説明

区画データ作成システム

【課題】農地区画地図を作る際における負荷を低減し、コストを削減する。
【解決手段】予め用意された画像データを入力とし、エッジデータを抽出する。エッジデータから、区画データ得る。区画整形処理を行い、区画データを更新する。さらに、区画確信度データの一部を得る。最後に、区画データと区画確信度データとを入力として区画確信度判定処理を行い、区画データと区画確信度データとに更新する。主に確信度の図形的な要素が入力されたデータに加えて、ここでは色やテクスチャ情報の分析を行い詳細化する。また、周囲の区画との並びを考慮して一部形を修正し、農地地図としてより自然なデータを作成する。区画データと区画確信度データとは、このシステムの目的とするデータであり、利用しやすい簡潔な農地区画のデータに加えて、それらを確認する時に目安となる自己判定の値が確信度として表されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、区画データ作成システムに関し、特に、衛星や航空機等を用いて高度(上空)から地表を撮影した撮影画像を解析する画像解析システムを利用して、画像から道路、河川、畦道などの土地の境界線を抽出し、主に整地された農地区画等を解析してその地区の区画データを作成する土地区画データ作成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衛星画像や航空写真等の利用が広まってきており、特に地図の作成や更新処理における広大な領域の探索作業を効率的に行うために盛んに利用されている。
【0003】
衛星画像や航空写真を利用する際の利点は、従来のように現地で測量するコストを省けること、広い範囲のデータを一度に得ることができることである。さらに、撮影の更新頻度を上げることにより、常に新しいデータを用意することも可能となる。
【0004】
衛星画像を用いて地図の作成や更新をする作業は、以前は、画像を目視することにより、地物や境界線を確認し、人手によりそれらを入力するという手法により行われていた。目視による地図作成作業は、作業者への負担が大きい上に、作業者の熟練度により作業の進み具合や結果の精度が大きな差がでるという問題点がある。現在では、安定した結果やコストの削減のため、コンピュータを利用して画像を解析する様々な手法が研究され、提案されてきている。
【0005】
一般的に、画像の解析を行なう際には、画像から形や模様、境界線等の特徴を抽出する第1のフェイズと、第1のフェイズで取得した特徴を解析して必要な情報に加工する第2のフェイズとに分けられる。このような手法による画像の解析結果は、前半の第1のフェイズで抽出された特徴の種類と精度とに大きく影響される。このため、画像から特徴を適切に抽出することが重要である。
【0006】
衛星画像や航空写真から地図を作る際は、地表に見られる各種の境界線が特に重要な特徴となる。これらの境界線は、多くの場合、建物や道路、水域等のエッジ(輪郭線)に基づいて検出される。画像からエッジを抽出する方法に関しては、これまでにも多くの研究がなされており、実用的な種々の提案もなされている(例えば下記非特許文献1,2参照)。
【0007】
画像から道路や河川などの境界線を検出し、その境界線のつながりを解析して土地区画を自動的に抽出する手法の一例として、下記特許文献1では、まず地表を撮影した画像からエッジを抽出し、そのエッジ画像上の任意の1点から放射状に伸ばした直線とエッジとの交点を求め、複数の交点を連結させてできる多角形の区画領域を抽出する処理が提案されている。
【0008】
さらに、下記特許文献2では、特徴の異なるエッジを複数の段階に分けて抽出することで、農地内の畦道を正確に抽出し、農地区画データのようなこれまで作成が困難だったデータを容易に作成することができるシステムが提案されている。
【0009】
【特許文献1】特開2003−256807号公報
【特許文献2】特願2007−70891号
【非特許文献1】J.Canny,「A Computational Approach to Edge Detection」IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence,Vol.PAMI-8,No6,1986年11月
【非特許文献2】尾上守,「画像処理ハンドブック」,昭晃堂出版,1987年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の研究等によって、衛星画像や航空写真からの自動認識技術を用いて地図の作成や更新をする作業を効率的に行なうことが出来るようになった。しかしながら、撮影条件の変化や画像に含まれるノイズ、また、認識したい地物のうち一般的な特徴に当てはまらないものがある等の原因により、自動認識の正答率を100%にすることは事実上不可能である。そのため、信頼性の高い地図を作成するためには、コンピュータによる自動認識で大部分を認識した後、目視によるチェックを行い、その後に必要な部分を補完及び修正する処理が必要となる。
