説明

医療用キャップ及びその製造方法

【課題】栓体が熱可塑性エラストマー材料である、針差しの再シール性等の性能がより一層改善された医療用キャップを提供する。
【解決手段】熱可塑性エラストマー樹脂の栓体10と、合成樹脂の外枠体20とからなる医療用キャップにおいて、栓体の側面部が、外枠体の側周部の内壁211と非融着状態で接触しており、かつ外枠体脚部22から圧力を受けた状態で保持されている。その結果、栓体の接液面は、平面ではなく、円中心方向へ下方に凸の傾斜を有することになる。接液面に突出部14を設けることもでき、この場合、接液面の一部である突出部の底面が円中心方向へ下方に凸の傾斜を有することになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液ボトルや輸液ボトル等に用いる医療用キャップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療分野に用いられる薬液ボトルや点滴に用いられる輸液ボトルには、針でその薬液等を取り出せるようにするため、そのキャップには一般的にゴム栓キャップや、略円柱状のゴムまたは熱可塑性エラストマー樹脂の針刺し用栓体とこれを保持する外枠体とからなるキャップが用いられている。この輸液ボトル等に用いられる医療用キャップには、薬液の漏洩防止等の観点から、ボトルに取り付けた場合における密閉性が求められる。ここでゴム成分の栓体を用いた場合には、繰り返しの針刺しを行ったときの再シール性には優れているものの、ゴムを用いる場合、製造工程中に加硫工程が必要となり、生産環境が汚染され、洗浄等の後工程が必要となるため、これがコストアップの要因となっていた。またゴム栓体の場合は、針刺し時の栓体脱落防止のため、栓体の接液面(下底部)にキャップ本体接液部と同一または同種の材質である膜部を設けた、若しくは栓体に樹脂をラミネートしてキャップ本体と融着させた構造とすることが一般的であった。ゴム栓体を用いたキャップでは、これらの要因があり、更なるコストアップの要因となっていた。
【0003】
一方、熱可塑性エラストマー樹脂を成分とする栓体の場合、クリーンな環境で成形することができるので、洗浄工程が不要である。また一連の工程を、キャップ生産工程ラインに組み込むことも可能である。更に、成形方法により栓体自体がキャップ本体と融着させることができるので、必ずしも上記のような膜部を設ける、若しくはラミネート加工するという構造にしなくてもよい。従って、量産にあたっては、ゴム栓キャップよりコスト面で優位である。ただし、熱可塑性エラストマー樹脂は、ゴムに比べると残歪性が大きくゴム弾性に劣っているので、針を刺したときの針抜け及び針刺し後の液漏れ防止のための再シール性について問題があった。
【0004】
この問題の解決策として、我々は、医療用キャップの構造を栓体の接液面と外枠体の底面保持部の上部とが互いに融着しており、かつ前記栓体の側面部と前記外枠体の側周部の内壁とは非融着状態で接触している状態にすることで、ゴム特性が改善され、再シール性に優れる医療用キャップを提案した(特許文献1)。
【特許文献1】特開2005‐118185
【0005】
また別の解決アプローチとして、分子量と分子量分布が特定範囲にある、スチレン系水添ブロック共重合体を主原料にする熱可塑性エラストマー組成物を用い、該熱可塑性エラストマー組成物からなる封止体をプラスチック製筒状キャップ本体により水平方向に加圧した状態で一体形成した栓体とすることで、輸液用栓体に必要な、針差し時のシール性、針保持力、コアリング、針抜き後の穴の再シール性等の物性バランスが改善される技術が開示されている(特許文献2)。
【特許文献2】特開2002−143270
【0006】
