説明

厚導体基板及びその製造方法

【課題】射出成形で形成され、かつ熱膨張による損傷を防止するように構成された大電流を流すことができる厚導体基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】厚導体基板100では、少なくとも電子部品140の半田接合部141間を通る断面において、線膨張係数が所定の基準線膨張係数以下となるように導体の断面積の比率を大きくしている。すなわち、少なくとも半田接合部141を通る断面において、線膨張係数が約17[ppm/℃]の銅の面積を増やすことで、平均線膨張係数が基準線膨張係数以下に低減されるようにしている。基準線膨張係数は、例えば従来のガラスエポキシを用いた電子基板と同程度の24[ppm/℃]とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱量が大きい厚導体基板及びその製造方法の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用DCーDCコンバータは、スイッチング用MOS−FET、電圧変換用トランス、整流用ダイオード、平滑化用チョークコイルの4つの部品で構成される方式のものが一般的である。ハイブリッド自動車用のDCーDCコンバータでは、高電圧・大電流によってそれぞれの部品からの発熱が大きくなるため、それぞれがウォータージャケット等の冷却部品で個別に冷却されるように構成されている。すなわち、それぞれが別個に冷却部品に搭載され、各部品間をバスバー等によって電気的に接続する構造となっている(例えば特許文献1)。
【0003】
しかし、上記のような構成では、接続箇所におけるネジ締結作業や溶接作業等が多くなり、組立工数が増大するのみならず、接続箇所における接触抵抗のばらつきに起因した電気的問題を回避するために、回路上にも専用の部品を付加する必要が生じる。
【0004】
このような問題への対策として、電圧変換用トランス及び平滑化用チョークコイルを構成するコイル部品を、スイッチング用MOS−FET及び整流用ダイオードを搭載する基板の回路パターンで形成することで、これらの部品を一体化することができ、これにより接続箇所を削減することができる。また、部品を一体化したことで発熱部品が集中することになるが、発熱部品の直下に放熱用スリーブを挿入することで、基板上面の熱を下面に逃がし、さらに基板下面から外部に放熱するように構成することができる。
【0005】
ところで、同一基板上にスイッチング用MOS−FET、整流用ダイオード、電圧変換用トランス及び平滑化用チョークコイルを形成して一体化した場合には、導体層通電量が増大するため、導体層の厚さを略0.4mm以上とする必要がある。従来は、このような厚さの導体層をガラスエポキシの絶縁体と積層することで基板を製造していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−143215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の導体層とガラスエポキシとを積層して基板を製造する方法では、同一の層に別々に形成されている導体間に樹脂が十分に行き渡ることができず、その間に空隙ができてしまうおそれがある。このような空隙ができてしまうと、メッキやエッチングの工程で使用されるメッキ液やエッチング液が空隙に残留し、製造工程の過程で残留液が他の液体と混合するなどして成分が変化したり、基板の絶縁性能が低下したりする原因となる。
【0008】
さらに、導体層と絶縁層との間の接合面に隙間が生じると、その部分にもエッチング液等が浸み込むおそれがあった。これを防止するためには、導体層にネオブラウン処理等を施して粗化する工程や、導体の密着性を高めるための工程等が必要となり、コストアップをまねく要因となっていた。
【0009】
そこで、本発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、内部に空隙を有さないように厚導体の導体層と絶縁層とで形成された厚導体基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の厚導体基板の第1の態様は、電子部品を表面実装可能な厚導体基板であって、金属板を加工して回路パターンが形成された2以上の導体層を層間接続し、前記2以上の導体層間に樹脂を射出成形して絶縁層を形成したことを特徴とする。
【0011】
この発明の厚導体基板の他の態様は、少なくとも電子部品を表面実装する領域で前記絶縁層の断面積と前記導体層の断面積とで加重平均した断面平均線膨張係数を全体の平均線膨張係数より小さくすることで、熱膨張による変形を低減させるように前記絶縁層あるいは前記導体層の厚さが決定されていることを特徴とする。