【0011】
この目視によるチェックは、コンピュータによる自動認識に比べてコストが高いため、その作業量をできるたけ少なくすることがコスト削減のための重要な要件となる。
【0012】
従来の手法では、コンピュータによる自動認識は画像に対して可能な限り忠実な結果を出力し、その後に、目視のチェックと修正とが行なわれていた。しかしながら、実際に地図を利用する上で、データが簡潔な方が望ましい場合に、修正箇所が多くなってしまうという問題点があった。例えば、農地区画地図を作る場合においては、画像に忠実に認識結果を出そうとすると、エッジが完全に直線であるということは少なく、各区画は歪んだ形になったりすることも多いが、実際に地図として利用する際には、できるだけきれいに並んだ四角形であることが望ましいため、そこに修正作業が必要となることが多かった。
【0013】
また、認識結果に自動的にチェックすべきところか否かの目安がなく、結局は、ほとんどのデータを目視チェックする必要があるという問題点もあった。このため、修正量に対してチェックのコストが大きく、また修正が必要な場所に気づくかどうかに関して、作業者の熟練度に大きく影響されることが多かった。
【0014】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、衛星画像や航空写真画像などの地理画像から抽出された特徴を、実際の地図で利用しやすいように補正する際に、各特徴に対して認識精度の予測を行なうことにより、処理の負荷を低減し、コストを削減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前記の課題に対応するため、画像から特徴を抽出する段階でその特徴に「確信度」という値を設定し、その値として抽出したい特徴とどれだけ一致しているかを段階的に表す。さらに、農地区画データを作る場合にはそれを構成する各々の特徴の「確信度」から、その区画自身の「確信度」を算出し、目視でチェックする作業の時に、念入りにチェックする必要があるかどうかの目安として表示する。また、自動的に農地区画データを作る際に、画像データに忠実な結果ではなく、最終的に修正する必要が無いよう、四角形がきれいに並んでいる形を重視する。このとき、自動的な整形・修正の処理に確信度を利用することで、認識結果を出来るだけ歪めることなく、修正の手をいれなくてすむ結果を作る。
【0016】
本発明の一観点によれば、高空から撮影して得られた地理画像データを解析し、区画データを作成する区画データ作成システムであって、前記地理画像データからエッジ情報を抽出するエッジ抽出処理部と、該エッジ抽出処理部で得られたエッジ情報に基づいて多角形を形成するエッジを区画として抽出する区画抽出処理部と、該区画抽出処理部で得られた各区画を地図として利用しやすい形状に整形する第1の区画整形処理部と、該区画整形処理部で得られた各区画の認識精度を区画確信度として評価する区画確信度判定処理部と、該区画確信度に基づいて、区画確信度を高くするように区画の整形する第2の区画整形処理部と、を有することを特徴とする区画データ作成システムが提供される。
【0017】
前記区画確信度は、区画の辺がエッジ画像に重なっている程度を基準とする境界線確信度と、対象区画(例えば農地)の平均的な色調と対象区画の色調との近さを基準とする色差分確信度と、画像内におけるエッジ量の少なさを基準とするテクスチャ確信度と、の少なくともいずれかに基づいて求めることが好ましい。
【0018】
隣接する区画データがある場合に、隣接する区画と現在チェックしている現在区画の確信度を比較し、隣接する区画の方が確信度が低い場合には、その区画データはそのまま用い、隣接する区画の確信度が高い場合には、前記現在区画の辺を前記隣接する区画の辺を延長したもの、又は、平行なものに置き換えて、置き換えた区画の確信度を算出することが好ましい。
【0019】
前記区画確信度を、前記区画データの各エントリに対して対応した形で保持し、そのうちの確信度の高い区画データにあわせた形で周囲の区画データを自然な形に修正するようにしても良い。置き換える区画の候補が複数ある場合は、複数あるそれぞれの区画の確信度を算出し、求めた確信度が元の確信度に比べてより高くなっているか否かを判定し、元よりも高くなっている場合には、置き換えた方の区画を元からあった区画のかわりに用いるようにしても良い。また、置き換える区画の候補が複数ある場合は、その中で最も高い確信度の区画に置き換えるようにしても良い。さらに確認・修正の目安としての確信度データも出力することが好ましい。
【0020】
本発明は、下記の各ステップを実行する方法、各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラム、該プログラムを記録したコンピュータ読みとり可能な記録媒体であっても良い。
【0021】
