説明

半導体ウェーハの評価方法及び半導体ウェーハ評価装置

【課題】 半導体ウェーハの衝撃強度を従来より安定かつ正確に評価することができる評価方法や評価装置を提供する。
【解決手段】 少なくとも、半導体ウェーハである試料を載置する載置台と、前記試料の一方の主表面を支持する片押さえ手段と、球状物と、該球状物を任意の所望の高さから落下させるための落下手段とを具備し、前記試料を前記載置台に載置した後、前記片押さえ手段により前記試料の一方の主表面を支持した状態で、前記落下手段により前記球状物を前記所望の高さから前記主表面に向けて落下させることができるものであることを特徴とする半導体ウェーハ評価装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス製造プロセス等で使用するウェーハ、たとえばシリコンウェーハの衝撃耐性を評価するための半導体ウェーハの評価方法と半導体ウェーハ評価装置に関し、より具体的には、安定した衝撃耐性を示すウェーハを供給するために必要な衝撃耐性を従来より正確に評価することができる半導体ウェーハの評価方法と半導体ウェーハ評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造プロセスにおいて、材料のシリコンウェーハに割れが発生すると、大きな損失が発生する。
このためデバイス製造時には、割れにくい半導体ウェーハの要望が高い。
【0003】
この半導体や液晶の製造プロセス、特にドライエッチング、イオン注入、蒸着等の工程においては、高温化/急加熱/急冷が進んでおり、さらに、真空下やドライ環境下で行われる製造工程も増加している。
また、基板としてのシリコンウェーハやガラス基板等はその大口径化が進み、衝撃の耐性が益々重視されるようなっている。
【0004】
ここで、板ガラスの場合は、衝撃破壊強度を測定し、統計的な処理をする様々な方法がある。
例えば「建築で使用する板ガラスの強度は、1/1000枚の破壊強度に耐えられる厚さを使用」などが目安として活用されている。
【0005】
ここで、シリコンウェーハはその結晶性から脆性材料といえるため、一般的な材料の評価技術では測定値のバラツキが大きい。
そのため、シリコンウェーハの割れ易さを評価して検査するための標準的な機器は市販されておらず、そのため例えば特許文献1〜3のような評価方法・評価装置が考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−287139号公報
【特許文献2】特開平6−29362号公報
【特許文献3】特開2001−122700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば特許文献1では、シリコンウェーハに静的応力を加えて、ウェーハの破壊強度を測定する方法が開示されている。
しかし、この特許文献1に記載の評価方法では、シリコンウェーハ破壊強度は非常に高く測定される傾向があり、半導体デバイス製造プロセスとの比較が難しい。
また、ウェーハ破壊は非常に細かく粉砕された形状であり、デバイス製造時の割れとは異なる形態が見られるため、評価結果と実際のプロセスとに誤差が出ることになる。
【0008】
また、特許文献2には、鋼球がついた振り子を所定の角度に持ち上げて、落下打撃させることによってウェーハの破壊強度を測定する評価方法が開示されている。
しかし、良品の半導体ウェーハの耐衝撃性を評価するには、感度・精度の能力不足が懸念される。例えば、特許文献2の方法では、潜在しているクラック品は良品ウェーハの1/100程度の衝撃強度で破壊される。また、シリコンウェーハにおける繰り返し打撃の回数と衝撃耐性の相関は小さいために、特許文献2の方法では、繰り返し打撃の影響を過大評価してしまうという問題がある。
【0009】
そして特許文献3には、ガラス製の投入管をガイドとしてガラス球を落下させて、半導体ウェーハに割れが生じ始めるのに必要な最小落下高さHを破壊強度として用いる評価装置が開示されている。
