説明

医薬品の製造のためにプリン誘導体を使用する方法

本発明は、細胞分裂と細胞死との不均衡が関与する病気、より特に、過剰な細胞死が該病気の原因である病気、を治療するための医薬品の製造において、プリン誘導体を使用する方法に関する。本発明に従うと、式Iのプリン誘導体が使用される。本発明は薬学的分野において用途を見出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞分裂及び細胞死の間の不均衡が関与する病気、より詳細には、過剰な細胞死が該病気の原因である病気の治療を意図された医薬品の製造においてプリン誘導体を使用する方法に関する。
【0002】
これらのプリンの誘導体の一部にもまた関する。
【0003】
細胞分裂と細胞死との間の不均衡が関与する病気は、特に慢性のリンパ性白血病及び腎臓の病気、例えば多嚢胞腎臓病である。
【0004】
慢性リンパ性白血病即ちCLLは、血液、骨髄、及び造血器官におけるCD5+モノクロナールB細胞の蓄積を特徴とする病気の混成群である。
【0005】
それは、モノクロナールB細胞が全く又はほとんど自然なアポトーシス(細胞死)をせず細胞サイクルに関与するB細胞の小さな偶発(contingent)を含む病気である。この意味において、この病気はモノクロナール細胞の過剰な(止められない)増殖が観察される病気、モノクロナール細胞が細胞サイクルに高度に関与する病気、及びアポトーシス(細胞死)に対する抵抗が二次的な病原性を構成する病気とはむしろ異なる病気である。
【0006】
CLLは、一般的に、別のカテゴリーであって、B細胞慢性リンパ性白血病及びT細胞慢性リンパ性白血病を含むカテゴリーに分類される。用語「CLL」は、B細胞慢性リンパ性白血病(B−CLL)を意味することが一般的に理解される。
【0007】
B−CLLとして知られるB細胞慢性リンパ性白血病は、血液中ではリンパ球増多症(hyperlymphocytosis)を起こし、骨髄では骨髄不全を起こし、リンパ節では多発血管炎を起こす該B病気に特徴的である膜の抗原例えばCD5及びCD23分子を発現する、リンパ球形態学のBリンパ球の蓄積の原因であるBリンパ球細胞の病気である。
【0008】
B−CLLは、変化可能な進行性(variable progressive nature)を有する単一の生物学的構成要素として特徴付けられてきた。
【0009】
Binetの予後分類(prognosis classification)は、該病気の3つのステージA,B,及びCへの進行のプロフィールをアレンジすることを可能にする。
【0010】
該病気のステージAにおける患者の中で、41%がステージB及びCに進む。生物学的パラメーターの中で、6月未満のリンパ球倍増時間、即ち溶解性のCD23のレベルの増加又は血清チミジンキナーゼの活性の増加は、予後不良(poor prognosis)を示していると考えられる。予後不良の完全に識別された遺伝的パラメーターは、該病気の突然変異されていない形(unmutated form)(14q32の初期位置の免疫グロブリンの重い鎖の遺伝子)、11q及び17pの染色体の欠損異常(deletion abnormalities)又は12q+タイプの追加の染色体異常を含む。B−CLLのキャリヤーである患者及びこれらの生物学的特徴を発現する患者は、短い進行期間を有する。即ち、突然変異を起こしていない(unmutated)患者の50%は24月内に進行した。17p−、11q−又は12q+を示す患者の50%は、15月において進行した。ステージAの患者が重度にこれらの生物学的基準を発現するならば、ステージB及びCの患者は積極的な治療姿勢から利益を得るべきである。
【0011】
現在の治療は該病気の回復をもたらすが、すべての患者が再発し、CLLは、依然として不治の病であると述べることに合意が、現在はある。
【0012】
今日、提起されている本当の問題は、深刻な状態に進行する生物学的な可能性を示す患者を該病気のステージAにおいて定義するという問題である。
【0013】
B−CLLに対して最良の最初に行われる治療が定義されるべきである。
【背景技術】
【0014】
プリン類似体、特にフルダラビン、は、これまでB−CLLにおいて最もよく研究されている。フルダラビンは単独で、アルキル化剤を含むマルチドラッグ治療及びコルチコステロイド治療(corticotherapy)よりもよい反応の総レベルを誘起する。フルダラビンはCHOP又はCAP(chloraminophene)タイプのマルチドラッグ治療より、より完全な血液学的な回復(7〜40%)を誘起する。
【0015】
フルダラビンで観察されるよりよい反応にもかかわらず、全体の生存率に関して観察される利益は少ないままである。現在の治療努力は、フルダラビンと慣用の化学療法の組合せ、例えばフルダラビンプラスシクロホスファミド、特に該病気の抵抗型の場合、に向けられている。フルダラビンに抵抗のある患者の平均余命は12月に過ぎない。それにもかかわらず、該治療の毒性、特に血液学上の毒性、はこれらの組合せで増加する。
【0016】
フルダラビンとシクロホスファミドとの組合せで治療された患者の50%に感染が観察される。治療された患者の25%に記録された敗血症又は肺炎が、他の25%には記録されていない発熱及び/又は入院が、治療中に観察される。
【0017】
治療の革命は、治療用の抗体の到来により達成された。B−CLLにおいて、2つの治療用抗体が出現した。即ち、リツキシマブ及びアレムツズマブである。B−CLLにおいてリツキシマブの活性はCLLのBリンパ球上の標的、CD20抗原、の低い発現により不利な立場に立たされる。リツキシマブはプリン類似体及び/又はシクロホスファミドと相乗的にB−CLLにおいて配置される(フルダラビンに抵抗する患者においてフルダラビン/シクロホスファミド/リツキシマブの組合せで、5%のみの完全な応答を含めて59%の全体の応答が観察される)。
【0018】
アレムツズマブの活性は、抗原の非常に不均一な膜密度を有する白血球及びCLLの白血病性Bリンパ球上で発現される抗原に向けられるが、治療の間又は治療後の高い免疫抑制活性及び巨大細胞の感染及び日和見感染の再活性化の高い発生率により不利な立場に立たされる。抗体は高いT免疫抑制活性を示す。アレムツズマブに対する血液学的反応は33%である。抗体は血液中及び骨髄中のクロナール Bリンパ球を破壊することができるが、リンパ節ではほとんど効果を有しない。これらの点は、この適応症における該抗体の使用を制限する。イットリウム−90と組み合わせた抗−CD20(ゼバリン)を用いる放射線免疫治療はB−CLLにおける低いパーセンテージの回復を誘起し、大きな影響を与える骨髄抑制の原因である。
【0019】
米国特許第6812232号は、本発明と類似するプリン類似体の細胞増殖を阻害する活性について記載している。事実、CLLにおいて、過度な細胞増殖が抑えられた。
【0020】
国際特許出願公開第2005/002584号は、それ自身、慢性リンパ性白血病、より特にB細胞慢性リンパ性白血病の治療におけるロスコビチン(roscovitine)、好ましくはその(R)絶対配置のもの、の使用を提供する。
【0021】
ロスコビチンは以下の式を有するプリンである。
【0022】