【0012】
この発明の厚導体基板の他の態様は、前記絶縁層の断面積及び線膨張係数をそれぞれSi、αiとし、前記導体層の断面積及び線膨張係数をそれぞれSc、αcとしたとき、前記絶縁層の断面積Siと前記導体層の断面積Scとの割合が、所定の基準熱膨張係数αmに対して次式

を満たすように決定されていることを特徴とする。
【0013】
この発明の厚導体基板の他の態様は、電子部品が表面実装される領域を除いて前記導体層が前記絶縁層で覆われていることを特徴とする。
【0014】
この発明の厚導体基板の他の態様は、前記導体層の外周が前記絶縁層と同じ樹脂で覆われていることを特徴とする。
【0015】
この発明の厚導体基板の他の態様は、前記導体層と前記絶縁層との接触面が、前記絶縁層と同じ樹脂で形成されたアンカーで固定されていることを特徴とする。
【0016】
この発明の厚導体基板の他の態様は、前記アンカーは、前記導体層の最上層面と最下層面との間を固定していることを特徴とする。
【0017】
この発明の厚導体基板の他の態様は、最外層の前記導体層に溝部が形成されており、前記樹脂を前記溝部に射出成形して形成された絶縁層と前記導体層間に形成された絶縁層との間を接続するように前記アンカーが形成されていることを特徴とする。
【0018】
この発明の厚導体基板の他の態様は、前記導体層の前記絶縁層と接する面が粗化構造を有していることを特徴とする。
【0019】
この発明の厚導体基板の他の態様は、前記導体層は、同一平面上で2以上の導体片に分割されており、隣接する2つの前記導体片間で一方が他方を係止する形状にそれぞれの導体片の端辺が形成されていることを特徴とする。
【0020】
この発明の厚導体基板の他の態様は、前記導体層は、該導体層の表面に対し垂直方向に変形可能な弾性構造の弾性部と、先端側が別の導体層に接合される接合部と、を有して前記別の導体層と電気的に接続するための接続部を備えていることを特徴とする。
【0021】
この発明の厚導体基板の他の態様は、前記弾性部は、前記接続部の前記導体層側に設けられていることを特徴とする。
【0022】
この発明の厚導体基板の他の態様は、前記接合部側に前記弾性部を備えた前記接続部を有する2つの前記導体層が、それぞれの前記弾性部を前記接合部で接続することで前記導体層の表面に対し垂直方向に変形可能となっていることを特徴とする。
【0023】
この発明の厚導体基板の他の態様は、前記導体層に、断面がコの字形状のコイルが形成されていることを特徴とする。
【0024】
この発明の厚導体基板の他の態様は、前記絶縁層は、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)を射出成形して形成されていることを特徴とする。
【0025】
この発明の厚導体基板の製造方法の第1の態様は、予め金属板を加工して回路パターンが形成された2以上の導体層を電気的に接続する導体層接続工程と、前記2以上の導体層を、前記回路パターンに対応して熱膨張による変形を低減するように絶縁層を形成するための金型に収納して固定する金型収納工程と、前記金型に所定の射出成形用樹脂を注入する射出成形工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の電子基板によれば、絶縁層を射出成形して形成することにより、内部に空隙を有さないように厚導体の導体層と絶縁層とで形成された厚導体基板及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る厚導体基板の概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る厚導体基板の概略構成を示す斜視図及び断面図である。
【図3】直線上に1つの電子部品の半田接合部が配置されるようにしたときの複数の電子部品の配置を示す平面図である。
【図4】第2実施形態の厚導体基板の断面積及び線膨張係数を説明するための断面図である。
【図5】導体層間の距離のばらつきを説明するための説明図である。
【図6】接続部の構造を示す斜視図である。
【図7】第2実施形態の厚導体基板の製造方法を説明する説明図である。
【図8】窪み部を設けた金型を説明する説明図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る厚導体基板の概略構成を示す斜視図及び断面図である。
【図10】別の接続部の構造を示す斜視図である。
【図11】外周絶縁層を設けた厚導体基板を示す断面図である。
【図12】アンカーを設けた厚導体基板を示す断面図である。
【図13】別のアンカーを設けた厚導体基板を示す断面図及び底面図である。
