説明

半導体発光装置および半導体発光装置の製造方法

【課題】半導体膜上に波長変換部を有する半導体発光装置において、光出力の低下を伴うことなく発光色のむらを解消することができる半導体発光装置を提供する。
【解決手段】
半導体膜20は、発光層を含む。支持基板10は、半導体膜20に光反射層30を介して接合され且つ半導体膜20を支持する支持面と半導体膜20の側面よりも外側に配置されたエッジ部とを有する。遮光部40は、半導体膜20の側面と半導体膜20の周囲の支持面を覆う。波長変換部50は、蛍光体を含み、半導体膜20および遮光部40を埋設するように支持基板10上に設けられる。波長変換部50は、エッジ部から半導体膜20の中央に向けて厚さが増大する曲面形状を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED(発光ダイオード)等の発光素子を含む半導体発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(以下LEDと称する)は、自動車のテールランプ、各種表示機器および携帯電話等のモバイル機器のバックライト等に用いられている。今後、自動車のヘッドライト、液晶ディスプレイのバックライト、一般照明用途のLEDの需要が大幅に伸びることが予想される。自動車のヘッドライトや一般照明用途においては白色光が望ましい。LEDの光の色は、半導体層のバンドギャップの大きさによって決まり、使用する半導体結晶に固有のものとなる。そのため、LEDの光の色は赤や緑や青等の単色となる。このような発光特性を有するLEDを用いて白色光を得るための方法としては、以下のようなものがある。
【0003】
1つ目は、赤色LED、緑色LED、青色LEDを並べて、これらを同時に発光させる方法である。しかしながら、この方法の場合、LED特有の指向性の強さゆえに、見る方向によって色ムラが生じやすい。また、それぞれの色のLEDで温度等の環境に対する変化の割合が異なったり、劣化の速度も異なるため、白色を維持することが困難である。
【0004】
2つ目は、青色LEDと黄色蛍光体とを組み合わせて白色光を得る方法である。蛍光体は、青色光を吸収して波長のより長い黄色光を発する。青色LEDが放射する青色光の一部は蛍光体によって黄色光に変換され、それ以外の光は青色を維持したまま蛍光体を含む蛍光体層を透過する。蛍光体から発せられる黄色光に青色光が混ざることにより白色光を得ることができる。かかる方法によれば、単一の青色LEDチップで白色光を得ることができるので、構成が単純であり、RGBの発光色のLEDを並べる上記第1の方法と比較して安価に製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−153645号公報
【特許文献2】特開2010−92897
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
LEDチップ上に蛍光体を設ける方法として、半導体膜の上面に光透過性樹脂に蛍光体粒子を分散させた波長変換部材をディスペンサで塗布する方法がある。このような方法によって波長変換部を形成することにより、波長変換部の形状をドーム状の曲面形状とすることができ、発光面中央部と外周部との発光色のむらの発生を防止することができる。しかしながら、半導体膜の表面に波長変換部材を塗布する方法によれば、波長変換部が半導体膜の表面の各コーナ部にまで十分に広がらず、またはコーナ部上を覆う波長変換部の厚さは非常に小さくなるため、半導体膜の各コーナ部から放射される光は蛍光体による黄色光を殆ど含むことができない。このため、半導体膜の各コーナ部上からは青色光が放射され発光色にむらが生じる結果となる。
【0007】
この問題を解決するために、上記の特許文献2には、半導体膜表面の各コーナ部に遮光部を設けて青色光が放射される部分を非発光とすることが記載されている。しかしながら、半導体膜の主発光面の一部に遮光部を設けると、発光部面積が縮小し、光束および輝度の低下を招くこととなる。
【0008】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、半導体膜上に波長変換部を有する半導体発光装置において、光出力の低下を伴うことなく発光色のむらを解消することができる半導体発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の半導体発光装置は、発光層を含む半導体膜と、前記半導体膜に光反射層を介して接合され且つ前記半導体膜を支持する支持面と前記半導体膜の側面よりも外側に配置されたエッジ部とを有する支持基板と、前記半導体膜の側面と前記支持面の前記半導体膜の外側に延在する部分とを覆う遮光部と、蛍光体を含み、前記半導体膜および前記遮光部を埋設するように前記支持基板上に設けられた波長変換部と、を有し、前記波長変換部は、前記エッジ部から前記半導体膜の中央に向けて厚さが増大する曲面形状を有していることを特徴としている。
