説明

単一プローブ分子素子及び単一プローブ分子固定金属微粒子

【課題】単一分子レベルで生体分子の高精度及び高再現性の検出が可能な生体分子検出素子を提供する。
【解決手段】表面に単一プローブ分子を固定した金属微粒子を製造するとともに、該金属微粒子を担体基板表面に固定した単一プローブ分子素子を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子を検出するための単一プローブ分子素子及びこれを用いた生体分子検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、核酸やタンパク質などの生体分子を特異的かつ網羅的に解析するための方法として、様々な生体分子検出素子の研究開発が進んでいる。こうした生体分子検出素子の重要な例として、ナノメートルからマイクロメートルサイズの微粒子の表面に生体分子を検出するためのプローブ分子を固定したプローブ分子固定微粒子がある。これまでに、プローブ分子固定微粒子を用いた様々な生体分子検出方法が報告されている。特に、ナノメートルサイズの金属微粒子の表面に核酸、タンパク質、糖鎖などのプローブ分子を固定したプローブ分子固定金属微粒子は、比較的容易に調製及び検出が可能であることから、非常に多くの活用例が報告されている。
【0003】
一方、高機能性材料の開発を指向したナノテクノロジーの研究が進展し、特徴的な幾何学構造を有するナノメートルサイズの分子が数多く開発されてきている。例えば、人工的に形状やサイズを制御することのできるナノメートルサイズの分子であるデンドリマー(Dendrimer)が報告されている。デンドリマーは単分散性の球状高分子であり、そのサイズは数ナノメートルから十数ナノメートル程度である。デンドリマーは、分子の中心部分にあるコアから外側に向かって枝分かれ構造を有している。コアから外側に向かってモノマー分子を繰り返し結合することにより、分岐数及び分子サイズが指数的に増大する。モノマー分子の結合の繰り返し回数を世代(Generation)と呼ぶ。図1に、代表的なデンドリマーであるポリアミドアミンデンドリマー(Poly(amidoamine) Dendrimer、略称PAMAMデンドリマー)の構造を示す。図1に示すPAMAMデンドリマーは、コアに相当するエチレンジアミン(Ethylenediamine)部分に対しモノマーであるメチルアクリレート(Methylacrylate)を2回結合させており、第2世代(Generation 2、略称G2)と呼ばれており、最表面に16個の末端アミノ基を有する。また、デンドロンなどの球状高分子の分子サイズを表す物理量として、回転半径(Radius of gyration、略記号RG)が使用される。球状高分子の回転半径は、光散乱法(Light scattering method)、小角中性子散乱法(Small-angle neutron scattering)及び小角X線散乱法(Small-angle X-ray scattering)により測定することが可能である。また、球状高分子の回転半径は、分子動力学シミュレーション(Molecular dynamics simulation)により見積もることも可能である。図2にPAMAMデンドリマーの世代と末端アミノ基数、及び回転半径の関係を示す。なお、図2に示したPAMAMデンドリマーの回転半径はLeeらにより報告された、中性pH溶液中での値である(Lee, I. et. al., Macromolecules, Vol.35, p.4510 (2000))。
【0004】
特許文献1及び非特許文献1では、ジスルフィド結合を有するシスタミン(Cystamine)をコアとするPAMAMデンドリマーを出発物質とし、該PAMAMデンドリマーを二等分した半球状の構造を持つ分子であるデンドロン(Dendron)を合成する方法が開示されている。また、該デンドロンとDNA(Deoxylibonucleotide、デオキシリボ核酸)を反応させ、デンドロンとDNAが1:1で結合した結合体を合成する方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,020,457号明細書
【非特許文献1】Nano Letters Vol.4, No.5, p.771 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プローブ分子固定金属微粒子を用いて生体分子の定量的な検出を行うためには、金属微粒子表面に固定するプローブ分子の個数を制御することが非常に重要である。特に、生体分子の単一分子レベルでの定量的な検出を実現するためには、表面に単一プローブ分子を固定した金属微粒子の利用が必要不可欠である。従来の様々な公知例において使用されているプローブ分子固定金属微粒子は、金属微粒子及び金属微粒子と強く結合する末端官能基を持つプローブ分子を所定の混合比にて混合し反応させることにより製造されていることが多い。従って、この方法により製造されるプローブ分子固定金属微粒子は、表面に固定されたプローブ分子の個数に分布を持つ金属微粒子の混合物となってしまう。
【0007】
本発明の目的は、生体分子を単一分子レベルで検出する生体分子検出素子において、表面に単一プローブ分子を固定した金属微粒子を利用することにより、生体分子の検出精度及び検出再現性を飛躍的に向上することである。この目的を達成するための課題は、表面に単一プローブ分子を固定した金属微粒子を高収率で製作すること、及び該金属微粒子を利用し、生体分子検出素子の表面に、解析対象である生体分子を1分子ずつ、高回収率で捕捉することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、生体分子検出に用いるプローブ分子と金属微粒子を1:1で固定するため、以下の(1)〜(3)に示す特徴を有するリンカー分子を使用し、プローブ分子:リンカー分子:金属微粒子=1:1:1である単一プローブ分子固定金属微粒子を高収率で製作することにより課題を解決する。該リンカー分子が有するべき特徴は以下の(1)〜(3)である。
【0009】
(1)プローブ分子が持つ官能基と結合し得る官能基を1個だけ持つ
(2)金属微粒子の表面と結合し得る官能基を2個以上持つ
(3)リンカー分子の形状を球形近似したときの回転半径がR1であり、プローブ分子を固定する金属微粒子の回転半径R2との関係が、0.1 ≦ (R1/R2) ≦ 1.5を満たす
【0010】
