説明

医療機器の位置を検出するシステム

本発明は、電磁放射(4)を放射する送信ユニット(3)と、送信ユニット(3)から放射された電磁放射(4)を受信して位置特定信号(5)を形成する、医療機器(1)に配置されている少なくとも1つの位置特定素子(2)と、位置特定信号(5)の評価により医療機器(1)の位置および/または方位を検出する評価ユニット(9)とを有する、医療機器(1)の空間的な位置および/または方位を検出するシステムに関する。本発明においては、位置特定素子(2)がトランスポンダを有し、トランスポンダはアンテナ(13)と、このアンテナ(13)と接続されており、電磁放射を送受信する回路(12)とを有し、回路(12)はアンテナを介して受信された送信ユニット(3)の電磁放射(4)によって励起され、しかも位置特定信号(5)を電磁放射としてアンテナ(13)を介して送出するように励起される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁放射を放射する送信ユニットと、送信ユニットから放射された電磁放射を受信して位置特定信号を形成する、医療機器に配置されている少なくとも1つの位置特定素子と、位置特定信号の評価により医療機器の位置および/または方位を検出する評価ユニットとを有する、医療機器の空間的な位置および/または方位を検出するシステムに関する。
【0002】
医学では種々の診断法および治療法において、使用する医療機器の正確な位置を検出することが非常に重要である。それらの機器としては例えば血管内カテーテル、ガイドワイヤ、生検針、低侵襲性外科装置などが考えられる。インターベンショナルラジオロジの分野における医療機器の空間的な位置および状態を検出するためのシステムは殊に大きな関心の対象となる。
【0003】
冒頭で述べたようなシステムは例えばEP 0 655 138 B1から公知である。従来から公知のシステムにおいては、空間内の所定の位置に分散して配置されている複数の送信ユニットが使用されている。送信ユニットは電磁放射を放射し、これらの電磁放射は必要に応じて異なる周波数を有する。医療機器の位置を特定するためにこの医療機器には位置特定素子がセンサの形で配置されており、このセンサが送信ユニットから放射された電磁放射を受信する。センサは送信ユニットによって形成された電磁界を検出する。センサによって形成された位置特信号はセンサの場所、したがってこのセンサが配置されている医療機器の場所における電磁界の強度に対応する。位置特定信号は評価ユニットに供給される。評価ユニットは位置特定信号に基づきセンサから種々の送信ユニットまでの距離を算出する。送信ユニットは空間内の所定の位置に設けられているので、評価ユニットは種々の送信ユニットまでの位置特定素子の距離から空間内の医療機器の位置を推量することができる。
【0004】
従来から公知のシステムは、位置特定素子がケーブルを介して評価ユニットと接続されているという欠点を有する。位置特定素子によって受信された、位置特定素子の場所における電磁放射の電界強度を表す信号がこのケーブルを介して評価ユニットに供給される。殊に、低侵襲治療用の医療機器の位置を特定するためにはその種のケーブル接続は非常に不利である。低侵襲性の機器に電気的なケーブルおよび所属の差込接続部を装備させることは煩雑であり、したがって費用がかかる。さらには電気的なケーブルは機器の操作の際に邪魔になる。
【0005】
この背景に基づく本発明の課題は、医療機器の空間的な位置および/または方位を検出するための改善されたシステムを提供することである。殊に、位置特定素子と評価ユニットとの間のケーブル接続のないシステムが提供されるべきである。
【0006】
この課題は、本発明によれば冒頭で述べたようなシステムに基づき、位置特定素子がトランスポンダを有し、このトランスポンダがアンテナと、このアンテナに接続されており、電磁放射を送受信するための回路とを有する。この回路はアンテナを介して受信された送信ユニットの電磁放射によって励起され、しかも位置特定信号を電磁放射としてアンテナを介して送出するように励起される。
【0007】
本発明の核となる着想は、例えば公知のRFIDタグに使用されているようなトランスポンダを医療機器に装備させることである。トランスポンダのアンテナは送信ユニットから放射された電磁放射を受信し、この受信によって自身の側で電磁放射を送出するために励起される。したがってトランスポンダはケーブル接続を必要とせずに位置特定信号を電磁放射として送出する。評価ユニットはトランスポンダから放射された位置特定信号から医療機器の空間的な位置および/または方位を求める。
【0008】
