説明

医療用観察システム

【課題】患者に対する負担を抑えつつ体腔内の対象物を簡易な操作で採取するのに好適な医療用観察システムを提供すること。
【解決手段】医療用観察システムを、走査用光を伝送して射出端から射出する光ファイバと、第一の期間中、射出端から射出された走査用光が所定の走査範囲で被写体を走査するよう射出端近傍を振動させる光走査手段と、走査用光の被写体からの反射光を受光して画像信号を検出する画像信号検出手段と、射出端近傍の振動を減衰させる第二の期間中、該光ファイバ及び光走査手段を介して、所定の連続光を被写体に集光させることによって該被写体中の対象物を該光走査手段の焦点位置近傍にトラップして、所定の位置に移動させる光ピンセット手段と、所定の位置に押し付けられることによって対象物が付着する付着手段と、から構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、極細径の光ファイバの先端を共振させて被写体を光走査する走査型医療用プローブを用いて、被写体観察と対象物採取の両方を行う医療用観察システムに関する。
【背景技術】
【0002】
組織中の末梢細胞を採取する方法として、例えば特許文献1に記載されているように、腹部を小さく切開して針状の処置具を腹壁内部に挿入し、処置具を末梢細胞に命中させて引き抜くという経皮的な方法が知られている。この場合の処置具の操作は、X線画像診断装置や超音波画像診断装置を用いて腹壁内部を透視観察しながら行うこととなる。別の形態の細胞採取方法としては、腹部を切開して腹腔鏡を腹壁内部に挿入後、腹腔鏡を通じて針状の処置具を腹壁内部に挿入し、処置具を末梢細胞に命中させて引き抜くという方法が知られている。この形態の細胞採取方法では、腹腔鏡を用いて腹壁内部を直接観察しながら処置具を操作することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−316867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前者の細胞採取方法は、透視観察しながら(腹壁内部を直接観察できない状態で)処置具を操作する必要上、熟練した技術や経験が術者に求められる不都合が指摘される。後者の細胞採取方法は、処置具を挿入して通すチャンネルが腹腔鏡に不可欠であるから、腹腔鏡の径を細く設計することが難しく、患者に対する低侵襲性の実現に不利であるという問題がある。更に、何れの細胞採取方法においても腹部を切開する必要があり、患者に対する負担が大きいという問題がある。
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、患者に対する負担を抑えつつ体腔内の対象物を簡易な操作で採取するのに好適な医療用観察システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決する本発明の一形態に係る医療用観察システムは、所定の走査用光を射出する光源と、光源から射出された走査用光を伝送して射出端から射出する光ファイバと、第一の期間中、光ファイバの射出端から射出された走査用光が所定の走査範囲で被写体を走査するよう光ファイバの射出端近傍を振動させる光走査手段と、走査用光の被写体からの反射光を受光して画像信号を検出する画像信号検出手段と、光ファイバの射出端近傍の振動を減衰させる第二の期間中、該光ファイバ及び光走査手段を介して、所定の連続光を被写体に集光させることによって該被写体中の対象物を該光走査手段の焦点位置近傍にトラップして、所定の位置に移動させる光ピンセット手段と、所定の位置に押し付けられることによって、光ピンセット手段により移動した対象物が付着する付着手段とを有することを特徴としたシステムである。
【0007】
本発明に係る医療用観察システムを使用する場合、対象物が所定の場所に集められるため、処置具を精密に動かして対象物に正確に命中させるという熟練操作が不要である。術者は、対象物が特定の場所に集められた後、付着手段を被写体に押し付けるという簡単な操作で対象物を採取することができる。また、腹部切開等の必要がないため、患者に対する負担が大幅に軽減される。本発明に係る医療用観察システムにおいては、腹部切開等に代わり、撮像及び対象物採取のための光学構成(光ファイバ及び光走査手段)を口等から挿入することになる。しかし、この光学構成は、固体撮像素子や処置具用チャンネルといった寸法の大きい構成要素が無く細径である。従って、光学構成を挿入した際の患者に対する負担は、極めて少ない。
【0008】
