説明

医療用X線装置

【課題】汎用性が高く、X線の照射量を低減させて正確な重ね合わせ(ロードマッピング)を行うことができる医療用X線装置を提供することを目的とする。
【解決手段】透視画像Afと投影方向(A方向)が一致した造影剤投与により得られるマップ画像Amを当該透視画像Afに重ね合わせて生成された画像と、当該マップ画像Amに対して投影方向に視差をつけた投影方向で造影剤投与により得られるマップ画像Bmを用いて3D表示する表示部14を備える。その結果、特別なステレオX線管球は不要であり、汎用性が高く、X線の照射量を低減させて正確な重ね合わせ(ロードマッピング)を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、透視画像をリアルタイムに表示して診断・治療を行う医療用X線装置に係り、特に、造影剤投与により生成するマップ画像を透視画像に重ね合わせて表示する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の血管の診断の場合には、治療を行うためにX線透視を行い(すなわち透視画像をリアルタイムにモニタリングして)観察しながら、カテーテルやワイヤを目的部位まで血管中に挿入する。この際、血管の走行の様態を把握しやすくするために、事前に造影剤が投与された血管像(マップ画像)とリアルタイムに表示された透視画像とを重ね合わせて表示する「ロードマッピング」と呼ばれる手法が広く実施されている。また、事前に造影剤を投与して収集した画像データを3次元再構成することにより生成される3次元画像に基づいて、透視画像の投影方向に合わせてマップ画像を作成する「3Dロードマッピング」と呼ばれる手法も広く行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−22754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまでは、上述のいずれの手法でも、重ね合わされる透視画像が一方向の投影像であるので、重ね合わせの対象となるマップ画像も、透視画像と投影方向が一致した同一の単一の投影像が採用されていた。このマップ画像は2次元画像であり、たとえ「3Dロードマッピング」手法において基となるデータが3次元画像であっても、重ね合わせの対象となるマップ画像は単一の投影方向からの2次元画像となる。したがって、(手前方向も含めて)奥行き方向の情報は、このマップ画像だけでは得られない。
【0005】
また、ステレオグラム画像を得る装置として、2つの焦点を有した1つの管球(X線管)を設置したタイプがある。これを適用すれば、左右両眼用の透視画像(ステレオグラム透視画像)をリアルタイムに表示することができる。パルスで焦点切り換えを行うことができ、左右交互でX線を切り換え照射しながらステレオグラム透視画像をリアルタイムに表示する。
【0006】
なお、2つの焦点を有した1つの管球の場合には、視差は通常の5°〜10°程度となり、ステレオグラムに適した画像が得られるよう設計されているが、2つの焦点を有した特別な管球を用意しなければならず、汎用的でない。
【0007】
しかも、一対の透視画像を得るために、左右それぞれでX線を照射しなければならず、X線の照射量が通常の2倍となり、被曝量が増大する。ましてや、被検体の血管中にカテーテルやワイヤを挿入しながら、通常の2倍の照射量でX線を被検体に照射して、透視画像をリアルタイムに表示するのは被検体に対しても肉体的な負担を強いることにもなる。さらには、左右両眼用の透視画像とマップ画像の各々とを正確に位置合わせする必要があり、高度な精度が要求される。
【0008】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、汎用性が高く、X線の照射量を低減させて正確な重ね合わせ(ロードマッピング)を行うことができる医療用X線装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記の問題を解決するために鋭意研究した結果、次のような知見を得た。
【0010】
すなわち、血管の走行の様態を把握しながら、カテーテルやワイヤを血管中に挿入する場合には、血管の分岐がカギとなる。血管が手前方向に分岐しているならばカテーテルやワイヤの先端を手前側に操作し、逆に血管が奥行き方向に分岐しているならばカテーテルやワイヤの先端を奥側に操作する。したがって、カテーテルやワイヤを描出する(リアルタイムにモニタリングされる)透視画像については、血管像に比較すると奥行き方向の情報の重要性は低いことが判明した。
【0011】
