説明

印刷物

【課題】優れた金属光沢を有するとともに、印刷媒体への定着性に優れた画像が形成された印刷物を提供すること。
【解決手段】本発明の印刷物は、印刷媒体上に、銀粒子を含むインクを印刷したものであって、XPS測定による表面Ag濃度が29質量%以上93質量%以下であることを特徴とする。XPS測定による表面Ag濃度をXAg[質量%]、XPS測定による表面C濃度をX[質量%]としたとき、0.03≦X/(XAg+X)≦0.60の関係を満足するのが好ましい。また、銀粒子の平均粒径が3nm以上100nm以下であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の印刷に用いられるインクとしては、一般に、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックのインクを用いて、いわゆるフルカラー画像を形成することが一般に行われている。そして、形成画像の高画質化を図る目的で、インクを多色化(例えば、上記4種のインクに加えて、ライトマゼンタ、ライトシアンのインクを含む6色)が行われている。
【0003】
一方、雑誌表紙、年賀状、グリーティングカード等を対象とした商業印刷分野では、アルミニウム箔に代表される金属箔を、型でメディア上に転写する、いわゆる箔押し印刷と、通常のカラー印刷を併用することで、印刷物の意匠性および高付加価値化の向上が図られてきた。しかし、上記箔押印刷に近い印刷物をインクジェット法で再現しようとした場合、メディアの光沢感を利用した擬似的な金属光沢感は得られるものの、バルク金属(金属箔)の様な強い金属光沢は表現できないという問題があった。
【0004】
そこで、近年、金属粒子を用いたインクジェット用インク(金属インク)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、特許文献1で提案されているインクでは、金属材料が本来有している金属光沢、つまり箔押し印刷と同等な金属光沢を実現することができなかった。
また、金属光沢を高める目的で、バインダー樹脂の添加量低減を検討したが、金属材料による印刷部の印刷媒体への密着性が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−297423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、優れた金属光沢を有するとともに、印刷媒体への定着性に優れた画像が形成された印刷物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の印刷物は、印刷媒体上に、銀粒子を含むインクを印刷した印刷物であって、
前記インクを用いて形成された印刷部におけるXPS測定による表面Ag濃度が29質量%以上93質量%以下であることを特徴とする。
これにより、優れた金属光沢を有するとともに、印刷媒体への定着性に優れた画像が形成された印刷物を提供することができる。
【0008】
本発明の印刷物では、前記インクを用いて形成された印刷部におけるXPS測定による表面C濃度が2質量%以上43質量%以下であることが好ましい。
これにより、画像の金属光沢感を特に優れたものとすることができる。
本発明の印刷物では、前記インクを用いて形成された印刷部における、XPS測定による表面Ag濃度をXAg[質量%]、XPS測定による表面C濃度をX[質量%]としたとき、0.03≦X/(XAg+X)≦0.60の関係を満足することが好ましい。
これにより、画像の金属光沢感を特に優れたものとすることができるとともに、画像の印刷媒体への定着性(耐擦性)を特に優れたものとすることができる。
【0009】
本発明の印刷物では、前記銀粒子の平均粒径が3nm以上100nm以下であることが好ましい。
これにより、画像の金属光沢感を特に優れたものとすることができるとともに、画像の印刷媒体への定着性(耐擦性)を特に優れたものとすることができる。
本発明の印刷物では、前記インクは、インクジェット法により、前記印刷媒体上に付与されるものであることが好ましい。
これにより、印刷物が微細な印刷パターンを有するものであっても、所望のパターンを確実に得ることができる。
【0010】
本発明の印刷物では、前記インクとしてα、β−アルカンジオール(α、βは炭素数を超えない任意の整数)を含むものを用いて製造されたものであることが好ましい。
これにより、画像の金属光沢感を特に優れたものとすることができるとともに、画像の印刷媒体への定着性(耐擦性)を特に優れたものとすることができる。
