説明

半導体ウェーハの評価方法及び評価装置

【課題】半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度の評価において、測定結果のバラツキを低減して、精度の良い評価を実施できる方法及び装置を提供することを目的とする。
【解決手段】半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度を評価する方法であって、前記評価する半導体ウェーハの所定の結晶方位に対応するエッジ部に荷重を付与して、前記半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度を評価することを特徴とする半導体ウェーハの評価方法及び半導体ウェーハの評価装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス製造プロセス等で使用する半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度を評価するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造プロセスにおいて材料となる、シリコンウェーハ等の半導体ウェーハに割れが発生すると、大きな損失が発生する。このためデバイス製造時に、割れにくいウェーハの要望が高い。
半導体や液晶の製造プロセス、特にドライエッチング、イオン注入、蒸着等の工程においては高温化/急加熱/急冷が進んでおり、さらに、真空及びドライ化で行われる製造工程も増加している。また、基板としてのシリコンウェーハやガラス基板等は大口径化が進み、衝撃等への耐性が益々重視されるようなっている。
【0003】
半導体ウェーハの破壊の原因としては、主にウェーハエッジ部への打撃によるケースが多く、このエッジ部の衝撃強度の評価が重要である。
シリコンウェーハ等は結晶性の脆性材料のために、一般的な材料の評価技術では測定値のバラツキが大きい。ウェーハの割れ易さを評価して検査する標準的機器は市販されておらず、そのため例えば特許文献1−4に示されるような装置が考案されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−287139号公報
【特許文献2】特開2004−101258号公報
【特許文献3】特開平5−288663号公報
【特許文献4】特開平6−201533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1−4の装置を用いても、半導体ウェーハの破壊強度の評価にはバラツキが生じ、精度の良い評価は困難であった。
例えばシリコンはダイヤモンド構造の立方晶系であり、ヤング率などの物性には異方性が存在し、結晶の方位によって破壊強度にも異方性が明瞭に見られる。しかし、従来では、この異方性について考慮されていなかった。特許文献1−4でも、異方性の破壊強度への影響を考慮していないために、半導体ウェーハの強度のわずかな差異を評価するには、感度・精度の能力が不足していた。また、シリコンウェーハの強度の異方性の評価については、JIS規格は存在しない。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度の評価において、測定結果のバラツキを低減して、精度の良い評価を実施できる方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度を評価する方法であって、前記評価する半導体ウェーハの所定の結晶方位に対応するエッジ部に荷重を付与して、前記半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度を評価することを特徴とする半導体ウェーハの評価方法を提供する。
【0008】
このように、所定の結晶方位に対応するエッジ部に荷重を付与して評価することで、結晶の異方性による評価への影響を低減できるため、評価のバラツキを抑制し、感度も向上させることができる。また、所定の結晶方位に対応するエッジ部に荷重を付与させることができれば、従来の装置等を設計変更することなく用いることができ、簡易に実施できる。従って、本発明であれば、精度良く、効率的に半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度を評価することができる。
【0009】
このとき、前記所定の結晶方位を、前記半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度が最も高くなる結晶方位とすることが好ましい。
このように破壊強度が最も高い結晶方位に対応するエッジ部に荷重を付与して評価すれば、結晶の異方性による測定結果への影響をより低減でき、評価の精度をより向上できる。