してみれば、(手前方向も含めて)奥行き方向の情報が必要なのは、むしろ造影剤投与により血管を描出するマップ画像の方である。したがって、ステレオグラムをマップ画像に適用すれば、透視画像と投影方向が一致した(造影剤投与により得られる)マップ画像、(投影方向が一致した)当該マップ画像に対して視差をつけた(造影剤投与により得られる)マップ画像の2つさえ事前に取得できればよい。さすれば、2つのマップ画像により例えば血管の分岐先のような奥行き方向の情報がわかり、リアルタイムにモニタリングされる透視画像については通常のX線の照射量のみですみ、特別なステレオX線管球を用意せずにロードマッピングを行うことができるという知見を得た。
【0012】
このような知見に基づくこの発明は、次のような構成をとる。
すなわち、この発明に係る医療用X線装置は、被検体にX線を照射するX線照射手段と、被検体を透過したX線を検出するX線検出手段とを備え、検出されたX線に基づいて透視画像をリアルタイムに表示して診断・治療を行う医療用X線装置であって、前記透視画像と投影方向が一致した造影剤投与により得られる画像を前記透視画像に重ね合わせて表示するとともに、前記投影方向が一致した造影剤投与により得られる画像に対して投影方向に視差をつけた造影剤投与により得られる画像を表示する表示手段を備えることを特徴とするものである。
【0013】
[作用・効果]この発明に係る医療用X線装置によれば、透視画像をリアルタイムに表示して診断・治療を行う際に、下記のような表示手段を備えることに特徴がある。すなわち、透視画像と投影方向が一致した造影剤投与して得られる画像を当該透視画像に重ね合わせて表示するとともに、(投影方向が一致した造影剤投与により得られる)当該画像に対して投影方向に視差をつけた造影剤投与により得られる画像を表示する表示手段を備える。このような表示手段を備えることにより、上述の2つの(造影剤投与により得られる)画像さえ事前に取得していれば、例えば血管や胆管などの3次元情報(手前方向も含めた奥行き方向の情報)を表示することができ、リアルタイムに表示される透視画像については一方向の透視のみで実現できる。したがって、特別なステレオX線管球(2つの焦点を有した1つの管球からなるX線照射手段)は不要であり、1つのX線管からなる通常のX線照射手段のみを用意すればよく、汎用性が高い。また、ステレオX線管での2焦点(2方向)透視のための余分なX線の照射も不要となるので、リアルタイムにおいてX線の照射量を低減させることができ、X線の被曝の増大も伴わない。また、造影剤投与により得られる各画像において左右の視差を得るための相対角の誤差は立体視の度合いのみに影響するものなので高い精度は要求されない。よって、造影剤投与により得られる画像を透視画像に重ね合わせるための位置合わせについては、従来のように透視画像とそれの投影方向が一致した(造影剤投与により得られる)当該画像との位置合わせのみですみ、その位置合わせのみで正確な重ね合わせ(ロードマッピング)を行うことができる。
【0014】
これに対し、従来のようにステレオX線管球を用いて2方向について透視を行い、透視画像もステレオグラム表示しようとすると、各々の透視画像と(造影剤投与により得られる)画像の重ね合わせ精度だけでなく、透視画像での各方向間の角度と(造影剤投与により得られる)画像での各方向間の角度とを厳密に一致させる必要が生じ、各方向間の角度に対しても高い精度が必要となってしまう。
【0015】
上述した発明の一例(前者の一例)は、投影方向が一致した(造影剤投与により得られる)画像および視差をつけた(造影剤投与により得られる)画像を、造影剤投与により撮影したデータを再構成することにより得られる3次元画像データに基づいて生成する画像生成手段を備えることである。前者の一例の場合には、造影剤投与により得られる3次元画像データに基づいて、画像生成手段は2つの(造影剤投与により得られる)画像を生成するので、これらの画像に関しても余分なX線の照射が不要となり、これらの画像においてもX線の照射量を低減させることができ、X線の被曝の増大も伴わない。また、左右のこれらの画像の相対角度は規定値とすることができるので、術者が設定した投影方向に合わせて画像生成手段がこれらの画像の双方の方向を自動で演算して、これらの画像を生成すれば術者の負担を軽減することができる。また、後述する後者の一例とは異なり、造影剤投与により得られる3次元画像データを既に用意しているので、別の方向からの透視画像を得るために術者が装置を回転させて透視方向を変更したとしても、当該3次元画像データに基づいて、逐次、双方の画像を画像生成手段が生成することができる。
【0016】
