説明

半田吸い上がりバリア部を持つ端子及びその製造方法

【課題】半田吸い上がり防止効果の高いバリア部を持つ端子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】半田吸い上がりバリア部を有する端子であって、X線電子分光法(XPS)による該バリア部表面のNi、Au及びOの検出強度百分率がスパッタリング時間=0のところで30%≦Ni/Au≦60%、及び50%≦O/Auを満足する端子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半田吸い上がりバリア部を持つ端子及びその製造方法に関し、とりわけ回路基板に半田で固定する電子部品用の半田吸い上がりバリアを持つ端子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板(PWB)への電子部品(例えばコネクタ、抵抗、IC、ダイオード、スイッチ、リレー等)の実装は半田付けにより行われるものが多い。例えば、挿入実装方式ではPWBに設けられた導通穴に端子を挿入して電子部品を搭載する面とは反対側の面で端子とPWB板上のランドとを半田付けし(フローソルダリング)、表面実装方式では電子部品をPWB板上の所定位置に装着してから炉で加熱し、あらかじめPWB板のランド上に塗布しておいたクリームハンダを溶融させて端子に半田付けする(リフローソルダリング)ことが一般的に行われている。
【0003】
近年、電子機器の小型化、高性能化ニーズの増大に伴いPWBへ搭載する電子部品の小型化、高密度実装化も進展している。これに応じて電子部品に使用される端子も小型化するので毛細管現象により半田付け時に半田が端子に吸い上がり易くなるが、この吸い上がりが過度に生じると電子部品の機能や性能を損なう恐れがある。例えば、コネクタでは半田付け部から半田が端子に吸い上がって遂には相手コネクタとの接点部に達することでコネクタの接続信頼性が損なわれたり、近隣の半田付け部に半田が達して短絡する半田ブリッジが生じたりし、或いは半田付け部に充分な量の半田が残らなくなるといった問題が生じ得る。そこで、半田の吸い上がりを防止するために種々の方法が過去に提案されてきた。
【0004】
従来、端子材料の表面に選択的にめっきを施すことによって半田吸い上がり防止部を形成する方法が行われてきた。これは、下地めっきとしてニッケル皮膜を端子材料の表面に形成することと、その上に接点部用及び半田付け部用に金めっき皮膜を形成すること(但し、金めっきを行う際に端子の一部をテープ等でマスキングし、マスキング部に金めっきが付かないように、すなわち、マスキング部はニッケルめっきが露出しているようにする。)とを含む方法である。ニッケルめっきは半田付け性が悪いので、コネクタ等の電子部品を半田付け実装する時に上記マスキング箇所が半田吸い上がり防止部となって半田の吸い上がりが防止できるというものである。
【0005】
これに対して、特開2004−152559号公報では上記のような選択的めっき方法が抱える滲みによるめっき位置精度の不足を指摘している。この問題点を克服するために、素材上に金などの表面めっきを施し、その後表面めっきの一部分を幅の狭い部分的な熱処理が可能なレーザー照射などによって素材と表面めっき皮膜とを相互に熱拡散させて素材とめっき皮膜による改質層を形成し、この部分を半田吸い上がり防止部とする方法が開示されている。この方法では表面めっきを施す前にNiなどの下地めっきを施す場合もある。実施例においては、リン青銅素材に下地ニッケルめっき及び金めっきを施した後、発振波長355nm、平均出力3wのレーザービームを照射して改質層を得ている。改質層からはEPMAによる元素分析で金元素が非照射部と大差ない強度で検出され、ニッケル割合の多いニッケル−金合金層が形成されたとしている。
【0006】
特開2004−152750号公報には、端子の全面に金めっきを施した後に所要の部分の金めっきを剥離して除去し、該除去部を半田吸い上がり防止部とした方法が開示されている。金めっきの剥離は剥離液への浸漬やレーザー照射により行うことが記載されている。また、該文献には下地めっきの表面に金めっきを施した半田付け端子の所要の部分を加熱することで金めっきの層に下地めっきの金属を拡散させてAu−Niの合金層を形成し、該加熱部を半田吸い上がり防止部とした方法が開示されている。該加熱もレーザー照射により行うことができるが金めっきの剥離よりは低出力とすることが記載されている。
【0007】
