説明

半芳香族ポリアミド原料の製造方法および半芳香族ポリアミドの製造方法

【課題】芳香族ジカルボン酸成分を含む半芳香族ポリアミド原料を連続して安定供給し、少ないエネルギー使用量で半芳香族ポリアミドを連続して安定に製造することができる方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸および脂肪族ジアミンを、30質量%以下の水の存在下で加熱溶解する半芳香族ポリアミド原料の製造方法であって、加熱溶解を密閉下200℃以下の温度で行うことを特徴とする半芳香族ポリアミド原料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半芳香族ポリアミド原料の製造方法およびそれを用いた半芳香族ポリアミドの製造方法に関する。さらに詳しくは、半芳香族ポリアミドの連続重合プロセスの重合前段階における原料製造方法、およびかかる原料を連続重合する半芳香族ポリアミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などに代表される脂肪族ポリアミドは、その優れた特性を活かして衣料用、産業用繊維をはじめ、自動車分野、電気・電子分野、フィルムやモノフィラメントといった押出成形品などに広く使われている。しかし、高温環境下で用いられることが多いエンジニアリングプラスチックとしては必ずしも充分なものではない。一方で、ジカルボン酸成分が主として芳香族ジカルボン酸からなる半芳香族ポリアミドは、脂肪族ポリアミドに比べて、低吸水性、長期耐熱性、耐薬品性に優れるため、近年自動車用途やコネクター用途を中心とした需要が徐々に増加している。
【0003】
一般的に、ジカルボン酸とジアミンとからなるポリアミドは、次のようなプロセスを経て製造される。まず、ジカルボン酸とジアミンを水中で反応させて、ポリアミドの原料である塩水溶液を作る。次いでその塩水溶液を加熱して水分を蒸発させ、規定の濃度に濃縮する。濃縮された塩水溶液は、通常バッチ式の反応器に移送後、さらに加熱され、濃縮後に残存する水および重合により生じる縮合水を蒸発させてポリアミドを得る。芳香族ジカルボン酸成分を含む半芳香族ポリアミドの製造方法においては、その重合温度が高いため、分解・ゲル化が起こりやすい。そこで、塩水溶液を溶融状態で混練してプレポリマーとし、次いで固相状態で重合させる製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。このような溶融重合と固相重合を組み合わせたバッチプロセスでは、設備が煩雑になりメンテナンス面での不便さが課題となる。
【0004】
そこで、テレフタル酸および/またはイソフタル酸を含む塩水溶液を用いて半芳香族ポリアミドを連続的に重合する製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−228022号公報
【特許文献2】特開平03−17156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記先行技術に開示された製造方法では、水を多く含む半芳香族ポリアミド原料を使用しており、重合前の工程で半芳香族ポリアミド原料に含まれる水を蒸発濃縮により低減させている。蒸発濃縮はエネルギー効率の観点から好ましくない。エネルギー使用量の削減は、近年のCO削減の観点からも早急に改善が求められている。さらに、半芳香族ポリアミドの製造方法においては、連続プロセスで最も重要である供給安定性を低下させる要因となる。蒸発濃縮は、通常半芳香族ポリアミドの重合温度よりも低い温度領域で行われる。しかしながら、半芳香族ポリアミドは他の重合系ポリマーと比べて平衡定数が大きく、水の蒸発と同時に一部の重合反応が進行する。その結果、蒸発濃縮により、半芳香族ポリアミド原料の連続供給中に、オリゴマーが析出しやすくなる課題があった。
【0007】
本発明は、上記先行技術の問題点を解決し、芳香族ジカルボン酸成分を含む半芳香族ポリアミド原料を連続して安定供給し、少ないエネルギー使用量で半芳香族ポリアミドを連続して安定に製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸および脂肪族ジアミンを、30質量%以下の水の存在下で加熱溶解する半芳香族ポリアミド原料の製造方法であって、加熱溶解を密閉下200℃以下の温度で行うことを特徴とする半芳香族ポリアミド原料の製造方法である。