説明

半導体結晶の製造方法及びその製造装置

【課題】引上げ法により結晶を成長させる際に、成長初期から成長完了までに亘って、融液の温度制御精度を安定に保ち、原料を無駄なく活用しつつ、外径の制御性の良い結晶を成長させる方法を提供する。
【解決手段】ルツボ5内に収容した原料8を加熱、融解し、ルツボ5内に得られた原料融液12に種結晶10を接触させつつ、種結晶10を引上げて単結晶13を得る、CZ法、LEC法を含む半導体結晶の製造方法において、ルツボ5とルツボ5を支持する支持部材4の間に、ルツボ5、原料とは異なる材質の介在物6を挿入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体結晶の製造方法及びその製造装置に関するものであり、特に、単結晶インゴット全長に亘ってその外形をよく制御するための半導体結晶の製造方法及びその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体単結晶の製造方法のひとつに引上げ法と称されるCZ法及びLEC法があり、SiやGaAs,InP等の単結晶成長に広く用いられている。
その一例として、図2を参照してLEC法でGaAs単結晶を製造する際の半導体結晶製造装置及びその製造方法について説明する。
図2に示すように、圧力容器からなる成長炉100には、単結晶を引上げるための引上げ軸(上軸)101が設けられ、引上げ軸101の先端に、種結晶(シード結晶)102が取り付けられる。引上げ軸101は、成長炉100の上方から炉内に挿入され、炉内に設置されているルツボ103に対峙される。
ルツボ103は、サセプタ104を介して回転及び昇降自在なペデスタル(下軸)105に支持される。
ルツボ103には、単結晶の原料106(以下、原料という)、例えば、III族原料、V族原料と、液体封止材107として、例えば、Bとが収容される。
ペデスタル105は、成長炉100の下方より引上げ軸101と同心に炉内に挿入され、サセプタ104はペデスタル105の上端に固定される。
ペデスタル105、引上げ軸101はそれぞれ回転装置(図示せず)により回転され、昇降装置(図示せず)により昇降される。
また、成長炉100には、原料106及び液体封止材107を溶融する加熱手段として、ヒータ108と、ヒータ108の温度を制御する温度コントローラと(図示せず)とが設けられ、ルツボ103内の原料106及び液体封止材107の温度を検出するための温度検出手段として熱電対109が設けられる。
ヒータ108は、サセプタ104を円周方向に沿って包囲するように炉内にサセプタ104と同心に設置され、熱電対109はペデスタル105の軸内上部に設置される。
【0003】
化合物半導体結晶を製造する際は、まず、炉内が所定圧の不活性ガス雰囲気に保持される。ルツボ103に原料としてIII族、V族原料を収容した場合、不活性ガスの圧力は、原料106からのV族原料の解離を防止する圧力に設定される。
次に、温度コントローラによりヒータ108が加熱される。
ルツボ103の温度がヒータ108の加熱により液体封止材107の溶融温度に到達すると、液体封止材107が溶融する。
ヒータ108の温度が原料106の溶融温度に到達すると原料106が溶融する。
このとき、液体封止材107の比重よりも、一般に、原料106の融液の比重が大きいので液体封止材により、原料融液の表面が覆われる。これにより、原料106の融液からのV族元素の解離が防止される。
結晶成長の際は、引上げ軸101の先端に固定された種結晶102を原料106の融液に接触させ、この状態で温度コントローラのフィードバック制御によってヒータ108の温度を徐々に低下させながらゆっくりと引上げていく。
こうすることで、結晶が成長し、成長結晶110が液体封止材107を貫いて引上げられていく。
【0004】
ところで、このような単結晶の引上げにおいては、一般に、引上げ及びペデスタルは、いずれも前記回転装置により相対的に回転される。
また、成長結晶の外径を一定に制御するため、成長結晶の単位時間当たりの重量増加量を検出し、これから結晶外径を算出して成長結晶の外形が目標の外径となるように、ヒータが温度コントローラによりフィードバック制御される。
【0005】
また、結晶成長の進行に伴ってルツボ内の融液が減少すると、必然的に液面位置が下がり、ヒータと結晶成長界面の位置関係が変化し、融液を効率良く加熱することが難しくなってしまう。このため、結晶の成長量から液面の低下量を算出してこれを補正するように昇降装置を制御し、ペデスタルを徐々に上昇させて、ルツボの位置を調整し、融液の液面を、ヒータの発熱帯に対して常に一定の位置に調節する制御が実行される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、結晶成長においては、結晶の成長につれて、温度制御の対象であるルツボ内の融液の量が徐々に減少していくため、温度制御のフィードバックにかかる時定数が短くなり、制御パラメータが最適値からずれていってしまうため、結晶外径の安定性が、成長結晶の尾部にいくに従って低下してしまうという問題がある。
