説明

単分散性樹脂粒子、その製造方法及び塗布物

【課題】親水性に優れ、塗膜からの粒子の脱落防止性にも優れた、単分散性の樹脂粒子を提供する。
【解決手段】下記構造式


(式中、R1はH又はメチル基を、mは1〜50、nは1〜50を意味する)で表される界面活性能を有するビニル系単量体0.1〜20重量部を添加、重合を行い作製したシード粒子に、重合開始剤と重合性単量体が吸収された水性エマルジョンを作製した後、前記重合性単量体を重合させて単分散性樹脂粒子を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単分散性樹脂粒子、その製造方法及び塗布物に関する。更に詳しくは、本発明は、特定の界面活性能を有するビニル系単量体を使用して得られる単分散性樹脂粒子、その製造方法及び塗布物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂粒子が、液晶用スペーサー、クロマトグラフィー用充填剤、診断試薬等に使用されている。また、近年、液晶分野においても光拡散板、光拡散フィルム、防眩フィルム等に樹脂粒子が用いられている。これらの分野では、樹脂粒子に所望以外の粒子径の粒子が混ざっていると、その粒子は欠陥を生じさせる原因となる。そのため単分散性の高い樹脂粒子が望まれている。
単分散性の高い樹脂粒子を得る方法として、種々の方法が提案されている。
例えば、特開平8−59716号公報(特許文献1)では、水性分散媒に分散されたシード粒子に、界面活性能を有しない単量体と界面活性能を有する単量体の混合乳化液を、シード粒子を分散させた水性分散媒中に微分散させてシード粒子に吸着させ、単量体を重合させる樹脂粒子の製造方法が提案されている。
【特許文献1】特開平8−59716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記公報では、界面活性能を有する単量体として、不飽和ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル又はその硫酸エステル塩が使用されている。この単量体には官能基としてフェニル基が入っているため、得られる樹脂粒子に十分な親水性を付与できないという問題がある。十分な親水性を備えない樹脂粒子は、樹脂粒子が凝集するという問題を引き起こす。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の発明者は、鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有する界面活性能を有するビニル系単量体を使用することで、親水性に優れ、塗膜からの粒子の脱落防止性にも優れた、単分散性の樹脂粒子が得られることを意外にも見出し本発明に至った。
かくして本発明によれば、シード粒子に重合開始剤と重合性単量体が吸収された水性エマルジョンを作製した後、前記重合性単量体を重合させて単分散性樹脂粒子を製造する方法であって、
前記重合が、前記重合性単量体100重量部に対して、下記構造式
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、R1はH又はCH3、mは1〜50、nは1〜50を意味する)
で表される界面活性能を有するビニル系単量体0.1〜20重量部を添加した前記重合性単量体又は水性媒体を用いて行われることを特徴とする単分散性樹脂粒子の製造方法が提供される。
更に、本発明によれば、上記単分散性樹脂粒子の製造方法により得られ、21以上の濡れ性値を有することを特徴とする単分散性樹脂粒子が提供される。
また、本発明によれば、上記単分散性樹脂粒子とバインダーとを含む塗布組成物から得られた塗布物が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、親水性が強く、そのため水系媒体中への分散性に優れた単分散性樹脂粒子を簡便に得ることができる。具体的には、上記特定の構造を有する界面活性能を有するビニル系単量体を使用することで、表面に界面活性能を有するビニル系単量体由来の親水性基(OH基)が多く存在した単分散性の高い樹脂粒子を安定に得ることができる。
また、本発明の製造方法により得られた単分散性樹脂粒子は、高い親水性を有するため、水性溶剤への分散性が高い。そのため水性溶剤を使用した塗布組成物において有用である。
【0008】
更に、上記界面活性能を有するビニル系単量体は、重合箇所と末端のOH基が、他末端の重合性基から、エチレングリコール基及びプロピレングリコール基を介して、離れた場所に位置する。そのため、塗布物の形成に、この単分散性樹脂粒子を使用することで、例えば、塗布物の形成にイソシアネート系の硬化剤を使用した場合、その硬化剤との反応性を上げることができる。その結果、得られた塗布物の強度を上げることができ、塗膜からの粒子の脱落防止性を上げることができる。
