説明

半導体基板の内部に中空を形成する方法及び半導体基板

【課題】半導体基板内部にアスペクト比が大きい中空を位置や形状を制御して形成する方法とアスペクト比が大きい中空が形成された半導体基板を提供することを目的とする。
【解決手段】第1の層101と、第1の層101の上に形成された第1の層101より正孔濃度が低い第2の層102を有する半導体基板106の内部に中空を形成する方法であって、半導体基板106に、第2の層102を貫通して第1の層101に開口を形成する工程と、第1の層101の開口内の壁面を多孔質領域にする工程と、開口の第1の層101内の幅を拡大する工程と、開口を封止する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の内部に中空を形成する方法及び半導体基板に関し、特に、インクジェットプリンタなどの液体移送装置に適用可能な半導体基板の内部に中空を形成する方法及び半導体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板内部に中空を形成する方法として、多孔質構造を半導体基板に形成し、熱処理を行うことによって中空を形成する方法がある。
【0003】
その際、多孔質領域を形成する領域の周りにn層を形成することで、陽極化成時に基板内に流れる電流を制限することで多孔質が形成される領域を制御する方法がある(非特許文献1)。
【0004】
また、他の形成方法として、開口を形成して、熱処理を行うことによって中空を形成する方法がある。ここでいう中空とは、実質的に空間を有する部分をいい、中空構造とは、中空を有する構造をいう。
【0005】
また、従来の中空の深さは半導体基板表面の法線方向からみた中空の短辺長よりも小さく、インクジェットプリンタなどの液体移送装置に適用した場合、ノズルの高密度化が困難であった。
【特許文献1】特開2001−144276号公報
【特許文献2】特開平05−036951号公報
【非特許文献1】S.Armbruster(Bosch),Transducers’03,p.246
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記された方法では、n層の形成において、n層の形成深さに限界がある。
【0007】
また、熱処理により不純物が横方向へも拡散することにより、n層の形成領域を正確に制御することが困難である。
【0008】
また、n層の形成領域の角に丸みが形成され、基板に対して垂直な界面が形成することが困難である。
【0009】
したがって、多孔質領域を形成する際、n層の形成領域の下に多孔質が広がって形成され、多孔質領域界面が垂直に形成されないことがある。
【0010】
その形状を制御することが困難であることにより、半導体基板内部にアスペクト比が大きい中空を位置や形状を制御して形成することが困難であった。
【0011】
また、開口を形成して、熱処理を行う形成方法では、熱処理によって、複数の球形となり、アスペクト比の大きい中空を位置や形状を制御して形成することが困難であった。
【0012】
そこで、本発明は、半導体基板の内部にアスペクト比が大きい中空を位置や形状を制御して形成する方法とアスペクト比が大きい中空が形成された半導体基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、第1の層と、前記第1の層の上に形成された前記第1の層より正孔濃度が低い第2の層を有する半導体基板の内部に中空を形成する方法であって、前記半導体基板に、前記第2の層を貫通して前記第1の層に開口を形成する工程と、前記第1の層の開口内の壁面を多孔質領域にする工程と、前記開口の第1の層内の幅を拡大する工程と、前記開口を封止する工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、第1の層と、前記第1の層より正孔濃度が低く前記第1の層の上に形成された第2の層を有する半導体基板の内部に中空を形成する方法であって、前記第1の層が形成された半導体基板に開口を形成する工程と、該第1の層が形成された半導体基板に、前記第1の層より低い正孔濃度を有する第2の層を前記開口を保ったまま形成する工程と、前記第1の層の開口内の壁面を選択的に多孔質領域にする工程と、前記開口の第1の層内の幅を拡大する工程と、前記開口を封止する工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、内部に中空が形成された半導体基板であって、前記半導体基板は、第1の層と該第1の層より正孔濃度の低い第2の層よりなり、前記第2の層に接して前記第1の層に形成されたアスペクト比(中空の深さ/半導体基板の表面の法線方向からみた前記中空の短辺長)が1より大きく、中空の上面が概略平面で構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、第1の層の開口内壁面に多孔質領域を形成することにより、多孔質領域の形状を制御して形成することが可能となり、半導体基板内部にアスペクト比が大きい中空を位置や形状を制御して形成することができる。