【0010】
また、本発明の半導体発光装置の製造方法は、発光層を含む半導体膜と、前記半導体膜に光反射層を介して接合され且つ前記半導体膜を支持する支持面と前記半導体膜の側面よりも外側に設けられたエッジ部とを有する支持基板と、を含む発光素子を用意する工程と、前記半導体膜の側面と前記エッジ部との間に遮光部材を供給して前記半導体膜の側面を覆う遮光部を形成する工程と、前記遮光部を形成した後に、前記エッジ部まで広がるように前記半導体膜上に蛍光体を含む波長変換部材を塗布して前記半導体膜を埋設する波長変換部を形成する工程と、を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る半導体発光装置およびその製造方法によれば、支持基板のエッジ部が半導体膜の外側に配置され且つ波長変換部が支持基板のエッジ部にまで達しているので、波長変換部は、半導体膜の各コーナ部を覆う部分において十分な厚さを有することができ、半導体膜の各コーナ部上における発光色のむらを解消することができる。また、遮光部によって半導体膜の側面からの光放出が遮断され、また遮光部が傾斜面を形成して不要な蛍光体を励起が生じないように半導体膜の外側遠方に導くので、半導体膜の外周部における色むらも防止することができる。また、遮光部を光反射性を有する材料で構成することにより、光出力を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1(a)は、本発明の実施例に係る半導体発光装置の上面図、図1(b)は、図1(a)における1b−1b線に沿った断面図、図1(c)は本発明の実施例に係る半導体発光装置の部分的な断面図である。
【図2】本発明の実施例に係る半導体発光装置1の実装形態を示す断面図である。
【図3】比較例に係る半導体発光装置の断面図である。
【図4】図4(a)〜図4(d)は、本発明の実施例に係る半導体発光装置の製造方法を示す断面図である。
【図5】図5(a)および図5(b)は、本発明の実施例に係る半導体発光装置の製造方法を示す断面図である。
【図6】図6(a)〜図6(c)は、本発明の実施例に係る半導体発光装置の製造方法を示す断面図である。
【図7】本発明の実施例に係る半導体発光装置の部分的な断面図である。
【図8】比較例に係る半導体発光装置の構成を示す断面図である。
【図9】図9(a)は、本発明の実施例に係る半導体発光装置の上面図、図9(b)は、図9(a)における9b−9b線に沿った断面図、図9(c)は本発明の実施例に係る半導体発光装置の部分的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例について図面を参照しつつ説明する。尚、以下に示す図において実質的に同一又は等価な構成要素、部分には同一の参照符を付している。
【実施例1】
【0014】
図1(a)は、本発明の実施例1に係る半導体発光装置1を光取り出し面側からみた上面図、図1(b)は、図1(a)における1b−1b線に沿った断面図、図1(c)は半導体発光装置1の部分的な断面図である。
【0015】
支持基板10は、例えば厚さ100μm程度の導電性を有するSi等の半導体からなり、半導体膜20を支持するとともに半導体膜20に電流注入を行うための電流経路を形成する。支持基板10は、半導体膜20を支持する支持面が例えば一辺約1150μmの正方形形状を有している。支持基板10は、発光層から放射される光に対して不透明であり、支持基板10の側面からは光が放射されないようになっている。支持基板10は、例えば比較的高い反射率を有するAgなどからなる光反射層30およびAuSnなどの共晶接合材を含む接合層31を介して半導体膜20に接合される。光反射層30は、半導体膜20との界面において光反射面を形成し、発光層から発せられた光を光取り出し面側に向けて反射させる。支持基板10の裏面側には、例えばPt等からなる裏面電極12が設けられている。尚、支持基板10は、半導体膜20を支持し得る機械的強度と導電性を兼ね備える他の材料(例えば金属)などにより構成されていてもよい。
【0016】