【0010】
このとき、前記荷重の付与を、落錘式衝撃方式又は水平方向静圧荷重方式で行うことが好ましい。
このような方式であれば、効率的に精度良く、破壊強度を評価することができる。
【0011】
このとき、前記評価する半導体ウェーハから、前記所定の結晶方位に対応するエッジ部を含む試験片を切り出し、該試験片を2枚の保持治具により挟んで保持し、該保持した試験片の前記エッジ部に荷重を付与して、前記半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度を評価することが好ましい。
このように荷重を付与して評価することで、荷重付与時の試験片のたわみ等による測定結果への影響を抑制して、破壊強度を正確に評価することができる。
【0012】
このとき、前記2枚の保持治具を、前記所定の結晶方位に対応するエッジ部の周辺を露出させる切り欠きを設けたものとすることが好ましい。
このような保持治具を用いることで、荷重付与する部分以外は保持治具で挟んで保持できるため、試験片のたわみ等による測定結果への影響を確実に防止できる。
【0013】
また本発明は、半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度を評価する装置であって、前記評価する半導体ウェーハの所定の結晶方位に対応するエッジ部に荷重を付与するものであることを特徴とする半導体ウェーハの評価装置を提供する。
【0014】
このように、所定の結晶方位に対応するエッジ部に荷重を付与して評価する装置であれば、結晶の異方性による評価への影響を低減できるため、評価のバラツキを抑制し、感度を向上させることができる。また、所定の結晶方位に対応するエッジ部に荷重を付与させるのみなので、簡易な装置とすることができる。従って、精度良く、効率的に半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度を評価することができる装置となる。
【0015】
このとき、前記所定の結晶方位は、前記半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度が最も高くなる結晶方位であることが好ましい。
このように破壊強度が最も高い結晶方位に対応するエッジ部に荷重を付与して評価するものであれば、破壊強度への結晶の異方性による影響をより低減でき、評価の精度をより向上できる装置となる。
【0016】
このとき、前記荷重の付与は、落錘式衝撃方式又は水平方向静圧荷重方式で行うものであることが好ましい。
このような方式であれば、効率的に精度良く評価することができる装置となる。
【0017】
このとき、前記評価装置は、前記評価する半導体ウェーハから切り出した前記所定の結晶方位に対応するエッジ部を含む試験片を挟んで保持する2枚の保持治具を有するものであることが好ましい。
このような保持治具を有するものであれば、荷重付与時の試験片のたわみ等による影響を抑制して、破壊強度を正確に評価することができる装置となる。
【0018】
前記2枚の保持治具は、前記所定の結晶方位に対応するエッジ部の周辺を露出させる切り欠きが設けられたものであることが好ましい。
このような切り欠きが設けられた保持治具であれば、荷重付与する部分以外は保持治具で挟んで保持できるため、試験片のたわみ等による評価への影響を確実に防止できる装置となる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度を、精度良く、効率的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】半導体ウェーハの結晶方位による破壊強度の高低を示す図である。
【図2】本発明に用いることができる落錘式衝撃方式の破壊試験機の一例を示す概略図である。
【図3】本発明に用いることができる水平方向静圧荷重方式の測定装置の一例を示す概略図である((a)は側面図、(b)は平面図)。
【図4】本発明において、半導体ウェーハから試験片を切り出して、試験を行うまでの工程の一例を示す説明図である。
【図5】本発明において、半導体ウェーハから試験片を切り出して、試験を行うまでの工程の他の例を示す説明図である。
【図6】本発明に用いることができる落錘式衝撃方式の破壊試験機の一例を示す概略図である。
【図7】本発明において、半導体ウェーハを保持して、試験を行うまでの工程の一例を示す説明図である。
【図8】本発明に用いることができる水平方向静圧荷重方式の測定装置の他の例を示す概略図である((a)は側面図、(b)は平面図)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