特開2004−277837号公報には、半田濡れ性の低い、あるいは半田が濡れない低濡れ性金属(ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金)からなる下側金属層の表面に、前記低濡れ性金属よりも半田濡れ性の高い高濡れ性金属(金、金合金、銀、銀合金)からなる上層側金属層が積層された処理対象物の表面に対して、その所定領域にレーザー光を照射し非半田付け領域とする表面処理方法が記載されている。レーザーの照射領域では前記高濡れ性金属と前記低濡れ性金属との混合層が露出することが好ましく、混合層におけるニッケル金との比率が55:45を境界とし、それ以上、金の比率が高くなると、半田濡れ性が高く、ニッケルの比率が高くなると、半田濡れが低くなることが記載されている。但し、ニッケル/金の比率の算出方法に関する記述はない。
【特許文献1】特開2004−152559号公報
【特許文献2】特開2004−152750号公報
【特許文献3】特開2004−277837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の先行文献に記載されているように、レーザー照射によってAuとNiの合金層を形成し、該合金層を半田の吸い上がりを防止する手法は有効であるが、未だその手法には改善の余地が存在すると考えられる。そこで、本発明はより端子の半田吸い上がり防止効果の高い半田吸い上がり防止部(以下、本明細書では「半田吸い上がりバリア部」又は「バリア部」という)を持つ端子及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0009】
また、半田吸い上がりが防止される条件は端子やコネクタといった電子部品の大きさ・形状により異なるため、半田吸い上がり防止効果は実際に半田濡れ性試験を行うことによって確認しているのが現状である。このような確認方法だと、異なる電子部品毎に、その都度条件出しが必要になり手間がかかってしまうという問題があった。そこで、本発明は半田濡れ性試験を行うことなく半田吸い上がり防止能力を評価することのできる方法を提供することを別の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、半田吸い上がりバリア部の最表面において、Ni及びAuの他にもOが半田吸い上がり防止効果に有意に影響を与えていることを見出し、Ni/Au及びO/Auが特定の範囲にあるときに特に優れた半田吸い上がり防止効果を奏することを突き止め、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は一側面において、半田吸い上がりバリア部を有する端子であって、X線電子分光法(XPS)による該バリア部表面のNi、Au及びOの検出強度百分率がスパッタリング時間=0のところで平均して30%≦Ni/Au≦60%、及び50%≦O/Auを満足することを特徴とする端子である。
【0012】
また、本発明は別の一側面において、半田吸い上がりバリア部を有する端子であって、XPSによる該バリア部表面のAu及びCの検出強度百分率がスパッタリング時間=0のところで0≦C/Au≦10%を満足することを特徴とする端子である。
【0013】
本発明の一態様においては、前記端子は半田付け部と接点部とを備え、前記半田吸い上がりバリア部が該半田付け部から該接点部までの間の1又は2以上の箇所に設けられる。
【0014】
本発明は更に別の一側面において、以下の(a)〜(b)の工程:
(a)ニッケル下地めっきと表面金めっきを端子の母材の少なくとも半田吸い上がりバリア部を設けようとする箇所に順に施す工程、
(b)該端子の半田吸い上がりバリア部を設けようとする1又は2以上の箇所を酸素の存在下で局部的に熱処理する工程、
を順次行うことを含む前記端子の製造方法である。
【0015】
本発明の一態様においては、前記熱処理はレーザー照射で行う。
【0016】
本発明の一態様においては、照射する前記レーザーの波長は300〜700nmである。
【0017】
本発明は別の一側面において、本発明に係る半田吸い上がりバリア部を有する端子を1個又は2個以上組み込んだ電子部品である。
【0018】
本発明の一態様においては、前記電子部品はコネクタである。
【0019】
本発明は更に別の一側面において、端子に形成された半田吸い上がりバリア部の半田吸い上がり防止能力を評価する方法であって、該バリア部表面におけるNi、Au及びOの検出強度比をX線電子分光法(XPS)により測定することを含む方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、より端子の半田吸い上がり防止効果の高い半田吸い上がり防止部を持つ端子を製造することが可能となる。
