説明

半透明反射器

【課題】多層フォトニック構造体を含む半透明反射器を提供すること。
【解決手段】多層フォトニック構造体を含む半透明反射器であって、前記多層フォトニック構造体が、高屈折率誘電材料の複数のコーティング層と低屈折率誘電材料の複数のコーティング層とを含み、前記多層フォトニック構造体の高屈折率誘電材料の複数のコーティング層と低屈折率誘電材料の複数のコーティング層が[LH・・・(LH)N・・・L]構造(ここで、Lは低屈折率誘電材料の複数のコーティング層のうちの1つであり、Hは高屈折率誘電材料の複数のコーティング層のうちの1つであり、Nは正の整数である)で配置されており、前記多層フォトニック構造体は、電磁線の入射角範囲にわたって可視スペクトルの電磁線の波長に対して実質的に一定の反射率値を有する、半透明反射器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、半透明反射器に関し、より詳しくは、多層フォトニック構造体を含む半透明反射器に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の周波数バンドの電磁波、例えば、可視光を反射させるために、反射器が通常使用される。銀又はアルミニウムを通常含む反射性金属コーティングを有する平坦なガラス基材上に、可視光を反射するミラーを作製することができる。同様に、かかる反射性金属コーティングを使用して、入射光の一部、例えば50%を透過し、残りを1つの入射角、例えば45°で反射する半透ミラーを作製することもできる。かかるミラー及び半透ミラーは、導電性材料を含み、非可視スペクトル、例えばラジオ周波数スペクトルなどにおいて、望ましくない電磁干渉源として作用することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、非金属の半透明な反射器が望ましく、多層フォトニック構造体を含む代替的な半透明反射器が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一実施態様において、半透明反射器は、多層フォトニック構造体を含むことができる。多層フォトニック構造体は、高屈折率誘電材料の複数のコーティング層と低屈折率誘電材料の複数のコーティング層とを含む。多層フォトニック構造体の高屈折率誘電材料の複数のコーティング層と低屈折率誘電材料の複数のコーティング層は、[LH・・・(LH)N・・・L]構造で配置されている。Lは低屈折率誘電材料の複数のコーティング層のうちの1つである。Hは高屈折率誘電材料の複数のコーティング層のうちの1つである。Nは正の整数である。多層フォトニック構造体は、電磁線の入射角範囲にわたって可視スペクトルの電磁線の波長に対して実質的に一定の反射率値を有することができる。
【0005】
別の実施態様において、乗物は、通信システムと非金属の乗物コンポーネントを含むことができる。通信システムは、伝送信号を受信又は送信することができる。非金属の乗物コンポーネントは、多層フォトニック構造体を含むことができる。多層フォトニック構造体は、高屈折率誘電材料の複数のコーティング層と低屈折率誘電材料の複数のコーティング層とを含む。多層フォトニック構造体の高屈折率誘電材料の複数のコーティング層と低屈折率誘電材料の複数のコーティング層は[LH・・・(LH)N・・・L]構造で配置されている。Lは低屈折率誘電材料の複数のコーティング層のうちの1つである。Hは高屈折率誘電材料の複数のコーティング層のうちの1つである。Nは正の整数である。多層フォトニック構造体は、約0°〜約45°の電磁線の入射角範囲にわたって可視スペクトルの電磁線の波長に対して実質的に一定の反射率値を有することができる。多層フォトニック構造体は、伝送信号に対して実質的に透明であることができる。
【0006】