そうすると、特許文献1記載の構造を有する医療用キャップに対して、特許文献2に記載されているように、栓体に対し、水平方向に加圧を与えてやれば、針差しの再シール性等の性能がより一層改善された医療用キャップとすることができるとも考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術においては、特許文献2の医療用キャップと異なり、栓体側面が外枠体側周部の内壁と融着していない構造としなければ、該構造が奏する効果を得られない。栓体側面と外枠体側周部の内壁との非融着を維持しつつ、栓体の水平方向の加圧を与える構造の医療用キャップを製造することは容易ではない。一つの方法としては、外枠体の内側開口部の内径を栓体径よりも小さなものとした上で、該開口部に該栓体を無理やり押し込んで嵌めこむことにより、栓体に水平方向の加圧を与える方法が考えられるが、キャップ製造工程において、機械操作でこのような作業を行うことは困難であるため量産化できない。よしんばそのような作業が可能であったとしても、該作業にて栓体を変形させる際に、栓体が傷つき密閉性不良となる確率が大きく、歩留まりが低下すると考えられるので、実際の製品製造で採用することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の医療用キャップでは、(i)栓体の側面部と外枠体の側周部の内壁とが非融着状態で接触していること(ii)栓体が、外枠体脚部から圧力を受けた状態で保持されていることを最も主要な特徴とする。またかかる医療用キャップを製造する方法として、本発明では、リング状突起を有する上金型によって、栓体下底面(或いは栓体突出部)の周縁近傍が押し上げられた状態のまま、該上金型のリング状突起の外側から前記外枠体脚部の成形されることを最も主要な手段とする。
【0009】
前記栓体は、針刺面(上底部)、接液面(下底部)及び前記針刺面と接液面とに挟まれた側面部を有する、典型的には略円柱状、または接液面の中心部に突出部を設けた略凸状の様態であり、
前記外枠体は、少なくとも上方に位置する側周部と、下方に位置し、前記側周部との融着部位を持つ脚部とを具備し、
前記側周部は、その内壁において、前記栓体の側面部を側面方向から非融着状態で接触することで前記栓体を保持し、
前記脚部は、その上部の少なくとも一部で、前記栓体接液面の周縁部と融着されており、
前記融着部位は、前記栓体の接液面の高さ或いはそれより上方の高さに位置し、
前記栓体の接液面が、円中心方向へ下方に凸の傾斜を有しており、
前記栓体が、前記外枠体脚部から圧力を受けた状態で保持されている医療用キャップの発明である。
【0010】
更に、栓体の接液面の形状が平面ではなく、中心部に柱状の突出部を設ければ、外枠体脚部から栓体に受ける圧力がより直接的になるので更に好ましい。
【0011】
上記医療用キャップを製造する成形方法としては、本発明は
前記外枠体側周部に前記栓体がインサートされたキャップ成形中間体を作製し、
前記キャップ成形中間体は、針刺面を下にした状態で、下金型で保持され、
上金型は、リング状突起を有し、
前記キャップ成形中間体は、前記上金型によって、前記栓体接液面の周縁近傍が押し下げられた状態のまま、該上金型のリング状突起の外側から、前記外枠体脚部の成形が行われ、
前記外枠体脚部の成形によって、前記栓体が、前記外枠体脚部から圧力を受けた状態のままで、前記外枠体脚部と前記外枠体側周部とを前記融着部位において融着させるとともに、前記脚部の前記上部の少なくとも一部と前記栓体接液面周縁とも融着させる成形方法である。
【0012】
なお、前記キャップ成形中間体を、針刺面を上にした状態で保持し、前記上金型と前記下金型の役割を入れ替えても、同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の医療用キャップは、栓体の側面部と外枠体の側周部の内壁との非融着状態での接触を維持しつつ、栓体に水平方向成分の加圧を行うことができるので、再シール性向上、針抜け防止という医療用キャップについて重要な特性につき、大きな改善効果を発揮できる。
【0014】
また本発明の医療用キャップの製造方法によれば、上記構造の医療用キャップを効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の医療用キャップにつき、以下図面を用いて説明する。ただし、本発明は図面に示した様態に限られるものではない。図1は本発明の医療用キャップの一の様態を示した垂直断面概略図である。図1では、栓体10の針刺面11の中心を含む位置に柱状の突出部を設け、接液面12の中心を含む位置にも、柱状の突出部14(接液面側突出部)を有する様態を示した。図2〜7はそれぞれ別の様態を示した垂直断面概略図である。図2,3は、外枠体側周部21と外枠体脚部22との融着部位23の様態が図1の様態と相違するバリエーションである。