説明

半導体モジュール

【課題】圧接により半導体素子の制御用電極層と電極端子とを電気的に接続する半導体モジュールにおいて、電極端子の位置決めを正確に行う。
【解決手段】半導体素子2と、半導体素子2の制御用電極層と接続される電極端子3と、電極端子3を固定する固定部材4と、を備える半導体モジュール1において、電極端子3の中間部7に挿通孔10を形成する。そして、固定部材4の電極端子3の中間部7と接する面に、挿通孔10に挿通する突起部4aを形成する。また、突起部4aの端部に、電極端子3が係止する係止部を設ける。固定部材4を、電極端子3の電極接続部6が半導体素子2を押圧するように固定する。電極端子3の電極接続部6は弾性体であり、電極接続部6が弾性変形することで、電極端子3が固定部材4に付勢される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の制御用電極層に接続される電極端子の位置決め構造に係り、この位置決め構造を有する半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な絶縁形パワー半導体モジュールとして、インバータ等電力変換装置に用いられるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)モジュールがある。また、このIGBTモジュールに代表される「絶緑形パワー半導体モジュール」若しくは「Isolated power semiconductor devices」は、それぞれJEC−2407−2007、IEC60747−15にて規格が制定されている。
【0003】
一般的な絶緑形パワー半導体モジュールにおいて、スイッチング素子であるIGBTやダイオード等の半導体素子は、半導体素子の下面に備えられた電極層をDBC(Direct Bond Copper)基板(或いはDCB基板)の銅回路箔上にはんだ付けすることにより備えられる(例えば、非特許文献1)。DBC基板とは、セラミックス等からなる絶縁板に銅回路箔を直接接合したものである。
【0004】
半導体素子の上面に備えられる電極層は、例えば、超音波ボンディング等の方法によりアルミワイヤが接続されてDBC基板上の銅回路箔と電気的に結線される。そして、はんだ付け等によりDBC基板の銅回路箔から外部へ電気を接続するための銅端子(リードフレームやブスバー)が銅回路箔と接続される。さらに、この周りは(スーパー)エンジニアリングプラスチックのケースで囲まれ、その中を電気絶緑のためのシリコンゲル等が充填される。
【0005】
近年、半導体素子の動作温度の高温化が進んでいる。動作温度が、175℃〜200℃となると、この温度がはんだ材料の融点に近いため、従来のはんだ材料を用いることができない場合がある。そこで、はんだに置換する材料として、例えば、金属系高温はんだ(Bi、Zn、Au)、化合物系高温はんだ(Sn−Cu)、低温焼結金属(Ag粉、nanoAg)等が提案されている。また、次世代の半導体素子であるSiCは、250〜300℃での動作が報告されている。
【0006】
はんだを用いた絶緑形パワー半導体モジュールの課題としては、以下の2つの課題がある。
1.RoHS(Restriction of Hazardous Substances)に対応するため、はんだの鉛フリー化
2.温度サイクル、パワーサイクル等の信頼性の向上
はんだの鉛フリー化の課題に対しては、鉛フリーはんだを用いることやはんだを用いない半導体モジュール構造が検討されている。鉛フリーはんだ材料としては、例えば、上述のようなSn−Ag系やSn−Cu系のものが検討されている。また、はんだを用いない半導体モジュール構造として平型圧接構造パッケージが提案されている(非特許文献1、2)。
【0007】
一般的な平型圧接構造パッケージでは、半導体素子(例えば、IGBT、ダイオード)の端部に半導体素子及びコンタクト端子の位置決めをするガイドが設けられている。そして、半導体素子の上面電極層がコンタクト端子に接触した状態で半導体素子が基板(Mo基板やDBC基板等)上に設けられる。これらコンタクト端子と基板が、半導体素子を挟持するように押圧された状態で半導体モジュール内に備えられる。このように、平型圧接構造パッケージでは、圧接によりコンタクト端子と半導体素子との接続、及び半導体素子と基板との接続が行われる。
【0008】
このような平型圧接構造パッケージは、平型構造であることから半導体素子を両面から冷却できる。さらに、圧接により半導体素子や電極端子等を接続するので、はんだを用いないで半導体素子が電気的、熱的に外部と接続できる。このため、一般的に平型圧接構造パッケージの両端をヒートシンクで圧接することで、平型圧接構造パッケージの両面を冷却するとともに、そのヒートシンクを導電部材として用いる。
