説明

単結晶製造方法

【課題】製造する単結晶の直径及び方位毎の適切な操業発振周波数を決定することにより、良好な抵抗率バラツキの単結晶を安定して製造する単結晶製造方法を提供する。
【解決手段】高周波発振器から高周波電圧が供給される誘導加熱コイルで原料結晶を部分的に加熱溶融して浮遊帯域を形成し、該浮遊帯域を移動させて単結晶を製造するFZ法(フローティングゾーン法又は浮遊帯溶融法)による単結晶製造方法であって、予め、前記製造する単結晶と同一直径及び同一方位を有する単結晶に関して、供給する高周波電圧の発振周波数を変化させた場合の発振周波数毎の抵抗率バラツキを調べ、該発振周波数と抵抗率バラツキの関係に応じて前記製造する単結晶の直径及び方位毎の操業発振周波数を決定し、該決定した操業発振周波数に合わせて前記高周波発振器の調整を行い、該調整した高周波発振器を使用して単結晶を製造することを特徴とする単結晶製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波発振器から高周波電圧が供給される誘導加熱コイルで原料結晶を部分的に加熱溶融して浮遊帯域を形成し、浮遊帯域を移動させて単結晶を製造するFZ法(フローティングゾーン法又は浮遊帯溶融法)による単結晶製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FZ法は、現在半導体素子用として多く使用されているシリコン単結晶の製造方法の一つである。FZ法による単結晶製造方法は、先ず、原料結晶棒(原料結晶)を、チャンバー内に設置された上軸の上部保持治具に保持する。一方、直径の小さい単結晶の種(種結晶)を、原料結晶棒の下方に位置する下軸の下部保持治具に保持する。
【0003】
次に、高周波発振器から誘導加熱コイルに高周波電圧が供給される事で、原料結晶棒を溶融して、種結晶に融着させる。供給される高周波電圧の発振周波数は、1〜3MHzであり(非特許文献1参照)、従来この発振周波数は、製造する単結晶の種類に関わらず同一発振周波数に設定していた。
【0004】
その後、種絞りにより絞り部を形成して無転位化する。そして、上軸と下軸を回転させながら原料結晶棒と単結晶棒を下降させることで浮遊帯域(溶融帯あるいはメルトともいう。)を原料結晶棒と育成単結晶棒の間に形成しながら、結晶径を徐々に大きくし、コーン部分を形成する。その後、目標とする直径に達したら、その直径を維持して、直胴部を形成し、浮遊帯域を原料結晶棒の上端まで移動させてゾーニングを行う。尚、この単結晶成長は、Arガスに微量の窒素ガスを混合した雰囲気中で行われ、N型FZ単結晶を製造するためには、ドープノズルより、製造する抵抗率に応じた量のArベースのPHガスを流し、P型FZ単結晶を製造するためには、ドープノズルより、製造する抵抗率に応じた量のArベースのBガスを流す。
【0005】
FZ法により得られたシリコン単結晶から製造されるウェーハには、ウェーハ面内での抵抗率のバラツキができる限り低減され、均一であることが望まれており、これはウェーハの原料であるFZ単結晶の抵抗率分布をより均一化することによってなされる。
【0006】
ウェーハ抵抗率バラツキを低減するため、原料結晶棒と単結晶棒の回転軸をずらし(以後、偏芯という)、融液の攪拌を非軸対称にし、また、特許文献1、特許文献2のような、単結晶の回転の方向を正転と逆転とで交互に行う方法(以後、交互回転という)が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−315980号公報
【特許文献2】特開2008−266102号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】阿部孝夫著:シリコン 結晶成長とウェーハ加工,倍風館(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、抵抗率バラツキの改善のために、偏芯量、交互回転、成長速度等の操業条件の最適化が図られてきたが、直径及び方位により、抵抗率バラツキの挙動が異なるため、直径や方位の種類に関わらず、良好な抵抗率分布を得る事は困難である。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、直径・方位の種類によらず、抵抗率バラツキが小さく品質が優れた単結晶を安定して製造することができる単結晶製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明では、高周波発振器から高周波電圧が供給される誘導加熱コイルで原料結晶を部分的に加熱溶融して浮遊帯域を形成し、該浮遊帯域を移動させて単結晶を製造するFZ法による単結晶製造方法であって、
予め、前記製造する単結晶と同一直径及び同一方位を有する単結晶に関して、供給する高周波電圧の発振周波数を変化させた場合の発振周波数毎の抵抗率バラツキを調べ、該発振周波数と抵抗率バラツキの関係に応じて前記製造する単結晶の直径及び方位毎の操業発振周波数を決定し、
該決定した操業発振周波数に合わせて前記高周波発振器の調整を行い、
該調整した高周波発振器を使用して単結晶を製造することを特徴とする単結晶製造方法を提供する。
【0012】
このように、発振周波数により単結晶の抵抗率バラツキが変化するため、予め製造する単結晶の直径及び方位毎の適切な操業発振周波数を決定することにより、直径・方位の種類によらず、良好な抵抗率バラツキの単結晶を安定して製造する事が可能となる。
【0013】
またこのとき、前記予め発振周波数毎の抵抗率バラツキを調べる単結晶を、前記製造する単結晶と直径及び方位以外も同一条件で製造されたものとすることが好ましい。
【0014】
このように、前記予め発振周波数毎の抵抗率バラツキを調べる単結晶を、前記製造する単結晶と直径及び方位以外の条件(例えば、偏芯量、交互回転等)も同一条件で製造されたものとすることで、より確実に抵抗率バラツキの低い単結晶を製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明の単結晶製造方法によれば、製造する単結晶の直径・方位の種類によらず、良好な抵抗率バラツキの結晶を安定して製造する事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の単結晶製造方法を説明するフロー図である。
【図2】本発明の単結晶製造方法で用いる単結晶製造装置の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明で用いる誘導加熱コイルの一例を示す概略図である。
【図4】実施例における直径128mm、<100>方位のシリコン単結晶における、発振周波数による抵抗率バラツキの変化を示すグラフである。
【図5】実施例における直径128mm、<111>方位のシリコン単結晶における、発振周波数による抵抗率バラツキの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳述する。
本発明者らは、FZ単結晶の抵抗率バラツキ改善について鋭意検討を重ねた。その結果、本発明者らは、同一の発振周波数の下では、発振周波数以外の操業条件の最適化を図っても、全ての直径・方位で、抵抗率バラツキが小さい良好な品質の単結晶を製造する事は難しく、直径及び方位毎に、発振周波数を変更する必要がある事に想到した。
【0018】
例えば、<111>方位の単結晶は、中心部がファセット成長しやすいため、中心部の抵抗率が非常に低くなり、凹型の面内抵抗率分布になりやすい。この改善のためには、発振周波数を高くする事で中心部のメルト攪拌を強める事が効果的であるが、<111>方位の単結晶の面内抵抗率分布がフラットになる発振周波数を<100>方位の単結晶の製造に適用すると、中心部の抵抗率が高くなりすぎ凸型の面内抵抗率分布となり、抵抗率分布は悪化してしまう。
【0019】
そこで、本発明者らは、予め、同一直径・方位において発振周波数を変化した場合の抵抗率バラツキの変化を調査し、直径及び方位毎の操業発振周波数を決定しておき、FZ法単結晶製造装置で結晶製造を行う直径及び方位に応じて、製造前に操業発振周波数に合わせるよう高周波発振器の調整を行えば、直径・方位の種類によらず、良好な抵抗率バラツキの単結晶を安定して製造する事が可能となる事を見出し、本発明を完成させた。
【0020】
本発明の単結晶製造方法について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。図1は、本発明の単結晶製造方法の一例を説明するフロー図である。
【0021】
まず、本発明では、予め、前記製造する単結晶と同一直径及び同一方位を有する単結晶に関して、供給する高周波電圧の発振周波数を変化させた場合の発振周波数毎の抵抗率バラツキを調べる(図1(A))。
本発明において、抵抗率バラツキは、RRG(Radial Resistivity Gradient)やロット内バラツキから求めることができる。
