説明

半導体発光装置、並びに画像表示装置及び照明装置

【課題】発光特性に優れているものの、化学的安定性に問題のある蛍光体を実用化可能とする半導体発光装置と、この半導体発光装置を用いた画像表示装置及び照明装置を提供する。
【解決手段】半導体発光素子Aと、該半導体発光素子からの光の少なくとも一部を吸収し異なる波長を有する光を発する蛍光体とを備える半導体発光装置において、該半導体発光素子と、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を含有する層Cとの間に、該蛍光体を含まず、かつ、厚さ0.4mmのときの40℃における水蒸気透過率が10g/m・day以下の層Dを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子と蛍光体を用いた発光装置、並びにその発光装置を用いた画像表示装置及び照明装置に関する。より詳しくは、半導体発光素子と、当該半導体発光素子からの光の照射によって異なる波長の光を発生する、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を含有する発光装置、並びにその発光装置を用いた画像表示装置及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、窒化ガリウム(GaN)系半導体発光素子と、波長変換材料としての蛍光体とを組み合わせて構成される白色発光装置が、消費電力が小さく長寿命であるという特徴を活かして画像表示装置や照明装置の発光源として注目されている。例えば、In添加GaN系青色LEDと、Ce付活イットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた白色発光装置が代表的な発光装置として挙げられる。このような白色発光装置は、近年、ディスプレイ用バックライトなどの新たな用途への使用が期待されており、それに伴い、半導体発光素子と組み合わせる蛍光体の研究開発も進められている。
【0003】
半導体発光素子を有する発光装置(以下、「半導体発光装置」と称する場合がある。)は、半導体発光素子の周囲を、蛍光体を含む樹脂で封止する形態が多く採用されている。このような形態では、蛍光体が半導体発光素子から発せられる熱などの影響を受けやすい状態にある。そのため、これまで半導体発光装置に使用する蛍光体は、水分など使用環境の影響を受けにくく、化学的に安定であることを第一優先として選定されることが多かった。
【0004】
一方で、近年、半導体発光装置は、表示用、照明用などの用途に加え、ディスプレイ用などの新たな用途への使用が期待されるに至り、従来の物質の範囲内では所望の発光特性を有する蛍光体が得られず、従来範囲を超えた物質の使用が検討されている。
この中で、Mn4+付活フッ素錯体蛍光体を使用した発光装置が知られており、例えば、(1)半導体発光素子直上に蛍光体を堆積し、封止部材を用いて封止する方法、(2)封止部材中に蛍光体を均一に分散させる方法、及び(3)封止カプセルの表面、または内壁に蛍光体を塗布する方法等が例示されている(特許文献1〜3参照)。
【0005】
また、蛍光体の劣化を防ぐために、蛍光体の表面に化学気相反応法(CVD法)や溶液中で蛍光体の粒子表面に被覆層を析出させる等により、被覆層を形成させる方法が知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許公開2006/0071589号公報
【特許文献2】米国特許公開2006/0169998号公報
【特許文献3】米国特許公開2007/0205712号公報
【特許文献4】特開2005−82788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの前述の特許文献に記載の方法を用いて半導体発光装置を作成した場合、経時劣化が激しく実用に耐えないものであることが発明者らの検討により明らかとなった。
加えて、特許文献4に記載の、CVD法により蛍光体をコーティングする方法は、特殊な装置を必要とするものである。また、特許文献4に、もう一つの方法として、溶液中で蛍光体の粒子表面に被覆層を析出させることによりコーティングする方法も開示されているが、耐水性の低い蛍光体には不向きである等、すべての蛍光体に適用することは難しい。
【0008】
さらに、本発明者らが予備的な検討を行なったところ、付活元素であるMn4+を含有していない、蛍光体の母体結晶を用いて発光装置を作製しても、時間の経過と共に半導体発光装置の性能が低下することが分かった。この現象をより詳細に検討したところ、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を使用した半導体発光装置では、半導体発光素子自身の劣化と、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体自身の劣化という二つの要因があることが分かった。
【0009】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたもので、その目的は、発光特性に優れているものの、化学的安定性に問題のある蛍光体を実用化可能とする半導体発光装置と、この半導体発光装置を用いた画像表示装置及び照明装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記課題に鑑み、半導体発光素子自体の構造と、Mn4+付活フッ素錯体蛍光体との関係を詳細に検討した。その結果、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を使用する場合には、半導体発光装置の層構成を工夫することにより、半導体発光装置の耐久性を向上させることができることを見出した。
また、本発明者等は、前記半導体発光装置が、表示装置、照明装置等の用途に好適に使用できることを見出して、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、次の(1)〜(10)に存する。
(1)半導体発光素子(A)と、該半導体発光素子(A)からの光の少なくとも一部を吸収し異なる波長を有する光を発する蛍光体(B)とを備える半導体発光装置において、
該半導体発光素子(A)と、該蛍光体(B)を含む層(C)との間に、該蛍光体(B)を含まず、かつ、厚さ0.4mmのときの40℃における水蒸気透過率が10g/m・day以下の層(D)を有し、
該蛍光体(B)がMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を含有することを特徴とする、半導体発光装置。
【0012】
(2)半導体発光素子(A)と、該半導体発光素子(A)からの光の少なくとも一部を吸収し異なる波長を有する光を発する蛍光体(B)とを備える半導体発光装置において、
該半導体発光装置の表面の一部または全部が、厚さ0.4mmのときの40℃における水蒸気透過率が10g/m・day以下の層(E)で被覆されており、
該蛍光体(B)がMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を含有することを特徴とする、半導体発光装置。
【0013】
(3)半導体発光素子(A)と、該半導体発光素子(A)からの光の少なくとも一部を吸収し異なる波長を有する光を発する蛍光体(B)とを備える半導体発光装置において、
該蛍光体(B)を含む層(C)が、厚さ0.4mmのときの40℃における水蒸気透過率が10g/m・day以下の層(F)で被覆されており、
該蛍光体(B)がMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を含有することを特徴とする、半導体発光装置。
【0014】
(4)前記半導体発光素子(A)と、前記蛍光体(B)を含む層(C)との間に、該蛍光体(B)を含まず、かつ、厚さ0.4mmのときの40℃における水蒸気透過率が10
g/m・day以下の層(D)を有することを特徴とする、(3)に記載の半導体発光装置。
(5)前記蛍光体(B)の200℃における加熱発生フッ素量が、蛍光体1gあたり0.01μg/分以上のものであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の半導体発光装置。
【0015】
(6)前記蛍光体(B)の20℃における100gの水に対する溶解度が、0.005g以上、7g以下のものであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の半導体発光装置。
(7)前記蛍光体(B)が、610nm以上、650nm以下の波長範囲に主発光ピークを有することを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の半導体発光装置。
【0016】
(8)前記蛍光体(B)が、下記式[1]〜[8]のいずれかで表される化学組成を有する結晶相を含有するものであることを特徴とする、(1)〜(7)のいずれかに記載の半導体発光装置。
[MIV1−x] ・・・[1]
[MIII1−x] ・・・[2]
II[MIV1−x] ・・・[3]
[MIV1−x] ・・・[4]
[MIII1−x] ・・・[5]
Zn[MIII1−x] ・・・[6]
[MIII2−2x2x] ・・・[7]
Ba0.65Zr0.352.70:Mn4+ ・・・[8]
(但し、前記式[1]〜[8]において、MはLi、Na、K、Rb、Cs、及びNHからなる群より選ばれる1種以上の1価の基を表わし、MIIはアルカリ土類金属元素を表し、MIIIは周期律表第3族及び第13族からなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表し、MIVは周期律表第4族及び第14族からなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表し、Rは、少なくともMnを含有する付活元素を表す。xは、0<x<1で表される範囲の数値である。)
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載の半導体発光装置を、光源として備えることを特徴とする、画像表示装置。
【0017】
(10)(1)〜(8)のいずれかに記載の半導体発光装置を、光源として備えることを特徴とする、照明装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を用いた場合であっても、耐久性に優れた半導体発光装置を提供することができる。
また、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体の発光特性を活かして、高演色性の半導体発光装置を提供することができる。
さらに、本発明の半導体発光装置を用いて、耐久性に優れた画像表示装置、及び照明装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1(a)は縦型半導体発光素子の断面図である。図1(b)は横型半導体発光素子の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態(縦型構造)による発光素子の断面図である。
【図3】本発明の半導体発光装置の一実施例を示す模式的斜視図である。
【図4】図4(a)は、本発明の砲弾型発光装置の一実施例を示す模式的断面図であり、図4(b)は、本発明の表面実装型発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。
【図5】本発明の照明装置の一実施例を示す模式的断面図である。
【図6】図6(a)は、本発明の半導体発光装置の第一の構造の例であり、図6(b)、図6(c)、及び図6(d)は、本発明の半導体発光装置の第二の構造の例であり、図6(e)は、本発明の半導体発光装置の第三の構造の例である。
【図7】実施例1で得られた半導体発光装置の発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々に変更して実施することができる。
1)なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
2)また、明細書における色名と色度座標との関係は、すべてJIS規格に基づく(JISZ8110)。
【0021】
3)なお、本明細書中の蛍光体の組成式において、各組成式の区切りは読点(、)で区切って表わす。また、カンマ(,)で区切って複数の元素を列記する場合には、列記された元素のうち一種又は二種以上を任意の組み合わせ及び組成で含有していてもよいことを示している。例えば、「(Ba,Sr,Ca)Al:Eu」という組成式は、「BaAl:Eu」と、「SrAl:Eu」と、「CaAl:Eu」と、「Ba1−xSrAl:Eu」と、「Ba1−xCaAl:Eu」と、「Sr1−xCaAl:Eu」と、「Ba1−x−ySrCaAl:Eu」とを全て包括的に示しているものとする(但し、前記式中、0<x<1、0<y<1、0<x+y<1)。
【0022】
[1.半導体発光素子]
半導体発光素子の発光波長は使用する蛍光体の吸収波長と重複するものであれば、特に制限されず、幅広い発光波長領域の発光体を使用することができるが、通常200nm以上が望ましい。このうち、青色光を励起光として用いる場合には、通常420nm以上、好ましくは430nm以上、より好ましくは440nm以上、更に好ましくは450nm以上、また、通常490nm以下、好ましくは480nm以下、より好ましくは470nm以下、さらに好ましくは460nm以下の発光ピーク波長を有する発光体を使用することが望ましい。一方、近紫外光、又は紫外光を励起光として用いる場合には、通常300nm以上、好ましくは330nm以上、より好ましくは360nm以上、また、通常420nm以下、好ましくは410nm以下、より好ましくは400nm以下の発光ピーク波長を有する発光体を使用することが望ましい。
【0023】
尚、本発明で用いられるMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体(以下、単に「フッ素錯体蛍光体」と称する場合がある。)は通常青色光で励起される。従って、近紫外光又は紫外光を用いる場合には、前記フッ素錯体蛍光体は、通常これらの光により励起される青色蛍光体が発する青色光で励起(間接励起)されることとなるので、当該青色蛍光体の励起帯に合うような波長を有する励起光を選ぶことが好ましい。
【0024】
半導体発光素子としては、例えば、シリコンカーバイドやサファイア、窒化ガリウム等の基板にMOCVD法等で結晶成長されたInGaN系、GaAlN系、InGaAlN系、ZnSeS系の半導体発光素子等を好適に用いることができる。高出力にするには、光源サイズを大型化したり、光源の数を複数にしたりすればよい。また、端面発光型や面発光型のレーザーダイオードであってもよい。青色又は近紫外LEDは、蛍光体を効率良く励起できる波長を有しているため、光量の大きい光源を得ることができる点で、好適に用いられる。
【0025】
中でも、半導体発光素子としては、GaN系化合物半導体を使用したGaN系発光ダイオード(以下、「LED」と称する場合がある。)やLD(レーザーダイオード)が好ましい。なぜなら、GaN系LEDやLDは、この領域の光を発するSiC系LED等に比し、発光出力や外部量子効率が格段に大きく、前記蛍光体と組み合わせることによって、低電力で非常に明るい発光が得られるからである。例えば、20mAの電流負荷に対し、通常GaN系LEDやLDはSiC系の100倍以上の発光強度を有する。GaN系LEDやLDとしては、AlGaN発光層、GaN発光層又はInGaN発光層を有しているものが好ましい。中でも、発光強度が非常に高いことから、GaN系LEDとしては、InGaN発光層を有するものが特に好ましく、InGaN層とGaN層との多重量子井戸構造のものがさらに好ましい。
【0026】
なお、上記において、「」は通常0.8〜1.2の範囲の値である。GaN系LEDにおいて、これら発光層にZnやSiをドープしたものやドーパント無しのものが発光特性を調節する上で好ましいものである。
GaN系LEDはこれら発光層、p層、n層、電極、及び基板を基本構成要素としたものであり、発光層をn型とp型のAlGaN層、GaN層、又はInGaN層等でサンドイッチにしたヘテロ構造を有しているものが、発光効率が高くて好ましく、更にヘテロ構造を量子井戸構造にしたものが、発光効率が更に高いため、より好ましい。
【0027】
なお、半導体発光素子は、1個のみを用いてもよく、2個以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
上記半導体発光素子は、図1(a)及び図1(b)に示すように縦型素子構造を有するものと横型素子構造を有するものとがある。本発明においては、縦型素子構造であっても横型素子構造であっても用いることができるが、導電性を有する基板上に形成された縦型素子構造を有する半導体発光素子を用いた場合、フッ素錯体蛍光体を用いた場合に、発光装置の耐久性向上、具体的には温度85℃、湿度85%における発光装置の経時劣化が抑えられるという点で好ましい。
【0028】
ここで、縦型素子構造とは、導電性を有する基板の上に所望の発光素子構造をエピタキシャル成長させ、当該基板に一方の電極を形成し、当該エピタキシャル成長層の上にもさらに一方の電極を形成することで、エピタキシャル成長方向に電流を流す、いわゆる上下導通型(縦型)の発光素子の構造をいう。
pn接合型素子を用いて半導体発光装置を作製する場合について、以下に図を用いて説明する。図1(a)に、縦型素子構造とその電流分布を示し、図1(b)に、横型素子構造とその電流分布を示す。
【0029】
図1(a)に示す縦型素子構造は、導電性基板(105)上にn型層(104)、p型層(103)が積層され、p型層(103)にp型電極(101)、及び導電性基板(105)にn型電極(102)が形成された構造となっている。この場合、各層間の界面に垂直な方向を縦方向とすると、電流は導電性基板(105)、n型層(104)、p型層(103)内を縦方向にのみ流れる。
【0030】
図1(b)に示す横型素子構造は、サファイア等の絶縁性基板上に素子を作製する場合にとられる構造である。絶縁性基板(106)上にn型層(104)、p型層(103)が積層され、p型層(103)にp型電極(101)、及びドライエッチング等により露出されたn型層(104)にn型電極(102)が形成された構造となっている。この場合、各層間の界面と水平な方向を横方向とすると、電流がn型層(104)中を横方向に流れるため素子抵抗が増加し、かつ、電界がn型電極(102)側に集中して電流分布が不均一になる傾向にある。
【0031】
以下、縦型素子構造の代表的な一例を示す。
本発明の実施形態による半導体発光素子(20)は、図2に示すように、基板(21)と、基板(21)の一方に積層された化合物半導体薄膜結晶層(以下、単に薄膜結晶層ともいう)とを有する。薄膜結晶層は、例えばバッファ層(22)、第一導電型クラッド層(24)を含む第一導電型半導体層、活性層構造(25)、第二導電型クラッド層(26)を含む第二導電型半導体層、及びコンタクト層(23)が基板(21)側からこの順番に積層されて構成されている。
【0032】
コンタクト層(23)の表面の一部に、電流注入用の第二導電型側電極(27)が配置されており、コンタクト層(23)と第二導電型側電極(27)の接触している部分が、第二導電型半導体層に電流を注入する第二電流注入領域(29)となっている。
また、基板(21)の前記薄膜結晶層と反対側の面、即ち裏面には第一導電型側電極(28)が配置されている。
【0033】
第二導電型側電極(27)及び第一導電型側電極(28)が上記のように配置されることによって、両者は基板(21)を挟んで、反対側に配置され、半導体発光素子(20)は、いわゆる縦型の半導体発光素子として構成されている。
基板(21)は、導電性基板か、絶縁性の基板の一部に導電性材料を貫通したものを用いることができる。導電性基板を用いる場合は、SiC基板のほかに、GaN基板、ZnO基板等が挙げられる。特に、電気抵抗を低く抑え導電性を高くできるので、SiC基板とGaN基板が好ましい。
【0034】
Mn4+付活フッ素錯体蛍光体を含有する発光装置に用いる半導体発光素子として、縦型素子構造が好ましい理由は明らかではないが、耐久試験後の電極面を顕微鏡観察すると横型素子構造と比較して、縦型素子構造のLEDチップは電極面の変色が少ないことが観測されている。
半導体発光装置に通電していると、Mn4+付活フッ素錯体蛍光体から腐食性の物質(フッ素を含むもの)が発生し、ワイヤーにダメージを与え、ダメージのあったワイヤーは、抵抗が大きくなるものと考えられる。縦型素子構造を有する半導体発光素子は、横型素子構造と比較して、上側にある電極が1個なので、ワイヤーや電極へのダメージが小さく、電気伝導度の変化が少ないので好ましいと推測される。
【0035】
さらに、通電時にMn4+付活フッ素錯体蛍光体から発生する腐食性の物質には、イオン伝導性のものが含まれていると考えられる。横型素子構造を有するものでは、2つの電極間の距離が短いので電極間に漏れ電流が流れてしまう可能性が高くなるが、縦型素子構造を有する半導体発光素子では、2つの電極間の距離が長いのでその可能性が小さいと考えられる。
【0036】
[2.Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体]
本発明の半導体発光装置は、前記半導体発光素子が発する光により、直接的又は間接的に励起されて発光する蛍光体を備えるものである。本発明の半導体発光装置は、該蛍光体として、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を必須とする。
Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体は、化学的安定性が劣る傾向にあるので、従来公知の半導体発光素子の構成においては、長時間使用した場合に色ズレなどの諸問題を生じることがあった。これに対し、本発明の半導体発光装置は、このようなMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体であっても、半導体発光素子と共に半導体発光装置を構成する蛍光体として好適に用いることができるものである。
【0037】
本発明の半導体発光装置は、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体の中でも、以下の特性を有するような蛍光体に好適に用いることができる。
[2−1.加熱発生フッ素量]
フッ素錯体蛍光体は、200℃における蛍光体1g当たりの加熱発生フッ素量(以下、「加熱発生F量」と称する場合がある。)が0.01μg/分以上、中でも0.1μg/分以上、さらには1μg/分以上となる場合がある。なお、蛍光体1gあたりの加熱発生F量としては、環境基準から好ましくは2μg/分以下である。また、蛍光体周辺へのダメージを小さくするために、1.5μg/分以下の蛍光体の方が、好適に用いることができる。
【0038】
上記加熱発生F量は、下記の方法で測定することができる。
一定量の蛍光体を精秤後、白金ボートに入れ、横型電気炉のアルミナ製炉心管中にセットする。次いで、流量400ml/分でアルゴンガスを流通させながら、炉内温度を昇温させて蛍光体の温度が200℃になったところで2時間保持する。ここで、炉内を流通していたアルゴンガス全量をKOH水溶液(濃度67mM)に吸収させ、吸収液を液体クロマトグラフィー法により分析し、蛍光体1g当たりの毎分の加熱発生F量を求める。
【0039】
[2−2. 水に対する溶解度]
さらに、フッ素錯体蛍光体は、室温20℃における100gの水に対する溶解度が、通常0.005g以上、好ましくは0.010g以上、より好ましくは0.015g以上であり、また、通常7g以下、好ましくは2g以下のものである。
尚、参考として下記表にヘキサフルオロ錯体の溶解度を示す。また、当該表に記載の値は、森田化学社製の試薬に添付されていた製品安全データシート(MSDS)に基づく。
【0040】
【表1】

