり得る。
【0062】
「試料」には、好ましくは脾臓の生検材料、並びに、例えば血液、血漿、血清、リンパ液、腹水、尿、便のような任意の体液が含まれるものとする。なお、これに限られるものではない。
【0063】
本明細書で使用される際には、「個体」とは、ヒトの個体、動物又は個体の集団もしくはプールを意味するものとする。
【0064】
「候補薬剤」には、タンパク質もしくはそのフラグメント、抗体、小分子の阻害剤もしくはアゴニスト、核酸分子、たとえば、アンチセンスヌクレオチド、リボザイム、二重鎖RNA、有機および無機化合物等のような天然のまたは合成の分子を含む。
【0065】
遺伝子の発現レベルを検出又は定量する具体的な方法としては、該遺伝子に特異的に結合するプローブ用の標識化ヌクレオチド、標識化cDNAまたは標識化RNAを用いたノーザンブロット法、ドットブロット法、iAFLP法、LAMP法、nCounter Analysis systemまたはPCR法を用いることができる。PCR法として、RT-PCR法、リアルタイムPCR法、コンペティティブPCR法を挙げることができる。
【0066】
さらに、遺伝子の発現レベルを検出又は定量する具体的な方法としては、DNAマイクロアレイ、DNAチップ、または抗体アレイ等が挙げられる。DNAマイクロアレイ又はDNAチップには該遺伝子のヌクレオチド又はcDNAが少なくとも1つ以上固定化されているものを用いる。
【0067】
なお、ヌクレオチド又はcDNAは、該遺伝子の一部に相当する部分でもよい。
【0068】
上記プローブの標識化に用いられる標識試薬は、例えば放射性同位元素である[125I]、[131I]、[3H]、[14C]、[32P]、[35S]、酵素であるβーガラクトシダーゼ、βーグルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、また、蛍光物質であるシアニン蛍光色素蛍光色素(例えば、Cy2、Cy3、Cy5、Cy5.5、Cy7、Cyanine3、Cyanine5など)を用いることができる。
【0069】
また、上記リアルタイムPCR法としては、例えば、組織内又は細胞内の全RNAやmRNAから逆転写酵素により合成したcDNAを鋳型にして、PCRの増幅産物をリアルタイムでモニタリングする方法が挙げられる。リアルタイムPCR用モニタリング試薬としては、例えばSYBR
GreenIやTaqManプローブ等が用いられる。
【0070】
通常、DNAマイクロアレイやDNAチップは、プローブが支持体の上に固定されているアレイ又はチップであり、DNAマイクロアレイ又はDNAチップの支持体としては、ハイブリダイゼーションに使用可能なものであればよく、例えばガラス、シリコン、プラスチックなどの基板や、ニトロセルロース膜、ナイロン膜等を用いることができる。
【0071】
なお、DNAマイクロアレイとは、生体応答遺伝子セットに含まれる遺伝子全長、またはその部分配列と相補的なcDNA断片若しくはオリゴDNAを固定支持体に1つ以上固定したものをいう。ここでいう相補的なオリゴDNAは一般的には25〜100塩基の長さのものが用いられるが、必ずしもこれに限定されない。
【0072】
DNAマイクロアレイやDNAチップの使用方法については特に制限されない。例えば、生体試料からmRNAを精製し、該mRNAを鋳型とした逆転写反応を行う際に、適切な標識を付したプライマーや標識ヌクレオチドを使用することにより、標識されたcDNAを得ることができる。この標識化cDNAとDNAマイクロアレイやDNAチップ表面上に固定された本発明におけるプローブとの間でハイブリダイゼーションを行わせ、被検試料とのハイブリダイゼーション及び対照試料とのハイブリダイゼーションのそれぞれの結果を比較し、該遺伝子の有無を検出したり、発現レベルを測定することにより、臓器毒性の検出または予測を行うことができる。
【0073】
遺伝子に対応するポリペプチド又はタンパク質は上記生体応答遺伝子の発現産物であり、該ポリペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列の配列情報は、NCBIの遺伝子データベースにおいて、それぞれのアクセッションナンバーによりアプローチすることもできる。
【0074】
上記ポリペプチド又はタンパク質を検出又は定量する方法としては、所定のポリペプチド又はタンパク質を検出又は定量する方法であれば特に制限されない。例えば、該ポリペプチド又はタンパク質に特異的に結合する抗体やアプタマー等を用いることができ、抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、2つのエピトープを同時に認識することができる二機能性抗体等を例示できる。これらの抗体は、慣用のプロトコルを用いて該ポリペプチド又はタンパク質又はそれらの断片を抗原として用いて作製することができる。また、アプタマーとは、タンパク質、アミノ酸等の分子に特異的に結合する核酸分子である。
【0075】
上記ポリペプチド又はタンパク質に特異的に結合する抗体を用いて、被検試料中に存在する該ポリペプチド又はタンパク質を検出又は定量する場合、免疫沈降法、電気化学発光法、RIA(Radioimmunoassay)法、ELISA(Enzyme-liked immunosorbent assay)法、蛍光抗体法等の公知の免疫学的方法を用いることができる。
【0076】
上記判定の基準としては、被検試料中に存在する該遺伝子の発現レベル(又は該遺伝子に対応するポリペプチド若しくはタンパク質の発現レベル)が正常対照試料中に存在する、該遺伝子の発現レベル(又は該遺伝子に対応するポリペプチド若しくはタンパク質の発現レベル)よりも高いまたは低いことを用いる。例えば、1群3検体以上の試料の発現レベルを測定した結果について、t検定を行った場合に、P<0.05、より好ましくはP<0.01、さらに好ましくはP<0.001、さらにより好ましくはP<0.0001である場合が挙げられる。
【0077】
検定方法はt検定に限定されるものではなく、マン・ホイットニ検定やウィルコクサン符号付順位検定でもよい。また検定に限定されるものではなく、例えば各群の発現レベルの平均値の差を用いてもよい。
