説明

印刷のための制御装置および方法

【課題】印刷媒体上の部分領域の印刷を完成するための走査の回数を、印刷装置と印刷すべき画像との両方に適した値に決定することができる技術を提供する。
【解決手段】搬送量の実誤差量に応じて決まる許容階調値範囲内に代表入力階調値が含まれる場合には、部分領域の主走査の回数をN回(Nは2以上の整数)に決定し、許容階調値範囲内に代表入力階調値が含まれない場合には、部分領域の主走査の回数をM回(MはNより大きな整数)に決定してよい。また、実誤差量が、代表入力階調値に対応する許容誤差量以下である場合には、部分領域の主走査の回数をN回(Nは2以上の整数)に決定し、実誤差量が、代表入力階調値に対応する許容誤差量を超える場合には、部分領域の主走査の回数をM回(MはNより大きな整数)に決定してよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像領域を複数回の走査で印刷する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数回の走査で画像を形成するマルチパス印刷が利用されている。このようなマルチパス印刷に関連して、種々の技術が提案されている。例えば、画像形成中に、印字領域毎にパス数を変更する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−17976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、画像形成中にパス数を変更する場合に、印刷装置と印刷すべき画像との両方を考慮してパス数を決定することに関しては、十分な工夫がなされていないのが実情であった。
【0005】
本発明の主な利点は、印刷媒体上の部分領域の印刷を完成するための走査の回数を、印刷装置と印刷すべき画像との両方に適した値に決定することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]印刷実行部を制御する制御装置であって、前記印刷実行部は、複数のノズルを有する印刷ヘッドと、印刷媒体に対して第1方向と平行に前記印刷ヘッドを搬送する第1搬送部と、前記印刷ヘッドを駆動することによって、前記印刷媒体にインクドットを記録するヘッド駆動部と、前記印刷ヘッドに対して前記第1方向と交差する第2方向に前記印刷媒体を搬送する第2搬送部と、を含み、前記制御装置は、前記第1搬送部による前記印刷ヘッドの搬送中に前記印刷媒体にインクドットを記録する主走査と、前記第2搬送部による前記印刷媒体の搬送である副走査と、を組み合わせることによって、前記印刷媒体上の部分領域を複数回の前記主走査によって印刷するマルチパス実行部と、前記副走査の搬送量の実誤差量と、前記部分領域に対応する画像領域の入力階調値を代表する代表入力階調値と、に応じて、前記部分領域の前記主走査の回数を決定する回数決定部と、を含み、前記回数決定部は、前記搬送量の前記実誤差量に応じて決まる許容階調値範囲内に前記代表入力階調値が含まれる場合には、前記部分領域の前記主走査の回数をN回(Nは2以上の整数)に決定し、前記許容階調値範囲内に前記代表入力階調値が含まれない場合には、前記部分領域の前記主走査の回数をM回(MはNより大きな整数)に決定する、印刷装置。
【0008】
この構成によれば、副走査の搬送量の実誤差量と、部分領域画像の入力階調値を代表する代表入力階調値と、に応じて、部分領域の主走査の回数が決定される。具体的には、搬送量の実誤差量に応じて決まる許容階調値範囲内に代表入力階調値が含まれる場合には、部分領域の主走査の回数がN回(Nは2以上の整数)に決定される。また、許容階調値範囲内に代表入力階調値が含まれない場合には、部分領域の主走査の回数がM回(MはNより大きな整数)に決定される。この結果、搬送量の実誤差量を主走査の回数に反映させることができるので、部分領域の印刷を完成するための走査の回数を、印刷実行部と印刷すべき画像との両方に適した値に決定することができる。
【0009】
[適用例2]適用例1に記載の制御装置であって、前記搬送量の前記実誤差量が小さい場合と比べて、前記搬送量の前記実誤差量が大きい場合に、前記許容階調値範囲が狭くなる、制御装置。
【0010】
この構成によれば、搬送量の実誤差量が小さい場合と比べて、搬送量の実誤差量が大きい場合には、主走査の回数がN回(M回よりも少ない)に決定される代表入力階調値の範囲が狭くなる。このように、搬送量の実誤差量を適切に主走査の回数に反映させることができるので、印刷媒体上の部分領域の印刷を完成するための走査の回数を、印刷装置と印刷すべき画像との両方に適した値に決定することができる。
【0011】
[適用例3]適用例1または2に記載の制御装置であって、前記回数決定部は、前記代表入力階調値と、前記副走査の前記搬送量の誤差量として許容できる最大の誤差量である許容誤差量と、の間の対応関係を定める許容誤差情報を参照することによって、前記実誤差量が、前記代表入力階調値に対応する前記許容誤差量以下に収まるような前記代表入力階調値の範囲を、前記許容階調値範囲として特定する、印刷装置。
【0012】
この構成によれば、実誤差量に応じて適切に許容階調値範囲を特定することができるので、部分領域の印刷を完成するための走査の回数を、印刷実行部と印刷すべき画像との両方に適した値に決定することができる。
【0013】
[適用例4]適用例1ないし3のいずれかに記載の制御装置であって、さらに、前記回数決定部の動作モードを、第1許容階調値範囲を前記許容階調値範囲として利用することによって、前記部分領域の前記主走査の回数を決定する第1モードと、前記第1許容階調値範囲よりも狭い第2許容階調値範囲を前記許容階調値範囲として利用することによって、前記部分領域の前記主走査の回数を決定する第2モードと、を含む複数のモードから選択するモード選択部を含む、印刷装置。
【0014】
この構成によれば、第1モードを利用する印刷と、第2モードを利用する印刷とを、印刷実行部と印刷すべき画像との両方に適した主走査回数を用いて、行うことができる。
【0015】
[適用例5]適用例1ないし4のいずれかに記載の制御装置であって、前記マルチパス実行部は、前記M回の主走査で前記部分領域を印刷する場合に、第1主走査で複数本のラスタラインを印刷し、前記第1主走査で印刷される2本のラスタラインであって隣接する2本のラスタラインの間に、前記第1主走査よりも後の第2主走査で別のラスタラインを印刷し、少なくとも1本のラスタラインを、複数個のノズルを利用して印刷する、制御装置。
【0016】
この構成によれば、1つの部分領域に1回の副走査で生じた搬送量の誤差のみが集中することを防止できるので、部分領域の画質を向上できる。
【0017】
[適用例6]適用例1ないし5のいずれかに記載の制御装置であって、前記マルチパス実行部は、前記部分領域における前記主走査の回数が、前記M回に決定された場合に、当該M回の主走査により、当該部分領域と、当該部分領域と隣接する隣接部分領域のうちの一部分と、の印刷を行う、制御装置。
【0018】
この構成によれば、部分領域における主走査の回数がM回に決定された場合に、M回の主走査によって、隣接部分領域のうちの一部分も印刷できるので、印刷速度を犠牲にせずに、画質を向上できる。
[適用例7]適用例6に記載の制御装置であって、前記マルチパス実行部は、前記隣接部分領域における前記主走査の回数が前記N回に決定された場合に、前記部分領域の印刷のための前記M回の主走査において、前記複数のノズルのうちの前記隣接部分領域と対向するノズルを利用して、前記隣接部分領域の一部分の印刷を行う、制御装置。
【0019】
この構成によれば、印刷速度を犠牲にせずに、隣接部分領域の印刷に利用される主走査の回数を増やすことができるので、印刷速度を犠牲にせずに、画質を向上できる。
【0020】
[適用例8]複数のノズルを有する印刷ヘッドを印刷媒体に対して第1方向と平行に搬送しつつ前記印刷媒体にインクドットを記録する主走査と、前記印刷ヘッドに対して前記第1方向と交差する第2方向に前記印刷媒体を搬送する副走査と、を組み合わせることによって、前記印刷媒体上の部分領域を複数回の前記主走査によって印刷する場合に、前記部分領域の印刷を完成するための前記主走査の回数を決定する方法であって、前記副走査の搬送量の実誤差量を取得し、前記副走査の前記搬送量の誤差量として許容できる最大の誤差量である許容誤差量と、前記部分領域に対応する画像領域の入力階調値を代表する代表入力階調値と、の対応関係を取得し、前記実誤差量が、前記代表入力階調値に対応する前記許容誤差量以下である場合には、前記部分領域の前記主走査の回数をN回(Nは2以上の整数)に決定し、前記実誤差量が、前記代表入力階調値に対応する前記許容誤差量を超える場合には、前記部分領域の前記主走査の回数をM回(MはNより大きな整数)に決定する、方法。
【0021】
この構成によれば、部分領域(印刷すべき画像)と実誤差量とに応じて適切に主走査の回数を決定することができるので、部分領域の印刷を完成するための主走査の回数を、印刷を実行する装置と印刷すべき画像との両方に適した値に決定することができる。
【0022】
[適用例9]適用例8に記載の方法であって、前記許容誤差量と前記代表入力階調値との対応関係の取得は、互いに異なる入力階調値の画像データを用いて複数のパッチを印刷媒体に印刷することと、前記複数のパッチのそれぞれに関して、前記パッチ中におけるインクドットに覆われた部分の面積の割合であるドット被覆率と、前記パッチの測色値と、の間の対応関係である第1対応関係を特定することと、1つの入力階調値についての第2対応関係であって、前記副走査の前記搬送量の前記誤差量と、前記ドット被覆率と、の間の対応関係である前記第2対応関係を、互いに異なる複数個の入力階調値のそれぞれについて特定することと、前記第1対応関係と前記第2対応関係とを組み合わせることによって、前記搬送量の前記誤差量と前記測色値との対応関係である第3対応関係を、互いに異なる複数個の入力階調値のそれぞれについて特定することと、前記第3対応関係を利用することによって、互いに異なる複数個の前記入力階調値のそれぞれについて前記許容誤差量を特定することであって、前記搬送量の前記誤差量がゼロの場合の測色値と、前記搬送量の前記誤差量がゼロより大きい場合の測色値と、の間の色差が基準値となる前記誤差量を、前記入力階調値における前記許容誤差量として特定することと、を含む、方法。
【0023】
この構成によれば、印刷された複数のパッチの測色値を利用して許容誤差量と代表入力階調値との対応関係が取得される。特に、搬送量の誤差量がゼロの場合の推定測色値と、搬送量の誤差量がゼロより大きい場合の推定測色値と、の間の色差が基準未満となる誤差量が、入力階調値における許容誤差量として特定される。この結果、部分領域の印刷を完成するための主走査の回数を、印刷結果と測色値とに基づいて、印刷を実行する装置と印刷すべき画像との両方に適した値に決定することができる。
【0024】
[適用例10]適用例9に記載の方法であって、前記第1対応関係の特定は、印刷された前記パッチを光学的に読み取ることによって画像データを生成することと、前記画像データの画素の階調値の分布において、前記印刷媒体を表す階調値のピークと、前記インクドットを表す階調値のピークと、の間の谷に階調値閾値を設定することと、前記階調値閾値を用いることによって、前記画像データの複数の画素を、前記インクドットを表す画素と前記印刷媒体を表す画素とに分類することと、前記分類の結果を利用して、前記ドット被覆率を算出することと、を含む、方法。
【0025】
この構成によれば、印刷媒体を表す階調値のピークとインクドットを表す階調値のピークとの区別を適切に行うことができるので、ドット被覆率を適切に算出することができる。この結果、部分領域の印刷を完成するための主走査の回数を、印刷を実行する装置と印刷すべき画像との両方に適した値に決定することができる。
【0026】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、印刷のための方法および制御装置、それらの方法または装置の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体、等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施例としての複合機200を示すブロック図である。
【図2】第1対応関係決定処理を示す説明図である。
【図3】搬送誤差Efと推定色差edEと関係の決定処理を示す説明図である。
【図4】許容階調値範囲決定処理を示すフローチャートと、第1許容誤差情報238を決定する処理を示す説明図である。
【図5】実誤差量aEfの測定の手順を示すフローチャートである。
【図6】パス数決定処理を示すフローチャートである。
【図7】印刷処理のフローチャートである。
【図8】2パス印刷の一例を示す説明図である。
【図9】第1実施例における4パス印刷のを示す説明図である。
【図10】第2実施例における4パス印刷の例を示す説明図である。
【図11】第3実施例における4パス印刷の例を示す説明図である。
【図12】第4実施例における4パス印刷の例(シングリングを行う例)を示す説明図である。
【図13】第5実施例における印刷処理のフローチャートである。
【図14】第5実施例における印刷例を示す説明図である。
【図15】第6実施例における印刷処理のフローチャートである。
【図16】第6実施例における印刷例を示す説明図である。
【図17】第7実施例における印刷例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
A.第1実施例:
(複合機200の構成:図1)
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。図1は、本発明の一実施例としての複合機200を示すブロック図である。この複合機200は、CPU210と、EEPROM等の不揮発性メモリ230と、DRAM等の揮発性メモリ240と、印刷実行部250と、スキャナ部260と、操作部270と、表示部280と、通信部290と、を有している。