【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0023】
実際は、ロスコビチン誘導体は、細胞分裂と細胞死との不均衡が関与する病気の治療においては、ロスコビチンよりずっと高い活性を有すること、及びある場合には該誘導体はロスコビチンよりよい溶解性を有する場合もあることが今発見された。
【0024】
即ち、本発明は、細胞分裂と細胞死との不均衡が関与する病気の治療を意図された医薬品の製造において、下記式Iの少なくとも1の化合物又はその薬学的に許容される塩、水和物、エステル若しくは異性体を使用する方法を提供する。
【0025】

【0026】
上記式中、
XはC又はNであり
YはCH又はOHであり、かつ
ZはH又はCHである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ロスコビチンにより誘発される細胞死と比較した、慢性リンパ性白血病細胞における式Iaの化合物及び式Iaの化合物のシュウ酸塩による細胞死の誘発を示す。
【図2】慢性リンパ性白血病細胞における式Ie及びIfの化合物による細胞死の誘発を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の第一の選択の形において、該病気は慢性のリンパ性白血病である。
【0029】
より特に、該病気はB細胞慢性リンパ性白血病である。
【0030】
本発明の第二の選択の形において、該病気は腎臓病であり、より特に多嚢胞の腎臓病である。
【0031】
細胞分裂と細胞死との不均衡が関与する病気を治療するための医薬品の製造における使用のための好ましい塩は、式Iの化合物のシュウ酸塩である。
【0032】
好ましくは、使用される該少なくとも1の化合物は下記式I‐1を有する。該式はXがNである式Iに対応する。
【0033】