また、かかる方法により得られる半芳香族ポリアミド原料を連続重合することを特徴とする半芳香族ポリアミドの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、半芳香族ポリアミド原料を連続して安定供給し、少ないエネルギー使用量で半芳香族ポリアミドを連続して安定に製造することができる。このため、従来の半芳香族ポリアミド原料および半芳香族ポリアミドの製造方法と比べエネルギー使用量の大幅な低減を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の半芳香族ポリアミド原料の製造方法および半芳香族ポリアミドの製造方法の詳細を説明する。半芳香族ポリアミド原料とは、芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとの塩と水とを少なくとも含有する。必要に応じて、後述する重合度調節剤や重合触媒などの添加剤をさらに含有してもよいし、前記ジカルボン酸と前記ジアミンとの低重合度の重合体を含有してもよい。なお、加熱溶解に処する前のジカルボン酸、ジアミン、水および必要に応じて添加剤を含む混合物を、以下「原料」と言う。
【0011】
本発明において、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸および脂肪族ジアミンは、半芳香族ポリアミドを構成する芳香族アミド単位、脂肪族アミド単位を形成するものであればよい。芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。テレフタル酸およびイソフタル酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。脂肪族ジカルボン酸としては、炭素数2〜18のものが好ましく、例えば、アジピン酸、セバシン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。アジピン酸およびセバシン酸が好ましく、アジピン酸がより好ましい。また、脂肪族ジアミンとしては、炭素数4〜14のものが好ましく、ヘキサメチレンジアミン(1,6−ジアミノヘキサン)、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,13−ジアミノトリデカン、1,14−ジアミノテトラデカンなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。ヘキサメチレンジアミンおよびペンタメチレンジアミンが好ましく、ヘキサメチレンジアミンがより好ましい。好ましい組合せとして、テレフタル酸とアジピン酸とヘキサメチレンジアミン、イソフタル酸とアジピン酸とヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。
【0012】
本発明の半芳香族ポリアミド原料の製造方法においては、原料の加熱溶解を密閉下200℃以下の温度で行うことが重要である。ここで、密閉下とは水蒸気などのガスの系外との出入りがないことをいい、例えば、連続式製造方法の場合、水蒸気などのガスの系外への留出や流入が防止されていればよく、原料の系内への供給や得られた半芳香族ポリアミド原料の系外への取出があってもよい。加熱溶解を密閉下で行うことにより、水の系外への留出を抑制し、加熱溶解中の重合反応を抑制することができ、それによって半芳香族ポリアミド原料の供給安定性を得ることができる。また、加熱温度が200℃を超えると、得られる半芳香族ポリアミド原料の平均重合度が高くなり、半芳香族ポリアミド原料の供給安定性を低下させる場合がある。加熱温度は190℃以下が好ましい。例えば、密閉条件下で加熱溶解時の加熱温度を180℃とした場合、得られる半芳香族ポリアミド原料の平均重合度は通常1未満となる。ここで、平均重合度とは1分子中の芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンの結合の数の平均値をいう。平均重合度が1未満の範囲では、半芳香族ポリアミド原料を長時間安定して連続供給することができる。
【0013】
本発明の半芳香族ポリアミド原料の製造方法において、原料中の水の量は、30質量%以下であることが重要である。ここで、原料中の水の量とは、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、水および必要に応じて添加剤を含む原料全体における水の質量%を言う。原料中の水の量が30質量%を超えると、半芳香族ポリアミド原料を用いて半芳香族ポリアミドを製造する際、エネルギー効率が低下することに加え、重合の進行を阻害する要因となる。エネルギー効率の観点からは、水の量はできる限り少ない方が好ましい。一方、原料をより低い温度で加熱溶解し、望ましくない重合反応をより抑制する観点からは、水の量は10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がより好ましい。