【0029】
スキャナ部260は、光学的スキャンによって画像データを生成する。操作部270は、タッチパネルやボタン等のユーザによって操作される操作部材を含む。表示部280は、画像を表示するディスプレイである(例えば、液晶ディスプレイ)。通信部290は、複合機200の外部の電子機器(例えば、コンピュータ100やデジタルカメラ)と通信するためのインタフェースである(例えば、いわゆるUSBインタフェース、または、IEEE802.11の無線インタフェース)。
【0030】
印刷実行部250は、複数種類のインク(例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)のそれぞれを吐出することによって、印刷媒体に画像を印刷する装置である。印刷実行部250は、印刷ヘッド252と、ヘッド搬送部254と、ヘッド駆動部256と、媒体搬送部258と、を含む。印刷ヘッド252は、インクを吐出するための複数のノズルを有している。図示を省略するが、複数のノズルは、後述する副走査方向のピッチが一定値となるように、配置されている。また、本実施例では、シアン用の複数のノズルと、マゼンタ用の複数のノズルと、イエロー用の複数のノズルと、ブラック用の複数のノズルとは、副走査方向の位置が同じとなるように、配置されている。
【0031】
図1の下部には、印刷媒体PMと、主走査方向MDと、副走査方向SDと、の概略が示されている。ヘッド搬送部254は、印刷ヘッド252を主走査方向MDと平行に往復動させる。ヘッド駆動部256は、印刷ヘッド252を駆動することによって、ノズルからインク滴を吐出する。吐出されたインク滴は、印刷媒体PM上に着弾することによって、インクドットを形成する。本実施例では、インクドットの種類は、大ドットと、中ドットと、小ドットと、の3種類である。ただし、インクドットの種類数は、1、または、3以外の複数であってもよい。ヘッド駆動部256は、印刷ヘッド252の移動中に印刷ヘッド252を駆動することによって、主走査方向MDと平行に延びるライン(以下、「ラスタライン」とも呼ぶ)上に、インクドットを形成する(以下、ヘッド駆動部256の移動中にインクドットを形成する処理を「主走査」とも呼ぶ)。媒体搬送部258は、媒体送りモータと、媒体送りモータによって回転駆動される搬送ローラとを有し(図示省略)、搬送ローラと他の部材(例えば、従動ローラ、又は、板部材)との間に印刷媒体を挟持して、回転する搬送ローラによって印刷媒体を副走査方向SDの反対方向に搬送する(以下、印刷媒体の移動を「副走査」と呼ぶ)。副走査では、印刷媒体PMに対して、相対的に、印刷ヘッド252が副走査方向SDに移動する。本実施例では、副走査方向SDは、主走査方向MDと直交する。以下、副走査方向SDの反対方向側を「上流側」とも呼び、副走査方向SD側を「下流側」とも呼ぶ。なお、媒体搬送部258の構成としては、媒体送りモータと搬送ローラを有する構成に限らず、印刷媒体を搬送する種々の構成を採用可能である。また、印刷ヘッド252とヘッド搬送部254とヘッド駆動部256とのそれぞれの構成としても、種々の構成を採用可能である。
【0032】
不揮発性メモリ230は、予め、プログラム232と、実誤差量情報236と、第1許容誤差情報238と、を格納する。本実施例では、これらのデータ(情報)232、236、238は、複合機200の製造時に、不揮発性メモリ230に格納される。後述するように、実誤差量情報236は、印刷実行部250の個体ごとに、決定される。なお、不揮発性メモリ230は、さらに、第2許容誤差情報239を格納してもよい。第2許容誤差情報239を含む構成については、第8実施例として、後述する。
【0033】
CPU210は、不揮発性メモリ230に格納されたプログラム232を実行することによって、複合機200の全体の動作を制御する。本実施例では、CPU210は、印刷処理部M200として、動作する。印刷処理部M200は、マルチパス実行部M210と、回数決定部M220と、を含んでいる。印刷処理部M200は、さらに、モード選択部M230を含んでよい。モード選択部M230を含む構成については、第8実施例として、後述する。以下、CPU210が或る処理部として処理を実行することを、処理部が処理を実行する、とも表現する。
【0034】
印刷処理部M200は、入力画像データに応じて印刷実行部250を制御することによって、印刷媒体に画像を印刷する。マルチパス実行部M210は、例えば、通信部290に接続された外部装置(例えば、コンピュータ100)から、入力画像データを受信する。マルチパス実行部M210は、入力画像データを、ビットマップデータに変換する(ラスタライズ処理)。ビットマップデータに含まれる画素データは、例えば、赤(R)と緑(G)と青(B)の3つの色成分の階調値(例えば、ゼロ〜255までの256階調)で画素の色を表現するRGB画素データである。ビットマップデータの画素密度は、印刷解像度と同じである。
【0035】
次に、マルチパス実行部M210は、ビットマップデータに含まれるRGB画素データを、印刷実行部250が利用可能なインク(ここでは、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)の階調値(例えば、ゼロ〜255までの256階調)で画素の色を表すインク画素データに変換する(色変換処理)。次に、マルチパス実行部M210は、インク画素データを含むビットマップデータを、各画素毎のインクドットの形成状態を表すドットデータに変換する。本実施例では、インクドットの形成状態は、「ドット無し」「小」「中」「大」の4階調で表される。ビットマップデータからドットデータへの変換は、ハーフトーン処理とも呼ばれる。本実施例では、ハーフトーン処理は、周知の誤差拡散法に従って、進行する。なお、ハーフトーン処理は、誤差拡散に限らず、ディザマトリクス用いる処理等の種々の周知の処理であってよい。また、入力画像データからドットデータを生成する処理は、他の種々の処理を含み得る(例えば、色を補正する処理)。
【0036】
マルチパス実行部M210は、ドットデータに従って印刷実行部250を制御することによって、印刷を実行する。本実施例では、マルチパス実行部M210は、主走査と副走査とを組み合わせることによって、印刷媒体上の部分領域を複数回の主走査によって印刷するマルチパス印刷を実行する。図1の下部には、印刷媒体PMと、部分領域PAとの概略が示されている。本実施例では、部分領域PAは、主走査方向MDと平行に延びる帯状の領域である。副走査方向SDに沿って並ぶ複数の部分領域PAの全体が、印刷媒体PMの印刷可能領域PTAの全体をカバーする。
【0037】
回数決定部M220は、部分領域PA毎に、主走査の回数を決定する(以下、1回の主走査を「パス」とも呼ぶ。また、主走査の回数を「パス数」とも呼ぶ)。本実施例では、回数決定部M220は、主走査の回数を、「2回」または「4回」に決定する。主走査回数が2回の場合(2パス印刷)、1つの部分領域PAのインクドットの形成が、少なくとも2回の主走査に分散して、行われる。本実施例では、2パス印刷では、副走査における搬送量は一定値であり、主走査と副走査とが交互に行われる。2回の主走査のうちの一方の主走査は、部分領域内の奇数番目のラスタラインを印刷し、他方の主走査は、偶数番目のラスタラインを印刷する。このように、先の主走査で印刷される2本のラスタラインであって隣接する2本のラスタラインの間に、後の主走査が別のラスタラインを印刷することを、インタレース印刷とも呼ぶ。主走査回数が4回の場合(4パス印刷)、1つの部分領域PAのインクドットの形成が、少なくとも4回の主走査に分散して、行われる。部分領域PA内の複数のインクドットを、4回の主走査に分散する方法としては、種々の方法を採用可能である。例えば、複数の主走査が互いに異なるラスタライン上にインクドットを形成してもよい。また、1本のラスタラインの複数のインクドットが、複数の主走査に分散して、形成されてもよい。なお、本実施例では、2パス印刷と4パス印刷との間で、副走査方向SDの印刷解像度は同じである。
【0038】
2パス印刷は、4パス印刷と比べて、1つの部分領域PAの印刷に要する主走査の回数が少ないので、高速に画像を印刷することができる。4パス印刷は、2パス印刷と比べて、1つの部分領域PA内のインクドットの形成を、より多くの主走査に分散させる。仮に、1回の主走査で記録されるインクドットの形成位置に、誤差(例えば、副走査の搬送量の誤差)に起因するズレが生じる場合であっても、他の複数回の主走査が、同じ部分領域PA内にインクドットを形成する。この結果、一部のインクドットの位置ズレが目立つことを抑制できるので、画質を向上できる。
【0039】
回数決定部M220は、主走査回数を決定するために、部分領域PAを代表する代表入力階調値と、実誤差量情報236と、第1許容誤差情報238とを利用する。図1には、第1許容誤差情報238を説明するグラフが示されている。横軸は、代表入力階調値Virを示し、縦軸は、許容誤差量Efaを示す。第1許容誤差情報238は、代表入力階調値Virと許容誤差量Efaとの対応関係(第1曲線238c)を定める。
【0040】
代表入力階調値Virは、部分領域PAに対応する画像領域の入力階調値を代表する値である。入力階調値は、部分領域PAに印刷されるべき画像の濃度(換言すれば、明るさ)を表す階調値である。本実施例では、入力階調値として、入力画像データを用いた色変換処理によって得られる各インクの階調値が、利用される。代表入力階調値Virは、部分領域PAの各画素の入力階調値を利用した統計処理によって、決定される。例えば、代表入力階調値Virは、部分領域PAにおける入力階調値の平均値であってよい。代表入力階調値Virは、インク毎に決定される。
【0041】
許容誤差量Efaは、印刷媒体PMの搬送誤差量の許容値である。一般に、印刷媒体PMの搬送誤差量が大きくなると、印刷媒体PMに記録されたインクドットの位置ズレが大きくなる。インクドットの位置ズレが大きくなると、印刷された画像の色が、意図された色からズレる場合がある。このような色ズレは、搬送量の誤差が大きいほど大きい傾向がある。印刷媒体PMの許容誤差量Efaは、搬送量の誤差に起因する色ズレを許容できる、最大の誤差量を示している。また、図1に示すように、許容誤差量Efaは、表現される色の濃度(換言すれば、代表入力階調値Vir)に依存して変化する。
【0042】
実誤差量情報236は、媒体搬送部258による印刷媒体PMの搬送量に生じる実際の誤差量(実誤差量aEfと呼ぶ)を表している。回数決定部M220は、実誤差量情報236によって表される実誤差量aEfが、部分領域PAの代表入力階調値Virに対応付けられた許容誤差量Efa以下である場合には、主走査の回数を「2回」に決定し、実誤差量aEfが許容誤差量Efaを超える場合には、主走査の回数を「4回」に決定する。第1範囲VRa1と第3範囲VRc1とは、主走査の回数が「2回」である代表入力階調値Virの範囲を示す。第2範囲VRb1は、主走査の回数が「4回」である代表入力階調値Virの範囲を示す。
【0043】
なお、本実施例では、第1許容誤差情報238は、各インク毎に、対応関係を定めている。回数決定部M220は、1つの部分領域PAに関して、各インク毎に主走査の回数を判定する。少なくとも1つのインクに関する回数が「4回」である場合には、回数決定部M220は、その部分領域PAの主走査の回数を「4回」に決定する。全てのインクに関する回数が「2回」である場合には、回数決定部M220は、その部分領域PAの主走査の回数を「2回」に決定する。なお、複数種類のインクを印刷に利用する場合の、1つの部分領域PAにおける主走査の回数を決定する方法としては、他の種々の方法を採用可能である。例えば、部分領域PAの主走査の回数を「4回」に決定するための条件が、「4回」の判定結果を導出するインクの総数が所定の閾値以上であること、であってもよい。ここで、閾値は、2以上であってよい。
【0044】
(第1許容誤差情報238を決定する処理:図2〜図3及び図4下部)
図2〜図4は、第1許容誤差情報238(図1)を決定する処理例のフローチャートである。具体的には、図2〜図3の処理により、複数の入力階調値Viそれぞれについて、搬送誤差Efと推定色差edEとの対応関係が導出される。続いて、複数の入力階調値Viそれぞれに対する許容誤差量Efaを用いて、代表入力階調値Virと許容誤差量Efaとの対応関係(即ち、第1許容誤差情報238)が導出される(図4下部)。なお、図2〜図4は、1つのインクに関する第1許容誤差情報238の決定を示している。
【0045】
図2は、第1対応関係決定処理を示している。第1対応関係は、ドット被覆率CRと測色値Labとの対応関係である。最初のステップS200では、複合機200は、互いに異なる入力階調値の画像データを用いて複数のカラーパッチを印刷媒体に印刷する(以下、カラーパッチを、単に「パッチ」とも呼ぶ)。ここで、カラーパッチは、ほぼ一様な色に再現された画像領域を意味している。図2の右部は、印刷されるn個(nは2以上の整数)のパッチPT(1)〜PT(n)の概略を示している。各パッチPTは、ほぼ一様な濃度の画像を表しており、同じ1種類のインクによって印刷されている。パッチPT毎に入力階調値が異なっているので、印刷されたパッチ(画像)の濃度Dは、パッチPT毎に異なっている。
【0046】
次のステップS210では、測色計が、各パッチPTを測色する。各パッチPTの測色値は、デバイスに依存しない表色系、例えば、L*a*b*表色系で表される。以下、測色値のことを測色値Labとも呼ぶ。
【0047】
次のステップS220は、各パッチPTのドット被覆率CRの測定である。図2に示された第1画像IM1は、パッチPTの一部分の拡大図である。第1画像IM1は、インクドットdtと、印刷媒体におけるインクドットdtに覆われずに露出する部分(露出部分pp)と、を示している。ドット被覆率CRは、印刷されたパッチPT中におけるインクドットdtに覆われた部分の面積の割合である。