有利には本発明によるシステムの位置特定素子を非常に廉価に製造することができる。何故ならば、RFIDタグは低コストで本発明による適合させることができる大量生産品だからである。非常に小型のRFIDトランスポンダは今日既に市販されている。トランスポンダのアンテナを医療機器に組み込むために薄いワイヤを巻いたコイルとして形成することができ、コイルの巻方向および幾何学は医療機器の形状および大きさに任意に適合させることができる。
【0009】
位置特定素子のトランスポンダは本発明によるシステムにおいては公知のRFIDトランスポンダのように機能する。送信ユニットは(高周波の)電磁界を形成し、この電磁界をトランスポンダのアンテナが受信する。アンテナコイル内に誘導電流が生じる。この誘導電流によりトランスポンダの回路が起動される。回路が起動されている場合には、この回路は自身の側において(高周波の)電磁放射を送出し、例えば送信ユニットから送出された磁界を(負荷変調によって)変調させることによって送出する。変調によってトランスポンダから送出された電磁放射は送信ユニットの放射の側波帯内にある。この側波帯において位置特定信号がケーブル接続を必要とすることなく、すなわち無線により評価ユニットに位置検出のために伝送される。
【0010】
本発明によるシステムのトランスポンダを受動的なトランスポンダとして構成することができ、回路への電力供給は送信ユニットから放射された電磁放射を受信する際にアンテナ内に生じる誘導電流によって行われる。本発明によるシステムの実施形態は、トランスポンダが固有の能動的なエネルギ供給を要することなく動作するという利点を有する。トランスポンダの回路が位置特定信号を送出するために必要とするエネルギは送信ユニットによって形成された電磁界によって提供される。好適には、トランスポンダが回路の電流供給のためにコンデンサを有し、このコンデンサはアンテナにおいて形成された誘導電流によって充電される。コンデンサは回路の永続的なエネルギ供給に使用される。コンデンサを充電するために医療機器を送信ユニットの近傍において、送信ユニットによって形成された電磁界が十分に強い場所に取り付けることができる。コンデンサが充電されると即座にトランスポンダは送信ユニットからの距離が比較的長くても所定の時間にわたり機能する。コンデンサによるエネルギ供給が保証されているので、トランスポンダのアンテナを非常に小型に設計することができ、これにより医療機器への組み込みが容易になる。
【0011】
択一的に、本発明によるシステムにおけるトランスポンダを能動的なトランスポンダとして構成することができ、回路の電流供給のためにバッテリが設けられている。トランスポンダの起動は好適には医療機器の始動時、例えば医療機器の包装を開封した際に行われる。択一的に、エネルギ供給がバッテリによって送信ユニットから放射された電磁放射の受信時に起動されるようにトランスポンダの回路は構成されている。
【0012】
本発明によるシステムの有利な実施形態によれば、位置特定信号の電磁放射の周波数は送信ユニットから放射された電磁放射の周波数とは異なる。これにより、トランスポンダから送出された位置特定信号を周波数に基づき送信ユニットによって形成された電磁界と区別することができる。このことは、上述したように、トランスポンダが送信ユニットから放射された電磁放射の変調によって位置特定信号を形成することによって実現することができる。位置特定信号の周波数は送信ユニットから放射された電磁放射の周波数の側波帯内にある。
【0013】
本発明によるシステムの有利な実施形態によれば、評価ユニットは少なくとも1つの受信ユニットと接続されている。トランスポンダから送出された位置特定信号を受信する複数の受信ユニットを使用することも考えられる。それぞれの受信ユニットの場所における位置特定信号の電界強度に基づきトランスポンダから受信ユニットまでの距離を推量することができる。空間内の所定の位置に設けられている種々の受信ユニットまでのトランスポンダの距離が既知である場合には、この既知の距離から評価ユニットを用いてトランスポンダの正確な位置、したがって空間内の医療機器の正確な位置を計算することができる。
【0014】
もっとも、医療機器が治療の際に患者の身体に挿入されると、位置特定信号の電界強度が弱められることは問題である。人体組織はその誘電性の特性に基づきトランスポンダから放射された電磁放射を部分的に吸収する。この理由から位置特定信号の電界強度に基づく位置検出は常に十分な精度で行われるものではない。
【0015】
この問題を解決するために、評価ユニットは受信ユニットのそれぞれの場所における位置特定信号の電磁放射の位相位置に基づき医療機器の位置および/または方位を検出するために構成されている。位置特定信号の周波数を適切に選択すれば、人体組織の誘電性特性が位置特定信号の位相に及ぼす影響を無視することができる。トランスポンダは位置特定信号を可干渉性、すなわち所定で一定の位相位置で放射するよう構成されている。前述したように、位置特定信号の電磁放射の位相位置に基づき位置検出が行われる場合には、空間内の位置への位相値の一義的な対応付けは、位置特定信号の波長よりも短い位置特定素子からの距離内でのみ可能である。距離が比較的長い場合には、位置特定素子とそれぞれの受信ユニットとの間の位置特定信号の電磁放射のゼロ通過の数を検出することが付加的に必要である。