【0017】
また、中空の深さが半導体基板表面の法線方向からみた中空の短辺長よりも大きく、インクジェットプリンタなどの液体移送装置に適用した場合、ノズルの高密度化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための最良の実施の形態を説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
半導体基板は不純物ドーピングにより価電子制御できる材料であればよく、陽極化成可能な材料であれば用いることができる。たとえば、SiGe、SiCなどのIV族半導体の単結晶基板、GaAs、GaP、InP等のIII−V族化合物半導体の単結晶基板を用いることができる。
【0020】
第1の層と第1の層より正孔濃度の低い第2の層を有する半導体基板は、エピタキシャル成長や、イオン注入、熱拡散などにより第2の層が形成されている基板を用いることができる。
【0021】
陽極化成における半導体材料の溶解には正孔が水溶液界面近傍に供給される必要があるので、第1の層より第2の層の正孔濃度を低くしておくことで、第1の層より第2の層の多孔質形成が阻害されるようにできる。
【0022】
第1の層と第2の層との正孔濃度の差を高くしておくほど、多孔質形成の選択性は高くなる。
【0023】
第1の層はより正孔の濃度を高めておくために、P型導電層であることが好ましい。抵抗率において、0.001〜10Ωcm程度の正孔濃度が好ましい。
【0024】
第2の層はより正孔濃度を低くしておくために、N型導電層であることが好ましい。また、基板の一部に第2の層を形成すれば、能動回路素子部と一体形成する場合、能動素子回路素子を形成する層を適当に選ぶことができるので、基板の選択肢が広がるので好適である。
【0025】
第1の層と第1の層より正孔濃度の低い第2の層を有する半導体基板にシリコンを用いて、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0026】
図1は、本発明の第1の実施形態としての半導体基板の内部に中空を形成する方法を示す図である。
【0027】
まず、図1(a)は、開口103を形成する前の半導体基板106を示している。半導体基板106は第1の層101と第1の層101より正孔濃度の低い第2の層102からなる。
【0028】
図1(b)に示す工程では、第1の層101と第1の層101より正孔濃度の低い第2の層102を有する半導体基板106に、第2の層102を貫通して第1の層101に開口103を形成する。
【0029】
開口103の形成方法は所望のアスペクト比が制御性よく形成できれば良く、例えば、反応性イオンエッチング(RIE)等が用いられる。
【0030】
半導体基板106上にマスク材としての例えばシリコン窒化膜107が形成され、このシリコン窒化膜107が不図示のレジストパターンをマスクとしてエッチングされる。こうして、シリコン窒化膜107がパターニングされる。
【0031】
この後、レジストパターンが除去され、シリコン窒化膜107をマスクとして半導体基板106がエッチングされ、第2の層102を貫通して第1の層101に開口103が形成される。
【0032】
その後、マスクとして形成したシリコン窒化膜107は除去しても良いが、第1の層101の開口103内の壁面を多孔質領域104にする工程において、表面のエッチング保護として用いることができる。
【0033】
この場合、マスクとして形成したシリコン窒化膜107は開口を封止する工程の前で除去する。
【0034】
この工程において、重要なことは開口103が第2の層102を貫通して第1の層101に達していることである。
【0035】
このようにすることによって、開口103内の壁面に第1の層101と第2の層102の界面が露出して存在し、多孔質領域104を形成する工程において多孔質領域104と非多孔質領域の界面を決定することができるからである。
【0036】
形成する開口はひとつでも良く、開口103の数及び配置は、所望の中空105を得るために、適時調整すればよい。開口103の開口部の平面形状は、任意の形でよく、例えば、円形とする。