【0034】
これは、該化合物が、慢性リンパ性白血病及び多嚢胞腎臓病の細胞モデルにおいて4〜5倍活性であり、XがCであるところの対応物(以下に示される)より、水性媒体に5〜10倍溶解するからである。
【0035】
しかし、より好ましくは、使用される該少なくとも1の化合物は下記式I‐IIを有する。該式は、XがNであり、YがOHである式Iに対応する。
【0036】

【0037】
構造I‐IIを有する化合物は、I‐I誘導体に匹敵する活性を示すが、水性媒体における溶解度はさらに増加されている。
【0038】
より特に、そして第一の好ましい実施態様において、これらの病気を治療するための医薬品の製造において使用される該少なくとも1の化合物は、XがNであり、YがCHであり、ZがHである式Iの化合物である。この化合物は(R)の絶対配置を有し、下記式Iaを有する。
【0039】

【0040】
本発明の第二の非常に特に好ましい実施態様において、該少なくとも1の化合物は(S)の絶対配置を有する。この化合物は下記式Ibを有する。
【0041】

【0042】
これは特に驚きである、なぜなら先行技術において、最も良い結果を得ることを可能にするのは、一般的に(R)の絶対配置を有する化合物だからである。
【0043】
本発明の第三の非常に特に好ましい実施態様において、式Ia又はIbの少なくとも1の化合物はそのシュウ酸塩の形である。
【0044】
しかし、本発明の第四の好ましい実施態様において、細胞分裂と細胞死との不均衡が関与する病気を治療するための医薬品の製造において使用される該少なくとも1の化合物は、XがCであり、YがCHであり、ZがHである式Iの化合物である。この化合物は下記式Icを有する。
【0045】

【0046】
この化合物は、(S)又は(R)の絶対配置の両方及びこれらの混合物の形で使用されることができる。
【0047】
しかし、本発明の第五の好ましい実施態様において、使用される該少なくとも1の化合物は、XがNであり、YがOHであり、ZがHである式Iの化合物である。この化合物は下記式Idを有する。
【0048】

【0049】
化合物Idは以下の実施例1において記載されるように得られることができる。
【0050】
実施例1:化合物Idの製造
この化合物は、以下のスキームに従って、ジクロロプリンから出発して3ステージで得られる。
【0051】