数世代前のシリコンウェーハでは、最外周部に析出や歪などが残っているケースもあり、1ロットにおける破壊強度の「最大値÷最小値=10倍」を超えるケースもあった。しかし、最近のシリコンウェーハは、結晶の製造方法やウェーハ加工方法が大幅に改善されている。従来の評価方法では、1枚のシリコンウェーハ内での破壊強度の最大値〜最小値の破壊強度の評価は困難であり、評価法の改善が求められてきた。
これに対して、本発明者は、評価する半導体ウェーハの結晶の異方性を考慮して試験を行うことで、高精度な評価を行うことができることを見出して、以下のような本発明を完成させた。
【0022】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
本発明は、評価する半導体ウェーハの所定の結晶方位に対応するエッジ部に荷重を付与して、半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度を評価する方法である。
【0024】
シリコンのような異方性のある結晶は、結晶構造から、ある特定方向のヘキ開と呼ばれる割れやすい面が存在する。へき開は結晶構造において原子間の結合力の弱い面であり、ウェーハの硬度などとは全く異なっている。従って、従来のように結晶方位に関係なく荷重を付与した場合、荷重の加わる方向とヘキ開の影響による割れの伸展方向が異なり、測定強度のバラツキが大きくなっていることを本発明者が見出した。
このため、本発明のように所定の結晶方位に対応するエッジ部に荷重を付与して評価すれば、上記のような結晶の異方性による測定強度のバラツキを低減でき、評価の精度を向上できる。
【0025】
このとき、上記所定の結晶方位を、半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度が最も高くなる結晶方位とすることが好ましい。
上記のように破壊強度が最も高くなる結晶方位では、ヘキ開の影響が最も少ない位置あるいは方向に荷重を付与できるため、半導体ウェーハの破壊強度を高精度に評価することができる。
【0026】
例えば、ノッチが(011)に刻まれている(100)シリコンウェーハを評価する場合、{110}ヘキ開面との特定の角度によって、シリコンウェーハ内でのエッジ部の破壊強度の高〜低を評価することができる。図1は結晶方位による破壊強度の違いを示す図である。
図1に示すように、{110}ヘキ開面との角度θ=20°〜28°であるエッジ部において、1枚のシリコンウェーハ内でのエッジ部の破壊強度が最も高く、割れ難いことを本発明者は見出した。
【0027】
シリコン単結晶では{111}面(原子間距離3.13Å、ヤング率190Gpa)が、最も原子密度とヤング率が高いので、{111}面間の結合力が他の面の場合より小さく、{111}面でヘキ開が最も起こりやすい。2番目にヘキ開が起こりやすいヘキ開面は{110}面である。
(100)ウェーハでは、{110}ヘキ開面に対して縦横・斜め45°に割れやすいので、{110}ヘキ開面との角度θ=20°〜28°が、{110}面、{100}面、{111}面の影響を最も受けにくい方向だと考えられる。
【0028】
従って、特に{110}ヘキ開面からの角度θ=26.565°({210}の結晶面群を代表面として表記できる)に対応するエッジ部が最も破壊強度が高いことがわかり、このエッジ部に垂直方向に荷重を付与することが好ましい。
なお、このような破壊強度が高い結晶方位は、各ウェーハによって、予め調べることが好ましい。
【0029】
また、評価する半導体ウェーハから、所定の結晶方位に対応するエッジ部を含む試験片を切り出し、該試験片を2枚の保持治具により挟んで保持し、該保持した試験片のエッジ部に荷重を付与して、半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度を評価することが好ましい。
このように半導体ウェーハから切り出した試験片を挟んで保持した状態で荷重付与すれば、荷重付与の際の座屈によるたわみ等はほとんど生じず、評価精度を向上できる。また、試験片を切り出して評価を行うため、一枚のウェーハを用いて、複数の荷重付与、強度測定を実施でき、効率的で低コストである。
【0030】
このとき、2枚の保持治具を、所定の結晶方位に対応するエッジ部の周辺を露出させる切り欠きを設けたものとすることが好ましい。
このような保持治具であれば、荷重を付与するエッジ部の周辺を露出させているため荷重付与の装置と保持治具が干渉せず、その他の部分は挟んで保持できるため、座屈によるたわみを確実に防止することができる。
【0031】
また、荷重の付与の方法としては、特に限定されず、落錘式衝撃方式又は水平方向静圧荷重方式であれば、正確な破壊強度測定が可能である。
【0032】