【0037】
開口103の間隔は、多孔質形成厚さよりも十分小さい間隔で形成しておけば、各開口103の間が多孔質化しており、開口の第1の層内の幅を拡大する工程で多孔質領域104が凝集することにより、中空が連接する。
【0038】
次いで、図1(c)に示す工程では、開口103の露出した壁面に多孔質領域104を形成する。
【0039】
多孔質領域104は、電解液中で陽極化成を施すことによって形成することができる。ここで、電解液としては、例えば、フッ化水素を含む溶液、フッ化水素及びエタノールを含む溶液、フッ化水素及びイソプロピルアルコールを含む溶液等が好適である。
【0040】
陽極化成により多孔質を形成する過程は、中空105の形状を左右する重要な工程で、形状に与える作用を以下に説明する。
【0041】
正孔濃度の高い第1の層101中では電位勾配がほとんど生じず、多孔質領域104の先端に供給される正孔濃度はほぼ均一である。そのため、接液面から陽極化成時の電流(正孔)の流れに沿って多孔質(成長方向に空間が連なった構造)が成長していく。
【0042】
たとえば、図2に示すように、開口を第1の層201に隣接して第2の層202中にのみ形成した場合のように開口が点とみなせる場合には、概略球状に多孔質領域203が形成されることとなる。
【0043】
一方、第2の層102を貫通して第1の層101に開口を形成した場合、開口103の側面からは開口側壁面に垂直方向(基板に水平な方向)に多孔質が成長していく。
【0044】
したがって、開口の側壁が滑らかに形成されていれば、多孔質領域104の幅は深さ方向に均一になり、多孔質領域104が形成される最小幅は開口の直径と多孔質を形成する厚さによって決定される。
【0045】
開口103の底面からは開口底壁面(基板に垂直な方向)に多孔質が成長していくため、多孔質領域104が形成される深さは、開口103の形成深さと多孔質を形成する厚さによって決定される。
【0046】
また、開口の側面と底面で構成される角からは概略扇型に多孔質が形成される。
【0047】
したがって、その平面形状が円形に形成された単独の開口からは、逆釣鐘形の多孔質領域104が形成される。
【0048】
正孔濃度の低い第2の層102では、そもそも正孔が少ないために、多孔質領域104が形成されないか、極めて、薄くしか形成されない。
【0049】
したがって、図1(c)に示したように、第1の層101と第2の層102の界面で、第1の層101中では概略基板に水平な方向に多孔質が伸びた多孔質領域104と第2の層102中では非多孔質領域となる界面ができる。
【0050】
これらの2つの作用によって、以下のことができるようになる。
【0051】
(1)多孔質領域104の幅及び深さが所定の値に制御できる。
【0052】
(2)多孔質の成長方向が制御できる。
【0053】
(3)第1の層101と第2の層102の界面に第1の層101中では概略基板に水平な方向に多孔質が伸びた多孔質領域104と第2の層中では非多孔質領域となる界面を形成できる。
【0054】
これらのことができることは、アスペクト比を決める重要な要素である。
【0055】
次いで、図1(d)に示す工程では、開口の第1の層内の幅を拡大する工程と、開口を封止する工程を非酸化性の気体で熱処理を行う。例えば、水素の雰囲気中で、温度1100℃、圧力300Torr程度の条件で熱処理する。
【0056】
このようにすることにより、以下のことが同時に、又は続いて起こり、半導体基板106中に中空105が形成される。
【0057】
(1)開口103によって形成された多孔質領域104が凝集して一体化される過程
(2)第2の層102中の開口面が、表面エネルギーを最小にするように生じるシリコンの表面マイグレーションによって閉ざされる過程
このようにして、開口部がない中空構造を作製することができる。
【0058】
多孔質領域104は、表面エネルギーを最小にするように凝集してゆくので多孔質が成長した方向(孔が成長した方向)に凝集してゆく。
【0059】
このとき、図1(c)に示すように、概略開口103壁面に垂直方向に多孔質が成長しているので、第1の層101中のシリコンと多孔質領域104の界面に垂直な方向に凝集してゆくことになる。
【0060】
また、第1の層101と第2の層102の界面は概略基板に水平な方向に多孔質が伸びた多孔質領域104と非多孔質領域の界面と成っているので、第2の層102方向へは多孔質が凝集しない。
【0061】
したがって、中空が形成される上端が第1の層101と第2の層102の界面に制御され、また、概略多孔質領域104の形状を保ったまま、中空105となる。
