説明

卵のシミに対する洗浄能力が向上したサビナーゼ変異体

卵のシミに対する洗浄能力が向上したズブチラーゼ変異体。このズブチラーゼは、例えばクリーニング組成物または洗浄組成物(例えば洗濯用洗浄組成物と皿洗い用組成物(自動皿洗い用組成物も含む))に使用したときに卵のシミに対する優れた洗浄能力または向上した洗浄能力を示すため有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚れ、その中でも特に卵のシミに対する洗浄能力が向上した新規なズブチラーゼに関する。ズブチラーゼは、クリーニング組成物または洗浄組成物(例えば選択用洗剤組成物、皿洗い用浄組成物(自動皿洗い用組成物も含む))に使用されたときに卵のシミに対する優れた性能または向上した性能を示すため有用である。
【0002】
本発明は、ズブチラーゼをコードしている単離されたポリヌクレオチドと、核酸構造体と、組み換え発現ベクターと、その核酸構造体を含む宿主細胞と、本発明のズブチラーゼの製造方法および利用方法にも関する。本発明はさらに、本発明のズブチラーゼ酵素を含むクリーニング組成物および洗浄組成物と、そのような酵素を洗浄組成物で利用して卵のシミを除去する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
洗浄剤産業では、酵素が30年以上にわたって洗浄組成物で利用されてきた。そのような組成物で使用される酵素としては、プロテアーゼ、リパーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ、ならびに他の酵素、またはこれらの混合物がある。市場で最も重要な酵素はプロテアーゼである。
【0004】
市場でますます多く使用されているプロテアーゼは、天然の野生型プロテアーゼをタンパク質工学によって改変した変異体であり、例えばRelase(登録商標)、Alcalase(登録商標)、Savinase(登録商標)、Primase(登録商標)、Everlase(登録商標)、Esperase(登録商標)、Ovozyme(登録商標)、Coronase(登録商標)、Polarzyme(登録商標)、Kannase(登録商標)(以上ノボザイムズ社)、Maxatase(登録商標)、Maxacal(登録商標)、Maxapem(登録商標)、Properase(登録商標)、Purafect(登録商標)、Purafect OxP(登録商標)、FN2(登録商標)、FN3(登録商標)、FN4(登録商標)、Purafect Prime(登録商標)(以上ジェネンコア・インターナショナル社)、BLAP X、BLAP S(以上ヘンケル社)がある。さらに、多数のプロテアーゼ変異体が従来の文献に記載されている。従来のプロテアーゼ変異体の完全なリストがWO 99/27082に与えられている。
【0005】
さらに、多数のプロテアーゼ変異体が従来の文献に記載されている。それは例えば、ヨーロッパ特許第130 756号;第214 435号;WO 87/04461;WO 87/05050;ヨーロッパ特許第260 105号;Tohomas、Russell、Fersht、1985年、Nature、第318巻、375〜376ページ;Tohomas、Russell、Fersht、1987年、J. Mol. Biol.、第193巻、803〜813ページ;Russell、Fersht、Nature、第328巻、496〜500ページ、1987年;WO 88/08028;WO 88/08033;WO 95/27049;WO 95/30011;WO 95/30010;WO 95/29979;アメリカ合衆国特許第5,543,302号;ヨーロッパ特許第251 446号;WO 89/06279;WO 91/00345;ヨーロッパ特許第525 610号;WO 94/02618である。
【0006】
WO 01/60963には、位置番号3、4、99、188、193、199、211のうちの少なくとも1箇所に置換があるB. lentus DSM 5843アルカリ性プロテアーゼの変異体を含む洗浄組成物が記載されている。ただし例示されている唯一の変異体は、S3T+V4I+V193M+V199I+L211Dである。これらの変異体は、ある種の過酸化剤と組み合わせると予想外の相乗効果を示すことが開示されている。
【0007】
WO 02/088340には、S3T+A4I+A199I+L211Gという変更のあるB. lentus DSM 5843アルカリ性プロテアーゼの変異体が記載されている。
【0008】
WO 01/75087には、さまざまな特性(例えば熱安定性、低温における活性、アルカリに対する安定性)が改善されたズブチリシンのホモログが記載されている。WO 01/68821には、例えば洗濯物および/または硬い面から卵のシミを除去するのに適したズブチラーゼ酵素が記載されている。WO 2004/099401には、例えば洗濯物および/または硬い面から卵のシミを除去するのに適したズブチラーゼ酵素が記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし多数の有用なプロテアーゼとプロテアーゼ変異体が報告されているとはいえ、多くの産業的用途を目的としてプロテアーゼまたはプロテアーゼ変異体をさらに改善することが相変わらず必要とされている。特に、卵白に存在する物質が多くのセリンプロテアーゼを抑制するため、卵のシミを例えば洗濯物または硬い面から除去することがこれまで大きな問題となっていた。したがって本発明の1つの目的は、例えば洗濯物および/または硬い面から卵のシミを除去するのに適した改善されたズブチラーゼ酵素を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって本発明の第1の特徴は、卵のシミに関する洗浄能力が改善されたズブチラーゼ酵素変異体に関するものであり、この変異体は、親ズブチラーゼであるサビナーゼから以下の変更によって得られる:
(サビナーゼ変異体1)S3T+V4I+S99D+S101R+S103A+V104I+G160S+V205I+L217Dまたは
(サビナーゼ変異体2)S3T+V4I+S99D+S101R+S103A+V104I+G160S+A194P+V205I+L217D。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
アラインメントと位置番号に関しては、図1を参照する。この図には、ズブチリシンBPN'(a)(BASBPN)とズブチリシン309(b)(BLSAVI)の間のアラインメントを示してある。この明細書では、このアラインメントを残基の位置番号の基準として用いる。
【0012】
定義
【0013】
本発明をさらに詳しく説明する前に、以下の用語と約束事を最初に定義する。
【0014】
変異体を指定するための命名法と約束事
【0015】
本発明で生成されたり考慮したりするさまざまなズブチラーゼ酵素を記述するにあたり、参照が容易になるよう以下の命名法と約束事を採用した。
【0016】
最初に、単離された酵素または親酵素とズブチリシンBPN'(BASBPN)のアラインメントを作ることによって参照フレームを規定する。ズブチリシンBPN'(BASBPN)と親ズブチリシン309の間のこのようなアラインメントを図1に示してある。BASBPNに対する多数の欠失と挿入が明確になる。欠失は、図1に星印(*)で示してある。
【0017】
親酵素に施したさまざまな変更は、一般に3つの要素を用いて以下のように示される。
【0018】
元のアミノ酸位置と置換後のアミノ酸
【0019】
G195Eという表記は、位置番号195のグリシンがグルタミン酸で置換されていることを意味する。
【0020】
位置と置換後のアミノ酸
【0021】
元のアミノ酸残基がどのアミノ酸残基でもよい場合には、ときに簡略化した表記を用い、位置と置換後のアミノ酸だけを示すことがある。その例は、170Serまたは170Sである。このような表記は、相同なズブチラーゼにおける変更に特に関係する(下記参照)。
【0022】
元のアミノ酸位置
【0023】
このような表記は、特に、置換後のアミノ酸残基が何でもよい場合に特に重要である。位置番号195のグリシンを任意のアミノ酸で置換することは、Gly195またはG195として表わす。
【0024】
位置
【0025】
元のアミノ酸と置換後のアミノ酸の両方がどのアミノ酸でもよい場合には、位置だけを示す(例えば170)。
【0026】
元のアミノ酸位置{置換後のアミノ酸1、...置換後のアミノ酸n}
【0027】
元のアミノ酸および/または置換後のアミノ酸が2個以上だがあらゆるアミノ酸ではない場合には、選択されたアミノ酸を{}の中に入れて示す。
【0028】
特別な変異体に関しては、特別な3文字コードまたは1文字コードを使用する。例えば任意のアミノ酸残基を示すのにはコードXaaとXが用いられる。
【0029】
置換:
【0030】
位置番号195においてグリシンをグルタミン酸で置換することは、Gly195GluまたはG195Eと表記する。位置番号195においてグリシンが任意のアミノ酸残基で置換されることは、Gly195Xaa、またはG195X、またはGly195、またはG195として表わされる。したがって位置番号170で任意のアミノ酸残基をセリンで置換することは、Xaa170Ser、またはX170S、または170Ser、または170Sと表記されよう。
【0031】
このような表記は、相同なズブチラーゼの変更に特に関係する(下記参照)。したがって170Serには、例えばBASBPNにおけるLys170Serという変更と、本発明によるズブチラーゼにおけるArg170Serという変更の両方が含まれる(図1参照)。
【0032】
元のアミノ酸および/または置換後のアミノ酸が2個以上だがあらゆるアミノ酸ではない変更に関しては、位置番号170におけるアルギニンがグリシン、アラニン、セリン、トレオニンのいずれかで置換されることは、Arg170{Gly, Ala, Ser, Thr}またはR170{G, A, S, T}で表わされ、変異体R170G、R170A、R170S、R170Tを示すことになる。
【0033】
欠失:
【0034】
位置番号195にグリシンが欠失していることは、Gly195*またはG195*によって示すことにする。それに対応して、2個以上のアミノ酸の欠失(例えば位置番号195と196にグリシンとロイシンが欠失)は、Gly195*+Leu196*またはG195*+L196*として示すことにする。
【0035】
挿入:
【0036】
追加のアミノ酸残基の挿入(例えばG195の後のリシン)は、Gly195GlyLysまたはG195GKによって示す。あるいは2個以上のアミノ酸残基が挿入されて例えばG195の後にLysとAlが来る場合には、Gly195GlyLysAlaまたはG195GKAとして示すことになる。
【0037】
そのような場合、挿入されたアミノ酸残基には、その挿入されたアミノ酸残基の前にあるアミノ酸残基の位置番号に小文字を付け加えた番号を与える。したがって上記の例では、配列194〜196は以下のようになろう:
194 195 196
BLSAVI A-G-L
194 195 195a 195b 196
変異体A-G-K-A-L
【0038】
存在しているアミノ酸残基と同じアミノ酸残基が挿入される場合、明らかに命名法の縮重が生じる。例えば上記の例でグリシンの後にグリシンが挿入されるとすると、G195GGと表わされることになろう。それと実際には同じ変化を、
194 195 196
BLSAVI A-G-L
から
194 195 195a 196
変異体A-G-G-L
194 194a 195 196
への変化であるとしてA194AGと表わすこともできよう。
【0039】
そのような場合は当業者には明らかであろうため、G195GGという表記と、このタイプの挿入に関する対応する表記には、そのような同等な縮重した表記が含まれる。
【0040】
ギャップを埋める
【0041】
位置番号を示すのに用いるズブチリシンBPN'配列と比較して酵素に欠失がある場合、そのような位置への挿入は以下のように表わされる:
位置番号36へのアスパラギン酸の挿入に関しては*36Aspまたは*36D。
【0042】
複数の変更:
【0043】
複数の変更を含む変異体はプラス記号によって分離される。例えば、
