説明

化粧シート、木質板およびその製造方法

【課題】抗アレルゲン性能を安定に発揮させることができ、抗アレルゲン剤の使用量を低減することで低コスト化を図ることができ、木質板の生産性も向上できる化粧シート、木質板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の化粧シート1は、抗アレルゲン剤2を含有する硬化性樹脂塗膜3を表面に有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シート、木質板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国では3人に1人がアトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎等のアレルギー疾患を患っていると言われている。アレルギー疾患の原因としては、ダニ、花粉、カビ、ペットの毛等が挙げられる。
【0003】
特に、室内から検出されるダニの70%以上を占めるチリダニのアレルゲン(以下「ダニアレルゲン」という。)が問題となっている。このチリダニは、虫体、死骸、抜け殻、フン等の全てがアレルゲンになると言われている。中でもフン由来のダニアレルゲンはアレルゲン活性が高く、しかも非常に小さく舞い上がり易いため人体に接触することが多いことから、最も問題とされている。
【0004】
一般に、室内のフローリング床はカーペットや畳に比べて、ダニアレルゲンはほとんど存在しないと考えられている。しかし近年、フローリング床においても厚生労働省が示すガイドラインを大きく上回るダニアレルゲンが存在することが報告されている。また、フローリング床に存在するダニアレルゲンは、非常に舞い上がり易いことから、微量でもダニで汚染されたカーペットと同じぐらい人体にとって危険であることが報告されており、フローリング床からアレルゲン粒子を除去することは、アレルギー疾患予防に大変有効である。
【0005】
また、室内の壁面にも、非常に小さく舞い易いダニアレルゲンやペット由来のアレルゲン物質が付着しており、掃除時等に非常に舞い上がり易いことから問題視されている。
【0006】
フローリング床や壁面に集積、付着したダニアレルゲンを低減、駆除する方法としては、掃除機やモップ等でダニアレルゲンを除去する方法が挙げられる。しかし、ダニアレルゲンは非常に小さくかつ舞い上がり易いため、完全に除去することは事実上不可能であった。
【0007】
一方、室内に存在するアレルゲンを抑制する方法として、建築材料にジルコニウム塩等の抗アレルゲン剤を塗布する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0008】
また、室内のフローリング床に存在するアレルゲンを抑制する方法として、抗アレルゲン剤を含有する床用艶出し剤を塗布する方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法によれば、抗アレルゲン剤を含有する床用艶出し剤を定期的に塗布することでアレルゲンを抑制することができる。
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、床用艶出し剤自体の耐摩耗性、耐薬品性、耐アルカリ性に乏しく、ペットのし尿、アルコール、酢等の調味料、洗剤、漂白剤等が付着した場合、容易に剥離、溶出、白化現象等を起こしてしまい、必ずしもアレルゲン抑制に対する十分な対策とは成り得なかった。
【0010】
この問題点を解決するために、抗アレルゲン剤としてフェノール性水酸基を有する非水溶性高分子を用いて、これを含有する紫外線、電子線等の活性エネルギー線による硬化性樹脂組成物を木質基材に塗布し硬化することにより、抗アレルゲン剤を含有する硬化性樹脂塗膜を表面に形成した床材が提案されている(特許文献3)。この床材によれば、抗アレルゲン剤を含有する硬化性樹脂塗膜に耐磨耗性や耐薬品性等の耐久性を付与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−212806号公報
【特許文献2】特開2001−214130号公報
【特許文献3】特開2008−239721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献3に記載の技術では、抗アレルゲン剤を含有する硬化性樹脂塗膜を、厚みが比較的不均一な木質基材に形成している。そのため、硬化性樹脂塗膜の厚みが安定せず、抗アレルゲン性能も安定に発揮させることができない場合があった。また、木質基材の厚みが比較的不均一であるため、硬化性樹脂塗膜の厚みを比較的大きくする必要があり、そのため使用する抗アレルゲン剤の量を多くせざるを得ず、コスト面での制約があった。
【0013】
また、通常の床材のような平面形状ではなく、曲面や3次元形状等に加工された木質基材に抗アレルゲン剤を含有する硬化性樹脂組成物を塗布すると、硬化性樹脂組成物の塗布ムラが発生する場合や、塗布作業が煩雑になる場合があった。さらに、木質基材の曲面や3次元形状等に起因して活性エネルギー線の照射時に陰になる部分が生じ、この部分において硬化不良を生じる場合があった。