【図14】導体層の絶縁層と接する面を粗化構造とした厚導体基板の断面図である。
【図15】導体層の対向する端辺を相互に引き合う形状とした厚導体基板の平面図である。
【図16】コの字形状に形成したコイルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図面を参照して本発明の好ましい実施の形態における厚導体基板及びその製造方法について詳細に説明する。なお、同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。以下では、導体層が2層の場合を例に説明するが、これに限らず導体層が3層以上であっても適宜適用可能である。
【0029】
本発明の第1の実施の形態に係る厚導体基板を、図1を用いて説明する。図1に示す本実施形態の厚導体基板50は、打ち抜きや曲げなどの加工により形成された2層の導体層51、52と、その間に樹脂を射出成形して形成された絶縁層53とで構成されている。この製造方法では、導体層51、52間を接続する層間接続部54を予め溶接あるいはロー付けによって接続しておき、その後導体層間に射出成形用樹脂を射出して絶縁層53を形成している。
【0030】
上記のように、射出成形で絶縁層53を形成することにより、内部に空隙を有さない厚導体基板50を低コストで提供することができる。本実施形態の厚導体基板50では、導体層51、52のそれぞれに2以上の導体が配置されている場合には、導体間に樹脂が隙間なく注入される。また、導体層との接触面にも隙間なく樹脂が注入される。これにより、低コストで内部に空隙を有さず従来の基板と同程度の高い信頼性を有し、大電流を流すことのできる厚導体基板を提供することが可能となる。
【0031】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る厚導体基板について説明する。従来のガラスエポキシを用いた電子基板では、基板の導体層の厚さが1層あたり35μm〜70μmであるのに対し、絶縁層の厚さは1層あたり200μm〜1600μmであり、導体層の3倍以上の厚さに形成されていた。この場合、基板内で絶縁層が占める体積比率が大きくなり、導体層を含めた基板全体の線膨張係数は絶縁層の線膨張係数が支配的となる。
【0032】
そのため、基板に搭載された電子部品の特に導体層に半田付けされた接合部の信頼性を確保したり、導体層と絶縁層とのはがれを防止したりするには、絶縁層の線膨張係数を小さくするのが好ましい。ガラスエポキシを用いた絶縁層の面方向線膨張係数は、一般的には14〜24[ppm/℃]程度と、非常に小さい値となっており、これに対して、導体層の面方向線膨張係数は、例えば銅を用いた場合には約17[ppm/℃]であった。
【0033】
これに対し、本発明の厚導体基板及びその製造方法では、8〜30[ppm/℃]の線膨張係数を有する射出成形用の樹脂を用いて絶縁層を形成している。そのため、射出成形時の樹脂の流れ方向には線膨張係数が8ppm/℃程度に小さくなる場合でも、流れ方向に対し垂直な方向には線膨張係数が大きくなり、30ppm/℃程度になることがある。このように、射出成形して基板を形成した場合には、絶縁層の線膨張係数がガラスエポキシに比べて予測しにくいものとなっている。
【0034】
そのため、設計段階で例えば寿命予測等を行う場合には、最も保守的な数値である30ppm/℃の値を線膨張係数に用いる必要がある。このように、絶縁層の線膨張係数に大きな値を用いると、導体層に半田付けされた電子部品の接合部や導体層と絶縁層との接合面に、主に絶縁層の熱膨張/熱収縮によるストレスが集中するという結果が得られる。これにより、電子部品の半田接合部の予測寿命が短くなってしまうが、この結果を設計に用いる必要があった。
【0035】
そこで、本発明の第2の実施の形態に係る厚導体基板では、平均線膨張係数がガラスエポキシを用いた従来の電子基板の線膨張係数以下となるように構成している。第2の実施の形態の厚導体基板を、図2を用いて以下に説明する。図2は、本実施形態の厚導体基板100の概略構成を示す図であり、同図(a)は厚導体基板100の斜視図、同図(b)は厚導体基板100を切断面Aで切断したときの断面図である。厚導体基板100は、銅で形成された導体層111、112と、導体層111、112の間に配置された絶縁層130を備えている。絶縁層130は、例えばポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)のような射出成形用樹脂で形成される。また、導体層111の上面には、複数の電子部品140が表面実装されている。
【0036】
