説明

印刷ロールと水無し印刷装置

【課題】水無し印刷装置における版面のシリコン皮膜が疵付いたり剥脱することがなく、ヒッキー除去やゴースト解消に有効な印刷ロールを得る。
【解決手段】金属軸材にJIS−Aゴム硬度30度以下の硬質樹脂下層とJIS−Aゴム硬度35度以上の軟質樹脂上層11を順次積層した積層構造を成し、その軟質樹脂上層に、繊度33dtex以下の繊維片12が1〜15質量%練り込まれてロール周面13に露出している印刷ロールの繊維片のロール周面からの突出長hを100μm以下に、好ましくは、繊維片の横断面の最大寸法d以下にする。軟質樹脂上層には導電性物質を配合し、印刷ロールの表面電気抵抗値を103 Ω〜109 Ωにするとよい。導電性物質は、硬質樹脂下層、硬質樹脂下層と金属軸材の間に介在する接着剤、金属軸材と軸受の間に介在する潤滑油剤にも配合し、水無し印刷装置の版面での静電気の発生を防止するとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置の版面のヒッキー(版面付着ゴミ)やゴースト(インキ膜厚のバラツキによる印刷画像の濃淡斑)等の印刷不良を回避する機能を有する印刷ロールに関するものである。
更に詳しく述べると、本発明は、版胴ベースに積層された親油性レジスト層にシリコン皮膜を部分的に積層して非画線部とし、シリコン皮膜が積層されることなく親油性レジスト層が露出している部分を画線部とした版胴の版面に、その版面を加湿することなく、インキ供給源から互いにコロガリ接触するインキ練ロールと媒介ロールとインキ着ロールを経由してインキ膜を転送し、その版面からブランケット胴にインキ膜を転送する水無し印刷装置の版面のヒッキー(版面付着ゴミ)やゴースト(インキ膜厚のバラツキによる印刷画像の濃淡斑)等の印刷不良を回避する機能を有する印刷ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
版面を加湿しつつインキ膜を版面に転送するオフセット印刷装置におけるヒッキーやゴースト等の印刷不良を回避する手段として、インキ練ロールやインキ着ロールを軸芯方向に揺動すること(例えば、特許文献1、2参照)、或いは、繊維が表面に突出したロールをインキ練ロールやインキ着ロールに使用すること(例えば、特許文献3参照)が公知である。
インキ着ロールを軸芯方向に揺動する場合、複数本のインキ着ロールが版胴の回転方向に並べられて版面にコロガリ接触させ、その複数本の各インキ着ロールにコロガリ接触している媒介ロールを軸芯方向に揺動し、版胴の回転方向に並べられた複数本のインキ着ロールの中の最後にインキ膜を版胴に転送するインキ着ロールを除く他のインキ着ロールの周面を軸芯方向に揺動自在にすることは公知である(例えば、特許文献4、5参照)。
繊維が表面に突出したロールとして、金属軸材にJIS−Aゴム硬度15〜40度の硬質樹脂下層とJIS−Aゴム硬度30〜70度の軟質樹脂上層を順次積層した積層構造を成し、その軟質樹脂上層に繊度1〜10デニール、繊維長1〜6mmの繊維片を1〜15質量%練り込んだロールが公知である(例えば、特許文献6参照)。
【特許文献1】特公平4−832号特許公報(特開昭62−32051)
【特許文献2】特公平8−2629号特許公報(特開昭63−13747)
【特許文献3】特開昭57−117959号公開特許公報
【特許文献4】特公平8−2642号公特許報(特開昭63−227343)
【特許文献5】特許第2519504号特許公報(特開平1−258952)
【特許文献6】特許第2720315号特許公報(特開平8−90948)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
オフセット印刷装置の版面は、微細な綱点が刻設されていてインキが付着し易い画線部と、綱点が刻設されておらず表面が平滑でインキが付着し難い非画線部とによって構成されており、軸芯方向に揺動するインキ着ロールに擦られても疵つくことはない。
しかし、水無し印刷装置の版面は、アルミシートやプラスチックシート、紙等の版胴ベースの上に親油性レジストを積層し、その親油性レジスト層の上に感光重合(架橋)性皮膜とシリコン皮膜と写真ポジフィルムを積層して光を照射し、その写真ポジフィルムの透光部に重なる感光重合(架橋)性皮膜に顕現する接着力によってシリコン皮膜と親油性レジスト層を接着する一方、写真ポジフィルムの隠蔽部に重なる感光重合(架橋)性皮膜を未反応の状態にしてシリコン皮膜と親油性レジスト層を剥離可能な状態にし、写真ポジフィルムを剥離して現れるシリコン皮膜に外力を作用させて剥離可能な状態にあるシリコン皮膜を剥離して露出する親油性レジスト層の一部を画線部とし、感光重合(架橋)性皮膜に顕現する接着力によって剥離することなく残されたシリコン皮膜に被覆されている親油性レジスト層の残りの部分を非画線部として構成される。
