説明

印刷システムおよび印刷方法

【課題】 連続紙への印刷途中に予備吐出、不吐ノズルの検知やノズルの回復などのメンテナンス処理を実行可能とすることを目的とする。
【解決手段】 連続して搬送される印刷媒体の少なくとも幅分配置した複数の吐出ノズルを用いて印刷する印刷装置を制御する印刷システムであって、前記印刷媒体の搬送中に前記吐出ノズルの吐出状態の調整処理を行う調整手段と、前記調整手段による調整処理が行われる場合、前記印刷媒体が搬送される搬送速度を低下させる制御を行う制御手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続紙への印刷途中にメンテナンス処理を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタでの画像の記録は、複数の吐出口(ノズル)を備えたヘッドより、インクの小滴を記録媒体上に吐出して行われる。高速印刷が可能なインクジェットプリンタとして、印刷媒体の移動方向に対し垂直な方向に、印刷媒体の幅の長さのノズル列を備えたヘッドを用いて、ヘッド列を印刷媒体が一度通過する事で印刷を完了させる、いわゆるワンパス方式が知られている。
【0003】
インクジェットプリンタは、インクのOFF/ON信号を各ノズルで切り替えて画像を形成するが、ON信号にもかかわらずインクが吐出されない場合(以下、不吐と記載)、形成される画像に筋模様が入ってしまう。また、吐出しないことによる筋模様が入らないまでも、必要な吐出量が得られず、画像の端が薄くなったりする現象が発生する。
【0004】
安定した印刷品位を持続させるためには、印刷に使用されたノズルと使用されないノズル間に生じるヘッドの温度むらを解消するため、吐出を安定させるための予備吐出を頻繁にすることが望ましい。また、例えば数百枚に一度などの割合で、吐出しなくなった不吐ノズルを検出し、不吐の原因となる気泡を除去することが望ましい。
【0005】
そこで、比較的短いヘッドで記録媒体上を複数回往復して画像を形成するシリアル型のインクジェットプリンタでは次のようなメンテナンス処理が行われる。ヘッドの移動範囲が記録媒体より大きいため、ヘッドが記録媒体を通過する前と後にインクを吐出させ、予備吐出や、不吐ノズルの検知および回復が行われる。
【0006】
なお、特許文献1には、記録媒体の移動方向に対し垂直に任意のサイズにカットされた、いわゆるカット紙の印刷であった場合のヘッドのメンテナンス方法が記載されている。具体的には、記録媒体を移動させる際の記録媒体と記録媒体の間、つまり、ヘッド直下に記録媒体が存在しないタイミングで吐出口からインク滴を吐出することで予備吐出を行うことや、不吐を検出することが記載されている。
【0007】
また、カット紙ではなく、連続紙(ロール紙)を用いた高速印刷が可能なワンパス方式のインクジェットプリンタのメンテナンス方法が特許文献2に記載されている。特許文献2には、ヘッドと平行な方向にセンサを配し、画像形成過程で使用される吐出口の吐出状態を監視し、不吐を検知してリアルタイムで補正する技術が記載されている。
【0008】
また、特許文献3には、ワンパス方式のインクジェットプリンタに、ヘッドを連続紙上から移動して退避させる機構を設け、吐出機能を回復させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−116139号公報
【特許文献2】特開2010−75813号公報
【特許文献3】特許第3828411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ワンパス方式で連続紙を用いた印刷を行う場合、シリアル方式の様にはヘッドが走査しないため、シリアル方式と同様な手法を用いて印刷品位を安定化させることはできない。また、特許文献3の様にシリアル方式に習いヘッドを記録媒体上から退避させる機構を持つ場合、印刷動作中の操作は困難であり、連続印刷可能枚数に制限が生じてしまう。特に、連続紙を用いて3000PPM(Pages/Minute)クラスの高速印刷をする場合、連続紙の紙搬送速度はおよそ毎分百数十メートルに達するため、印刷中に操作をしても搬送される紙が大量に無駄になり、現実的ではない。
