説明

単分散架橋ポリマー微粒子及びその製造方法

【課題】十分に均一な粒子径を有し、しかも十分な耐久性を有しており、例えばコロイド結晶膜の材料として好適に用いることが可能な単分散架橋ポリマー微粒子を提供すること。
【解決手段】架橋ポリマーからなる微粒子であって、前記微粒子の50nm〜5μmの範囲における粒子径のばらつき(Cv値)が5%以下であり、前記架橋ポリマーのガラス転移点が非架橋ポリマーのガラス転移点に対して5〜100℃高く、前記微粒子のトルエンによる膨潤度が20%以下であり、且つ前記微粒子が0.01〜20質量%の酸性官能基を含有していることを特徴とする単分散架橋ポリマー微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂改質材料、塗料、インキ、接着剤用の混合剤、フィルム等の原料として有用な単分散架橋ポリマー微粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー粒子は、樹脂改質材料、塗料、インキ、接着剤用の混合剤、フィルム用原料等に用いられており、最近では医療、情報、エレクトロニクスといった様々な分野で使用されている。例えば、このようなポリマー粒子は、診断検査用担体、液晶スペーサーや微粒子を3次元的に規則配列したコロイド結晶膜の材料として用いられ、粒子径の均一にそろった単分散ポリマー粒子が要求されている。さらに、温度や溶媒への溶解性に対して高い耐久性を有するポリマー粒子が要求されている。
【0003】
従来、このような単分散ポリマー粒子の重合方法としては、例えば、乳化重合、懸濁重合、分散重合、シード重合法が知られている。また、例えば、特開平1−315454号公報(特許文献1)や特開平4−114002号公報(特許文献2)には、架橋ポリマー粒子及びその製造方法が開示されている。しかしながら、これらの重合方法や製造方法により得られた粒子は、粒子表面若しくは内部に、分散安定剤、乳化剤、界面活性剤、凝集防止剤等を含有しており、これらの不純物がコロイド結晶やエレクトロニクス分野で用いる場合には不具合の原因となるという問題があった。
【0004】
そこで、このような不純物の問題を改善するため、乳化剤を用いないソープフリーエマルション重合が用いられる。例えば、「Journal of Polymer Science: PartA: Polymer Chemistry」、1990年発行、28巻、1909〜1921頁(非特許文献1)には、ソープフリーエマルション重合法で架橋ポリマー粒子を得る方法が開示されている。しかしながら、上記文献に記載されたような方法によれば、モノマー濃度、開始剤濃度、重合温度等の制御に関する制約が多いために、煩雑な操作が多く、また収率が低いといった点で実用的な方法ではなかった。また、このような方法で得られる架橋ポリマー粒子には、凝集しやすく、また架橋度も低いため耐久性に劣るといった問題があった。
【特許文献1】特開平1−315454号公報
【特許文献2】特開平4−114002号公報
【非特許文献1】D.ZOU、V.DERLICH et al.、「Journal of Polymer Science: PartA: Polymer Chemistry」、1990年発行、28巻、1909〜1921頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、十分に均一な粒子径を有し、しかも十分な耐久性を有しており、例えばコロイド結晶膜の材料として好適に用いることが可能な単分散架橋ポリマー微粒子、並びにその単分散架橋ポリマー微粒子を効率よく且つ簡便に製造することが可能な単分散架橋ポリマー微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、架橋ポリマーからなる微粒子において、前記微粒子の50nm〜5μmの範囲における粒子径のばらつき(Cv値)を5%以下とし、前記架橋ポリマーのガラス転移点を非架橋ポリマーのガラス転移点に対して5〜100℃高くし、前記微粒子のトルエンによる膨潤度を20%以下とし、さらに前記微粒子に0.01〜20質量%の酸性官能基を含有させることによって、十分に均一な粒子径を有し、しかも十分な耐久性を有する単分散架橋ポリマー微粒子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の単分散架橋ポリマー微粒子は、架橋