【0041】
[2−3.発光スペクトル]
本発明に用いられるフッ素錯体蛍光体は、ピーク波長455nmの光で励起して発光スペクトルを測定した場合に、以下の特徴を有することが好ましい。
上述の発光スペクトルにおけるピーク波長λp(nm)が、通常600nmより大きく、中でも605nm以上、さらには610nm以上、また、通常660nm以下、中でも650nm以下の範囲であることが好ましい。この発光ピーク波長λpが短過ぎると黄味を帯びる傾向がある一方で、長過ぎると暗赤味を帯びる傾向があり、何れも橙色ないし赤色光としての特性が低下する場合がある。
【0042】
また、本発明の蛍光体は、上述の発光スペクトルにおける発光ピークの半値幅(Full width at half maximum。以下適宜「FWHM」と略称する。
)が、通常1nmより大きく、中でも2nm以上、更には3nm以上、また、通常50nm未満、中でも30nm以下、更には10nm以下、また更には8nm以下であり、この中でも7nm以下の範囲であることが好ましい。この半値幅(FWHM)が狭過ぎると発光ピーク強度が低下する場合があり、広過ぎると色純度が低下する場合がある。
【0043】
なお、上記の蛍光体をピーク波長455nmの光で励起するには、例えば、キセノン光源を用いることができる。また、本発明の蛍光体の発光スペクトルの測定は、例えば、励起光源として150Wキセノンランプを、スペクトル測定装置としてマルチチャンネルCCD検出器C7041(浜松フォトニクス社製)を備える蛍光測定装置(日本分光社製)等を用いて行うことができる。発光ピーク波長、及び発光ピークの半値幅は、得られる発光スペクトルから算出することができる。
【0044】
[2−4.量子効率・吸収効率]
本発明に用いられるフッ素錯体蛍光体は、その内部量子効率が高いほど好ましい。その値は、通常50%以上、好ましくは75%以上、更に好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上である。内部量子効率が低いと発光効率が低下する傾向にある。
本発明に用いられるフッ素錯体蛍光体は、その外部量子効率が高いほど好ましい。その値は、通常20%以上、好ましくは25%以上、更に好ましくは30%以上、特に好ましくは35%以上である。外部量子効率が低いと発光効率が低下する傾向にある。
【0045】
本発明に用いられるフッ素錯体蛍光体は、その吸収効率も高いほど好ましい。その値は通常25%以上、好ましくは30%以上、更に好ましくは42%以上、特に好ましくは50%以上である。吸収効率が低いと発光効率が低下する傾向にある。
なお、上記外部量子効率は、上記の内部量子効率と上記吸収効率との積として求めることができる。
【0046】
[2−5.フッ素錯体蛍光体粒子の粒径、及び形状]
<重量メジアン径D50
本発明に用いられる蛍光体の粒径には特に制限はないが、蛍光体の粒径が大きいほど、比表面積が小さく、水分との反応が少なくなる傾向にあるため、好ましい。本発明に用いられるフッ素錯体蛍光体の重量メジアン径D50は、通常3μm以上、中でも10μm以上、また、通常50μm以下、中でも30μm以下であることが好ましい。重量メジアン径D50が小さすぎると、輝度が低下する場合や、蛍光体粒子が凝集してしまう場合がある。一方、重量メジアン径D50が大きすぎると、塗布ムラやディスペンサー等の閉塞が生じる傾向がある。
【0047】
なお、本発明における蛍光体の重量メジアン径D50は、例えばレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置等の装置を用いて測定することができる。
<比表面積>
本発明に用いられるフッ素錯体蛍光体の比表面積は、1.3m/g以下であることが好ましく、より好ましくは1.1m/g以下、特に好ましくは1.0m/g以下であり、また、通常0.05m/g以上、中でも0.1m/g以上であることが好ましい。蛍光体の比表面積が小さすぎると蛍光体粒子が大きいことから、塗布ムラやディスペンサー等の閉塞を生じる傾向にあり、大きすぎると蛍光体粒子が小さいことから外部との接触面積が大きくなり、耐久性に劣るものとなる。
【0048】
なお、本発明において蛍光体の比表面積は、BET1点法により、例えば、大倉理研社製全自動比表面積測定装置(流動法)(AMS1000A)を用いて測定される。
<粒度分布>
本発明に用いられるフッ素錯体蛍光体は、その粒度分布において、ピーク値が一つであ
ることが好ましい。
【0049】
ピーク値が2以上あることは、単粒子によるピーク値と、その凝集体によるピーク値とがあることを示す。そのため、ピーク値が2以上あることは、単粒子が非常に小さいことを意味する。
従って、その粒度分布のピーク値が一つである蛍光体は、単粒子が大きく、凝集体が非常に少ないものである。これにより、輝度が向上するという効果や、また、単粒子が大きく成長できたことに起因して比表面積が小さくなり、耐久性が向上するという効果を有する。
【0050】
なお、本発明においては、蛍光体の粒度分布は、例えば、堀場製作所社製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(LA−300)により測定することができる。測定にあたっては、分散溶媒としてエタノールを用い、蛍光体を分散させてから、光軸上の初期透過率を90%前後に調整し、マグネット回転子で分散溶媒を攪拌しながら凝集による影響を最小限に抑えて測定することが好ましい。
【0051】
また、上記粒度分布のピークの幅は、狭い方が好ましい。具体的には、蛍光体粒子の粒度分布の四分偏差(QD)が、通常0.18以上、好ましくは0.20以上であり、また通常0.60以下であり、好ましくは0.40以下、より好ましくは0.35以下、さらに好ましくは0.30以下、特に好ましくは0.25である。
なお、粒度分布の四分偏差とは、蛍光体粒子の粒径が揃っているほど、小さくなる。即ち、粒径分布の四分偏差が小さいということは、粒度分布のピークの幅が狭く、蛍光体粒子の大きさが揃っていることを意味する。
【0052】
また、粒度分布の四分偏差は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した粒度分布曲線を用いて算出することができる。
<粒子形状>
走査型顕微鏡(以下、「SEM」と称する場合がある。)写真の観察から認められる本発明に用いられるフッ素錯体蛍光体の粒子形状は、3軸方向に均等に成長した粒状であることが好ましい。粒子形状が3軸方向に均等に成長すると比表面積が小さくなり、外部との接触面積が小さいので耐久性に優れる。
【0053】
なお、このSEM写真は例えば日立製作所社製SEM(S−3400N)により撮影することができる。
[2−6.発光ピーク強度の温度依存性]
本発明で用いられるフッ素錯体蛍光体は、発光ピーク強度の変化率が小さいことが好ましい。具体的には、励起光の波長が455nmの場合の、蛍光体の温度が25℃のときの発光ピーク強度に対する100℃における発光ピーク強度の変化率が、通常40%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは22%以下、特に好ましくは18%以下、最も好ましくは15%以下のものを用いる。
【0054】
半導体発光素子から発せられた光は、蛍光体及び蛍光体を保持している封止材料に吸収される。これによって封止材料が発熱し、蛍光体を加熱する。また、半導体発光素子から発せられた光が蛍光体に吸収されることによって蛍光体自身も発熱する。更には、半導体発光素子が通電され発光する際には、半導体発光素子内部の電気抵抗により発光素子が発熱し、その温度が上昇することにより、伝熱により蛍光体が加熱される。これらの加熱作用により蛍光体の温度は100℃程度に到達する。蛍光体の発光ピーク強度は温度に依存し、蛍光体が高温になるほど発光ピーク強度は低下する傾向にある。
【0055】
一方、本発明の半導体発光装置は、通常の場合、赤色領域に発光ピークを有するフッ素
錯体蛍光体と共に、他種の蛍光体(例えば、後述する緑色蛍光体や青色蛍光体)を組み合わせて所望の発光色を有する発光装置とすることができる。
よって、半導体発光素子から光が発せられ続けた状態においても全体としての色調が変わらないようにするためには、温度上昇によって各色蛍光体の発光ピーク強度が変化したとしても、そのバランスが大きく崩れないようにすることが重要である。
【0056】
フッ素錯体蛍光体と共に用いる他種の蛍光体も、励起光の波長が400nm又は455nmの場合において、25℃での発光ピーク強度に対する100℃での発光ピーク強度の変化率が上記範囲であるように組成等を調製することが好ましい。これにより、各色蛍光体の温度上昇によって各色蛍光体の発光ピーク強度が変化しても、その変化が各色蛍光体間で比較的小さくなるので、本発明の半導体発光装置から発せられる光の色調は全体として変化が小さくなる。
【0057】
ここで、蛍光体の温度依存性は、具体的には、例えば以下のように測定することができる。
[温度依存性の測定例]
温度依存性の測定は、発光スペクトル測定装置として、例えば大塚電子社製MCPD7000マルチチャンネルスペクトル測定装置、輝度測定装置として、例えば色彩輝度計BM5A、ペルチェ素子による冷却機構とヒーターによる加熱機構を備えたステージ及び光源として150Wキセノンランプを備える装置を用いて、下記手順で行なう。
【0058】
ステージに蛍光体のサンプルを入れたセルを載せ、温度を25℃、及び100℃と変化させ、蛍光体の表面温度を確認し、次いで、光源から回折格子で分光して取り出した波長400nm又は455nmの光で蛍光体を励起して、輝度値及び発光スペクトルを測定する。測定された発光スペクトルから、発光ピーク強度を求める。ここで、蛍光体の励起光照射側の表面温度の測定値としては、放射温度計と熱電対による温度測定値を利用して補正した値を用いる。
【0059】
[2−7.Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体の組成]
本発明の半導体発光装置に用いられるMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体としては、好ましくは、アルカリ金属元素、NH、アルカリ土類金属元素、及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素又は基と、周期律表第3族、第4族、第13族、及び第14族からなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素と、ハロゲン元素から選ばれる少なくとも1種類の元素とを含有する蛍光体が挙げられる。
【0060】
Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体としては、下記の式[1]〜[8]で示される蛍光体であることが好ましい。
[MIV1−x] ・・・[1]
[MIII1−x] ・・・[2]
II[MIV1−x] ・・・[3]
[MIV1−x] ・・・[4]
[MIII1−x] ・・・[5]
Zn[MIII1−x] ・・・[6]
[MIII2−2x2x] ・・・[7]
Ba0.65Zr0.352.70:Mn4+ ・・・[8]
(但し、前記式[1]〜[8]において、MはLi、Na、K、Rb、Cs、及びNHからなる群より選ばれる1種以上の1価の基を表わし、MIIはアルカリ土類金属元素を表し、MIIIは周期律表(以下、周期律表の記載は省略する場合がある。)第3族及び第13族からなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表し、MIVは第4族及び第14族からなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表し、Rは、少なくともMnを含有す
る付活元素を表す。xは、0<x<1で表される範囲の数値である。)
としては、K及びNaからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有することが特に好ましい。
【0061】
IIとしては、少なくともBaを含有することが好ましく、特に好ましくはBaである。
IIIの好ましい具体例としては、Al、Ga、In、Y、及びScからなる群より選ばれる1種以上の金属元素が挙げられ、このうち、Al、Ga、及びInからなる群より選ばれる1種以上の金属元素が好ましく、さらには、少なくともAlを含有することがより好ましく、特にはAlが好ましい。
【0062】
IVの好ましい具体例としては、Si、Ge、Sn、Ti、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属元素が挙げられ、中でもSi、Ge、Ti、Zrが好ましく、このうち、少なくともSiを含有することが好ましく、特にはSiが好ましい。
xとしては、好ましくは0.004以上、より好ましくは0.010以上、特に好ましくは0.020以上であり、また、好ましくは0.30以下、より好ましくは0.25以下、更に好ましくは0.08以下、特に好ましくは0.06以下である。
【0063】
上記式[1]〜[8]で表される化合物の好ましい具体例としては、K[AlF]:Mn4+、K[AlF]:Mn4+、K[GaF]:Mn4+、Zn[AlF]:Mn4+、K[In]:Mn4+、K[SiF]:Mn4+、Na[SiF]:Mn4+、K[TiF]:Mn4+、K[ZrF]:Mn4+、Ba[TiF]:Mn4+、K[SnF]:Mn4+、Na[TiF]:Mn4+、Na[ZrF]:Mn4+、KRb[TiF]:Mn4+、K[Si0.5Ge0.5]:Mn4+を挙げることができる。
【0064】
上記式[1]〜[8]で表される蛍光体の中でも、式[1]で表される化学組成を有する結晶相を含有することが特に好ましい。式[1]で表される化学組成を有する結晶相を含有する蛍光体は、結晶欠陥を生じにくく、安定性に優れるからである。また、Mn4+錯イオン[MnF2−を含むKMnFと、母体のKTiF、KSiF、KGeF、KZrFとは類似した結晶構造をとっており、これらの母体には[MnF2−錯イオンの状態で置換されやすいからである。
【0065】
上記式[1]で表される化合物の中でも、下記式[1’]で表される化学組成を有する結晶相を含有し、MIV’とMnとの合計モル数に対するMnの割合が0.1モル%以上40モル%以下であり、かつ、比表面積が1.3m/g以下であるものを用いると、得られる半導体発光装置の輝度の点で好ましい。
IV’F:R ・・・[1’]
(但し、前記式[1’]中、M’は、K、及びNaからなる群から選ばれる1種以上の元素を含有し、MIV’は、少なくともSiを含有する周期律表第4族及び第14族からなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表し、Rは、少なくともMnを含有する付活元素を表す。)