図4は、図1の様態において、栓体10の針刺面11の中心を含む位置に柱状の突出部を設けるが、接液面12には、突出部を持たないように変更したバリエーションである。図5は、図1の様態において、針刺面側を、針刺面11周縁近傍に、リング状の突出部を設けたように変更したバリエーションである。図6は、図1の様態において、栓体10の針刺面11及び接液面12の両方とも突出部を設けないように変更した、栓体形状が略円柱状のバリエーションである。図7は、図1の様態において、外枠体脚部22の形状を変更したバリエーションである。図8(a)(b)はそれぞれ、図1のキャップの状態における栓体10及び外枠体脚部22の概略図である。
【0016】
図9(a)(b)(c)は、それぞれ図1の様態の医療用キャップの製造工程の一部を示した垂直断面概略図である。図9(a)は、成形中間体30と外枠体脚部22の融着成形前、図9(b)は融着成形中、図9(c)は融着成形終了時の様態である。図10(a)(b)は、本発明の製造方法に用いる上金型の概略斜視図である。図11は、栓体10に水平方向成分の圧力を与えない参考例として製造した医療用キャップの様態を示した垂直断面概略図である。
【0017】
(医療用キャップ)
本発明の医療用キャップは、本質的に、熱可塑性エラストマー樹脂の栓体10と、合成樹脂の外枠体20とからなる。この他、プルトップ、フランジなど有用な付加的要素を有していても良い。またプルトップ、フランジなどは、外枠体20の一部として形成することもできる。
【0018】
(材料)
栓体10に用いる材料としては、熱可塑性エラストマーであれば足りる。具体的には、オレフィン系、スチレン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリ塩化ビニール系、ポリブタジエン系、イソブチレン系などの熱可塑性エラストマー樹脂を挙げることができるが、これらに制限されるものではない。中でも共役ジエン系の熱可塑性エラストマーに水素添加した熱可塑性エラストマー(SEBS,SEPS,HSBR,SEBR,CEBC)を好適に用いることができる。
【0019】
また、熱可塑性エラストマー素材は、ゴム素材に比べて遥かに衛生的な素材ではあるが、使用する薬液によっては、栓体1の接液面(下底部)12に、ラミネート加工を行うこともできる。ラミネート加工には、キャップ外枠体20底面保持部または取り付けるべき容器本体と同一種類の樹脂が一般に用いられる。このことにより、薬液が接触する容器内やキャップの接液面を単一若しくは近似した性質の材料とすることができる。
【0020】
外枠体20に用いる材料としては、合成樹脂のうち、医療用途としての安全性の確立されたものであれば足りる。中でも熱可塑性樹脂を用いるのが一般的である。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET樹脂等従来医療用に用いられている樹脂が好ましいが、これらに限られるものではない。外枠体20の側周部と脚部22は、両者を融着させて外枠体20を成形するため、それぞれ用いられる成分は、同一の成分または相溶性のある成分であることが好ましい。また外枠体20の側周部21と脚部22の片方または両方に、着色剤などの任意の成分を添加することもできる。
【0021】
(栓体)
本発明に用いる栓体10の成形は、射出成形法など公知の成形方法にて成形することができる。栓体10は、針刺面11、接液面12及び前記針刺面11と前記接液面12とに挟まれた側面部13を有する。なお、針刺面11、接液面12の用語は、医療用キャップの位置関係を示すための用語であって、接液面12のうち、外枠体脚部22と融着している周縁部分は、実際には点滴液などの液体と接触するわけではない。また例えば針刺面11の更に外側に合成樹脂などの面を設けたり、栓体表面にラミネート加工を施すなどの方法で、直接接液面14が実際には接液しない構造の医療用キャップであっても、かかる構造を排除する趣旨でもない。
【0022】