さらに別の実施態様において、非金属の乗物コンポーネントは、交互に配置された高屈折率誘電材料の複数のコーティング層と低屈折率誘電材料の複数のコーティング層とを含む多層フォトニック構造体を含むことができる。多層フォトニック構造体は、約0°〜約45°の電磁線の入射角範囲にわたって約400nm〜約800nmの可視スペクトルの電磁線の波長に対して実質的に一定の反射率値を有することができる。実質的に一定の反射率値の平均値は、目標反射率値から実質的に一定の反射率値の標準偏差の2倍の値を引いた差以上であることができる。実質的に一定の反射率値の平均値は、目標反射率値と実質的に一定の反射率値の標準偏差の2倍の値との和以下であることができる。実質的に一定の反射率値の標準偏差は反射率の約3%未満であることができる。目標反射率値は約51%〜約95%であることができる。
本明細書に記載の実施態様により示されるこれら及びさらなる特徴は、図面とともに以下の詳細な説明を参照してさらに十分に理解されるであろう。
図面に記載の実施態様は、事実上、例示のため及び代表的なものであり、特許請求の範囲により規定される主題を制限するものではない。例示的な態様についての以下の詳細な説明は、同様な構造が同様な参照番号で示されている以下の図面と併せて読んだ場合に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、本明細書において示し説明する1又は2以上の実施態様に係る乗物を概略的に示す。
【図2】図2は、本明細書において示し説明する1又は2以上の実施態様に係る多層フォトニック構造体を概略的に示す。
【図3】図3は、本明細書において示し説明する1又は2以上の実施態様に係る多層フォトニック構造体を概略的に示す。
【図4】図4は、本明細書において示し説明する1又は2以上の実施態様に係る多層フォトニック構造体への電磁線の入射角を概略的に示す。
【図5】図5は、本明細書において示し説明する1又は2以上の実施態様に係る多層フォトニック構造体を概略的に示す。
【図6】図6は、本明細書において示し説明する1又は2以上の実施態様に係る半透明反射器の反射プロファイルを概略的に示す。
【図7】図7は、本明細書において示し説明する1又は2以上の実施態様に係る多層フォトニック構造体を概略的に示す。
【図8】図8は、本明細書において示し説明する1又は2以上の実施態様に係る半透明反射器の反射プロファイルを概略的に示す。
【0008】
図1は、概して、多層フォトニック構造体を含む非金属の乗物コンポーネントを有する乗物の一実施態様を示す。この乗物は、一般的に、伝送信号を受信及び送信するための通信システムを含む。多層フォトニック構造体を含む上記乗物及び半透明反射器についての様々な実施態様を以下に詳述する。
【0009】
本明細書において、「光」という用語は、電磁スペクトルの様々な波長、特に電磁スペクトルの紫外(UV)、赤外(IR)及び可視部分の波長を意味する。
「透明」という用語は、材料について、その材料に入射した電磁線の実質的に全てが透過することを意味する。
【0010】
図1を参照すると、乗物10が概略的に示されている。以下で詳述するように、乗物10の実施態様は、通信システム12と、多層フォトニック構造体を含む非金属の乗物コンポーネント14とを含む。自動車が図1に示されているが、乗物10は、車輪を有する乗物、翼を有する乗物、無限軌道の乗物、水上輸送用の乗物など、例えば車、トラック、オートバイ、飛行機、ヘリコプター、戦車又は船舶などのいかなる乗物であってもよい。
【0011】
一実施態様において、乗物10は、一般的に、伝送信号を受信又は送信するための通信システム12を含む。具体的には、通信システム12は、非金属の乗物コンポーネント14が伝送信号の伝送経路内にあるように乗物に結合されていてもよい。伝送信号は、様々な周波数(例えば、24GHzの電磁線又は77GHzの電磁線)で伝送することができる。上記通信システムは、乗物10と、乗物10の外部に存在する互換性のある通信装置、例えば他の乗物、人工衛星、通信タワーなどとの間で情報を交換するための伝送信号を利用する。通信システム12は、ラジオ周波数の電磁波、例えばKバンド、Kaバンド、Vバンド及びそれらの組み合わせなどの伝送信号を送信及び/又は受信するためのミリメートル波レーダーシステムレーダーであることができる。乗物10の外部にある互換性のある通信装置と伝送信号を交換する通信システム12が図1に示されているが、互換性のある通信システムは、乗物10の内部に位置していてもよく、例えば、乗物の室内と通信する移動体通信装置及び/又は全地球測位システムなどであることができる。