前記式[1’]において、M’は、K及びNaからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有する。これらの元素のうち何れか一方を単独で含有していてもよく、二種を任意の比率で併有していてもよい。また、上記のほかにその性能に影響を与えない限りにおいて、Li、Rb、Cs等のアルカリ金属元素や、(NH)を一部含有していても良い。Li、Rb、Cs、又は(NH)の含有量としては通常全M’量に対して10モル%以下である。
【0066】
このうちM’としては、少なくともKを含有しているのが好ましく、通常、全M
量に対してKが90モル%以上、好ましくは97モル%以上、より好ましくは98モル%以上、さらに好ましくは99モル%以上を占める場合であり、Kのみを用いることが特に好ましい。
上記式[1’]において、MIV’は、少なくともSiを含有する。通常、全MIV’量に対してSiが90モル%以上、好ましくは97モル%以上、より好ましくは98モル%以上、さらに好ましくは99モル%以上を占める場合であり、Siのみを用いることが特に好ましい。即ち、下記式[1’’]で表される化学組成を有する結晶相を含有することが特に好ましい。
【0067】
SiF:R …[1’’]
(前記式[1’’]中、M’、及びRは、上記式[1’]と同義である。)
Rは、少なくともMnを含有する付活元素であり、RとしてMn以外に含まれていても良い付活元素としては、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、及びAgよりなる群から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0068】
Rは、Mnを通常全R量に対して90モル%以上含むことが好ましく、より好ましくは95モル%以上、特に98モル%以上含むことが好ましく、Mnのみを含むことが特に好ましい。
上記[1’]で表される蛍光体は、MIV’とMnとの合計モル数に対するMnの割合(本発明において、この割合を以下「Mn濃度」と称す。)が0.1モル%以上40モル%以下であることが好ましい。このMn濃度が少な過ぎると、蛍光体による励起光の吸収効率が小さくなるので、輝度が低下する傾向にあり、多過ぎると、吸収効率は大きくなるものの、濃度消光により内部量子効率及び輝度が低下する傾向にある。より好ましいMn濃度は、0.4モル以上、更に好ましくは1モル%以上、特に好ましくは2モル%以上、また、30モル%以下、さらに好ましくは25モル%以下、またさらに好ましくは8モル%以下、特に好ましくは6モル%以下である。
【0069】
また、上記蛍光体は、好ましくは、後述の蛍光体の製造方法に記載される方法により製造されるが、当該蛍光体の製造方法において、以下の理由により、蛍光体原料の仕込み組成と得られる蛍光体の組成とに若干のずれが生じる。上記蛍光体は、蛍光体製造時の原料の仕込み組成ではなく、得られる蛍光体の組成として、上記の特定の組成を有することを特徴とする。
【0070】
ここで、Mn4+のイオン半径(0.53Å)はSi4+のイオン半径(0.4Å)に比べて大きく、Mn4+は、KSiFに全固溶せず、部分固溶するので、本発明の蛍光体においては仕込み組成に比べて、実質的に付活されるMn4+濃度は制限され、少なくなる。ただし、蛍光体中に含有されるMn4+の濃度が低い場合でも、後述する製造方法によれば、粒子成長が促進されるので十分な吸収効率及び輝度を提供することができる。
【0071】
なお、蛍光体中に含まれるMn濃度の化学組成分析は、例えば、SEM−EDXにより測定することができる。この方法は、走査型電子顕微鏡(SEM)測定において、蛍光体に電子線(例えば、加速電圧20kV)を照射し、蛍光体中に含まれる各元素から放出される特性X線を検出して元素分析を行うものである。測定装置としては、例えば、日立製作所社製SEM(S−3400N)と、堀場製作所社製エネルギー分散X線分析装置(EDX)(EX−250x−act)とを用いて行うことができる。
【0072】
また、上記蛍光体には、上述の蛍光体を構成する元素以外にAl、Ga、B、In、Nb、Mo、Zn、Ta、W、Re及びMgよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素が、上記蛍光体の性能に悪影響を与えない範囲で含有されていてもよい。
[2−8.Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体の製造方法]
本発明に用いられるフッ素錯体蛍光体は、各構成元素を含有する原料を混合し、公知の方法に準じて製造することができる。具体的には、各試薬をフッ化水素酸に溶解させてから、溶液を加熱して蛍光体を蒸発乾固させて得る方法(J. Electrochem. Soc. Vol. 120,
No.7, (1973), 942-947, US 2006169998A1)や、各試薬をフッ化水素酸に溶解させてか
ら、貧溶媒を添加することにより、蛍光体を析出させる貧溶媒析出法(米国特許第357
6756号参照)などを用いることができる。
【0073】
また、上記式[1’]で表される蛍光体の場合には、上記のような貧溶媒析出法より、下記のような貧溶媒を用いない方法により製造されるものが好ましい。以下に、MIV’がSiの場合を代表例として、貧溶媒を用いない方法について説明する。
貧溶媒を用いない方法とは、「K、Na、Si、Mn、及びFからなる群から選ばれる1種以上の元素を含む溶液の2種以上を混合した後、混合により析出した析出物(蛍光体)を得る方法」が挙げられ、本方法では、混合する溶液に、目的とする蛍光体を構成する元素の全ての元素が含まれていることが好ましい。混合する溶液の組み合わせとしては、具体的には以下の2−1)と以下の2−2)が挙げられる。
【0074】
2−1) 少なくともSiとFとを含有する溶液と、少なくともK(及び/又はNa)とMnとFとを含有する溶液とを混合する方法。
2−2) 少なくともSiとMnとFとを含有する溶液と、少なくともK(及び/又はNa)とFとを含有する溶液とを混合する方法。
上記「少なくともSiとFとを含有する溶液」としては、SiF源を含有するフッ化水素酸(以下、「HF水溶液」と称する。)が挙げられ、上記「少なくともK(及び/又はNa)とMnとFとを含有する溶液」としてはK(及び/又はNa)源とMn源とを含むHF水溶液が挙げられる。
【0075】
また、上記「少なくともSiとMnとFとを含有する溶液」としては、SiF源とMn源とを含むHF水溶液が挙げられ、上記「少なくともK(及び/又はNa)とFとを含有する溶液」としては、K(及び/又はNa)源を含むHF水溶液が挙げられる。
ここで、SiF源としては、SiとFとを含む化合物であって、溶液への溶解性に優れるものであればよく、HSiF、NaSiF、(NHSiF、RbSiF、CsSiFを用いることができ、これらのうち、水への溶解度が高く、不純物としてアルカリ金属元素を含まないことにより、HSiFが好ましい。これらのSiF源は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
K源としては、KF、KHF、KOH、KCl、KBr、KI、酢酸カリウム、KCO等の水溶性カリウム塩を用いることができるが、中でも溶液中のHF濃度を下げることなく溶解することができ、また、溶解熱が小さいために安全性が高いことによりKHFが好ましい。
Mn源としては、KMnF、KMnO、KMnCl等を用いることができ、中でも、結晶格子を歪ませて不安定化させる傾向にあるCl元素を含まないこと等から、付活することのできる酸化数(4価)を維持しながら、MnF錯イオンとしてHF酸水溶液中に安定して存在することができることによりKMnFが好ましい。なお、Mn源のうち、Kを含むものは、K源を兼ねるものとなる。
【0077】
これらHF水溶液のHF濃度は、通常10重量%以上、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上、また、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、より好ましくは50重量%以下であることが好ましい。
SiF源濃度は、通常10重量%以上、好ましくは20重量%以上、また、通常60重量%以下、好ましくは40重量%以下であることが好ましい。
【0078】
K源及びMn源濃度は、合計で通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、また、通常45重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは35重量%以下であることが好ましい。
反応後、目的とする蛍光体の結晶が析出するため、この結晶を濾過等により固液分離して回収し、エタノール、水、アセトン等の溶媒で洗浄した後、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上、また、通常300℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下で乾燥することが好ましい。乾燥する時間としては、蛍光体に付着した水分を蒸発することができれば、特に制限はないが、例えば、1〜2時間程度乾燥する。
【0079】
上記の貧溶媒を用いない方法によって上記式[1’]で表される蛍光体を製造すると、その比表面積が、小さくなる傾向にあり、好ましい。また、上記の貧溶媒を用いない方法によって製造された上記式[1’]で表される蛍光体は、さらに、粒度分布のピーク値が一つとなる傾向もあり、その粒度分布のピークの幅が狭くなる傾向もある。この場合の比表面積、粒度分布等の具体的な数値範囲は、[2−5.フッ素錯体蛍光体粒子の粒径、及び形状]に記載したのと同様である。
【0080】
[2−9.蛍光体の表面処理]
本発明に使用される蛍光体は、蛍光体粒子の不要な凝集を防ぐ目的で、公知の手法を適用し、表面処理が行われていてもよい。ただし、かかる表面処理によって蛍光体を劣化させることがないように留意する必要がある。
[3.フッ素錯体蛍光体と共に用いることのできる蛍光体]
本発明の半導体発光装置には、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を単独で使用してもよく、2種以上のフッ素錯体蛍光体を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、本発明の効果を著しく損なわない限り、フッ素錯体蛍光体に、他種の蛍光体を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。即ち、用いる蛍光体の組み合わせ及びその比率等は、半導体発光装置の用途等に応じて任意に設定すればよい。
【0081】
具体的には、所望の発光色が得られるように、半導体発光素子と、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体と、当該フッ素錯体蛍光体とは異なる発光ピーク波長を有する蛍光体とを適切に組み合わせることが好ましい。
例えば、本発明の半導体発光装置を赤色発光としたい場合には、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を少なくとも1種以上使用すればよい。
【0082】
また、例えば、本発明の半導体発光装置を白色発光としたい場合には、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体が通常赤色発光であるので、近紫外発光の半導体発光素子を用いる場合には、青色蛍光体、及び緑色蛍光体を組み合わせればよく、青色発光の半導体発光素子を用いる場合には、緑色蛍光体を組み合わせればよい。
なお、後述するように、必要に応じて、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体以外の橙色ないし赤色蛍光体(同色併用蛍光体)を併用してもよい。
【0083】
本発明の半導体発光装置において、用いることのできる蛍光体を以下に例示する。
<青色蛍光体>
Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体に加えて青色蛍光体を使用する場合、当該青色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、青色蛍光体の発光ピーク波長は、通常420nm以上、好ましくは430nm以上、より好ましくは440nm以上、また、通常490nm以下、好ましくは480nm以下、より好ましくは470nm以下、更に好ましくは460nm以下の波長範囲にあることが好適である。使用する青色蛍光体の発光ピーク波長がこの範囲にあると、Mn4+で付
活されたフッ素錯体蛍光体の励起帯と重なり、当該青色蛍光体からの青色光により、本発明の蛍光体を効率良く励起することができるからである。
【0084】
このような青色蛍光体として使用できる蛍光体を下表に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
以上の中でも、青色蛍光体としては、(Ca,Sr,Ba)MgAl1017:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO(Cl,F):Eu、(Ba,Ca,Mg,Sr)SiO:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO(Cl,F):Eu、(Ba,Ca,Sr)MgSi:Euが好ましく、(Ba,Sr)MgAl1017:Eu、(Ca,Sr,Ba)10(PO(Cl,F):Eu、BaMgSi:Euがより好ましく、Sr10(POCl:Eu、BaMgAl1017:Euが特に好ましい。
【0087】
<緑色蛍光体>
Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体に加えて緑色蛍光体を使用する場合、当該緑色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、緑色蛍光体の発光ピーク波長は、通常500nmより大きく、中でも510nm以上、更には515nm以上、また、通常550nm以下、中でも542nm以下、更には535nm以下の範囲であることが好ましい。この発光ピーク波長が短過ぎると青味を帯びる傾向がある一方で、長過ぎると黄味を帯びる傾向があり、何れも緑色光としての特性が低下する場合がある。
【0088】
このような緑色蛍光体として利用できる蛍光体を下表に示す。
【0089】
【表3】