ポリマーからなる微粒子であって、前記微粒子の50nm〜5μmの範囲における粒子径のばらつき(Cv値)が5%以下であり、前記架橋ポリマーのガラス転移点が非架橋ポリマーのガラス転移点に対して5〜100℃高く、前記微粒子のトルエンによる膨潤度が20%以下であり、且つ前記微粒子が0.01〜20質量%の酸性官能基を含有していることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の単分散架橋ポリマー微粒子は、重合性モノマー100質量部、架橋性モノマー0.05〜30質量部、イオン性モノマー0.01〜2質量部、重合禁止剤0.003〜0.5質量部、並びに、水95〜70質量%及び水に溶解する有機溶媒5〜30質量%を含有する混合溶媒350〜380質量部を含有する混合溶液中において前記モノマーを重合させて得られるものであることが好ましい。
【0009】
本発明の単分散架橋ポリマー微粒子の製造方法は、重合性モノマー100質量部、架橋性モノマー0.05〜30質量部、イオン性モノマー0.01〜2質量部、重合禁止剤0.003〜0.5質量部、並びに、水95〜70質量%及び水に溶解する有機溶媒5〜30質量%を含有する混合溶媒350〜380質量部を含有する混合溶液中においてラジカル開始剤にて前記モノマーを重合させて、前記単分散架橋ポリマー微粒子を得ることを特徴とする方法である。
【0010】
また、本発明の単分散架橋ポリマー微粒子の製造方法においては、前記混合溶液が、前記重合性モノマー100質量部に対して、前記架橋性モノマー0.1〜20質量部、前記イオン性モノマー0.01〜1質量部、前記重合禁止剤0.003〜0.1質量部、及び前記混合溶媒350〜380質量部を含有するものであることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明の単分散架橋ポリマー微粒子の製造方法においては、前記重合性モノマーがスチレンモノマーであり、前記イオン性モノマーがパラスチレンスルホン酸ナトリウムであり、前記架橋性モノマーがジビニルベンゼンであり、且つ前記有機溶媒がメタノールであることが好ましい。
【0012】
なお、本発明によれば、十分に均一な粒子径を有し、しかも十分な耐久性を有する単分散架橋ポリマー微粒子を効率よく且つ簡便に製造することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明においては、混合溶媒中の有機溶媒の種類や量により溶媒の疎水性を調整することによって、重合性モノマーや架橋性モノマーの溶媒への溶解性を制御している。そのため、粒子の臨界溶解鎖長を制御し、得られる架橋ポリマー微粒子の大きさを制御することができる。また、本発明においては、イオン性モノマーの存在により得られる架橋ポリマー微粒子の表面電荷が電荷的に安定して粒子同士の凝集が抑制される。さらに、本発明の単分散架橋ポリマー微粒子の製造方法においては、混合溶液中に重合禁止剤が存在するため、モノマーの反応速度のうち特に架橋性モノマーの反応速度を抑制することができる。そのため、粒子中で架橋が進行することを防ぐことができ、よって得られる架橋ポリマー微粒子の凝集を抑制することができると共に重合収率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、十分に均一な粒子径を有し、しかも十分な耐久性を有しており、例えばコロイド結晶膜の材料として好適に用いることが可能な単分散架橋ポリマー微粒子、並びにその単分散架橋ポリマー微粒子を効率よく且つ簡便に製造することが可能な単分散架橋ポリマー微粒子の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0015】
先ず、本発明の単分散架橋ポリマー微粒子について説明する。すなわち、本発明の単分散架橋ポリマー微粒子は、架橋ポリマーからなる微粒子であって、前記微粒子の粒子径が50nm〜5μmの範囲における粒子径のばらつき(Cv値)が5%以下であり、前記架橋ポリマーのガラス転移点が非架橋ポリマーのガラス転移点に対して5〜100℃高く、前記微粒子のトルエンによる膨潤度が20%以下であり、且つ前記微粒子が0.01〜20質量%の酸性官能基を含有しているものである。
【0016】
