説明

医薬組成物

【課題】広範なpH範囲で良好な溶出性を示す製剤の提供。
【解決手段】(A)下記の式(1)で表される、N1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド、その薬理上許容される塩、又はそれらの水和物と、(B)糖アルコール類及び水膨潤性添加剤から選ばれる1種又は2種以上とを含有することを特徴とする医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗血液凝固薬として有用な化合物の溶出性が改善された医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の式(1)で表される、N1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N2−(4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド、その薬理上許容される塩、又はそれらの水和物(以下、化合物(1)という)は、強力な活性化血液凝固第X因子の阻害作用を示し、医薬、特に活性化血液凝固第X因子阻害剤、血液凝固抑制剤、血栓又は塞栓の予防及び/又は治療剤、血栓性疾患の予防及び/又は治療薬、さらには脳梗塞、脳塞栓、心筋梗塞、狭心症、肺塞栓、バージャー病、深部静脈血栓症、汎発性血管内凝固症候群、人工弁/関節置換後の血栓形成、血行再建後の血栓形成及び再閉塞、多臓器不全(MODS)、体外循環時の血栓形成又は採血時の血液凝固の予防及び/又は治療剤として有用であることが知られている(特許文献1〜4)。
【0003】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開03/000657号パンフレット
【特許文献2】国際公開03/000680号パンフレット
【特許文献3】国際公開03/016302号パンフレット
【特許文献4】国際公開2004/058715号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
錠剤等の経口投与用の医薬組成物においては、薬効成分の溶出性が有効性及び安全性に大きな影響を及ぼすことから、各国において溶出性に関する基準が定められている。例えば、日本、米国及び欧州では、各国の薬局方に溶出試験の方法が記載され、該溶出試験においては、種々の溶出試験液(以下、試験液又は溶出液ともいう)が用いられている。これらの溶出試験液は、pH1〜8の範囲に調整されている。例えば、各国の薬局方等に記載されている溶出試験液として、強酸性の溶出試験液(例えば、日本薬局方記載の第1液や、0.1N塩酸水溶液等)、pH3〜5の溶出試験液(例えば、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液、McIlvaine緩衝液等)及びpH6.8の溶出試験液(例えば、日本薬局方記載の第2液や、pH6.8のリン酸塩緩衝液等)及び水等が示されている。経口投与用製剤は、これらの溶出試験液を用いた溶出試験において、溶出性が良好であることが求められている。
【0006】
ところで、化合物(1)は、塩基性化合物であり、強酸性水溶液では良好な溶解性を示すが、中性の水溶液(中性の緩衝液など)では溶解性(水溶性)が低下する。また、化合物(1)自体は経口投与すると良好な吸収性を示すが、乳糖やコーンスターチ等の一般的な医薬用添加物を用いて製造した化合物(1)の経口投与用医薬組成物は、良好な溶出性を示さなかった。
本発明の目的は、良好な溶出特性を示す化合物(1)を有効成分として含有する、医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは、多種の医薬用添加物を配合して化合物(1)を含有する組成物を製造し、その溶出特性を検討したところ、全く意外にも化合物(1)は、糖アルコール類及び/又は水膨潤性添加剤と組み合せた組成物とすることにより;或いは、化合物(1)を含有する組成物を、セルロース誘導体、ポリビニル化合物、アクリル酸誘導体及び糖類から選択される1種又は2種以上のコーティング剤によりコートすることにより、溶出性が向上するという特性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)(A)下記の式(1)で表される、N1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド、その薬理上許容される塩、又はそれらの水和物と、(B)糖アルコール類及び水膨潤性添加剤から選ばれる1種又は2種以上とを含有することを特徴とする医薬組成物に関するものである。
【0009】
【化2】

【0010】
さらに本発明は、以下の
(2)糖アルコール類が、マンニトール、キシリトール又はエリスリトールである(1)に記載された医薬組成物;
(3)糖アルコール類がマンニトールである(1)に記載された医薬組成物;
(4)水膨潤性添加剤が、部分アルファー化デンプン又は結晶セルロースである(1)〜(3)のいずれかに記載された医薬組成物;
(5)水膨潤性添加剤が部分アルファー化デンプンである(1)〜(3)のいずれかに記載された医薬組成物;
(6)上記の式(1)で表される、N1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド、その薬理上許容される塩、又はそれらの水和物を有効成分として含有する医薬組成物であって、セルロース誘導体、ポリビニル化合物、アクリル酸誘導体及び糖類から選択される1種又は2種以上のコーティング剤によりコートされた医薬組成物;
(7)コーティング剤が、ヒプロメロース、メチルセルロース、エチルセルロースヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポビドン、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液、白糖及びマンニトールから選択される1種又は2種以上である(6)に記載された医薬組成物;
(8)コーティング剤が、セルロース誘導体及びポリビニル化合物から選択される1種又は2種以上である(6)に記載された医薬組成物;
(9)コーティング剤が、ヒプロメロース、エチルセルロース及びポリビニルアルコールから選択される1種又は2種以上である(6)に記載された医薬組成物;
(10)コーティング剤がヒプロメロースである(6)に記載された医薬組成物;