【0014】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、抗アレルゲン性能を安定に発揮させることができ、抗アレルゲン剤の使用量を低減することで低コスト化を図ることができ、木質板の生産性も向上できる化粧シート、木質板およびその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0016】
第1に、本発明の化粧シートは、抗アレルゲン剤を含有する硬化性樹脂塗膜を表面に有することを特徴とする。
【0017】
第2に、上記第1の化粧シートにおいて、抗アレルゲン剤を含有する硬化性樹脂塗膜は、硬化性樹脂として活性エネルギー線硬化型樹脂を用いたものであることを特徴とする。
【0018】
第3に、本発明の木質板は、上記第1または第2の化粧シートを木質基材に貼着したものであることを特徴とする。
【0019】
第4に、本発明の木質板の製造方法は、抗アレルゲン剤を含有する硬化性樹脂組成物を化粧シートに塗布し硬化することにより、抗アレルゲン剤を含有する硬化性樹脂塗膜を表面に有する化粧シートを得る工程と、抗アレルゲン剤を含有する硬化性樹脂塗膜を外側にして化粧シートを木質基材に貼着する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
上記第1の発明によれば、化粧シートは厚みが均一であるため、抗アレルゲン剤を含有する硬化性樹脂組成物を厚みの均一な化粧シートに塗布して硬化性樹脂塗膜を形成することで、硬化性樹脂塗膜の厚みが安定し、抗アレルゲン性能も安定に発揮させることができる。また、化粧シートは厚みが均一であるため、硬化性樹脂塗膜の厚みを小さくすることができる。そのため、硬化性樹脂塗膜に含有する抗アレルゲン剤が少量であっても抗アレルゲン剤は硬化性樹脂塗膜の表面に露出し、抗アレルゲン性能を安定に発揮させることができる。従って、抗アレルゲン剤の使用量を低減することができ、低コスト化を図ることができる。
【0021】
上記第2の発明によれば、硬化性樹脂として活性エネルギー線硬化型樹脂を用いることで、上記第1の発明の効果に加え、短時間で容易に耐久性を有する硬化性樹脂塗膜で被覆された化粧シートを得ることができる。
【0022】
上記第3および第4の発明によれば、抗アレルゲン剤を含有する硬化性樹脂塗膜を表面に形成した化粧シートを用いて、これを木質基材に貼着しているので、木質板の生産性が向上する。すなわち、曲面や3次元形状等に加工された木質基材に化粧シートを貼着してから抗アレルゲン剤を含有する硬化性樹脂組成物を塗布、硬化して硬化性樹脂塗膜を形成する場合に比べて、硬化性樹脂組成物の塗布ムラの発生を抑制でき、塗布作業も容易になる。また、硬化性樹脂として活性エネルギー線硬化型樹脂を用いた場合、曲面や3次元形状等に加工された木質基材に化粧シートを貼着してから抗アレルゲン剤を含有する硬化性樹脂組成物を塗布すると、木質基材の曲面や3次元形状等に起因して活性エネルギー線の照射時に陰になる部分が生じ、この部分において硬化不良を生じる場合がある。しかし、抗アレルゲン剤を含有する硬化性樹脂組成物を予め化粧シートに塗布、硬化して硬化性樹脂塗膜を形成しておくことで、このような硬化不良を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の化粧シートの実施形態を示す拡大断面図である。
【図2】本発明の木質板の実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の木質板の別の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0025】
図1は、本発明の化粧シートの実施形態を示す拡大断面図である。
【0026】
同図に示すように、本実施形態の化粧シート1は、抗アレルゲン剤2を含有する硬化性樹脂塗膜3を表面に有している。
【0027】
化粧シート1としては、例えば、木目柄、抽象柄等の柄が印刷等により形成されたシートを用いることができる。化粧シート1の材質としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、アクリル等の樹脂材、紙材等が挙げられる。化粧シート1は、これらの材質のうち1種の単層構成であってもよく、2種以上の複層構成であってもよい。
【0028】
化粧シート1の表面の硬化性樹脂塗膜3に含有される抗アレルゲン剤2としては、例えば、無機担体に担持したアニオン系界面活性剤、無機担体に担持した水酸基を有する化合物または高分子、無機担体に担持した金属塩等が挙げられる。また、抗アレルゲン剤2としてフェノール性水酸基を有する非水溶性高分子を用いることもできる。
【0029】
抗アレルゲン剤2としてのアニオン系界面活性剤としては、例えば、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルジフェニルエーテルスルホン酸ジナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、塩化ヘキサデシルピリジニウム、臭化ヘキサデシルピリジニウム、臭化オクタデシルピリジニウム、臭化ドデシルピコリニウム、塩化ドデシルピリジニウム、塩化ベンジルピリジニウム、塩化ブチルピリジニウム、アンモニウム塩、トリエタノールアミンやオクタデシルトリメチルアミン等のアミン、アミン塩等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