【0014】
また、原料の加熱溶解時の圧力は、原料の抑制を防止するため、常圧以上とすることが好ましい。加熱溶解時の圧力は、その時の溶解槽内の圧力を指し、一般的には、水を含む半芳香族ポリアミド原料が示す溶解平衡時の水蒸気圧で定まる。したがって、この圧力は、例えば、原料に含まれる水の量および加熱温度によって適宜調整することができる。また、必要に応じて、さらに窒素などの不活性ガスによる加圧を行ってもよい。
【0015】
本発明の半芳香族ポリアミド原料の製造方法において、原料を加熱溶解する装置は、密閉下で加熱することができる装置であれば特に制限がなく、従来公知の加熱装置を備えたバッチ式または連続式の反応釜を使用することができる。加熱溶解中に原料を撹拌することができるように、撹拌機を有することが好ましい。
【0016】
本発明の半芳香族ポリアミド原料の製造方法において、原料を加熱溶解する際には、酸素による着色および劣化を防止する目的で、加熱開始前に原料タンクまたは加熱装置などから酸素を除去することが好ましい。酸素を除去する方法は、特に制限はなく、バッチ式で真空にして窒素などの不活性ガスで置換する方法や、窒素などの不活性ガスをブローする方法など、公知の方法で酸素を除去すればよい。
【0017】
次に、上記方法により得られた半芳香族ポリアミド原料を連続重合する半芳香族ポリアミドの製造方法について説明する。半芳香族ポリアミド原料を連続重合して半芳香族ポリアミドプレポリマー(以下、「プレポリマー」と言う)を得て、プレポリマーをさらに連続重合して半芳香族ポリアミドを得る方法が好ましい。プレポリマーを連続的に得るために、半芳香族ポリアミド原料を連続的に重合装置に供給することが好ましく、バッチ式加熱装置を用いて原料を加熱溶解する場合には、バッファー槽を設けることが好ましい。かかる半芳香族ポリアミドの製造方法の例を、以下説明する。
【0018】
加熱溶解して得られた半芳香族ポリアミド原料は、加熱溶解装置の下流側に位置するバッファー槽に送られる。半芳香族ポリアミド原料を加熱溶解装置からバッファー槽へ送る方法は、特に制限はなく、従来公知のポンプによる送液方法や、加熱溶解装置とバッファー槽を均圧に保持することにより、自重によって送る方法などが挙げられる。バッファー槽に送られた半芳香族ポリアミド原料は、バッファー槽のさらに下流側に位置する重合装置に供給されるまで滞留することになる。そこで、バッファー槽の温度を200℃以下にすることが好ましい。バッファー槽の温度が200℃以下であれば、滞留中の重合反応の進行を抑制し、半芳香族ポリアミド原料の供給安定性を高く維持することができる。一方、半芳香族ポリアミド原料の析出を抑制するためには、バッファー槽の温度は140℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。
【0019】
バッファー槽の圧力は、半芳香族ポリアミド原料を滞留する時のバッファー槽内の圧力であって、主として、半芳香族ポリアミド原料中の水の量およびバッファー槽の温度によって決まる。したがって、この圧力は、例えば、半芳香族ポリアミド原料中の水の量およびバッファー槽の温度によって適宜調整することができる。
【0020】
バッファー槽に滞留している半芳香族ポリアミド原料は、定量供給可能なポンプを用いて、バッファー槽の下流に位置する重合装置に連続的に供給され、重合装置内で連続重合してプレポリマーとすることが好ましい。ここで言うプレポリマーとは、半芳香族ポリアミド原料の重合反応により得られるものであり、オリゴマー、未反応モノマー、水および重合反応によって生成する縮合水を含む混合物を言う。
【0021】
ここで得られるプレポリマーの相対粘度(ηr)は、通常1.1〜2.0である。次工程において高重合度化するために、プレポリマーの相対粘度は1.3以上が好ましく、1.4以上がより好ましい。一方、異常滞留による重合装置内でのゲル化物の生成を抑制するため、プレポリマーの相対粘度は1.9以下が好ましく、1.8以下がより好ましい。ここで、プレポリマーの相対粘度(ηr)は、JIS K6810に従って、試料を98%硫酸に0.01g/ml濃度で溶解し、25℃でオストワルド式粘度計を用いて測定した値である。
【0022】