(11)セルロース誘導体、ポリビニル化合物、アクリル酸誘導体及び糖類から選択される1種又は2種以上のコーティング剤によりコートされた(1)〜(5)のいずれかに記載された医薬組成物;
(12)コーティング剤が、ヒプロメロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポビドン、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液、白糖及びマンニトールから選択される1種又は2種以上である(11)に記載された医薬組成物;
(13)コーティング剤が、セルロース誘導体及びポリビニル化合物から選択される1種又は2種以上である(11)に記載された医薬組成物;
(14)コーティング剤が、ヒプロメロース、エチルセルロース及びポリビニルアルコールから選択される1種又は2種以上である(11)に記載された医薬組成物;
(15)コーティング剤がヒプロメロースである(11)に記載された医薬組成物;
(16)コーティング剤の含有量が、医薬組成物全重量に対して、0.5〜20重量%である(6)〜(15)のいずれかに記載された医薬組成物;
(17)式(1)で表わされる化合物が、N1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド 塩酸塩である(1)〜(16)のいずれかに記載された医薬組成物;
(18)式(1)で表わされる化合物が、N1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド p−トルエンスルホン酸塩 1水和物である(1)〜(15)のいずれかに記載された医薬組成物;
(19)剤形が経口投与用製剤である(1)〜(18)のいずれかに記載の医薬組成物;
(20)剤形が固形製剤である(1)〜(19)のいずれかに記載の医薬組成物;
(21)剤形が、錠剤、カプセル剤、顆粒剤又は散剤である(1)〜(20)のいずれかに記載の医薬組成物;
(22)剤形が錠剤である(1)〜(20)のいずれかに記載の医薬組成物;
(23)パドル法毎分50回転で溶出試験を行なうとき、pH6.8の溶出試験液中における、式(1)で表わされる化合物の平均溶出率が、溶出試験開始後30分で60%以上、かつ溶出試験開始後60分で70%以上であることを特徴とする(1)〜(22)のいずれかに記載の医薬組成物;
(24)パドル法毎分50回転で溶出試験を行なうとき、pH6.8の溶出試験液中における、式(1)で表わされる化合物の平均溶出率が、溶出試験開始後30分で70%以上、かつ溶出試験開始後60分で80%以上であることを特徴とする(1)〜(22)のいずれかに記載の医薬組成物;
(25)パドル法毎分50回転で溶出試験を行なうとき、pH4.5の溶出試験液中における、式(1)で表わされる化合物の平均溶出率が、溶出試験開始後30分で85%以上であることを特徴とする(1)〜(24)のいずれかに記載の医薬組成物;
(26)(1)〜(25)に記載された医薬組成物を採用することによる、式(1)で表わされる化合物の溶出を促進する方法;及び
(27)有効成分である、式(1)で表わされる化合物の溶出が促進された(1)〜(25)に記載の医薬組成物;
に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、前記溶出試験液のpH範囲で安定した溶出特性を有する、化合物(1)を含有する経口投与用医薬組成物が得られる。従って、化合物(1)を薬効成分として含有する溶出特性の良好な経口投与用抗血液凝固薬が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】処方A〜E錠剤の溶出性(溶出試験液:pH4.0酢酸塩緩衝液)を示す図である。
【図2】処方F〜I錠剤の溶出性(溶出試験液:pH4.0酢酸塩緩衝液)を示す図である。
【図3】処方J〜N錠剤の溶出性(溶出試験液:0.1N塩酸水溶液)を示す図である。
【図4】処方J〜N錠剤の溶出性(溶出試験液:水)を示す図である。
【図5】処方J〜N錠剤の溶出性(溶出試験液:pH6.8リン酸塩緩衝液)を示す図である。
【図6】ヒプロメロース系にてコーティングした錠剤の溶出性(溶出試験液:pH6.8リン酸塩緩衝液)を示す図である。
【図7】各種コーティング剤でコーティングした錠剤の溶出性(溶出試験液:pH6.8リン酸塩緩衝液)を示す図である。
【図8】ヒプロメロース系にてコーティングした錠剤の溶出性(溶出試験液:pH4.0酢酸塩緩衝液及びpH4.5酢酸塩緩衝液)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記の式(1)で表される化合物は、水和物でもよく、また薬理学上許容される塩、塩の水和物であってもよい。
式(1)で表される化合物の塩としては、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、燐酸塩、硝酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、酢酸塩、プロパン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、グルタル酸塩、アジピン酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩等が挙げられる。
式(1)で表される化合物の塩としては、塩酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩が好ましく、p−トルエンスルホン酸塩が特に好ましい。
【0014】
式(1)で表される化合物として好ましいものとして、以下の化合物を挙げることができる。
1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド;
1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド 塩酸塩;
1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド p−トルエンスルホン酸塩;及び
下記の式(1a)で表される、N1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド p−トルエンスルホン酸塩 1水和物(化合物1a)
【0015】
【化3】

【0016】
これらの化合物(1)は、前記特許文献1〜4に記載の方法又はそれに準じる方法によって製造することができる。
【0017】
