説明

半導体製造プロセス用吸光分析装置

【課題】半導体製造プロセスにおける排気ガス中の様々な物質が、水分計のセル中の反射鏡や窓に付着し、光学系における反射率や透過率を低下させ、分析感度が低下することを防止する。
【解決手段】半導体製造プロセス用吸光分析装置は、半導体製造プロセスの処理チャンバ39の排気流路に接続された流路切換え機構50と、レーザ光源からのレーザ光をセル内で多重反射させてガスによる吸光度変化を検出してプロセスガス中の水分濃度を測定する多重反射型水分濃度計測用吸光分析計51とを備えている。流路切換え機構50は、分析計51を経て排気される流路と、分析計51を経ないで排気されるバイパス流路とを切り換えるものである。その際、プロセスガス中のパーティクルを計測するパーティクル測定結果を流路切換えの判定基準として用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を利用してガス中の水分量を測定する装置に関し、特に、半導体の製造ラインにおいてプロセスガス中の水分濃度を一定値以下に抑えるために水分量を常時監視する半導体製造プロセス用吸光分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造プロセスでは、半導体基板(シリコンウエハ)表面に対して各種の微細加工や処理が行なわれる。その際、エッチングガス、エピタキシャル成長用の反応ガス、CVD(化学気相成長)用の反応ガスなどの多様なプロセスガスが用いられる。それらのプロセスガス中に水分が含まれると、プロセスガスと水分、又は基板表面と水分が反応して不要な副生成物が生じる結果、製造される半導体の歩留まりが著しく低下することが知られている。
【0003】
そのため、半導体製造プロセスにおいて、処理の安定性を確保するためにプロセスモニタを装着することが検討されている。その一つとして、排気口にモニタを装着し、排気ガスの成分を監視することにより、半導体製造プロセスの状態把握とロット内歩留まり、ロット間歩留まりの向上、処理の安定化を図ることが提案されている。
【0004】
通常、プロセスガスとしては反応性の高いガスを使用することが多いことから、その排気ガス中には、腐食性の高いガス、未反応物、水分等の反応性副生成物など、様々な物質が混ざっており、排気ガスを監視する場合は、その測定系においてハード面及びソフト面での対応が必要となる。
【0005】
排気ガスのモニタとしては、特に水分モニタが重要である。プロセスガス中に含まれる水分濃度を計測する方法として、例えば、水晶振動子の周波数変化を計測する水晶発振式や、ガス中の水分を吸着させて静電容量変化を計測する静電容量式が知られている。また、波長可変型のレーザを用いて赤外吸収分光法により水分濃度を測定するレーザ水分計も提案されている(特許文献1,2参照。)。
【0006】
上述のレーザ水分計は、サンプルセル内にサンプルガスを導入するとともに、サンプルセルに所定の波長を有するレーザ光を入射し、透過したレーザ光を解析することにより、水分の吸収波長でのレーザ光の強度から水分濃度を検出するものである。センサ部が測定対象ガスに非接触で測定可能であることから、水晶発振式や静電容量式のものとは異なり、腐食性ガスにも適用できるとともに、応答時間が高速であることを特徴とする。
【0007】
また、上述のレーザ水分計における排気ガス分析用セルでは、分析感度を上げるため、White式や、対向する2枚のミラー間で複数回反射するHerriott式(非特許文献1参照。)などが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−99845号公報
【特許文献2】特開平11−183366号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】D.R.Herriott, H.Kogelnik, and R.Kompfer, Appl. Opt. 3, 523(1964).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
半導体製造プロセスにおける排気ガス中には様々な物質が含まれており、これが水分計のセル中の反射鏡や窓に付着し、光学系における反射率や透過率の低下原因となり、分析感度が低下することが問題点として挙げられている。
【0011】