【0009】
この平型圧接構造の半導体モジュールでは、圧接力が各半導体素子等に均等に掛かるように半導体モジュールを組み立てる必要がある。例えば、圧接は平型圧接構造パッケージの上下のヒートシンク間とを電気的に絶緑する必要があること、板バネで平型圧接構造パッケージを圧接するがこの設計の圧接力が平型圧接構造パッケージの電極ポストに均等に掛かるようにする必要がある。これらにはノウハウがあり、圧接が不良であった場合は半導体素子の破壊の原因となるおそれがある。なお、ヒートシンクと平型圧接構造パッケージの圧接は、主にユーザが実施する。また、回路を構成するのに、このヒートシンクや圧接のための板バネが小型化の妨げとなる等、使いこなすのには熟練が要求される。このことから平型圧接構造パッケージは限られた装置への適用となり、代わりに使い勝手の良い従来型の絶縁形パワー半導体モジュールが広く使われている。
【0010】
また、温度サイクル、パワーサイクル等の信頼性を向上させる課題に対しては、半導体モジュールを構成する各部材(半導体、金属、セラミックス等)の熱膨張率の違いより生じる課題を改善する必要がある(例えば、特許文献1、2)。すなわち、基板−銅ベース間、基板−銅端子間において、銅とセラミックスの熱膨張係数の差から間のはんだにせん断応力が働き、はんだに亀裂が生じて熱抵抗が増大したり端子が剥離したりするおそれがある。さらに、半導体素子−基板間のはんだにも亀裂が生じる場合がある。その他、半導体素子上のアルミワイヤの接続部でもアルミニウムと半導体素子の熱膨張の差で応力が発生してアルミワイヤが疲労破断する場合がある。
【0011】
年々電力密度の増加に伴い半導体素子上の電極とアルミワイヤ間等の接合温度が高くなることから、はんだのせん断応力、アルミワイヤの応力が大きくなってきている。これに対して熱膨張の影響が半導体モジュールの設計寿命に至るまでの期間に亘って顕在化しないように半導体モジュールの構造を設計する必要がある。SiCやGaNのような高温で使用できるワイドバンドキャップ半導体素子の出現により、さらに熱膨張の影響の低減が要求されている。
【0012】
そこで、高信頼性、環境性、利便性を同時に実現するために、圧接のように、はんだ接合、或いはワイヤーボンドを用いず、かつ使い勝手の良い絶縁形パワー半導体モジュールの実現が求められている。また、SiC、GaNなどの高温で使用可能な半導体素子の性能を活かす半導体モジュールとしても温度サイクル、パワーサイクル等の信頼性が求められている。
【0013】
平型圧接構造の半導体モジュールのように、圧接により、半導体素子の電極層とこの電極層に接続される電極端子とを接続する半導体モジュールが、再び注目を集めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11−17087号公報
【特許文献2】特開2004−319991号公報
【特許文献3】特開2007−220491号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】電気学会高性能高機能パワーデバイス・パワーIC調査専門委員会、「パワーデバイス・パワーICハンドブック」、コロナ社、1996年7月、p289、p336
【非特許文献2】森睦宏、関康和、「大容量IGBTの最近の進歩」、電気学会誌、社団法人電気学会、1998年5月、Vol.118(5)、pp.274−277
【非特許文献3】平成21年電気学会全国大会シンポジウム「半導体電力変換装置のパッケージング技術−実装における技術動向」、平成21年電気学会全国大会講演論文集、社団法人電気学会、第4分冊、S20(15)−S20(18),4−S20−5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、電極端子と電極層とを圧接により接続する場合、電極層と電極端子の位置決めを正確に行うことができないと、圧接が不良となり半導体モジュールの信頼性を損なうおそれがある。
【0017】
電極端子の位置決め構造としては、例えば、特許文献3に記載の方法がある。特許文献3に記載の位置決め構造では、電極端子21の長手方向位置決めを行う吸収突起23と、電極端子の長手方向と垂直方向の位置決めを行う位置決め突起24を備え電極端子21の位置決めを行っている。
【0018】
圧接により半導体素子の電極層と電極端子とを電気的に接続する半導体モジュールでは、電極端子の電極接続部は、電極層に押圧された状態で備えられるので、電極端子の位置決め構造も、電極層への押圧を妨げない構造とすることが求められる。