しかしこの装置は、主にIII−V族化合物半導体を対象としており、化合物半導体基板については実施例等が子細に記載されている。一方、シリコンウェーハについては具体的な評価が行われていない。
また、この装置で実際にシリコンウェーハを破壊するには、特許文献3に記載の衝撃強度に比べて100倍以上の衝撃強度を与える必要があることが本発明者によって明らかになった。更にこの装置にて衝撃強度を評価すると、最小落下高さのバラツキが非常に大きく、安定した評価を行うことができないことも本発明者によって明らかになった。
【0010】
このように、半導体ウェーハの衝撃強度を安定して評価できる基準的な評価方法やそれを行うことができる装置がなく、その開発が望まれていた。
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、半導体ウェーハの衝撃強度を従来より安定かつ正確に評価することができる評価方法や評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明では、半導体ウェーハの衝撃強度を評価する方法であって、少なくとも、
(1) 半導体ウェーハである試料の一方の主表面を片押さえ手段によって支持し、球状物を、所定の高さから落下させる。
(2) 2回目の実験として、先とは別の試料を片押さえ手段によって支持し、(1)工程で前記試料が破壊されなかった場合は(1)工程よりも高くした位置から前記球状物を落下させ、(1)工程で前記試料が破壊された場合は(1)工程よりも低くした位置から前記球状物を落下させる。
(3) 3回目の実験として、上記とは別の試料を片押さえ手段によって支持し、(2)工程で前記試料が破壊されなかった場合は(2)工程よりも高くした位置から前記球状物を落下させ、(2)工程で前記試料が破壊された場合は(2)工程よりも低くした位置から前記球状物を落下させる。
(4) 所定の回数nとなるまで、上記工程を繰り返す。
(5) 前記破壊された試料の数とそのときの前記球状物の高さ、前記破壊されなかった試料の数とそのときの前記球状物の高さの関係から、50%衝撃破壊高さ(H50)、50%衝撃破壊高さの標準偏差(SH)を算出する。
(6) 前記H50、前記SHから50%衝撃破壊エネルギ(E50)、50%衝撃破壊エネルギの標準偏差(SE)を計算する。
との(1)〜(6)の工程を行うことを特徴とする半導体ウェーハの評価方法を提供する。
【0013】
上述のように、本発明は球状物を所定の高さから落下させることによって、ウェーハの動的応力に対する衝撃耐性を評価することができる。本発明は、曲げ破壊試験などの静的応力の評価を行う一般的な材料試験に比べて、より実際の半導体デバイス工程に近い環境での試験とすることができる。また、所定の回数落下試験を行うため、単発の試験に比べて偶発的なトラブルの入り込む余地を小さくすることができ、精度の高い評価とすることができる。更に直前の試験結果に応じて衝撃強度を変えるため、ウェーハ自体の不良による測定誤差が入り込む余地を減ずることができ、高精度化に寄与することになる。
これら以上の結果から、半導体ウェーハの衝撃強度を従来より安定かつ正確に評価することができる評価方法となる。
【0014】
ここで、前記試料を、1枚の半導体ウェーハを分割して作製することが好ましい。
このように、1枚の半導体ウェーハを分割して試料を作製することによって、1枚の半導体ウェーハから半導体ウェーハの衝撃強度を評価できるため、ウェーハを無駄にせずに済み、評価コストが高くなることを防ぐことができる。また、異なる半導体ウェーハでは衝撃強度が微妙に異なる事があるがこのような問題が起こることを防止することができ、より精度の高い半導体ウェーハの衝撃強度の評価方法とすることができる。
【0015】
また、前記(1)−(6)の工程を、別の半導体ウェーハに対しても行い、半導体ウェーハの衝撃強度の比較を行うことが好ましい。
上述のような工程(1)−(6)では、半導体ウェーハの衝撃強度を従来より精度良く定量的に評価できるため、半導体ウェーハ同士の衝撃強度を比較するのに非常に好適であり、まず1つの半導体ウェーハに対して上記評価工程を行い、その後別の半導体ウェーハに対しても上記評価工程を行うことによって、半導体ウェーハ同士の衝撃強度を定量的に比較することができるようになる。