また、結晶成長が進行すると、既に成長した成長結晶を通じての熱伝導によって融液から結晶へと流れる放熱量が増えていく。このため、ルツボの中の融液の残量が減少すると、結晶成長界面が融液中に張り出してきて、ルツボの底に接触し、成長が続行できなくなったり、少しの温度ゆらぎで融液全体が凝固して、結晶とルツボが固着してしまったりするという問題がある。
【0007】
これらの問題を回避するために、ヒータ温度を上げて融液の加熱量を増加させることが考えられるが、融液の加熱量を増加すると、温度が高くなって成長結晶の外径が細くなってしまったり、成長した結晶の表面が幅射で加熱されて結晶の分解が生じ、表面荒れを起こしてしまうなどの問題がある。
また、使い残した原料は、組成のずれや不純物汚染の問題があり、再利用ができないため、融液量が少なくなり過ぎないうちに、結晶成長を終了させると、原料の利用効率が低下し、収率が低下するという問題につながってしまう。
【0008】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、引上げ法により結晶を成長させる際に、成長初期から成長完了までに亘って、融液の温度制御精度を安定に保ち、原料を無駄なく活用しつつ、外径の制御性の良い結晶を成長させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、ルツボ内に収容した原料を加熱、融解し、前記ルツボ内に得られた原料融液に種結晶を接触させつつ、当該種結晶を引上げて単結晶を得る、CZ法、LEC法を含む半導体結晶の製造方法において、
前記ルツボと前記ルツボを支持する支持部材の間に、ルツボ、原料、支持部材とは異なる材質の介在物を挿入する半導体結晶の製造方法を提供する。
【0010】
本発明の第2の態様は、ルツボ内に収容した原料を加熱、融解し、前記ルツボ内に得られた原料融液に種結晶を接触させつつ、当該種結晶を引上げて単結晶を得る、CZ法、LEC法を含む半導体結晶の製造方法において、
前記ルツボと前記ルツボを支持する支持部材の間に、前記ルツボに収容した原料の熱容量の1/10以上の熱容量を有する介在物を収容する半導体結晶の製造方法を提供する。
【0011】
本発明の第3の態様は、ルツボ内に収容した原料を加熱、融解し、前記ルツボ内に得られた原料融液に種結晶を接触させつつ、当該種結晶を引上げて単結晶を得る、CZ法、LEC法を含む半導体結晶の製造方法において、
前記ルツボの底部又は前記ルツボを支持する支持部材のルツボ底部に接触する部位の少なくともいずれか一方に、前記ルツボに収容した原料の熱容量の1/10以上の熱容量を持たせる半導体結晶の製造方法を提供する。
【0012】
本発明の第4の態様は、第1の態様又は第2の態様において、
前記介在物を構成する材料が、前記ルツボに収容される原料融液と略等しい比熱を有する材料である半導体結晶の製造方法を提供する。
【0013】
本発明の第5の態様は、第1の態様又は第2の態様において、
前記介在物を構成する材料が、前記ルツボに収容される原料融液と略等しい熱伝導率を有する材料である半導体結晶の製造方法を提供する。
【0014】
本発明の第6の態様は、第1の態様又は第2の態様において、
前記介在物を構成する材料が、前記ルツボに収容される原料融液よりも大きい比熱を有する材料である半導体結晶の製造方法を提供する。
【0015】
本発明の第7の態様は、第1の態様又は第2の態様において、
前記介在物を構成する材料が、前記ルツボに収容される原料融液よりも小さい熱伝導率を有する材料である半導体結晶の製造方法を提供する。
【0016】
本発明の第8の態様は、第1の態様又は第2の態様において、
前記介在物を構成する材料が、粒状又は粉末状のセラミクス材料であることを特徴とする半導体結晶の製造方法を提供する。
【0017】
本発明の第9の態様は、第1の態様又は第2の態様において、
前記介在物を構成する材料が、粒状又は粉末状の金属材料であることを特徴とする半導体結晶の製造方法を提供する。
【0018】
本発明の第10の態様は、第1の態様又は第2の態様において、
前記介在物を構成する材料が、結晶成長温度において液体状の材料であることを特徴とする半導体結晶の製造方法を提供する。
【0019】
