説明

原位置土を用いた地中連続体造成方法

【課題】掘削抵抗を低減し、粗礫分の分離沈降を防止し、芯材の挿入が容易であり、且つ溝壁の崩落を防止する原位置土を用いた地中連続体造成方法を提供する。
【解決手段】地中に挿入したカッター11を回転させ、地盤12を切削しながら水平方向に連続した溝13を掘削し、同時に原位置土14と掘削液を原位置で撹拌混合し、地中連続体15を造成する方法において、原位置土14と掘削液の混合土はチクソトロピー性を有し、ポケットベーン試験によるベーンせん断応力相対値が10%〜85%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削抵抗を低減し、且つ芯材等の挿入を容易にする原位置土を用いた地中連続体造成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地中連続体造成方法として、例えばソイルセメント地中連続壁工法(TRD工法)が知られている(特開平5−280043号公報)。このTRD工法は、地中に建て込んだチェーンソー型のカッターポストをベースマシンと接続し、カッターを回転させ、地盤を掘削しながら横方向に移動させて、溝を掘削し、同時に土とセメントミルク等の硬化液を噴出することにより、原位置において土砂と硬化液とを混合して、ソイルセメント壁体を造成するものである。そして、この地中連続壁中にH鋼などの芯材を建て込み、地下掘削時の土留壁としたり止水壁としたり、更に液状化対策や地盤の補強など、様々な用途への応用を可能とするものである。
【0003】
また、特開2003−120174号公報には、切羽の安定状態を継続させるシールド工法における切羽安定方法であって、地盤への浸透性を有し、かつ地盤改良効果を有する切羽保持用泥水を切羽から地盤に浸透させて、該切羽保持用泥水が浸透した地盤の浸透領域全体に自立性を持たせるシールド工法における切羽安定方法およびベントナイトと、アクリルアミド系高分子凝集剤とが配合されているシールド工法における切羽保持用泥水が開示されている。これにより、切羽を良好に保持し、安定した掘削作業を行うことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−280043号公報
【特許文献2】特開2003−120174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のTRD工法においては、硬化液と原位置土との混合土が、例えば硬化液の配合が少なく粗礫分が多い場合、流動性が悪く、粗礫分が撹拌刃に噛んで掘削抵抗が大となることで、掘削不能状態となったり、溝壁の崩落が生じやすくなるという問題がある。また、この掘削不能状態を解消するために地上から注入する硬化液量を多くすれば粗礫分の分離沈降による芯材建て込みが困難となったり、注入量増加による排泥の増加が生じ、例えば、処分費が増となり不経済になる等の問題がある。
【0006】
また、特開2003−120174号公報は、切羽保持用泥水が浸透した地盤の浸透領域全体に自立性を持たせることから、切羽の安定状態を継続させる切羽安定工法であって、シールドの掘進量と排土量のバランスをとりながら掘進するために用いる切羽安定液である。当該切羽安定液をTRD工法に適用した場合、溝壁の崩落を防止することは出来るが、当該切羽安定液は水分が多く希釈な状態のため、粗礫分の分離沈降を防止することは出来ず、芯材の挿入に問題が生じる。このように、従来、溝壁の崩落防止と、掘削抵抗の低減と、芯材の安定した設置とは共に満足した工法はなかった。
【0007】
従って、本発明の目的は、撹乱時には掘削抵抗を低減し、不撹乱時には粗礫分の分離沈降を防止し、芯材等の挿入が容易であり、且つ溝壁の崩落を防止する原位置土を用いた地中連続体造成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる実情において、本発明者は鋭意検討を行った結果、TRD工法において、原位置土と掘削液の混合土が、ポケットベーン試験による撹乱時のベーンせん断応力値が、不撹乱時のベーンせん断応力値の10%〜85%であるようなチクソトロピー性を有する混合土であれば、掘削抵抗を低減し、粗礫分の分離沈降を防止し、芯材の挿入が容易であり、且つ溝壁の崩落を防止すること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、地中に挿入した回転式カッターにより、地盤を切削しながら水平方向に連続した溝を掘削し、同時に原位置土と掘削液を原位置で撹拌混合し、地中連続体を造成する方法において、該原位置土と掘削液の混合土は、撹乱時のポケットベーン試験によるベーンせん断応力値が、不撹乱時のポケットベーン試験によるベーンせん断応力値の10%〜85%であることを特徴とする原位置土を用いた地中連続体造成方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、該原位置土と掘削液の混合土は、チクソトロピー性を有する。