本発明のひとつは、コーティング剤を配合することにより化合物(1)を含有する固形製剤中から薬効成分である化合物(1)の溶出を促進するというものである。すなわち、本発明は、化合物(1)とコーティング剤を含有した溶出性に優れた経口投与用医薬組成物を提供するものである。本発明の、化合物(1)とコーティング剤を含有した経口投与用医薬組成物とは、錠剤等の固形製剤をコーティングしたものに限られず、コーティング剤を配合した種々の固形製剤を含む。例えば、化合物(1)を含有する固形製剤において、コーティング剤が、該固形製剤中にマトリックス状に配合される固形製剤等も含まれる。
【0018】
この経口投与用医薬組成物において、化合物(1)の溶出性を促進させるために使用されるコーティング剤としては、製剤分野で錠剤や顆粒をコーティングする際に用いられる一般的なコーティング剤を挙げることができ、腸内のpH環境下で溶解しにくいものが好ましく、より具体的には一般的に腸溶性コーティング剤として用いられているものよりも、腸内のpH環境下で溶解しにくいコーティング剤が好ましい。
【0019】
好ましいコーティング剤の具体例としては、
(1)セルロース誘導体:ヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース等;
(2)ポリビニル化合物:ポリビニルアルコール、ポビドン(ポリビニルピロリドン)、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、酢酸ビニル樹脂等;
(3)アクリル酸誘導体:アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS,アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液等;及び
(4)糖類(糖アルコール類を含む。):糖衣コーティングに用いられる白糖及びマンニトール等;
を挙げることができる。これらのコーティング剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ここで、ヒプロメロース或いはヒプロメロース系としては、例えばヒプロメロース2208、ヒプロメロース2906、ヒプロメロース2910等の粘度(ミリパスカル秒,mPa・s)の異なるものを包含し、これら粘度の異なるものを1種で用いてもよく、又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
これらの、コーティング剤のうち、セルロース誘導体としてヒプロメロース、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロース;ポリビニル化合物としてポリビニルアルコール、ポビドン、酢酸ビニル樹脂及びポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート;アクリル酸誘導体としてアミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液;及び糖類(糖アルコール類を含む。)として白糖及びマンニトール;からなる群より選択される1種又は2種以上が好ましい。
【0021】
これらのコーティング剤のうち、セルロース誘導体及びポリビニル化合物から選ばれる1種又は2種以上がより好ましく;
ヒプロメロース、エチルセルロース及びポリビニルアルコールから選ばれる1種又は2種以上がさらに好ましく;
ヒプロメロースが特に好ましい。
【0022】
本発明においては、上記のコーティング剤と、コーティング液を調製するために必要な可塑剤等を組み合わせて配合することができる。コーティング液を調製するために必要な可塑剤等としては、例えば、マクロゴール1000、マクロゴール1500、マクロゴール1540、マクロゴール4000、マクロゴール6000、マクロゴール8000、マクロゴール20000、マクロゴール35000等のマクロゴール(平均分子量1000〜35000のポリエチレングリコール);グリセリン脂肪酸エステル;ショ糖脂肪酸エステル;ヒマシ油;クエン酸トリエチル;トリアセチン;及びタルク等を挙げることができる。さらに、上記に挙げたコーティング剤に、後述する着色剤を添加して、本発明の医薬組成物に配合してもよい。
【0023】
本発明の医薬組成物は、化合物(1)の溶出促進効果の点からコーティング剤を0.5〜20重量%、さらに1〜15重量%、特に1.5〜10重量%を含有することが好ましい。
【0024】
以下に本発明の代表的な実施の形態である、固形製剤をコーティングする場合について説明する。
本発明において、上記のコーティング剤を用いて、化合物(1)を含有する固形製剤をコーティングするには、周知の固形製剤のコーティング方法を採用することができる。例えば、化合物(1)を含有する固形製剤に、流動層コーティング機や、パンコーティング機を用いてコーティング剤の溶解液/分散液を噴霧してコーティングする方法や、化合物(1)を含有する固形製剤をコーティング液に浸漬する方法、さらには、気流衝撃を利用した乾式コーティング法等を挙げることができるが、コーティング方法はこれらに限定されるものではない。また、コーティングする前の化合物(1)を含有する固形製剤の製造においても、従来から知られている方法を用いればよい。
従って、本発明の医薬組成物は、薬効成分である化合物(1)を含有する固形製剤を、周知の方法で製造し、次いで、得られた固形製剤を、コーティング剤によりコーティングすることにより製造することができる。
【0025】
コーティングする前の化合物(1)を含有する固形製剤については、特に限定されるものではないが、以下の形態が好ましい。
通常、錠剤等の固形製剤の製造に使用される賦形剤の組み合わせである、乳糖とコーンスターチの組み合わせを用いて化合物(1)を含有する固形製剤を製造した場合には、強酸性の溶出試験液、pH3〜5の溶出試験液及び水中での溶出試験において、満足すべき溶出特性を示すものは得られなかった。しかしながら、1)糖アルコール類を加えた化合物(1)を含有する固形製剤、及び2)水膨潤性添加剤を加えた化合物(1)を含有する固形製剤は、乳糖とコーンスターチを加えた化合物(1)を含有する固形製剤と比較して、溶出性を改善した。さらに、3)糖アルコール類及び水膨潤性添加剤とを組み合わせて製造した化合物(1)を含有する固形製剤は、強酸性の溶出試験液、pH3〜5の溶出試験液、及び水中での溶出試験において、良好な溶出性を示した。
したがって、本発明に用いる、コーティングする前の化合物(1)を含有する固形製剤の好ましいもうひとつの形態としては、1)糖アルコール類を加えた化合物(1)を含有する固形製剤、2)水膨潤性添加剤を加えた化合物(1)を含有する固形製剤、及び3)化合物(1)、糖アルコール類及び水膨潤性添加剤を含有する固形製剤が挙げられ:
3)化合物(1)、糖アルコール類及び水膨潤性添加剤を含有する固形製剤がより好ましい。
【0026】
本発明における水膨潤性添加剤とは、水を添加すると膨潤する医薬用添加物を意味する。本発明における水膨潤性添加剤としては、例えば、水膨潤性を有する賦形剤及び基剤等が挙げられる。水膨潤性添加剤の具体例としては、部分アルファー化デンプン、アルファー化デンプン、結晶セルロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース(カルボキシメチルセルロース)、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム(クロスカルボキシメチルセルロースナトリウム)、大豆レシチン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、トラガント末、ベントナイト等が挙げられ、これらは、1種又は2種以上を組み合わせて配合することができる。
水膨潤性添加剤としては、このうち、部分アルファー化デンプン及び結晶セルロースが好ましく;部分アルファー化デンプンがより好ましい。結晶セルロースとしてはセオラス(旭化成社製)が特に好ましい。部分アルファー化デンプンとしては、PCS(旭化成社製)、Starch1500(日本カラコン社製)が特に好ましい。
【0027】
化合物(1)の溶解性を改善することができる、糖アルコール類としては、マンニトール、エリスリトール、キシリトール等が好ましく;
マンニトールが特に好ましい。
【0028】
本発明には、糖アルコール類以外の水溶性賦形剤を配合することができ、該水溶性賦形剤としては、果糖、精製白糖、白糖、精製白糖球状顆粒、乳糖、無水乳糖、白糖・デンプン球状顆粒、半消化体デンプン、ブドウ糖、ブドウ糖水和物、粉糖、プルラン、β−シクロデキストリン等;
糖類以外として、アミノエチルスルホン酸、アメ粉、塩化ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、グリシン、グルコン酸カルシウム、L−グルタミン、酒石酸、酒石酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、デキストラン40、デキストリン、乳酸カルシウム、ポビドン、マクロゴール(ポリエチレングリコール)1500、マクロゴール1540、マクロゴール4000、マクロゴール6000、無水クエン酸、DL−リンゴ酸、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム等を挙げることができる。
水溶性賦形剤としては、糖類が好ましく;具体的には精製白糖、白糖、乳糖、乳糖造粒物、ブドウ糖、ブドウ糖水和物、粉糖、プルラン等がより好ましく;乳糖がさらに好ましい。
【0029】
化合物(1)を含有する固形製剤は、化合物(1)の溶出性改善効果の点から、糖アルコール類を0.01〜99.0重量%、さらに20〜80重量%、特に40〜60重量%含有していることが好ましい。また、化合物(1)を含有する固形製剤は、水膨潤性添加剤を0.01〜90重量%、さらに0.1〜80重量%、特に5〜50重量%含有していることが好ましい。
【0030】
上記の水膨潤性添加剤及び糖アルコール類を含有する製剤の場合、水膨潤性添加剤と糖アルコール類との配合比は、水膨潤性添加剤1重量部に対して、糖アルコール類が0.05〜50重量部であることが好ましく、1〜10重量部であることがさらに好ましく、特に1.5〜4重量部が好ましい。
【0031】
上記の化合物(1)を含有する医薬組成物には、上記糖アルコール類と水膨潤性添加剤との組合せに加え、本発明の効果に影響を与えない範囲内で、水不溶性の賦形剤、崩壊剤、結合剤、流動化剤、滑沢剤、着色剤、光沢化剤等を配合してもよい。
【0032】
水不溶性の賦形剤としては、L−アスパラギン酸、アルギン酸、カルメロースナトリウム、含水二酸化ケイ素、クロスポビドン、グリセロリン酸カルシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、軽質無水ケイ酸、結晶セルロース、粉末セルロース、合成ケイ酸アルミニウム、合成ケイ酸アルミニウム・ヒドロキシプロピルスターチ・結晶セルロース、小麦粉、コムギデンプン、コムギ胚芽粉、小麦胚芽油、米粉、コメデンプン、酢酸フタル酸セルロース、酸化チタン、酸化マグネシウム、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、第三リン酸カルシウム、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、天然ケイ酸アルミニウム、トウモロコシデンプン、トウモロコシデンプン造粒物、バレイショデンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、無水リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム造粒物、リン酸二水素カルシウム等が挙げられ;
水不溶性の賦形剤としては、結晶セルロース、粉末セルロースが好ましい。
【0033】
崩壊剤としては、アジピン酸、アルギン酸、アルファー化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、含水二酸化ケイ素、クエン酸カルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、軽質無水ケイ酸、結晶セルロース、合成ケイ酸アルミニウム、コムギデンプン、コメデンプン、酢酸フタル酸セルロース、ステアリン酸カルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、トウモロコシデンプン、トラガント末、バレイショデンプン、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、部分アルファー化デンプン、フマル酸一ナトリウム、ポビドン、無水クエン酸、メチルセルロース、リン酸二水素カルシウム等が挙げられ;
崩壊剤としては、クロスポビドン、カルボキシメチルスターチナトリウムが好ましい。
【0034】