また、本発明によれば、半田濡れ性試験を行うことなく端子の半田吸い上がり防止能力を評価することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本明細書において、「半田吸い上がりバリア部」又は「バリア部」とは端子を回路基板等の目的物と半田付けする際に半田が該端子に必要以上に吸い上がってくる現象を防止するために端子表面に部分的に設けられた半田濡れ性の低い領域のことを意味する。
該バリア部は端子の1又は2以上の箇所に設けることができるが、該バリア部をバイパスして半田が半田付け部から接点部へと吸い上がる経路を遮断するのに充分な領域を有しているのが好ましい。
【0022】
本発明の一実施形態においては、端子は回路基板に半田付けにより接続される半田付け部と相手コネクタと接触する接点部を備え、随意的に絶縁体に固定される固定部を備える。この場合、半田吸い上がりバリア部は半田付け部から接点部までの間に設けられる(バリア部が半田付け部と接点部の境界を形成することもある。)が、半田が接点部まで端子を吸い上がることを防止する観点からは該バリア部を半田付け部に近い箇所に設けるのが好ましい。
【0023】
ここで、図1には本発明に係る端子の一例が示されている。この端子は表面実装方式によって基板に接続されるタイプのもので、半田付け部11が回路基板(図示せず)に半田付けされる。接点部12は相手コネクタに接触する部分である。固定部14が絶縁体(図示せず)に連結されることにより該端子が支持される。半田付けバリア部13は、接点部12と半田付け部11の中間部分に所望の幅tで端子の胴部を取り囲むように帯状に設けられている。端子の胴囲は例えば1〜2mmである。
【0024】
端子の母材としては、主に銅及び銅合金が用いられる。銅合金としては黄銅、りん青銅、ベリリウム銅、洋白、丹銅、チタン銅及びコルソン合金などが挙げられ、端子の要求特性に従い、適宜選択でき、何等制限されない。その他、鉄、鉄合金(例えばステンレス鋼)、高ニッケル合金などを用いることもできる。
【0025】
本発明に係る端子は、例えば、以下の(a)〜(b)の工程:
(a)ニッケル下地めっきと表面金めっきを端子の母材の少なくとも半田吸い上がりバリア部を設けようとする箇所に順に施す工程、
(b)該端子の半田吸い上がりバリア部を設けようとする1又は2以上の箇所を酸素の存在下で局部的に熱処理する工程、
を順次行うことを含む方法により製造することができる。
【0026】
上記のめっき及び熱処理を行う際の端子形状に制限はなく、プレス前に行っても良いが、半田吸い上がりバリア部を端子の全周に施すためには、破面へのめっき及びレーザー照射が必要となることからプレス成形後に行うのが好ましい。
【0027】
熱処理としては局部的な加熱が可能な方法であれば特に制限はないが、例えば、レーザーを照射することにより熱処理を行うことができる。
【0028】
本発明においては、「ニッケル下地めっき」にはNiめっきのほか、例えばNi−Pd合金、Ni−Co合金、Ni−Sn合金のようなニッケル合金めっきも含まれる。これらの中でもめっき速度が早い、コストが低い等の理由から特にNiめっきが好ましい。ニッケル下地めっきは銅合金母材の端子を用いた場合に母材が金めっきへ拡散し、それに伴う金めっきと銅との合金化を防ぐ働きや耐食性を向上させる働きがあることから一般的に施され、例えば電気ニッケルめっきや無電解ニッケルめっきのような湿式めっき、或いはCVDやPDVのような乾式めっきにより施すことができる。ニッケル下地めっきは必要に応じて端子表面の全面に又は選択的に施すことができるが、半田吸い上がりバリア部にNi成分を供給する観点から少なくとも該バリア部を設けようとする箇所には施すことが必要であり、ニッケル下地めっきの本来的目的である銅の拡散防止や耐食性向上という機能も充分に発揮するため、更には、端子の小型化が進展するにつれてバリア部を設けようとする箇所にのみ精度良くニッケル下地めっきを施すことが困難になりつつあることや生産効率を考慮すれば、端子の形態に応じて端子のほぼ全面又は全面に施されることが好ましい。ニッケル下地めっきは、単層でも二層以上の多層でもよく、その厚さは銅の拡散防止機能を充分に有するために、通常0.5〜5μmであり、好ましくは1〜3μmである。