【0004】
水無し印刷装置の版面の画線部と非画線部は、オフセット印刷装置の版面の綱点の凹凸の有無によって画定された画線部と非画線部とは異なり、親油性レジストの下層の上に形成されたシリコン皮膜の有無によって画定されるので、その非画線部を構成するシリコン皮膜を厚くする必要はなく、そのシリコン皮膜は、平滑な基材の表面に形成される水膜と同程度に薄いものであってもよく、その膜厚は概して2μm前後になっている。
そのように、水無し印刷装置の版面の非画線部は、親油性レジストの下層の上に形成された薄いシリコン皮膜によって構成されているので、掻き疵が付き易く、剥落し易い。
このため、水無し印刷装置には、オフセット印刷装置に使用されている繊維の突出したロールや、周面が軸芯方向に揺動可能な揺動ロールを適用することは出来ない。
【0005】
オフセット印刷装置では版面が常に加湿状態にあるので静電気が発生しないが、水無し印刷装置では稼働中に版面に水が供給されないので静電気が発生し易い。
このため、水無し印刷装置に発生する静電気によってヒッキーが版面やインキ着ロール、インキ練ロール、媒介ロール等に付着し易く、その付着したヒッキーによって版面の非画線部のシリコン皮膜に掻き疵が付き易くなり、又、その静電気によって版面の非画線部のシリコン皮膜がインキ着ロールに吸着して剥落し易い。
【0006】
そこで本発明は、水無し印刷装置における版面のシリコン皮膜が疵付いたり剥脱することがなく、ヒッキー除去やゴースト解消に有効な印刷ロールを得ること、又、稼働中に静電気が発生せず、ヒッキーやゴースト等の印刷不良を発生しない水無し印刷装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る印刷ロールは、(イ) 金属軸材にJIS−Aゴム硬度30度以下の硬質樹脂下層とJIS−Aゴム硬度35度以上の軟質樹脂上層11を順次積層した積層構造を成し、(ロ) その軟質樹脂上層11に、繊度33dtex以下の繊維片12が、1〜15質量%練り込まれてロール周面13に露出しており、(ハ) その繊維片12のロール周面13からの突出長hが100μm以下であることを第1の特徴とする。
【0008】
本発明に係るロールの第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、(ニ) 繊維片12のロール周面13からの突出長hが、その繊維片12の横断面の最大寸法d以下である点にある。
【0009】
本発明に係るロールの第3の特徴は、上記第1と第2の何れかの特徴に加えて、(ホ) 軟質樹脂上層11のISO1853に規定される電気抵抗測定法による試験方法において測定される表面電気抵抗値が103 Ω〜109 Ωである点にある。
【0010】
本発明に係る水無し印刷装置は、(ト) 複数本のインキ着ロール19A・19B・19C・19Dが版胴14の回転方向に並べられて版面15にコロガリ接触しており、(チ) それら複数本のインキ着ロール19A・19B・19C・19Dが、上記第1と第2と第3の何れかの特徴を具備していることを第1の特徴とする。
【0011】
本発明に係る水無し印刷装置の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、(リ) インキ着ロール19の硬質樹脂下層と金属軸材の間に接着剤が介在し、その接着剤と硬質樹脂下層と軟質樹脂上層に各々導電性物質が配合されており、(ヌ) その金属軸材が印刷装置の金属フレームに取り付けられた軸受に軸支されており、その軸受と金属軸材の間に導電性物質を配合した潤滑油剤(グリス)が介在している点にある。
【0012】
本発明に係る水無し印刷装置の第3の特徴は、上記第1と第2の何れかの特徴に加えて、(ル) 複数本のインキ着ロール19A・19B・19C・19Dにコロガリ接触している媒介ロール18が、その周面を軸芯の長さ方向に揺動する揺動装置を具備し、(オ) 版胴14の回転方向に並べられた複数本のインキ着ロール19A・19B・19C・19Dの中の最後にインキ膜を版面15に転送する最後のインキ着ロール19Dを除くインキ着ロール19A・19B・19Cの周面が、それらの軸芯の長さ方向に揺動自在になっている点にある。
【0013】
