説明

印刷用凸版及びその印刷用凸版を用いた精密印刷製造物

【課題】凸版の低位部や凹部に有機発光材料のインキ液が流入しないように凸版の画線部である凸状部の頂部面はインキ液との親和性を有する層により形成し、凸版の非画線部である凸状部の頂部面より低位部及び凹部を形成する部分、即ち該凸状部を支持する支持体部分をインキ液に対して撥液性を有する層にて形成する。
【解決手段】凸状部を備えた印刷用凸版であって、該凸版の凸状部1Aの被印刷物と接触する頂部面1Bは、有機発光材料を含む塗工インキ液に対して親和性を有するインキ液親和性樹脂層からなり、該頂部層1Bを支持する凸状部1A又は該凸状部を含む凸状部形成材層は、前記塗工インキ液に対して撥液性を有するインキ撥液性層からなり、前記インキ液親和性樹脂層のインキ液濡れ接触角に対して、前記インキ撥液性層のインキ液濡れ接触角が少なくとも10度以上大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子など精密部品製造用の基板等の被印刷体に、インキ化した材料を印刷方式にてパターン印刷するために使用する印刷用凸版及びその印刷用凸版を用いて印刷された精密印刷製造物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、有機EL素子は、二つの対向する電極基板の間に、有機発光材料からなる有機発光層を形成し、有機発光層に電流を流すことにより発光させるものであるが、効率良く発光させるには、発光層の膜厚のコントロールが重要であり、例えば膜厚100nm程度に極めて薄膜にする必要がある。さらに、これをディスプレイ化するには、高精細にパターニングする必要がある。
【0003】
基板等に形成する有機発光材料には、低分子材料と高分子材料があり、一般に低分子材料は、基板に抵抗加熱蒸着法(真空蒸着法)等により薄膜形成し、このときに微細パターンのマスクを用いてパターニングするが、この方法では基板が大型化すればするほど、パターニング精度が出難いという問題がある。
【0004】
そこで、最近では基板等に形成する有機発光材料に高分子材料を用い、この有機発光材料を溶剤に溶かしてインキ化して塗工インキ液にした後、これをウェットコーティング法で薄膜形成する方法が試みられるようになってきている。薄膜形成するためのウェットコーティング法としては、スピンコート法、バーコート法、突出コート法、ディップコート法等があるが、高精細にパターニングしたり、レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)の3色に塗り分けしたりするためには、これらのウェットコーティング法では難しいく、塗り分けパターニングを得意とする印刷法によるパターン印刷による薄膜形成が最も有効であると考えられる。
【0005】
さらに、各種印刷法の中でも、有機EL素子やディスプレイでは、基板としてガラス基板を用いることが多いため、グラビア印刷法等のように金属製の印刷版等の硬い版を用いる方法は不向きである。そのために、弾性を有するゴム製の印刷版を用いた印刷法や、ゴム製の印刷用ブランケットを用いたオフセット印刷法や、弾性を有するゴムやその他の樹脂を主成分とした感光性樹脂版を用いる凸版印刷法等が適性な印刷法として採用することができる。実際に、これらの印刷法の試みとして、オフセット印刷による パターン印刷方法(特許文献1)、凸版印刷によるパターン印刷方法(特許文献2)などが提唱されている。
【0006】
以下に、本発明に関連する特許文献を記載する。
【特許文献1】特開2001−93668号公報
【特許文献2】特開2001−155858号公報
【特許文献3】特開2001−155861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、凸版印刷法、凹版印刷法、オフセット印刷法といった各印刷法に使用する印刷、塗工用の粘稠状(又はチクソトロピ−状)のインキ又は液状のインキ(インキ液)に
は、最適な粘度があることが知られており、特に液状のインキには、増粘材といった粘度調整剤を添加するのが一般的である。
【0008】