【0062】
以上の作用により、アスペクト比の大きな中空が形状を制御して作製することが可能となる。
【0063】
単独の開口の場合、概略、多孔質の形状に従った逆釣鐘型の中空となる。逆釣鐘型とは、断面形状の上面と側面が概略直線で構成され、底面に円弧を持った形状をさし、図4(a)に多孔質領域104を形成する際の形状を示す。
【0064】
また、図4(b)に中空105が形成される形状を示す。条件によっては上面と側面の角には底面より小さな円弧が形成されることがある。
【0065】
中空105が形成される最小幅Xは開口の直径wと多孔質が凝集して中空になる幅、つまり、おおむね、多孔質を形成する厚さtの2倍と多孔度αによって決定される。
【0066】
X=w+2×t×(1−α)
多孔度αは、シリコンの体積にしめる空孔の体積の割合である。
【0067】
また、中空105が形成される深さTは、開口103の形成深さhから正孔濃度の低い第2の層102の厚さdを除いた深さと多孔質が凝集して中空になる厚さ、つまり、おおむね多孔質を形成する厚さと多孔度によって決定される。
【0068】
T=h−d+t×(1−α)
アスペクト比はT/X>1であるには、
h>w+d+t×(1−α)
したがって、以下の式で示す開口103の形成深さにすれば、アスペクト比(中空が形成される深さT/中空が形成される最小幅X)が1以上の中空が形成できる。
【0069】
h>w+d+t
また、表面エネルギーを最小にするように生じるシリコンの表面マイグレーションによって第2の層102の開口面が閉ざされるために、直径wと第2の層102の厚さdとの比(d/w)が5以上であることが望ましい。
【0070】
以上は、開口103の平面形状が円の場合があるが、多角形の場合は、その多角形に内接する最大の円の直径wを開口の直径wとして用いればよく、楕円形では、その短径を開口の直径wとして用いればよい。
【0071】
また、複数の開口を一列に並べて中空とする場合は、図5に示すように開口103の並びと垂直な方向の開口の径w2を開口の直径wとして用いればよい。
【0072】
次に具体的に中空を作製する代表的な例を示す。
【0073】
(a)半導体基板106として、P型(100)の比抵抗0.01Ωcmのシリコン基板上にN型の比抵抗1Ωcmの層を1μmエピタキシャル成長させた基板を用意する。
【0074】
(b)基板101上にマスク材としてのシリコン窒化膜107を形成し、このシリコン窒化膜107を不図示のレジストパターンをマスクとしてエッチングする。この後、レジストパターンを除去し、ドライエッチング用のガスとしてSFとOを用い、反応性イオンエッチング(RIE)にてシリコン窒化膜107をマスクとして半導体基板106をエッチングし、開口103を形成する。開口は円形とし、直径は0.2μm、開口の深さは8μmとする。
【0075】
(c)引き続き、半導体基板106に陽極化成を行う。陽極化成は49%フッ化水素酸溶液とアルコール溶液を1:1の割合で混合した溶液中で5分間、電流密度10mA/cmで行う。多孔質の形成厚さは6μmとなる。多孔度は50%となる。マスクとして形成したシリコン窒化膜107は、引き続き、通電を行なわずに溶液中に30分間保持することによって、除去する。
【0076】
(d)続いて、純水にて洗浄を行ない、水素の雰囲気中で、温度1100℃、圧力300Torr、1時間の熱処理を行う。
【0077】
以上のようにして、中空の深さが10μm、中空の幅が6.2μmの逆釣鐘形の中空ができる。
【0078】
以上説明したように、半導体基板内部にアスペクト比が大きい中空を形成することができることから、例えば、中空の形状や位置が特性に影響を与えるような共振器を使う用途であるマイク、共振フィルター、FBARに好適である。特に、メンブレンの位置が第1の層と第2の層の界面に制御されることは、共振器等のメンブレン構造を作製する場合には好適である。
【0079】
中空の上面が概略平面で構成されていることでメンブレンの厚さを精度良く制御できる。
【0080】
また、一体形状でアスペクト比を大きくできることによって、流体の漏れを気にすることなく、コンダクタンスを維持しながら高密度に流路を造れる。よって、微小流体流路、液体移送装置であるマイクロリアクター、インクジェットプリンタに好適である。
【0081】
インクジェットプリンタに適応した場合、コンダクタンスを維持しながら高密度に流路を造れることからリフィイル性を維持しながら、ノズルピッチを狭めることができ、プリントスピードを維持しながら高精細化を計れる。
【0082】