上記(3)に示す特徴について説明する。本発明におけるリンカー分子の回転半径R1が金属微粒子の回転半径R2に対して非常に小さい場合、1個の金属微粒子の表面に、化学結合を介して2個以上のリンカー分子が結合する確率が高くなり、本発明の目的が達成できない。従って、リンカー分子の回転半径R1は金属微粒子の回転半径R2に対して小さすぎないことが必要であり、具体的には関係式0.1 ≦ (R1/R2)を満たすことが望ましい。一方、リンカー分子の回転半径R1が金属微粒子の回転半径R2に対して非常に大きい場合、1個のリンカー分子の末端官能基に対して、化学結合を介して2個以上の金属微粒子が固定する確率が高くなり、本発明の目的が達成できない。従って、リンカー分子の回転半径R1は、金属微粒子の回転半径R2に対して大きすぎないことが必要であり、具体的には関係式(R1/R2) ≦ 1.5を満たすことが望ましい。以上の条件を整理すると、本発明の目的を達成するためには、リンカー分子の回転半径R1は金属微粒子の粒子半径R2に対して関係式0.1 ≦ (R1/R2) ≦ 1.5を満たすことが望ましい。
【0011】
以上の条件(1)〜(3)を満たすリンカー分子を使用することにより、プローブ分子:リンカー分子:金属微粒子=1:1:1である結合体、すなわち単一プローブ分子固定金属微粒子を高収率で製作することが可能となる。
【0012】
本発明による単一プローブ分子素子は、基板と、基板の表面に固定された複数の金属微粒子と、金属微粒子1個の表面に1個ずつ、化学結合を介して固定されたリンカー分子と、リンカー分子に1個ずつ、化学結合を介して結合されたプローブ分子とを有する。
【0013】
また、本発明による単一プローブ分子固定金属微粒子は、金属微粒子と、金属微粒子の表面に化学結合を介して固定された1個のリンカー分子と、リンカー分子に化学結合を介して結合された1個のプローブ分子とを有する。
【0014】
リンカー分子は、プローブ分子を化学結合し得る第一の末端官能基を1個だけ有し、金属微粒子に固定し得る2個以上の第二の末端官能基を有するものであり、デンドロン型分子が好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生体分子を単一分子レベルで高精度及び高再現性にて検出するための単一プローブ分子固定金属微粒子、及びこれを利用した単一プローブ分子素子を提供することができる。この単一プローブ分子素子では、担体基板表面に単一プローブ分子固定金属微粒子が固定されているため、該単一プローブ分子を利用して、解析対象である生体分子を担体基板表面に1分子ずつ、高回収率で捕捉することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図3(a)に、本発明による単一プローブ分子固定金属微粒子の一例を示す。解析対象となる生体分子を1分子だけ捕捉するための単一プローブ分子301が、末端官能基Zを介してリンカー分子303の末端官能基Xに結合する。すなわち、プローブ分子とリンカー分子は1:1で結合している。単一プローブ分子301を結合したリンカー分子303を、複数の末端官能基Yを介して金属微粒子306の表面に固定する。図3(a)では単一プローブ分子301が結合したリンカー分子303が、8個の末端官能基Yにより金属微粒子306の表面に固定されている。また、金属微粒子306の表面のうち、リンカー分子303により被覆されていない部分には、様々な分子の非特異的な吸着を阻害するための吸着阻害分子Wを結合する。
【0017】
なお、図3(a)では金属微粒子として球形の微粒子を示したが、金属微粒子306の形状は円柱、円錐、角柱、角錐などでもよい。また、金属微粒子の材料としては、貴金属類である金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムのいずれか、あるいはそれらの合金を用いることができる。あるいは、これらの貴金属類で作られた微粒子の上に他の貴金属類がコーティングされたもの、例えば金微粒子上に銀がコーティングされた微粒子を用いてもよい。本発明における金属微粒子の寸法は、金属微粒子の基板への固定安定性を確保するため、10nm以上が好適である。また、金属微粒子の表面に単一プローブ分子を高効率で固定するため、金属微粒子の寸法は100nm以下が好適である。従って、本発明における金属微粒子の寸法は、10nm以上100nm以下が好適である。
【0018】
図3(b)に示すように、単一プローブ分子とリンカー分子を結合する場合には、リンカー分子の末端官能基Xと結合する官能基A、及び単一プローブ分子の末端官能基Zと結合する官能基Bの両方を持つ二官能性化合物312を用いてもよい。さらに図3(c)に示すように、単一プローブ分子が結合したリンカー分子を金属微粒子の表面に固定する場合には、リンカー分子313の末端官能基Yと結合する官能基C、及び金属微粒子の表面と結合する官能基Dを持つ二官能性化合物317を用いてもよい。
【0019】
図4に、本発明による、単一プローブ分子固定金属微粒子を使用した単一プローブ分子素子の一例を示す。担体基板401の表面に、化学結合により単一プローブ分子固定金属微粒子402を固定する。担体基板としてはガラス基板、石英基板、プラスチック基板、金属コーティング基板などを使用することが可能である。
【実施例1】
【0020】
本実施例では、シスタミン(Cystamine)をコアとするPAMAMデンドリマー(世代はG0、G1、G2、G3、G4、G5、G6のいずれか)を出発物質として合成したデンドロンをリンカー分子として使用した。また、プローブ分子として1本鎖DNAを選択し、プローブ分子とリンカー分子を1:1で結合することにより、リンカー結合型プローブ分子、すなわちデンドロン結合型プローブDNAを合成した。デンドロン結合型プローブDNAの合成プロセスは、以下のプロセスから成る。
【0021】
(1)デンドリマーへのカルボキシル基の導入
(2)デンドリマーのジスルフィド結合の切断
(3)1本鎖DNAへのマレイミド基の導入
(4)デンドロンと1本鎖DNAの結合
(5)ゲル電気泳動によるデンドロン結合型プローブDNAの分離・精製
(6)核酸抽出用試薬によるデンドロン結合型プローブDNAの分離・精製
(7)デンドロン結合型プローブDNAへの末端アミノ基の導入
(8)紫外・可視吸収スペクトル測定によるデンドロン結合型プローブDNAの定量
(9)金属微粒子へのデンドロン結合型プローブDNAの固定
(10)金属微粒子への吸着阻害分子の結合