針刺面11や接液面12は、必ずしも平面である必要はなく、いずれかの面、或いは両方の面に、突出部を設けることもできる。図1は、栓体10の針刺面11の中心を含む位置に、柱状の突出部を有し、接液面12の中心を含む位置に、柱状の突出部14を有する様態である。針刺面11や接液面12のいずれもが平面の場合、栓体10は略円柱形状であり、針刺面11や接液面12のいずれかに、その中心を含む位置に、柱状の突出部を設けた様態の場合、栓体10は略凸形状である。或いは図5のように、針刺面側を、針刺面11周縁近傍に、リング状の突出部を設けたようにすると、構造上、針刺方向の強度が増すため好ましい。更に、針刺面11には、針刺し目印などの刻印や修飾的な突起などを設けてもよい。
【0023】
栓体10の接液面12は、円中心方向へ下方に凸の傾斜を有している。中央付近において下方に盛り上がった形状である。これは、後述のように、外枠体脚部22から栓体10の周縁部に圧力を与えられるため、本来、平らな平面である接液面12が変形した結果、円中心方向へ下方に凸の傾斜を有することになるものである。
また栓体10の接液面の中心を含む位置に、柱状の突出部14を有する様態の医療用キャップの場合は、接液面12の一部である前記突出部14の底面が、円中心方向へ下方に凸の傾斜を有する。
以上のとおり、本発明に用いる栓体10は、発明の本質的に、接液面12或いは柱状の突出部14の底面が、円中心方向へ下方に凸の傾斜を有することになる。
【0024】
またプルトップを設けない様態では、栓体10の針刺面11も同様に、円中心方向へ上方に凸の傾斜が生じることが多い。これらに対し、外枠体脚部22から栓体10の周縁部に圧力を与えられずに成形した場合では、栓体10の変形が生じないので、参考例の図11で示したように、栓体10の接液面及び針刺面ともに円中心方向への凸の傾斜を有することはない。
【0025】
(外枠体)
本発明の医療用キャップに用いる外枠体20は、少なくとも側周部21と脚部22を有する。上述のとおり、この他に外枠体の一部としてフランジやプルトップを設けても良い。
【0026】
側周部21の下部と、脚部22の上部とは、少なくともその一部で融着しており、該融着している部位を融着部位23とする。本発明では、該融着部位23を、栓体10の接液面12の高さ或いはそれより上方の高さに位置させることにより、医療用キャップ全体の厚みを薄くする(上下方向長さを短くする)ことができるので、コンパクトな医療用キャップとすることができる。ここで、語句の不明瞭性をなくすため、ここにいう、接液面12の高さとは、栓体周縁の位置を基準とするものとする。従って、図1のように、栓体10の接液面12に突出部14を設けた場合の接液面12の高さは、突出部14の頭頂の周縁の位置ではなく、裾野の周縁の位置を基準とする。図8(a)には、接液面に突出部14を設けた図1の様態における、本発明にいう接液面の高さの基準位置Pを示した。
融着部位23は、側周部21と脚部22とを強固に一体化させるために、図3のように、融着部位23の面積を増加させることもできる。
【0027】
側周部21は、その内壁211で、栓体10の側面部13を側面方向から保持するものである。ただし、栓体本体の側面部13と外枠体の側周部の内壁211とは、非融着状態で接触することで保持を行うものである。非融着状態にすることにより、使用時の針抜けや液漏れが防止できる。すなわち、栓体側面部13は、外枠体20に固定されずに自由な状態にあるので、針を刺した場合に栓体10が外側に押しやられる力を吸収することができる。このとき刺した針には、反作用で外枠体20から栓体10を通して針を保持する力が生じるので、針抜けを防止できる。また、針を抜いたときには、栓体10は外枠体20から外側に押しやられた栓体10が、側面で接触している外枠体20から内側に押しやられる力を受けるので、針で生じた穴を塞ぎ、再シール性を向上させることができる。
【0028】
脚部22は、上述のとおり側周部21と融着し、一体の外枠体20を形成するとともに、その上部221は、栓体10の接液面12周縁部と融着している。接液面に柱状突出部14を設けた場合は、該突出部14の側壁とも融着している。加えて、脚部22は、栓体10の接液面12周縁部と融着している限り、図2や図3に示した様態のように、更に栓体10の栓体側面部13の一部とも融着していてもよい。