そして、本発明の単分散架橋ポリマー微粒子においては、先ず、50nm〜5μmの範囲における粒子径のばらつき(Cv値)が5%以下(好ましくは、0.5〜5%の範囲、より好ましくは、0.5〜1%の範囲)であることが必要である。前記Cv値が5%を超えると、粒子径のばらつきが顕著となり、微粒子の単分散性が低下する。なお、前記Cv値は、微粒子の平均粒子径と粒子径の標準偏差を測定し、その測定値から、下記計算式:
[Cv値(単位:%)]=([粒子径の標準偏差]/[平均粒子径])×100
を用いて算出することができる。また、微粒子の粒子径の測定方法としては、特に限定されず、例えば、粒度分布計、電子顕微鏡(SEM)写真の画像解析を用いることが可能である。
【0017】
本発明の単分散架橋ポリマー微粒子においては、次に、前記架橋ポリマーのガラス転移点が非架橋ポリマーのガラス転移点に対して5〜100℃高いことが必要である。ここで、架橋ポリマーとは、モノマーとして、分子内に共重合性二重結合を2つ以上有する架橋性モノマーを用いて重合させたポリマーのことをいう。また、非架橋ポリマーとは、モノマーとして、分子内に共重合性二重結合を2つ以上有する架橋性モノマーを用いずに重合させたポリマーのことをいい、例えば、後述する重合性モノマーのみをモノマーとして重合させたポリマーのことをいう。このように、前記架橋ポリマーのガラス転移点を非架橋ポリマーのガラス転移点に対して5〜100℃高くすることにより、架橋ポリマー微粒子の温度に対する耐久性を確保することができる。
【0018】
本発明の単分散架橋ポリマー微粒子においては、次に、トルエンによる膨潤度が20%以下(好ましくは、2〜20%の範囲、より好ましくは2〜10%の範囲)であることが必要である。膨潤度が20%を超えると、微粒子の有機溶媒への耐久性が不十分となる。なお、トルエンによる膨潤度は、例えば、試料をトルエンに温度20℃にて7日間浸漬し、その後、遠心分離して上澄みのトルエンを除去して、トルエンで膨潤した試料の質量を測定し、膨潤前の試料の質量に対する増加率(%)を膨潤度として求めることができる。
【0019】
また、本発明の単分散架橋ポリマー微粒子は、0.01〜20質量%の酸性官能基を含有していることが必要である。酸性官能基の含有量が0.01質量%未満では、得られる架橋ポリマー微粒子の表面電荷が電荷的に不安定となるため、粒子同士の凝集がしやすくなり、他方、20質量%を超えると、不純物として溶媒中に残留してしまう。
【0020】
さらに、本発明の単分散架橋ポリマー微粒子は、以下説明する本発明の単分散架橋ポリマー微粒子の製造方法により得られたものであることが好ましい。すなわち、本発明の単分散架橋ポリマー微粒子の製造方法によれば、十分に均一な粒子径を有し、しかも十分な耐久性を有する本発明の単分散架橋ポリマー微粒子を効率よく且つ簡便に製造することが可能となる。
【0021】
次に、本発明の単分散架橋ポリマー微粒子の製造方法について説明する。すなわち、本発明の単分散架橋ポリマー微粒子の製造方法は、重合性モノマー100質量部、架橋性モノマー0.05〜30質量部、イオン性モノマー0.01〜2質量部、重合禁止剤0.003〜0.5質量部、並びに、水95〜70質量%及び水に溶解する有機溶媒5〜30質量%を含有する混合溶媒350〜380質量部を含有する混合溶液中においてラジカル開始剤にて前記モノマーを重合させて、前記単分散架橋ポリマー微粒子を得る方法である。
【0022】
本発明の単分散架橋ポリマー微粒子の製造方法においては、先ず、以下説明する重合性モノマー、架橋性モノマー、イオン性モノマー、重合禁止剤、並びに、水及び水に溶解する有機溶媒を含有する混合溶媒を含有する混合溶液を準備する。
【0023】
本発明にかかる重合性モノマーは、単官能モノマーで水に著しく溶解しないモノマーであれば特に限定されない。このような重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン誘導体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、エチレングリコール(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル誘導体等が挙げられる。これらの中でも、分子量が小さいという観点から、スチレンが特に好ましい。なお、本明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。これらの重合性モノマーは1種のものを単独で用いても、2種以上のものを混合して用いてもよい。