【0022】
以下、図5に示す、シスタミンをコアとするG2-PAMAMデンドリマーを出発物質として、デンドロン結合型プローブDNAの合成プロセスを説明する。図5に示すG2-PAMAMデンドリマーは、シスタミンコアにジスルフィド結合501を、また最表面に末端アミノ基502を16個有する。なお、図6、図8、図10、図11では、PAMAM構造を簡略化して示す。例えば図6では、シスタミンをコアとするG2-PAMAMデンドリマーを601のように簡略化して示す。以下、各プロセスの詳細を述べる。
【0023】
(1)デンドリマーへのカルボキシル基の導入(図6)
G2-PAMAMデンドリマー601(Sigma社)100nmolを1×PBS(Phoshphate buffered saline、pH 10.0)に溶解したのち、G2-PAMAMデンドリマー601が最表面に有するアミノ基602の数(G2-PAMAMデンドリマー601の1分子当たり16個)の10倍量に相当する16μmolの無水コハク酸603を添加した。この溶液を25℃で16時間振とうして反応した。反応終了後、反応溶液を分子量カットオフフィルタ(MWCOフィルタ、分子量10k用、Millipore社)で処理することにより、未反応の無水コハク酸603を除去した。この反応により、G2-PAMAMデンドリマーの最表面にカルボキシル基604を導入した。なお、本実施例ではデンドリマーの末端アミノ基をカルボキシル基に変換するための化合物として無水コハク酸を使用したが、その他にもアミノ基に結合できる官能基、及び末端カルボキシル基を有する分子を使用することが可能である。例えば、図7に示すSCN-Bzl-DTPA(正式名称2-(4-Isothiocyanatobenzyl)-diethylenetriaminepentaacetic acid)はアミノ基と反応するイソチオシアナート基701を1個、及び末端カルボキシル基702を5個持つ。従って、この分子を使用すると、デンドリマーの末端アミノ基1個につき5個の末端カルボキシル基を導入し、デンドリマーの回転半径ならびに末端官能基数を増大することが可能である。
【0024】
(2)デンドリマーのジスルフィド結合の切断(図8)
上記(1)で製作したカルボキシル基型G2-PAMAMデンドリマー801(分量100nmol)を、脱気及び窒素バブリング済みの1×PBS(pH 7.0)に溶解したのち、カルボキシル基型G2-PAMAMデンドリマー801の10倍量に相当するジチオトレイトール(Dithiothlaytol、略称DTT)802(分量1μmol)を添加した。この反応液を37℃に保温したインキュベータ中に2時間静置して反応を行った。この反応により、カルボキシル基型G2-PAMAMデンドリマー801が有するジスルフィド結合803が切断され、末端にチオール基805を有するG2-PAMAMデンドロン804を調製した。この反応においてG2-PAMAMデンドロン804は、G2-PAMAMデンドリマー801のシスタミンコアが有するジスルフィド結合の部分で切断される。従って、G2-PAMAMデンドロン804の回転半径は、G2-PAMAMデンドリマー801の回転半径の半分になる。反応終了後、反応液を25℃にてゲルろ過精製カラム(NAP-5 Column、GE Healthcare社)にて精製し、反応液から未反応のジチオトレイトール802を除去した。
【0025】
(3)1本鎖DNAへのマレイミド基の導入(図9)
3’末端にアミノ基902を有する1本鎖DNA 901(塩基数10〜100、シグマジェノシス社)7.5nmolを1×PBS(pH 7.0)に溶解した。図9では5’末端に蛍光色素Cy3が結合している1本鎖DNAを示したが、5’末端の蛍光色素はCy3に限らず、Cy5、Alexaなどを使用してもよい。また、末端に蛍光色素が結合していない1本鎖DNAを使用してもよい。1本鎖DNA 901が溶解した反応液に、該1本鎖DNAの100倍量に相当するSulfosuccinimidyl 4-[N-maleimidomethyl]cyclohexane-1-carboxylate(略称sulfo-SMCC、Pierce社、図9中では904で示す)750nmolを添加し、25℃で遮光・振とうしながら2時間反応させた。この反応により、1本鎖DNA 901の3’末端側にマレイミド基905が導入された。反応終了後、反応液をゲルろ過精製カラム(NAP-5 Column、GE Healthcare社)にて精製し、未反応のsulfo-SMCC(904)を除去した。
【0026】
(4)デンドロンと1本鎖DNAの結合(図10)
上記(1)及び(2)で製作したG2-PAMAMデンドロン1001及び上記(3)で製作したマレイミド基修飾1本鎖DNA 1003の溶液を1×PBS(pH 7.0)中で混合した。このとき、反応液中での化合物のモル比を、G2-PAMAMデンドロン:1本鎖DNA=3:1となるように混合した。反応液を遮光・振とうし、25℃で16時間反応した。この反応により、G2-PAMAMデンドロン1001の末端チオール基1002と、マレイミド基修飾1本鎖DNA 1003の末端マレイミド基1004が反応し、G2デンドロン結合型プローブDNA 1005が生成した。
【0027】
(5)ゲル電気泳動によるデンドロン結合型プローブDNAの分離・精製
上記(4)で生成したG2デンドロン結合型プローブDNA 1005を含む反応液を、分子量カットオフフィルタ(MWCOフィルタ、分子量10k用、Millipore社)を使用して濃縮し、G2デンドロン結合型プローブDNA 1005の濃度をおよそ100μMに調製した。この濃縮液にDNA染色色素であるメチレンブルー(Methylene blue)を添加したのち、10%ポリアクリルアミドゲルに注入し、ゲル電気泳動を行った(印加電圧100V、泳動時間1時間)。電気泳動終了後、G2デンドロン結合型プローブDNA 1005の泳動バンドの位置を目視確認した。
【0028】
(6)核酸抽出用試薬によるデンドロン結合型プローブDNAの分離・精製
上記(5)で示した電気泳動終了後のポリアクリルアミドゲルから、所望のG2デンドロン結合型プローブDNAに相当する泳動バンド(数mm角のゲル小片)を切り出した。このゲル小片を細かく磨りつぶし、DNA抽出用試薬であるMermaid-Spin kit(Q-Bio Gene社)を用いて、G2デンドロン結合型プローブDNAを抽出した。
【0029】
(7)デンドロン結合型プローブDNAへの末端アミノ基の導入(図11)