一方、特許文献2に記載の方法では、不吐ノズルの検知は可能であるが、あくまで画像形成に使用されるノズルのみが検知され、全ノズルの検知は不可能であるうえ、画像形成過程では予備吐出は出来ない。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、連続紙への印刷途中に予備吐出、不吐ノズルの検知やノズルの回復などのメンテナンス処理を実行可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る印刷システムは、連続して搬送される印刷媒体の少なくとも幅分配置した複数の吐出ノズルを用いて印刷する印刷装置を制御する印刷システムであって、前記印刷媒体の搬送中に前記吐出ノズルの吐出状態の調整処理を行う調整手段と、前記調整手段による調整処理が行われる場合、前記印刷媒体が搬送される搬送速度を低下させる制御を行う制御手段と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、連続紙への印刷途中に予備吐出、不吐ノズルの検知やノズルの回復などのメンテナンス処理が実行可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係る印刷装置の構成を示す図である。
【図2】本実施形態に係る印刷制御装置の構成を示す図である。
【図3】本実施形態に係る印刷制御の処理の流れを示す図である。
【図4】本実施形態に係るノズルと温度との関係を示す図である。
【図5】本実施形態に係るメンテナンス処理の流れを示す図である。
【図6】ノズル不吐検出の例を示す図である。
【図7】本実施形態に係るモーター制御の例を示す図である。
【図8】本実施形態に係るノズルと温度との関係を示す図である。
【図9】本実施形態に係る紙搬送速度の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、同一な構成については、同じ符号を付して説明する。
【実施例1】
【0015】
本実施例の印刷システムは、印刷装置203と印刷装置203を制御する印刷制御装置202とを備える。
【0016】
(プリンタの構成)
本実施例では、連続して搬送される印刷媒体の少なくとも幅分配置した複数の吐出ノズルを用いて印刷する印刷装置203として、インクジェット方式のプリンタを例に説明する。また、インクジェットプリンタは、インクジェットプリントヘッドの下で連続紙(ロール紙)を高速に搬送させながら一回の走査(ワンスキャン)で画像を形成するワンパス方式とする。また、前記ヘッドには、プリンタの基本的な4色の色材であるC,M,Y,Kの4つのインクを接続する。なお、色材の数は上記に限らず、同色相で濃度の異なる淡インクや、色再現範囲向上のため使用されるR,G,B等の、いわゆる特色インクを接続してもよい。さらに、ヘッドは、複数の吐出ノズルをブロックとして、複数のブロックにより印刷媒体の幅分の長さのヘッドとしてもよい。
【0017】
図1に示すのは、本実施例のプリンタの構成である。図1において、記録媒体供給部101は連続紙である記録媒体を印刷のために供給する。記録媒体102は記録媒体としての連続紙である。記録媒体巻き取り部103は印刷後の記録媒体を巻き取る。記録媒体搬送部104から107は印刷前後の記録媒体を搬送する。印字部108は印刷媒体の幅分の長さのノズル列を備えたヘッドを持つ。なお、本実施例では印刷するインク(ヘッド)数に制限が無い。その場合、印字部108に複数のヘッドをヘッド列として設置してもよいし、記録媒体搬送部104〜107と印字部108を各色でセットとし、記録媒体供給部101と記録媒体巻き取り部103との間に複数配置してもよい。
【0018】
(印刷制御装置の構成)
本実施例の印刷制御装置202の構成を図2に示す。図2において、データ入力部201はプリントする画像や文字データなどを入力する。印刷制御装置202は印刷装置203を制御する。印刷装置203は図1を用いて説明したプリンタである。
【0019】