【0019】
上記事情に鑑みて、本発明は、圧接により半導体素子の制御用電極層と電極端子とを電気的に接続する半導体モジュールにおいて、電極端子の位置決めをより正確に行うことに貢献することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成する本発明の半導体モジュールは、半導体素子のゲート電極層、または制御用エミッタ若しくはソース電極層に、接続される電極接続部を有する電極端子と、前記電極接続部を前記ゲート電極層、または前記制御用エミッタ若しくはソース電極層に押圧した状態で、前記電極端子を固定する固定部材と、を備えた半導体モジュールであって、前記固定部材の前記電極端子との接触面に、前記電極端子に形成された挿通孔に挿通される突起部を形成することを特徴としている。
【0021】
また、本発明の半導体モジュールは、上記半導体モジュールにおいて、前記突起部の端部に、前記電極端子が係止する係止部を形成することを特徴としている。
【0022】
また、本発明の半導体モジュールは、上記半導体モジュールにおいて、前記挿通孔の形状は多角形であり、前記電極端子に、前記多角形の頂点を起点とした切り込み部が形成されることを特徴としている。
【0023】
また、上記目的を達成する本発明の半導体モジュールは、半導体素子のゲート電極層、または制御用エミッタ若しくはソース電極層に、接続される電極接続部を有する電極端子と、前記電極接続部を前記ゲート電極層、または前記制御用エミッタ若しくはソース電極層に押圧した状態で、前記電極端子を固定する固定部材と、を備えた半導体モジュールであって、前記固定部材の前記電極端子との接触面に、前記電極端子に形成された複数の挿通孔に対応した挿着孔を形成し、前記挿通孔を挿通した挿着部材を、前記挿着孔に挿着し、前記電極端子及び前記固定部材を樹脂によりモールド被覆することを特徴としている。
【0024】
また、上記目的を達成する本発明の半導体モジュールは、前記電極端子の長手方向と平行となるように線状の補強材を備えることを特徴としている。
【0025】
また、上記目的を達成する本発明の半導体モジュールは、一つの固定部材に、前記半導体素子のゲート電極層に接続される電極端子と、前記制御用エミッタ若しくはソースの電極層に接続される電極端子とが固定されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
以上の発明によれば、圧接により半導体素子の制御用電極層と電極端子とを電気的に接続する半導体モジュールにおいて、電極端子の位置決めをより正確に行うことに貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)実施形態1に係る半導体モジュールの断面図、(b)実施形態1に係る半導体モジュールのA−A断面図である。
【図2】実施形態1に係る電極端子の説明図(斜視図)である。
【図3】実施形態1に係る電極端子の説明図(上面図)である。
【図4】実施形態1に係る半導体モジュールの要部透視図である。
【図5】実施形態2に係る半導体モジュールの断面図である。
【図6】(a)実施形態2に係る電極端子の断面図、(b)実施形態2に係る電極端子の上面図、(c)実施形態2に係る固定部材の縦断面図である。
【図7】(a)実施形態2に係る電極端子が固定部材に固定される前の様子を説明する説明図、(b)実施形態2に係る電極端子が固定部材に固定される過程を説明する説明図、(c)実施形態2に係る電極端子が固定部材に固定された様子を説明する説明図である。
【図8】(a)実施形態3に係る電極端子の断面図、(b)実施形態3に係る電極端子の上面図、(c)実施形態3に係る固定部材の縦断面図である。
【図9】(a)実施形態3に係る電極端子が固定部材に固定された様子(モールド前)を説明する説明図、(b)実施形態3に係る電極端子が固定部材に固定された様子(モールド後)を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(実施形態1)
本発明の実施形態1に係る半導体モジュールについて、図を参照して詳細に説明する。
【0029】
図1(a)に示すように、本発明の実施形態1に係る半導体モジュール1は、半導体素子2と、半導体素子2の制御用電極層と接続される電極端子3と、電極端子3を固定する固定部材4とを備える。
【0030】