上述した発明の他の一例(後者の一例)は、各々の方向から投影された造影剤投与により得られる画像を、投影方向が一致した(造影剤投与により得られる)画像および視差をつけた(造影剤投与により得られる)画像とすることである。後者の一例の場合には、上述した前者の一例と異なり、各々の方向から投影された造影剤投与により得られる画像がそれぞれの画像となるので、(造影剤投与により得られる)画像に関してはX線の照射量は通常の2倍程度になるが、リアルタイムに表示される透視画像に関しては通常のX線の照射量ですみ、透視画像もステレオ表示する場合(すなわちステレオX線管球により2方向透視を行う場合)と比較するとX線の照射量を低減させることができる。また、上述したように左右のこれらの画像の相対角度は規定値とすることができるので、術者が設定した投影方向に合わせて視差をつけた画像の方向を自動で演算して、演算された方向を、視差をつけた画像用の投影方向として自動的に装置の角度制御を行えば術者の負担を軽減することができる。
【0017】
上述したこれらの発明において、上述の表示手段は、透視画像と、投影方向が一致した(造影剤投与により得られる)画像を重ね合わせて生成される画像と、視差をつけた(造影剤投与により得られる)画像をそれぞれ左右眼用画像として3Dモニタに表示することである。視差をつけた画像をステレオグラム画像として表示することで、一対の画像を3次元的に表示(3D表示)する3Dモニタとして表示手段を構成することができる。
【0018】
3Dモニタ以外にも、上述の表示手段は、透視画像と、投影方向が一致した(造影剤により得られる)画像を重ね合わせて生成される画像と、視差をつけた(造影剤により得られる画像をそれぞれ左右眼用ステレオグラム画像として並べて表示してもよい。このように一対の画像を左右に並べて表示し、術者自身が立体視を行う形の表示も可能である。この構成であれば、上述した3Dモニタのような特殊な機器を必要とせずに、従来の装置構成(通常のモニタ)で実現することが可能である。
【発明の効果】
【0019】
この発明に係る医療用X線装置によれば、透視画像と投影方向が一致した造影剤投与により得られる画像を当該透視画像に重ね合わせて表示するとともに、当該画像に対して投影方向に視差をつけ、造影剤投与により得られる画像を表示する表示手段を備える。その結果、特別なステレオX線管球は不要であり、汎用性が高く、X線の照射量を低減させて正確な重ね合わせ(ロードマッピング)を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】各実施例に係るX線血管撮影装置の概略構成図およびブロック図である。
【図2】回転により視差を付与する方法を採用した場合の透視画像およびマップ画像の関係に関する概略図である。
【図3】平行移動により視差を付与する方法を採用した場合の透視画像およびマップ画像の関係に関する概略図である。
【図4】従来のロードマップ画像に対して、視差をつけたマップ画像を並べて表示したときの概略図である。
【図5】変形例に係る医療用X線装置の概略構成図である。
【実施例1】
【0021】
以下、図面を参照してこの発明の実施例1を説明する。
図1は、各実施例に係るX線血管撮影装置の概略構成図およびブロック図である。後述する実施例2も含めて、本実施例1では、医療用X線装置として、X線血管撮影装置を例に採って説明するとともに、造影剤投与により得られる画像として、血管を抽出するマップ画像(血管像)を例に採って説明する。
【0022】
本実施例1に係るX線血管撮影装置は、図1に示すように、被検体Mを載置する天板1に対して独立して動くように構成されている。X線血管撮影装置は、X線管2およびX線検出器3からなる映像系4を備えている。X線管2は、この発明におけるX線照射手段に相当し、X線検出器3は、この発明におけるX線検出手段に相当する。
【0023】
この他に、X線血管撮影装置は、一端でX線管2を保持し、他端でX線検出器3を保持するCアーム5を備えている。Cアーム5は、回転中心軸x方向に湾曲状に形成されている。Cアーム5は、Cアーム5自身に沿って被検体Mの体軸zの軸心周りに(矢印RA方向に)回転することで、Cアーム5に保持されたX線管2およびX線検出器3も同方向に回転することが可能である。さらに、Cアーム5は体軸zと直交する回転中心軸xの軸心周りに(矢印RB方向に)回転することで、X線管2およびX線検出器3も同方向に回転することが可能である。
【0024】