半導体膜20は、例えば、III族窒化物系半導体からなるn型半導体層、発光層、p型半導体層が積層されて構成され、発光層において例えば波長460nm程度の青色光が生成されるようになっている。半導体膜20は、その主面が例えば一辺約1050μm程度の正方形形状を有しており、厚さが5μm程度である。半導体膜20は、光反射層30および接合層31を介して支持基板10に接合され、支持基板10の支持面の中央に配置される。支持基板10の支持面は半導体膜20の主面よりも大きなサイズを有しており、支持基板10のエッジ部は、半導体膜20の各側面の外側に配置される。半導体膜20の各側面と支持基板10のエッジ部との距離dはそれぞれ約100μm程度である。半導体膜20の表面には、半導体膜20にボンディングワイヤーを接続するためのボンディングパッド(図示せず)が設けられている。
【0017】
遮光部40は、半導体膜20の側面を覆い、半導体膜20の側面における光放出を遮断する。遮光部40は、例えば屈折率の比較的低いシリコーン樹脂にTiO等の光散乱材を分散させた光反射性を有する白色樹脂により構成される。尚、樹脂材料としてエポキシ樹脂、シリコーン樹脂とエポキシ樹脂を混合したハイブリッド樹脂、ウレタン樹脂を使用することも可能であり、光散乱材としてAl等を用いることも可能である。遮光部40は、光出力を向上させる観点から光反射性を有していることが好ましいが、光吸収性(低反射性)を有する材料(例えば黒色樹脂)により構成されていてもよい。遮光部40は、半導体膜20の外周を囲むように設けられ、半導体膜20の側面および半導体膜20の外側に延在する支持基板10の支持面を覆っている。遮光部40は、半導体膜20の側面から支持基板10のエッジ部に至る範囲に延在し、半導体膜20の側面から支持基板10のエッジ部に向けて下り方向の傾斜面を形成している。遮光部40の傾斜面は、遮光部40を構成する白色樹脂に作用する表面張力に起因する凹状曲面となっている。
【0018】
波長変換部50は、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂等の光透過性樹脂に蛍光体51を分散させた波長変換部材により構成される。蛍光体として、例えばYAGに付活剤としてCe(セリウム)を導入した黄色発光蛍光体(Y3Al5O12:Ce3+)を用いることができる。蛍光体は、半導体膜20の発光層から放射されるピーク波長が約460nmの青色光を吸収してこれを波長560nm前後に発光ピークを持つ黄色光に変換する。波長変換部50の光取り出し面からは、蛍光体から発せられた黄色光と、波長変換部50を透過した青色光が混ざることにより白色光が得られるようになっている。波長変換部50は、半導体膜20および遮光部40をその内部に埋設するように支持基板10上に設けられている。波長変換部50は支持基板10の各エッジ部にまで広がっており、支持基板10のエッジ部から半導体膜20の中央に向けて厚さが増大するドーム状(凸状)の曲面形状を有している。このような波長変換部50の形状は、液状の波長変換部材を半導体膜20上に適量滴下することによって形成することができる。尚、波長変換部50を構成する蛍光体は、半導体膜20の発光色に応じて適宜選択され、例えば緑色発光蛍光体(Y3(Al,Ga)5O12:Ce3+)または赤色発光蛍光体(CaAlSiN3:Eu)を用いることとしてもよい。
【0019】
図2は、本発明の実施例に係る半導体発光装置1の実装形態を示す断面図である。半導体発光装置1はパッケージ基板90上に搭載される。パッケージ基板90は、例えばCuやAlなどを基材とするメタルコア基板、ガラスエポキシ基板、AlまたはAlNなどからなるセラミック基板である。半導体発光装置1は、裏面電極12を接合面として、はんだまたは導電性ペーストなどを用いてパッケージ基板90に接合される。ボンディングワイヤー91は、半導体膜20のボンディングパッド(図示せず)とパッケージ基板上の導体配線(図示ぜず)とを電気的に接続する。半導体発光装置1への電力供給は、パッケージ基板90を介して行われる。
【0020】
本発明の実施例に係る半導体発光装置1において、支持基板10は半導体膜20の主面よりも大きいサイズの支持面を有するので、支持基板10のエッジ部が半導体膜20の側面よりも外側に配置される。波長変換部50は、半導体膜20の側面を越えて支持基板10のエッジ部にまで広がっているので、半導体膜20のコーナ部の上方においても十分な厚さが確保される。これにより、半導体膜20のコーナ部上から青色光が放射される問題を解消することができる。
【0021】
また、半導体膜20の側面は光反射性を有する遮光部40で覆われているので、発光層で生成され半導体膜20の側面に向かう光は、図1(c)に示すように遮光部40で反射され、半導体膜20の上面から放出される。これにより、投光方向が一定の方向に向けられる例えば車両用灯具の光源として本実施例に係る半導体発光装置1を使用した場合に光軸上の光出力を向上させることが可能となる。
