説明

印刷装置の製造方法、印刷装置、及び、印刷方法

【課題】拡張可能な色再現範囲の方向を的確に評価して色変換ルックアップテーブルを作成する技術を提供する。
【解決手段】第1の色空間において、インク量セットとの対応関係が既に決定された格子点が処理対象格子点を挟むように少なくとも2つ存在する場合には、第2の色空間において、2つの格子点に対応する第2の色空間中の2つの座標を結ぶ直線に平行な法線ベクトルを有するとともに処理対象格子点に対応する第2の色空間中の座標を通る平面を求める。そして、第2の色空間の所定の基準点から平面に引いた垂線と平面との交点を第1の交点として求め、インク量セットの候補に対応する第2の色空間中の座標から平面に引いた垂線と前記平面との交点を第2の交点として求める。そして、第1の交点と前記第2の交点との間のユークリッド距離に基づいて評価値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置のための色変換処理を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
画像の出力装置として、カラーインクジェット式印刷装置が広く普及している。カラーインクジェット式の印刷装置では、第1の表色系によって表現された画像データの色値を、インクの種類に対応した第2の表色系の色値に変換する色変換処理が行われる。この色変換処理では、第1の表色系の色値と第2の表色系の色値とが対応付けられた色変換ルックアップテーブル(以下、単に「色変換LUT」ともいう)が参照される。
【0003】
色変換ルックアップテーブルを作成する技術として、例えば、特許文献1には、各色のインク量に応じて変化する様々な評価指数を用いて色変換ルックアップテーブルを作成することが開示されている。このような評価指数として、例えば、インクの粒状性やインク量の変化の滑らかさなどを数値として表す様々な評価指数が用いられている。しかし、インクによって拡張可能な色再現範囲の方向を的確に評価して色変換ルックアップテーブルを作成する技術については、なお検討の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−511161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の問題を考慮し、本発明が解決しようとする課題は、インクによって拡張可能な色再現範囲の方向を的確に評価して色変換ルックアップテーブルを作成することのできる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]第1の色空間中の色を、印刷装置で使用可能な複数のインクの量の組合せであるインク量セットに変換するための色変換ルックアップテーブルが記録された記憶部を備える印刷装置の製造方法であって、前記第1の色空間を構成する格子点の中から、前記インク量セットを対応付ける格子点を処理対象格子点として選択する選択工程と、前記処理対象格子点に対応付けるインク量セットの候補を決定する候補決定工程と、前記インク量セットの候補が表すインク量に基づいて、前記処理対象格子点に対応づけるインク量セットを決定するための評価値を算出する算出工程と、前記算出された評価値に基づいて、前記インク量セットの候補の中から、前記処理対象格子点に対応づけるインク量セットを決定し、前記決定したインク量セットを前記処理対象格子点に対応付けて前記色変換ルックアップテーブルに記録するインク量セット決定工程と、前記処理対象格子点と前記インク量セットとの対応付けが行われた前記色変換ルックアップテーブルを、前記印刷装置が備える前記記憶部に記憶させる記憶工程と、を備え、前記算出工程では、前記処理対象格子点と前記インク量セットとの対応関係が既に決定された格子点が前記処理対象格子点を挟むように少なくとも2つ存在する場合に、第2の色空間において、前記2つの格子点に対応する前記第2の色空間中の2つの座標を結ぶ直線に平行な法線ベクトルを有するとともに前記処理対象格子点に対応する前記第2の色空間中の座標を通る平面を求め、前記第2の色空間の所定の基準点から前記平面に引いた垂線と前記平面との交点を第1の交点として求め、前記インク量セットの候補に対応する前記第2の色空間中の座標から前記平面に引いた垂線と前記平面との交点を第2の交点として求め、前記第1の交点と前記第2の交点との間のユークリッド距離に基づいて前記評価値を算出する、印刷装置の製造方法。
【0008】
この方法によれば、色変換ルックアップテーブルの処理対象格子点に対応付けるインク量セットを決定する際に、処理対象格子点とインク量セットとの対応関係が既に決定された格子点が処理対象格子点を挟むように少なくとも2つ存在する場合には、第2の色空間において、2つの格子点に対応する第2の色空間中の2つの座標を結ぶ直線に平行な法線ベクトルを有するとともに処理対象格子点に対応する第2の色空間中の座標を通る平面を求め、第2の色空間の所定の基準点から平面に引いた垂線と平面との交点を第1の交点として求め、インク量セットの候補に対応する第2の色空間中の座標から平面に引いた垂線と平面との交点を第2の交点として求め、第1の交点と第2の交点との間のユークリッド距離に基づいて評価値を算出する。このような評価値に基づいてインク量セットの決定を行えば、インクによって拡張可能な色再現範囲の方向を的確に評価して色変換ルックアップテーブルを作成することが可能となる。
【0009】
[適用例2]適用例1記載の印刷装置の製造方法であって、前記算出工程では、前記第1の交点から前記処理対象格子点へ向かうベクトルと、前記ユークリッド距離を有し前記第1の交点から前記第2の交点へ向かうベクトルと、の内積に基づいて前記評価値を算出する、印刷装置の製造方法。
【0010】
この方法によれば、第1の交点から処理対象格子点へ向かうベクトルと、ユークリッド距離を有し第1の交点から第2の交点へ向かうベクトルと、の内積に基づいて評価値を算出する。このような評価値に基づいてインク量セットの決定を行えば、2つのベクトルの内積を求めることで少なくとも2つの格子点によって挟まれた処理対象格子点に対して、色空間の外側に向けてより確実に色再現範囲を拡張することができる。
【0011】
[適用例3]適用例1または適用例2記載の印刷装置の製造方法であって、前記算出工程では、前記処理対象格子点と前記インク量セットとの対応関係が既に決定された2つの格子点が前記処理対象格子点を挟むように少なくとも2組存在する場合に、前記第2の色空間において、前記2組の格子点について、それぞれ前記平面を求めるとともにそれぞれの前記平面の交線を求め、前記基準点から前記交線に引いた垂線と前記交線との交点を第3の交点として求め、前記インク量セットの候補に対応する前記第2の色空間中の座標から前記交線に引いた垂線と前記交線との交点を第4の交点として求め、前記第3の交点と前記第4の交点との間のユークリッド距離に基づいて、前記評価値を算出する、印刷装置の製造方法。
【0012】
