説明

化粧料の製造方法及び化粧料

【課題】一回の抽出処理のみで植物に由来する生理活性成分と天然香料とを化粧料に配合することのできる化粧料の製造方法、及び当該方法により製造される化粧料を提供する。
【解決手段】本発明の化粧料の製造方法は、少なくとも植物からの抽出物を含有する化粧料を製造する方法であって、液体状の化粧料基材を抽出溶媒として用い、抽出原料としての植物の抽出処理を行う。これにより、一回の抽出処理のみで植物に由来する生理活性成分と天然香料とを化粧料に配合することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料の製造方法、及び当該方法により製造される化粧料に関し、特に植物からの抽出物を含有する化粧料の製造方法及び当該化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シャンプー、トリートメント、コンディショナー等の頭髪化粧料や、液体せっけん、浴用剤等の皮膚化粧料の開発においては、様々なストレスを軽減し、リラックス効果等を有する、天然物(植物等)に由来する香料成分や、保湿作用、老化防止作用等の各種作用を有する生理活性成分を含有させることで、上記化粧料に各種機能を付与することが行われている。
【0003】
一般に、生理活性成分を化粧料に含有させるために、所望の植物等を、エタノール等の親水性有機溶媒の水溶液を抽出溶媒として用いた抽出処理に付し、得られた抽出液から抽出溶媒を留去した上で、得られた固体状の抽出物を化粧料基材に配合する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、植物等に由来する香料成分のほとんどは、上記抽出処理工程や抽出溶媒の留去工程において揮発してしまうため、上記のように抽出物を化粧料基材に配合したとしても、リラックス効果等を発揮し得る程度に十分な香料成分を化粧料に配合することができない。
【0005】
そのため、このようなリラックス効果等を発揮し得る程度の香りを化粧料に付与することを目的として、上記抽出物とは別に精油等の天然香料を化粧料に配合する方法が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−279033号公報
【特許文献2】特開昭63−199293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、植物等に由来する成分を化粧料に配合し、植物等の有する各種機能や香りを化粧料に付与しようとする場合には、植物等から得られた抽出物と、天然香料とをともに化粧料に配合しなければならないため、化粧料の製造コストが増大してしまうという問題がある。
【0008】
上記問題点に鑑みて、本発明は、一回の抽出処理のみで植物に由来する生理活性成分と天然香料とを化粧料に配合することのできる化粧料の製造方法、及び当該方法により製造される化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、少なくとも植物からの抽出物を含有する化粧料を製造する方法であって、液体状の化粧料基材を抽出溶媒として用い、抽出原料としての前記植物の抽出処理を行うことを特徴とする化粧料の製造方法を提供する(請求項1)。
【0010】
上記発明(請求項1)によれば、液体状の化粧料基材をそのまま抽出溶媒として用い、植物についての抽出処理を行うことで、一回の抽出処理をもって化粧料中に植物に由来する生理活性成分と香料成分とをともに含有せしめることができる。
【0011】
上記発明(請求項1)においては、30〜50℃の温度条件下で前記抽出処理を行うのが好ましい(請求項2)。かかる発明(請求項2)によれば、上記温度範囲で抽出処理を行うことで、化粧料基材を構成する成分の変質等を起こすことなく、化粧料中に植物に由来する生理活性成分と香料成分とをともに含有せしめることができる。
【0012】