【0052】
反応物及び条件:
a:4−(2−ピリジル)ベンジルアミン、n−BuOH,110℃;b:2−ブロモプロパン、KCO、DMSO;c:セリノール、加熱160℃、8時間)
【0053】
ステージ1:2−クロロ−6−[4−(2−ピリジル)フェニルメチルアミノ]−プリン(IIIa)
4−(2−ピリジル)ベンジルアミン(2.0g,1.05mmol)及び3mlのNEtが20mlのn−BuOH中の2,6−ジクロロプリンの溶液(2.3g,10mmol)に添加される。110℃において3時間加熱した後、混合物は20℃に冷却されて、固体がろ過除去され、5mlの冷ブタノールで洗浄され、真空乾燥される。Yd=85%、融点>250℃。H−NMR(d−DMSO)δ4.80(s、2H,CH);7.20(m,1H,Hピリジル);7.45(d、2H、Hフェニル);7.72(m、2H,Hピリジル);7.95(m、3H、Hフェニル及びH−8)、8.54(d、1H,J=4.8Hz,Hピリジル)。
【0054】
ステージ2:
2−クロロ−9−イソプロピル−6−[4−(2−ピリジル)フェニルメチル−アミノ]プリン(IVa)
CO(3.5g、24mmol)及び1.9ml(20mmol)の2−ブロモプロパンが、10mlのDMSO中の2−クロロ−6−[4−(2−ピリジル)フェニルメチルアミノ]プリン(8mmol)に18〜20℃において添加される。18〜20℃において5時間撹拌した後、2−ブロモプロパン(0.5ml)が再び添加され、撹拌は20℃において5時間続けられる。50mlの冷水(5℃)を添加した後、混合物はEtOAcで抽出され(3×10ml)、有機相が飽和食塩水で洗浄され(3×10ml)、NaSO上で乾燥される。誘導体IVaが溶媒の蒸発により結晶する。2mlの2−プロパノールから粉にされ、ろ過除去される。
Yd86%、H−NMR(CDCl):δ1.58(d,6H);4.79(hept、1H);4.85(ブロードs,2H);6.59(ブロードs,1H);7.20〜7.23(m,1H);7.49(d,2H);7.73〜7.71(m,2H);7.79(s、1H);7.98(d,2H);8.71(d,1H)。
【0055】
ステージ3:2−(1,3−ジヒドロキシプロピ−2−イルアミノ)−6−[4−(2−ピリジル)フェニルメチルアミノ]−9−イソプロピルプリンId
化合物IVa(10mmol)及びセリノール(2−アミノプロパン−1,3−ジオール)(2ml)の混合物がN下、160℃において8時間加熱される。20℃に冷却した後、20mlの水が添加され、混合物はEtOACで抽出される(4×10ml)。有機溶液は2×20mlの水で洗浄され、乾燥され、蒸発される。誘導体IがEtOからの粉砕化により結晶する。
融点114〜117℃、Yd74%。H−NMR(CdCl)δl.52(d,6H);3.78(m,4H);3.96(m,IH);4.55(hept,IH);4.76(s,2H);5.40(s,lH);6.20(s,IH);7.12(m,IH);7.38(d,2H);7.48(s,IH);7.62(m,2H);7.90(d,2H);8.60(d,IH).
【0056】
本発明の第六の好ましい実施態様において、使用される該少なくとも1の化合物は、XがNであり、YがCHであり、ZがCHである式Iの化合物である。この化合物は下記式Iを有する。
【0057】

【0058】
本発明の第七の好ましい実施態様において、使用される該少なくとも1の化合物は、式Ieの化合物のシュウ酸塩である。この化合物は下記式Ifを有する。
【0059】

【0060】
プリンの複数の窒素の一つは、塩の形成に関与していてもよく、該塩は一分子のプリンと二酸との組み合わせに対応することに留意されたい。
【0061】
本発明の第八の好ましい実施態様において、使用される該少なくとも1の化合物は、下記式Igの化合物である。
【0062】

【0063】
この化合物は、(1R、2R)−2−(1,3−ジヒドロキシブチ−2−イルアミノ)−6−[4−(2−ピリジル)フェニルメチルアミノ]−9−イソプロピルプリンIgである。
【0064】
それは、生成物Idと同じ方法で得られるが、最終ステージのアミノプロパンジオールをL−トレオニオール又は(1R、2R)−2−アミノブタン−1,3−ジオールで置き換える。
NMRにより測定されて以下の特徴を有している:
NMR:1.2(d,3H);1.4(d,6H);3.70(m,4H);4.10(m、1H)、4.52(hept、1H);4.72(ブロードs、2H);5.50(s、1H);6.2(ブロードs、1H);7.15(m、1H);7.4(d,2H);7.42(s、1H);7.55(m、2H);7.85(d,2H);8.60(d,1H)。
【0065】
本発明の第九の好ましい実施態様において、使用される該少なくとも1の化合物は、下記式Ihの化合物である。
【0066】

【0067】
プリンの複数の窒素の一つが塩の形成に関与しており、該塩は一分子のプリンと二酸との組み合わせに対応することに留意されたい、酒石酸の3つの異性体が使用されることができる。
【0068】
この化合物は、酒石酸2−(1,3−ジヒドロキシプロピ−2−イルアミノ)−6−[4−(2−ピリジル)フェニルメチルアミノ]−9−イソプロピルピリン(Ih)である。
それは以下のようにして得られる:
イソプロパノール(1ml)に溶解された2.1mmolの酒石酸が、イソプロパノール(1ml)中の2mmolのIdの溶液であって、70〜80℃に至らせられた溶液に添加される。冷却した後、Idの酒石酸塩がろ過により単離される。
【0069】
式Ia,Id,及びIgの化合物の塩、例えばフマール酸塩若しくは塩酸塩、水和物、及びエステル及び式Ic及びIgの化合物の異性体もまた有利に使用されることができる。
【0070】
特に、式Iの化合物のエステルもまた本発明に含まれる。
【0071】
式Iの化合物の好ましいエステルは、アシルエステル、例えばアセチルエステル、ニコチニルエステル、及びLシリーズ若しくはDシリーズのアミノ酸のエステルである。
【0072】
他の好ましいエステルは、アミノ酸、例えばバリン若しくはロイシンから形成される。
【0073】
特に好ましいエステルは下記式II−1〜II−4を有する。
【0074】