【0078】
基準値は、被検試料における発現レベルを測定する度に毎回測定する必要はなく、例えば、様々な種の生体試料における正常対照試料中に存在する遺伝子の発現レベルをあらかじめ測定しておき、その測定値を用いて比較することができる。
【0079】
遺伝子発現レベルの変化には特定の化合物と生体組織との直接の反応のみならず、臓器に障害が生じた結果としての二次的反応も含まれる。
【0080】
生体応答遺伝子セットに含まれる遺伝子は、ヒト、ラット、マウス、またはサルのような任意の哺乳動物において、マーカーとして用いられ得る。好ましくは、生体応答遺伝子セットに含まれる遺伝子は、ラットまたはマウスにおいてマーカーとして用いられる。
【0081】
動物の種類は特に限定されるものではなく、例えば、ラットの場合にはSprague Dawleyラット、Wistarラットなどでもよく、雄でも雌でも構わない。
【0082】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0083】
本発明の毒性作用を検出または予測するための方法に用いられる生体応答遺伝子セットは、N-メチルアニリン、2−ブタノンオキシム、3,4-キシリジン、2-イソプロポキシエタノール、2,3-ジメチルアニリン、または、ヒドラジン一水和物を雄のSprague Dawleyラット(6週齢)(日本チャールス・リバー社製)に28日間反復投与することにより脾臓で発現レベルが著しく変化した遺伝子群である。
【0084】
本発明で用いられる生体応答遺伝子セットは以下の方法により得られる。なお、ここで、「発現レベル」とは絶対量である必要はなく相対量でよい。
【0085】
[遺伝子発現データベース]
本発明の遺伝子発現データベースを作成するには、
(1)種々の化学物質について、ラットなどが死亡しない適当な投与量を決定し、
(2)適当な濃度の化学物質を一定期間、ラットなどに繰り返し曝露し、
(3)曝露した生体から各臓器を摘出し、
(4)摘出した臓器からmRNAを単離し、
(5)DNAマイクロアレイ法などにより特定遺伝子の発現レベルを測定し、
(6)得られた遺伝子発現レベルを化学物質、その濃度、曝露時間とともに遺伝子発現データベースとしてまとめる。
という工程によりなされる。
【0086】
[動物試験]
国立医薬品食品衛生研究所の既存化学物質毒性データベース(http://dra4.nihs.go.jp/mhlw_data/jsp/SearchPage.jsp)に登録されている30種類の化学物質脾臓毒性が報告されている化学物質2−ブタノンオキシム(和光純薬株式会社)(100mg/kg)、m−キシリレンジアミン(東京化成工業株式会社)(400mg/kg)、3-シアノピリジン(和光純薬株式会社)(180mg/kg)、2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール(和光純薬株式会社)(1000mg/kg)、テトラヒドロフルフリルアルコール(和光純薬株式会社)(600mg/kg)、メタクリルアミド(和光純薬株式会社)(150mg/kg)、スルホラン(和光純薬株式会社)(700mg/kg)、2-イソプロポキシエタノール(和光純薬株式会社)(500mg/kg)、ヒドラジン一水和物(和光純薬株式会社)(30mg/kg)、4-エチルモルホリン(和光純薬株式会社)(500mg/kg)、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド(和光純薬株式会社)(1000mg/kg)、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム(和光純薬株式会社)(120mg/kg)、m-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム(和光純薬株式会社)(1000mg/kg)、1-ナフチルアミン-4-スルホン酸ナトリウム四水和物(和光純薬株式会社)(1000mg/kg)、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(和光純薬株式会社)(1000mg/kg)、o-ジクロロベンゼン(和光純薬株式会社)(500mg/kg)、3,4-キシリジン(和光純薬株式会社)(250mg/kg)、N-メチルアニリン(和光純薬株式会社)(125mg/kg)、トリレンジイソシアナート(和光純薬株式会社)(300mg/kg)、2-(ジブチルアミノ)エタノール(和光純薬株式会社)(250mg/kg)、p-クミルフェノール(和光純薬株式会社)(700mg/kg)、m-クレゾール(和光純薬株式会社)(1000mg/kg)、2,3-ジメチルアニリン(東京化成工業株式会社)(200mg/kg)、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(和光純薬株式会社)(300mg/kg)、フタル酸ジヘプチル(和光純薬株式会社)(1000mg/kg)、テトラブロモエタン(和光純薬株式会社)(200mg/kg)、アジピン酸ジブチル(和光純薬株式会社)(1000mg/kg)、p-エチルフェノール(和光純薬株式会社)(1000mg/kg)、ο-t-ブチルフェノール(和光純薬株式会社)(500mg/kg)およびp-(1,1,3,3,-テトラメチルブチル)フェノール(和光純薬株式会社)(300mg/kg)を28日間反復してSprague Dawleyラット(7週齢、雄)に経口投与した。正常対照群として、オリブ油(小堺製薬株式会社製)または注射用水(日本薬局方 注射用水、大塚蒸留水)を28日間反復してSprague Dawleyラット(6週齢、雄)に経口投与した。28日間の反復投与後、ラットから脾臓を採取し、速やかに液体窒素で凍結させた。凍結させた脾臓組織はISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いて粉砕した。なお、動物試験は28日間に制限されることはなく、例えば数日間でもよい。
【0087】