本発明の印刷物では、前記インクとしてトリメチロールプロパンを含むものを用いて製造されたものであることが好ましい。
これにより、画像の金属光沢感をさらに優れたものとすることができるとともに、画像の印刷媒体への定着性(耐擦性)をさらに優れたものとすることができる。また、インクの吐出安定性をさらに優れたものとすることができるため、インクジェット法による印刷物の製造にさらに好適に適用することができる。
【0011】
本発明の印刷物では、前記銀粒子は、ポリビニルピロリドンによって被覆されたものであることが好ましい。
これにより、画像の金属光沢感を特に優れたものとすることができるとともに、画像の印刷媒体への定着性(耐擦性)を特に優れたものとすることができる。さらに、優れた分散安定性を有する銀粒子を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】インクジェット装置の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
《印刷物》
インクジェット方式の印刷に用いられるインクとしては、一般に、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックのインクを用いて、いわゆるフルカラー画像を形成することが一般に行われている。そして、形成画像の高画質化を図る目的で、インクを多色化(例えば、上記4種のインクに加えて、ライトマゼンタ、ライトシアンのインクを含む6色)が行われている。
【0014】
しかし、上記のような多色のインクを用いても、金属光沢を表現できないという問題がある。そこで、近年、金属粒子を用いたインクジェット用インク(金属インク)が提案されている。しかし、従来においては、金属材料が本来有している金属光沢を十分に発揮させることができなかった。
また、他の製造方法を用いることにより、金属光沢を高める目的で他の製造方法を用いた場合、金属材料による印刷部の印刷媒体への密着性が低下するという問題があった。
【0015】
そこで、本発明者は、上記問題を解決する目的で、印刷物における金属の表面状態に着目し、鋭意研究を行った結果、本発明に至った。すなわち、本発明の印刷物は、印刷媒体上に、銀粒子を含むインクを印刷したものであって、前記インクを用いて形成された印刷部におけるXPS測定による表面Ag濃度が29質量%以上93質量%以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明において、金属材料として銀を用いることとしたのは、各種金属材料の中でも、銀はそれ自体が優れた金属光沢を有しているためである。
また、本発明では、銀粒子を含むインクを用いて形成された印刷部におけるXPS測定による表面Ag濃度が29質量%以上93質量%以下であるが、XPS測定による表面Ag濃度が前記下限値未満であると、印刷物の光沢感が顕著に低下する。一方、XPS測定による表面Ag濃度が前記上限値を超えると、画像の印刷媒体への定着性(耐擦性)が顕著に低下する。
【0017】
XPS測定(X線光電子分光法による測定)は、例えば、X線光電子分光器ESCA−5700(アルバックファイ社製)、PHI−5800ci(アルバックファイ社製)、ESCA−1000(島津製作所社製)等を用いて行なうことができる。
XPS測定による表面Ag濃度は、印刷媒体への単位面積当たりのインクの付与量、インクの組成(Ag粒子の粒径・調製方法・含有率、添加物の種類・含有率、分散媒の組成等)、印刷媒体の種類等により調整することができる。
【0018】
上記のように、本発明において、銀粒子を含むインクを用いて形成された印刷部におけるXPS測定による表面Ag濃度は、29質量%以上93質量%以下であればよいが、36質量%以上93質量%以下であるのが好ましく、48質量%以上93質量%以下であるのがより好ましく、68質量%以上80質量%以下であるのがさらに好ましい。これにより、上述したような効果がより顕著に発揮される。
【0019】
インクを用いて形成された印刷部におけるXPS測定による表面C濃度は、2質量%以上43質量%以下であるのが好ましく、2質量%以上32質量%以下であるのがより好ましく、11質量%以上20質量%以下であるのがさらに好ましい。これにより、形成される画像の金属光沢感を特に優れたものとすることができる。また、下限値以下の場合は光輝性顔料によって形成された画像の耐擦性が維持できなくなってしまうおそれがある。
【0020】