また脚部22は、栓体10に対して圧力を与えている。実際は、後述の製造方法などを採用し、上金型50が栓体10に圧力を与えている状態で脚部22の成形を行うと、該脚部22がその加圧状態を維持したまま外枠体側周部21及び栓体10の両方と融着されるので、該上金型50を取り除いた後では、結果的に、該脚部22が栓体10に対して圧力を与えることになるのである。
【0029】
栓体10が脚部22によってどの程度の圧力を受けているかを直接調べることは困難であるが、栓体10の接液面12が圧力を与えられないで平面だった状態から該圧力によってどの程度変形したかを調べることが一つの目安になると考えられる。本発明においては、図1の状態における栓体10の概略図である図8(a)にて例示した栓体10と外枠体脚部22との下方の接触端の高さと接液面12の円中心部における高さの差である突出量h(絶対値)が0.1〜3.0mmであることが好ましい。突出量hが小さすぎるということは、栓体10に圧力が十分与えられていないことを現しており、本発明の効果を十分に発揮できない。
【0030】
脚部上部221は、栓体10と融着する部位であるので、栓体10に与える圧力の保持能力を維持するには、当該部位が広いほうが好ましい。具体的には図8(a)及び図1の状態における外枠体脚部22の概略図である図8(b)で示したように、本発明の医療用キャップの垂直断面において、栓体10と融着している部位の融着長さsが1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることが更に好ましい。一方、脚部22の存在する位置の上からは針を刺すことができないので、当該部位をあまり広くしすぎると、針を刺すことのできる位置が制限されてしまい、使用上の問題が生じる。これを回避するためには、図8(a)及び図8(b)で示したように、栓体10に融着する脚部22の位置は、本発明の医療用キャップの垂直断面において、栓体側面部13から円中心方向に水平方向の長さwを8mm以内とすることが好ましい。
【0031】
(成形方法)
上記医療用キャップの成形は、下記の方法によれば効率よく行うことができる。例として、栓体10の接液面12の中心を含む位置に、柱状の突出部14を有する様態の医療用キャップの成形について説明する。まず、栓体10を、円筒状の外枠体側周部21の内部にインサートしキャップ成形中間体30を得る。このとき必ずしも栓体10の円周径を外枠体側周部21の内周径よりも大きく設定する必要はないので、該インサート作業は、一般的な方法で行うことができる。なお、外枠体側周部21の成形は、射出成形法等公知の成形方法が利用できる。
【0032】
得られたキャップ成形中間体30は、図9(a)に示したように、天地を逆にした状態で、下金型40にて保持される。縦型成形機を例に取ると、金型は一般的に、下金型(固定された金型)と上金型(移動可能な金型)を組み合わせた際に、その空間部分がキャビティになるように、空間部分を成形体形状の型の形状とするのであるが、本発明の上金型50では、図10(a)や図10(b)に示したように、リング状突起51を有する上金型50を用いる。すなわち円中心付近にキャビティにならない空間を設けるのである。かかる形状の上金型50によって、前記柱状突出部14の底面の周縁近傍が押し下げられる圧力を受けると、図9(b)に示したように、栓体10の接液面12は、円中心方向へ下方に凸の傾斜を持つように変形する。このように栓体10の変形を維持したまま該上金型50のリング状突起51の外側から前記外枠体脚部22の成形を行うと、脚部22は圧力が加えられた状態の栓体10のまま、外枠体脚部22と前記外枠体側周部21とを前記融着部位23において融着させると同時に、脚部22の前記上部(なお、キャップ成形中間体30は天地を逆に置かれるため、前記上部とは、図9(b)では脚部が成形されるキャビティの下方側である。)の少なくとも一部と前記接液面12周縁部が融着される。その後、図9(c)に示したように、上金型50を外しても、脚部22、側周部21及び栓体10が一体化された医療用キャップの栓体10は、前記外枠体脚部22から圧力を受けた状態で保持されている。
【0033】
なお、図9(b)では、上金型50のリング状突起51によって、柱状突出部14の底面の周縁近傍が押し下げられている様態を示したが、接液面12の周縁近傍が押し下げられてもよいし、また柱状突出部14を設けない様態の場合も、接液面12の周縁近傍が押し下げられればよい。
【0034】