[全RNAの抽出]
脾臓組織からの全RNAの抽出はISOGEN試薬(ニッポンジーン社製)を用いて推奨のプロトコルに従って行った。
【0088】
[核酸検体の調製]
検体用mRNAの調製は、脾臓組織からISOGEN試薬(ニッポンジーン社製)を用いて抽出した全RNAから、Poly(A)Pureキット(Ambion社製)を用い、各社推奨のプロトコルに従って行った。
【0089】
[マイクロアレイの作製]
マイクロアレイ用合成DNAを用いてマイクロアレイを作製した。マイクロアレイの作製方法・条件に限定はないが、例えば(Schena,M.et.al.,Science,270,467-470.(1995))に記載の作製方法を用いることができる。
【0090】
ラット遺伝子断片ライブラリー(マイクロダイアグノスティック社製)を超微量分注装置(マイクロダイアグノスティク社製)によりスライドガラス(松波硝子工業社製、HAコートスライドガラス)にプリントしてマイクロアレイを作製した。該マイクロアレイを気相恒温器内にて80℃で1時間静置し、さらにUVクロスリンカー(Hoefer社製、UVC500)を用いて120mJの紫外線を照射した。
【0091】
[マイクロアレイの後処理]
マイクロアレイの後処理については、公開特許公報(特開2004-233105)記載の方法により行った。
【0092】
[標識cDNAの合成]
該mRNA 1.5μgを核酸標識・ハイブリダイゼーション試薬(マイクロダイアグノスティック社製)、逆転写酵素SuperScriptII(インビトロジェン社製)、Cyanine5-deoxyuridinetriphosphate(Cyanine5-dUTP)(Perkin Elmer社製)を用い、標識cDNAを作製した。一方、対照としてラット共通レファレンス(マイクロダイアグノスティック社製)を使用した。共通レファレンスに対しては核酸標識・ハイブリダイゼーション試薬(マイクロダイアグノスティック社製)、逆転写酵素SuperScriptII(インビトロジェン社製)、Cyanine3-deoxyuridinetriphosphate(Cyanine3-dUTP)(Perkin Elmer社製)を用い、標識cDNAを作製した。作製方法は、各社推奨のプロトコルに従った。
【0093】
[標識プローブの作製]
これらの標識cDNA、すなわち、Cyanine5-dUTPで標識した検体およびCyanine3-dUTPで標識した対照レファレンスを同一試験管内で混合した後、MicropureEZ(ミリポア社製)およびMicroconYM30(ミリポア社製)により精製した。最終的には核酸標識・ハイブリダイゼーション試薬に付属のハイブリダイゼーションバッファーおよび純水を用いて15μlに調製した。
【0094】
[ハイブリダイゼーション]
該溶液を99℃で5分間加熱して熱変性させた後に、DNAマイクロアレイ上に滴下し、ハイブリダイゼーションカセット(マイクロダイアグノスティック社製)に格納した。該ハイブリダイゼーションカセットを気相恒温器(三洋電機バイオメディカ社製)に入れ、42℃で約20時間、静置した状態で保温した。この操作によって、サンプル中に含まれる標識cDNAがDNAマイクロアレイ上の相補的なオリゴDNAと特異的に結合する。
【0095】
[洗浄]
ハイブリダイゼーションカセットからスライドガラスを取り出し、核酸標識・ハイブリダイゼーション試薬(マイクロダイアグノスティック社製)付属のハイブリダイゼーション洗浄溶液を用い、同社推奨のプロトコルに従ってスライドガラスを洗浄した。
【0096】
[蛍光強度の検出および数値化]
各遺伝子の発現レベルはDNAマイクロアレイ上に固定されたオリゴDNAと結合した標識cDNAの蛍光強度を測定することにより見積もることができる。洗浄したスライドガラスをスキャナGenePix4000B(Axon Instrument社製)を用いて蛍光を測定し、スキャナに付属の解析ソフトウエアGenePixPro(Axon Instrument社製)を用いて光学的に評価し、蛍光強度の相対値(Cyanine5/ Cyanine3)数値化した。すなわち、DNAマイクロアレイ上に固定されたオリゴDNAのスポットの蛍光強度をそれぞれ別々に測定し、スポット以外の場所の蛍光強度からバックグラウンドを算出してノイズとしてそれぞれのスポットの蛍光強度から差し引く。そして、サンプルにおける蛍光強度/共通レファレンスの蛍光強度を算出するという解析を行う。すなわち、各サンプルの遺伝子発現レベルはすべて共通レファレンスに対する相対比として検出されるため、単純に複数サンプルを横並び比較できる状態となっている。このようにして取得された数値を集積してデータベース化する。
【0097】
[統計学的処理]
化学物質が生体に与える影響を判別するために有用な遺伝子を選択するために、N-メチルアニリン、2−ブタノンオキシム、3,4-キシリジン、2-イソプロポキシエタノール、2,3-ジメチルアニリン、または、ヒドラジン一水和物を28日間反復投与したラットの脾臓と対照群のラットの脾臓とを比較して、それぞれ、各遺伝子の対数変換相対的発現比に対するスチューデントのt検定を行って、P値を算出した。それぞれの化学物質において、両群で発現レベルの平均値の差が2倍以上、かつ、P値が0.01未満である553遺伝子を抽出した(図2)。さらに、それぞれの化学物質において特定された遺伝子群の中から、4つ以上の化学物質で重複して抽出された遺伝子群(59遺伝子)を特定した(表1〜6)。表中の「Name」の欄には対象となる遺伝子の遺伝子名を、「ID」の欄には対象となる遺伝子のGenBankの登録番号(アクセッション番号)を示している。また、「C1」、「C2」、「C3」、「C4」、「C5」および「C6」はそれぞれ対照群のラットであることを表しており、「C1」、「C2」および「C3」が生理食塩水を、「C4」、「C5」および「C6」がオリーブオイルを投与した群を示している。