以上のような本発明の方法は、評価する半導体ウェーハの所定の結晶方位に対応するエッジ部に荷重を付与するものであることを特徴とする半導体ウェーハの評価装置によって実施できる。
以下、本発明をより具体的に説明する。
【0033】
図2は、本発明に用いることができる落錘式衝撃方式の破壊試験機の概略説明図である。
破壊試験機10の装置ベース17には単軸スライダ式ロボット9が立てられており、スライダー11には電磁石12がセットされ、円柱打撃ピン13(クロム鋼)が磁力で吸着されている。保持治具15の上には、ポリカーボネート製のカバー14が設置されている。カバー14の底の穴から試験片16が露出しており、落下してきた円柱打撃ピン13が激突するように設計されている。
【0034】
この破壊試験機10において、スライダー11を上下させ、任意の高さから円柱打撃ピン13を落下させて、保持治具15に保持された試験片16に鉛直方向に衝撃を付与することが可能である。
この試験機10を用いて、主に「定落下重量でのステアケース法の原理を利用した落錘式衝撃破壊試験」を行って、ステアケース法による解析を行うことができる。
【0035】
ステアケース法は、ストレスの水準を上下させて各水準に区分して、破壊の有無から衝撃破壊強度を統計解析する手法である(例えば、Dixon, W.J. and Mood,A.M.,J.Amer.Stat.Assn.,Vol.43, pp.109−126, 1948参照)。
サンプルの破壊の有無と衝撃力分布から、ステアケース法の計算で「50%衝撃破壊エネルギー(E50)、50%衝撃破壊エネルギーの標準偏差(SE)」を計算して、半導体ウェーハの破壊強度を評価する。
【0036】
次に、図3に示す水平方向静圧荷重方式の測定装置により、本発明を実施する方法について簡単に説明する。
図3の水平方向静圧荷重方式の測定装置20では、試験片16を挟んで保持した保持治具15を載置台21に載置した後、荷重シャフト22の先端部を試験片16のエッジ部に押し当て、ボンベ23からのガスを圧力制御バルブ24で調節しながら、エッジ部に水平方向に静圧荷重を加える。そして、この試験片16が破壊されるときの破壊強度を測定する方法である。
【0037】
上記した図2,3の装置を用いた試験において、本発明では、図4に示すように試験片16を作製して保持治具15に保持させることができる。
図4(a)に示すように、評価する半導体ウェーハWから、荷重を付与する所定の結晶方位(例えば、(100)ウェーハの場合は、{110}ヘキ開面からの角度θ=26.565°)に対応するエッジ部を含む試験片16を、ダイサー等で切り出す。
【0038】
次に、図4(b)に示すように、荷重を付与するエッジ部を露出させる切り欠き18を設けた2枚の保持治具15により挟んで保持する。
そして、図4(c1)、(c2)に示すように、装置に設置して、荷重を付与することができる。図4(c1)、(c2)に示すように、試験片16の上記荷重を付与するエッジ部に、垂直方向に荷重、衝撃が付与されるように保持、設置する。
【0039】
または、図5に示すように、扇状の試験片16’を作製して、保持治具15’に保持させることもできる。
図5(a)に示すように、評価する半導体ウェーハWを4分割して、荷重を付与する所定の結晶方位に対応するエッジ部が中央になるように扇状の試験片16’を作製する。
【0040】
次に、図5(b)に示すように、この試験片16’を切り欠き18’が設けられた保持治具15’で挟んで保持し、図5(c1)、(c2)、図6に示すように、これに荷重を付与することができる。
【0041】
または、図7に示すように、評価する半導体ウェーハWを切り欠き18’’が設けられた保持治具15’’で保持して(図7(a))、それに荷重を付与することもできる(図7(b1)、(b2))。
この場合も、図7(a)に示すように、所定の結晶方位に対応するエッジ部に荷重が付与されるように半導体ウェーハWを保持する。
【0042】
上記の図7に示すように試験片を切り出さずに半導体ウェーハWに荷重を付与する場合には、図8(a)、(b)に示すように、半導体ウェーハWを挟まずに、載置台21上に載置して、支持手段25で2点以上で支持して荷重を付与することもできる。ただし、座屈によるたわみ等を考慮すると、図7のように保持治具で挟んで保持した状態で荷重付与する方が好ましい。
また、上記のように試験片に切り出して試験を行う方が、ウェーハ一枚当たりの測定数を増やすことができ、コストダウンも可能となる。
【0043】
上記のような図2、3、8の装置を用いて、従来のように結晶方位に関係なく荷重点を選択して評価を行った場合、結晶の異方性のために、半導体ウェーハの強度のわずかな差異の評価が難しかった。しかし、本発明において、上記のような保持治具を使用して、試験片やウェーハの所定の結晶方位に衝撃、荷重を与えて破壊強度を測定することで、大幅な感度・精度の向上が確認できる。