本実施形態の厚導体基板100では、少なくとも図2(b)に示す電子部品140の半田接合部141を通る断面において、平均線膨張係数が所定の基準線膨張係数以下となるように導体の断面積の比率を大きくしている。すなわち、少なくとも半田接合部141間を通る断面において、線膨張係数が約17[ppm/℃]の銅の面積を増やすことで、平均線膨張係数が基準線膨張係数以下に低減されるようにしている。基準線膨張係数は、例えば従来のガラスエポキシを用いた電子基板と同程度の24[ppm/℃]とすることができる。
【0037】
図2では、2つの電子部品140の半田接合部141が直線上に配置されているが、これに限らず、例えば図3に示すように、直線上に1つの電子部品140の半田接合部141だけが配置される場合でも、上記と同様に、少なくとも半田接合部141を通る断面における導体の断面積比率を大きくすることで、平均線膨張係数を基準線膨張係数以下に低減するのがよい。
【0038】
上記のように、半田接合部141を通る断面における平均線膨張係数を基準線膨張係数以下に低減するために、本実施形態では当該断面積における導体層111、112と絶縁層130の面積比を以下のようにして決定している。導体層111、112及び絶縁層130の断面積及び線膨張係数を図4に示すパラメータで表したとき、半田接合部141を通る断面における平均線膨張係数αavが次式を満たすように、導体層111、112の合計断面積Scと絶縁層130の断面積Siを決定する。

ここで、αc、αiはそれぞれ導体層111、112の線膨張係数、絶縁層130の線膨張係数であり、αmは基準線膨張係数を表す。αm=24[ppm/℃]とするのがよい。
【0039】
上記式(1)を満たすように導体層111、112の合計断面積Sc及び絶縁層130の断面積Siを決定することにより、射出成形により形成された本実施形態の厚導体基板100においても、従来のガラスエポキシを用いた電子基板と同程度以上の信頼性を確保することができる。
【0040】
一例として、導体層111,112の合計断面積Sc=39.2mm2、絶縁層130の断面積Si=20.8mm2とし、導体層111、112の線膨張係数αc=16.8[ppm/℃]、絶縁層130の線膨張係数αi=30[ppm/℃]としたとき、式(1)左辺の平均線膨張係数は21.4[ppm/℃]となる。これは、従来のガラスエポキシを用いた電子基板の平均線膨張係数24[ppm/℃]より小さく、電子部品140の半田接合部141に対し従来以上の信頼性を確保している。
【0041】
射出成形して本実施形態の厚導体基板100を製造する方法では、複数の導体層111、112間を電気的に接続する工程を、射出成型を行う工程より前に実施しておく必要がある。これは、導体層111、112間を接続する接続部に、射出された樹脂が入り込むのを防止するためである。しかしながら、導体層間の距離にばらつきがあると、射出成型の際に図5に示すような問題が生じるおそれがある。
【0042】
図5は、導体層間の距離のばらつきを説明するための説明図であり、(a)は導体層11、12間の距離が設計通りの距離L0に一致している場合を示し、(b)は導体層11、12間の距離が設計距離L0より長い距離L1となっている場合を示し、(c)は導体層11、12間の距離が設計距離L0より短い距離L2となっている場合を示している。
【0043】
図5(b)に示すように、導体層11、12間の距離が設計距離L0より長い距離L1となっている場合には、導体層11、12を接続部13で接続して金型20の内部に収納したとき、上型21と下型22とを密閉させることができないといった問題が生じる。また、図5(c)のように、導体層11、12間の距離が設計距離L0より短い距離L2となっている場合には、導体層11、12と金型20との間に隙間ができ、その隙間に射出された樹脂が入り込んで電子部品の実装に支障をきたすといった問題が生じる。
【0044】
そこで、本実施形態の厚導体基板100では、導体層111と112とを電気的に接続する接続部113を、図6に示すように、弾性部113aを有する構造としている。すなわち、接続部113は、導体層112の面に垂直な方向に撓むことができる弾性部113aを介して導体層112に固定されている。また、接続部113の弾性部113aとは反対側の端部に、接合点113bが設けられて導体層111に接続されている。図6(b)に示すように、弾性部113aは、導体層112の面より導体層111側に曲げられた形状とするのがよい。そして、導体層112から接合点113bまでの接続部113の距離を設計距離L0より若干長くするのが好ましい。
【0045】