本発明に係る水無し印刷装置の第4の特徴は、上記第1と第2と第3の何れかの特徴に加えて、(ワ) 媒介ロール18にコロガリ接触してインキ膜を転送するインキ練ロール17の周面がJIS−Aゴム硬度が60度以下の樹脂によって構成されており、その樹脂のJIS−B−0031(B−6019)に規定される研磨表面の表面粗さRzが10〜50μm、表面最大粗さRmaxが100μm以下である点にある。
【0014】
本発明に係る水無し印刷装置の第5の特徴は、上記第1と第2と第3と第4の何れかの特徴に加えて、(カ) 媒介ロール18にコロガリ接触してインキ膜を転送するインキ練ロール17の周面がJIS−Aゴム硬度が60度以下の樹脂によって構成されており、その周面を構成する樹脂のISO1853に規定される電気抵抗測定法による試験方法において測定される表面電気抵抗値が103 Ω〜109 Ωである点にある。
【0015】
本発明に係る水無し印刷装置の第6の特徴は、上記第5の特徴に加えて、(ヨ) 媒介ロール18の周面を構成する樹脂と金属軸材の間に接着剤が介在し、その周面を構成する樹脂と接着剤に各々導電性物質が配合されており、(タ) その金属軸材が印刷装置の金属フレームに取り付けられた軸受に軸支されており、その軸受と金属軸材の間に導電性物質を配合した潤滑油剤(グリス)が介在している点にある。
【0016】
本発明に係る水無し印刷装置の第7の特徴は、上記第3と第4と第5と第6の何れかの特徴に加えて、(レ) 周面が揺動自在なインキ着ロール19A・19B・19Cの金属軸材の端部にカラーが取り付けられており、その揺動自在な周面とカラーの間にスペースが設けられており、そのスペースによって周面の揺動自在となる揺動距離範囲が規制されている点にある。
【0017】
本発明に係る水無し印刷装置の第8の特徴は、上記第3と第4と第5と第6と第7の何れかの特徴に加えて、(ソ) 版面15に最後にインキ膜を転送する非揺動自在のインキ着ロール19Dの周面を構成する樹脂のJIS−B−0031(B−6019)に規定される研磨表面の表面粗さRzが10μm以上、表面最大粗さRmaxが100μm以下であり、(ツ) そのインキ着ロール19Dにインキ膜を転送する媒介ロール18が、銅製スリープに金属製ロール母体を挿入して成る銅被覆ロールである点にある。
【発明の効果】
【0018】
従来技術(特許文献6)における繊維が表面に露出したロール(図1)は、繊維片が混在する軟質樹脂上層の表面を切削加工して仕上げられており、繊維片を保持する軟質樹脂上層の主材である母体樹脂と繊維との強度の差によって、カッターの刃先が作用するとき、母体樹脂に比して硬く剪断し難い繊維片が刃先によって母体樹脂内部へと押し着けられ、相対的に隆起する母体樹脂が削り取られ、そのとき長く露出することになる繊維片の先端部分が引き千切られるように刃先に剪断され、その結果、繊維片が毛羽21となってロール周面13から突出し、ザラザラした手触りを感じさせるものとなる。
その突出長hは、100μm以上であり、突出長hが500μmを超える毛羽21も見受けられるが、概して200〜300μmになっている。
ロール周面を顕微鏡写真によって拡大して見ると、繊維片の中には、中間部分が弓形になってロール周面に露出し、両端が軟質樹脂上層11に食い込んで輪奈状の毛羽となっているものも見受けられる。
【0019】
この従来技術(特許文献6)による印刷ロールをインキ着ロールとして水無し印刷装置に適用して生じる不具合は、第1に、その輪奈状の毛羽を成す繊維片が、版面の画線部に縁取られた非画線部の表面を構成しているシリコン皮膜に引っ掛かるように触れ合い、第2には、繊維片の太さ(d)比して毛羽21が遥かに長く、従って、繊維片とシリコン皮膜との接触面積が繊維片の断面積に比して遥かに大きく、又、バインダー(粘着剤)のように印刷インキが粘性を帯びているので、非画線部の表面を構成しているシリコン皮膜に毛羽21から強い剥離応力が作用し、第3には、水無し印刷装置では版面15に水が供給されないので静電気が発生し易く、その静電気によってインキ着ロールからシリコン皮膜へと剥離応力が作用することに起因するとの知見を得た。
【0020】
本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであり、本発明では、それらの点を考慮して、繊維片12のロール周面13からの突出長hを、100μm以下に、又、繊維片12の横断面の最大寸法d以下にしている(図2)。