尚、この予め発振周波数毎の抵抗率バラツキを調べる単結晶を、製造する(目的とする)単結晶と直径及び方位以外も同一条件で製造されたものとすることによって、より抵抗率バラツキの低い単結晶を製造することができる。ここで、直径及び方位以外の条件とは、偏芯量、交互回転、成長速度等のことをいう。
【0022】
次いで、調べた発振周波数と抵抗率バラツキの関係に応じて前記製造する単結晶の直径及び方位毎の操業発振周波数を決定する(図1(B))。
この際、抵抗率バラツキが最も低い最適発振周波数を選ぶことが好ましいが、抵抗率バラツキ以外の単結晶品質や単結晶化率等のファクターも考慮して抵抗率バラツキが従来より改善するような発振周波数を選ぶ場合も、本発明の範囲内である。
【0023】
そして、目的とする単結晶を製造するが(図1中、結晶製造指示)、上記決定した直径及び方位に応じた操業発振周波数に合わせて高周波発振器の調整を行い(図1(C))、該調整した高周波発振器を使用して単結晶を製造する(図1(D))。
単結晶の製造は、従来のFZ単結晶製造装置を用いて行うことができる。以下に、図2に示すFZ単結晶製造装置20を用いて、単結晶を製造する方法について説明する。
【0024】
先ず、原料結晶棒(原料結晶)1を、チャンバー2内に設置された上軸3の上部保持治具4に保持する。一方、直径の小さい単結晶の種(種結晶)5を、原料結晶棒1の下方に位置する下軸6の下部保持治具7に保持する。
次に、高周波発振器8から誘導加熱コイル9に上記で決定した操業発振周波数の高周波電圧が供給される事で、原料結晶棒1を溶融して、種結晶5に融着させる。
尚、高周波発振器の発振周波数の調整は、発振回路を構成するコンデンサの数の変更、容量の異なるコンデンサへの交換、及び、径やターン数の異なる変流器(CT)へ交換することで行うことができる。
【0025】
その後、種絞りにより絞り部10を形成して無転位化する。そして、上軸3と下軸6を回転させながら原料結晶棒1と単結晶棒11を下降させることで浮遊帯域(溶融帯あるいはメルトともいう。)12を原料結晶棒1と育成単結晶棒11の間に形成しながら、結晶径を徐々に大きくし、コーン部分11−aを形成する。その後、目標とする直径に達したら、その直径を維持して、直胴部11−bを形成し、浮遊帯域12を原料結晶棒1の上端まで移動させてゾーニングを行う。尚、この単結晶成長は、例えば、Arガスに微量の窒素ガスを混合した雰囲気中で行われ、N型FZ単結晶を製造するためには、ドープノズル13より、製造する抵抗率に応じた量のArベースのPHガスを流し、P型FZ単結晶を製造するためには、ドープノズル13より、製造する抵抗率に応じた量のArベースのBガスを流す。
【0026】
誘導加熱コイル9としては、銅または銀からなる単巻または複巻の冷却用の水を流通させた誘導加熱コイル9が用いられており、例えば図3に示すものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この誘導加熱コイル9は、スリット14を有するリング状のコイルで、コイル外周面15からコイル内周面16に向かって断面先細り状に形成されている。また、コイル外周面15には、コイル端部17に対応する位置に電源端子18が設けられている。この両端子18が接続されたコイル端部17の対向面を、スリット14を介して極力接近させるようにしており、これにより、誘導加熱コイル9の周方向における電流回路の対称性を維持し、ほぼ均一な電界分布が得ることができる。
【0027】
また、単結晶製造後に別の単結晶を製造する場合は、製造する別の単結晶の直径及び方位に応じて決定した適切な操業発振周波数に合わせて再度高周波発振器の調整を行い、その後再度調整した高周波発振器を用いて別の単結晶の製造を行う。
【実施例】
【0028】
以下、実施例、比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
(実施例)<100>及び<111>シリコン単結晶(直径128m)の製造
予め、直径128mm、直胴長さ150cmの<100>及び<111>シリコン単結晶を成長させ、供給する高周波電圧の発振周波数を変化させた場合の発振周波数毎の抵抗率バラツキを調べた(偏芯量:10mm、結晶回転速度:20rpm交互回転)。
図4に、直径128mm、<100>シリコン単結晶における、発振周波数による抵抗率バラツキの変化を調べた結果を示す。図5に、直径128mm、<111>シリコン単結晶における、発振周波数による抵抗率バラツキの変化を調べた結果を示す。