ここで、所定の位置は、例えば光ファイバの振動が収束して停止する位置である。または、走査範囲の中心であってもよい。
【0009】
付着手段は、例えば、外的な負荷が無い状態で光走査手段の光路外に位置するように形成されており、被写体に押し付けられたときには変形して所定の位置を覆うように密着する構成を有している。
【0010】
本発明に係る医療用観察システムは、光走査手段を収容する枠体を更に有する構成としてもよい。この場合、付着手段は、蛇腹状チューブとゲル状の粘着剤で構成される。蛇腹状チューブは、例えば、その基端が枠体の先端付近の外壁全周を覆い被さるように接着固定されており、押し付け方向に伸縮可能に形成されている。ゲル状の粘着剤は、蛇腹状チューブの内壁の少なくとも一部の領域に塗布されたものである。
【0011】
本発明に係る医療用観察システムは、第一の期間中は走査用光を射出させて、第二の期間中は連続光を射出させるように光源を制御する光源制御手段を更に有する構成としてもよい。
【0012】
本発明に係る医療用観察システムは、画像信号検出手段による画像信号の検出タイミングに応じて、各該画像信号により表現される画像情報の画素配置を決定する画素配置決定手段と、決定された画素配置に従って各画像情報を空間的に配列して画像を作成する画像作成手段とを更に有する構成としてもよい。
【0013】
所定の連続光は、例えば走査用光よりも出力が高い光としてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、患者に対する負担を抑えつつ体腔内の対象物を簡易な操作で採取するのに好適な医療用観察システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態の医療用観察システムの構成を概略的に示す図である。
【図2】本発明の実施形態のプロセッサの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態の走査型医療用プローブの挿入可撓部先端の模式的な内部構造を示す側断面図である。
【図4】被写体上に形成されるスポットを説明するための図である。
【図5】タイミングTにおいて検出された画像情報と画素アドレスとの関係を説明するための図である。
【図6】本発明の実施形態の医療用観察システムを用いた末梢細胞の採取方法を説明するための図である。
【図7】別の実施形態のプロセッサの構成を示すブロック図である。
【図8】別の実施形態の医療用観察システムを用いた末梢細胞の採取方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の医療用観察システムについて説明する。
【0017】
図1は、本実施形態の医療用観察システム1の構成を概略的に示す図である。図1に示されるように、医療用観察システム1は、走査型医療用プローブ100を有している。走査型医療用プローブ100は、可撓性を有するアウターシース132によって外装された挿入可撓部130を有している。術者は、挿入可撓部130を先端(以下、「挿入可撓部先端130a」と記す。)側から患者の体腔内に直接挿入して、挿入可撓部先端130aを被写体近傍に導く。または、挿入可撓部先端130aを被写体近傍にスムーズに導くため、挿入可撓部130にガイドワイヤ等を添えて体腔内に挿入する。
【0018】
挿入可撓部130の基端には、走査型医療用プローブ100を操作するための手元操作部150が設けられている。挿入可撓部先端130aの根元付近は、手元操作部150による遠隔操作によって屈曲自在に構成されている。挿入可撓部先端130aの根元付近が屈曲して挿入可撓部先端130aの方向が変わることにより、走査型医療用プローブ100による撮影範囲が移動する。手元操作部150から延びたユニバーサルケーブル160の基端には、コネクタ部110が設けられている。
【0019】
なお、走査型医療用プローブ100に組み込まれている屈曲機構は、一般的な電子スコープの屈曲機構と同じ機構であり、手元操作部150の操作に連動した操作ワイヤの牽引によって挿入可撓部先端130aの根元付近を屈曲させるように構成されたものである。走査型医療用プローブ100の屈曲機構は、図面を簡略化する便宜上、各図においてその図示を省略する。
【0020】
医療用観察システム1は、プロセッサ200を有している。プロセッサ200は、走査型医療用プローブ100を駆動制御すると共に走査型医療用プローブ100によって取得される観察光に基づき画像信号を生成する信号処理装置と、自然光の届かない体腔内に走査型医療用プローブ100を通じて走査光を照射する光源装置とを内蔵した一体型のプロセッサである。なお、別の実施形態では、信号処理装置と光源装置とを別体で構成してもよい。プロセッサ200は、コネクタ部210を有している。コネクタ部110がコネクタ部210に差し込まれることにより、走査型医療用プローブ100とプロセッサ200とが光学的にかつ電気的に接続される。