また、「2bo」は2−ブタノンオキシムを、「mxa」はm−キシリレンジアミンを、「3cp」は3-シアノピリジンを、「2ae」は2−(2−アミノエチルアミノ)エタノールを、「thf」はテトラヒドロフルフリルアルコールを、「mca」はメタクリルアミドを、「suf」はスルホランを、「2ip」は2-イソプロポキシエタノールを、「hmh」はヒドラジン一水和物を、「4em」は4-エチルモルホリンを、「mta」はメタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリドを、「bac」は塩化ベンジルトリメチルアンモニウムを、「mns」はm-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムを、「nat」は1-ナフチルアミン-4-スルホン酸ナトリウム四水和物を、「mmb」は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを、「dcb」はo-ジクロロベンゼンを、「34x」は3,4-キシリジンを、「nma」はN-メチルアニリンを、「tdn」はトリレンジイソシアナートを、「2de」は2-(ジブチルアミノ)エタノールを、「pcp」はp-クミルフェノールを、「mcs」はm-クレゾールを、「23d」は2,3-ジメチルアニリンを、「dhc」はN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミドを、「dhp」はフタル酸ジヘプチルを、「tbe」はテトラブロモエタンを、「dba」はアジピン酸ジブチルを、「pep」はP-エチルフェノールを、「tbp」はο-t-ブチルフェノールを、「tmp」はp-(1,1,3,3,-テトラメチルブチル)フェノールをそれぞれ28日間反復投与したラットであることを示している。また、同一の記号が記されているものは、それぞれの化学物質に対して複数個体で試験を行ったことを示しており、それぞれ個体が異なることを示している。また、数値は、それぞれの化学物質を28日間ラットに反復して投与した後の脾臓の遺伝子発現レベルを対照群の平均値の相対比に換算した値であり、各個体における各遺伝子の発現レベル比(底を2とする対数比)を表している。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
【表3】

【0101】
【表4】

【0102】
【表5】

【0103】
【表6】

【0104】
[クラスタ分析]
DNAマイクロアレイで取得した遺伝子発現データの分析手法として、例えばクラスタ分析が挙げられる。クラスタ分析とは、遺伝子発現変化パターンの類似した遺伝子同士をグルーピングする統計的手法である。データ間の類似度(例えばユークリッド距離など)を定義し、その類似度を用いることにより遺伝子発現パターンの類似した、すなわち、遺伝子発現に対して類似した影響を持つ化学物質どうしがグループ化される。
【0105】
上記同定された遺伝子について階層的クラスタ分析を行った(図4)。階層的クラスタ分析は解析用ソフトウェア「Expression View Pro」(マイクロダイアグノスティック社製)を用いて行った。また、階層的クラスタ分析は「cluster」や「treeview」などのソフトウェアを用いても行うことができる。その結果、2−ブタノンオキシム、2-イソプロポキシエタノール、3,4-キシリジン、およびN-メチルアニリンを投与したラットは3個体中3個体が、また、2,3-ジメチルアニリンを投与したラットは3個体中2個体が、ヒドラジン一水和物を投与したラットは3個体中1個体が他の個体と明確に区別することが可能であった。これらの物質は、脾臓に対して毒性あるいは影響を与えることが知られており(http://dra4.nihs.go.jp/mhlw_data/jsp/SearchPage.jsp)、これらのことは、これらの化学物質が生体の脾臓に与える影響を遺伝子発現レベルで明確に区別(判別)することができることを意味する。
【0106】
また、これらのことは、被検化学物質について同様の動物実験を行い、この生体応答遺伝子セットについての遺伝子発現レベルを測定した後、前記遺伝子発現データセットを用いてクラスタ分析により比較することにより、被検化学物質について、少なくとも前記の化学物質に類似した毒性の有無を判定できることを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の脾臓毒性判定遺伝子セットは、腎障害、すなわち、脾臓疾患、損傷または毒性のモニタリング、それらの診断および/またはそれらに対する種々の措置もしくは薬剤の有効性を判定することを助けることができる可能性がある。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学物質が生体に与える影響を遺伝子発現レベルで検出することにより被検化学物質の毒性を検出する方法であって、
(A)前記化学物質の曝露を受けた脾臓組織または脾臓由来の細胞試料に対して、下記のGenBank登録番号で塩基配列が特定される生体応答遺伝子群:
(1)NM_053592、(2)U64030、(3)Y00350、(4)M22642、(5)NM_001107529、(6)NM_017169、(7)NM_001007742、(8)NM_001037095、(9)AW434086、(10)AF035951、(11)NM_053818、(12)NM_001106847、(13)NM_133285、(14)AF367448、(15)XM_222462、(16)NM_012899、(17)NM_053983、(18)NM_001135875、(19)NM_133294、(20)NM_022539、(21)NM_022540、(22)NM_053707、(23)NM_022597、(24)NM_031008、(25)NM_012766、(26)J00750、(27)NM_022381、(28)NM_001029917、(29)NM_001013236、(30)NM_012915、(31)NM_017038、(32)AA851352、(33)NM_001107882、(34)NM_134395、(35)NM_024127、(36)NM_001105968、(37)NM_022588、(38)U10188、(39)X54467、(40)NM_001105833、(41)D14015、(42)NM_001002016、(43)D50564、(44)NM_147135、(45)D89731、(46)NM_001126270、(47)NM_024356、(48)XM_220618、(49)AF039218、(50)NM_013096、(51)NM_001106787、(52)NM_001109537、(53)U97667、(54)NM_001011904、(55)NM_012568、(56)NM_001109227、(57)NM_001105822、(58)L06040、(59)NM_031010、