本発明の第11の態様は、第1の態様又は第2の態様において、
ルツボに収容する原料がIII−V族化合物であり、前記介在物を構成する材料がIII族金属であることを特徴とする半導体結晶の製造方法を提供する。
【0020】
本発明の第12の態様は、第1〜第3の態様のいずれかにおいて、
ルツボに収容した原料融液重量の90%以上を引上げて結晶化させる半導体結晶の製造方法を提供する。
【0021】
なお、本発明の第1〜12の態様において、ルツボ底部に配した前記介在物又は挿入物の熱容量を有する材料の温度を検知し、検知した信号を加熱ヒータにフィードバックして、原料融液の温度制御を行うことが望ましい。
【0022】
また、本発明の第1〜12の態様において、成長結晶の単位時間当たりの重量増加量を測定し、ここから結晶外径を計算して、目標とする外径になるよう、ヒータの温度にフィードバックする制御がかけられていることが望ましい。
【0023】
さらに本発明の第1〜12の態様において、結晶の成長量から液面の低下量を計算し、これを補正するようにルツボ位置を徐々に上昇させて、液面がヒータの発熱帯に対して常
に一定の位置になるように制御することが望ましい。
【0024】
本発明の第13の態様は、ルツボ内に収容した原料を加熱、融解し、前記ルツボ内に得られた原料融液に種結晶を接触させつつ、当該種結晶を引上げて単結晶を得るための、CZ炉、LEC炉を含む半導体結晶の製造装置において、
前記ルツボと前記ルツボを支持する支持部材の間に、ルツボ、原料、支持部材とは異なる材質の介在物を挿入した半導体結晶の製造装置を提供する。
【0025】
本発明の第14の態様は、ルツボ内に収容した原料を加熱、融解し、前記ルツボ内に得られた原料融液に種結晶を接触させつつ、当該種結晶を引上げて単結晶を得るための、CZ炉、LEC炉を含む半導体結晶の製造装置において、
前記ルツボと前記ルツボを支持する部材の問に、前記ルツボに収容した原料の熱容量の1/10以上の熱容量を有する介在物を収容した半導体結晶の製造装置を提供する。
【0026】
本発明の第15の態様は、ルツボ内に収容した原料を加熱、融解し、前記ルツボ内に得られた原料融液に種結晶を接触させつつ、当該種結晶を引上げて単結晶を得るための、CZ炉、LEC炉を含む半導体結晶の製造装置において、
前記ルツボの底部又は前記ルツボを支持する支持部材の、ルツボ底部に接触する部位に、前記ルツボに収容する原料の熱容晶の1/10以上の熱容量を持たせるように構成した半導体結晶の製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、引上げにより結晶を成長させる際に、成長初期から成長完了までに亘って、融液の温度制御精度を安定に保ち、原料を無駄なく活用しつつ、外径の制御性の良い結晶を成長させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明は、Si結晶やGe結晶のCZ法成長や、GaAs,InP,GaPなどのIII
−V族化合物半導体結晶のLEC法成長、及びその製造方法に適用される。
以下、発明の最良の形態として図1を参照して本発明に係るGaAs,InP,GaPなどのIII−V族化合物半導体結晶のLEC法に係る製造方法と製造装置について説明す
る。なお、本発明の実施の形態の説明では、本発明を説明するために、「熱容量」、「比熱」という用語を用いる。一般に、熱容量という呼び方は、比熱と同義に扱われることがあるが、本発明の実施の形態において、熱容量とは、(J/g・K)又は(cal/g・K)で表される材料の比熱と、(g)で表される重量との積によって求められる値を指すものとして、比熱とは区別して扱う。
【0029】
図1は本発明に係る製造装置としての成長炉(LEC炉)の構造を示す解説断面図である。
圧力容器から成る成長炉1には、上方側から引上げ軸2が挿入され、下方側からペデスタル3が挿入される。ペデスタル3及び引上げ軸2とは互いに同軸的に配置される。ペデスタル3及び引上げ軸2は、成長炉1に回転且つ昇降自在に支持されており、回転装置(図示せず)の回転駆動力によって回転され、昇降装置(図示せず)の駆動力によって昇降される。
ペデスタル3の上端にはこれに同心にサセプタ4が取り付けられる。
サセプタ4は、上方に開口する有底筒体状に形成され、ルツボ5と、介在物6とを収容している。介在物6は、原料8等の溶融の際に熱を蓄積し、結晶成長の際の原料融液12の液位低下の際に、サセプタ4とルツボ5の底部を介して蓄熱を原料融液12に放熱することによって、原料融液12の温度変動やゆらぎを抑制する蓄熱部材としてルツボ5の底面とサセプタ4のルツボ支持面との間に挿入され、ルツボ5の底面と支持部材であるサセ