結合剤としては、アメ粉、アラビアゴム、アラビアゴム末、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、加水分解ゼラチン末、加水分解デンプン加軽質無水ケイ酸、果糖、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルエチルセルロース、含水二酸化ケイ素、カンテン末、軽質無水ケイ酸、軽質無水ケイ酸含有ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、合成ケイ酸アルミニウム、高分子ポリビニルピロリドン、コポリドン、小麦粉、コムギデンプン、米粉、コメデンプン、酢酸ビニル樹脂、酢酸フタル酸セルロース、ジオクチルソジウムスルホサクシネート、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、酒石酸ナトリウムカリウム、常水、ショ糖脂肪酸エステル、精製ゼラチン、精製白糖、ゼラチン、D−ソルビトール、デキストリン、デンプン、トウモロコシデンプン、トラガント、トラガント末、乳糖、濃グリセリン、白糖、バレイショデンプン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2208、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2906、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合物、ピペロニルブトキシド、ブドウ糖、部分アルファー化デンプン、フマル酸、フマル酸ステアリン酸・ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート・ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910混合物、プルラン、ポビドン、ポリビニルアルコール(完全ケン化物)、ポリビニルアルコール(部分ケン化物)、ポリリン酸ナトリウム、マクロゴール4000、マクロゴール6000、マクロゴール20000、D−マンニトール、メチルセルロース等が挙げられる。
【0035】
流動化剤としては、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、結晶セルロース、合成ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、第三リン酸カルシウム、タルク、トウモロコシデンプン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等を挙げることができる。
【0036】
滑沢剤としては、カカオ脂、カルナウバロウ、含水二酸化ケイ素、乾燥水酸化アルミニウムゲル、グリセリン脂肪酸エステル、ケイ酸マグネシウム、軽質無水ケイ酸、結晶セルロース、硬化油、合成ケイ酸アルミニウム、サラシミツロウ、酸化マグネシウム、酒石酸ナトリウムカリウム、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリルアルコール、ステアリン酸ポリオキシル40、セタノール、ダイズ硬化油、ゼラチン、タルク、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、フマル酸、フマル酸ステアリルナトリウム、マクロゴール600、マクロゴール4000、マクロゴール6000、ミツロウ、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ラウリル酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。
【0037】
着色剤としては、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、酸化チタン、オレンジエッセンス、褐色酸化鉄、β−カロチン、黒酸化鉄、食用青色1号、食用青色2号、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色102号、食用黄色4号、食用黄色5号等を挙げることができる。
【0038】
光沢化剤としては、カルナウバロウ、硬化油、酢酸ビニル樹脂、サラシミツロウ、酸化チタン、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ポリオキシル40、ステアリン酸マグネシウム、精製セラック、精製パラフィン・カルナウバロウ混合ワックス、セタノール、タルク、中金箔、白色セラック、パラフィン、ポビドン、マクロゴール1500、マクロゴール4000、マクロゴール6000、ミツロウ、モノステアリン酸グリセリン、ロジン等が挙げられ;
光沢化剤としては、このうち、特にカルナウバロウ、酸化チタン、タルクが好ましい。
【0039】
本発明の医薬組成物は、経口投与可能な製剤であればその剤形は特に制限されないが、固形製剤であることが好ましく、錠剤、顆粒剤、散剤(細粒を含む)、カプセル剤が好ましい。また、その製造方法は、固形製剤の周知の製造方法を採用することができる。例えば、本発明の医薬組成物は、前記化合物(1)、糖アルコール類及び/又は水膨潤性添加剤、さらに必要に応じて崩壊剤、結合剤、流動化剤、滑沢剤、着色剤及び光沢化剤等を配合し、例えば、日本薬局方の製剤総則に記載されている固形製剤の製造法により製造することができる。
【0040】
本発明の医薬組成物の剤形が顆粒剤の場合、例えば、化合物(1)に、糖アルコール類及び/又は水膨潤性添加剤を配合し、さらに必要に応じて、賦形剤、結合剤、崩壊剤、もしくはその他の適切な添加物を配合して混和して均質とした後、適切な方法で粒状として顆粒を得る。さらに、流動層コーティング機にて、得られた顆粒に、コーティング剤の懸濁液/溶解液を噴霧してコーティングすることも可能である。
【0041】
また、本発明の医薬組成物の剤形が散剤の場合、例えば、化合物(1)に、糖アルコール類及び/又は水膨潤性添加剤を配合し、さらに必要に応じて、賦形剤、結合剤、崩壊剤、もしくはその他の適切な添加物を配合して混和して均質とした後、適切な方法で粉末又は微粒状として粉末又は微粒状のものを得る。さらに、流動層コーティング機にて、得られた粉末又は微粒状のものに、コーティング剤の溶解液/懸濁液を噴霧してコーティングすることも可能である。
【0042】
また、本発明の剤形がカプセル剤の場合は、前記顆粒剤又は散剤を適当なカプセル剤皮に充填すればよい。
【0043】