この方法によれば、処理対象格子点とインク量セットとの対応関係が既に決定された2つの格子点が処理対象格子点を挟むように少なくとも2組存在する場合に、第2の色空間において、2組の格子点について、それぞれ平面を求めるとともにそれぞれの平面の交線を求め、基準点から交線に引いた垂線と交線との交点を第3の交点として求め、インク量セットの候補に対応する第2の色空間中の座標から交線に引いた垂線と交線との交点を第4の交点として求め、第3の交点と第4の交点との間のユークリッド距離に基づいて、評価値として算出する。このような評価値に基づいてインク量セットの決定を行えば、少なくとも2組の格子点によって挟まれた処理対象格子点に対して、インクによって拡張可能な色再現範囲の方向を的確に評価して色変換ルックアップテーブルを作成することが可能となる。
【0013】
[適用例4]適用例3記載の印刷装置の製造方法であって、前記算出工程では、前記第3の交点から前記処理対象格子点へ向かうベクトルと、前記ユークリッド距離を有し前記第3の交点から前記第4の交点へ向かうベクトルと、の内積に基づいて前記評価値を算出する、印刷装置の製造方法。
【0014】
この方法によれば、第3の交点から処理対象格子点へ向かうベクトルと、ユークリッド距離を有し第3の交点から第4の交点へ向かうベクトルと、の内積に基づいて評価値を算出する。このような評価値に基づいてインク量セットの決定を行えば、2つのベクトルの内積を求めることで少なくとも2組の格子点によって挟まれた処理対象格子点に対して、色空間の外側に向けてより確実に色再現範囲を拡張することができる。
【0015】
本発明は、上述した印刷装置の製造方法としての構成のほか、印刷方法および印刷装置、ルックアップテーブルの作成方法や、コンピュータープログラムとしても構成することができる。かかるコンピュータープログラムは、コンピューターが読取可能な記録媒体に記録されていてもよい。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスクやCD−ROM、DVD−ROM、光磁気ディスク、メモリーカード、ハードディスク等の種々の媒体を利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例としての印刷装置の概略構成図である。
【図2】印刷処理のフローチャートである。
【図3】色変換LUT作成装置の概略構成図である。
【図4】フォワードモデルコンバーターの概略図である。
【図5】色変換LUTのデータ構造を示す表である。
【図6】色変換LUTのデータ構造を示す説明図である。
【図7】色変換LUT作成ルーチンを示すフローチャートである。
【図8】印刷装置の製造方法を示すフローチャートである。
【図9】処理対象格子点の選択順序の概念を示す説明図である。
【図10】処理対象格子点の他の選択方法の例を示す図である。
【図11】参照可能格子点が2つ存在する場合の色再現範囲拡張指数GamutDistを算出する方法を表した図である。
【図12】参照可能格子点が4つ存在する場合の色再現範囲拡張指数GamutDistの算出方法を表した図である。
【図13】階調性指数SIの算出方法を示す説明図である。
【図14】色再現範囲拡張指数GamutDistを評価値として用いた場合の効果を説明するための図である。
【図15】第2階調性指数LabDistを求める様子を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、上述した本発明の作用・効果を一層明らかにするため、本発明の実施の形態を実施例に基づき次の順序で説明する。
A.印刷装置:
B.色変換LUT作成装置:
C.処理対象格子点の選択方法:
D.評価値算出方法:
E.変形例:
【0018】
A.印刷装置:
図1は、本発明の一実施例としての印刷装置の概略構成図である。印刷装置10は、カラーインクジェット式印刷装置であり、紙送りモーター74によって印刷媒体Pを搬送する機構と、キャリッジモーター70によってキャリッジ80をプラテン75の軸方向に往復動させる機構と、キャリッジ80に搭載された印刷ヘッド81を駆動してインクの吐出及びドット形成を行う機構と、紙送りモーター74,キャリッジモーター70及び印刷ヘッド81とを制御する制御ユニット30と、図示していないコンピューターや記録媒体から画像データを取得して制御ユニット30に供給する画像データ供給部91と、を備えている。
【0019】
キャリッジ80には、カラーインクとして、例えば、シアンインクCと、マゼンタインクMと、イエロインクYと、ブラックインクKとをそれぞれ収容したカラーインク用のインクカートリッジ82〜85が搭載される。キャリッジ80の下部の印刷ヘッド81には、上述の各色のカラーインクに対応するノズル列が形成されている。キャリッジ80にこれらのインクカートリッジ82〜85を上方から装着すると、インクカートリッジ82〜85から印刷ヘッド81へのインクの供給が可能となる。
【0020】
制御ユニット30は、CPU40と、ROM51と、RAM52と、EEPROM60とを備えている。CPU40は、ROM51に予め記憶された制御プログラムをRAM52に展開して実行することで、キャリッジ80の往復動や紙送りを制御すると共に、印刷ヘッド81を駆動して、印刷媒体Pへのインク吐出を制御する。
【0021】
EEPROM60には、色変換LUT61が記憶されている。色変換LUT61は、画像データ供給部91から供給されたRGB形式の画像データORGの色値を、インクカートリッジ82〜85に収容されたインク(C,M,Y,K)のそれぞれのインク量を表すインク量セットに変換するためのテーブルである。この色変換LUT61は、後述する色変換LUT作成装置(図3参照)によって予め作成されるものである。
【0022】
図2は、印刷装置によって実行される印刷処理のフローチャートである。ユーザーが印刷処理を指示すると、CPU40は、画像データ供給部91からRGB形式の画像データORGを取得する(ステップS100)。画像データORGを取得すると、CPU40は、EEPROM60に記憶された色変換LUT61を参照して、画像データORGの色値をインク量セットに変換する(ステップS200)。RGB値からインク量セットへの色変換処理が完了すると、CPU40は、インク量セットに変換された画像データに対して、ハーフトーン処理を行う(ステップS300)。ハーフトーン処理の具体的な方法としては、例えば、組織的ディザー法、誤差拡散法、濃度パターン法などを採用することができる。次に、CPU40は、画像データのデータを並べ替えるためのラスタライズ処理を行う(ステップS400)。ラスタライズ処理を行うと、CPU40は、ラスタライズされたデータに基づいて、キャリッジモーター70、紙送りモーター74及び印刷ヘッド81を駆動し、印刷ヘッド81からカラーインクを吐出させて、印刷を実行する(ステップS500)。
【0023】
B.色変換LUT作成装置:
B1.装置構成:
図3は、図1に示した色変換LUT61を作成するための色変換LUT作成装置20の概略構成図である。色変換LUT作成装置20は、CPU41と、ROM53と、RAM54と、HDD55と、図示していないモニターや各種入出力インタフェースを備えるコンピューターとして構成されている。CPU41は、ROM53またはHDD55に記憶されたプログラムをRAM54に展開して実行することにより、処理対象格子点選択部100、インク量セット候補決定部200、フォワードモデルコンバーター500、評価値算出部300、最適インク量セット決定部400等の各機能を実現する。HDD55には、この色変換LUT作成装置20によって作成される色変換LUT61が格納される。
【0024】
図4は、フォワードモデルコンバーター500の概略図である。フォワードモデルコンバーター500は、インク量セットをCIELAB色空間におけるL*値、a*値、b*値(以下これらをまとめて単に「Lab値」という)に変換する機能を備えており、分光プリンティングモデルコンバーター510と、色コンバーター520とを備える。
【0025】
分光プリンティングモデルコンバーター510は、CMYKの各値によって表されるインク量セットを、分光反射率R(λ)に変換する。この分光反射率R(λ)は、そのインク量セットによって形成されるカラーパッチの測色値を表している。色コンバーター520は、分光プリンティングモデルコンバーター510によって得られた分光反射率R(λ)から、Lab値を算出する。このとき、色コンバーター520は、予め設定された光源の種類(例えば、標準光源であるD65)や印刷用紙の種類(例えば、光沢紙)に基づいて、Lab値を算出する。つまり、フォワードモデルコンバーター500を用いれば、インク量セットを入力することにより、そのインク量セットに対応したLab値を一意に取得することができる。分光プリンティングモデルコンバーター510や色コンバーター520の構成、機能については、例えば、特表2007−511175号公報や、特開2008−263579号公報に開示されている。
【0026】
インク量セット候補算出部200(図3参照)は、色変換LUT61内の処理対象格子点(詳細は後述)に対して格納する最適インク量セットの候補(以下、単に「インク量セット候補」という)を求める機能を有する。なお、処理対象格子点および最適インク量セットについては後述する。
【0027】
評価値算出部300は、インク量セット候補に基づいて、そのインク量セットが最適なインク量セットであるか否かを判断するための評価値を算出する機能を有する。
【0028】
最適インク量セット決定部400は、評価値算出部300によって算出された評価値に基づいて、処理対象格子点に対応付ける最適なインク量セット(以下、「最適インク量セット」という)を決定する機能を有する。
【0029】
図5および図6は、HDD55に格納される色変換LUT61のデータ構造を示す表および説明図である。図5に示すように、色変換LUT61には、RGB値と、Lab値と、最適インク量セットとがそれぞれ一意に対応付けられる。Lab値によって表されるLab色空間は、RGB値によって表されるRGB色空間よりも広い色再現範囲を有し、機器に依存しないという性質を有する。RGB値を構成するR値、G値、B値は、それぞれ、本実施例では17段階に区分されている。つまり、色変換LUT61は、図6に示すように、R軸とG軸とB軸とを有する3次元色空間において、17個×17個×17個の格子点を有する六面体として表すことができる。そのため、この六面体を構成する各格子点には、RGB値とLab値とインク量セットとが対応付けられることになる。各格子点に対応付けられるRGB値は、(R,G,B)=(0,0,0)、Lab値は、(L,a,b)=(0,0,0)、インク量セットは、(C,M,Y,K)=(0,0,0,0)のように多次元の座標値によって表すことができる。区分の数は、17には限らず、例えば、R値、G値、B値が採り得る範囲を11や32などの任意の数に区分することもできる。また、隣り合う格子点の間隔は、ある範囲において狭くし、ある範囲において広くするなど、不均等にすることもできる。さらに、隣り合う格子点の間隔は、等間隔にすることもできるし、R値、G値、B値が採り得る範囲が、規定の区分数(本実施例では17)に等しく区分できない場合は、ほぼ等間隔にすることもできる。なお、本実施例におけるRGB色空間は、本願の第1の色空間に相当し、Lab色空間は第2の色空間に相当する。
【0030】
B2.色変換LUTの作成フロー
図7は、色変換LUT作成装置20によって実行される色変換LUT作成ルーチンを示すフローチャートである。まず、CPU41は、色変換LUT61の初期化を行う(ステップS10)。具体的には、色変換LUT61の各格子点のRGB値に対して、Lab値と、インク量セットの初期値(以下、初期インク量セットという)を対応付ける。初期インク量セットは、例えば、以下の式(1)および式(2)に基づいて算出することができる。また、Lab値は、初期インク量セットの値をフォワードモデルコンバーター500に入力することで得ることができる。
【0031】
【数1】

【数2】

【0032】
ここで、上記式(1)におけるインク量Ij(R,G,B)の添え字jは、インク量セットを構成するインクの種類の数に対応している。本実施例は(C,M,Y,K)の4種類のインクを使用しているため、j=1〜4である。RGB値のいずれかが0または255である格子点に対するインク量Ij(R,G,B)は、ユーザーによりあらかじめ入力された値を用いる。式(1)および式(2)によれば、任意のRGB値におけるインク量Ij(R,G,B)を求めることができ、このインク量Ij(R,G,B)を組み合わせた情報が、当該任意のRGB値におけるインク量セットとして決定される。なお、初期インク量セットの値は、前述した計算によらず、他の方法によって決定された値を設定することとしてもよい。また、初期インク量セットは、例えば、特開2009−33239号公報に記載された「インバースモデル初期LUT」を用いることで、Lab値からより好ましい値に修正することができる。
【0033】
以上のようにして色変換LUT61の初期化を行うと、処理対象格子点選択部100が、所定の順序に従って、色変換LUT61の中から最適インク量セットを決定する対象となる格子点(以下、「処理対象格子点」と記載する)を選択する(ステップS20)。処理対象格子点を選択する順序については後述する。処理対象格子点を選択すると、インク量セット候補算出部200が、処理対象格子点に対応付ける最適インク量セットの候補(インク量セット候補)を算出して決定する(ステップS30)。初回に決定されるインク量セット候補は、色変換LUT61にはじめから記録されている初期インク量セットとなる。インク量セット候補が決定されると、評価値算出部300が、決定されたインク量セット候補に基づき評価値を算出する(ステップS40)。評価値の算出方法は、ステップS20で選択された処理対象格子点が、図6に示した六面体内のどの格子点に該当するかに応じて異なる。評価値の算出方法の詳細は後述する。
【0034】
評価値が算出されると、CPU41は、評価値が最小となったか否かを判断する(ステップS50)。評価値が最小でない場合には、CPU41は、処理を上記ステップS30に戻す。評価値が最小である場合には、最適インク量セット決定部400が、その評価値の算出元となったインク量セット候補を、最適インク量セットとして決定し、色変換LUT61の現在の処理対象格子点に対応づける(ステップS60)。
【0035】
上記ステップS30において、2回目以降、インク量セット候補算出部200は、インク量セット候補を次のように求める。まず、初期インク量セットから、インク量セットを構成する各インク量の値をそれぞれ微少変化させて2回目のインク量セット候補を求める。この変化の方向は、評価値が最適化する方向(すなわち、評価値が小さくなる方向)であり、その後、順次、前回得られたインク量セット候補を構成する各インク量の値をそれぞれ微少に変化させて、次のインク量セット候補を得る。各インク量セット候補に対して、ステップS40およびステップS50がそれぞれ実行される。ステップS30からステップS50までの処理を繰り返し行えば、最終的にはステップS50で肯定判定されたときに、評価値が最適化した(最小となった)インク量セット候補が得られることになり、ステップS60で、その得られたインク量セット候補が最適インク量セットとして決定される。
【0036】
ステップS30からステップS50までの繰り返し処理は、具体的には、公知の最急降下法、準ニュートン法、シンプレックス法などを用いて実現される。なお、上記ステップS50では、CPU41は、n回目(nは1以上の自然数)に求められたインク量セット候補による評価値と、(n+1)回目に求められたインク量セット候補による評価値との差分値が、規定の差分値以下である場合に、n回目もしくは(n+1)回目に求められたインク量セット候補を、最適インク量セットとして決定してもよい。また、上記ステップS30からステップS50までの処理の回数をあらかじめ設定(例えば、200回など)しておき、その中で評価値もしくは差分値が最小となったインク量セット候補を、最適インク量セットとして決定してもよい。
【0037】
最適インク量セットを処理対象格子点に対応付けると、CPU41は、他に処理対象格子点が存在するか否かを判断する(ステップS70)。他に処理対象格子点が存在する場合はステップS20に戻って上述した一連の処理を繰り返し実行する。処理対象格子点が存在しない場合、つまり、全ての格子点について最適インク量セットを決定した場合には、当該色変換LUT作成ルーチンを終了する。
【0038】
図8は、印刷装置10の製造方法を示すフローチャートである。以上のように作成された色変換LUT61は、HDD55から適宜読み出され、印刷装置10の製造時において、EEPROMライター等によりEEPROM60に書き込まれる(ステップS80)。そして、このEEPROM60が印刷装置10内の制御ユニット30に実装されることで(ステップS90)、印刷装置10が製造される。なお、EEPROM60への色変換LUT61の書き込みは他の方法を採用してもよい。例えば、印刷装置10のCPU40が、画像データ供給部91を通じて色変換LUT61を取得し、EEPROM60に書き込むことも可能である。また、EEPROM60に色変換LUT61を書き込む際には、予め色変換LUT61から、Lab値を消去してもよい。こうすることで、色変換LUT61は、RGB値とインク量セットの対応関係のみを表すことになる。
【0039】
C.処理対象格子点の選択方法:
図9は、図7のステップS20における処理対象格子点の選択順序の概念を示す説明図である。図6に示したように、色変換LUT61は3次元空間において17個×17個×17個の格子点を含む六面体と捉えることができるが、図9では説明の簡単のために、この六面体の1つの表面が9個×9個の格子点によって構成されている例を示している。図9に示した数字は、数字に最も近接している格子点、つまり六面体の辺上の格子点の選択順序であり、数字が小さいほど、その格子点が早く選択されることを表している。
【0040】
図9に示した例では、処理対象格子点選択部100は、六面体の頂点に位置する格子点(図9において、選択順序「1」が付された格子点)を第1処理対象格子点として選択し、次に、2つの第1処理対象格子点の略中央に位置する格子点(図9において、格子点処理順序2が付された格子点)を、第2処理対象格子点として選択する。選択する格子点の位置が「略」中央である理由は、各格子点間の間隔が、等間隔であるとは限らないからであり、また、2つの格子点の間に偶数個の格子点が存在することもあるからである。なお、「略中央に位置する格子点」とは、換言すれば、2つの第1処理対象格子点の中央に最も近い格子点、あるいは、2つの第1処理対象格子点の中央に最も近い格子点のうちいずれか一つの格子点、ということができる。また、この略中央に位置する格子点は、2つの第1処理対象格子点に挟まれているとも言うことができる。第1処理対象格子点と第2処理対象格子点とが選択された後には、第1処理対象格子点と第2処理対象格子点の略中央に位置する格子点(図9において、格子点処理順序3が付された格子点)が第3処理対象格子点として選択される。
【0041】
このように、本実施例では、六面体の頂点に位置する格子点を最初に選択して最適インク量セットを決定し、その後、最適インク量セットが決定された2つの格子点の略中央に位置する格子点を次々に選択していくことで、六面体の辺上の各格子点の最適インク量セットを決定していく。なお、六面体の辺上の格子点の最適インク量セットを決定した後には、辺で囲まれる面内の各格子点に対して最適インク量セットを決定していく。このときも、辺上の格子点の選択順序と同様に、最適インク量セットが決定された相対する辺上の2つの格子点の略中央に位置する格子点を選択して最適インク量セットを決定し、その後、最適インク量セットが決定された2つの格子点の略中央に位置する格子点を次々に選択していくことで、六面体の面上の各格子点のインク量セットを決定していく。また、4つの頂点もしくは4つの格子点の略中央に位置する格子点を最初に選択し、次に、その格子点と、4つの頂点もしくは4つの格子点の略中央にそれぞれ位置する格子点を処理対象格子点として順番に選択することもできる。こうして、面内の格子点の最適インク量セットをすべて決定した後には、6つの面で囲まれる六面体内部の格子点に対して最適インク量を決定していく。このときも、六面体の辺上の格子点の選択順序と同様に、2つの格子点の略中央の格子点を選択することができ、また、8つの頂点もしくは6つの面上の6つの格子点の略中央に位置する格子点を最初に選択し、次に、その格子点と、8つの頂点もしくは6つの面上の6つの格子点の略中央にそれぞれ位置する格子点を処理対象格子点として順番に選択することもできる。このように、本実施例では、辺、辺で作成される面内、面で作成される六面体内、の順に、最適インク量セットを決定していく。
【0042】
図10は、処理対象格子点の他の選択方法の例を示す図である。図10に示す例では、各格子点に対して、処理対象格子点を選択するための順序づけ指標を予め付与し、その指標に基づいて格子点の選択を行う。この方法では、まず、図10に示したD(1)軸(例えばL軸)およびD(2)軸(例えば、a軸)に対して、処理対象格子点を選択するための順序づけ指標となる格子点ラベルを設定する。格子点ラベルによって、図10に示した格子点を表すと、D(1)軸上にて左から3番目、D(2)軸上にて上から4番目の格子点の格子点ラベルは、(3,4)、D(1)軸上にて左から5番目、D(2)軸上にて上から5番目の格子点の格子点ラベルは、(2,2)である。
【0043】
次に、すべての格子点の中から、格子点ラベルの数値が1のみからなる格子点を選択する。図10に示した格子点の集合を四角形としてとらえると、四角形の頂点にあたる格子点が格子点ラベル(1,1)であり、第一処理対象格子点として選択される。次の段階では、格子点ラベルの数値に1もしくは、2をもつ格子点ラベルが選択され、その中で、1を含む格子点ラベルをもつ格子点が優先して選択される。つまり格子点ラベルが(2,1)もしくは(1,2)、(2,2)である格子点が選択され、その中で格子点ラベルが(1,2)、(2,1)の格子点が優先して選択される。図10に示した格子点に付された数値は、当該方法で格子点を選択した場合の格子点の選択順序である。このようにして、格子点に付与された格子点ラベルに従って処理対象格子点を選択していけば、並列的な処理の実行が可能であり、色変換LUT61の作成にかかる時間を短縮することもできる。なお、この方法は2次元に限ったものではなく、入力軸がNある場合には、それぞれの軸に順序づけ指標を付与し、処理対象格子点に対して格子点ラベルを設定して最適インク量セットを決定することができる。このとき、最適インク量セットの決定は、格子点を処理する順序を決定してから行うことができるが、格子点処理順序を決定するのと同時に行うこともできる。
【0044】
D.評価値算出方法:
続いて、図7のステップS40における評価値算出部300による評価値の算出方法について説明する。フォワードモデルコンバーター500によれば、インク量セットを入力することにより、一意のLab値を得ることができる。しかし、一つのLab値からインク量セットを一意に決定することは一般に困難である。これは、例えば、CMYKからなるインク量セットの値が、(C,M,Y,K)=(0,0,0,60)でも、(C,M,Y,K)=(20,20,20,0)でも同じLab値を示すことがあるからである。そこで、本実施例では、下記式(3)によって表される評価関数によって、インク量セット候補に応じた評価値Eiを求め、この評価値Eiが小さくなるインク量セット候補を、処理対象格子点に対応する最適インク量セットとして決定する。
【0045】
【数3】

【0046】
式(3)に示した評価関数は、異なる4つの評価指数の和によって表されている。色再現範囲拡張指数GamutDistは色再現範囲の広さ、階調性指数SIはLab値の階調変化のなめらかさ、粒状性指数GIは印刷物におけるインクの粒状感、非色恒常性指数CIIは異なる光源下で印刷物を観察した際の色の恒常性を評価するための評価指数である。なお、色再現範囲拡張指数GamutDistに負の符号が付されているのは、色再現範囲拡張指数GamutDistは値が大きくなるほど色再現範囲が拡張する指数であるからである。式(3)に示すように、それぞれの評価指数には所定の重み係数wが乗算されている。重み係数wのそれぞれの値は、印刷装置10の特性やユーザーの嗜好等に応じて適宜設定可能である。また、重み係数wをゼロとすることにより、4つの評価指数の中から実際に使用する評価指数を選択することができる。本実施例では、これらの4つの評価指数のうち、少なくとも色再現範囲拡張指数GamutDistに基づいて評価値の算出を行う。もちろん、これらの4つの評価指数に加えて、他の評価指数(例えば、インク量の変化の滑らかさを評価する指数など)を用いることも可能である。
【0047】
図11は、図6に示した六面体を構成する辺上の格子点について色再現範囲拡張指数GamutDistを算出する方法を表した図である。最適インク量セットがすでに決定された格子点(以降、「参照可能格子点」とも記載する)Aおよび参照可能格子点Bが存在する場合、図9または図10に示した処理対象格子点の選択順序によると、その間の位置である略中央の格子点が処理対象格子点Cとなる。そこで、まず、評価値算出部300は、図11に示すように、参照可能格子点Aに対応するLab空間中での座標Aおよび参照可能格子点Bに対応するLab空間中での座標Bを結ぶ直線NABを求める。次に、この直線NABに平行な法線ベクトルを有し、処理対象格子点Cに対応するLab空間中での座標Cを通る平面QABを求める。そして、色再現範囲を拡張するための基準となる基準点Pを定める。本実施例では、無彩色を表す(L,a,b)=(50,0,0)を基準点Pとして採用している。(L,a,b)=(50,0,0)は、Lab色空間において、無彩色を表すL軸の中心であり、本実施例においては、拡張対象となる色再現範囲の略中央である。したがって、(L,a,b)=(50,0,0)を基準点Pとすれば、拡張対象となる色再現範囲が、偏りなく広がりやすくなる。なお、基準点Pは、拡張対象とする色再現範囲の略中央であればよく、(L,a,b)=(50,0,0)以外の座標を採用することも可能である。基準点Pを求めた後は、基準点Pから平面QABへ引いた垂線T1と平面QABとの交点M1を求める。また、現在のインク量セット候補からフォワードモデルコンバーター500によってLab値を求め、このLab値Xから平面QABへ引いた垂線T2を求めて、垂線T2と平面QABとの交点M2を求める。この交点M1と交点M2の間の長さであるユークリッド距離が、色再現範囲拡張指数GamutDistの値となる。式(3)に示すように、色再現範囲拡張指数GamutDistが大きいほど、評価値Eiは小さな値になる。そのため、色再現範囲拡張指数GamutDistが大きいインク量セット候補、つまり、交点M1からのユークリッド距離が離れたインク量セットほど、最適インク量セットとして決定されやすくなり、色再現範囲が拡張した色変換LUT61を作成することができる。なお、ここで、交点M1および交点M2は、本願の第1の交点および第2の交点に相当するものである。
【0048】
評価値算出部300は、色再現範囲を拡張する方向を示すベクトル(以下、「Gamut拡張ベクトル」という)を求め、このGamut拡張ベクトルと、交点M1を始点とした色再現範囲拡張指数GamutDistの長さを持つベクトルとの内積を評価値として算出してもよい。Gamut拡張ベクトルは、色空間を外側へ広げるために、座標Aと座標Bを結ぶ直線NABに垂直で、基準点Pから色空間の外側に向かうベクトルであることが好ましい。そのため、例えば、交点M1から座標Cへ向かうベクトルを、Gamut拡張ベクトルとして求めることができる。また、基準点Pから直線NABに垂直に向かうベクトルをGamut拡張ベクトルとして求めることもできる。このように、交点M1から交点M2へ向かうベクトル(色再現範囲拡張指数GamutDistの長さを持つベクトル)とGamut拡張ベクトルとの内積を求めれば、色再現範囲の広がり度合い(色再現範囲拡張指数GamutDist)とともに、色再現範囲の広がり方向(Gamut拡張ベクトル)をも評価することができるので、確実に色再現範囲が広がる方向に最適インク量セットを設定することができる。