具体的には、Cアーム5は、床面に固定配置された基台6に、支柱7およびアーム保持部8を介して保持される。基台6に対して支柱7は、鉛直軸の軸心周りに(矢印RC方向)に回転可能で、この回転により支柱7に保持されたCアーム5ごと映像系4も同方向に回転することが可能である。また、支柱7に対してアーム保持部8を回転中心軸xの軸心周りに回転可能に保持することで、アーム保持部8に保持されたCアーム5ごと映像系4も同方向に回転することができる。また、アーム保持部8に対してCアーム5を被検体Mの体軸zの軸心周りに回転可能に保持することで、Cアームごと映像系4も同方向に回転することができる。
【0025】
さらに、X線血管撮影装置は、図1に示すように、X線検出器3で検出されたX線に基づいて各種の画像処理を行う画像処理部11と、画像処理部11で得られた各画像(本実施例1では造影剤投与により得られる3次元血管画像、3次元血管画像に基づくマップ画像)などのデータを書き込んで記憶するメモリ部12と、データや命令を入力する入力部13と、透視画像や血管像(マップ画像)を表示する表示部14と、これらを統括制御するコントローラ15とを備えている。その他にも、高電圧を発生して管電流や管電圧をX線管2に与える高電圧発生部などを備えているが、この発明の特徴部分あるいは特徴部分に関連する構成でないので、図示を省略する。画像処理部11は、この発明における画像生成手段に相当し、表示部14は、この発明における表示手段に相当する。
【0026】
画像処理部11は、透視時には、X線検出器3で検出されたX線に基づく投影像を透視画像として、コントローラ15を介して、表示部14に送り込んで、透視画像を表示部14にリアルタイムに表示する。透視画像を表示部14にリアルタイムに表示することにより、オペレータ(術者)は透視画像をリアルタイムにモニタリングする。
【0027】
本実施例1では、透視時よりも事前に造影剤を被検体Mに投与した状態で、映像系4を各方向に動かして収集された複数の投影像に基づいて、画像処理部11は、3次元再構成して造影剤投与による3次元血管画像を生成する。さらに、本実施例1では、その3次元血管画像に基づいて、後述するマップ画像Am,Bm(図2を参照)を画像処理部11は生成する。これらの3次元血管画像やマップ画像Am,Bmを、コントローラ15を介して、メモリ部12に書き込んで記憶する。具体的な3次元再構成の手法(演算手法)や、3次元血管画像に基づくマップ画像Am,Bmの具体的な生成の手法(演算手法)については、この発明の特徴部分でないので、説明を省略する。
【0028】
メモリ部12は、コントローラ15を介して、画像処理部11で生成された3次元血管画像やマップ画像Am,Bmなどのデータを書き込んで記憶し、適宜必要に応じて読み出して、コントローラ15を介して、これらのデータを表示部14に送り込んで表示する。メモリ部12は、ROM(Read-only Memory)やRAM(Random-Access Memory)やハードディスクなどに代表される記憶媒体で構成されている。本実施例1では、透視時にマップ画像Am,Bmをメモリ部12から読み出して表示部14に表示する。
【0029】
入力部13は、オペレータが入力したデータや命令をコントローラ15に送り込む。入力部13は、マウスやキーボードやジョイスティックやトラックボールやタッチパネルなどに代表されるポインティングデバイスで構成されている。
【0030】
表示部14は、モニタで構成されている。後述する実施例2も含めて、本実施例1では、表示部14は、一対の画像を3次元的に表示(3D表示)する3Dモニタで構成されている。具体的な表示については、図2で後述する。
【0031】
コントローラ15は、X線血管撮影装置を構成する各部分を統括制御する。上述の画像処理部11やコントローラ15は、中央演算処理装置(CPU)などで構成されている。画像処理部11で得られた各画像などのデータを、コントローラ15を介して、メモリ部12に書き込んで記憶、あるいは表示部14に送り込んで表示する。
【0032】
続いて、透視画像およびマップ画像の表示について、図2を参照して説明する。図2は、回転により視差を付与する方法を採用した場合の透視画像およびマップ画像の関係に関する概略図である。図2では、実線に示したX線管2からX線検出器3へのX線の照射軸の方向を「A方向」とするとともに、破線に示したX線管2からX線検出器3へのX線の照射軸の方向を「B方向」とする。また、リアルタイムに表示される透視画像の投影方向を上述のA方向とし、A方向に対して視差をつけた方向を上述のB方向とする。
【0033】
投影方向がA方向の透視画像をAfとし、透視画像Afと投影方向(A方向)が一致したマップ画像をAmとし、当該マップ画像Amに対してB方向から視差をつけたマップ画像をBmとする。交差法では、左右のマップ画像Am,Bmの相対角度を5°〜10°程度とする。つまり、A方向から5°〜10°程度の視差をつけて得られたマップ画像が、マップ画像Amに対して投影方向に視差をつけたマップ画像Bmとなる。