【0075】
これは、これらのエステルは式Iの生成物の前駆体(プロドラッグ)だからである。
【0076】
細胞分裂と細胞死との不均衡が関与する病気を治療することを意図された医薬品の製造においてそれらを使用する方法もまた本発明である。
【0077】
以下の説明記載を読めば、本発明のよりより理解は達成され、本発明の他の特徴及び利点はより明確に明らかになるだろう。該説明記載は図を参照してなされ、該図において
添付の図1は、ロスコビチンにより誘発される細胞死と比較した、慢性リンパ性白血病細胞における式Iaの化合物及び式Iaの化合物のシュウ酸塩による細胞死の誘発を示す
図2は、慢性リンパ性白血病細胞における式Ie及びIfの化合物による細胞死の誘発を示す。
【0078】
ロスコビチン及び式Ia及びそのシュウ酸塩の化合物の効果はキナーゼアッセイにおいて種々の濃度において試験された。
【0079】
これらの試験は以下の通りに行われた。
【0080】
バッファー
バッファーA:10mMのMgCl,1mMのEGTA,1mMのDTT,25mMのトリスHClpH7.5、50μgのヘパリン/ml
バッファーC:60mMのグリセロホスフェート、15mMのp−ニトロフェニルホスフェート、25mMのMOPS(pH7.2)、5mMのEGTA、15mMのMgCl、1mMのDTT,1mMのバナジン酸ナトリウム、1mMのフェニルホスフェート。
【0081】
キナーゼの製造及びアッセイ
キナーゼの活性はバッファーA又はCにおいて30℃及び15μgの最終的なATP濃度においてアッセイされた。対照は、ジメチルスルホキサイドの適当な希釈で行われる。
【0082】
CDK1/シクリンB(ヒトデM相卵巣細胞、ネイティブ)及びCDK5/p25(ヒト、リコンビナント)が製造され、Leclerc S.等、J.Biol.Chem.,2001年、276号、251〜60ページにおいて記載されているようにアッセイされた。アッセイは、30μlの最終体積で、15μmの[Y−33P]ATP(3000Ci/mmol;10mCi/ml)の存在下、1mgのヒストンH1/mlで行われた。30℃において30分間インキュベーションした後、25μlの上澄みが2.5×3cmのワットマンP8ホスホセルロース紙の上に載せられ、20秒後に該フィルターは10mlのリン酸/リットルの溶液中で5回洗浄された。フィルターは、次に1mlのACS(アマシャム(Amersham)の存在下で数えられた。
【0083】
CDK2/シクリンA及びCDK2/シクリンE(ヒト、リコンビナント、昆虫の細胞で発現された)がCDK1のようにアッセイされた。
【0084】
CDK9/シクリンT(ヒト、リコンビナント、昆虫の細胞で発現された)が、基質としてpRBフラグメント(AA773−928)(3.5μg/アッセイ)を用いてCDK1/シクリンBのようにアッセイされた。
【0085】
GSK−3/α/β(ブタの脳、ネイティブ、アフィニティ精製された)がCDK1/シクリンBのようにアッセイされたが、バッファーA中で、特異的なGSK−3基質(GS−1:YRRAAVPPSPSLSRHSSPHQSpEDEEE)(Bach S.等、J.Biol.Chem.,2005年、第280号、31208〜19ページ)を用いて行った。
【0086】
CK1δ/e(ブタの脳、ネイティブ、アフィニティ精製された)がCDK1/シクリンBのようにアッセイされたが、バッファーA中で、特異的な基質RRKHAAIGSpAYSITA(Reinhardt J.等、Protein Expr & Purif.,2007年,第54号,101〜9ページ)を用いて行った。
【0087】
DYRK1A(ヒト、リコンビナント、大腸菌の細胞において発現された)がCDK1/シクリンBのようにアッセイされた。
【0088】
平均阻害濃度IC50値が投与/応答曲線から計算され、下記の表IにμMで列挙される。
【0089】
【表1】