【0048】
本実施例では、まず、顕微鏡(図示省略)が、印刷されたパッチPTを拡大する。次に、撮像素子(図示省略)が、拡大された画像を光学的に読み取ることによって、第1画像IM1を表す第1画像データIM1dを生成する。第1画像IM1を基準として見た場合に、第1画像データIM1dの画素密度は、印刷解像度と比べて、高い。すなわち、1つのインクドットdtが、第1画像データIM1d中の複数の画素(例えば、数画素〜数十画素)の集合によって表現されるように、第1画像データIM1dの画素密度は、決定されている。
【0049】
次に、グレースケール変換によって、カラー画像を表す第1画像データIM1dから、グレースケールの第2画像データIM2dを生成する。第1画像データIM1dがグレースケールデータである場合には、グレースケール変換は省略される。
【0050】
次に、第2画像データIM2dの画素値(輝度値)を、閾値Thと比較することによって、2値の第3画像データIM3dを生成する。図2のヒストグラムHG1は、第2画像データIM2dの輝度値分布の一例を示している。輝度分布は、2つのピークdtp、pppを示す。第1ピークdtpは、インクドットdtを表す画素の輝度値を示し、第1ピークdtpよりも明るい第2ピークpppは、露出部分ppを表す画素の輝度値を示している。本実施例では、閾値Thは、2つのピークdtp、pppの間の谷Vに相当する値に、決定される。輝度値が閾値Thよりも小さい画素(暗い画素)は、インクドットdtを表す画素に分類され、輝度値が閾値Th以上である画素(明るい画素)は、露出部分ppを表す画素に分類される。なお、閾値Thの決定は、作業者が手作業で行ってもよい。この代わりに、コンピュータ(図示省略)が、ヒストグラムを解析することによって、自動的に閾値Thを決定してもよい。
【0051】
次に、第3画像データIM3dを利用してドット被覆率CRを算出する。本実施例では、ドット被覆率CRは、パッチPTを表す領域中の全画素数に対するインクドットdtを表す画素数の割合である。以上説明したドット被覆率CRの測定は、各パッチPT毎に、行われる。また、グレースケール変換と、2値化と、ドット被覆率CRの算出とは、図示しないコンピュータが実行する。
【0052】
次のステップS230は、ドット被覆率CRと測色値Labとの関係を表す回帰式の算出である。図2のグラフGF1は、ステップS210で測定された測色値Lab(L*とa*とb*)と、ステップS220で測定されたドット被覆率CRと、の間の関係を示す。n個のパッチPTからn個の対応関係が決まる。ステップS230では、n個の対応関係を利用して、回帰式を算出する。回帰式としては、例えば、多項式を採用可能である。なお、n個の対応関係を利用してドット被覆率CRと測色値Labとの対応関係を規定する方法としては、回帰式を利用する方法に限らず、種々の方法(例えば、補間と補外)を採用してもよい。
【0053】
以上のように、ドット被覆率CRと測色値Labとの対応関係(第1対応関係)が、決定される。なお、パッチPTは、ドット被覆率CRと測色値Labとの対応関係を特定するためのものなので、パッチPTにおけるインクドットの位置ズレは許容される。パッチPTの印刷方式は、任意の方式であってよく、例えば、2パス印刷と4パス印刷とのいずれでもよい。パッチPTを印刷するプリンタは、複合機200と同じ機種であればよい。
【0054】
図3は、搬送誤差Efと推定色差edEと関係の決定処理を示している。図3の処理は、印刷(ドット形成状態)のシミュレーション結果を利用する。最初のステップS300は、着弾誤差Ex、Eyの決定である。着弾誤差Ex、Eyは、印刷ヘッド252の駆動と移動とに起因する、インク滴の着弾位置の誤差である。第1誤差Exは、主走査方向の誤差を示し、第2誤差Eyは、副走査方向の誤差を示す。シミュレーションは、着弾誤差Ex、Eyに応じた正規分布に従う乱数を、インクドットの形成位置の誤差として組み込む。なお、着弾誤差Ex、Eyは、実験的に決定される。例えば、主走査方向と副走査方向とのそれぞれに等間隔にインクドットが配置された格子状のパターンを実際に印刷し、ドット間の距離を測定することによって、第1誤差Exと第2誤差Eyとを決定することができる。
【0055】
次のステップS305は、入力階調値Viと搬送誤差Efとの組み合わせ(シミュレーションのための組み合わせ)の選択である。シミュレーションは、複数の入力階調値Viのそれぞれに関して行われる。また、1つの入力階調値Viのためのシミュレーションは、複数の搬送誤差Efのそれぞれに関して行われる。図3に示す表Tpは、入力階調値Viと搬送誤差Efとの組み合わせの例を示している。本実施例では、入力階調値Viとして、3つの入力階調値Vi(暗入力階調値Vi1、中入力階調値Vi2、明入力階調値Vi3)が選択される。また、搬送誤差Efとして、ゼロから所定の最大値Efmまでの範囲内に所定間隔(例えば、1マイクロメートル)で配置された複数の値が選択される。なお、入力階調値Viの総数は、3に限らず、2または4以上であってもよい。
【0056】
次のステップS310は、着弾位置のシミュレートである。このシミュレーションは、入力階調値Viによって表される一様な画像を着弾誤差がEx、Eyであるとして2パス印刷で印刷する場合に、搬送誤差Efを0からEfmまでの各値に変化させたときのインク滴の着弾位置(インクドットの形成位置)を、シミュレートしたものである。このシミュレーションは、通常時の印刷と同様にハーフトーン処理を行うことによって目標の着弾位置を決定する。
【0057】
次のステップS315は、ドットパターン画像データIMddの生成である。ドットパターン画像データIMddは、図2の第3画像データIM3dと同様の、2値の拡大画像を表している。具体的には、ドットパターン画像データIMddは、ステップS310で決定された着弾位置に、ステップS310のハーフトーン処理で決定された種類のドット画像(小ドット画像dt1、中ドット画像dt2、大ドット画像dt3のいずれか)を配置することによって得られる画像を表している。ドット画像dt1、dt2、dt3は、図2のステップS220の処理と同様に、実際のインクドットを顕微鏡を通じて撮影することによって、得られる。
【0058】
次のステップS320は、ドットパターン画像データIMddからのドット被覆率CRの算出である。ドット被覆率CRの算出は、図2のステップS220と同様に行われる。
【0059】
次のステップS325は、搬送誤差Efとドット被覆率CRとの対応関係(第2対応関係)の導出である。上述のステップS310〜S320は、入力階調値Viごとに(即ち、入力階調値Vi1、Vi2、Vi3それぞれについて)行われる。従って、入力階調値Viごとに搬送誤差Efとドット被覆率CRとの対応関係が決まる。
【0060】
次のステップS330は、第1対応関係(図2)と、第2対応関係(S325)とからの、搬送誤差Efと推定測色値eLabとの対応関係(第3対応関係)の導出である。第1対応関係は、ドット被覆率CRと測色値Labとの対応関係である。第2対応関係は、搬送誤差Efとドット被覆率CRとの対応関係である。従って、第1と第2の対応関係を組み合わせることによって、搬送誤差Efから測色値を推定することができる。第3対応関係は、1つの階調値である入力階調値Viが、搬送誤差Efの変化に応じて、如何なる推定測色値eLabによって表されるのかを示す。第3対応関係は、複数の入力階調値Vi(ここでは、入力階調値Vi1、Vi2、Vi3)のそれぞれについて、導出される。
【0061】
例えば、図3に示されたグラフGF2は、3つの搬送誤差Ef0、Ef1、Ef2にそれぞれ対応付けられた3つの推定測色値eLab0、eLab1、eLab2を示している(入力階調値Viは、同じ)。第0搬送誤差Ef0は「ゼロ」であり、第1搬送誤差Ef1はゼロより大きく、第2搬送誤差Ef2は、第1搬送誤差Ef1より大きい。図示するように、搬送誤差Efが大きくなるほど、推定測色値eLabは、搬送誤差Efがゼロの場合の推定測色値eLab0から遠ざかる。
【0062】
次のステップS335は、搬送誤差Efと推定色差edEとの対応関係の導出である。推定色差edEは、搬送誤差Efがゼロの場合の推定測色値eLabと、搬送誤差Efがゼロより大きい場合の推定測色値eLabと、の間の差である。色差dEは、以下に示す一般的な式で算出される。
【0063】
【数1】

【0064】
一般に、搬送誤差Efが大きいほど、推定色差edEも大きくなる。図3のグラフGF2においては、第1搬送誤差Ef1に対応付けられた第1推定色差edE1よりも、第2搬送誤差Ef2に対応付けられた第2推定色差edE2の方が、大きい。
【0065】
このようにして、搬送誤差Efと推定色差edEとの対応関係は、複数の入力階調値Vi(ここでは、3つの入力階調値Vi1、Vi2、Vi3)のそれぞれついて、特定される。
【0066】
続いて、複数の入力階調値Viごとに特定された搬送誤差Efと推定色差edEとの対応関係を利用して、入力階調値Viと許容誤差量との対応関係が導出される(図4の下部)。図4の下部には、第1の許容誤差情報の導出を説明するための4つのグラフGF11〜GF14が示されている。3つのグラフGF11、GF12、GF13においては、横軸は搬送誤差Efを示し、縦軸は推定色差edEを示す。第1グラフGF11は、暗入力階調値Vi1に関するグラフを示し、第2グラフGF12は、中入力階調値Vi2に関するグラフを示し、第3グラフGF13は、明入力階調値Vi3に関するグラフを示す。これらのグラフGF11、GF12、GF13は、いずれも、図3の処理で特定された対応関係(搬送誤差Efと推定色差edEとの対応関係)を示している。図示するように、搬送誤差Efが大きいほど、推定色差edEも大きい。
【0067】
グラフGF11、GF12、GF13には、推定色差edEの第1閾値dEth1が示されている。第1閾値dEth1は、予め決められた値であり、人間が目で見たとき、色の違いが目立ちにくい色差を示している。第1閾値dEth1は、例えば、2〜5の範囲の値に設定される。3つのグラフGF11、GF12、GF13からは、推定色差edEが第1閾値dEth1となる3つの搬送誤差Efa1、Efb1、Efc1が、特定される。なお、第1閾値dEth1は、インクの種類(色種)に拘わらずに同じである。この代わりに、インクの種類(色種)毎に、第1閾値dEth1が設定されてもよい。この場合、第1閾値dEth1は、インクの種類(色種)に応じて、異なり得る。
【0068】
第4グラフGF14は、入力階調値Vi(代表入力階調値Vir)と許容誤差量Efaとの関係(即ち、第1許容誤差情報)を示している。横軸は入力階調値Viを示し、縦軸は許容誤差量Efaを示している。横軸では、入力階調値Viが右端に近いほど、濃度が低く(明るい)、入力階調値Viが左端に近いほど、濃度が高い(暗い)。第4グラフGF14中には、第1許容誤差情報238(図1)によって表される曲線238cが示されている(「第1曲線238c」とも呼ぶ)。第1曲線238cは、3つの対応関係(Vi1−Efa1、Vi2−Efa2、Vi3−Efa3)を表すように、決定される。第1曲線238cの決定方法としては、種々の方法を採用可能である。例えば、回帰式を用いて第1曲線238cを決定することができる。なお、本実施例では、第1曲線238cの決定には、3つの対応関係に加えて、左端データPaと右端データPbとが利用される。これらの端データPa、Pbは、入力階調値Viの可能な範囲の端の許容誤差量Efaを定めるデータである。端データPa、Pbの許容誤差量Efaは、実際の測定され得る誤差量と同じ、または、若干大きな値に、予め決定される。以上のようにして、第1許容誤差情報238が決定される。
【0069】
第1許容誤差情報238は、以上のように決定された第1曲線238cの特定に要する情報を含む(例えば、回帰式のパラメータ)。図2〜図3、図4下部の処理によって決定された第1許容誤差情報238は、不揮発性メモリ230(図1)に格納される。
【0070】
(許容階調値範囲決定処理:図4上部)
図4上部には、2パス印刷が許容される入力階調値Viの範囲(許容階調値範囲)の決定処理を示している。図4上部の処理は、上記のようにして導出された第1許容誤差情報238と、実誤差量aEfとを利用することによって、許容階調値範囲を特定する。以下、2パス印刷が行われる許容階調値範囲を「2パス範囲」とも呼ぶ。4パス印刷が行われる入力階調値Viの範囲を、「4パス範囲」とも呼ぶ。
【0071】
最初のステップS400は、実誤差量aEfの測定である。図5は、実誤差量aEfの測定の手順を示すフローチャートである。最初のステップS500は、複合機200(図1)は、2パス印刷によって、テストチャートCTを印刷する。図5に右上には、テストチャートCTの概略図が示されている。複合機200は、主走査において、特定の1つのノズルのみから連続的にインク滴を吐出する。従って、1回の主走査が、主走査方向MDと平行な1本のラスタラインRLを記録する。また、2パス印刷では、副走査の搬送量は一定値である。従って、テストチャートCTでは、複数のラスタラインRLが、ほぼ等しい間隔aFで、副走査方向SDに沿って並ぶ。実際の間隔aFは、1回の副走査の実際の搬送量と、同じである(以下、間隔aFを、「実搬送量aF」とも呼ぶ)。実搬送量aFは、種々の誤差を含む(例えば、媒体搬送部258(図1)の動作の精度に起因する誤差(例えば、搬送ローラ(図示省略)に対して印刷媒体PMが滑ることに起因する誤差))。従って、複数の実搬送量aFは、誤差に起因して、ばらつく。
【0072】
次のステップS510は、実搬送量aFの測定である。実搬送量aFの測定方法は、任意の方法であってよい。例えば、テストチャートCTを光学的に読み取ることによって、テストチャートCTを表す画像データを生成し、その画像データを解析することによって、実搬送量aFを算出してもよい。このステップS510では、誤差に起因してばらついた複数の実搬送量aFが、得られる。