【0021】
図2は、プロセッサ200の構成を示すブロック図である。図2においては、走査型医療用プローブ100とプロセッサ200との接続関係等を明確にするため、コネクタ部110の構成も模式的に示している。
【0022】
プロセッサ200は、被写体を走査するための光源としてR、G、Bの各波長に対応したレーザ光を発振するレーザ光源230R、230G、230Bを有している。なお、光源は、レーザ光源に限らず例えばLED(Light Emitting Diode)等の他の形態の光源としてもよい。
【0023】
プロセッサ200は、該プロセッサ200の各回路の信号処理タイミング等を統括的に制御するタイミングコントローラ240を有している。タイミングコントローラ240は、光源ドライバ232R、232G、232Bの各ドライバ回路に所定の変調制御信号を出力する。光源ドライバ232R、232G、232Bはそれぞれ、入力した変調制御信号に従ってレーザ光源230R、230G、230Bを直接変調する。具体的には、各ドライバ回路は、変調制御信号に従って同一振幅かつ同位相の電流を、対応するレーザ光源に流す。レーザ光源230R、230G、230Bは、R、G、Bの各波長に対応する同一強度のパルス光(以下、「Rパルス光」、「Gパルス光」、「Bパルス光」と記す。)を同期したタイミングで発振する。
【0024】
各レーザ光源から発振されたRパルス光、Gパルス光、Bパルス光は、光結合器234に入射する。光結合器234は、入射した各パルス光を位相を揃えた状態で結合して射出する。以下、説明の便宜上、光結合器234によって結合されたパルス光を「結合パルス光」と記す。
【0025】
光結合器234から射出された結合パルス光は、走査型医療用プローブ100が有するシングルモードファイバ112の入射端112aに入射する。シングルモードファイバ112は、コネクタ部110から挿入可撓部先端130aに亘って、挿入可撓部130の内部に収容されている。入射端112aに入射した結合パルス光は、シングルモードファイバ112内部を全反射を繰り返すことによって伝播する。
【0026】
図3は、挿入可撓部先端130aの模式的な内部構造を示す側断面図である。以降においては、走査型医療用プローブ100の構成を説明するにあたり、便宜上、走査型医療用プローブ100の長手方向をZ方向、Z方向に直交しかつ互いに直交する二方向をX方向、Y方向と定義する。この定義によれば、例えば図3は、走査型医療用プローブ100の中心軸AXを含むY−Z平面での挿入可撓部先端130aの断面図となっている。
【0027】
図3に示されるように、走査型医療用プローブ100には、固体撮像素子等の寸法の大きい部品が搭載されていない。走査型医療用プローブ100の挿入部分である挿入可撓部130の外径は、実質的にアウターシース132によって規定されており、固体撮像素子等を搭載する一般的な電子スコープの外径に比べて格段に細い。すなわち、走査型医療用プローブ100は、一般的な電子スコープに比べて、より一層の低浸襲性が達成されている。
【0028】
アウターシース132の内側には、アウターシース132より外径の細いインナーシース134が同軸に配置されている。アウターシース132の内壁とインナーシース134の外壁とが規定する円環状のスペースには、複数本の検出用ファイバ136が全周に亘って均一に配置されている。複数本の検出用ファイバ136は、終端側がコネクタ部110内部で束ねられており、単一の光ファイババンドル136Bを構成している。
【0029】
インナーシース134の内部には、支持体138が設けられている。シングルモードファイバ112の先端部112cは、支持体138の貫通穴に挿入され通されて片持ち梁の状態で支持されている。先端部112cの根元には、支持体138によって支持された二軸(X軸及びY軸)の圧電アクチュエータ140が接着されている。圧電アクチュエータ140は、一対のX軸用電極及び一対のY軸用電極を圧電体上に形成したものである。各X軸用電極及び各Y軸用電極は、終端がコネクタ部110内部に収容された電線(不図示)と接続されている。コネクタ部110とコネクタ部210とを接続させたとき、圧電アクチュエータ140は、電線を介してプロセッサ200のX軸ドライバ236X及びY軸ドライバ236Yに接続される。
【0030】