のうちから選択される少なくとも1以上の生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定する第1の遺伝子発現レベル測定ステップと、
(B)前記化学物質の曝露を受けていない脾臓組織または脾臓由来の細胞試料に対して、前記第1の遺伝子発現レベル取得ステップにおいて選択された前記生体応答遺伝子のそれぞれに対する遺伝子発現レベルを測定する第2の遺伝子発現レベル測定ステップと、
(C)前記第1の遺伝子発現データレベル測定ステップ及び前記第2の遺伝子発現データレベル測定ステップにおける前記遺伝子発現レベルを比較するステップと、
を含むことを特徴とする化学物質の毒性の検出方法。
【請求項2】
少なくとも5個以上の前記生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定するステップを包含する請求項1記載の化学物質の毒性の検出方法。
【請求項3】
少なくとも10個以上の前記生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定するステップを包含する請求項1記載の化学物質の毒性の検出方法。
【請求項4】
少なくとも20個以上の前記生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定するステップを包含する請求項1記載の化学物質の毒性の検出方法。
【請求項5】
少なくとも50個以上の前記生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定するステップを包含する請求項1記載の化学物質の毒性の検出方法。
【請求項6】
前記生体応答遺伝子は、マウス、ラット、イヌ、サルまたはヒトにそれぞれ対応するホモログ、パラログまたはオーソログであることを特徴とする、請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性検出方法。
【請求項7】
前記脾臓組織または前記細胞試料は、マウス、ラット、イヌ、サルまたはヒト由来であることを特徴とする、請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性検出方法。
【請求項8】
遺伝子発現レベルの測定は、RT-PCR法、iAFLP(introduced Amplified Fragment Length Polymorphism)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、nCounter Analysis system、ハイブリダイゼーション法のうちの1つを用いることを特徴とする請求項1ないし請求項7のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性検出方法。
【請求項9】
前記ハイブリダイゼーション法は、マイクロアレイ法又はブロット法であることを特徴とする請求項8記載の化学物質の毒性検出方法。
【請求項10】
前記マイクロアレイ法又はブロット法に用いられるプローブは、ヌクレオチド又はタンパク質であることを特徴とする請求項9記載の化学物質の毒性検出方法。
【請求項11】
前記ヌクレオチドは、mRNA、cDNA、合成オリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項10記載の化学物質の毒性検出方法。
【請求項12】
前記ヌクレオチドは、標識化ヌクレオチドであることを特徴とする請求項10または請求項11記載の化学物質の毒性検出方法。
【請求項13】
前記遺伝子発現レベルの測定を前記生体応答遺伝子に対応する核酸又は前記生体応答遺伝子によってコードされるタンパク質の存在もしくは量を測定することで決定することを特徴とする請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性検出方法。
【請求項14】
前記タンパク質の存在もしくは量の測定を免疫学的方法によって行うことを特徴とする請求項13記載の化学物質の毒性検出方法。
【請求項15】
前記免疫学的方法は、前記生体応答遺伝子によってコードされるタンパク質又はその断片に対する特異抗体と標的タンパク質との免疫学的複合体を検出する方法であることを特徴とする請求項14記載の化学物質の毒性検出方法。
【請求項16】
前記特異抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、および抗体フラグメントから選択されることを特徴とする請求項15記載の化学物質の毒性検出方法。
【請求項17】
化学物質が生体に与える影響を遺伝子発現レベルで検出することにより被検化学物質の毒性を検出するために用いられる照合データとしての遺伝子発現データベースを作成する方法であって、