データ記憶部301は画像データ入力部201から入力されたデータを保持するメモリである。印刷データ送信部302はデータ記憶部301に蓄積されたデータを印刷装置203に送る。印刷枚数カウント部303は印刷データ送信部302から印刷装置203に送られた印刷データの数量を、例えば印刷ジョブ中のページ単位を数量としてカウントする。搬送モーター制御部304は、印刷装置203内の記録媒体を搬送するモーターを制御する。ヘッド状態解析部305は印刷装置203内の印字部108に備えられるインクジェットヘッドの不吐ノズルやノズル温度などの状態を解析する。メンテナンス判定部306はヘッドの状態や印刷枚数からメンテナンス(吐出状態の調整処理)が必要か否かを判定する。メンテナンスパラメータ記憶部307は、使用しているヘッドがメンテナンスせずに安定した吐出が出来る印刷ジョブ中のページ数や、ヘッド温度の閾値など、ヘッドのメンテナンスに関する情報を記憶する。メンテナンス時間設定部308は、メンテナンス判定部306の判定結果に基づき、予備吐出、不吐検知や不吐回復などのメンテナンス種に応じてメンテナンスに必要な時間を、メンテナンスパラメータ記憶部307を参照して設定する。メンテナンス制御部309はメンテナンス判定部306とメンテナンス時間設定部308との出力に応じてメンテナンスを制御する。メンテナンス信号送信部310は例えば予備吐出するノズルに対応する吐出命令を出す。ヘッド監視部311は印字部108に含まれるヘッドの、例えばノズルに備えられた温度センサの出力値をヘッド状態解析部305に送る。搬送モーター動作部312は、印刷装置203の記録媒体供給部101や記録媒体巻き取り部103や記録媒体搬送部104から107などに備えられた回転モーターを動作させる。なお各部は、装置全体の制御を行う1つ又は複数のCPUにより制御されてもよい。
【0020】
(印刷制御の流れ)
図3は、本実施例における、連続紙への高速印刷の印刷制御を説明する図である。
【0021】
先ずステップS301においては、データ入力部201が入力した印刷対象となる画像や文字などのデータおよび出力数を、データ記録部301に保存する。このデータ入力操作により印刷操作が開始され、後の工程に進む。
【0022】
次に、ステップS302においては、印刷開始時の印字部108の状態に応じてメンテナンスが必要かを判定する。具体的には、印刷開始時に、印字部108に備えられたインクジェットヘッドの各ノズルの温度がヘッド監視部311により読み取られ、ヘッド状態解析部305に送られる。一般的に、印刷動作をしていないノズルの温度は低くなっているため、安定して吐出するためには、全ノズルに対し予備吐出の動作を行い、安定した吐出が得られる温度までノズルの温度を上げた方がよい。また、安定して吐出可能なヘッドの温度は、ヘッドの材質や吐出方式などのパラメータによっても異なるため、このパラメータをメンテナンスパラメータ記憶部307に記憶しておき、メンテナンス判定部306が読み取り、予備吐出動作が必要か否かを判定する。ステップS302においてメンテナンスが必要と判定された場合にはステップS307に進み、必要ないと判定された場合にはステップS303に進む。
【0023】
ステップS303においては、データ記憶部301に記憶された印刷用のイメージデータを印刷データ送信部302が印字部108に送る。なお、送られたイメージデータは印字部108に備えられたインクジェットヘッドからインクを吐出するための信号として使用される。また、搬送モーター制御部304は搬送モーター動作部312に対し、搬送速度を通常印刷速度(V)に設定する指示を送り、印刷装置203は搬送モーター動作部312により搬送される記録媒体上102に印字部108により画像出力を行う。ここで出力されるイメージデータの数(印刷枚数に相当)は1であるとは限らない。つまり、2枚、10枚、100枚など任意の単位により出力すればよい。ステップS303を終えると、次にステップS304に進む。
【0024】
ステップS304においては、ステップS303において出力されたイメージデータ数が印刷枚数カウント部303によって数えられる。数えられた印刷枚数は、後の処理において、メンテナンス判定部306に送信される。
【0025】
次に、ステップS305においては、ステップS303において送信されたデータがステップS301で取得した印刷データ中の出力数に達したか否かの判定が行われる。出力数に達していない場合にはステップS306に進み、出力数に達している場合には一連の操作を終了する。
【0026】
ステップS306においては、メンテナンス判定部306が、印刷途中においてインクジェットヘッドのメンテナンスが必要かの判定を行う。ここで行われる判定は、ステップS302において行われた判定とは異なり、ヘッド状態解析部305から得られる各ノズルの温度のばらつきと、印刷枚数カウント部303から得られる連続印刷枚数とから判定される。なお、ステップS306において判定されるメンテナンスの種類として、予備吐出、不吐検知の2つが有り、各メンテナンス種の判定の詳細は以下に詳述する。