【0090】
すべてのプロテインキナーゼについて、(S)配置の式Ibの化合物は、種々のキナーゼについて阻害的な活性を示すことが表Iから見られる。該活性は、ロスコビチンの活性に類似しており、かつ式Iaの化合物、つまり(R)絶対配置のそのホモローグ、の活性より少し低い。
【0091】
しかし、式Iaの化合物及びそのシュウ酸塩及び式Ie及びIfの化合物がこのタイプの慢性リンパ性白血病を有する患者から採取されたB慢性リンパ性白血病細胞上で試験されたとき、驚いたことにこれらの化合物はCLL細胞上では、図1及び2において見られるように、ロスコビチンの活性よりずっと高く、50〜100倍高い細胞死誘発活性を有することが見出された。
【0092】
さらに、患者に由来するB2リンパ球の細胞死の誘発に対する化合物Ia,Ib,Ic,Id,IeおよびIf及び化合物Iaのシュウ酸塩の効果は、この同じ誘発に対する(R)−ロスコビチンの効果と比較された。
【0093】
B2リンパ球はB2細胞慢性リンパ性白血病に関与するリンパ球である。
【0094】
細胞の生存能力は3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルフォフェニル)−2H−テトラゾリウム(MTS)の還元により決定される。
【0095】
細胞死は、細胞の分解の間に放出されるラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)の活性のレベルの測定により決定される。2つのプロセスが、「リバスJ.及びボワJ.(Ribas J.,and Boix J.)、BCL−2又はBCL-XLたんぱく質ではなく、細胞分裂、カスパーゼ阻害、及び巨大分子合成の妨害が2つのCDK阻害薬により引き起こされる細胞死からのSH−SY5Y細胞を保護する、Exp.Cell Res.2004年、295、9〜24ページ」に詳細に記載されている。
【0096】
得られた結果は、下記の表2に示される。
【0097】

【0098】
表2において、示された値はμMで表された平均阻害濃度IC50値である。
【0099】
本発明の化合物Ib及びIdの多嚢胞腎臓病に対する効果もまた(R)ロスコビチンとの比較においてMDCKライン上で試験された。化合物Ib及びIdはロスコビチンより50〜60倍活性である。
【0100】
XがNである本発明の化合物の溶解度は、XがCであるものより水に5〜10倍よく溶けると言われていた。
【0101】
すなわち、式Icの化合物(XがCである)は、0.5μg/mlの水への溶解度を有するが、XがNである対応する化合物、即ち式Ibにより示される化合物、は3.3μg/mlの水への溶解度を有する。
【0102】
式Ib〜Ihの化合物はそれ自体もまた、本発明である。
【0103】
式Iの化合物のエステルもまた本発明に含まれる。
【0104】
式Iの化合物の好ましいエステルは、
アシルエステル、例えば、アセチルエステル、ニコチニルエステル、及びLシリーズ若しくはDシリーズのアミノ酸のエステルである。
【0105】
該好ましいエステルは、アミノ酸、例えばバリン若しくはロイシンから形成される。
【0106】
特に好ましいエステルは、下記式II−1〜II−4を有する。
【0107】


【0108】
これは、これらのエステルは式Iの化合物の前駆体(プロドラッグ)だからである。
【0109】
従って、本発明の化合物は慢性リンパ性白血病を治療するための医薬品の製造における使用のために特に効果的である。それらは慢性リンパ性白血病に罹った患者の治療方法における投与のためにもまた特に適切である。
【0110】
それらは腎臓病、特に多嚢胞腎臓病、を治療するための医薬品の製造における使用のためにもまた特に効果的である。同じように、それらは腎臓病、特に多嚢胞腎臓病、に罹った患者の治療方法における投与のためにもまた特に効果的である。
【0111】
当業者は、本発明の化合物は、2以上の互いの混合物として、また、慢性リンパ性白血病又は腎臓病、例えば多嚢胞腎臓病、の治療において治療上の活性を有する他の化合物と組み合わせて、及び/又は医薬品の製造において薬学的に許容される任意の賦形剤と組み合わせて使用されることができること及びこれらの組み合わせ及び混合物もまた本願発明に含まれることを容易に理解する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞分裂と細胞死との不均衡が関与する病気を治療することを意図された医薬品の製造において、下記式Iの少なくとも1の化合物又はその薬学的に許容される塩、水和物、エステル若しくは異性体を使用する方法。