具体的には、衛星や航空機から農地地区の地表を撮影した画像を入力とし、道路や河川、畦道のエッジを抽出するエッジ抽出処理と、エッジ抽出処理で得られたデータから多角形を形成するエッジを区画として抽出する区画抽出処理部と、区画抽出処理部で得られた各区画を地図として利用しやすい形状に補正する区画整形処理部と、区画整形処理部で得られた各区画の認識精度を自己評価し、より自然に見えるデータに補正する区画確信度判定処理部を備え、撮影された地区の農地の区画データを高い精度で抽出し、さらに確認・修正の目安としての確信度データとともに出力する。
【0022】
さらなる本発明の特徴は、以下の発明を実施する形態及び添付図面によって詳細を示す。
【発明の効果】
【0023】
本発明の区画データ作成システムによれば、衛星画像や航空写真画像などの地理画像から農地区画地図を作る際に、確信度に基づいてこれを高めるように作成をおこなうため、目的に適した画像データを作成することが可能である。また、自動的に作成された出力結果が出力されるため、目視でチェック及び修正する作業量を効率よく行ない、作成コストを大幅に削減することが出来る。また、それらの作業の結果が、作業者の熟練度に影響されにくいという利点を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の一実施の形態による土地区画データ作成システムについて図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
図1〜図9までは、本実施の形態による土地区画データ作成システムを例示する図であり、これらの図において、同一の符号を付した部分は同一物を表し、基本的な構成及び動作は同様であるものとする。
【0026】
以下において説明する土地区画データ作成システムに関する実施の形態では、例えば衛星から農地地区の地表を撮影した画像を入力とし、各画像解析処理を経て、区画データとその修正に利用できる確信度データを求めること、これを出力すること、を目的としている。これらのデータを、農地の管理に必要な農地地図を作成する際に利用する。
【0027】
<システム構成>
図1は、本実施の形態による土地区画データ作成システムの概略構成例を示す機能ブロック図である。図1に示すように、本実施の形態による土地区画データ作成システムは、入出力装置100と、パーソナルコンピュータ、ワークステーション等からなる処理装置200と、メインメモリとして使用されるRAM(ランダムアクセスメモリ)及び磁気ディスク記憶装置等の補助記憶装置とを含む記憶装置300と、を備えている。
【0028】
入出力装置100は、キーボード及びマウス等のポインティングデバイスを含む入力装置101と、CRTディスプレイ装置等の表示装置102と、プリンタ等の出力装置103とを備えている。入力装置101は、ユーザによるコマンドの起動やパラメータの入力等に用いられる。表示装置102及びプリンタ等の出力装置103は、土地区画データ作成システムで扱われる画像や区画データをユーザに提示するために用いられる。
【0029】
処理装置200は、区画・確信度抽出プログラム201を含む。区画・確信度抽出プログラム201は、プログラムのモジュールとして、エッジ抽出処理部202と、区画抽出処理部203と、区画整形処理部204と、区画確信度判定処理部205と、を含んでいる。区画抽出プログラムの詳細な処理の内容については図3以降を参照しながら後述する。
【0030】
記憶装置300には、画像データ301と、エッジデータ302と、区画データ303と、区画確信度データ304と、が格納されている。これらのうち、画像データ301は、衛星等で撮影された画像であり、システム外部から入力されるデータである。それ以外のデータ302から304までは、画像解析処理中に作成されるデータであり、区画データ303及び区画確信度データ304を作成することが本実施の形態による土地区画データ作成システムにおける特徴である。それぞれのデータの詳細な例について図2を参照しながら説明を行う。
【0031】
<取り扱うデータ>
図2A〜Cは、本実施の形態による土地区画データ作成システムを利用中に、記憶装置300内に格納される各データを例示した図である。図2A(a)は、衛星から農地を撮影した画像データの一例であり、画像データ301に相当する。このデータは、画像解析処理実行前にあらかじめ取得され、記憶装置300内に格納されている必要がある。
【0032】
図2A(b)及び図2A(c)は、画像データ(301)を元に作られたエッジ画像(画像の輪郭を抽出した画像)の一例で、エッジデータ302に相当する。図2A(b)では、主に道路(や河川)の強いエッジのみを抽出しており、図2A(c)では、それらに加えて、区画内の畦道のエッジも抽出されているが、その分だけノイズが多くなっていることがわかる。このように、エッジ画像はエッジ抽出のパラメータによってその抽出結果が異なる。エッジデータは、複数のエッジ画像を含み、区画抽出処理203では、これら使って区画を抽出する。
【0033】
図2B(d)は、土地の区画を示すデータの一例であり、区画データ303に相当する。1区画が1エントリとして扱われ、その内容はIDと頂点の数及び各頂点の座標の配列で表現されている。
