説明

単室炉の温度を広い温度範囲にわたって制御する方法

【課題】鋼の鍛造品の製造に使用する加熱炉において、200℃〜1000℃というような広い温度範囲にわたって所望の炉内温度を実現し、それを精度よく保持することが容易であるような温度制御の方法を提供する。これにより、鍛造前の素材の加熱、変態点通過のための徐冷および焼鈍をひとつの炉により実施できる。
【解決手段】燃料ガスに一次空気を混合して燃焼ノズル(1)から噴出させ、燃焼させるガスバーナーであって、空気/燃料ガスの比を広い範囲に変更できるガスバーナーの、燃焼ノズル(1)の周囲に二次空気ノズル(2)を設けたバーナーを、単室炉に設置して加熱を行なう。炉内温度を低温域から中温域に昇温させてゆく場合、および徐冷する場合には、一次空気の空気/燃料ガスの比を高く選ぶとともに、二次空気ノズルからも空気を吹き込んで、一次二次合計の空気/燃料ガスの比をいっそう高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製品の熱処理に使用する単室炉の温度制御を行なう方法に関する。本発明はとくに、鋼を鍛造し、鍛造品をさらに加工する工程からなる鋼製品を製造する方法の実施に有用であって、鍛造品を徐冷して適切な温度にし、後続の工程に向けるために使用する単室炉の炉内温度を、所望の一定の温度に保持することを容易にする。
【背景技術】
【0002】
鋼を鍛造して得た鍛造品を焼鈍などの次工程に回すとき、従来は鍛造品に鉄函をかぶせて徐冷するといった大まかな手段がとられていた。通常、鍛造終了後の鍛造品の温度は700〜800℃であり、鍛造品はいったん、250〜350℃の範囲にある変態点(マルテンサイト変態点Msまたはベイナイト変態点Bs。オーステナイト系の鋼は、変態割れの心配がない。)より低い温度に冷却したのち、焼鈍であれば再度炉に入れて、たとえば600〜900℃の温度に加熱保持する。この場合、鍛造品が次工程にとって適切な温度まで冷却されたかどうかは、鉄函を取り除いて温度を測定することによって確認するほかない。
【0003】
冷却が進みすぎて低い温度になると、ひずみが生じて鍛造品が割れる、いわゆる「応力割れ」が起こる危険があるし、水素欠陥が生じる心配もある。水素欠陥は、鋼中に溶存していた水素が水素ガスになって、ブロー欠陥を引き起こす現象であって、200℃を下回ると顕著になる。それゆえ、上記の変態点を通過した鍛造品はなるべく早く、焼鈍などの次工程に回したい。そこで、鉄函をかぶせることに代え、上記の温度条件を満たす、比較的低い一定の温度に保った炉内に鍛造品を入れておき、その炉内温度に近い温度に到達させるという手段が採用される。
【0004】
この、炉内において徐冷を行なう場合、炉内温度の制御をバーナーのオン・オフで行なうと、ハンティングによる温度の上下が著しくなって、好ましくない。燃焼の継続は、フレームのガス流の勢いで炉内雰囲気を撹拌して、炉内の温度分布を均一に保つ上でも、重要なことである。このような要求にこたえ、燃料と空気の流量比率に大きな乱れを起こすことなく燃焼状態の変更などに対応できるようにした、加熱炉のバーナーの燃焼制御方式が開示されている(特許文献1)。この制御方式は、燃料に対する空気比を増減することにより、形成されるフレームの温度を上下させるものである。これに続いて、空気流量の変更を容易にした二段燃焼式バーナー(特許文献2)や、拡散火炎二段燃焼式ガスバーナーも、提案されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開平5−118529
【特許文献2】特開平8−26970
【特許文献3】特開2002−295812
【0005】
鍛造品を鍛造終了後の温度から徐冷するためには、鋼の変態点以下である400℃以下、200℃程度までの低温にしなければならず、つぎの工程が焼鈍であれば、その操業温度は、これも上記したように600〜900℃の温度域にある。いうまでもなく、鍛造品の徐冷および焼鈍を、ひとつの炉で実施できれば、工程的にも消費エネルギーの点からも有利である。それには、200℃から1000℃にわたる広い温度範囲で、所望の炉内温度を実現することが可能な加熱炉が必要である。
【0006】
具体例で示せば、重量55トンの大型鍛造品を鍛造し熱処理する場合、素材を常温から1000℃に加熱するには1,200,000Kcalの熱量が必要であり、この熱を、発熱量150,000Kcalのバーナーで供給するとすれば、8本必要である。一方、得られた鍛造品を200℃の雰囲気に置いて徐冷するとなると、バーナーに可能なターンダウンが小さくて、操業不可能である。200℃という低温は、バーナーでなく熱風を供給して実現することが望ましいが、高温の領域は、熱風で実現することが困難である。まとめると、200℃〜1000℃の熱処理を精度よく行なうことは、設備的に困難であって、低温で均一な温度を実現するには雰囲気を撹拌するファンが必要になるが、800℃以上の温度に耐えるファンはセラミックス製にしなければならず、価格と耐久性に難がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述した事情にかんがみ、単室の炉において、200℃〜1000℃というような広い温度範囲にわたって所望の炉内温度を実現し、それを精度よく保持することが容易であるような温度制御の方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成する本発明の単室炉の温度制御方法は、図1に示したような、燃料ガスに一次空気を混合して燃焼ノズル(1)から噴出させ、燃焼させるガスバーナーであって、空気/燃料ガスの比を広い範囲に変更できるバーナーに対し、図2にその差異を示すように、燃焼ノズル(1)の周囲に二次空気ノズル(2)を設けたバーナーを単室炉に設置して加熱を行ない、炉内温度を低温域から中温域に昇温させてゆく場合、および、高温域から中温域に、または中温域から低温域に向かって徐冷する場合には、一次空気の空気/燃料ガスの比を高く選ぶとともに、二次空気ノズルからも空気を吹き込んで、一次二次合計の空気/燃料ガスの比をいっそう高め、バーナーの発熱量は低減するが、炉内に吹き込む気体の量は高く保つことにより、広い温度範囲にわたる制御を可能にした温度制御方法である。図1において、符号(3)は燃料ガス入り口、(4)は一次空気入り口、そして図2において(5)は二次空気入り口を表す。