【0024】
本発明にかかる架橋性モノマーは、後述する混合溶媒に可溶であり、且つ分子内に共重合性二重結合を2つ以上有するモノマーであれば特に限定はされない。このような架橋性モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン等の非共役ジビニル化合物:ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタファクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの中でも、スチレンとの構造が近いという観点から、ジビニルベンゼンが特に好ましい。これらの架橋性モノマーは1種のものを単独で用いても、2種以上のものを混合して用いてもよい。
【0025】
また、本発明にかかる混合溶液中におけるこのような架橋性モノマーの含有量は、前記重合性モノマー100質量部に対して、0.05〜30質量部(好ましくは、0.1〜20質量部)の範囲であることが必要である。架橋性モノマーの含有量が0.05質量部未満では、得られる架橋ポリマー微粒子の耐久性が不十分となる傾向にあり、他方、30質量部を超えると、ポリマー粒子が生成し難くなる。
【0026】
本発明にかかるイオン性モノマーとしては酸モノマーが好ましく、官能基はスルホン酸基のものがより好ましい。このようなイオン性モノマーとしては、例えば、パラスチレンスルホン酸ナトリウム、パラビニル安息香酸が挙げられる。これらの中でも、得られる架橋ポリマー微粒子の粒子径をより精密に制御することができるという観点から、パラスチレンスルホン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0027】
また、本発明にかかる混合溶液中におけるこのようなイオン性モノマーの含有量は、前記重合性モノマー100質量部に対して、0.01〜2質量部(好ましくは、0.01〜1質量部)の範囲であることが必要である。イオン性モノマーの含有量が0.01質量部未満では、得られる架橋ポリマー微粒子の重合収率が低下すると共に粒子径の均一性が不十分となり、他方、2質量部を超えると、イオン性モノマーが粒子表面に吸着せず、不純物として溶媒中に残留してしまう。
【0028】
本発明にかかる重合禁止剤としては、公知のものを適宜選択して使用することができ、例えば、前記重合性モノマーや前記架橋性モノマーの市販品中に含有されているものであってもよい。すなわち、本発明に用いる前記重合性モノマーや前記架橋性モノマー等に重合禁止剤が含有されている場合には敢えて除去する必要はない。このような重合禁止剤により、得られる架橋ポリマー微粒子の重合収率の向上を図ることができる。このような重合禁止剤としては、例えば、パラターシャルブチルカテコールが挙げられる。
【0029】
また、本発明にかかる混合溶液中におけるこのような重合禁止剤の含有量は、前記重合性モノマー100質量部に対して、0.003〜0.5質量部(好ましくは、0.003〜0.1質量部)の範囲であることが必要である。重合禁止剤の含有量が0.005質量部未満では、得られる架橋ポリマー微粒子の重合収率が不十分となり、他方、0.5質量部を超えると、重合反応が進行し難くなる。
【0030】
本発明にかかる混合溶媒は、水95〜70質量%及び水に溶解する有機溶媒5〜30質量%を含有する溶媒である。また、本発明にかかる有機溶媒としては、水に溶解するものであれば特に限定されない。このような有機溶媒としては、前記重合性モノマーの溶媒への溶解性を向上させるという観点から、アルコールが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノールが特に好ましい。本発明においては、このような混合溶媒中の有機溶媒の種類や量により溶媒の疎水性を調整することによって、重合性モノマーや架橋性モノマーの溶媒への溶解性を制御している。そのため、粒子の臨界溶解鎖長を制御し、得られる架橋ポリマー微粒子の大きさを制御することができる。なお、このような混合溶媒中における有機溶媒の含有比率が5質量%未満では、ポリマー粒子を生成することができず、他方、30質量%を超えると得られる架橋ポリマー微粒子の粒子径のばらつきが大きくなる。
【0031】