本発明は半導体製造プロセスの排気ガスモニタに使用する水分計の感度低下を抑えることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
排気ガス中の様々な物質の内、水分計の分析感度の低下に最も影響の大きいものがパーティクル(粉粒体物質)である。パーティクルは連続的に発生することは比較的稀であり、ロードロック室と処理チャンバ間のゲートバルブを開けた直後や、反応性ガスを導入した直後など、特定のタイミング時に起きることが多い。そこで本発明は、水分濃度測定に影響を及ぼすパーティクルが混入しないようにした。
【0013】
本発明の半導体製造プロセス用吸光分析装置は、半導体製造プロセスの処理チャンバの排気流路に接続された流路切換え機構と、前記流路切換え機構を介して接続され、レーザ光源からのレーザ光をセル内で多重反射させてガスによる吸光度変化を検出してプロセスガス中の水分濃度を測定する多重反射型水分濃度計測用吸光分析計とを備えている。そして、上記流路切換え機構は、排気流路を、分析計を経て排気される流路と、分析計を経ないで排気される流路(バイパス流路)との間で切り換えるものである。
【0014】
処理チャンバにはプロセスガス中に含まれるパーティクルを計測するパーティクルカウンタを備えていることが好ましい。流路切換え機構はパーティクルカウンタによるパーティクル測定結果を流路切換えの判定基準として用いるようにすることができる。
【0015】
分析計へのパーティクルの混入を自動的に防ぐため、上記流路切換え機構、上記パーティクルカウンタ及び上記分析計と通信可能に接続された制御部を備えるようにし、制御部はプロセスガス中に一定量以上のパーティクルが検出された場合に流路切換え機構を自動的に切り換えて、排気流路を上記分析計を経ないで排気されるバイパス流路に接続されるようにして、パーティクルが分析計内に付着することを防ぐようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、処理チャンバの排気流路に流路切換え機構を介して多重反射型水分濃度計測用吸光分析計を備え、排気流路を、分析計を経る流路とバイパス流路とに切り換えられるようにしたので、パーティクルの発生が一定レベル以上の場合、パーティクル濃度の高い排気ガスはバイパス流路を通過させ、分析計内の光学素子面にパーティクルが付着することを防ぐことで、感度低下を抑えて水分濃度を精度よく測定できるようになる。
【0017】
また、処理チャンバにパーティクルカウンタを備えるようにすれば、流路を切り換える際の判定基準として用いることができ、セル内の光学素子面にパーティクルが付着することを防止することで、水分濃度を正確に測定できるようになる。
【0018】
制御部を備えるようにすれば、分析計へのパーティクルの混入を自動的に防ぐことができるようになり、操作が簡単になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例を示す概略図である。
【図2】多重反射型水分濃度計計測用吸光分析計の一実施例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施例を説明する。
図1は半導体製造プロセスモニタ用吸光分析装置の概略図である。ウエハカセット31に収められているシリコンウエハ33は減圧環境に移行させるためのロードロック室35に入れられる。ロードロック室35にはドライポンプ57が接続されており、内部を減圧することが可能である。
【0021】
ロードロック室35はゲートバルブ37を介してシリコンウエハにプロセスガスを処理する反応室(処理チャンバ)39と接続されている。ゲートバルブ37はロードロック室35の圧力が反応室39内にウエハを移送可能な圧力(通常100mTorr〜50mTorr)になったときに開かれる。
【0022】
反応室39の下流側には主排気ポンプ47が接続されており、さらに下流に接続されているドライポンプ55とともに、反応室39内を減圧するのに用いられる。
反応室39にはプラズマ処理に用いられる種々の反応性ガス類がバルブ41を介して供給され、ウエハに種々のプロセスガスを用いて処理できるようになっている。また、反応室39には真空計43とパーティクルカウンタ45が接続されており、反応室39内の真空度とパーティクル数を計測できるようになっている。
【0023】