上金型50のリング状突起51は、図10(a)に示したように、一の連続するリング状突起としても良いし、図10(b)に示したように、円周上に高さの揃った複数のピンを立て、全体としてリング状突起としてもよい。
【0035】
上金型50のリング状突起51の好ましい高さは、0.5〜4.0mmであり、幅は0.2〜3.0mmである。リング状突起51の高さが低すぎると、栓体接液面12の円中心方向へ下方に凸の傾斜が制限されてしまい、本発明の奏する効果が得られにくくなる。またリング状突起51の幅が広くなりすぎても同様の弊害が生じる。一方、リング状突起51の高さを高くしすぎると型締めができなくなってしまい、リング状突起51の幅を狭くしすぎると金型の強度的な問題が生じる。
【0036】
なお、前記キャップ成形中間体を、針刺面11を上にした状態で保持することができれば、前記上金型と前記下金型の役割を入れ替えることで、本発明の医療用キャップを成形することもできる。
【0037】
なお、上記脚部22の成形は、二色成形法であり、公知の成形方法を用いることができるが、射出成形法によることが簡便である。
【0038】
(使用方法)
本発明のキャップを使用する際には、薬液を針で取り出すタイプのなんらかの容器に取り付けて用いる。また、最低限、薬液を収容するボトル本体と薬液を針で取り出す取出部とを有している輸液ボトルにおいて、本発明のキャップをその取出部とした輸液ボトルとすることができる。このことにより、当該輸液ボトルの密閉性を向上させることができる。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
外枠体側周部に栓体をインサートしたキャップ成形中間体を下金型に天地逆向きでセットし、図10(a)に示した様態のリング状突起を有する上金型を用いて、射出成形により外枠体を成形する二色成形法にて、図1に示した様態の実施例1の医療用キャップを成形した。なお栓体は、接液面の中心を含む位置に、柱状の突出部を有する、下に凸の形状をしており、熱可塑性エラストマー材料としてはスチレン系エラストマーを使用した。外枠体の材料としては、側周部、脚部ともにポリオレフィンを使用した。また、栓体はコンプレッション成形法、外枠体側周部は、射出成形法にて成形を行ったものを使用した。
【0040】
(比較例1)
実施例1と同様の成形中間体を用いて、これを実施例1と同様に下金型にセットして、実施例1の成形で使用したリング状突起に代えて、円柱状突起を有する上金型を用いて、射出成形により外枠体を成形する二色成形法にて、前記栓体が前記外枠体脚部から圧力を受けていない、図11に示した様態の比較例1の医療用キャップを成形した。
【0041】
(穿刺針の保持力試験)
実施例1及び比較例1の医療用キャップそれぞれ40サンプルを用意し、栓体に針を刺したときの穿刺針の保持力について調べた。各医療用キャップを引っ張り圧縮試験機にセットし、医療用キャップの栓体の中央部に、前記試験機に取り付けた下記の穿刺針を垂直に突き刺した後、該穿刺針を200mm/min.の速度で上昇させ、該穿刺針が前記栓体から抜ける時の力(単位:kgf)を測定した。穿刺針としては16G金属針とプラスチック針を用いて、それぞれ20サンプルずつ試験を行い、針の種類ごとに最大値、最小値及び平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
(穿刺針の液漏れ試験)
実施例1及び比較例1の医療用キャップについて、(1)針抜後液漏れ試験と(2)混注作業後液漏れ試験を行った。
(1)針抜後液漏れ試験
滅菌した実施例1及び比較例1の医療用キャップを、それぞれ試験用圧力缶体に取り付けた。取り付けた医療用キャップに対し、その中心付近である点滴部位16(図13の栓体の針刺面概要図参照)に、連結管70(商品名「TC-00503B」テルモ株式会社製)を穿刺し、4時間放置した。その後抜針し、抜針直後から30秒の間に液漏れするかを調べた。さらに30秒を超えて液漏れが続く医療用キャップについては、前記30秒の間に滴下した量を調べた。(試験(1)−A)。
また、穿刺する器具を輸液セット(商品名「JY-A200CN」株式会社ジェイ・エム・エス製)に変更した以外は、前記試験(1)−Aと同様の方法で、抜針直後の液漏れ量を測定した(試験(1)―B)。