【0016】
また、本発明では、半導体ウェーハの衝撃強度を評価するための装置であって、少なくとも、半導体ウェーハである試料を載置する載置台と、前記試料の一方の主表面を支持する片押さえ手段と、球状物と、該球状物を任意の所望の高さから落下させるための落下手段とを具備し、前記試料を前記載置台に載置した後、前記片押さえ手段により前記試料の一方の主表面を支持した状態で、前記落下手段により前記球状物を前記所望の高さから前記主表面に向けて落下させることができるものであることを特徴とする半導体ウェーハ評価装置を提供する。
【0017】
このような評価装置であれば、半導体ウェーハからなる試料に与える打撃強度を可変することができ、所謂ステアケース法による半導体ウェーハの衝撃強度の評価を行うことができるため、従来に比べてバラツキ幅の小さな半導体ウェーハの衝撃強度評価を行うことができる。すなわち、半導体デバイス製造プロセスでのウェーハの割れ易さの指標となりうる高い信頼性を有する衝撃強度値を評価することができる評価装置とできる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明のように半導体ウェーハからなる試料に与える打撃強度を可変することで、半導体ウェーハの衝撃強度を統計的に評価することが可能となり、従来の評価方法・評価装置に比べて、評価能力・精度の向上を図ることができ、半導体デバイス製造プロセスでの半導体ウェーハの割れ易さを定量的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の半導体ウェーハ評価装置の概略の一例を示した図である。
【図2】本発明の半導体ウェーハ評価装置の一部を拡大した図である。
【図3】本発明の半導体ウェーハ評価装置の概略の他の一例の一部を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
前述のように、半導体ウェーハの衝撃強度を従来より安定かつ正確に評価することができる評価方法や評価装置の開発が待たれていた。
【0021】
そこで、本発明者は、半導体ウェーハでは、静的な応力に比べてウェーハに打撃を与えたときの衝撃強度は桁違いに小さい傾向が見られることに着目し、統計的な手法によって半導体ウェーハの衝撃強度を評価することができる評価方法や装置について鋭意検討を重ねた。
【0022】
その結果、本発明者は、定落下重量でのステアケース法の原理を利用した衝撃耐性試験の方法やそれを行うことができる評価装置を用いること、そして測定結果をステアケース法によって解析することによって、半導体ウェーハの衝撃強度を統計的に評価できることを発想した。
【0023】
ステアケース法はストレスの水準を上下させて、各水準に区分したときの試料の破壊の有無のサンプル数とそのときのストレス水準値から衝撃破壊強度を統計解析する手法である(例えばDixon, W.J. and Mood,A.M., J.Amer.Stat.Assn., Vol.43, pp.109−126, 1948等参照)。このステアケース法は、品質検査でよく用いられており、恒常刺激法よりも試行回数を低減できることが利点としてあげられ、またその精度も高いことが知られている。
【0024】
そしてこのような方法やこれを行うことができる装置であれば、シリコンウェーハ等の半導体ウェーハの衝撃破壊強度を統計的に評価することが可能となることを発見し、本発明を完成させた。
【0025】
以下、本発明について図を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。図1は本発明の半導体ウェーハ評価装置の概略の一例を示した図、図2は本発明の半導体ウェーハ評価装置の一部を拡大した図である。
【0026】