上記発明(請求項1,2)においては、前記化粧料基材が、少なくとも界面活性剤を含むのが好ましい(請求項3)。化粧料の多くは基材として水を含むものである一方、植物に由来する香料成分の中には、水に難溶なものも存在するため、かかる香料成分を効果的に化粧料中に溶解させることが困難となるおそれがあるが、かかる発明(請求項3)によれば、化粧料基材中に界面活性剤が含まれているため、植物から得られる香料成分を効果的に化粧料中に溶解させることができる。
【0013】
上記発明(請求項1〜3)においては、前記化粧料が、液体状の化粧料であるのが好ましい(請求項4)。化粧料が固体状であると、化粧料基材を抽出溶媒として用いて植物を抽出処理に付した後に、得られた液体状の化粧料から溶媒を留去する必要があり、その際に植物に由来する香料成分が揮発してしまうおそれがあるが、かかる発明(請求項4)によれば、化粧料が液体状であることで、植物に由来する生理活性成分と香料成分とをともに化粧料中に含有せしめることができる。
【0014】
上記発明(請求項1〜4)においては、前記抽出処理後、前記化粧料基材中の前記植物を除去するのが好ましい(請求項5)。かかる発明(請求項5)によれば、抽出処理後、化粧料基材中の植物を除去するだけで、植物に由来する生理活性成分と香料成分とをともに含有する化粧料を簡単に得ることができる。
【0015】
上記発明(請求項1〜5)においては、前記植物が、カミツレ、セージ、ラベンダー、ローズマリー及びメリッサからなる群より選択される1種又は2種以上の植物であるのが好ましい(請求項6)。
【0016】
上記発明(請求項6)によれば、嗜好性が高く、リラックス効果を奏し得る香料成分を含有する上記植物を抽出原料として用いることで、嗜好性の高い香りを有し、かつリラックス効果を奏し得る化粧料を簡単に製造することができる。
【0017】
また、本発明は、上記発明(請求項1〜6)に係る方法により製造される化粧料を提供することを目的とする(請求項7)。かかる発明(請求項7)によれば、植物に由来する生理活性成分及び香料成分をともに含有する化粧料を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、一回の抽出処理のみで植物に由来する生理活性成分と天然香料とを化粧料に配合することのできる化粧料の製造方法、及び当該方法により製造される化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る化粧料の製造方法について説明する。
本実施形態に係る化粧料の製造方法においては、抽出溶媒としての液体状の化粧料基材と、抽出原料としての植物とを用意し、化粧料基材中での植物の抽出処理を行う。
【0020】
化粧料基材としては、液体状のものである限り特に限定されるものではないが、少なくとも界面活性剤を含むものであるのが好ましい。液体状の化粧料は、その基材として水を含有するものが多い一方、植物中の香料成分の中には、水に難溶なものも存在するため、化粧料基材中に界面活性剤が含まれることで、植物中の香料成分を効果的に化粧料基材に移行させ、溶解させることができると考えられる。
【0021】
化粧料基材に含まれる界面活性剤としては、一般に化粧料に配合される界面活性剤であれば特に制限はないが、例えば、N−アシル−L−グルタミン酸ナトリウム、塩化アルキルジメチルアンモニウム、セトリモニウムクロリド、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム等の陽イオン性界面活性剤;アルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤;2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン液等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ジメチルコンコポリオール等の非イオン性界面活性剤等が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種が含まれていればよい。