【0073】
次のステップS520は、目標搬送量tFと実搬送量aFとの差aEの取得である。目標搬送量tFは、副走査の搬送量の目標値である。実搬送量aFは、誤差に起因して、目標搬送量tFからズレ得る。差aEは、誤差量を示している。図5に示されるヒストグラムHG2は、差aEの分布を示す。図示するように、差aEの分布は、おおよそ正規分布である(平均は、おおよそゼロである)。
【0074】
次のステップS530は、複数の差aEからの実誤差量aEfの算出である。実誤差量aEfは、複数の差aEを代表する値である。本実施例では、差aEの絶対値が実誤差量aEfを越えることがほとんどないように、実誤差量aEfが決定される。すなわち、将来に複合機200が画像を印刷する場合に生じる搬送量の誤差の絶対値が、実誤差量aEfを越えることがほとんどないように、実誤差量aEfが決定される。そのような実誤差量aEfを決定する方法としては、種々の統計処理を利用する方法を、採用可能である。例えば、第1方法MT1に示すように、実誤差量aEfは、差aEの標準偏差の3倍の値であってよい。この場合、差aEの絶対値が実誤差量aEf内に収まる可能性は、99.7%である。また、第2方法MT2に示すように、実誤差量aEfは、差aEの絶対値の最大値であってよい。また、第3方法MT3に示すように、信頼度95%の予測区間を利用して実誤差量aEfを決定してもよい。この場合、まず、差aEの上側の予測区間PU(上限PUとも呼ぶ)と、差aEの下側の予測区間PL(下限PLとも呼ぶ)と、を算出する(ステップS590、S592)。そして、実誤差量aEfを、上限PUの絶対値と下限PLの絶対値とのうちの大きい方に、設定すればよい(ステップS594、S596、S598)。なお、図5の処理によって決定された実誤差量aEfを表す実誤差量情報236は、不揮発性メモリ230に格納される。本実施例では、実誤差量情報236は、複合機200の個体毎に、決定される。ただし、機種が同じ場合には、実誤差量aEfもほとんど同じである場合が多いので、実誤差量情報236は、複合機200の機種毎に決定されてもよい。
【0075】
次に、図4のステップS410〜S470の処理は、実誤差量aEfを利用して、2パス範囲を特定する。ステップS410では、対象入力階調値Vipがゼロに初期化される。後述するように、入力階調値Viの取り得る値(ゼロから255までの256個の値)のそれぞれに関する処理を行うために、対象入力階調値Vipは、ゼロから255まで1つずつシフトする。
【0076】
次のステップS420では、第1の許容誤差情報238に基づいて、対象入力階調値Vipに対応する許容誤差量Efaが算出される。ステップS420では、第1曲線238cに従って、対象入力階調値Vipに対応する許容誤差量Efa(以下、「対象許容誤差量Efp」とも呼ぶ)が算出される。次のステップS430では、対象許容誤差量Efpが実誤差量aEfよりも大きいか否かが、判定される。対象許容誤差量Efpが実誤差量aEfよりも大きい場合には(S430:Yes)、対象入力階調値Vipは、2パス範囲に含まれると判定される(S440)。対象許容誤差量Efpが実誤差量aEf以下である場合には(S430:No)、対象入力階調値Vipは、2パス範囲に含まれない(4パス範囲に含まれる)と判定される(S450)。
【0077】
以後、対象入力階調値Vipを1だけ増加させるステップS470と、対象入力階調値Vipのパス数を判定するステップS420、S430、S440、S450とを、全ての入力階調値Viの処理が完了するまで(S460:Yes)、繰り返す。この結果、全ての入力階調値Viのパス数が決まる。
【0078】
図4下部の第4グラフGF14に示すように、本実施例では、入力階調値Viの範囲は、3つの範囲VRa1、VRb1、VRc1に区分けされている。第1範囲VRa1と第3範囲VRc1との全体は、2パス範囲である。第2範囲VRb1は、4パス範囲である。
【0079】
暗い(濃度の高い)第1範囲VRa1で、2パス印刷が許容される理由(換言すれば、実誤差量aEfが許容される理由)は、以下の通りである。すなわち、暗い領域では、インクドットが高密度に配置されるので、隣接するインクドットが互いに重なって形成される。この結果、インクドットの形成位置にズレが生じた場合であっても、図2に示すような露出部分ppは生じにくい。この結果、許容誤差量Efaが大きくなる。
【0080】
明るい(濃度の低い)第3範囲VRc1で、2パス印刷が許容される理由(換言すれば、実誤差量aEfが許容される理由)は、以下の通りである。すなわち、明るい領域では、インクドットが低密度に配置されるので、インクドット間の距離が遠い。この結果、インクドットの形成位置にズレが生じた場合であっても、インクドットの意図しない重なりは生じにくい。この結果、許容誤差量Efaが大きくなる。
【0081】
第1範囲VRa1と第3範囲VRc1との間の第2範囲VRb1で、2パス印刷が許容されない理由(換言すれば、実誤差量aEfが許容されない理由)は、以下の通りである。すなわち、明るくもなく暗くもない領域では、隣接するインクドットが互いに重ならないように形成されるもの、インクドット間の距離は近い。これらの結果、インクドットの形成位置にズレが生じる場合には、インクドットの意図しない重なりが生じ易い。また、露出部分ppが拡張し易い。これらの結果、許容誤差量Efaが小さくなる。
【0082】
なお、回数決定部M220(図1)は、図4の手順を利用して、主走査回数(パス数)を決定する。ここで、回数決定部M220は、ステップS400の代わりに、不揮発性メモリ230から実誤差量情報236を取得する処理を実行する。なお、回数決定部M220による主走査回数の決定方法は、図4の手順を利用する方法に限らず、代表入力階調値Virと実誤差量情報236(実誤差量aEf)と第1許容誤差情報238とを利用する種々の方法であってよい。例えば、実誤差量aEfと第1許容誤差情報238とから、2パス範囲と4パス範囲とを特定し、代表入力階調値Virが2パス範囲内に含まれる場合にパス数を2に決定し、代表入力階調値Virが4パス範囲内に含まれる場合にパス数を4に決定する方法を採用してもよい(以下、第1決定方法と呼ぶ)。また、第1許容誤差情報238を利用して代表入力階調値Virに対応付けられた許容誤差量Efaを算出し、実誤差量aEfが、算出された許容誤差量Efa以下である場合にパス数を2に決定し、実誤差量aEfが、算出された許容誤差量Efaを越える場合にパス数を4に決定する方法を採用してもよい(以下、第2決定方法と呼ぶ)。第1決定方法と第2決定方法とは、最終的には、同じ結果を導出する。従って、第1決定方法を実行することは、第2決定方法を実行することと、同じである。なお、印刷時の回数決定部M220による処理の詳細な例については、後述する。
【0083】
以上のように、第1実施例では、搬送量の実誤差量aEfを主走査の回数に反映させることができるので、実誤差量aEfに個体差がある場合であっても、その実誤差量aEfに適した主走査の回数を決定することができる。すなわち、主走査の回数を印刷実行部250に適した値に決定できる。また、代表入力階調値Virを主走査の回数に反映させることができるので、主走査の回数を、印刷すべき画像に適した値に決定できる。第1実施例によれば、部分領域PAの印刷を完成するための主走査の回数を、印刷実行部250と印刷すべき画像との両方に適した値に決定することができる。
【0084】
(代表入力階調値Virの2パス範囲との関係:図4下部)
次に、実誤差量情報236によって示される実誤差量aEfと、代表入力階調値Virの2パス範囲との関係について説明する。図4の下部には、第5グラフGF15が示されている。第5グラフGF15は、実誤差量aEfの変化に対する2パス範囲の変化を示している。第5グラフGF15には、第1曲線238cと、2つの実誤差量aEf1、aEf2とが、示されている。第2実誤差量aEf2は、第1実誤差量aEf1よりも大きい。上段に示した3つの範囲VRa11、VRb11、VRc11は、第1実誤差量aEf1に応じて決まる範囲を示す。第1範囲VRa11と第3範囲VRc11との全体が2パス範囲であり、第2範囲VRb11が4パス範囲である。下段に示した3つの範囲VRa12、VRb12、VRc12は、第2実誤差量aEf2に応じて決まる範囲を示す。第1範囲VRa12と第3範囲VRc12との全体が2パス範囲であり、第2範囲VRb12が4パス範囲である。
【0085】
図示するように、実誤差量aEfが小さい場合(第1実誤差量aEf1)と比べて、実誤差量aEfが大きい場合(第2実誤差量aEf2)に、2パス範囲が狭くなる。この結果、実誤差量aEfが小さい場合には、2パス範囲が広がるので、高速な印刷が可能である。実誤差量aEfが大きい場合には、2パス範囲が狭くなり4パス範囲が広くなるので、画質の劣化を抑制した印刷が可能になる。このように、搬送量の実誤差量aEfを適切に主走査の回数に反映させることができるので、印刷媒体PM上の部分領域PAの印刷を完成するための走査の回数を、印刷実行部250と印刷すべき画像との両方に適した値に決定することができる。
【0086】
また、第1実施例では、第1閾値dEth1と比較される推定色差edEが、複数のパッチPTの測色値を利用して推定されるので(図2)、搬送量の誤差に起因する見た目の色の差を適切に抑制できる。また、搬送誤差Efとドット被覆率CRとの第2対応関係が、シミュレーションを利用して特定されるので(図3)、種々の搬送誤差Efに対応する測色値Labを、容易に推定することができる(例えば、制御困難な小さい搬送誤差Efに対応付けられた測色値Lab)。この結果、主走査の回数を適切に決定することができる。
【0087】
また、図2のステップS220で説明したように、印刷されたパッチPTのドット被覆率CRの測定は、以下の処理を含む。すなわち、第1ピークdtp(インクドットdtを表す)と第2ピークppp(露出部分ppを表す)との間の谷Vに閾値Thが設定される。その閾値Thを利用することによって、第2画像データIM2dの複数の画素が、インクドットdtを表す画素と、露出部分pp(印刷媒体PM)を表す画素とに分類される。従って、谷Vの輝度値が撮影条件等に応じて変化する場合にも、画素の適切な分類が可能である。この結果、ドット被覆率CRを適切に算出することができる。
【0088】
(パス数決定処理:図6)
続いて、印刷データの各印字エリアのパス数を決定するパス数決定処理を図6を参照して説明する。図6は、印刷処理部M200(図1)によって実行されるパス数決定処理のフローチャートである。パス数決定処理では、1つの部分領域PAが複数の分割領域SAに分割され、分割領域SA毎の入力階調値Viの平均値を利用して、部分領域PAの主走査回数が決定される。破線で示されたステップS618は、後述する第8実施例で実行されるステップである。ここでは、ステップS618を省略して説明する。
【0089】
図中には、印刷媒体PMと印刷ヘッド252との概略図が示されている。図示するように、印刷ヘッド252において、複数のノズルNzの副走査方向SDに沿ったピッチは、一定値Naである。図6では、複数のノズルNzが、副走査方向SDに沿って延びる直線上に配置されているが、ノズル間で主走査方向MDの位置が異なっていても良い。ノズルNzの総数は、Nn個である。本実施例では、総数Nnは、奇数である。図中のヘッド長dは、総数Nn*ピッチNaを示している(「*」は乗算記号)。また、各部分領域PAの副走査方向SDの幅(以下「領域幅AW」と呼ぶ)は、ヘッド長dの半分(d/2)である。以上の説明は、1つのインクのための複数のノズルNz(ノズルセットとも呼ぶ)の説明である。印刷ヘッド252は、複数のインクのそれぞれのための、副走査方向SDの位置が同じとなるように配置された複数のノズルセットを、有する。以下、1つのインクに関する処理を例に、説明を行う。以下に説明する処理は、各インクに共通に実行される。
【0090】
最初のステップS600では、回数決定部M220は、印刷のための入力画像データを取得する。次のステップS605では、回数決定部M220は、印刷媒体PMに配置された複数の部分領域PAの中から、処理対象の部分領域PAとして、最初の部分領域PAを選択する(以下、処理対象の部分領域PAを「対象部分領域PAt」と呼ぶ)。最初の部分領域PAは、最も上流側に配置された部分領域PAである。以下、個々の部分領域PAを特定するために、符号PA(m)を用いる。整数mは、1から始まる昇順番号である。「1」は、最も上流側の部分領域PAに割り振られ、整数mは、上流側から下流側に向かって、1ずつ増加する。
【0091】
次のステップS610では、回数決定部M220は、対象部分領域PAtを、複数の分割領域SAに分割する。図6には、部分領域PA(n)の概略図が示されている。この部分領域PA(n)は、複数の分割領域SA(i)に分割される(整数iは、個々の分割領域SAを特定する番号)。本実施例では、対象部分領域PAtは、主走査方向MDに沿って等間隔に分割される。従って、対象部分領域PAt内で、同じ形状の分割領域SAが、主走査方向MDに沿って並ぶ。なお、分割領域SAの形状と配置との構成としては、他の種々の構成を採用可能である。例えば、部分領域PAは、主走査方向MDに加えて副走査方向SDに沿って、複数の分割領域SAに分割されてもよい。
【0092】
次のステップS615では、回数決定部M220は、分割領域SA毎に入力階調値Viの平均値を算出する(「平均階調値Vav」と呼ぶ)。次のステップS620では、回数決定部M220は、対象部分領域PAt内の少なくとも1つの分割領域SAの平均階調値Vavが4パス範囲(例えば、図1、図4の第2範囲VRb1)内にあるか否かを判定する。回数決定部M220は、この判定を、図4で説明した手順を利用して行う。対象部分領域PAt内の全ての分割領域SAの平均階調値Vavが2パス範囲内にある場合(S620:No)、次のステップS625で、回数決定部M220は、対象部分領域PAtのパス数を「2」に決定する。1以上の分割領域SAの平均階調値Vavが4パス範囲内にある場合(S620:Yes)、次のステップS630で、回数決定部M220は、対象部分領域PAtのパス数を「4」に決定する。