(A)2−ブタノンオキシム、m−キシリレンジアミン、3-シアノピリジン、2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、メタクリルアミド、スルホラン、2-イソプロポキシエタノール、ヒドラジン一水和物、4-エチルモルホリン、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、m-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、1-ナフチルアミン-4-スルホン酸ナトリウム四水和物、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、o-ジクロロベンゼン、3,4-キシリジン、N-メチルアニリン、トリレンジイソシアナート、2-(ジブチルアミノ)エタノール、p-クミルフェノール、m-クレゾール、2,3-ジメチルアニリン、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド、フタル酸ジヘプチル、テトラブロモエタン、アジピン酸ジブチル、P-エチルフェノール、ο-t-ブチルフェノールおよびp-(1,1,3,3,-テトラメチルブチル)フェノールのそれぞれについて所定量を所定期間生体または脾臓由来の細胞試料に投与(曝露)するステップと、
(B)前記生体の脾臓組織または前記脾臓由来の前記細胞試料からmRNAを単離して、下記のGenBank登録番号で塩基配列が特定される生体応答遺伝子群:
(1)NM_053592、(2)U64030、(3)Y00350、(4)M22642、(5)NM_001107529、(6)NM_017169、(7)NM_001007742、(8)NM_001037095、(9)AW434086、(10)AF035951、(11)NM_053818、(12)NM_001106847、(13)NM_133285、(14)AF367448、(15)XM_222462、(16)NM_012899、(17)NM_053983、(18)NM_001135875、(19)NM_133294、(20)NM_022539、(21)NM_022540、(22)NM_053707、(23)NM_022597、(24)NM_031008、(25)NM_012766、(26)J00750、(27)NM_022381、(28)NM_001029917、(29)NM_001013236、(30)NM_012915、(31)NM_017038、(32)AA851352、(33)NM_001107882、(34)NM_134395、(35)NM_024127、(36)NM_001105968、(37)NM_022588、(38)U10188、(39)X54467、(40)NM_001105833、(41)D14015、(42)NM_001002016、(43)D50564、(44)NM_147135、(45)D89731、(46)NM_001126270、(47)NM_024356、(48)XM_220618、(49)AF039218、(50)NM_013096、(51)NM_001106787、(52)NM_001109537、(53)U97667、(54)NM_001011904、(55)NM_012568、(56)NM_001109227、(57)NM_001105822、(58)L06040、(59)NM_031010、
のうちから選択される少なくとも1以上の生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定するステップと、
(C)(B)で得られた前記遺伝子発現レベルを対応する前記化学物質、曝露量及び曝露期間とともに遺伝子発現データとしてデータベース化するステップと、
を含むことを特徴とする照合用遺伝子発現データベース作成方法。
【請求項18】
少なくとも5個以上の前記生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定するステップを包含する請求項17記載の照合用遺伝子発現データベース作成方法。
【請求項19】
少なくとも10個以上の前記生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定するステップを包含する請求項17記載の照合用遺伝子発現データベース作成方法。
【請求項20】
少なくとも20個以上の前記生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定するステップを包含する請求項17記載の照合用遺伝子発現データベース作成方法。
【請求項21】
少なくとも50個以上の前記生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定するステップを包含する請求項17記載の照合用遺伝子発現データベース作成方法。
【請求項22】
前記生体応答遺伝子は、マウス、ラット、イヌ、サルまたはヒトにそれぞれ対応するホモログ、パラログまたはオーソログであることを特徴とする、請求項17ないし請求項21のいずれか1つに記載の照合用遺伝子発現データベース作成方法。
【請求項23】
前記脾臓組織または前記細胞試料は、マウス、ラット、イヌ、サルまたはヒト由来であることを特徴とする、請求項17ないし請求項22のうちのいずれか1つに記載の照合用遺伝子発現データベース作成方法。
【請求項24】
遺伝子発現レベルの測定は、RT-PCR法、iAFLP(introduced Amplified Fragment Length Polymorphism)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、nCounter Analysis system、ハイブリダイゼーション法のうちの1つを用いることを特徴とする、請求項17ないし請求項22のうちのいずれか1つに記載の照合用遺伝子発現データベース作成方法。
【請求項25】
前記ハイブリダイゼーション法は、マイクロアレイ法又はブロット法であることを特徴とする請求項24記載の照合用遺伝子発現データベースの作成方法。
【請求項26】
前記マイクロアレイ法又はブロット法に用いられるプローブは、ヌクレオチド又はタンパク質であることを特徴とする請求項25記載の照合用遺伝子発現データベースの作成方法。
【請求項27】
前記ヌクレオチドは、mRNA、cDNA、合成オリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項26記載の照合用遺伝子発現データベースの作成方法。
【請求項28】
前記ヌクレオチドは、標識化ヌクレオチドであることを特徴とする請求項26または請求項27のいずれか1つに記載の照合用遺伝子発現データベースの作成方法。