また、本発明にかかる混合溶液中におけるこのような混合溶媒の含有量は、前記重合性モノマー100質量部に対して、350〜380質量部の範囲であることが必要である。混合溶媒の含有量が350質量部未満では、モノマーの水への溶解量が減少し、重合反応が始まらず、他方、380質量部を超えると、合成されるポリマーの量が減少し、重合効率が悪くなる。さらに、このような混合溶媒には、緩衝作用を有する緩衝液を用いることが特に好ましい。このような緩衝液は特に限定されず、使用するpHにより従来公知の緩衝液が利用可能である。このような緩衝液としては、例えば、リン酸二水素カリウム−水酸化カリウム(pH5.8〜8.0)が挙げられる。
【0032】
本発明の単分散架橋ポリマー微粒子の製造方法においては、以下説明したような混合溶液中においてラジカル開始剤にて前記モノマー(重合性モノマー、架橋性モノマー及びイオン性モノマー)を重合させて、本発明の単分散架橋ポリマー微粒子を得る。
【0033】
本発明にかかるラジカル開始剤は特に限定されず、通常の乳化重合及びソープフリーエマルション重合で用いることが可能な公知のものを用いることができる。このようなラジカル開始剤としては、例えば、無機過酸化物である過硫酸カリウムが挙げられる。また、このようなラジカル開始剤の添加量は特に限定されないが、例えば、前記重合性モノマー100質量部に対して、0.002〜20質量部の範囲とすることが好ましい。
【0034】
本発明において、前記モノマー(重合性モノマー、架橋性モノマー及びイオン性モノマー)は、通常のソープフリーエマルション重合方法により重合させることができる。すなわち、攪拌機、窒素導入管及び還流冷却器を備えたセパラブルフラスコ等の反応容器中に、所定量の溶媒、重合性モノマー等を含有する前記混合溶液を仕込み、一定時間窒素ガス等の不活性ガスを吹き込み雰囲気を置換した後、昇温することにより重合を開始し、重合反応系を一定温度にて一定時間維持し重合させて、単分散架橋ポリマー微粒子を得る。この際、ラジカル開始剤は、水に溶解した状態で添加することが好ましい。また、重合温度としては、使用する重合性モノマーや架橋性モノマー、イオン性モノマー、ラジカル開始剤の種類及び濃度等を考慮し適宜選択することができるが、通常60〜80℃の範囲とすることが好ましい。また、重合時間としては、重合条件等により異なるが、通常6〜20時間とすることが好ましい。
【0035】
また、このようにして重合させた後の単分散架橋ポリマー微粒子は、通常遠心分離等により媒体と分離することができる。また、このような単分散架橋ポリマー微粒子は、アルコール又は水により繰り返し洗浄することにより精製することができる。さらに、洗浄後には、噴霧乾燥又は減圧乾燥等により粉体として単離することができる。
【0036】
以上説明したようにして得られた単分散架橋ポリマー微粒子は、十分に均一な粒子径を有し、しかも十分な耐久性を有しているため、例えば、コロイド結晶を固定化したコロイド結晶膜の材料として使用することができ、より具体的には、Bragg回折による反射ピークの波長を制御できるコロイド結晶膜の材料や、光フィルター、ミラー及びフォトニック結晶等の光機能材料として使用することができる。また、本発明の単分散架橋ポリマー微粒子の製造方法によれば、十分に均一な粒子径を有し、しかも十分な耐久性を有する単分散架橋ポリマー微粒子を80%以上という極めて高い重合収率で製造することが可能となる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、粒子径のばらつき(Cv値)、及びトルエンへの膨潤度はそれぞれ以下の方法により測定又は評価した。
【0038】
(i)粒子径のばらつき(Cv値)の測定方法
先ず、試料の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を画像解析して、試料の平均粒子径と粒子径の標準偏差を測定した。そして、その測定値から、下記計算式:
[Cv値(単位:%)]=([粒子径の標準偏差]/[平均粒子径])×100
を用いて算出した。
【0039】
(ii)トルエンへの膨潤度の測定方法
試料をトルエンに温度20℃にて7日間浸漬し、その後、遠心分離して上澄みのトルエンを除去して、トルエンで膨潤した試料の質量を測定し、膨潤前の試料の質量に対する増加率(%)を膨潤度として求めた。
【0040】
(実施例1)