【0034】
図2B(e)は、図2B(d)の区画データを画像として表現した一例を示す図である。右側の拡大部分図(Id=1の領域を中心に拡大した)に示すように、Id=1、2、3のそれぞれで特定されるそれぞれの区画は、多数の頂点T1、T2等を結んだ多角形TXで表され(右図参照)、それに割り振られたIDと、頂点数と、座標の配列と、が図2B(d)のテーブルで示したデータの1エントリに対応する。
【0035】
図2C(f)は、区画データの確信度(正答率を自己診断した目安)を示すデータで、区画確信度データ304に相当する。ここで、対応区画IDは、区画データ303と対応付けられている。例示するシステムでは、区画確信度は、例えば、境界線確信度、色差分確信度、テクスチャ確信度の各要素の合計として算出される。得られた区画確信度の値によって、確信度の高/低を判定する。
【0036】
区画確信度は、区画の辺がエッジ画像に重なっている程度を基準とする境界線確信度と、対象区画(例えば農地)の平均的な色調と対象区画の色調との近さを基準とする色差分確信度と、画像内におけるエッジ量の少なさを基準とするテクスチャ確信度と、の少なくともいずれかに基づいて求める。
【0037】
図2C(g)は、区画確信度データを画像として表現した一例を示す図であり、図2A(c)に対応する図である。各区画の判定の違いを例えば区画を画定する境界線の形態を変えて表現し、確認・修正の目安としている。ここでは、Id=3で特定される区画を示す境界線のみを実線で示し、その他の破線で示される境界線で囲まれた領域に比べて信頼度が低いことがわかりやすく表示している。これらのデータと区画・確信度抽出プログラムとの関係の詳細について図3を参照しながら説明する。
【0038】
<地理画像処理の概要>
図3は、本実施の形態による土地区画データ作成システムにより行なわれる画像解析の流れの概要を示す図である。本実施の形態による土地区画データ作成システムは、まず予め用意された画像データ301を入力とし、それに対して、エッジ抽出処理202を行なう。エッジ抽出処理の出力としてエッジデータ302を得る。
【0039】
次に、エッジデータ302を入力として区画抽出処理203を行い、区画データ303aを得る。区画データ303aは、エッジデータ302に対して、図4に示す交点連結方法を適用して得られたデータであり、一つの区画を複数のベクトルを連結した多角形として表したものである。図4に示す方法については後述する。
【0040】
次に、区画データ303aを入力として区画整形処理を行い、区画データ303aを更新する(303b)。さらに、区画確信度データの一部304aを得る。この処理によって、区画抽出処理202で得られた元画像に忠実なデータから、より利用しやすいデータに更新している。より具体的には、より簡潔な多角形(多くは四角形)で区画を表すように区画を更新する。この処理の際に、区画確信度の要素となる一部のデータを算出している。区画整形処理の内容について図5、図6に示す。
【0041】
最後に、区画データ303bと区画確信度データ304aとを入力として区画確信度判定処理205を行い、区画データ303cと区画確信度データ304dとを更新する。符号205の処理において、主に確信度の図形的な要素が入力されたデータに加えて、ここでは色やテクスチャ情報の分析を行い詳細化する。また、周囲の区画との並びを考慮して一部形を修正し、農地地図としてより自然なデータを作成する。区画確信度判定処理の内容は図7、図8、図9を参照しながら説明する。
【0042】
区画データと区画確信度データとは、このシステムの目的とするデータであり、利用しやすい簡潔な農地区画のデータに加えて、それらを確認する時に目安となる自己判定の値が確信度として表されている。
【0043】
<地理画像処理の詳細>
以下、本実施の形態による地理解析システムにおけるエッジ抽出処理202、区画抽出処理203、区画整形処理204、及び、区画確信度判定処理205のそれぞれについて詳細を述べる。
【0044】
(1)エッジ抽出処理202
エッジ抽出処理202では、元画像から局所的に色の変化が大きい部分をエッジとして抽出し、エッジデータを作成する。
【0045】
エッジを抽出する処理としては、種々の周知技術が適用可能である。例えば、Canny法(上記非特許文献1参照)や、Sobelフィルタ(上記非特許文献2参照)などの各種エッジフィルタを地理画像データに適用することで、畦道などのエッジを抽出することができる。これらの処理により、画像中の濃度の変化が大きい部分をエッジとして抽出する。農地を撮影した画像では、農地の端や畦道、道路や河川の端の線をエッジとして認識することが出来る。どこまでをエッジと見做すかは処理のパラメータに依存するため、そのパラメータを調整することにより、抽出するエッジを限定することが出来る。上記特許文献2では、複数のエッジデータを利用して、より抽出精度を高める方法等も提案されている。ここで得られたエッジデータは、主に203の処理に利用する。