プレポリマーを製造するときの反応温度は、通常260〜320℃である。反応時間を短縮するためには、反応温度は270℃以上が好ましく、280℃以上がより好ましい。一方、熱分解やゲル化物の生成を抑制するためには、反応温度は310℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。
【0023】
プレポリマーを製造するときの圧力は、通常0〜4MPa−G、好ましくは0.5〜3.5MPa−Gに保つように操作される。半芳香族ポリアミド原料の供給精度や設備費用の点から、圧力は低い方が好ましい。
【0024】
プレポリマーを製造するときの反応時間は、通常10〜90分間である。次工程において高重合度化や組成調整を容易にするために、反応時間は30分間以上が好ましい。一方、熱分解やゲル化物の生成、異常滞留を抑制するために、反応時間は60分間以下が好ましい。
【0025】
本発明において、プレポリマーを製造する重合装置は特に制限はないが、不必要な対流が起きないよう、縦型円筒状で内部を多孔板などで仕切られた重合装置が好ましく用いられる。プレポリマーを製造する重合装置には、圧力調整時に水とともにジアミンが流出して組成比がずれないよう、重合装置上部に精留塔などを設置し、ジアミンの流出を防止することができる。
【0026】
プレポリマーの製造において重合度調節を容易にするためには、重合度調節剤の添加が有効であり、半芳香族ポリアミド原料製造時に加熱溶解装置に添加することができる。重合度調節剤としては、例えば、有機酸および/または有機塩基などが挙げられ、これらを2種以上用いてもよい。有機酸としては、例えば、安息香酸、酢酸、ステアリン酸などが好ましく、安息香酸がより好ましい。また、有機塩基としては、炭素数4〜14の脂肪族ジアミンが好ましく、ヘキサメチレンジアミンがより好ましい。重合度調節剤の添加量は、原料であるジカルボン酸およびジアミンの合計モル数に対して0〜0.1倍モルが好ましく、0.0001〜0.05倍モルがより好ましい。
【0027】
プレポリマーの製造において、リン酸触媒も用いることができる。半芳香族ポリアミド原料製造時に加熱溶解装置に添加してもよいし、次工程の重合装置に追添加することもできる。リン酸触媒は、重合反応の触媒機能を有するものであり、具体的には、リン酸、リン酸塩、次亜リン酸塩、酸性リン酸エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステルなどが挙げられ、これらを2種以上用いてもよい。次亜リン酸塩を例示すると、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸マグネシウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸バナジウム、次亜リン酸マンガン、次亜リン酸ニッケル、次亜リン酸コバルトなどが挙げられる。酸性リン酸エステルを例示すると、モノメチルリン酸エステル、ジメチルリン酸エステル、モノエチルリン酸エステル、ジエチルリン酸エステル、プロピルリン酸エステル、イソプロピルリン酸エステル、ジプロピルリン酸エステル、ジイソプロピルリン酸エステル、ブチルリン酸エステル、イソブチルリン酸エステル、ジブチルリン酸エステル、ジイソブチルリン酸エステル、モノフェニルリン酸エステル、ジフェニルリン酸エステルなどが挙げられる。リン酸エステルを例示すると、トリメチルリン酸、トリエチルリン酸、トリ−n−プロピルリン酸、トリ−i−プロピルリン酸、トリ−n−ブチルリン酸、トリ−i−ブチルリン酸、トリフェニルリン酸、トリ−n−ヘキシルリン酸、トリ−n−オクチルリン酸、トリ(2−エチルヘキシル)リン酸、トリデシルリン酸などが挙げられる。これらの中で好ましいのは次亜リン酸塩であり、特に好ましいのは次亜リン酸ナトリウムである。リン酸触媒を添加する場合、その添加量は、プレポリマー100重量部に対して0.001〜5重量部が好ましく、0.01〜1重量部がより好ましい。
【0028】
発明において、プレポリマーを製造する重合装置から連続して安定的かつ定量的にプレポリマーを吐出するため、ギヤポンプ、ボールバルブなどの排出装置を使用して直結した重合装置に連続供給することが好ましい。プレポリマーをさらに連続重合する重合装置としては、二軸押出機が好ましい。
【0029】
本発明において、二軸押出機などの重合装置に連続供給されたプレポリマーは、通常、最終的に得られる半芳香族ポリアミドの融点+5〜+40℃、好ましくは融点+10〜+40℃の範囲で溶融混練され、重合反応により半芳香族ポリアミドを得る。重合反応速度を高めるため、温度は融点+5℃以上が好ましい。また、熱分解やゲル化物の生成を防止するため、温度は融点+40℃以下が好ましい。ここで、半芳香族ポリアミドの融点とは、DSC法により昇温速度20℃/分で測定して得られた融解曲線の最大値を示す温度を言う。