【0027】
<予備吐出の判定>
予備吐出は、ステップS302においても説明したとおり、吐出信号がONになったノズルからインクが吐出されずに起こるイメージの端が切れてしまう現象や筋の発生を抑止するものである。原因としては、それまでにインクを吐出しない、または吐出回数が少ないノズルの温度が下がり、特にインクを急速に加熱して気化させる方法においては吐出信号がONになった際にノズルの温度が上がりきらず気泡が発生しないことが挙げられる。一方で、ノズルの温度が上がりすぎた場合にも吐出が不安定、特に吐出量が増える場合がある。
【0028】
従って、ノズルの温度のむらを低減すべく、予備吐出をする際に、温度の低いノズルは積極的に使用し、温度の高いノズルは休ませることによって、ノズル温度のむらを解消する必要がある。なお、電圧の印加により機械的歪を発生する圧電素子(ピエゾ素子)を用いた方法においても素子の動作が安定しないことがあるため、同様のことが言える。
【0029】
そこで、本判定においては、印刷開始前又は印刷中にヘッド監視部311からヘッド状態解析部305に送られる各ノズルの温度を解析する事により、予備吐出の必要性を判定する。
【0030】
判定方法としては、次に挙げるような方法の何れか一つ以上を用いる。なお、図4は、ヘッド状態解析部305に送られてきた各ノズルの温度を縦軸とし、ノズル順にグラフ化した図である。Tはノズル列をなすノズル中で最も高い温度を示し、Tは最も低い温度を示す。また、Iはノズル列をなすノズル中で最も高い温度となるノズルのIDを示し、Tは最も低い温度となるノズルのIDを示す。
【0031】
<判定方法1>
がメンテナンスパラメータ記録部307に設定される任意の閾値より低い場合、吐出信号がONであっても、吐出不良を生じる可能性が高く、予備吐出を行って温度の低いノズルから温度を上げる必要がある。従って、メンテナンス判定部306は、予備吐出が必要であると判定する。
【0032】
<判定方法2>
とTの差がメンテナンスパラメータ記録部307に設定される任意の閾値より大きい場合、温度の高低によりノズルから吐出されるインクの量が変化する可能性が高い。温度の高低が大きければ大きいほど、各ノズルから吐出されるインク量は変化し、結果として、出力画像面の濃度むらが発生することで画質が低下する。そのため、予備吐出を行って温度の低いノズルから温度を上げ、一方で温度の高いノズルを休止させることで温度の高いノズルの温度を下げ、相対的に温度のむらを低減させる必要がある。従って、メンテナンス判定部306は、予備吐出が必要であると判定する。
【0033】
<判定方法3>
とIの距離がメンテナンスパラメータ記録部307に設定される任意の閾値より大きかった場合、ノズル間の温度のむらは画像の濃度むらを発生させ、かつ、濃い印字となるノズルと淡い印字となるノズルとの距離が近いほど目立つ。つまり、IとIの距離とは印刷画像の距離に相当するため、IとIとの距離が近いほど濃度むらが目立つため、上記と同様に予備吐出を行う必要がある。従って、メンテナンス判定部306は、上記距離が所定値より短い場合、予備吐出が必要であると判定する。
【0034】
以上のように、本判定方法では、ノズルと温度との関係に基づきメンテナンス処理が必要か否かを判定する。なお、図4では、1列のノズルアレイの例を示したが、多列のノズルアレイの場合であってもよく、その場合は、温度とノズルとの関係を3次元で生成する。
【0035】
<不吐検知の判定>
不吐検知が必要か否かの判定は、印刷枚数カウント部303でカウントされた既出力の印刷枚数が、メンテナンスパラメータ記録部307に設定される任意の閾値より大きいか否かにより行われ、閾値より大きい場合に不吐検出が実施される。
【0036】
まず、ステップS306において、メンテナンスが必要ないと判断された場合には、ステップS303のイメージデータ出力フローに戻るが、メンテナンスが必要と判断された場合にはステップS307に進む。
【0037】
ステップS307においては、インクジェットヘッドのメンテナンス処理が実行される。図5に示すのは、ステップS307において実行されるメンテナンス処理の詳細なフローである。以下、図5に示すフローに従い説明を続ける。
【0038】
先ず、ステップS501においては、ステップS306において、不吐検知が必要と判断されたか否かを判定し、必要と判断されていた場合にはS502に進み、必要無いと判断されていた場合には、ステップS508に進む。