上記(6)で抽出したG2デンドロン結合型プローブDNA 1101を0.2Mリン酸ナトリウムバッファ(pH 7.5)に溶解した。この反応液にエチレンジアミン(Ethylenediamine)1103の溶液、及び1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド ハイドロクロライド、1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride、略称EDC、濃度2mg/ml)を添加した。この反応液を25℃で遮光・振とうしながら2時間反応した。この反応により、G2デンドロン結合型プローブDNA 1101の末端カルボキシル基1102にエチレンジアミン1103が結合し末端アミノ基1105が導入され、末端アミノ基を有するG2デンドロン結合型プローブDNA 1104が生成した。反応終了後、反応液をゲルろ過精製カラム(NAP-5 Column、GE Healthcare社)にて精製し、未反応のエチレンジアミン1103を除去した。
【0030】
なお、本実施例ではデンドロンの末端カルボキシル基に結合する分子として、両末端にアミノ基を持つエチレンジアミンを使用した。その他にも、デンドロンの末端カルボキシル基に結合する官能基、及び金属微粒子の表面に結合する官能基を併せ持つ分子を使用することが可能である。例えば、以下の(a)から(c)に挙げるような分子を使用することが可能である。
【0031】
(a)両末端にアミノ基を有する分子(図12)
・Ethylenediamine(図12(a)、分子量60)
・3,3’-Iminobispropylamine(図12(b)、分子量131)
・1,6-Diaminohexane(図12(c)、分子量116)
・Jeffamine EDR-148(図12(d)、分子量148)
(b)両末端にアミノ基を有する直鎖型のポリエチレングリコール(Polyethleneglycol、略称PEG)
・SUNBRIGHT DE-010PA(分子量1,000)
・SUNBRIGHT DE-020PA(分子量2,000)
・SUNBRIGHT DE-034PA(分子量3,400)
・SUNBRIGHT DE-100PA(分子量10,000)
・SUNBRIGHT DE-200PA(分子量20,000)
・SUNBRIGHT DE-300PA(分子量30,000)
これらの分子は日本油脂から販売されている。これらの分子の一般的な構造式を図13に示す。
【0032】
(c)4つの末端アミノ基をもつ分岐型のポリエチレングリコール(Polyethleneglycol、略称PEG)
・SUNBRIGHT PTE-100PA(分子量10,000)
・SUNBRIGHT PTE-200PA(分子量20,000)
これらの分子は日本油脂から販売されている。これらの分子の一般的な構造式を図14に示す。
【0033】
また、上記(a)から(c)の分子を用いてデンドロンの末端にアミノ基を導入した後、以下の(d)に挙げる分子を使用することにより、デンドロンの末端に2−ピリジルジチオール基(2-pyridyldithiol group)を導入することも可能である。これらの分子では、NHS(N-hydroxysuccinimide)エステル基がデンドロン末端のアミノ基と反応する。また、2−ピリジルジチオール基は金属表面と反応するとピリジン−2−チオン(Pyridine-2-thione)を放出し、硫黄原子が金属表面に配位結合を形成する。従って、(d)に挙げる分子を使用することにより、末端にアミノ基を有するデンドロンの回転半径を増大するとともに、金属微粒子と強く結合する2−ピリジルジチオール基を導入することが可能である。
【0034】
(d)NHSエステル基及び2−ピリジルジチオール基を有する分子(図15)
・SPDP(N-Succinimidyl-3-(2-pyridyldithio)propionate(図15(a)、分子量312.4)
・LC-SPDP(図15(b)、分子量425.52)
・Sulfo-LC-SPDP(図15(c)、分子量527.56)
これらの分子はThermo Fisher社から販売されている。
【0035】
(8)紫外・可視吸収スペクトル測定によるデンドロン結合型プローブDNAの定量
上記(7)で製作した、末端アミノ基を有するG2デンドロン結合型プローブDNA 1104を含む反応液の紫外・可視吸収スペクトル測定を行い、核酸の吸収極大波長である260nmの吸光度から、末端アミノ基を有するG2デンドロン結合型プローブDNAの濃度を決定した。
【0036】
(9)金属微粒子へのデンドロン結合型プローブDNAの固定
上記の方法に従って製作された末端アミノ基を有するG2デンドロン結合型プローブDNAを、金属微粒子の表面に結合する。本実施例では金属微粒子として金ナノ粒子(粒子径5〜100nm)を使用した。金ナノ粒子のクエン酸溶液中にビス−(p−(スルホナトフェニル)フェニルホスフィン(Bis-(p-sulfonatophenyl)phenylphosphine、濃度1mg/ml)を添加し、25℃で遮光・振とうしながら4時間反応した。反応終了後、反応液中にG2デンドロン結合型プローブDNA、及び塩化ナトリウム(NaCl、濃度10mM)を添加した。このとき、反応液中の金ナノ粒子に対するデンドロン結合型プローブDNAのモル比を適宜調整した。この反応液を25℃で遮光・振とうしながら20時間反応した。この反応によりG2デンドロン結合型プローブDNAが、複数の末端アミノ基を介して金ナノ粒子の表面に結合した。
【0037】
(10)金属微粒子への吸着阻害分子の固定
金属微粒子表面のうち、G2デンドロン結合型プローブDNAの固定により被覆されていない部分に、吸着阻害分子を固定する。本実施例では吸着阻害分子として、金属表面と強い配位結合を形成するチオール基、及び親水性を有するヒドロキシル基を併せ持つ1−メルカプトヘキサノール(1-Mercaptohexanol)又は2−メルカプトヘキサノール(2-Mercaptohexanol)を使用した。上記(9)で調製した、表面にG2デンドロン結合型プローブDNAを固定した金ナノ粒子の溶液にメルカプトヘキサノールの水溶液を添加し、25℃で遮光・振とうしながら0.5〜10時間反応した。
【0038】
なお、本実施例では金属微粒子の表面にデンドロン結合型プローブDNAを固定した後に吸着阻害分子を結合したが、デンドロン結合型プローブDNAと吸着阻害分子を同時に固定しても良い。すなわち、デンドロン結合型プローブDNA及び吸着阻害分子をともに溶解した溶液を調製し、この溶液と金属微粒子を反応させてもよい。