【0016】
位置検出の際の可能な限り高い精度を達成するために、本発明によるシステムにおける位置特定素子のトランスポンダに対して2つまたはそれ以上の異なる周波数の位置特定信号を形成するために構成されている回路を使用することが有効である。低周波且つ相応に長い波長の位置特定信号を形成することによって、差し当たり位置を大まかであるが一義的に検出することができる。位置検出の際の精度を高めるために、位置特定信号が比較的高い周波数に移行されるか、位置特定信号の周波数が連続的にさらに高められる。比較的高い周波数では、所定の空間解像度を達成するための位相位置を検出する際の解像度への要求は比較的低い。周波数を連続的に高める際には、位置特定素子と受信ユニットとの間の正確な距離を検出するためにゼロ通過の数を求めることができる。可能な限り正確に位置を検出するために、双方向の周波数変化、すなわち低い周波数から高い周波数への変化、もしくは高い周波数から低い周波数への変化も考えられる。位置検出のためにカバーされなければならない周波数領域に依存して、トランスポンダの回路が接続されている2つまたは複数のアンテナを設けることが必要であり、各アンテナにはそれぞれ所定の周波数領域が対応付けられている。
【0017】
本発明によるシステムの有利な実施形態においては、トランスポンダが少なくとも1つのセンサ素子と接続されており、このトランスポンダの回路はセンサ素子のセンサ信号を電磁放射としてトランスポンダのアンテナを介して送出するように構成されている。したがってトランスポンダは位置検出のためのみでなく、センサ信号の伝送に使用される。トランスポンダは相応のセンサ素子、例えば温度センサ、圧力センサ、pHセンサまたは従来のポジションセンサと接続されている。トランスポンダはセンサ信号を無線によりアナログ信号またはディジタル信号として伝送する。
【0018】
本発明によるシステムの性能を、トランスポンダが対応付けられているが医療機器には配置されていない、患者の身体に取り外し可能に取り付けられる付加的な少なくとも1つの位置特定素子によってさらに高めることができる。付加的な位置特定素子を例えば粘着、付着または吸盤によって患者の皮膚表面に取り外し可能に取り付けることができる。殊に有利な実施形態によれば、付加的な位置特定素子のトランスポンダは慣用の絆創膏のような粘着性の細長いシートまたは細長い布に組み込まれている。付加的な位置特定素子を用いて患者の位置または患者の特定の関心部位を直接的に医療機器の位置に関係付けることができる。このことは殊にインターベンショナルラジオロジの用途にとって有利である。さらに付加的な位置特定素子によって、患者の身体の移動を医療機器の位置特定の際に考慮することができる。つまり例えば、肺生検針における針位置特定の精度を改善するために患者の呼吸運動を自動的に補償することができる。別の用途は、呼吸に起因する心筋の運動を補償するために、本発明にしたがい構成されている医療機器(カテーテル)を用いる冠状動脈の治療において明らかになる。すなわち本発明の別の態様は、患者の皮膚の表面に取り外し可能に取り付けるための粘着性の細長いフィルムまたは粘着性の細長い布に組み込むためのRFIDタグの使用である。
【0019】
本発明によるシステムを有利にはMRガイドによる手術の際の位置検出に使用することができる。システムの送信ユニットとして有利には、いずれにせよ設けられているMR機器の高周波送信ユニットを使用することができる。この高周波送信ユニットはMR機器の検査体積内に高周波電磁界を形成するための送受信アンテナ、例えばかご型共振器の形のボディコイルを有する。その種のHF電界を用いることにより周知のように核磁気共鳴がMR撮像の際に検査を受ける患者の体内に励起される。この場合トランスポンダを実際的には受動的なトランスポンダとして構成することができ、トランスポンダの回路の給電はMR撮像の間にHF電界を受信した際にトランスポンダアンテナにおいて形成される誘導電流によって行われる。したがってトランスポンダにエネルギを供給するためにMR機器内にいずれにせよ存在するHF電界が利用される。システムの有利な実施形態によれば、評価ユニットをMR機器と接続することができるか、MR機器に組み込むことができ、医療機器の位置および/または方位の検出はMR機器の送受信アンテナを介して受信された位置特定信号に基づき行われる。すなわちこの構成においてはMR機器の送信アンテナが位置特定信号の受信のために使用される。位置特定信号はMR機器の受信電子装置を介して評価ユニットに伝送される。上述したように、位置特定素子の位置を位置特定信号の位相位置に基づき検出することは殊に有利である。この問題を解決するために、評価ユニットは受信ユニットのそれぞれの場所における位置特定信号の電磁放射の位相位置に基づき医療機器の位置および/または方位を検出するために構成されている。送受信アンテナの位置は既知であり変化しない。したがってこの位置を位相位置に基づく位置検出の際の基準点として好適に使用することができる。
