説明

半導体光集積素子及びその製造方法

【課題】
素子特性の低下や結合損失の増加を抑えることができる半導体光集積素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
まず、半導体基板11の第3の領域3Cを含む主面11a上に単一半導体層からなる光導波層15を形成する。次に、第2の領域3B及び第3の領域3Cの光導波層15上に第1エッチングマスク19Aを形成し、これを用いて第1の領域3Aの光導波層15を除去する。次に、第1の領域3Aの主面11a上に第1活性層21を含む第1半導体積層22を形成する。次に、第1の領域3Aの第1半導体積層22上及び第3の領域3Cの光導波層15A上にわたって第2エッチングマスク19Bを形成し、これを用いて第2の領域3Bの光導波層15Aを除去する。次に、第2の領域3Bの主面11a上に、第2活性層23を含む第2半導体積層24を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の半導体素子を単一の基板上に集積した半導体光集積素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の半導体素子を単一の半導体基板上に集積する一方法としては、複数の半導体素子同士を直接接続する突合せ接合(バットジョイント)により集積する方法がある。
【0003】
特許文献1においては、分布帰還型半導体レーザ(DFBレーザ)及び光変調器の2つの半導体素子の集積方法が開示されている。図10〜図11は、特許文献1において開示されている半導体素子の集積方法の一部の工程を示す図である。特許文献1において開示されている典型的なバットジョイント集積方法では、先ず、半導体基板100上にDFBレーザ用の活性層101を含む半導体積層100Aを形成する。次に、DFBレーザが設けられるべき部分の半導体積層100Aの最上層の上にSiからなるエッチングマスク102を形成する。その後、エッチングマスク102を用いて、少なくとも半導体基板100が露出するまで、エッチングマスク102が存在しない部分の半導体積層100Aをエッチングする。次に、図11に示されるように、エッチングマスク102を選択成長マスクとして、半導体積層100Aがエッチングされた半導体基板100上に、光変調器用の活性層103を含む半導体積層100Bを再成長させる。
【特許文献1】特開昭62−194691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された方法では、エッチングマスク102を用いて半導体積層100Aをエッチングし、そのエッチングにより形成された半導体積層100Aの端面104(図10及び図11を参照)と突き合うように半導体積層100Bを再成長する。しかしながら、エッチングされる半導体積層100Aは複数の半導体層からなり、そのエッチングレートが層によって異なる。そのため、エッチングされ形成された半導体積層100Aの端面104が滑らかとならず、凹凸が生じてしまう。特に、半導体光集積素子がよく用いられる光通信分野におけるデバイスでは、活性層が歪量子井戸構造を有する場合が一般的であり、上記の現象がより顕著となる。
【0005】
このような、滑らかでない半導体積層の端面に対してバットジョイント法による再成長を行うと、その再成長中にボイド105(図11参照)や異常成長が発生しやすい。ボイドや異常成長は、素子特性の低下、結合損失の増加などの問題を引き起こす。
【0006】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、素子特性の低下や結合損失の増加を抑えることができる半導体光集積素子及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明に係る半導体光集積素子の製造方法は、互いに光学的に結合された第1半導体素子部及び第2半導体素子部を有する半導体光集積素子の製造方法において、第1の領域、第2の領域及び第1の領域と第2の領域との間の第3の領域を含む主面を有する半導体基板の第3の領域を含む主面上に単一半導体層からなる光導波層を形成する工程と、第2の領域及び第3の領域の光導波層上に第1エッチングマスクを形成する工程と、第1エッチングマスクを用いて第1の領域の光導波層を除去する工程と、第1の領域の主面上に第1半導体素子部の第1活性層を含む第1半導体積層を形成する工程と、第1エッチングマスクを除去する工程と、第1の領域の第1半導体積層上及び第3の領域の光導波層上にわたって第2エッチングマスクを形成する工程と、第2エッチングマスクを用いて第2の領域の光導波層を除去する工程と、第2の領域の主面上に第1活性層と組成が異なる第2半導体素子部の第2活性層を含む第2半導体積層を形成する工程と、を備える。