また、中空の上面が概略平面で構成されていることでメンブレンの厚さを精度良く制御できる。よって、ノズルの形成精度を高めることができ、高精細化を計ることができる。
【0083】
また、断面形状が逆釣鐘形となることによって、流体のノズル形成面は平面で、底面を円弧状の構成にできる。デットスペースが少なくなり、流体の移送をスムーズになり、ノズル面からの吐出が安定する。
【0084】
また、中空の内壁を多孔質領域とすることができること、酸化されている領域とすることができることによって、内面での流体との熱交換を遅らせたり、流体の濡れ性を変えたりすることができる。特に体積に比べ表面積が増える微小な流体流路、液体移送装置等に好適である。
【0085】
(第2の実施形態)
第1の実施形態とは異なる第2の実施形態としての中空を形成する製造方法を説明する。
【0086】
図1(d)に示す工程で、開口の第1の層内の幅を拡大する工程と、前記開口を封止する工程をそれぞれ、エッチングにより少なくとも多孔質領域の一部を除去する工程と、エピタキシャル成長によって開口の封止工程によって行う。
【0087】
このようにして、開口部がない中空構造を作製することができる。
【0088】
(第3の実施形態)
第1の実施形態及び第2の実施形態とは異なる第3の実施形態としての中空を形成する製造方法を説明する。
【0089】
第3の実施形態では、第1の層101より低い正孔濃度を有する第2の層102を第1の層101を有する半導体基板106に開口103を形成する工程の後に開口103の開口を保ったまま形成することが第1の実施形態と異なる。
【0090】
半導体基板106にシリコンを用いて、第3の実施形態としての中空を形成する製造方法を第1の形態と異なる部分について説明する。
【0091】
図3は、本発明の第3の実施形態としての半導体基板の内部に中空を形成する方法を示す図である。
【0092】
まず、図3(a)に示す工程では、第1の層301を有する半導体基板に開口302を形成する。
【0093】
図3(b)に示す工程では、第1の層301を有する半導体基板に第1の層301より低い正孔濃度を有する第2の層303を形成する。第1の層301より正孔濃度の低い第2の層303は、エピタキシャル成長や、イオン注入などにより形成することができる。
【0094】
この工程で重要な要素は第1の層301を有する半導体基板に形成した開口302の開口部を維持したまま、第1の層301より低い正孔濃度を有する第2の層303を形成することが重要である。
【0095】
このようにすることによって、開口302内壁面に第1の層301と第2の層303の界面が露出して存在し、続く多孔質領域304を形成する工程において多孔質領域304と非多孔質領域の界面を決定できるからである。
【0096】
イオン注入では、開口部のみをレジスト等で閉鎖した後にイオン注入を行うことによって、開口302の開口部を維持したまま、第1の層301より低い正孔濃度を有する第2の層303を形成することができる。
【0097】
次いで、図3(c)に示す工程では、開口302の露出した内壁面に多孔質領域304を形成する。
【0098】
次いで、図3(d)に示す工程では、非酸化性の気体で熱処理を行う。
【0099】
例えば、水素の雰囲気中で、温度1100℃、圧力300Torr程度の条件で熱処理する。
【0100】
このようにすることにより、以下のことが同時に、又は、続いて起こり、基板中に中空305が形成される。
【0101】
(1)開口302によって形成された多孔質領域304が凝集して一体化される過程
(2)第2の層303中の開口面が、表面エネルギーを最小にするように生じるシリコンの表面マイグレーションによって閉ざされる過程
(第4の実施形態)
第1から3の実施形態とは異なる第4の実施形態としての中空を形成する方法を説明する。
【0102】
図3(d)に示す工程で、開口の第1の層内の幅を拡大する工程と、開口を封止する工程をそれぞれ、エッチングにより少なくとも多孔質領域の一部を除去する工程と、エピタキシャル成長によって開口の封止工程によって行う。このようにして、開口部がない中空構造を作製することができる。
【0103】
(第5の実施形態)
第5の実施形態では、第1の実施形態から第4の実施形態に適用可能な他の技術について説明する。
【0104】
図6は、本発明の第5の実施形態としての半導体基板の内部に中空を形成する方法を示す図である。
【0105】
図6(e)の半導体基板106に熱処理を行う工程に先立ち、図6(d)に示すエッチングにより少なくとも多孔質領域104の一部を除去することによって、エッチングされた領域601を形成する。
【0106】