【0020】
医療技術的なシステムにおいては可能な限り安全が保障された(フェールセーフな)動作が得られるよう努められる。このために本発明によるシステムを、評価ユニットが(いわゆる「投票者」のように)複数の位置特定信号から検出された冗長的な複数の位置データおよび/または方位データから適切な位置データおよび/または方位データを選択するために調整されているように構成することができる。したがって位置特定信号から先ず、例えば短い時間間隔を置いて繰り返し位置特定信号が受信されることによって、または医療機器に配置されている複数のトランスポンダからの位置特定信号が並行して受信されることによって、冗長的な位置データおよび/または方位データが検出される。これらの冗長的なデータが評価され、相互に比較され、および/または、妥当性について検査される。この検査の結果にしたがい、適切なものとして、すなわち該当するものとして識別された位置データおよび方位データが選択される。例えば、冗長的に求められた別のデータと多少の一致を示す位置データおよび方位データを選択し、明らかに異なるデータ(異常値)を識別して破棄することもできる。上述したように位置特定素子は、並行しておよび/または時間的に連続して位置特定信号を送出するために励起される複数のトランスポンダを有することができる。このことは、個々のトランスポンダが故障するか、その信号が受信されないか、(例えば周囲からの妨害信号に基づき)歪んで受信される場合にエラーのない動作が保証されているという利点を有する。このことはまた、医療機器に冗長的な位置特定信号を形成するためにそれぞれが1つまたは複数のトランスポンダを有する複数の位置特定素子が配置されていることによって達成される。高い安全性という意味での冗長性を例えば、トランスポンダが位置特定信号を形成するためにそれぞれ異なる周波数で設計されていることによって達成することができる。個々の周波数領域における障害はシステムの安全な動作を妨害しない。
【0021】
本発明は、位置検出のためのシステムを提供するだけでなく、前述のようなトランスポンダが設けられている医療機器も提供し、また医療機器の空間的な位置および/または方位を検出するための方法も提供する。
【0022】
本発明の核となる着想は、血管内カテーテル、ガイドワイヤまたは生検針のような医療機器に能動的または受動的な慣用のRFIDタグが設けられていることであり、これによって医療機器の空間的な位置および/または方位の検出が実現され、有利には固定の受信位置においてRFIDタグによって形成された位置特定信号の位相位置に基づいた検出が実現される。さらには、前述したように、同様に医療機器に組み込まれているセンサ素子のセンサ信号を無線により伝送するためにRFIDタグを使用することができる。例えば温度、圧力、pH値のようなセンサ信号または位置信号を何時でも植え込み箇所から取り出せるようにするために、医療機器におけるRFIDタグの使用も同様に考えられる。
【0023】
有利には、本発明によるトランスポンダはデータメモリを有することができ、このデータメモリに識別データを記憶することができ、回路がアンテナを介して識別データを電磁放射として送信するために構成されている。慣用のRFIDタグはその種のディジタルデータメモリを有する。空間的な位置および/または方位を検出する際に種々の位置特定素子を区別するために識別データを使用することができる。例えば、医療機器の方位、すなわち空間内の状態が検出されるべき場合には、本発明にしたがい構成されている少なくとも2つの位置特定素子を機器に設けることは好適である。2つの位置特定の位置に基づき機器の方位を推量することができる。例えば、生検針の先端に配置されている位置特定素子をそのグリップ部分に配置されている位置特定素子と区別できるようにするために、種々の位置特定素子の識別が可能であることが前提とされる。さらには、治療の際に複数の医療機器が使用される場合には位置特定素子を識別できることは有利である。何故ならば、このようにして位置検出の際の危険な取り違えが回避されるからである。
【0024】
上述したように、本発明によるシステムを撮像診断機器、例えばコンピュータトモグラフィまたはMR機器と一緒に使用し、使用される治療機器によるナビゲーションを実現することができる。本発明によるシステムを用いて検出される位置データおよび方位データを撮像された解剖構造と共に視覚化し、治療を行う医師による機器のガイドを容易にすることができる。本発明によるシステムを用いて空間的な位置および/または方位の検出が撮像システムに依存せずに実現されることは有利である。したがって低侵襲治療の際の被曝を低減することができる。つまり連続的なレントゲン検査を行わなくても機器の正確な位置特定およびナビゲーションが実現される。
