説明

医療器具固定シート

【課題】滅菌バッグに封入する際、医療器具を簡便かつ確実に固定し、医療器具で滅菌バッグを破損させず、小型で簡素な構造であって衛生的な医療器具固定シートを提供する。
【解決手段】医療器具固定シート1は、滅菌すべき刃先、尖端及び/又は先端角を有する医療器具10を固定しつつ、滅菌バッグに封入される可撓性の医療器具固定シートであって、シート基材9の一部に袋状に設けられ、その挿入口4から該刃先、尖端及び/又は先端角が挿入されて、収容されるポケット5と、シート基材9の中央に設けられ医療器具10の一部の側部に巻き付け、押え付け、又は折り曲げて医療器具10を固定する帯状片2、又は、ポケット5の中央に設けられ医療器具10の一部へ巻き付け、押え付け、又は折り曲げつつ、挿入口4の少なくとも一部を覆って医療器具10を固定する帯状片2と、シート基材9に開けられ帯状片2の先端が差し込まれる差込口3とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋭利な刃先や尖端や先端角を有する医療器具を、滅菌バッグに封入して滅菌する際、その刃先等で滅菌バッグを傷付けないように、医療器具を固定するシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
手術や診療に使用する鋭利な刃先を有する鋏やメス、注射針のような尖端を有するシリンジ、注射針の保護キャップ、先端角を有するピンセットや鉗子のような医療器具は、予め滅菌されたものが使用される。医療器具を滅菌するには、それを滅菌バッグに封入し、オートクレーブ(AC)中で高温の水蒸気に曝すAC滅菌処理や、エチレンオキサイドガス(EOG)に曝すEOG滅菌処理が、施される。
【0003】
この滅菌バッグは、ガス透過性で菌非透過性のプラスチックや紙でできた薄膜の周囲を融着したり接着したりしたものである。その滅菌バッグに直接、医療器具を無理やり挿入すると医療器具の刃先等で薄膜が切り裂かれたり突き破られたりする。また、滅菌処理やその後の保存・輸送の際、その薄膜が、医療器具の刃先等に接触し、切り裂かれたり突き破られたりする。このような滅菌バッグの破損によって、折角、滅菌した医療器具が、外気に曝され菌で汚染されてしまう。
【0004】
そこで、刃先等を有する医療器具を滅菌バッグに封入する際、その刃先等で滅菌バッグを破損するのを防止するために、刃先等が滅菌バッグに直接接触しないように覆いつつ医療器具を固定する固定部材が、用いられる。そのような固定部材として、特許文献1には、網目構造物及び/又は樹脂発泡体からなる立体的構造の滅菌バッグ収容物固定部材が開示されている。立体的構造であると、嵩高くなり、滅菌の効率が悪くなり、一度にできる滅菌数を多くできなくなってしまう。
【0005】
【特許文献1】特開2006−149936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、滅菌バッグに封入する際、刃先や尖端や先端角を有する医療器具を簡便かつ確実に固定し、医療器具で滅菌バッグを破損させず、小型で簡素な構造であって衛生的な医療器具固定シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の医療器具固定シートは、滅菌すべき刃先、尖端及び/又は先端角を有する医療器具を固定しつつ、滅菌バッグに封入される可撓性の医療器具固定シートであって、
シート基材の一部に袋状に設けられ、その挿入口から該刃先、尖端及び/又は先端角が挿入されて、収容されるポケットと、
該シート基材の中央に設けられ該医療器具の一部の側部に巻き付け、押え付け、及び/又は折り曲げて該医療器具を固定する帯状片、又は、該ポケットの中央に設けられ該医療器具の一部へ巻き付け、押え付け、及び/又は折り曲げつつ、該挿入口の少なくとも一部を覆って該医療器具を固定する帯状片と、
該シート基材に開けられ該帯状片の先端が差し込まれる差込口とを有することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の医療器具固定シートは、請求項1に記載されたもので、該医療器具を挿し込む挿込穴が、該シート基材上に、少なくとも一つ開けられていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の医療器具固定シートは、請求項2に記載されたもので、該挿込穴が、該ポケットの内外夫々に、開けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の医療器具固定シートは、請求項1に記載されたもので、該帯状片が、該シート