【0022】
また、半導体膜20の外側に延在する支持基板10の支持面も光反射性を有する遮光部40で覆われているので、光出力を更に向上させることができる。すなわち、半導体膜20の外側に延在する支持基板10の支持面において支持基板10の母材(例えばSi)が露出していると、Si表面において光吸収が生じて光出力が低下する。本実施例のように半導体膜20の周囲の支持面をも光反射性を有する遮光部40で覆うことにより、このような光吸収を抑えることが可能となる。
【0023】
また、図3に示される比較例に係る半導体発光装置のように、半導体膜20の側面が遮光部材で覆われておらず且つ半導体膜20の外側に延在する支持基板10の支持面が高反射率を有するAgなどの光反射性金属で覆われている場合、半導体膜20の側面から出射された光は蛍光体と光反射性金属との間で多重反射され、その結果、半導体膜20の周辺部からは黄色味の強い光が放射され、発光色にむらが生じる。本発明の実施例に係る半導体発光装置1のように、半導体膜20の側面からの光放出を遮光部40で遮断することにより、そのような色むらの発生を回避することができる。また、半導体膜20の側面から支持基板10のエッジ部までの距離dは、波長変換部50に含有される蛍光体の平均粒径(30μm程度)よりも十分に大きく且つ遮光部40は支持基板10のエッジ部に向けて下り方向の傾斜面を有する。これにより、半導体膜20の周辺部に存在する蛍光体は遮光部40の傾斜面を伝って支持基板10のエッジ部の方に向けて移動する。すなわち、白色光の生成に寄与しない半導体膜20の周辺部に存在する蛍光体は、青色光が照射されない半導体膜20の上面よりも低位置の外側遠方に導かれる。このように、半導体膜20の周辺部に存在する白色光の生成に寄与しない不要な蛍光体は、励起が生じない領域に誘導されるので、半導体膜20の周辺部における黄色光の過剰な生成を防止することができる。尚、遮光部40を光吸収性(低反射性)の材料で構成した場合、上記した光出力を向上させる効果は減退するものの、発光色のむらを低減する効果は維持される。
【0024】
以下に、本発明の実施例に係る半導体発光装置1の製造方法について説明する。図4〜図6は、本発明の実施例に係る半導体発光装置1の製造方法を示す断面図である。
【0025】
(半導体膜形成工程)
はじめに、III族窒化物半導体結晶の成長を行うための成長用基板としてサファイア基板80を用意する。サファイア基板80をMOVPE装置に搬入し、サファイア基板80のサーマルクリーニングを行う。続いて、サファイア基板80上にMOVPE法(有機金属気相成長法)により、半導体膜20を形成する。具体的には、TMG(トリメチルガリウム)およびNHを供給してGaNからなるバッファ層を形成する。続いて、TMG、NHおよびドーパントガスとしてSiHを供給し、n型GaNからなるn型半導体層を形成する。続いて、n型半導体層の上に発光層を形成する。発光層は、InGaN/GaNからなる多重量子井戸構造を有していてもよい。この場合、InGaN/GaNを1周期として5周期成長を行う。具体的には、TMG、TMI(トリメチルインジウム)、NHを供給しInGaN井戸層を形成し、続いてTMG、NHを供給してGaN障壁層を形成する。かかる処理を5周期分繰り返すことにより発光層が形成される。次に、TMG、TMA(トリメチルアルミニウム)、NHおよびドーパントとしてCpMg(bis-cyclopentadienyl Mg)を供給し、p型AlGaNクラッド層を形成する。続いて、TMG、NHおよびドーパントとしてCPMgを供給しp型GaN層からなるp型半導体層を形成する(図4(a))。
【0026】
(光反射層形成工程)
スパッタ法などにより半導体膜20(p型半導体層)の表面に厚さ150nm程度のAg膜を形成した後、不要部分のAg膜を除去することによりAg膜のパターニングを行って、光反射層30を形成する。上記のパターニングによって光反射層30は、発光素子の1区画ごとに分割される(図4(b))。
【0027】
(分割溝形成工程)
半導体膜20に発光素子の1区画を画定する分割溝22を形成する。具体的には、半導体膜20の表面に分割溝22のパターンに対応した格子状の開口パターンを有するレジスト(図示せず)を形成する。次に、ウエハをRIE(反応性イオンエッチング)装置に投入し、Clプラズマによるドライエッチングにより上記レジストの開口部において露出している半導体膜20をエッチングして半導体膜20にサファイア基板80に達する格子状の分割溝22を形成する。分割溝22の形成により、半導体膜20は例えば一辺が1.05μmの正方形形状に分割される(図4(c))。