抗アレルゲン剤2としての水酸基を有する化合物または高分子としては、例えば、没食子酸、ポリビニルアルコール、ポリ(4−ビニルフェノール)、ポリチロシン、リグノフェノール誘導体、セルロース、スターチ、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、イヌリン、キトサン、クラスターデキストリン、グアーガム、タンニン酸、カテキン、キチン、キトサン、植物抽出物等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
抗アレルゲン剤2としての金属塩としては、例えば、銅、亜鉛、ジルコニウム、錫、鉛、アルミニウム等の2〜4価の金属の硫酸塩、酢酸塩、リン酸塩や、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム等のアルカリ金属の炭酸塩、およびこれらを含む複塩等を挙げることができ、例えば、硫酸亜鉛、明礬、酢酸鉛等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
上記した抗アレルゲン剤2としてのアニオン系界面活性剤、水酸基を有する化合物または高分子、および金属塩としては、着色レベルが低く、素地の外観を損ねることがなく、市販され容易に入手可能であり、安全性が高いものが好ましく用いられる。そしてこれらの抗アレルゲン剤2は、無機担体に担持して無機粒子として用いられる。
【0033】
無機担体としては、従来より知られている無機担体を特に制限なく用いることができ、通常は表面積の大きいものが好ましい。具体的には、無機酸化物、すなわちAl、La、Ce、Si、Ti、Zr、Th、V、Nb、Ta、Cr等の酸化物や、これらを2種以上複合させたもの、例えば、シリカ、シリカゲル、シリカアルミナ、シリカマグネシア、シリカチタニア、アルミナチタニア、ヒドロキシアパタイト、ゼオライト、燐酸ジルコニウム、多孔質セラミックス等を用いることができ、あるいはモンモリロナイト、カオリン等の粘土鉱物や珪藻土等の天然物を用いることもできる。中でも、物理的、化学的に長期間安定なものが好ましく、特にシリカ、シリカゲル、燐酸ジルコニウム等が好ましい。
【0034】
そして無機担体としては、上記に例示したような無機担体に銀イオンまたは銅イオンを担持させたものが好ましく用いられる。
【0035】
無機担体に抗アレルゲン剤2を担持させる方法は、特に制限はなく、例えば、従来より知られている方法を用いることができる。例えば、粉末状、ペレット状等に成型した無機担体に、所望の抗アレルゲン剤2の水溶液を含浸させ、余分な水分を濾過または蒸発により除去し、乾燥した後、必要に応じて焼成することにより無機担体に抗アレルゲン剤2を担持させることができる。あるいは、無機担体のヒドロゾルまたはスラリーに所望の抗アレルゲン剤2の水溶液を加え、混練した後乾燥し、必要に応じて焼成することにより無機担体に抗アレルゲン剤2を担持させることができる。
【0036】
無機担体への抗アレルゲン剤2の担持量は、特に制限はなく、無機担体や抗アレルゲン剤2の種類によって異なるが、余り多過ぎると無機担体の長期安定性が発揮されず、少な過ぎると抗アレルゲン剤2の性能が発揮されない。無機担体への抗アレルゲン剤2の担持量は、通常は無機担体に対して0.1〜80質量%、好ましくは1〜60質量%の範囲内である。
【0037】
抗アレルゲン剤2としてのフェノール性水酸基を有する非水溶性高分子は、そのフェノール性水酸基によりアレルゲン物質を吸着捕捉し、そのエネルギー活性を不活化(抑制)する。また、非水溶性高分子であるため、水の存在下や高湿度条件におけるブリードや溶け出しを防止できる。抗アレルゲン剤2としてフェノール性水酸基を有する非水溶性高分子を用いる場合は、特許文献3に記載されているように無機担体に担持せずに用いることもできる。
【0038】
フェノール性水酸基を有する非水溶性高分子としては、例えば、ポリ(3,4,5−ヒドロキシ安息香酸ビニル)、ポリ(4−ビニルフェノール)等のポリビニルフェノール、ポリチロシン、ポリ(1−ビニル−5−ヒドロキシナフタレン)、ポリ(1−ビニル−6−ヒドロキシナフタレン)、ポリ(1−ビニル−5−ヒドロキシアントラセン)等が挙げられる。中でも、ポリビニルフェノールは、モノフェノールであるため着色レベルが低く、素地の外観を損ねることがなく、加工性が高く、市販品として容易に入手できる点から好ましく用いられる。
【0039】
抗アレルゲン剤2の含有量は、上記に例示したアニオン系界面活性剤、水酸基を有する化合物または高分子、金属塩、およびフェノール性水酸基を有する非水溶性高分子等のいずれの抗アレルゲン剤2を用いた場合においても、硬化性樹脂塗膜3を形成するための後述する硬化性樹脂組成物の全量に対して好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%である。当該含有量が少な過ぎると抗アレルゲン性能が十分に発揮されない場合がある。一方、当該含有量が多過ぎると硬化性樹脂塗膜3の耐久性が不十分となる場合がある。