【0046】
(2)区画抽出処理203
区画抽出処理203では、エッジ画像からエッジがつながって閉じた多角形を形作っている部分を区画として抽出し、区画データを作成する。ここでは、区画を抽出する方法として直線交点法(上記特許文献1参照)を用いることができる。図4は、この区画抽出処理の流れを、画像の変化により示した図である。この区画抽出処理は、与えられたエッジ画像と、エッジ内にとったシード点P1と呼ぶ一点の座標とから、シード点P1を含む区画を抽出する。シード点P1とは、区画を抽出する際の出発点となる座標のことを指す。シード点P1は、格子状に点在させたり、ランダムに配置したり、ユーザが予め入力しておくなどの方法で決定することができる。
【0047】
図4(a)に示すように、エッジ画像とシード点とが与えられている場合に、まず、シード点P1から等角度間隔に全方位に直線L1〜L3(n)を伸ばす(図4(b))。そして、それぞれの直線とエッジ画像とにおけるエッジ画素との交点Pnを求め、得られた交点Pnを時計回り(あるいは反時計回り)に連結する(図4(c)。
【0048】
この処理によって抽出された多角形AR1をひとつの区画とみなし、頂点の数とそれらの座標にIDを付して区画データに登録する(図4(d))。区画の頂点Pnの数は、シード点P1から伸ばす直線Lnの本数に依存する。例えば図4では、直線の数を4本としている。この直線数を増やすことにより、よりエッジデータに忠実な区画領域の抽出を行うことができる。さらに、上記特許文献2に記載の方法を使うことで、複数のエッジデータを利用して畦道による区画の分割を正確に認識し、より抽出精度を高めることが出来る。ここで得られた区画データは、204以降の処理に利用する。
【0049】
(3)区画整形処理204
区画整形処理204では、区画抽出処理203により得られた各区画データを地図として利用しやすいように、4角形などの簡潔な形状に整形する。農地地図として利用するデータは、画像に忠実な多角形より簡潔な正方形や長方形、または台形をしていること、また、並んだ区画同士の辺は平行または垂直であることが好まれるため、エッジデータをそれらの形状で、最も近い形状に整形する。
【0050】
図5、6は、本実施の形態による区画整形処理の流れ及びその内容を画像で示した図である。この処理は、まず入力として区画抽出処理で得られた区画データを読み込み(501)、そこに格納されている区画データで503〜50Xの処理を行なっていないエントリを一つ選択する(502)。そのエントリに含まれるn個の頂点(座標)を配列をD〜Dとする。順に繋げたそれぞれの線をベクトルとみなして、以下の処理を行なう。図6(a)は、頂点を配列順に繋げた区画データを図示したものである。反時計回りに座標にD〜Dとラベルがつけられている。
【0051】
まず、全頂点のうち2つの組み合わせの中から最も距離が最大のものを選ぶ。その頂点をDa、Dcとする(503)。次に、Da〜Dc,Dc〜Daの頂点の中から、Da-Db-Dc及びDc-Dd-Daの距離が最大となるDb、Ddを選ぶ(504)。図6(b)は図6(a)の区画データにこの処理を行ない、Da、Db、Dc、Ddを選んだ結果を示している。ここで、Da、Db、Dc、Ddの頂点が近すぎたり、隣り合う辺がほぼ一直線になる場合は、その図形は四角形に近似しにくい形状であると判断できるため、以後の整形処理は行わない(505)。
【0052】
次に、(503)、(504)で選んだ頂点の間にある一連のベクトルを近似する直線を求める(506)。近似直線を求める方法は、例えばDaとDbと間のベクトルを近似する場合、DaとDbを直接結ぶものや、Da+1〜Db−1の頂点に対する距離の和が最も近いように最小二乗法等で直線を求めるもの、または、向かい合った辺が平行になるよう補正したものなどがある。図では、補正後の線として、実線L11、点線L12、破線L13の3種類の異なる手法で求めた直線が示されている。これらの中から実際に使用する直線を選択することが可能である。尚、近似直線を求める方法は1種類以上あれば良く、複数ある場合は(507)の処理でその中から(例えばL1〜L3の中から)最もふさわしいものを選ぶ。図6(c)はこの処理を行い、区画の一辺に対して近似直線を複数選んだ状態を表している。
【0053】
次に、(506)で求めた直線に対してその確信度を求める。求めた直線が何種類かあった場合は、それぞれに対する確信度を求めてそれが最も高いものを選ぶ(507)。確信度は 例えば、以下のようにA、Bを重みをつけて足したパラメータで算出する。
直線に対する確信度=Wa × A+Wb× B
ここで、Aは、直線とエッジデータとの重なり具合であり、Bは、各頂点からの距離である。Wa、Wbは、それぞれに対する重み付けである。
【0054】
次に、(507)で選んだ直線の交点を求め、それぞれDa’、Db’、Dc’、Dd’とする。これら4点を頂点とする区画で元の区画を置き換え、区画データを更新する(508)。図6(d)は、ここまでの処理を行い、区画の整形を行なった結果を図示している。
