説明

区画装置及びこれを用いた音伝達及び熱伝達の抑制方法

【課題】 低温側領域及び高温側領域間の音の伝達を抑制し、前記高温側領域から前記低温側領域への熱伝達を抑制することの可能な区画装置及びこれを用いた音伝達及び熱伝達の抑制方法を提供することを提供すること。
【解決手段】 光触媒により一面の濡れ性を向上させた板状の区画体5と、この一面に液体6を供給して流下させる液体流下装置とを備える。低温側領域Lと高温側領域Hとを前記区画体5により区画する。液体は低温側領域の大気温度より高温の温水であり、流下する液体の層6により低温側領域L及び高温側領域H間の音の伝達を抑制し、高温の液体の層6により高温側領域Hから低温側領域Lへの熱伝達を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一面の濡れ性を向上させた板状の区画体と、この一面に液体を供給して流下させる液体流下装置とを備え、低温側領域と高温側領域とを前記区画体により区画する区画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上述の如き区画装置としては、次の特許文献1に記載のものが知られている。同文献によれば、建築物におけるガラスの外側面に光触媒をコーティングし、少量の水を同コーティング面に流下させて薄く均一に広げている。そして、水の蒸発に伴う気化熱の吸収を利用して建物の熱を吸収することを目的としている。
【特許文献1】特開2004−360292号
【0003】
すなわち、光触媒の水濡れ性を利用するのは、水の蒸発を促進すべく可能な限り薄い水の膜を形成することに主眼があり、建物内の保温を目的とするものではない。また、音波の減衰についての示唆は、薄い水の膜を形成する趣旨から考慮もされていない。
【0004】
一方、例えば、寒冷地における工場等では、室内の保温と工場騒音の外部漏洩防止が嘱望されていた。特に、繊維を染色する染色工場においては、その染色工程中の圧力容器に設けられた熱交換器に大量の温排水が発生するのであるが、従来は、この汚れていない温水が未利用のままであった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の実情に鑑みて、本発明は、低温側領域及び高温側領域間の音の伝達を抑制し、前記高温側領域から前記低温側領域への熱伝達を抑制することの可能な区画装置及びこれを用いた音伝達及び熱伝達の抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る区画装置の特徴は、一面の濡れ性を向上させた板状の区画体と、この一面に液体を供給して流下させる液体流下装置とを備え、低温側領域と高温側領域とを前記区画体により区画する構成において、前記液体は低温側領域の大気温度より高温であり、流下する前記液体の層により前記低温側領域及び高温側領域間の音の伝達を抑制し、前記高温の液体の層により前記高温側領域から前記低温側領域への熱伝達を抑制することにある。
【0007】
ここで、本発明は室内の保温と室内からの騒音漏洩抑制に適切に用いられるので、説明の便宜上、高温側領域を室内側領域と、低温側領域を室外側領域と仮定して説明する。発明者は図3に例示するHの領域から音響信号を入射波W1として温水層である液体の層6に送信し、Lの領域で受信された透過波W2と入射波W1との差分である透過損失を温水の有無について測定した。図5に示す温水ありの状態は温水なしの状態よりも全体として透過損失が高く、特に低周波領域では音の区画効果が高いことが確認された。なお、4kHzを超える高周波領域では一部温水あり/なしの状態が逆転しているが、高周波領域ではもともと透過損失が高く問題は生じない。工場騒音等では低周波騒音が問題となっており、温水の音響区画効果は特に有益である。したがって、流下する前記液体の層により前記低温側領域及び高温側領域間の音の伝達を抑制することが可能となる。
【0008】
また、液体層はその温度と厚みにより高温側領域から低温側領域への熱の伝達を抑制し、厚みは上記遮音効果に寄与する。しかも、水濡れ性の向上により、低温側に熱を奪われた液体の流下による刷新が促進されて保温効果が常に維持され、少ない水量で蒸発に伴う気化熱を利用しようとする上記従来の技術とは全くアプローチが異なる。
【0009】
上記特徴において、本発明の実施形態では、前記液体が温水であり、光触媒により前記一面の濡れ性を向上させ、前記区画体を光透過性材料で構成してある。
【0010】