更にまた、塗布組成物は高い分散性で単分散性樹脂粒子が分散しているため、この塗布組成物から得られる塗布物中の単分散性樹脂粒子の分散性も高いという特徴がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、シード粒子に重合開始剤と重合性単量体が吸収された水性エマルジョンを作製した後、前記重合性単量体を重合させて単分散性樹脂粒子を製造する方法に関する。水性エマルジョンとは、水性媒体中にシード粒子に重合開始剤と重合性単量体が吸収された油滴が乳化状態で分散した液を意味する。本発明の樹脂粒子は、CV値で15%以下の高い単分散性を有する。
【0010】
重合に用いられる水性エマルジョンは、重合開始剤と重合性単量体を含む単量体混合物と水性媒体と界面活性能を有するビニル系単量体とシード粒子とを混合することにより得ることができる。界面活性能を有するビニル系単量体は、水性媒体及び/又は重合性単量体に分散できる。この内、水性媒体に分散させることが、重合性単量体の油滴の表面に界面活性能を有するビニル系単量体を存在させやすいので好ましい。シード粒子は、水性媒体に予め添加してもよく、単量体混合物と水性媒体と界面活性能を有するビニル系単量体との混合液に添加してもよい。
本発明の単分散性樹脂粒子の製造方法では、水性エマルジョンの形成に下記構造式
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R1はH又はCH3、mは1〜50、nは1〜50を意味する)
有する界面活性能を有するビニル系単量体を使用すれば、得られる単分散性樹脂粒子表面に親水部位が出やすく、少量添加で親水性の高い粒子が得られる。また、水性媒体中で、重合性単量体の油滴を安定して存在させることができるので、得られる樹脂粒子の単分散性を向上できる。
mが50より大きい場合、重合安定性が低下して合着粒子が発生することがあり、またnが50より大きい場合も重合安定性が低下して合着粒子が発生することがあり、好ましくない。好ましいm及びnの範囲は1〜30である。
【0013】
上記界面活性能を有するビニル系単量体は、市販品を利用できる。例えば、日本油脂社製のブレンマーシリーズが挙げられる。更に、ブレンマーシリーズの中で、ブレンマー50PEP−300、ブレンマー70PEP−350B等が本発明に好適である。
【0014】
界面活性能を有するビニル系単量体は、以下で説明する重合性単量体100重量部に対して、0.1〜20重量部の範囲で使用される。使用量が0.1重量部未満の場合、分散性が低下して塗布ムラの原因となるため好ましくなく、20重量部より多い場合、重合凝集を引き起こす原因となるため好ましくない。より好ましい使用量は、1〜10の範囲である。
【0015】
水性媒体としては、特に限定されず、水、又は水と水溶性有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール等の低級アルコール)との混合媒体が挙げられる。水性媒体は、以下で説明する重合性単量体100重量部に対して、100〜1000重量部の範囲で使用することが好ましく、200〜500重量部の範囲で使用することがより好ましい。
【0016】
重合性単量体としては、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸又はそのエステル、メタクリル酸、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸ヘプタデカフルオロデシル等のメタクリル酸又はそのエステルが挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸系単量体は、それぞれ単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。また、(メタ)アクリルとは、メタクリル又はアクリルを意味する。
【0017】
(メタ)アクリル酸系単量体以外の重合性単量体として、例えばスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル等のビニル基を有するものが挙げられる。
上記重合性単量体は単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