【0049】
図12は、参照可能格子点が4つ(2組)存在する場合の色再現範囲拡張指数GamutDistの算出方法を表した図である。この算出方法は、図6に示した六面体を構成する面内の格子点が処理対象格子点である場合の色再現範囲拡張指数GamutDistの算出方法である。図12に示すように、1つの面を構成する4つの辺上の4つ(2組)の参照可能格子点A〜Dに対応するLab空間中での座標A〜Dの略中央に位置する処理対象格子点Fに対応するLab空間中での座標Fについて色再現範囲拡張指数GamutDistを求める場合について説明する。評価値算出部300は、相対する辺上の1組の座標Aおよび座標Bを結ぶ直線NABに平行な法線ベクトルを有し、座標Fを通る平面QABと、相対する辺上の他の1組の座標Cおよび座標Dを結ぶ直線NCDに平行な法線ベクトルを有し、座標Fを通る平面QCDとを求める。そして、これら2つの平面QAB,QCDで作成される交線NABCDを求めた後、基準点Pから交線NABCDへ引いた垂線T3を求め、垂線T3と交線NABCDとの交点M3を求める。また、現在のインク量セット候補からフォワードモデルコンバーター500によってLab値を求め、このLab値Xから交線NABCDへ引いた垂線T4を求め、垂線T4と交線NABCDとの交点M4を求める。この交点M3と交点M4の間の長さであるユークリッド距離が、色再現範囲拡張指数GamutDistの値となる。なお、ここで、交点M3および交点M4は、本願の第3の交点および第4の交点に相当するものである。また、図12にも示すように、2組の参照可能格子点に対応するLab空間中での座標は、それぞれ異なる直線上に存在しており、同一の直線上には存在しない座標である。
【0050】
上述した参照可能格子点に対応するLab空間中での座標が4つ(2組)存在する場合においても、交線NABCD上を、交点M3から座標Fへ向かうベクトルをGamut拡張ベクトルとして求め、このGamut拡張ベクトルと、交点M3から交点M4へ向かうベクトル(色再現範囲拡張指数GamutDistの長さを持つベクトル)との内積を評価値として算出してもよい。こうすることで、参照可能格子点に対応するLab空間中での座標が4つ(2組)存在する場合においても、確実に色再現範囲が広がる方向に最適インク量セットを設定することができる。
【0051】
上述したように色再現範囲拡張指数GamutDistを用いて図6に示す六面体を構成する辺、および辺で作成される面上の処理対象格子点に対する最適インク量セットが決定された後は、六面体の内部に存在する処理対象格子点に対して最適インク量セットが決定される。本実施例では、六面体の内部に存在する処理対象格子点については、式(3)において、色再現範囲拡張指数GamutDistの重み係数wをゼロとすることにより、後述する他の評価指数を用いて最適インク量セットを決定する。
【0052】
また、上述した色変換LUT作成ルーチンにおいて、六面体の頂点が処理対象格子点である場合には、参照可能格子点が存在しないため、図7に示した色変換LUT作成ルーチンでは、ステップS40における色再現範囲拡張指数GamutDistの算出を省略し、ステップS60において、初期インク量セットの値をそのまま最適インク量セットとして対応付けることとしてもよい。
【0053】
以下、式(3)に含まれる他の評価指数について説明する。図13は、階調性指数SIの算出方法を示す説明図である。図13においては、説明の簡単のため、入力軸Lおよびaで表される2次元上で処理対象格子点に対応するLab空間中での座標に最適インク量セットを決定するための例を示している。階調性指数SIを算出するに当たり、評価値算出部300は、まず、参照可能格子点Aに対応するLab空間中での座標Aおよび参照可能格子点Bに対応するLab空間中での座標Bの略中央に位置する、処理対象格子点Cに対応するLab空間中での座標Cについてインク量セット候補を決定する。そして、そのインク量セット候補から、フォワードモデルコンバーター500を用いてLab値Xを算出する。そして、以下の式(4)に基づき、座標AのLab値と、座標BのLab値と、インク量セット候補に対応するLab値と、に基づいて二次微分値を算出する。この二次微分値が、階調性指数SIの値となる。
【0054】
【数4】

【0055】
図13に示すように、階調性指数SIの値が0に近づけば近づくほど、座標Aから、インク量セット候補で表されるLab値Xへの傾きと、Lab値Xから座標Bへの傾きとが等しくなり、座標Aから座標Bに至るLab空間中の階調変化が滑らかになる。つまり、階調性指数SIの値が0に近づけば近づくほど、階調性に優れた色変換LUT61を作成することができる。
【0056】
式(3)に示した評価指数のうち、粒状性指数GIは、各種の粒状性予測モデルを用いて算出可能であり、例えば以下の式(5)に基づいて算出することができる。
【0057】
【数5】

【0058】
ここで、aLは明度補正係数、WS(u)はカラーパッチの印刷に利用されるハーフトーンデータが示す画像のウイナースペクトラム、VTF(u)は視覚の空間周波数特性、uは空間周波数である。ハーフトーンデータは、カラーパッチのインク量Ijからハーフトーン処理によって決定される。上記式(5)は一次元で表現しているが、空間周波数u,vの関数として二次元画像の空間周波数を算出することとしてもよい。粒状性指数GIの具体的な計算方法としては、例えば、特表2007−511161号公報に記載された方法や、Makoto Fujino,Image Quality Evaluation of Inkjet Prints, Japan Hardcopy '99, p.291-294に記載された方法を利用することができる。
【0059】
式(3)に示した評価指数のうち、非色恒常性指数CIIは、例えば以下の式(6)に基づいて算出することができる。
【0060】
【数6】

【0061】
ここで、ΔLは2つの異なる観察条件下(異なる光源下)におけるカラーパッチの明度差、ΔCabは彩度差、ΔHabは色相差を示す。非色恒常性指数CIIの計算時には、2つの異なる観察条件下でのLab値は、色順応変換(CAT)を用いて標準観察条件(例えば標準の光D65の観察下)に変換される。CIIについては、Billmeyer and Saltzman's Principles of Color Technology, 3rd edition, John Wiley & Sons, Inc, 2000, p.129, pp. 213-215を参照することができる。
【0062】