【0090】
以上の中でも、緑色蛍光体としては、Y(Al,Ga)12:Ce、CaSc:Ce、Ca(Sc,Mg)Si12:Ce、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Si,Al)(O,N):Eu(β−sialon)、(Ba,Sr)Si12:N:Eu、SrGa:Eu、BaMgAl1017:Eu,Mnが好ましい。
【0091】
得られる発光装置を照明装置に用いる場合には、Y(Al,Ga)12:Ce、CaSc:CeCa(Sc,Mg)Si12:Ce、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Si,Al)(O,N):Eu(β−sialon)、(Ba,Sr)Si12:N:Euが好ましい。
また、得られる発光装置を画像表示装置に用いる場合には、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Si,Al)(O,N):Eu(β−sialon)、(Ba,Sr)Si12:N:Eu、SrGa:Eu、BaMgAl1017:Eu,Mnが好ましい。
【0092】
<黄色蛍光体>
Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体に加えて黄色蛍光体を使用する場合、当該黄色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、黄色蛍光体の発光ピーク波長は、通常530nm以上、好ましくは540nm以上、より好ましくは550nm以上、また、通常620nm以下、好ましくは600nm以下、より好ましくは580nm以下の波長範囲にあることが好適である。
【0093】
このような黄色蛍光体として利用できる蛍光体を下表に示す。
【0094】
【表4】

