説明

医用光度計

【課題】緊急な測定が可能な医用光度計を提供することにある。
【解決手段】凹面回折格子8により、光源1からの光から単色光を分光する。凹面回折格子8により分光された単色光は、フローセル14内の試料に照射され、通過した光は検知器15により受光される。制御演算手段13は、受光検出された信号に基づいて試料成分を分析する。ここで、光源1としては、異なるピーク発光波長を有する複数のLED光源1A,1B,1C,1D,1E,1Fを用いている。制御演算手段13は、異なるピーク発光波長を有する複数のLEDの内、測定波長に近接する波長のLEDを発光させ、他のLEDを消灯するように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用光度計に係り、特に、血清と試薬を反応処理させた検体を直接吸引して分析をする際に任意測定波長を選択する分光測定に用いられる医用光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
血清と試薬とを反応処理させた検体を、湿式分析によって行う方法は、分析反応の温度や反応物質の温度などの分析条件を正確に規定できる。このため、再現性、定量精度に優れ、この湿式分析方法に用いられる医用光度計は、病院や臨床検査センター、保健所等で病気の診断や早期発見に不可欠の装置として広く使用されている。
【0003】
医用光度計は、反応液を光度計フローセルへの吸い上げに用いるシッパーといわれるポンプ、光度計部および信号処理部から概略構成されている。特に、光度計部は、光源から出た光を回折格子や干渉フィルタにより分光した後、目的の波長域だけの単色光をフローセル内の反応液に照射する単色光照明方式(モノクロメータタイプ)と、光源から出た白色光を前記フローセル内の反応液に照射する白色光照明方式(ポリクロメータタイプ) に分けられる。
【0004】
医用光度計として代表的なものは、モノクロメータタイプで専用装置化したものが多くみられる(例えば、特許文献1,特許文献2参照)。モノクロメータタイプの医用光度計においては、光源から出射した光は、レンズ、窓、及びスリットを通った後に凹面回折格子に入射する。光は回折格子により分光され、ローランド円上に並んだ出射スリットへ入射スリットの像を結ぶ。この出射スリットから出た単色光がフローセルを通過し、シリコンダイオードなど検知器へ入射する。
【0005】
フローセルを通過させる波長を選ぶには、凹面回折格子の回転角度を設定し、偏心カムをモータ制御する。これにより、病気の診断など生化学検査に必要な波長を選定することができる。
【0006】
シリコンダイオードなどの検知器から出力される微小電流は増幅器によって増幅され、その信号がA/D変換されてマイクロコンピュータに入力される。入力された信号の吸光度変換や濃度変換もコンピュータが行う。多くの場合、A/D変換の際、対数変換により基準との差分により吸光度を測定するシステムとなっている。
【0007】
【特許文献1】特開平9−243635号公報
【特許文献2】特開平1−91039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の医用光度計においては、全ての測定波長域においてシリコンダイオードの暗電流、または検知回路のノイズの影響を抑えるためには、より感度の低い紫外波長域及び赤外波長域における感度確保が不可欠である。そのため、光源には充分な光量と測定波長域全体の発光強度が得られるように、よう素タングステンランプや重水素ランプを用いている。このような光源を用いた場合は、光源の発熱による光度計自体の熱変形が発生し、検出信号の変化があるため、検出信号が安定化するまでは、光源を点灯してから一定時間経過する必要がある。そのため、緊急測定には適してないという問題があった。
【0009】
本発明の目的は、緊急な測定が可能な医用光度計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)前記目的を達成するために、本発明は、光源と、前記光源からの光から単色光を分光する分光手段と、前記分光手段により分光された単色光が試料を通過した光を受光する受光手段と、前記受光手段により検出された信号に基づいて試料成分を分析する分析手段とを有する医用光度計であって、前記光源は、異なるピーク発光波長を有する複数のLEDからなるものである。
かかる構成により、光源の発熱を抑えて、検出信号の安定に要する時間を短縮でき、緊急な測定が可能となる。
【0011】
(2)前記(1)において、好ましくは、前記異なるピーク発光波長を有する複数のLEDの内、測定波長に近接する波長のLEDを発光させ、他のLEDを消灯するように前記LEDを制御する制御手段を備えるようにしたものである。
かかる構成により、分光手段における2次光の影響を容易に低減でき、測定精度を向上できるとともに、色フィルタなどを不要として、装置を小型化できるものとなる。
【0012】
(3)前記(1)において、好ましくは、前記光源と、前記分光手段の間に配置され、前記光源からの光を前記分光手段に伝達する光ファイバーを備えるようにしたものである。
【0013】