半導体素子2は、例えば、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT2)であり、絶縁層12と導体層13からなる基板14上に設けられる。図2に示すように、半導体素子2の上面には制御用電極層(ゲート電極層8、エミッタ電極層9)が形成され、底面には、導体層13と接続されるコレクタ(図示省略)が形成されている。なお、実施形態の説明では、便宜上、上面及び底面とするが、上下方向は、本発明をなんら限定するものではない。また、半導体素子2も特に限定されるものではなく、MOSFET等既知の半導体素子に適用が可能である。
【0031】
電極端子3は、図2に示すように、半導体素子2を制御する制御回路と電気的に接続される接続部5と、半導体素子2の制御用電極層8,9と電気的に接続される電極接続部6と、接続部5と電極接続部6との間に形成される中間部7が一体に形成されている。
【0032】
接続部5は、半導体素子2を制御する制御回路(すなわち、半導体素子2を駆動する駆動回路)と電気的に接続され制御信号を授受する。制御回路(駆動回路)は、パワーモジュールのように半導体モジュールの外部に備えられる場合と、IPM(Intelligent Power Module)のようにモジュール内部に備えられる場合がある。接続部5が接続される制御回路(駆動回路)は、このいずれの場合の制御回路であってもよい。また、接続部5の形状及び材質は、特に限定されるものではなく既知の形状及び材質を適宜選択して用いる。
【0033】
電極接続部6は、半導体素子2の制御用電極層(ゲート電極層8、エミッタ電極層9(若しくはソース電極層))と電気的に接続される。電極接続部6の形状は、板ばねや線ばね等のばね状に形成される。つまり、電極端子3は、電極接続部6が半導体素子2を押圧するように半導体モジュール1に備えられるので、この押圧方向に対して電極接続部6が弾性変形することで、適切な圧接力を半導体素子2の制御電極層8,9にかけることができる。
【0034】
中間部7は、接続部5と電極接続部6の間に形成される。中間部7は、棒状、薄板状等に形成される。中間部7には、後述の固定部材4に形成された突起部4aが挿通する挿通孔10が形成される。挿通孔10の形状は、突起部4aの横断面(図1のA−Aと垂直な方向の断面)と同じ形状であり、その大きさは突起部4aの横断面と同じ若しくは、少し大きくなるように形成する。例えば、図3に示すように、突起部4aの断面形状が正方形であり、挿通孔10の断面積が突起部4aの断面積よりも少し大きい場合、突起部4aと挿通孔10との隙間により、電極端子3の電極接続部6が一定の可動範囲内で移動する。この可動範囲が電極接続部6が接続される制御電極層(例えば、ゲート電極層8)内であれば、電極端子3とゲート電極層8との接続は良好に維持される。つまり、電極端子3の可動範囲には、電極接続部6とゲート電極層8(または、エミッタ電極層9)との接触が良好に維持される許容可動範囲がある。よって、挿通孔10の大きさや形状は、電極接続部6の可動範囲が、この許容可動範囲内に収まるように形成される。
【0035】
固定部材4は樹脂等の絶縁材料からなり、図1(b)に示すように、固定枠部材11により、基板14上に固定される。固定部材4の中間部7と接する面には、中間部7に形成された挿通孔10に挿通する突起部4aが固定部材4と一体に形成される。実施形態において、突起部4aは、四角柱状に形成されているが、突起部4aの形状は実施形態に限定されるものではなく、横断面が三角形や四角形等の多角形の角柱状に形成する形態であってもよい。
【0036】
次に、本発明の実施形態1に係る半導体モジュールの組立工程を説明する。
【0037】
図1(a)に示すように、基板14上には、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT2)及びフリーホイールダイオード(FWD15)からなる半導体素子が設けられる。基板14の導体層13には、主端子16が設けられ、IGBT2のコレクタが外部回路と接続される。また、IGBT2のエミッタ電極層9は、FWD15の上面電極層17とアルミワイヤ18を介して接続され、FWD15の上面電極層17が、外部と接続される主端子19にアルミワイヤ18を介して接続される。
【0038】
図1(b)に示すように、電極端子3,3の中間部7,7に形成された挿通孔10に固定部材4の突起部4aを挿通し、電極端子3,3が固定部材4に固定される。固定部材4は固定枠部材11に固定されており、この固定枠部材11は基板14に固定される。図1(a)に示すように、電極端子3を固定した固定部材4(固定枠部材11)を固定することで、電極接続部6がIGBT2のゲート電極層8(若しくはエミッタ電極層9)に接続される。固定部材4の底部とゲート電極層8(若しくはエミッタ電極層9)との距離は、電極接続部6の自然長より短く設定されており、電極接続部6が弾性変形することで、ゲート電極層8(若しくはエミッタ電極層9)に適切な圧接力が加わる。