【0055】
そして、502〜508までの処理を区画データに含まれる全てのエントリに対してチェックするまで繰り返し(509)、処理を終了する。
【0056】
この処理によって、各区画は頂点の多い複雑な形から、農地地図に利用しやすい4頂点の簡潔な区画に修正される。得られた区画データは、さらに(205)の区画確信度判定処理において修正され、確信度とともに出力される。
【0057】
(4)区画確信度判定処理205
区画確信度判定処理205では、区画整形処理で得られた区画データ303bや区画確信度データ304aを元に、より精度が高く、人手による修正後のデータに近いデータを作成することができる。
【0058】
また、作成した区画データ303cを地図作成に利用する際に、チェックや修正を効率よく行なうために各区画に対する修正の必要度の目安となる確信度データを作成する。
【0059】
図7は、区画確信度判定処理の流れを示すフローチャート図であり、図8、図9は、その一部の内容を例示して補足するための図である。以下、図7に従って処理の詳細について説明する。尚、以下の処理は、aからcまでの確信度に関して独立で求めても良い。
【0060】
この処理では、まず入力として区画データ、区画確信度データを読み込み(701)、次に、区画データの各エントリに対してその区画の確信度を求めて区画確信度データに入力する(702)。確信度は 例えば、以下の(a)境界線確信度、(b)色差分確信度、(c)テクスチャ確信度(図2参照)を重みをつけて加算したパラメータで算出する。
区画に対する確信度=Wc × C + Wd × D + We × E
ここで、
C:処理(203)で求めた各辺の確信度の合計
D:区画内の色データの平均と標準偏差の理想の農地区画のものとの差
E:区画内のエッジの総量
Wc、Wd、We: それぞれに対する重み付け
ここで、図2(f)に例示したデータにおける境界線確信度がC、色差分確信度がD、テクスチャ確信度がEである。
【0061】
尚、上記の、「区画内の色データの平均と標準偏差の理想の農地区画のものとの差」について、説明を行う。
【0062】
理想の農地区画についての情報は、例えば図1に示す記憶装置300内に記憶されているなどの方法で予め与えられている。そこで、例えば、対象となる区画内部の全画素(又は、その中から区画内を代表するように選択した複数の画素)の色情報に対して計算した平均、分散(標準偏差)と、予め与えられている色情報と、を比較する。
【0063】
例えば、色情報については、最も簡単なものとして、RGBの情報のそれぞれについて、区画内部のRの平均値/Rの分散、Gの平均値/Gの分散、Bの平均値/Bの分散を計算する。その結果、理想の農地(又は平均的なの農地)における、Rの平均値/Rの分散、Gの平均値/Gの分散、Bの平均値/Bの分散のそれぞれとの差が小さいほど、確信度が高くなる。もちろん、RGBの各値の差について重要なものには高い重み付けをしてから各色の値を加算する処理を行って判定するなどの方法により精度を上げることが可能となる。例えば、対象が農地である場合には、Gの平均値が重要となるため、Gに高い重み付けを行う。対象となる区画が駐車場であれば、RGBの重み付けはほぼ同じとするのが好ましい。農地でも、冬季では、Gの重み付けは低くするなどの方法により、時間帯や季節などにより、重み付け値を変更するようにしても良い。
【0064】
尚、画素の情報の取り方としては、RGBの他にもHSL(輝度/色相/彩度)による情報の取り方も存在するので、これらの情報の取り方を利用しても良い。複数の情報の取り方を加味して確信度を算出しても良い。尚、HSLによる情報の場合には、色相と彩度とで、同じように理想との差を調べることにより、色の差が判断できる。
【0065】
この処理で算出される確信度の要素について図8に例示し、下記において後述する。
【0066】
次に、区画データに登録されている区画のうち図7の(704)〜(707)までの処理を行なっていないエントリを1つ選び(703)、その区画に隣接する他の区画データがあるかどうかを調べる。隣接する区画データがあった場合は、隣接する区画とその区画の確信度を比較する(704)。隣接する区画の方が確信度が低い場合は(No)、その区画データはそのまま登録し(707)、他の区画データのチェックに移る。隣接する区画の確信度が高い場合(Yes)、現在チェックをしている区画の辺を隣接する区画の辺を延長したもの、平行なものに置き換えて、置き換えた区画の確信度を上記(702)の処理と同様の処理により算出する。尚、置き換える区画の候補が複数ある場合は、複数あるそれぞれの区画の確信度を算出する(705)。(705)で求めた確信度が元の確信度に比べてより高くなっているか否かを判定し、元よりも高くなっている場合(Yes)、置き換えた方の区画を元からあった区画の代わりに登録する(図2(f)の値も置き換える)。この際、置き換える区画の候補が複数ある場合は、その中で最も高い区画の確信度に置き換える(706)。一方、元の区画よりも確信度がより低くなる場合は、修正せず元の区画の確信度を登録する(707)。この処理で置き換えが行われた例について図9を参照しながら後に説明を行う。上記の処理によって、各区画は、周囲の確信度が高い区画にあわせて、より確信度が高くなる方向にのみ修正されることになる。確信度の目標値を人手による認識結果に近い程度に高くなるよう設定することにより、これまで手動で行ってきた修正を確信度というパラメータに基づいて自動的に修正していくことができる。