【0030】
二軸押出機には水を含んだプレポリマーが連続供給されるため、水は二軸押出機の供給口付近に設置されたリヤベントまたは第1ベントから連続的に除去することが好ましく、より安定した重合反応により高重合度化した半芳香族ポリアミドを容易に得ることができる。また、上記以外にも少なくとも1つ以上のベント口を設置し、プレポリマーの重合反応により発生する水と、ごく少量の未反応モノマーなどを系外に排出することにより、重合反応を進め、高重合度化された半芳香族ポリアミドを容易に製造することができる。なお、ベントでの排気は、通常ナッシュポンプなど公知の減圧・真空装置を用いて、減圧下で行なわれることが好ましいが、特に圧力に制限はなく、常圧下でも行なうことができる。
【0031】
本発明において、二軸押出機内の滞留時間は特に定めないが、半芳香族ポリアミドとして充分な粘度まで重合を進め、かつ長時間滞留による熱劣化や熱分解を抑制するため、1〜10分間が好ましく、1〜5分間がより好ましい。
【0032】
プレポリマー製造工程、半芳香族ポリアミド製造工程またはコンパウンド工程などの任意の工程において、必要に応じて触媒、耐熱安定剤、耐候性安定剤、酸化防止剤、可塑剤、離型剤、滑剤、結晶核剤、顔料、染料、他の重合体などを添加することもできる。添加剤をコンパウンドする場合は、生産性の点から、二軸押出機での重合と同時あるいは連続で行なうことがより好ましい。半芳香族ポリアミドの色調改善には、酸化防止剤の添加が有効であり、特に次亜リン酸ナトリウムおよびヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加が好ましい。
【0033】
本発明の製造方法によって得られる半芳香族ポリアミドは、従来のポリアミドと同様に、通常の成形方法によって成形品とすることができる。成形方法は特に制限はなく、射出成形、押出成形、吹き込み成形、プレス成形など公知の成形方法が利用できる。ここでいう成形品とは、射出成形などによる成形品の他、繊維、フィルム、シート、チューブ、モノフィラメント等の賦形物も含む。
【実施例】
【0034】
以下に実施例をあげて本発明を具体的に説明する。なお、実施例および比較例に記した特性の評価方法は以下のとおりである。
【0035】
(1)原料の均一溶解性:ガラス製オートクレーブに表1〜表2記載の原料仕込量の1/1000相当のモノマーおよび水を仕込み(グラム単位)、密閉条件下で加熱した。表1〜表2記載の原料溶解温度に到達した時点でオートクレーブ内部の溶解状態を目視観察した。固形物が全く認められない状態を均一溶液とし、液が白濁または部分的に結晶が析出している状態を不均一溶液とした。
【0036】
(2)相対粘度(ηr):JIS K6810に従って、試料を98%硫酸に0.01g/ml濃度で溶解し、25℃でオストワルド式粘度計を用いて測定した。
【0037】
(3)融点(Tm):DSC(PERKIN−ELMER製)を用い、試料8〜10mgを昇温速度20℃/分で測定して、得られた融解曲線の最大値を示す温度を融点とした。
【0038】
(4)平均重合度:加熱溶解して得られた半芳香族ポリアミド原料を密閉下で冷却固化させ、さらに乾燥処理して得られた試料のアミノ末端基濃度を後述の方法により測定した。重合反応が全く進行していない半芳香族ポリアミド原料の理論アミノ末端基濃度を732(10−5mol/g)、重合反応が進行して平均重合度が1である半芳香族ポリアミド原料の理論アミノ末端基濃度を366(10−5mol/g)とした時に、測定した試料のアミノ末端基濃度から下記A、Bに示す通り平均重合度を決定した。
A. 0<アミノ末端基濃度≦366 : 平均重合度1以上
B.366<アミノ末端基濃度≦732 : 平均重合度1未満
【0039】
(5)アミノ末端基濃度:乾燥させた試料0.1gを精秤し、PEA溶液(フェノール83.5:エタノール16.5、体積比)50mLを加えて振とう溶解後、0.02N塩酸を用いて滴定した。
アミノ末端基(10−5mol/g)=(A−B)×f×0.02×10−3/乾燥試料重量
A:滴定に要した0.02N塩酸量(mL)
B:空試験に要した0.02N塩酸量(mL)
f:0.02N塩酸の力価
【0040】
実施例1