Arg170Tyr+Gly195GluまたはR170Y+G195Eは、位置番号170と195においてアルギニンとグリシンがそれぞれチロシンとグルタミン酸で置換されていることを表わす。
【0044】
したがってTyr167{Gly, Ala, Ser, Thr}+Arg170{Gly, Ala, Ser, Thr}は、以下の変異体を表わす:
Tyr167Gly+Arg170Gly、Tyr167Gly+Arg170Ala、
Tyr167Gly+Arg170Ser、Tyr167Gly+Arg170Thr、
Tyr167Ala+Arg170Gly、Tyr167Ala+Arg170Ala、
Tyr167Ala+Arg170Ser、Tyr167Ala+Arg170Thr、
Tyr167Ser+Arg170Gly、Tyr167Ser+Arg170Ala、
Tyr167Ser+Arg170Ser、Tyr167Ser+Arg170Thr、
Tyr167Thr+Arg170Gly、Tyr167Thr+Arg170Ala、
Tyr167Thr+Arg170Ser、Tyr167Thr+Arg170Thr。
【0045】
この命名法は、共通する特別な性質(例えば正電荷の残基(K、R、H)、負電荷の残基(D、E)、保存されるアミノ酸の変更)を持つアミノ酸残基の置換、交換、挿入、欠失に特に関係する。保存されるアミノ酸の変更は、例えばTyr167{Gly, Ala, Ser, Thr}+Arg170{Gly, Ala, Ser, Thr}であり、これは、小さなアミノ酸を別の小さなアミノ酸と交換することを意味する。詳細に関しては「本発明の詳細な説明」の項を参照のこと。
【0046】
プロテアーゼ
【0047】
タンパク質基質のアミド結合を切断する酵素はプロテアーゼまたは(それと同義の)ペプチダーゼに分類される(Walsh、1979年、『酵素反応のメカニズム』、W.H.フリーマン社、サンフランシスコ、第3章を参照のこと)。
【0048】
アミノ酸位置/残基の位置番号
【0049】
特に断わらない限り、この明細書で用いるアミノ酸の位置番号は、ズブチラーゼBPN'(BASBPN)配列の位置番号に対応している。BPN'配列のより詳しい説明に関しては、Siezen他、Protein Engng.、第4巻、1991年、719〜737ページの図1を参照のこと。
【0050】
セリンプロテアーゼ
【0051】
セリンプロテアーゼは、ペプチド結合の加水分解の触媒となる酵素であり、不可欠なセリン残基が活性部位に存在している(White、Handler、Smith、1973年、『生化学の原理』、第5版、マグロウ-ヒル・ブック社、ニューヨーク、271〜272ページ)。
【0052】
細菌のセリンプロテアーゼは分子量が20,000〜45,000ダルトンの範囲である。このセリンプロテアーゼはフルオロリン酸ジイソプロピルによって抑制される。このセリンプロテアーゼは単純な末端エステルを加水分解し、活性が真核生物のキモトリプシン(やはりセリンプロテアーゼである)と似ている。より狭い範囲の用語として、アルカリ性プロテアーゼが1つの部分集合をカバーしており、いくつかのセリンプロテアーゼの最適なpHが9.0〜11.0と大きいことがその名前に反映されている(概説として、Priest、1977年、Bacteriological Rev.、第41巻、711〜753ページを参照のこと)。
【0053】
ズブチラーゼ
【0054】
Siezenらは、セリンプロテアーゼの1つの部分集合を仮にズブチラーゼと名づけることを提案している(Protein Engng、第4巻、1991年、719〜737ページ;Siezen他、Protein Science、第6巻、1997年、501〜523ページ)。これらは、以前はズブチリシン様プロテアーゼと呼ばれていた170を超えるセリンプロテアーゼのアミノ酸配列のホモロジー分析によって明確にされる。ズブチリシンは、グラム陰性細菌または真菌によって産生されるセリンプロテアーゼとして定義されることがしばしばあったが、Siezenらによれば今やズブチラーゼの1つの部分集合である。多彩なズブチラーゼが同定され、多数のズブチラーゼのアミノ酸配列が決定されている。そのようなズブチラーゼとそのアミノ酸配列に関するより詳細な説明に関しては、Siezen他、1997年を参照のこと。
【0055】
ズブチラーゼの1つの部分集合であるI-S1または“真の”ズブチリシンは、“古典的な”ズブチリシンを含んでいる。それは例えばズブチリシン168(BSS168)、ズブチリシンBPN'(BASBPN)、ズブチリシン・カールスバーグ(BLSCARまたはAlcalase(登録商標)、ノボザイムズ社)、ズブチリシンDY(BSSDY)である。
【0056】
ズブチラーゼのさらに別の部分集合であるI-S2または高アルカリ性ズブチリシンがSiezenら(上記文献)によって確認されている。I-S2プロテアーゼという部分集合は高アルカリ性ズブチリシンとして記述され、その中にはズブチリシンPB92(BAALKPまたはMaxacal(登録商標)、ジェネンコア社)、ズブチリシン309(BLSAVIまたはSavinase(登録商標)、ノボザイムズ社)、ズブチリシン147(BLS147またはEsperase(登録商標)、ノボザイムズ社)、アルカリ性エラスターゼYaB(BSEYAB)などの酵素が含まれる。
【0057】
親ズブチラーゼ
【0058】
“親ズブチラーゼ”という用語は、Siezenら(1991年と1997年)によって定義されたズブチラーゼを意味する。詳細に関しては、すぐ上の「ズブチラーゼ」の説明を参照のこと。親ズブチラーゼは、天然の供給源から単離されたズブチラーゼでもよい。その場合、ズブチラーゼの性質が保持された状態でその後の変更がなされている。さらに、親ズブチラーゼは、DNAシャッフリング法(例えばJ.E. Ness他、Nature Biotechnology、第17巻、893〜896ページ、1999年に記載されている)によって調製されたズブチラーゼでもよい。あるいは“親ズブチラーゼ”という用語は、“野生型ズブチラーゼ”と呼ぶこともできる。本発明の場合には、本発明のズブチラーゼ変異体の親ズブチラーゼはズブチリシン309である。
【0059】
ズブチラーゼの変更
【0060】
この明細書では、“変更”という用語には、ズブチラーゼの化学的修飾と、ズブチラーゼをコードしているDNAの遺伝子操作が含まれる。変更としては、興味の対象であるアミノ酸におけるアミノ酸側鎖の交換、置換、欠失、挿入が可能である。
【0061】
ズブチラーゼ変異体
【0062】
本発明の文脈では、ズブチラーゼ変異体または突然変異したズブチラーゼという用語は、元の遺伝子または親遺伝子を持っていて対応する親酵素を産生する親微生物に由来する突然変異遺伝子を発現する生物によって産生されたズブチラーゼを意味する。親遺伝子は突然変異していて、適切な宿主の中で発現したときにプロテアーゼであるその突然変異したズブチラーゼを産生させる突然変異遺伝子を生み出す。同様に、その突然変異遺伝子は、DNAシャッフリング法によって生じる親遺伝子に由来するものでもよい。
【0063】
単離されたポリヌクレオチド
【0064】
この明細書では、“単離されたポリヌクレオチド”という用語は、単離されて精製されているため、遺伝子工学によるタンパク質産生系の中で使用するのに適した形態になったポリヌクレオチドを意味する。このように単離された分子は、天然の環境から分離されたものが可能であり、その中には、cDNAとゲノム・クローンのほか、DNAシャッフリング実験または部位特異的自然発生実験に由来するポリヌクレオチドが含まれる。本発明による単離されたポリヌクレオチドは、通常は付随している他の遺伝子を含んでいないが、5'と3'の非翻訳領域(例えばプロモータやターミネータ)は含むことができる。付随する領域が何であるかは、当業者には明らかであろう(例えばDynanとTijan、Nature、第316巻、774〜778ページ、1985年を参照のこと)。“単離された核酸配列”という用語は、“単離されたDNA配列”、“クローニングされた核酸配列”、“クローニングされたDNA配列”と呼ぶこともできる。
【0065】
単離されたタンパク質
【0066】
“単離された”という用語がタンパク質に適用される場合には、そのタンパク質が元の環境から離されていることを意味する。単離されたタンパク質は、好ましい1つの形態では、他のタンパク質、その中でも特に相同な他のタンパク質(すなわち“相同な不純物”(下記参照))を実質的に含んでいない。
【0067】
単離されたタンパク質は、SDS-PAGEによって決定された純度が10%超、好ましくは20%超、より好ましくは30%超である。さらに、非常に純粋な形態のタンパク質が得られることが好ましい。すなわちSDS-PAGEによって決定された純度が40%超、60%超、80%超であることが好ましく、80%超であることがより好ましく、95%超であることがさらに好ましく、99%超であることが最も好ましい。“単離されたタンパク質”という用語は、“精製されたタンパク質”と呼ぶこともできる。
【0068】
から得られる
【0069】
この明細書では、特定の微生物源と関係した“から得られる”という表現は、その特定の微生物源によって産生された、またはその微生物源からの遺伝子が挿入された細胞によって産生されたポリヌクレオチドおよび/またはズブチラーゼを意味する。
【0070】
基質
【0071】
プロテアーゼの基質との関連で用いられる“基質”という用語は、最も広い形で解釈されるべきであり、プロテアーゼであるズブチリシンによって加水分解できる少なくとも1つのペプチド結合を含む化合物が含まれる。
【0072】
産物
【0073】
プロテアーゼ酵素反応に由来する産物との関連で用いられる“産物”という用語は、本発明の文脈では、プロテアーゼであるズブチリシンが関与する加水分解反応の産物を含むと解釈されるべきである。産物は、その後の加水分解反応における基質になることができる。
【0074】
洗浄能力
【0075】
本発明の文脈では、“洗浄能力”という用語は、例えば洗濯物または硬い面のクリーニング中にきれいにすべき物体に存在する汚れ、特に卵のシミを酵素が除去する能力として用いられる。実施例2の「モデル洗浄剤の洗浄能力試験」も参照のこと。酵素の洗浄能力をスクリーニングするためのAMSA試験法に関する説明は、WO 02/42740に見いだすことができる。
【0076】
本発明の詳細な説明
【0077】
したがって本発明の第1の特徴は、卵のシミに対する洗浄能力が改善されたズブチラーゼ酵素変異体に関するものであり、この変異体は、親ズブチラーゼであるサビナーゼから以下の変更:
(サビナーゼ変異体1)S3T+V4I+S99D+S101R+S103A+V104I+G160S+V205I+L217Dまたは
(サビナーゼ変異体2)S3T+V4I+S99D+S101R+S103A+V104I+G160S+A194P+V205I+L217D
によって得られる。
【0078】
本発明の第2の特徴は、本発明の第1の特徴によるズブチラーゼ変異体をコードしている核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドに関する。
【0079】
本発明の第3の特徴は、適切な宿主の中でズブチラーゼの発現を命令できる1つ以上の制御配列と機能上関係した本発明による核酸配列を含む核酸構造体に関する。
【0080】
本発明の第4の特徴は、本発明の核酸構造体と、プロモータと、転写・翻訳停止信号とを含む組み換え発現ベクターに関する。
【0081】
本発明の第5の特徴は、本発明の核酸構造体を含む組み換え宿主細胞に関する。
【0082】
本発明の第6の特徴は、本発明のズブチラーゼを製造する方法に関するものであり、この方法は、
(a)ズブチラーゼの産生につながる条件下で本発明の組み換え宿主細胞を培養し;
(b)ズブチラーゼを回収する操作を含んでいる。
【0083】
本発明の第7の特徴は、本発明のズブチラーゼを含むクリーニング組成物または洗浄組成物に関する。この組成物は、洗濯物用組成物または皿洗い用組成物であることが好ましい。
【0084】
本発明のさらに別の特徴は、本発明のズブチラーゼをクリーニング組成物または洗浄組成物で利用する方法と;本発明のズブチラーゼまたは組成物を利用して卵のシミを除去する方法と;クリーニング法または洗浄法(例えば硬い表面または洗濯物から卵のシミを除去するためにその硬い表面または洗濯物を本発明の組成物と接触させる操作を含む方法)に関する。