一方、有機発光材料を印刷法により印刷して成膜する場合、有機発光材料は、水やアルコール、有機溶剤といった溶媒(必要に応じてバインダー樹脂)中に、分散もしくは溶解させることにより、印刷、塗工用のインキ液としてインキ化するものである。
【0009】
しかしながら、一般的なインキ化可能な有機発光材料は、溶媒に対する溶解性が高い場合であっても、溶媒に対する最大固形分比が5%程度であり、これを超えると有機発光材料が固体として析出してしまい、インキ液の高粘度化は難しい。
【0010】
特に有機発光材料をパターン成膜し、素子として駆動させる場合、その素子の耐久性は有機発光材料により成膜される膜の純度が高い方が良いとされているため、有機発光材料の膜中に残留する増粘材などは純度を低下させる要因となるため添加することができず、この理由からも有機発光材料のインキ液の高粘度化は難しい。
【0011】
その結果、有機発光材料のインキ液を用いて凸版印刷法により印刷しようとした場合、インキ液が低粘度であるために、印刷用凸版の凸状部の頂部面に付着したインキ液が、非画線部である低位部や凹部にまで流れ込んで、そのまま残留してしまい、有機発光材料の膜パターンの印刷再現性が悪く、膜パターンの膜厚の不均一が発生したりして、印刷物を再現性良く生産することが難しい。
【0012】
本発明の課題は、上記問題を解決するための印刷用凸版及びその印刷用凸版を用いて印刷した精密印刷製造物を提供することにあり、低粘度のインキ液を用いて印刷用凸版を用いて印刷する際における上記のような印刷再現性の低下、特に精密部品に対するパターン印刷における再現性の低下やパターン膜の不均一の発生の問題を解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1に係る発明は、凸状部を備えた印刷用凸版であって、該凸版の凸状部の被印刷物と接触する頂部面は、有機発光材料を含む塗工インキ液に対して親和性を有するインキ液親和性樹脂層からなり、該樹脂層を支持する凸状部又は該凸状部を含む凸状部形成材層は、前記塗工インキ液に対して撥液性を有するインキ撥液性層からなることを特徴とする印刷用凸版である。
【0014】
本発明の請求項2に係る発明は、上記請求項1に係る印刷用凸版において、前記インキ液親和性樹脂層のインキ液濡れ接触角に対して、前記インキ撥液性層のインキ液濡れ接触角が、少なくとも10度以上大きいことを特徴とする印刷用凸版である。
【0015】
本発明の請求項3に係る発明は、上記請求項1又は2に係る印刷用凸版において、前記インキ液親和性樹脂層が、少なくとも水溶性ポリマーを主成分とする樹脂からなることを特徴とする印刷用凸版である。
【0016】
本発明の請求項4に係る発明は、上記請求項1又は3のいずれか1項に係る印刷用凸版において、前記インキ液撥液性層が、少なくともフッ素系材料を含有することを特徴とする印刷用凸版である。
【0017】
本発明の請求項5に係る発明は、上記請求項1乃至4のいずれか1項に係る印刷用凸版を用いて、印刷方式により、インキ液化した材料が、精密部品製造用の基板等の被印刷体にパターン印刷されていることを特徴とする精密印刷製造物である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の印刷用凸版は、二層乃至複層構成の凸版印刷版であり、凸状部の周囲の低位部や凹部に、有機発光材料のインキ液が流入して付着しないように、凸版の画線部である凸状部には、インキ液との親和性を有する材料層を用いて形成されている。また、凸版の非画線部である凸状部の周囲の低位部や凹部を形成する部分や該凸状部を支持する支持体部分には、インキ液に対して撥液性を有する材料層を用いて形成されている。
【0019】
本発明の印刷用凸版にて、有機発光材料インキ液などの低粘度のインキ液を用いて凸版印刷法(又は凸版オフセット印刷法)により印刷した場合、たとえインキ液が低粘度であっても、凸状部における頂部面以外の非画線部である低位部及び凹部が、インキ液撥液性を有する樹脂層により形成されているため、インキ供給手段にてインキ液親和性の凸状部の頂部面に付着したインキは、その頂部面から低位部及び凹部内に向かって流れ込もうとする際に、インキ液撥液性を有する樹脂層の前記低位部及び凹部内によって弾かれて流れ込むことがない。