撹拌機およびジャケット加熱機能を有する容積350Lの溶解槽に、実質的に水分を含まないヘキサメチレンジアミン69.0kgと水40.6kgを仕込んだ。続いて、実質的に水分を含まないアジピン酸40.7kgと、実質的に水分を含まないテレフタル酸52.5kgを仕込み、窒素置換を行った。さらに、重合触媒として、次亜リン酸ナトリウムを、最終的に得られる半芳香族ポリアミド100重量部に対して0.05重量部になるように添加した。また、重合度調節剤として、安息香酸を、ジカルボン酸とジアミンの合計モル数に対して0.0133倍モルとなるように添加した。この時、全部の仕込量に対する水含有率は20質量%であった。溶解槽を密閉系とし、内温が180℃に到達するまで加熱して、半芳香族ポリアミド原料を得た。この時、溶解槽の圧力は0.50MPa−Gまで上昇していた。続いて、半芳香族ポリアミド原料を、均圧配管によって溶解槽と圧力保持されているバッファー槽に自重によって送り、バッファー槽での滞留温度を160℃に保持した。上記の方法で得た半芳香族ポリアミド原料を、プランジャーポンプを用いて6.30kg/hrの供給速度で、4Lの縦型円筒状の重合装置に連続供給し、表1記載の条件でプレポリマーを連続重合した。次いで、二軸押出機で表1記載の条件で高重合度化を行い、半芳香族ポリアミドを得た。半芳香族ポリアミド原料の連続供給に問題は見られず、安定した連続供給ができた。得られた半芳香族ポリアミドの粘度(ηr)は2.45、融点301.0℃であり、24時間以上問題なく製造することができた。
【0041】
実施例2
水の仕込量を69.5kgに変更した以外は実施例1と同様にして、半芳香族ポリアミド原料を得た。全部の仕込量に対する水含有率は30質量%であり、溶解槽の圧力は0.58MPa−Gまで上昇していた。得られた半芳香族ポリアミド原料を用いて、実施例1と同様にしてプレポリマーを得て、半芳香族ポリアミドを得た。半芳香族ポリアミド原料の連続供給に問題は見られず、安定した連続供給ができた。得られた半芳香族ポリアミドの粘度(ηr)は2.24、融点は300.2℃であり、24時間以上問題なく製造することができた。
【0042】
実施例3
原料溶解時に内温が165℃になるまで加熱した以外は実施例2と同様にして、半芳香族ポリアミド原料を得た。全部の仕込量に対する水含有率は30質量%であり、溶解槽の圧力は0.40MPa−Gまで上昇していた。得られた半芳香族ポリアミド原料を用いて、バッファー槽での滞留温度を145℃に保持した以外は実施例2と同様にしてプレポリマーを得て、半芳香族ポリアミドを得た。半芳香族ポリアミド原料の連続供給に問題は見られず、安定した連続供給ができた。得られた半芳香族ポリアミドの粘度(ηr)は2.21、融点は299.0℃であり、24時間以上問題なく製造することができた。
【0043】
実施例4
水の仕込量を28.6kgに変更し、原料溶解時に内温が185℃になるまで加熱した以外は実施例1と同様にして、半芳香族ポリアミド原料を得た。全部の仕込量に対する水含有率は15質量%であり、溶解槽の圧力は0.55MPa−Gまで上昇していた。得られた半芳香族ポリアミド原料を用いて、バッファー槽での滞留温度を170℃に保持した以外は実施例1と同様にしてプレポリマーを得て、半芳香族ポリアミドを得た。半芳香族ポリアミド原料の連続供給に問題は見られず、安定した連続供給ができた。得られた半芳香族ポリアミドポリマーの粘度(ηr)は2.52、融点は300.5℃であり、24時間以上問題なく製造することができた。
【0044】
実施例5
実施例1と同様にして、半芳香族ポリアミド原料を得た。全部の仕込量に対する水含有率は20質量%であり、溶解槽の圧力は0.50MPa−Gまで上昇していた。得られた半芳香族ポリアミド原料を用いて、バッファー槽での滞留温度を220℃に保持した以外は実施例1と同様にしてプレポリマーを得て、半芳香族ポリアミドを得た。半芳香族ポリアミド原料の連続供給の最初の段階では問題はなかったが、連続供給開始して12時間後には供給不能となるトラブルが発生した。その間、得られた半芳香族ポリアミドポリマーの粘度(ηr)は2.47、融点は300.0℃であった。
【0045】
実施例6
撹拌機およびジャケット加熱機能を有する容積350Lの溶解槽に、実質的に水分を含まないヘキサメチレンジアミン70.4kgと水45.0kgを仕込んだ。続いて、実質的に水分を含まないセバシン酸49.2kgと、実質的に水分を含まないテレフタル酸60.4kgを仕込み、窒素置換を行った。なお、重合触媒として、次亜リン酸ナトリウムを、重合後に得られる半芳香族ポリアミド100重量部に対して0.05重量部になるように添加した。また、重合度調節剤として、安息香酸を、ジカルボン酸とジアミンの合計モル数に対して0.0133倍モルとなるように添加した。全部の仕込量に対する水含有率は20質量%であった。溶解槽を密閉系とし、内温が180℃に到達するまで加熱して、半芳香族ポリアミド原料を得た。この時、溶解槽の圧力は0.50MPa−Gまで上昇していた。得られた半芳香族ポリアミド原料を用いて、実施例1と同様にしてプレポリマーを得て、半芳香族ポリアミドを得た。半芳香族ポリアミド原料の連続供給に問題は見られず、安定した連続供給ができた。得られた半芳香族ポリアミドの粘度(ηr)は2.42、融点は303.0℃であり、24時間以上問題なく製造することができた。