上記式中、
XはC又はNであり
YはCH又はOHであり、かつ
ZはH又はCHである。
【請求項2】
該病気が腎臓病、例えば多嚢胞腎臓病、であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該病気が、慢性のリンパ性白血病、より特に、B細胞慢性リンパ性白血病であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
該薬学的に許容される塩がシュウ酸塩又は酒石酸塩又は塩酸塩又はフマール酸塩であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
XがNである式Iの該少なくとも1の化合物を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
該少なくとも1の化合物が、XがNでありかつYがOHである式Iの化合物であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
該少なくとも1の化合物が、式IにおいてXがNであり、YがCHであり、かつZがHであり、下記式Iaで示される化合物又はその薬学的に許容される塩、水和物若しくはエステルであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。

【請求項8】
該少なくとも1の化合物が、式IにおいてXがNであり、YがCHであり、かつZがHであり、下記式Ibで示される(S)絶対配置の化合物又はその薬学的に許容される塩、水和物若しくはエステルであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。

【請求項9】
該少なくとも1の化合物が、式Ibの化合物のシュウ酸塩であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
該少なくとも1の化合物が、式IにおいてXがNであり、YがOHであり、かつZがHであり、下記式Icで示される化合物又はその薬学的に許容される塩、水和物若しくは異性体であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。

【請求項11】
該少なくとも1の化合物が、式IにおいてXがCであり、YがCHであり、かつZがHであり、下記式Idにより示される化合物又はその薬学的に許容される塩、水和物若しくはエステルであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。

【請求項12】
該少なくとも1の化合物が、式IにおいてXがNであり、YがCHであり、かつZがCHであり、下記式Ieにより示される化合物又はその薬学的に許容される塩、水和物若しくはエステルであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。

【請求項13】
該少なくとも1の化合物が、式IにおいてXがNであり、YがCHであり、かつZがCHである化合物のシュウ酸塩であり、下記式Ifで示されることを特徴とする、請求項1〜4及び12のいずれか1項に記載の方法。

【請求項14】
該少なくとも1の化合物が、下記式Igを有する化合物又はその薬学的に許容される塩、水和物若しくは異性体であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。

【請求項15】
該少なくとも1の化合物が下記式Ihを有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。

【請求項16】
該少なくとも1の化合物が下記式II−1〜II−4の化合物から選択されたエステルであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。


【請求項17】
下記式Ibの化合物又はその塩、水和物若しくはエステルの一つ。

【請求項18】
下記式Icの化合物又はその塩、水和物若しくは異性体の一つ。

【請求項19】
下記式Idの化合物又はその塩、水和物若しくは異性体の一つ。

【請求項20】
下記式Ieの化合物又は後者の塩、水和物若しくはエステル。

【請求項21】
下記式Ifの化合物。

【請求項22】
下記式Igの化合物又はその塩、水和物、エステル若しくは異性体。

【請求項23】
下記式Ihの化合物。

【請求項24】
下記式II−1〜II−4を有することを特徴とする化合物。



【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−539146(P2010−539146A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524542(P2010−524542)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【国際出願番号】PCT/FR2008/001278
【国際公開番号】WO2009/068761
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(500531141)セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク (84)
【出願人】(510068530)ユニヴェルシテ デ レンヌ 1 (2)
【出願人】(510069353)ユニヴェルシテ パリ デカルト (2)
【出願人】(510070061)ユニヴェルシテ ド ブルターニュ オクシデンタル (1)
【出願人】(510070072)サントル オスピタリエ ユニヴェルシテール ド ブレスト (1)
【Fターム(参考)】