上記のような構造の接続部113を用いて導体層111と112とを接続することで、射出成型の工程における上記の問題を解決することができる。すなわち、接続部113の接合点113bを導体層111に溶接またはロー付けして導体層111と112とを電気的に接続し、これを金型20に収納する。このとき、接続部113が設計距離L0より若干長く形成されている分、導体層111が上型21に密着して下型22側に押圧されることで、弾性部113aが下型22底部側に撓む。これにより、導体層111、112と金型20との間に隙間が形成されるおそれはなくなる。
【0046】
本実施形態の厚導体基板100の製造方法を、図7を用いて説明する。まず、図7(a)において、接続部113の接合点113bを導体層111に溶接またはロー付けすることで、導体層111と112とを電気的に接続する。次の図7(b)では、接続された導体層111、112を金型20の下型22に収納し、固定ピン23で固定する。図7(c)では、上型21を下型22に隙間なく密閉させる。このとき、接続部113の弾性部113aが下型22の底部側に撓むことで、導体層111、112が上型21及び下型22の底部に密着される。さらに、図7(d)で金型20の内部に所定の樹脂が射出されて絶縁層130が形成される。
【0047】
上記の工程において、接続部113が長すぎるために、上型21と下型22とを密閉させたとき、弾性部113aが下型22の底部に当接して押圧されるおそれがある場合には、下型22の底部に図8に示すような窪み部22aを形成しておくのがよい。これにより、万が一弾性部113aが下型22側に撓むことがあっても、弾性部113aが窪み部22aに侵入することで、接続部113が下型22底部から押圧されるおそれはない。
【0048】
図6に示した接続部113は、弾性部113aを介して導体層112側に接続されているが、これに限定されず、導体層111側に設けるようにしてもよく、さらに導体層111と112の両方に接続部を設け、それぞれの接続部の端部を接続するようにしてもよい。
【0049】
本実施形態の厚導体基板100では、導体層111、112の合計断面積を大きくして平均線膨張係数をガラスエポキシを用いた従来の電子基板の線膨張係数以下とすることにより、表面実装された電子部品140の半田接合部141に対し、従来の電子基板と同程度以上の信頼性を確保することができる。
【0050】
本発明の第3の実施の形態に係る厚導体基板を、図9を用いて以下に説明する。図9は、第3の実施形態の厚導体基板200の概略構成を示す図であり、(a)は厚導体基板200の斜視図、(b)は厚導体基板200を切断面Bで切断したときの断面図である。本実施形態では、導体層211、212を純アルミニウムを用いて形成している。純アルミニウムの線膨張係数は24[ppm/℃]程度であり、基準線膨張係数24[ppm/℃]と略等しい。そのため、図9(b)に示す断面積において、導体層211、212の断面積を大きくしても厚導体基板200の平均線膨張係数を基準線膨張係数より小さくすることはできない。
【0051】
そこで、熱膨張による基板の損傷を防止するために、本実施形態の厚導体基板200では、電子部品140等を搭載する表面実装部233を除いて、導体層211の上面及び導体層212の下面をそれぞれ上層絶縁層231及び下層絶縁層232で覆う構成としている。このように、導体層211、212と絶縁層230の3層構造を、上層絶縁層231と下層絶縁層232で覆うことにより、各層間の密着性を維持してはがれが生じるのを防止している。電子部品140は、表面実装部233に実装され、電子部品140の半田接合部141が、上層絶縁層231の接合孔234から露出した導体層211に半田接続される。
【0052】
本実施形態では、導体層211と212とを電気的に接続する接続部として、図10に示す接続部213,214を用いている。接続部213、214は、それぞれ導体層211、212に立設されており、接続部213、214のそれぞれの端部に弾性部213a、214aが形成されている。さらに、弾性部213a、214aのそれぞれに接合点213b、214bが設けられており、接合点213b、214bを溶接またはロー付けすることで、導体層211と212とを電気的に接続している。なお、本実施形態でも図6に示した接続部113を用いてもよく、あるいは図10に示した接続部213、214を第1の実施形態の厚導体基板100に用いることも可能である。
【0053】
上記の第3の実施形態では、表面実装部233を除く導体層211、212の上下面を上層絶縁層231及び下層絶縁層232で覆う構造としたが、これに限らず、例えば図11に示すように、導体層211、212の外周に外周絶縁層251を形成し、これで導体層211、212と絶縁層230との間のはがれ等を防止するようにしてもよい。あるいは、図12に示すような形状の射出成形用樹脂で形成したアンカー252を設けることでも、上記実施形態と同様に、導体層211、212と絶縁層230との間のはがれ等を防止することができる。