(4)前記(3)において、好ましくは、前記光源より得られた光を前記光ファイバーの入口部に集光する集光ミラーを備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、医用光度計において、緊急な測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図1〜図3を用いて、本発明の一実施形態による医用光度計の構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態による医用光度計の全体構成を示すシステム構成図である。図2は、本発明の一実施形態による医用光度計に用いる光源部の構成を示す正面図である。図3は、本発明の一実施形態による医用光度計の光源部に用いるLED光源の相対発光強度特性図である。
【0016】
図1に示すように、本実施形態において、医用光度計の光度計部は、モノクロメータ方式で構成している。
【0017】
複数個のピーク発光波長の異なるLED光源1は、光源保持手段2により保持されている。光源保持手段2は、円錐形状をしている。円錐形状の光源保持手段2の内側の面に複数のLED光源1が保持されている。光源保持手段2は、LED光源1から発生する熱が他の部材へ伝導しないように遮断して保持している。
【0018】
ここで、図2を用いて、光源保持手段2によって保持されたLED光源1について説明する。
【0019】
光源保持手段2には、円周上に、ピーク発光波長λ1,λ2,λ3,λ4,λ5,λ6の異なる6種のLED光源1A,1B,1C,1D,1E,1Fがそれぞれ4個づつ保持されている。各LED光源1A,1B,1C,1D,1E,1Fの間の配置角度は、15°であり、90°ごとに同一ピーク発光波長のLED光源が位置している。
【0020】
このように、円周上の同一角度上に同一ピーク発光波長のLED光源を配置することで、いずれのLED光源を点灯しても安定した光源像を得ることができる。
【0021】
さらに、図3を用いて、本実施形態にて用いる6種のLED光源1A,1B,1C,1D,1E,1Fの相対発光強度特性について説明する。
【0022】
図3に示すようにLED光源は一定の波長範囲でのみ有効な発光強度をえることができるため、所定波長範囲の内、任意の波長が選択するためには複数のLED光源1A,1B,1C,1D,1E,1Fを用いる必要がある。
【0023】
近紫外波長域においては、ピーク発光波長がλ1のLED光源1Aを点灯する。波長λ2付近では、ピーク発光波長がλ2のLED光源1Bを点灯する。波長λ1のLED光源1Aと波長λ2のLED光源1Bの中間の波長選択時は、ピーク発光波長がλ1のLED光源1Aと、ピーク発光波長がλ2のLED光源1Bの両方を点灯することで2つのLED光源の発光強度が低い波長域を補うようにする。以下、同様にして、波長域に応じて、LED光源1A,1B,1C,1D,1E,1Fのいずれか一つを選択的に点灯するか、若しくは隣接するピーク波長を有する2つのLED光源を同時に点灯する。
【0024】
また、目的波長点灯時は目的波長以外のLED光源は消灯させ、2次光の分光測定に対する影響を抑えることができる。すなわち、モノクロメータタイプの光度計では、白色光を凹面回折格子で分光すると、目的波長に対する2次光の影響が発生する。このため、目的波長域以外の光を低減するための色フィルタを光源と凹面回折格子の間に設置するのが一般的となっている。そのため光度計自体が大きく複雑な構造となる。それに対して、本実施形態のように、複数のLEDの内、所望のLEDを選択的に点灯することで、目的波長に対する2次光の影響がなくなり、従来2次光を排除するために光源と分光手段間に設置された色フィルタが不要となり、装置を小型化できる。また、LED光源点灯を目的波長のみとすることで光源の消費電力を抑えることができる。
【0025】
ピーク発光波長λ1のLED光源1Aとしては、ピーク発光波長が365nmの紫外LEDを用いることができる。ピーク発光波長λ6のLED光源1Fとしては、ピーク発光波長が660nmの赤色LEDを用いることができる。ピーク発光波長λ2〜λ5については、それぞれ図示のようなピーク発光波長を有する所定の発光色のLEDを用いることができる。
【0026】
医用光度計の波長範囲は、通常340nm〜800nm程度である。したがって、上述のようなピーク発光波長が365nmの紫外LEDから、ピーク発光波長が660nmのLEDを用いることで、従来の医用光度計の波長範囲をカバーすることができる。
【0027】
次に、図1において、光源保持手段2に保持されたピーク発光波長の異なる6種のLED光源1は、制御演算手段13からの光源制御信号3によって、点灯・消灯制御される。制御演算手段13は、マイクロコンピュータなどによって構成される。
【0028】
光源1から発生した光4は、集光ミラー5により光ファイバー6の入口部に集光される。集光ミラー5は、卵形形状の内面を有している。集光ミラー5の内面形状は、複数のLED光源1の位置から発せられた光が、いずれも、光ファイバー6の入口部に集光する形状に設計されている。このような卵形形状の集光ミラーとしては、例えば、カソードルミネッセンスの集光ミラーに用いられるものが知られている。光源位置と集光位置を決めることで、集光ミラーの内面形状を設計することができる。
【0029】