図1,図2に示すように、本発明の半導体ウェーハ評価装置10は、少なくとも、半導体ウェーハである試料Wを載置するための載置台11と、試料Wの一方の主表面を一定の力で支持するための円筒状の片押さえ手段12と、球状物13と、例えばスライダ14aと電磁磁石14bからなり、球状物13を任意の所望の高さから落下させるための落下手段14と、落下手段14を所定の任意の高さに移動・固定するための単軸の高さ調整レール15と、評価装置10のベースとなる装置ベース16とを具備するものである。
そして、試料Wを載置台11に載置した後、片押さえ手段12により試料Wの一方の主表面を支持した状態で、落下手段14により球状物13を所望の高さから主表面に向けて垂直に落下させることができるものである。
【0027】
また、片押さえ手段12の上には、試料Wが割れなかった時の球状物13の跳ね返り対策のためのポリカーボネートカバー18を設置することが望ましい。
更に、載置台11の下には、試料Wが割れた場合に試料Wの破片と球状物13を受けるためのポリカーボネート製のボール受け台17を設置することが望ましい。
球状物13は、電磁磁石14bから落下し始め、ポリカーボネートカバー18、片押さえ手段12を通過して試料Wに衝突する。そして試料Wが破損する場合、球状物13は載置台11、装置ベース16の穴を通してボール受け台17へと落下していくことになる。
【0028】
このような評価装置10では、破壊エネルギーの強さを、球状物13、例えばスチールボールの重量(サイズ)の増減と落下の高さを変更してコントロールすることが可能となっている。
具体的には、半導体ウェーハの衝撃強度を評価する際には、高さ調整レール15によってスライダ14aを上下させ、任意の高さ(0〜2000mm)からスチールボール13を落下させ、試料Wが破損するか否かを評価し、試料が破損した場合は落下基準位置を下げ、破損しなかった場合は落下基準位置を上げることを繰り返すことができるようになっているものである。なお、球状物の高さではなく、球状物の重量を増減することもできるが、高さを調整する方が容易である。
なお、一連の衝撃強度の評価中は、球状物の落下高さまたは球状物の重量の一方を固定し、もう一方のみを変更することが望ましい。
【0029】
このような評価装置であれば、半導体ウェーハからなる試料に、強度の異なる打撃を簡単に加えることができるため、実際の半導体プロセスにおいて加わる衝撃を模擬することができる。また、加える衝撃は球状物を落下させる高さを変えることによって容易に変更して繰り返すことができ、ステアケース法のような統計的な手法を採用することができる。よって従来よりバラツキの小さい半導体ウェーハの衝撃強度評価を行うことができ、高い信頼性を有する衝撃強度値を得ることができる。
【0030】
ここで、半導体ウェーハとしてシリコンウェーハを評価する際には、シリコンの硬度(モース硬度7)が高いため、球状物や載置台、片押さえ手段等は割れたシリコン片で傷つくことが予想される。また、球状物を任意の所望の高さから落下させるための落下手段としては、電磁磁石による保持が機構的に容易である。これらの球状物の保持と、劣化時の交換の事情から、球状物の材質はクロム鋼等が好適である。
また、球状物は試料Wに衝突する部分の形状が球状になっていれば良く、その他の部分の形状は特に限定されない。例えば単球状、あるいは先端が球状で後部が円柱状の弾丸形状であっても良い
【0031】
なお本発明では、上記の装置構造・材料のみに限定はされず、各種の特殊条件の測定が可能な装置構造にすることができる。
例えば、本発明の半導体ウェーハ評価装置の概略の他の一例の一部を拡大した図である図3のように、高さ調整レールに相当する落錘保持パイプ15aはポリカーボネートからなり、落下高さ調整穴15bが数多く開いている。そして、弾丸状の落錘13aをストッパー14cによって所定の高さで保持することができるものである。
この落錘保持パイプ15aはポリカーボネート製ならば、単軸スライダ方式のように高さの制限が無く、落錘の高さを10m以上と高くすることが出来る。そして、斜めや先端を曲げて保持することにより、シリコン片と落錘を特定の角度で激突させることも可能である。
そして、弾丸状の落錘13aはファインセラミックなどシリコンより硬度の高い落錘を作製することが可能であり、落錘に歪ゲージを取り付けて評価することで、より子細な破壊挙動の子細な特性を評価することが可能である。
【0032】
次に、上記のような本発明の半導体ウェーハ評価装置を用いた、本発明の半導体ウェーハの評価方法(半導体ウェーハの衝撃強度を評価する方法)の一例を以下に示すが、もちろん本発明はこれらに限定されるものではない。
以下、半導体ウェーハとしてシリコンウェーハを用いる場合を例にして説明するが、もちろん半導体ウェーハはこれに限定されず、貼り合わせウェーハや石英基板、ガラス基板、あるいは化合物半導体基板等の各種半導体ウェーハの衝撃強度を評価できることは言うまでもない。
【0033】
まず、試料の基となるシリコンウェーハや落下させる球状物、球状物を任意の所定の高さから落下させるための落下手段を準備する。
ここで、1枚の半導体ウェーハを分割することによって試料を作製することができる。
1枚の半導体ウェーハを分割して試料を作製することによって、1枚の半導体ウェーハから試料を多く作製することができるため、ウェーハの無駄が発生しにくく、評価を安く行うことができる。そして、異なる半導体ウェーハを用いる場合に発生する各半導体ウェーハ間の微妙な衝撃強度の違いが評価結果に入り込むことを防ぐことができるため、より高精度な衝撃強度の評価とすることができる。
この分割方法としては、ウェーハ4分割・ウェーハ12分割・ウェーハ24分割等いずれの形態やサイズでもかまわず、特に限定されない。
【0034】
そして、工程(1)として、先に準備したシリコン片のうち1枚を選択し、試料の一方の主表面を片押さえ手段によって支持し、球状物を、所定の高さから落下させることによって、シリコン片に衝撃力を与える。
【0035】
次に、工程(2)として、2回目の実験として、先とは別のシリコン片を片押さえ手段によって支持し、(1)工程でシリコン片が破壊されなかった場合は(1)工程よりも高くした位置(例えば一水準高くする)から球状物を落下させ、(1)工程でシリコン片が破壊された場合は(1)工程よりも低くした位置(例えば一水準低くする)から球状物を落下させる。
なお、シリコン片の破壊の有無の判断は、シリコン片の衝撃部位表面の亀裂・破断・貫通・破砕の有無を肉眼によって観察することによって行うことができるが、もちろんこれに限定されない。
【0036】
そして、工程(3)として、3回目の実験として、上記とは別のシリコン片を片押さえ手段によって支持し、(2)工程でシリコン片が破壊されなかった場合は(2)工程よりも高くした位置(例えば一水準高くする)から球状物を落下させ、(2)工程でシリコン片が破壊された場合は(2)工程よりも低くした位置(例えば一水準低くする)から球状物を落下させる。
【0037】
そして、工程(4)として、上記工程を、所定の回数nとなるまで繰り返す。
【0038】
更に、工程(5)として、破壊されたシリコン片の数とそのときの球状物の落下高さ、破壊されなかったシリコン片の数とそのときの球状物の落下高さの関係から、50%衝撃破壊高さ(H50)、50%衝撃破壊高さの標準偏差(SH)を算出する。この50%衝撃破壊高さ(H50)は試験数の50%が破壊を起こす高さと推定されるものであり、また50%衝撃破壊高さの標準偏差(SH)はその標準偏差である。
この50%衝撃破壊高さ(H50)、50%衝撃破壊高さの標準偏差(SH)の算出には、ステアケース法の計算を用いるのが良い。
【0039】
例えば、破壊されたシリコン片の数とそのときの球状物の高さ、破壊されなかったシリコン片の数とそのときの球状物の高さを整理して、数の少ない方を選び、その各落下高さに対する数をfとする。
そして、50%衝撃破壊高さ(H50)および50%衝撃破壊高さの標準偏差(SH)は
50=H+(高さの変位量)×(A/C±1/2)
SH=1.62×(高さの変位量)×((CB−A)/C+0.029)
但しHはn=0に対する球状物の高さの値、また複合については、破壊されたシリコン片の数をfnとした場合は−、破壊されなかったシリコン片の数をfnとした場合は+、A=Σnf、B=Σn、C=Σfとする。
【0040】
このときにH50とSHが以下の条件1〜2を満足できない場合は、上記(1)から(5)の工程を再度行うことが望ましい。
条件1:H50−SH<スタート時の基準高さ<H50+SH
条件2:0.5×SH<高さの変化水準<2×SH
【0041】
そして、工程(6)として、先に算出したH50、SHから、50%衝撃破壊エネルギ(E50)、50%衝撃破壊エネルギの標準偏差(SE)を計算する。
50%衝撃破壊エネルギ(E50)は、例えば
50=球状物の質量×重力加速度×50%衝撃破壊高さ(H50
から算出することができる。
また50%衝撃破壊エネルギの標準偏差(SE)は、例えば各シリコン片の高さに球状物の質量と重力加速度を乗算したものの標準偏差から算出することができる。
【0042】
上述のように、工程(1)のように球状物を所定の高さから落下させることによって、ウェーハの動的応力に対する衝撃耐性を評価することができる。本発明は、曲げ破壊試験などの一般的な材料試験に比べて、より実際の半導体デバイス工程に近い環境での試験とすることができる。
また、工程(4)に示すように、工程(2)−(3)を所定の回数nになるまで繰り返すことによって、単発の試験に比べて偶発的なトラブルの入り込む余地を小さくすることができ、精度の高い評価とことができる。更に直前の試験結果に応じて衝撃強度を変えるため、ウェーハ自体の不良による測定誤差が入り込む余地を減ずることができ、高精度化に寄与することになる。
そして工程(5)−(6)のようにH50、SHを算出、E50、SEを計算することによって、半導体ウェーハの衝撃強度を他の半導体ウェーハと評価可能な程度に定量的に評価することができる。
これら以上のことによって、半導体ウェーハの衝撃強度を従来より安定かつ正確に評価することができるようになる。
【0043】
また、上記(1)−(6)の工程を、別の半導体ウェーハに対しても行い、半導体ウェーハの衝撃強度の比較を行うことができる。
上述の衝撃強度の評価方法であれば、統計的な手法によって衝撃強度を評価しているため、従来より精度良く定量的に衝撃強度を評価できる。
そのため、半導体ウェーハ同士の衝撃強度を比較するのに非常に適しており、各種シリコンウェーハの衝撃破壊強度の比較をするのに好適である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
対象ウェーハとして、導電型がP型、抵抗率10Ω・cm、酸素濃度12ppma、0.78mm厚、結晶方位[100]のシリコンウェーハ2枚を準備し、このウェーハを各々12分割して計20個の試料を作製した。なお残り4枚は使用しなかった。
そして図1に示すような評価装置を用いて、球状物として直径13.5mm、重さ10.0gのスチールボール(クロム鋼)、スタート時の基準高さを105cm、高さの変化水準を5cmとして、上記(1)−(6)の工程を行った。
各試料の破壊の有無と、スチールボールの高さとの関係を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
その結果、50%衝撃破壊高さ(H50)は104cm、50%衝撃破壊高さの標準偏差(SH)は8cmであり、H50−SH(96cm)<スタート時の基準高さ(105cm)<H50+SH(112cm)との関係、0.5×SH(4cm)<高さの変化水準(5cm)<2×SH(16cm)との関係を満たしており、評価精度が十分に高いことが確認できた。
【0047】
また、50%衝撃破壊エネルギ(E50)は0.10J、50%衝撃破壊エネルギの標準偏差(SE)は0.01Jとなり、本発明の方法によれば定量的に安定してシリコンウェーハの衝撃強度を評価できることが判った。
【0048】
(実施例2)
後述する比較例1,2との比較のために、シリコンウェーハは分割せずに、上記工程(1)−(3)において用いる試料をシリコンウェーハ1枚丸ごととして、シリコンウェーハ20枚準備した以外は実施例1と同様の方法でシリコンウェーハの衝撃強度の評価を行った。