【0025】
以下では図面に基づき本発明の実施例を説明する。ここで、
図1は、本発明によるシステムのブロック図を示す。
図2は、本発明にしたがい構成された医療機器の概略図を示す。
【0026】
図1に示されているシステムは、医療機器1の空間的な位置および方位を検出するために使用される。医療機器1には位置特定素子2および2’が配置されている。システムは電磁放射4を放射する送信ユニット3を有する。放射4は位置特定素子2および2’によって受信される。位置特定素子2および2’は受信した放射4によって励起されるトランスポンダをそれぞれ有し、これによりトランスポンダは自身で位置特定信号を(高周波)電磁放射5および5’として送出する。位置特定素子2および2’から放射された位置特定信号5および5’は空間内の所定の位置に設けられている3つの受信ユニット6,7および8によって受信される。受信ユニット6,7および8は評価ユニット9と接続されており、この評価ユニット9は受信ユニット6,7および8のそれぞれの場所における位置特定信号の電磁放射5または5’の位相位置に基づき医療機器1の位置および/または方位、すなわち位置特定素子2および2’のx座標、y座標およびz座標を算出する。較正のために座標原点には較正点10が設定されている。較正のために機器1はその先端が較正点10にあるように配置および方向付けられ、機器1は空間内に所定の状態を取る。受信ユニット6,7および8を用いて較正の間に検出された位置特定信号5または5’の位相位置が評価ユニット9によって記憶される。さらなる位置検出において、評価ユニット9は受信ユニット6,7および8によって受信された信号を記憶されている較正データに関連付け、これにより位置特定素子2および2’の位置を座標原点に相対的に検出することができる。
【0027】
さらに図1にはシステムに属する付加的な位置特定素子2’’が示されている。位置特定素子2’’は医療機器1には配置されていない。この位置特定素子2’’はケーブル接続により取り外し可能に患者の皮膚表面に取り付けられる。付加的な位置特定素子2’’のトランスポンダは慣用の絆創膏のような粘着性の細長いシートまたは細長い布に組み込まれている。送信ユニット3から放射された放射4によって付加的な位置特定素子2’’のトランスポンダも励起されるので、この付加的な位置特定素子2’’も位置特定信号5’’を送出する。検出ユニット6,7および8によって同様に受信された信号5’’に基づき評価ユニット9は付加的な位置特定素子2’’の位置を求める。これにより、医療機器1を用いて治療を行う際の患者の位置ならびに患者の運動も考慮することができる。
【0028】
以下の表には、種々のタイプの典型的なRFID送信周波数での送信ユニット3と位置特定素子2,2’,2’’と受信ユニット6,7,8との間の信号伝送に関する減衰値と、送信器と受信器との間の距離dとの関係が所属の波長と共に示されている。送信側では1.64のアンテナ利得(双極子)を基礎とし、また受信側では1.0のアンテナ利得を基礎とする。表にはさらに種々の周波数での到達距離が示されている。
【表1】

【0029】
表には、空間内の約70cm×70cm×70cmの動作範囲での433MHzの周波数領域の使用が適していることが示されており、較正点は送信器または受信器から最大で2mまで離れていてもよい。前述したように、位置検出は好適には位置特定信号5,5’および5’’の位相位置に基づき行われる。433MHzの周波数では1°の位相差が1.92mmの距離に対応する。したがって1.92mmの空間解像度が所望される場合には、位相位置を検出する際の解像度は少なくとも1°でなくてはならない。これに対して5.8GHzの周波数が使用される場合には、1°の位相解像度で既に0.14mmの空間解像度を達成することができる。可能な限り高い解像度を達成するために位置特定素子2,2’および2’’のトランスポンダは、2つまたはそれ以上の異なる周波数の位置特定信号5,5’および5’’を形成するよう構成されている。これによって位相位置に基づく位置検出を十分な精度で達成することができる。低周波数を使用することによって位置を差し当たり大まかであるが一義的に検出することができる。低周波数では比較的大きい空間的な動作範囲が得られ、この動作範囲内において位置検出を行うことができる。高周波数への移行により位置をより正確に検出することができる。複数の周波数を使用することによって位相位置に基づく位置の一義的な検出を同時に高い精度で達成することができる。
【0030】