また、重合性単量体には、架橋性単量体が含まれていてもよい。架橋性単量体としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、デカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、フタル酸ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスルトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン及びこれらの誘導体である芳香族ジビニル系単量体が挙げられる。これら架橋性単量体は2種類以上組み合わせて用いることもできる。架橋性単量体は、上記単官能の重合性単量体に対する使用割合が多くなりすぎると粒子が硬くなり、貼り合せるシートを傷付ける懸念や、バインダーとのなじみが低下し樹脂粒子が脱落することがある。また、架橋性単量体の使用割合が少な過ぎると塗布性に劣り、また塗布し難いことがある。従って、架橋性単量体の使用割合は、単量体全量中、0.5〜80重量%であることが好ましく、5〜60重量%がより好ましい。
【0019】
重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物等が挙げられる。重合開始剤は、重合性単量体100重量部に対して、0.1〜1.0重量部の範囲で使用することが好ましい。
【0020】
シード粒子としては、スチレン系、スチレン・ブタジエン系、(メタ)アクリル酸エステル系、酢酸ビニル系、スチレン系単量体と(メタ)アクリル系単量体の共重合体等の重合体からなる粒子が挙げられる。シード粒子は、平均粒子径0.1〜10μmの粒子が好ましい。シード粒子は、公知の方法により製造できる。例えば、ソープフリー乳化重合又は分散重合法等を用いて製造できる。
【0021】
シード粒子は、重合性単量体100重量部に対して、0.1〜10重量部の範囲で使用することが好ましく、0.2〜5重量部の範囲で使用することがより好ましい。重合性単量体の混合比率が小さくなると重合による粒子径の増加は小さく、大きくなると完全にシード粒子に吸収されず、水性媒体中で独自に懸濁重合し異常粒子を生成することがある。
本発明の単分散性樹脂粒子は、必要に応じて、公知の塗面調整剤、流動性調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、硬化触媒、体質顔料、着色顔料、金属顔料、マイカ粉顔料、染料、有機溶剤等を含んでいてもよい。
【0022】
以下、単分散性樹脂粒子の製造方法について説明する。
まず、重合に用いられる水性エマルジョンは、重合開始剤と重合性単量体を含む単量体混合物と水性媒体と界面活性能を有するビニル系単量体とシード粒子とを混合することにより得ることができる。
単量体混合物と水性媒体との混合は、公知の方法により作製できる。例えば、重合性単量体を、水性媒体に添加し、ホモジナイザー、超音波処理機、ナノマイザー等の微細乳化機により分散させることで行うことができる。
【0023】
界面活性能を有するビニル系単量体は、水性媒体及び/又は重合性単量体に分散できる。この内、水性媒体に分散させることが、重合性単量体の油滴の表面に界面活性能を有するビニル系単量体を存在させやすいので好ましい。シード粒子は、水性媒体に予め添加してもよく、単量体混合物と水性媒体と界面活性能を有するビニル系単量体との混合液に添加してもよい。
【0024】
水性媒体中での重合性単量体の液滴の粒子径は、シード粒子よりも小さい方が、重合性単量体がシード粒子に効率よく吸収されるので好ましい。
シード粒子を水性媒体へ添加した後、シード粒子へ重合性単量体を吸収させる。この吸収は、通常、シード粒子添加後のエマルジョンを、室温(約20℃)で1〜12時間攪拌することで行うことができる。また、エマルジョンを30〜50℃程度に加温することにより吸収を促進してもよい。
【0025】
シード粒子は、重合性単量体の吸収により膨潤する。シード粒子の膨潤度は、重合性単量体とシード粒子との混合比率を変えることにより調節することが可能である。ここでいう膨潤度とは、膨潤前のシード粒子に対する膨潤後のシード粒子の体積比を意味する。なお、吸収の終了は光学顕微鏡の観察で粒子径の拡大を確認することにより判定できる。
【0026】
次に、シード粒子に吸収させた重合性単量体を重合させることで、単分散性樹脂粒子が得られる。
重合温度は、重合性単量体、重合開始剤の種類に応じて、適宜選択することができる。重合温度は、40〜100℃が好ましく、より好ましくは50〜90℃である。重合反応は、シード粒子に重合性単量体と重合開始剤が完全に吸収された後に、昇温して行うのが好ましい。重合完了後、必要に応じて樹脂粒子を遠心分離して水性媒体を除去し、水及び溶剤で洗浄した後、乾燥、単離される。
【0027】
上記重合工程において、樹脂粒子の分散安定性を向上させるために、界面活性剤や高分子分散安定剤を添加してもよい。
界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤やポリビニルピロリドン、ゼラチン、デンプン、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール等の高分子分散安定剤が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、二種以上併用されてもよい。界面活性剤の添加量は、重合性単量体100重量部に対して0.01〜5重量部が好ましい。