【0040】
本発明に用いられる硬化性樹脂組成物は、架橋により樹脂を硬化させて硬化性樹脂塗膜3を形成するものである。このような硬化性樹脂組成物を用いることで、硬化性樹脂塗膜3の耐久性を向上させることができる。硬化性樹脂組成物としては、例えば、硬化性樹脂として活性エネルギー線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂等を用いたものが挙げられる。
【0041】
活性エネルギー線硬化型樹脂としては、例えば、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂等が挙げられる。
【0042】
熱硬化型樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0043】
本発明では、短時間で容易に耐久性を有する硬化性樹脂塗膜3で被覆された化粧シート1を得ることができる点から、活性エネルギー線硬化型樹脂が好ましく用いられる。
【0044】
以下、活性エネルギー線硬化型樹脂を用いた硬化性樹脂組成物について説明する。この硬化性樹脂組成物は、抗アレルゲン剤2(以下、抗アレルゲン剤2を前述の無機担体に担持した無機粒子も含むものとして「抗アレルゲン剤2」と記述する。)と共に、活性エネルギー線硬化型樹脂として反応性オリゴマーおよび反応性モノマーから選ばれる少なくとも1種を含有する。
【0045】
上記の反応性オリゴマーは、これを硬化性樹脂組成物に配合することで、耐汚染性や耐擦傷性等の塗膜強度を向上させることができる。反応性オリゴマーは、好ましくは1分子中に2個以上のアクリロイル基またはメタクリロイル基を有する光硬化性(メタ)アクリレートモノマーを重合して得られる樹脂である。反応性オリゴマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリブタジエン(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、アクリル酸エステル共重合体の側鎖にアクリロイル基またはメタクリロイル基を導入した共重合系(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、フッ素含有オレフィンから誘導されるユニット、重合性不飽和基含有シリコーンから誘導されるユニット、または水酸基含有不飽和エーテルから誘導されるユニットを含有する共重合体であってもよい。
【0046】
上記の反応性オリゴマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。好ましくは、1分子中に3個以上のアクリロイル基を有するウレタンアクリレートまたはエステル変性されたエポキシアクリレートが用いられる。
【0047】
反応性オリゴマーの分子量(Mw)は、好ましくは500〜4000の範囲内である。分子量が小さ過ぎると、硬化性樹脂塗膜3の塗膜強度が不十分となる場合がある。分子量が大き過ぎると、硬化性樹脂組成物の粘度と、耐汚染性と、抗アレルゲン性能との良好なバランスを得ることが困難となる。
【0048】
反応性オリゴマーの配合量は、硬化性樹脂組成物全量に対して好ましくは10〜70質量%、より好ましくは20〜50質量%である。当該配合量が少な過ぎると、硬化性樹脂塗膜3の塗膜強度が不十分となる場合がある。当該配合量が多過ぎると、硬化性樹脂塗膜3が硬過ぎて脆くなる場合がある。
【0049】
上記の反応性モノマーは、反応性希釈剤や架橋剤として用いられる。反応性モノマーの具体例としては、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリロイルモルフォリン、N−ビニルホルムアミド、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、イソボニルアクリレート、3−メトキシジブチルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールアクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、グリセリントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(ヘキサ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール#400アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
上記の反応性モノマーの中でも、1〜3個の(メタ)アクリロイル基を有するTg(ガラス転移温度)100℃以上のモノマーは、これを硬化性樹脂組成物に配合することで、硬化性樹脂塗膜3の耐汚染性、耐擦傷性、耐クラック性を共に向上させることができる。このようなTg100℃以上のモノマーとしては、例えば、イソボニルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、アクリロイルモルフォリン、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