【0054】
さらに、図12に示すようなアンカー252に代えて、図13に示すような別のアンカー253を設けてもよい。図12に示したアンカー252は、導体層211、212の表面から突き出して配置されているため、基板の表面に凹凸ができて電子部品の搭載に支障が出ることがある。そこで、図13(a)の断面図に示すように、導体層211、212のそれぞれに溝部を設け、それぞれの溝部に射出成形用樹脂を射出して絶縁層254を形成している。そして、図13(b)の底面図に示すように、基板の端部で絶縁層254を導体層211、212間に形成されている絶縁層255と接続するアンカー253を設けている。これにより、導体層211、212と絶縁層255との間のはがれ等を防止することができる。
【0055】
導体層211、212と絶縁層230との間のはがれを防止するために、導体層211、212のそれぞれの絶縁層230と接する面を、図14に示すような粗化構造221としてもよい。粗化構造221を形成することで、導体層211、212と絶縁層230のそれぞれの接触面でずれが生じるのを防止することができ、これにより導体層211、212と絶縁層230との間にはがれが生じる可能性をさらに低減させることができる。
【0056】
上記第2及び第3の実施形態において、導体層111,112または211、212は、それぞれ一体の導体層に形成されているものに限定されず、複数の導体片に分割されていてもよい。その場合、例えば図15に示すように、電子部品140が搭載されている導体片211aと電子部品140の半田接合部141が接続されている導体片211bとが熱膨張等により相対的に移動すると、半田接合部141が電子部品140に引っ張られて損傷するおそれがある。
【0057】
そこで、導体片211aと導体片211bとが相対的に移動するのを防止するために、導体片211a、211bのそれぞれの端辺を、図15に示すように一方(211a)が他方(211b)を係止する形状にするのがよい。導体片211a、211bのそれぞれの端辺の間には、射出成形用樹脂240が注入されており、これが導体片211aと211bとの間を絶縁するとともに、導体片211aと導体片211bとが相対的に移動するのを防止している。
【0058】
上記説明のいずれの実施形態においても、厚導体基板に電圧変換用トランスや平滑化用チョークコイルを一体的に形成することができる。このようなトランスやチョークコイルのコイル部分には、数十kHzから数百kHzの高周波電流が流されるため、表皮効果によって高周波電流がコイルの辺縁部に集中して流れる。そのため、コイル辺縁部では、直流電流を流す場合よりも大きな発熱が発生するといった問題がある。そこで、本発明のいずれの実施形態においても、コイルを形成する場合には、その断面形状がコの字形状となるように、コイルの辺縁部を直角に折り曲げて立設させるのがよい。
【0059】
図9に示す第3実施形態の厚導体基板200では、コイル260が設けられており、その断面が図16に示すようなコの字形状となっている。辺縁部をこのようなコの字形状とすることで、コイルの辺縁部の面積を増大させることができる。その結果、辺縁部からの放熱を効率的に行うことが可能となる。
【0060】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係る厚導体基板及びその製造方法の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における厚導体基板等の細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0061】
50、100、200 厚導体基板
11、12、51、52、111、112、211、212 導体層
13、54、113、213,214 接続部
20 金型
21 上型
22 下型
22a 窪み部
23 固定ピン
113a、213a、214a 弾性部
113b、213b、214b 接合点
53、130、230、254、255 絶縁層
140 電子部品
141 半田接合部
211a、211b 導体片
221 粗化構造
231 上層絶縁層
232 下層絶縁層
233 表面実装部
234 接合孔
240 射出成形用樹脂
251 外周絶縁層
252、253 アンカー
260 コイル
261 辺縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品を表面実装可能な厚導体基板であって、
金属板を加工して回路パターンが形成された2以上の導体層を層間接続し、前記2以上の導体層間に樹脂を射出成形して絶縁層を形成した