流路切換え機構50として用いられる切換え弁49及び切換え弁53は、主排気ポンプ47とドライポンプ55の間に接続されており、両弁49,53は分析計51の試料ガス導入口及び排出口に接続されているとともに、両弁49,53間を短絡する流路にも接続されている。両弁49,53は反応室39からの排気流路を、分析計51を経て排気される流路を構成する態様と、分析計51を経ないで両弁49,53間を短絡するバイパス流路を構成する態様との間で切り換えられる。弁49,53としては、例えば、Swagelock社の3方バルブ(SS68−XTF32)などを使うことができる。
【0024】
制御部59はパーティクルカウンタ45、流路切換え機構50及び分析計51に接続されており、通信可能になっている。
【0025】
分析計51としては多重反射型水分濃度計測用吸光分析計を用いる。次に分析計51として用いる多重反射型水分濃度計測用吸光分析計について説明する。図2は吸光分析計の概略断面図である。
試料ガスが導入される多重反射セル14の内側両端には、一対の対向した凹面ミラー15,16がレーザ光を多重反射するように配置されている。ミラー15,16はフランジ17a,17bにそれぞれ配置されている。
【0026】
レーザ光を照射する光源室5はセル14のミラー16側に隣接して配置されている。ミラー16とフランジ17bにはレーザ光の入射と出射のための光透過窓20aが設けられ、その光透過窓20aに対応する光源室5の壁面にもレーザ光の入射と出射のための光透過窓24が設けられている。光透過窓20aと24の一方又は両方には、レーザ光に対して透過性の石英板などからなる窓板が嵌め込まれて、セル14と光源室5の間が気密封止されている。光源室5の内部には光源部6と、光源部6から照射されたレーザ光を反射させて光透過窓24,20aからセル14内に導入するミラー7と、ホトダイオードなどからなる検出部9と、セル14内でミラー15,16により多重反射し光透過窓20a,24から出射したレーザ光を検出部9に導くミラー8とが備えられている。
【0027】
光源部6の光源にはレーザ光を使用する。これは、ハロゲンランプなどのランプ光源では、ミラー15,16の間で多重反射する間に光束の発散が大きくなり、充分な光量を取り出せないからである。
【0028】
光源部6と検出部9は光源室5の側面に設けられているコネクタ13を介し、レーザ光の波長を一定の走査周波数で走査する制御部25に接続されている。制御部25は図1の制御部59に接続されている。
【0029】
セル14には試料ガスを導入する試料ガス導入口18と、試料ガスを排出する試料ガス排出口19が設けられている。試料ガス導入口18と試料ガス排出口19は、それぞれ図1の切換え弁49と切換え弁53に接続されている。
【0030】
光源室5にはパージガスを導入するパージガス導入口4とパージガスを排出するパージガス排出口12が設けられており、N2などのドライガスがパージガス導入口4から導入され、パージガス排出口12から排出される。
【0031】
次に同実施例の動作を説明する。
[半導体製造プロセス]
ウエハ33はウエハカセット31からロードロック室35に移送される。ロードロック室35内において、ウエハ33を反応室39内に移送してもよい圧力(通常100mTorr−50mTorr)まで減圧する。ロードロック室35で減圧後、反応室39との間を仕切っているゲートバルブ37を開け、ウエハを反応室39内に移送する。
【0032】
反応室39の圧力は、ウエハ導入の際に若干の圧力変動があることから、所定圧力(数mTorr〜数百μTorr)まで主排気ポンプ47で下げておく。その後、反応性ガス類をバルブ41を介して反応室39に導入し、プラズマを点火することでウエハにプラズマ処理を行なう。
【0033】
反応室39においては、ウエハ表面とプラズマによって励起された反応ガス、励起された複数の反応ガス間など、複雑な反応系で処理が行なわれる。プロセス処理の間、反応室39内のガスは主排気ポンプ47によって常時排気され、分析計51を経て水分が監視されながら、不要な物質(例えば、未反応ガス、反応生成物、ラジカル等)は排出除去される。
【0034】
[水分濃度計測]
図2において、ドライガスは光源室5のパージガス導入口4から導入し、パージガス排出口12から排出される。光源室5の内部には水分等の成分が付着しないよう、充分にパージし、減圧しておくことが望ましい。
【0035】