前記一面が前記高温側領域に面している場合は、液体層が例えば室内側である高温側領域に面し、上記実験例にみられるように、室内側からの騒音の外部漏洩を抑制することができる。また、外側から光が当たれば、光を透過する区画体を透過して、光触媒作用により上記流動性を常に維持することが可能となる。
【0011】
一方、前記一面が前記低温側領域に面している場合は、液体層が例えば室外側である低温側領域に面する。この場合、室内側の騒音は、上記実験例とは異なる区画体の平滑面からの信号入射となるが、室内側への反射は大きく、したがって音響エネルギー収支から、透過損失は上記同様に得られるものと容易に推察される。よって、この場合も室内側からの騒音の外部漏洩を抑制することができる。なお、例えば降雪地帯では、室外面に液体層が位置することで、降り積もろうとする雪を融解させて降雪を阻止することも可能となる。
【0012】
さらに、前記一面が前記区画体の両面であり、前記液体を前記区画体の両面に流下させてもよい。
【0013】
一方、上記いずれかの特徴に記載の区画装置を用いた音伝達及び熱伝達の抑制方法の特徴は、前記区画体の前記一面に液体を供給して流下させることにある。
【発明の効果】
【0014】
このように、上記特徴によれば、温水層等の液体層の特性を濡れ性と巧みに組み合わせ、低温側領域及び高温側領域間の音の伝達を抑制し、前記高温側領域から前記低温側領域への熱伝達を抑制することの可能な区画装置及びこれを用いた音伝達及び熱伝達の抑制方法を提供することが可能となった。その結果、例えば、工場の温排水を用いて、工場内で発生する騒音の外部漏洩、特に低周波騒音の漏洩を防止し、しかも、工場内部の保温を合理的に行うことが可能となった。
【0015】
本発明の他の目的、構成及び効果については、以下の発明の実施の形態の項から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、適宜添付図面を参照しながら、本発明をさらに詳しく説明する。
図1で示すように、本発明の第一実施形態の区画装置1は、工場内の温排水を後述する流動面51に供給する温水流下装置2と、光触媒が塗布された流動面51を有する区画体5により構成されている。詳しくは、温水流下装置2は、温水供給装置3aから供給された温水量を制御する温水制御装置3bと、温水制御装置3aで制限された温水をガラス5の表面全体に流下させる温水分散部4と、温水供給装置3a、温水制御装置3b、温水分散部4の其々を接続するパイプ41により構成されている。ここでいう区画装置とは、高温側領域Hと低温側領域Lとを空間として区画する装置のことを意味するものとする。
【0017】
温水供給装置3aは送水ポンプにより構成されている。この温水供給装置3aには、例えば染色工場の圧力装置に設けられた熱交換器で発生した40℃〜50℃の温排水が供給されている。例えば、染色工場において温排水は、一時間あたり30トン余り発生している。この温排水は、汲み上げられた地下水を用いて、圧力容器の温度を下げる役割を果しているのみであり、温排水自体に有害な物質が含まれていない。
【0018】
温水量制御装置3bは電気的に動作する電磁弁により構成され、供給する温水量を精密に制御している。温水量制御装置3bにはセンサー31が設けられている。このセンサー31の情報により、供給する温水量を制御している。
【0019】
温水分散部4は、図2に示すように、終端が閉鎖された円筒状のパイプにより構成され、そのパイプの一部分を切り抜いた切断部42を有している。切断部42は流動面51方向に開放されている。パイプ41を用いて供給された温排水が、一旦温水供給部4の内部に蓄えられ、切断部41より流動面51に散布される。
【0020】
温水が散布される区画体5の表面である流動面51には、光触媒である二酸化チタン(TiO2)(以下、酸化チタンという)が塗布され光触媒層5aを形成している。この光触媒とは、太陽光中の紫外線を吸収して化学反応し、汚れを分解したり殺菌したりする作用を有すると共に、太陽光を当てると水を強く引きつける性質、超親水性を有する物質である。この区画体5は、例えば、工場建屋の壁面に設けてある窓ガラスであり、工場内部の窓ガラス上方に温水分散部4が設けてある。つまり、図3において、高温側領域Hが工場内部であり、低温側領域Lが工場外部である。なお、酸化チタン層にドーパントを含ませることで、濡れ性を向上させることも可能である。
【0021】