そのように、ロール周面13に露出する繊維片12の先端部分を、その露出箇所に繊維片12の横断面に応じた大きさの凹部(窪み)が出来る程度に削除することとしたので、繊維片12は、その露出した繊維片12の横断面においてのみ非画線部のシリコン皮膜に触れ合うこととなり、繊維片12からシリコン皮膜に剥離応力が格別作用することにはならなくなる。
【0021】
本発明では、又、軟質樹脂上層11の表面電気抵抗値を103 Ω〜109 Ωにすると共に、インキ着ロール19の硬質樹脂下層、硬質樹脂下層と金属軸材の間の接着剤、並びに、軸受と金属軸材の間の潤滑油剤のそれぞれに導電性物質を配合し、更には、媒介ロール18にコロガリ接触するインキ練ロール17の表面電気抵抗値を103 Ω〜109 Ωにすると共に、インキ練ロール17の硬質樹脂下層、硬質樹脂下層と金属軸材の間の接着剤、並びに、軸受と金属軸材の間の潤滑油剤のそれぞれに導電性物質を配合したので、版面15に水が供給されない水無し印刷装置であっても静電気が発生せず、従って、静電気によってヒッキーが付着し易くなることがなく、又、静電気に起因する剥離応力がインキ着ロール19から非画線部のシリコン皮膜に作用することもなくなる。
【0022】
一方、繊維片12のロール周面13からの突出長hが100μm以下で繊維片12の横断面の最大寸法d以下であり、繊維片12の露出部分がロール周面に凹部を形成する程度に深く削除されていても(図2)、インキ着ロール19と版面15がコロガリ接触するとき、インキ着ロール19の軟質樹脂上層11がJIS−Aゴム硬度35度以上の軟質母体樹脂に成るので、髭が突出しているかの如き感触を与える髭剃跡のように、ロール周面13が版面15に押し下げられ、繊維片12の削除された凹部(窪み)から母体樹脂に比して硬い繊維片の先端部22が、相対的に高さ(t)100μm前後の突起のように母体樹脂から突き出されるので(図3)、従来技術(特許文献6)におけると同様に、凹部(窪み)に露出する繊維片がヒッキー除去やゴースト解消の機能を営むことになる。
【0023】
本発明によると、繊維の露出した印刷ロールを水無し印刷装置のインキ着ロールに適用しても、版面の非画線部の表面を構成しているシリコン皮膜が疵付いたり剥脱することがなく、水無し印刷装置のインキ着ロール19に繊維の露出した印刷ロールに適用すると共に、インキ着ロール19の周面を軸芯の長さ方向に揺動自在にし、媒介ロール18の周面を軸芯の長さ方向に揺動し、従来技術(特許文献1〜5)における場合と同様に、ヒッキーを除去やゴーストを解消することが可能になる。
【0024】
そして本発明では、前記の通り、インキ着ロール19やインキ練ロール17の軟質樹脂上層11の表面電気抵抗値を103 Ω〜109 Ωにすると共に、それらのロールの硬質樹脂下層、硬質樹脂下層と金属軸材の間の接着剤、並びに、軸受と金属軸材の間の潤滑油剤のそれぞれに導電性物質を配合したので、媒介ロール18を銅被覆ロールとし、インキ着ロール19やインキ練ロール17の表面粗さRzを10〜50μmにしても静電気の発生が抑えられ、又、そのようにロール周面を調製することによって、ロール周面にインキが保持され易く、インキ練ロール17と媒介ロール18の間、媒介ロール18とインキ着ロール19の間でインキが良く練られてチキソトロピーが高まり、ロール周面でのインキ膜厚が均一に揃い、インキ膜が平滑でゴーストの発生がなく、又、版面の非画線部と画線部の間でインキ膜の切れが良く、版面の画線部の輪郭に沿って忠実にインキ着ロール19から版面15にインキ膜が転写されて印刷画像が先鋭・鮮明になり、版面の非画線部のシリコン皮膜がインキ膜を介してインキ着ロール19に吸着し剥脱する危険も回避され、最後に版面に接するインキ着ロール19Dによるヒッキー除去効果も高まる。
【0025】
本発明では、周面が揺動自在なインキ着ロール19A・19B・19Cの金属軸材の端部にカラーを取り付け、その揺動自在な周面とカラーの間にスペースを設け、そのスペースによって周面の揺動自在となる揺動距離範囲を規制しているので、そのスペースの許容範囲においてカラーを移動し、インキ着ロール19A・19B・19Cの周面の揺動距離を調整することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
インキ練ロールとインキ着ロールには、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリロニトリルイソプレンゴム、水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム、塩化ビニル樹脂、ウレタンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、エピクロルヒドリンゴム等が使用される。