図14は、色再現範囲拡張指数GamutDistを評価値として用いた場合の効果を、参照可能格子点に対応するLab空間中での座標が4つ(2組)存在する場合を例に挙げて説明するための図である。座標が4つ(2組)存在する場合において、処理対象格子点Fに対応するLab空間中での座標Fは、交線NABCD上に存在する。そのため、色再現範囲拡張指数GamutDistが大きくなるインク量セット候補を最適インク量セットとして決定すれば、直線NABおよび直線NCDと交線NABCDとの交点が、基準点に対してユークリッド距離が離れた方向へ推移する。参照可能格子点に対応するLab空間中での座標が2つ(1組)の場合も同様に、参照可能格子点に対応するLab空間中での座標および処理対象格子点に対応するLab空間中での座標の存在する直線は、基準点に対してユークリッド距離が離れた方向へ推移することになる。そして、図14に示す直線NABおよび直線NCD上に存在するほかの処理対象格子点に対応するLab空間中での座標についても同じように色再現範囲拡張指数GamutDistが大きくなるインク量セットを最適インク量セットとして決定すると、直線NABおよび直線NCDは交線NABCDに沿って外側に膨らむことになる。六面体の面上に存在するほかの処理対象格子点に対応するLab空間中での座標についても同じように色再現範囲拡張指数GamutDistが大きくなるインク量セットを最適インク量セットとして決定すると、処理対象格子点に対応するLab空間中での座標の存在する面が、六面体の体積が増加する方向へ向かって膨張する。つまり、色再現範囲拡張指数GamutDistを評価指数として用いることにより、インク量セットによって表現可能な方向に向けて、色再現範囲を的確に拡張することができる。
【0063】
E.変形例:
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明はこのような実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成を採ることができる。例えば、ソフトウェアによって実現した機能は、ハードウェアによって実現するものとしてもよい。そのほか、以下のような変形が可能である。
【0064】
・変形例E1:
上記実施例において、参照可能格子点に対応するLab空間中での座標が2つ存在する場合(図11参照)は、交点M2を求めるために、現在のインク量セット候補からフォワードモデルコンバーター500によってLab値を求め、このLab値Xから平面QABへ引いた垂線T2を求めていたが、この垂線T2の長さ、つまり交点M2とLab値Xとの間のユークリッド距離を求め、このユークリッド距離を、階調性を示す第2の評価指数(第2階調性指数LabDist)として利用してもよい。
【0065】
図15は、第2階調性指数LabDistを求める様子を表した図である。図15に示したように、インク量セット候補が表すLab値Xから、1組の参照可能格子点Aに対応するLab空間中での座標Aおよび参照可能格子点Bに対応するLab空間中での座標Bを結ぶ直線NABに平行な法線ベクトルを有し、処理対象格子点Cに対応するLab空間中での座標Cを通る平面QABまでのユークリッド距離を第2階調性指数LabDistとして求める。第2階調性指数LabDistが小さいインク量セット候補を最適インク量セットとして決定すれば、座標Aからその最適インク量セットによって表されるLab値Xまでの階調変化と、Lab値Xから座標Bまでの階調変化とが滑らかに接続されることになり、階調性に優れた色変換LUT61を作成することができる。第2階調性指数LabDistは、階調性指数SIと置き換えることが可能であり、色再現範囲拡張指数GamutDistを算出する過程で求めることができるため、色変換LUT61を作成する時間を短縮することも可能である。
【0066】
また、参照可能格子点に対応するLab空間中での座標が4つ(2組)存在する場合(図12参照)においても、上述した方法と同じように、垂線T4の長さ、つまり交点M4とLab値Xとの間のユークリッド距離を第2階調性指数LabDistとして求め、評価指数として利用してもよい。
【0067】
・変形例E2:
上述した実施例においては、フォワードモデルコンバーター500を用いてインク量セットに対応したLab値を取得していたが、フォワードモデルコンバーター500を用いる方法にかえて、あらかじめ、インク量セット候補とLab値が対応付けられた対応表を作成しておき、その中からインク量セット候補を選択してもよい。
【0068】
・変形例E3:
上述した実施例で作成される色変換LUT61には、RGB値と、Lab値と、最適インク量セットがそれぞれ一意に対応づけられていたが(図5および図6参照)、ここでRGB値および最適インク量セットとともに対応付けられる値は、Lab値に限らない。例えば、L*C*h*値やL*u*v*値などの色再現範囲の広がり度合いや広がり方向を評価することのできる表色系の値を採用することができる。
【0069】
・変形例E4:
上述した実施例においては、印刷装置10が備えるキャリッジ80には、カラーインクとして、例えば、シアンインクCと、マゼンタインクMと、イエロインクYと、ブラックインクKとをそれぞれ収容したカラーインク用のインクカートリッジ82〜85が搭載されているが、搭載されるインクはこれらのインクに限らない。例えば、キャリッジ80には、これらのインクに加えてライトシアンLcやライトマゼンタLm等のインクなどが搭載されていてもよい。この場合、色変換LUT作成装置20は、ライトシアンLcやライトマゼンタLm等のインク量を含む最適インク量セットの決定を行い、色変換LUT61の作成を行う。
【0070】
・変形例E5:
上述した実施例では、印刷装置10は、インクジェット式印刷装置であったが、これに代えて、カラートナーを印刷媒体上に付着させて印刷を行うレーザプリンターや、オフセット印刷装置を採用することができる。
【0071】
・変形例E6:
上述した実施例においては、既に最適インク量セットが決定された2つの格子点の略中央に位置する格子点に対して最適インク量セットの決定を行ったが、最適インク量セットを決定する順序はこれに限られず、2つの格子点に挟まれる格子点であれば、どの位置の格子点から最適インク量セットの決定を行ってもかまわない。また、参照可能格子点が4つの場合についても同様に、それらの格子点に挟まれる格子点であれば、どの位置の格子点から最適インク量セットの決定を行ってもよい。
【0072】
・変形例E7:
上述した実施例では、印刷装置10と色変換LUT作成装置20とを分離させた構成としたが、印刷装置10に色変換LUT作成装置20の機能を組み込んでもよい。つまり、印刷装置10が、色変換LUT61を作成することとしてもよい。また、コンピューターと印刷装置とを含む印刷システムを広義の印刷装置として捉え、コンピューターが色変換LUT61を作成して、この色変換LUT61を用いてコンピューターが色変換処理を行うこととしてもよい。この場合、コンピューターは、更に、ハーフトーン処理やラスタライズ処理を行い、印刷装置を制御して印刷を行わせることができる。
【0073】
・ 変形例E8:
上述した実施例においては、EEPROM60に色変換LUT61が記憶されていたが、色変換LUT61は、その他ROMやRAM、HDD等の他の記憶装置に記憶することとしてもよい。
【符号の説明】
【0074】
10…印刷装置
20…色変換LUT作成装置
30…制御ユニット
40…CPU