母材が高ニッケル合金などニッケルを含有する場合にはニッケル下地めっきを省略する場合もある。従って、この場合は工程(a)のニッケル下地めっきというのは母材自体のことを意味することとする。
【0029】
本発明においては、「金めっき」にはAuめっきの他、Au−Co合金(例えばAu−0.5mass%Co)やAu−Ni合金(例えばAu−0.2mass%Ni)などの金合金めっきも含まれる。表面金めっきはニッケル下地めっきの上に施される。表面金めっきは例えば電気金めっきや無電解金めっきのような湿式めっき、或いはCVDやPDVのような乾式めっきにより施すことができる。表面金めっきは必要に応じて端子表面の全面に又は選択的に施すことができるが、半田吸い上がりバリア部にAu成分を供給する観点から少なくとも該バリア部を設けようとする箇所には金めっきを施すことが必要であり、半田付け部や接点部にも金めっきを施すのが一般的である。半田吸い上がりバリア部を設けようとする箇所における金めっきは厚くなり過ぎると熱処理によって充分にAu成分が内部に拡散しなくなる恐れがあり、コストも高くなる。一方、薄すぎると熱処理後の表面にAuが充分に残留しない場合がある。そこで、該箇所における金めっきの厚さは0.01〜0.05μm、好ましくは0.02〜0.03μmである。半田付け部には半田付け性や耐食性の向上の目的で0.015〜0.02μm程度のフラッシュめっきによる厚さで一般的に施され、接点部には耐食性の向上や接触抵抗の低下の目的で0.1〜0.2μm程度の厚さで一般的に施される。
従って、本発明の一実施形態においては、表面金めっきは端子の形態に応じて端子のほぼ全面又は全面に施される。この際、金めっきの厚さを必要に応じて部位ごとに変えても良く、接点部の厚さに揃えて一律に0.1〜0.2μm程度とすることもできる。
上記ニッケル下地めっきを端子のほぼ全面又は全面に施し、かつ表面金めっきも端子のほぼ全面又は全面に施す実施形態も採用することができる。
【0030】
表面金めっき後に封孔処理を行ってもよい。封孔処理は表面金めっきを施す際に発生し得るピンホールを塞いで端子の耐食性を向上させるために行う表面処理であり、当業者に知られた任意の方法で行うことができる。例えば、1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオールモノナトリウム0.01〜1wt%およびラウリル酸性りん酸モノエステル0.01〜1wt%に調整した封孔処理水溶液を用い、金めっき材を陽極として極間電圧Eが0.1〜5Vの範囲で直流電解する方法で行なう。
【0031】
電子部品の小型化及びそれに使用される端子の小型化に伴い、半田吸い上がりバリア部の微小化も求められており、1mm以下、更には0.1mm以下の幅でバリア部を形成することが要求されるまでに至っている。バリア部を形成するための局所的な熱処理を行う際、レーザー照射で行うと容易に照射位置、照射幅を精度よく行うことができるので、これらの方法を本発明に採用することによって半田濡れ性に優れ、且つ、微細なバリア部を有する端子を提供することができる。また、断面にもバリア部を形成することができるので、端子が立体形状でも同様な効果が得られる。
【0032】
熱処理を施された箇所が半田吸い上がりバリア部を形成する。理論によって本発明が限定されることを意図しないが、熱処理によってニッケル下地めっきのNi成分と表面金めっきAu成分が相互に拡散して端子表面にNi−Auの合金層を形成すると共に、空気中酸素がAu、Ni又はAu−Ni合金と酸化物を形成し、これらの存在がバリア部に低い半田濡れ性を付与しているものと考えられる。レーザー照射は端子の表面を荒くする。すなわち粗面化する効果もあり、これも半田濡れ性の低下に寄与している。
【0033】
半田吸い上がりバリア部表面におけるNi、Au、及びOの検出強度がX線電子分光法(XPS)によって測定してスパッタリング時間=0のところで30%≦Ni/Au≦60%、及び50%≦O/Au≦70%を満足するときに優れた半田吸い上がり防止効果が得られる。レーザーの照射強度を高めたり照射時間を長くしたりするほどAuの内部拡散が進展し、表面におけるAuの割合が減少する傾向にあるが、Ni/Au≦60%となるようなレーザー照射条件であれば素材の耐食性への影響はほとんど無視することができる。逆にAuに対するNiが低くなり過ぎるとバリア部に充分な半田濡れ性を付与することが困難となる。
Ni/Auは好ましくは30〜60%、より好ましくは40〜50%である。O/Auは好ましくは50%以上、より好ましくは50〜100%であり、典型的には50〜80%である。