また、上記の反応性モノマーの中でも、1〜2個の(メタ)アクリロイル基を有する脂肪族炭化水素系モノマーは、これを配合することで、抗アレルゲン性能を低下することなく硬化性樹脂組成物を低粘度化することができる。
【0052】
抗アレルゲン剤2は、通常、水素結合能力の高い官能基を持つため、カルボニル基やエーテル基を有するポリマーとの間に相互作用が働く。しかし、アレルゲン物質を不活化する活性点である水素結合能力の高い官能基とポリマーとの間に水素結合による相互作用が働くと、十分な抗アレルゲン性能が発現しにくくなる場合がある。これに対して、抗アレルゲン剤2を分散可能な脂肪族炭化水素系モノマーを用いることにより、抗アレルゲン性能を低下することなく硬化性樹脂組成物を低粘度化することができる。
【0053】
脂肪族炭化水素系モノマーとしては、例えば、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート、グリセリントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
脂肪族炭化水素系モノマーの配合量は、抗アレルゲン性能を低下することなく硬化性樹脂組成物の低粘度化を実現すると共に、他の塗膜物性も確保する点からは、硬化性樹脂組成物の固形分に対して好ましくは3〜45質量%、より好ましくは5〜40質量%である。
【0055】
硬化性樹脂組成物には、抗アレルゲン剤2、反応性オリゴマー、および反応性モノマーに加えて、本発明の効果を損なわない範囲内において光重合開始剤を配合することができる。
【0056】
光重合開始剤としては、水素引き抜き型あるいは分子内開裂型のものを用いることができる。
【0057】
水素引き抜き型の光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン/アミン系、ミヒラーケトン/ベンゾフェノン系、チオキサントン/アミン系の光重合開始剤等が挙げられる。
【0058】
分子内開裂型の光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン型、アセトフェノン型、ベンゾフェノン型、チオキサントン型、アシルフォスフィンオキサイド型の光重合開始剤等が挙げられる。中でも、反応性が高いアセトフェノン型の2,2−ジメトキシー2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル〕−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、長波長まで吸収端が伸びているアシルフォスフィンオキサイド型のモノアシルフォスフィンオキサイド、ビスアシルフォスフィンオキサイドが好ましい。
【0059】
光重合開始剤の配合量は、反応性を高め、かつ塗膜物性等も損なわないようにする点からは、硬化性樹脂組成物の樹脂固形分に対して好ましくは1〜10質量%、より好ましくは3〜6質量である。
【0060】
硬化性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内において、抗アレルゲン剤2、反応性オリゴマー、反応性モノマー、および光重合開始剤以外の他の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、例えば、ワックス、抗菌剤、防黴剤、非反応性希釈剤、重合禁止剤、艶消し材、消泡剤、沈降防止剤、レベリング剤、分散剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、有機溶剤等が挙げられる。有機溶剤としては、例えば、アルコール、ケトン、エステル類、アミン等が挙げられる。中でも、アルコール、ケトン、エステル類等の電子供与性の高い溶剤は、溶解し易く好適である。
【0061】
以上に説明した活性エネルギー線硬化型樹脂や、あるいは熱硬化型樹脂等を用いた硬化性樹脂組成物を化粧シート1に塗布し、次いで硬化することで、化粧シート1に硬化性樹脂塗膜3が形成される。硬化性樹脂組成物を化粧シート1に塗布する手段としては、特に制限はないが、例えば、ロールナイフコーター、ダイコーター、リバースロールコーター等を用いることで、硬化性樹脂組成物を化粧シート1に均一に塗布することができる。
【0062】
活性エネルギー線硬化型樹脂を用いた硬化性樹脂組成物は、これを化粧シート1に塗布した後、紫外線、電子線等の活性エネルギー線を照射することにより塗膜を硬化することができる。経済的観点からは、紫外線を用いることが好ましい。例えば、高圧水銀ランプを用いた場合、照射量250〜400mJ/cm2で塗膜を硬化することができる。また、電子線を用いる場合には、例えば窒素雰囲気下、加速電圧200kV、電子線量30kGyの条件で電子線を照射し塗膜を硬化することができる。
【0063】
また、活性エネルギー線で硬化性樹脂組成物を完全に硬化させる前に、予めセミキュアーの工程を導入してもよい。
【0064】