本発明の印刷物は、銀粒子を含むインクを用いて形成された印刷部における、XPS測定による表面Ag濃度をXAg[質量%]、XPS測定による表面C濃度をX[質量%]としたとき、0.03≦X/(XAg+X)≦0.60の関係を満足するのが好ましく、0.03≦X/(XAg+X)≦0.40の関係を満足するのがより好ましく、0.12≦X/(XAg+X)≦0.25の関係を満足するのがさらに好ましい。このような関係を満足することにより、画像の金属光沢感を特に優れたものとすることができるとともに、画像の印刷媒体への定着性(耐擦性)を特に優れたものとすることができる。
本発明の印刷物の製造に好適に用いることのできるインクおよび印刷媒体について、以下に詳述する。
【0021】
(インク)
上述したように、本発明の印刷物の製造に用いられるインクは、銀粒子を含むものである。このように、インクが、銀粒子を含むものであることにより、優れた金属光沢を有する画像を形成することができる。また、銀は、各種金属の中で、可視光の反射率が最も高く、かつ白色度の高い金属であるため、他色のインクと重ね合わせることにより、金色、銅色等の様々な金属色(カラーメタリック)を表現することができる。カラーメタリックを好ましく表現するためには、金属光沢を発する銀の印刷媒体上の状態が重要である。つまり、他色のインクを重ねる場合には、銀単独の領域に対してより高い金属光沢が必要となる。その場合、XPS測定により表層の銀濃度が45質量%以上93質量%以下、好ましくは68質量%以上92質量%以下であると、印刷媒体に他色の領域を形成した場合でも好ましいカラーメタリック色を表現可能になる。
インクは、いかなる方法で印刷媒体に付与されるものであってもよいが、インクジェット法により付与されるものであるのが好ましい。これにより、印刷物が微細な印刷パターンを有するものであっても、所望のパターンを確実に得ることができる。
【0022】
以下の説明では、インクをインクジェット法により印刷媒体に付与する場合について中心的に説明する。
銀粒子の平均粒径は、3nm以上100nm以下であるのが好ましく、20nm以上65nm以下であるのがより好ましい。粒径が3nm以下では、可視光の透過・吸収が顕著になり、100nm以上では、インク中の銀粒子の沈降が顕著となる。銀粒子の平均粒径を前記範囲に設定することで、効率良く可視光を反射する銀層がインクを用いて形成できるため、画像の光沢感(高級感)および印刷媒体への定着性(耐擦性)を特に優れたものとすることができる。また、インクジェット方式によるインクの吐出安定性(着弾位置精度、吐出量の安定性等)を特に優れたものとすることができ、長期間にわたって所望の画質の画像をより確実に形成することができる。なお、本明細書では、「平均粒径」とは、特に断りのない限り、体積基準の平均粒径のことを指すものとする。
【0023】
また、銀粒子の粒径加積曲線における粒径d90は、50nm以上150以下であるのが好ましい。これにより、インクを用いて形成する銀層の高い表面平坦性が得られるため、結果として画像の光沢感(高級感)および印刷媒体への定着性(耐擦性)を特に優れたものとすることができる。また、インクジェット方式によるインクの吐出安定性(着弾位置精度、吐出量の安定性等)を特に優れたものとすることができ、長期間にわたって所望の画質の画像をより確実に形成することができる。
【0024】
また、銀粒子の粒径加積曲線における粒径d10は、2nm以上20nm以下であるのが好ましい。これにより、金属反射に寄与しない小粒径銀粒子の比率を下げることが出来る。さらに、インクを用いて形成される画像の光沢感(高級感)および印刷媒体への定着性(耐擦性)を特に優れたものとすることができる。また、インクジェット方式によるインクの吐出安定性(着弾位置精度、吐出量の安定性等)を特に優れたものとすることができ、長期間にわたって所望の画質の画像をより確実に形成することができる。
【0025】
インク中における銀粒子の含有率は、3.0質量%以上18質量%以下であるのが好ましく、3.5質量%以上15質量%以下であるのがより好ましい。これにより、インクを用いて形成される画像の金属光沢感を特に優れたものとすることができるとともに、画像の印刷媒体への定着性(耐擦性)を特に優れたものとすることができる。また、インクのインクジェット方式による吐出安定性、インクの保存安定性を特に優れたものとすることができる。また、印刷物とされたときの印刷媒体上での銀粒子の密度(単位面積当たりの含有量)が低い場合から高い場合まで、広い密度の範囲で、良好な画質、耐擦性を実現することができる。このため、例えば、インクを用いて得られる印刷物が、銀粒子の密度が異なる領域を有する場合であっても、印刷物の画質を優れたものとすることができる。