【0044】
例えば特許文献2−4の装置、方法は、強度=繰り返し打撃回数とする評価方法である。しかし、シリコンウェーハ等が脆性材料であることを考慮すると、当該評価方法では繰り返し打撃回数の影響を過大評価しており、評価の精度は低いと考えられる。
【0045】
上記した本発明による評価は、例えば0.1〜5mm厚のシリコンウェーハの評価に好適であり、また、半導体ウェーハとして利用されているサファイヤやSiC結晶のウェーハにも、ヤング率などの物性には異方性が存在しているため、本発明が好適である。
【0046】
以上のような本発明であれば、例えば、最もヘキ開の影響を受けないエッジ部、方向を選んで荷重を付与して評価する等により、半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度を、ばらつきが小さく、高精度に評価することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
評価対象のウェーハとして、低酸素濃度品(品種A)と中酸素濃度品(品種B)を準備し、図2に示す装置を用いて、本発明によりエッジ部の破壊強度を評価した。
低酸素濃度品(品種A)として、0.78mm厚、直径300mm、P−型、酸素濃度12ppma、抵抗率20Ωcmの[100]シリコンウェーハを5枚準備した。
【0048】
次に、図4に示すように、{110}ヘキ開面からの角度θ=26.5°に対応するエッジ部を含むように、略台形状のシリコン片サンプルを8個作製した。
ウエーハ1枚より略台形状のサンプルを各8個×ウェーハ5枚分より、シリコン片サンプルを40個作製した。
【0049】
中酸素濃度品(品種B)として、0.78mm厚、直径300mm、P−型、酸素濃度14ppma、抵抗率22Ωcmの[100]シリコンウェーハを5枚準備した。
次に、品種Aと同様に、シリコン片サンプルを合計40個作製した。
【0050】
「衝撃評価の測定手順」
(1) サンプルの材質・厚み等から基本条件を決定する。この実施例1では、落錘(円柱打撃ピン(軸受け鋼))のサイズを、直径8mm、長さ20mm、重さ8.6gとし、落球治具、スタート時の基準高さ(100cm)、高さの変化水準(10cm)を選択する。
(2) サンプルをシリコン片保持治具により挟んで保持し、それを装置ベース上にセットする。また、円柱打撃ピンを電磁石にセットする。
(3) ロボットコントローラを高さ100cmにセットし、スライダーを上昇させる。そして、電磁石をOFFにして円柱打撃ピンを落下させ、サンプルの{110}ヘキ開面からの角度θ=26.5°に対応するエッジ部に衝撃力を与える。破壊は、サンプルの衝撃部位の表面の亀裂・破断・破砕の有無を肉眼によって判断する。
(4) サンプルが破壊していない場合は、新しいサンプルに交換してセットし、落下高さを一水準(+10cm)を上げる。
(5) 衝撃でサンプルが破壊した場合は、新しいサンプルに交換してセットし、落下高さを一水準(−10cm)を下げる。
(6) そして、前回の試験結果から落下の高さ条件を選択し、(1)−(5)を40回繰り返す。
(7) サンプルの破壊の有無と衝撃力分布から、ステアケース法の計算を行う。
(8) 「50%衝撃破壊エネルギー(E50)、50%衝撃破壊エネルギーの標準偏差(SE)」を算出する。
【0051】
50%衝撃破壊エネルギー(E50)は、例えば、
50=打撃物質の質量×重力加速度×50%衝撃破壊高さ(H50
から算出することができる。50%衝撃破壊高さ(H50)は、試験数の50%が破壊されると推定される高さである。
【0052】
低酸素濃度品(品種A)の衝撃強度は、以下の測定結果となった。
50%衝撃破壊エネルギー(E50)=0.044J
50%衝撃破壊エネルギーの標準偏差(SE)=0.013J
【0053】
また、中酸素濃度品(品種B)の衝撃強度は、以下の測定結果となった。
50%衝撃破壊エネルギー(E50)=0.063J
50%衝撃破壊エネルギーの標準偏差(SE)=0.013J
【0054】
低酸素濃度品(品種A)と中酸素濃度品(品種B)の破壊された破壊強度の分布から、母平均の検定(有意水準0.05)を行うと母平均に有意差が見られた。
また、正規性の検定(x適合度検定)より破壊強度の分布は、正規分布とみなされる。
【0055】
(比較例1)
評価対象のウェーハとして、実施例1と同様の低酸素濃度品(品種A)と中酸素濃度品(品種B)を準備し、図2に示す装置を用いて評価した。