【0034】
本実施例1では、透視時よりも事前に造影剤を被検体Mに投与して、映像系4(図1を参照)を構成するX線管2およびX線検出器3を各方向に動かしながら、X線管2から被検体MにX線を照射して、被検体Mを透過したX線をX線検出器3が検出することで、X線検出器3の検出面に投影された投影像を画像処理部11が生成する。このようにX線管2およびX線検出器3を各方向に動かしながら投影像をそれぞれ生成することで、各方向からの複数の投影像をそれぞれ収集する。造影剤を投与した状態での複数の投影像に基づいて、画像処理部11は、3次元再構成して3次元血管画像を生成して、メモリ部12(図1を参照)に一旦書き込んで記憶する。
【0035】
透視時には、A方向からX線管2が被検体MにX線を照射して、被検体Mを透過したX線をX線検出器3が検出することで、X線検出器3の検出面に投影された投影像を投影方向がA方向の透視画像Afとして画像処理部11が生成する。透視画像Afを逐次に生成して、表示部14に送り込んで逐次に表示することにより、透視画像Afを表示部14にリアルタイムに表示する。
【0036】
このとき、メモリ部12に記憶された3次元血管画像に基づいて、透視画像Afと投影方向(A方向)が一致したマップ画像Amを画像処理部11は生成する。また、3次元血管画像に基づいて、マップ画像Amに対してB方向から視差をつけたマップ画像Bmを画像処理部11は生成する。これらのマップ画像Am,Bmを表示部14に送り込んで表示する。なお、透視時よりも前にA方向、B方向がわかっている場合には、3次元血管画像の生成時に、当該3次元血管画像に基づいてマップ画像Am,Bmを画像処理部11が生成し、3次元血管画像とともにマップ画像Am,Bmをメモリ部12に書き込んで記憶してもよい。そして、透視時にマップ画像Am,Bmをメモリ部12から読み出して表示部14に送り込んで表示してもよい。
【0037】
表示部14に、マップ画像Amを透視画像Afに重ね合わせて表示するとともに、マップ画像Bfを表示する。後述する実施例2も含めて、本実施例1では、表示部14に、透視画像Afとマップ画像Amを重ね合わせて生成される画像(図2の「Af+Am」を参照)と、視差をつけたマップ画像Bmをそれぞれ左右両眼用画像として3Dモニタに表示する(図2の「Af+Am+Bm」を参照)。ただし、ここでいう重ね合わせとは、「Af+Am」は従来のロードマッピングの手法により両者の画像を合成して3Dモニタの左右眼用画像の一方とし、Bmを3Dモニタの他方の眼用画像とするということを意味する。すなわち、「Af+Am」の画像は従来のロードマップ画像と同一のものであり、これに視差をつけたマップ画像Bmを3Dモニタで表示することになる。
【0038】
図2では、リアルタイムに表示される透視画像の投影方向をA方向とし、A方向に対して視差をつけた方向をB方向としたが、左右のA方向、B方向を互いに逆にしてもよい。すなわち、リアルタイムに表示される透視画像の投影方向を図2でのB方向(この場合には透視画像はBf)とし、B方向に対して視差をつけた方向を図2でのA方向として、透視画像Bfとともにマップ画像Am,Bmを表示してもよい。なお、透視画像の透視方向については図1、図2のような下から上への方向に限定されず、透視状況に合わせて、適宜、設定変更すればよい。
【0039】
本実施例1に係るX線血管撮影装置によれば、透視画像Afをリアルタイムに表示して診断・治療を行う際に、下記のような表示部14を備えることに特徴がある。すなわち、透視画像Afと投影方向(ここではA方向)が一致したマップ画像Amを当該透視画像Afに重ね合わせて表示するとともに、(投影方向:A方向が一致した造影剤投与により得られる)当該マップ画像Amに対して投影方向に視差をつけて造影剤投与により得られるマップ画像Bmを表示する表示部14を備える。
【0040】
このような表示部14を備えることにより、上述の2つのマップ画像Am,Bmさえ事前に取得していれば、本実施例1、2のような血管の3次元情報(手前方向も含めた奥行き方向の情報)がわかり、リアルタイムに表示される透視画像Amについては一方向の透視のみで実現できる。したがって、特別なステレオX線管球(2つの焦点を有した1つの管球)は不要であり、1つのX線管2からなる通常のX線照射手段のみを用意すればよく、汎用性が高い。また、ステレオX線管での2焦点(2方向)透視のための余分なX線の照射も不要となるので、リアルタイムにおいてX線の照射量を低減させることができ、X線の被曝の増大も伴わない。