【0049】
その結果、50%衝撃破壊エネルギ(E50)は0.11J、50%衝撃破壊エネルギの標準偏差(SE)は0.01Jとなり、実施例1に近い値が得られ、定量的な値が得られた。
【0050】
また、ウェーハの破壊状態は、スチールボールの打撃点が打ち抜かれた形状となった。しかしそれ以外の領域では[110]劈開方向に大きく割れた形状であり、デバイス製造時の割れと類似した形態が観察された。すなわち、実際の半導体デバイス工程におけるウェーハの破壊に近い形で試料を破壊でき、より実際に則した評価となっていることが判った。
【0051】
(比較例1)
特許文献3に記載されている評価装置によって、シリコンウェーハの衝撃強度を評価した。
具体的には、厚さ10mmアクリル樹脂製の下敷き板の上に厚さ5mmシリコンゴムを敷き、半導体ウェーハ保持具とした。この上に導電型がP型、抵抗率10Ω・cm、酸素濃度12ppma、0.78mm厚、結晶方位[100]のシリコンウェーハを載置した。
そして、直径4mm、重さ87mgのガラス球を、初期落下高さ50mm、高さの変化水準(+20mm)との条件でシリコンウェーハの主表面上に落として、割れが生じなかったらウェーハを交換せずに落下高さを高くしていき、割れるのに必要な最低落下高さを求めた。
しかし、上述のガラス球では、落下させる高さを400mmまで上げていって繰り返し打撃を与えたが、シリコンウェーハを破壊することが不可能であった。
【0052】
そこで、直径30.0mm、重さ109.8gのスチールボール(クロム鋼)を使用した。すなわち、特許文献3に記載されている装置に比べて100倍以上の衝撃強度を加えることになった。
このスチールボールを使用して20枚のシリコンウェーハの衝撃強度を評価した。
【0053】
その結果、最低落下高さは11cm〜39cm、最低落下高さは20枚の平均で21cm、割れるまでの繰り返し打撃回数は4回〜18回となった。
また、実施例1と比較できるように、落下高さを衝撃破壊エネルギに換算したところ、最小衝撃破壊エネルギは0.18J〜0.56Jとなった。
【0054】
このように、最低落下高さの評価結果には明らかに小さな値(はずれ値)が混じっており、この比較例1の評価結果は、正規性の検定結果(危険率5%)とはみなせなかった。
また、比較例1の評価結果から計算された衝撃強度は実施例2の50%衝撃破壊エネルギに比べて高い値となっており、その上バラツキが大きかった。
更に、シリコンウェーハの破壊状態は、非常に細かく粉砕された形状であり、デバイス製造時に発生する割れとは異なる形態が多く見られた。
【0055】
そして比較例1の評価方法では、割れないときは少しずつ落下高さを高くして、シリコンウェーハに割れが生じるのに必要な最低落下高さを求めることになっているため、基本的にシリコンウェーハの面内の同じ地点に繰り返し打撃を与えることになる。
しかしこの方法では、同じ地点を何回も繰り返し打撃することが必要で、サンプルにダメージが蓄積するなどの恐れが否定できない。また、評価時間が非常にかかるとの問題点があることも判った。
【0056】
その上、最低落下高さの測定結果がバラツクために評価が難しい。たとえば、「最低落下高さ20枚の平均」の測定結果をどう解釈すれば良いか?などの疑問点があり、半導体ウェーハの衝撃強度の指標としては適していないと考えられることが判った。
【0057】
(比較例2)
特許文献1に記載されている評価方法によって、導電型がP型、抵抗率10Ω・cm、酸素濃度12ppma、0.78mm厚、結晶方位[100]のシリコンウェーハ10枚の機械的強度を評価した。
具体的には、シリコンウェーハを載置する載置台と、載置台に備えられ、シリコンウェーハをウェーハ外周の2点で支持する支持手段と、荷重シャフトを平行移動させて先端部をウェーハ外周に押し当てて荷重する荷重手段とを具備する測定装置を用いて、シリコンウェーハを載置台に載置した後、支持手段によりシリコンウェーハをウェーハ外周の2点で支持しながら、荷重手段により荷重シャフトの先端部をウェーハ外周の1点に押し当て、シリコンウェーハの中心に向かって静圧荷重を加えた。また、このときの静的荷重の機械的強度はMIN47.2Kg、MAX78.4Kgとした。