【0028】
高分子分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、セルロース類(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、ポリビニルピロリドン等である。またトリポリリン酸ナトリウム等の無機系水溶性高分子化合物も併用することができる。これらのうち、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンが好ましい。高分子分散安定剤の添加量は、重合性単量体100重量部に対して1〜10重量部が好ましい。
【0029】
界面活性剤や高分子分散安定剤は、シード粒子に重合性単量体と重合開始剤を吸収させた後で添加してもよいし、重合性単量体を水系媒体に分散させる時に添加してもよい。分散時の添加によって、分散時の重合性単量体の液滴の分散安定化と重合時の樹脂粒子の分散安定化との両方を得ることができる。
【0030】
本発明により得られる単分散性樹脂粒子の粒子径は、シード粒子の粒子径、重合性単量体とシード粒子の混合割合によって自由に設計可能である。本発明の方法は、粒子径0.3〜200μm、CV値15%以下の単分散性樹脂粒子の製造に好適である。
【0031】
また、本発明の単分散性樹脂粒子は、上記界面活性能を有するビニル系単量体を使用しているため、粒子表面に親水部位(OH基)が出やすい。そのため、界面活性能を有するビニル系単量体を少量添加することで、より親水性の高い粒子が得られる。特に、以下の実施例の欄で測定法が記載された濡れ性値が、21以上の単分散性樹脂粒子を得ることができる。
更に、上記界面活性能を有するビニル系単量体由来の成分が粒子表面に存在するために、これが立体反発を引き起こして、単分散性樹脂粒子の媒体中での分散性を向上できる。
【0032】
本発明によれば、上記単分散性樹脂粒子とバインダーとを含む塗布組成物から得られた塗布物(例えば、光拡散フィルム)が提供できる。
バインダーとしては、特に限定されず、公知のバインダーをいずれも使用できる。例えば、アクリル系バインダー(三菱レイヨン社製:商品名ダイヤナールLR−102、ダイヤナールBR−106)等が挙げられる。単分散性樹脂粒子は、バインダー100重量部に対して、0.1〜1000重量部の範囲で使用できる。より好ましい使用量は、1〜560重量部である。
【0033】
塗布組成物には、通常分散媒体が含まれる。分散媒体としては、水性及び油性の媒体がいずれも使用できる。特に、本発明の単分散性樹脂粒子は、水性媒体に対して高い濡れ性値を有しているため、水性媒体を使用すれば粒子の分散性を向上できる。
塗布組成物には、硬化剤、着色剤、帯電防止剤、レベリング剤等の他の添加剤が含まれていてもよい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づいて本発明の単分散性樹脂粒子の製造方法をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。下記実施例における平均粒子径の測定法、濡れ性値、沈降性及び脱落防止性の評価方法を下記する。
(シード粒子の平均粒子径)
粒子0.1gと0.1%ノニオン性界面活性剤溶液10mlを試験管に投入し、ヤマト科学社製タッチミキサー(TOUCHMIXER MT−31)で2秒間混合する。この後、試験管を市販の超音波洗浄器であるヴェルボクリーア社製ULTRASONIC CLEANER VS−150を用いて10分間予備分散させる。予備分散させたものをベックマンコールター社製LS230型にて超音波を照射しながら測定した。そのときの光学モデルは作製した粒子の屈折率にあわせる。
【0035】
(樹脂粒子の平均粒子径及びCV値)
平均粒子径及びCV値は、Coulter Electronics Limited発行のReference MANUAL FOR THE COULTER MULTISIZER(1987)に従って、Xμmサイズのアパチャーを用いてキャリブレーションを行い測定する。
【0036】
具体的には、樹脂粒子0.1gを0.1%ノニオン系界面活性剤10ml中にタッチミキサー及び超音波を用いて予備分散させ、これを本体備え付けのISOTON II(ベックマンコールター社:測定用電解液)を満たしたビーカー中に、緩く撹拌しながらスポイドで滴下して、本体画面の濃度計の示度を10%前後に合わせる。次にコールターマルチサイザーIII(ベックマンコールター社製:測定装置)本体にアパチャーサイズXμmをセットし、Current、Gain、Polarityをアパチャーサイズに合わせた所定の条件で測定を行う。測定中はビーカー内を気泡が入らない程度に緩く撹拌しておき、粒子を10万個測定した時点で測定を終了する。体積加重の平均径(体積%モードの算術平均径:体積メジアン径)を樹脂粒子の平均粒子径(X)として算出する。