熱硬化型樹脂を用いた硬化性樹脂組成物は、常法に従って、例えば常温または加温下にて硬化反応を進行させて塗膜を硬化することができる。
【0065】
このようにして形成される硬化性樹脂塗膜3の厚みは、好ましくは1〜50μmである。厚みが小さ過ぎると硬化性樹脂組成物を安定に塗布することが困難になる場合がある。一方、厚みが大き過ぎると化粧シート1を後述する図2、図3に示す木質基材4にラッピング加工する際に塗膜割れを起こす場合があり、また抗アレルゲン剤2の使用量が多くなり低コスト化が難しくなる場合がある。
【0066】
本実施形態の化粧シート1によれば、抗アレルゲン剤2を含有する硬化性樹脂組成物を厚みの均一な化粧シート1に塗布して硬化性樹脂塗膜3を形成することで、硬化性樹脂塗膜3の厚みが安定し、抗アレルゲン性能も安定に発揮させることができる。また、化粧シート1は厚みが均一であるため、硬化性樹脂塗膜3の厚みを小さくすることができる。そのため、硬化性樹脂塗膜3に含有する抗アレルゲン剤2が少量であっても抗アレルゲン剤2は硬化性樹脂塗膜3の表面に露出し、抗アレルゲン性能を安定に発揮させることができる。従って、抗アレルゲン剤2の使用量を低減することができ、低コスト化を図ることができる。
【0067】
図2は、本発明の木質板の実施形態を示す断面図である。同図に示す木質板5は、前述の実施形態の化粧シート1を、抗アレルゲン剤2を含有する硬化性樹脂塗膜3を外側にして木質基材4に貼着することにより得たものである。
【0068】
木質基材4としては、例えば、MDF(中密度繊維板)、合板等が挙げられる。
【0069】
化粧シート1を木質基材4に貼着する際には、例えば、木質基材4の形状に応じて、ラミネーター、ラッピングマシン、真空成形機等により化粧シート1を木質基材4に積層し接着剤により貼着する。積層時に用いる接着剤としては、例えば、反応型ホットメルト接着剤、溶剤希釈型接着剤、水性の2液ウレタン系接着剤等が挙げられる。
【0070】
このようにして得られる木質板5は、単独で、あるいは複数枚を組み合わせて、フローリング床等の床材、建具、造作材、室内の壁材、階段、框、ドア、カウンター、家具の側面板および前面板等として用いることができる。
【0071】
図3は、本発明の木質板の別の実施形態を示す断面図である。同図に示すように、本実施形態では木質基材4として曲面を有し3次元形状に加工されたものを用いている。そして木質板5は、前述の実施形態と同様に、化粧シート1を、抗アレルゲン剤2を含有する硬化性樹脂塗膜3を外側にして木質基材4に貼着することにより得たものである。
【0072】
本実施形態によれば、曲面を有し3次元形状に加工された木質基材4に化粧シート1を貼着してから抗アレルゲン剤2を含有する硬化性樹脂組成物を塗布、硬化して硬化性樹脂塗膜3を形成する場合に比べて、硬化性樹脂組成物の塗布ムラの発生を抑制でき、塗布作業も容易になる。
【0073】
また、硬化性樹脂として活性エネルギー線硬化型樹脂を用いた場合、曲面を有し3次元形状に加工された木質基材4に化粧シート1を貼着してから抗アレルゲン剤2を含有する硬化性樹脂組成物を塗布すると、木質基材4の曲面や3次元形状に起因して活性エネルギー線の照射時に陰になる部分が生じ、この部分において硬化不良を生じる場合がある。しかし本実施形態では、抗アレルゲン剤2を含有する硬化性樹脂組成物を予め化粧シート1に塗布、硬化して硬化性樹脂塗膜3を形成しているので、このような硬化不良を防止できる。
【0074】
以上に、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において各種の変更が可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 化粧シート
2 抗アレルゲン剤
3 硬化性樹脂塗膜
4 木質基材
5 木質板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗アレルゲン剤を含有する硬化性樹脂塗膜を表面に有することを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
抗アレルゲン剤を含有する硬化性樹脂塗膜は、硬化性樹脂として活性エネルギー線硬化型樹脂を用いたものであることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化粧シートを木質基材に貼着したものであることを特徴とする木質板。
【請求項4】
抗アレルゲン剤を含有する硬化性樹脂組成物を化粧シートに塗布し硬化することにより、抗アレルゲン剤を含有する硬化性樹脂塗膜を表面に有する化粧シートを得る工程と、抗アレルゲン剤を含有する硬化性樹脂塗膜を外側にして化粧シートを木質基材に貼着する工程とを含むことを特徴とする木質板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−194763(P2010−194763A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39945(P2009−39945)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】