【0093】
以後、回数決定部M220は、次の部分領域PAを対象部分領域PAtとして選択するステップS640と、パス数を決定するステップS610〜S630とを、全ての部分領域PAの処理が完了するまで(S635:Yes)、繰り返す。この結果、全ての部分領域PAのパス数が決まる。
【0094】
以上の説明は、1つのインクに関するパス数の決定の説明である。回数決定部M220は、1つの部分領域PAに関して、各インク毎にパス数を決定する。そして、回数決定部M220は、少なくとも1つのインクのパス数が「4回」である場合には、最終的に、部分領域PAのパス数を「4回」に決定する。全てのインクのパス数が「2回」である場合には、回数決定部M220は、最終的に、部分領域PAのパス数を「2回」に決定する。なお、上述したように、複数種類のインクを印刷に利用する場合の、1つの部分領域PAにおける主走査の回数を決定する方法としては、他の種々の方法を採用可能である
【0095】
以上のように、回数決定部M220は、部分領域PAを分割して得られる複数の分割領域SAのそれぞれの平均階調値Vavを利用して、部分領域PAのパス数を決定する。従って、部分領域PAの一部分が2パス印刷に不適な画像を表す場合に、その部分領域PAのパス数を適切に「4回」に決定することができる。ここで、全ての分割領域SAのそれぞれの平均階調値Vavが、代表入力階調値の例である。全ての平均階調値Vavが2パス範囲内に含まれる場合、代表入力階調値が2パス範囲内に含まれるということができる。1つ以上の平均階調値Vavが2パス範囲内に含まれない場合、代表入力階調値が2パス範囲内に含まれないということができる。
【0096】
(印刷処理:図7)
図7は、マルチパス実行部M210(図1)によって実行される印刷処理のフローチャートである。破線で示されたステップS725aは、後述する第4実施例で実行されるステップである。ここでは、ステップS725aを省略して説明する。
【0097】
最初のステップS700では、マルチパス実行部M210は、入力画像データを取得する。次のステップS705では、マルチパス実行部M210は、印刷媒体PMを初期位置に搬送する。図7の右上部には、初期位置に印刷媒体PMが搬送された状態における、部分領域PA(1)と印刷ヘッド252との位置関係が示されている。
【0098】
印刷媒体PMが初期位置に搬送された状態においては、複数のノズルにおける最下流のノズルNzDの副走査方向SDの位置は、第1部分領域PA(1)の下流端EDPから上流側に1ピッチNaだけ移動した位置と同じである。すなわち、複数のノズルの下流側(副走査方向SD側)の一部分が、第1部分領域PA(1)の副走査方向SDの範囲のおおよそ全体に亘って分散して配置される。
【0099】
図7の次のステップS710では、マルチパス実行部M210は、処理対象の部分領域PAを特定する番号nを1に初期化する。
【0100】
次のステップS715では、マルチパス実行部M210は、番号nで特定される対象部分領域PA(n)のパス数が「4」であるか否かを判定する。
【0101】
パス数が「4」ではない場合には(この場合、パス数は「2」である)、次のステップS720で、マルチパス実行部M210は、対象部分領域PA(n)を2パス印刷で印刷する。この場合、マルチパス実行部M210は、1回目の主走査と2回目の主走査との間に副走査を行う。この副走査での搬送量は、ヘッド長の半分(d/2)である。2パス印刷の詳細については、後述する。
【0102】
パス数が「4」である場合には、次のステップS725で、マルチパス実行部M210は、対象部分領域PA(n)を4パス印刷で印刷する。マルチパス実行部M210は、主走査と副走査とを交互に繰り返すことによって、4回の主走査を行う。4回の主走査の間の3回の副走査のそれぞれにおける搬送量は、以下の通りである。
第1搬送量F1=第1値sn*ピッチNa
第2搬送量F2=d/2−(第1値sn+第2値tn)*ピッチNa
第3搬送量F3=第2値tn*ピッチNa
第1値snと第2値tnとは、「d/2>(第1値sn+第2値tn)*ピッチNa」を満たすような、1以上の整数である。これら3つの搬送量F1、F2、F3の合計は、d/2(すなわち、領域幅AW)と同じである。なお、搬送量の順番は、F1、F2、F3の順に限らず、他の任意の順番であってよい。4パス印刷の詳細については、後述する。
【0103】
以後、マルチパス実行部M210は、全ての部分領域PAの印刷が完了するまで(S730:Yes)、番号nに1を追加するステップS735と、印刷を行うステップS715、S720、S725とを繰り返す。この結果、印刷が完了する。
【0104】
(2パス印刷の一例:図8)
図8は、2パス印刷の一例を示す説明図である。図中には、複数のパスのそれぞれにおける印刷ヘッド252(ノズルNz)の副走査方向SDの位置が示されている。ここで、個々のパスを特定するために符号P(m)を用いる。整数mは、図示されたパスの実行順を示している。また、図中には、上流側から下流側に向かって並ぶ4つの部分領域PA(a)〜PA(d)も示されている。図8では、全ての部分領域PA(a)〜PA(d)において、パス数が「2」であることとしている。
【0105】
本実施例では、ノズルNzの総数Nnが13であることとしている。また、パス数が「2」の複数の部分領域PAが連続して並ぶ場合には、同じ搬送量の副走査が繰り返される。図8の印刷例では、副走査における搬送量は、ヘッド長d(総数Nn*ピッチNa)の半分である。本実施例では、ノズルNzの総数Nnが奇数である。従って、主走査における複数のノズルNzの副走査方向SDの位置は、1つ前の主走査における複数のノズルNzの位置からピッチNa/2だけシフトした位置と、重なる。この結果、連続する2回の主走査は、副走査方向SDの間隔LDがピッチNa/2となるような複数のラスタラインを印刷する。なお、図8の印刷例では、各主走査において、全てのノズルNzが印刷を実行する。
【0106】
図8の印刷例では、1つの部分領域PAは、連続する2つの主走査によって印刷される。例えば、第1部分領域PA(a)は、第2パスP(2)と第3パスP(3)とによって印刷される。図中の表T1は、第1部分領域PA(a)中のラスタラインの番号と、ラスタラインを印刷するパスとの関係を示している。ラスタライン番号は、副走査方向SDの上流側から下流側に向かって1から順番に付された番号である。図示するように、第2パスP(2)は、偶数番のラスタラインを印刷し、第3パスP(3)は、奇数番のラスタラインを印刷する。このように、インタレース印刷が行われるので、搬送量の誤差に起因する悪影響(画質に対する悪影響)を分散することができる。
【0107】
また、本実施例では、印刷ヘッド252のヘッド長dは、連続する2つの部分領域PAの副走査方向SDの長さと同じである。すなわち、印刷ヘッド252は、1回の主走査で、2つの部分領域PAの副走査方向SDの範囲の全体に亘って、印刷が可能である。例えば、図8の印刷例では、第3パスP(3)は、第1部分領域PA(a)と第2部分領域PA(b)との副走査方向SDの範囲の全体に亘って、印刷する。また、2パス印刷における副走査によって、印刷ヘッド252(ノズルNz)と対向する部分領域PAが下流側にシフトする。ここで、2パス印刷で行われる副走査の搬送量は、1つの部分領域PAの領域幅AWと同じである。従って、印刷ヘッド252(ノズルNz)と対向する部分領域PAと、ノズルNzと、の間の副走査方向SDの相対的な位置関係は、副走査の前後で同じである。例えば、第1部分領域PA(a)に対する第2パスP(2)のノズルNzの副走査方向SDの位置は、第2部分領域PA(b)に対する第3パスP(3)のノズルNzの副走査方向の位置と、同じである。従って、第n部分領域PA(n)の2パス印刷の最後のパスが、第n+1部分領域PA(n+1)の2パス印刷の最初のパスを、実現できる。この結果、主走査と副走査とを繰り返すことによって、印刷ヘッド252は、2つの部分領域PAの印刷を並行して行いつつ、各部分領域PAの2パス印刷を進行できる。
【0108】
(4パス印刷の一例:図9)
図9は、4パス印刷の一例を示す説明図である。図中には、図8と同様に、複数のパスP(1)〜P(12)のそれぞれにおける印刷ヘッド252(ノズルNz)の副走査方向SDの位置が示されている。図中には、上流側から下流側に向かって並ぶ4つの部分領域PA(a)〜PA(d)も示されている。図9では、第3部分領域PA(c)のパス数が「2」であり、他の部分領域PA(a)、PA(b)、PA(d)のパス数が「4」である。なお、図9の印刷例では、1回の主走査において、一部のノズルNzのみを使用する場合がある。図中では、印刷に使用されるノズルNzが黒丸で示され、印刷に使用されないノズルNzが白丸で示されている。
【0109】
パス数が4の部分領域PAは、連続する4つの主走査によって印刷される。例えば、第1部分領域PA(a)は、4回のパスP(2)〜P(5)で印刷される。図中には、第2表T2が示されている。第2表T2は、第1部分領域PA(a)中のラスタライン番号と、ラスタラインを印刷するパスとの関係を示している。図示するように、第2パスP(2)は、4、8、12番のラスタラインを印刷し、第3パスP(3)は、2、6、10番のラスタラインを印刷し、第4パスP(4)は、3、7、11番のラスタラインを印刷し、第5パスP(5)は、1、5、9、13番のラスタラインを印刷する。このように、インタレース印刷が行われるので、搬送量の誤差に起因する悪影響(画質に対する悪影響)を分散することができる。
【0110】
これらのパスP(2)〜P(5)の間に、3回の副走査が行われる。図9の例では、上述の搬送量F1〜F3の式において、第1値snが「2」であり、第2値tnが「3」である。すなわち、第2パスP(2)から第5パスP(5)までの間に、副走査の搬送量は、「2*ピッチNa」、「d/2−5*ピッチNa」、「3*ピッチNa」の順に変化する。
【0111】
第2パスP(2)と第3パスP(3)との間の搬送量は、ピッチNaの整数倍である。従って、第2パスP(2)と第3パスP(3)とは、同じラスタラインを印刷可能である。図9の印刷例では、第2パスP(2)は、1つおきのノズルNzを使用する。第3パスP(3)は、第2パスP(2)では印刷されなかったラスタラインを印刷するために、1つおきのノズルNzを使用する。このように、複数の主走査(複数のノズルNz)が共通の1本のラスタラインを印刷可能な場合に、一部の主走査はそのラスタラインを印刷せずに、残りの主走査がそのラスタラインを印刷する。このような印刷を、「相補関係印刷」とも呼ぶ。図9の印刷例のようにインタレース印刷と相補関係印刷とを組み合わせることによって、搬送量の誤差に起因する悪影響(画質に対する悪影響)を更に分散することができる。第4パスP(4)と第5パスP(5)も、同様に、相補関係印刷を行う。
【0112】
第3パスP(3)と第4パスP(4)との間の搬送量は、ピッチNaの整数倍に、ピッチNa/2を追加したものと同じである。従って、第4パスP(4)における複数のノズルNzの位置(副走査方向SDの位置)は、第3パスP(3)における複数のノズルNzの位置からピッチNa/2だけシフトした位置と、重なる。この結果、第3パスP(3)と第4パスP(4)とは、副走査方向SDの間隔LDがピッチNa/2となるような複数のラスタラインを印刷できる。すなわち、2パス印刷と4パス印刷との間で、副走査方向SDの印刷解像度は、同じである。
【0113】
また、4パス印刷における3回の副走査の搬送量の合計は、d/2であり、1つの部分領域PAの領域幅AWと同じである。すなわち、4パス印刷では、4回の主走査の間の3回の副走査の全体が、1つの部分領域PAに対応する距離の移動を実現する。従って、4パス印刷のための3回の副走査を行う毎に、印刷ヘッド252(ノズルNz)と対向する部分領域PAと、ノズルNzと、の間の副走査方向SDの相対的な位置関係を変えずに、印刷ヘッド252と対向する部分領域PAを下流側にシフトすることができる。例えば、第1部分領域PA(a)に対する第2パスP(2)のノズルNzの副走査方向SDの位置は、第2部分領域PA(b)に対する第5パスP(5)のノズルNzの副走査方向の位置と、同じである。このように、第n部分領域PA(n)の4パス印刷の最後のパスが、第n+1部分領域PA(n+1)の4パス印刷の最初のパスを、実現できる。従って、主走査と副走査とを繰り返すことによって、印刷ヘッド252は、隣接する2つの部分領域PAの印刷を並行して行いつつ、各部分領域PAの4パス印刷を進行できる。
【0114】
また、本実施例では、2パス印刷における副走査の搬送量と、4パス印刷における副走査の搬送量の合計値とが、同じである(領域幅AW)。従って、2パスの部分領域PAと4パスの部分領域PAとのうちの一方から他方へ印刷が進行する場合にも、主走査と副走査とを繰り返すことによって、2つの部分領域PAの印刷を並行して行いつつ、各部分領域PAのマルチパス印刷を進行できる。例えば、第2部分領域PA(b)の4パス印刷における最後のパス(第8パスP(8))は、第3部分領域PA(c)の2パス印刷における最初のパス(第8パスP(8))を実現する。第3部分領域PA(c)の2パスのうちの最後のパス(第9パスP(9))は、第4部分領域PA(d)の4パスのうちの最初のパス(第9パスP(9))を実現する。
【0115】
なお、第n部分領域(n)のマルチパス印刷における最初のパス(主走査)でのノズルNzの副走査方向SDの位置と、第n部分領域(n)との間の相対的な位置関係は、図7に示す初期位置における、第1部分領域PA(1)に対するノズルNzの副走査方向SDの相対的な位置と、同じである。
【0116】
第3部分領域PA(c)の印刷は、図8に示す第1部分領域P(a)の印刷と、同様に進行する。第3表T3に示すように、第8パス(8)は、偶数番のラスタラインを印刷し、第9パス(9)は、奇数番のラスタラインを印刷する。第2部分領域PA(b)の印刷と、第4部分領域PA(d)の印刷とは、第1部分領域PA(a)の印刷と同様に進行する。