【実施例2】
【0039】
本実施例では、実施例1で開示した方法により製作した末端アミノ基を有するデンドロン結合型プローブDNAを表面に結合した金属微粒子の評価方法を示す。
【0040】
本実施例では金属微粒子として金ナノ粒子(粒子径15nm及び50nm)を使用した。また、実施例1に示した方法に従って、デンドロンの世代数がG3及びG6であるデンドロン結合型プローブDNAを製作した。なお、プローブDNAとして5’末端に蛍光色素Cy3を有する塩基数50の合成オリゴDNAを使用した。
【0041】
ビス−(p−(スルホナトフェニル)フェニルホスフィンと反応済みの金ナノ粒子(粒子径15nm又は50nm)とG3又はG6デンドロン結合型プローブDNAを混合した。このとき、反応液中のモル比を、金ナノ粒子:デンドロン結合型プローブDNA=1:10となるように調製した。この反応液を25℃で遮光・振とうしながら20時間反応した。この反応により、以下の4種類の金ナノ粒子を調製した。
【0042】
(A1)表面にG3デンドロン結合型プローブDNAが結合した金ナノ粒子(粒子径15nm)
(A2)表面にG3デンドロン結合型プローブDNAが結合した金ナノ粒子(粒子径50nm)
(A3)表面にG6デンドロン結合型プローブDNAが結合した金ナノ粒子(粒子径15nm)
(A4)表面にG6デンドロン結合型プローブDNAが結合した金ナノ粒子(粒子径50nm)
【0043】
一方、対照サンプルとして、ビス−(p−(スルホナトフェニル)フェニルホスフィンと反応済みの金ナノ粒子(粒子径15nm又は50nm)溶液と、3’末端にチオール基、及び5’末端に蛍光色素Cy3を有するチオール修飾型プローブDNA(塩基数50、塩基配列は上記のデンドロン結合型プローブDNAの合成に使用した、5’末端に蛍光色素Cy3を有するプローブDNAと同一)と反応させた。このとき、反応液中のモル比を金ナノ粒子:チオール修飾型プローブDNA=1:10に調製した。この反応液を25℃で遮光・振とうしながら20時間反応した。この反応により、以下の2種類の金ナノ粒子を調製した。
【0044】
(A5)表面にチオール修飾型プローブDNAが結合した金ナノ粒子(粒子径15nm)
(A6)表面にチオール修飾型プローブDNAが結合した金ナノ粒子(粒子径50nm)
【0045】
上記の(A1)から(A6)の6種類の金ナノ粒子の分散液をそれぞれ石英基板上に滴下したのちカバーガラスで封入し、図16に示す蛍光検出システムに設置した。このシステムでは、励起レーザー光1601を石英基板などの担体基板1602の裏面から石英プリズム1603を通して全反射条件で入射させる。全反射条件で入射した励起レーザー光のうち、本実施例の解析対象である金ナノ粒子1604が配置された面に染み出したエバネッセント光によって、デンドロン結合型プローブDNA又はチオール基修飾型プローブDNAを介して金ナノ粒子1604に固定した蛍光分子Cy3 1607を励起する。蛍光分子Cy3から発せられた蛍光1608を基板上面から高感度CCDカメラ1609によって測定する。本システムを用いて1個ずつの金ナノ粒子1604に励起レーザー光を照射し、このとき発生した蛍光を高感度CCDカメラで受光し、Cy3の蛍光強度の時間変化を追跡した。図中、1605は単一プローブDNA、1606はCy3結合型ヌクレオチドである。
【0046】
デンドロン結合型プローブDNA又はチオール基修飾型プローブDNAが結合した金ナノ粒子が発する蛍光強度の時間変化の例を図17に示す。図17(a)から図17(d)に示す4つのグラフは、いずれも縦軸が蛍光強度(任意単位)、横軸が時間(単位:秒)である。デンドロン結合型プローブDNA又はチオール基修飾型プローブDNAが固定した金ナノ粒子が発する蛍光強度は、時間とともに階段状に減少した。これは、プローブDNAの末端に結合した蛍光分子Cy3が光励起され蛍光を発した後に消光する過程に対応している。蛍光分子1分子の消光過程が、蛍光強度の階段状減少の1段分に相当する。蛍光強度の減少の階段が0、1,2,3,4,…,N段である金ナノ粒子の表面には、末端に蛍光分子Cy3が結合したプローブDNAが0,1,2,3,4,…,N個固定していると判定する。すなわち、図17(a)からは、金ナノ粒子の表面に1個のプローブDNAが固定されていると判定される。同様に、図17(b)(c)(d)からは金ナノ粒子の表面に、プローブDNAがそれぞれ2個、3個、4個固定されていると判定される。
【0047】
上記で調製した(A1)から(A6)の6種類の金ナノ粒子について、それぞれ金ナノ粒子1,000個の蛍光強度の時間変化を測定し、蛍光強度が1段で消光する金ナノ粒子、及び2段以上で消光する金ナノ粒子の割合を求めると、図18のようになった。
【0048】
例えば、粒子径15nmの金ナノ粒子では、チオール基修飾型プローブDNAと反応した場合、1段消光を示す金ナノ粒子の割合が5%となった。従って、1個の蛍光分子Cy3、すなわち1個のチオール基修飾型プローブDNAが表面に固定した金ナノ粒子が5%存在することを示している。一方、G6デンドロン結合型プローブDNAと反応した場合、1段消光を示す金ナノ粒子の割合が95%となった。従って、1個の蛍光分子Cy3、すなわち1個のG6デンドロン結合型プローブDNAが固定した金ナノ粒子が95%存在することを示している。従って、図18に示した結果は、金ナノ粒子の粒子径、及びデンドロン結合型プローブDNAのサイズ、すなわちデンドロン部分の回転半径を適切に組み合わせることにより、単一プローブDNAを表面に固定した金ナノ粒子を高収率で製作できることを示している。
【0049】
なお、本実施例では溶液中での金ナノ粒子とデンドロン結合型プローブDNAのモル比を、金ナノ粒子:デンドロン結合型プローブDNA=1:10にて反応したが、このモル比を適宜調整することにより、単一プローブDNAを表面に固定した金ナノ粒子の収率をさらに高めることが可能である。
【実施例3】
【0050】
本実施例では、実施例2で製作したデンドロン結合型プローブDNA固定金ナノ粒子を担体基板表面に固定した単一プローブ分子素子(その一例を図19に示す)の製造プロセスを説明する。デンドロン結合型プローブDNA固定金ナノ粒子を担体基板表面に固定した単一プローブ分子素子の製造プロセスは下記のプロセスから成る。
【0051】