【0041】
また、マップ画像Am,Bmにおいて左右の視差を得るための相対角の誤差は立体視の度合いのみに影響するものなので高い精度は要求されない。よって、マップ画像Am,Bmを透視画像Afに重ね合わせるための位置合わせについては、従来のように透視画像Afとそれの投影方向(A方向)が一致した当該マップ画像Amとの位置合わせのみですみ、その位置合わせのみで正確な重ね合わせ(ロードマッピング)を行うことができる。
【0042】
これに対し、従来のようにステレオX線管球を用いて投影方向A,Bの2方向について透視を行い、透視画像もステレオグラム表示しようとすると、投影方向A,Bでの各々の透視画像とマップ画像の重ね合わせ精度だけでなく、透視画像でのA‐B間の角度とマップ画像でのA‐B間の角度とを厳密に一致させる必要が生じ、A‐B間の角度に対しても高い精度が必要となってしまう。
【0043】
本実施例1では、投影方向(A方向)が一致したマップ画像Amおよび視差をつけたマップ画像Bmを、造影剤投与により撮影したデータを再構成することにより得られる3次元画像データ(本実施例1では血管が対象なので3次元血管画像)に基づいて生成する画像生成手段の機能を画像処理部11は有している。本実施例1の場合には、造影剤投与により得られる3次元血管画像に基づいて、画像処理部11は2つのマップ画像Am,Bmを生成するので、マップ画像Am,Bmに関しても余分なX線の照射が不要となり、マップ画像Am,BmにおいてもX線の照射量を低減させることができ、X線の被曝の増大も伴わない。また、左右のマップ画像Am,Bmの相対角度(5°〜10°程度)は既定値とすることができるので、オペレータが設定した投影方向(A方向)に合わせて画像処理部11がマップ画像Am,Bmの双方の方向を自動で演算して、マップ画像Am,Bmを生成すればオペレータの負担を軽減することができる。また、後述する実施例2とは異なり、造影剤投与により得られる3次元血管画像を既に用意しているので、別の方向からの透視画像を得るためにオペレータが装置(本実施例1、2ではCアーム5)を回転させて透視方向を変更したとしても、当該3次元血管画像に基づいて、逐次、双方のマップ画像を画像処理部11が生成することができる。
【0044】
後述する実施例2も含めて、本実施例1では、表示部14は、透視画像Afと、投影方向(A方向)が一致した(造影剤投与により得られる血管像たる)マップ画像Amを重ね合わせて生成された画像(図2の「Af+Am」を参照)と、視差をつけた(造影剤投与により得られる)マップ画像Bmをそれぞれ左右眼用画像として3Dモニタに表示している(図2の「Af+Am+Bm」を参照)。視差をつけたマップ画像Bmをステレオグラム画像として表示することで、一対の画像(図2の「Af+Am+Bm」を参照)を3次元的に表示(3D表示)する3Dモニタとして表示部14を構成することができる。
【実施例2】
【0045】
次に、図面を参照してこの発明の実施例2を説明する。
上述した実施例1と共通する箇所については、同じ符号を付してその説明を省略する。また、図1に示すように、本実施例2に係るX線血管撮影装置は、実施例1に係るX線血管撮影装置と同じ構成である。
【0046】
上述した実施例1では、造影剤投与により得られる3次元血管画像に基づいて2つのマップ画像Am,Bm(図2を参照)を生成したが、本実施例2では、造影剤を投与しながら各々の投影方向(A方向、B方向)から撮影して得られる2次元血管画像を、各々のマップ画像Am,Bmとしている。具体的には、造影剤を被検体M(図1および図2を参照)に投与して、A方向からX線管2(図1および図2を参照)が被検体MにX線を照射して、被検体Mを透過したX線をX線検出器3(図1および図2を参照)が検出することで、X線検出器3の検出面に投影された投影像を投影方向がA方向のマップ画像Amとして画像処理部11(図1および図2を参照)が生成する。同様に造影剤を投与してB方向からX線管2が被検体MにX線を照射して、被検体Mを透過したX線をX線検出器3が検出することで、X線検出器3の検出面に投影された投影像を投影方向がB方向のマップ画像Bmとして画像処理部11が生成する。
【0047】
これらの投影像は2次元血管画像であり、本実施例2では、各々の方向(A方向、B方向)から投影された2次元血管画像を、各々のマップ画像Am,Bmとして採用している。これらのマップ画像Am,Bmを、メモリ部12(図1を参照)に一旦書き込んで記憶する。
【0048】
透視時には、上述した実施例1と同様に、A方向からX線管2が被検体MにX線を照射して、被検体Mを透過したX線をX線検出器3が検出することで、投影方向がA方向の透視画像Afを画像処理部11が生成する。透視画像Afを逐次に生成して、表示部14に逐次に表示して、透視画像Afを表示部14にリアルタイムに表示する。