【0020】
本発明の印刷用凸版は、二層乃至複層構成の凸版印刷版であるために、低粘度のインキ液を用いた凸版オフセット印刷方式による印刷においては、従来のような単層構成の印刷用凸版と比較して、画像やパターンの印刷再現性を向上させることができ、印刷されたインキ膜厚の均一性が向上でき、例えば、有機発光材料等の低粘度インキ液を用いた凸版印刷方式(又は凸版オフセット印刷方式)による膜パターンの印刷や、精密部品製造用の基板等の被印刷体に対する膜パターンの印刷において再現性が良く、精密印刷製造物をパターン再現性良く生産することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明はこれに限るものではない。
【0022】
図1は、本発明の一実施の形態における有機EL素子作製のための印刷用凸版Sの側断面図であり、1は凸版のベース基材層であり、1Aはベース基材層1上の凸状部又は該凸状部を含む凸状部形成材層(以下単に凸状部と云う)であり、該凸状部1Aは有機発光材料を含む塗工インキ液に対して撥液性を有するインキ撥液性層である。また、1Bは前記凸状部の頂部面であり、該頂部面1Bは有機発光材料を含む塗工インキ液に対して親和性を有するインキ液親和性樹脂層である。
【0023】
凸状部1Aには、使用する塗工インキ液に対する撥液性を有する材料を用いるが、フッ素原子を分子骨格に有する添加剤を加えた樹脂材料や、フッ素系エラストマーや、ポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ六フッ化ビニリデンや、それらの共重合体といったフッ素系ポリマーなどから一種類以上を選択することが望ましい。なお、上記凸状部1A及び頂部面1Bは、必ずしも異なる材料により構成されている必要は無い。例えば、フッ素を含有しない材料とフッ素を含有する材料との混合比が異なるものなどを凸状部1A及び頂部面1Bとして用いることができる。
【0024】
頂部面1Bには、使用する塗工インキ液に対する親和性があれば良く、ニトリルゴム、シリコーンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴムなどのゴムの他に、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコールなどの合成樹脂やそれらの共重合体、セルロースなどの天然高分子を用いることができる。
【0025】
なかでも、水溶性ポリマーを主成分として含む材料は、塗工インキ液の成分である有機発光材料の溶液や分散液を構成している有機溶剤への耐性も高いため、これを用いることも望ましい。
【0026】
ただし、有機発光材料を含む塗工インキ液に対する凸状部1A、頂部面1Bの濡れ接触角θの大きさは、頂部面1Bに比べて凸状部1Aの方が10°以上大きい(インキ親和性が低い又は濡れにくい)必要がある。その濡れ接触角θの差が10°を下回る場合、凸状部1Aは有効な塗工インキ液に対する撥液性を示さなくなり、凹部内への塗工液の流入を防ぐことができなくなる。
【0027】
ここで塗工インキ液としては、例えば、有機発光材料と、沸点が70℃以上180℃未満の溶剤と、沸点が180℃以上270℃以下の溶剤とからなるものがある。その場合、沸点が180℃以上270℃以下の溶剤のインキに対する重量比は、5wt%以上30wt%以下が適当である。
【0028】
沸点が180℃以上270℃以下の溶剤としては、例えば、2,3−ジメチルアニソール、2,5−ジメチルアニソール、2,6−ジメチルアニソール、トリメチルアニソール、テトラリン、安息香酸メチル、安息香酸エチル、シクロヘキシルベンゼン、n−アミルベンゼン、tert−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジメチルスルホキシドの中から1種、又は複数種を選択したものである。
【0029】