(1)担体基板表面の金ナノ粒子固定用リンカー分子層の形成
(2)担体基板表面へのデンドロン結合型プローブDNA固定金ナノ粒子の固定
(3)担体基板表面の吸着阻害分子層の形成
以下、プローブDNAとしてチミン(Thymine、略記号T)が連続して20個結合したポリT20(PolyT20)を用いて、各プロセスについて説明する。
【0052】
(1)担体基板表面の金ナノ粒子固定用リンカー分子層の形成
洗浄した石英基板をシランカップリング剤である3−アミノプロピルトリメトキシシラン(3-Aminoprooyltrimethoxysilane)のメタノール溶液に5分間浸漬した。続いて基板をメタノールで洗浄したのち、80℃で2時間アニールを行った。このプロセスにより、石英基板表面に金ナノ粒子固定用のアミノ基が導入された。
【0053】
(2)担体基板表面へのデンドロン結合型プローブDNA固定金ナノ粒子の固定
アミノ基を導入した石英基板表面に、デンドロン結合型PolyT20固定金ナノ粒子の溶液を滴下し、25℃にて16時間反応した。基板に滴下するデンドロン結合型PolyT20固定金ナノ粒子溶液の濃度を0.01〜100nMに調製することにより、石英基板表面に固定されるデンドロン結合型PolyT20固定金ナノ粒子の密度を調整した。
【0054】
(3)担体基板表面の吸着阻害分子層の形成
担体基板上でデンドロン結合型PolyT20固定金ナノ粒子が固定されなかった領域に、吸着阻害分子であるNHS(N-Hydroxysuccinimide)エステルを末端に有するポリエチレングリコール(以下、NHS-PEGと略記する)を結合した。具体的にはトリエタノールアミン(pH 8.0)で4mMに調製したNHS-PEG溶液に担体基板を浸漬し、25℃で1時間反応した。反応終了後、担体基板を純水で十分に洗浄した。
【0055】
なお、本実施例では単一プローブ分子素子を製作する際に、金属微粒子にデンドロン結合型プローブDNAを固定した後に、この金属微粒子を基板表面に固定し、その後に金属微粒子が固定された部分以外の基板表面に吸着阻害分子を固定する方法を用いた。一方、金属微粒子を基板に固定した後に、金属微粒子が固定された部分以外の基板表面に吸着阻害分子を固定し、その後に金属微粒子の表面にデンドロン結合型プローブDNAを固定する方法を用いても良い。
【実施例4】
【0056】
本実施例では、実施例3で製作した単一プローブ分子素子を用いてDNAシーケンシングを行った例を図19、図20、図21、図22により説明する。図19は、実施例3で製作した単一プローブ分子素子の一例を示す。石英基板1901に固定された金ナノ粒子1902の表面に固定された単一のデンドロン結合型PolyT20(1903)に対し、シーケンシング対象の単一DNA 1904をハイブリダイズさせた。すなわち、DNAのハイブリダイゼーション溶液である5×SSC(クエン酸バッファ、Standard saline citrate)、0.5%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム、Sodium dodecyl sulfate)にてシーケンシンング対象DNAの溶液(濃度1nM〜1μM)を調製した。この溶液を単一プローブ分子素子表面の金ナノ粒子固定部分に滴下し、25℃にてハイブリダイゼーションを行った。なお、本実施例ではシーケンシング対象の単一DNAとして5’末端からアデニン(Adenine、略記号A)配列を連続して持つDNAをハイブリダイズさせた。この単一DNA分子1904の塩基配列を5’末端から3’末端の方向に示す。
【0057】
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAGTCGAGCGGTAGCACAGAGAGCTTGCTCTCGGGTGACGAGCGGCGGACG(塩基数70)(配列番号1)
【0058】
次に、プローブDNAであるデンドロン結合型PolyT20(1903)をプライマーとして、単一DNA(1904)のシーケンシングを行った。シーケンシング対象のDNAをハイブリダイズさせた単一プローブ分子素子と、ヌクレオチド3リン酸のリン酸基末端に蛍光分子Cy3を有する4種類のヌクレオチドであるアデニン(Adenine、略記号A)、チミン(Thymine、略記号T)、グアニン(Guanine、略記号G)、シトシン(Cytosine、略記号C)をポリメラーゼ反応により反応させた。ここで用いた反応溶液は10mM トリス−塩酸(Tris-HCl)、5mM 塩化マグネシウム(MgCl2)溶液にて調製し、Cy3結合型の4種類のヌクレオチド、及びDNAポリメラーゼを溶解した。ポリメラーゼ反応によってシーケンシング対象の単一DNA(1904)の塩基配列と相補的な塩基を持つCy3結合型ヌクレオチドがプローブDNAであるデンドロン結合型PolyT20(1903)の5’末端に結合する。本実施例ではCy3結合型ヌクレオチドC(1905)の溶液を単一プローブ分子素子と反応させた場合、デンドロン結合型PolyT20(1903)の5’末端にCy3結合型ヌクレオチドCが結合する。これは、シーケンシング対象の単一DNA 1904において、5’末端のPolyA配列に隣接するヌクレオチドGに対して相補的なヌクレオチドCが結合するからである。
【0059】
図20に示した蛍光検出システムを用いて、ポリメラーゼ反応中の蛍光画像を取得する。蛍光強度は石英基板上面から高感度CCDカメラ2011で測定した。励起光を全反射条件で照射することにより、蛍光分子Cy3(2009)が結合したヌクレオチドCが結合した金ナノ粒子2004からの蛍光が検出される。蛍光を検出した後、デンドロン結合型PolyT20(2005)に結合したヌクレオチドCのリン酸基が切断される。これにより、リン酸基の末端に結合していた蛍光分子Cy3(2009)がデンドロン結合型PolyT20(2005)から除去される。次に、単一プローブ分子素子をCy3結合型ヌクレオチドAの溶液と反応させると、シーケンシング対象の単一DNA(1904)のヌクレオチドGに隣接するTに、Cy3結合型ヌクレオチドAが結合する。このとき、金ナノ粒子からCy3の蛍光が検出される。以上のプロセスを繰り返すことにより、単一プローブ分子素子の表面に固定されたそれぞれの金ナノ粒子において、シーケンシング対象の単一DNAの塩基配列を読み取ることが可能であった。
【0060】