プタ4とに接触される。
【0030】
炉内にはルツボ5を加熱するため、サセプタ4と同心にヒータ7が設けられる。
ヒータ7は、サセプタ4を円周方向に沿って取り囲むように、炉内に配置され、サセプタ4を胴部中心に加熱する第1加熱部7aと、サセプタ4を底部中心に加熱する第2の加熱部7bとから構成される。第2の加熱部7bは、サセプタ4の下面と所定間隔を隔ててサセプタ4の下面と対峙される。
【0031】
ルツボ5には、単結晶の原料(以下、原料という)8と液体封止材9とが収容され、引上げ軸2の先端に、単結晶を成長させるための種結晶10が取り付けられる。
原料8と液体封止材9は、ヒータ7の加熱によりルツボ5内で溶融される。
ペデスタル3内には、温度検出手段として熱電対11が設けられ、引上げ軸2に、成長結晶13の重量を検出するための重量検出手段として、例えば、ロードセル(図示せず)が取り付けられる。
熱電対11は、ヒータ7の温度をフィードバック制御する温度コントローラ(図示せず)の入力部に接続され、ロードセルは、昇降装置の昇降の制御により外形を制御する外形制御コントローラの入力部に接続される。
【0032】
前記サセプタ4、ペデスタル3は、例えば、グラファイトで構成され、ルツボ5は、PBNで構成される。
【0033】
前記介在物6は、結晶成長の後半以降での原料融液12の温度変動を防止するため、ルツボ5、原料8、サセプタ4とは異なる材質で構成され、介在物6の熱容量、熱伝導率、比熱が次のように決定される。
まず、原料融液12の液位が結晶引き上げ開始前の液位の1/10以下となると、原料融液12に温度変動が発生し易くなり、結晶成長の不具合が発生する。このため、介在物6の熱容量は、ルツボ5に投入された原料8の熱容量(比熱×重量(質量))の1/10以上に決定される。このようにすると、原料融液12の温度変動を、介在物6からの熱伝導により抑制することができる。
一方、介在物6の熱伝導率は、原料融液12が少なくなった時の原料融液12の温度変動を効率良く抑制するため、原料融液12と略等しいかそれ以下に決定され、原料融液12と略等しいかそれ以上の比熱の材料で構成される。介在物6を構成する材料の比熱を、原料融液12の比熱よりも大きくすると、介在物6をコンパクトに形成することができるので、ルツボ5の底部に熱容量を持たせるためのスペースを小さくしたい場合に対応することができる。
介在物6は、結晶成長温度において安定であり、昇華や蒸発、熱分解などが起こらず、ルツボ5やサセプタ4の材質と反応しない材料で形成される。
このような熱容量、熱伝導率、比熱等の熱物性の条件を満足する介在物6の材料としては、金属、セラミックスが好ましい。
【0034】
前記の熱物性の条件を満足する限り、前記介在物6は、ルツボ5の底面に密着する板状、盤状、又は粒子状、粉末状に形成され、ルツボ5とサセプタ4との間に介設される。介在物6を、粒子状や微粉末状の金属、セラミックス等から構成すると、ルツボ5の底部やサセプタ4との密着性が良くなり、温度むらが抑制されるので好ましい。また、他の形態としては、ルツボ5の底部を厚くすることによって、ルツボ5の底部に介在物6を一体に形成してもよいし、同様に、サセプタ4のルツボ支持部を厚くすることによって介在物6を構成してもよい。
【0035】
また、介在物6を結晶成長時の温度で液体となる金属で構成してもよい。この場合、原料融液12を構成する原料の一部と同じ原料で且つ揮発しない材料が好ましい。このよう
な材料としては、例えば、III族原料が挙げられる。
III−V族結晶を成長させる場合は、III族原料の比熱に基づいて熱容量を決定したIII
族原料の介在物6がルツボと支持部材であるサセプタの間に挿入され、結晶成長の後期には、加熱により融液化したIII族原料の介在物6から原料融液12に介在物6の蓄熱が供
給されることになる。
なお、成長結晶13がGaAsの場合に、介在物6は、GaAs融液と熱物性の近いIII族材料であるGa融液であることが望ましいが、Ga融液内の対流が原因で温度分布の
不安定性が現れる場合は、上述の粒状、粉体状、板状、盤状の介在物6を用いれば良い。Ga融液内に激しい対流が生じるかどうかは、挿入するGaの量と挿入空間の形状に依存するが、これはルツボ形状やチャージするGaAs原料量に依存し、一義的に決められるものではない。
【0036】
このように、介在物6が前記した熱物性の条件を満足すると、原料8の溶融の際に介在物6に蓄えられた熱により、結晶成長後期の原料融液12の温度変動やゆらぎが抑制されるので、引上げ法により結晶を成長させるLEC炉やCZ炉において、成長初期から成長完了までに亘って、原料融液12の温度制御精度を安定化することができ、原料8を無駄なく活用した外径の制御性の良い結晶を成長させることができる。