タイミングコントローラ240は、X軸ドライバ236X、Y軸ドライバ236Yの各ドライバ回路に所定の駆動制御信号を出力する。X軸ドライバ236Xは、駆動制御信号に従い、交流電圧Xを圧電アクチュエータ140のX軸用電極間に印加して、圧電体をX方向に共振させる。Y軸ドライバ236Yは、駆動制御信号に従い、交流電圧Xと同一周波数であって位相が直交する交流電圧Yを圧電アクチュエータ140のY軸用電極間に印加して、圧電体をY方向に共振させる。なお、交流電圧X、Yはそれぞれ、振幅が一定の割合で徐々に増加して、時間(X)、(Y)かけて実効値(X)、(Y)に達する電圧として定義される。
【0031】
シングルモードファイバ112の射出端112bは、圧電アクチュエータ140によるX方向、Y方向への運動エネルギーが合成されることにより、X−Y平面に近似する面(以下、「XY近似面」と記す。)上において中心軸AXを中心に渦巻状のパターンを描くように回転する。射出端112bの回転軌跡は、印加される電圧に比例して大きくなり、実効値(X)、(Y)の交流電圧が印加された時点で最も大きい径を有する円の軌跡を描く。
【0032】
結合パルス光は、圧電アクチュエータ140への交流電圧の印加開始直後から印加停止までの期間(つまり、時間(X)又は(Y)に相当する期間)、シングルモードファイバ112の射出端112bから射出され続ける。以下、説明の便宜上、この期間を「サンプリング期間」と記す。
【0033】
サンプリング期間の経過後、圧電アクチュエータ140への交流電圧の印加が停止して、シングルモードファイバ112の先端部112cの振動が減衰する。XY近似面上における射出端112bの円運動は、シングルモードファイバ112の先端部112cの振動の減衰に伴って収束し、所定時間後に中心軸AX上で停止する。以下、説明の便宜上、サンプリング期間が終了してから射出端112bが中心軸AX上に停止するまでの期間(より正確には、中心軸AX上での停止を保証するため、停止までに要する計算上の時間より僅かに長い期間)を「制動期間」と記す。一フレームに対応する期間は、サンプリング期間と制動期間で構成される。なお、制動期間を短縮するため、制動期間の初期段階に圧電アクチュエータ140に逆相電圧を印加して、制動トルクを積極的に加えてもよい。
【0034】
シングルモードファイバ112の射出端112bの前方には、集光光学系142が配置されている。射出端112bから射出された結合パルス光は、集光光学系142によって集光されて、被写体上にスポットSiを形成する。スポット径は、例えば数ミクロンオーダであり極めて小さい。
【0035】
図4に、被写体上に形成されるスポットSi(i=1〜n)を説明するための図を示す。走査型医療用プローブ100は、一枚の画像を得るべく、一サンプリング期間中、被写体上に渦巻パターンSPを描くようにn個のスポットSiをスポットS、S、S、・・・、Sn−2、Sn−1、Sの順に形成する。各スポットSiの間隔は、シングルモードファイバ112の射出端112bの運動速度や各レーザ光源の変調周波数等に依存して決まる。なお、渦巻パターンSPは、被写体上にパルス光で無く連続光を走査した場合を想定して描かれた仮想的な走査軌跡である。
【0036】
サンプリング期間中のXY近似面におけるシングルモードファイバ112の射出端112bの位置(軌跡)は、実験等を重ねた結果予め求められている。また、射出端112bの位置と、各位置で結合パルス光が射出された場合に被写体上でスポットSiが形成されるであろう撮影範囲(走査範囲)内における位置との関係も予め計算されている。更に、撮影範囲内におけるスポット形成位置と、各スポット形成位置からの反射パルス光を検出して画像化する際の画素位置との関係も予め計算されている。タイミングコントローラ240は、これらの既知情報に基づいて、X軸ドライバ236X、Y軸ドライバ236Yに対する制御(つまり、圧電アクチュエータ140に印加される交流電圧の制御)、及び光源ドライバ232R、232G、232Bに対する制御(つまり、サンプリング期間中における各レーザ光源の変調制御)のそれぞれをフレームレートに応じた周期で繰り返す。
【0037】
被写体上にスポットSiを形成した光の反射パルス光は、検出用ファイバ136の入射端136aに入射する。入射端136aに入射した反射パルス光は、検出用ファイバ136内部を全反射を繰り返すことによって伝播する。検出用ファイバ136(光ファイババンドル136B)の射出端136bは、コネクタ部110とコネクタ部210との連結部分を介してプロセッサ200の光分離器238に結合している。
【0038】