【0034】
半田吸い上がりバリア部表面からはNi、Au及びOの他にもCが検出されることが通常であり、典型的には該バリア部表面のAu及びCの検出強度百分率はスパッタリング時間=0のところで0≦C/Au≦10%である。Cも半田吸い上がりバリア部の性能に影響を与える。C/Auは好ましくは0〜8%、より好ましくは0〜5%である。
Cの由来は定かではないが、一般には封孔処理を行うと処理液に含まれているC成分の寄与によってCの比率を高くすることができる。
【0035】
再度、図1を参照すると、一実施形態においてはニッケル下地めっき及び表面金めっきが半田付け部11、接点部12、半田吸い上がりバリア部13、固定部14を含む端子全面にそれぞれ施される。このような実施形態は、生産効率の向上の観点から有利である。この時点では端子全面が半田濡れ性の高い状態となっているが、その後に半田吸い上がりバリア部13がレーザー照射されることによって半田濡れ性の低い領域に変化する。
以下では、レーザー照射の条件のみについて詳述するが、当業者であれば該記述を参考にすることにより、他の方法により熱処理する場合の条件についても容易に思い付くものと考えられる。
【0036】
レーザー光線は単一波長でレンズにより照射幅を可変することができるため0.1mm〜0.5mm程度の精度で該バリア部を形成することが可能となる。レーザー照射の条件(例えばレーザーのモード、照射時間、ビーム幅、端子の走査速度及び照射角度など)を適宜調節することによって所望の表面組成を有する半田吸い上がりバリア部を形成することができるが、本発明に係るバリア部を形成するためのレーザー照射条件について以下に指針を示す。
【0037】
レーザーの発振モードは高出力を得るため、連続発振よりもパルス発振の方が好ましい。パルス発振する場合、レーザー照射されたバリア部には、波模様が発生する。波模様の平均波長が1〜15μm、より好ましくは3〜13μm、更により好ましくは5〜12μmとなるようにパルスで照射することによって特に半田吸い上がり防止効果の高いバリア部が得られる。1μm未満となるまで照射しなくてもバリア部の形成には充分であり、1μm未満になるまで照射しても無駄な照射が増加して生産性が低下する。また、金属材料内部の残留応力のバランスが崩れ、微小な端子では変形してしまうことがある。一方、15μmを超えると、レーザー照射が不充分でAuの拡散も不充分となり良好なバリア部が得られない。ここで「端子表面の波模様の波長」とは波模様と波模様の間隔のことを意味する。波模様の波長はレーザーの発振周波数、端子の走査速度によって調節することができる。波模様の方向には特に制限はない。
【0038】
有利なレーザー出力の範囲はニッケル下地めっきや表面金めっきの厚さにも左右されるが半田吸い上がり防止効果の観点から15A以上であるのが好ましく、より好ましくは17A〜30A、更により好ましくは18A〜25Aである。
【0039】
使用するレーザーの波長はAu及びNiのレーザー吸収率の理由により、300〜700nmが好ましく、より好ましくは400〜600nmである。
【0040】
その他、ビーム径や走査速度を調節することにより所望の幅及び深さの半田吸い上がりバリア部を形成することができる。該バリア部の幅tは半田吸い上がりを充分に遮断する観点から0.1〜1.0mm、好ましくは0.2〜0.5mmである。深さは0.5〜1.0μm、好ましくは0.1〜0.3μmである。ここで「深さ」とは部品の走査方向に直角方向の断面をSEM観察した時、レーザー照射により凹んだ部分のレーザー未照射部に対する深さをいう。
【0041】
レーザー照射角度は特に制限されるものではないが、端子の破面にも有効に照射できるようにするため、端子の各表面に対して40°〜70°が好ましく、より好ましくは45°〜60°である。レーザー照射角度の調整は、レーザー出射ユニットを直接傾けその傾斜角度を測定することにより行う。
【0042】
バリア部表面に検出されるNi、Au、O及びCの強度比の調整は例えば以下のようにして行うことができる。Auに対するNiの比率を高くしたい場合には走査速度を遅くし、逆に低くしたい場合には走査速度を速くする。また、Auに対するOの比率を高くしたい場合には走査速度を遅くし、逆に低くしたい場合には走査速度を速くする。Auに対するCの比率を高くしたい場合には走査速度を遅くし、逆に低くしたい場合には走査速度を速くする。
【0043】