4ツ口セパラブルカバー、攪拌翼、三方コック、冷却管及び温度計を取り付けた1000mL容セパラブルフラスコに、スチレンモノマー166.64g(2mol)、ジビニルベンゼン1.7g(スチレンモノマー100質量部に対して1質量部)、メタノール62.7g(全溶媒量に対して10質量%)、KOH3.19g、KHPO0.44g、及び水564.1gを秤量した後、回転数300rpmで攪拌しつつ窒素雰囲気下で温度70℃にて40分間攪拌後、あらかじめ水に溶解させた過硫酸カリウム0.65gとp−スチレンスルホン酸ナトリウム0.66g(スチレンモノマー100質量部に対して0.4質量部)を添加し、6時間重合を行って架橋ポリマー微粒子を得た。得られた架橋ポリマー微粒子において、重合収率は97%であり、ガラス転移点(Tg)は108℃であった。また、得られた架橋ポリマー微粒子のトルエンへの膨潤度を評価したところ、膨潤度は5%であり、トルエンに溶解しなかった。さらに、得られた架橋ポリマー微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を画像解析したところ、平均粒子径は190nmであり、Cv値は4%以下であった。したがって、本発明の単分散架橋ポリマー微粒子の製造方法によれば、十分に均一な粒子径を有し、しかも十分な耐久性を有する単分散架橋ポリマー微粒子を効率よく且つ簡便に製造することが確認された。また、得られた架橋ポリマー微粒子のSEM写真を図1に示す。
【0041】
(実施例2)
4ツ口セパラブルカバー、攪拌翼、三方コック、冷却管及び温度計を取り付けた1000mL容セパラブルフラスコに、スチレンモノマー166.64g(2mol)、ジビニルベンゼン8.5g(スチレンモノマー100質量部に対して5質量部)、メタノール62.0g(全溶媒量に対して10質量%)、KOH3.19g、KHPO0.44g、及び水558.0gを秤量した後、回転数300rpmで攪拌しつつ窒素雰囲気下で温度70℃にて40分間攪拌後、あらかじめ水に溶解させた過硫酸カリウム0.65gとp−スチレンスルホン酸ナトリウム0.66g(スチレンモノマー100質量部に対して0.4質量部)を添加し、6時間重合を行って架橋ポリマー微粒子を得た。得られた架橋ポリマー微粒子において、重合収率は99%であり、ガラス転移点(Tg)は123℃であった。また、得られた架橋ポリマー微粒子のトルエンへの膨潤度を評価したところ、膨潤度は2.5%であり、トルエンに溶解しなかった。さらに、得られた架橋ポリマー微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を画像解析したところ、平均粒子径は190nmであり、Cv値は4%以下であった。したがって、本発明の単分散架橋ポリマー微粒子の製造方法によれば、十分に均一な粒子径を有し、しかも十分な耐久性を有する単分散架橋ポリマー微粒子を効率よく且つ簡便に製造することが確認された。また、得られた架橋ポリマー微粒子のSEM写真を図2に示す。
【0042】
(実施例3)
4ツ口セパラブルカバー、攪拌翼、三方コック、冷却管及び温度計を取り付けた1000mL容セパラブルフラスコに、スチレンモノマー166.64g(2mol)、ジビニルベンゼン17g(スチレンモノマー100質量部に対して10質量部)、メタノール61.1g(全溶媒量に対して10質量%)、KOH3.19g、KHPO0.44g、及び水550.3gを秤量した後、回転数300rpmで攪拌しつつ窒素雰囲気下で温度70℃にて40分間攪拌後、あらかじめ水に溶解させた過硫酸カリウム0.65gとp−スチレンスルホン酸ナトリウム0.66g(スチレンモノマー100質量部に対して0.4質量部)を添加し、6時間重合を行って架橋ポリマー微粒子を得た。得られた架橋ポリマー微粒子において、重合収率は90%であり、ガラス転移点(Tg)は140℃であった。また、得られた架橋ポリマー微粒子のトルエンへの膨潤度を評価したところ、膨潤度は1.8%であり、トルエンに溶解しなかった。さらに、得られた架橋ポリマー微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を画像解析したところ、平均粒子径は190nmであり、Cv値は4%以下であった。したがって、本発明の単分散架橋ポリマー微粒子の製造方法によれば、十分に均一な粒子径を有し、しかも十分な耐久性を有する単分散架橋ポリマー微粒子を効率よく且つ簡便に製造することが確認された。また、得られた架橋ポリマー微粒子のSEM写真を図3に示す。さらに、実施例1〜3で得られた架橋ポリマー微粒子のガラス転移点(Tg)と混合溶液中の重合性モノマー100質量部に対する架橋性モノマーの量(質量部)との関係を示すグラフを図4に示す。