【0012】
図1を再度参照すると、乗物10の実施態様は、多層フォトニック構造体100を含む非金属の乗物コンポーネント14を含む。非金属の乗物コンポーネント14は、光を反射又は透過する、乗物に結合できるように作られたいかなる装置であってもよい。例えば、非金属の乗物コンポーネント14は、金属の外観に近づける反射プロファイルを有してもよい。非金属の乗物コンポーネントは、半透明である反射器であってもよい。
【0013】
図1及び図2を併せて参照すると、非金属の乗物コンポーネント14は乗物のエンブレムであることができる。一実施態様において、乗物のエンブレムは、基材110の上に多層フォトニック構造体100を付着させることにより製造できる。基材110としては、ガラス、ポリマー材料、セラミック材料、金属材料、複合材料及び/又はそれらの様々な組み合わせが挙げられる。例えば、多層フォトニック構造体100を構成する層を、約1.52の屈折率を有するガラス製の基材110上に付着させることができる。付着に先立って、基材110を、乗物のエンブレムの最終的な形状に近い形状に成形することができる。多層フォトニック構造体100を基材110上に付着させた後、乗物のエンブレムを、例えばエッチング、グラインディング又はミーリングなどの製造プロセスにより仕上げることができる。乗物のエンブレムが完成したら、その乗物のエンブレムを、接着剤及び/又は機械的カップリングによりにより乗物に結合することができる。非金属の乗物コンポーネントは本明細書に記載の実施態様に従う乗物エンブレムとして図1に示されているが、非金属の乗物コンポーネント14は、電子ディスプレイスクリーン、ウィンドウ、風防、サンルーフ、トリムピース、グリル、フードオーナメント、ホイールカバー、バンパー、ベゼル、ライト、テールライト、反射器又はミラーであることができる。さらに、多層フォトニック構造体100の透明性は、炭素、銀、クロム、ステンレス鋼、又は他の吸収性合金を含む基材110を使用することにより低減できる。
【0014】
図2に概略的に示されているように、本明細書に記載の多層フォトニック構造体100は、一般的に、交互に配置された比較的高い屈折率を有する誘電材料(すなわち、高屈折率誘電材料H)の複数のコーティング層と比較的低い屈折率を有する誘電材料(すなわち、低屈折率誘電材料L)の複数のコーティング層とを含む。具体的には、高屈折率誘電材料Hは、低屈折率誘電材料Lと比べて比較的高い屈折率を有し、低屈折率誘電材料Lは、高屈折率誘電材料Hと比べて比較的低い屈折率を有する。一実施態様において、上記の高い屈折率は約1.9〜約2.3である。別の実施態様において、上記の低い屈折率は約1.4〜約1.6である。
【0015】
図2及び3を併せて参照すると、高屈折率誘電材料Hは、Hで概略的に示されている。一方、低屈折率誘電材料Lは、Lで一般的に示されている。一実施態様において、図2に示されているように、多層フォトニック構造体100の第1の層102は、基材110から最も遠い位置にある層であり、低屈折率誘電材料Lを含んで成る。多層フォトニック構造体100の最後の層104は、基材110に最も近い位置にある層であり、低屈折率誘電材料Lを含んで成る。省略記号は、低屈折率誘電材料Lと高屈折率誘電材料Hの中間層106が、任意の全層数xとなるようにN回繰り返していてもよいことを示す。本明細書では、図2に示されている層構造を有する多層フォトニック構造体100を指すのに、[LH・・・(LH)N・・・L]の簡単な表記を使用する。ここで、Nは正の整数であり、N=(x−3)/2である。
【0016】