基材の中央に設けられており、該差込口が、該医療器具の挿入方向に沿って、開けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の医療器具固定シートは、請求項1に記載されたもので、該帯状片が、該ポケットの中央に設けられており、該差込口が、該医療器具の挿入方向を横切るように開けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の医療器具固定シートは、請求項1に記載されたもので、該滅菌の完了を確認するインジケータが、付されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の医療器具固定シートは、鋭利な刃先を有する鋏やメス、尖端を有する注射針やシリンジやそれらを覆う保護キャップ、先端角を有するピンセットや鉗子など診療に用いる医療器具を、簡便に素早く確実に固定できる。
【0014】
この医療器具固定シートで医療器具を固定すると、それの刃先や尖端や先端角が保護されるので、滅菌バッグを破損することなく迅速かつ安全に医療器具を滅菌バッグに挿入できる。
【0015】
またこの医療器具固定シートは、帯状片で医療器具の一部の側部に巻き付けたり折り曲げたりして固定するものであるから、その帯状片を、医療器具が載せられるシート基材の範囲内に設ければよい。このように医療器具固定シートは、小型であるので、定容量の滅菌容器内に、多数の滅菌バッグが充填でき、滅菌効率が良い。
【0016】
この医療器具固定シートを用いると、医療器具が封入された滅菌バッグを振動させたり旋回させたりしても、医療器具が外れたり抜け落ちたりすることがない。そのため、滅菌の際や保存・輸送の際に、医療器具の刃先等で滅菌バッグを破損する恐れがない。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0017】
以下、本発明を実施をするための好ましい形態を図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0018】
図1は、本発明の医療器具固定シート1の一例を示した概略図である。
【0019】
医療器具固定シート1は、滅菌すべき医療器具10よりもやや大きめで厚手の紙製のシート基材9を有している。
【0020】
シート基材9の一端側の一部がシート基材9よりも小さな紙製の小片シートで覆われることにより、袋状のポケット5が形成されている。ポケット5は、医療器具10の刃先を挿入するためのものである。この小片シートの3辺で接着されることにより、ポケット5が袋状となり、挿入口4が残余の1辺に形成されている。挿入口4は、シート基材9の中央へ向いて開いている。
【0021】
シート基材9の中央に、シート基材9を切り抜いて形成された舌状の帯状片2が設けられている。帯状片2は、医療器具10の側部に巻き付けるのに十分な長さと、その柄を確りと巻き付けて固定するのに十分な幅とを有し、医療器具10の挿入方向と傾斜する方向に延び、その先端が丸く縁取りされている。
【0022】
シート基材9上の帯状片2の傍らに、帯状片2の先端が差し込まれる差込口3が、切り込まれて開けられている。差込口3の間口は、帯状片2の幅よりも幾分広い。差込口3は、医療器具10の挿入方向に沿って、挿入される医療器具10と略平行に、切り込まれている。差込口3は、帯状片2が差し込まれたとき帯状片2の差込方向と医療器具10の挿入方向とが略直交する位置に、設けられている。
【0023】
ポケット5の挿入口4から帯状片2の根元までの距離が、ポケット5内に収容される医療器具10の収容部分の長さよりも、短いことが好ましい。帯状片2と挿入口4とが離れすぎていると、帯状片2で固定した医療器具10が振動や傾斜によってずれてしまったり、帯状片2が差込口3から抜けて医療器具10がポケット5から抜け落ちてしまったりする恐れがある。
【0024】
この医療器具固定シート1は、医療器具例えば鋏10を固定する場合、以下のようにして使用される。
【0025】
先ず、鋏10の刃先を、ポケット5に挿入する。その後、ポケット5を破らないように注意しながらその刃先を広げる。鋏10の片側の柄の側部からその一部分に帯状片2を巻き付け、帯状片2の先端を差込口3に差し込む。差し込んだ帯状片2を、差込口3に沿って固定シート1の裏側へ折り返してしっかりと固定する。このようにして固定された鋏10は、ポケット5と帯状片2とにより固定され、両刃先が広がった形状のまま維持される。
【0026】