【0049】
このとき、メモリ部12からマップ画像Am,Bmを表示部14に送り込んで表示する。具体的には、上述した実施例1と同様に、マップ画像Amを透視画像Afに重ね合わせて、これとマップ画像Bmとを3Dモニタの左右眼用画像として表示する(図2の「Af+Am+Bm」を参照)。
【0050】
本実施例2に係るX線血管撮影装置によれば、上述した実施例1と同様に、透視画像Afと投影方向(ここではA方向)が一致したマップ画像Amを当該透視画像Afに重ね合わせて表示するとともに、(投影方向:A方向が一致した)当該マップ画像Amに対して投影方向に視差をつけたマップ画像Bmを表示する表示部14を備える。その結果、特別なステレオX線管球は不要であり、汎用性が高く、X線の照射量を低減させて正確な重ね合わせ(ロードマッピング)を行うことができる。
【0051】
本実施例2では、各々の方向(A方向、B方向)から投影された造影剤投与により得られる画像(本実施例2では血管が対象なので2次元血管画像)を、投影方向(A方向)が一致したマップ画像Amおよび視差をつけたマップ画像Bmとしている。本実施例2の場合には、上述した実施例1と異なり、各々の方向(A方向、B方向)から投影された造影剤投与により得られる2次元血管画像がそれぞれのマップ画像Am,Bmとなるので、マップ画像Am,Bmに関してはX線の照射量は通常の2倍程度になるが、リアルタイムに表示される透視画像Afに関しては通常のX線の照射量ですみ、ステレオX線管球により2方向透視を行う場合よりX線の照射量を低減させることができる。また、上述したように左右のマップ画像Am,Bmの相対角度(5°〜10°程度)は常に既定値とすることができるので、オペレータが設定した投影方向(A方向)に合わせて視差をつけたマップ画像Bmの方向(B方向)を(例えば画像処理部11やコントローラ15が)自動で演算して、演算された方向を、視差をつけたマップ画像Bm用の投影方向として自動的に装置(本実施例1、2ではCアーム5)の角度制御を行えばオペレータの負担を軽減することができる。
【0052】
上述した実施例1と同様に、本実施例2では、一対の画像(図2の「Af+Am+Bm」を参照)を3次元的に表示(3D表示)する3Dモニタとして表示部14を構成することができる。
【0053】
この発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0054】
(1)上述した各実施例では、図1に示すようにX線血管撮影装置であったが、映像系が天井面あるいは壁面に対して固定式の透視台システムに適用してもよいし、外科用X線装置に適用してもよい。また映像系を構成するX線管とX線検出器との配置を入れ替え構成した装置であってもよい。
【0055】
(2)上述した各実施例では、ステレオグラムとして、図2に示すように回転により視差を付与する方法を採用したが、図3に示すように平行移動により視差を付与してもよい。
【0056】
(3)上述した各実施例では、対象が血管であったが、造影剤投与により得られる画像であれば、対象については、胆管や消化管などに例示されるように特に限定されない。したがって、胆管や消化管などの撮影にも適用することができる。
【0057】
(4)上述した各実施例では、背景画像を消すために、造影剤を投与しないマスク像と、造影剤を投与したライブ像とのサブトラクションを行わなかったが、背景画像を消したサブトラクション処理後の画像を、造影剤投与により得られる画像(各実施例ではマップ画像)として採用してもよい。実施例1の場合には、サブトラクション処理と3次元再構成処理とを組み合わせて得られたサブトラクション処理後の3次元血管画像に基づいてマップ画像を生成し、実施例2の場合には、サブトラクション処理後の2次元血管画像をマップ画像として生成する。また、適宜必要に応じて造影剤投与により得られる画像の白黒を反転してもよい。
【0058】
(5)上述した各実施例では、透視画像をそのままリアルタイムに表示したが、透視時に透視画像に対して各種の処理(例えばリアルタイム・スムージング処理)を施した後にリアルタイムに表示してもよい。
【0059】