【0095】
以上の中でも、黄色蛍光体としては、YAl12:Ce、(Y,Gd)Al12:Ce、(Sr,Ca,Ba,Mg)SiO:Eu、(Ca,Sr)Si:Euが好ましい。
<橙色ないし赤色蛍光体>
必要に応じて、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体以外の橙色ないし赤色蛍光体(同色併用蛍光体)を併用してもよい。Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体と併用し得る橙色ないし赤色蛍光体としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。
【0096】
この際、同色併用蛍光体である橙色ないし赤色蛍光体の発光ピーク波長は、通常570nm以上、好ましくは580nm以上、より好ましくは585nm以上、また、通常780nm以下、好ましくは700nm以下、より好ましくは680nm以下の波長範囲にあることが好適である。
このような橙色ないし赤色蛍光体として使用できる蛍光体を下表に示す。
【0097】
【表5】

【0098】
以上の中でも、赤色蛍光体としては、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Eu、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Ca,Sr)S:Eu、(La,Y)S:Eu、Eu(ジベンゾイルメタン)・1,10−フェナントロリン錯体等のβ−ジケトン系Eu錯体、カルボン酸系Eu錯体、KSiF:Mnが好ましく、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Sr,Ca)AlSi(N,O):Eu、(La,Y)S:Eu、KSiF:Mnがより好ましい。
【0099】
また、橙色蛍光体としては、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)
AlSi(N,O):Ceが好ましい。
具体的に、本発明の半導体発光装置を白色発光の発光装置として構成する場合における、半導体発光素子と、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体と、他の蛍光体との好ましい組み合わせの例としては、以下の(A)〜(C)の組み合わせが挙げられる。
【0100】
(A)半導体発光素子として青色発光体(青色LED等)を使用し、赤色蛍光体としてMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を使用し、他の蛍光体として緑色蛍光体または黄色蛍光体を使用する。緑色蛍光体としては、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu系蛍光体、(Ca,Sr)Sc:Ce系蛍光体、Ca(Sc,Mg)Si12:Ce系蛍光体、SrGa:Eu系蛍光体、Eu付活β−サイアロン系蛍光体、(Mg,Ca,Sr,Ba)Si:Eu系蛍光体、及びMSi12:Eu(但し、Mはアルカリ土類金属元素を表わす。)からなる群より選ばれる一種又は二種以上の緑色蛍光体が好ましい。黄色蛍光体としてはYAl12:Ce系蛍光体、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu系蛍光体、及びα−サイアロン系蛍光体からなる群より選ばれる一種又は二種以上の黄色蛍光体が好ましい。なお、緑色蛍光体と黄色蛍光体を併用してもよい。
【0101】
(B)半導体発光素子として近紫外発光体(近紫外LED等)を使用し、赤色蛍光体としてMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を使用し、他の蛍光体として青色蛍光体及び緑色蛍光体を使用する。この場合、青色蛍光体としては、(Ba,Sr,Ca)MgAl1017:Eu、(Sr,Ba)MgSi:Eu、及び(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO(Cl,F):Euからなる群より選ばれる一種又は二種以上の青色蛍光体が好ましい。また、緑色蛍光体としては、前述の(A)の項で例示した緑色蛍光体に加え、(Ba,Sr)MgAl1017:Eu,Mn、(Ba,Sr,Ca)Al1425:Eu、及び(Ba,Sr,Ca)Al:Euからなる群より選ばれる一種又は二種以上の緑色蛍光体が好ましい。
【0102】
(C)半導体発光素子として青色発光体(青色LED等)を使用し、赤色蛍光体としてMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を使用し、さらに橙色蛍光体を使用する。この場合、橙色蛍光体としては(Sr,Ba)SiO:Euが好ましい。
なお、Mn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体としては、前述したように、好ましくは前記式[1]で表される蛍光体を、より好ましくは前記式[1’]で表される蛍光体を、さらに好ましくは前記式[1’’]で表される蛍光体を組み合わせる。
【0103】
また、上述した蛍光体の組み合わせについて、以下により具体的に説明する。
半導体発光素子として青色LED等の青色発光のものを使用し、画像表示装置のバックライトに用いるときは、下表に示す組み合わせとすることが好ましい。
【0104】
【表6】

【0105】
また、表6に示した組み合わせの中でもより好ましい組み合わせを表7に示す。
【0106】
【表7】

【0107】
さらに、特に好ましい組み合わせを表8に示す。
【0108】
【表8】

【0109】
表6〜8に示す各色蛍光体は、青色領域の光で励起され、それぞれ赤色領域、および緑色領域の中でも狭帯域で発光し、かつ温度変化による発光ピーク強度の変化が少ないという優れた温度特性を有している。
よって、青色領域の光を発する半導体発光素子にこれら各色蛍光体を含む2種以上の蛍光体を組み合わせることで、発光効率を従来よりも高く設定しうる、本発明のカラー画像表示装置用のバックライトに用いる光源に適した半導体発光装置とすることができる。
【0110】
また、近紫外ないし紫外領域の光を発する固体発光素子と蛍光体とを組み合わせて用いる場合は、上記表6〜8に記載の蛍光体の組み合わせにさらに(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO(Cl,F):Eu、及び(Sr,Ba)MgSi:Eu、(Ba,Sr,Ca)MgAl1017:Euからなる群から選ばれる1種以上の青色蛍光体を組み合わせることが好ましく、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO(Cl,F):Eu、又は(Ba,Sr,Ca)MgAl1017:Euを組み合わせることがより好ましい。この際、緑色蛍光体としては、BaMgAl1017:Eu,Mnを組み合わせることが好ましい。
【0111】
[4.封止材料]
[4−1.硬化性材料]
半導体発光素子は、封止材料によって封止されることが好ましい。半導体発光素子を封止材料で封止する場合、蛍光体はこの封止材料に含有されていてもよく、この封止材料がバインダを兼ねていてもよい。
【0112】
封止材の種類は特に限定されず、通常、半導体発光素子を覆ってモールディングすることのできる硬化性材料を用いることができる。硬化性材料とは、流体状の材料であって、何らかの硬化処理を施すことにより硬化する材料のことをいう。ここで、流体状とは、例えば液状又はゲル状のことをいう。硬化性材料は、半導体発光素子から発せられた光を蛍光体へ導く役割を担保するものであれば、具体的な種類に制限は無い。また、硬化性材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。したがって、硬化性材料としては、無機系材料及び有機系材料並びに両者の混合物のいずれを用いることも可能である。
【0113】
無機系材料としては、例えば、金属アルコキシド、セラミック前駆体ポリマー若しくは金属アルコキシドを含有する溶液をゾル−ゲル法により加水分解重合して成る溶液、またはこれらの組み合わせを固化した無機系材料(例えばシロキサン結合を有する無機系材料
)等を挙げることができる。
一方、有機系材料としては、例えば、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等が挙げられる。具体例を挙げると、ポリ(メタ)アクリル酸メチル等の(メタ)アクリル樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエステル樹脂;フェノキシ樹脂;ブチラール樹脂;ポリビニルアルコール;エチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート等のセルロース系樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂;シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0114】
本発明の半導体発光装置は、フッ素錯体蛍光体を有するので、これら硬化性材料の中では、半導体発光素子からの発光に対して劣化が少なく、耐アルカリ性、耐酸性、耐熱性にも優れる珪素含有化合物を使用することが好ましい。珪素含有化合物とは分子中に珪素原子を有する化合物をいい、ポリオルガノシロキサン等の有機材料(シリコーン系化合物)、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素等の無機材料、及びホウケイ酸塩、ホスホケイ酸塩、アルカリケイ酸塩等のガラス材料を挙げることができる。中でも、透明性、接着性、ハンドリングの容易さ、機械的、熱適応力の緩和特性に優れる等の点から、シリコーン系材料が好ましい。
【0115】
シリコーン系材料とは、通常、シロキサン結合を主鎖とする有機重合体をいい、例えば、縮合型、付加型、改良ゾルゲル型、光硬化型等のシリコーン系材料を用いることができる。
縮合型シリコーン系材料としては、例えば、特開2007−112973〜112975号公報、特開2007−19459号公報、特開2008−34833号公報等に記載の半導体発光デバイス用部材を用いることができる。縮合型シリコーン系材料は半導体発光デバイスに用いられるパッケージや電極、発光素子などの部材との接着性に優れるため、密着向上成分の添加を最低限とすることが出来、架橋はシロキサン結合主体のため耐熱性・耐光性に優れる利点がある。
【0116】
付加型シリコーン系材料としては、例えば、特開2004−186168号公報、特開2004−221308号公報、特開2005−327777号公報等に記載のポッティング用シリコーン材料、特開2003−183881号公報、特開2006−206919号公報等に記載のポッティング用有機変性シリコーン材料、特開2006−324596号公報に記載の射出成型用シリコーン材料、特開2007−231173号公報に記載のトランスファー成型用シリコーン材料等を好適に用いることができる。付加型シリコーン材料は、硬化速度や硬化物の硬度などの選択の自由度が高い、硬化時に脱離する成分が無く硬化収縮しにくい、深部硬化性に優れるなどの利点がある。
【0117】
また、縮合型の一つである改良ゾルゲル型シリコーン系材料としては、例えば、特開2006−077234号公報、特開2006−291018号公報、特開2007−119569号公報等に記載のシリコーン材料を好適に用いることができる。改良ゾルゲル型のシリコーン材料は高架橋度で耐熱性・耐光性高く耐久性に優れ、ガス透過性低く耐湿性の低い蛍光体の保護機能にも優れる利点がある。
【0118】
光硬化型シリコーン系材料としては、例えば特開2007−131812号公報、特開2007−214543号公報等に記載のシリコーン材料を好適に用いることが出来る。紫外硬化方シリコーン材料は、短時間に硬化するため生産性に優れる、硬化に高い温度をかける必要が無く発光素子の劣化が起こりにくいなどの利点がある。
これらのシリコーン系材料は単独で使用してもよいし、混合することにより硬化阻害が起きなければ複数のシリコーン系材料を混合して用いてもよい。
【0119】
以上、例示した材料の中でも、本発明の半導体発光装置における層(D)、層(E)、
及び層(F)に用いる材料としては、水蒸気透過率の低いものを用いることが好ましい。具体的には、厚さ0.4mmのときの40℃における水蒸気透過率が、通常10g/m・day以下、好ましくは9.5g/m・day以下、より好ましくは8.5g/m・day以下、特に好ましくは5.0g/m・day以下である。
【0120】
水蒸気透過率が低いと、半導体発光装置の耐久性が向上するという効果が得られる。
[5.半導体発光装置]