【0026】
銀粒子は、いかなる方法で調製されたものであってもよく、例えば、銀イオンおよび分散剤として機能する有機物を含む溶液を用意し、この銀イオンを還元することにより、好適に形成することができる。
特に、銀粒子は、ポリビニルピロリドンとエチレングリコールとを含むPVP溶液に、エチレングリコールと硝酸銀とを含む硝酸銀溶液を添加し、加熱反応させることにより調製されたものであるのが好ましい。これにより、画像の金属光沢感を特に優れたものとすることができるとともに、画像の印刷媒体への定着性(耐擦性)を特に優れたものとすることができる。また、インクの吐出安定性を特に優れたものとすることができるため、インクジェット法による印刷物の製造により好適に適用することができる。
上記のようにして銀粒子を調製する場合、前記加熱温度は、60℃以上200℃以下であるのが好ましく、70℃以上170℃以下であるのがより好ましい。これにより、上述したような効果がより顕著に発揮される。
【0027】
本発明の印刷物の製造に用いられるインクは、水を50質量%以上含有する、いわゆる水系インクであっても、水を50質量%未満の範囲で含有する非水系インクであってもよい。水系インクは、非水系(溶剤系)インクに比べて、記録ヘッドに用いられているピエゾ素子等や、印刷媒体に含まれる有機バインダー等への反応性が弱く、溶かしてしまう、腐食するといった不具合が少なく、結果として、印刷物の光沢度を確実に優れたものとする上で有利である。また、非水系(溶剤系)インクでは、用いた溶剤が高沸点・低粘度であると、乾燥時間が非常にかかるという問題も生ずる。さらに、溶剤系インクに比べて水系インクは臭いも非常に抑えられており、半分以上が水であるので環境にも良いという利点がある。なお、水としては、イオン交換水、逆浸透水、蒸留水、超純水等が挙げられる。
【0028】
インク中において、水は、主に銀粒子を分散させる分散媒として機能する。インクが水を含むことにより、銀粒子の分散安定性等を優れたものとすることができ、また、後述するような液滴吐出装置のノズル付近でのインクの不本意な乾燥(分散媒の蒸発)を防止しつつ、インクが付与される印刷媒体上での乾燥を速やかに行うことができるため、所望の画像の高速印刷を、長期間にわたって好適に行うことができる。
インク中における水の含有率は、特に限定されないが、20質量%以上95質量%以下であるのが好ましく、50質量%以上90質量%以下であるのがより好ましい。
【0029】
本発明の印刷物の製造に用いられるインクは、銀粒子を分散させる有機分散剤を含むものであるのが好ましい。これにより、インクのインクジェット方式による吐出安定性、インクの保存安定性を特に優れたものとすることができる。
本発明の印刷物の製造に用いられる銀粒子は、分散剤としてのポリビニルピロリドンで被覆されているものが好ましい。これにより、画像の金属光沢感を特に優れたものとすることができるとともに、画像の印刷媒体への定着性(耐擦性)を特に優れたものとすることができる。
【0030】
本発明の印刷物の製造に用いられるインクは、α,β−アルカンジオール(α、βは炭素数を超えない任意の整数)を含むものをであるのが好ましい。これにより、幅広いメディアに対し、インクの良好な濡れ性、溶媒の浸透性が確保できるため、画像の金属光沢感を特に優れたものとすることができるとともに、画像の印刷媒体への定着性(耐擦性)を特に優れたものとすることができる。
【0031】
インクがα,β−アルカンジオールを含むものである場合、インク中におけるα,β−アルカンジオールの含有率は、0.5質量%以上10質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下であるのがより好ましい。これにより、画像の金属光沢感をさらに優れたものとすることができるとともに、画像の印刷媒体への定着性(耐擦性)をさらに優れたものとすることができる。
【0032】
α,β−アルカンジオールとしては、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−へキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール等が挙げられる。好ましい例としては、1,2−ヘキサンジオール、1,6−へキサンジオールが挙げられる。
【0033】