本発明は一実施形態において、本発明に係る端子を1個又は2個以上組み込んだ電子部品である。電子部品としては例えばコネクタ、抵抗、IC、ダイオード、スイッチ、リレー等が挙げられる。本発明に係る端子を組み込んだ電子部品は挿入実装方式及び表面実装方式のいずれによって基板に接続してもよい。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明及びその利点をより良く理解できるように本発明に係る端子及びその製造方法の実施例を記載するが、これらは例示のためであって本発明が限定されることを意図するものではない。
【0045】
A.半田吸い上がりバリア部の作製
No.1
リン青銅を母材とする10mm×30mm×0.3mmの寸法の平板状試験片に湿式めっきによってスルファミン酸ニッケルの組成のニッケル下地めっきを2.5μmの厚さで均一になるように全面に施し、その上に湿式めっきによってAu―0.5mass%Coの組成の表面金めっきを0.02μmの厚さで均一になるように全面に施した。その後表1に記載の方法により封孔処理を行った。封孔処理液としてはラウリル酸性りん酸モノエステル0.1wt%に調整した封孔処理水溶液を用いた。
こうして得られた板材に対して、レーザー出射ユニットを60°傾斜させ、板材を5m/minの速度で走査させながら半田吸い上がりバリアの箇所にレーザー照射を行って半田吸い上がりバリア部を形成した。次に板材を140μm(ビーム幅)オフセットさせ、同様のレーザー照射を行ない照射幅が800μm以上になるまで繰り返す。
No.1について、レーザー照射後の外観を図2に示す。
レーザー照射の条件は以下とした。
モード:Qスイッチパルス発振
出力:20A−10kHz
波長:532nm
ビーム幅:140μm
照射角度:60°
走査速度:5.0m/min
雰囲気:大気中、常温、常湿
【0046】
No.2〜No.12
封孔処理条件、レーザー照射の条件をそれぞれ表1に記載の条件とした他はNo.1と同様の条件で半田吸い上がりバリア部を形成した。
【0047】
B.XPSによる半田吸い上がりバリア部表面の分析
Aで作製した各試験片について、Arスパッタにより洗浄した後に、アルバックファイ株式会社製型式5600MCXPS分析装置によってレーザー照射部の表面分析を行った。分析は各試験片につき2箇所に対して行ない、その平均値を検出強度として強度比を算出した。
測定条件:
・到達真空度:5×10-10Torr(Arガス導入時1×10-8Torr)
・「イオン線]
・イオン種:Ar+
・加速電圧1kV
・掃引面積:2×3mm
・スパッタリングレート:1min≒0.01μm、
・[X線]
・X線種:単色化Al kα
・出力300W
・検出面積:φ800μm
・試料入射角:45度(試料と検出器のなす角度)
結果を表1に示す。各元素の深さ方向のプロファイルを、No.1の試験片については図4に、レーザー未照射のNo.4については図5に示す。
【0048】
C.半田浸漬試験
Aで作製した各試験片に対して、レスカ社製型式SAT−5000のソルダーチェッカを用いて浸漬速度20mm/sec、浸漬深さ3.5mm、浸漬時間20sec、Sn−Pb半田(千住金属株式会社製)、溶融温度235℃、フラックス:ロジンエタノールの条件により半田浸漬試験を行った。試験終了後、試験片を室温で保管し、1時間後に半田が到達した最高点を半田吸い上がり高さとした。試験結果を表1に示す。これにより、本発明の条件を満たす半田バリア部をもつ試験片は半田の吸い上がり高さが低く抑えられていることが理解できる。No.1とNo.4の半田浸漬試験後の外観を図3に示す。
【0049】
D.耐食試験
Aで作製した各試験片に対して、素材の耐食性を調べるために以下の手順によりSO2試験を行った。
試験条件
SO2濃度:10ppm、温度:40℃、相対湿度:85%、試験時間:10時間
試験結果を表1に示す。これにより、レーザー照射条件を厳しくし、Auを表面から過剰に減少させると素材の耐食性を低下させることが分かる。
【0050】
考察
No.2はNo.1よりもレーザー波長を長くした例である。O/Auは規定範囲内にあるが、Ni/Auが低く、半田バリア性が悪化した。
No.3はNo.1よりも走査速度を若干速くした例であるが、O/Au及びNi/Auは共に規定範囲内にある。そのため、半田バリア性及び耐食性共に良好であった。
No.4はレーザー照射をしなかった例である。そのため、O/Au及びNi/Auが共に低くなり過ぎて、半田バリア性が悪化した。
No.5はNo.1よりも走査速度を若干遅くした例であるが、O/Au及びNi/Auは共に規定範囲内にある。そのため、半田バリア及び耐食性共に良好であった。