試料ガスはセル14の試料導入口18から流して微量水分の測定を行なう。光源室5内の光源部6から出射されたレーザ光はミラー7で反射され、多重反射セル14に向かう。レーザ光は光透過窓24,20aを通過した後、対向して配置されているミラー15,16の内、まずミラー15に入射する。その後、ミラー15とミラー16の間で多重反射を繰り返す。多重反射後のレーザ光は光透過窓20a,24から取り出され、光源室5内のミラー8に入射して反射され、検出部9に入射して光電変換され、水分濃度が測定される。
【0036】
[流路切換え]
反応室39に接続されているパーティクルカウンタ45により、反応室39内のガス中のパーティクル数を計測し、一定レベル以上のパーティクルが計測された場合は流路切換え機構50を切り換え、反応室39からの排気ガスを、分析計51を経ないバイパス流路に流すようにする。
【0037】
半導体製造プロセスにおける排気ガスには様々な物質が含まれているが、水分濃度を計測することで、プロセスが適当に行なわれているか否かを判断することができる。
【0038】
本発明は、主排気ポンプ47と分析計51との間に切換え弁49,53を設置し、反応室39からの排気ガスを、分析計51を経る流路か分析計51を経ない流路かに選択して流すことができるようにした。それにより、個々の半導体製造プロセス及びモニタリングの特性に見合ったタイミングと量(時間制御)で、サンプルガスを分析計51に導入することができる。
【0039】
切換え弁49,53の切換えは、反応室39に取り付けられたパーティクルカウンタ45による計測結果を制御部59にフィードバックし、リアルタイムで、流路切換えのタイミングを決めるようにしてもよい。また、ダミーテストを行なって、パーティクルカウンタの計測結果から切換え弁49,53の切換えタイミングを予め求めておき、その予め求めたタイミングで手動又は自動により切換え弁49,53を切り換えるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は水分量を常時監視する半導体製造プロセス用吸光分析装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
4 パージガス導入口
5 光源室
6 光源部
7,8 ミラー
9 検出部
12 パージガス排出口
13 コネクタ
14 多重反射セル
15,16 ミラー
17a,17b フランジ
18 試料ガス導入口
19 試料ガス排出口
20a 光透過窓
25 制御部
31 ウエハカセット
33 ウエハ
35 ロードロック室
37 ゲートバルブ
39 反応室(処理チャンバ)
41 バルブ
43 真空計
45 パーティクルカウンタ
47 主排気ポンプ
49,53 切換え弁
50 流路切換え機構
51 分析計
55,57 ドライポンプ
59 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体製造プロセスの処理チャンバの排気流路に接続された流路切換え機構と、前記流路切換え機構を介して接続され、レーザ光源からのレーザ光をセル内で多重反射させてガスによる吸光度変化を検出してプロセスガス中の水分濃度を測定する多重反射型水分濃度計測用吸光分析計と、を備え、
前記流路切換え機構は、前記排気流路を前記分析計を経て排気される流路と前記分析計を経ないで排気されるバイパス流路との間で切り換えることを特徴とする半導体製造プロセス用吸光分析装置。
【請求項2】
前記処理チャンバにはプロセスガス中に含まれるパーティクルを計測するパーティクルカウンタが備えられている請求項1に記載の半導体製造プロセス用吸光分析装置。
【請求項3】
前記流路切換え機構、前記パーティクルカウンタ及び前記分析計と通信可能に接続された制御部を備え、前記制御部はプロセスガス中に一定量以上のパーティクルが検出された場合に前記流路切換え機構を自動的にバイパス流路に切り換えるものである請求項2に記載の半導体製造プロセス用吸光分析装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−190824(P2010−190824A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37549(P2009−37549)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】