【0037】
アパチャーサイズXμmは、平均粒子径が1μm未満の樹脂粒子に対しては20μmであり、1〜10μm未満の樹脂粒子に対しては50μmであり、平均粒子径が10〜30μm未満の樹脂粒子に対しては細孔径100μmであり、平均粒子径が30〜90μm未満を超える樹脂粒子に対しては細孔径280μmであり、平均粒子径が90μmを超える樹脂粒子に対しては細孔径400μmである。
変動係数(CV値)とは、標準偏差(σ)及び上記平均粒子径(X)から以下の式により算出された値である。
CV値(%)=(σ/X)×100
【0038】
(濡れ性値)
100mlのガラスビーカー(内径約50mm)に入った蒸留水50mlの液面上に粒子0.1gを散布、展開して浮かせ、長さ30mmの攪拌子を用いてマグネットスターラにて約500rpmで液面に渦や乱れが生じない程度にゆっくりと攪拌しながらメタノールを滴下する。全ての粒子が液に濡れて液中に完全に沈降した時点を終点とし、そのときの添加メタノール量A(ml)を測定する。この添加メタノール量Aを次式に代入して濡れ性値が算出される。
濡れ性値=[(14.49×A)+(50×23.43)]/((A+50)
水の溶解度パラメーター値=23.43
メタノールの溶解度パラメーター値=14.49
メタノール滴下量=Aml
【0039】
(沈降性)
下記の配合により塗料組成物を作製し、72時間静置した後の粒子の沈降状態を観察する。沈降性は、粒子が完全に沈降しているものを×、沈降が観察されないものを○とする。
塗料組成物の配合
バインダー樹脂:バイロン200(東洋紡績社製ポリエステル)50重量部
粒子:7重量部
トルエン:100重量部
メチルエチルケトン:20重量部
【0040】
(塗膜からの粒子の脱落防止性)
下記の配合からなる塗料組成物を白黒隠蔽率試験紙上に、ウエット厚100μmでアプリケーターにて塗布し、70℃のオーブン中で乾燥させる。乾燥後の塗膜表面を黒色の布で20回擦り、塗膜を観察する。脱落防止性は、塗膜から脱落して布に付着した白い粒子が多量に観察されるものを×、観察されないものを○とする。
塗料組成物の配合
バインダー樹脂:アクリル系バインダー(三菱レイヨン社製、LR−102)50重量部
粒子:7重量部
トルエン:100重量部
メチルエチルケトン:20重量部
硬化剤:イソシアネート系硬化剤(旭化成ケミカルズ社製、デュラネートTKA−100)15重量部
シード粒子の製造例
反応器中の純水630g中に、メタクリル酸メチル108gとオクチルメルカプタン11gを投入し、反応器を窒素パージし、更に混合物を55℃まで昇温した。その後、過硫酸カリウム0.54gを純水100gに溶解したものを混合物に添加して再び窒素パージした。次いで、55℃で12時間重合を行うことで、平均粒子径0.75μmのシード粒子をスラリーの状態で得た(固形分14重量%)。
【0041】
実施例1
重合性単量体としてメタクリル酸メチル110.4gとエチレングリコールジメタクリレート48gとからなる混合溶液に、2,2−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.96gを溶解して、単量体混合物とした。
これとは別に、純水160gにポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノメタクリレート(ブレンマー50PEP−300:日本油脂社製、mは約3.5、nは約2.5)1.6gとドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4gとを加えて水溶液を得た。この水溶液に単量体混合物を添加し、T・Kホモミキサーを用いて8000rpmで10分間攪拌してエマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌機及び温度計を備えた容量1Lの反応容器に入れ、シード粒子の製造例で得られたスラリーを57g添加した。混合物を4時間120rpm攪拌し、単量体混合物を吸収させることでシード粒子を膨潤させた。
【0042】
膨潤終了後に5%ポリビニルアルコール水溶液(ゴーセノールGM−14:日本合成化学社製)480gに亜硝酸ナトリウムを0.13g添加した。得られた溶液に、膨潤させたシード粒子を含むスラリーを添加して、70℃で12時間重合を行い、平均粒子径2.3μm、CV値11.2%の粒度分布の揃った粒子(単分散性樹脂粒子)が得られた。
【0043】
実施例2
重合性単量体としてメタクリル酸メチル104gとエチレングリコールジメタクリレート48gからなる混合溶液に、2,2−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.96gを溶解して、単量体混合物とした。