(6)上述した各実施例では、図2に示すように、透視画像Afとマップ画像Amを重ね合わせて生成した画像と、視差をつけたマップ画像Bmを左右眼用の画像として3D表示したが、図4に示すように、透視画像Afとマップ画像Amを重ね合わせて従来のロードマップ画像として表示して(図4の「Af+Am」を参照)、視差をつけたマップ画像Bmを、ロードマップ画像に対して並べてステレオグラム画像として表示してもよい。このように一対の画像を左右に表示し、オペレータ自身が立体視を行う形の表示も可能である。この構成であれば、各実施例のような3Dモニタのような特殊な機器を必要とせずに、従来の装置構成(通常のモニタ)で実現することが可能である。「Af+Am」とBmの画像の左右の配置を向かって左に左目用画像(図2ではA方向画像「Af+Am」)、右に右目用画像(図2ではB方向画像Bm)とすれば平行法を適用することができる。向かって右に左目用画像、左に右目用画像とすれば交差法を適用できる。図4の表示部14に示した配置は交差法による。同様に、胆管や消化管などの撮影にも適用することができる。
【0060】
(7)上述した実施例1では、3次元画像(実施例1では3次元血管画像)に基づいてマップ画像を生成したが、上述した実施例2のように、2次元画像(実施例2では2次元血管画像)をマップ画像とする場合には、医療用X線装置については、必ずしも図1に示すようなCアーム5を備えた装置に限定されない。図5に示すように、平行移動可能に構成された透視・撮影を行う医療用X線装置であってもよい(支持部材等については図示省略)。同様に、胆管や消化管などの撮影にも適用することができる。
【0061】
(8)上述した各実施例では、透視画像をリアルタイムに表示する医療用X線装置が、透視時よりも事前に造影剤を投与してマップ画像を取得する撮影装置を兼用していたが、当該マップ画像を取得する撮影装置を、透視画像をリアルタイムに表示する医療用X線装置とは別の外部装置として構成し、医療用X線装置が透視時にマップ画像を読み出して表示するようにしてもよい。同様に、胆管や消化管などの撮影にも適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
2 … X線管
3 … X線検出器
11 … 画像処理部
14 … 表示部
Af … 透視画像
Am,Bm … マップ画像
M … 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体にX線を照射するX線照射手段と、
被検体を透過したX線を検出するX線検出手段と
を備え、
検出されたX線に基づいて透視画像をリアルタイムに表示して診断・治療を行う医療用X線装置であって、
前記透視画像と投影方向が一致した造影剤投与により得られる画像を前記透視画像に重ね合わせて表示するとともに、前記投影方向が一致した造影剤投与により得られる画像に対して投影方向に視差をつけた造影剤投与により得られる画像を表示する表示手段を備えることを特徴とする医療用X線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の医療用X線装置において、
前記投影方向が一致した造影剤投与により得られる画像および前記視差をつけた造影剤投与により得られる画像を、造影剤投与により撮影したデータを再構成することにより得られる3次元画像データに基づいて生成する画像生成手段を備えることを特徴とする医療用X線装置。
【請求項3】
請求項1に記載の医療用X線装置において、
各々の方向から投影された造影剤投与により得られる画像を、前記投影方向が一致した造影剤により得られる画像および前記視差をつけた造影剤投与により得られる画像とすることを特徴とする医療用X線装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の医療用X線装置において、
前記表示手段は、
前記透視画像と、前記投影方向が一致した造影剤により得られる画像を重ね合わせて生成される画像と、
前記視差をつけた造影剤により得られる画像をそれぞれ左右眼用画像として3Dモニタに表示する
ことを特徴とする医療用X線装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の医療用X線装置において、
前記表示手段は、
前記透視画像と、前記投影方向が一致した造影剤により得られる画像を重ね合わせて生成される画像と、
前記視差をつけた造影剤により得られる画像をそれぞれ左右眼用ステレオグラム画像として並べて表示する
ことを特徴とする医療用X線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−22411(P2013−22411A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162960(P2011−162960)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】