説明

化粧シート貼り無機質板の製造方法

【課題】 少ない製造工数で化粧シートを貼付けることができる化粧シート貼り無機質板の製造方法を提供する。
【解決手段】 セメントと、水と、スチレンとメチルメタクリレートのうち少なくとも一方を含む油性物質とを主成分とするセメント含有逆エマルジョン組成物からなるセメント系成形材料を板状に成形する。芳香族化合物を主成分とする材質の化粧シート2をこの板状成形体1の表面に張り付けた状態で、板状成形体1を養生・硬化させる。板状成形体1を養生する際に、セメント系成形材料中のスチレンやメチルメタクリレートが芳香族化合物を主成分とする材質の化粧シート2に作用し、板状成形体1の養生・硬化と同時に化粧シート2を接着して貼り付けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁板など建材として使用される化粧シート貼り無機質板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
壁板などの外装建材は耐透水性が必要とされるが、セメント系の無機質板は一般に耐透水性が十分に高いとはいえない。そこで従来からセメント系無機質板の耐透水性を高めることが検討されており、セメントと水と油性物質を主成分とするセメント含有逆エマルジョン組成物からなるセメント系成形材料を成形することによって、耐透水性に優れたセメント系無機質板を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
そして壁板等の建材として使用される無機質板の表面には、化粧印刷等を施した化粧シートを貼り付けることが行なわれている。無機質板の表面に化粧シートを貼り付けるにあたっては、セメント系成形材料を板状に成形し、この板状成形体を養生・硬化させて無機質板を作製した後に、無機質板の表面に化粧シートを接着することによって行なうのが一般的である。
【特許文献1】特開2003−252670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のように硬化後の無機質板の表面に化粧シートを接着する場合、養生・硬化した無機質板の表面は荒れているので、無機質板の表面を研磨等して平滑化した後に、無機質板の表面に接着剤を塗布し、ラミネーターを用いて化粧シートを張るようにしている。
【0005】
従って、無機質板の表面を研磨する工程や、接着剤を塗布する工程が必要となり、製造に手間がかかると共にコストアップになるという問題を有するものであった。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、少ない製造工数で化粧シートを貼付けることができる化粧シート貼り無機質板の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る化粧シート貼り無機質板の製造方法は、セメントと、水と、スチレンとメチルメタクリレートのうち少なくとも一方を含む油性物質とを主成分とするセメント含有逆エマルジョン組成物からなるセメント系成形材料を板状に成形し、芳香族化合物を主成分とする材質の化粧シート2をこの板状成形体1の表面に張り付けた状態で、この板状成形体1を養生・硬化させることを特徴とするものである。
【0008】
セメント系成形材料を成形した板状成形体1を養生する際に、セメント系成形材料中のスチレンやメチルメタクリレートが芳香族化合物を主成分とする材質の化粧シート2に作用し、板状成形体1の養生・硬化と同時に化粧シート2を接着して貼り付けることができる。
【0009】
また請求項2の発明は、請求項1において、化粧シート2の表面に耐候性の保護層3が形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
芳香族化合物を主成分とする材質の化粧シート2が耐候性に問題があっても、耐候性の保護層3によって化粧シート2を保護することができ、無機質板を外壁板などとして良好に使用することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セメント系成形材料を成形した板状成形体1を養生する際に、セメント系成形材料中のスチレンやメチルメタクリレートが芳香族化合物を主成分とする材質の化粧シート2に作用し、板状成形体1の養生・硬化と同時に化粧シート2を接着して貼り付けることができるものであり、無機質板の表面を研磨する工程や、接着剤を塗布する工程などが必要となって、少ない製造工数で化粧シートの貼付けを行なうことができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0013】
本発明において使用されるセメント系成形材料は、セメントと水と油性物質を主成分とするセメント含有逆エマルジョン組成物からなるものである。