少なくとも多孔質領域104の一部を除去することによって、多孔質領域104の凝集する時間を短縮することができる。
【0107】
また、多孔質領域104を全てエッチングすることで、多孔度に関係なく、中空105が形成される最小幅X、中空105が形成される深さTを決定できる。中空105が形成される最小幅X、中空105が形成される深さTはそれぞれ以下のようになる。
【0108】
X=w+2×t
T=h−d+t
エッチングにより少なくとも多孔質領域の一部を除去する方法は、特許文献2記載の多孔質シリコンの選択的エッチングによるものである。
【0109】
結晶シリコンに対してはエッチング作用を持たないエッチング液を用いることにより、多孔質シリコンを選択的にエッチングできる。
【0110】
選択的エッチング液として、利用可能なものは、以下のものがあげられる。
【0111】
(1)弗酸(もしくはバッファード弗酸)
(2)弗酸(もしくはバッファード弗酸)に過酸化水素水を加えたもの
(3)弗酸(もしくはバッファード弗酸)にアルコールを加えたもの
(4)弗酸(もしくはバッファード弗酸)に過酸化水素水及びアルコールを加えた混合液
(第6の実施形態)
第6の実施形態では第1から第5の実施形態に適用可能な他の技術について説明する。
【0112】
図7は、本発明の第6の実施形態としての半導体基板の内部に中空を形成する方法を示す図である。
【0113】
半導体基板106に熱処理を行う工程に先立ち、多孔質の孔の側壁に酸化膜を形成する工程と、第2の層表面の酸化膜を除去する工程とすることで、多孔質の孔の側壁に酸化膜が形成される領域701が形成される。
【0114】
多孔質の孔の側壁に酸化膜が形成される領域701が形成されると、酸化膜によりシリコン原子がマイグレーションを起こしにくくなるので、熱処理工程で多孔質がマイグレーションによって凝集するのを遅くすることができる。
【0115】
一方、第2の層102表面の酸化膜を除去することで、第2の層102中の開口面が、表面エネルギーを最小にするように生じるシリコンの表面マイグレーションによって閉ざされる効果は阻害することはない。
【0116】
このようにすれば、熱処理工程において、多孔質がマイグレーションによって凝集する現象を遅くすることができ、第1の層101中に完全に凝集せず、中空105の内壁に多孔質領域702を造りこむことが容易にできる。
【0117】
上記、作製法ではおおむね、多孔質領域702は中空105の内面に連接した構造ではなく、数nmから数十nmの略球形からなる形状であって、領域中に分散した構造となる。
【0118】
具体的には、400℃、1hのドライ酸化で孔の側壁を約1nm酸化し、その後、HF Dipにより多孔質表面の酸化膜のみ除去することによってできる。
【0119】
また、中空105に多孔質領域702を造りこむ別な方法として、多孔質領域104を互いに多孔度の異なる2層以上の層からなる多層構造としても良い。
【0120】
ここで、多層構造の多孔質領域104は、開口内壁面に近い領域に第1の多孔度を有する第1の多孔質領域、そのまわりの領域に、第1の多孔度より小さい第2の多孔度を有する第2の多孔質領域を含むことが好ましい。
【0121】
ここで、第1の多孔度(多孔質領域の体積に対する細孔部分の体積の比)としては、10%〜70%が好ましく、また、第2の多孔度としては、10%〜30%が好ましい。
【0122】
このようにすれば、熱処理工程において、多孔度によって多孔質領域の凝集速度が異なることから、中空に多孔質領域702を造りこむことが容易にできる。
【0123】
(第7の実施形態)
第7の実施形態では第1から第6の実施形態に適用可能な他の技術について説明する。
【0124】
図8は、本発明の第7の実施形態としての半導体基板の内部に中空を形成する方法を示す図である。
【0125】
半導体基板106に熱処理を行う工程の後に、熱酸化することによって、中空105内面を酸化された領域801とすることができる。
【0126】
上記熱酸化は、例えば900℃、酸素とHClとの混合ガス雰囲気中で行うことによって、中空105の内面及びシリコン基板の表面に酸化された領域801を形成する。
【0127】
表面の酸化された領域は、エッチングにより適時除去する。このようにして、中空105内面を酸化された領域801とすることができる。
【0128】
(第8の実施形態)
第8の実施形態では第1から第7の実施形態とは異なる第8の実施形態としての半導体基板の内部に中空を形成する方法を説明する。
【0129】
図9は、本発明の第8の実施形態としての半導体基板の内部に中空を形成する方法を示す図である。