また、本発明の医薬組成物の剤形が錠剤の場合、上記化合物(1)及び使用可能な医薬品添加物の混合末、好ましくは上記化合物(1)、糖アルコール類及び/又は水膨潤性添加剤ならびに使用可能な医薬品添加物の混合末をそのまま圧縮成型することにより製造してもよいし、上記化合物(1)及び使用可能な医薬品添加物の混合末、好ましくは上記化合物(1)、糖アルコール類及び/又は水膨潤性添加剤ならびに使用可能な医薬品添加物の混合末を流動層造粒や攪拌造粒等により造粒し、得られた顆粒を圧縮成型することにより製造してもよい。圧縮成型圧は、本発明の効果に影響を与えない範囲で、適宜決定することができるが、6〜15kNで圧縮成型することが好ましい。また、錠剤の形状は、特に制限はないが、レンズ型、円盤型、円形、楕円形及び三角形やひし形等の多角形のものが好ましい。さらに、パンコーティング機にて、得られた錠剤にコーティング剤の懸濁液/溶解液を噴霧してコーティングすることも可能である。
【0044】
化合物(1)の本発明医薬組成物中の含有比は、化合物(1)のフリー体換算で、通常10〜30重量%であり、12〜25重量%が好ましい。特に、本発明医薬組成物の剤形が錠剤の場合、1錠あたりに含有される化合物(1)の含有量は、化合物(1)のフリー体換算で、通常1〜100mgであり、5〜75mgが好ましく、15〜60mgがより好ましい。
【0045】
本発明医薬組成物における、上記化合物(1)の溶出性は、例えば、日本薬局方、米国薬局方(USP)及び欧州薬局方に記載されている溶出試験法によって評価することができる。これらの溶出試験において用いられる溶出試験液を以下に例示する。
【0046】
強酸性の溶出試験液としては、例えば、日本薬局方記載の第1液や、米国薬局方に記載のUSP 0.1N HCl、Simulated Gastric Fluid without Enzyme等を挙げることができる。ただし、強酸性の溶出試験液は、これらに限られるものではない。
【0047】
例えば、pH6.8の溶出試験液としては、日本薬局方記載の第2液やリン酸塩緩衝液pH6.8、米国薬局方記載のUSP Phosphate Buffer(pH6.8)、Simulated Interstinal Fluid without Enzyme、欧州薬局方記載のPhosphate Buffer Solution pH6.8等を挙げることができる。ただし、pH6.8の溶出試験液は、これらに限られるものではない。
【0048】
また、pH3〜5の溶出試験液としては、例えば、pH4.0やpH4.5の溶出試験液のことであり、具体的には、日本薬局方記載の酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液や米国薬局方記載のUSP Acetate Buffer、欧州薬局方記載のAcetate Buffer Solution pH4.5等を挙げることができる。また、pH4.0の薄めたMcIlvaineの緩衝液も用いられる。
ただし、pH3〜5の溶出試験液は、これらに限られるものではない。
これらの溶出試験液は、各国の薬局方等に記載された方法で調製される。これらの溶出試験液のpHは、溶出試験液が緩衝液の場合、各溶出試験液に規定されたpHの±0.05以内となることが好ましい。
【0049】
日本薬局方溶出試験法に記載の方法(パドル法;毎分50回転)で行なうとき、pH6.8の溶出試験液中における式(1)で表される化合物の平均溶出率が、溶出試験開始後30分で60%以上、かつ溶出試験開始後60分で70%以上であるのが好ましく;
溶出試験開始後30分で70%以上、かつ溶出試験開始後60分で80%以上であるものがより好ましい。
【0050】
また、日本薬局方溶出試験法に記載の方法(パドル法;毎分50回転)で行なうとき、pH4.5の溶出試験液中における式(1)で表される化合物の平均溶出率が、溶出試験開始後30分で85%以上であることが好ましい。
【0051】
なお、上記「平均溶出率」とは、1種の固形製剤について、少なくとも3個、好ましくは6個、さらに好ましくは12個の溶出率を測定し、それらの平均値を求めたものである。
【実施例】
【0052】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
実施例1(賦形剤の影響)
表1(表中の数値はすべてmgを示す。)に記載された処方で化合物1aを含有する錠剤を製造し、日本薬局方に記載の第2法(パドル法)、50rpmにより溶出性を検討した。溶出率は、錠剤3個の平均溶出率を算出した。溶出試験液としては、pH4.0酢酸塩緩衝液を用いた。以下にpH4.0酢酸塩緩衝液の調製方法を示す。
pH4.0酢酸塩緩衝液調製方法:酢酸ナトリウム三水和物2.45g及び氷酢酸4.9gを量り、精製水を加えて、全量1000mLとした。
【0054】
(錠剤の製法)
表1記載の処方のうち、ヒドロキシプロピルセルロース並びにステアリン酸マグネシウムを除く成分を、乳鉢を用いて混合し、ヒドロキシプロピルセルロースの水溶液で造粒した。この顆粒にステアリン酸マグネシウムを混合し、打錠用顆粒とした後、これを圧縮成型(錠径8.0mmφ、丸型臼杵、打錠圧7.8kN)することにより、製錠を行なった。
なお、表1に記載の成分として、以下のものを使用した。
乳糖[Pharmatose200M(商品名)]、マンニトール[マンニット(商品名)]、コーンスターチ[コーンスターチ(商品名)]、結晶セルロース[セオラス(商品名)]、部分アルファー化デンプン[PCS(商品名)]、カルボキシメチルスターチナトリウム[Primojel(商品名)]、ヒドロキシプロピルセルロース[HPL−C(商品名)]、ステアリン酸マグネシウム[HyQual(商品名)]。
【0055】
【表1】

【0056】
表1の処方の錠剤について、pH4.0酢酸塩緩衝液における溶出試験の結果を図1に示す。その結果、マンニトールを賦形剤として用いた場合(処方B)、部分アルファー化デンプン(処方C、D)又は結晶セルロース(処方E)を賦形剤として用いた場合に化合物1aの溶出特性が良好であり、さらにマンニトールと、部分アルファー化デンプン(処方D)又は結晶セルロース(処方E)を組み合わせた賦形剤を用いた場合に、化合物1aの溶出特性がより良好であることが判明した。一般的な賦形剤である乳糖やコーンスターチを用いた場合(処方A)、化合物1aの溶出性は良くなかった。
【0057】
実施例2(崩壊剤の検討)
表2(表中の数値はすべてmgを示す。)に記載の処方のうち、ヒドロキシプロピルセルロース及びステアリン酸マグネシウムを除く成分を、乳鉢を用いて混合し、ヒドロキシプロピルセルロースの水溶液で造粒した。この顆粒にステアリン酸マグネシウムを混合し、打錠用顆粒とした後、これを圧縮成型(錠径8.0mmφ、丸型臼杵、打錠圧7.8kN)することにより、製錠を行ない、錠剤を得た。