インキ着ロールの軟質樹脂上層に配合する繊維片には、ナイロン、アクリル、ポリエステル繊維、セルロース繊維(木綿を含む)が使用される。
繊維片の長さは1〜6mmであればよい。
【0027】
ロール周面13に繊維片12の露出している箇所が、その繊維片12の太さに相応する大きさの凹部を形成するようにするには、母体樹脂や繊維のガラス転位温度に近い低温冷却状態でロール周面(13)を切削加工を行い、或いは、切削加工後のロール周面(13)に砥粒を付与しつつ研磨し、或いは又、母体樹脂に対して非溶解性を示す繊維溶解剤を常温での切削加工後のロール周面(13)に付与して毛羽(21)となって露出している繊維片12の先端部分を溶解除去すればよい。
繊維溶解剤は繊維片12の繊維素材の種類によって異なるが、ナイロンに対してはパラトルエンスルホン酸や炭酸グアニジン、アクリル繊維に対してはエチレンカーボネートやポリプロピレンカーボネート、ポリエステル繊維に対しては多価アルコールエチレンオキシド付加物、炭酸グアニジン、トリクロル酢酸ナトリウム、塩化カルボン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリその他のアルカリ性化合物、セルロース繊維に対してはセルラーゼ(セルロース分解酵素)、塩化アルミニウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸アンモニウム、硫酸その他の酸性化合物が使用される。
繊維溶解剤は、カルボキシルメチルセルロースナトリウム塩、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム塩、澱粉、グアーガム、ブリテッシュガム、エマルジョン樹脂、ベントナイト等の増粘剤で粘度を調整してロール周面(13)に塗着することが出来る。
【0028】
インキ練ロールやインキ着ロールの表面電気抵抗値を軽減する導電性物質としては、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カルシウム等のイオン性無機質物質、オクタデシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム等のアルコール変性脂肪酸塩、過塩素酸塩、ハロゲン塩、スルホン酸塩などの第四級アンモニウムであるカチオン系界面活性剤、高級アルコールエチレンオキサイド、高級アルコール硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステル等の非イオン系界面活性剤、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチンブラック、カーボンナノチューブ、アルミニウム、パラジウム、鉄、銅等の金属微粉末、酸化チタン、酸化亜鉛等の導電性金属化合物等が使用される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】従来技術に係る印刷ロールの軟質樹脂上層の断面図である。
【図2】本発明に係る印刷ロールの軟質樹脂上層の断面図である。
【図3】本発明に係る印刷ロールの軟質樹脂上層の断面図である。
【図4】水無し印刷装置の断面図である。
【符号の説明】
【0030】
11:軟質樹脂上層
12:繊維片
13:ロール周面
14:版胴
15:版面
16:インキ供給源
17:インキ練ロール
18:媒介ロール
19:インキ着ロール
20:ブランケット胴
21:毛羽
22:先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ) 金属軸材にJIS−Aゴム硬度30度以下の硬質樹脂下層とJIS−Aゴム硬度35度以上の軟質樹脂上層(11)を順次積層した積層構造を成し、
(ロ) その軟質樹脂上層(11)に、繊度33dtex以下の繊維片(12)が、1〜15質量%練り込まれてロール周面(13)に露出しており、
(ハ) その繊維片(12)のロール周面(13)からの突出長hが100μm以下である印刷ロール。
【請求項2】
(ニ) 繊維片(12)のロール周面(13)からの突出長hが、その繊維片(12)の横断面の最大寸法d以下である前掲請求項1に記載の印刷ロール。
【請求項3】
(ホ) 軟質樹脂上層(11)のISO1853に規定される電気抵抗測定法による試験方法において測定される表面電気抵抗値が103 Ω〜109 Ωである前掲請求項1と2の何れかに記載の印刷ロール。