☆コメント
・私の方で調べたところ、塩化アルキルジメチルアンモニウムとセトリモニウムクロリドとは、異なるものであると思われますので、併記しました。
【0022】
化粧料基材中の界面活性剤の含有量は特に限定されるものではないが、シャンプー、トリートメント、コンディショナー等の化粧料における通常の含有量であればよい。
【0023】
このような化粧料基材としては、例えば、シャンプー、リンス、トリートメント、コンディショナー等の頭髪化粧料;液体せっけん、クリーム、乳液、浴用剤等の皮膚化粧料等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、本実施形態における化粧料基材としては、市販の頭髪化粧料や皮膚化粧料を用いることができる。
【0024】
抽出原料である植物としては、所望とする生理活性成分及び香料成分を含むものであれば特に限定されるものではなく、一般に化粧料原料として用いられる植物抽出物を得るための抽出原料としての各種植物を用いることができる。
【0025】
これらの植物のうち、嗜好性が高く、リラックス効果等を奏し得る香料成分を含有する植物を抽出原料として用いるのが好ましく、例えば、カミツレ(学名:Matricaria chamomilla L.)、セージ(学名:Salvia officinalis)、ラベンダー(学名:Lavandula vera De Candlle)、ローズマリー(学名:Rosmarinus officinalis L.)、メリッサ(学名:Melissa officinalis)等を好適に用いることができる。
【0026】
抽出処理は、抽出槽内に導入された化粧料基材中に抽出原料をそのまま添加することにより行ってもよいし、抽出原料を封入した袋状のメッシュ(例えば、100メッシュ程度のメッシュ)を抽出槽内の化粧料基材中に浸漬させることにより行ってもよい。後者の方法によれば、抽出処理後、化粧料基材から抽出原料を容易に除去することができる。
【0027】
抽出原料の添加量は、抽出原料の種類に応じて適宜変更すればよいが、一般に抽出溶媒としての化粧料基材の質量に対して2.4〜6.2質量%程度であればよい。
【0028】
上記抽出処理の温度条件は、30〜50℃であるのが好ましく、38〜42℃であるのが特に好ましい。抽出処理の温度が30℃未満であると、植物中の生理活性成分及び香料成分を効果的に抽出できないおそれがあり、50℃を超えると、化粧料基材の安定性を損なったり、化粧料基材の色調を変化させてしまったりするおそれがある。
【0029】
上記抽出処理の時間は、2〜4時間であるのが好ましく、2.5〜3時間であるのがより好ましい。抽出処理時間が2時間未満であると、植物中の生理活性成分及び香料成分を効果的に抽出できないおそれがあり、4時間を超えると、化粧料基材の安定性を損なったり、化粧料基材の色調を変化させてしまったり、化粧料基材中に抽出された香料成分が揮発してしまったりするおそれがある。
【0030】
抽出処理の後、化粧料基材から抽出原料を除去する。化粧料基材から抽出原料を除去する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、メッシュ等を用いて濾別してもよいし、上述したように抽出原料を封入した袋状のメッシュを抽出槽内の化粧料基材中に浸漬させて抽出処理を行った場合には、抽出槽から袋状のメッシュを取り出すだけでよい。
【0031】
これにより、植物に由来する生理活性成分及び香料成分を含有する液体状の化粧料を得ることができる。なお、このようにして得られる化粧料を、固体状のものとして使用するのは好適ではない。なぜならば、固体状の化粧料を得るためには、液体状の化粧料から溶剤等を留去する必要があるが、その際に液体状の化粧料に含まれる、植物に由来する香料成分も揮発してしまうおそれがあるからである。
【0032】
上述したように、本実施形態に係る化粧料の製造方法によれば、化粧料基材を抽出溶媒として用いて、抽出原料である植物について一回の抽出処理を行うだけで、当該植物に由来する生理活性成分及び香料成分を化粧料中に含有せしめることができる。
【0033】
したがって、植物に由来する生理活性成分及び香料成分を化粧料中に含有せしめるために、当該植物から得られる抽出物と天然香料とを別途配合する必要がないため、本実施形態に係る化粧料の製造方法によれば、化粧料の製造コストを低減することができる。
【0034】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら制限されるものではない。
【0036】
〔実施例1〕植物抽出物含有シャンプーの製造
表1に示す組成を有するシャンプーを抽出溶媒として用意し、当該シャンプー全量(3.00kg)に対して0.01質量%のカミツレ花部及びセージ葉部、並びに上記シャンプー全量に対して0.8質量%のラベンダー花部、ローズマリー葉部及びメリッサ葉部を抽出原料として用意し、当該抽出原料を袋状のメッシュ(アドバンテック東洋社製,100メッシュ)に封入した。
【0037】
抽出原料を封入したメッシュを、シャンプー中に浸漬し、当該シャンプーの温度が38〜42℃になるように加熱しながら3時間抽出処理を行った。その後、シャンプー中に浸漬したメッシュを取り出し、メッシュからシャンプーが滴り落ちなくなるまでの間保持し、その後緩やかに攪拌し、植物抽出物を含有するシャンプーを得た(1.89kg,回収率:63%)。
【0038】
【表1】