これとは別に、純水160gにポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノメタクリレート(ブレンマー50PEP−300:日本油脂社製)8.0gとドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4gとを加えて水溶液を得た。
上記単量体混合物と水溶液とを使用すること以外は実施例1と同様にして樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子は、平均粒子径2.1μm、CV値11.1%の粒度分布の揃った粒子(単分散性樹脂粒子)であった。
【0044】
実施例3
重合体単量体としてメタクリル酸メチル80gとエチレングリコールジメタクリレート48gからなる混合溶液に、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.96gを溶解して、単量体混合物とした。
これとは別に、純水160gにポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノメタクリレート(ブレンマー50PEP−300:日本油脂社製)32gとドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4gとを加えて水溶液を得た。
上記単量体混合物と水溶液とを使用すること以外は実施例1と同様にして樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子は、平均粒子径2.2μm、CV値11.5%の粒度分布の揃った粒子(単分散性樹脂粒子)であった。
【0045】
実施例4
ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノメタクリレートとしてのブレンマー50PEP−300をブレンマー70PEP−350B(日本油脂社製、mは約5、nは約2)に変えたこと以外は実施例1と同様にして樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子は、平均粒子径2.2μm、CV値10.9%の粒度分布の揃った粒子(単分散性樹脂粒子)であった。
【0046】
実施例5
ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノメタクリレートとしてのブレンマー50PEP−300をブレンマー70PEP−350B(日本油脂社製)に変えたこと以外は実施例2と同様にして樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子は、平均粒子径2.0μm、CV値11.2%の粒度分布の揃った粒子(単分散性樹脂粒子)であった。
【0047】
比較例1
ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノメタクリレートとしてのブレンマー50PEP−300をポリオキシエチレン−4−ノニル−2−プロペニルフェニルエーテル(アクアロンRN−10:第一工業製薬社製)に変えること以外は実施例1と同様にして樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子は、平均粒子径2.0μm、CV値11.3%の粒度分布の揃った粒子(単分散性樹脂粒子)であった。
【0048】
比較例2
ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノメタクリレートとしてのブレンマー50PEP−300をヒドロキシブチルメタクリレート(ライトエステルHOB:共栄社化学社製)に変えること以外は実施例1と同様にして樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子は、平均粒子径2.3μm、CV値11.1%の粒度分布の揃った粒子(単分散性樹脂粒子)であった。
【0049】
比較例3
ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノメタクリレートとしてのブレンマー50PEP−300をヒドロキシブチルメタクリレート(ライトエステルHOB:共栄社化学社製)に変えること以外は実施例2と同様にして樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子は、平均粒子径2.1μm、CV値11.4%の粒度分布の揃った粒子(単分散性樹脂粒子)であった。
【0050】
比較例4
重合性単量体としてメタクリル酸メチル112gとエチレングリコールジメタクリレート48gからなる混合溶液に、2,2−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル0.96gを溶解して、単量体混合物とした。