本発明の印刷物の製造に用いられるインクは、常温で固体の保湿剤を含むものであるのが好ましい。これにより、画像の金属光沢感を特に優れたものとすることができるとともに、画像の印刷媒体への定着性(耐擦性)を特に優れたものとすることができる。また、インクの吐出安定性を特に優れたものとすることができるため、インクジェット法による印刷物の製造により好適に適用することができる。
【0034】
本発明の印刷物の製造に用いられるインクは、常温で固体の保湿剤としてトリメチロールプロパンを含むものであるのが好ましい。これにより、画像の金属光沢感をさらに優れたものとすることができるとともに、画像の印刷媒体への定着性(耐擦性)をさらに優れたものとすることができる。また、インクの吐出安定性をさらに優れたものとすることができるため、インクジェット法による印刷物の製造にさらに好適に適用することができる。
【0035】
インクが常温で固体の保湿剤を含むものである場合、インク中における当該保湿剤の含有率は、20質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下18質量%以下であるのがより好ましい。これにより、画像の金属光沢感をさらに優れたものとすることができるとともに、画像の印刷媒体への定着性(耐擦性)をさらに優れたものとすることができる。また、インクの吐出安定性をさらに優れたものとすることができるため、インクジェット法による印刷物の製造にさらに好適に適用することができる。これに対し、上記範囲の下限を下回ると低粘度になりすぎてしまい、吐出ヘッドのメニスカスが不安定となり連続印刷が困難となってしまったり、ミストが多量に発生しノズルプレートに悪影響を与えてしまう等の問題が発生しやすくなる。また、上記範囲の上限を超えると、粘度が高くなり溶媒と一緒に受容層中へ保湿剤が浸透せず、印刷物の表面に保湿剤が残留し金属光沢の劣化を伴ってしまう等の問題が発生しやすくなる。
【0036】
本発明の印刷物の製造に用いられるインクは、トリエタノールアミンを含むものであるのが好ましい。これにより、インクを弱アルカリにたもつことができ、銀コロイドの分散がより安定する。その結果、インクの保存安定性が向上すると共に、凝集体の発生が低減でき、印刷物表面の凹凸を防止し、光が散乱による金属光沢の低下を防止出来る。
また、画像の金属光沢感を特に優れたものとすることができるとともに、画像の印刷媒体への定着性(耐擦性)を特に優れたものとすることができる。
【0037】
インクがトリエタノールアミンを含むものである場合、インク中におけるトリエタノールアミンの含有率は、0.1質量%以上2.0質量%以下であるのが好ましく、0.3質量%以下1.5質量%以下であるのがより好ましい。これにより、画像の金属光沢感をさらに優れたものとすることができるとともに、画像の印刷媒体への定着性(耐擦性)をさらに優れたものとすることができる。
【0038】
本発明の印刷物の製造に用いられるインクは、上記以外の成分(その他の成分)を含むものであってもよい。
このような成分としては、例えば、ヘキシレングリコール、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のアルコール類、アセチレングリコール系界面活性剤(日信化学工業株式会社製オルフィン(R)E1010、Air Products and Chemicals Inc.製サーフィノール(R)104PG等)、ポリシロキサン系界面活性剤等の界面活性剤(フッ素系等他の種類のノニオン系界面活性剤及びアニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等のその他の界面活性剤を添加してもよい)、水酸化カリウム水溶液等のpH調整剤、浸透剤、有機バインダー、尿素系化合物等の乾燥抑制剤、アセチレングリコール系化合物等の表面張力調整剤、チオ尿素、シリコーン系ワックス等のワックス、防腐剤、ヘッド防錆剤、増粘剤等が挙げられる。
【0039】
インクが上記以外の固形分(以下「その他の固形分」ともいう)を含む場合、インク中におけるその他の固形分の含有率は、5質量%以下であるのが好ましく、1質量%以下であるのがより好ましい。
インク中における固形分の含有率は、50質量%以下であるのが好ましく、3.6質量%以上40質量%以下であるのがより好ましく、12質量%以上27質量%以下であるのがさらに好ましい。これにより、インクの吐出安定性を特に優れたものとすることができる。
【0040】