【0039】
このようにして得られたシャンプーについて官能評価試験を行ったところ、従来の粉末状の植物抽出物を配合したシャンプーに比して、嗜好性の高い香りを有することが確認された。
【0040】
〔実施例2〕植物抽出物含有トリートメントの製造
抽出溶媒としてのシャンプーに換えて、表2に示す組成を有するトリートメントを用いた以外は実施例1と同様にして、植物抽出物を含有するトリートメントを得た(2.10kg,回収率:70%)。
【0041】
【表2】

【0042】
このようにして得られたトリートメントについて官能評価試験を行ったところ、従来の粉末状の植物抽出物を配合したトリートメントに比して、嗜好性の高い香りを有することが確認された。
【0043】
〔実施例3〕植物抽出物含有コンディショナーの製造
抽出溶媒としてのシャンプーに換えて、表3に示す組成を有するコンディショナーを用いた以外は実施例1と同様にして、植物抽出物を含有するコンディショナーを得た(1.98kg,回収率:66%)。
【0044】
【表3】

【0045】
このようにして得られたコンディショナーについて官能評価試験を行ったところ、従来の粉末状の植物抽出物を配合したコンディショナーに比して、嗜好性の高い香りを有することが確認された。
【0046】
〔実施例4〕植物抽出物含有シャンプーの製造
ラベンダー花部、ローズマリー葉部及びメリッサ葉部の抽出原料としての使用量をシャンプー全量に対してそれぞれ2.0質量%とした以外は実施例1と同様にして、植物抽出物を含有するシャンプーを得た(2.35kg,回収率:78%)。
【0047】
このようにして得られたシャンプーについて官能評価試験を行ったところ、従来の粉末状の植物抽出物を配合したシャンプーに比して、嗜好性の高い香りを有することが確認された。
【0048】
〔実施例5〕植物抽出物含有トリートメントの製造
ラベンダー花部、ローズマリー葉部及びメリッサ葉部の抽出原料としての使用量をトリートメント全量に対してそれぞれ2.0質量%とした以外は実施例2と同様にして、植物抽出物を含有するトリートメントを得た(2.40kg,回収率:80%)。
【0049】
このようにして得られたトリートメントについて官能評価試験を行ったところ、従来の粉末状の植物抽出物を配合したトリートメントに比して、嗜好性の高い香りを有することが確認された。
【0050】
〔実施例6〕植物抽出物含有コンディショナーの製造
ラベンダー花部、ローズマリー葉部及びメリッサ葉部の抽出原料としての使用量をコンディショナー全量に対してそれぞれ2.0質量%とした以外は実施例3と同様にして、植物抽出物を含有するコンディショナーを得た(2.28kg,回収率:76%)。
【0051】
このようにして得られたコンディショナーについて官能評価試験を行ったところ、従来の粉末状の植物抽出物を配合したコンディショナーに比して、嗜好性の高い香りを有することが確認された。
【0052】
上述した実施例1〜6に記載の方法のように、化粧料基材を抽出溶媒として用い、抽出原料である植物についての抽出処理を行うことで、天然香料を別途配合しなくても、得られる化粧料に植物に由来する香料成分を十分に含有せしめることが可能であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の化粧料の製造方法は、植物に由来する嗜好性の高い香りを有する化粧料の製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも植物からの抽出物を含有する化粧料を製造する方法であって、
液体状の化粧料基材を抽出溶媒として用い、抽出原料としての前記植物の抽出処理を行うことを特徴とする化粧料の製造方法。
【請求項2】
30〜50℃の温度条件下で前記抽出処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の化粧料の製造方法。
【請求項3】
前記化粧料基材が、少なくとも界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の化粧料の製造方法
【請求項4】
前記化粧料が、液体状の化粧料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の化粧料の製造方法。
【請求項5】
前記抽出処理後、前記化粧料基材中の前記植物を除去することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の化粧料の製造方法。
【請求項6】
前記植物が、カミツレ、セージ、ラベンダー、ローズマリー及びメリッサからなる群より選択される1種又は2種以上の植物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の化粧料の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法により製造される化粧料。

【公開番号】特開2011−79802(P2011−79802A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235693(P2009−235693)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】