図2は、本発明による血管内カテーテル1を示す。カテーテル1はガイドワイヤ11を用いて血管内に挿入される。カテーテル1には位置特定素子が設けられている。本発明によれば位置特定素子は回路12を備えたトランスポンダおよびアンテナ13を有する。アンテナ13はカテーテル1の長手方向に巻かれた薄いワイヤから構成されており、また回路12と接続されている。回路12は集積半導体チップである。アンテナ13を用いて送信ユニット3から放射された電磁放射が受信される。この電磁放射の受信によりアンテナ13には誘導電流が誘導される。回路12への電流供給はこの誘導電流によって行われる。すなわち図2に示されている実施例においては受動的なトランスポンダが使用される。回路12の永続的なエネルギ供給のために、この回路12はアンテナ13内に生じた誘導電流によって充電されるコンデンサ14と接続されている。すなわちコンデンサ14は、アンテナ13内に生じた誘導電流が連続的なエネルギ供給には十分ではない場合であってもトランスポンダの機能を保証する。回路12はアンテナ13を介して受信された電磁放射によって起動され、これによって電磁放射としての位置特定信号をアンテナ13を介して放射するために励起される。このことはアンテナ13を用いて受信した電磁界の回路12による負荷変調によって行われる。回路12はさらにカテーテル1に組み込まれているセンサ素子15、例えば温度センサと接続されている。トランスポンダの回路12はセンサ素子15のセンサ信号をディジタル信号としてアンテナ13を介して伝送する。これによりカテーテル1の先端のそれぞれの場所における温度を無線方式で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明によるシステムのブロック図を示す。
【図2】本発明にしたがい構成された医療機器の概略図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療機器(1)の空間的な位置および/または方位を検出するシステムであって、
電磁放射(4)を放射する送信ユニット(3)と、該送信ユニット(3)から放射された前記電磁放射(4)を受信して位置特定信号(5)を形成する、前記医療機器(1)に配置されている少なくとも1つの位置特定素子(2)と、前記位置特定信号(5)の評価により前記医療機器(1)の位置および/または方位を検出する評価ユニット(9)とを有する、医療機器(1)の空間的な位置および/または方位を検出するシステムにおいて、
前記位置特定素子(2)はトランスポンダを有し、該トランスポンダはアンテナ(13)と、該アンテナ(13)と接続されており、電磁放射を送受信する回路(12)とを有し、該回路(12)は前記アンテナを介して受信された前記送信ユニット(3)の前記電磁放射(4)によって励起され、しかも前記位置特定信号(5)を電磁放射として前記アンテナ(13)を介して送出するように励起されることを特徴とする、医療機器(1)の空間的な位置および/または方位を検出するシステム。
【請求項2】
前記トランスポンダは受動的なトランスポンダとして構成されており、前記回路(12)の電流供給は前記送信ユニット(3)から放射された前記電磁放射(4)を受信した際に前記アンテナ(13)内に生じる誘導電流によって行われる、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記トランスポンダは前記回路(12)への電流供給のためにコンデンサ(14)を有し、該コンデンサ(14)は前記アンテナ(13)内に生じる誘導電流によって充電される、請求項2記載のシステム。
【請求項4】
前記トランスポンダは能動的なトランスポンダとして構成されており、前記回路(12)への電流供給のためにバッテリが設けられている、請求項1記載のシステム。
【請求項5】
前記位置特定信号(5)の前記電磁放射の周波数は前記送信ユニット(3)から放射された前記電磁放射(4)の周波数とは異なる、請求項1から4までのいずれか1項記載のシステム。
【請求項6】
前記回路(12)は、前記送信ユニット(3)から放射された前記電磁放射(4)の変調によって前記位置特定信号を形成するよう構成されている、請求項1から5までのいずれか1項記載のシステム。
【請求項7】
前記評価ユニット(9)と接続されている少なくとも1つの受信ユニット(6,7,8)が設けられており、前記評価ユニット(9)は、前記受信ユニット(6,7,8)のそれぞれの場所における前記位置特定信号(5)の前記電磁放射の位相位置に基づき前記医療機器(1)の位置および/または方位を検出するよう構成されている、請求項1から6までのいずれか1項記載のシステム。
【請求項8】
前記回路(12)は、2つまたはそれ以上の異なる周波数の位置特定信号を形成するよう構成されている、請求項1から7までのいずれか1項記載のシステム。
【請求項9】