また、インクの粘度(振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された25℃における粘度)は、特に限定されないが、2.0mPa・s以上12.0mPa・s以下であることが好ましく、3.0mPa・s以上8.0mPa・s以下であることがより好ましい。これにより、液滴の吐出安定性を優れたものとすることができるとともに、印刷媒体に着弾したインクの不本意な濡れ広がりをより確実に防止することができ、微細な画像であっても好適に形成することができる。
【0041】
(印刷媒体)
インクが付与される印刷媒体としては、普通紙、インク受理層等を有する専用紙等の紙のほか、例えば、インクが付与される表面を含む領域が、各種プラスチック、セラミックス、ガラス、金属や、これらの複合材料で構成された基材等が挙げられる。
《印刷物の製造方法》
次に、上述したような本発明の印刷物の製造方法の好適な実施形態について説明する。
図1は、インクジェット装置(液滴吐出装置)の概略構成を示す斜視図である。
本実施形態の印刷物の製造方法は、図1に示すようなインクジェット装置(液滴吐出装置)を用いて、上述したようなインクを印刷媒体に向けて吐出する工程(液滴吐出工程)を有する。
【0042】
(吐出工程)
以下に、液滴吐出装置としてのインクジェット式プリンター1を用いた液滴吐出について説明する。
図1に示すように、液滴吐出装置としてのインクジェット式プリンター1は、フレーム2を有している。フレーム2には、プラテン3が設けられ、プラテン3上には、紙送りモーター4の駆動により印刷媒体Pが給送されるようになっている。また、フレーム2には、プラテン3の長手方向と平行に、棒状のガイド部材5が設けられている。
【0043】
ガイド部材5には、キャリッジ6がガイド部材5の軸線方向に往復移動可能に支持されている。キャリッジ6は、フレーム2内に設けられたタイミングベルト7を介して、キャリッジモーター8に連結されている。そして、キャリッジ6は、キャリッジモーター8の駆動により、ガイド部材5に沿って往復移動されるようになっている。
キャリッジ6には、液滴吐出ヘッド9が設けられるとともに、液滴吐出ヘッド9に液体としてのインクを供給するためのインクカートリッジ10が着脱可能に配置されている。インクカートリッジ10内のインクは、液滴吐出ヘッド9に備えられた図示しない圧電素子の駆動により、インクカートリッジ10から印刷ヘッド9へと供給され、液滴吐出ヘッド9のノズル形成面に形成された複数のノズルから、プラテン3上に給送された印刷媒体(基材)Pに対して吐出されるようになっている。
これにより印刷物を製造することが可能となる。
【0044】
(加熱工程)
印刷物の製造方法においては、上述した吐出工程に加え、インクが付与された印刷媒体を過熱する加熱工程を設けてもよい。
加熱工程を設けることにより、印刷媒体Sが保水性の高いものである場合や、インクが揮発性の低い液体成分を比較的高い含有率で含む場合(例えば、沸点:160℃以上の液体成分を3質量%以上含む場合等)であっても、最終的に得られる印刷物中に、インクを構成する液体成分が残存することを効果的に防止することができ、印刷物の耐久性、信頼性を、特に優れたものとすることができるとともに、揮発成分の残存による画像の光沢感の低下を確実に防止することができる。
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明は上述したものに限定されるものではない。
【0045】
例えば、前述した実施形態では、インクとして、コロイド液を用いる場合について代表的に説明したが、コロイド液でなくてもよい。
また、例えば、前述した実施形態では、液滴吐出方式としてピエゾ方式を用いたが、これに限定されず、本発明では、例えば、インクを加熱して発生した泡(バブル)によりインクを吐出させる方式など、公知の種々の技術を適用することができる。
また、前述した実施形態では、インクをインクジェット方式による吐出に用いるものとして説明したが、インクは、他の印刷法に適用するものであってもよい。
【実施例】
【0046】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[1]インクの調製
(調製例1)