以下、本発明の発光装置について、具体的な実施の形態を挙げて、より詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
【0121】
本発明の発光装置の一例における、励起光源となる半導体発光素子(以下、「第1の発光体」と称する場合がある。)と、蛍光体を有する蛍光体含有部として構成された第2の発光体との位置関係を示す模式的斜視図を図3に示す。図3中の符号1は蛍光体含有部(第2の発光体)、符号2は励起光源(第1の発光体)としての面発光型GaN系LD、符号3は基板を表す。相互に接触した状態をつくるために、LD(2)と蛍光体含有部(第2の発光体)(1)とそれぞれ別個に作製し、それらの面同士を接着剤やその他の手段によって接触させてもよいし、LD(2)の発光面上に蛍光体含有部(第2の発光体)を製膜(成型)させてもよい。これらの結果、LD(2)と蛍光体含有部(第2の発光体)(1)とを接触した状態とすることができる。
【0122】
このような装置構成をとった場合には、励起光源(第1の発光体)からの光が蛍光体含有部(第2の発光体)の膜面で反射されて外にしみ出るという光量損失を避けることができるので、装置全体の発光効率を良くすることができる。
図4(a)は、一般的に砲弾型と言われる形態の発光装置の代表例であり、励起光源(第1の発光体)と蛍光体含有部(第2の発光体)とを有する半導体発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。該半導体発光装置(4)において、符号5はマウントリード、符号6はインナーリード、符号7は励起光源である半導体発光素子(第1の発光体)、符号8は蛍光体含有部、符号9は導電性ワイヤー、符号10はモールド部材をそれぞれ指す。
【0123】
また、図4(b)は、表面実装型と言われる形態の半導体発光装置の代表例であり、励起光源(第1の発光体)と蛍光体含有部(第2の発光体)とを有する発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。図中、符号7は励起光源(第1の発光体)、符号8は蛍光体含有部(第2の発光体)、符号15はフレーム、符号16は導電性ワイヤー、符号17及び符号18は電極をそれぞれ指す。
【0124】
[5−1.半導体発光装置の構造]
以下に、本発明の半導体発光装置の好ましい構造例について説明する。また、図6に本発明の概念図を示すが、代表例であって、これに限定されるものではない。
[第一の構造]
本発明の半導体発光装置の第一の構造は、半導体発光素子(A)と、該半導体発光素子(A)からの光の少なくとも一部を吸収し異なる波長を有する光を発する蛍光体(B)とを備える半導体発光装置において、該半導体発光素子(A)と、該蛍光体(B)を含む層(C)との間に、該蛍光体(B)を含まず、かつ、厚さ0.4mmのときの40℃における水蒸気透過率が10g/m・day以下の層(D)を有することを特徴とする図6(a)参照)。
【0125】
半導体発光素子(A)と層(C)との間に、蛍光体(B)を含まない層(D)を設けることにより、半導体発光素子(A)と蛍光体(B)を含む層(C)との間に距離を設ける
ことできる等の理由により、半導体発光装置の耐久性を向上させることができる。
層(D)の厚みは特に制限はないが、半導体発光装置のパッケージの厚みの、通常1/10倍以上、好ましくは1/4倍以上であり、また、通常1/2倍以下、好ましくは1/3以下である。
【0126】
なお、半導体発光装置のパッケージは、通常0.85mm程度である。
このような半導体発光装置は、例えば、以下のようにして製造することができる。パッケージ底部に半導体発光素子(A)を固定した後、半導体発光素子(A)の上に、層(D)を構成する組成物を注入し、必要に応じて硬化させる。次いで、層(C)を構成する組成物を注入し、必要に応じて硬化させる。注入方法は、通常使用されるディスペンサーなどの注入装置を使用することができる。
【0127】
[第二の構造]
本発明の半導体発光装置の第二の構造は、半導体発光素子(A)と、該半導体発光素子(A)からの光の少なくとも一部を吸収し異なる波長を有する光を発する蛍光体(B)とを備える半導体発光装置において、該半導体発光装置の表面の一部または全部が、厚さ0.4mmのときの40℃における水蒸気透過率が10g/m・day以下の層(E)で被覆されていることを特徴とする(図6(b)、及び(d)参照)。
【0128】
半導体発光装置の一部または全部を、透光性を有し、水蒸気透過率の低い材料(E)で被覆することにより、大気等の周囲環境から、蛍光体(B)への水分の浸透を抑制することができ、これにより、半導体発光装置の耐久性を向上させることができる。
なお、第二の構造においては、さらに、第一の構造における層(D)に相当する部分を設けてもよい(図6(c)参照)。
【0129】
このような半導体発光装置は、例えば、以下のようにして製造することができる。
半導体発光装置の一部を被覆する製造方法としては、パッケージ底部に半導体発光素子(A)を固定した後、半導体発光素子(A)上に、層(C)を構成する組成物を注入し、必要に応じて硬化させる。次いで、層(E)を構成する硬化材料を注入し、必要に応じて硬化させる。注入方法は通常使用されるディスペンサーなどの注入装置を使用することができる。
【0130】
半導体発光装置全体を被覆する製造方法としては、パッケージ底部に半導体発光素子(A)を固定した後、半導体発光素子(A)上に、層(C)を構成する組成物を注入し、必要に応じて硬化させる。次いで、層(E)を構成する硬化材料中に、半導体発光装置を浸漬した後、硬化させる等して、層(E)で半導体発光装置を被覆する。
[第三の構造]
本発明の半導体発光装置の第三の構造は、半導体発光素子(A)と、該半導体発光素子(A)からの光の少なくとも一部を吸収し異なる波長を有する光を発する蛍光体(B)とを備える半導体発光装置において、該蛍光体(B)を含む層(C)が、厚さ0.4mmのときの40℃における水蒸気透過率が10g/m・day以下の層(F)で被覆されていることを特徴とする(図6(e)参照)。
【0131】
このような半導体発光装置は、例えば、以下のようにして製造することができる。
前記蛍光体含有層形成液を、弗素コート耐熱性シート上に滴下し、水滴形状のまま硬化させ、層(C)を形成する。その後、弗素樹脂を層(C)の上から滴下し、硬化させる。次いで、層(C)の弗素コート耐熱性シート接触面を上に向け、その上から前記弗素樹脂を滴下し、硬化させることにより、層(C)の周囲に層(F)を形成させる。
【0132】
層(D)を構成する組成物を、前記半導体発光素子を設置した半導体発光装置に注入し
た後に、層(F)で被覆された層(C)を入れ、さらにその上から層(D)を構成する組成物を注入し、硬化させ、層(D)を形成させる。
[5−2.層(D)、層(E)及び(F)を構成する材料]
層(D)、(E)、及び(F)を構成する硬化材料は、厚さを0.4mmにしたときに、40℃における水蒸気透過率が、通常10g/m・day(40℃)以下であり、好ましくは9.5g/m・day以下、更に好ましくは8.5g/m・day以下、更により好ましくは5.0g/m・day以下である。
【0133】
水蒸気透過率の高い材料を用いて層(D)を形成した場合に半導体発光装置の耐久性が低下することが確認されており、水蒸気透過率が10g/m・dayを超えると、発光装置の耐久性が低下する傾向にある。なお、水蒸気透過率の測定は、実施例に記載の方法で測定することができる。
層(D)、(E)、及び(F)を構成する硬化材料として、具体的には、前述の[4−1.硬化材料]に記載の材料のうち、水蒸気透過率の低いものを用いることができる。例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、弗素樹脂等が挙げられ、中でも、シリコーン樹脂、または弗素樹脂が好ましい。
【0134】
層(E)、及び(F)の厚みは、特に制限はないが、通常1μm以上、好ましくは50μm以上、さらに好ましくは80μm以上であり、また、通常500μm以下、好ましくは400μm以下、さらに好ましくは300μmが以下である。
[5−3.層(C)における蛍光体(B)の配合量]
蛍光体(B)の配合量は、層(C)を構成する樹脂100重量部に対して、通常3重量部以上、好ましくは10重量部以上、更に好ましくは20重量部以上であり、また、通常100重量部以下、80重量部以下、更に好ましくは60重量部以下である。蛍光体(B)の配合量が少なすぎると、輝度が低くなる傾向にあり、多すぎると高粘度のため作製作業が困難となる場合がある。
【0135】
なお、層(C)を構成する材料としては、前述の[4−1.硬化材料]に記載の材料を用いることができる。[4−1.硬化材料]に記載の材料の中でも、水蒸気透過率の低い材料を用いることが好ましい。
[6.半導体発光装置の用途]
本発明の半導体発光装置の用途は特に制限されず、通常の半導体発光装置が用いられる各種の分野に使用することが可能であるが、演色性が高い、及び色再現範囲が広いことから、中でも照明装置や画像表示装置の光源として、とりわけ好適に用いられる。
【0136】
<6−1.照明装置>
本発明の発光装置を照明装置に適用する場合には、前述のような発光装置を公知の照明装置に適宜組み込んで用いればよい。例えば、図5に示されるような、前述の半導体発光装置(4)を組み込んだ面発光照明装置(11)を挙げることができる。
図5は、本発明の照明装置の一実施形態を模式的に示す断面図である。この図5に示すように、該面発光照明装置は、内面を白色の平滑面等の光不透過性とした方形の保持ケース(12)の底面に、多数の発光装置(13)(前述の半導体発光装置(4)に相当)を、その外側に発光装置(13)の駆動のための電源及び回路等(図示せず。)を設けて配置し、保持ケース(12)の蓋部に相当する箇所に、乳白色としたアクリル板等の拡散板(14)を発光の均一化のために固定してなる。
【0137】
そして、面発光照明装置(11)を駆動して、発光装置(13)の励起光源(第1の発光体)に電圧を印加することにより光を発光させ、その発光の一部を、蛍光体含有部(第2の発光体)としての蛍光体含有樹脂部における前記蛍光体が吸収し、可視光を発光し、一方、蛍光体に吸収されなかった青色光等との混色により演色性の高い発光が得られ、こ
の光が拡散板(14)を透過して、図面上方に出射され、保持ケース(12)の拡散板(14)面内において均一な明るさの照明光が得られることとなる。
【0138】
<6−2.画像表示装置>
本発明の発光装置を画像表示装置の光源として用いる場合には、その画像表示装置の具体的構成に制限は無いが、カラーフィルターとともに用いることが好ましい。例えば、画像表示装置として、カラー液晶表示素子を利用したカラー画像表示装置とする場合は、上記発光装置をバックライトとし、液晶を利用した光シャッターと赤、緑、青の画素を有するカラーフィルターとを組み合わせることにより画像表示装置を形成することができる。
【実施例】
【0139】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に詳説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
半導体発光素子、蛍光体、蛍光体含有層形成液として以下のものを用いて、後述する各実施例、及び比較例の発光装置を作製し、その評価を行った。
[半導体発光素子]
半導体発光素子として昭和電工社製の350μm角チップ「GU35R460T」を用い、それを透明ダイボンドペースト(シリコーン樹脂ベース)で、3528(3428)SMD型樹脂パッケージに接着させた。ボンディングワイヤは2本とした。
【0140】
[蛍光体]
<合成例1 赤色蛍光体KTiF:Mn4+
蛍光体の各原料の仕込み合成が、KTi0.95Mn0.05となるように原料化合物として、KTiF(4.743g)、KMnF(0.2596g)を大気圧、室温のもとで、フッ化水素酸(47.3重量%)40mlに攪拌しながらゆっくり添加して溶解させた。各原料化合物が全部溶解した後、溶液を攪拌しながら、アセトン60mlを240ml/時の速度で添加して蛍光体を貧溶媒析出させた。得られた蛍光体をそれぞれ純水とアセトンで洗浄し、100℃で1時間乾燥させた。得られた蛍光体のX線回折パターンよりKTiF:Mnが合成されていることが確認できた。また、得られた蛍光体の加熱発生フッ素量を求め、表9に示す。
【0141】
なお、加熱発生フッ素量は、以下の方法で測定した。
<加熱発生フッ素量の測定方法>
蛍光体1gを精秤後、白金ボートに入れ、横型電気炉のアルミナ製炉心管中にセットした。次いで、流量400ml/分でアルゴンガスを流通させながら、炉内温度を昇温させて蛍光体の温度が200℃になったところで2時間保持した。
【0142】
ここで、炉内を流通していたアルゴンガス全量をKOH水溶液(濃度67mM)に吸収させ、吸収液を液体クロマトグラフィー法により分析し、蛍光体1g当たりの毎分の加熱発生フッ素量を求めた。
【0143】
【表9】