【0037】
次に、本発明に係る半導体結晶の製造方法について説明する。
この製造方法では、前記成長炉1を用いる。
まず、成長炉1のサセプタ4にルツボ5を収容する前に、サセプタ4に、前記介在物6を収容する。次に介在物6にルツボ5を載置する。ルツボ5には、熱容量が介在物6の熱容量の10倍の原料8、例えば、III−V族化合物半導体多結晶原料と、液体封止材9と
を投入する。
次に、成長炉1内を真空排気により減圧し、不活性ガスを導入して結晶成長に適した圧力の不活性ガス雰囲気とし、熱電対11の検出値及びヒータ7の設定値に基づく温度コントローラのフィードバック制御により、原料8及び液体封止材9を溶融させる。
液体封止材9及び原料8が溶融すると、結晶の引き上げを行う。
結晶成長の際は、引上げ軸2の先端に固定された種結晶10を原料融液12に接触させ、温度コントローラのフィードバック制御によってヒータ7の温度を徐々に低下させながら、前記回転装置により引上げ軸2及びペデスタル3を相対的に回転させると共に、前記昇降装置により引き上げ軸2をゆっくりと引上げていく。こうすることで、単結晶が成長し、成長結晶13が液体封止材9を通して引上げられていく。また、この際に、成長結晶13の外径を一定に制御するため、成長結晶13の単位時間当たりの重量増加量を測定し、これから結晶外径を計算して、目標とする外径になるよう、温度コントローラによりヒータ7の温度をフィードバック制御する。
さらに、結晶成長の進行に応じて、結晶の成長量から原料融液12の液面の低下量を計算し、これを補正するようにペデスタル3の昇降装置を制御してペデスタル3の位置を徐々に上昇させ、ルツボ5の位置を徐々に上昇させて、原料融液12の液面がヒータ7の発熱帯に対して常に一定の位置になるように制御する。
原料融液12の残量が、ルツボ5に投入した引き上げ前の原料8の1/10になっても、介在物6の蓄熱により、原料融液12の温度変動やゆらぎが抑制される。これにより原料融液12全体の凝固や、固液界面の張り出しに起因する成長結晶13とルツボ5との固着が防止され、また、成長結晶13の外形制御が良好になる。
また、介在物6の蓄熱により原料融液12の温度が安定化するので、温度の上がりすぎによる成長結晶13の細径化や成長結晶13の表面加熱に起因する結晶分解による表面荒れが防止されるので、原料8の90パーセント以上を良好な結晶状態で引上げることができる。
【0038】
(実施形態の効果)
(1)融液残量が1/10以下になっても原料融液12内の温度分布が大きく変化せず、また原料融液12の温度変動が抑えられて、成長結晶13の尾部とルツボ5の底との接触が回避され、残留する原料融液12の凝固を回避することができる。この結果、ルツボ5にチャージした原料8を無駄なく利用してその90%以上を単結晶インゴットとすることができる。
(2)また、原料融液12を含め、温度制御すべき対象物の熱容量が一定値以上に保ってヒータ7の温度制御精度を向上させることができるので、結果として、原料融液12の温度が結晶成長の最後まで安定し、成長結晶13の外径制御精度も向上する。
(3)原料融液12の温度が結晶成長終了時まで安定に保たれるので、成長結晶13の、特に結晶の尾部に近い側の表面がヒータ7からの輻射により炙られて過熱され、結晶が熱分解して荒れを生じるといった現象が軽減できる。成長結晶13の表面荒れは、結晶の外径不良による歩留りの低下につながる現象であるが、これを抑制することができる。
(4)原料融液12の温度が結晶成長終了時まで安定に保たれるので、成長結晶13の受ける熱履歴にばらつきがなくなり、結晶の頭部〜尾部間の特性ばらつきが軽減できると同時に、結晶間のばらつきも抑えることができる。
(5)結晶成長終了後にルツボ5に残る原料融液12が少なくて済むため、凝固、取り出しの際のルツボ5のダメージが少なくて済み、ルツボ5の寿命を向上させることができる。
(6)従来の成長炉(LEC炉、CZ炉)1に大きな変更を加えることなく簡便な方法で高い効果を上げることができる。
【0039】
なお、本発明の実施の形態では、GaAs,InP,GaPなどのIII−V族化合物半
導体結晶のLEC法に係る製造方法(引き上げ法)と製造装置について説明をしたが、これに限定されることなく、Si結晶やGe結晶、或いは酸化物等のCZ成長法に係る製造方法と製造装置に適用することができることは当然である。
【実施例1】
【0040】
まず、本発明の実施例1を図1を参照して説明する。
この実施例では、直径300mm径のPBN製のルツボ5に、原料8であるGaAs多結晶原料30kgと、液体封止材9であるBを3kg充填し、圧力容器である成長炉1内に設置した。