【0117】
以上のように、2パス印刷と4パス印刷とのそれぞれにおいて、インタレース印刷が行われる。この結果、搬送量の誤差に起因する悪影響(画質に対する悪影響)を分散することができる。また、4パス印刷では、インタレース印刷と相補関係印刷とが組み合わされるので、搬送量の誤差に起因する悪影響(画質に対する悪影響)を更に分散することができる。また、2パス印刷における副走査の搬送量と、4パス印刷における副走査の搬送量の合計値とが、同じである(領域幅AW)。従って、パス数に拘わらずに、第n部分領域のマルチパス印刷における最後のパスと、第n+1部分領域のマルチパス印刷における最初のパスとを、共通のパスで実現できる。この結果、部分領域毎にパス数が決定される場合であっても、パス数の異なる2つの部分領域の一方から他方へ移行する領域を特別な処理で印刷する場合と比べて、高速な印刷が可能である。なお、図6の処理と図7の処理とは、並行に進行してもよい。
【0118】
B.第2実施例:
図10は、4パス印刷の別の例を示す説明図である。図9の印刷例との差異は、上述の搬送量F1〜F3の式において、第1値snが「1」であり、第2値tnが「2」である点だけである。第1部分領域PA(a)は、図9の例と同様に、第2〜第5パスP(2)〜P(5)で印刷される。第4表T4に示すように、各パスで印刷されるラスタラインは、図9の例と同じである。また、3回の副走査の搬送量「1*ピッチNa」、「d/2−3*ピッチNa」、「2*ピッチNa」の合計は、1つの部分領域PAの領域幅AWと同じである。従って、隣接する2つの部分領域を印刷する場合に、先に印刷される部分領域の最後のパスと、後に印刷される部分領域の最初のパスとを、共通のパスで実現できる。この結果、高速な印刷が可能である。第3部分領域PA(c)の印刷は、図9の印刷例と同じである。なお、第1値snと第2値tnとの組み合わせとしては、他の種々の組み合わせを採用可能である。
【0119】
C.第3実施例:
図11は、4パス印刷の別の例を示す説明図である。図9、図10の印刷例との差異は、部分領域毎に、4パス印刷の副走査の搬送量が異なっている点だけである。図11の印刷例では、第1部分領域PA(a)の4パス印刷は、図10の4パス印刷と同様に進行し、第1部分領域PA(b)の4パス印刷は、図9の4パス印刷と同様に進行する。このように、パス数が同じ複数の部分領域PAの間で、副走査の搬送量が異なっていても良い。
【0120】
D.第4実施例:
第4実施例では、マルチパス実行部M210は、図7のステップS275aを有効にしたフローチャートに従って、印刷処理を進行する。マルチパス実行部M210は、4パス印刷を行う場合に、1本のラスタラインを複数のノズルを利用して印刷する(シングリング印刷とも呼ぶ)。
【0121】
図12は、第4実施例における4パス印刷の例を示す説明図である。図9の印刷例との差異は、4パス印刷において、相補関係印刷の代わりに、シングリング印刷が行われる点だけである。図中には、シングリング印刷を行うノズルNzのグループSG1〜SG6が示されている。例えば、第1グループSG1は、第2パスP(2)のノズルと第3パスP(3)のノズルとを含み、第2グループSG2は、第4パスP(4)のノズルと第5パスP(5)のノズルとを含む。これらの2つのグループSG1、SG2のシングリング印刷が、第1部分領域PA(a)を印刷する。
【0122】
図中には、第5表T5が示されている。第5表T5は、第1部分領域PA(a)中のラスタライン番号と、ラスタラインを印刷するパス(P(2)〜P(5))との関係を示している。図示するように、第2パスP(2)と第3パス(3)とが、偶数番のラスタラインを印刷し、第4パスP(4)と第5パス(5)とが、奇数番のラスタラインを印刷する。例えば、第2パスP(2)のノズルNzが、2番のラスタラインの一部の画素位置のインクドットを形成し、第3パスP(3)のノズルNzが、2番のラスタラインの残りの画素位置のインクドットを形成する。このように、複数のノズルNzが、1本のラスタラインを印刷する。なお、複数の主走査のそれぞれの分担(画素位置の分担)を決める方法としては、種々の方法を採用可能である。例えば、乱数を用いて分担を決定してもよく、1本のラスタラインの複数の画素位置を一端から他端まで辿った場合に、複数の主走査が順番に繰り返されるように、分担を決定してもよい。
【0123】
第2部分領域PA(b)、第4部分領域PA(d)の印刷は、第1部分領域PA(a)の印刷と同じである。第3部分領域PA(c)の印刷は、図9の印刷例と同じである。
【0124】
以上のように、第4実施例では、複数の主走査(複数のノズルNz)が、共通のラスタラインを印刷する。従って、搬送量の誤差に起因する悪影響(画質に対する悪影響)を分散することができる。特に、4パス印刷では、インタレース印刷とシングリング印刷とが組み合わされるので、搬送量の誤差に起因する悪影響(画質に対する悪影響)を更に分散することができる。また、1つのノズル特性が1つのラインに集中して影響を及ぼすことを防止できるので、部分領域の画質を向上できる。
【0125】
E.第5実施例:
図13は、第5実施例における、マルチパス実行部M210(図1)によって実行される印刷処理のフローチャートである。図13の処理は、図7の処理を代替可能である。図13には、下側冗長ノズルDNの概略図が示されている。この概略図は、第n部分領域PA(n)を4パス印刷するための、4つのパスP(1)〜P(4)を示している。図示するように、4パス印刷の2番目のパスP(2)と3番目のパス(3)とのそれぞれにおいて、印刷ヘッド252の下流側の一部のノズルDNは、第n+1部分領域PA(n+1)と対向する。このように、第n部分領域PA(n)のマルチパス印刷の最初のパスと最後のパスとを除いた残りのパスにおいては、下流側の一部のノズルDNが、第n+1部分領域PA(n+1)の上流側の一部分と対向する。このように、第n+1部分領域PA(n+1)の副走査方向SDの範囲の上流側の一部分をカバーするパスにおいて、第n+1部分領域PA(n+1)と対向するノズルDNを、「下側冗長ノズルDN」と呼ぶ。図13の実施例では、マルチパス実行部M210(図1)は、副走査の搬送量を変えずに、下側冗長ノズルDNを印刷に利用する。
【0126】
最初のステップS700、S705、S710は、図7と同じである。次に、マルチパス実行部M210は、3つのステップS715、S716、S717によって、4つの分岐先の1つを選択する。
【0127】
第1の分岐先(S720)は、2パスの部分領域に続く2パスの部分領域を印刷する場合(S715:No。S716:No)の、分岐先である。この場合、マルチパス実行部M210は、図8の印刷例と同様に、対象部分領域PA(n)の2パス印刷を進行する。
【0128】
第2の分岐先(S726)は、4パスの部分領域に続く4パスの部分領域を印刷する場合(S715:Yes。S716:Yes)の分岐先である。このステップS726では、マルチパス実行部M210は、以下の2つの制御を行う。
(制御1)1つ前の対象領域PA(n−1)の4パス印刷で利用可能な下側冗長ノズルDNに応じて、対象部分領域PA(n)の4パス印刷を修正する。
(制御2)対象部分領域PA(n)の4パス印刷で利用可能な下側冗長ノズルDNを用いて、次の部分領域PA(n+1)の一部分を印刷する。
【0129】
図14は、印刷例を示す説明図である。図中には、図9と同様の4つの部分領域PA(a)〜PA(d)と、12のパスP(1)〜P(12)とが示されている。図14では、第3部分領域PA(c)のパス数が「2」であり、他の部分領域PA(a)、PA(b)、PA(d)のパス数が「4」である(図9と同じ)。搬送量の決定は、図9の実施例と同じである。
【0130】
ここで、第2部分領域PA(b)が対象部分領域であることとして、説明を行う。図14に示すように、マルチパス実行部M210は、第1部分領域PA(a)のためのパスP(3)、P(4)において、下側冗長ノズルDN1を利用して、第2部分領域PA(b)の一部分を印刷する(詳細は後述)。図中の第6表T6は、第2部分領域PA(b)中のラスタラインの番号と、ラスタラインを印刷するパスとの関係を示している。
【0131】
第1グループSG11で表される3つのパスP(3)、P(7)、P(8)のノズルNzは、3番のラスタラインを印刷可能である。第2グループSG12で表される3つのパスP(4)、P(5)、P(6)のノズルNzは、2、4、6番のラスタラインを印刷可能である。マルチパス実行部M210は、これらのグループSG11、SG12を利用して、シングリング印刷を行う。この代わりに、マルチパス実行部M210は、相補関係印刷を行ってもよい。いずれの場合も、ステップS726では、マルチパス実行部M210は、第2部分領域P(b)の複数の画素位置のうちの第1下側冗長ノズルDN1が担当した画素位置を、第2部分領域P(b)の4つのパスP(5)〜P(8)で印刷すべき画素位置から除く。
【0132】
マルチパス実行部M210は、さらに、第2部分領域PA(b)の4パス印刷における第2下側冗長ノズルDN2を利用して、第3部分領域PA(c)の一部分を印刷する。第2下側冗長ノズルDN2は、第2部分領域PA(b)のためのパスP(6)、P(7)で生じる下側冗長ノズルである。図中の第7表T7は、第3部分領域PA(c)中のラスタラインの番号と、ラスタラインを印刷するパスとの関係を示している。
【0133】
第1グループSG21で表される2つのパスP(6)、P(9)のノズルNzは、3番のラスタラインを印刷可能である。第2グループSG22で表される2つのパスP(7)、P(8)のノズルNzは、2、4、6番のラスタラインを印刷可能である。マルチパス実行部M210は、これらのグループSG21、SG22を利用して、シングリング印刷を行う。この代わりに、マルチパス実行部M210は、相補関係印刷を行ってもよい。いずれの場合も、ステップS726では、マルチパス実行部M210は、第2部分領域PA(b)のためのパスP(6)、P(7)において、第2下側冗長ノズルDN2を利用して、第3部分領域PN(c)の一部分を印刷する。
【0134】
なお、図14の第3グループSG13は、図12の第3グループSG3から、第2グループSG12のノズルNzを除いたものである。第4グループSG14は、図12の第4グループSG4から、第1グループSG11のノズルNzを除いたものである。図14の他のグループSG1、SG2、SG5、SG6は、図12の同じ符号のグループと、それぞれ、同じである。
【0135】
第3の分岐先(図13:S727)は、2パスの部分領域に続く4パスの部分領域を印刷する場合(S715:Yes。S716:No)の分岐先である。このステップS727では、マルチパス実行部M210は、以下の2つの制御を行う。
(制御1)図9の印刷例と同様に、対象部分領域PA(n)の4パス印刷を進行する。
(制御2)対象部分領域PA(n)の4パス印刷で利用可能な下側冗長ノズルDNを用いて、次の部分領域PA(n+1)の一部分を印刷する。
【0136】
「制御2」は、ステップS726で説明した「制御2」と同じである。例えば、図14のパスP(3)、P(4)における第1下側冗長ノズルDN1を利用した印刷は、ステップ726、または、ステップS272の「制御2」に従って、進行する。
【0137】
第4の分岐先(S721)は、4パスの部分領域に続く2パスの部分領域を印刷する場合(S715:No。S716:Yes)の分岐先である。このステップS721では、マルチパス実行部M210は、1つ前の対象領域PA(n−1)の4パス印刷で利用可能な下側冗長ノズルDNに応じて、対象部分領域PA(n)の2パス印刷を修正する。
【0138】
図14の第3部分領域PA(c)が対象部分領域であることとして、説明を行う。上述したように、第2部分領域PA(b)のためのパスP(6)、P(7)が、第2下側冗長ノズルDN2を利用して、第3部分領域PA(c)の一部分を印刷する。マルチパス実行部M210は、第3部分領域PA(c)の複数の画素位置のうちの第2下側冗長ノズルDN2が担当した画素位置を、第3部分領域PA(c)のためのパスP(8)、P(9)で印刷すべき画素位置から除く。
【0139】
マルチパス実行部M210は、全ての部分領域PAの印刷が完了するまで(図13:S730:Yes)、番号nに1を追加するステップS735と、印刷を行うステップS715〜S727とを繰り返す。この結果、印刷が完了する。
【0140】
このように、第5実施例では、マルチパス実行部M210は、印刷に下側冗長ノズル(例えば、図14の下側冗長ノズルDN1、DN2)を利用する。この結果、搬送量の誤差に起因する悪影響(画質に対する悪影響)を更に分散することができる。また、印刷速度を犠牲にせずに、部分領域の印刷に利用される主走査の回数を増やすことができるので、印刷速度を犠牲にせずに、画質を向上できる。
【0141】
F.第6実施例:
図15は、第6実施例における、マルチパス実行部M210(図1)によって実行される印刷処理のフローチャートである。図15の処理は、図7の処理を代替可能である。図13の実施例との差異は、図15の処理は、下側冗長ノズルDNの代わりに、上側冗長ノズルUNを利用する点である。図15には、上側冗長ノズルUNの概略図が示されている。この概略図は、第n部分領域PA(n)を4パス印刷するための、4つのパスP(1)〜P(4)を示している。図示するように、4パス印刷の2番目のパスP(2)と3番目のパス(3)とのそれぞれにおいて、印刷ヘッド252の上流側の一部のノズルUNは、第n−1部分領域PA(n−1)と対向する。このように、第n部分領域PA(n)のマルチパス印刷の最初のパスと最後のパスとを除いた残りのパスにおいては、上流側の一部のノズルUNが、第n−1部分領域PA(n−1)の下流側の一部分と対向する。このように、第n−1部分領域PA(n−1)の副走査方向SDの範囲の下流側の一部分をカバーするパスにおいて、第n−1部分領域PA(n−1)と対向するノズルUNを、「上側冗長ノズルUN」と呼ぶ。図15の実施例では、マルチパス実行部M210(図1)は、副走査の搬送量を変えずに、上側冗長ノズルUNを印刷に利用する。