この比較例1では、各ウェーハを{110}ヘキ開との角度θ=任意の角度(0°・10°・20°・30°・40°・50°・60°・70°・80°・90°)の10タイプの条件下で、ダイサーで、十文字にそれぞれ4分割の切断をおこなって、ウェーハ10枚×4個で、合計40個の扇状のサンプルを作製した。これらのサンプルをランダムに測定することで、荷重を加える角度の結晶方位を特定しない従来の試験を再現した。
実施例1と同様に、ただし保持治具は、図5,6に示す保持治具15’を用いて、サンプルのエッジ部の中心に衝撃を与えて、衝撃強度を求めた。
【0056】
低酸素濃度品(品種A)の衝撃強度は以下の測定結果となった。
50%衝撃破壊エネルギ(E50)=0.035J
50%衝撃破壊エネルギの標準偏差(SE)=0.028J
【0057】
中酸素濃度品(品種B)の衝撃強度は以下の測定結果となった。
50%衝撃破壊エネルギ(E50)=0.037J
50%衝撃破壊エネルギの標準偏差(SE)=0.023J
【0058】
低酸素濃度品(品種A)と中酸素濃度品(品種B)の破壊された破壊強度の分布から、母平均の検定(有意水準0.05)を行うと、母平均に有意差は見られなかった。
また、正規性の検定(x適合度検定)より、破壊強度の分布は偏りがあり、正規分布とは認められなかった。ヘキ開が原因で、サンプルの破壊強度にばらつきが生じてしまったと考えられる。
【0059】
このように本発明の荷重を加える角度を所定の結晶方位に限定した実施例1では、ウェーハエッジ部の衝撃強度をより子細に統計的に評価することが可能になった。これにより従来の検査機に比べて評価能力の向上の効果が得られた。
また、略台形状に切り出した試験片で試験を行うことができるため、ウェーハ一枚当たりの測定n数を2倍多くすることができ、測定精度の向上と共にコストダウンも可能となる。
【0060】
(実施例2)
評価対象のウェーハとして、低酸素濃度品(品種C)を準備し、図3に示す装置を用いて、本発明により評価した。
低酸素濃度品(品種C)として、0.78mm厚、直径300mm、P−型、酸素濃度10ppma、抵抗率21Ωcmの[100]シリコンウェーハを5枚準備した。
【0061】
次に、1枚のウェーハから、図4に示すように、{110}ヘキ開面からの角度θ=26.5°に対応するエッジ部を含むように、略台形状のシリコン片サンプルを8個作製した。
ウエーハ1枚より略台形状のサンプルを各8個×ウェーハ5枚分より、シリコン片サンプルを合計40個作製した。
【0062】
これらのサンプルをシリコン片保持治具により挟んで保持して、{110}ヘキ開面からの角度θ=26.5°に対応するエッジ部に荷重を付与して、水平方向静圧荷重方式により図3の装置で試験を行った。測定結果を以下に示す。
機械的強度:MIN680N〜MAX888N
機械的強度の平均値=776N
機械的強度の標準偏差=67N
正規性の検定(x適合度検定)より破壊強度の分布は、正規分布とみなされる。
【0063】
(実施例3)
実施例2と同様に、ただし、図8に示すように、ウェーハをそのまま用いて、支持手段により支持しながら荷重を付与した。この場合も、ウェーハにおいて、{110}ヘキ開面からの角度θ=26.5°に対応するエッジ部に荷重を付与して、水平方向静圧荷重方式により図8の装置で試験を行った。測定結果を以下に示す。
【0064】
機械的強度:MIN703N〜MAX1008N
機械的強度の平均値=806N
機械的強度の標準偏差=105N
【0065】
実施例2と実施例3の破壊された破壊強度の分布から、母平均の検定(有意水準0.05)を行うと母平均に有意差は見られなかった。
一方、正規性の検定(x適合度検定)より、実施例3での破壊強度の分布は、偏りがあり正規分布とは認められなかった。
【0066】
実施例3ではウェーハ全体が荷重によって座屈でたわみが発生してしまい、ばらつきが大きくなってしまったと考えられる。
これらの点から、保持治具で挟んで保持した状態で荷重付与する実施例2の方が優れた評価方法だと考察される。また、実施例3の測定に比べて、実施例2では測定n数を8倍に多くすることができるので、測定精度の向上と共にコストダウンも可能となる。
【0067】
(比較例2)
評価対象のウェーハとして、低酸素濃度品(品種C)を準備し、図8に示す装置を用いて評価した。
低酸素濃度品(品種C)として、0.78mm厚、直径300mm、P−型、酸素濃度10ppma、抵抗率21Ωcmの[100]シリコンウェーハを10枚準備した。
この比較例2では、各ウェーハについて、{110}ヘキ開との角度θ=任意の角度(0°・10°・20°・30°・40°・50°・60°・70°・80°・90°)の10タイプの位置に荷重を付与して強度を測定することで、荷重を加える角度の結晶方位を特定して行わない従来の試験を再現した。測定結果を以下に示す。
【0068】
機械的強度:MIN445N〜MAX954N