別の実施態様において、図3に示されているように、多層フォトニック構造体200の第1の層202は、基材210から最も遠い位置にある層であり、高屈折率誘電材料Hを含んで成る。多層フォトニック構造体200の最後の層204は、基材210に最も近い位置にある層であり、高屈折率誘電材料Hを含んで成る。省略記号は、高屈折率誘電材料Hと低屈折率誘電材料Lの中間層206が、任意の全層数xとなるようにN回繰り返していてもよいことを示す。本明細書では、図3に示されている層構造を有する多層フォトニック構造体200を指すのに、[HL・・・(HL)N・・・H]の簡単な表記を使用する。ここで、Nは正の整数であり、N=(x−3)/2である。
【0017】
図2及び3を再び参照すると、全層数xは、層作製方法により生じさせることができる任意の奇数であることができ、例えば、約21、約17〜約25、約9〜約39、約5〜約99、または約3から数百の奇数であることができる。各層の厚さは、図2及び3において、tj(下付き添え字jは1〜xであり、それぞれ独自の厚さを有する個々の層を指す)で概略的に示されている。中間層の厚さは、tk 及びtk+1(kは3からx−2におよぶ)で示されている。
【0018】
次に図4を参照すると、電磁線の入射角が概略的に示されている。入射角0°は、電磁エネルギーが多層フォトニック構造体100及び基材110に向けられる法線観察経路120に対応する。入射角45°は、法線観察経路から45°の角度オフセット124がある斜め観察経路122に対応する。図4には、法線観察経路124及び斜め観察経路122のみが示されているが、本明細書に記載の実施態様は、さらに、斜め観察経路122と斜め観察経路122の間の任意の可能な観察経路に関係する。
【0019】
図2及び3を再び参照すると、多層フォトニック構造体100,200の実施態様は、電磁線の入射角範囲にわたって可視スペクトルの電磁線の波長(すなわち、約400nm〜約900nm、又は約400nm〜約800nm)に対して実質的に一定の反射率値を生じるようにしてもよい(すなわち、実質的に一定の反射率値は、目標反射率値にほぼ等しい)。目標反射率値は、約Aから約Bまでの範囲内の任意の反射率値であることができる。ここで、Aは約51%〜約94%の任意の値であり、Bは約52%〜約95%までの任意の値であり、A<Bである。
【0020】
具体的には、多層フォトニック構造体100,200は、層のそれぞれの厚さt1,t2,・・・,tk,tk+1 ,・・・,tx及び全層数xを調節することにより調整できる。厚さは任意の値をとることができ、例えば、約0.05nm〜約500nmなどの任意の値を取ることができる。一実施態様において、多層フォトニック構造体100,200の実質的に一定の反射率値をモデル化する連立方程式を解くために、トランスファーマトリックス法(transfer matrix method)を使用することができる。実質的に一定の反射率値は、構造体に入射した光の角度(例えば、入射角)、偏光度、対象とする波長、多層フォトニック構造体100,200の各層の厚さtj 、高屈折率誘電材料及び低屈折率誘電材料の屈折率、透過媒体、並びに入射媒体に依存する。トランスファーマトリックス法は、特定の多層フォトニック構造体100,200の特性に関係して、ユーザーからの様々な入力を受けて実質的に一定の反射率値を決めるようにプログラムされたソフトウェアを組み込んだコンピューターを使用して実施することができる。本明細書では、かかるソフトウェアをフォトニクス計算機(photonics calculator)と呼ぶことがある。
【0021】
層のそれぞれの厚さt1,t2,・・・,tk,tk+1 ,・・・,txは、フォトニクス計算機により計算された実質的に一定の反射率値を目標とする反射率値と比較することにより求めることができる。具体的には、フォトニクス計算機と併せて、最適化又は曲線フィッティングプロセスを実施することができる。一実施態様において、フォトニクス計算機により計算された実質的に一定の反射率値のそれぞれと目標反射率値の間の差の2乗の和を最小にする。コンピューターシステム上で実行されるコンピューターソフトウェアにより実施されるオプティマイザによって、最小二乗フィッティングを行うことができる。本明細書では、多層フォトニック構造体100,200の特定のモデル化及び最適化方法を説明するが、本明細書に記載の実施態様は、目標反射率値を生成させるために、多層フォトニック構造体100,200を調整することができる任意の方法によりモデル化及び最適化できることに注意すべきである。