【0044】
図12(a)には、試験用圧力缶体に取り付けられた医療用キャップの概略断面図を示した。また、図12(b)では、取り付けられた医療用キャップに、連結管を穿刺し、上記(1)―Aの液漏れ試験を行っている様子を示した概略断面図である。
【0045】
上記(1)―A、及び(1)―Bの液漏れ試験の結果を表2に示す。サンプル数はそれぞれの試験で、実施例1が200、比較例1が200である。また評価基準は次のとおりである。
A:液漏れなし
B:水滴の発生が認められるが、滴下はなし
C:滴下するが、30秒以内に滴下が終了する
D:30秒を超えて滴下があり、かつ前記30秒間における滴下量が2.0g未満である
E:30秒を超えて滴下があり、かつ前記30秒間における滴下量が2.0g以上である
【0046】
【表2】

【0047】
(2)混注作業後液漏れ試験
滅菌した実施例1及び比較例1の医療用キャップを、それぞれ図12(a)に示したような試験用の圧力缶体に取り付けた。取り付けた医療用キャップに対し、その周縁付近である混注部位17(図13の栓体の針刺面概要図参照)に、シリンジに水10mlを入れた18G注射針を垂直に穿刺し、その状態から、およそ30°斜めにこじった状態で、シリンジ中の水を、3回注入吸引を繰り返してから垂直方向に戻して抜針した。更に、前記作業を新しい針に取り替えて、もう一度繰り返し、2回目の抜針直後から1時間の間の液漏れ量を測定した。
【0048】
上記(2)の液漏れ試験の結果を表3に示す。サンプル数は、実施例1が200、比較例1が200である。また評価基準は次のとおりである。
A:水滴発生なし
B:水滴の発生が認められるが、滴下はなし
C:1〜3滴滴下する
D:滴下量が2.0g未満である
E:滴下量が2.0g以上である
【0049】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の医療用キャップは、密閉性を要求される薬液ボトルや輸液ボトルのキャップとしての用途の他にも、薬瓶、採血瓶等医療分野に用いられる容器のキャップとしても用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の医療用キャップの一様態を示した垂直断面概略図。
【図2】本発明の医療用キャップの別の様態を示した垂直断面概略図。
【図3】本発明の医療用キャップの別の様態を示した垂直断面概略図。
【図4】本発明の医療用キャップの別の様態を示した垂直断面概略図。
【図5】本発明の医療用キャップの別の様態を示した垂直断面概略図。
【図6】本発明の医療用キャップの別の様態を示した垂直断面概略図。
【図7】本発明の医療用キャップの別の様態を示した垂直断面概略図。
【図8(a)】図1のキャップの状態における栓体の概略図。
【図8(b)】図1のキャップの状態における外枠体脚部の概略図。
【図9(a)】図1のキャップの製造工程(融着成形前)を示した垂直断面概略図。
【図9(b)】図1のキャップの製造工程(融着成形中)を示した垂直断面概略図。
【図9(c)】図1のキャップの製造工程(融着成形終了時)を示した垂直断面概略図。
【図10(a)】上金型の概略斜視図。
【図10(b)】別の様態である上金型の概略斜視図。
【図11】参考例の医療用キャップの様態を示した垂直断面概略図。
【図12(a)】試験用圧力缶体に取り付けられた医療用キャップの概略断面図。
【図12(b)】穿刺針の液漏れ試験(1)―Aの様子を示す概略断面図。
【図13】医療用キャップ栓体針刺し面の概略図。
【符号の説明】
【0052】
10 栓体
11 栓体針刺面(上底部)
12 栓体接液面(下底部)
13 栓体側面部
14 (接液面側)栓体突出部
15 栓体突出部側面部
16 点滴部位
17 混注部位
20 外枠体
21 外枠体側周部
211 側周部の内壁
22 外枠体脚部
221 脚部上部
23 融着部位
30 成形中間体
40 下金型
50 上金型
51 上金型のリング状突起
60 試験用圧力缶体
70 連結管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマー樹脂の栓体と、合成樹脂の外枠体とからなる医療用キャップにおいて、
前記栓体は、針刺面、接液面及び前記針刺面と前記接液面とに挟まれた側面部を有し、