【0130】
図9(a)に示す工程で第2の層を部分的に形成する。具体的には、不図示のマスクによりホトリソグラフィーにより、第2の層の一部をエッチングにより除去する。
【0131】
図9(b)に示す工程では、第1の層101と第1の層より正孔濃度の低い第2の層102を有する半導体基板106に、第2の層を貫通して第1の層に開口103を形成する。
【0132】
開口103の形成方法は所望のアスペクト比が制御性よく形成できれば良く、例えば、反応性イオンエッチング(RIE)等が用いられる。
【0133】
半導体基板106上にマスク材としての例えばシリコン窒化膜107が形成され、このシリコン窒化膜107が不図示のレジストパターンをマスクとしてエッチングされる。
【0134】
こうして、シリコン窒化膜107がパターニングされる。
【0135】
この後、レジストパターンが除去され、シリコン窒化膜107をマスクとして半導体基板106がエッチングされ、第2の層102を貫通して第1の層101に開口103が形成される。
【0136】
その後、マスクとして形成したシリコン窒化膜107は、陽極化成により第1の層101の開口103内壁面に多孔質領域104を形成する工程において、表面のエッチング保護として用いる。
【0137】
その後、第1の実施形態と同様に図9(c)、(d)に示すように、第1の層の開口内壁面に多孔質領域を形成する工程と、開口の第1の層内の幅を拡大する工程と、開口を封止する工程を行う。
【0138】
以上によって、部分的に第2の層が形成された半導体基板内部に中空部を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明は、インクジェットプリンタなどの液体移送装置などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】本発明の第1の実施形態としての半導体基板の内部に中空を形成する方法を示す図である。
【図2】多孔質領域を形成する様子を示す模式断面図である。
【図3】本発明の第3の実施形態としての半導体基板の内部に中空を形成する方法を示す図である。
【図4】多孔質領域を形成する際の形状及び中空部が形成される形状を示す断面図である。
【図5】複数の開口を一列に並べて中空とする場合の開口の様子を示す平面図である。
【図6】本発明の第5の実施形態としての半導体基板の内部に中空を形成する方法を示す図である。
【図7】本発明の第6の実施形態としての半導体基板の内部に中空を形成する方法を示す図である。
【図8】本発明の第7の実施形態としての半導体基板の内部に中空を形成する方法を示す図である。
【図9】本発明の第8の実施形態としての半導体基板の内部に中空を形成する方法を示す図である。
【符号の説明】
【0141】
101 第1の層
102 第2の層
103 開口
104 多孔質領域
105 中空
106 半導体基板
301 第1の層
302 開口
303 第2の層
304 多孔質領域
305 中空
601 エッチングされた領域
701 多孔質の孔の側壁に酸化膜が形成される領域
702 多孔質領域
801 酸化された領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の層と、前記第1の層の上に形成された前記第1の層より正孔濃度が低い第2の層を有する半導体基板の内部に中空を形成する方法であって、
前記半導体基板に、前記第2の層を貫通して前記第1の層に開口を形成する工程と、
前記第1の層の開口内の壁面を多孔質領域にする工程と、
前記開口の第1の層内の幅を拡大する工程と、
前記開口を封止する工程と、を含むことを特徴とする半導体基板の内部に中空を形成する方法。
【請求項2】
前記開口の第1の層内の幅を拡大する工程と、前記開口を封止する工程と、は同時に行われる工程であることを特徴とする請求項1記載の半導体基板の内部に中空を形成する方法。
【請求項3】
前記同時に行われる工程は非酸化性の気体での熱処理であることを特徴とする請求項2記載の半導体基板の内部に中空を形成する方法。
【請求項4】
前記開口の深さを、前記第2の層の厚さと、前記開口の短径と、前記多孔質の厚さとの和よりも深くすることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の半導体基板の内部に中空を形成する方法。
【請求項5】
前記第1の層は、P型導電層からなることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の半導体基板の内部に中空を形成する方法。
【請求項6】