【0022】
多層フォトニック構造体100,200は、適切な高屈折率誘電材料H及び低屈折率誘電材料Lを選択することにより調整することもできる。一実施態様において、低い屈折率及び高い屈折率は、それらの値が一般的に入手可能な材料と同じであるように選択される。例えば、低い屈折率の値及び高い屈折率の値がそれぞれシリカ(SiO2、屈折率1.46)の屈折率及びチタニア(TiO2、屈折率2.36)の屈折率に近いように、低い屈折率を1.46に選択し、高い屈折率を2.29に選択することができる。従って、それぞれ1.46及び2.29の低い屈折率及び高い屈折率を用いる多層フォトニック構造体の設計は、シリカ及びチタニア或いは同じ又は類似の屈折率を有する他の材料から構成することができる。他の材料の屈折率に対応する低い屈折率及び高い屈折率についての他の値を選択することもできる。例えばAl23及びXFy(XはBa、Ca、La、Ce、Mg及びAlのうちのいずれかであることができ、yは1〜3の任意の整数であることができる)などの材料を高屈折率誘電材料として使用できる。例えばZnS、ZnO、ZrO2、CeO2、Nb25、Ta25、HfO2及びNd23などの材料を低屈折率誘電材料として使用できる。以下に示す表1には、本明細書に記載の多層フォトニック構造体で使用できるさらなる可能な材料及びそれらの対応する屈折率の非排他的リストが掲載されている。
【0023】
【表1】

【0024】
本明細書に記載の実施態様によると、実質的に一定の反射率値の平均値が目標反射率値の標準偏差の数倍の値の範囲内にある場合に、実質的に一定の反射率値は目標反射率にほぼ等しい。実質的に一定の反射率値の平均値は、次式:
【0025】
【数1】

【0026】
(式中、Nは実質的に一定の反射率値の数であり、rは個々の実質的に一定の反射率値である)によって与えられる。実質的に一定の反射率値の標準偏差は次式:
【0027】
【数2】

【0028】
(式中、Nは実質的に一定の反射率値の数であり、rは個々の実質的に一定の反射率値であり、μは実質的に一定の反射率値の平均値である)によって与えられる。実質的に一定の反射率値は、
【0029】
【数3】

【0030】
(式中、tは目標反射率値であり、hは約0から約3までの任意の値であり、σは実質的に一定の反射率値の標準偏差であり、μは実質的に一定の反射率値の平均値である)である場合に目標反射率値にほぼ等しい。
【0031】
本明細書に記載の実施態様の範囲を制限せずにさらに明確にするために、以下の実験結果を示す。
【実施例】
【0032】
フォトニクス計算機により分析シミュレーションを行った。シミュレーションのそれぞれにおいて以下の条件を設定した:入射角を0°又は45°に設定し、偏光の程度を自然光(すなわち、約0.5、ここで、0はTE光を表し、1はTM光を表す)に設定し、透過媒体を空気(屈折率1.0)に設定し、対象とする波長を400nm〜800nmに設定し、目標反射率値を約90%に設定した。図2及び3を併せて参照すると、シミュレーションのそれぞれについて、高屈折率誘電材料Hをチタニアに設定し、低屈折率誘電材料Lをシリカに設定し、基材110をガラス(屈折率1.52)に設定した。表2及び3に、フォトニクス計算機の結果をまとめた。これらの表では、全層数xと構造体の簡略表現を最左欄に示す。
【0033】
以下に示す表2には、フォトニクス計算機により分析的に求められた実質的に一定の反射率値の平均値についての集計が含まれている。以下に示す表3には、フォトニクス計算機により分析的に求められた実質的に一定の反射率値の標準偏差についての集計が含まれている。
【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