【0028】
(支持基板接合工程)
支持基板10として導電性を有するSi基板を用意する。支持基板10の半導体膜20が接合される表面にはAuSn等の共晶接合材を含む接合層31が形成される。支持基板10の他方の面には、裏面電極12を構成するPt層などが設けられる。半導体膜20上に形成された光反射層30と支持基板10上に設けられた接合層31とを密着させた状態で加圧しつつ約250℃程度で加熱することにより支持基板10と半導体膜20とを接合する(図4(d))。
【0029】
(成長用基板除去工程)
サファイア基板80を半導体膜20から剥離する。サファイア基板80の剥離には、レーザリフトオフ法を用いることができる。具体的には、サファイア基板80の裏面側(半導体層20の形成面とは反対側)からエキシマレーザを照射する。これによりサファイア基板10との界面近傍におけるGaN結晶がGaとNガスに分解し、サファイア基板80が半導体膜20から剥離する(図5(a))。
【0030】
(発光素子分割工程)
サファイア基板80を剥離することで表出した半導体膜20の表面にAu、Ag又はAl等の金属をスパッタリング法等により堆積した後、これをフォトリソグラフィー技術によりパターニングを施すことにより、半導体膜20の表面にボンディングパッド(図示せず)を形成する。次に、ダイシング法などにより、分割溝22に沿って支持基板10を切断することにより、支持基板10と半導体膜20を含む積層体(以下この積層体を発光素子と称する)をチップ状に個片化する。支持基板10は、半導体膜20を支持する支持面のサイズが半導体膜20の主面のサイズよりも大きくなるように分割される。半導体膜20の側面から支持基板10のエッジ部(切断面)までの距離は、例えば100μm程度である(図5(b))。
【0031】
(発光素子実装工程)
上記各工程を経て形成された支持基板10および半導体膜20を含む発光素子1aをパッケージ基板90上に搭載する。パッケージ基板90と発光素子1aとの接合には、例えばはんだ又はAgペースト等の導電性接着剤を用いることができる。裏面電極12は、パッケージ基板90上に形成されたダイパッド(図示せず)と電気的に接続される。次に、半導体膜20の表面に形成されているボンディングパッド(図示せず)と、パッケージ基板90上に形成されている導体配線(図示せず)とをボンディングワイヤー91で接続する(図6(a))。
【0032】
(遮光部形成工程)
シリコーン樹脂とTiO等からなる光散乱粒子を混合した遮光部材としての白色樹脂を用意する。ディスペンス法などにより白色樹脂を半導体膜20の外周部に塗布することにより半導体膜20の各側面および半導体膜20の外側に延在している支持基板10の支持面を白色樹脂で覆う。ディスペンスノズルを半導体膜20の外周に沿って走査させることにより、白色樹脂は半導体膜20の側面と支持基板10のエッジ部の間の領域に半導体膜20の外周を囲むように供給される。白色樹脂は半導体膜20の側面を這い上がり、表面張力が作用することにより半導体膜20の側面から支持基板10のエッジ部に向けて凹状の下り傾斜面を形成する。その後、熱処理などによって白色樹脂を硬化させることにより遮光部40が形成される(図6(b))。尚、遮光部40を構成する樹脂材料としてエポキシ樹脂、ハイブリッド樹脂、ウレタン樹脂等を用いることが可能である。また光散乱粒子としてAlなどを用いることが可能である。
【0033】
(波長変換部形成工程)
エポキシ樹脂やシリコーン樹脂等の光透過性樹脂にYAG:Ce蛍光体を分散させた波長変換部材を用意する。ディスペンス法などにより波長変換部材を半導体膜20上に塗布する。波長変換部材は、支持基板10のエッジ部にまで濡れ広がる。半導体膜20および遮光部40は波長変換部材の内部に埋設される。波長変換部材は、表面張力の作用によって支持基板10のエッジ部から半導体膜20の中央に向けて厚さが増大するドーム状(凸状)の曲面形状を形成する。コーナ部を含む半導体膜20の全域が波長変換部材の比較的厚さの大きい部分で覆われる。
【0034】