これとは別に、純水160gにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4gとを加えて水溶液を得た。この水溶液に単量体混合物を添加し、T・Kホモミキサーを用いて8000rpmで10分間攪拌してエマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌機及び温度計を備えた容量1Lの反応容器に入れ、シード粒子の製造例で得られたスラリーを57g添加した。混合物を4時間120rpm攪拌し、単量体混合物を吸収させることでシード粒子を膨潤させた。
膨潤終了後に5%ポリビニルアルコール水溶液(ゴーセノールGM−14:日本合成化学社製)480gに亜硝酸ナトリウムを0.13g添加した。得られた溶液に、膨潤させたシード粒子を含むスラリーを添加して、70℃で12時間重合を行い、平均粒子径2.0μm、CV値11.3%の粒度分布の揃った粒子(単分散性樹脂粒子)が得られた。
上記実施例及び比較例において、得られた樹脂粒子の平均粒子径、濡れ性値、沈降性及び脱落防止性を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例及び比較例1から、特定の構造の界面活性能を有するビニル系単量体を使用することで、濡れ性値が高く、水に馴染みやすい単分散性樹脂粒子が得られることが分かる。
また、比較例2及び3では、界面活性能を有さず、構造中に水酸基を含むビニル系単量体が使用されているが、実施例の粒子の方が塗れ性値が高いことが分かる。加えて、沈降性及び脱落防止性も実施例の方が優れている。これはこれら比較例の界面活性能を有さず、構造中に水酸基を含むビニル系単量体が、不飽和基から末端の水酸基までの鎖が短いために、立体障害効果が低くなるためであると考えられる。
更に、比較例4では界面活性能を有するビニル系単量体自体が使用されていないため、濡れ性値、沈降性および脱落防止性の全てについて実施例に比べて劣っている。
【0053】
実施例6(フィルムの製造方法)
実施例1の単分散性樹脂粒子100重量部と、アクリル系バインダー(三菱レイヨン社製:LR−102)140重量部とを混ぜた。得られた混合物に溶剤としてトルエンとメチルエチルケトンを1:1で混合した溶液を260重量部添加した。更に得られた混合物に硬化剤としてイソシアネート系の硬化剤(旭化成ケミカルズ社製デュラネートTKA−100)を40重量部添加した。得られた混合液を遠心攪拌機により3分間攪拌した。混合液を3時間放置した後、再び遠心攪拌機により3分間攪拌した。攪拌後、混合液をPETフィルム上に100μmのコーターを用いて塗工することで塗膜を得た。塗膜を有するフィルムを70℃に保った乾燥機にて1時間乾燥させることで光拡散フィルムを得た。得られた光拡散フィルムは高い強度を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シード粒子に重合開始剤と重合性単量体が吸収された水性エマルジョンを作製した後、前記重合性単量体を重合させて単分散性樹脂粒子を製造する方法であって、
前記重合が、前記重合性単量体100重量部に対して、下記構造式
【化1】

(式中、R1はH又はCH3、mは1〜50、nは1〜50を意味する)
で表される界面活性能を有するビニル系単量体0.1〜20重量部を添加した前記重合性単量体又は水性媒体を用いて行われることを特徴とする単分散性樹脂粒子の製造方法。
【請求項2】
前記界面活性能を有するビニル系単量体が、前記水性媒体に含まれる請求項1に記載の単分散性樹脂粒子の製造方法。
【請求項3】
前記水性媒体が、前記水性媒体100重量部に対して、0.01〜5重量部範囲で界面活性剤を含む請求項1又は2に記載の単分散性樹脂粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の単分散性樹脂粒子の製造方法により得られ、21以上の濡れ性値を有することを特徴とする単分散性樹脂粒子。
【請求項5】
請求項4に記載の単分散性樹脂粒子とバインダーとを含む塗布組成物から得られた塗布物。
【請求項6】
更に、イソシアネート系の硬化剤を含む請求項5に記載の塗布物。
【請求項7】
前記塗布物が、光拡散フィルムである請求項5又は6に記載の塗布物。
【請求項8】
前記塗布組成物が、水性の塗料組成物である請求項5又は6に記載の塗布物。

【公開番号】特開2009−235273(P2009−235273A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84483(P2008−84483)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】