【0039】
ステップS502においては、不吐検知を実行する。ここで行われる不吐検知とは公知の技術を用いて実装されるがその簡単な実装方法について図6を用いて説明する。図6において、インクジェットヘッド601は印字部108に備えられる。光源602は不吐検知に用いるための光源であり、センサ603は光源602の光を受光する。図6に示す例のように、インクジェットヘッド601からインクドットが吐出されると、光源602からセンサ603に到達する光を遮るため、インクドットが吐出されているのが分かる。そのため、インクジェットヘッド601に備えられる各ノズルから順にインクドットの吐出とセンサ603によるセンシングを繰り返すことにより、ノズルの不吐の検知と同時にどのノズルが不吐であるかが分かる。
【0040】
なお、ここでは説明のため図6で表現可能な1列のノズルアレイを備えるインクジェットヘッドの例を示したが、ノズルアレイが多列の場合であってもよい。その場合、光源とセンサとを各列に備える構成にすればよい。また、各ノズル1度の吐出機会であった場合、ノズルの温度低下による吐出不良である場合があるため、吐出不良と判断されたノズルは複数回の検知を試みることが望ましい。その場合、処理時間のかかるヘッド回復動作の回数を不用意に増やさないことが望ましい。ステップS502における不吐検知の結果は後の処理のためステップS503の工程に送られる。
【0041】
次に、ステップS503においては、ステップS502で実行された不吐検知によりノズル回復が必要か否かの判定を行う。不吐が検知され、ノズル回復が必要である場合にはステップS504に進み、ノズル回復が必要でない場合にはステップS508に進む。
【0042】
ステップS504においては、後に行われるノズルの回復操作に必要な時間を設定する。具体的には、ノズルの回復動作においてノズル中の気泡の除去などを行う処理に必要な時間があらかじめメンテナンスパラメータ記録部307に格納されており、該時間がメンテナンス時間設定部308により呼び出される。ステップS504を終えると次にステップS505に進む。
【0043】
ステップS505においては、ステップS504において設定された時間に応じて、搬送モーター制御部304に送信するためのモーター制御信号を発生させる。具体的なモーター制御信号について、図7(a)を用いて説明する。図7のグラフは、横軸が時間であり、縦軸が記録媒体の搬送速度を示す。同図において、S504で設定された、時間軸上に区切られたメンテナンス時間(TMSからTMEまでの間)において、紙の搬送速度が、通常印刷時の速度(V)より遅いメンテナンス実行時速度(V)に制御されている。この様に、メンテナンスを行っている時間の搬送速度が印刷時に比し低く設定されるようにすることで、メンテナンス実行時に通常印刷時の速度で消費されてしまう記録媒体の量を削減することが可能である。また、例えば図7(b)に示すように、図7(a)に示すメンテナンス時の速度(V)に決定する必要はなく、メンテナンス実行時に通常印刷時に比し遅い速度で制御できればよい。すなわち、通常印刷時の速度から次第に遅くなり、所定の速度になった後、メンテナンス処理が終了するのに応じて次第に通常の印刷時の速度に戻るよう制御してもよい。なお、ここでメンテナンス時間とは、TMSからTMEまでの間を指し、メンテナンス終了時には通常印刷時の速度(V)で紙が搬送されているため、メンテナンス終了直後から印刷処理が再開される。
【0044】
次に、ステップS506において、ノズルの回復が行われる。ここで行われるノズルの回復とは、例えば、ノズル列にキャップを密着させ、吸引機構を用いて内部の気泡を取り除く等の周知の手法を用いて行う。ここで、吸引に必要な時間やキャップやワイプ等のメンテナンス処理に必要な時間は実装される機器構成に依存して異なるため、あらかじめ必要な時間をメンテナンスパラメータ記録部307に格納しておく。
【0045】
ステップS507においては、印刷枚数カウント部303によりカウントされている印刷枚数を0にリセットする。
【0046】
次に、ステップS501またはステップS503において、不吐検知またはノズル回復が必要でないと判断された時に進むステップS508について説明する。
【0047】