前記トランスポンダは少なくとも1つのセンサ素子(15)と接続されており、前記トランスポンダの前記回路(12)は、前記センサ素子(15)のセンサ信号を電磁放射として前記トランスポンダの前記アンテナ(13)を介して送出するように構成されている、請求項1から8までのいずれか1項記載のシステム。
【請求項10】
前記センサ素子(15)は前記医療機器(1)に組み込まれた温度センサ、圧力センサ、pHセンサまたは位置センサである、請求項9記載のシステム。
【請求項11】
前記医療機器(1)は血管内カテーテルまたはガイドワイヤまたは生検針である、請求項1から10までのいずれか1項記載のシステム。
【請求項12】
前記トランスポンダはRFIDタグである、請求項1から11までのいずれか1項記載のシステム。
【請求項13】
前記医療機器(1)には少なくとも2つの位置特定素子(2,2’)が配置されており、該位置特定素子(2,2’)にはそれぞれトランスポンダが対応付けられている、請求項1から12までのいずれか1項記載のシステム。
【請求項14】
前記医療機器(1)には配置されていない少なくとも1つの付加的な位置特定素子(2’’)が設けられており、該付加的な位置特定素子(2’’)にはトランスポンダが対応付けられており、該付加的な位置特定素子(2’’)は患者の身体に取り外し可能に取り付けられる、請求項1から13までのいずれか1項記載のシステム。
【請求項15】
前記付加的な位置特定素子(2’’)は例えば粘着、接着または吸盤によって患者の皮膚表面に取り外し可能に取り付けられる、請求項14記載のシステム。
【請求項16】
前記付加的な位置特定素子(2’’)のトランスポンダは粘着性の細長いフィルムまたは粘着性の細長い布に組み込まれている、請求項14または15記載のシステム。
【請求項17】
前記送信ユニット(3)はMR機器の送信ユニットであり、該送信ユニットはMR機器の検査体積内に高周波電磁界を形成するための送受信アンテナ(コイル)を有する、請求項1から16までのいずれか1項記載のシステム。
【請求項18】
前記トランスポンダは受動的なトランスポンダとして構成されており、前記回路(12)の電流供給はMR撮像の間に高周波電磁界を受信した際に前記アンテナ(13)内に生じる誘導電流によって行われる、請求項17記載のシステム。
【請求項19】
前記評価ユニット(9)は前記MR機器と接続されており、前記医療機器(1)の位置および/または方位の検出を、前記MR機器の前記送受信アンテナ(コイル)を介して受信した前記位置特定信号(5)に基づき行う、請求項17または18記載のシステム。
【請求項20】
前記評価ユニット(9)は、前記MR機器の前記送受信アンテナの場所における前記位置特定信号(5)の前記電磁放射の位相位置に基づき前記医療機器(1)の位置および/または方位を検出するために構成されている、請求項19記載のシステム。
【請求項21】
前記評価ユニット(9)は、複数の位置特定信号(5)から検出された冗長的な複数の位置データおよび/または方位データから適切な位置データおよび/または方位データを選択するために構成されている、請求項1から20までのいずれか1項記載のシステム。
【請求項22】
前記位置特定素子(2)は並行しておよび/または時間的に連続して位置特定信号(5)を送出するために励起される複数のトランスポンダを有する、請求項21記載のシステム。
【請求項23】
前記トランスポンダはそれぞれ異なる周波数の位置特定信号(5)を形成するために構成されている、請求項22記載のシステム。
【請求項24】
前記医療機器(1)には冗長的な位置特定信号(5)を形成するために複数の位置特定素子(2)が配置されている、請求項21から23までのいずれか1項記載のシステム。
【請求項25】
医療機器、例えば血管内カテーテル(1)またはガイドワイヤまたは生検針において、
機器には少なくとも1つのトランスポンダが組み込まれており、該トランスポンダはアンテナと、該アンテナと接続されおり、且つ電磁放射を送受信する回路(12)とを有し、前記回路(12)は前記アンテナを介して受信した電磁放射(4)によって、電磁放射(5)を送出するために励起されることを特徴とする、医療機器。
【請求項26】
前記トランスポンダは少なくとも1つのセンサ素子(15)と接続されており、前記トランスポンダの前記回路(12)は、前記センサ素子(15)のセンサ信号を電磁放射として前記トランスポンダの前記アンテナ(13)を介して送出するように構成されている、請求項25記載の機器。
【請求項27】
前記センサ素子(15)は温度センサ、圧力センサ、pHセンサまたは位置センサである、請求項26記載の機器。
【請求項28】
前記トランスポンダは能動的または受動的なRFIDタグである、請求項25から27までのいずれか1項記載の機器。
【請求項29】
前記トランスポンダの前記回路(12)はデータメモリを有し、該データメモリに識別データが記憶され、前記回路(12)は前記アンテナ(13)を介して前記識別データを電磁放射として送出するために構成されている、請求項25から28までのいずれか1項記載の機器。