【請求項29】
前記遺伝子発現レベルの測定を前記生体応答遺伝子に対応する核酸又は前記生体応答遺伝子によってコードされるタンパク質の存在もしくは量を測定することで決定することを特徴とする、請求項17ないし請求項23のうちのいずれか1つに記載の照合用遺伝子発現データベースの作成方法。
【請求項30】
前記遺伝子発現レベルの測定を免疫学的方法によって行うことを特徴とする請求項17ないし請求項23のうちのいずれか1つに記載の照合用遺伝子発現データベースの作成方法。
【請求項31】
前記免疫学的方法は、前記生体応答遺伝子によってコードされるタンパク質又はその断片に対する特異抗体と標的タンパク質との免疫学的複合体を検出する方法であることを特徴とする請求項30記載の照合用遺伝子発現データベースの作成方法。
【請求項32】
前記特異抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、および抗体フラグメントから選択されることを特徴とする請求項31記載の照合用遺伝子発現データベースの作成方法。
【請求項33】
化学物質が生体に与える影響を遺伝子発現レベルで検出することにより被検化学物質の毒性を検出・予測する方法であって、
(A)2−ブタノンオキシム、m−キシリレンジアミン、3-シアノピリジン、2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、メタクリルアミド、スルホラン、2-イソプロポキシエタノール、ヒドラジン一水和物、4-エチルモルホリン、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、m-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、1-ナフチルアミン-4-スルホン酸ナトリウム四水和物、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、o-ジクロロベンゼン、3,4-キシリジン、N-メチルアニリン、トリレンジイソシアナート、2-(ジブチルアミノ)エタノール、p-クミルフェノール、m-クレゾール、2,3-ジメチルアニリン、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド、フタル酸ジヘプチル、テトラブロモエタン、アジピン酸ジブチル、P-エチルフェノール、ο-t-ブチルフェノールおよびp-(1,1,3,3,-テトラメチルブチル)フェノールのそれぞれについて所定量を一定期間生体または脾臓由来の細胞試料に投与(曝露)するステップと、
(B)前記生体由来の脾臓組織または前記脾臓由来の前記細胞試料からmRNAを単離して、下記のGenBank登録番号で塩基配列が特定される生体応答遺伝子群:
(1)NM_053592、(2)U64030、(3)Y00350、(4)M22642、(5)NM_001107529、(6)NM_017169、(7)NM_001007742、(8)NM_001037095、(9)AW434086、(10)AF035951、(11)NM_053818、(12)NM_001106847、(13)NM_133285、(14)AF367448、(15)XM_222462、(16)NM_012899、(17)NM_053983、(18)NM_001135875、(19)NM_133294、(20)NM_022539、(21)NM_022540、(22)NM_053707、(23)NM_022597、(24)NM_031008、(25)NM_012766、(26)J00750、(27)NM_022381、(28)NM_001029917、(29)NM_001013236、(30)NM_012915、(31)NM_017038、(32)AA851352、(33)NM_001107882、(34)NM_134395、(35)NM_024127、(36)NM_001105968、(37)NM_022588、(38)U10188、(39)X54467、(40)NM_001105833、(41)D14015、(42)NM_001002016、(43)D50564、(44)NM_147135、(45)D89731、(46)NM_001126270、(47)NM_024356、(48)XM_220618、(49)AF039218、(50)NM_013096、(51)NM_001106787、(52)NM_001109537、(53)U97667、(54)NM_001011904、(55)NM_012568、(56)NM_001109227、(57)NM_001105822、(58)L06040、(59)NM_031010、
のうちから少なくとも1以上の生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定するステップと、
(C)(B)で得られた前記遺伝子発現レベルを対応する前記化学物質、曝露量、曝露期間とともに遺伝子発現データとして収集するステップと、
(D)被検化学物質を適当な濃度で一定期間生体または脾臓由来の細胞試料に曝露させるステップと、
(E)前記生体由来の前記脾臓組織または前記脾臓由来の細胞試料からmRNAを単離して、(B)のステップで選択した生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定するステップと、
(F)(E)で得られた前記遺伝子発現レベルを前記被検化学物質、曝露量及び曝露期間とともに遺伝子発現データとして収集するステップと、
(G)(F)で収集された遺伝子発現データを(C)で収集された照合用の対応する遺伝子発現データと比較するステップと、
を含むことを特徴とする化学物質の毒性検出・予測方法。
【請求項34】
請求項33記載の(B)および(E)において選択される生体応答遺伝子は、少なくとも5個以上であることを特徴とする、請求項33記載の化学物質の毒性検出・予測方法。
【請求項35】