【0067】
そして、(703)〜(707)の処理を、区画データに含まれる全てのエントリに対してチェックが終了するまで繰り返し(708)、まだチェックすべき区画が残っていれば(No)703に戻り、全てのチェックが終了すれば(Yes)、処理を終了する(707)。
【0068】
図8は、図7の(702)で算出される区画の確信度の各要素について高低を例示した図である。
【0069】
図8(a)、(b)は、境界線確信度の高低を示す図である。図8(a)は、抽出された区画を元画像と重ねた図であり、図8(b)は抽出された区画をエッジ画像と重ねた図である。区画の辺がエッジ画像に重なっているものは境界線確信度が高いものである。すなわち、隣接する2つの区画の右側の区画の方が左側の区画よりも高い境界線確信度をもっていることわかる。
【0070】
図8(c)は、色差分確信度の高低を示す図である。区画内部の色が、対象区画すなわち一般的な農地の色調である緑に近い場合には色差分確信度が高い。図8(c)では、下側の狭い区画が農地の色調に近いため、高い色差分確信度をもつ区画であることがわかる。尚、上の区画は駐車場であり、全体的に灰色で農地と大きく異なっているため色差分確信度の低い区画であると判定することができる。
【0071】
図8(d)は、テクスチャ確信度の高低を示す図である。多くの農地は内部の色調の変化は平坦である。従って、区画内部のおけるエッジが少ない画像が、確信度が高いと考えられる。すなわち、図では、左側の森は画像内にエッジ部が多くテクスチャ確信度が低い区画と判定でき、右側の農地は画像内にエッジ部が少ないためテクスチャ確信度が高い区画と判定することができる。
【0072】
図9は、図7の(706)の処理において、区画の修正がされた画像・データの例を示す図である。区画整形処理により得られたデータが図9(a)であるとする。図に示すように、区画ID2のデータは、隣接する他の区画ID1・3のデータよりも確信度が低い。特に、符号V1で示される辺4の境界線確信度が“2”ときわめて低く、図9(b)に示すように、辺4に対応する辺を隣接する他の区画にあわせるように引き直すことで、V2に示すように、辺4の境界線確信度が“11”まで高くすることができる。このように、区画の各辺を置き換えたものと確信度が比較され、最終的に図9(b)のデータのように修正されている。その際、置き換えられた辺については、例えば色をつけて示すことで、どの辺が置き換えられたかを示すことが簡単になる。
これらの処理によって、区画データを周囲の区画データのうちうちより高い確信度のものにあわせて農地地図としてより自然なデータに修正することができる。
【0073】
次に、本実施の形態による技術に関連する技術について簡単に説明する。上記の処理により、各区画について求められた確信度を、例えば、図7の最終ステップにおいて表示部に表示することもできる。この表示により、例えば、図9のV1で示される区画ID=2の辺4の境界線確信度が低いことを提示して、自動区画データ作成処理を終了しても良い。このようにすれば、例えば、利用者は、図9(a)と図9(b)とを参照し、区画ID=2の辺4が低確信度であり、この辺4を手動で図8(c)に示すように修正することが求められていることがわかる。修正した後に、確信度に関して再度自動的に求めることで修正がうまくいっているか否かを判定することもできる。
このように、確信度を算出して自動認識した区画の修正の必要度の目安を提供できる。
【0074】
<まとめ>
以上に説明したように、本発明の実施の形態による区画データ作成技術によれば、地理画像データからエッジを抽出するエッジ抽出処理部と、エッジ抽出結果から農地の区画を抽出する区画抽出処理部と、得られた区画を利用目的に沿った形状に補正する区画整形処理部と、それまでの処理で得られた各区画に対して確信度を計算し、確信度に従って修正を行なう区画確信度判定部とを備える。これにより、農地地図作成の手順を大幅に自動化して人手による認識結果に近い地図データを作成することができる。
【0075】
また、自動認識の結果出力されるデータに対して精度を自己判定した「確信度」を同時に提供することで、自動認識結果を目視でチェック・修正する際のコストの削減と、チェックするユーザの熟練度に左右されない結果の精度の安定性を実現することができる。
【0076】