なお、光ファイババンドル136Bは、数十本程度(例えば80本)の検出用ファイバ136を束ねたものに過ぎない。そのため、光ファイババンドル136Bは、一般的な電子スコープやファイバスコープの光ファイババンドル(例えば数百〜千本の光ファイバを束ねた光ファイババンドル)と比べて遙かに径が細い。また、本実施形態において、検出用ファイバ136は最低限一本あればよい。検出用ファイバ136が一本の場合には、走査型医療用プローブ100をより一層小径化させることができる。
【0039】
光分離器238は、光ファイババンドル136Bからの反射パルス光をR、G、Bの各波長の反射パルス光に分離して、光検出器250R、250G、250Bに出力する。
【0040】
前述したように、結合パルス光は、単一のシングルモードファイバ112によって導光されて、被写体を照射する。そのため、被写体上で反射する反射パルス光の光量は、非常に少ない。このような微弱な光を確実にかつ低ノイズで検出するため、光検出器250R、250G、250Bの各光検出器には、光電子増倍管等の高感度光検出器が採用されている。
【0041】
光検出器250R、250G、250Bは、受光された各波長の反射パルス光を光電変換してアナログ電気信号を発生させて、後段の回路に出力する。各波長の反射パルス光に対応するアナログ電気信号は、サンプリング及びホールドされて、A/Dコンバータ252R、252G、252Bによりデジタル信号列に変換される。変換されたデジタル信号列は、DSP(Digital Signal Processor)254に入力する。
【0042】
DSP254は、上記の既知情報に基づいて作成された、結合パルス光のスポットSiが形成される撮影範囲中の位置(別の側面によれば、画像を構成する画素のアドレス)と、各スポットSiからの反射パルス光が検出されるタイミングTとを関連付けた変換テーブルを保持している。DSP254は、変換テーブルを参照しつつ、各A/Dコンバータからのデジタル信号列を監視して、各タイミングTにおける各波長に対応する信号を各画素アドレスの画像信号(すなわち、A/Dコンバータ252Rからの信号をR色の輝度値、A/Dコンバータ252Gからの信号をG色の輝度値、A/Dコンバータ252Bからの信号をB色の輝度値)として検出する。DSP254は、検出された各画素アドレスの画像信号をフレームメモリFMにバッファリングする。
【0043】
図5を用いて、各タイミングTにおいて検出された画像信号と画素アドレスとの関係を具体的に説明する。ここでは、説明の便宜上、最終的に生成される画像を19×19からなる画素配置で構成される簡易な画像に置き換える。DSP254は、変換テーブルを参照して、スポットSに対応するタイミングtにおける各波長に対応する画像信号を検出する。DSP254は、検出された各波長に対応する画像信号を画素アドレス(10,10)に関連付けてフレームメモリFMにバッファリングする。以降のスポットS、S・・・に対応するタイミングT、T・・・における各波長に対応する画像信号も順次検出して、画素アドレス(9,9)、(9,11)・・・に関連付けてフレームメモリFMに順次バッファリングする。フレームメモリFMには、DSP254によって生成されたスポットS〜Sに対応する一フレーム分(全画素)の画像信号がバッファリングされる。
【0044】
DSP254は、各波長に対応する画像信号を有さない画素アドレスについて、例えば所定のマスキングデータを生成してフレームメモリFMにバッファリングする。DSP254は、タイミングコントローラ240によるタイミング制御に従い、フレームメモリFMにバッファリングされた画像信号を読み出して、エンコーダ256に出力する。
【0045】
エンコーダ256は、入力した画像信号を所定の規格に準拠したビデオ信号に変換してモニタ300に出力する。これにより、R色、G色、B色からなる被写体のカラー画像がモニタ300に表示される。モニタ300に表示される画像のホワイトバランスや明るさ等は、操作パネル260を操作することによって調節することができる。
【0046】
ところで、従来知られる医療用観察システムでは、制動期間は、シングルモードファイバの振動を収束させて射出端を初期位置に復帰させるためだけの期間に過ぎない。しかし、本実施形態の医療用観察システム1では、対象物(例えば肺の末梢細胞)を採取するため、この制動期間を有効利用する。なお、制動期間を利用した末梢細胞の採取のための処理は、操作パネル260の設定操作によって実行の可否が選択可能である。
【0047】