請求項33記載の(B)および(E)において選択される生体応答遺伝子は、少なくとも10個以上であることを特徴とする、請求項33記載の化学物質の毒性検出・予測方法。
【請求項36】
請求項33記載の(B)および(E)において選択される生体応答遺伝子は、少なくとも20個以上であることを特徴とする、請求項33記載の化学物質の毒性検出・予測方法。
【請求項37】
請求項33記載の(B)および(E)において選択される生体応答遺伝子は、少なくとも50個以上であることを特徴とする、請求項33記載の化学物質の毒性検出・予測方法。
【請求項38】
前記生体応答遺伝子は、マウス、ラット、イヌ、サルまたはヒトにそれぞれ対応するホモログ、パラログまたはオーソログであることを特徴とする、請求項33ないし請求項37のいずれか1つに記載の照合用遺伝子発現データベース作成方法
【請求項39】
前記脾臓組織または前記細胞試料は、マウス、ラット、イヌ、サルまたはヒト由来であることを特徴とする、請求項33ないし請求項38のうちの1つに記載の化学物質の毒性検出・予測方法。
【請求項40】
遺伝子発現レベルの測定は、RT-PCR法、iAFLP(introduced Amplified Fragment Length Polymorphism)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、nCounter Analysis system、ハイブリダイゼーション法のうちの1つを用いることを特徴とする、請求項33ないし請求項39のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性検出・予測方法。
【請求項41】
前記ハイブリダイゼーション法は、マイクロアレイ法又はブロット法であることを特徴とする請求項40記載の化学物質の毒性検出・予測方法。
【請求項42】
前記マイクロアレイ法又はブロット法に用いられるプローブは、ヌクレオチド又はタンパク質であることを特徴とする請求項41記載の化学物質の毒性検出・予測方法。
【請求項43】
前記ヌクレオチドは、mRNA、cDNA、合成オリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項42記載の化学物質の毒性検出・予測方法。
【請求項44】
前記ヌクレオチドは、標識化ヌクレオチドであることを特徴とする請求項42または請求項43記載の化学物質の毒性検出・予測方法。
【請求項45】
前記遺伝子発現レベルの測定を前記生体応答遺伝子に対応する核酸又は前記生体応答遺伝子によってコードされるタンパク質の存在もしくは量を測定することで決定することを特徴とする請求項33ないし請求項39のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性検出・予測方法。
【請求項46】
前記遺伝子発現レベルの測定を免疫学的方法によって行うことを特徴とする請求項33ないし請求項39のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性検出・予測方法。
【請求項47】
前記免疫学的方法は、前記生体応答遺伝子によってコードされるタンパク質又はその断片に対する特異抗体と標的タンパク質との免疫学的複合体を検出する方法であることを特徴とする請求項46記載の化学物質の毒性の検出・予測方法。
【請求項48】
前記特異抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、および抗体フラグメントから選択されることを特徴とする請求項47記載の化学物質の毒性の検出・予測方法。
【請求項49】
請求項1ないし請求項48のうちのいずれか1つに記載の方法に用いられるプローブを含むキットであって、該プローブが、前記生体応答遺伝子またはその転写産物に特異的にハイブリダイズする配列を有する分子を含むことを特徴とする化学物質の毒性検出キット。
【請求項50】
前記プローブは、ヌクレオチド又はタンパク質であることを特徴とする請求項49記載の化学物質の毒性検出キット。
【請求項51】
前記ヌクレオチドは、mRNA、cDNA、合成オリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項50記載の化学物質の毒性検出キット。
【請求項52】
前記ヌクレオチドは、前記生体応答遺伝子のセンス鎖又はアンチセンス鎖とハイブリダイズし、10〜100merであることを特徴とする請求項50または請求項51記載の化学物質の毒性検出キット。
【請求項53】
前記ヌクレオチドは、標識化ヌクレオチドであることを特徴とする請求項50ないし請求項52のうちいずれか1つに記載の化学物質の毒性検出キット。
【請求項54】
前記プローブは、抗体及び/又はアプタマーであるタンパク質であることを特徴とする請求項49または請求項50記載の化学物質の毒性検出キット。
【請求項55】
前記プローブは、少なくとも1つ以上を固体支持体に固定したDNAマイクロアレイ、DNAチップ、タンパクチップまたは抗体チップを含むことを特徴とする請求項49ないし請求項54のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性検出キット。
【請求項56】
前記固体支持体は、ガラス、シリコン、プラスチック又は生体膜であることを特徴とする請求項55記載の化学物質の毒性検出キット。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−177143(P2011−177143A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46953(P2010−46953)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構「高機能簡易型有害性評価手法の開発/28日間反復投与試験結果と相関する遺伝子発現データセットの開発」にかかる業務委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(509088653)株式会社メディクローム (19)
【Fターム(参考)】