【0039】
電極端子3は、電極接続部6の弾性力により、固定部材4方向に押圧される。さらに、図4に示すように、電極端子3の中間部7に形成された挿通孔10に突起部4aが嵌合(若しくは遊嵌)することで、電極接続部6の押圧方向と垂直方向(すなわち、中間部7と固定部材4の接触面と水平方向)の移動が制限される。その結果、電極端子3の挿通孔10に突起部4aを挿通するだけで、電極端子3を半導体モジュール1に固定することができる。なお、電極端子3の接続部5は、樹脂等の絶縁材料からなるケース20を貫通して外部に導出され、IGBT2を制御する制御回路と電気的に接続される。
【0040】
以上のように、本発明の実施形態1に係る半導体モジュール1は、半導体モジュール1を組み立てる際に、電極端子3に挿通孔10を形成し、この挿通孔10に固定部材4に形成された突起部4aを挿通して電極端子3を固定する。よって、電極端子3の位置決めをより正確かつ簡単に行うことができる。
【0041】
また、電極端子3の固定は、挿通孔10に突起部4aを挿通するだけなので、半導体モジュール1の組立てを容易に行うことができ、作業性も向上する。さらに、この突起部4aは、半導体素子2方向に押圧される電極端子3の押圧を妨げず、簡単な構成で、電極端子の長手方向及び短手方向の位置ずれを抑制することができる。
【0042】
また、電極接続部6の可動範囲を、電極接続部6が接続される制御電極層(ゲート電極層8、エミッタ電極層9)の電極面の範囲内となるように、突起部4aの大きさに対する挿通孔10の大きさ及び形状を調節することで、電極端子3と半導体素子2の制御電極層(ゲート電極層8、エミッタ電極層9)との接続を良好に行うことができる。よって、電極取り出しの不具合を無くし、半導体素子2を正常に動作させることができる。
【0043】
さらに、半導体モジュール1を組み立てる際に、固定部材4に、ゲート電極層8に接続される電極端子3とエミッタ電極層9(若しくは、ソース電極層)に接続される電極端子3とを固定することで、固定部材4と制御用電極端子3,3を一体に形成することができる。よって、複数の制御用電極端子3,3の位置決めと固定が同時にできるので、半導体モジュール1の組立て作業性が向上する。この場合、ゲート電極層8に接続される電極端子3と、エミッタ電極層9(若しくはソース電極層)と接続される電極端子3が短絡しないように、各電極端子3,3は一定の間隔をあけて固定される。
【0044】
(実施形態2)
本発明の実施形態2に係る半導体モジュール21について、図を参照して詳細に説明する。なお、実施形態2に係る半導体モジュール21において、図1に示した実施形態1に係る半導体モジュール1と同様の構成については同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0045】
図5に示すように、本発明の実施形態2に係る半導体モジュール21は、半導体素子2と、半導体素子2の制御電極層と接続される電極端子22と、電極端子22を固定する固定部材4とを備える。
【0046】
半導体素子2は、例えば、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT2)であり、絶縁層12と導体層13からなる基板14上に設けられる。
【0047】
電極端子22は、実施形態1に係る電極端子3と同様に、半導体素子2を制御する制御回路と電気的に接続される接続部5と、半導体素子2の制御用電極層(ゲート電極層8、エミッタ電極層9)と電気的に接続される電極接続部6と、接続部5と電極接続部6との間に形成される中間部7が一体に形成されている。
【0048】
図6(a)に示すように、電極端子22の中間部7には、後述の固定部材22に形成された突起部4aが挿通する挿通孔23が形成されている。挿通孔23の形状は、実施形態1に係る電極端子3の挿通孔10と同様の形状のものが形成される。すなわち、挿通孔23の形状は、突起部4aの横断面と同じ形状であり、その大きさは突起部4aの横断面と同じ若しくは、少し大きくなるように形成される。そして、電極端子22には、挿通孔23の各頂点から切り込み部24が形成される。
【0049】
例えば、挿通孔23が正方形の場合、電極端子22には、図6(b)に示すように、挿通孔23の4つの頂点から頂点を結ぶ対角線方向の延長線上それぞれ切れ込み部24が形成される。電極端子22に切り込みを入れることにより、切り込み部24と切り込み部24との間に可撓部25が形成される。切り込み部24の端部の幅(切り込み部24の端部間の距離:W1)は、挿通孔23が後述の係止部4bを挿通する際に、可撓部25が変形する変形距離(y1)の曲げで、可撓部25が塑性変形しない幅とする。