次に本発明の作用を説明する。染色工場で発生した温排水を温水供給装置3aに供給する。温水供給装置3aで温水を一定の圧力にし、その温水を温水量制御装置3bに供給する。温水量制御装置3bで一定量に調整された温水を温水分散部4に供給する。温水分散部4に供給された温水が切断部42から洩れ出て、区画体5の流動面51に散布される。散布された温水は、光触媒層5aが形成された流動面51を、温水層6を形成して区画体5の下方まで流れ進む。このとき、流動面51に散布された温水は、流動面51に塗布された光触媒層5aにより、均一に温水層6を形成する。図示しないが、区画体5の下方まで流れた温水は、樋状の温水回収部により集められ、下水処理される。
【0022】
図3に示すように、高温側領域H(工場内部)で発生した入射波W1は、一部が区画体5の流動面51に形成される温水層6によって反射され、さらに、温水層6と区画体5に吸収される。そして、これらの残余エネルギーが透過波W2として区画体5における流動面51とは他側の面である反対面52から低温側領域L(工場外部)に放出される。
【0023】
図5に示すグラフは、図3に例示する高温側領域Hから音響信号を入射波W1として温水層6に送信し、低温側領域Lで受信された透過波W2と入射波W1との差分である透過損失を温水の有無について測定したものである。図5に示す温水ありの状態は温水なしの状態よりも全体として透過損失が高く、特に低周波領域Lでは音の区画効果が高いことが確認された。なお、4kHzを超える高周波領域Hでは一部温水あり/なしの状態が逆転しているが、高周波領域ではもともと透過損失が高く問題は生じない。
【0024】
ここで、音波は水温が高いほど透過損失が高くなる。例えば、一般的な地下水(水温約15度程度)と比較すると、温水(本実施形態では40度から50度)の方が音波を透過させにくくなる傾向にある。
【0025】
本実施形態によれば、湯水層6が高温側領域Hに面することで、工場内部側からの騒音の外部漏洩を抑制することができる。また、工場外部から光が当たれば、光を透過する区画体5を透過して、光触媒作用により流動面51の流動性を常に維持することが可能となる。
【0026】
また、本実施形態においては、区画体5の高温側領域H(工場内部)の面に温水を流下させている。これにより、温水層6の作用により高温側領域Hの熱が低温側領域Lに伝わる熱伝達を抑制することができる。つまり、工場内部で発生した大気熱の工場外部への漏出を抑制し、換言すれば、工場外部の冷気が工場内部に伝達することを抑制し、特に冬場における工場内部の保温効果を高めることができる。
【0027】
また、本実施形態は、温水量制御装置3bに接続されたセンサー31の情報で供給する温水量を制御している。これは、工場内で発生した騒音が大きければ、供給する温水量を増やして、図4(a)で示すように、温水層6の層を厚くし、防音効果を高めることもできる。これにより、工場内の騒音に応じた温水層6を形成することができる。
【0028】
さらに、本実施形態は、温水量制御装置3bを構成する電磁弁の操作により、流動面51に形成する温水層6の形状を、図4(b)に示すように断面波状にすることもできる。これにより、入射波W1の温水層6の表面における乱反射を惹起し、入射波W1をより効率的に減衰させることが可能となる。
【0029】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。本発明と同様の部材には同様の符号を附してある。
図6に示す第二実施形態では、工場外部に温水流下装置2を設けた点が異なり、図面左手側が高温側領域(室内側領域)Hであることは上述と同様である。第二実施形態の場合、工場側の騒音は、第一実施形態とは異なる区画体5の反対面52からの信号入射となるが、区画体5による工場内部側への反射は大きく、したがって音響エネルギー収支から、透過損失は上記実施形態同様に得られるものと容易に推察される。よって、第二実施形態でも工場内部側からの騒音の外部漏洩を抑制することができる。なお、例えば降雪地帯では、工場外部側に温水が流下するので、例えば区画体5を傾斜させた状態で屋根部分に配置すれば、屋根に降り積もろうとする降雪を融解することができる。また、本装置により流下させた温水を工場の周辺に散布すれば、周囲の降雪を融解させることができる。
【0030】
また、工場建屋の壁面は防音材等をはめ込むことにより、防音を行うことができるが、窓ガラス部分に防音作用を施すには、窓を多重にするしかない。工場全体を多重ガラスにするには非常にコストがかかってしまう。本発明を用いれば、多重ガラスにするよりも低コストで防音効果を得ることができる。本実施形態は、区画体5である窓ガラスに二重ガラスにしなくても遮音、保温効果は維持できるが、二重ガラスに本発明を用いればさらに効果は倍増する。なお、本発明によれば、保温のみならず暖房としても流下する温水を利用することができる。