表2によると、全ての入射角及び両方の波長バンド幅の場合に、実質的に一定の反射率値の平均値は約67.9から約89.3に及んだ。0°の入射角及び約400nm〜約900nmの波長の場合に、実質的に一定の反射率値の平均値は約71.3から約89.2に及んだ。45°の入射角及び約400nm〜約900nmの波長の場合に、実質的に一定の反射率値の平均値は約67.9から約85.0に及んだ。0°の入射角及び約400nm〜約800nmの波長の場合に、実質的に一定の反射率値の平均値は約71.1から約89.3に及んだ。45°の入射角及び約400nm〜約800nmの波長の場合に、実質的に一定の反射率値の平均値は約68.7から約86.2に及んだ。
【0037】
表3によると、全ての入射角及び両方の波長バンド幅の場合に、実質的に一定の反射率値の標準偏差は約2.8〜約19.2に及んだ。全体的には、実質的に一定の反射率値の標準偏差のほとんどが、反射率の約7%未満(例えば、反射率の約6%未満、反射率の約5%未満、反射率の約4%未満、又は反射率の約3%未満)であった。0°の入射角及び約400nm〜約900nmの波長の場合に、実質的に一定の反射率値の標準偏差は約2.9から約11.9に及んだ。45°の入射角及び約400nm〜約900nmの波長の場合に、実質的に一定の反射率値の標準偏差は約5.0から約19.2に及んだ。0°の入射角及び約400nm〜約800nmの波長の場合に、実質的に一定の反射率値の標準偏差は約2.8から約13.1に及んだ。45°の入射角及び約400nm〜約800nmの波長の場合に、実質的に一定の反射率値の標準偏差は約2.8から約11.1に及んだ。
【0038】
表2及び3を併せて参照すると、実質的に一定の反射率値の平均値は、概して、90%の目標反射率値の標準偏差の3倍以内(すなわち、式3でhが3以下)であった。シミュレーションのほとんどで、標準偏差の2倍以内(すなわち、hが2以下)である実質的に一定の反射率値の平均値がもたらされた。シミュレーションの幾つかで、標準偏差の2倍未満(例えば、hが1.5以下、hが1以下、又はhが0.5以下)である実質的に一定の反射率の平均値がもたらされた。
【0039】
次に図5を参照すると、21層のフォトニック構造体の一実施態様についての、層のそれぞれについてのフォトニクス計算機により求められた厚さがグラフ表示されている。層の番号(j=1から21まで)が横軸に記入されている。厚さtjが縦軸に記入されている。21層のフォトニック構造体は、[LH・・・(LH)N・・・L]配列(すなわち、x=21及びN=9)で構成されていた。厚さtjは約20nmから約60nmに及んだ。
【0040】
図5の21層[LH・・・(LH)N・・・L]フォトニック構造体についての実質的に一定の反射率値が図6にグラフ表示されている。0°の入射角(図6において四角形で示す)及び約400nm〜約800nmの波長の場合に、実質的に一定の反射率値の平均値及び標準偏差はそれぞれ約88.3及び3.6であった。45°の入射角(図6において三角形で示す)及び約400nm〜約800nmの波長の場合に、実質的に一定の反射率値の平均値及び標準偏差はそれぞれ約85.0及び3.2であった。
【0041】
次に図7を参照すると、21層のフォトニック構造体の別の実施態様についての、層のそれぞれについてのフォトニクス計算機により求められた厚さがグラフ表示されている。層の番号(j=1から21まで)が横軸に記入されている。厚さtjが縦軸に記入されている。21層のフォトニック構造体は、[HL・・・(HL)N・・・H]配列(すなわち、x=21及びN=9)で構成されていた。厚さtjは約30nmから約150nmに及んだ。
【0042】
図7の21層フォトニック構造体についての実質的に一定の反射率値が図8にグラフ表示されている。0°の入射角(図8において四角形で示す)及び約400nm〜約800nmの波長の場合に、実質的に一定の反射率値の平均値及び標準偏差はそれぞれ約89.3及び2.8であった。45°の入射角(図8において三角形で示す)及び約400nm〜約800nmの波長の場合に、実質的に一定の反射率値の平均値及び標準偏差はそれぞれ約86.1及び2.8であった。
【0043】