【0046】
比較例1
水の仕込量を108.1kgに変更し、原料溶解時に内温が160℃になるまで加熱した以外は実施例1と同様にして、半芳香族ポリアミド原料を得た。全部の仕込量に対する水分含有率は40質量%であり、溶解槽の圧力は0.35MPa−Gまで上昇していた。得られた半芳香族ポリアミド原料を用いて、実施例1と同様にしてプレポリマーの連続重合、続けて二軸押出機での高重合度化を行った。半芳香族ポリアミド原料の連続供給に問題は見られず、安定した連続供給ができたが、二軸押出機での高重合度化においてベントアップが発生し、安定した連続運転ができなかった。
【0047】
比較例2
水の仕込量を18.0kgに変更し、原料溶解時に内温が220℃になるまで加熱した以外は実施例1と同様にして、半芳香族ポリアミド原料を得た。全部の仕込量に対する水含有率は10質量%であり、溶解槽の圧力は0.80MPa−Gまで上昇していた。また、この時の平均重合度は1以上であった。得られた半芳香族ポリアミド原料を用いて、バッファー槽での滞留温度を180℃に変更した以外は実施例1と同様にして重合装置に供給を試みたが、供給してすぐに配管中で半芳香族ポリアミド原料の析出固化が発生し、連続運転を停止した。
【0048】
比較例3
撹拌機およびジャケット加熱機能を有する容積350Lの溶解槽に、実質的に水分を含まないヘキサメチレンジアミン69.0kgと水162.2kgを仕込んだ。続いて、実質的に水分を含まないアジピン酸40.7kgと、実質的に水分を含まないテレフタル酸52.5kgを仕込み、窒素置換を行った。なお、重合触媒として、次亜リン酸ナトリウムを、重合後に得られる半芳香族ポリアミド100重量部に対して0.05重量部になるように添加した。また、重合度調節剤として、安息香酸を、ジカルボン酸とジアミンの合計モル数に対して0.0133倍モルとなるように添加した。全部の仕込量に対する水含有率は50質量%であった。溶解槽を加熱して、圧力を0.30MPa−Gに保持しながら、系内の水分を蒸発除去した。最終的に系内の水含有率が15質量%に到達するまで水分を除去し、半芳香族ポリアミド原料を得た。この時の平均重合度は1以上であった。得られた半芳香族ポリアミド原料を用いて、バッファー槽での滞留温度を180℃に変更した以外は実施例1と同様にして重合装置に供給を試みたが、供給してすぐに配管中で半芳香族ポリアミド原料の析出固化が発生し、運転を停止した。
【0049】
各実施例および比較例の原料仕込量、製造条件および評価結果を表1〜2に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸および脂肪族ジアミンを、30質量%以下の水の存在下で加熱溶解する半芳香族ポリアミド原料の製造方法であって、加熱溶解を密閉下200℃以下の温度で行うことを特徴とする半芳香族ポリアミド原料の製造方法。
【請求項2】
前記芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸および/またはイソフタル酸であり、前記脂肪族ジカルボン酸がアジピン酸および/またはセバシン酸であり、前記脂肪族ジアミンがヘキサメチレンジアミンおよび/またはペンタメチレンジアミンであることを特徴とする請求項1記載の半芳香族ポリアミド原料の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の製造方法により得られる半芳香族ポリアミド原料を連続重合することを特徴とする半芳香族ポリアミドの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載の製造方法により得られる半芳香族ポリアミド原料を、200℃以下の温度で加熱したバッファー槽から重合装置に連続供給することを特徴とする請求項3記載の半芳香族ポリアミドの製造方法。

【公開番号】特開2012−149238(P2012−149238A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−281412(P2011−281412)
【出願日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】