【0085】
別の特徴では、本発明のズブチラーゼ変異体を従来技術で知られている他の変更と組み合わせ、ズブチラーゼに改善された特性を与える。従来技術では、改善されたさまざまな特性を持つ多数のズブチラーゼ変異体が報告されており、この明細書の「発明の背景」ではそのうちの多くに言及されている(上記参照)。
【0086】
そのような組み合わせには、位置番号222(酸化安定性を向上させる)、位置番号218(熱安定性を向上させる)、酵素を安定化させるCa2+結合部位における置換(例えば位置番号76)や、従来技術から明らかな他の多くの位置番号が含まれる。
【0087】
さらに別の実施態様では、この明細書に記載したズブチラーゼ変異体は、以下のいずれかの位置:
27、36、56、76、87、95、96、97、98、100、102、120、123、159、167、170、206、218、222、224、232、235、236、245、248、252、274(BPN'の位置番号)
における1つ以上の変更と組み合わせることが望ましい。
【0088】
特に、BLSAVI、BLSUBL、BSKSMK、BAALKPにおける以下の変更:
K27R、*36D、S56P、N76D、S87N、G97N、H120D、N123S、G159D、Y167、R170、Q206E、N218S、M222S、M222A、T224S、A232V、K235L、Q236H、Q245R、N248D、N252K、T274A
が、組み合わせるのに適していると考えられる。
【0089】
さらに、K27R、N76D、S101G、S103A、V104N、V104Y、V104I、V104A、N123S、G159D、A232V、Q236H、Q245R、N248D、N252K、T274Aという変更の任意の組み合わせを含む変異体(特にK27R+N123S+T274Aと、これらの変更のうちの任意の1つ以上との組み合わせを含む変異体)が、改善された特性を示す。
【0090】
特に興味深い1つの変異体は、本発明の変更に加え、以下の置換:
G159D+A232V+Q236H+Q245R+N248D+N252K
を含む変異体である。
【0091】
さらに、本発明の主要な特徴であるズブチラーゼ変異体いnは、位置番号129と131のいずれかにおける1つ以上の変更を組み合わせることが好ましい。その変更は、129Kと131Hという変更が好ましく、P129KとP131Hという変更が最も好ましい。これらの変更のうちのどれも、ズブチラーゼ変異体が産生されるときにその発現レベルを増大させることが期待される。
【0092】
さらに、活性部位(b)ループ領域に少なくとも1つの追加アミノ酸残基を挿入すると(位置番号95〜103(BASBPN位置番号)への少なくとも1つの追加アミノ酸残基の挿入に対応する)、本発明のズブチラーゼに追加の洗浄能力が付与されると考えられる。特に、位置番号98と99の間、および位置番号99と100の間に少なくとも1つの追加アミノ酸残基を挿入することが好ましい。
【0093】
本発明のズブチラーゼをクローニングする方法と遺伝子(例えばズブチラーゼ遺伝子)に挿入を導入する方法が従来技術で多数知られており、「背景技術」の項に参考文献が挙げられている。
【0094】
一般に、遺伝子をクローニングしてその遺伝子に挿入を(ランダムに、および/または部位特異的に)導入するための標準的な方法を利用して本発明のズブチラーゼ酵素を得ることができる。適切な方法に関するより詳しい説明に関しては、この明細書の実施例(下記参照)と、Sambrook他、1989年、『分子クローニング:実験室マニュアル』、コールド・スプリング・ハーバー・ラブ、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク州;Ausbel, F.M.他(編)、『分子生物学の最新プロトコル』、ジョン・ワイリー&サンズ社、1995年;Harwood, C.R.とCutting, S.M.編)、『バシラスのための分子生物学の方法』、ジョン・ワイリー&サンズ社、1990年と、WO 96/34946を参照されたい。
【0095】
さらに、本発明のズブチラーゼ酵素は、多様性を人工的に作り出す標準的な方法で構成することができる(例えばさまざまなズブチラーゼ遺伝子のDNAシャッフリング(WO 95/22625;Stemmer, W.P.C.、Nature、第370巻、389〜391ページ、1994年))。例えば自然界にあるズブチラーゼの同定された1つ以上の部分配列を含むSavinase(登録商標)をコードしている遺伝子のDNAシャッフリングによって本発明のズブチラーゼが得られる。
【0096】
ポリヌクレオチド
【0097】
本発明は、配列ID番号1または配列ID番号3のヌクレオチドを含んでいて本発明のズブチラーゼをコードしている単離されたポリヌクレオチドにも関する。
【0098】
本発明には、配列ID番号2のアミノ酸配列を持つポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドも含まれる。このポリヌクレオチドは、遺伝暗号の縮重のために配列ID番号1とは異なっている。本発明にはさらに、配列ID番号4のアミノ酸配列を持つポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドが含まれる。このポリヌクレオチドは、遺伝暗号の縮重のために配列ID番号3とは異なっている。本発明は、配列ID番号1の部分配列であって配列ID番号2のタンパク質分解活性を有する断片をコードしている配列と、配列ID番号3の部分配列であって配列ID番号4のタンパク質分解活性を有する断片をコードしている配列にも関する。
【0099】
配列ID番号1の1つの部分配列は、5'末端および/または3'末端から1つ以上のヌクレオチドが除去されている点を除いて配列ID番号1のヌクレオチドによって表わされるポリヌクレオチドである。配列ID番号3の1つの部分配列は、5'末端および/または3'末端から1つ以上のヌクレオチドが除去されている点を除いて配列ID番号3のヌクレオチドによって表わされるポリヌクレオチドである。
【0100】
ポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドを単離またはクローニングするのに用いられる方法は従来技術で知られており、例えばゲノムDNAからの単離、cDNAからの調製、またはこれらの組み合わせが挙げられる。そのようなゲノムDNAからの本発明のポリヌクレオチドのクローニングは、例えばよく知られたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用して実現すること、または発現ライブラリの抗体スクリーニングを行なって構造的特徴を共有するクローニングされたDNA断片を検出することによって実現することができる。例えばInnis他、1990年、『PCR:方法と応用のガイド』、アカデミック出版社、ニューヨークを参照のこと。他の核酸増幅手続きとして、リパーゼ連鎖反応(LCR)、連結活性化転写(LAT)、核酸配列に基づく増幅(NASBA)も利用できる。
【0101】
単離されたポリヌクレオチドは、例えば、ポリヌクレオチドを自然のままの位置から別の部位に移してそこで再び産生させるという遺伝子工学において利用される標準的なクローニング手続きによって得られる。クローニング手続きには、ズブチラーゼをコードしているポリヌクレオチドを含む望む核酸断片を切除して単離し、その断片をベクター分子に挿入し、組み換えベクターを宿主細胞に組み込む操作が含まれる。するとその宿主細胞でそのポリペプチドの多数のコピーまたはクローンが複製される。ポリヌクレオチドとしては、ゲノム、cDNA、RNA、半合成物、合成物、またはこれらの任意の組み合わせが可能である。
【0102】
本発明の目的のため、2つのポリヌクレオチドの間の一致度を上に説明したようにして決定する。
【0103】
本発明のズブチラーゼと実質的に似ているズブチラーゼの合成には、そのズブチラーゼをコードしているポリヌクレオチドの変更が必要となろう。ズブチラーゼと“実質的に似ている”という表現は、ズブチラーゼの自然には生じない形態を意味する。そのようなズブチラーゼは、何らかの処理がなされている点で元の供給源から単離したズブチラーゼとはいくらか異なっている可能性がある(例えば比活性、熱安定性、最適なpHなどが異なる変異体)。変異体の配列は、配列ID番号1のポリペプチド・コード部として表わされるポリヌクレオチドをベースとして構成すること、または配列ID番号3のポリペプチド・コード部(例えばその部分配列)として表わされるポリヌクレオチドをベースとして構成すること、および/または核酸配列によってコードされているズブチラーゼを別のアミノ酸配列にするのではなく、この酵素を産生させるために宿主が利用しているコドン利用法に対応するヌクレオチド置換の導入によって構成すること、または異なるアミノ酸配列を生じさせる可能性のあるヌクレオチド置換の導入によって構成することができる。ヌクレオチド置換の一般的な説明に関しては、例えばFord他、1991年、Protein Expression and Purification、第2巻、95〜107ページを参照のこと。
【0104】
当業者には、分子の機能にとって極めて重要な領域外においてこのような置換が可能であり、それでも活性なズブチラーゼになることは明らかであろう。本発明の単離されたポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの活性にとって不可欠であるため置換の対象にならないことが好ましいアミノ酸残基は、従来から知られている手続きである部位特異的突然変位誘発やアラニン走査突然変位誘発(例えばCunninghamとWells、1989年、Science、第244巻、1081〜1085ページを参照のこと)に従って同定することができる。後者の方法だと、突然変異は、分子内の正に帯電したすべての残基に導入され、得られる突然変異分子のタンパク質分解活性を調べると、その分子の活性に不可欠なアミノ酸残基が同定される。核磁気共鳴分析、結晶学的方法、光親和性標識などの三次元構造分析によって基質-酵素相互作用部位も決定することができる(例えばde Vos他、1992年、Science、第255巻、306〜312ページ;Smith他、1992年、Journal of Molecular Biology、第224巻、899〜904ページ;Wlodaver他、1992年、FEBS Letters、第309巻、59〜64ページを参照のこと)。
【0105】
核酸構造体
【0106】
本発明は、適切な宿主の中でズブチラーゼの発現を命令できる1つ以上の制御配列と機能上関係した本発明のポリヌクレオチドを含む核酸構造体にも関する。
【0107】
本発明のズブチラーゼをコードする単離されたポリヌクレオチドをさまざまな方法で操作してズブチラーゼを発現させることができる。発現ベクターが何であるかに応じ、そのベクターに導入する前にポリヌクレオチドを操作することが望ましいか必要である可能性がある。組み換えDNA法を利用してポリヌクレオチドを変更する方法は従来技術において周知である。
【0108】
制御配列には、本発明のズブチラーゼの発現にとって必要であるか有利なあらゆる要素が含まれる。各制御配列は、ズブチラーゼをコードしているポリヌクレオチドに元々あったものでも、外部からのものでもよい。そのような制御配列として、リーダー、ポリアデニル化配列、プロペプチド配列、プロモータ、シグナル・ペプチド配列、転写ターミネータなどがある。制御配列は、プロモータと転写・翻訳停止信号を少なくとも含んでいる。制御配列は、ズブチラーゼをコードしているポリヌクレオチドのコード領域にその制御配列を容易に連結するための特別な制限部位を導入することを目的として、リンカーを備えることができる。
【0109】
制御配列は、核酸配列を発現させる宿主細胞によって認識されるポリヌクレオチドとしての適切なプロモータ配列にすることができる。プロモータ配列は、ズブチラーゼの発現を実現する転写制御配列を含んでいる。プロモータとしては、選択した宿主細胞の中で転写活性を示す任意のポリヌクレオチドが可能であり、例えば突然変異体、先端が切断されたプロモータ、ハイブリッド・プロモータが挙げられる。プロモータは、宿主細胞にとって同種または異種の細胞外ズブチラーゼまたは細胞内ズブチラーゼをコードしている遺伝子から得ることができる。
【0110】
特に細菌宿主細胞の中で本発明による核酸構造体の転写を命令するのに適したプロモータの例は、大腸菌のlacオペロン、Streptomyces coelicolorのアガラーゼ遺伝子(dagA)、枯草菌のレバンスクラーゼ遺伝子(sacB)、Bacillus licheniformisのα-アミラーゼ遺伝子(amyL)、Bacillus stearothermophilusのマルトース産生アミラーゼ遺伝子(amyM)、Bacillus amyloliquefaciensのα-アミラーゼ遺伝子(amyQ)、Bacillus licheniformisのペニシリナーゼ遺伝子(PenP)、枯草菌のxylA遺伝子とxylB遺伝子、原核生物のβ-ラクタマーゼ遺伝子(Villa-Kamaroff他、1978年、Proceedings of the National Academy of Sciences USA、第75巻、3727〜3731ページ)から得られるプロモータと、tacプロモータ(DeBoer他、1983年、Proceedings of the National Academy of Sciences USA、第80巻、21〜25ページ)である。さらに別のプロモータは、Scientific American、1980年、第242巻、74〜94ページの「組み換え細菌からの有用なタンパク質」と、Sambrook他、1989年、上記文献に記載されている。
【0111】
糸状菌宿主細胞の中で本発明の核酸構造体の転写を命令するのに適したプロモータの例は、Aspergillus orizaeのTAKAアミラーゼ、Rhizomucor mieheiのアスパラギン酸プロテイナーゼ、Aspergillus nigerの中性α-アミラーゼ、Aspergillus nigerの酸安定α-アミラーゼ、Aspergillus nigerまたはAspergillus awamoriのグルコアミラーゼ(glaA)、Rhizomucor mieheiのリパーゼ、Aspergillus orizaeのアルカリ性プロテアーゼ、Aspergillus orizaeのトリオースリン酸イソメラーゼ、Aspergillus nidulansのアセトアミダーゼ、Fusarium oxysporumのトリプシン様プロテアーゼ(WO 96/00787)という遺伝子から得られるプロモータと、NA2-tpiプロモータ(Aspergillus nigerの中性α-アミラーゼの遺伝子からのプロモータとAspergillus orizaeのトリオースリン酸イソメラーゼの遺伝子からのプロモータのハイブリッド)、これらの突然変異体、これらの先端が切れたプロモータ、これらのハイブリッド・プロモータである。
【0112】
酵母宿主では、有用なプロモータは、Saccharomyces cerevisiaeのエノラーゼ(ENO-1)、Saccharomyces cerevisiaeのガラクトキナーゼ(GAL1)、Saccharomyces cerevisiaeのアルコールデヒドロゲナーゼ/グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(ADH2/GAP)、Saccharomyces cerevisiaeの3-ホスホグリセリン酸キナーゼの遺伝子から得られる。酵母宿主細胞のための他の有用なプロモータは、Romanos他、1992年、Yeast、第8巻、423〜488ページに記載されている。
【0113】
制御配列は、宿主細胞によって認識されて転写を終結させる配列である適切な転写ターミネータ配列でもよい。ターミネータ配列は、ズブチラーゼをコードしているポリヌクレオチドの3'末端と機能上関係している。本発明では、選択した宿主細胞の中で機能する任意のターミネータを使用できる。
【0114】
糸状菌宿主細胞にとって好ましいターミネータは、Aspergillus orizaeのTAKAアミラーゼ、Aspergillus nigerのグルコアミラーゼ、Aspergillus nidulansのアントラニル酸シンターゼ、Aspergillus nigerのα-グルコシダーゼ、Fusarium oxysporumのトリプシン様プロテアーゼの遺伝子から得られる。
【0115】
酵母宿主細胞のための好ましいターミネータは、Saccharomyces cerevisiaeのエノラーゼ、Saccharomyces cerevisiaeのシトクロムC(CYC1)、Saccharomyces cerevisiaeのグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼの遺伝子から得られる。Romanosら(1992年、上記文献)は、酵母宿主細胞のための他の有用なターミネータを記載している。
【0116】
制御配列は、宿主細胞による翻訳にとって重要なmRNAの非翻訳領域としての適切なリーダー配列にすることもできる。リーダー配列は、ポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドの5'末端と機能上関係している。本発明では、選択した宿主細胞の中で機能する任意のリーダー配列を使用できる。
【0117】
糸状菌宿主細胞にとって好ましいリーダーは、Aspergillus orizaeのTAKAアミラーゼとAspergillus nidulansのトリオースリン酸イソメラーゼの遺伝子から得られる。
【0118】
酵母宿主細胞に適したリーダーは、Saccharomyces cerevisiaeのエノラーゼ(ENO-1)、Saccharomyces cerevisiaeの3-ホスホグリセリン酸キナーゼ、Saccharomyces cerevisiaeのα因子、Saccharomyces cerevisiaeのアルコールデヒドロゲナーゼ/グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(ADH2/GAP)の遺伝子から得られる。
【0119】
制御配列は、ポリヌクレオチドの3'末端と機能上関係していて、転写されたときに宿主細胞によって信号として認識されて転写されたmRNAにポリアデノシン残基を付加するポリアデニル化配列でもよい。本発明では、選択した宿主細胞の中で機能する任意のポリアデニル化配列を使用できる。
【0120】
糸状菌宿主細胞にとって好ましい好ましいポリアデニル化配列は、Aspergillus orizaeのTAKAアミラーゼ、Aspergillus nigerのグルコアミラーゼ、Aspergillus nidulansのアントラニル酸シンターゼ、Fusarium oxysporumのトリプシン様プロテアーゼ、Aspergillus nigerのα-グルコシダーゼの遺伝子から得られる。
【0121】
酵母宿主細胞のための有用なポリアデニル化配列がGuoとSherman、1995年、Molecular Cellular Biology、第15巻、5983〜5990ページに記載されている。
【0122】
制御配列は、ズブチラーゼのアミノ末端に連結されたアミノ酸配列をコードしていてコードされたズブチラーゼを細胞の分泌経路に向かわせるシグナル・ペプチド・コード領域でもよい。ポリヌクレオチドのコード配列の5'末端は、翻訳読み取り枠の中に、分泌されるズブチラーゼをコードするコード領域の区画に元々連結しているシグナル・ペプチド・コード領域を本来的に含んでいる。あるいはコード配列の5'末端は、そのコード配列の外にあるシグナル・ペプチド・コード領域を含んでいてもよい。外部のシグナル・ペプチド・コード領域は、コード配列が元々シグナル・ペプチド・コード領域を含んでいない場合に必要となる可能性がある。あるいは外部のシグナル・ペプチド・コード領域の代わりに天然のシグナル・ペプチド・コード領域を用いてズブチラーゼの分泌を増やすこともできる。しか本発明では、し発現したズブチラーゼを選択した宿主細胞の分泌経路へと向かわせる任意のシグナル・ペプチド・コード領域を使用できる。
【0123】
細菌宿主細胞にとって有効なシグナル・ペプチド・コード領域は、Bacillus NCIB 11837のマルトース産生アミラーゼ、Bacillus stearothermophilusのα-アミラーゼ、Bacillus licheniformisのズブチリシン、Bacillus licheniformisのβ-ラクタマーゼ、Bacillus stearothermophilusの中性プロテアーゼ(nprT、nprS、nprM)、枯草菌のprsAの遺伝子から得られるシグナル・ペプチド・コード領域である。さらに別のシグナル・ペプチドは、SimonenとPalva、1993年、Microbiological Reviews、第57巻、109〜137ページに記載されている。
【0124】
糸状菌宿主細胞にとって有効なシグナル・ペプチド・コード領域は、Aspergillus orizaeのTAKAアミラーゼ、Aspergillus nigerの中性アミラーゼ、Aspergillus nigerのグルコアミラーゼ、Rhizomucor mieheiのアスパラギン酸プロテイナーゼ、Humicola insolensのセルラーゼ、Humicola lanuginosaのリパーゼの遺伝子から得られるシグナル・ペプチド・コード領域である。
【0125】
酵母宿主細胞にとって有効なシグナル・ペプチドは、Saccharomyces cerevisiaeのα因子とSaccharomyces cerevisiaeのインベルターゼの遺伝子から得られる。Romanosら(1992年、上記文献)は、他の有用なシグナル・ペプチド・コード領域を記載している。
【0126】
制御配列は、ズブチラーゼのアミノ末端に位置するアミノ酸配列をコードするプロペプチド・コード配列でもよい。得られるポリペプチドは、プロ酵素またはプロポリペプチドとして知られる(またはチモーゲンと呼ばれる場合もある)。プロポリペプチドは一般に不活性であり、触媒または自己触媒によってプロポリペプチドからプロペプチドが切断されることによって成熟した活性なポリペプチドに変換することができる。プロペプチド・コード領域は、枯草菌のアルカリ性プロテアーゼ(aprE)、枯草菌の中性プロテアーゼ(nprT)、Saccharomyces cerevisiaeのα因子、Rhizomucor mieheiのアスパラギン酸プロテイナーゼ、Myceliophthora thermophilaのラッカーゼ(WO 95/33836)の遺伝子から得られる。
【0127】
シグナル・ペプチド領域とプロペプチド領域の両方がズブチラーゼのアミノ末端に存在している場合、プロペプチド領域はズブチラーゼのアミノ末端に隣接して配置され、シグナル・ペプチド領域は、プロペプチド領域のアミノ末端に隣接して配置される。
【0128】
宿主細胞の増殖に関してポリペプチドの発現を調節できる調節配列を付加することも望ましかろう。調節系の例は、化学的刺激または物理的刺激に応答して遺伝子の発現をオン・オフさせるものであり、例えば調節化合物の存在が挙げられる。原核生物系の調節系として、lac、tac、trpオペレータ系がある。酵母では、ADH2系またはGAL1系を使用できる。糸状菌では、TAKAα-アミラーゼ・プロモータ、Aspergillus nigerのグルコアミラーゼ・プロモータ、Aspergillus orizaeのグルコアミラーゼ・プロモータを調節配列として使用できる。調節配列の別の例は、遺伝子を増幅させることのできるものである。真核生物系では、メトトレキセートの存在下で増幅されるジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子と、重金属で増幅されるメタロチオネインなどがある。これらの場合には、ポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドは調節配列と機能上関係することになろう。
【0129】
発現ベクター
【0130】
本発明は、本発明の核酸構造体と、プロモータと、転写・翻訳停止信号とを含む組み換え発現ベクターにも関する。
【0131】
本発明の酵素をコードしている核酸構造体を含む組み換え発現ベクターとしては、組み換えDNA手続きに馴染む任意のベクターが可能である。
【0132】
ベクターの選択は、そのベクターを導入する宿主細胞が何であるかに依存することがしばしばある。したがってベクターは、自己複製ベクター、すなわち染色体外の実体として存在して染色体の複製とは独立に複製されるベクター(例えばプラスミド)が可能である。あるいはベクターは、宿主細胞に導入されると一部または全体がその宿主細胞のゲノムに統合され、統合された染色体とともに複製されるものでもよい。
【0133】
ベクターは、本発明の酵素をコードするDNA配列が、そのDNAの転写に必要な追加区画と機能上関係している発現ベクターであることが好ましい。一般に、発現ベクターはプラスミドまたはウイルスDNAに由来するものだが、両方のエレメントを含んでいてもよい。“機能上関係する”という表現は、複数の区画が、目指す目的のために協調して機能するように配置されていて、例えば転写がプロモータから始まり、酵素をコードするDNA配列へと進むことを示す。
【0134】
プロモータとしては、選択した宿主細胞の中で転写活性を示す任意のDNA配列が可能である。プロモータは、宿主細胞にとって同種または異種のタンパク質をコードしている遺伝子から得ることができる。
【0135】
細菌宿主細胞で用いるのに適したプロモータの例として、Bacillus stearothermophilusのマルトース産生アミラーゼ遺伝子、Bacillus licheniformisのα-アミラーゼ遺伝子、Bacillus amyloliqeufaciensのα-アミラーゼ遺伝子、枯草菌のアルカリ性プロテアーゼ遺伝子、Bacillus pumilusのキシロシダーゼ遺伝子のプロモータ、ファージλのPRまたはPLプロモータ、大腸菌のlac、trp、tacプロモータなどがある。
【0136】
本発明の酵素をコードしているDNA配列は、必要な場合には適切なターミネータと機能上関係するように接続することもできる。
【0137】
本発明の組み換えベクターは、問題の宿主細胞の中でベクターの複製を可能にするDNA配列をさらに含むことができる。
【0138】
ベクターは、選択マーカー(例えば遺伝子の産物が宿主細胞に不足しているものを補足するような遺伝子、抗生物質(カナマイシン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、テトラサイクリン、スペクチノマイシンなど)に対する耐性をコードしている遺伝子、重金属や除草剤に対する耐性をコードしている遺伝子)も含むことができる。
【0139】
本発明の酵素を宿主細胞の分泌経路に向かわせるため、組み換えベクターに分泌信号配列(リーダー配列、プレプロ配列、プレ配列としても知られる)が含まれるようにするとよい。分泌信号配列は、酵素をコードしているDNA配列に正しい読み取り枠で接合される。分泌信号配列は、一般に、酵素をコードしているDNA配列の5'側に位置する。分泌信号配列は、酵素に通常付随するもの、または別の分泌タンパク質をコードする遺伝子からのものが可能である。
【0140】
本発明の酵素をコードするDNA配列と、プロモータと、場合によってはターミネータ配列および/または分泌信号配列とを連結するのに利用する手続き、またはこれらの配列を適切なPCR増幅スキームによって組み立て、それらを、複製または統合に必要な情報を含む適切なベクターに挿入する手続きは、当業者によく知られている(例えば参考として、Sambrook他、上記文献)。
【0141】
宿主細胞
【0142】
本発明は、本発明の核酸構造体を含む宿主細胞にも関する。
【0143】
本発明の酵素をコードしていて宿主細胞に導入されるDNA配列は、問題の宿主にとって同種または異種のものが可能である。そのDNA配列が宿主にとって同種である場合、すなわち天然の宿主細胞によって産生される場合には、一般に、別のプロモータ配列に機能上関係するように接続するか、可能であるならば、自然環境中にあるのとは別の分泌信号配列および/またはターミネータ配列に機能上関係するように接続することになろう。“同種”という用語は、問題の宿主に元々存在している酵素コードDNA配列を意味するものとする。“異種”という用語は、自然界の宿主によって発現されないDNA配列を意味するものとする。したがってDNA配列は、他の生物からのものや合成配列が可能である。
【0144】
本発明のDNA構造体または組み換えベクターを導入する宿主細胞は、本発明の酵素を産生することのできる任意の細胞が可能であり、例えば細菌、酵母、真菌や、より高等な真核細胞(例えば植物)などがある。
【0145】
培養によって本発明の酵素を産生することのできる細菌宿主細胞の例は、グラム陽性細菌またはグラム陰性細菌である。グラム陽性細菌としては、例えば、Bacillus株(枯草菌、B. licheniformis、B. lentus、B. brevis、B. stearothermophilus、B. alkalophilus、B. amyloliquefaciens、B. coagulans、B. circulans、B. lautus、B. megaterium、B. thuringiensisなどの株、その中でもB. lentusの株)、またはStreptomyces株(S. lividans、S. murinus)がある。グラム陰性細菌としては大腸菌がある。
【0146】
細菌の形質転換は、プロトプラスト形質転換、電気穿孔、接合のいずれかによって、または公知の方法でのコンピテント細胞を利用することによって実現できる(参考:Sambrook他、上記文献)。
【0147】
大腸菌などの細菌内で酵素を発現させるとき、その酵素は、一般に不溶性顆粒として細胞質に保持すること(封入体として知られる)、または細菌分泌配列によってペリプラズムに向かわせることができる。前者の場合には、細胞を溶解させて顆粒を回収し、変性させた後、変性剤を希釈することによって酵素の構造を復元させる。後者の場合には、例えば超音波または浸透圧の衝撃で細胞を破壊してペリプラズムの内容物を放出させることによって酵素をペリプラズムから回収することができる。
【0148】
酵素をグラム陰性細菌(例えばBacillus株またはStreptomyces株)の中で発現させるとき、その酵素は細胞質に保持すること、または細菌分泌配列によって細胞外マトリックスに向かわせることができる。後者の場合には、酵素は以下に説明するようにして細胞外マトリックスから回収できる。
【0149】
本発明の別の一実施態様では、真菌宿主細胞は酵母細胞である。この明細書では、“酵母”に、子嚢胞子酵母(エンドミケス目)、担子胞子酵母、不完全菌糸に属する酵母(ブラストミケス類)が含まれる。酵母の分類は将来変更される可能性があるため、本発明の目的では、酵母を『酵母の生物学と活動』(Skinner, F.A.、Passmore, S.M.、Davenport, R.R.編、応用微生物学学会シンポジウム・シリーズ第9号、1980年)に記載されているように定義する。
【0150】
好ましい一実施態様では、酵母宿主細胞は、Candida細胞、Hansenula細胞、Kluyveromyces細胞、Pichia細胞、Saccharomyces細胞、Schizosaccharomyces細胞、Yarrowia細胞である。
【0151】
非常に好ましい一実施態様では、酵母宿主細胞は、Saccharomyces carlsbergensis細胞、Saccharomyces cerevisiae細胞、Saccharomyces diastaticus細胞、Saccharomyces douglasii細胞、Saccharomyces kluyveri細胞、Saccharomyces norbensis細胞、Saccharomyces oviformis細胞である。別の非常に好ましい実施態様では、酵母宿主細胞はKluyveromyces lactis細胞である。別の非常に好ましい実施態様では、酵母宿主細胞はYarrowia lipolytica細胞である。
【0152】
別の好ましい一実施態様では、真菌宿主細胞は、糸状菌宿主細胞である。“糸状菌”には、(Hawksworth他、1995年、上記文献によって定義されているように)真菌類と卵菌類のあらゆる糸状形態が含まれる。糸状菌は、キチン、セルロース、グルカン、キトサン、マンナン、ならびに他の複雑な多糖からなる菌壁を特徴とする。栄養増殖は菌糸の伸長によるため、異化作用は必然的に有酸素である。それとは対照的に、酵母(例えばSaccharomyces cerevisiae)の栄養増殖は単細胞葉状体の出芽によるため、異化作用は発酵を利用することができる。
【0153】
より好ましい一実施態様では、糸状菌宿主細胞は、Acremonium属、Aspergillus属、Fusarium属、Humicola属、Mucor属、Myceliophthora属、Neurospora属、Penicillium属、Thielavia属、Tolypocladium属、Trichoderma属などの細胞である。
【0154】
非常に好ましい一実施態様では、糸状菌宿主細胞は、Aspergillus awamori細胞、Aspergillus foetidus細胞、Aspergillus japonicus細胞、Aspergillus nidulans細胞、Aspergillus niger細胞、Aspergillus oryzae細胞である。別の非常に好ましい一実施態様では、糸状菌宿主細胞は、Fusarium bactridioides細胞、Fusarium cerealis細胞、Fusarium crookwellense細胞、Fusarium culmorum細胞、Fusarium graminearum細胞、Fusarium gramium細胞、Fusarium heterosporum細胞、Fusarium negundi細胞、Fusarium oxysporum細胞、Fusarium reticulatum細胞、Fusarium roseum細胞、Fusarium sambucinum細胞、Fusarium sarcochroum細胞、Fusarium sporotrichioides細胞、Fusarium sulphureum細胞、Fusarium torulosum細胞、Fusarium trichothecioides細胞、Fusarium venenatum細胞である。さらに好ましい一実施態様では、糸状菌宿主細胞はFusarium venenatum(Nirenberg sp. nov.)細胞である。別の非常に好ましい一実施態様では、糸状菌宿主細胞は、Humicola insolens細胞、Humicola lanuginosa細胞、Mucor miehei細胞、Myceliophthora thermophila細胞、Neurospora crassa細胞、Penicillium purpurogenum細胞、Thielavia terrestris細胞、Trichoderma harzianum細胞、Trichoderma koningii細胞、Trichoderma longibrachiatum細胞、Trichoderma reesei細胞、Trichoderma viride細胞である。
【0155】
真菌細胞は、公知のように、プロトプラストの形成、プロトプラストの形質転換、細胞壁の再生を行なう操作を含む方法によって形質転換することができる。Aspergillus宿主細胞を形質転換する適切な手続きは、ヨーロッパ特許第238 023号と、Yelton他、1984年、Proceedings of the National Academy of Sciences USA、第81巻、1470〜1474ページに記載されている。Fusarium属を形質転換する適切な方法は、Malardier他、1989年、Gene、第78巻、147〜156ページと、WO 96/00787に記載されている。酵母は、Abelson, J.N.とSimon, M.I.編、『酵母の遺伝学と分子生物学、酵素学の方法へのガイド』、第194巻(アカデミック出版社、ニューヨーク)の中のBeckerとGuarenteによる182〜187ページ;Ito他、1983年、Journal of Bacteriology、第153巻、163ページ;Hinnen他、1978年、Proceedings of the National Academy of Sciences USA、第75巻、1920ページに記載されている手続きを用いて形質転換することができる。
【0156】
本発明のズブチラーゼの製造方法
【0157】
本発明はさらに、本発明のズブチラーゼを製造する方法に関するものであり、この方法は、
(a)ズブチラーゼの産生につながる条件下で本発明の組み換え宿主細胞を培養し;
(b)ズブチラーゼを回収する操作を含んでいる。
【0158】
この酵素をコードするDNA配列を含む発現ベクターを異種宿主細胞に入れて形質転換するとき、本発明の酵素の異種組み換え産生が可能になる。
【0159】
そうすることにより、相同な不純物を含まないことを特徴とする非常に精製されたズブチラーゼ組成物を得ることができる。
【0160】
この文脈において、相同な不純物とは、本発明の酵素を得る元になる同種細胞に由来するあらゆる不純物(例えば本発明の酵素以外のポリペプチド)を意味する。
【0161】
形質転換された宿主細胞の培養に用いる培地は、問題の宿主細胞を増殖させるのに適した通常の任意の培地が可能である。発現したズブチラーゼは培地の中に容易に分泌させることができ、よく知られた手続きによってその培地から回収することができる。その手続きには、遠心分離または濾過によって細胞を培地から分離し、硫酸アンモニウムなどの塩を用いて培地のタンパク質成分を沈澱させた後、クロマトグラフィ法(イオン交換クロマトグラフィやアフィニティ・クロマトグラフィなど)を実施する操作が含まれる。
【0162】
本発明のズブチラーゼの利用法
【0163】
本発明のズブチラーゼ酵素は、多数の工業的用途(特に洗浄剤産業)で利用することができる。したがって本発明は、本発明のズブチラーゼ酵素を含むクリーニング組成物または洗浄組成物(洗濯用組成物または皿洗い用組成物であることが好ましい)にも関する。
【0164】
本発明のズブチラーゼ酵素を含む洗浄組成物:
【0165】
一般に、クリーニング組成物と洗浄組成物は従来からよく知られており、適切なクリーニング組成物と洗浄組成物に関するより詳しい説明に関しては、WO 96/34946、WO 97/07202、WO 95/30011を参照のこと。
【0166】
洗浄組成物
【0167】
本発明の酵素は洗浄組成物に添加できるため、洗浄組成物の1つの成分になる。本発明の洗浄組成物は、例えば、シミのついた生地の予備処理に適した洗濯物用添加組成物と、リンスを添加した生地軟化剤とを含む手作業または機械による洗濯物洗浄組成製品にすること、または一般に家庭内の硬い面をきれいにする作業に用いる洗浄組成製品にすること、または手作業または機械による皿洗い作業のための洗浄組成製品にすることができるが、最後のものが好ましい。
【0168】
特別な1つの特徴では、本発明により、本発明の酵素を含む洗浄剤添加剤が提供される。洗浄剤添加剤と洗浄組成物は、1種類以上の酵素(例えばプロテアーゼ、リパーゼ、クチナーゼ、アミラーゼ、カルボヒドラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、アラビナーゼ、ガラクタナーゼ、キシラナーゼ、オキシダーゼ(例えばラッカーゼ)、ペルオキシダーゼ)を含むことができる。
【0169】
一般に、選択した酵素の特性は、選択した洗浄剤に適合していなければならず(すなわちpHが最適で、他の酵素成分および非酵素成分と適合性があるなど)、酵素は有効な量が存在していなければならない。
【0170】
プロテアーゼ:適切なプロテアーゼとして、細菌または真菌を起源とするプロテアーゼが挙げられる。化学的に修飾した突然変異体またはタンパク質工学による突然変異体が含まれる。プロテアーゼは、セリンプロテアーゼまたはメタロプロテアーゼが可能であり、アルカリ性の微生物プロテアーゼまたはトリプシン様プロテアーゼが好ましい。アルカリ性プロテアーゼの例は、ズブチリシン、その中でも特に、Bacillusに由来するズブチリシン(例えばズブチリシン・ノボ、ズブチリシン・カールスバーグ、ズブチリシン309、ズブチリシン147、ズブチリシン168(WO89/06279に記載))である。トリプシン様プロテアーゼの例は、(例えばブタまたはウシが起源の)トリプシンと、WO 89/06270とWO 94/25583に記載されているFusariumプロテアーゼである。
【0171】
有用なプロテアーゼの例は、WO 92/19729、WO 98/20115、WO 98/20116、WO 98/34946に記載されている変異体であり、その中でも特に、以下に示す位置番号:27、36、57、68、76、87、97、101、104、106、120、123、167、170、194、206、218、222、224、235、245、252、274のうちの1つ以上に置換がある変異体である。市販されている好ましいプロテアーゼ酵素として、Relase(登録商標)、Alcalase(登録商標)、Savinase(登録商標)、Primase(登録商標)、Everlase(登録商標)、Esperase(登録商標)、Ovozyme(登録商標)、Coronase(登録商標)、Polarzyme(登録商標)、Kannase(登録商標)(以上ノボザイムズ社)、Maxatase(登録商標)、Maxacal(登録商標)、Maxapem(登録商標)、Properase(登録商標)、Purafect(登録商標)、Purafect OxP(登録商標)、FN2(登録商標)、FN3(登録商標)、FN4(登録商標)、Purafect Prime(登録商標)(ジェネンコア・インターナショナル社)、BLAP X、BLAp S(ヘンケル社)などがある。
【0172】
リパーゼ:適切なリパーゼとして、細菌または真菌を起源とするリパーゼが挙げられる。化学的に修飾した突然変異体またはタンパク質工学による突然変異体が含まれる。有用なリパーゼの例として、Humicola(Thermomycesの同義語)(例えばヨーロッパ特許第258 068号と第305 216号に記載されているH. lanuginosa(T. lanuginosa)、WO 96/13580に記載されているH. insolens)のリパーゼ、Pseudomonas(例えばP. alcaligenesまたはP. pseudoalcaligenes(ヨーロッパ特許第218 272号)、P. cepacia(ヨーロッパ特許第331 376号)、P. stutzeri(イギリス国特許第1,372,034号)、P. fluorescens、Pseudomonas属の株SD705(WO 95/06720とWO 96/27002)、P. wisconsinensis(WO 96/12012))のリパーゼ、Bacillus(例えば枯草菌(Dartois他、1993年、Biochemica et Biophysica Acta、第1131巻、253〜360ページ)、B. stearothermophilus(日本国特開64/744992)、B. pumilus(WO 91/16422))のリパーゼなどがある。他の例はリパーゼ変異体であり、例えばWO 92/05249、WO 94/01541、ヨーロッパ特許第407225号、第260105号、WO 95/35381、WO 96/00292、WO 95/30744、WO 94/25578、WO 95/14783、WO 95/22615、WO 97/04079、WO 97/07202に記載されている。市販されている好ましいリパーゼ酵素として、Lipolase(登録商標)、Liporase Ultra(登録商標)、Lipex(登録商標)(ノボザイムズ社)などがある。
【0173】
アミラーゼ:適切なアミラーゼ(αおよび/またはβ)として、細菌または真菌を起源とするアミラーゼが挙げられる。化学的に修飾した突然変異体またはタンパク質工学による突然変異体が含まれる。アミラーゼとして例えばBacillusから得られるα-アミラーゼがあり、その例として、B. licheniformisの特別な株(より詳しいことはイギリス国特許第1,296,839号に記載されている)から得られるα-アミラーゼが挙げられる。有用なアミラーゼの例は、WO 94/02597、WO 94/18314、WO 96/23873、WO 97/43424に記載されている変異体、その中でも特に、以下に示す位置番号:15、23、105、106、124、128、133、154、156、181、188、190、197、202、208、209、243、264、304、305、391、408、444のうちの1つ以上に置換がある変異体である。市販されているアミラーゼは、Duramyl(登録商標)、Termamyl(登録商標)、Stainzyme(登録商標)、Fungamyl(登録商標)、BAN(登録商標)(以上ノボザイムズ社)、Rapidase(登録商標)、Purastar(登録商標)、Purastar OxAm(登録商標)(以上ジェネンコア・インターナショナル社)である。
【0174】
セルラーゼ:適切なセルラーゼとして、細菌または真菌を起源とするセルラーゼが挙げられる。化学的に修飾した突然変異体またはタンパク質工学による突然変異体が含まれる。適切なセルラーゼとして、Bacillus属、Pseudomonas属、Humicola属、Fusarium属、Thielavia属、Acremonium属からのセルラーゼがあり、例えば、アメリカ合衆国特許第4,435,307号、第5,648,263号、第5,691,178号、第5,776,757号とWO 89/09259に開示されているHumicola insolens、Myceliophthora thermophila、Fusarium oxysporumが産生する真菌セルラーゼが挙げられる。特に適したセルラーゼは、色物に対する配慮と白さの維持という利点を持つアルカリ性または中性のセルラーゼである。そのようなセルラーゼの例は、ヨーロッパ特許第0 495 257号、第0 531 372号、WO 96/11262、WO 96/29397、WO 98/08940に記載されているセルラーゼである。他の例は、WO 94/07998、ヨーロッパ特許第0 531 315号、アメリカ合衆国特許第5,457,046号、第5,686,593号、第5,763,254号、WO 95/24471、WO 98/12307、PCT/DK98/00299に記載されているセルラーゼ変異体である。市販されているセルラーゼとして、Renozyme(登録商標)、Celluzyme(登録商標)、Carezyme(登録商標)(以上ノボザイムズ社)、Clazinase(登録商標)、Puradax HA(登録商標)(以上ジェネンコア・インターナショナル社)、KAC-500(B)(登録商標)(花王株式会社)などがある。
【0175】
ペルオキシダーゼ/オキシダーゼ:適切なペルオキシダーゼ/オキシダーゼとして、植物、細菌、真菌を起源とするペルオキシダーゼ/オキシダーゼが挙げられる。化学的に修飾した突然変異体またはタンパク質工学による突然変異体が含まれる。有用なペルオキシダーゼの例として、Coprinus(例えばC. cinereus)や、WO 93/24618、WO 95/10602、WO 98/15257に記載されているCoprinus変異体)からのペルオキシダーゼがある。市販されているペルオキシダーゼとしてGuardzyme(登録商標)(ノボザイムズ社)などがある。
【0176】
ヘミセルラーゼ:適切なヘミセルラーゼとして、細菌または真菌を起源とするヘミセルラーゼが挙げられる。化学的に修飾した突然変異体またはタンパク質工学による突然変異体が含まれる。適切なヘミセルラーゼとして、マンナナーゼ、リケナーゼ、キシラナーゼ、アラビナーゼ、ガラクタナーゼ、アセチルキシランエステラーゼ、グルコルニダーゼ、フェルラ酸エステラーゼ、クマル酸エステラーゼ、WO 95/35362に記載されているアラビノフラノシダーゼなどがある。適切なマンナナーゼはWO 99/64619に記載されている。
【0177】
洗浄剤の酵素は、1種類以上の酵素を含む別々の添加剤を添加することによって、またはこれらの酵素をすべて含むまとめた1種類の添加剤を添加することによって、洗浄組成物の中に含まれるようにできる。本発明の洗浄剤添加剤、すなわち別々の添加剤または1つにまとめた添加剤は、例えば、顆粒、液体、スラリーなどにすることができる。好ましい洗浄剤添加組成物は顆粒(特にダストにならない顆粒)、液体(特に、安定化された液体)、スラリーである。
【0178】
ダストにならない顆粒は、例えばアメリカ合衆国特許第4,106,991号と第4,661,452号に開示されているようにして製造することができ、場合によっては従来技術で知られている方法で被覆することができる。ワックス状被覆材料の例は、平均分子量が1000〜20000のポリ(エチレンオキシド)製品(ポリエチレングリコール、PEG);16〜50個のエチレンオキシド単位を有するエトキシル化されたノニルフェノール;アルコールに12〜20個の炭素原子が含まれていて、15〜80個のエチレンオキシド単位を有するエトキシル化された脂肪アルコール;脂肪アルコール;脂肪酸;脂肪酸のモノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドである。流動床法で付着させるのに適した膜形成被服材料の例は、イギリス国特許第1483591号に与えられている。液体酵素調製物は、例えば確立した方法でポリオール(例えばプロピレングリコール)、糖、糖アルコール、乳酸、ホウ酸のいずれかを添加して安定化させることができる。保護された酵素は、ヨーロッパ特許第238,216号に開示されている方法に従って調製することができる。
【0179】
本発明の洗浄組成物は適切な任意の形態にできる(例えば棒、錠剤、粉末、顆粒、ペースト、ゲル、液体)。液体洗浄剤は水性(一般に70%までの水と、0〜30%の有機溶媒を含む)でもよいし、非水性でもよい。
【0180】
洗浄組成物は1種類以上の界面活性剤を含んでいる。界面活性剤は、非イオン性(半極性を含む)、および/またはアニオン性、および/またはカチオン性、および/または両性のものが可能である。界面活性剤は、一般に0.1重量%〜60重量%のレベルで存在する。
【0181】
洗浄剤は、アニオン性界面活性剤または石鹸を含むのであれば、通常は約1%〜約40%の量を含むことになろう。アニオン性界面活性剤としては、例えば直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、スルホン酸アルキル(スルホン酸脂肪アルコール)、エトキシスルホン酸アルコール、第二級アルカンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸メチルエステル、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸がある。
【0182】
洗浄剤は、非イオン性界面活性剤を含むのであれば、通常は約0.2%〜約40%の量を含むことになろう。非イオン性界面活性剤としては、例えばエトキシル酸アルコール、エトキシル酸ノニルフェノール、アルキルポリグリコシド、アルキルジメチルアミンオキシド、エトキシル化脂肪酸モノエタノールアミド、脂肪酸モノエタノールアミド、ポリヒドロキシアルキル脂肪酸アミド、グルコサミンのN-アシル N-アルキル誘導体(“グルカミド”)がある。
【0183】
洗浄剤は、0〜65%の洗浄ビルダーまたは錯化剤を含むことができる。洗浄ビルダーまたは錯化剤としては、例えばゼオライト、二リン酸塩、三リン酸塩、ホスホン酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、可溶性ケイ酸塩、層状ケイ酸塩(例えばヘキスト社のSKS-6)がある。
【0184】
洗浄剤は、1種類以上のポリマーを含むことができる。その例は、カルボキシメチルセルロース、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピリジン-N-オキシド)、ポリ(ビニルイミダゾール)、ポリカルボキシレート(例えばポリアクリレート)、マレイン酸/アクリル酸コポリマー、メタクリル酸ラウリル/アクリル酸コポリマーである。
【0185】
洗浄剤は、漂白系を含むことができる。漂白系はH2O2源(例えば過ホウ酸塩または過炭酸塩)を含むことができ、その漂白系を過酸形成漂白活性化剤(例えばテトラアセチルエチレンジアミドまたはノナノイルオキシベンゼンスルホン酸塩)と組み合わせることができる。あるいは漂白系は、例えばアミド・タイプ、イミド・タイプ、スルホン・タイプのペルオキシ酸を含むこともできる。
【0186】
本発明の洗浄組成物の酵素は、一般的な安定剤(例えばポリオール(プロピレングリコールやグリセロールなど)、糖または糖アルコール、乳酸、ホウ酸、ホウ酸誘導体(例えば芳香族ホウ酸エステル)、フェニルボロン酸誘導体(4-ホルミルフェニルボロン酸など))を用いて安定化させることができる。この組成物は、例えばWO 92/19709、WO 92/19708に記載されているようにして調製できる。
【0187】
洗浄剤は、他の一般的な洗浄成分(例えば生地コンディショナーである粘土、泡ブースタ、石鹸の泡抑制剤、抗腐食剤、汚れ懸濁剤、抗汚れ再付着剤、染料、殺菌剤、蛍光剤、屈水物質、変色阻害剤、香料)も含むことができる。
【0188】
洗浄組成物では、任意の酵素(特に本発明の酵素)を、洗浄液1リットルにつき酵素タンパク質が0.01〜100mgに対応する量となるように添加することができる。洗浄液1リットル当たりの酵素タンパク質は0.05〜5mgが好ましく、0.1〜1mgが特に好ましい。
【0189】
配列情報
【0190】
配列ID番号1 - サビナーゼ変異体1をコードするDNA配列、
配列ID番号2 - サビナーゼ変異体1のアミノ酸配列、
配列ID番号3 - サビナーゼ変異体2をコードするDNA配列、
配列ID番号4 - サビナーゼ変異体2のアミノ酸配列、
配列ID番号5 - ズブチリシン309(サビナーゼ)をコードするDNA配列、
配列ID番号6 - ズブチリシン309(サビナーゼ)のアミノ酸配列、
配列ID番号7 - サビナーゼ変異体S99SD+S99AのDNA配列(参考:WO 01/44452)、
配列ID番号8 - サビナーゼ変異体S99SD+S99Aのアミノ酸配列(参考:WO 01/44452)、
配列ID番号9 - Bacillus lentusアルカリ性プロテアーゼのDNA配列 - BLAP、
配列ID番号10 - Bacillus lentusアルカリ性プロテアーゼのアミノ酸配列 - BLAP。
【0191】
材料と方法
【0192】
洗浄剤
【0193】
本発明によるプロテアーゼの洗浄能力試験のための洗浄剤は、完全な製品となった市販の洗浄剤を店舗で購入した後、熱処理(水溶液中で85℃にて5分間)によって酵素成分を不活化することによって取得できる。さらに、酵素なしの市販の洗浄剤のベースは、製造者から直接購入することができる。さらに、適切なモデル洗浄剤を購入して洗浄能力試験で使用することができる。
【0194】
布地
【0195】
基準布地片をwfk-クリーニング技術研究所(クリステンフェルト10、D-41379 ブリュッゲン-ブラハト、ドイツ国)から入手する。特にタイプwfk10N(卵/顔料で汚した綿布)。
【0196】
タンパク質分解活性
【0197】
本発明の文脈では、タンパク質分解活性をキロ・ノボ・プロテアーゼ単位(KNPU)で表わす。活性は基準酵素(Savinase(登録商標))に対して測定し、標準的な条件(すなわち50℃、pH8.3、9分間の反応時間、3分間の測定時間)でジメチルカゼイン(DMC)をタンパク質分解酵素で消化させることに基づいて決定する。ノボザイムズ社(デンマーク国)に要求すればホルダAF 220/1を入手することができる。このホルダは、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする。
【0198】
GUはグリシン単位であり、基準条件下で40℃にて基質としてのN-アセチルカゼインとともに15分間にわたってインキュベートしたときに1ミリモルのグリシンと等価な量のNH2基を生成させるタンパク質分解酵素の活性として定義される。
【0199】
酵素の活性は、PNAアッセイを利用して測定することもできる。PNAアッセイは、可溶性基質であるスクシニル-アラニン-アラニン-プロリン-フェニル-アラニン-パラ-ニトロ-フェノールとの反応によるものであり、Journal of American Oil Chemists Society、Rothgeb, T.M.、Goodlander, B.D.、Garrison, P.H.、Smith, L.A.、1988年に記載されている。
【実施例1】
【0200】
本発明のズブチラーゼの構成と発現
【0201】
実施例1では、配列ID番号2と配列ID番号4の両方をカバーする。配列ID番号2という用語は、いつでも配列ID番号4という用語と交換できることを理解されたい。
【0202】
配列ID番号2に示したアミノ酸配列を持つズブチリシンをプラスミドpKH400(WO 98/41623にすでに記載されている)の中に配置した。pKH400は、pJS3(ズブチラーゼ309(J. SchiodtらがProtein and Peptide Letters、第3巻、39〜44ページ、1996年に記載しているように、Savinase(登録商標))をコードする合成遺伝子を含む大腸菌-枯草菌シャトル・ベクター)の位置番号1841と3730に2つのBamHI部位を導入することによって構成した。
【0203】
pKH400は、大腸菌とBacillusのための複製起点と、クロラムフェニコールに対する耐性を与えるcat遺伝子と、ズブチリシンの転写の開始を命令するプロモータと、Savinase(登録商標)からのプレ/プロ領域とを含んでいる。
【0204】
このプラスミドは大腸菌と枯草菌の両方において複製され、本発明のズブチリシンは、枯草菌の中にあるこのプラスミドから発現した。このプロテアーゼの発酵と精製について以下に記載する。
【0205】
発酵
【0206】
ズブチラーゼ酵素を産生させるための発酵を、100mlのBPX培地を入れた500mlのバッフル付きエルレンマイヤー・フラスコの中で、ロータリー振盪テーブル(300rpm)の上で30℃にて5日間にわたって実施した。したがって例えば2リットルのブロスを作るのに、20個のエルレンマイヤー・フラスコを同時に発酵させた。
【0207】
BPX培地組成物(1リットル当たり):ジャガイモのデンプンを100g、粉砕したオオムギを50g、ダイズ粉を20g、Na2HPO4・12H2Oを9g、Dowfax(登録商標)63N10(ダウ・ケミカル社)を0.1g、カゼイン酸ナトリウムを10g。
【0208】
この培地のデンプンをα-アミラーゼで液体化し、この培地を45分間にわたって120℃に加熱して殺菌した。殺菌後、NaHCO3を0.1Mになるまで添加して培地のpHを9に調節した。
【0209】
精製
【0210】
この手続きは、Bacillus宿主細胞の中で本発明のズブチラーゼを産生させるための2リットル規模の発酵物を精製することに関する。
【0211】
約1.6リットルの発酵ブロスを1リットルのビーカーの中で5000rpmにて35分間にわたって遠心分離した。10%酢酸を用いて上清のpHを6.5に調節した後、Seitz(登録商標)Supra S100フィルタ・プレート(ザイツシェンク・フィルタシステムズ社、バート・クロイツナッハ、ドイツ国)で濾過した。
【0212】
Amicon(登録商標)S1Y10 UFカートリッジを備えるAmicon(登録商標)CH2A UFユニット(ミリポア社、ビレリカ、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)を用いて濾液を約400mlに濃縮した。このUF濃縮液を室温で遠心分離し、濾過した後、pH7のバシトラシン・アフィニティ・カラムに吸収させた。0.01Mのジメチルグルタル酸と、0.1Mのホウ酸と、0.002Mの塩化カルシウムを用いてpHを7に調節した緩衝溶液に25%の2-プロパノールと1Mの塩化ナトリウムが含まれたものを用い、ズブチラーゼをバシトラシン・カラムから室温で溶離させた。
【0213】
バシトラシン精製ステップから得られたプロテアーゼ活性を持つ分画を1つにまとめ、緩衝液を用いて平衡させた750mlのSephadex(登録商標)G25カラム(直径5cm)に適用した。この緩衝液は、0.01Mのジメチルグルタル酸と、0.2Mのホウ酸と、0.002Mの塩化カルシウムを含んでいて、pHが6.5に調節されている。
【0214】