尚、抵抗率バラツキは、以下のように計測した。
製造したインゴットから30枚のウェーハを切り出し、平面研削後、XY方向に2.5mmピッチで抵抗率を測定した。図中のRRGave.は、各ウェーハ毎に算出したRRG[RRG(%)=(ρ最大値―ρ最小値)/ρ最小値×100]の平均値であり、ロット内バラツキは、全抵抗率測定値の標準偏差である。
【0030】
次いで、上記で調べた発振周波数と抵抗率バラツキの関係に応じて操業発振周波数を決定する。<100>シリコン単結晶を製造する際の操業発振周波数は、図4に示されたように、抵抗率バラツキが最も低い2.3MHzに決定した。同様に、<111>シリコン単結晶を製造する際の操業発振周波数は、図5に示されたように、抵抗率バラツキが最も低い3.0MHzに決定した。
【0031】
決定した操業発振周波数(2.3MHz)に合わせて高周波発振器の調整を行い、直径130mmのシリコン原料棒を、FZ法によりゾーニングを行い、N型100Ωcm以下の直径128mm、直胴長さ150cmの<100>シリコン単結晶を製造し、次いで、同様に、決定した操業発振周波数(3.0MHz)に合わせて高周波発振器の調整を行い<111>シリコン単結晶を製造した。
これらのシリコン単結晶の製造の際には、偏芯量を10mmとし、結晶回転速度は20rpm交互回転とした。
この条件でFZ単結晶の製造を実施した所、<100>シリコン単結晶のロット内バラツキは1.62%、RRGは8.3%となり、<111>シリコン単結晶のロット内バラツキは1.59%、RRGは9.7%と、いずれも良好な抵抗率バラツキであった。
【0032】
(比較例)<100>及び<111>シリコン単結晶(直径128m)の製造
直径130mmのシリコン原料棒を、FZ法によりゾーニングを行い、N型100Ωcm以下の直径128mm、直胴長さ150cmの<100>及び<111>シリコン単結晶を製造した。
このシリコン単結晶の製造の際には、偏芯量を10mmとし、結晶回転速度は20rpm交互回転とした。また、発振周波数は、結晶製造前に調整せず、2.3MHz一定とした。この条件でFZ単結晶を製造した結果、<100>シリコン単結晶のロット内バラツキは、1.65%、RRGは、8.0%となり、<111>シリコン単結晶のロット内バラツキは、2.62%、RRGは、12.2%と、<111>シリコン単結晶の抵抗率バラツキは大きかった。
【0033】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0034】
1…原料結晶棒(原料結晶)、 2…チャンバー、 3…上軸、 4…上部保持治具、 5…種結晶、 6…下軸、 7…下部保持治具、 8…高周波発振器、 9…誘導加熱コイル、 10…絞り部、 11…単結晶棒、 11−a…コーン部、 11−b…直胴部、 12…浮遊帯域、 13…ドープノズル、 14…スリット、 15…コイル外周面、 16…コイル内周面、 17…コイル端部、 18…電源端子、 20…FZ単結晶製造装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波発振器から高周波電圧が供給される誘導加熱コイルで原料結晶を部分的に加熱溶融して浮遊帯域を形成し、該浮遊帯域を移動させて単結晶を製造するFZ法による単結晶製造方法であって、
予め、前記製造する単結晶と同一直径及び同一方位を有する単結晶に関して、供給する高周波電圧の発振周波数を変化させた場合の発振周波数毎の抵抗率バラツキを調べ、該発振周波数と抵抗率バラツキの関係に応じて前記製造する単結晶の直径及び方位毎の操業発振周波数を決定し、
該決定した操業発振周波数に合わせて前記高周波発振器の調整を行い、
該調整した高周波発振器を使用して単結晶を製造することを特徴とする単結晶製造方法。
【請求項2】
前記予め発振周波数毎の抵抗率バラツキを調べる単結晶を、前記製造する単結晶と直径及び方位以外も同一条件で製造されたものとすることを特徴とする請求項1に記載の単結晶製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−40087(P2013−40087A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179738(P2011−179738)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】