前記外枠体は、少なくとも上方に位置する側周部と、下方に位置し、前記側周部との融着部位を持つ脚部とを具備し、
前記側周部は、その内壁において、前記栓体の側面部を側面方向から非融着状態で接触することで前記栓体を保持し、
前記脚部は、その上部の少なくとも一部で、前記栓体接液面の周縁部と融着されており、
前記融着部位は、前記栓体の接液面の高さ或いはそれより上方の高さに位置し、
前記栓体の接液面が、円中心方向へ向かって凸の傾斜を有しており、
前記栓体が、前記外枠体脚部から圧力を受けた状態で保持されている医療用キャップ。
【請求項2】
前記栓体の接液面の中心を含む位置に、柱状の突出部を有する請求項1記載の医療用キャップ。
【請求項3】
前記栓体の針刺面の周縁近傍に、リング状の突出部を有する請求項1記載の医療用キャップ。
【請求項4】
請求項1記載の医療用キャップを製造する成形方法であって、
前記外枠体側周部に前記栓体がインサートされたキャップ成形中間体を作製し、
前記キャップ成形中間体は、針刺面を下にした状態で、下金型で保持され、
上金型は、リング状突起を有し、
前記キャップ成形中間体は、前記上金型によって、前記栓体接液面の周縁近傍が押し下げられた状態のまま、該上金型のリング状突起の外側から、前記外枠体脚部の成形が行われ、
前記外枠体脚部の成形によって、前記栓体が、前記外枠体脚部から圧力を受けた状態のままで、前記外枠体脚部と前記外枠体側周部とを前記融着部位において融着させるとともに、前記脚部の前記上部の少なくとも一部と前記栓体接液面周縁とも融着させる医療用キャップの成形方法。
【請求項5】
請求項1記載の医療用キャップを製造する成形方法であって、
前記外枠体側周部に前記栓体がインサートされたキャップ成形中間体を作製し、
前記キャップ成形中間体は、針刺面を上にした状態で、上金型で保持され、
下金型は、リング状突起を有し、
前記キャップ成形中間体は、前記下金型によって、前記栓体接液面の周縁近傍が押し上げられた状態のまま、該下金型のリング状突起の外側から、前記外枠体脚部の成形が行われ、
前記外枠体脚部の成形によって、前記栓体が、前記外枠体脚部から圧力を受けた状態のままで、前記外枠体脚部と前記外枠体側周部とを前記融着部位において融着させるとともに、前記脚部の前記上部の少なくとも一部と前記栓体接液面周縁とも融着させる医療用キャップの成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8(a)】
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【図8(b)】
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【図9(a)】
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【図9(b)】
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【図9(c)】
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【図10(a)】
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【図10(b)】
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【図11】
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【図12(a)】
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【図12(b)】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−72250(P2009−72250A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241831(P2007−241831)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(000225278)内外化成株式会社 (27)
【Fターム(参考)】