ことを特徴とする厚導体基板。
【請求項2】
少なくとも電子部品を表面実装する領域で前記絶縁層の断面積と前記導体層の断面積とで加重平均した断面平均線膨張係数を全体の平均線膨張係数より小さくすることで、熱膨張による変形を低減させるように前記絶縁層あるいは前記導体層の厚さが決定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の厚導体基板。
【請求項3】
前記絶縁層の断面積及び線膨張係数をそれぞれSi、αiとし、前記導体層の断面積及び線膨張係数をそれぞれSc、αcとしたとき、前記絶縁層の断面積Siと前記導体層の断面積Scとの割合が、所定の基準熱膨張係数αmに対して次式

を満たすように決定されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の厚導体基板。
【請求項4】
電子部品が表面実装される領域を除いて前記導体層が前記絶縁層で覆われている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の厚導体基板。
【請求項5】
前記導体層の外周が前記絶縁層と同じ樹脂で覆われている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の厚導体基板。
【請求項6】
前記導体層と前記絶縁層との接触面が、前記絶縁層と同じ樹脂で形成されたアンカーで固定されている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の厚導体基板。
【請求項7】
前記アンカーは、前記導体層の最上層面と最下層面との間を固定している
ことを特徴とする請求項6に記載の厚導体基板。
【請求項8】
最外層の前記導体層に溝部が形成されており、前記樹脂を前記溝部に射出成形して形成された絶縁層と前記導体層間に形成された絶縁層との間を接続するように前記アンカーが形成されている
ことを特徴とする請求項6に記載の厚導体基板。
【請求項9】
前記導体層の前記絶縁層と接する面が粗化構造を有している
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の厚導体基板。
【請求項10】
前記導体層は、同一平面上で2以上の導体片に分割されており、隣接する2つの前記導体片間で一方が他方を係止する形状にそれぞれの導体片の端辺が形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の厚導体基板。
【請求項11】
前記導体層は、該導体層の表面に対し垂直方向に変形可能な弾性構造の弾性部と、先端側が別の導体層に接合される接合部と、を有して前記別の導体層と電気的に接続するための接続部を備えている
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の厚導体基板。
【請求項12】
前記弾性部は、前記接続部の前記導体層側に設けられている
ことを特徴とする請求項11に記載の厚導体基板。
【請求項13】
前記接合部側に前記弾性部を備えた前記接続部を有する2つの前記導体層が、それぞれの前記弾性部を前記接合部で接続することで前記導体層の表面に対し垂直方向に変形可能となっている
ことを特徴とする請求項11に記載の厚導体基板。
【請求項14】
前記導体層に、断面がコの字形状のコイルが形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載の厚導体基板。
【請求項15】
前記絶縁層は、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)を射出成形して形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の厚導体基板。
【請求項16】
予め金属板を加工して回路パターンが形成された2以上の導体層を電気的に接続する導体層接続工程と、
前記2以上の導体層を、前記回路パターンに対応して熱膨張による変形を低減するように絶縁層を形成するための金型に収納して固定する金型収納工程と、
前記金型に所定の射出成形用樹脂を注入する射出成形工程と、を有する
ことを特徴とする厚導体基板の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−29313(P2011−29313A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172000(P2009−172000)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】