デンドロン結合型PolyT20固定金ナノ粒子を利用して製作した単一プローブ分子素子と比較するため、表面にPolyT20を直接結合した石英基板を製作した。本実施例で製作した、石英基板2102にデンドロン結合型PolyT20固定金ナノ粒子2101を利用して製作した単一プローブ分子素子の概念図を図21(a)に、また表面にPolyT20(2103)を直接固定した石英基板2104の概念図を図21(b)に示した。これらの基板を用いて、単一DNAのシーケンシングを行うために、シーケンシング対象のDNAに含まれるある1塩基の伸長反応を行った。このときに得られた各基板上の蛍光輝点の蛍光強度のヒストグラムを図22に示した。デンドロン結合型PolyT20固定金ナノ粒子を利用して製作した単一プローブ分子素子(図21(a))、ならびに表面にPolyT20を直接結合した石英基板(図21(b))のそれぞれについて、約3,000μm2の面積に含まれる蛍光輝点の強度を数値化した。その結果、表面にPolyT20を直接結合した石英基板では蛍光輝点の総数は約1,200個であった(図22中の「金ナノ粒子なし」で示すデータ)のに対し、デンドロン結合型PolyT20固定金ナノ粒子を利用して製作した単一プローブ分子素子では約3,000個の蛍光輝点が検出された(図22中の「金ナノ粒子あり」で示すデータ)。
【0061】
また、表面にPolyT20を直接結合した石英基板と比較して、デンドロン結合型PolyT20固定金ナノ粒子を利用して製作した単一プローブ分子素子では蛍光強度の平均値が約3倍であるとともに、蛍光強度の標準偏差も半減した。表面にPolyT20を直接固定した石英基板では、PolyT20は基板表面にランダムに固定しており、隣接するPolyT20間の距離も一定ではなく、蛍光強度のばらつきが大きくなった。一方、デンドロン結合型PolyT20固定金ナノ粒子を利用して製作した単一プローブ分子素子では、金ナノ粒子の表面に固定されたデンドロン結合型PolyT20が基板表面に1個ずつ、かつ距離が十分に離れて固定されており、より均質な反応条件下に置かれていることから、蛍光強度のバラツキが小さくなった。さらに、金ナノ粒子による蛍光増強効果により蛍光強度が増大することも確認された。従って、本実施例においてデンドロン結合型DNA固定金ナノ粒子を利用した単一プローブ分子素子では、DNAシーケンシングを高精度かつ高再現性にて実施できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の単一プローブ分子素子は、核酸の網羅的定量解析を行うDNAマイクロアレイや核酸の塩基配列を解読するDNAシーケンサにおいて、単一分子レベルで精度及び再現性の高い検出を行うための生体分子検出素子として適用できる。また、該単一プローブ分子素子は、タンパク質や糖鎖などの生体分子、及び様々な化学物質を高精度及び高再現性にて検出するための検出素子として利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】エチレンジアミンのコアを有する第2世代のポリアミドアミンデンドリマー(G2-PAMAMデンドリマー)の構造を示す図。
【図2】エチレンジアミンのコアを有するPAMAMデンドリマーの世代と末端アミノ基数、及び回転半径の関係を示す図。
【図3】(a)単一プローブ分子固定金属微粒子を示す模式図、(b)単一プローブ分子とリンカー分子を結合する構造の変形例を示す図、(c)リンカー分子を金属微粒子の表面に固定する構造の変形例を示す図。
【図4】単一プローブ分子固定金属微粒子を使用した単一プローブ分子素子を示す模式図。
【図5】シスタミンのコアを有するG2-PAMAMデンドリマーの構造を示す図。
【図6】デンドリマーへのカルボキシル基の導入プロセスを示す模式図。
【図7】SCN-Bzl-DTPAの構造を示す図。
【図8】デンドリマーのジスルフィド結合の切断プロセスを示す模式図。
【図9】1本鎖プローブDNAへのマレイミド基の導入プロセス示す模式図。
【図10】デンドロンと1本鎖プローブDNAの結合プロセスを示す模式図。
【図11】デンドロン結合型プローブDNAへのアミノ基の導入プロセスを示す模式図。
【図12】両末端にアミノ基を有する分子の構造を示す図。
【図13】両末端にアミノ基を有する直鎖型のポリエチレングリコール分子の構造を示す図。
【図14】4つの末端アミノ基を有する分岐型のポリエチレングリコール分子の構造を示す図。
【図15】NHSエステル基及び2−ピリジルジチオール基を有する分子の構造を示す図。
【図16】蛍光検出システムを示す模式図。
【図17】プローブDNA結合型金ナノ粒子が発する蛍光強度の時間変化の例を示す図。
【図18】プローブDNA結合型金ナノ粒子の蛍光強度が1段で消光する割合、及び多段で消光する割合を示す図。
【図19】単一プローブ分子素子を示す模式図。
【図20】蛍光検出システムを示す模式図。
【図21】(a)デンドロン結合型プローブDNA固定金ナノ粒子を利用して製作した単一プローブ分子素子、及び(b)表面にプローブDNAを直接固定した石英基板を示す模式図。
【図22】DNAシーケンシングの一塩基伸張反応中に検出した、基板上の蛍光輝点の蛍光強度のヒストグラム。
【符号の説明】
【0064】
301:単一プローブ分子、303:リンカー分子、306:金属微粒子、312:二官能性化合物、313:リンカー分子、317:二官能性化合物、401:担体基板、402:単一プローブ分子固定金属微粒子、501:ジスルフィド結合、502:末端アミノ基、601:G2-PAMAMデンドリマー、602:アミノ基、603:無水コハク酸、604:カルボキシル基、701:イソチオシアナート基、702:末端カルボキシル基、801:G2-PAMAMデンドリマー、802:ジチオトレイトール、803:ジスルフィド結合、804:末端にチオール基を有するG2-PAMAMデンドロン、805:チオール基、901:1本鎖DNA、902:アミノ基、904:sulfo-SMCC、905:マレイミド基、1001:G2-PAMAMデンドロン、1002:末端チオール基、1003:マレイミド基修飾1本鎖DNA、1004:末端マレイミド基、1005:G2デンドロン結合型プローブDNA、1101:G2デンドロン結合型プローブDNA、1102:末端カルボキシル基、1103:エチレンジアミン、1104:末端アミノ基を有するG2デンドロン結合型プローブDNA、1105:末端アミノ基、1601:励起レーザー光、1602:担体基板、1603:石英プリズム、1604:金ナノ粒子、1605:単一プローブDNA、1606:Cy3結合型ヌクレオチド、1607:蛍光分子Cy3、1608:蛍光分子Cy3から発せられた蛍光、1609:高感度CCDカメラ、1901:石英基板、1902:金ナノ粒子、1903:デンドロン結合型PolyT20、1904:シーケンシング対象の単一DNA、1905:Cy3結合型ヌクレオチドC、2001:励起レーザー光、2002:石英基板、2003:石英プリズム、2004:金ナノ粒子、2005:デンドロン結合型PolyT20、2006:シーケンシング対象の単一DNA、2007:DNAポリメラーゼ、2008:ヌクレオチド、2009:蛍光分子Cy3、2010:蛍光分子Cy3から発せられた蛍光、2011:高感度CCDカメラ、2101:デンドロン結合型PolyT20固定金ナノ粒子、2102:石英基板、2103:PolyT20、2104:石英基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の表面に固定された複数の金属微粒子と、
前記金属微粒子1個の表面に1個ずつ、化学結合を介して固定されたリンカー分子と、
前記リンカー分子に1個ずつ、化学結合を介して結合されたプローブ分子と
を有することを特徴とする単一プローブ分子素子。
【請求項2】
請求項1に記載の単一プローブ分子素子において、前記金属微粒子の表面は、前記リンカー分子が固定された領域以外の領域が、化学結合を介して固定された吸着阻害分子により被覆されていることを特徴とする単一プローブ分子素子。
【請求項3】
請求項1に記載の単一プローブ分子素子において、前記基板の表面は、前記金属微粒子が固定された領域以外の領域が、化学結合を介して固定された吸着阻害分子により被覆されていることを特徴とする単一プローブ分子素子。
【請求項4】
請求項1に記載の単一プローブ分子素子において、前記金属微粒子は、貴金属類に属する金属、貴金属類に属する金属の合金、又は貴金属類に属する金属を積層したものから成ることを特徴とする単一プローブ分子素子。
【請求項5】
請求項1に記載の単一プローブ分子素子において、前記プローブ分子は核酸であることを特徴とする単一プローブ分子素子。
【請求項6】
請求項1に記載の単一プローブ分子素子において、前記リンカー分子は、前記プローブ分子を化学結合し得る第一の末端官能基を1個だけ有し、前記金属微粒子に固定し得る2個以上の第二の末端官能基を有することを特徴とする単一プローブ分子素子。
【請求項7】
請求項6に記載の単一プローブ分子素子において、前記リンカー分子の回転半径をR1、前記金属微粒子の回転半径をR2とするとき、
0.1 ≦ (R1/R2) ≦ 1.5
を満たすことを特徴とする単一プローブ分子素子。
【請求項8】
請求項1に記載の単一プローブ分子素子において、前記リンカー分子はデンドロン型分子であることを特徴とする単一プローブ分子素子。
【請求項9】
請求項8に記載の単一プローブ分子素子において、前記デンドロン型分子は、ポリアミドアミン構造を有するデンドロン型分子であることを特徴とする、単一プローブ分子素子。
【請求項10】
請求項1に記載の単一プローブ分子素子において、前記金属微粒子は寸法が10nm〜100nmであることを特徴とする単一プローブ分子素子。
【請求項11】
金属微粒子と、
前記金属微粒子の表面に化学結合を介して固定された1個のリンカー分子と、
前記リンカー分子に化学結合を介して結合された1個のプローブ分子と
を有することを特徴とする単一プローブ分子固定金属微粒子。
【請求項12】
請求項11に記載の単一プローブ分子固定金属微粒子において、前記金属微粒子の表面は、前記リンカー分子が固定された領域以外の領域が、化学結合を介して固定された吸着阻害分子により被覆されていることを特徴とする単一プローブ分子固定金属微粒子。
【請求項13】
請求項11に記載の単一プローブ分子固定金属微粒子において、前記金属微粒子は、貴金属類に属する金属、貴金属類に属する金属の合金、又は貴金属類に属する金属を積層したものから成ることを特徴とする単一プローブ分子固定金属微粒子。
【請求項14】
請求項11に記載の単一プローブ分子固定金属微粒子において、前記プローブ分子は核酸であることを特徴とする単一プローブ分子固定金属微粒子。
【請求項15】
請求項11に記載の単一プローブ分子固定金属微粒子において、前記リンカー分子は、前記プローブ分子を化学結合し得る第一の末端官能基を1個だけ有し、前記金属微粒子に固定し得る2個以上の第二の末端官能基を有することを特徴とする単一プローブ分子固定金属微粒子。
【請求項16】
請求項15に記載の単一プローブ分子固定金属微粒子において、前記リンカー分子の回転半径をR1、前記金属微粒子の回転半径をR2とするとき
0.1 ≦ (R1/R2) ≦ 1.5
を満たすことを特徴とする単一プローブ分子固定金属微粒子。
【請求項17】
請求項11に記載の単一プローブ分子固定金属微粒子において、前記リンカー分子はデンドロン型分子であることを特徴とする単一プローブ分子固定金属微粒子。
【請求項18】
請求項17に記載の単一プローブ分子固定金属微粒子において、前記デンドロン型分子は、ポリアミドアミン構造を有するデンドロン型分子であることを特徴とする、単一プローブ分子固定金属微粒子。
【請求項19】
請求項11に記載の単一プローブ分子固定金属微粒子において、前記金属微粒子は寸法が10nm〜100nmであることを特徴とする単一プローブ分子固定金属微粒子。
【請求項20】
基板表面に固定した複数の金属微粒子のそれぞれに1個ずつ、化学結合を介してリンカー分子が固定され、前記リンカー分子に1個ずつ、化学結合を介してプローブ核酸分子が結合された単一プローブ分子素子の前記プローブ核酸分子とシーケンシング対象である核酸分子とを反応させる工程と、
前記プローブ核酸分子の一塩基伸長反応を行い、シーケンシング対象である核酸分子に蛍光標識されたヌクレオチドを反応させる工程と、
前記単一プローブ分子素子に励起光を照射する工程と、
前記蛍光標識されたヌクレオチドから発生する蛍光を検出する工程と
を有することを特徴とする核酸分子のシーケンシング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−25568(P2010−25568A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183588(P2008−183588)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】