【0058】
その結果、機械的強度の平均値は56.4Kg、機械的強度の標準偏差は9.2Kgとなった。
この比較例2の評価結果と実施例2の評価結果は、単位が異なるために単純には比較することは出来ない。しかし、両者の桁数が大きく異なる点から、シリコンウェーハに静的応力での破壊強度はウェーハの衝撃強度に比べて高いと予想される。
また、シリコンウェーハの破壊状態は非常に細かく粉砕された形状であり、デバイス製造時の割れとは異なる形態が見られ、実際の半導体デバイス工程の指標として応用できるかは疑問であった。
【0059】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0060】
10…半導体ウェーハ評価装置、
11…載置台、 12…片押さえ手段、 13…球状物、 13a…落錘、 14…落下手段、 14a…スライダ、 14b…電磁磁石、 14c…ストッパー、 15…高さ調整レール、 15a…落錘保持パイプ、 15b…落下高さ調整穴、 16…装置ベース、 17…ボール受け台、 18…ポリカーボネートカバー、
W…試料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウェーハの衝撃強度を評価する方法であって、少なくとも下記(1)−(6)の工程を行うことを特徴とする半導体ウェーハの評価方法。
(1) 半導体ウェーハである試料の一方の主表面を片押さえ手段によって支持し、球状物を、所定の高さから落下させる。
(2) 2回目の実験として、先とは別の試料を片押さえ手段によって支持し、(1)工程で前記試料が破壊されなかった場合は(1)工程よりも高くした位置から前記球状物を落下させ、(1)工程で前記試料が破壊された場合は(1)工程よりも低くした位置から前記球状物を落下させる。
(3) 3回目の実験として、上記とは別の試料を片押さえ手段によって支持し、(2)工程で前記試料が破壊されなかった場合は(2)工程よりも高くした位置から前記球状物を落下させ、(2)工程で前記試料が破壊された場合は(2)工程よりも低くした位置から前記球状物を落下させる。
(4) 所定の回数nとなるまで、上記工程を繰り返す。
(5) 前記破壊された試料の数とそのときの前記球状物の高さ、前記破壊されなかった試料の数とそのときの前記球状物の高さの関係から、50%衝撃破壊高さ(H50)、50%衝撃破壊高さの標準偏差(SH)を算出する。
(6) 前記H50、前記SHから50%衝撃破壊エネルギ(E50)、50%衝撃破壊エネルギの標準偏差(SE)を計算する。
【請求項2】
前記試料を、1枚の半導体ウェーハを分割して作製することを特徴とする請求項1に記載の半導体ウェーハの評価方法。
【請求項3】
前記(1)−(6)の工程を、別の半導体ウェーハに対しても行い、半導体ウェーハの衝撃強度の比較を行うことを特徴とする請求項1に記載の半導体ウェーハの評価方法。
【請求項4】
半導体ウェーハの衝撃強度を評価するための装置であって、
少なくとも、半導体ウェーハである試料を載置する載置台と、前記試料の一方の主表面を支持する片押さえ手段と、球状物と、該球状物を任意の所望の高さから落下させるための落下手段とを具備し、
前記試料を前記載置台に載置した後、前記片押さえ手段により前記試料の一方の主表面を支持した状態で、前記落下手段により前記球状物を前記所望の高さから前記主表面に向けて落下させることができるものであることを特徴とする半導体ウェーハ評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−165881(P2011−165881A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26831(P2010−26831)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】