図6(a)〜図6(c)は、医療用観察システム1を用いた末梢細胞の採取方法を説明するための図であり、図3と同じく、挿入可撓部先端130aの模式的な内部構造を側断面図で示している。末梢細胞は、図6(a)〜図6(c)の各図中、黒点で示される。図6(a)〜図6(c)の各図に示されるように、アウターシース132の筒先には、蛇腹状チューブ144の基端が筒先全周に亘って覆い被さるように接着固定されている。蛇腹状チューブ144は、中心軸AX方向に伸縮可能な蛇腹形状を有している。蛇腹状チューブ144の内壁の一部領域には、ゲル状の粘着剤146が塗布されている。図6(a)に示されるように、蛇腹状チューブ144及び粘着剤146は、被写体に接触していない初期状態において結合パルス光及び反射パルス光の光路外に位置するように設計されており、結合パルス光及び反射パルス光を遮蔽しない。
【0048】
医療用観察システム1においては、末梢細胞を採取する前処理として、走査範囲内に散在する末梢細胞を光ピンセットの原理を利用して制動期間中に特定の場所に引き寄せる。ここで、光ピンセットとは、対象物(例えば数十nmから数十μm程度の微小な誘電体粒子や細胞等)にレーザ光を照射することによって対象物をトラップする技術である。光ピンセット技術を用いて対象物をトラップするためには、先ず、対物レンズによって所定波長(例えば対象物の大きさ(長さ)に比べて小さい(短い)波長)のレーザ光を対象物近傍に集光させる。対象物近傍に集光されたレーザ光は、対象物表面において一部が反射して一部が屈折する。このとき対象物近傍に集光されるレーザ光、すなわち粒子である光子は、運動量を有している。このため、反射又は屈折による光子の運動量の変化が運動量保存則によって対象物をトラップする力(以下、「トラップ力」と記す。)に変換される。トラップ力は、基本的に、対物レンズの焦点位置近傍に引き寄せる方向の力として対象物に作用する。従って、対象物は、対物レンズの焦点位置近傍にトラップされる。そして、レーザ光の照射位置を移動させると、対物レンズの焦点位置も共に移動する。このときもトラップ力は、対物レンズの焦点位置近傍に向かって作用し続けている。よって、対象物もトラップ力の作用によって移動する。すなわち光ピンセット技術を利用すると、対象物をトラップするだけでなく対象物を自在に操作する(移動させる)ことができる。
【0049】
タイミングコントローラ240は、光ピンセット技術を利用した具体的前処理として、制動期間中(より正確には、シングルモードファイバ112の減衰が開始してから射出端112bが中心軸AX上で停止するまでの期間)、レーザ光源230R、230G、230Bの何れか一つを制御して連続光(以下、「トラップ用レーザ光」と記す。)を発振させる。何れの光源を発振制御するかは、例えばレーザ光の照射による生体組織への影響やトラップ対象の大きさを考慮して決められる。トラップ用レーザ光の出力は、サンプリング期間中の出力より高く、例えば数mW〜10mW程度が望ましい。なお、トラップ用レーザ光の照射期間中は、図6(a)に示されるように、蛇腹状チューブ144又は粘着剤146と被写体との接触を避けて、トラップ用レーザ光の光路を確保する。
【0050】
変形例として、トラップ用レーザ光を発振する専用レーザ光源、及び被写体で反射したトラップ用レーザ光を検出する光検出器を別途備えてもよい。専用レーザ光源には、例えば光ピンセット技術で一般的に用いられる波長1064nmのNd:YAGレーザが想定される。この専用レーザ光源、光検出器はそれぞれ、シングルモードファイバ112、光ファイババンドル136Bの途中に光カップラを設けて結合する。または、光ファイバパッチコードをシングルモードファイバ112と光結合器234との間に、光ファイババンドル136Bと光分離器238との間にそれぞれに追加配線して、各光ファイバパッチコードの途中に光カップラを設けて結合してもよい。
【0051】
トラップ用レーザ光は、制動期間中、図4に示される渦巻パターンSPと同様の軌跡をサンプリング期間中とは逆に、外周から内周に向かって描くように被写体を走査する。走査範囲内に散在する末梢細胞は、トラップ用レーザ光によってトラップされて走査軌跡の外周から内周に移動して、走査軌跡の終点近傍(図4中スポットS近傍であって、以下、「細胞収集位置」と記す。)に集められる。このときのシングルモードファイバ112の制動期間中の振動は、自然に減衰させてもよく、若しくは、圧電アクチュエータ140の駆動によって精密にコントロールしてもよい。後者の場合、トラップ用レーザ光を所望の軌跡で走査することによって、末梢細胞を走査範囲内の所望の位置に集めることができる。
【0052】