機械的強度の平均値=645N
機械的強度の標準偏差=183N
【0069】
従来では、図3,8に示すような特許文献1の装置で、ウェーハ異方性を考慮した荷重点の選別を行っていない。しかし、実施例3と比較例2の破壊強度の分布から、母平均の検定(有意水準0.05)を行うと、母平均にはっきりとした有意差が見られた。ウェーハ異方性が原因であると考えられる。
【0070】
このように、半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度評価において、本発明のようにウェーハの異方性を考慮した荷重点の選別を行うことで、ウェーハエッジ部の強度をより子細に統計的に評価することが可能になった。これにより、従来の評価方法に比べて評価能力の向上の効果が得られた。
【0071】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0072】
9…単軸スライダ式ロボット、 10…落錘式衝撃方式の破壊試験機、
11…スライダー、 12…電磁石、 13…円柱打撃ピン、 14…カバー、
15、15’、15’’…保持治具、 16、16’…試験片、
17…装置ベース、 18、18’、18’’…切り欠き、
20…水平方向静圧荷重方式の測定装置、 21…載置台、
22…荷重シャフト、 23…ボンベ、 24…圧力制御バルブ、
W…半導体ウェーハ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度を評価する方法であって、
前記評価する半導体ウェーハの所定の結晶方位に対応するエッジ部に荷重を付与して、前記半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度を評価することを特徴とする半導体ウェーハの評価方法。
【請求項2】
前記所定の結晶方位を、前記半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度が最も高くなる結晶方位とすることを特徴とする請求項1に記載の半導体ウェーハの評価方法。
【請求項3】
前記荷重の付与を、落錘式衝撃方式又は水平方向静圧荷重方式で行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体ウェーハの評価方法。
【請求項4】
前記評価する半導体ウェーハから、前記所定の結晶方位に対応するエッジ部を含む試験片を切り出し、該試験片を2枚の保持治具により挟んで保持し、該保持した試験片の前記エッジ部に荷重を付与して、前記半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度を評価することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の半導体ウェーハの評価方法。
【請求項5】
前記2枚の保持治具を、前記所定の結晶方位に対応するエッジ部の周辺を露出させる切り欠きを設けたものとすることを特徴とする請求項4に記載の半導体ウェーハの評価方法。
【請求項6】
半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度を評価する装置であって、
前記評価する半導体ウェーハの所定の結晶方位に対応するエッジ部に荷重を付与するものであることを特徴とする半導体ウェーハの評価装置。
【請求項7】
前記所定の結晶方位は、前記半導体ウェーハのエッジ部の破壊強度が最も高くなる結晶方位であることを特徴とする請求項6に記載の半導体ウェーハの評価装置。
【請求項8】
前記荷重の付与は、落錘式衝撃方式又は水平方向静圧荷重方式で行うものであることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の半導体ウェーハの評価装置。
【請求項9】
前記評価装置は、前記評価する半導体ウェーハから切り出した前記所定の結晶方位に対応するエッジ部を含む試験片を挟んで保持する2枚の保持治具を有するものであることを特徴とする請求項6乃至請求項8のいずれか一項に記載の半導体ウェーハの評価装置。
【請求項10】
前記2枚の保持治具は、前記所定の結晶方位に対応するエッジ部の周辺を露出させる切り欠きが設けられたものであることを特徴とする請求項9に記載の半導体ウェーハの評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−83544(P2013−83544A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223609(P2011−223609)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】