【0031】
上記各実施形態において区画体5は平板状の窓ガラスを例に説明したが、本発明の区画体はこれに限定されるものではない。形状は曲面状も可能であり、また、傾斜状態で配置してもよい。建築物における窓ガラスの他、建築物の壁面にも用いることができる。ガラスの他、ポリカーボネイトその他の合成樹脂板や他の素材により構成することができる。また、区画体は光透過性を有すればよく、透明のみならず半透明として構成してもく、反対面52は平滑状に限らずマット状としてもよい。流下させる液体としては温水が適切であるが、液体又は固体の溶解した水溶液や他の液体を用いることも可能である。
【0032】
区画体5の両面共に光触媒層5aを設け、両面共に温水を流してもよい。この場合、高温側領域Hの面に流した温水の排水を低温側領域Lの面に流せば、温度勾配を合理的に付与でき、熱損失を低下させることが可能となる。
【0033】
上記実施形態では、室内側領域Hから室外側領域Lへの音の漏出を抑制した。しかし、室外側領域Lから室内側領域Hへの音の進入を抑制することも可能である。なお、室内側領域H及び室外側領域Lは説明のための便宜上の区別であり、本発明にいう区画とは、二つの領域を仕切ることをいい、その代表的な例が建築物における室内/室外の区分けである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、染色工場で発生する温排水の他、大型のごみ焼却施設、発電所、その他プラント等で発生するで発生する温排水を利用し、これら工場・施設・プラント内部、建築物内部の保温を行い、内外の音伝達を抑制することの可能な区画装置及びこれを用いた音伝達及び熱伝達の抑制方法として利用することができる。また、建築物の内外に限られず、2以上に区画された部位の遮音、保温・暖房手段として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第一実施形態に係る区画装置示す概略図である。
【図2】図1のA−A部分断面図である。
【図3】図1の部分断面図である。
【図4】図3の他の例を示す部分断面図である。
【図5】区画体表面に温水層がある場合と、無い場合における、AI透過損失の周波数特性を比較するグラフである。
【図6】本発明の第二実施形態を示す図4相当図である。
【符号の説明】
【0036】
1:区画装置、2:温水流下装置、3a:温水供給装置、3b:温水量制御装置、31:センサー、4:温水分散部、41:パイプ、42:切断部、5:区画体、5a:光触媒層、51:流動面、52:反対面、6:温水層、W1:入射波、W2:透過波、H:高温側領域(室内側領域)、L:低温側領域(室外側領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面の濡れ性を向上させた板状の区画体と、この一面に液体を供給して流下させる液体流下装置とを備え、低温側領域と高温側領域とを前記区画体により区画する区画装置であって、
前記液体は低温側領域の大気温度より高温であり、流下する前記液体の層により前記低温側領域及び高温側領域間の音の伝達を抑制し、前記高温の液体の層により前記高温側領域から前記低温側領域への熱伝達を抑制することを特徴とする区画装置。
【請求項2】
前記液体が温水であり、光触媒により前記一面の濡れ性を向上させ、前記区画体を光透過性材料で構成したことを特徴とする請求項1記載の区画装置。
【請求項3】
前記一面が前記高温側領域に面していることを特徴とする請求項1又は2記載の区画装置。
【請求項4】
前記一面が前記低温側領域に面していることを特徴とする請求項1又は2記載の区画装置。
【請求項5】
前記一面が前記区画体の両面であり、前記液体を前記区画体の両面に流下させることを特徴とする請求項1又は2記載の区画装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の区画装置を用いた音伝達及び熱伝達の抑制方法であって、前記区画体の前記一面に液体を供給して流下させることを特徴とする音伝達及び熱伝達の抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−283348(P2006−283348A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103430(P2005−103430)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(501262329)株式会社ユティック (6)
【Fターム(参考)】