有機発光材料としては、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾールなどの高分子中に低分子の蛍光色素を溶解させたものや、ポリフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリアルキルフルオレン誘導体(PAF)等の高分子発光体が用いられる。これらの高分子有機発光材料(高分子EL素子用発光材料)は、溶剤に溶解又は安定して分散でき、インキ化することによって塗布法や印刷法により製膜することができるため、低分子発光材料を用いた有機EL素子の製造と比較して、大気圧下での製膜が可能であり、設備コストが安いという利点がある。
【0030】
以下に、本発明の印刷用凸版Sの製造方法の一例を示す。
【0031】
まず、図2(a)の側断面図に示すように、ベース基材1上に凸状部1Aの形成層を積層接着する。ベース基材1には、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコールなどの公知の合成樹脂や、鉄や銅といった金属を主成分とするものを用いても良い。凸状部1Aの形成層は、押し出し成型法やプレス成型法、ラミネート法等により、ベース基材1上に作製することができる。また、スピンコート法や、ダイコート法、スリットコート法、キャストコート法、ディップコート法などのコーティング法を用いても良い。
【0032】
また、図2(b)に示すようにベース基材1と凸状部1Aとの接着性を高めるために、両者の間に接着材や表面処理剤2を用いても接着しても良い。
【0033】
次に、図3(a)に示すように、ベース基材1上に凸状部1Aの層を形成した後に、該凸状部1Aの層上に頂部面1Bの層を形成する。頂部面1Bの層は、押し出し成型やプレス成型により作製することができる。また、スピンコート法やダイコート法、スリットコート法、キャストコート法、ディップコート法などのコーティング法を用いても良い。
【0034】
また、図3(b)に示すように、ベース基材1と凸状部1Aとの接着性を高めるために、両者の間に接着材や表面処理剤2を用い、凸状部1Aの層と頂部面1Bの層との接着性を高めるために、両者の間に接着材や表面処理剤3を用いて接着しても良い。
【0035】
このようにして積層された図3(a)に示す板状の積層材料SO の頂部面1Bの表面側から、該頂部面1Bの形成層及び凸状部1Aの形成層を、金属性の切削刀や、レーザーアブレーション法等により削り取り、図1に示すような頂部面1Bを備えた凸状部1Aを形成して、本発明の印刷用凸版Sを製版することができる。また、凸状部1Aの形成層に樹脂材として感光性樹脂を用いた場合は、パターン露光及び現像といった公知の方法により図1に示すような頂部面1Bを備えた凸状部1Aを形成して、本発明の印刷用凸版Sを製版することができる。
【0036】
また、図3(b)に示す板状の積層材料SO の頂部面1Bの表面側から、該頂部面1Bの形成層及び凸状部1Aの形成層を、金属性の切削刀や、レーザーアブレーション法等により削り取り、図1に示すような頂部面1Bを備えた凸状部1Aを形成することにより、本発明の印刷用凸版Sを製版することができる。また、凸状部1Aの形成層に樹脂材として感光性樹脂を用いた場合は、パターン露光及び現像といった公知の方法により、図1に示すような頂部面1Bを備えた凸状部1Aを形成して、本発明の印刷用凸版Sを製版することができる。
【0037】
また、上記と異なる製版方法の一例としては、まず、図4(a)に示すように、ベース基材1に頂部面1Bの層を形成して積層体S1 とする。この場合のベース基材1には、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコールなどの公知の合成樹脂や、鉄や銅といった金属を主成分とするものを用いても良い。凸状部1Aは、押し出し成型やプレス成型、ラミネート法により、ベース基材1上に凸状部1Aの成形材料を供給して作製することができる。また、スピンコート法やダイコート法、スリットコート法、キャストコート法、ディップコート法などのコーティング法を用いても良い。また、図4(b)に示すように、ベース基材1と凸状部1Aとの接着性を高めるために両者の間に接着材や表面処理剤2を用いて積層接着しても良い。
【0038】
次に、図5(a)に示すように、前記ベース基材1とは異なる保護基材4に頂部面1Bの層を形成して積層体S2 とする。この場合の保護基材4は、前記頂部面1Bの層を形成する材料に対して易剥離性を示す材料を使用するものである。例えば、この場合の保護基材4の材料として、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコールなどの公知の合成樹脂が使用できる。また、前記保護基材4の材料として、前記頂部面1Bの層を形成する材料に対して易剥離性を示す鉄や銅といった金属を主成分とする薄板材料を用いても良い。
【0039】
また、図5(a)において、保護基板4上に頂部面1Bを積層形成する方法としては、押し出し成型や、プレス成型、ラミネート法により作製することができる。また、スピンコート法やダイコート法、スリットコート法、キャストコート法、ディップコート法などのコーティング法を用いても良い。また、図5(b)に示すように、ベース基材4と頂部面1Bとの易剥離性の仮接着性を得るために両者の間に易剥離剤5を用いて積層接着しても良い。
【0040】
次に、図6に示すように、図4(a)若しくは図4(b)に示す積層体S1 の凸状部1
Aの形成層上に、図5(a)若しくは図5(b)に示す積層体S2 の頂部面1Bの形成層を重ね合わせ、ラミネート法やプレス法によって接着もしくは圧着して積層材料SO を形成する。なお、積層体S1 とS2 との接着界面には、接着性を高めるための接着剤や表面処理剤6を用いて積層接着しても良い。
【0041】
このようにして積層された図6に示す板状の積層材料SO から保護基材4を剥離して取り除いたのち、該積層材料SO の頂部面1Bの表面側から、該頂部面1Bの形成層及び凸状部1Aの形成層を、金属性の切削刀や、レーザーアブレーション法等により削り取り、図1に示すような頂部面1Bを備えた凸状部1Aを形成して、本発明の印刷用凸版Sを製版することができる。また、凸状部1Aの形成層に樹脂材として感光性樹脂を用いた場合は、パターン露光及び現像といった公知の方法により図1に示すような頂部面1Bを備えた凸状部1Aを形成して、本発明の印刷用凸版Sを製版することができる。
【0042】
本発明の印刷用凸版Sは、凸版印刷法(印刷用凸版を用いて印刷する印刷機)による印刷機に装着して印刷することができ、例えば、円圧式の凸版印刷機、又は円圧式の凸版オフセット印刷機などに装着して印刷することができる。
【0043】
例えば、円圧式の凸版印刷機としては、図7に示すような印刷機がある。図示するように、インキタンク10とインキ供給部であるインキ吐出部12(チャンバー)と矢印方向に回転するアニロックスロール14(金属製又は樹脂製の硬質ロール、又は適度な弾力性のある硬質ロール)と、本発明の印刷用凸版S(1枚乃至数枚、凸状部1Aは適度な硬度又は適度な弾力性のある硬度を有する)を周面に装着可能な矢印方向に回転する版胴18を備えている。版胴18の下方には、水平方向(矢印方向)に反復移動する被印刷体固定定盤20を備え、該定盤20上には被印刷体24が装着固定されている。
【0044】
インキタンク10にはインキが収容されており、インキ吐出部12にはインキタンク10よりインキが送り込まれるようになっている。アニロックスロール14は、インキ吐出部12に近接し、版胴18の印刷用凸版Sに接して回転するようになっている。
【0045】
アニロックスロール14の回転に伴い、インキ吐出部12からアニロックスロール14の周面に吐出したインキ14aは、ドクター15などにより均一な膜厚に掻き取られ、アニロックスロール14の周面に均一な膜厚のインキ膜として転移する。その後、版胴18に取り付けられた印刷用凸版Sの凸状部1Aの頂部面1Bに、前記アニロックスロール14周面のインキ14aが均一な膜厚にて転移する。
【0046】
さらに、被印刷体固定定盤20上の被印刷体24(印刷基板)は、印刷用凸版Sの凸状部1Aによる凸部パターンと被印刷体24との位相位置を調整する位置調整機構により位相位置を調整しながら図7に示すように印刷開始位置まで図面左方向に水平移動する。
【0047】
その後に、被印刷体固定定盤20は、被印刷体24面に版胴18の印刷用凸版Sの凸状部1Aを所定印圧にて接触させながら、版胴18の回転速度に整合して図面右方向に水平移動し、印刷用凸版Sの凸状部1Aの頂部面1Bのインキ14aによる凸部パターンを被印刷体24面に印刷する。
【0048】
印刷後の前記被印刷体24は、被印刷体固定定盤20上から取り除かれた後、次の被印刷体24が被印刷体固定定盤20上に装着固定される。この動作を繰り返すことにより印刷が実施される。
【0049】
また、円圧式の凸版オフセット印刷機としては図示しないが、シリンダー状の回転するブランケット胴と、定位置に固定配置された平坦な圧定盤とによる印刷機がある。これは
平坦な印刷用凸版Sを水平に載置して位置決め固定する平坦な版固定定盤と、被印刷体(印刷基板)を水平に載置して位置決め固定する平坦な被印刷体固定定盤(圧定盤)と、前記版固定定盤上に載置固定した印刷用凸版Sの上面を周接移動(転動)して、頂部面1Bにインキを付着させるインキ供給ローラーと、インキ供給ローラーが待機中に印刷用凸版Sの上面を周接移動(転動)して頂部面1Bに付着しているインキを表面ゴム製のブランケット面に転移させ、さらに転動してブランケット面に転移した前記インキを被印刷体固定定盤上に載置固定した被印刷体(印刷基板)に転写して印刷するブランケット胴を備えている。
【実施例】
【0050】
以下に、本発明の印刷用凸版Sの具体的実施例について説明する。
【0051】
<実施例1>
(発光層形成用塗工インキ液の調製)
高分子蛍光体(又は高分子蛍光体と結着用の高分子樹脂)をキシレンに塗工インキ液濃度が1.0重量%となるように溶解させ、発光層形成用塗工インキ液14aを調製した。ここで高分子蛍光体とは、ポリ(パラフェニレンビニレン)誘導体からなる発光材料を示す。
【0052】
(被印刷基板の作製)
150mm角、厚さ0.4mmのガラス基板上に、表面抵抗率15ΩのITO膜を回路パターン状に成膜した透明電極作製用基材(ジオマテック(株)製)の前記ITO膜面に、スピンコーターを用いて正孔輸送層として、ポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)を100nm膜厚で成膜した。さらに、この成膜されたPEDOT/PSS薄膜を、減圧下100℃にて、1時間乾燥することにより、被印刷基板24(印刷基板)を作製した。
【0053】
(印刷用凸版Sの作製;凸状部1Aとしてフッ素含有物を用い、頂部面1Bとして水溶性ポリマーを使用)
図3(a)に示すように、ベース基材1として、厚さ0.3mmのポリエチレンテレフタレート(PET)基材上に、フッ素含有物としてポリフッ化ビニリデンを押し出し成型法により0.1mm積層して凸状部1Aの形成層を形成し、さらに、その凸状部1Aの形成層上に、頂部面1Bとして水溶性ポリマー(水溶性樹脂)を150℃で過熱溶融したものを、スピンコート法により0.1μmの厚さで形成して、頂部面1Bの形成層を積層形成し、積層材料SO を作製した。
【0054】
続いて、レーザーアブレーション法により、前記積層材料SO の頂部面1B及凸状部1Aの形成面を削り取り、積層材料SO の表面に凸状部1Aの形成層に達する凹状部1AO を形成する。これにより、図1に示すような頂部面1Bを備えた凸状部1Aを形成して、本発明の印刷用凸版Sを製版した。
【0055】
(印刷用凸版Sによる発光層形成用塗工インキ液の印刷)
まず、図1に示すような本発明の印刷用凸版Sを、凸版印刷法による円圧式凸版印刷機(図7参照)の版胴18の周面に装着固定し、被印刷体24(印刷基板)を、被印刷体固定定盤20上に載置固定した。
【0056】
そして、アニロックスロール14及び版胴18を回転させて、発光層形成用の塗工インキ液14aを、アニロックスロール14(インキ供給ローラー)の周面に均一膜にて供給し、該アニロックスロール14を介して、印刷用凸版Sの凸状部1Aの頂部面1Bにインキ液14a供給した。その後、被印刷体24(印刷基板)のITO膜パターン形成面側に
該ITO膜パターンに整合させて、前記頂部面1Bによるパターン状の塗工インキ液14aの印刷を行った。
【0057】
印刷した後の被印刷基板24(印刷基板)は、150℃にて5時間の環境下にて塗工インキ液14aを乾燥した後、該塗工インキ液14aによる発光層上から、カルシウム1nm、アルミニウム80nmを積層形成して、陰極用の発光層基板である有機EL素子とした。
【0058】
<比較例1>