得られた錠剤を、実施例1と同様にして溶出性を検討した。なお、溶出率は、錠剤3個の平均溶出率を算出した。
なお、崩壊剤は、以下のものを使用し、比較検討した。
カルボキシメチルスターチナトリウム[Primojel(商品名)]、クロスポビドン[Polyplasdone(商品名)]、カルメロースカルシウム[ECG−505(商品名)]、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース[L−HPC(商品名)]。
【0058】
【表2】

【0059】
表2の処方の錠剤についての、pH4.0酢酸塩緩衝液における溶出試験の結果を図2に示す。その結果、カルボキシメチルスターチナトリウム又はクロスポビドンを崩壊剤として配合した場合には、化合物1aの溶出性が、特に良好であることが判明した。
【0060】
実施例3
表3(表中の数値はすべてmgを示す。)に記載の処方で化合物1aを含有する錠剤を製造し、溶出試験液として0.1N塩酸水溶液(USP 0.1N HCl)、水及びpH6.8リン酸塩緩衝液[USP Phosphate buffer(pH6.8)]を用い、実施例1と同様にして溶出性を検討した。錠剤の製造法は、表3記載の処方のうち、ヒドロキシプロピルセルロース及びステアリン酸マグネシウムを除く成分を混合し、流動層造粒乾燥機を用いて、ヒドロキシプロピルセルロースの水溶液を噴霧し造粒した。この顆粒にステアリン酸マグネシウムを混合し、打錠用顆粒とした後、これを圧縮成型(錠径8.5mmφ、丸型臼杵、打錠圧7.5kN)することにより、製錠を行ない、錠剤を得た。なお、溶出率は、錠剤6個の平均溶出率を算出した。
【0061】
【表3】

【0062】
表3の処方の錠剤について、溶出試験液を0.1N塩酸水溶液、水及びpH6.8リン酸塩緩衝液として溶出試験を行なった結果を、それぞれ図3〜5に示す。その結果、マンニトール及び部分アルファー化デンプンを配合した場合に、化合物1aの溶出性は0.1N塩酸水溶液及び水中で良好であることが判明した。
【0063】
実施例4(コーティング剤の検討)
表4(表中の数値はすべてmgを示す。)に記載の処方のうち、ヒドロキシプロピルセルロース及びステアリン酸マグネシウムを除く成分を混合し、流動層造粒乾燥機を用いて、ヒドロキシプロピルセルロースの水溶液を噴霧し造粒した。この顆粒にステアリン酸マグネシウムを混合し、打錠用顆粒とした後、これを圧縮成型(錠径8.5mmφ、丸型臼杵、打錠圧 約10kN)することにより、製錠を行ない、錠剤を得た。さらに市販されるコーティング剤を用いて、パンコーティング機(ハイコーターマルチ,フロイント社製)にて、フィルムコーティング錠を製造した。コーティング剤としては、主成分としてヒプロメロースを含有するプレミックス品[OPADRY03F42132(商品名)]を用いた。OPADRY03F42132として3mgを用いてコーティングして製造した錠剤、OPADRY03F42132として10mgを用いてコーティングして製造した錠剤及びコーティングしない錠剤(素錠)を、各々実施例1と同様にpH6.8リン酸塩緩衝液[USP Phosphate buffer(pH6.8)]にて溶出試験を行なった。結果を図6に示す。なお、溶出率は、錠剤6個の平均溶出率を算出した。
さらに、パンコーティング機(ハイコーターミニ(製品名),フロイント社製)にて、速溶性コーティング剤として一般的なヒプロメロースを主成分としたコーティング剤[OPADRY03F42132(商品名)]及びポリビニルアルコールを主成分としたコーティング剤[OPADRY AMB(商品名)]、pH非依存性の徐放コーティング剤として、エチルセルロースを主成分としたコーティング剤[Aquacoat−ECD(商品名)]、さらに、pH依存性の腸溶性コーティング剤としてメタクリル酸コポリマーLDを主成分としたコーティング剤[EUDRAGIT L30−D55(商品名)]をそれぞれ10mg用いて、フィルムコーティング錠を製造し、各々実施例1と同様にpH6.8リン酸塩緩衝液[USP Phosphate buffer(pH6.8)]にて溶出試験を行なった。結果を図7に示す。なお、溶出率は、錠剤6個の平均溶出率を算出した。
さらに、パンコーティング機(ハイコーターマルチ(製品名),フロイント社製)にて、コーティング剤としてヒプロメロ−ス[TC−5(商品名)]を約60%含有するコーティング液10mg用いて、フィルムコーティング錠を製造し、実施例1と同様の方法で、pH4.0及びpH4.5の酢酸塩緩衝液にて溶出試験を行なった。結果を図8に示す。なお、溶出率は、錠剤6個の平均溶出率を算出した。
【0064】
【表4】

【0065】
図6から明らかなように、ヒプロメロース系でコーティングすると、全く意外にもコーティングしない場合に比べて、pH6.8における化合物1aの溶出性が向上することが判明した。また、そのコーティング剤の量は溶出挙動に影響しないことも判明した。
さらに、図7から明らかなように、腸溶性コーティング剤以外のコーティング剤でコーティングした場合に、特に溶出性が良好であることも判明した。
さらに、図8から明らかなように、ヒプロメロース系でコーティングした場合、pH4.0酢酸塩緩衝液、及びpH4.5酢酸塩緩衝液においても同様の優れた溶出性が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記の式(1)で表される、N1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド、その薬理上許容される塩、又はそれらの水和物と、(B)糖アルコール類及び水膨潤性添加剤から選ばれる1種又は2種以上とを含有することを特徴とする医薬組成物。
【化1】

【請求項2】
糖アルコール類が、マンニトール、キシリトール又はエリスリトールである請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
糖アルコール類がマンニトールである請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
水膨潤性添加剤が、部分アルファー化デンプン又は結晶セルロースである請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
水膨潤性添加剤が部分アルファー化デンプンである請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