【0142】
最初のステップS700、S705、S710は、図7と同じである。次に、マルチパス実行部M210は、3つのステップS715、S718、S719によって、4つの分岐先の1つを選択する。
【0143】
第1の分岐先(S720)は、2パスの部分領域の上流側に隣接する2パスの部分領域を印刷する場合(S715:No。S718:No)の分岐先である。この場合、マルチパス実行部M210は、図8の印刷例と同様に、対象部分領域PA(n)の2パス印刷を進行する。
【0144】
第2の分岐先(S728)は、4パスの部分領域の上流側に隣接する4パスの部分領域を印刷する場合(S715:Yes。S719:Yes)の分岐先である。このステップS728では、マルチパス実行部M210は、以下の2つの制御を行う。
(制御1)次の対象領域PA(n+1)の4パス印刷で利用可能な上側冗長ノズルUNに応じて、対象部分領域PA(n)の4パス印刷を修正する。
(制御2)対象部分領域PA(n)の4パス印刷で利用可能な上側冗長ノズルUNを用いて、1つ前の部分領域PA(n−1)の一部分を印刷する。
【0145】
図16は、印刷例を示す説明図である。図中には、図15と同じ4つの部分領域PA(a)〜PA(d)が示されている。また、本実施例における12個のパスP(1)〜P(12)も示されている。搬送量の決定は、図9、図15の実施例と同じである。
【0146】
第1部分領域PA(a)が対象部分領域であることとして、説明を行う。マルチパス実行部M210は、第2部分領域PA(b)のためのパスP(6)、P(7)において、上側冗長ノズルUN1を利用して、第1部分領域PA(a)の一部分を印刷する(詳細は後述)。図中の第8表T8は、第1部分領域PA(a)中のラスタラインの番号と、ラスタラインを印刷するパスとの関係を示している。
【0147】
第1グループSG31で表されるパスP(4)、P(5)、P(6)のノズルNzは、5、7、9、11、13番のラスタラインを印刷可能である。第2グループSG32で表されるパスP(2)、P(3)、P(7)のノズルNzは、8、10、12番のラスタラインを印刷可能である。マルチパス実行部M210は、これらのグループSG31、SG32を利用して、シングリング印刷を行う。この代わりに、マルチパス実行部M210は、相補関係印刷を行ってもよい。いずれの場合も、ステップS728では、マルチパス実行部M210は、第2部分領域P(b)の複数の画素位置のうちの上側冗長ノズルUN1が担当する画素位置を、第1部分領域P(a)の4つのパスP(2)〜P(5)で印刷すべき画素位置から除く。
【0148】
ステップS728の「制御2」は、後述するステップS729の「制御2」と同じである。上側冗長ノズルUN1を利用した印刷は、第2部分領域PA(b)が対象部分領域である場合に、ステップS729で行われる。詳細については、ステップS729で説明する。
【0149】
第3の分岐先(S729)は、2パスの部分領域の上流側に隣接する4パスの部分領域を印刷する場合(S715:Yes。S719:No)の分岐先である。このステップS729では、マルチパス実行部M210は、以下の2つの制御を行う。
(制御1)図9の印刷例と同様に、対象部分領域PA(n)の4パス印刷を進行する。
(制御2)対象部分領域PA(n)の4パス印刷で利用可能な上側冗長ノズルUNを用いて、1つ前の部分領域PA(n−1)の一部分を印刷する。
【0150】
図16の第2部分領域PA(b)が対象部分領域であることとして、「制御2」を説明する。マルチパス実行部M210は、第2部分領域PA(b)のためのパスP(6)、P(7)において、上側冗長ノズルUN1を利用して、第1部分領域PA(a)の一部分を印刷する。この際、マルチパス実行部M210は、シングリング印刷を前提として、印刷を行う。この代わりに、マルチパス実行部M210は、相補関係印刷を前提として、印刷を行っても良い。なお、このような「制御2」は、ステップS728でも行われる。
【0151】
第4の分岐先(S722)は、4パスの部分領域の上流側に隣接する2パスの部分領域を印刷する場合(S715:No。S718:Yes)の分岐先である。このステップS722では、マルチパス実行部M210は、次の対象領域PA(n+1)の4パス印刷で利用可能な上側冗長ノズルUNに応じて、対象部分領域PA(n)の2パス印刷を修正する。
【0152】
図16の第3部分領域PA(c)が対象部分領域であることとして、説明を行う。図中の第9表T9は、第3部分領域PA(c)中のラスタラインの番号と、ラスタラインを印刷するパスとの関係を示している。図示するように、マルチパス実行部M210は、第4部分領域PA(d)のためのパスP(10)、P(11)において、第2上側冗長ノズルUN2を利用して、第3部分領域PA(c)の一部分を印刷する。
【0153】
第1グループSG41で表される2つのパスP(8)、P(11)のノズルNzは、8、10、12番のラスタラインを印刷可能である。第2グループで表される2つのパスP(9)、P(10)のノズルNzは、5、7、9、11、13番のラスタラインを印刷可能である。マルチパス実行部M210は、これらのグループSG41、SG42を利用して、シングリング印刷を行う。この代わりに、マルチパス実行部M210は、相補関係印刷を行ってもよい。ステップS722では、マルチパス実行部M210は、第3部分領域PA(c)の複数の画素位置のうちの第2上側冗長ノズルUN2が担当すべき画素位置を、第3部分領域PA(c)のためのパスP(8)、P(9)で印刷すべき画素位置から除く。
【0154】
なお、図16の第3グループSG33は、図12の第2グループSG2から、第1グループSG31のノズルNzを除いたものである。第4グループSG34は、図12の第1グループSG1から、第2グループSG32のノズルNzを除いたものである。他のグループSG3、SG4、SG5、SG6は、図12の同じ符号のグループと、それぞれ、同じである。
【0155】
このように、第6実施例では、マルチパス実行部M210は、印刷に上側冗長ノズルUN(例えば、図16の上側冗長ノズルUN1、UN2)を利用する。この結果、搬送量の誤差に起因する悪影響(画質に対する悪影響)を更に分散することができる。また、印刷速度を犠牲にせずに、部分領域の印刷に利用される主走査の回数を増やすことができるので、印刷速度を犠牲にせずに、画質を向上できる。
【0156】
G.第7実施例:
図17は、第7実施例における印刷例を示す説明図である。第7実施例では、マルチパス実行部M210(図1)は、下側冗長ノズルDN(図13)と上側冗長ノズルUN(図15)との両方を、印刷に利用する。図17の印刷例は、図14、図16と同じ4つの部分領域PA(a)〜PA(d)を印刷する場合を示している。図17の印刷例では、図14に示す下側冗長ノズルDN1、DN2を利用した印刷と、図16に示す上側冗長ノズルUN1、UN2を利用した印刷とが、並行して行われる(図中では、上述の各実施例のノズルのグループと同じノズルグループには、同じ符号が付されている)。例えば、第10表T10は、第3部分領域PA(c)中のラスタラインの番号と、ラスタラインを印刷するパスとの関係を示している。図示するように、第2下側冗長ノズルDN2と第2上側冗長ノズルUN2との利用によって、第3部分領域PA(c)の印刷は、6つのパスP(6)〜P(11)に分散される。
【0157】
このように、上側冗長ノズルUNと下側冗長ノズルDNとの両方を利用すれば、搬送量の誤差に起因する悪影響(画質に対する悪影響)を更に分散することができる。また、印刷速度を犠牲にせずに、部分領域の印刷に利用される主走査の回数を増やすことができるので、印刷速度を犠牲にせずに、画質を向上できる。
【0158】
H.第8実施例:
第8実施例では、図1のモード選択部M230と第2許容誤差情報239とを含む複合機200が、処理を進行する。装置の他の構成は、図1に示す構成と同じである。第8実施例では、回数決定部M220は、図6のステップS618を有効にした手順に従って、パス数を決定する。処理の他の構成は、上述の任意の実施例と同じであってよい。
【0159】
本実施例では、回数決定部M220は、第1許容誤差情報238に加えて、第2許容誤差情報239を利用可能である。図4の下部には、第2許容誤差情報239の概要が示されている。上述したように、第1許容誤差情報238は、第1閾値dEth1に従って決定されている。一方、第2許容誤差情報239は、第1閾値dEth1よりも小さい第2閾値dEth2に従って決定されている。第2閾値dEth2は、例えば、1〜3の範囲の値に設定される。3つのグラフGF11、GF12、GF13からは、推定色差edEが第2閾値dEth2となる3つの搬送誤差Efa2、Efb2、Efc2が、特定される。第4グラフGF14に示すように、これら3つの搬送誤差Efa2、Efb2、Efc2と、端データPa、Pbとを利用して、第2曲線239cが特定される。図示するように、第2曲線239cに従って決まる許容誤差量Efaは、第1曲線238cに従って同じ入力階調値Viから決まる許容誤差量Efaと比べて、小さい。第2許容誤差情報239は、以上のように決定された第2曲線239cの特定に要する情報を含む。なお、第2閾値dEth2は、インクの種類(色種)に拘わらずに同じである。この代わりに、インクの種類(色種)毎に、第2閾値dEth2が設定されてもよい。この場合、第2閾値dEth2は、インクの種類(色種)に応じて、異なり得る。
【0160】
第4グラフGF14には、第2曲線239cと実誤差量aEfとに従って決まる、3つの範囲VRa2、VRb2、VRc2が示されている。第1範囲VRa2と第3範囲VRc2とは、2パス範囲を示す。第2範囲VRb1は、4パス範囲を示す。
【0161】
第2曲線239cの許容誤差量Efaは、第1曲線238cの許容誤差量Efaよりも小さい。従って、第2曲線239c(第2許容誤差情報239)を利用する場合には、第1曲線238c(第1許容誤差情報238)を利用する場合と比べて、4パス範囲が広くなる。この結果、搬送量の誤差に起因する悪影響(画質に対する悪影響)を分散し、高画質な印刷が可能となる。一方、第1曲線238cを利用する場合には、第2曲線239cを利用する場合と比べて、2パス範囲が広くなる。この結果、高速な印刷が可能となる。いずれの場合も、マルチパス実行部M210は、2つのモードの印刷を、印刷実行部250と印刷すべき画像との両方に適した主走査回数を用いて、行うことができる。
【0162】
図6のステップS618では、モード選択部M230(図1)は、第1許容誤差情報238と第2許容誤差情報239とのいずれか一方を選択する。モード選択部M230は、外部から入力された指示に従って、一方の許容誤差情報を選択する。指示は、例えば、操作部270に入力されたユーザの指示である。この代わりに、指示は、通信部290を介して外部の装置から複合機200に入力された指示であってもよい。いずれの場合も、回数決定部M220は、モード選択部M230によって選択された許容誤差情報に従って、パス数を決定する。なお、ステップS618は、ステップS620よりも前の任意のタイミングで行われてよい(例えば、ステップS600、S605の間)。
【0163】
J.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0164】
(1)上述の各実施例において、冗長ノズルを利用する場合には、回数決定部M220によって決められた回数のパスに加えて、他の部分領域のためのパスも、印刷に利用される。ここで、冗長ノズルが利用されるパスでは、印刷ヘッド252の複数のノズルは、部分領域の副走査方向SDの一部の範囲にのみ、配置される。上記各実施例では、回数決定部M220は、部分領域の副走査方向SDの範囲の全体に亘って複数のノズルが配置されるようなパスの総数を決定している、ということができる。
【0165】
(2)印刷ヘッド252の構成は、図7の構成に限らず、種々の構成であってよい。例えば、印刷ヘッドは、副走査方向SDの位置が同じ複数のノズルを含んでも良い。この場合、複数のノズルは、1回の主走査で、1本のラスタラインを印刷することが出来る。また、利用可能なインクの種類は、4種類に限らず、任意の種類であってよい。
【0166】
また、ノズルNzのピッチNaは、副走査方向SDのライン間隔LDの2倍に限らず、ライン間隔LDのJ倍(Jは2以上の整数)であってよい。1つの部分領域をインタレース印刷する場合には、J回の主走査で1つの部分領域を印刷すればよい。
【0167】
(3)上述の各実施例において、回数決定部M220によって決定されるパス数の候補としては、2と4との組み合わせに限らず、N回(Nは2以上の整数)とM回(MはNより大きな整数)との組み合わせを採用可能である。いずれの場合も、Nパス印刷とMパス印刷とのそれぞれにおいて、インタレース印刷を行うことが好ましい。さらに、Mパス印刷においては、少なくとも1本のラスタラインを、複数のノズルが印刷することが好ましい。また、Nパス印刷とMパス印刷との間で、印刷解像度が同じであることが好ましい。また、実誤差量aEfが大きいほど、代表入力階調値Virの全範囲のうちのNパス印刷の範囲(「Nパス範囲」と呼ぶ)が狭くなり、Mパス印刷の範囲(「Mパス範囲」と呼ぶ)が広くなることが好ましい。ここで、Nパス範囲とMパス範囲とは、実誤差量aEfの変化に応じて、連続的に変化してもよく、ステップ状に変化してもよい。いずれの場合も、実誤差量aEfの増大に起因して代表入力階調値Virの範囲が変化する場合には、増大前のMパス範囲は、増大後もMパス範囲に含まれ、増大前のNパス範囲の少なくとも一部が、増大後にMパス範囲に含まれることが好ましい。
【0168】