【0043】
(実施例4)
4ツ口セパラブルカバー、攪拌翼、三方コック、冷却管及び温度計を取り付けた1000mL容セパラブルフラスコに、スチレンモノマー166.64g(2mol)、ジビニルベンゼン8.5g(スチレンモノマー100質量部に対して5質量部)、メタノール124.0g(全溶媒量に対して20質量%)、KOH3.19g、KHPO0.44g、及び水495.5gを秤量した後、回転数300rpmで攪拌しつつ窒素雰囲気下で温度70℃にて40分間攪拌後、あらかじめ水に溶解させた過硫酸カリウム0.65gとp−スチレンスルホン酸ナトリウム1.32g(スチレンモノマー100質量部に対して0.8質量部)を添加し、6時間重合を行って架橋ポリマー微粒子を得た。得られた架橋ポリマー微粒子において、重合収率は92%であり、ガラス転移点(Tg)は123℃であった。また、得られた架橋ポリマー微粒子のトルエンへの膨潤度を評価したところ、膨潤度は2.3%であり、トルエンに溶解しなかった。さらに、得られた架橋ポリマー微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を画像解析したところ、平均粒子径250nmであり、Cv値は4%以下であった。したがって、本発明の単分散架橋ポリマー微粒子の製造方法によれば、十分に均一な粒子径を有し、しかも十分な耐久性を有する単分散架橋ポリマー微粒子を効率よく且つ簡便に製造することが確認された。また、得られた架橋ポリマー微粒子のSEM写真を図5に示す。
【0044】
(参考例1)
スチレンモノマー及びジビニルベンゼンとして、それぞれ重合禁止剤をアルカリで抽出して除去したスチレンモノマー及びジビニルベンゼンを用いた以外は実施例4と同様にして架橋ポリマー微粒子を得た。得られた架橋ポリマー微粒子において、重合収率は62%であり、ガラス転移点(Tg)は123℃であった。また、得られた架橋ポリマー微粒子のトルエンへの膨潤度を評価したところ、膨潤度は2.9%であり、トルエンに溶解しなかった。さらに、得られた架橋ポリマー微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を画像解析したところ、平均粒子径280nmであり、Cv値は4%以下であった。また、得られた架橋ポリマー微粒子のSEM写真を図6に示す。
【0045】
(比較例1)
4ツ口セパラブルカバー、攪拌翼、三方コック、冷却管及び温度計を取り付けた1000mL容セパラブルフラスコに、スチレンモノマー166.64g(2mol)、ジビニルベンゼン8.5g(スチレンモノマー100質量部に対して5質量部)、メタノール62.9g(全溶媒量に対して10質量%)、KOH3.19g、KHPO0.44g、及び水549.2gを秤量した後、回転数300rpmで攪拌しつつ窒素雰囲気下で温度70℃にて40分間攪拌後、あらかじめ水に溶解させた過硫酸カリウム0.65gを添加し、6時間重合を行って架橋ポリマー微粒子を得た。得られた架橋ポリマー微粒子において、ガラス転移点(Tg)は123℃であったが、凝集物が生成し、重合収率は23%であった。また、得られた架橋ポリマー微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を画像解析したところ、粒子径は100〜400nmであった。また、得られた架橋ポリマー微粒子のSEM写真を図7に示す。
【0046】
(比較例2)
4ツ口セパラブルカバー、攪拌翼、三方コック、冷却管及び温度計を取り付けた1000mL容セパラブルフラスコに、スチレンモノマー166.64g(2mol)、ジビニルベンゼン8.5g(スチレンモノマー100質量部に対して5質量部)、KOH3.19g、KHPO0.44g、及び水610.8gを秤量した後、回転数300rpmで攪拌しつつ窒素雰囲気下で温度70℃にて40分間攪拌後、あらかじめ水に溶解させた過硫酸カリウム0.65gとp−スチレンスルホン酸ナトリウム1.32g(スチレンモノマー100質量部に対して0.8質量部)を添加し、6時間重合を行って架橋ポリマー微粒子を得た。得られた架橋ポリマー微粒子において、ガラス転移点(Tg)は123℃であったが、重合収率は低く、粒子は凝集していた。得られた架橋ポリマー微粒子のSEM写真を図8に示す。