ステップS508においては、ステップS306において予備吐出が必要か否かの判定を行う。ステップS306において参照されたヘッドの温度に関するグラフを参照することで効率的な判定を行う。図8に示す、横軸に平行な破線はインクジェットヘッドが安定して動く温度またはその許容範囲であり、あらかじめメンテナンスパラメータ記録部307に格納してある。ヘッドの温度がこの範囲内であれば予備吐出が不要であり、範囲以下であれば予備吐出が必要である。予備吐出が必要な場合にはステップS509に進み、必要でない場合にはメンテナンス実行の操作を終了する。
【0048】
ステップS509においては、予備吐出用のデータが生成される。ここでの予備吐出用のデータ生成においては、特に図中に示される温度が最も低いノズルから優先し、インクジェットヘッドが安定して動く温度とその下限値の間で任意に決定される温度より低い温度の全てのノズルに対して予備吐出データが作成される。また、予備吐出データのドット数については、特に図示はしないが吐出回数とノズルの蓄熱量の関係をあらかじめ調べてメンテナンスパラメータ記録部307に格納しておき、参照することにより得ることが可能である。得られたデータ信号は、後にメンテナンス信号送信部310から印字部108に送る。
【0049】
次に、ステップS510においては、予備吐出に必要な時間が設定される。具体的には、最も予備吐出に時間のかかる蓄熱が必要な温度最小ノズル用の予備吐出データ印字が印字部108により印刷されるのに要する時間が算出され、設定される。さらに、ステップS306において判定方法2(TとTの差がメンテナンスパラメータ記録部307に設定される任意の閾値より大きかった場合)が使用された場合、放熱すべきノズルの放熱(休止)時間をさらに設定する。具体的には、全ノズル中で最も温度の高いノズルが、インクジェットヘッドが最も安定して動く温度とその上限値の間で任意に決定される温度になるまでの必要時間を算出し、設定する。ここで、休止時間については、特に図示はしないが、時間とノズルの放熱量との関係をあらかじめ調べてメンテナンスパラメータ記録部307に格納しておき、該関係を参照することにより算出することが可能である。また、判定方法3(IとIの距離がメンテナンスパラメータ記録部307に設定される任意の閾値より大きかった場合)についても休止時間が算出される。その上で、実際にドットを吐出するに要する時間と放熱に必要な時間のうち、より大きい方が予備吐出時間に設定される。
【0050】
ステップS511においては、ステップS505と同様に、予備吐出の時間は、図7Aまたは図7Bに示すように印刷速度より低い速度でモーターが制御されるよう信号を発生する。
【0051】
予備吐出が必要な場合は、ステップS512において予備吐出が実行される。ここで行われる予備吐出は、ステップS509で生成されたドットのON/OFF信号に基づいて行われる。また、ステップS510において休止時間の方が長いと判断された場合には、予備吐出時間が来るまですべての動作を休止する。
【0052】
以上の処理で、ステップS307の処理を終了する。
【0053】
また、本発明は、上述した実施例の機能(例えば、上記の各部の処理を各工程に対応させたフローチャートにより示される処理)を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記憶媒体を、システム或いは装置に供給することによっても実現できる。この場合、そのシステム或いは装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が、コンピュータが読み取り可能に記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出し実行することにより、上述した実施例の機能を実現する。
【実施例2】
【0054】
実施例1においては、メンテナンスモードに入るか否かの信号を元に紙の搬送速度を調整する手法について説明したが、本発明はそれに限るものではない。高速印字可能なプリンタにおいては、印刷画像毎に制御される印刷ジョブの切り替わりや、印刷終了後紙が停止するまでの調整時間が存在する。すなわち、印刷媒体の搬送中に本来の印刷時の搬送速度ではない速度のとき(速度調整時)にメンテナンス処理を行うことができる。
【0055】