波長変換部材を塗布した後、そのまましばらく放置しておくことにより光透過性樹脂内において蛍光体を沈降させてもよい。この場合、蛍光体51は、図7に示すように、半導体膜20および遮光部40上に堆積する。蛍光体を沈降させることにより、波長変換部材の厚さが厚い部分と薄い部分で蛍光体の密度を概ね均一とすることができ、発光色のむらを低減することができる。また、蛍光体を半導体膜20に接触させることにより、蛍光体の励起時に発生する熱を半導体膜20、支持基板10およびパッケージ基板90を介して外部に放出させることが可能となる。更に、蛍光体を沈降させることにより、遮光部40の傾斜面を利用して不要な蛍光体を半導体膜20の遠方に誘導する効果が促進される。蛍光体を沈降させた後、熱処理などによって波長変換部材を硬化させ波長変換部50を形成する(図6(c))。以上の各工程を経ることにより半導体発光装置1が完成する。
【0035】
本発明の実施例に係る半導体発光装置1の発光色を観測したところ、従来の半導体発光装置においてみられた半導体膜のコーナ部における青色光の放出は解消され、全体として色むらのない光を得ることができた。これは、本発明の実施例に係る半導体発光装置1において、半導体膜20の外側に支持基板10のエッジ部を配置するとともに支持基板10のエッジ部にまで波長変換部50の被覆範囲を拡大したことにより、半導体膜20のコーナ部上を覆う波長変換部50の厚さが十分なものとなったためである。また、半導体膜20の外周部において黄色味の強い光が生じることもなかった。これは、半導体膜20の側面を遮光部40で覆うことにより半導体膜20の側面からの光放出を遮断するとともに遮光部40に傾斜面を形成することによって半導体膜20の周辺部に存在する白色光の生成に寄与しない蛍光体を、青色光が照射されない半導体膜20の上面よりも低位置の外側遠方に誘導しているためである。
【0036】
表1は、本発明の実施例に係る半導体発光装置1と図8に示す比較例に係る半導体発光装置の順方向電流0.35A時の光出力を比較した結果である。比較例に係る半導体発光装置は、半導体膜20の側面が遮光部で覆われておらず、半導体膜20の外側に延在する支持基板10の支持面において支持基板10の基材であるSiが露出している点が、本発明の実施例に係る半導体発光装置1と異なる。本発明の実施例に係る半導体発光装置1によれば比較例のものよりも光束(lm)およびRf効率(lm/mW)が向上することが確認された。尚、Rf効率とは、白色光の光束(lm)を発光層から発せられる青色光の出力(mW)で割った値であり、青色光から白色光への変換効率を示す指標として用いられる。表1には、比較例に係る半導体発光装置の光束とRf効率をそれぞれ基準(1.00)とした場合の本発明の実施例に係る半導体発光装置1の光束およびRf効率の相対比を示した。このように、本発明の実施例に係る半導体発光装置1においてより高い光出力が得られたのは、半導体膜20の側面および支持基板10の支持面を覆うように光反射性を有する遮光部40を設けたことにより、半導体膜20の主面方向に向かう光を増大させるとともに支持基板10の支持面における光吸収を低減させたためである。
【0037】
このように、本発明の実施例に係る半導体発光装置によれば、発光色のむらを解消するとともに光出力の向上を図ることが可能となる。
【0038】
【表1】

【実施例2】
【0039】
図9(a)は、本発明の実施例2に係る半導体発光装置2を光取り出し面側からみた上面図、図9(b)は、図1(a)における9b−9b線に沿った断面図、図9(c)は半導体発光装置2の部分的な断面図である。
【0040】
半導体発光装置2は、支持基板10上に支持基板のエッジ部に沿って設けられた環状枠体60を有する点が上記した実施例1に係る半導体発光装置1と異なる。環状枠体60は、半導体膜20の外周を囲む壁面を形成する。遮光部40は、環状枠体60の壁面と半導体膜20の側面の間に白色樹脂を塗布することにより形成される。白色樹脂を環状枠体60の壁面と半導体膜20の側面の間に供給すると、白色樹脂は半導体膜20の側面と環状枠体60の壁面を這い上がる。白色樹脂に作用する表面張力によって遮光部40は、半導体膜20と環状枠体60の間の中央部が凹んだ凹状曲面を形成する。白色光の生成に寄与しない不要な蛍光体は、遮光部40の凹状曲面の底部に蓄積される。すなわち、実施例1に係る半導体発光装置1と同様、白色光の生成に寄与しない半導体膜20の周辺部に存在する蛍光体は、青色光が照射されない半導体膜20の上面よりも低位置の外側遠方に導かれ、半導体膜20の周辺部における黄色光の過剰な生成が防止される。
【0041】