また、N回が選択された場合のNパス印刷における副走査の搬送量の合計と、M回が選択された場合のMパス印刷における副走査の搬送量の合計とが、1つの部分領域PAの領域幅AWと同じであることが好ましい。こうすれば、第n部分領域PA(n)のNパス印刷(または、Mパス印刷)の最後のパスが、第n+1部分領域PA(n+1)のNパス印刷(または、Mパス印刷)の最初のパスを、実現できる。この結果、主走査と副走査とを繰り返すことによって、印刷ヘッド252は、隣接する2つの部分領域PAの印刷を並行して行いつつ、各部分領域PAのマルチパス印刷を進行できる。
【0169】
(4)印刷処理部M200の機能を実現する装置(制御装置)は、複合機200に限らず、種々の装置であってよい。例えば、汎用のコンピュータが、印刷処理部M200の機能を実現してもよい。
【0170】
(5)上記各実施例において、入力階調値Viとしては、印刷される画像の明るさを表す種々のパラメータを採用可能である。例えば、RGBの階調値から算出される輝度値を採用してもよい。輝度値の算出方法としては、周知の種々の方法を採用可能である。また、代表入力階調値Virとしては、入力階調値Viの平均値に限らず、種々の値を採用可能である。例えば、部分領域内における入力階調値Viの最頻値を採用してもよい。また、不揮発性メモリ230は、第1許容誤差情報238の代わりに、実誤差量aEfに応じて決定された2パス範囲と4パス範囲(一般的には、Nパス範囲とMパス範囲)とを特定する情報を格納してもよい。この場合には、不揮発性メモリ230から実誤差量情報236を省略してよい。回数決定部M220は、代表入力階調値Virからパス数を決定すればよい。
【0171】
(6)上記各実施例において、代表入力階調値Virと許容誤差量Efaとの対応関係を決定する方法は、図2〜図4に示す方法に限らず、他の種々の方法であってよい。例えば、図2のステップS220においては、輝度値のヒストグラムを利用せずに、インクドットdtを表す画像のパターンマッチングによってインクドットdtを表す画素と露出部分ppを表す画素とを区別することによって、ドット被覆率CRを算出してもよい。また、図2のようなパッチPTを利用せずに、代表入力階調値Virと許容誤差量Efaとの対応関係を決定してもよい。例えば、図3で説明したシミュレーションを利用して、ドット被覆率CRの変化率(搬送誤差Efがゼロである場合を基準とする変化率)と搬送誤差Efとの対応関係を特定し、ドット被覆率CRの変化率が所定の閾値となる搬送誤差Efを、許容誤差量Efaとして採用してもよい。このような許容誤差量Efaの決定を、互いに異なる複数の入力階調値Viのそれぞれに関して、行えばよい。
【0172】
(7)上記各実施例において、回数決定部M220(図1)は、図5で説明した実誤差量aEf(より一般的には、実際に測定された搬送量から導出された誤差量)の代わりに、予め決められた値(例えば、設計目標値)を利用してもよい。また、回数決定部M220は、実誤差量aEfの代わりに、ユーザによって任意に決定された値を利用してもよい(以下、「入力誤差量」と呼ぶ)。入力誤差量が大きく設定されることは、搬送誤差が大きくても所定品質の印刷結果が得られること、すなわち、搬送精度の変動に対するロバスト性が高くなることを意味している。ユーザは、入力誤差量を大きくすることによって、安定した印刷品質を得ることができる。すなわち、ユーザは、入力誤差量を大きくすることによって、「綺麗な印刷」の実行を指示できる。また、これとは逆に入力誤差量が小さく設定されることは、搬送精度の変動に対するロバスト性は低下してしまうが、入力誤差量と実際の誤差量とに応じた画質を維持しつつ可能な限り走査パス数を減らす印刷を行うことを示している。すなわち、ユーザは、入力誤差量を小さくすることによって、「高速な印刷」の実行を指示できる。回数決定部M220は、種々の方法で、入力誤差量を選択するユーザの指示を取得してよい。例えば、回数決定部M220は、操作部270に入力されたユーザの指示に従って、入力誤差量を決定してよい。また、回数決定部M220は、「綺麗な印刷」と「高速な印刷」を対比したユーザインタフェースを用意し、「綺麗な印刷」が選択された場合には入力誤差量を大きくし、「高速な印刷」が選択された場合には入力誤差量を小さくするという変換機能を実現することによって、ユーザの入力指示に応じた入力誤差量を取得してもよい。そのようなユーザインタフェースは、例えば、表示部280に表示されてよい。
【0173】
(8)上記各実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部あるいは全部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。例えば、図1の印刷処理部M200の機能を、論理回路を有するハードウェア回路によって実現してもよい。
【0174】
また、本発明の機能の一部または全部がソフトウェアで実現される場合には、そのソフトウェア(コンピュータプログラム)は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納された形で提供することができる。「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」は、メモリーカードやCD−ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピュータ内の内部記憶装置や、ハードディスクドライブ等のコンピュータに接続されている外部記憶装置も含んでいる。
【符号の説明】
【0175】
100...コンピュータ、210...CPU、230...不揮発性メモリ、232...プログラム、236...実誤差量情報、238...第1許容誤差情報、238c...第1曲線、239...第2許容誤差情報、239c...第2曲線、240...揮発性メモリ、250...印刷実行部、252...印刷ヘッド、254...ヘッド搬送部、256...ヘッド駆動部、258...媒体搬送部、260...スキャナ部、270...操作部、280...表示部、290...通信部、M200...印刷処理部、M210...マルチパス実行部、M220...回数決定部、M230...モード選択部、MD...主走査方向、SD...副走査方向、RL...ラスタライン、PM...印刷媒体、CT...テストチャート、PT...パッチ、pp...露出部分、dt...インクドット、Nz...ノズル、PTA...印刷可能領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷実行部を制御する制御装置であって、
前記印刷実行部は、
複数のノズルを有する印刷ヘッドと、
印刷媒体に対して第1方向と平行に前記印刷ヘッドを搬送する第1搬送部と、
前記印刷ヘッドを駆動することによって、前記印刷媒体にインクドットを記録するヘッド駆動部と、
前記印刷ヘッドに対して前記第1方向と交差する第2方向に前記印刷媒体を搬送する第2搬送部と、
を含み、
前記制御装置は、
前記第1搬送部による前記印刷ヘッドの搬送中に前記印刷媒体にインクドットを記録する主走査と、前記第2搬送部による前記印刷媒体の搬送である副走査と、を組み合わせることによって、前記印刷媒体上の部分領域を複数回の前記主走査によって印刷するマルチパス実行部と、
前記副走査の搬送量の実誤差量と、前記部分領域に対応する画像領域の入力階調値を代表する代表入力階調値と、に応じて、前記部分領域の前記主走査の回数を決定する回数決定部と、
を含み、
前記回数決定部は、
前記搬送量の前記実誤差量に応じて決まる許容階調値範囲内に前記代表入力階調値が含まれる場合には、前記部分領域の前記主走査の回数をN回(Nは2以上の整数)に決定し、
前記許容階調値範囲内に前記代表入力階調値が含まれない場合には、前記部分領域の前記主走査の回数をM回(MはNより大きな整数)に決定する、
印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置であって、
前記搬送量の前記実誤差量が小さい場合と比べて、前記搬送量の前記実誤差量が大きい場合に、前記許容階調値範囲が狭くなる、
制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の制御装置であって、
前記回数決定部は、
前記代表入力階調値と、前記副走査の前記搬送量の誤差量として許容できる最大の誤差量である許容誤差量と、の間の対応関係を定める許容誤差情報を参照することによって、前記実誤差量が、前記代表入力階調値に対応する前記許容誤差量以下に収まるような前記代表入力階調値の範囲を、前記許容階調値範囲として特定する、
印刷装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の制御装置であって、さらに、
前記回数決定部の動作モードを、
第1許容階調値範囲を前記許容階調値範囲として利用することによって、前記部分領域の前記主走査の回数を決定する第1モードと、
前記第1許容階調値範囲よりも狭い第2許容階調値範囲を前記許容階調値範囲として利用することによって、前記部分領域の前記主走査の回数を決定する第2モードと、
を含む複数のモードから選択するモード選択部を含む、
印刷装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の制御装置であって、
前記マルチパス実行部は、
前記M回の主走査で前記部分領域を印刷する場合に、
第1主走査で複数本のラスタラインを印刷し、
前記第1主走査で印刷される2本のラスタラインであって隣接する2本のラスタラインの間に、前記第1主走査よりも後の第2主走査で別のラスタラインを印刷し、
少なくとも1本のラスタラインを、複数個のノズルを利用して印刷する、
制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の制御装置であって、
前記マルチパス実行部は、
前記部分領域における前記主走査の回数が、前記M回に決定された場合に、
当該M回の主走査により、当該部分領域と、当該部分領域と隣接する隣接部分領域のうちの一部分と、の印刷を行う、
制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の制御装置であって、
前記マルチパス実行部は、
前記隣接部分領域における前記主走査の回数が前記N回に決定された場合に、
前記部分領域の印刷のための前記M回の主走査において、前記複数のノズルのうちの前記隣接部分領域と対向するノズルを利用して、前記隣接部分領域の一部分の印刷を行う、
制御装置。
【請求項8】
複数のノズルを有する印刷ヘッドを印刷媒体に対して第1方向と平行に搬送しつつ前記印刷媒体にインクドットを記録する主走査と、前記印刷ヘッドに対して前記第1方向と交差する第2方向に前記印刷媒体を搬送する副走査と、を組み合わせることによって、前記印刷媒体上の部分領域を複数回の前記主走査によって印刷する場合に、前記部分領域の印刷を完成するための前記主走査の回数を決定する方法であって、
前記副走査の搬送量の実誤差量を取得し、
前記副走査の前記搬送量の誤差量として許容できる最大の誤差量である許容誤差量と、前記部分領域に対応する画像領域の入力階調値を代表する代表入力階調値と、の対応関係を取得し、
前記実誤差量が、前記代表入力階調値に対応する前記許容誤差量以下である場合には、前記部分領域の前記主走査の回数をN回(Nは2以上の整数)に決定し、
前記実誤差量が、前記代表入力階調値に対応する前記許容誤差量を超える場合には、前記部分領域の前記主走査の回数をM回(MはNより大きな整数)に決定する、
方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、
前記許容誤差量と前記代表入力階調値との対応関係の取得は、
互いに異なる入力階調値の画像データを用いて複数のパッチを印刷媒体に印刷することと、
前記複数のパッチのそれぞれに関して、前記パッチ中におけるインクドットに覆われた部分の面積の割合であるドット被覆率と、前記パッチの測色値と、の間の対応関係である第1対応関係を特定することと、
1つの入力階調値についての第2対応関係であって、前記副走査の前記搬送量の前記誤差量と、前記ドット被覆率と、の間の対応関係である前記第2対応関係を、互いに異なる複数個の入力階調値のそれぞれについて特定することと、
前記第1対応関係と前記第2対応関係とを組み合わせることによって、前記搬送量の前記誤差量と前記測色値との対応関係である第3対応関係を、互いに異なる複数個の入力階調値のそれぞれについて特定することと、
前記第3対応関係を利用することによって、互いに異なる複数個の前記入力階調値のそれぞれについて前記許容誤差量を特定することであって、前記搬送量の前記誤差量がゼロの場合の測色値と、前記搬送量の前記誤差量がゼロより大きい場合の測色値と、の間の色差が基準値となる前記誤差量を、前記入力階調値における前記許容誤差量として特定することと、
を含む、方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、
前記第1対応関係の特定は、
印刷された前記パッチを光学的に読み取ることによって画像データを生成することと、
前記画像データの画素の階調値の分布において、前記印刷媒体を表す階調値のピークと、前記インクドットを表す階調値のピークと、の間の谷に階調値閾値を設定することと、
前記階調値閾値を用いることによって、前記画像データの複数の画素を、前記インクドットを表す画素と前記印刷媒体を表す画素とに分類することと、
前記分類の結果を利用して、前記ドット被覆率を算出することと、
を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−82122(P2013−82122A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223487(P2011−223487)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】