下記の式(1)で表される、N1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド、その薬理上許容される塩、又はそれらの水和物を有効成分として含有する医薬組成物であって、セルロース誘導体、ポリビニル化合物、アクリル酸誘導体及び糖類から選択される1種又は2種以上のコーティング剤によりコートされた医薬組成物。
【化2】

【請求項7】
コーティング剤が、ヒプロメロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポビドン、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液、白糖及びマンニトールから選択される1種又は2種以上である請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
コーティング剤が、セルロース誘導体及びポリビニル化合物から選択される1種又は2種以上である請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
コーティング剤が、ヒプロメロース、エチルセルロース及びポリビニルアルコールから選択される1種又は2種以上である請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項10】
コーティング剤がヒプロメロースである請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項11】
セルロース誘導体、ポリビニル化合物、アクリル酸誘導体及び糖類から選択される1種又は2種以上のコーティング剤によりコートされた請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
コーティング剤が、ヒプロメロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポビドン、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液、白糖及びマンニトールから選択される1種又は2種以上である請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
コーティング剤が、セルロース誘導体及びポリビニル化合物から選択される1種又は2種以上である請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項14】
コーティング剤が、ヒプロメロース、エチルセルロース及びポリビニルアルコールから選択される1種又は2種以上である請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項15】
コーティング剤がヒプロメロースである請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項16】
コーティング剤の含有量が、医薬組成物全重量に対して、0.5〜20重量%である請求項6〜15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
式(1)で表わされる化合物が、N1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド 塩酸塩である請求項1〜16のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
式(1)で表わされる化合物が、N1−(5−クロロピリジン−2−イル)−N2−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド p−トルエンスルホン酸塩 1水和物である請求項1〜16のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
剤形が経口投与用製剤である請求項1〜18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
剤形が固形製剤である請求項1〜19のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
剤形が、錠剤、カプセル剤、顆粒剤又は散剤である請求項1〜20のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
剤形が錠剤である請求項1〜20のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
パドル法毎分50回転で溶出試験を行なうとき、pH6.8の溶出試験液中における、式(1)で表わされる化合物の平均溶出率が、溶出試験開始後30分で60%以上、かつ溶出試験開始後60分で70%以上であることを特徴とする請求項1〜22のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
パドル法毎分50回転で溶出試験を行なうとき、pH6.8の溶出試験液中における、式(1)で表わされる化合物の平均溶出率が、溶出試験開始後30分で70%以上、かつ溶出試験開始後60分で80%以上であることを特徴とする請求項1〜22のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項25】
パドル法毎分50回転で溶出試験を行なうとき、pH4.5の溶出試験液中における、式(1)で表わされる化合物の平均溶出率が、溶出試験開始後30分で85%以上であることを特徴とする請求項1〜24のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項26】
請求項1〜25に記載の医薬組成物を採用することによる、式(1)で表わされる化合物の溶出を促進する方法。
【請求項27】
有効成分である、式(1)で表わされる化合物の溶出が促進された請求項1〜25に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−90168(P2010−90168A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7969(P2010−7969)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【分割の表示】特願2009−510780(P2009−510780)の分割
【原出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(307010166)第一三共株式会社 (196)
【Fターム(参考)】