原料8を収容したPBN製のルツボ5は、グラファイト製のサセプタ4に収納した。このとき、サセプタ4の底部には、予め、熱容量を持たせるための介在物6として、金属Gaを、4kg収容した。
30kgのGaAsの原料融液12の熱容量は、約13kJ/deg、介在物6である4kgの金属Gaの熱容量は、約1.7kJ/degであり、比率は7.2:1である。
これらを収容したサセプタ4は、回転、昇降自在なグラファイト製のペデスタル3上に載置した。
ルツボ5に原料8をチャージした後は、成長炉1内雰囲気を真空引きにより排気した後、不活性ガスを充填した。
次に、ルツボ5内をGaAsの融点である1238℃以上まで昇温させ、原料8であるGaAs多結晶原料を融解させた。このとき、炉内の圧力は、0.3MPaとした。
次に、引上げ軸2を下げ、種結晶10の先端を原料融液12に接触させ、温度を十分なじませた後、温度コントローラによりヒータ7の設定温度を3℃/hの割合で下げながら、種結晶10を8〜12mm/hの速度でゆっくりと引上げて行った。結晶成長時は、引上げ軸2及びペデスタル3により種結晶10とルツボ5とを回転させた。このとき、種結晶10の回転数は、時計まわりに10rpm、ルツボ5の回転数は、反時計まわりに20rpmとした。
結晶肩部14の成長が終了し、直径が約160mmになったところで外形制御コントローラにより、成長結晶13の外径の自動制御を開始した。これは、成長した結晶の重量を
、引上げ軸2に設置したロードセルでリアルタイムに計測し、単位時間当たりの重量の増加分と引上げ軸2の移動量から結晶の外径をモニタし、外径が設定した値になるように、ヒータ7の温度制御を行う温度コントローラにフィードバックを行うものである。
結晶成長中は、成長量の増加に伴い融液量が徐々に減少し、液面位置が低下していく。これを補正すべく、前述のロードセル出力から液面の低下量を計算し、常に液面がヒータ7に対して定位置に来るように、ルツボ5を自動で上昇させる制御を行った。
こうして成長させた結晶は、チャージした原料8の95%が引上げられた時点でヒータ7の温度を上昇させ、結晶の尾部形状を形成した後、結晶を原料融液12から切り離した。
【0041】
成長した結晶の重量は、最終的に29kgあり、チャージした原料8の約97%を引上げることができた。
引上げられた結晶の外径は、160mmの目標値に対して、頭部〜尾部に亘って全域で±3%以内の変動に抑えられていて、非常に制御性が良好であった。
【0042】
上記と同条件で、20回の結晶成長を行った。熱容量を持たせるための介在物(挿入部材)6として入れた金属Gaは、毎回同じものを繰り返し使用したが、全く問題なく使用することができた。
結晶の外径の制御性、再現性は良好で、全ての結晶で160mm±5%以内の変動に抑えることができた。
また、結晶成長界面がルツボ5の底に接触したり、原料融液12が突然凝固したりすることも一度も発生しなかった。
<比較例>
比較例として、熱容量を持たせるための介在物6を使用せずに、結晶成長を行った。サセプタ4の底に熱容量を持たせる介在物6である金属Gaを使用しない以外は、実施例1と全く同条件で10回の成長を行った。
10回の内9回はGaAs結晶を引上げることができたが、1回は、原料8の91%が引き上がった時点で、結晶の成長界面がルツボ5の底に接触し、引き続いて原料融液12全体が凝固してしまって、まともな結晶を得ることができなかった。
また、得られた9本の結晶も、結晶の尾部に近づくほど外径の制御性が悪くなる傾向が見られ、最も外径変動の大きい結晶では、160mmも制御目標に対して+7%〜−10%もの変動幅となってしまった。
【実施例2】
【0043】
次に、本発明の他の実施例2を説明する。
成長炉は実施例1と同じ成長炉1を用いた。
この実施例では、直径300mm径のPBN製のルツボ5に、原料8としてGaAs多結晶原料を24kgと液体封止材9であるBを2.5kg充填し、圧力容器である成長炉1内に設置した。
原料8を収容したPBN製のルツボ5は、グラファイト製のサセプタ4に収納した。このとき、サセプタ4の底部には、あらかじめ、熱容量を持たせるための介在物6として、#400の粒径のアルミナ(Al)のセラミックス粉末を1kgを配置し、この上にルツボ5を支持させた。
24kgのGaAsの原料融液12の熱容量は、約104kJ/degであり、1kgのアルミナ粉末の熱容量は、約1.3kJ/degである。
これらを収容したサセプタ4は、回転、昇降自在なグラファイト製のペデスタル3上に載置した。
原料8と液体封止材9をルツボ5にチャージした後、成長炉1内は、真空引きにより炉内雰囲気を排気した後、不活性ガスを充填した。