光ファイバー6の入口部に入射した多波長光4は、光ファイバー6の内部を伝達され、入射スリット7を通過し、凹面回折格子8に入射する。本実施形態では、LED光源1と入射スリット7の間には、レンズ等の集束素子を用いていない発散光学系である。したがって、光ファイバー6を用いない場合には、集光ミラー5における集光位置に、入射スリット7を配置する必要があるが、集光ミラー5は大型であるため、入射スリットや出射スリットとの干渉し、そのような配置を取ることが難しい場合もある。それに対して、光ファイバーを用いることで、入射スリット7と集光ミラー5の位置関係の制限を少なくでき、装置設計の自由度を増すことができる。
【0030】
凹面回折格子8に入射した光は分光され、分光された単色光9は凹面回折格子駆動機構10により任意の波長の単色光が選択され、出射スリット11に照射される。ここで、凹面回折格子駆動機構10は、制御演算手段13からの凹面回折格子駆動信号12により制御される。
【0031】
出射スリット11を通過した単色光9は波長幅5nmに制限され、フローセル14内の反応液を通過し、検知器15にて検知され、電気信号に変換される。検知器15の光電流出力16は、対数変換器17で対数変換される。制御演算手段13は、対数変換された信号から、吸光度に変換し、また、濃度変換を行うことができる。
【0032】
制御演算手段13により得られた分析結果は、例えば、高速紙送り機構を有する感熱式プリンタなどの印字出力手段18により印刷され、同時に液晶モジュールなどの表示手段19に表示される。上述した分析項目に合わせて波長、反応液の吸引量などの測定条件は予めオペレータがパラメータ入力手段20により設定する。
【0033】
なお、図2に説明では、複数のLED光源1A,1B,1C,1D,1E,1Fは、それぞれ同数の4個づつ用いるものとしているが、各LED光源1A,1B,1C,1D,1E,1Fの発光強度によっては、配置する個数を異ならせてもよいものである。例えば、図3に示したような相対発光強度特性において、ピーク発光波長λ2,λ3,λ4が、他のピーク発光波長λ1,λ5,λ6に比べて発光強度が低い場合には、LED光源1A,1E,1Fは4個づつ用い、一方、LED光源1B,1C,1Dは8個づつ用いるようにしてもよいものである。
【0034】
以上説明したように、本実施形態によれば、光源にLEDを用いることで従来のようなよう素タングステンランプを用いた場合に発生する光源の熱を抑えることができ、装置熱変形による測定データの変化を少なくできる。これにより、装置起動時から短時間での測定が可能になりより緊急な検体測定に対応可能となる。
【0035】
また、複数のLEDの内、所望のLEDを選択的に点灯することで、目的波長に対する2次光の影響がなくなり、従来2次光を排除するために光源と分光手段間に設置された色フィルタが不要となり、装置を小型化できる。
【0036】
また、LED光源を用い短時間での測定が可能になることで、総消費電力を抑えることができ、環境配慮形の装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態による医用光度計の全体構成を示すシステム構成図である。
【図2】本発明の一実施形態による医用光度計に用いる光源部の構成を示す正面図である。
【図3】本発明の一実施形態による医用光度計の光源部に用いるLED光源の相対発光強度特性図である。
【符号の説明】
【0038】
1…LED光源
2…光源保持手段
5…集光ミラー
6…光ファイバー
7…入射スリット
8…凹面回折格子
10…凹面回折格子駆動機構
11…出射スリット
13…制御演算手段
14…フローセル
15…検知器
17…対数変換器
18…印字出力手段
19…表示手段
20…パラメータ入力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、前記光源からの光から単色光を分光する分光手段と、前記分光手段により分光された単色光が試料を通過した光を受光する受光手段と、前記受光手段により検出された信号に基づいて試料成分を分析する分析手段とを有する医用光度計であって、
前記光源は、異なるピーク発光波長を有する複数のLEDからなることを特徴とする医用光度計。
【請求項2】
請求項1記載の医用光度計において、
前記異なるピーク発光波長を有する複数のLEDの内、測定波長に近接する波長のLEDを発光させ、他のLEDを消灯するように前記LEDを制御する制御手段を備えることを特徴とする医用光度計。
【請求項3】
請求項1記載の医用光度計において、
前記光源と前記分光手段の間に配置され、前記光源からの光を前記分光手段に伝達する光ファイバーを備えることを特徴とする医用光度計。
【請求項4】
請求項3記載の医用光度計において、
前記光源より得られた光を前記光ファイバーの入口部に集光する集光ミラーを備えることを特徴とする医用光度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−304436(P2008−304436A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−154322(P2007−154322)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】