図6(b)に示されるように、末梢細胞を細胞収集位置に集めた段階で走査型医療用プローブ100を中心軸AX方向に押し出して被写体に押し付けると、蛇腹状チューブ144が中心軸AX方向に折り畳まれる又は圧縮される。これと同時に、粘着剤146は、蛇腹状チューブ144上の塗布面積の圧縮と被写体への押し付けによって、被写体の表面方向に潰れるように広がりながら被写体に密着する。粘着剤146は、走査型医療用プローブ100の被写体への押し付け時に、細胞収集位置を覆うのに十分な大きさと位置を持つように設計されている。従って、細胞収集位置に集められた末梢細胞は、被写体に押し付けられた粘着剤146に付着する。図6(c)に示されるように走査型医療用プローブ100を被写体から離して、その後、体外に抜き出すことによって、粘着剤146に付着した末梢細胞が採取されることとなる。
【0053】
本実施形態によれば、対象物が特定の場所に集められるため、処置具を精密に動かして対象物に正確に命中させるという熟練操作が不要である。術者は、対象物が特定の場所に集められた後、走査型医療用プローブ100を用いて直接視認しながら、走査型医療用プローブ100を被写体に押し付けるという簡単な操作で対象物を採取することができる。例えば被写体の脈動によって対象物が移動した場合も、術者は、対象物が画面の大凡中央に位置するように走査型医療用プローブ100の向きを操作した後、走査型医療用プローブ100を被写体に押し付けるという簡単な操作で対象物を採取することができる。走査型医療用プローブ100による対象物の発見は、対象物が特定の場所に集められているため容易である。
【0054】
また、本実施形態によれば、腹部等を切開する必要がないため、患者に対する負担が大幅に軽減される。医療用観察システム1においては、腹部切開等の代わりに走査型医療用プローブ100を口等から挿入することになる。しかし、走査型医療用プローブ100は、固体撮像素子や処置具用チャンネルといった寸法の大きい構成要素が無く細径である。このため、走査型医療用プローブ100を挿入した際の患者に対する負担は、極めて少ない。
【0055】
以上が本発明の実施形態の説明である。本発明は、上記の構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば粘着剤146は、蛇腹状チューブ144内の一箇所に限らず複数箇所に塗布されてもよい。
【0056】
図7は、別の実施形態のプロセッサ200zの構成を示す、図2と同様のブロック図である。図8は、別の実施形態における末梢細胞の採取方法を説明するための図であり、挿入可撓部先端130azの模式的な内部構造を示す、図6(a)と同様の側断面図である。別の実施形態において、前述の実施形態の構成と同一の又は同様の構成には同一の又は同様の符号を付して説明を省略する。
【0057】
別の実施形態の医療用観察システムは、共焦点画像を撮像するように構成されている。具体的には、タイミングコントローラ240は、光源ドライバ232zを介してレーザ光源230zを変調制御する。レーザ光源230zの発振周波数には、例えば被写体に対して励起光として作用する帯域が選択されている。
【0058】
サンプリング期間中は、各画素に対応するパルス光がレーザ光源230zから発振される。レーザ光源230zが発振したパルス光は、シングルモードファイバ112zを介して集光光学系142zに入射する。ここで、集光光学系142zは、シングルモードファイバ112zの射出端112bzが点光源として機能すると同時に、被写体における照射光束の集光点からの反射光のみを抽出する共焦点ピンホールとしても機能するように設計されている。渦巻パターンSPの内周から外周に向かって二次元走査された被写体からの反射光(蛍光)は、射出端112bzに入射する。射出端112bzに入射した蛍光は、シングルモードファイバ112z内部を伝播して、光分離器238zによってパルス光(励起光)と分岐した光路に伝播する。光路分岐された蛍光は、光検出器250zによって検出されてアナログ電気信号に変換される。A/Dコンバータ252zは、アナログ電気信号をデジタル信号列に変換する。DSP254は、検出タイミングに応じた画素アドレスの割当てをデジタル信号列に対して行い、各画素に対応する一フレーム分の画像信号をフレームメモリFMにバッファリングする。エンコーダ256は、バッファリングされた画像信号を所定の規格に準拠したビデオ信号に変換してモニタ300に出力する。これにより、共焦点画像がモニタ300に表示される。
【0059】