【請求項4】
(ヘ) 版胴ベースに積層された親油性レジスト層にシリコン皮膜を部分的に積層して非画線部とし、シリコン皮膜が積層されることなく親油性レジスト層が露出している部分を画線部とした版胴(14)の版面(15)に、その版面(15)を加湿することなく、インキ供給源(16)から互いにコロガリ接触するインキ練ロール(17)と媒介ロール(18)とインキ着ロール(19)を経由してインキ膜を転送し、その版面(15)からブランケット胴(20)にインキ膜を転送する水無し印刷装置であり、
(ト) 複数本のインキ着ロール(19A・19B・19C・19D)が版胴(14)の回転方向に並べられて版面(15)にコロガリ接触しており、
(チ) それら複数本のインキ着ロール(19A・19B・19C・19D)が、前掲請求項1と2と3の何れかに記載の印刷ロールである水無し印刷装置。
【請求項5】
(リ) インキ着ロール(19)の硬質樹脂下層と金属軸材の間に接着剤が介在し、その接着剤と硬質樹脂下層と軟質樹脂上層に各々導電性物質が配合されており、
(ヌ) その金属軸材が印刷装置の金属フレームに取り付けられた軸受に軸支されており、その軸受と金属軸材の間に導電性物質を配合した潤滑油剤(グリス)が介在している前掲請求項4に記載の水無し印刷装置。
【請求項6】
(ル) 複数本のインキ着ロール(19A・19B・19C・19D)にコロガリ接触している媒介ロール(18)が、その周面を軸芯の長さ方向に揺動する揺動装置を具備し、
(オ) 版胴(14)の回転方向に並べられた複数本のインキ着ロール(19A・19B・19C・19D)の中の最後にインキ膜を版面(15)に転送する最後のインキ着ロール(19D)を除くインキ着ロール(19A・19B・19C)の周面が、それらの軸芯の長さ方向に揺動自在になっている前掲請求項4と5の何れかに記載の水無し印刷装置。
【請求項7】
(ワ) 媒介ロール(18)にコロガリ接触してインキ膜を転送するインキ練ロール(17)の周面がJIS−Aゴム硬度が60度以下の樹脂によって構成されており、その樹脂のJIS−B−0031(B−6019)に規定される研磨表面の表面粗さRzが10〜50μm、表面最大粗さRmaxが100μm以下である前掲請求項4と5と6の何れかに記載の水無し印刷装置。
【請求項8】
(カ) 媒介ロール(18)にコロガリ接触してインキ膜を転送するインキ練ロール(17)の周面がJIS−Aゴム硬度が60度以下の樹脂によって構成されており、その周面を構成する樹脂のISO1853に規定される電気抵抗測定法による試験方法において測定される表面電気抵抗値が103 Ω〜109 Ωである前掲請求項4と5と6と7の何れかに記載の水無し印刷装置。
【請求項9】
(ヨ) 媒介ロール(18)の周面を構成する樹脂と金属軸材の間に接着剤が介在し、その周面を構成する樹脂と接着剤に各々導電性物質が配合されており、
(タ) その金属軸材が印刷装置の金属フレームに取り付けられた軸受に軸支されており、その軸受と金属軸材の間に導電性物質を配合した潤滑油剤(グリス)が介在している前掲請求項8に記載の水無し印刷装置。
【請求項10】
(レ) 周面が揺動自在なインキ着ロール(19A・19B・19C)の金属軸材の端部にカラーが取り付けられており、その揺動自在な周面とカラーの間にスペースが設けられており、そのスペースによって周面の揺動自在となる揺動距離範囲が規制されている前掲請求項6と7と8と9の何れかに記載の水無し印刷装置。
【請求項11】
(ソ) 版面(15)に最後にインキ膜を転送する非揺動自在のインキ着ロール(19D)の周面を構成する樹脂のJIS−B−0031(B−6019)に規定される研磨表面の表面粗さRzが10μm以上、表面最大粗さRmaxが100μm以下であり、
(ツ) そのインキ着ロール(19D)にインキ膜を転送する媒介ロール(18)が、銅製スリープに金属製ロール母体を挿入して成る銅被覆ロールである前掲請求項6と7と8と9と10の何れかに記載の水無し印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−69362(P2007−69362A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−255859(P2005−255859)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(000109495)テクノロール株式会社 (9)
【Fターム(参考)】