【請求項30】
前記機器(1)に少なくとも2つのトランスポンダが組み込まれている、請求項25から29までのいずれか1項記載の機器。
【請求項31】
医療機器(1)の空間的な位置および/または方位を検出するために医療機器(1)に組み込むRFIDタグの使用。
【請求項32】
患者の皮膚の表面に取り外し可能に取り付けるための粘着性のフィルムまたは粘着性の布に組み込むRFIDタグの使用。
【請求項33】
医療機器(1)またはインプラントに組み込まれたセンサ素子(15)のセンサ信号を伝送するRFIDタグの使用。
【請求項34】
前記センサ素子は温度センサ、圧力センサ、pHセンサまたは位置センサである、請求項33記載の使用。
【請求項35】
医療機器(1)の空間的な位置および/または方位を検出する方法であって、
送信ユニット(3)を用いて電磁放射(4)を放射し、該電磁放射(4)を前記医療機器(1)に配置されている位置特定素子(2)によって受信し、該受信に基づき前記位置特定素子(2)は位置特定信号(5)を形成し、評価ユニット(9)を用いて前記位置特定信号(5)を評価して前記医療機器(1)の位置および/または方位を検出する方法において、
前記位置特定素子(2)はトランスポンダを有し、該トランスポンダはアンテナ(13)と、該アンテナ(13)と接続されており、電磁放射(4)を送受信する回路(12)とを有し、該回路(12)を前記アンテナを介して受信した前記送信ユニット(3)の前記電磁放射(4)によって励起し、該励起に基づき前記回路(12)は前記位置特定信号(5)を電磁放射として前記アンテナ(13)を介して送出することを特徴とする、医療機器(1)の空間的な位置および/または方位を検出する方法。
【請求項36】
前記評価ユニット(9)と接続されている少なくとも1つの受信ユニット(6,7,8)の場所における前記位置特定信号(5)の前記電磁放射の位相位置に基づき前記医療機器(1)の位置および/または方位を検出する、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記トランスポンダを用いて2つまたはそれ以上の異なる周波数の位置特定信号(5)を形成する、請求項35または36記載の方法。
【請求項38】
前記医療機器(1)は血管内カテーテルまたはガイドワイヤまたは生検針である、請求項35から37までのいずれか1項記載の方法。
【請求項39】
前記トランスポンダはRFIDタグである、請求項35から38までのいずれか1項記載の方法。
【請求項40】
前記医療機器(1)には少なくとも2つの位置特定素子(2,2’)が配置されており、該位置特定素子(2,2’)にはそれぞれトランスポンダが対応付けられており、前記医療機器(1)の方位を前記少なくとも2つの位置特定素子(2,2’)の位置特定信号(5,5’)から検出する、請求項35から39までのいずれか1項記載の方法。
【請求項41】
複数の位置特定信号(5)から検出された冗長的な複数の位置データおよび/または方位データから適切な位置データおよび/または方位データを選択する、請求項35から40までのいずれか1項記載の方法。
【請求項42】
前記位置特定素子(2)は並行しておよび/または時間的に連続して位置特定信号(5)を送出するために励起される複数のトランスポンダを有する、請求項41記載の方法。
【請求項43】
前記トランスポンダはそれぞれ異なる周波数の位置特定信号(5)を送出する、請求項42記載の方法。
【請求項44】
前記医療機器(1)には冗長的な位置特定信号(5)を形成する複数の位置特定素子(2)が配置されている、請求項41から43までのいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−540895(P2009−540895A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515775(P2009−515775)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【国際出願番号】PCT/EP2007/005520
【国際公開番号】WO2007/147614
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(508375572)アメド スマート トラッキング ソリューションズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (2)
【氏名又は名称原語表記】Amedo smart tracking solutions GmbH
【住所又は居所原語表記】Universitaetsstrasse 142, D−44799 Bochum, Germany
【Fターム(参考)】