次に、ルツボ5内をGaAsの融点である1238℃以上まで昇温させ、原料である多
結晶を融解させた。
続いて、引上げ軸を下げ、種結晶10の先端を融液に接触させ温度を十分なじませた後、ヒータ7の設定温度を3℃/hの割合で下げながら、種結晶10を8〜12mm/hの速度でゆっくりと引上げて行った。
結晶成長時の種結晶10の回転数は、時計まわりに10rpm、ルツボ5の回転数は、反時計まわりに20rpmとした。
結晶肩部14の成長が終了し、直径が約110mmになったところで外径の自動制御を開始した。これは、実施例1で用いたものと同じ制御機構である。
また、原料融液12の液面位置を一定に保つルツボ5の自動上昇制御も実施例1と同様に実施した。
こうして成長させた結晶は、チャージした原料8の95%が引上げられた時点でヒータ7の温度を上昇させ、結晶の尾部形状を形成した後、結晶を原料融液12から切り離した。
成長した結晶の重量は、最終的に23.5kgあり、チャージした原料8の約98%を引上げることができた。引上げられた結晶の外径は、110mmの目標値に対して、頭部〜尾部に亘って全域で±3%以内の変動に抑えられていて、非常に制御性が良好であった。
上記と同条件で、10回の結晶成長を行った。熱容量を持たせるための介在物6としてルツボ5の底面とペデスタル3との間に介設したアルミナ粉末は、毎回同じものを繰り返し使用したが、まったく問題なく使用することができた。
結晶の外径の制御性、再現性は良好で、全ての結晶で110mm±4%以内の変動に抑えることができた。
また、結晶成長界面がルツボ5の底に接触したり、融液が突然凝固するようなことも1度も発生したりしなかった。
【0044】
このように、GaAsの引上げ結晶成長において、成長結晶13が、ルツボ5にチャージした原料8の重量の90%以上の重量になると、言い換えると、原料融液12の残量が、成長開始前の10%以下になると、とたんに結晶とルツボ5の底が接触したり、残留した原料融液12の凝固といった問題が頻発するが、介在物6に、予め、原料8のl/10以上の熱容量を持たせておけば、融液残量がl/10以下になっても融液内の温度分布が大きく変化せず、また融液温度の変動が抑制され、上述のような問題となる現象が抑えられる。その結果、再現良く、結晶を成長させることができるようになる。また、温度制御すべき対象物である原料融液12の熱容量が一定値以上に保たれるということは、ヒータ7の温度制御精度が向上し、その結果として融液の温度が結晶成長の最後まで安定し、成長結晶13の外径制御精度も向上する。従って、ルツボ5の底部に持たせるべき熱容量は、チャージする原料重量のl/10以上とし、チャージした原料8の90%以上を結晶成長に供することで、本発明の効果が顕著に得られる。
[他の実施例、変形例]
実施例では、サセプタ4とルツボ5の底面との間に熱容量を持つ介在物6を挿入したが、サセプタ4の底部の肉厚を単純に厚くするだけでも、熱容量を増加させることができる。また、ペデスタル3の頂部を大きくすることで熱容量を増加させて、同様の効果を得ることもできる。
さらに、ルツボ5の底部に熱容量を持たせる際に、底部全域に均一に分布させるのではなく、中心部ほど熱容量が大きくなるように部材を配するといった、故意に分布を持たせるような変形例が考えられる。これにより、原料融液12内の温度分布を設計することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施の形態に係る半導体製造装置の断面摸式図である。
【図2】従来のLEC炉の断面模式図である。
【符号の説明】
【0046】
5 ルツボ
6 介在物
8 原料
10 種結晶
12 原料融液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルツボ内に収容した原料を加熱、融解し、前記ルツボ内に得られた原料融液に種結晶を接触させつつ、当該種結晶を引上げて単結晶を得る、CZ法、LEC法を含む半導体結晶の製造方法において、
前記ルツボと前記ルツボを支持する支持部材の間に、ルツボ、原料、支持部材とは異なる材質の介在物を挿入することを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項2】
ルツボ内に収容した原料を加熱、融解し、前記ルツボ内に得られた原料融液に種結晶を接触させつつ、当該種結晶を引上げて単結晶を得る、CZ法、LEC法を含む半導体結晶の製造方法において、
前記ルツボと前記ルツボを支持する支持部材の間に、前記ルツボに収容した原料の熱容量の1/10以上の熱容量を有する介在物を収容することを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項3】