【0050】
固定部材4は樹脂等の絶縁材料からなり、図5に示すように、主端子固定部材26に固定される。主端子固定部材26は螺子27により、基板14上に固定される。図6(c)に示すように、固定部材4の中間部7と接する面には、中間部7に形成された挿通孔23に挿通する突起部4aが固定部材4と一体に形成される。突起部4aの高さ(h1)は、電極端子3(の中間部6)の厚さ(t1)と可撓部25の変形距離(y1)の和よりやや高く設定する。実施形態において、突起部4aは、四角柱状に形成されているが、突起部4aの形状は実施形態に限定されるものではなく、横断面が三角形や四角形等の多角形の角柱状に形成するとよい。さらに、突起部4aの端部には、突起部4aに挿通された電極端子22が係止する係止部4bが突起部4aと一体に形成されている。
【0051】
係止部4bは、横断面が正方形(突起部4aと相似する形状)である角錐台に形成される。係止部4bの突起部4aと接する端部の一辺の長さ(W3)は、電極端子22に形成される挿通孔23の一辺の長さ(W2)よりも長い。また、挿通孔23が係止部4bを挿通できるように、突起部4aと接する係止部4bの端部の一辺の長さ(W3)は、少なくとも、切り込み幅(W1)より短い。また、突起部4aと接する係止部4bの端部の一辺の長さ(W3)は、可撓部25の変形距離y1が電極端子22の厚さ(t1)に比べて小さくなるようにすることが好ましい。一方、係止部4bの突起部4aと接していない端部の一辺の長さを、挿通孔23の一辺の長さ(W2)より短くすると、挿通孔23の挿通を妨げない。なお、係止部4bの横断面は、上記実施形態に限定されるものではなく、横断面が多角形若しくは円等からなる錐台状や半球状に形成してもよい。
【0052】
本発明の実施形態2に係る半導体モジュール21の組立工程を説明する。
【0053】
図5に示すように、基板14上には、IGBT2及びFWD15からなる半導体素子が設けられる。基板14の導体層13には、主端子16が設けられ、IGBT2のコレクタが外部回路と接続される。また、IGBT2のエミッタ電極層9及びFWD15の上面電極層17には、それぞれ熱緩衝板28とばね部材27を介して主電極19が設けられる。
【0054】
図7(a)に示すように、固定部材4に突起部4aを介して設けられた係止部4bの端部に電極端子22の挿通孔23の位置を合わせることで、電極端子22の位置決めが行われる。そして、図7(b)に示すように、電極端子22を固定部材4方向に押圧することで、係止部4bの側面に沿うように電極端子22の可撓部25が撓み、係止部4bが挿通孔23を通り抜ける。よって、図7(c)に示すように、電極端子22が突起部4aに挿設され、電極部材22が固定部材4と係止部4b間に固定される。このとき、可撓部25が弾性変形して固定部材4と係止部4bとの間に嵌ることで、可撓部25が係止部4bに係止する。
【0055】
図5に示すように、主電極19と固定部材4は、主端子固定部材26に固定されており、主端子固定部材26は、螺子27により基板14に固定される。主端子固定部材26は、主電極19と固定部材4とをIGBT2(及び、FWD15)方向に押圧して固定される。よって、この押圧力によって、ばね部材27が弾性変形し、熱緩衝板28がIGBT2のエミッタ電極層9及びFWD15の上面電極層17に付勢される。また、この押圧力により電極端子22の電極接続部6が弾性変形して、IGBT2のゲート電極層8(若しくはエミッタ電極層9)に適切な圧接力が加わる。電極端子22は、電極接続部6の弾性力により、固定部材4方向に押圧される。さらに、電極端子22は、突起部4aにより、電極接続部6の押圧方向と垂直方向(すなわち、中間部7と固定部材4の接触面と水平方向)の移動が制限されているので、電極端子22の挿通孔23に突起部4aを挿通するだけで、電極端子22が半導体モジュール21に固定される。そして、主端子19は、ケース20を貫通して外部に導出され、外部回路と接続される。また、電極端子22の接続部5は、ケース20を貫通して外部に導出され、IGBT2を制御する制御回路と電気的に接続される。
【0056】
以上のように、本発明の実施形態2に係る半導体モジュール21は、半導体モジュール21を組み立てる際に、電極端子22に形成された挿通孔23に固定部材4に形成された突起部4aを挿通して電極端子22を固定するので、電極端子22の位置決めをより正確かつ簡単に行うことができる。
【0057】