【0144】
[蛍光体含有層形成液]
前述の合成例1で合成した蛍光体を使用し、下記表10の配合比にて封止剤液及び蛍光体を計量した後、EME社製「V-mini300」にて混合し、蛍光体含有層形成液(1)を得
た。
【0145】
【表10】

【0146】
なお、上記表10は、封止材液が100重量%に対し、赤色蛍光体を12重量%加えたという意味である。
[半導体発光装置の作製]
<実施例1−1>
手動ピペットを用いて、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂SCR1016の主剤と硬化剤をEME社製「V-mini300」にて真空脱泡混合した。得られた混合液2μ
Lを前述の半導体発光素子を設置した半導体発光装置に注液し、100℃で1時間保持、次いで150℃で5時間保持して形成液を硬化させ、層(D)を形成させた。
【0147】
次いで、手動ピペットを用いて、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂SCR1016より調液した蛍光体含有層形成液(1)2μLを前記半導体発光装置に注液し、100℃で1時間保持した後、次いで150℃で5時間保持して蛍光体を含有する層(C)を硬化させ、半導体発光装置を得た。この半導体発光装置の構成は、図6(a)に相当するものである。
【0148】
また、実体顕微鏡(キーエンス製「デジタルマイクロスコープ VH-5000」。レンズは
、キーエンス社製「VH-Z25」を、ソフトはキーエンス社製「VH Analyzer」を使用した。
)を用いて、100倍率にて各層の厚さの測定を行ったところ、(C)層が約0.57mm、(D)層が約0.28mmであった。
<実施例1−2>
手動ピペットを用いて、ジャパンエポキシレジン株式会社製2液型エポキシ樹脂YL7301の主剤と硬化剤をEME社製「V-mini300」にて真空脱泡混合した。得られた混合
液1μLを前述の半導体発光素子を設置した半導体発光装置に注液し、100℃で3時間保持、次いで140℃で3時間保持して形成液を硬化させ、層(D)を形成した。
【0149】
次いで、手動ピペットを用いて、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂SCR1016より調液した蛍光体含有層形成液(1)2μLを前記半導体発光装置に注液し、100℃で1時間保持した後、150℃で5時間保持して層(C)を硬化させた。
その後、手動ピペットを用いて、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂SCR1016の主剤と硬化剤をEME社製「V-mini300」にて真空脱泡混合し、得られた混合
液1μLを前記半導体発光装置に注液し、100℃で1時間保持した後、150℃で5時間保持して、層(E)を硬化させ、半導体発光装置を得た。この半導体発光装置の構成は、図6(c)に相当するものである。
【0150】
また、実施例1と同様の条件で各層の厚さの測定を行ったところ、(C)層が約0.28mm、(D)層が約0.24mm、(E)層が約0.33mmであった。
<実施例1−3>
手動ピペットを用いて、前記蛍光体含有層形成液(1)2μLを、前述の半導体発光素子を設置した半導体発光装置に注液し、100℃で1時間保持した後、150℃で5時間保持して蛍光体層(C)を硬化させた。
【0151】
次いで、手動ピペットを用いて、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂SCR1016の主剤と硬化剤をEME社製「V-mini300」にて真空脱泡混合した。得られた混
合液2μLを前記半導体発光装置に注液し、100℃で1時間保持した後、150℃で5時間保持して層(E)を形成させ、半導体発光装置を得た。この半導体発光装置の構成は、図6(b)に相当するものである。
【0152】
<実施例1−4>
前記蛍光体含有層形成液(1)0.5μLを、弗素コート耐熱性シート上に滴下し、水滴形状のまま100℃で1時間保持した後、150℃で5時間保持して硬化させ、層(C)を形成した。
弗素樹脂(太平化成株式会社製「エイトシール3000」)を層(C)の上から0.5μL
を滴下し、120℃で20分保持し硬化させた。次いで、層(C)の弗素コート耐熱性シート接触面を上に向け、その上から前記弗素樹脂(太平化成株式会社製「エイトシール3000」)を0.5μL滴下し、120℃で20分間保持し硬化させることにより、層(C)の周囲に層(F)を形成させた。
【0153】
半導体デバイス用形成液として信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂SCR1016の主剤と硬化剤をEME社製「V-mini300」にて真空脱泡混合した。得られた混合
液1μLを、前記半導体発光素子を設置した半導体発光装置に注入した後に、層Fで被覆された層Cを入れ、さらにその上から上記混合液1μLを注入し、100℃で1時間保持した後、150℃で5時間保持して層(D)を形成させた。この半導体発光装置の構成は、図6(e)に相当するものである。
【0154】
<実施例1−5>
信越化学工業社製2液型シリコーン樹脂SCR1016Aを100重量部と硬化剤SCR1016Bを100重量部とをEME社製「V-mini300」にて真空脱泡混合した。得られた混合液1μLを上述の半導体発光素子を設置した発光装置に注液し、100℃で1時間保持した後、150℃で5時間保持して上記シリコーン樹脂層を硬化させ、層(D)を形成させた。
【0155】
次いで、手動ピペットを用いて、前記蛍光体含有層形成液(1)2μLを前記発光装置に注液し、100℃で1時間保持した後、150℃で5時間保持して層(C)を硬化させた。
さらに、層(C)の上に、上述のSCR1016A及びSCR1016Bの混合液1μLを注液し、100℃で1時間保持した後、150℃で5時間保持して上記シリコーン樹脂層を硬化させることにより層(E)を形成させ、半導体発光装置を得た。この半導体発光装置の構成は、図6(c)に相当するものである。
【0156】
また、実施例1-1と同様の条件で各層の厚さの測定を行ったところ、(C)層が約0
.28mm、(D)層が約0.24mm、(E)層が約0.33mmであった。
<比較例1−1>
手動ピペットを用いて、前記蛍光体含有層形成液(1)4μlを、前記半導体発光素子
を設置した半導体発光装置に注液し、100℃で1時間保持した後、150℃で5時間保持して層(C)を硬化させ、半導体発光装置(白色LED)を得た。
【0157】
[水蒸気透過率の測定]
MOCON社製「Permatran−W 3/31」を用いて、実施例1−1〜1−5、及び比較例1−1で用いた封止剤液(SCR1016)の水蒸気透過率の測定を行った。
なお、JIS K7129Bに基づき行った。
【0158】
その結果、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂SCR1016は、厚さ0.47mmのときに、8.0g/m・dayであった。厚さと水蒸気透過率の関係は、厚さ0(ゼロ)のときは透過率無限大、厚さ無限大のときは透過率0(ゼロ)となり、反比例の関係にある。従って、厚さ0.4mmのときには、9.4g/m・dayと推定できる。
【0159】
また、ジャパンエポキシレジン株式会社製2液型エポキシ樹脂YL7301は、厚さ0.32mmのときに、9.3g/m・dayであった。厚さ0.4mmのときには、厚さ0.37mmのときのデータ(9.3g/m・day)よりも小さい値(7.4g/m・day)になると推定される。
[耐久性試験]
前述の実施例、及び比較例で得られた半導体発光装置について、以下の方法により耐久性試験を行なった。
【0160】
半導体発光装置に20mAの電流を通電し、点灯開始前(この時点を以下「0時間」という。)に、ファイバマルチチャンネル分光器(オーシャンオプティクス社製USB2000(積算波長範囲:200nm〜1100nm、受光方式:積分球(直径1.5インチ))を用いて、発光スペクトルを測定した。
次いで、エージング装置、LED AGING SYSTEM 100ch LED環境試験装置(山勝電子工業社製、YEL−51005)を用いて、85℃、相対湿度85%の条件下、半導体発光装置を駆動電流20mAで連続通電し、通電開始から50時間、100時間、150時間、200時間の各時点において、前記0時間の場合と同様にして発光スペクトルを測定した。これと同時に、85℃、相対湿度85%の条件下で、半導体発光装置を通電せずに保管して、保管前(点灯開始前)、50時間、100時間、150時間、200時間の各時点において、測定時のみ通電して、前記0時間の場合と同様にして発光スペクトルを測定した。
【0161】
200時間後に得られた発光スペクトルより算出された各種発光特性の値(放射束(μW)全光束(lm)、色度座標Cx、Cy)を、0時間の測定値を100%とした相対値で表11に示す。
なお、点灯試験の際、発光スペクトルの測定には、分光器本体の温度変化によるデータ外乱を防ぐため、分光器を25℃恒温室内に保持して測定した。
【0162】
また、実施例1−1で作製した半導体発光装置の発光スペクトルを図7に示す。図7から、実施例1−1の半導体発光装置は、赤色領域にMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体特有の狭い発光ピークが観測できることがわかる。
【0163】
【表11】

【0164】
実施例1−1と比較例1−1とを比較すると、蛍光体を含まないシリコーン樹脂を使用した層(D)が存在することにより半導体発光装置の耐久性が向上することがわかる。
また、実施例1−2は、層(D)にエポキシ樹脂を使用した実験である。エポキシ樹脂を用いた場合は、非点灯条件において耐久性が向上することが分かる。一方、シリコーン樹脂を用いた実施例1−1、及び1−3〜1−5では、非点灯条件に加え、点灯条件においても耐久性が向上していることがわかる。
【0165】
また、実施例1−3から、層(D)が存在しなくても、層(E)を形成することにより、蛍光体(B)に対する水蒸気の透過を低いレベルに抑えることができれば発光装置の耐久性が向上することが分かる。
また、実施例1−4から、層(E)が存在しなくても、層(C)を直接全面的に覆う層(F)を形成し、さらに層(D)も形成することにより半導体発光装置の耐久性が向上することが分かる。
【0166】
また、実施例1−5から、層(D)に加えて層(E)を同時に形成することにより、層が片方のみのとき(実施例1−1、実施例1−3)よりも半導体発光装置の全光束について耐久性が向上することがわかる。
<実施例2−1>
手動ピペットを用いて、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂SCR1011の主剤と硬化剤をEME社製「V-mini300」にて真空脱泡混合した。得られた混合液2μ
Lを前述の半導体発光素子を設置した半導体発光装置に注液し、70℃で1時間保持、次いで150℃で5時間保持して形成液を硬化させ、層(D)を形成させた。
【0167】
次いで、手動ピペットを用いて、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂SCR1011より調液した蛍光体含有層形成液(2)2μLを前記半導体発光装置に注液し、70℃で1時間保持した後、次いで150℃で5時間保持して蛍光体を含有する層(C)を硬化させ、半導体発光装置を得た。この半導体発光装置の構成は、図6(a)に相当するものである。
【0168】
【表12】

【0169】
<実施例2−2>
手動ピペットを用いて、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂SCR1011の主剤と硬化剤をEME社製「V-mini300」にて真空脱泡混合した。得られた混合液1μ
Lを前述の半導体発光素子を設置した半導体発光装置に注液し、70℃で1時間保持、次いで150℃で5時間保持して形成液を硬化させ、層(D)を形成した。
【0170】
次いで、手動ピペットを用いて、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂SCR1011より調液した蛍光体含有層形成液(2)2μLを前記半導体発光装置に注液し、70℃で1時間保持、次いで150℃で5時間保持して層(C)を硬化させた。
その後、手動ピペットを用いて、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂SCR1011の主剤と硬化剤をEME社製「V-mini300」にて真空脱泡混合し、得られた混合
液1μLを前記半導体発光装置に注液し、70℃で1時間保持、次いで150℃で5時間保持して、層(E)を硬化させ、半導体発光装置を得た。この半導体発光装置の構成は、図6(c)に相当するものである。
【0171】
<実施例2−3>
手動ピペットを用いて、前記蛍光体含有層形成液(2)2μLを、前述の半導体発光素子を設置した半導体発光装置に注液し、100℃で1時間保持した後、150℃で5時間保持して蛍光体層(C)を硬化させた。
次いで、手動ピペットを用いて、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂SCR1011の主剤と硬化剤をEME社製「V-mini300」にて真空脱泡混合した。得られた混
合液2μLを前記半導体発光装置に注液し、70℃で1時間保持、次いで150℃で5時間保持して層(E)を形成させ、半導体発光装置を得た。この半導体発光装置の構成は、図6(b)に相当するものである。
<比較例2−2>
手動ピペットを用いて、前記蛍光体含有層形成液(2)4μlを、前記半導体発光素子を設置した半導体発光装置に注液し、100℃で1時間保持した後、150℃で5時間保持して層(C)を硬化させ、半導体発光装置(白色LED)を得た。
【0172】
[水蒸気透過率の測定]
実施例1−1〜5、および比較例1−1と同様の測定方法で、実施例2−1〜2−3、および比較例2−1で用いた封止剤液SCR1011の水蒸気透過率の測定を行った。
その結果、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂SCR1011は、厚さ0.40mmのときに、1.0g/m・dayであった。
[耐久性試験]
前述の実施例、及び比較例で得られた半導体発光装置について、測定を行うポイント(経過時間)を表に記載の時間に変更したこと以外は実施例1−1〜1−5、および比較例1−1と同様の方法により耐久性試験を行なった。
各種発光特性の値(放射束(μW)、全光束(lm)、色度座標Cx、Cy)を、0時間
の測定値を100%とした相対値で表13に示す。
【0173】
【表13】

【0174】
なお、比較例2−2(算出282hr)*については、219hr(時間)他各時点での実測値から近似曲線式をもとめて算出した値である。
点灯サンプルは、光源により光源部周辺が110℃〜120℃になることで水分が蒸発し、水蒸気を寄せ付けないので水溶性の高い蛍光体を用いた場合にも水蒸気の影響を受けにくい傾向にある。一方、非点灯サンプルは試験環境の85℃のため、水分は蒸発せず水蒸気の影響を直接受けるために劣化が起こりやすい状況にある。水蒸気の影響を受けやすい非点灯サンプルについて、比較例と実施例とを比較してみると、実施例では、いずれも劣化が改善されていることがわかる。
【0175】
<比較例3−1>
手動ピペットを用いて、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂LPS2410の主剤と硬化剤をEME社製「V-mini300」にて真空脱泡混合し、得られた調液による蛍
光体含有層形成液(3)4μlを、前記半導体発光素子を設置した半導体発光装置に注液し、150℃で1時間保持して形成液を硬化して層(C)を硬化させ、半導体発光装置(白色LED)を得た。
【0176】
【表14】