前記第2の層は、N型導電層からなることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の半導体基板の内部に中空を形成する方法。
【請求項7】
前記基板は単結晶のシリコンからなることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の半導体基板の内部に中空を形成する方法。
【請求項8】
前記第2の層は、部分的に形成されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の半導体基板の内部に中空を形成する方法。
【請求項9】
第1の層と、前記第1の層より正孔濃度が低く前記第1の層の上に形成された第2の層を有する半導体基板の内部に中空を形成する方法であって、
前記第1の層が形成された半導体基板に開口を形成する工程と、
該第1の層が形成された半導体基板に、前記第1の層より低い正孔濃度を有する第2の層を前記開口を保ったまま形成する工程と、
前記第1の層の開口内の壁面を選択的に多孔質領域にする工程と、
前記開口の第1の層内の幅を拡大する工程と、
前記開口を封止する工程と、を含むことを特徴とする半導体基板の内部に中空を形成する方法。
【請求項10】
前記開口の前記第1の層内の幅を拡大する工程と、前記開口を封止する工程と、を同時に行なわれる工程であることを特徴とする請求項9記載の半導体基板の内部に中空を形成する方法。
【請求項11】
前記同時に行なわれる工程は非酸化性の気体での熱処理であることを特徴とする請求項10記載の半導体基板の内部に中空を形成する方法。
【請求項12】
前記開口の深さを前記第2の層の厚さと前記半導体基板の表面の法線方向からみた前記開口の短辺長と多孔質の形成厚さとの和よりも深くすることを特徴とする請求項9記載の半導体基板の内部に中空を形成する方法。
【請求項13】
前記第1の層は、P型導電層からなることを特徴とする請求項9から12のいずれか1項記載の半導体基板の内部に中空を形成する方法。
【請求項14】
前記基板は、単結晶のシリコンからなることを特徴とする請求項9から13のいずれか1項記載の半導体基板の内部に中空を形成する方法。
【請求項15】
前記第2の層は、N型導電層からなるように形成することを特徴とする請求項9から14のいずれか1項記載の半導体基板の内部に中空を形成する方法。
【請求項16】
前記第2の層は、単結晶のシリコンからなるように形成することを特徴とする請求項9から15のいずれか1項記載の半導体基板の内部に中空を形成する方法。
【請求項17】
前記第2の層は、前記開口の開口部を含むように部分的に形成することを特徴とする請求項1から16のいずれか1項記載の半導体基板の内部に中空を形成する方法。
【請求項18】
前記開口を封止する工程に先立ち、エッチングにより少なくとも多孔質領域の一部を除去することを特徴とする請求項1から17のいずれか1項記載の半導体基板の内部に中空を形成する方法。
【請求項19】
前記開口を封止する工程に先立ち、多孔質の孔の側壁に酸化膜を形成する工程と、前記第2の層表面の酸化膜を除去する工程と、を含むことを特徴とする請求項1から18のいずれか1項記載の半導体基板の内部に中空を形成する方法。
【請求項20】
前記開口を封止する工程の後に熱酸化する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1から19のいずれか1項記載の半導体基板の内部に中空を形成する方法。
【請求項21】
内部に中空が形成された半導体基板であって、
前記半導体基板は、第1の層と該第1の層より正孔濃度の低い第2の層よりなり、
前記第2の層に接して前記第1の層に形成されたアスペクト比(中空の深さ/半導体基板の表面の法線方向からみた前記中空の短辺長)が1より大きく、中空の上面が概略平面で構成されていることを特徴とする半導体基板。
【請求項22】
前記中空の断面形状が、逆釣鐘形であることことを特徴とする請求項21記載の半導体基板。
【請求項23】
前記中空の内壁に多孔質領域があることを特徴とする請求項21又は22記載の半導体基板。
【請求項24】
前記多孔質領域は前記第1の層の中にあることを特徴とする請求項23記載の半導体基板。
【請求項25】
前記中空の内壁に酸化されている多孔質領域があることを特徴とする請求項21から24のいずれか1項記載の半導体基板。
【請求項26】
前記酸化されている多孔質領域は前記第1の層の中にあることを特徴とする請求項25記載の半導体基板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate