説明

印刷用透明シート

【課題】透明耐熱シートがインク受理層を有し、たとえば昇華型直接熱転写方式、又は昇華型間接熱転写方式によるカラー印刷適性に優れ、加熱融着性、透明性、シートの搬送性、熱プレス後の金型からの離型性、耐熱性、折り曲げ性、耐摩耗性を兼ね備えたプラスチックカード用に好適な印刷用透明シートを提供する。
【解決手段】ガラス転移温度が90℃以上の非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂からなる透明基材シートの少なくとも片面に、塩化ビニル共重合体または官能基を有するポリエステル系樹脂からなるインク受理層を形成してなる印刷用透明シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、昇華型熱転写方式によるカラー印刷適性に優れた印刷用透明シートに関するものであり、プラスチックカード用として好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
今日、プラスチックICカードは、個人情報を記録したIDカード(社員証、学生証、入館証、セキュリティカード等)、銀行系カード、クレジット系カード、交通系カードの他、健康保険カード、各種会員カード等、多岐にわたるカードが特にグローバル化社会の発展にも伴い非常に数多くのカードが使用されている。また、個人のカード保有量も増加している。このようなカードは、複数枚のプラスチックシートを加熱積層後打ち抜きによりカードが製造されているが、そのプラスチックシートには、塩化ビニル樹脂(PVC)が主体的に使用されている。PVCは安価なことに加え、加熱積層の容易性、繰り返し曲げ疲労特性などのプラスチックカードにて要求される強度特性も問題ない。さらにプラスチックカードで一般的に使用される昇華型熱転写印刷性にも優れ、白色無地のブランクカードからカード用昇華型熱転写印刷機を用いて容易に画像、文字がカラー印刷可能なことから、PVCの廃棄物、焼却問題があるものの、まだまだ世界各国で主体的に使用されている。これに対して、上記したような環境問題からPVCに代えて非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂を使用する動きも各国で見られる。しかし、非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂は、昇華型熱転写印刷性に劣る。そのために白色無地のブランクカードからカード用昇華型熱転写印刷機を用いて画像、文字をカラー印刷が困難である。
【0003】
また、特許文献1には、エチレングリコール単位と、1,4−シクロヘキサンジメタノール単位のモル比が異なる2種のポリエステル、及び芳香族ポリカーボネートを含有してなるポリエステル樹脂組成物から形成される無延伸シートであって、その片面に、マット加工が施された識別カード用シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−100451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の識別カード用シートでは、印刷インキ接着性、インキ着肉仕上がり性、印刷機械適性などの印刷に関する適性の付与は、単にポリエステル樹脂シート表面に形成されたエンボス加工によるものである。前記エンボス加工では、ある程度の印刷適性が得られるが、昇華型直接熱転写方式、或いは昇華型間接熱転写方式によるカラー印刷による発色再現性、鮮明性に劣る。又、印刷された文字、絵柄などは、単にエンボス加工された凹凸面にのっているだけであり、剥がれ易いという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであり、優れた印刷性、耐熱性、透明基材シートとインク受理層との良好な密着性、及び高い透明性を兼ね備えたプラスチックカードに好適な印刷用透明シートを提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]本発明は、透明基材シートの少なくとも片面にインク受理層を設けた印刷用透明シートであって、前記透明基材シートは、ガラス転移温度90℃以上の非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂からなり、厚みが50〜200μm、全光線透過率が70%以上であるシートとして構成され、前記インク受理層は、塩化ビニル共重合体または官能基を有するポリエステル系樹脂からなり、溶剤または水を媒体とする溶液にて前記透明基材シートの片面に乾燥膜厚が1〜20μmの厚さを有する層として構成されてなる、印刷用透明シート。
【0008】
[2]前記透明基材シートが、ガラス転移温度90℃以上の非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂100質量部、滑剤0.01〜3質量部からなる非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂組成物からなり、更に、酸化防止剤及び/または着色防止剤0.1〜5質量部、及び紫外線吸収剤及び/または光安定剤0.1〜5質量部含有してなる、前記[1]に記載の印刷用透明シート。
【0009】
[3]前記塩化ビニル共重合体は、塩化ビニルと他のモノマーとの共重合比率が、少なくとも塩化ビニルが30質量%、平均重合度が100〜2000である、前記[1]または[2]に記載の印刷用透明シート。
【0010】
[4]前記塩化ビニル共重合体の塩化ビニル以外の共重合成分が、ビニルエステル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、オレフィン、アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニリデン、ビニルエーテル、及び芳香族ビニル化合物から選ばれる1種又は2種以上である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の印刷用透明シート。
【0011】
[5]前記官能基を有するポリエステル系樹脂が、スルホン酸塩基またはカルボン酸塩基を有するポリエステル系樹脂である、前記[1]または[2]に記載の印刷用透明シート。
【0012】
[6]プラスチックカード用である、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の印刷用透明シート。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた耐熱性、印刷性、透明基材シートとインク受理層との良好な密着性、及び高い透明性を兼ね備えた、プラスチックカードに好適な印刷用透明シートを提供できるといった、きわめて顕著な効果を奏することができる。特に、昇華型直接熱転写方式、或いは昇華型間接熱転写方式などによるカラー印刷適性にきわめて優れ、色トビ、色ブレがなく、良好な濃度を有する印刷ができるといった印刷適性に優れたものとなる。又、前記インク受理層は、透明基材シートと強固に密着し、剥離したり、変質することがない。さらに、シートの搬送性、熱プレス後の金型からの離型性を有し、耐熱性、耐折り曲げ性、耐摩耗性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の、透明基材シートの少なくとも片面にインク受理層を設けた印刷用透明シートを実施するための形態について具体的に説明するが、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
[1]インク受理層を設けた印刷用透明シートの構成:
印刷用透明シートは、透明基材シートの少なくとも片面にインク受理層を設けた構成を有するものである。前記透明基材シートは、ガラス転移温度90℃以上の非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂からなる。そして、透明基材シートは、厚みが50〜200μm、全光線透過率が70%以上である。前記インク受理層は、塩化ビニル共重合体または官能基を有するポリエステル系樹脂からなり、溶剤または水を媒体とする溶液にて前記透明基材シートの片面に乾燥膜厚が1〜20μmの厚さを有する層として構成されてなるものである。
【0016】
本発明のインク受理層を設けた印刷用透明シートは、透明基材シートである非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂からなる厚みが50〜200μmのシートにインク受理層を乾燥膜厚が1〜20μmに塗工・乾燥してなるインク受理層を設けてなる印刷用透明シートである。インク受理層の塗工後の乾燥条件は詳しくは後述するが、一般的にはコンベア式乾燥炉を使用して乾燥温度が60〜120℃、乾燥時間が30秒から10分程度である。透明基材シートの耐熱性が乏しい場合は、インク受理層の塗工後の乾燥工程において透明基材シートの軟化によりシート進行方向に沿って“スジ”が生じたり、“シワ”が生じたりして実用上問題が発生する。このために、本発明の透明基材シートを構成する非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂は、ガラス転移温度90℃以上の非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂であることが必要とされる。ここで、ガラス転移温度90℃未満の非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂からなる透明基材シートでは前述のように、透明基材シートの片面にインク受理層塗工後の乾燥工程において透明基材シートの軟化によりシート進行方向に沿って“スジ”が生じたり、“シワ”が生じたりして実用上問題が発生するため好ましくない。
【0017】
[2]透明基材シート:
本発明の透明基材シートは、非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂を主成分とする透明樹脂であり、更には、ガラス転移温度が90℃以上の非結晶性ポリエステル樹脂を主成分とする透明樹脂からなる。この透明基材シートは、例えば溶融押出成形により成形されるシートから形成される耐熱性に優れる透明シートである。
【0018】
また、この透明基材シートを構成する非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂は、ガラス転移温度90℃以上、好ましくは、100℃以上の非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂が使用される。ガラス転移温度が90℃未満の非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂では耐熱性に劣るため好ましくない。
【0019】
さらに、ガラス転移温度90℃以上の非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂とは、テレフタル酸と1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、及び2,2,4,4−テトラメチルシクロブタン−1,3−ジオール(TMCB)の重縮合体である。この非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂は、ポリエチレンテレフタレート(PET)のジカルボン酸成分及びまたはジオール成分の一部を他の共重合成分で置き換えて、結晶性を低下または消失させたコポリエステルである。そして、加熱プレス等で頻繁に加熱成形加工を行っても、結晶化による白濁や融着性の低下をおこさないものである。また、共重合成分の割合は、せいぜい20〜50モル%である。共重合成分の割合があまり低すぎると、ポリエステル樹脂に結晶性が現われたり、結晶性の程度が高くなり、シートの引張破断伸びや柔軟性が低下する。この非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂は、ジカルボン酸成分とジオール成分とのほぼ等モルの重縮合物である。このガラス転移温度90℃以上の非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂は、前記したように、例えばジオール成分を、1,4−シクロヘキサンジメタノールと2,2,4,4−テトラメチルシクロブタン−1,3−ジオール(TMCB)を使用することにより製造することができる。
【0020】
これに対し、結晶性ポリエステル樹脂は、テレフタル酸とエチレングリコールの重縮合体であり、また、ガラス転移温度が80℃前後の非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂(PETG)は、このエチレングリコールの一部(30モル%程度)を1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)に置換した重縮合体であり、本発明で使用するガラス転移温度90℃以上の非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂とは、構造、製法等が異なるものである。
【0021】
上記した結晶性ポリエステル系樹脂からなるフィルム、シートは、強度と耐熱性に優れる反面、異方性を有する(Tダイからフィルムが成形され、巻取方向(MD)に延伸、結晶化されるので)。そのため、巻取方向(MD)とTダイ幅方向(TD)との強度差がある。その要因にて、結晶性ポリエステル系樹脂からなるフィルム、シートが加熱されたとき、フィルム、シートの収縮に大きな異方性が生じる。また、高結晶性故に融点以下の温度において他の素材との接着性に劣る点と、結晶配向軸方向に裂け易い性質を有する。これに対し、本発明で使用するガラス転移温度90℃以上の非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂は、これらの問題が起こりにくいという特長を備えている。
【0022】
さらに、ガラス転移温度が90℃以上の非結晶性芳香族ポリエステル系としては、例えば、Eastman Tritan copolyester FX100、及びEastman Tritan copolyester FX200(いずれもイーストマンケミカル社製)が商業的に入手可能なものとして挙げられる。本質的に非結晶性で、ガラス転移温度が90℃以上の芳香族ポリエステル系樹脂であれば、その他のグレードの市販品や合成品も使用することができる。
【0023】
なお、透明基材シートは、高い透明性を有していることが重要であるが、透明性を阻害しない範囲で、通常、透明樹脂からなるシートに配合される樹脂、フィラー等を添加配合することについては特に制限はない。
【0024】
また、透明基材シートの厚みは50〜200μmの範囲であることが必要である。透明基材シートの全厚さが50μm未満であると、このような比較的薄い透明基材シートの表面にインク受理層を塗工・乾燥工程において、透明基材シートに縦スジやシワが発生し実用に適さない。一方、透明基材シートの厚さが200μmを超えると、このような厚い透明基材シートをプラスチックICカードのオーバーシートに使用した場合、プラスチックICカードの総厚みがISOにより760μm前後に規定されている厚みを大幅に超えてしまい実用性に乏しい。例えば、非接触式プラスチックICカードにおいては、オーバーシート(透明)/コアシート(白色、印刷)/インレットシート(ICチップ+アンテナを配設したシート)/コアシート(白色、印刷)/オーバーシート(透明)の5層の積層体を例にとると、一般的に、インレットシートは300〜400μmで、コアシート(白色、印刷)は、インレットシートに配設されたICチップ+アンテナが見えない(隠蔽性)ように150〜300μmを使用する場合が多い。そうした場合に、透明基材シートの全厚さが200μmを超えると、この非接触式プラスチックICカードの全厚みは760μm前後を大幅に超えることになる。したがって、実際の使用に供し難く、実用的ではないものとなる。
【0025】
このように透明基材シートの厚みを上記したような所望の範囲とすることにより、インク受理層を形成する塩化ビニル共重合体または官能基を有するポリエステル系樹脂の塗工性・乾燥性のみならず、昇華型直接熱転写印刷性、耐熱性、耐傷性、耐薬品性及び加熱融着性等の優れた特性の両立を図ることができる。
【0026】
[3]インク受理層:
本発明のインク受理層を設けてなる印刷用透明シートにおけるインク受理層は、透明基材シートの少なくとも片面に、層状になって形成される。さらに、この受理層は、塩化ビニル共重合体または官能基を有するポリエステル系樹脂から形成されるとともに、1〜20μmの厚さを有する層として構成される。このように形成されることにより、透明基材シートに設けたインク受理層に、たとえば昇華型直接熱転写方式、或いは昇華型間接熱転写方式などによるカラー印刷を行うことができる。カラー印刷された文字、絵柄などは、色ブレ、色トビがなく、濃度の再現性にも優れたものとなる。加えて、透明基材シートと強固に密着し、剥離したり、変質することがないインク受理層を形成できる。このようなインク受理層を設けた印刷用透明シートを使用することにより、汎用的なカード印刷機である昇華型直接熱転写印刷機を使用してPVC製カード同様に、ブランクカードから所定のカラー印刷を施したプラスチックカードを形成することができる。このインク受理層は、塩化ビニル共重合体または官能基を有するポリエステル系樹脂からなり、溶剤または水を媒体とする溶液にて前記透明基材シートの片面に、乾燥膜厚が1〜20μmに塗工してなるものである。
【0027】
このようなインク受理層を設けることにより、色ブレ、色トビがなく、印刷再現性に優れ、透明基材シートとの密着性に優れ、かつ、文字、図形、記号等が、いわゆるぼけずに、明瞭に、しかも確実に視認可能となる。また、本発明の印刷用透明シートにおけるインク受理層は、1〜20μmの厚さを有する層として構成される。このような所望の厚さを備えることにより、インク受理層が過度に厚くならずに済む。さらに十分な印刷適性を有することができ、プラスチックカードに要求される一般的な厚さ規格に対応するものとなる。すなわち、インク受理層が、前記した所望の厚さ範囲内であることによって、印刷した際の、文字、図形、記号等の鮮明性を確保できる。一方、インク受理層の厚さが、1μm未満であると、十分な印刷適性を得ることが難しい。インク受理層と透明基材シートとの密着性が低下することにより、たとえば、昇華型直接熱転写方式、又は昇華型間接熱転写方式などによる文字、絵柄などが、色ブレしたり、色トビを生じ、濃度の再現性にも劣るようになる。他方、インク受理層の厚さが、20μm超になると、このようなインク受理層を設けた耐熱透明シートをプラスチックICカードに使用した場合、もともとプラスチックICカードに使用される透明オーバーシートは一般的に50〜125μm程度に対して、インク受理層を設けた耐熱透明オーバーシートの総厚みが過度に厚くなりすぎ、例えば、プラスチッックICカードでは、カード全体の厚みがISOで規定されているので、それを超えてしまうので好ましくない。しかも厚くしすぎても、それに見合う印刷適性が得られ難い。
【0028】
ここで、「塩化ビニル共重合体または官能基を有するポリエステル系樹脂からなるインク受理層」とは、透明基材シートに塗工されたときに透明であり、印刷インクの定着性に優れるものである。なお、対象となる印刷方式は昇華型直接熱転写方式、又は昇華型間接熱転写方式があげられ、更に、インクジェツト方式、オフセット印刷方式等、種々の印刷方式を対象とすることができる。
【0029】
前記塩化ビニル共重合体は、塩化ビニルと他のモノマーとの共重合比率が、少なくとも塩化ビニルが30質量%、平均重合度が100〜2000であり、前記塩化ビニル共重合体の塩化ビニル以外の共重合成分が、ビニルエステル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、オレフィン、アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニリデン、ビニルエーテル、及び芳香族ビニル化合物から選ばれる1種又は2種以上である。
【0030】
一方、官能基を有するポリエステル系樹脂が、スルホン酸塩基またはカルボン酸塩基を有するポリエステル系樹脂あり、有機溶剤、水を媒体とする(水)溶液からなり、前記基材に塗工・乾燥してインク受理層を形成することにより、透明基材シートとの密着性に優れ、かつ印刷インクの定着性に優れることから鮮明性と濃度に優れたカラー印刷ができる。
【0031】
前記塩化ビニル共重合体における塩化ビニルの比率(割合)が、30質量%以上、好ましくは50質量%以上が好適である。この比率は、2元共重合体及び3元、或いは、それ以上の多元共重合体の場合においても30質量%以上、好ましくは50質量%以上である。ここで、塩化ビニル成分は印刷インクの定着(インクの受理)に寄与し、その他の成分は有機溶剤への溶解性や水中でのポリマー液滴の分散安定性の寄与及び基材との密着性の寄与であることから、30質量%以上とすることにより、特に、直接熱転写方式印刷により、透明基材シートとの密着性に優れ、発色性と鮮明性に優れた、文字、記号、画像、及び図柄等のカラー印刷を行うことができる。一方、塩化ビニル構造単位の比率が、30質量%未満では、良好な印刷適性を得ることが困難となるからである。なお、塩化ビニル成分の含有量の上限は、85質量%であることが好ましい。あまりにも、塩化ビニル成分の含有量が多くなると、共重合成分の含有量が低くなり、有機溶剤への溶解性が劣るために塗工時の成膜性に劣ることや基材との密着性に劣ることから、基材へのインク受理層形成が阻害される。
【0032】
また、インク受理層を形成する塩化ビニル共重合体の平均重合度は、100〜2000のものが好ましい。このような平均重合度を有する塩化ビニル共重合体を含むインク受理層は、印刷適性に優れ、又、透明基材シートとの密着性も良好である。さらに、平均重合度が100未満のように低すぎると、インク受理層の凝集力が小さくなり印刷層が脆くなることから印刷層のワレ、ハガレが生じて好ましくない。一方、平均重合度が、2000超の塩化ビニル共重合体は、有機溶剤への溶解性または水への分散安定性に劣ることから塗布適性に劣ることから、透明基材シートに塗工した場合に、層形成が適切に行えず、インク受理層として機能しない。
【0033】
ここで、平均重合度とは、単量体がいくつ重合して共重合体を形成しているかを表す値である。塩化ビニルと塩化ビニル以外の共重合成分とが、重合して生成した塩化ビニル共重合体を形成する塩化ビニルと塩化ビニル以外の共重合成分の合計分子数を、塩化ビニル共重合体の分子数で除した値である。なお、上記平均重合度とは、数平均重合度を言う。
【0034】
インク受理層を形成する塩化ビニル共重合体としては、たとえば、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−プロピレン共重合体、塩化ビニル−イソブチレン共重合体等の塩化ビニル−オレフィン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−フッ化ビニル共重合体、塩化ビニル−臭化ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化プロピレン共重合体等の塩化ビニル−プロピレン共重合体等のハロゲン化オレフィン共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−ステアリン酸ビニル共重合体等の塩化ビニル−ビニルエステル共重合体、塩化ビニル−アクリル共重合体等の塩化ビニル−アクリル、若しくはアクリル系誘導体共重合体、エチレン−塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エチレン−塩化ビニル−アクリル酸エチル共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン−塩化ビニル共重合体等の3元、或いは4元共重合体を挙げることができる。また、塩化ビニル共重合体の共重合構造は、ブロック共重合体、グラフト共重合体、或いはランダム共重合体のいずれであってもよい。
【0035】
一方、官能基を有するポリエステル系樹脂としては、スルホン酸塩基またはカルボン酸塩基を含有する水性ポリエステル系樹脂が挙げられ、更に、これら水性ポリエステル系樹脂とビニル系モノマー乳化重合エマルジョン、これら水性ポリエステル系樹脂と共重合アクリル系樹脂との水分散性樹脂組成物、これら水性ポリエステル系樹脂と水性ウレタン樹脂及びポリビニルアルコール(以下PVA)との混合水溶液、水分散液、または、これら混合水溶液、水分散液存在下にて、親水性のラジカル重合性ビニルモノマー及び他のビニルモノマーをグラフト重合して得られるアニオン性グラフトポリマーと側鎖カチオン性第4級アンモニウム塩基を有するビニル共重合体とPVAとの混合により得られる変性カチオン性ポリマーとの混合水溶液、水分散液、等が挙げられる。
【0036】
また、ポリエステル系樹脂の官能基である、スルホン酸塩基としては、スルホン酸基のプロトンが他の陽イオン(例えば金属イオン、有機オニウムイオン等)に置換した基をあげることができ、前記陽イオンは、1価に限定されるものでなく、2価以上のイオンであってもよいことは言うまでもない。さらに、カルボン酸塩基としては、カルボキシル基の水素原子が他の陽イオンで置換した基をあげることができる。
【0037】
上記したスルホン酸塩基を有するポリエステル系樹脂は、たとえば、ポリエステル系樹脂を重合した後、スルホン酸の金属塩等のスルホン酸塩基を含有するジカルボン酸、グリコールを共重合する方法により得ることができる。また、カルボン酸塩基を有するポリエステル系樹脂は、ポリエステル系樹脂に酸無水物を反応させ、カルボキシル基を導入し、ついでアルカリ化合物などで中和し、カルボン酸塩にする方法により得ることができる。
【0038】
さらに、前記基材シートへ好適な塗布、乾燥を行うためには、インク受理層を形成するコート剤(塩化ビニル共重合体または官能基を有するポリエステル系樹脂)が、有機溶剤溶液、水溶液または有機溶剤と水の混合水溶液として使用される。このように溶剤溶液、または水溶液、さらには混合水溶液として構成されることにより、基材シートへ塗工する際に基材表面に薄く塗工しやすくなり、又インク受理層の厚みの調整もし易くなる。
【0039】
なお、塩化ビニル共重合体または官能基を有するポリエステル系樹脂を含むインク受理層を形成する共重合体またはポリエステル系樹脂を溶解させて使用することができる有機溶剤としては、エチルセロソルブ(2−エトキシエタノール)、ブチルセロソルブ(2−n−ブトキシエタノール)、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、メチルエチルケトン、イソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、ジオキサン、シクロヘキサノン、等を挙げることができる。この有機溶剤は、使用に際しては、1種に限定されるものではなく、2種、もしくはそれ以上を混合して使用することができる。
【0040】
また、前記したように有機溶剤と水の混合水溶液として使用するの場合の有機溶剤と水との混合比については特に制限がなく、インク受理層の厚みの調整のし易さ、インク受理層の薄さ等を考慮し決定することが好ましい。
【0041】
前記インク受理層を形成する共重合体またはポリエステル系樹脂は、上記したように有機溶剤溶液、又は水溶液として使用することが必要とされるが、その際の固形分濃度は、20〜60質量%の範囲とすることが好ましい。20質量%未満であると、所望の乾燥膜厚を得るのに数回の重ね塗りが必要となり工数がかかり、逆に60質量%を超えると均一な塗工がし難くなるからである。
【0042】
塩化ビニル共重合体または官能基を有するポリエステル系樹脂を含むインク受理層を形成する剤を、後述の単層シートの片面への塗工は、公知の塗工方法により塗工し、インク受理層を形成することができる。たとえば、溶剤、または水に溶解、または分散させた塗工液を調製し、この調整塗工液をグラビアコーティング等の公知の方法により塗布・乾燥し、インク受理層を形成する方法を挙げることができる。
【0043】
なお、塗布後の乾燥温度は、使用する透明基材シートの耐熱性及びインク受理層を形成する塩化ビニル共重合体または官能基を有するポリエステル系樹脂を塗工するときに用いるの溶媒(有機溶剤や水)種に応じて決められるが、概ね60〜120℃が好ましい。又、乾燥時間についても基材シートの乾燥温度によるダメージを考慮すると、比較的低い温度で長い乾燥時間が好ましいが、工業的生産を考慮すると、通常、数10秒〜10数分であるが、1分弱から数分が生産性の点から好ましい。このような乾燥条件で乾燥を行うことにより、透明基材シートに、インク受理層を強固に密着させて形成することができる。一方、塗布後の乾燥温度が60℃未満では、インク受理層を形成する塩化ビニル共重合体または官能基を有するポリエステル系樹脂の有機溶剤や水の乾燥性に問題があり、インク受理層に有機溶剤や水が残留するために、インク受理層に粘着性が生じたり、インク受理層の凝集力が大幅に低下して機能が大幅に低下し実用に適さない。他方、塗布後の乾燥温度が120℃を超えると、有機溶剤や水の蒸発が激しくなるために乾燥後のインク受理層にボイドやクラックを発生させるおそれがある。また、透明基材シートの軟化を生じて透明基材シートに縦すじを発生させ好ましくない。なお、この乾燥時間は、乾燥温度にも依存するが、前述のような所望の乾燥時間とすることにより、透明基材シートに、べたつきのない、強固なインク受理層を形成できる。一方、乾燥時間が短すぎると、乾燥温度を必要以上に高くする必要があり、乾燥後のインク受理層にボイドやクラックを発生させるおそれがあることや、透明基材シートの軟化を生じて基材シートに縦すじを発生させ好ましくない。
【0044】
[4]滑剤:
また、本実施形態では、耐熱透明シートに滑剤を含有させることが好ましい。滑剤を含有させることにより、成形加熱プレス時にプレス板への融着を防ぐことができるからである。滑材としては、脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド及び脂肪酸金属塩が挙げられ、それらから選ばれる少なくとも1種の滑剤が添加されることが好ましい。
【0045】
上記した脂肪酸エステル系滑剤としては、ブチルステアレート、セチルパルミレート、ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライド、ステアリン酸トリグリセライド、モンタンワックス酸のエステル、ロウエステル、ジカルボン酸エステル、複合エステル等が挙げられる。また脂肪酸アマイド系滑剤としては、ステアリン酸アマイド及びエチレンビスステアリルアマイド等が挙げられる。さらに脂肪酸金属塩系滑剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミウム及びステアリン酸バリウム等が挙げられる。
【0046】
[5]酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、及び光安定剤:
更に、本実施形態では、必要に応じて、酸化防止剤、及び着色防止剤の少なくとも1種、及び、紫外線吸収剤及び光安定剤の少なくとも1種を含有させることも好ましい。酸化防止剤及び着色防止剤の少なくとも1種を添加(配合)することは、成形加工時における分子量低下による物性低下及び色相安定化に有効に作用する。ここで、この酸化防止剤及び着色防止剤の少なくとも1種としては、フェノール系酸化防止剤や亜燐酸エステル系着色防止剤が使用される。又、紫外線吸収剤及び光安定剤の少なくとも1種を添加(配合)することは、プラスチックカード用としての実際の使用時における耐光劣化性を抑制に有効に作用する。このような紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物及び環状イミノエステル系化合物等を使用することができる。上記酸化防止剤としては、たとえばフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等を使用することができる。
【0047】
フェノール系酸化防止剤としては、たとえば、α−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3−5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン;ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−ジメチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−4−クレゾール)、2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−ブチリデン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、1,6−へキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2−t−ブチル−4−メチル6−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’−ジ−チオビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−トリ−チオビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2−チオジエチレンビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス2[3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート及びテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタン等を挙げることができる。
【0048】
なお、これらの例示の中でも、とりわけ、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンが好適であり、特にn−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好適である。上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、単独又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0049】
また、着色防止剤としては、亜燐酸エステル系化合物を挙げることができ、たとえばトリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−iso−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト及びジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイト等が例示される。
【0050】
更に、着色防止剤における他のホスファイト化合物としては、二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。たとえば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)(2−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)(2−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト及び2,2’−エチリデンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)(2−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト等を挙げることができる。
【0051】
上記した着色防止剤の中でもトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトが、純度が極めて高く、耐加水分解性、耐揮散性に優れることから特に好ましい。亜燐酸エステル系着色防止剤は、1種もしくは2種以上を混合して用いてもよい。また、フェノール系酸化防止剤と併用してもよい。
【0052】
前述の紫外線吸収剤である、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物及び環状イミノエステル系化合物としては、以下のものを具体的に例示できる。
【0053】
まず、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、たとえば2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)フェニルベンゾトリアゾール、2,2’メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、メチル−3−[3−t−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート−ポリエチレングリコールとの縮合物に代表される化合物を挙げることができる。
【0054】
また、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合紫外線吸収剤としては、たとえば2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノール及び2−(4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノール等を挙げることができる。
【0055】
更に、環状イミノエステル系化合物紫外線吸収剤としては、たとえば2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−2−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)及び2,2’−4,4’−ジフェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)等を挙げることができる。
【0056】
また、光安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ポリ{[6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)イミノ]}及びポリメチルプロピル3−オキシ−[4−(2,2,6,6−テトラメチル)ピペリジニル]シロキサン等に代表されるヒンダードアミン系化合物も使用することができ、かかる光安定剤は前記紫外線吸収剤や場合によっては各種酸化防止剤との併用において、耐候性などの点においてより良好な性能を発揮する。
【0057】
さらに好ましくは、透明基材シートがガラス転移温度90℃以上の非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、滑剤0.01〜3質量部含んでなる非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂組成物からなり、更に非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂100質量部に対して、酸化防止剤及び着色防止剤の少なくとも1種を0.1〜5質量部含み、及び紫外線吸収剤及び光安定剤の少なくとも1種を0.1〜5質量部含むことである。
【0058】
ここで、滑剤の添加量としては0.01〜3質量部、好ましくは0.05〜1.5質量部である。0.01質量部未満では加熱プレス時にプレス板に融着してしまい、3質量部を超えるとカードの多層積層加熱プレス時に層間熱融着性に問題が生じるため好ましくない。更に、酸化防止剤、及び着色防止剤の少なくとも1種の添加量が0.1質量部未満では、溶融押出成形にてシート成形工程での非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂の熱酸化反応、及びそれに起因する熱変色といった不具合が生じやすい。また、5質量部を超えると、これら添加剤のブリードといった不具合が生じやすいため好ましくない。更に、紫外線吸収剤、及び光安定剤の少なくとも1種の添加量が、0.1質量部未満では、その効果に乏しく耐光劣化、それに伴う変色といった不具合が生じやすい。さらに、5質量部を超えると、これら添加剤のブリードといった不具合が生じやすいため好ましくない。
【0059】
[6]透明基材シートの成形方法:
本発明において、透明基材シートを得るには、たとえば樹脂組成物を溶融押出成形する方法を採用することができる。
【0060】
具体的には、樹脂組成物を必要に応じてペレット状にしてTダイ付溶融押出成形機に投入し、押出温度180〜250℃にてTダイから溶融押出したシートを多段ロールにて所定の温度に制御した後、冷却固化して所定厚さのシートを製造する。なお、本発明の耐熱を有する透明基材シートの製造方法は、上記方法に限定されることなく、公知の方法により形成することができる。たとえば、特開平10−71763号第(6)〜(7)頁の記載に従って得ることができる。
【0061】
[7]全光線透過率:
さらに、透明基材シートの全光線透過率が70%以上であることが好ましく、より好ましいのは85%以上である。たとえば、本発明のインク受理層を形成した印刷用透明シートをプラスチックICカード用の積層体シートに使用する場合には、それらの用途では印刷を施すことが一般的である。そのため、本実施形態のインク受理層を形成した印刷用透明シートをプラスチックICカードのオーバーシートに使用すると、その下部に位置するシート(コアシート(白))に、たとえば文字、図形等の印刷を施した印刷コアシート、(以下、文字、図形等の印刷を施した白色シートの印刷を、適宜「印刷部」という)を加熱積層してブランクカードを製造するために、最外層であるインク受理層を形成した印刷用透明シートはその下層に印刷部の視認性が要求されるために、インク受理層を形成した印刷用透明シートには高い透明性が要求される。例えば、プラスチックICカードの一例を挙げると、インク受理層を形成した印刷用透明シート/コアシート(白色)/インレット/コアシート(白色)/インク受理層を形成した印刷用透明シートの5枚のシートを重ねて真空プレス機などにより加熱積層させた後、打ち抜いてカードを作製(ブランクカード)する。ついで、直接熱転写印刷機を用いてブランクカードに画像や文字、記号などをカラー印刷した後、通常は保護コートされ、プラスチックICカードが得られる。
【0062】
また、他の例として、コアシート(白色)の片面に、オフセット印刷等にて固定情報をカラー印刷した後、インク受理層を形成した印刷用透明シート/コアシート(印刷)/インレット/コアシート(印刷)/インク受理層を形成した印刷用透明シートの5枚のシートを重ねて真空プレス機などにより加熱積層させた後、打ち抜いてカードを作製(ブランクカード)する。例えば、人物画像等の個人情報を、直接熱転写印刷機を用いてカードにカラー画像を印刷した後、通常は保護コートされ、プラスチックICカードが得られる。
【0063】
ここで、「全光線透過率」とは、シート、フィルム、膜等に入射した光のうち、透過する光の割合を示す指標であり、入射した光がすべて透過する場合の全光線透過率は100%である。なお、本明細書中の、「全光線透過率」は、JIS K7105(光線透過率、及び全光線反射率)に準拠して測定した値を示したものであり、この全光線透過率の測定は、たとえば、日本電色工業製のヘイズメーター(商品名:「NDH 2000」)、分光光度計(商品名「EYE7000」マクベス社製)等を用いて測定することができる。
【0064】
上記した直接熱転写カラー印刷方式は、昇華型インクリボン(染料系)をブランクカードに押し付けて加熱して昇華型インクをカード表面に転写した後、保護透明コーティングを施す方式であって、この一連の処理が1台の装置系でできるようになっている。一方、間接熱転写カラー印刷方式は、昇華型インクリボン(顔料系)をPETフィルムに上記と同様の原理で転写した後、昇華型インクが転写されたPETフィルムをブランクカードに貼り付けるか、昇華型インクが転写されたPETフィルムをブランクカードに押し付けて加熱して昇華型インクをカード表面に転写した後、保護透明コーティングを施す方法であって、直接熱転写カラー印刷は、染料系インクのため発色が鮮明できれいであり、廃棄されるのはインクリボンのリボンのみに対して、間接熱転写カラー印刷方式は、顔料系インクのため発色があまり鮮明でなく、昇華型インクが転写されたPETフィルム毎にブランクカードに貼り付ける方式では、PETフィルムが少なくとも20μm程度を有するので厚みが増すこと等の問題がある。また、間接熱転写カラー印刷の後者の方式では、一度転写したPETフィルムを廃棄することになり、また、かなり工程が煩雑で生産性に問題がある。
【0065】
[8]着色剤:
本発明の透明基材シートを形成するポリエステル系樹脂100質量部に対して、染料、顔料等の樹脂の着色剤の少なくとも1種以上を1質量部以上を含有させることが好ましい。即ち、プラスチックICカードは、前記したように、オーバーシート/コアシート/インレットシート/コアシート/オーバーシートの構成からなる。更に、コアシートには固定情報として画像等を、オフセット印刷等を使用してカラー印刷されることが一般的である。そのコアシートにカラー印刷された画像等の視認性からも淡彩色や特に白が望ましい。
【0066】
この着色系染料、顔料等の樹脂の着色剤としては、白色顔料として酸化チタン、酸化バリウム、酸化亜鉛、黄色顔料として酸化鉄、チタンイエロー、赤色顔料として、酸化鉄、青色顔料としてコバルトブルー群青などが挙げられる。ただし、コントラスト性を高めるため、薄い色付、淡彩色系となるものが好ましい。
【0067】
着色系染料、顔料の中でも、より好ましいのはコントラスト性の際立つ、白色系染料、顔料等の樹脂の着色剤が添加されることである。
【0068】
[9]プラスチックカード用:
さらに、本実施形態におけるインク受理層を形成してなる印刷用透明シートは、プラスチックカード用に好適に用いることができる。
【0069】
ここで、本発明のインク受理層を形成してなる印刷用透明シートを応用することができるプラスチックカードとしては、たとえば、各種IDカードや健康保険カード、ETCカード等の交通カード、銀行カード、クレジットカード、各種会員カード等の各種ICカードを挙げることができる。ただし、これらはあくまでも例示であって、これに限定されるものではない。
【0070】
一般的なプラスチックICカードにおいては、前記のように汎用的な画像等をコアシートの片面にオフセット印刷等にてカラー印刷を施した後、インク受理層を形成してなる印刷用透明シートをオーバーシートに使用し、インレットシート等と加熱積層した後、所定のカードサイズに裁断してブランクカードを製造する。その後、汎用的には昇華型直接熱転写方式カードプリンターによりカラー印刷を行う方法が採用されている。更に、インク受理層を形成してなる印刷用透明シートをオーバーシートに使用し、白色コアシート(未印刷)、インレットシート等と加熱積層した後、所定のカードサイズに裁断して白色ブランクカードを製造する。その後、汎用的には昇華型直接熱転写方式カードプリンターによりカラー印刷を行う方法が採用されている。
【0071】
前記したように、直接熱転写カラー印刷は、昇華型インクリボン(染料系)をブランクカードに押し付けて加熱して昇華型インクをカード表面に転写した後、保護透明コーティングを施す方法がある。一方、間接熱転写カラー印刷は、昇華型インクリボン(顔料系)をPETフィルムに上記同様の原理で転写した後、昇華型インクが転写されたPETフィルムをブランクカードに貼り付けるか、昇華型インクが転写されたPETフィルムをブランクカードに押し付けて加熱して昇華型インクをカード表面に転写した後、保護透明コーティングを施す方法がある。直接熱転写カラー印刷は、染料系インクのため発色が鮮明できれいで、廃棄されるのはインクリボンのリボンのみに対して、間接熱転写カラー印刷は、顔料系インクのため発色があまり鮮明でなく、昇華型インクが転写されたPETフィルム毎にブランクカードに貼り付ける方式ではPETフィルムが少なくとも20μm程度の厚さを有するので、全体の厚みが増すこと、一度転写したPETフィルムを廃棄することになり、廃棄物としての問題もある。これに対して、本発明のインク受理層を形成してなる印刷用透明シートをオーバーシートに使用することにより、既にPVC製カードで汎用的に使用されている昇華型直接熱転写カラープリンターを使用することができ、間接熱転写カラー印刷のようなPETフィルムが多量に廃棄される問題もなく、所望のカラー画像がカード上に印刷できることからその使用価値を格段に上げることができる。
【0072】
[10]マット加工
インク受理層を形成してなる印刷用透明シート、コアシート、及び他のシート表面には、平均粗さ(Ra)0.1〜5μmのマット加工が施されていることが好ましい。このように、前述のそれぞれのシート表面に、適宜選択的に、マット加工を形成する理由は、プラスチックカードの加熱積層する際、コアシートの片面にオフセット印刷によりカラー印刷を施す工程があるが、この工程においてシートをコンベアにて搬送、印刷機に投入するが、適切なマット加工を施していないとシートのすべりが悪くシートの搬送に問題を生じる。更に他のシートも同様に搬送工程での搬送性に問題が生じて量産化に支障をきたす。また、複数枚の各種シートを加熱積層する工程においては、各シート間の気泡が抜けにくくカード表面の“フクレ”等が発生して問題を生じる。
【0073】
シート表面の平均粗さ(Ra)が0.1μm未満では前述したようにシート搬送性の問題及び加熱積層時の“気泡”問題が生じるが、マット加工の平均粗さ(Ra)が5μmを超えると、コアシートでは印刷性に問題を生じ、オーバーシートでは加熱積層工程においてシート表面のマット加工が加熱・加圧でつぶれて鏡面にならず、カードやデータページ表面に凹凸が残り、カラー印刷画像の視認性が低下して好ましくない。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量部及び質量%を意味する。又実施例における各種の評価、測定は、下記のような方法により評価、測定した。
【0075】
[1]インク受理層を設けた印刷用透明シートの透明性:
実施例1〜6、比較例1〜5の印刷用透明シートE〜Tにつき、分光光度計(商品名「NDH 2000」日本電色工業製)を用いて各々のシートの全光線透過率を測定し、下記の評価レベルにてシートの透明性を判定した。
◎:全光線透過率80%以上、光の透過性がきわめて良好、
○:全光線透過率60%以上80%未満、光の透過性が良好、
×:全光線透過率60%未満、光の透過性が劣る。
【0076】
[2]インク受理層と透明基材シートとの密着性:
実施例1〜6、比較例1〜5の印刷用透明シートE〜Tにつき、インク受理層と透明基材シートとの密着性を、JIS K 5600に準拠して碁盤目試験(格子パターン:25ます)を行い、下記の評価レベルにてインク受理層と基材シートとの密着性を評価した。
◎ :全く剥離なし、密着性がきわめて良好、
○ :剥離5個以内、密着性が良好、
△ :剥離10個以内、密着性がやや良好、
× :剥離10〜20個、密着性が悪い、
××:全部剥離、密着性がきわめて悪い。
【0077】
[3]カラー印刷性:
実施例1〜6、比較例1〜5の印刷用透明シートE〜Tをオーバーシートに、製造例2で製造したシートBをコアシートとして、オーバーシート/コアシート/コアシート/オーバーシートの層構成となるように、ロータリー真空プレス機(日精樹脂工業製)を用いて、加熱温度160℃、面圧10Mpaにて、タクトタイム2分間にて総厚みが約700μmになるようにプレスした。プレス後打ち抜いてブランクカードを得た。これらのブランクカードを両面カードプリンター(ニスカ(株)製 製品名 PR5350)を用いてカラー印刷を行い、印刷の状況を肉眼で観察し、下記の評価レベルにて目視評価した。
○:色ぶれ、色とびはない、若干濃度が薄いが良好なカラー印刷、
△:色ぶれ、色とびはないが、濃度が薄い、カラー印刷性に劣る、
×:色ぶれ、色とびがみられ、濃度が極端に薄い、カラー印刷性にきわめて劣る。
【0078】
(製造例1)単層シートA:透明単層シート
非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂(商品名「Eastman Tritan copolyester FX100」イーストマンケミカル(株)製、ガラス転移温度110℃)100部、滑剤としてステアリン酸カルシウム0.1部を配合し、Tダイ付押出機により、シートの総厚さ100μm、シート両面の平均表面粗さ(Ra)を0.5〜1.8μmになるようマット加工をして単層シートAを得た。
【0079】
(製造例2)単層シートB:透明単層シート
非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂(商品名「Eastman Tritan copolyester FX200」イーストマンケミカル(株)製、ガラス転移温度119℃)100部、滑剤としてステアリン酸カルシウム0.1部を配合し、Tダイ付押出機により、シートの総厚さ100μm、シート両面の平均表面粗さ(Ra)を0.5〜1.8μmになるようマット加工をして単層シートBを得た。
【0080】
(製造例3)単層シートC:透明単層シート
非結晶性ポリエステル系樹脂(商品名「Eastar コポリエステル6763」イーストマンケミカル(株)製、ガラス転移温度80℃)100部、滑剤としてステアリン酸カルシウム0.1部を配合し、Tダイ付押出機により、シートの総厚さ100μm、シート両面の平均表面粗さ(Ra)を0.5〜1.8μmになるようマット加工をして単層シートCを得た。
【0081】
(製造例4)単層シートD:白色単層シート
非結晶性ポリエステル系樹脂(商品名「Eastar コポリエステル6763」イーストマンケミカル(株)製、ガラス転移温度80℃)100部、滑剤としてステアリン酸カルシウム0.1部及び酸化チタン15部を配合し、Tダイ付押出機により、シートの総厚さ300μm、シート両面の平均表面粗さ(Ra)を0.5〜1.8μmになるようマット加工をして単層シートDを得た。
【0082】
上述の製造例1〜3の透明シートを用いて、インク受理層を形成する塗工剤を塗工した透明シートE〜Rを得た。
【0083】
〔実施例1〕(インク受理層を形成してなる印刷用透明シートE)
基材シートとして、製造例1で製造した単層シートA(厚さ100μm)を使用した。塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(日信化学工業(株)製、ソルバインCN(塩化ビニル/酢酸ビニル含有量=89/11、重合度=750)を、エチルセロソルブ/ブチルセロソルブ/ジオキサン=1/1/2(質量比)混合溶媒にて溶解させて固形分濃度20%のインク受理層形成剤(塗工液)を調製した。オートマチックフィルムアプリケータ((株)安田精機製作所製)を用いて、上記単層シートAの片面に上記で調製した塗工液を塗工した後、温度110℃で乾燥して、乾燥後の平均塗膜厚みが6〜8μmのインク受理層を形成した印刷用透明シートEを得た。
【0084】
〔実施例2〕(インク受理層を形成してなる印刷用透明シートF)
基材シートとして、製造例1で製造した単層シートA(厚さ100μm)を使用した。塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体エマルジョン(日信化学工業(株)、ビニブラン603(塩化ビニル/酢酸ビニル含有量=70/30、固形分濃度=50%)を、エチルセロソルブ/ブチルセロソルブ=1/1混合溶媒にて希釈して固形分濃度20%のインク受理層形成剤(塗工液)を調製した。オートマチックフィルムアプリケータ((株)安田精機製作所製)を用いて、上記単層基材シートAの片面に上記で調製した塗工液を塗工した後、温度110℃で乾燥して、乾燥後の平均塗膜厚みが6〜8μmのインク受理層を形成した印刷用透明シートFを得た。
【0085】
〔実施例3〕(インク受理層を形成してなる印刷用透明シートG)
基材シートとして、製造例1で製造した単層シートA(厚さ100μm)を使用した。塩化ビニル−アクリル共重合体エマルジョン(日信化学工業(株)製、ビニブラン690(塩化ビニル/アクリル含有量=80/20、固形分濃度=54%)を、エチルセロソルブ/ブチルセロソルブ=1/1(質量比)混合溶媒にて希釈して固形分濃度20%のインク受理層形成剤(塗工液)を調製した。オートマチックフィルムアプリケータ((株)安田精機製作所製)を用いて、上記単層シートAの片面に上記で調製した塗工液を塗工した後、温度110℃で乾燥して、乾燥後の平均塗膜厚みが6〜8μmのインク受理層を形成した印刷用透明シートGを得た。
【0086】
〔実施例4〕(インク受理層を形成してなる印刷用透明シートH)
基材シートとして、製造例1で製造した単層シートA(厚さ100μm)を使用した。エチレン−塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体エマルジョン(住化ケムテックス(株)製、スミカフレックスS−830(エチレン/塩化ビニル/酢酸ビニル含有量=20/50/30、固形分濃度=50%)を、エチルセロソルブ/ブチルセロソルブ=1/1(質量比)混合溶媒にて希釈して固形分濃度20%のインク受理層形成剤(塗工液)を調製した。オートマチックフィルムアプリケータ((株)安田精機製作所製)を用いて、上記単層シートAの片面に上記で調製した塗工液を塗工した後、温度110℃で乾燥して、乾燥後の平均塗膜厚みが6〜8μmのインク受理層を形成した印刷用透明シートHを得た。
【0087】
〔実施例5〕(インク受理層を形成してなる印刷用透明シートJ)
基材シートとして、製造例1で製造した単層シートA(厚さ100μm)を使用した。スルホン酸塩基含有ポリエステル系樹脂溶液(高松油脂(株)製、ペスレジンA−1120、イソプロピルアルコール26wt%/n−プロピルアルコール12wt%/水42wt%混合溶媒、固形分濃度=20%)をオートマチックフィルムアプリケータ((株)安田精機製作所製)を用いて、上記単層シートAの片面に上記で調製した塗工液を塗工した後、温度110℃で乾燥して、乾燥後の平均塗膜厚みが6〜8μmのインク受理層を形成した印刷用透明シートJを得た。
【0088】
〔実施例6〕(インク受理層を形成してなる印刷用透明シートK)
基材シートとして、製造例2で製造した単層シートB(厚さ100μm)を使用した。塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(日信化学工業(株)製、ソルバインCN(塩化ビニル/酢酸ビニル含有量=89/11、重合度=750)を、エチルセロソルブ/ブチルセロソルブ/ジオキサン=1/1/2(質量比)混合溶媒にて溶解させて固形分濃度20%のインク受理層形成剤(塗工液)を調製した。オートマチックフィルムアプリケータ((株)安田精機製作所製)を用いて、上記単層シートAの片面に上記で調製した塗工液を塗工した後、温度110℃で乾燥して、乾燥後の平均塗膜厚みが6〜8μmのインク受理層を形成した印刷用透明シートKを得た。
【0089】
〔比較例1〕(インク受理層を形成してなる印刷用透明シートP)
基材シートとして、製造例1で製造した単層シートA(厚さ100μm)を用いた。水分散ポリエステル樹脂(東洋紡績(株)製、バイロナールMD−1200(固形分濃度34%、ブチルセロソルブ11%)を、オートマチックフィルムアプリケータ((株)安田精機製作所製)を用いて、上記単層基材シートAの片面に塗工した後、温度110℃で乾燥して、乾燥後の平均塗膜厚みが6〜8μmのインク受理層を形成した印刷用透明シートPを得た。
【0090】
〔比較例2〕(インク受理層を形成してなる印刷用透明シートQ)
基材シートとして、製造例1で製造した単層シートA(厚さ100μm)を用いた。アクリルエマルジョン(高松油脂(株)、試作品SNX−25(固形分濃度37%)を、エチルセロソルブ/ブチルセロソルブ=1/1(質量比)混合溶剤を加えて希釈し、固形分濃度22%の塗工液を調製した。オートマチックフィルムアプリケータ((株)安田精機製作所製)を用いて、上記単層シートAの片面に塗工した後、温度110℃で乾燥して、乾燥後の平均塗膜厚みが6〜8μmのインク受理層を形成した印刷用透明シートQを得た。
【0091】
〔比較例3〕(インク受理層を形成してなる印刷用透明シートR)
基材シートとして、製造例1で製造した単層シートA(厚さ100μm)を用いた。塩化ビニル重合体エマルジョン(日信化学工業(株)、ビニブラン985(固形分濃度37%)を、エチルセロソルブ/ブチルセロソルブ=1/1混合溶剤を加えて希釈し、固形分濃度22%に調整した後、この塗工液を、オートマチックフィルムアプリケータ((株)安田精機製作所製)を用いて、上記単層シートAの片面に塗工した後、温度110℃乾燥して、乾燥後の平均塗膜厚みが6〜8μmのインク受理層を形成した印刷用透明シートを得た。
【0092】
〔比較例4〕(インク受理層を形成してなる印刷用透明シートS)
基材シートとして、製造例3で製造した単層シートC(厚さ100μm)を使用した。塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(日信化学工業(株)製、ソルバインCN(塩化ビニル/酢酸ビニル含有量=89/11、重合度=750)を、エチルセロソルブ/ブチルセロソルブ/ジオキサン=1/1/2(質量比)混合溶媒にて溶解させて固形分濃度20%のインク受理層形成剤(塗工液)を調製した。オートマチックフィルムアプリケータ((株)安田精機製作所製)を用いて、上記単層シートAの片面に上記で調製した塗工液を塗工した後、温度110℃で乾燥して、乾燥後の平均塗膜厚みが6〜8μmのインク受理層を形成してなる印刷用透明シートSを得た。
【0093】
〔比較例5〕(インク受理層無透明耐熱シート、印刷用透明シートT)
基材シートとして、製造例1で製造した単層シートA(厚さ100μm)をそのまま使用した。
【0094】
上述の実施例1〜6で得た印刷用透明シートE〜H、J〜Kつき、各種評価を行った。その結果を表1に示す。また比較例1〜5で得た印刷用透明シートP〜Tにつき、各種評価を行った。その結果を表2に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
(考察)
表1、2に示すように、実施例1〜6におけるインク受理層を形成してなる印刷用透明シートは、高い全光線透過率を有し透明性に優れ、インク受理層と基材シートとの密着性に優れるものであった。さらに昇華型直接熱転写カラー印刷において、色ブレ、色トビがなく、十分な濃度であり、良好な印刷適性を有していることを確認した。これに対し、比較例1の印刷用透明シートは、高い全光線透過率を有し透明性に優れ、インク受理層と基材シートとの密着性に優れるものであるが、カラー印刷において、色ブレ、色トビがみられたり、又濃度が不十分なものであり、カラー印刷性に劣るものであった。また比較例2の印刷用透明シートは、透明性とインク受理層と基材シートとの密着性が良好であるものの、カラー印刷性に劣るものであった。比較例3の印刷用透明シートは、インク受理層と基材シートとの密着性が極端に劣り、基材シート上にインク受理層が成膜しなかった。比較例4の印刷用透明シートは、基材シートの耐熱性に乏しく、インク受理層の塗工・乾燥工程にてシートに“シワ”が無数に生じて実用性に劣るものであった。さらに、比較例5はインク受理層を基材上に形成しない例であり、カラー印刷性に劣るものである。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、昇華型熱転写印刷により、発色性と鮮明性に優れたカラー印刷ができるインク受理層を形成してなる耐熱性に優れた印刷用透明シートであり、プラスチックカードなどに適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材シートの少なくとも片面にインク受理層を設けた印刷用透明シートであって、
前記透明基材シートは、ガラス転移温度90℃以上の非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂からなり、厚みが50〜200μm、全光線透過率が70%以上であるシートとして構成され、
前記インク受理層は、塩化ビニル共重合体または官能基を有するポリエステル系樹脂からなり、溶剤または水を媒体とする溶液にて前記透明基材シートの片面に、乾燥膜厚が1〜20μmの厚さを有する層として構成されてなる、印刷用透明シート。
【請求項2】
前記透明基材シートが、ガラス転移温度90℃以上の非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂100質量部、滑剤0.01〜3質量部からなる非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂組成物からなり、更に、酸化防止剤及び/または着色防止剤0.1〜5質量部、及び紫外線吸収剤及び/または光安定剤0.1〜5質量部含有してなる、請求項1に記載の印刷用透明シート。
【請求項3】
前記塩化ビニル共重合体は、塩化ビニルと他のモノマーとの共重合比率が、少なくとも塩化ビニルが30質量%、平均重合度が100〜2000である、請求項1または2に記載の印刷用透明シート。
【請求項4】
前記塩化ビニル共重合体の塩化ビニル以外の共重合成分が、ビニルエステル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、オレフィン、アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニリデン、ビニルエーテル、及び芳香族ビニル化合物から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の印刷用透明シート。
【請求項5】
前記官能基を有するポリエステル系樹脂が、スルホン酸塩基またはカルボン酸塩基を有するポリエステル系樹脂である、請求項1または2に記載の印刷用透明シート。
【請求項6】
プラスチックカード用である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の印刷用透明シート。

【公開番号】特開2013−1088(P2013−1088A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137859(P2011−137859)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(591258587)日本カラリング株式会社 (36)
【Fターム(参考)】