【0008】
本発明に係る半導体光集積素子の製造方法では、エッチングの対象となるのが単一半導体層からなる光導波層である。すなわち、複数の層を含む第1及び第2の半導体積層はエッチングされず、光導波層がエッチングされることにより接合端面が形成される。また、その光導波層は、単一半導体層からなるため、全体でのエッチングレートが同一である。そのため、エッチングにより光導波層に形成される端面は滑らかとなる。従って、その光導波層の端面に対するバットジョイント法による第1及び第2の半導体積層の再成長時におけるボイド及び異常成長の発生が抑制されるので、素子特性の低下や結合損失の増加を抑えることができる。また、本発明に係る半導体光集積素子の製造方法では、第1及び第2の半導体積層がエッチングされないため、第1活性層及び第2活性層の劣化及び酸化が抑制される。その結果、半導体光集積素子の信頼性を向上させることができる。
【0009】
また、第1活性層又は第2活性層のうちの少なくとも一方が歪多重量子井戸構造を有してもよい。このような場合でも、上記した半導体光素子の製造方法によれば、第1及び第2の半導体積層の再成長中にボイド及び異常成長が発生することを抑制できる。
【0010】
また、本発明に係る半導体光集積素子は、第1の領域、第2の領域及び第1の領域と第2の領域との間の第3の領域を含む主面を有する半導体基板と、第1の領域に設けられており、第1活性層を含む第1半導体積層を有する第1半導体素子部と、第2の領域に設けられており、第1活性層と組成が異なる第2活性層を含む第2半導体積層を有する第2半導体素子部と、第3の領域に設けられており、単一半導体層からなり且つ第1活性層と第2活性層とを光学的に結合する光導波層と、を有する。
【0011】
このような単一半導体層からなり且つ第1活性層と第2活性層とを光学的に結合する光導波層を第3の領域に有する半導体光集積素子は、エッチングされる対象をその光導波層に限定することができる。すなわち、複数の層を含む第1及び第2の半導体積層をエッチングせずに、光導波層をエッチングして接合端面を形成することができる。また、その光導波層は、単一半導体層からなるため全体にわたりエッチングレートが同一である。そのため、エッチングにより光導波層に形成された端面は滑らかとなる。従って、その光導波層の端面に対するバットジョイント法による第1及び第2の半導体積層の再成長時におけるボイド及び異常成長の発生が抑制されるので、素子特性の低下や結合損失の増加を抑えることができる。また、本発明に係る半導体光集積素子によれば、端面形成の際に第1及び第2の半導体積層をエッチングする必要がないので、第1活性層及び第2活性層の劣化及び酸化が抑制される。その結果、半導体光集積素子の信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の半導体光集積素子及びその製造方法によれば、素子特性の低下や結合損失の増加を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0014】
図1(a)は本実施形態に係る半導体光集積素子1の斜視図であり、図1(b)はI−I線に沿った半導体光集積素子1の断面図である。半導体光集積素子1において、単一の基板としては、第1の領域3A,第2の領域3B及び第3の領域3Cを含む主面11aを有する半導体基板11が用いられている。半導体光集積素子1は、半導体基板11上に設けられた、DFBレーザ1A(第1半導体素子部)、EA変調器1B(第2半導体素子部)、及びDFBレーザ1AとEA変調器1Bとの間に配置された光導波領域1Cを備える。図1(a)及び図1(b)を参照しながら、本実施形態の半導体光集積素子1を以下に説明する。
【0015】
DFBレーザ1Aは、半導体基板11の第1の領域3A上に設けられており、半導体基板11上に設けられた下部クラッド層13と、下部クラッド層13上に設けられた半導体メサ部2Aとを含む。半導体メサ部2Aは、下部クラッド層13上に順次に積層された、下部光閉じ込め層21a、活性層21、上部光閉じ込め層21b及びキャップ層27を有している。上部光閉じ込め層21bとキャップ層27との間には、アンドープGaAsからなり約200nmの周期を有する回折格子17Eが設けられている。
【0016】
活性層21は、2つの井戸層及び3つの障壁層が交互style='font-size:11.0pt;font-family:"MS 明朝"'>に積層されたstyle='font-size:11.0pt;font-family:"MS 明朝"'>2重量子井戸構造を有する。その井戸層及びバリア層は、互いに組成が異なる半導体材料からなる。また、下部光閉じ込め層21a、活性層21及び上部光閉じ込め層21bは、下部クラッド層13及び後述の上部クラッド層35より大きな屈折率を有している。
【0017】
EA変調器1Bは、半導体基板11の第2の領域3B上に設けられており、DFBレーザ1Aと共通の下部クラッド層13と、下部クラッド層13上に設けられた半導体メサ部2Bとを含む。半導体メサ部2Bは、下部クラッド層13上に順次に積層された、下部光閉じ込め層23a、活性層23、上部光閉じ込め層23b、回折格子層17D及びキャップ層27を有する。
【0018】
活性層23は、活性層21の厚さと同一の厚さを有し、4つの井戸層及び5つのバリア層が交互に積層された歪4重量子井戸構造を有する。その井戸層及びバリア層は、互いに組成が異なる半導体材料からなる。活性層23の井戸層は、活性層21の井戸層より高いバンドキャップエネルギーを有している。そのため、活性層23の井戸層は、活性層21の井戸層より短いフォトルミネッセンス(発光)波長を有する。活性層23は、EA変調器1Bに大きな逆方向電圧が印加されたときは、活性層21が発するレーザ光を吸収する。また、下部光閉じ込め層23a、活性層23及び上部光閉じ込め層23bは、下部クラッド層13及び後述する上部クラッド層35よりも大きな屈折率を有している。活性層23の井戸層及びバリア層には歪が導入されているため、EA変調器1Bの変調特性が向上される。
【0019】
光導波領域1Cは、半導体基板11の第3の領域3C上に設けられており、DFBレーザ1A及びEA変調器1Bと共通の下部クラッド層13と、下部クラッド層13上に設けられた半導体メサ部2Cとを含む。半導体メサ部2Cは、下部クラッド層13上に設けられた光導波層15B、回折格子層17C及びキャップ層27を有する。
【0020】
半導体メサ部2Cは、DFBレーザ1Aの活性層21から発するレーザ光を閉じ込めつつ導波してEA変調器1Bの活性層23に導くものである。図1(b)に示されるように、半導体メサ部2Cは、半導体基板11の主面11aと交差する基準平面(zx平面)に沿った両端面を有している。半導体メサ部2Cの一方の端面は、バットジョイントによりDFBレーザ1Aの半導体メサ部2Aと光学的に結合しており、半導体メサ部2Cの他方の端面はバットジョイントによりEA変調器1Bの半導体メサ部2Bと光学的に結合している。また、同図を参照すると、半導体光集積素子1には、半導体メサ部2C及び半導体メサ部2Aの境界において界面d1が形成されており、半導体メサ部2C及び半導体メサ部2Bの境界において界面d2が形成されている。
【0021】
半導体メサ部2A,2B及び2Cは、半導体メサ部2を構成しており(図1(b)参照)、半導体メサ部2の両側面は、下部クラッド13上に順次に積層された高抵抗層からなる第1電流ブロック層31及び第2電流ブロック層33によって埋め込まれている。(図1(a)参照)。半導体メサ部2及び第2電流ブロック層33の上には、上部クラッド層35が積層されている。また、第1の領域3Aの上部クラッド層35上にはコンタクト層37aが、第2の領域3Bの上部クラッド層35上にはコンタクト層37bがそれぞれ設けられている。
【0022】
また、第1の領域3Aのコンタクト層37a上にはDFBレーザ1Aのための電極(アノード)41aが、第2の領域3Bのコンタクト層37b上にはEA変調器1Bのための電極(アノード)41bがそれぞれ設けられている。半導体基板11の裏面上には、DFBレーザ1A及びEA変調器1Bに共通に使用される電極(カソード)43が設けられている。
【0023】
以下、本実施形態に係る半導体光集積素子1の各層の構成元素、ドーパント濃度及び厚さを例示すれば、
・半導体基板11:SiドープGaAs層、2×1018cm−3、350μm
・下部クラッド層13:SiドープGaInP、2×1018cm−3、1.5μm
・光導波層15B:アンドープGaAs層、0.3μm
・下部光閉じ込め層21a:アンドープGaAs、0.145μm
・活性層21:アンドープGaInNAs、10nm
・上部光閉じ込め層21b:アンドープGaAs、0.145μm
・下部光閉じ込め層23a:アンドープGaAs、0.145μm
・活性層23:アンドープGaInNAs、10nm
・上部光閉じ込め層23b:アンドープGaAs、 0.145μm
・回折格子層17C,17D:アンドープGaAs、10nm
・キャップ層27:ZnドープGaInP、2×1018cm−3、200nm
・第1電流ブロック層31:ZnドープGaInP、2×1018cm−3、0.3μm
・第2電流ブロック層33:SiドープGaInP、2×1018cm−3、0.3μm
・上部クラッド層35:ZnドープGaInP、2×1018cm−3、1.5μm
・コンタクト層37a,37b:ZnドープGaAs、1×1019cm−3、0.2μm
である。
【0024】
次に、本実施形態に係る半導体光集積素子1の製造方法について説明する。図2〜図9は、本実施形態に係る半導体光集積素子1の製造方法の各工程を模式的に示す図である。なお、図2〜図8は、光導波方向に沿った断面(図1に示したI−I線を参照)を示している。また、図9(a)は当該工程を示す斜視図であり、図9(b)は、図9(a)における光導波方向と垂直な断面を示している。半導体光集積素子1は、例えば下記各工程を順に経ることによって製造される。
【0025】
(光導波層形成工程)
半導体光集積素子1を作製する際には、まず、図2に示されるように、半導体基板11の主面11a上の第1の領域3A、第2の領域3B及び第3の領域3Cにわたって、下部クラッド層13、光導波層15及び回折格子層17を順次に形成する。これらの層13,15,17の形成には、例えば有機金属気相成長(MOVPE)法が用いられる。
【0026】
(第1エッチングマスク形成工程)
次に、第3の領域3C及び第2の領域3Bに形成された回折格子層17の上に絶縁層(例えば、SiN層又はSiO層)からなる第1エッチングマスク19A(図3参照)を形成する。まず、回折格子層17上に、例えば化学気相堆積(Chemical Vapor Deposition: CVD)法を用いて絶縁層を形成する。その後、その絶縁層上にフォトレジストを塗布して、レジスト層を形成する。次に通常のフォトリソグラフィー技術を用いて、レジストパターンを形成する。このレジストパターンは、x軸方向の幅が15μmであり、第3の領域3C及び第2の領域3Bにわたり回折格子層17を覆う第1エッチングマスク19Aのためのパターンである。
【0027】
続いて、このレジストパターンをマスクとして絶縁層をエッチングすることにより、第2及び第3の領域3B,3Cにわたって延びる第1エッチングマスク19Aが形成される(図3参照)。この第1エッチングマスク19Aは、事後的に光導波路方向となるy軸方向に沿っている。なお、第1エッチングマスク19Aの形成後、レジストを除去する。
【0028】
(第1の光導波層除去工程)
引き続き、図3に示すように、第1エッチングマスク19Aを用いて第1エッチングマスク19Aが存在しない部分の回折格子層17及び光導波層15をエッチングする。このエッチングは、例えば、リン酸と過酸化水素水と水との混合溶液をエッチング液として用いたウェットエッチングである。このエッチングは、第1の領域3Aの下部クラッド層13が露出する深さまで行われる。このエッチングにより、回折格子層17及び光導波層15のうち第1の領域3A上の部分が除去され、第2及び第3の領域3B,3Cにわたる回折格子層17A及び光導波層15Aが形成される。
【0029】
(第1半導体積層形成工程)
次に、図4に示すように、第1エッチングマスク19Aを除去せずに、第1エッチングマスク19Aを選択成長マスクとして用い、第1半導体積層22を再成長する。この工程では、第1の光導波層除去工程において光導波層15が除去された第1の領域3Aの下部クラッド層13上に、下部光閉じ込め層21a、第1活性層21、上部光閉じ込め層21b及び回折格子層17Bを順次成長する。なお、第1活性層21は、2つの井戸層と3つのバリア層とを交互に積層して成長される。上部光閉じ込め層21bは、その表面が光導波層15Aの表面と同じ高さとなり、上部光閉じ込め層21bと光導波層15Aとの表面が平坦化されるように形成されている。また、回折格子層17Bは、回折格子層17Aと同一の半導体材料からなり且つ厚さが同一である。これらの層21a、21、21b、及び17Bの成長には、例えばMOVPE法が用いられる。この第1半導体積層22の再成長の後、第1エッチングマスク19Aを除去する。
【0030】
(第2エッチングマスク形成工程)
次に、図5に示すように、第3の領域3Cの回折格子層17A上及び回折格子層17B上に、絶縁層(例えば、SiN層又はSiO層)からなる第2エッチングマスク19Bを形成する。まず、回折格子層17B及び回折格子層17Aの全面上に、例えばCVD法を用いて絶縁層を形成する。その後、上記の第1エッチングマスク19Aを形成した方法と同様の方法でレジストパターンを形成する。このレジストパターンは、x軸方向の幅が15μmであり、第1エッチングマスク19Aと連続しつつ第1の領域3A及び第3の領域3Cにわたる第2エッチングマスク19Bのためのパターンである。
【0031】
続いて、このレジストパターンをマスクとして絶縁層をエッチングすることにより、第1及び第2の領域3A,3Bにわたって延びる第2エッチングマスク19Bが形成される(図5参照)。この第2エッチングマスク19Bは、事後的に光導波路方向となるy軸方向に沿っている。なお、第2エッチングマスク19Bの形成後、レジストを除去する。
【0032】
(第2の光導波層除去工程)
次に、図5に示すように、第2エッチングマスク19Bを用いて第2の領域3Bの回折格子層17A及び光導波層15Aをエッチングする。このエッチングは、例えば、リン酸と過酸化水素水と水との混合溶液がエッチング液として用いられるウェットエッチングである。このエッチングは、第2の領域3Bの下部クラッド層13が露出する深さまで行われる。このエッチングにより、回折格子層17A及び光導波層15Aのうち第2の領域3B上の部分が除去され、第3の領域3Cにのみ設けられた回折格子層17C及び光導波層15Bとなる。
【0033】
(第2半導体積層形成工程)
次に、図6に示すように、第2エッチングマスク19Bを除去せずに、第2エッチングマスク19Bを選択成長マスクとして用いて第2半導体積層24を再成長する。この工程では、第2の光導波層除去工程において光導波層15Aがエッチングされた第2の領域3Bの下部クラッド層13上に、下部光閉じ込め層23a、第2活性層23、上部光閉じ込め層23b、及び回折格子層17Dを順次成長する。なお、第2活性層23は、4つの井戸層と5つのバリア層とを交互に積層して成長される。上部光閉じ込め層23bは、その表面が光導波層15Bの表面と同じ高さとなり、上部光閉じ込め層23bと光導波層15Bとの表面が平坦化されるように形成されている。また、回折格子層17Dは、回折格子層17Cと同一の半導体材料からなり且つ厚さが同一である。これらの層23a、23、23b、及び17Dの成長には、例えばMOVPE法が用いられる。この第2半導体積層24の再成長の後、第2エッチングマスク19Bを除去する。
【0034】
上記した第1半導体積層形成工程、及び第2半導体積層形成工程といった2回の再成長工程を経ると、第3の領域3Cの光導波層15Bと、第1の領域3Aの再成長された第1半導体積層22とがバットジョイントにより光学的に結合し、界面d1が形成される。また、第3の領域3Cの光導波層15Bと、第2の領域3Bの再成長された第2半導体積層24とがバットジョイントにより光学的に結合し、界面d2が形成される。
【0035】
(回折格子形成工程)
引き続き、図7に示すように、第1の領域3Aの上部光閉じ込め層21b上に周期200nmの回折格子17Eを形成する。回折格子17Eを形成する際には、まず、第1の領域3Aの回折格子層17B上にフォトレジスト層を形成する。その後、EB描画法により200nmの周期を有する回折格子パターンを形成する。次に、その回折格子パターンを用いて、リン酸と過酸化水素水と水との混合溶液をエッチング液として回折格子層17Bをウェットエッチングする。これにより、回折格子17Eが得られる。その後、回折格子パターンを除去する。
【0036】
引き続き、図8に示すように、第1の領域3Aの回折格子17E、第3の領域3Cの回折格子層17C及び第2の領域3Bの回折格子層17Dの上を全体的に覆うようにキャップ層27を形成する。
【0037】
(半導体メサ部形成工程)