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明したように、本発明によれば、十分に均一な粒子径を有し、しかも十分な耐久性を有しており、例えばコロイド結晶膜の材料として好適に用いることが可能な単分散架橋ポリマー微粒子、並びにその単分散架橋ポリマー微粒子を効率よく且つ簡便に製造することが可能な単分散架橋ポリマー微粒子の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1で得られた架橋ポリマー微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図2】実施例2で得られた架橋ポリマー微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】実施例3で得られた架橋ポリマー微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図4】実施例1〜3で得られた架橋ポリマー微粒子におけるガラス転移点と混合溶液中の架橋性モノマーの量との関係を示すグラフである。
【図5】実施例4で得られた架橋ポリマー微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図6】参考例1で得られた架橋ポリマー微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図7】比較例1で得られた架橋ポリマー微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図8】比較例2で得られた架橋ポリマー微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ポリマーからなる微粒子であって、前記微粒子の50nm〜5μmの範囲における粒子径のばらつき(Cv値)が5%以下であり、前記架橋ポリマーのガラス転移点が非架橋ポリマーのガラス転移点に対して5〜100℃高く、前記微粒子のトルエンによる膨潤度が20%以下であり、且つ前記微粒子が0.01〜20質量%の酸性官能基を含有していることを特徴とする単分散架橋ポリマー微粒子。
【請求項2】
重合性モノマー100質量部、架橋性モノマー0.05〜30質量部、イオン性モノマー0.01〜2質量部、重合禁止剤0.003〜0.5質量部、並びに、水95〜70質量%及び水に溶解する有機溶媒5〜30質量%を含有する混合溶媒350〜380質量部を含有する混合溶液中において前記モノマーを重合させて得られるものであることを特徴とする請求項1に記載の単分散架橋ポリマー微粒子。
【請求項3】
重合性モノマー100質量部、架橋性モノマー0.05〜30質量部、イオン性モノマー0.01〜2質量部、重合禁止剤0.003〜0.5質量部、並びに、水95〜70質量%及び水に溶解する有機溶媒5〜30質量%を含有する混合溶媒350〜380質量部を含有する混合溶液中においてラジカル開始剤にて前記モノマーを重合させて、請求項1に記載の単分散架橋ポリマー微粒子を得ることを特徴とする単分散架橋ポリマー微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記混合溶液が、前記重合性モノマー100質量部に対して、前記架橋性モノマー0.1〜20質量部、前記イオン性モノマー0.01〜1質量部、前記重合禁止剤0.003〜0.1質量部、及び前記混合溶媒350〜380質量部を含有するものであることを特徴とする請求項3に記載の単分散架橋ポリマー微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記重合性モノマーがスチレンモノマーであり、前記イオン性モノマーがパラスチレンスルホン酸ナトリウムであり、前記架橋性モノマーがジビニルベンゼンであり、且つ前記有機溶媒がメタノールであることを特徴とする請求項3又は4に記載の単分散架橋ポリマー微粒子の製造方法。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−57479(P2009−57479A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226213(P2007−226213)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】