本明細書に記載の多層フォトニック構造体は、導電性材料から通常作られる半透明コンポーネント及び/又はコーティングとして使用できる点に注意すべきである。例えば、多層フォトニック構造体の一実施態様を、ウィンドウ又はミラーなどのガラス基材に適用できる。ウィンドウに適用された場合に、多層フォトニック構造体は、任意の望ましい値に設定できる目標反射率値に従って光を反射することができる。従って、本明細書に記載の多層フォトニック構造体を含んで成るウィンドウは、目標反射率値を高くすることで、高いプライバシーレベルをもたらすことができる。さらに、多層フォトニック構造体の実施態様がラジオ周波数の電磁線に対して透明であるため、かかるウィンドウは、伝送信号を妨害せずに高いプライバシーレベルをもたらすことができる。
【0044】
「実質的に」及び「約」という語句は、本明細書において、定量的な比較、評価、測定又は他の表現に起因し得る不確かさの固有の程度を表すために使用する。また、これらの用語は、本明細書において、特許請求の範囲に記載の発明の基本的な機能の変化をもたらさずに、定量的表現が示したものから変わりうる程度を表すために使用する。
【0045】
特定の実施態様を本明細書において例示し説明したが、特許請求の範囲に記載の発明の精神及び範囲から離れずに、様々な他の変更及び改良を行うことができる。さらに、特許請求の範囲に記載の発明についての様々な特徴を明細書に記載したが、かかる特徴を組み合わせて使用する必要はない。従って、特許請求の範囲は、特許請求の範囲に記載の発明の範囲内に含まれるかかる変更及び改良の全てをカバーすることを意図する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層フォトニック構造体を含む半透明反射器であって、前記多層フォトニック構造体が、高屈折率誘電材料の複数のコーティング層と低屈折率誘電材料の複数のコーティング層とを含み、前記多層フォトニック構造体の高屈折率誘電材料の複数のコーティング層と低屈折率誘電材料の複数のコーティング層が[LH・・・(LH)N・・・L]構造(ここで、Lは低屈折率誘電材料の複数のコーティング層のうちの1つであり、Hは高屈折率誘電材料の複数のコーティング層のうちの1つであり、Nは正の整数である)で配置されており、前記多層フォトニック構造体は、電磁線の入射角範囲にわたって可視スペクトルの電磁線の波長に対して実質的に一定の反射率値を有する、半透明反射器。
【請求項2】
前記実質的に一定の反射率値の平均値が、目標反射率値から実質的に一定の反射率値の標準偏差の2倍の値を引いた差以上であり、かつ、前記実質的に一定の反射率値の平均値が、目標反射率値と実質的に一定の反射率値の標準偏差の2倍の値との和以下である、請求項1に記載の半透明反射器。
【請求項3】
前記目標反射率値が約51%〜約95%である、請求項2に記載の半透明反射器。
【請求項4】
実質的に一定の反射率値の標準偏差が反射率の約7%未満である、請求項2又は3に記載の半透明反射器。
【請求項5】
前記可視スペクトルが約400nm〜約900nmまたは約400nm〜約800nmであり、前記入射角範囲が約0°〜約45°である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の半透明反射器。
【請求項6】
前記低屈折率誘電材料の複数のコーティング層が約1.4〜約1.6の低屈折率を示し、前記高屈折率誘電材料の複数のコーティング層が約1.9〜約2.3の高屈折率を示す、請求項1〜5のいずれか一項に記載の半透明反射器。
【請求項7】
前記高屈折率誘電材料の複数のコーティング層が8〜12層の高屈折率誘電材料のコーティング層から成り、前記低屈折率誘電材料の複数のコーティング層が9〜13層の低屈折率誘電材料のコーティング層からなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の半透明反射器。
【請求項8】
前記高屈折率誘電材料の複数のコーティング層の各々と前記低屈折率誘電材料の複数のコーティング層の各々が約0.05nm〜約500nmの層厚を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の半透明反射器。