Sephadex(登録商標)G25カラム(シグマ-オールドリッチ社)から得られたタンパク質分解活性を持つ分画を1つにまとめ、緩衝液を用いて平衡させた150mlのCM Sephadex(登録商標)CL 6B陽イオン交換カラム(直径5cm)(GEヘルスケア/アマーシャム・バイオサイエンシーズ社)に適用した。この緩衝液は、0.01Mのジメチルグルタル酸と、0.2Mのホウ酸と、0.002Mの塩化カルシウムを含んでいて、pHが6.5に調節されている。
【0215】
2リットルの同じ緩衝液の中で0〜0.1Mの塩化ナトリウム線形勾配を利用してプロテアーゼを溶離させた。最終精製ステップでは、CM Sephadex(登録商標)カラムからのプロテアーゼ含有分画を1つにまとめ、GR81PP膜(ダニッシュ・シュガー・ファクトリーズ社)を備えるAmicon(登録商標)限外濾過セルの中で濃縮した。
【0216】
構成と発酵のための上記の方法と、上記の単離手続きとを利用し、配列ID番号2に示したアミノ酸配列を持つ新規なズブチラーゼが産生され、単離された。
【実施例2】
【0217】
自動式力学的応力アッセイ(AMSA)
【0218】
AMSA試験法の説明
【0219】
洗浄組成物中の選択したプロテアーゼ変異体の洗浄能力を評価するための洗浄実験を行なう。自動式力学的応力アッセイ(AMSA)を利用して本出願のプロテアーゼをテストする。AMSAでは、少体積の酵素-洗浄溶液を大量に集めて洗浄能力を調べることができる。AMSAプレートは、試験溶液のための多数のスロットと、洗浄する布地サンプルをすべてのスロット開口部に強く押し付ける蓋を備えている。洗浄時間中、プレートと、試験溶液と、布地と、蓋とを激しく揺することによって試験溶液を布地と接触させ、力学的応力が規則的・周期的な振動として加わるようにする。さらに詳しい説明に関しては、WO 02/42740の特に23〜24ページにある「特別な方法の実施態様」の段落を参照のこと。
【0220】
以下に示す実験条件下で実験を行なった。
【0221】
【表1】

【0222】
試験系にCaCl2、MgCl2、NaHCO3(Ca2+:Mg2+=4:1)を添加して水の硬度を16°dHに調節した。布地片を洗浄した後、水道水を流し、乾燥させた。
【0223】
酵素変異体の性能は、特定のプロテアーゼで洗浄した布地サンプルの色の明度として測定される。明度は、布地サンプルに白色光を照射したときに反射される光の強度として表わすことができる。布地が汚れている場合には、反射光の強度は、清潔な布地よりも小さい。したがって反射光の強度を用いてプロテアーゼの洗浄能力を測定することができる。
【0224】
プロ用フラットベッド・スキャナ(J.M. Thomsen、ドルフガーデ2、ドルフ、ドロンニングルンド、デンマーク-9330から入手できるPFU DL2400pro)を用いて色測定を行なう。このスキャナは、洗浄した布地サンプルの画像を捕獲するのに用いる。解像度200dpi、出力色深度24ビットで走査を行なう。正確な結果を得るため、コダック反射IT8ターゲットを用いてスキャナを頻繁に較正する。
【0225】
走査した画像から光強度の値を取り出すため、特別に設計したアプリケーション・ソフトウエアを用いる(ノボザイムズ・カラー・ベクトル・アナライザ)。このプログラムによって画像から24ビットの画素値を回収し、その値を赤、緑、青(RGB)の値に変換する。RGB値をベクトルとして加算した後、得られたベクトルの長さを得ることによって強度値(Int)を計算する。
Int = (r2+g2+b2)1/2
【0226】
布地:
【0227】
基準布地片をwfk-クリーニング技術研究所(クリステンフェルト10、D-41379 ブリュッゲン-ブラハト、ドイツ国)から入手する。特にタイプwfk10N(卵/顔料で汚した綿布)。
【0228】
上記の試験法をヘンケルKGaA社から市販されている洗浄剤Somat 3 in 1と組み合わせて利用し、表1に示した結果を得た。テストしたプロテアーゼの性能を計算して比較対象となる2種類のズブチラーゼ(比較対象1はWO 01/44452に開示されているサビナーゼ変異体S99SD+S99Aであり、比較対象2はBacillus lentusのアルカリ性プロテアーゼBLAPである)の性能と比較する。
【0229】
【表2】

【0230】
この表からわかるように、本発明のズブチラーゼ(配列ID番号2と配列ID番号4)は、基準となるプロテアーゼと比較して卵のシミに対する洗浄能力が著しく向上している。
【実施例3】
【0231】
微量滴定卵アッセイ(MEA)
【0232】
このアッセイでは、変性した卵タンパク質のプロテアーゼによる消化が洗浄剤の存在下においてどうなるかを96ウエルの微量滴定プレートの中で追跡した。卵タンパク質を加熱すると目に見える変化が起こり、物理化学的な性質が変化する。透明な材料であったのがミルク状の物質に変換される。その一部は、変性したタンパク質がスルフヒドリル-ジスルフィド交換反応することによる。例えば加熱によってオボアルブミンのスルフヒドリル基が露出し、その露出した基がジスルフィド結合を形成する。変性した卵タンパク質がプロテアーゼによって消化されることで、その酵素が卵タンパク質を分解する能力に応じ、ミルク状の卵溶液がより透明な溶液に変換される。
【0233】
手続き
【0234】
a)卵の粉末(サノボ・インターナショナル社)200mgと16°dHの水93.7mlからなる卵溶液を作る。
b)ズブチラーゼ酵素を、pHを6.5に調節した320nMのコハク酸緩衝液(10mMのコハク酸+2mMのCaCl2+0.02%の非イオン性洗浄剤(例えばシグマ-オールドリッチ社のBrij35))に希釈する。
c)洗浄溶液を、使用する直前に作る(5gの洗浄剤(例えば自動皿洗い用の典型的なヨーロッパ式の錠剤型洗浄剤)と937.5mlの水(16°dH(Ca2+/Mg2+ 4:1)))
d)96ウエルの微量滴定プレートの各ウエルに320nMの酵素溶液(最終濃度20nM)10μlと、洗浄溶液(最終濃度5g/リットル、16°d)150μlと、卵溶液(1つのウエルに320μgの卵タンパク質)とを添加する。
【0235】
分光測光器で410nmにおけるODを直ちに測定する(時刻0分)。55℃にて正確に20分間インキュベートした後、再び410nmにおけるODを測定する。ΔODを計算し(溶液の濁りがより少なくなっていくため、0分でのODから20分後のODを差し引く)、基準1の性能との差を比較する。基準の性能は、ΔOD=100%にする。
【0236】
以下の表2には、微量滴定卵アッセイで得られた結果を示してある。各試行には、各酵素の同じ4つの複製が含まれていた。
【0237】
【表3】

【0238】
この結果から、本発明のズブチラーゼ変異体が洗浄溶液中の卵タンパク質の分解を改善することがはっきりとわかる。
【図面の簡単な説明】
【0239】
【図1】上記のギャップ・ルーチンを用いたズブチリシンBPN'(a)(BASBPN)とズブチリシン309(b)(BLSAVI)の間のアラインメントを示している。このアラインメントは、本特許出願では、残基の位置番号の基準として利用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の変更:
S3T+V4I+S99D+S101R+S103A+V104I+G160S+V205I+L217Dまたは
S3T+V4I+S99D+S101R+S103A+V104I+G160S+A194P+V205I+L217D(BASBPNの位置番号)を有するズブチラーゼ酵素変異体。
【請求項2】
親ズブチラーゼがズブチリシン309(BLSAVI)である、請求項1に記載のズブチラーゼ酵素変異体。
【請求項3】
配列ID番号2または配列ID番号4のアミノ酸配列を持つ、請求項1または2に記載のズブチラーゼ酵素変異体。
【請求項4】
27、36、56、76、87、95、96、97、98、100、102、120、123、159、167、170、206、218、222、224、232、235、236、245、248、252、274(BASBPNの位置番号)という位置のうちの1箇所における少なくとも1つの変更をさらに含む、請求項1または2に記載のズブチラーゼ酵素変異体。
【請求項5】
上記変更の選択が、K27R、*36D、S56P、N76D、S87N、G97N、H120D、N123S、G159D、Y167、R170、Q206E、N218S、M222S、M222A、T224S、A232V、K235L、Q236H、Q245R、N248D、N252K、T274A(BASBPNの位置番号)からなるグループの中からなされる、請求項4に記載のズブチラーゼ酵素変異体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のズブチラーゼ酵素変異体をコードするポリヌクレオチドを含む単離されたポリヌクレオチド。
【請求項7】
配列ID番号1のポリヌクレオチドと配列ID番号3のポリヌクレオチドからなるグループの中から選択された、ズブチラーゼをコードする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項8】
適切な宿主の中でズブチラーゼの発現を命令できる1つ以上の制御配列と機能上関係した、請求項6または7のポリヌクレオチドを含む核酸構造体。
【請求項9】
請求項8に記載の核酸構造体と、プロモータと、転写・翻訳停止信号とを含む組み換え発現ベクター。
【請求項10】
請求項8に記載の核酸構造体または請求項9に記載の発現ベクターを含む組み換え宿主細胞。
【請求項11】
細菌、好ましくはバシラス(Bacillus)、その中でも特に枯草菌またはB. licheniformisである、請求項10に記載の宿主細胞。
【請求項12】
真菌または酵母、好ましくは糸状菌、その中でも特にアスペルギルス(Aspergillus)である、請求項10に記載の宿主細胞。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のズブチラーゼ酵素変異体を製造する方法であって、
(a)ズブチラーゼの産生につながる条件下で請求項10〜12のいずれか1項に記載の組み換え宿主細胞を培養し;
(b)ズブチラーゼを回収する操作を含む方法。
【請求項14】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のズブチラーゼ酵素変異体を含むクリーニング組成物または洗浄組成物、好ましくは洗濯物用組成物または皿洗い用組成物。
【請求項15】
セルラーゼ、リパーゼ、クチナーゼ、オキシドレダクターゼ、別のプロテアーゼ、アミラーゼ、ペクチン酸リアーゼ、マンナナーゼ、またはこれらの混合物をさらに含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のズブチラーゼ酵素変異体をクリーニング組成物または洗浄組成物で利用する方法。
【請求項17】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のズブチラーゼ酵素変異体を用いて卵のシミを除去する方法。
【請求項18】
請求項14または15に記載のクリーニング組成物または洗浄組成物を用いて卵のシミを除去する方法。
【請求項19】
クリーニングまたは皿洗いの方法、すなわち硬い面または洗濯物を洗浄する方法であって、その硬い面または洗濯物を請求項14または15に記載の組成物と接触させる操作を含む方法。
【請求項20】
硬い面または洗濯物から卵のシミを除去する方法であって、卵のシミを含むその硬い面、または卵のシミを含むその洗濯物を請求項14または15に記載の組成物と接触させる操作を含む方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−534022(P2009−534022A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−505893(P2009−505893)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際出願番号】PCT/EP2007/053835
【国際公開番号】WO2007/122175
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(500586299)ノボザイムス アクティーゼルスカブ (164)
【Fターム(参考)】