また、実施形態2に係る半導体モジュール21は、固定部材4に形成された突起部4aの端部に係止部4bを設けることで、実施形態1に係る半導体モジュール1の有する効果に加えて、固定部材4に固定された電極端子22の脱落を防止することができる。その結果、電極端子22を固定した固定部材4をさらに半導体モジュール21に固定する場合には、電極端子22が固定部材4に固定されているので、半導体モジュール21の組立て作業性が向上する。
【0058】
さらに、半導体モジュール21を組み立てる際に、固定部材4に、ゲート電極層8に接続される電極端子22とエミッタ電極層9(若しくは、ソース電極層)に接続される電極端子22とを固定することで、固定部材4と制御用電極端子22を一体に形成することができる。よって、複数の制御用電極端子の位置決めと固定が同時にできるので、半導体モジュール21の組立て作業性が向上する。この場合、ゲート電極層8に接続される電極端子22と、エミッタ電極層9(若しくはソース電極層)と接続される電極端子22が短絡しないように、各電極端子22,22は一定の間隔をあけて固定される。
【0059】
(実施形態3)
本発明の実施形態3に係る半導体モジュールについて、図を参照して詳細に説明する。本発明の実施形態3に係る半導体モジュールは、固定部材4に固定される電極端子29の固定方法が異なること以外は、図5を参照して説明した実施形態2に係る半導体モジュール21と同じである。よって、固定部材4及びこの固定部材4に固定される電極端子29について詳細に説明し、その他の部分については、図5に示した実施形態2に係る半導体モジュール21と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0060】
本発明の実施形態3に係る半導体モジュールは、半導体素子2と、半導体素子2の制御用電極層と接続される電極端子29と、電極端子29を固定する固定部材4とを備える。
【0061】
図8(a)に示すように、電極端子29は、実施形態1に係る電極端子3と同様に、半導体素子2を制御する制御回路と電気的に接続される接続部5と、半導体素子2の制御用電極層と電気的に接続される電極接続部6と、接続部5と電極接続部6との間に形成される中間部7が一体に形成されている。そして、図8(b)に示すように、中間部7には電極端子29の位置決めを行うための位置決め孔30,30が複数形成される。さらに、図8(c)に示すように、固定部材4の中間部7と接する面には、位置決め孔30,30に対応したピン孔31,31が形成される。
【0062】
この位置決め孔30及びピン孔31の位置または形状は、電極端子29が固定された固定部材4を半導体モジュールに固定した時に、電極端子29の電極接続部6が半導体素子2の制御電極層(ゲート電極層8、エミッタ電極層9)の電極面の範囲内となるように調節される。
【0063】
図9(a)に示すように、位置決め孔30に固定ピン32を挿通し、さらに、この固定ピン32をピン孔31に固定ピン32を嵌挿して、固定部材4に電極端子29を固定する。さらに、図9(b)に示すように、固定ピン32で固定された電極端子29と固定部材4とを覆い隠すように、樹脂33等により電極端子29と固定部材4がトランスファーモールドされる。
【0064】
固定部材4と電極端子29とをトランスファーモールドする際、固定部材4やモールドの樹脂33中にガラス繊維等の補強材を電極端子29の長手方向(接続部5から電極接続部6へ向かう方向)と平行になるように備えると、電極端子29や固定部材4の材質及びモールドに用いる樹脂33の熱膨張係数の差によるモールドの反りを抑制することができる。
【0065】
以上のように、本発明の実施形態3に係る半導体モジュールは、半導体モジュールを組み立てる際に、電極端子29に形成された位置決め孔30に固定ピン32を挿通し、この固定ピン32を固定部材4に形成されたピン孔31に固定するだけで、電極端子29の位置決め及び固定を行うことができる。その結果、電極端子29の位置決めをより正確かつ簡単に行うことができる。
【0066】
また、実施形態3に係る半導体モジュールは、実施形態2に係る半導体モジュール21と同様に、半導体モジュールを組み立てる際に、固定部材4に、ゲート電極層8に接続される電極端子29とエミッタ電極層9(若しくは、ソース電極層)に接続される電極端子29とを固定することで、固定部材4と制御用電極端子29を一体に形成することができる。よって、複数の制御用電極端子の位置決めが同時にできるので、半導体モジュールの組立て作業性が向上する。
【0067】