医療器具固定シート1の別な態様を、図2に示す。図2のように、細長い形状の医療器具10、例えばメスを挿し込むための複数の挿込穴6a・6bが、シート基材9上に、さらに開けられていてもよい。挿込穴6a・6bは、ポケット5の内外夫々に、開けられていることが好ましい。一方の挿込穴6aは、帯状片2とポケット5の挿入口4との間に設けられていることが好ましい。他方の挿込穴6bは、ポケット5内に設けられていることが好ましい。その挿込穴6bは、医療器具10の先端の刃先を医療器具固定シート1の裏側からポケット5内部に挿し込むためのものである。
【0027】
図2の医療器具固定シート1は、医療器具例えばメス10を固定する場合、以下のようにして使用される。
【0028】
先ず、メス10の先端の刃先を、固定シート1の表側から挿込穴6aに挿し込み、さらに固定シート1の裏側から挿穴6bに挿し込み、ポケット5内部にまで、挿入する。メス10の柄の側部からその一部分に帯状片2を巻き付け、帯状片2の先端を差込口3に差し込む。差し込んだ帯状片2を、差込口3に沿って固定シート1の裏側へ折り返してしっかりと固定する。このようにして固定されたメス10は、ポケット5及び挿込穴6a・6bの復元力による圧力と、帯状片2による固定とによって、抜け落ちないように、保持される。
【0029】
ポケット5に、その内部を確認するための覗き窓(不図示)が開けられていてもよい。この覗き窓は、ポケット5を切り抜いたものであってもよく、さらにその切り抜いた部分に透明フィルムを貼ったものであってもよい。また、より広範囲にポケット内部を確認するため、シート基材9や、それを覆ってポケット5を形成している小片シートが、透明又は半透明のプラスチック製フィルムであってもよい。
【0030】
医療器具固定シート1の別な態様を、図3に示す。図3のように、帯状片2が、ポケット5の中央に設けられていてもよい。この帯状片2は、折り返されたときにポケット5の挿入口4の一部を覆ってシート基材9の中央に開けられた差込口3に届く長さを有している。差込口3は、医療器具10の挿入方向と略直交するように、開けられている。
【0031】
医療器具10、例えば鋏を固定する際に、両柄を広げたその間に、差込口3が開けられている。帯状片2を折り返して差込口3に差し込んだときにできるポケット5の開放枠は、内部の覗き窓の役目を果たす。そのため、帯状片2は、ポケット5の中央に設けられていることが好ましい。
【0032】
差込口3は、ポケット5の挿入口4から2cm未満の位置に設けられていることが好ましい。差込口3がその挿入口4から2cm以上離れていると、振動や傾斜により固定した医療器具10がずれてしまったり、医療器具10の先端が開放枠からはみ出てしまったり、医療器具10がポケット5から抜け落ちてしまったりする恐れがある。
【0033】
図3の医療器具固定シート1は、医療器具例えば鋏10を固定する場合、以下のようにして使用される。
【0034】
先ず、鋏10の刃先を、ポケット5に挿入した後、その刃先を広げる。広げた鋏10の両柄の間に帯状片2を挟み入れ、帯状片2の先端を差込口3に差し込む。差し込んだ帯状片2を、差込口3に沿って固定シート1の裏側へ折り返してしっかりと固定する。このようにして固定された鋏10は、ポケット5と帯状片2とにより固定され、両刃先が広がった形状のまま維持される。
【0035】
医療器具固定シート1の別な態様を、図4に示す。図4のように、細長い形状の医療器具10、例えばメスを挿し込むための複数の挿込穴6a・6bが、シート基材9上に開けられていてもよい。挿込穴6a・6bは、ポケット5の内外夫々に、開けられていれもよい。
【0036】
図4の医療器具固定シート1は、医療器具例えばメス10を固定する場合、以下のようにして使用される。
【0037】
先ず、メス10の先端の刃先を、固定シート1の表側から挿込穴6aに挿し込み、さらに固定シート1の裏側から挿穴6bに挿し込み、ポケット5内部にまで、挿入する。メス10の柄の側部からその一部分に帯状片2を巻き付け、帯状片2の先端を差込口3に差し込む。このようにして固定されたメス10は、ポケット5及び挿込穴6a・6bの復元力による圧力と、帯状片2の押圧とによる固定によって、抜け落ちないように、保持される。
【0038】
医療器具10が、鋏やメスの例を示したが、注射針、保護キャップを被せられた注射針やそれを有するシリンジ、ピンセット、鉗子のように刃先や尖端や先端角を有する医療器具であってもよい。
【0039】
図1〜図4に示した医療器具固定シート1のポケット5は、例えば医療器具10が鋏である場合その刃先を広げた状態よりも一回り大きい幅であって、鋏10の刃先を過不足なく収納できる奥行きを有する袋状であることが好ましい。ポケット5が大きすぎると、振動等によりポケット5に挿入した鋏の刃先が開閉してしまい、ポケット5を破損し、ポケットから出てしまう恐れがある。