41…CPU
51…ROM
52…RAM
53…ROM
54…RAM
55…HDD
60…EEPROM
61…色変換LUT
70…キャリッジモーター
74…紙送りモーター
75…プラテン
80…キャリッジ
81…印刷ヘッド
82〜85…インクカートリッジ
91…画像データ供給部
100…処理対象格子点選択部
200…インク量セット候補決定部
300…評価値算出部
400…最適インク量セット決定部
500…フォワードモデルコンバーター
510…分光プリンティングモデルコンバーター
520…色コンバーター
P…印刷媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の色空間中の色を、印刷装置で使用可能な複数のインクの量の組合せであるインク量セットに変換するための色変換ルックアップテーブルが記録された記憶部を備える印刷装置の製造方法であって、
前記第1の色空間を構成する格子点の中から、前記インク量セットを対応付ける格子点を処理対象格子点として選択する選択工程と、
前記処理対象格子点に対応付けるインク量セットの候補を決定する候補決定工程と、
前記インク量セットの候補が表すインク量に基づいて、前記処理対象格子点に対応づけるインク量セットを決定するための評価値を算出する算出工程と、
前記算出された評価値に基づいて、前記インク量セットの候補の中から、前記処理対象格子点に対応づけるインク量セットを決定し、前記決定したインク量セットを前記処理対象格子点に対応付けて前記色変換ルックアップテーブルに記録するインク量セット決定工程と、
前記処理対象格子点と前記インク量セットとの対応付けが行われた前記色変換ルックアップテーブルを、前記印刷装置が備える前記記憶部に記憶させる記憶工程と、を備え、
前記算出工程では、前記処理対象格子点と前記インク量セットとの対応関係が既に決定された格子点が前記処理対象格子点を挟むように少なくとも2つ存在する場合に、
第2の色空間において、前記2つの格子点に対応する前記第2の色空間中の2つの座標を結ぶ直線に平行な法線ベクトルを有するとともに前記処理対象格子点に対応する前記第2の色空間中の座標を通る平面を求め、
前記第2の色空間の所定の基準点から前記平面に引いた垂線と前記平面との交点を第1の交点として求め、前記インク量セットの候補に対応する前記第2の色空間中の座標から前記平面に引いた垂線と前記平面との交点を第2の交点として求め、
前記第1の交点と前記第2の交点との間のユークリッド距離に基づいて前記評価値を算出する、
印刷装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の印刷装置の製造方法であって、
前記算出工程では、前記第1の交点から前記処理対象格子点へ向かうベクトルと、前記ユークリッド距離を有し前記第1の交点から前記第2の交点へ向かうベクトルと、の内積に基づいて前記評価値を算出する、
印刷装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の印刷装置の製造方法であって、
前記算出工程では、前記処理対象格子点と前記インク量セットとの対応関係が既に決定された2つの格子点が前記処理対象格子点を挟むように少なくとも2組存在する場合に、
前記第2の色空間において、前記2組の格子点について、それぞれ前記平面を求めるとともにそれぞれの前記平面の交線を求め、
前記基準点から前記交線に引いた垂線と前記交線との交点を第3の交点として求め、前記インク量セットの候補に対応する前記第2の色空間中の座標から前記交線に引いた垂線と前記交線との交点を第4の交点として求め、
前記第3の交点と前記第4の交点との間のユークリッド距離に基づいて、前記評価値を算出する、
印刷装置の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の印刷装置の製造方法であって、
前記算出工程では、前記第3の交点から前記処理対象格子点へ向かうベクトルと、前記ユークリッド距離を有し前記第3の交点から前記第4の交点へ向かうベクトルと、の内積に基づいて前記評価値を算出する、
印刷装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の印刷装置の製造方法であって、
前記基準点は、前記第2の色空間において無彩色を表す座標である、
印刷装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の印刷装置の製造方法によって製造された印刷装置。
【請求項7】
第1の色空間中の色を、印刷装置で使用可能な複数のインクの量の組合せであるインク量セットに変換するための色変換ルックアップテーブルを用いて印刷を行う印刷方法であって、
前記第1の色空間を構成する格子点の中から、前記インク量セットを対応付ける格子点を処理対象格子点として選択する選択工程と、
前記処理対象格子点に対応付けるインク量セットの候補を決定する候補決定工程と、
前記インク量セットの候補が表すインク量に基づいて、前記処理対象格子点に対応づけるインク量セットを決定するための評価値を算出する算出工程と、
前記算出された評価値に基づいて、前記インク量セットの候補の中から、前記処理対象格子点に対応づけるインク量セットを決定し、前記決定したインク量セットを前記処理対象格子点に対応付けて前記色変換ルックアップテーブルに記録するインク量セット決定工程と、
前記処理対象格子点と前記インク量セットとの対応付けが行われた前記色変換ルックアップテーブルを、記憶部に記憶させる記憶工程と、
前記第1の色空間によって表される画像データを取得する工程と、
前記色変換ルックアップテーブルを参照して、前記画像データを前記インク量セットに変換する工程と、
前記変換されたインク量セットに対してハーフトーン処理を行い、印刷データを生成する工程と、
前記印刷データに基づいて印刷処理を行う工程と、を備え、
前記算出工程では、前記処理対象格子点と前記インク量セットとの対応関係が既に決定された格子点が前記処理対象格子点を挟むように少なくとも2つ存在する場合に、
第2の色空間において、前記2つの格子点に対応する前記第2の色空間中の2つの座標を結ぶ直線に平行な法線ベクトルを有するとともに前記処理対象格子点に対応する前記第2の色空間中の座標を通る平面を求め、
前記第2の色空間の所定の基準点から前記平面に引いた垂線と前記平面との交点を第1の交点として求め、前記インク量セットの候補に対応する前記第2の色空間中の座標から前記平面に引いた垂線と前記平面との交点を第2の交点として求め、
前記第1の交点と前記第2の交点との間のユークリッド距離に基づいて前記評価値を算出する、
印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−231308(P2012−231308A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98437(P2011−98437)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】