環状枠体60は、光反射性を有していることが好ましく、例えば圧縮成形や切削加工などの方法により環状に成形されたセラミック部材やプラスチック部材を支持基板10上に接合することにより形成される。あるいは、環状枠体60は、エッチングなどの方法により支持基板10と一体的に成形されるものであってもよい。環状枠体60を設けることにより、白色樹脂が支持基板10のエッジ部からはみ出すことなく白色樹脂を塗布することが可能となり、製造歩留りの向上に寄与することができる。実施例2に係る半導体発光装置2においても、上記した実施例1に係る半導体発光装置1と同様、発光色のむらを解消するとともに光出力の向上を図ることが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1、2 半導体発光装置
1a 発光素子
10 支持基板
20 半導体膜
30 光反射層
40 遮光部
50 波長変換部
60 環状枠体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光層を含む半導体膜と、
前記半導体膜に光反射層を介して接合され且つ前記半導体膜を支持する支持面と前記半導体膜の側面よりも外側に配置されたエッジ部とを有する支持基板と、
前記半導体膜の側面と前記支持面の前記半導体膜の外側に延在する部分とを覆う遮光部と、
蛍光体を含み、前記半導体膜および前記遮光部を埋設するように前記支持基板上に設けられた波長変換部と、を有し、
前記波長変換部は、前記エッジ部から前記半導体膜の中央に向けて厚さが増大する曲面形状を有していることを特徴とする半導体発光装置。
【請求項2】
前記遮光部は、前記半導体膜の側面から前記支持基板のエッジ部に向けて下り方向の傾斜面を形成していることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光装置。
【請求項3】
前記エッジ部から前記半導体膜の側面までの距離は前記蛍光体の粒径よりも大であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体発光装置。
【請求項4】
前記遮光部は、光反射性を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の半導体発光装置。
【請求項5】
前記遮光部は、光散乱材を含む白色樹脂からなることを特徴とする請求項4に記載の半導体発光装置。
【請求項6】
前記遮光部の前記傾斜面は、凹状曲面であることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1つに記載の半導体発光装置。
【請求項7】
前記蛍光体は、前記遮光部の前記傾斜面上に存在していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の半導体発光装置。
【請求項8】
前記支持基板上において前記半導体膜を囲む壁面を形成する環状枠体を更に有し、
前記遮光部は、前記環状枠体の壁面と前記半導体膜の側面との間に設けられていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の半導体発光装置。
【請求項9】
発光層を含む半導体膜と、前記半導体膜に光反射層を介して接合され且つ前記半導体膜を支持する支持面と前記半導体膜の側面よりも外側に設けられたエッジ部とを有する支持基板と、を含む発光素子を用意する工程と、
前記半導体膜の側面と前記エッジ部との間に遮光部材を供給して前記半導体膜の側面を覆う遮光部を形成する工程と、
前記遮光部を形成した後に、前記エッジ部まで広がるように前記半導体膜上に蛍光体を含む波長変換部材を塗布して前記半導体膜を埋設する波長変換部を形成する工程と、を含むことを特徴とする半導体発光装置の製造方法。
【請求項10】
前記遮光部材は、光散乱材を含有する白色樹脂からなることを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記遮光部材は、表面張力によって前記半導体膜の側面から前記エッジ部に向けて下り方向の傾斜面を形成することを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記波長変換部材は、蛍光体を含有する光透過性樹脂からなり、前記蛍光体が前記光透過性樹脂内において沈降し、前記半導体膜上に堆積した後に硬化されることを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1つに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−110233(P2013−110233A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253442(P2011−253442)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】