ポリビニルピロリドン(重量平均分子量10000)を70℃の条件下で15時間加熱して、その後室温で冷却をした。そのポリビニルピロリドン(PVP)1000gを、エチレングリコール溶液500mlに添加してPVP溶液を調整した。別の容器にエチレングリコールを500ml入れ、硝酸銀128gを加えて電磁攪拌器で十分に攪拌をして硝酸銀溶液を調製した。PVP溶液を120℃の条件下でオーバーヘッドミキサーを用いて攪拌しつつ、硝酸銀溶液を添加して約80分間加熱して反応を進行させた。そして、その後室温で冷却をさせた。得られた溶液を遠心分離機で2200rpmの条件下で10分間遠心分離を行った。その後、分離が出来た銀粒子を取り出して、余分なPVPを除去するためエタノール溶液500mlに添加した。そして、さらに遠心分離を行い、銀粒子を取り出した。さらに、取り出した銀粒子を真空乾燥機で35℃、1.3Paの条件下で乾燥させた。
【0047】
なお、本実施例において、銀粒子の平均粒子径は「マイクロトラックUPA」(日機装株式会社製)を用いて測定を行い、測定条件は、屈折率を0.2−3.9i、溶媒(水)の屈折率を1.333、測定粒子形状を球形、とした。
上記のようにして得られた銀粒子と、1,2−ヘキサンジオールと、常温で固体の保湿剤としてのトリメチロールプロパンと、サーフィノール465(日信化学工業社製)と、トリエタノールアミンと、ポリフロー401(日信化学工業社製)と、イオン交換水とを混合することにより、インクとした。
【0048】
(調製例2〜6)
インクの調製に用いる成分の種類、使用量を調整することにより、表1に示すような構成となるようにした以外は、前記調製例1と同様にしてインクを調製した。
(調製例7)
また、調製例7では、インクの調製に用いる銀粒子を、次の方法により製造した。10N−NaOH水溶液を3mL添加してアルカリ性にした水50mLに、クエン酸3ナトリウム2水和物17g、タンニン酸0.36gを溶解した。得られた溶液に対して3.87mol/L硝酸銀水溶液3mLを添加し、2時間攪拌を行い銀コロイド液を得た。得られた銀コロイド液に対し、導電率が30μS/cm以下になるまで透析することで脱塩を行った。透析後、3000rpm、10分の条件で遠心分離を行うことで、粗大金属コロイド粒子を除去した。
【0049】
その後、上記のようにして得られた銀粒子と、1,2−ヘキサンジオールと、常温で固体の保湿剤としてのトリメチロールプロパンと、サーフィノール465(日信化学工業社製)と、トリエタノールアミンと、ポリフロー401(日信化学工業社製)と、イオン交換水とを混合することにより、インクとした。
上記調製例1〜6で調製したインクでは、銀粒子は、その表面がポリビニルピロリドンによって被覆されたものであった。
【0050】
表1には、前記各調製例のインクの構成を示す。なお、表1中、オレフィンE1010(日信化学工業社製)をOE1010、サーフィノール104PG(日信化学工業社製)をS104PG、サーフィノール465(日信化学工業社製)をS465、ポリフロー401(共栄社化学社製)をPF401、ポリエーテル変性シロキサンとしてのBYK−348(ビックケミー社製)をBYK348、プロピレングリコールをPG、2−ピロリドンを2−PD、EPG−1200(三井化学社製)をEPG1200、1,2−ヘキサンジオールを1,2−HD、トリメチロールプロパンをTMP、トリエタノールアミンをTEAで示した。
前記調製例1〜7のインクの粘度(振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された25℃における粘度)は、いずれも、3.5mPa・s以上4.5mPa・s以下の範囲内の値であった。
【0051】
【表1】

【0052】
[2]印刷物の製造
(実施例1〜16、比較例1〜5)
表2に記載の印刷媒体のインク受理層が設けられた面側にPX−G930(セイコーエプソン株式会社製)を用いて、表2に記載のインクを、表2に記載の印刷密度により印刷した。
【0053】
なお、印刷媒体としては、インクジェット用専用紙(写真用紙):写真用紙<光沢>(KA4100PSKR、セイコーエプソン社製)(表2中ではPGPPとする)、コクヨラベルシートKJ−G2210(コクヨ社製)、PETメディア(PET−50A、リンテック社製)、透明フィルムIT−324F−C(プラスステーショナリー社製)、EPSON Clear Proof film(WXCPF24R、セイコーエプソン社製)を用いた。また、本明細書において、「duty」(印刷密度)とは、下式で算出される値である。
duty(%)=実印刷ドット数/(縦解像度×横解像度)×100
(式中、「実印刷ドット数」は単位面積当たりの実印刷ドット数であり、「縦解像度」および「横解像度」はそれぞれ単位面積当たりの解像度である。)
【0054】
[3]評価
[3.1]光沢度
前記各実施例および比較例に係る印刷物の印刷面について、光沢度計(MINOLTA MULTI GLOSS 268)を用い、煽り角度60°での光沢度を測定し、以下の基準に従い評価した。
A:光沢度が600以上。
B:光沢度が450以上600未満。
C:光沢度が300以上450未満。
D:光沢度が300未満。
【0055】
[3.2]耐擦性
前記各実施例および比較例に係る印刷物について、印刷物の製造から48時間経過した時点で、サウザーランドラブテスターを用い、JIS K5701に準じて耐擦性試験を行い、上記[3.1]で述べたのと同様の方法により、耐擦性試験後の印刷物についても光沢度(煽り角度60°)を測定し、耐擦性試験前後での光沢度の低下率を求め、以下の基準に従い評価した。
A:光沢度の低下率が10%未満。
B:光沢度の低下率が10%以上20%未満。
C:光沢度の低下率が20%以上30%未満。
D:光沢度の低下率が30%以上。
【0056】
これらの結果を、各実施例および各比較例の印刷物の製造に用いたインクの種類、XPS測定による表面Ag濃度XAg、XPS測定による表面C濃度X、および、XAg+Xの値とともに、表2にまとめて示した。なお、XPS測定はESCA−100(島津製作所社製)を用いて、X線源をMg、取り出し角は90°、分析径(スポットサイズ)はΦ1mmに設定し、Wideスペクトルで条件(Passing energy 80eV、dwell 25msec、sweep 5、step 1eV)にて全体の構成元素を確認後、Narrowスペクトルで条件(Passing energy 32eV、dwell 100msec、sweep 5、step 0.1eV)にて所定の元素の軌道(Clの2p、Cの1s、Oの1s、Agの3d、Alの2p)を測定し、ベースラインからシャーリー法を用い分離した各々のスペクトル面積より各元素の定量計算をした。
【0057】
【表2】

【0058】
表2から明らかなように、本発明に係る印刷物では、光沢度および耐擦性に優れていたのに対し、比較例では、満足のいく結果が得られなかった。
また、本発明に係るインクは、液滴の吐出安定性に優れ、また、保存安定性に優れており、長期間にわたって、安定した液滴吐出を行うことができ、印刷物の製造に好適に用いることができた。
【符号の説明】
【0059】
1…インクジェット式プリンター(プリンター) 2…フレーム 3…プラテン 4…紙送りモーター 5…ガイド部材 6…キャリッジ 7…タイミングベルト 8…キャリッジモーター 9…液滴吐出ヘッド(印刷ヘッド) 10…インクカートリッジ P…印刷媒体(基材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体上に、銀粒子を含むインクを印刷した印刷物であって、
前記インクを用いて形成された印刷部におけるXPS測定による表面Ag濃度が29質量%以上93質量%以下であることを特徴とする印刷物。
【請求項2】
前記インクを用いて形成された印刷部におけるXPS測定による表面C濃度が2質量%以上43質量%以下である請求項1に記載の印刷物。
【請求項3】
前記インクを用いて形成された印刷部における、XPS測定による表面Ag濃度をXAg[質量%]、XPS測定による表面C濃度をX[質量%]としたとき、0.03≦X/(XAg+X)≦0.60の関係を満足する請求項1または2に記載の印刷物。
【請求項4】
前記銀粒子の平均粒径が3nm以上100nm以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の印刷物。
【請求項5】
前記インクは、インクジェット法により、前記印刷媒体上に付与されるものである請求項1ないし4のいずれかに記載の印刷物。
【請求項6】
前記インクとしてα、β−アルカンジオール(α、βは炭素数を超えない任意の整数)を含むものを用いて製造されたものである請求項1ないし5のいずれかに記載の印刷物。
【請求項7】
前記インクとしてトリメチロールプロパンを含むものを用いて製造されたものである請求項1ないし6のいずれかに記載の印刷物。
【請求項8】
前記銀粒子は、ポリビニルピロリドンによって被覆されたものである請求項1ないし7のいずれかに記載の印刷物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−143871(P2012−143871A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1389(P2011−1389)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】