【0177】
<比較例3−2>
手動ピペットを用いて、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂LPS2410の主剤と硬化剤をEME社製「V-mini300」にて真空脱泡混合した。得られた混合液2μ
Lを前述の半導体発光素子を設置した半導体発光装置に注液し、150℃で1時間保持して形成液を硬化させ、層(D)を形成させた。
【0178】
次いで、手動ピペットを用いて、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂LPS2410より調液した蛍光体含有層形成液(3)2μLを前記半導体発光装置に注液し、150℃で1時間保持して蛍光体を含有する層(C)を硬化させ、半導体発光装置を得た。この半導体発光装置の構成は、図6(a)に相当するものである。
<比較例3−3>
手動ピペットを用いて、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂LPS2410の主剤と硬化剤をEME社製「V-mini300」にて真空脱泡混合した。得られた混合液1μ
Lを前述の半導体発光素子を設置した半導体発光装置に注液し、150℃で1時間保持して形成液を硬化させ、層(D)を形成した。
【0179】
次いで、手動ピペットを用いて、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂LPS2410より調液した蛍光体含有層形成液(3)2μLを前記半導体発光装置に注液し、150℃で1時間保持して層(C)を硬化させた。
その後、手動ピペットを用いて、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂LPS2410の主剤と硬化剤をEME社製「V-mini300」にて真空脱泡混合し、得られた混合
液1μLを前記半導体発光装置に注液し、150℃で1時間保持して、層(E)を硬化させ、半導体発光装置を得た。この半導体発光装置の構成は、図6(c)に相当するものである。
【0180】
<比較例3−4>
手動ピペットを用いて、前記蛍光体含有層形成液(3)2μLを、前述の半導体発光素子を設置した半導体発光装置に注液し、150℃で1時間保持して蛍光体層を硬化させた。
次いで、手動ピペットを用いて、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂LPS2410の主剤と硬化剤をEME社製「V-mini300」にて真空脱泡混合した。得られた混
合液2μLを前記半導体発光装置に注液し、150℃で1時間保持して層(E)を形成させ、半導体発光装置を得た。この半導体発光装置の構成は、図6(b)に相当するものである。
【0181】
[水蒸気透過率の測定]
実施例1−1〜5、および比較例1−1と同様の測定方法で、比較例3−1〜3−4で用いた封止剤液LPS2410の水蒸気透過率の測定を行った。
その結果、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂LPS2410は、厚さ0.40mmのときに、17g/m・dayであった。
[耐久性試験]
前述の実施例、及び比較例で得られた半導体発光装置について、測定を行うポイント(経過時間)を表に記載の時間に変更したこと以外は実施例1−1〜1−5、および比較例1−1と同様の方法により耐久性試験を行なった。
【0182】
各種発光特性の値(放射束(μW)全光束(lm)、色度座標Cx、Cy)を、0時間の測定値を100%とした相対値で表15に示す。
【0183】
【表15】

【0184】
表15から水蒸気透過率の高い封止剤液を使用すると耐久性試験の結果、特に非点灯において劣化が甚だしいことが分かる。点灯サンプルについても、比較例3−1、3−2、3−4においては顕著な劣化が認められる。
<比較例4−1>
手動ピペットを用いて、東レダウコーニング株式会社製1液型シリコーン樹脂JCR6101をEME社製「V-mini300」にて真空脱泡混合し、得られた調液による蛍光体含有
層形成液(4)4μlを、前記半導体発光素子を設置した半導体発光装置に注液し、70℃で1時間保持、次いで150℃で2時間保持して形成液を硬化して層(C)を硬化させ、半導体発光装置(白色LED)を得た。
【0185】
【表16】

【0186】
<比較例4−2>
手動ピペットを用いて、東レダウコーニング株式会社製1液型シリコーン樹脂JCR6101をEME社製「V-mini300」にて真空脱泡混合した。得られた混合液2μLを前述
の半導体発光素子を設置した半導体発光装置に注液し、70℃で1時間保持、次いで150℃で2時間保持して形成液を硬化させ、層(D)を形成させた。
【0187】
次いで、手動ピペットを用いて、東レダウコーニング株式会社製1液型シリコーン樹脂JCR6101より調液した蛍光体含有層形成液(1)2μLを前記半導体発光装置に注液し、70℃で1時間保持、次いで150℃で2時間保持して蛍光体を含有する層(C)を硬化させ、半導体発光装置を得た。この半導体発光装置の構成は、図6(a)に相当するものである。
【0188】
<比較例4−3>
手動ピペットを用いて、東レダウコーニング株式会社製1液型シリコーン樹脂JCR6101をEME社製「V-mini300」にて真空脱泡混合した。得られた混合液1μLを前述
の半導体発光素子を設置した半導体発光装置に注液し、70℃で1時間保持、次いで150℃で2時間保持して形成液を硬化させ、層(D)を形成した。
【0189】
次いで、手動ピペットを用いて、東レダウコーニング株式会社製1液型シリコーン樹脂JCR6101より調液した蛍光体含有層形成液(4)2μLを前記半導体発光装置に注液し、70℃で1時間保持、次いで150℃で2時間保持して層(C)を硬化させた。
その後、手動ピペットを用いて、東レダウコーニング株式会社製1液型シリコーン樹脂JCR6101をEME社製「V-mini300」にて真空脱泡混合し、得られた混合液1μL
を前記半導体発光装置に注液し、70℃で1時間保持、次いで150℃で2時間保持して、層(E)を硬化させ、半導体発光装置を得た。この半導体発光装置の構成は、図6(c)に相当するものである。
【0190】
<比較例4−4>
手動ピペットを用いて、前記蛍光体含有層形成液(4)2μLを、前述の半導体発光素子を設置した半導体発光装置に注液し、70℃で1時間保持、次いで150℃で2時間保持して蛍光体層を硬化させた。
次いで、手動ピペットを用いて、東レダウコーニング株式会社製1液型シリコーン樹脂JCR6101をEME社製「V-mini300」にて真空脱泡混合した。得られた混合液2μ
Lを前記半導体発光装置に注液し、70℃で1時間保持、次いで150℃で2時間保持して層(E)を形成させ、半導体発光装置を得た。この半導体発光装置の構成は、図6(b)に相当するものである。
【0191】
[水蒸気透過率の測定]
実施例1−1〜5、および比較例1−1と同様の測定方法で、比較例3−1〜3−4で用いた封止剤液JCR6101の水蒸気透過率の測定を行った。その結果、東レダウコーニング株式会社製1液型シリコーン樹脂JCR6101は、厚さ0.30mmのときに、330g/m・dayであった。厚さ0.4mmのとき247.5g/m・dayと推定される。
【0192】
[耐久性試験]
前述の実施例、及び比較例で得られた半導体発光装置について、測定を行うポイント(経過時間)を表に記載の時間に変更したこと以外は実施例1−1〜1−5、および比較例1−1と同様の方法により耐久性試験を行なった。
各種発光特性の値(放射束(μW)、全光束(lm)、色度座標Cx、Cy)を、0時間の測定値を100%とした相対値で表17に示す。
【0193】
【表17】

【0194】
なお、比較例4−1(算出190hr)*については、282hr他各時点での実測値から近似曲線式をもとめて算出した値である。
表17から水蒸気透過率の高い封止剤液を使用すると、耐久性試験の結果、特に非点灯サンプルにおいて劣化が甚だしいことが分かる。なお、点灯サンプルについても、比較例4−1、4−2、4−4において顕著な劣化が認められる。
【0195】
非点灯サンプルは試験環境の85℃のため、水分は蒸発せず水蒸気の影響を直接受けるために影響を受けやすく劣化が起こりやすい状況にある。そのような影響を受けやすい非点灯サンプルについて、上記比較例はいずれも顕著な劣化が認められる。
蛍光体を封止材で封止した状態で、蛍光体から発せられる光を用いる任意の分野において、水溶性の高い蛍光体を用いる場合は、特に非点灯のときに劣化しないことは重要である。常に点灯している状況にある製品は少なく、家電製品、携帯電話など多くの製品は、使用時以外は非点灯条件にある。たとえば、夏場、ポケット内などの湿度の高い環境に置かれた携帯電話や、雨天時の信号機では、水蒸気の影響を受けやすく、非点灯時の耐久性が重要である。
【0196】
また、例えば、比較例3−3や比較例4−3のように、点灯時における耐久性試験の結果が良好であったとしても、200時間前後の耐久性試験において、非点灯時における放射
束、または全光束が60%以下になった場合は実用化が難しいものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0197】
本発明は光を用いる任意の分野において用いることができ、例えば屋内及び屋外用の照明などのほか、携帯電話、家庭用電化製品、屋外設置用ディスプレイ等の各種電子機器の画像表示装置などに用いて好適である。
【符号の説明】
【0198】
1 蛍光体含有部(第2の発光体)
2 励起光源(第1の発光体)(LD)
3 基板
4 半導体発光装置
5 マウントリード
6 インナーリード
7 励起光源(第1の発光体)
8 蛍光体含有部
9 導電性ワイヤー
10 モールド部材
11 面発光照明装置
12 保持ケース
13 半導体発光装置
14 拡散板
15 フレーム
16 導電性ワイヤー
17 電極
18 電極
20 半導体発光装置
21 基板
22 バッファ層
23 コンタクト層
24 第一導電型クラッド層
25 活性層構造
26 第二導電型クラッド層
27 第二導電型側電極
28 第一導電型側電極
29 第二電流注入領域
101 p型電極
102 n型電極
103 p型層
104 n型層
105 導電性基板
106 絶縁性基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体発光素子(A)と、該半導体発光素子(A)からの光の少なくとも一部を吸収し異なる波長を有する光を発する蛍光体(B)とを備える半導体発光装置において、
該半導体発光素子(A)と、該蛍光体(B)を含む層(C)との間に、該蛍光体(B)を含まず、かつ、厚さ0.4mmのときの40℃における水蒸気透過率が10g/m・day以下の層(D)を有し、
該蛍光体(B)がMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体を含有する
ことを特徴とする、半導体発光装置。
【請求項2】
半導体発光素子(A)と、該半導体発光素子(A)からの光の少なくとも一部を吸収し異なる波長を有する光を発する蛍光体(B)とを備える半導体発光装置において、
該半導体発光装置の表面の一部または全部が、厚さ0.4mmのときの40℃における水蒸気透過率が10g/m・day以下の層(E)で被覆されており、
該蛍光体(B)がMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体含有する
ことを特徴とする、半導体発光装置。
【請求項3】
半導体発光素子(A)と、該半導体発光素子(A)からの光の少なくとも一部を吸収し異なる波長を有する光を発する蛍光体(B)とを備える半導体発光装置において、
該蛍光体(B)を含む層(C)が、厚さ0.4mmのときの40℃における水蒸気透過率が10g/m・day以下の層(F)で被覆されており、
該蛍光体(B)がMn4+で付活されたフッ素錯体蛍光体含有する
ことを特徴とする、半導体発光装置。
【請求項4】
前記半導体発光素子(A)と、前記蛍光体(B)を含む層(C)との間に、該蛍光体(B)を含まず、かつ、厚さ0.4mmのときの40℃における水蒸気透過率が10g/m・day以下の層(D)を有する
ことを特徴とする、請求項3に記載の半導体発光装置。
【請求項5】
前記蛍光体(B)の200℃における加熱発生フッ素量が、蛍光体1gあたり0.01μg/分以上のものである
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体発光装置。
【請求項6】
前記蛍光体(B)の20℃における100gの水に対する溶解度が、0.005g以上、7g以下のものである
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体発光装置。
【請求項7】
前記蛍光体(B)が、610nm以上、650nm以下の波長範囲に主発光ピークを有する
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の半導体発光装置。
【請求項8】
前記蛍光体(B)が、下記式[1]〜[8]のいずれかで表される化学組成を有する結晶相を含有するものである
ことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の半導体発光装置。
[MIV1−x] ・・・[1]
[MIII1−x] ・・・[2]
II[MIV1−x] ・・・[3]
[MIV1−x] ・・・[4]
[MIII1−x] ・・・[5]
Zn[MIII1−x] ・・・[6]
[MIII2−2x2x] ・・[7]
Ba0.65Zr0.352.70:Mn4+ ・・・[8]
(但し、前記式[1]〜[8]において、MはLi、Na、K、Rb、Cs、及びNHからなる群より選ばれる1種以上の1価の基を表わし、MIIはアルカリ土類金属元素を表し、MIIIは周期律表第3族及び第13族からなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表し、MIVは周期律表第4族及び第14族からなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表し、Rは、少なくともMnを含有する付活元素を表す。xは、0<x<1で表される範囲の数値である。)
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の半導体発光装置を、光源として備えることを特徴とする、画像表示装置。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の半導体発光装置を、光源として備えることを特徴とする、照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−54958(P2011−54958A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177522(P2010−177522)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】