【0014】
セメントとしては、特に制限されるものではないが、ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメント、ハイアルミナセメント、シリカヒュームなどを挙げることができるものであり、これらを一種単独で用いたり、二種以上を併用したりすることができる。セメントの配合量は、セメント含有逆エマルジョン組成物の水以外の材料中、65〜75質量%の範囲に設定するのが好ましい。
【0015】
油性物質は水と逆エマルジョン(W/Oエマルジョン)を形成するためのものであり、疎水性の液状物質が用いられる。そして油状物質として本発明ではスチレンとメチルメタクリレートの少なくとも一方を用いるものである。スチレンとメチルメタクリレートは単独で用いるようにしてもよく、あるいは両者を混合して用いることもできる。さらに、スチレンやメチルメタクリレートの他に、例えばトルエン、キシレン、灯油、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和ポリエステル樹脂等を併用することもできる。油性物質の配合量は、セメント含有逆エマルジョン組成物の水以外の材料中、4.5〜6.0質量%の範囲に設定するのが好ましい。
【0016】
セメント含有逆エマルジョン組成物には上記の成分の他に、乳化剤を配合することが好ましい。乳化剤は逆エマルジョンに安定性を付与するために配合されるものであり、例えばソルビタンセスキオール、グリセロールモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ジエチレングリコールモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセロールモノオレート等の非イオン界面活性剤、各種アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等を用いることができる。乳化剤の配合量は、セメント含有逆エマルジョン組成物の水以外の材料中、1.5〜2.0質量%の範囲に設定するのが好ましい。
【0017】
セメント含有逆エマルジョン組成物中にはさらに、適宜量の補強材や、架橋剤、重合開始剤、顔料など各種添加剤を配合することができる。補強材としては、例えば砂利、パーライト、シラスバルーン、ガラス粉、アルミナシリケートなどの骨材、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維等の合成繊維や、炭素繊維、ガラス繊維、パルプなどの補強繊維を挙げることができる。
【0018】
次に、上記のセメント含有逆エマルジョン組成物をセメント系成形材料として用いて無機質板Aを製造する方法について説明する。まずセメント系成形材料を板状に成形して板状成形体1を作製する。板状成形体1の成形は、上下の型間にセメント系成形材料を供給して、プレスすることによって行なうことができる。そして板状成形体1の表側となる表面に図1(a)のように化粧シート2を重ねる。
【0019】
この化粧シート2としては、芳香族化合物を主成分とする材質のシートを用いることができるものである。例えば、スチレンの重合体であるポリスチレンのシートや、発泡ポリスチレンのシート、フェノールの重合体であるフェノール樹脂を紙や布等の基材に含浸・硬化したシート、全炭素成分のうち約40%が芳香族環に由来するアスファルトを布や紙等の基材に含浸したアスファルトシートなどを用いることができる。化粧シート2の表面側には必要に応じて化粧印刷等が施してある。
【0020】
次に、上記のように板状成形体1の表面に化粧シート2を重ねた状態で、図1(b)のようにプレス盤6で加圧して、板状成形体1の表面に化粧シート2を圧着させて張り合わせる。板状成形体1は水を含んでいて表面が濡れた状態になっているので、化粧シート2は板状成形体1の表面に密着する。またプレスによって、板状成形体1に化粧シート2を張り合わせると同時に、板状成形体1の表面を平滑な面に成形することもできるものである。このプレスは図1(b)のようにプレス盤6で行なう他に、ロール等を用いて行なうようにしてもよい。プレス圧は、面圧、線圧のいずれにおいても0.2MPa(2kg/cm)程度が好ましい。
【0021】
このように板状成形体1の表面に化粧シート2を張り合わせた状態で、板状成形体1を養生して硬化させる。養生の条件は特に制限されるものではないが、温度は室温〜90℃の範囲、時間は3〜24時間の範囲に設定するのが好ましい。このように養生を行なうと、板状成形体1を構成するセメント系成形材料中のスチレンやメチルメタクリレートの一部が板状成形体1の表面において化粧シート2に作用する。化粧シート2は芳香族化合物を主成分とする材質であるので、化粧シート2の板状成形体1に接触する背面がスチレンやメチルメタクリレートに若干溶かされるなどし、化粧シート2が板状成形体1の表面に溶着等されて接着する。