【請求項9】
伝送信号を受信又は送信する通信システムと、
多層フォトニック構造体を含む非金属の乗物コンポーネントと、
を含み、前記多層フォトニック構造体が、高屈折率誘電材料の複数のコーティング層と低屈折率誘電材料の複数のコーティング層とを含み、前記多層フォトニック構造体の高屈折率誘電材料の複数のコーティング層と低屈折率誘電材料の複数のコーティング層が[LH・・・(LH)N・・・L]構造(ここで、Lは低屈折率誘電材料の複数のコーティング層のうちの1つであり、Hは高屈折率誘電材料の複数のコーティング層のうちの1つであり、Nは正の整数である)で配置されており、前記多層フォトニック構造体は、約0°〜約45°の電磁線の入射角範囲にわたって可視スペクトルの電磁線の波長に対して実質的に一定の反射率値を有し、前記多層フォトニック構造体は伝送信号に対して実質的に透明である、乗物。
【請求項10】
前記実質的に一定の反射率値の平均値が、目標反射率値から実質的に一定の反射率値の標準偏差の2倍の値を引いた差以上であり、
実質的に一定の反射率値の平均値が、目標反射率値と実質的に一定の反射率値の標準偏差の2倍の値との和以下であり、
前記目標反射率値が約51%〜約95%である、請求項9に記載の乗物。
【請求項11】
非金属の乗物コンポーネントがトリムピース、乗物エンブレム、グリル、フードオーナメント、ホイールカバー、バンパー、ベゼル、テールライト、反射器、ビデオモニターコーティング、又はミラーである、請求項9又は10に記載の乗物。
【請求項12】
伝送信号が、Kバンド伝送、Kaバンド伝送又はVバンド伝送である、請求項9〜11のいずれか一項に記載の乗物。
【請求項13】
交互に配置された高屈折率誘電材料の複数のコーティング層と低屈折率誘電材料の複数のコーティング層とを含む多層フォトニック構造体を含み、
前記多層フォトニック構造体は、約0°〜約45°の電磁線の入射角範囲にわたって約400nm〜約800nmの可視スペクトルの電磁線の波長に対して実質的に一定の反射率値を示し、
前記実質的に一定の反射率値の平均値が、目標反射率値から実質的に一定の反射率値の標準偏差の2倍の値を引いた差以上であり、
前記実質的に一定の反射率値の平均値が、目標反射率値と実質的に一定の反射率値の標準偏差の2倍の値との和以下であり、
前記実質的に一定の反射率値の標準偏差は反射率値の約3%未満であり、
前記目標反射率値が約51%〜約95%である、非金属の乗物コンポーネント。
【請求項14】
前記多層フォトニック構造体の高屈折率誘電材料の複数のコーティング層と低屈折率誘電材料の複数のコーティング層が、[LH・・・(LH)N・・・L]構造(ここで、Lは低屈折率誘電材料の複数のコーティング層のうちの1つであり、Hは高屈折率誘電材料の複数のコーティング層のうちの1つであり、Nは正の整数である)で配置されている、請求項13に記載の非金属の乗物コンポーネント。
【請求項15】
前記多層フォトニック構造体の高屈折率誘電材料の複数のコーティング層と低屈折率誘電材料の複数のコーティング層が、[HL・・・(HL)N・・・H]構造(ここで、Lは低屈折率誘電材料の複数のコーティング層のうちの1つであり、Hは高屈折率誘電材料の複数のコーティング層のうちの1つであり、Nは正の整数である)で配置されている、請求項13に記載の非金属の乗物コンポーネント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−83758(P2012−83758A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224277(P2011−224277)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(507342261)トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド (135)
【Fターム(参考)】