ルツボ内に収容した原料を加熱、融解し、前記ルツボ内に得られた原料融液に種結晶を接触させつつ、当該種結晶を引上げて単結晶を得る、CZ法、LEC法を含む半導体結晶の製造方法において、
前記ルツボの底部又は前記ルツボを支持する支持部材のルツボ底部に接触する部位の少なくともいずれか一方に、前記ルツボに収容した原料の熱容量の1/10以上の熱容量を持たせることを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の半導体結晶の製造方法において、
前記介在物を構成する材料が、前記ルツボに収容される原料融液と略等しい比熱を有する材料であることを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の半導体結晶の製造方法において、
前記介在物を構成する材料が、前記ルツボに収容される原料融液と略等しい熱伝導率を有する材料であることを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2記載の半導体結晶の製造方法において、
前記介在物を構成する材料が、前記ルツボに収容される原料融液よりも大きい比熱を有する材料であることを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2記載の半導体結晶の製造方法において、
前記介在物を構成する材料が、前記ルツボに収容される原料融液よりも小さい熱伝導率を有する材料であることを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2記載の半導体結晶の製造方法において、
前記介在物を構成する材料が、粒状又は粉末状のセラミクス材料であることを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2記載の半導体結晶の製造方法において、
前記介在物を構成する材料が、粒状又は粉末状の金属材料であることを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2記載の半導体結晶の製造方法において、
前記介在物を構成する材料が、結晶成長温度において液体状の材料であることを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項11】
請求項1又は2記載の半導体結晶の製造方法において、
ルツボに収容する原料がIII−V族化合物であり、前記介在物を構成する材料がIII族金属であることを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜3いずれかに記載の半導体結晶の製造方法において、
ルツボに収容した原料融液重量の90%以上を引上げて結晶化させることを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項13】
ルツボ内に収容した原料を加熱、融解し、前記ルツボ内に得られた原料融液に種結晶を接触させつつ、当該種結晶を引上げて単結晶を得るための、CZ炉、LEC炉法を含む半導体結晶の製造装置において、
前記ルツボと前記ルツボを支持する支持部材の間に、ルツボ、原料、支持部材とは異なる材質の介在物を挿入したことを特徴とする半導体結晶の製造装置。
【請求項14】
ルツボ内に収容した原料を加熱、融解し、前記ルツボ内に得られた原料融液に種結晶を接触させつつ、当該種結晶を引上げて単結晶を得るための、CZ炉、LEC炉を含む半導体結晶の製造装置において、
前記ルツボと前記ルツボを支持する部材の問に、前記ルツボに収容した原料の熱容量の1/10以上の熱容量を有する介在物を収容したことを特徴とする半導体結晶の製造装置。
【請求項15】
ルツボ内に収容した原料を加熱、融解し、前記ルツボ内に得られた原料融液に種結晶を接触させつつ、当該種結晶を引上げて単結晶を得るための、CZ炉、LEC炉を含む半導体結晶の製造装置において、
前記ルツボの底部又は前記ルツボを支持する支持部材の、ルツボ底部に接触する部位に、前記ルツボに収容する原料の熱容晶の1/10以上の熱容量を持たせるように構成したことを特徴とする半導体結晶の製造装置。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−23867(P2009−23867A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187761(P2007−187761)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】