速度調整時のメンテナンスについて、図9を用いて説明する。図9(a)は、印刷ジョブの切り替わり時に、印刷速度がVP1からVP2に調整される。ここで、VP1からVP2に調整するための時間が存在するため、該時間の発生毎にステップS506、ステップS512で実行されるメンテナンスと同じ処理がなされる。ここで実行されるメンテナンスについては、前述と同様の処理のため、詳述はしない。ステップS506の実行後は、印刷枚数カウント部303がステップS507における連続印刷枚数をリセットする。また、図9(b)に示すのは、印刷終了後に紙搬送速度がVからVように、停止するまでの時間をメンテナンスに使用する例を示している。このようにすれば、本来の印刷時のメンテナンス時間の軽減を行うことが可能となる。
【0056】
なお、上記実施例では、印刷装置と印刷装置を制御する印刷制御装置とを分けて説明したが、印刷制御装置の機能を印刷装置が実行する印刷システムとしてもよい。
【0057】
また、上記実施例では、ステップS302とステップS306とでメンテナンス処理の内容を異ならせたが、印刷底度の確保を優先させるため、まとめて1つのメンテナンス処理として行ってもよく、どちらか一方のみを行ってもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続して搬送される印刷媒体の少なくとも幅分に渡って配置した複数の吐出ノズルを用いて印刷する印刷装置を制御する印刷システムであって、
前記印刷媒体の搬送中に前記吐出ノズルの吐出状態の調整処理を行う調整手段と、
前記調整手段による調整処理が行われる場合、前記印刷媒体が搬送される搬送速度を低下させる制御を行う制御手段と、
を有することを特徴とする印刷システム。
【請求項2】
前記調整処理は、予備吐出処理および前記吐出ノズルの不吐検知処理のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の印刷システム。
【請求項3】
前記搬送速度とは、前記調整処理時には通常印刷に比し低い搬送速度に設定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の印刷システム。
【請求項4】
前記調整手段は、印刷開始時の前記複数の吐出ノズルの温度に応じて前記調整処理が必要かを判定する判定手段を更に有することを更に特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の印刷システム。
【請求項5】
前記調整手段は、前記複数の吐出ノズルのうち、前記判定手段により温度が低いと判定されたノズルから温度を上げる調整処理を行うことを特徴とする請求項4に記載の印刷システム。
【請求項6】
前記調整手段は、前記複数の吐出ノズルのうち、前記判定手段により温度が高いと判定されたノズルの吐出を休止する調整処理を行うことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の印刷システム。
【請求項7】
前記判定手段は、前記複数の吐出ノズルのうち、前記判定手段により温度が高いと判定されたノズルと低いと判定されたノズルとの距離が所定値より短い場合、前記調整処理が必要と判定することを特徴とする請求項4乃至請求項6の何れか一項に記載の印刷システム。
【請求項8】
前記調整手段は、前記印刷媒体に対する印刷ジョブの数に応じて前記調整処理が必要かを判定する判定手段を更に有することを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか一項に記載の印刷システム。
【請求項9】
連続して搬送される印刷媒体の少なくとも幅分配置した複数の吐出ノズルを用いて印刷する印刷装置を制御する印刷方法であって、
調整手段が、前記印刷媒体の搬送中に前記吐出ノズルの吐出状態の調整処理を行う調整工程と、
制御手段が、前記調整工程による調整処理が行われる場合、前記印刷媒体が搬送される搬送速度を低下させる制御を行う制御工程と、
を有することを特徴とする印刷方法。
【請求項10】
コンピュータを、請求項1乃至請求項8の何れか一項に記載された印刷システムの各手段として機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−111812(P2013−111812A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258788(P2011−258788)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】