【発明の効果】
【0009】
本発明の単室炉の温度制御方法によれば、二次空気の導入によって、炉全体として高い合計の空気/燃料ガスの比が可能になったから、炉圧を低下させることなく、ごく低い温度の燃焼フレームを形成することができ、通常±5℃という高い精度の制御が容易に行なえる。さらに、本発明の制御方法によるときは、炉内への多量の気体の吹き込みが確保されることから、炉内雰囲気の撹拌が十分に行なわれ、低い温度においても炉内の温度分布が均一になる。このようにして、ひとつの炉において、200℃〜1000℃というような広い温度領域にわたって、高い精度で、均一な温度制御が実現する。この方法を実施するには、既存の設備に対して二次空気の供給手段と、二次空気の量を制御する手段とを付加するだけで足りるから、さしたる設備費もかからず実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上記の低・中・高の3種の温度域は、本発明の炉が使用される代表的な態様である、鋼の鍛造品の製造との関連でいえば、それぞれつぎの温度範囲を意味するものとして、実施することが適切である。
低温域:200℃以下〜400℃まで
中温域:400℃超過〜700℃まで
高温域:700℃超過1000℃以下
【0011】
一次空気の空気/燃料ガスの比、および合計の空気/燃料ガスの比は、ともに本発明を適用する炉がどのような用途に向けられ、したがってどのような温度域で使用されることが多いかによって適切な範囲が決定されるが、通常は、一次空気の空気/燃料ガスの比を1.1〜8の範囲、合計の空気/燃料ガスの比を1.1〜16の範囲から選ぶとよい。空気量の制御による燃焼制御の具体的なやり方としては、前掲の特許文献1に開示の可変空気比制御(「EBC燃焼制御方式」とよばれる)の技術が有用であって、本発明の実施に当たっても、これを利用することが推奨される。
【実施例】
【0012】
台車にのせた最大55トンの被加熱物をバッチ式に加熱処理する炉であって、下記の仕様のガスバーナーを8本そなえたものに、図2に示したような二次空気ノズルを、燃焼ノズルの周囲に対象の位置に12本ずつ加えることにより、過剰空気比を最大16にできるようにした。
容量:0.42GJ/時・本 ガス吐出速度:130m/秒
ターンダウン:1/10 過剰空気比:1/8
【0013】
この炉を使用して、図3の下段に示す操業条件、すなわち「テーブル1」「テーブル2」「テーブル3」および「徐冷モード」に従って、燃料ガスの燃焼と一次空気および二次空気の吹き込みを行なって、図3の上段に示すパターンの炉内温度変化を実現した。
【0014】
このとき、温度を降下させる段階では、次のように操業モードの切り替えを行なった。
1)テーブル3→徐冷モード:
700℃以上の温度において設定温度より±5℃シフトした場合は、テーブル1に切り替え、炉圧ダンパーを全開する。
2)テーブル2→徐冷モード:
上記でテーブル1の条件を採用したとき、200〜400℃において設定温度より±5℃シフトした場合は、空気30%吹き込み(第1ステージ)→60%吹き込み(第2ステージ)→空気100%吹き込み(第3ステージ)
3)第3ステージで設定温度より±5℃シフトした場合は、冷却モードにする。バーナーをOFFにし、吹き込む空気量で温度を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】燃料ガスに一次空気を混合して燃焼ノズルから噴出させ、燃焼させるガスバーナーの構造を概念的に示した縦断面図。
【図2】本発明で使用する、図1のガスバーナーに対し、燃焼ノズルの周囲に二次空気ノズルを加えたガスバーナー。
【図3】本発明の実施例であって、炉内で実現した温度の履歴を、その実現のために採用した炉の操業条件に対応させて示した図。
【符号の説明】
【0016】
1 燃焼ノズル
2 二次空気ノズル
3 燃料ガス入り口
4 一次空気入り口 5 二次空気入り口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単室炉の温度を制御する方法であって、燃料ガスに一次空気を混合して燃焼ノズルから噴出させて燃焼させるガスバーナーであって、空気/燃料ガスの比を広い範囲に変更できるバーナーの、燃焼ノズルの周囲に二次空気ノズルを設けたバーナーを単室炉に設置して加熱を行ない、炉内温度を低温域から中温域に昇温させてゆく場合、および、高温域から中温域に、または中温域から低温域に向かって徐冷する場合には、一次空気の空気/燃料ガスの比を高く選ぶとともに、二次空気ノズルからも空気を吹き込んで、一次二次合計の空気/燃料ガスの比をいっそう高め、バーナーの発熱量は低減するが、炉内に吹き込む気体の量は高く保つことにより、広い温度範囲にわたる制御を可能にした温度制御方法。
【請求項2】
低温域が200℃以下〜400℃まで、中温域が400℃超過〜700℃まで、高温域が700℃超過1000℃以下である請求項1の温度制御方法。
【請求項3】
一次空気の空気/燃料ガスの比を1.1〜8の範囲から選び、合計の空気/燃料ガスの比を1.1〜16の範囲から選んで実施する請求項1の温度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−183063(P2006−183063A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−374441(P2004−374441)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】