No.6は封孔処理を行わずNo.1よりも走査速度を遅くし、出力を高めた例である。O/Auは規定範囲内にあるが、Ni/Auが高く、耐食性が悪化した。
No.7は封孔処理を行わずNo.1よりも走査速度を速くした例である。Ni/Auは規定範囲内にあるが、O/Auが低く、半田バリア性が悪化した。
No.8は封孔処理を行わずNo.7と同様にNo.1よりも走査速度を速くした例である。Ni/Auは規定範囲内にあるが、O/Auが低く、半田バリア性が悪化した。
No.9はNo.1と同一条件で再度試験した例である。測定誤差の他に、Au及びNiの拡散、酸化進行のばらつきもあることから、Ni、O、Au及びCの検出強度に差が出たが半田バリア性及び耐食性共に良好であった。
No.10は表面金めっき後に表1の条件で封孔処理を長時間行った例である。O/Au及びNi/Auは共に規定範囲内にあるものの、C/Auが若干高い。そのため、半田バリア性がNo.1よりも低下した。
No.11は封孔処理を行わずNo.1よりも走査速度を遅くし、出力を高めた例である。O/Auは規定範囲内にあるが、Ni/Auが高く、耐食性が悪化した。
No.12は封孔処理を行わずAr雰囲気中でレーザー照射を行ない、No.1よりも波長を長くした例である。Ni/Auは規定範囲内にあるが、O/Auが低く、半田バリア性が悪化した。
【0051】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る端子形状の一例を示す。
【図2】No.1の試験片について、レーザー照射後の外観を示す。
【図3】No.1とNo.4の試験片について半田浸漬試験後の外観を示す。
【図4】No.1の試験片の表面における、XPS分析により得られた各元素の深さ方向のプロファイルを示す。
【図5】No.4の試験片の表面における、XPS分析により得られた各元素の深さ方向のプロファイルを示す。
【符号の説明】
【0053】
11:半田付け部
12:接点部
13:半田吸い上がりバリア部
14:固定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半田吸い上がりバリア部を有する端子であって、X線電子分光法(XPS)による該バリア部表面のNi、Au及びOの検出強度百分率がスパッタリング時間=0のところで平均して30%≦Ni/Au≦60%、及び50%≦O/Auを満足する端子。
【請求項2】
XPSによる前記バリア部表面のAu及びCの検出強度百分率がスパッタリング時間=0のところで0≦C/Au≦10%を満足する請求項1記載の端子。
【請求項3】
半田付け部と接点部とを備え、前記半田吸い上がりバリア部が該半田付け部から該接点部までの間の1又は2以上の箇所に設けられる請求項1又は2記載の端子。
【請求項4】
以下の(a)〜(b)の工程:
(a)ニッケル下地めっきと表面金めっきを端子の母材の少なくとも半田吸い上がりバリア部を設けようとする箇所に順に施す工程、
(b)該端子の半田吸い上がりバリア部を設けようとする1又は2以上の箇所を酸素の存在下で局部的に熱処理する工程、
を順次行うことを含む請求項1〜3何れか一項記載の端子の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理はレーザー照射である請求項4記載の方法。
【請求項6】
照射する前記レーザーの波長が300〜700nmである請求項5記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜3何れか一項記載の端子を1個又は2個以上組み込んだ電子部品。
【請求項8】
前記電子部品はコネクタである請求項7記載の電子部品。
【請求項9】
端子に形成された半田吸い上がりバリア部の半田吸い上がり防止能力を評価する方法であって、該バリア部表面におけるNi、Au及びOの検出強度比をX線電子分光法(XPS)により測定することを含む方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−251208(P2008−251208A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87660(P2007−87660)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(593148077)日鉱富士電子株式会社 (7)
【Fターム(参考)】