次に、図9(a)及び図9(b)に示されるように、半導体基板11上に半導体メサ部2を形成する。先ず、第1の領域3Aから第2の領域3Bにかけて、上面から見て再成長により形成された界面d1及びd2に交差して光導波路方向であるy軸方向に延びるようにストライプ状の絶縁層29を形成する。絶縁層29の形成に当たり、先ずキャップ層27の全体に厚さ0.1μmのSiN層を成膜して、フォトリソグラフィーで幅2μmのストライプ状のパターンを転写する。次に、そのパターンを用いてバッファードフッ酸によりSiN層をエッチングすることによって、絶縁層29が形成される。その後、絶縁層29をマスクとして、キャップ層27から下部クラッド層13の一部に至るまで、エッチング深さが0.6μmとなるようにエッチングする。このとき、光導波層15B、上部光閉じ込め層21b,23b、活性層21,23及び下部光閉じ込め層21b,23bのエッチングの際にはリン酸と過酸化水素水と水との混合溶液が、下部クラッド層13のエッチングの際にはリン酸と塩酸と水との混合溶液がエッチング液として用いられる。このエッチングにより、ストライプ状の絶縁層が形成されていない部分の半導体基板11上のキャップ層27及び半導体積層22,24が除去される。
【0038】
その結果、第1の領域3Aの半導体メサ部2Aと、第2の領域3Bの半導体メサ部2Bと、第3の領域3Cの半導体メサ部2Cとを備える半導体メサ部2が形成される。その半導体メサ部2は、半導体光集積素子1において、光導波路として機能する。
【0039】
(埋め込み層形成工程)
続いて、図1に示したように、電流狭窄構造を形成する第1電流ブロック層31及び第2電流ブロック層33を形成する。第1及び第2の電流ブロック層31,33は、ストライプ状の絶縁層29を除去せずに、例えばMOVPE法を用いて半導体メサ部2の両側面上に半導体メサ部2を埋め込むように順次に積層することで形成される。その後、絶縁層29を除去する。なお、第1及び第2の電流ブロック層31,33を半導体メサ部2の両側面上に形成することにより、半導体メサ部2の側面でのリーク電流が効果的に抑制される。そのため、本実施形態に係る半導体光集積素子1は、駆動電流が増加しても、高い発光効率が実現される。
【0040】
[その他の工程]
絶縁層29の除去後に、半導体メサ部2及び埋め込み層33の上の全面に上部クラッド層35及びコンタクト層(図示せず)を順次に成長する。
【0041】
続いて、図1(a)及び図1(b)に示したように、半導体基板11の裏面上にDFBレーザ1A及びEA変調器1Bの共通の電極(カソード)43を形成する。また、第3の領域3Cのコンタクト層はウェットエッチングにより除去し、第1の領域3Aのコンタクト層37aと第2の領域3Bのコンタクト層37bとを形成する。第1の領域3Aのコンタクト層37a上にはDFBレーザ1Aのための電極(アノード)41aを、第2の領域3Bのコンタクト層37b上にはEA変調器1Bのための電極(アノード)41bを、それぞれ形成する。これにより、第1の領域3AにはDFBレーザ1Aが完成し、第2の領域3BにはEA変調器1Bが完成する。また、第3の領域3Cには光導波領域1Cが完成する。以上の工程によって、図1(a)及び図1(b)に示された半導体光集積素子1が完成する。
【0042】
本実施形態に係る半導体光集積素子1の製造方法では、第1の領域3A、第2の領域3B及び第3の領域3Cを含む主面11aを有する半導体基板11上に単一半導体層からなる光導波層15を形成し、その上に第1エッチングマスク19Aを形成する。第1エッチングマスク19Aを用いて第1の領域3Aの光導波層15を除去し、その光導波層15が除去された第1の領域3Aの下部クラッド層13上に第1半導体積層22を再成長する。また、半導体積層22及び光導波層15Aの上に第2エッチングマスク19Bを形成し、第2エッチングマスク19Bを用いて第2の領域3Bの光導波層15Aを除去し、その光導波層15Aが除去された第2の領域3Bの下部クラッド層13上に第2半導体積層24を再成長する。
【0043】
このように、本実施形態に係る半導体光集積素子1の製造方法では、バットジョイントを形成する際に、複数の層を含む第1及び第2の半導体積層22,24はエッチングされず、光導波層15(15A)のみがエッチングされる。光導波層15(15A)は単一半導体層からなるため全体にわたりエッチングレートが同一であり、そのため、エッチングにより光導波層15A、15Bに形成された端面は滑らかとなる。従って、その光導波層15A、15Bの端面に対するバットジョイント法による第1及び第2の半導体積層22,24の再成長時におけるボイド及び異常成長の発生が抑制され、素子特性の低下や結合損失の増加が抑えられる。また、本実施形態に係る半導体光集積素子1の製造方法では、バットジョイントを形成する際に第1及び第2の半導体積層22,24がエッチングされないため、第1活性層21及び第2活性層23の劣化及び酸化が抑制される。その結果、半導体光集積素子1の信頼性を向上させることができる。
【0044】
また、本実施形態の第2活性層23は歪多重量子井戸構造を有する。このような場合でも、本実施形態に係る半導体光集積素子1の製造方法によれば、第2半導体積層24の再成長中にボイド及び異常成長が発生することを抑制できる。
【0045】
また、本実施形態に係る半導体光集積素子1は、単一半導体層からなり且つ第1活性層21と第2活性層23とを光学的に結合する光導波層15Bを第3の領域3Cに有する。そのため半導体光集積素子1は、バットジョイントを形成する際にエッチングされる対象をその光導波層15に限定することができる。すなわち、光導波層15は単一半導体層からなるため全体に渡ってエッチングレートが同一なので、複数の層を含む第1及び第2の半導体積層22,24をエッチングせずに光導波層15のみをエッチングすることで、接合端面を形成することができる。そのため、エッチングにより光導波層15Bに形成された端面は滑らかとなる。従って、その光導波層15Bに対するバットジョイント法による第1及び第2の半導体積層22,24の再成長中におけるボイド及び異常成長の発生が抑制され、素子特性の低下や結合損失の増加が抑えられる。また、本実施形態に係る半導体光集積素子1では、バットジョイントを形成する際に第1及び第2の半導体積層22,24がエッチングされないため、第1活性層21及び第2活性層23の劣化及び酸化が抑制される。その結果、半導体光集積素子1の信頼性を向上させることができる。
【0046】
なお、半導体光集積素子1の動作については、以下のとおりである。DFBレーザ1Aには順方向のバイアス電圧が、EA変調器1Bには逆方向のバイアス電圧がそれぞれ印加される。順方向のバイアス電圧が印加されたDFBレーザ1Aでは、電極41aから正孔が活性層21に注入される。注入された正孔は第1及び第2の電流ブロック層31,33により活性層21に効率的に閉じ込められる。活性層21に閉じ込められた正孔は、電極43から注入された電子と活性層21において再結合し、活性層21から光が放射される。すると、レーザ発振が起こり、このレーザ光が活性層21内を伝搬する。このレーザ光は光導波層15Bからなる光導波領域1Cより導波され、EA変調器1Bに入射する。
【0047】
EA変調器1Bに比較的に低い逆方向のバイアス電圧が印加されている場合には、活性層23の実効的なフォトルミネセンス波長が上記の発振波長より短いため、入射されたレーザ光は吸収されることなく活性層23に伝搬する。活性層23に伝搬するレーザ光は増幅され、半導体光集積素子1から出力される。一方、EA変調器1Bに十分に高い逆方向のバイアス電圧が印加されている場合には、活性層23において量子閉じ込めシュタルク効果(Quantum Confined Stark Effect:QCSE)が生じ、入射されたレーザ光は活性層23により吸収される。活性層23により吸収されたレーザ光は逆方向のバイアス電圧の大きさに応じてその波長が変調され、変調されたレーザ光が半導体光集積素子1から出力される。
【0048】
以上、本発明の好適な実施形態について説明してきたが、上記実施形態は本発明の要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、第1活性層21及び第2活性層23は、単一量子井戸構造(SQW)であってもよく、バルク構造を有しても良い。
【0049】
上記実施形態では、半導体基板11の導電型はn型であるが、p型であってもよい。この場合には、下部クラッド層13の導電型がp型に変更される。また、上部クラッド層35及びコンタクト層37a,37bの導電型はn型に変更される。また、上記実施形態では、半導体基板11がGaAs半導体材料からなり、活性層21,23はGaInNAs半導体材料からなるものであるが、半導体基板11がInP半導体材料からなり、活性層21,23がGaInAsP又はAlGaInAsなどの半導体材料からなるものであってもよい。
【0050】
上記実施形態では、半導体光集積素子1は、DFBレーザ1A及びEA変調器1Bを集積したものであるが、レーザ、変調器、増幅器、受光素子などの能動素子の中に複数の素子を集積した構造であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態に係る半導体光集積素子を模式的に示す図である。
【図2】本実施形態に係る半導体光集積素子の製造方法の一工程を模式的に示す図である。
【図3】本実施形態に係る半導体光集積素子の製造方法の一工程を模式的に示す図である。
【図4】本実施形態に係る半導体光集積素子の製造方法の一工程を模式的に示す図である。
【図5】本実施形態に係る半導体光集積素子の製造方法の一工程を模式的に示す図である。
【図6】本実施形態に係る半導体光集積素子の製造方法の一工程を模式的に示す図である。
【図7】本実施形態に係る半導体光集積素子の製造方法の一工程を模式的に示す図である。
【図8】本実施形態に係る半導体光集積素子の製造方法の一工程を模式的に示す図である。
【図9】本実施形態に係る半導体光集積素子の製造方法の一工程を模式的に示す図である。
【図10】従来の典型的なバットジョイント集積方法の一工程を模式的に示す図である。
【図11】従来の典型的なバットジョイント集積方法の一工程を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1…半導体光集積素子、1A…DFBレーザ、1B…EA変調器、2,2A,2B,2C…半導体メサ部、11…半導体基板、13…下部クラッド層、15,15A,15B…光導波層、17,17A,17B,17C,17D…回折格子層、17E…回折格子、19A…第1エッチングマスク、19B…第2エッチングマスク、21…第1活性層、22…第1半導体積層、23…第2活性層、24…第2半導体積層、27…キャップ層、31…第1電流ブロック層、33…第2電流ブロック層、35…上部クラッド層、37a,37b…コンタクト層、41a,41b,43…電極、d1,d2…界面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに光学的に結合された第1半導体素子部及び第2半導体素子部を有する半導体光集積素子の製造方法において、
第1の領域、第2の領域及び前記第1の領域と前記第2の領域との間の第3の領域を含む主面を有する半導体基板の前記第3の領域を含む前記主面上に単一半導体層からなる光導波層を形成する工程と、
前記第2の領域及び前記第3の領域の前記光導波層上に第1エッチングマスクを形成する工程と、
前記第1エッチングマスクを用いて前記第1の領域の前記光導波層を除去する工程と、
前記第1の領域の前記主面上に前記第1半導体素子部の第1活性層を含む第1半導体積層を形成する工程と、
前記第1エッチングマスクを除去する工程と、
前記第1の領域の前記第1半導体積層上及び前記第3の領域の前記光導波層上にわたって第2エッチングマスクを形成する工程と、
前記第2エッチングマスクを用いて前記第2の領域の前記光導波層を除去する工程と、
前記第2の領域の前記主面上に前記第1活性層と組成が異なる前記第2半導体素子部の第2活性層を含む第2半導体積層を形成する工程と、
を備える半導体光集積素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1活性層又は前記第2活性層のうちの少なくとも一方が歪多重量子井戸構造を有する請求項1に記載の半導体光集積素子の製造方法。
【請求項3】
第1の領域、第2の領域及び前記第1の領域と前記第2の領域との間の第3の領域を含む主面を有する半導体基板と、
前記第1の領域に設けられており、第1活性層を含む第1半導体積層を有する第1半導体素子部と、
前記第2の領域に設けられており、前記第1活性層と組成が異なる第2活性層を含む第2半導体積層を有する第2半導体素子部と、
前記第3の領域に設けられており、単一半導体層からなり且つ前記第1活性層と前記第2活性層とを光学的に結合する光導波層と、
を有する半導体光集積素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−260192(P2009−260192A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−110379(P2008−110379)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「フォトニックネットワーク技術の開発事業」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】