以上のように、本発明の半導体モジュールによれば、半導体素子を押圧して備えられる電極端子の位置決めをより正確に行うことができる。よって、半導体モジュールの組立て作業性が向上する。特に、半導体素子の制御用電極層と接続される電極端子の位置決めと固定を正確に行うことができるので、組立て作業性のさらなる向上につながる。
【0068】
また、本発明の半導体モジュールによれば、突起部が電極端子のずれを抑制するので、半導体モジュールの動作時において、電極端子と半導体素子の制御電極層との電気的接続を良好に保つことができ、半導体モジュールの動作信頼性が向上する。
【0069】
さらに、電極端子を、半導体素子の制御電極層に圧接により接続すると、制御用のゲート電極層やエミッタ電極層(または、ソース電極層)からの制御信号の取り出しをワイヤーボンドを用いずに行うことができる。その結果、各部材を構成する材料の熱膨張係数の差から生じる電極接続部と電極層とのせん断応力の影響を低減することができる。したがって、電極接続部と電極層間の温度変化の影響を低減し、半導体モジュール14の動作信頼性(温度サイクル、パワーサイクル等の信頼性)が向上する。特に、SiCやGaNのようなワイドバンドギャップ半導体素子のように高温での動作が期待される半導体素子を本発明に係る半導体モジュールに適用すると、温度サイクル、パワーサイクル等の信頼性が向上し、半導体モジュールの長寿命化を図ることができる。
【符号の説明】
【0070】
1…半導体モジュール
2…半導体素子(IGBT)
3,22,29…電極端子
4…固定部材
4a…突起部
4b…係止部
5…接続部
6…電極接続部
7…中間部
8…ゲート電極層
9…エミッタ電極層(ソース電極層)
10,23…挿通孔
17…FWD
24…切り込み部
30…位置決め孔(挿通孔)
31…ピン孔(挿着孔)
32…固定ピン(挿着部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子のゲート電極層、または制御用エミッタ若しくはソース電極層に、接続される電極接続部を有する電極端子と、
前記電極接続部を前記ゲート電極層、または制御用エミッタ若しくはソース電極層に押圧した状態で、前記電極端子を固定する固定部材と、
を備えた半導体モジュールであって、
前記固定部材の前記電極端子との接触面に、前記電極端子に形成された挿通孔に挿通される突起部を形成する
ことを特徴とする半導体モジュール。
【請求項2】
前記突起部の端部に、前記電極端子が係止する係止部を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体モジュール
【請求項3】
前記挿通孔の形状は多角形であり、
前記電極端子に、前記多角形の頂点を起点とした切り込み部が形成される
ことを特徴とする請求項2に記載の半導体モジュール。
【請求項4】
前記切り込み部の端部間の距離をW1、前記挿通孔の幅をW2、前記係止部の前記突起部と接する端部の幅をW3、前記電極端子の厚さをt1、前記突起部の高さをh1、前記切り込み部により形成される可撓部の変形距離をy1とした時、
W1>W3>W2
h1>t1+y1
の条件を満たす
ことを特徴とする請求項3に記載の半導体モジュール。
【請求項5】
半導体素子のゲート電極層、または制御用エミッタ若しくはソース電極層に、接続される電極接続部を有する電極端子と、
前記電極接続部を前記ゲート電極層、または制御用エミッタ若しくはソース電極層に押圧した状態で、前記電極端子を固定する固定部材と、
を備えた半導体モジュールであって、
前記固定部材の前記電極端子との接触面に、前記電極端子に形成された複数の挿通孔に対応した挿着孔を形成し、
前記挿通孔を挿通した挿着部材を、前記挿着孔に挿着し、
前記電極端子及び前記固定部材を樹脂によりモールド被覆する
ことを特徴とする半導体モジュール。
【請求項6】
前記電極端子の長手方向と平行となるように前記樹脂中に線状の補強材を備える
ことを特徴とする請求項5に記載の半導体モジュール。
【請求項7】
前記固定部材には、前記半導体素子のゲート電極層に接続される電極端子と、前記制御用エミッタ若しくはソース電極層に接続される電極端子と、が固定される
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の半導体モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−227455(P2012−227455A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95649(P2011−95649)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】