【0040】
前記医療器具固定シート1の素材は、可撓性のものであれば、特に限定されないが、紙、プラスチック、不織布が挙げられ、中でも上質紙がより好ましい。
前記医療器具固定シート1には、滅菌を確認するためのインジケータ(不図示)が付されていてもよい。その際、インジケータの上面は、固定シート1に固定された医療器具10との接触を防ぐため、フィルムで覆われていることが好ましい。インジケータは固定シート1のどの部分に付されていてもよいが、ポケット5の内部に設置されていると、ポケット5内の状態を確認できるため、より好ましい。インジケータは、AC滅菌時の蒸気や、EOG滅菌時のエチレンオキサイドガスで変色する市販の化学インジケータであってもよい。
【実施例】
【0041】
次に、本発明を適用する医療器具固定シートを試作した例を示す。
【0042】
(実施例1)
図1に示す医療器具固定シートを作製した。同図に示すように、この固定シートで鋏を固定した。鋏ごと医療器具固定シートを滅菌バッグに挿入し、封入した。それの滅菌条件で、上下左右に振ったり、傾けたり、逆さまにしたりしたが、鋏は、柄が広がった形状のままであり、抜け落ちなかった。また、図2に示すように、メスを固定したが、図1の鋏の場合と同様であった。
【0043】
(実施例2)
図3に示す医療器具固定シートを作製した。同図に示すように、この固定シートで鋏を固定した。鋏ごと医療器具固定シートを滅菌バッグに挿入し、封入した。それの滅菌条件で、上下左右に振ったり、傾けたり、逆さまにしたりしたが、鋏は、柄が広がった形状のままであり、抜け落ちなかった。また、図4に示すように、メスを固定したが、図3の鋏の場合と同様であった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明を適用する医療器具固定シートの実施例を示す斜視図である。
【図2】本発明を適用する医療器具固定シートの別な実施例を示す一部切り欠き斜視図である。
【図3】本発明を適用する別な医療器具固定シートの実施例を示す斜視図である。
【図4】本発明を適用する別な医療器具固定シートの実施例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0045】
1は医療器具固定シート、2は帯状片、3は差込口、4は挿入口、5はポケット、6a・6bは挿込穴、9はシート基材、10は医療器具である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
滅菌すべき刃先、尖端及び/又は先端角を有する医療器具を固定しつつ、滅菌バッグに封入される可撓性の医療器具固定シートであって、
シート基材の一部に袋状に設けられ、その挿入口から該刃先、尖端及び/又は先端角が挿入されて、収容されるポケットと、
該シート基材の中央に設けられ該医療器具の一部の側部に巻き付け、押え付け、及び/又は折り曲げて該医療器具を固定する帯状片、又は、該ポケットの中央に設けられ該医療器具の一部へ巻き付け、押え付け、及び/又は折り曲げつつ、該挿入口の少なくとも一部を覆って該医療器具を固定する帯状片と、
該シート基材に開けられ該帯状片の先端が差し込まれる差込口とを有することを特徴とする医療器具固定シート。
【請求項2】
該医療器具を挿し込む挿込穴が、該シート基材上に、少なくとも一つ開けられていることを特徴とする請求項1に記載の医療器具固定シート。
【請求項3】
該挿込穴が、該ポケットの内外夫々に、開けられていることを特徴とする請求項2に記載の医療器具固定シート。
【請求項4】
該帯状片が、該シート基材の中央に設けられており、該差込口が、該医療器具の挿入方向に沿って、開けられていることを特徴とする請求項1に記載の医療器具固定シート。
【請求項5】
該帯状片が、該ポケットの中央に設けられており、該差込口が、該医療器具の挿入方向を横切るように開けられていることを特徴とする請求項1に記載の医療器具固定シート。
【請求項6】
該滅菌の完了を確認するインジケータが、付されていることを特徴とする請求項1に記載の医療器具固定シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−83886(P2009−83886A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254591(P2007−254591)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000232922)日油技研工業株式会社 (67)
【Fターム(参考)】