(頂部面1Bとして水溶性ポリマーを用いない場合)
実施例1における頂部面1Bとして、水溶性ポリマーを用いない以外は、上記実施例1と同様にして、積層材料SO を作製して印刷用凸版を作製し、該印刷用凸版による発光層形成用塗工インキ液の印刷を行って、陰極用の発光層基板である有機EL素子とした。
【0059】
<比較例2>
(凸状部1Aとしてフッ素含有物を用いない場合)
実施例1における凸状部1Aとして、フッ素含有物を用いない以外は、上記実施例1と同様にして、積層材料SO を作製して印刷用凸版を作製し、該印刷用凸版による発光層形成用塗工インキ液の印刷を行って、陰極用の発光層基板である有機EL素子とした。
【0060】
<比較結果>
上記実施例1により作製した有機EL素子は、ITO膜を介して電圧をかけ、発光状態の確認を行ったところ、発光層の膜厚が均一であり、発光ムラは見られなかったが、比較例1、比較例2により作製した有機EL素子は、ITO膜を介して電圧をかけ、発光状態の確認を行ったところ、発光層の膜厚が不均一なことによる発光ムラが見られた。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の印刷用凸版の概要側断面図。
【図2】(a)は本発明の印刷用凸版の作製における積層材料の作製工程の一例を説明する概要側断面図、(b)はその作製工程の他の例を説明する概要側断面図。
【図3】(a)は本発明の印刷用凸版の作製における積層材料の作製工程の一例を説明する概要側断面図、(b)はその作製工程の他の例を説明する概要側断面図。
【図4】(a)は本発明の印刷用凸版の作製における積層材料の作製工程の一例を説明する概要側断面図、(b)はその作製工程の他の例を説明する概要側断面図。
【図5】(a)は本発明の印刷用凸版の作製における積層材料の作製工程の一例を説明する概要側断面図、(b)はその作製工程の他の例を説明する概要側断面図。
【図6】(a)は本発明の印刷用凸版の作製における積層材料の作製工程の一例を説明する概要側断面図、(b)はその作製工程の他の例を説明する概要側断面図。
【図7】本発明の印刷用凸版を用いて印刷するための凸版印刷機の一例を説明する側面図。
【符号の説明】
【0062】
S…印刷用凸版
SO …積層材料
S1 ,S2 …積層体
1A…凸状部
1AO …凹状部
1B…頂部面
1…ベース基材
2…接着剤
3…接着剤
4…保護基材
5…易剥離剤 6…接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸状部を備えた印刷用凸版であって、該凸版の凸状部の被印刷物と接触する頂部面は、有機発光材料を含む塗工インキ液に対して親和性を有するインキ液親和性樹脂層からなり、該樹脂層を支持する凸状部又は該凸状部を含む凸状部形成材層は、前記塗工インキ液に対して撥液性を有するインキ撥液性層からなることを特徴とする印刷用凸版。
【請求項2】
請求項1記載の印刷用凸版において、前記インキ液親和性樹脂層のインキ液濡れ接触角に対して、前記インキ撥液性層のインキ液濡れ接触角が、少なくとも10度以上大きいことを特徴とする印刷用凸版。
【請求項3】
請求項1又は2記載の印刷用凸版において、前記インキ液親和性樹脂層が、少なくとも水溶性ポリマーを主成分とする樹脂からなることを特徴とする印刷用凸版。
【請求項4】
請求項1又は3のいずれか1項記載の印刷用凸版において、前記インキ液撥液性層が、少なくともフッ素系材料を含有することを特徴とする印刷用凸版。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の印刷用凸版を用いて、印刷方式により、インキ液化した材料が、精密部品製造用の基板等の被印刷体にパターン印刷されていることを特徴とする精密印刷製造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−90596(P2007−90596A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281299(P2005−281299)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】