一方、タイミングコントローラ240は、制動期間中、光源ドライバ232z’を介してレーザ光源230z’を駆動制御する。レーザ光源230z’からは、トラップ用レーザ光(連続光)が射出される。トラップ用レーザ光は、シングルモードファイバ112z、集光光学系142zを介して、渦巻パターンSPの外周から内周に向かって被写体を二次元走査する。このため、走査範囲内に散在する末梢細胞は、トラップ用レーザ光によってトラップされて走査軌跡の外周から内周に移動して、細胞収集位置に集められる。術者は、前述の実施形態と同様に、末梢細胞を細胞収集位置に集めた後、走査型医療用プローブ100を被写体に押し付けるという簡単な操作を行うことで末梢細胞を採取することができる。なお、トラップ用レーザ光の反射光は、光路中に配置された所定の光学フィルタによって遮断されるため、光検出器250zによって検出されることはない。
【0060】
別の実施形態においては、インナーシース134と検出用ファイバ136を構成要素から省くことができるため、走査型医療用プローブ100を更に細径化させることができる。このため、走査型医療用プローブ100を体腔内に挿入した際の患者に対する更なる負担軽減が達成される。
【符号の説明】
【0061】
1 医療用観察システム
100 走査型医療用プローブ
144 蛇腹状チューブ
146 粘着剤
200 プロセッサ
240 タイミングコントローラ
254 DSP

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の走査用光を射出する光源と、
前記光源から射出された走査用光を伝送して射出端から射出する光ファイバと、
第一の期間中、前記射出端から射出された走査用光が所定の走査範囲で被写体を走査するよう前記射出端近傍を振動させる光走査手段と、
前記走査用光の前記被写体からの反射光を受光して画像信号を検出する画像信号検出手段と、
前記射出端近傍の振動を減衰させる第二の期間中、該光ファイバ及び前記光走査手段を介して、所定の連続光を前記被写体に集光させることによって該被写体中の対象物を該光走査手段の焦点位置近傍にトラップして、所定の位置に移動させる光ピンセット手段と、
前記所定の位置に押し付けられることによって前記移動した対象物が付着する付着手段と、
を有することを特徴とする医療用観察システム。
【請求項2】
前記所定の位置は、前記光ファイバの振動が収束して停止する位置であることを特徴とする、請求項1に記載の医療用観察システム。
【請求項3】
前記所定の位置は、前記走査範囲の中心であることを特徴とする、請求項1又は請求項2の何れかに記載の医療用観察システム。
【請求項4】
前記付着手段は、外的な負荷が無い状態で前記光走査手段の光路外に位置するように形成されており、前記被写体に押し付けられたときには変形して前記所定の位置を覆うように密着することを特徴とする、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の医療用観察システム。
【請求項5】
前記光走査手段を収容する枠体、
を更に有し、
前記付着手段は、
基端が、前記枠体の先端付近の外壁全周を覆い被さるように接着固定された、押し付け方向に伸縮可能な蛇腹状チューブと、
前記蛇腹状チューブの内壁の少なくとも一部の領域に塗布されたゲル状の粘着剤と、
を有することを特徴とする、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の医療用観察システム。
【請求項6】
前記第一の期間中は前記走査用光を射出させて、前記第二の期間中は前記連続光を射出させるように前記光源を制御する光源制御手段、
を更に有することを特徴とする、請求項1から請求項5の何れか一項に記載の医療用観察システム。
【請求項7】
前記画像信号検出手段による前記画像信号の検出タイミングに応じて、各該画像信号により表現される画像情報の画素配置を決定する画素配置決定手段と、
前記決定された画素配置に従って各前記画像情報を空間的に配列して画像を作成する画像作成手段と、
を更に有することを特徴とする、請求項1から請求項6の何れか一項に記載の医療用観察システム。
【請求項8】
前記所定の連続光は、前記走査用光よりも出力が高い光であることを特徴とする、請求項1から請求項7の何れか一項に記載の医療用観察システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−72732(P2011−72732A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229926(P2009−229926)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】