【0022】
このように、板状成形体1を養生硬化させる際に、同時に化粧シート2を接着することができるものであり、図1(c)のように、板状成形体1を養生・硬化して作製される無機質板Aの表面に化粧シート2を貼り付けた、化粧シート貼り無機質板Aを得ることができるものである。ちなみに、化粧シートとしてポリプロピレンシートや紙などを用いた場合、これらは無機質板Aには全く付着しない。
【0023】
図2は本発明の他の実施の形態を示すものであり、化粧シート2の外面側の表面に耐候性を有する保護層3が積層してある。この耐候性を有する保護層3は化粧シート2の材質より耐候性が高い材料で形成されるものであり、例えばアクリル樹脂、フッ素樹脂、アクリルシリコン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂などで形成することができる。特にアクリル樹脂、フッ素樹脂で保護層3を形成するのが好ましい。このように表面側に保護層3を一体に設けた化粧シート2を用いて、上記と同様にして化粧シート張り無機質板Aを製造することによって、外壁など耐候性が要求される用途の建材として使用することができるものである。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0025】
(実施例1)
セメント系成形材料として、セメント70質量部、油性物質(スチレン)4.5質量部、軽量骨材(パーライト)18.5質量部、ポリプロピレン繊維1.2質量部、乳化剤(ソルビタンモノオレート)1.5質量部、架橋剤(トリメチロールプロパントリメタクリレート)0.05質量部、重合開始剤(t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート)0.1質量部、顔料(ベンガラ)4.05質量部、水43質量部の配合からなるセメント含有逆エマルジョン組成物を用いた。
【0026】
また化粧シート2としてポリスチレンシート(大日本インキ(株)製「ディックシート」)を用いた。
【0027】
そして上記のセメント成形材料を板状に成形し(図1(a)参照)、板状成形体1の表面側に化粧シート2を重ね、これをプレス盤6で0.2MPaの面圧で加圧した(図1(b)参照)。次に、60℃で24時間、板状成形体1を養生して硬化させることによって、化粧シート貼り無機質板Aを得た(図1(c)参照)。
【0028】
(実施例2)
化粧シート2としてアスファルト含浸シート(日新工業(株)製「マルエスシングル」)を用いるようにした他は、実施例1と同様にして化粧シート貼り無機質板Aを得た。
【0029】
(比較例)
化粧シートとしてポリプロピレンシート(宇部日東化成(株)製「PPマルチ」)を用いるようにした他は、実施例1と同様にした。
【0030】
上記の実施例1及び実施例2で得た化粧シート貼り無機質板Aについて、化粧シート2の剥離試験を行なったところ、化粧シート2と無機質板Aの界面では剥離が生じず、無機質板Aに破壊が生じた。一方、比較例のものでは、化粧シートは無機質板Aに全く付着していなかった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示すものであり、(a),(b),(c)はそれぞれ断面図である。
【図2】本発明の他の実施の形態の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 板状成形体
2 化粧シート
3 耐候性保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、水と、スチレンとメチルメタクリレートのうち少なくとも一方を含む油性物質とを主成分とするセメント含有逆エマルジョン組成物からなるセメント系成形材料を板状に成形し、芳香族化合物を主成分とする材質の化粧シートをこの板状成形体の表面に張り付けた状態で、この板状成形体を養生・硬化させることを特徴とする化粧シート貼り無機質板の製造方法。
【請求項2】
化粧シートの表面に耐候性の保護層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート貼り無機質板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−150825(P2006−150825A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346654(P2004−346654)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(503367376)クボタ松下電工外装株式会社 (467)
【Fターム(参考)】