尚、本発明は、以下に説明する実施の形態に限定されるものではない。当業者であれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、実施の形態で説明した発明の構成及び機能に様々な変更、改良を加えることが可能である。例えば、農地を対象とした例を説明したがこれに限定されるものではない。また、衛星写真でない場合でも、単なる画像作成処理にも応用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、区画データの作成処理に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の一実施の形態による区画データ作成システムの一構成例を概略的に示す機能ブロック図である。
【図2A】図2A(a)から(c)までは、図1に示す区画データ作成システムにおいて用いられる各種データを例示した図である。
【図2B】図2B(d)は、土地の区画を示すデータの一例であり、図2B(e)は、図2B(d)の区画データを画像として表現した一例を示す図である。
【図2C】図2C(f)は、区画データの確信度(正答率を自己診断した目安)を示すデータであり、図2C(g)は、区画確信度データを画像として表現した一例を示す図であり図2A(c)に対応する図である。
【図3】図1に示す区画データ作成システムにおける区画抽出プログラムの各処理部の流れと、その入出力データを示す図である。
【図4】図1に示す区画データ作成システムにおける区画抽出処理部によるデータの処理例を示す図である。
【図5】図1に示す区画データ作成システムの区画整形処理部による処理の流れを示すフローチャート図である。
【図6】図5に示す区画整形処理部によるデータの処理結果を例示する図である。
【図7】図1に示す区画データ作成システムの区画確信度判定処理部による処理の流れを示すフローチャート図である。
【図8】図7に示す区画確信度判定処理部によるデータの判定例を示す図である。
【図9】図7に示す区画確信度判定処理部によるデータの処理を例示する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高空から撮影して得られた地理画像データを解析し、区画データを作成する区画データ作成システムであって、
前記地理画像データからエッジ情報を抽出するエッジ抽出処理部と、
該エッジ抽出処理部で得られたエッジ情報に基づいて多角形を形成するエッジを区画として抽出する区画抽出処理部と、
該区画抽出処理部で得られた各区画を地図として利用しやすい形状に整形する第1の区画整形処理部と、
該区画整形処理部で得られた各区画の認識精度を区画確信度として評価する区画確信度判定処理部と、
該区画確信度に基づいて、区画確信度を高くするように区画を整形する第2の区画整形処理部と
を有することを特徴とする区画データ作成システム。
【請求項2】
前記区画確信度は、区画の辺がエッジ画像に重なっている程度を基準とする境界線確信度と、対象区画(農地)の平均的な色調と対象区画の色調との近さを基準とする色差分確信度と、画像内におけるエッジ量の少なさを基準とするテクスチャ確信度と、の少なくともいずれかに基づいて求めることを特徴とする請求項1に記載の区画データ作成システム。
【請求項3】
隣接する区画データがある場合に、隣接する区画と現在チェックしている現在区画の確信度を比較し、隣接する区画の方が確信度が低い場合には、その区画データはそのまま用い、隣接する区画の確信度が高い場合には、前記現在区画の辺を前記隣接する区画の辺を延長したもの、又は、平行なものに置き換えて、置き換えた区画の確信度を算出して区画信頼度とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の区画データ作成システム。
【請求項4】
前記区画確信度を、前記区画データの各エントリに対応した形で保持し、そのうちの確信度の高い区画データにあわせた形で周囲の区画データを自然な形に修正することを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の区画データ作成システム。
【請求項5】
置き換える区画の候補が複数ある場合は、その中で最も高い区画確信度に置き換えることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載の区画データ作成システム。
【請求項6】
前記区画確信度を確認・修正の目安として出力することを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項に記載の区画データ作成システム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−176163(P2009−176163A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15542(P2008−15542)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000233055)日立ソフトウエアエンジニアリング株式会社 (1,610)
【Fターム(参考)】