チクソトロピー性とは、不撹乱時は、団粒体が水を内包しているため粘性が高まり、撹拌時には応力が加わるため団粒体に閉じ込められた水が開放されて混合土の粘性が低下し流動性が高まる性質を言う。すなわち、混合土は不撹乱状態で粘性が高く、撹乱状態で不撹乱状態での粘性よりも低くなる。このため、TRD工法におけるカッター切削時のカッタートルク値を小さくすることになり、芯材建て込み時には粘性が回復し溝壁の安定が確保され、且つ溝壁の崩落を防止できる。また、粗礫分の分離がないため、芯材の挿入が容易である。その他の効果として、注入する掘削液は少量でも地中連続体を造成できるので、排泥処理量が減じ、経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態における原位置土を用いた地中連続体造成方法を説明する図であり、(A)、(B)および(C)の順に工程が進む。
【図2】図1(C)を上から見た概略図である。
【図3】本発明のチクソトロピー性を有する原位置混合撹拌土の模式図を示す。
【図4】ポケットベーン試験装置および試験方法を説明する図である。
【図5】従来のチクソトロピー性を示さない原位置混合撹拌土の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態における原位置土を用いた地中連続体造成方法(以下、単に、「地中連続体造成方法」とも言う。)を図1〜図5を参照して説明する。当該地中連続体造成方法を実施する装置(以下、「地中連続体造成装置」とも言う。)としては、例えば、特開平5−280043号公報に記載の公知の装置を使用することができる。
【0013】
先ず、地中連続体造成装置10の回転式カッター11を地中に挿入する(図1)。次いで、地中に挿入した回転式カッター11を回転させ、地盤12を切削しながら水平方向に連続した溝13を造成し、同時に原位置土14と掘削液を原位置で撹拌混合し、地中連続体15を造成する(図2)。なお、図1は、簡略記載のため、掘削液および掘削液供給手段は不図示であるが、掘削液は地上から掘削位置へポンプにより供給される。
また、セメントミルク等の固化液を原位置土へ供給する場合、地中連続体造成装置10には、固化液の供給手段を付設する。また、地中連続体造成装置10には、掘削液I供給手段およびチクソ発現剤配合液供給手段を別途付設してもよい。
【0014】
掘削液としては、ベントナイトまたは粘土鉱物、水およびチクソ発現剤を含有するもの(以下、「1液系掘削液」とも言う。)、ベントナイトまたは粘土鉱物および水を含む掘削液Iと、チクソ発現剤および水を含むチクソ発現剤配合液とをそれぞれ別系統で原位置土に供給するもの(以下、「2液系掘削液」とも言う。)が挙げられる。ベントナイトまたは粘土鉱物は、チクソ発現剤により、団粒体を形成する。粘土鉱物としては、モンモリナイト系鉱物、カオリナイト系鉱物および一般粘土鉱物が挙げられる。ベントナイトまたは粘土鉱物は、粒径1〜5μmの微粒子のものが使用できる。
【0015】
1液系掘削液において、チクソ発現剤は、粒径1〜5μmのベントナイトまたは粘土鉱物(微粒子)を含むスラリー中に配合することで、微粒子間を結合し、掘削液中に、20〜50μmの団粒体を形成することができる。そして、原位置土と撹拌混合された後、不撹乱時は、団粒体が水を内包しているため粘性が高まり、撹拌時には応力が加わるため団粒体に閉じ込められた水が開放されて混合土の粘性が低下し流動性が高まる。また、2液系掘削液において、例えば原位置土と掘削液Iの混合土に、チクソ発現剤配合液を供給する場合、チクソ発現剤は、混合土中の粒径1〜5μmのベントナイトまたは粘土鉱物(微粒子)における微粒子間を凝集し、混合土中に、20〜50μmの団粒体を形成することができ、前記と同様の作用が生じ、混合土にチクソトロピー性を発現させる。
【0016】
本発明において、2液系掘削液の原位置土への供給方法としては、掘削液Iとチクソ発現剤配合液を同時に供給する方法、あるいは先に掘削液Iを供給し、原位置土と掘削液Iの混合土を形成し、その後、原位置土と掘削液Iの混合土にチクソ発現剤配合液を供給する方法が挙げられる。これにより、ベントナイトまたは粘土鉱物は、チクソ発現剤により凝集し、20〜50μmの団粒体となる。
【0017】
チクソ発現剤としては、アニオン系高分子剤が挙げられる。アニオン系高分子剤としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、アクリルアミド2−メチルプロパンスルフォン酸、ビニルスルフォン酸、スチレンスルフォン酸などの単独重合体あるいはアクリルアミドとの共重合体が挙げられる。アニオン系高分子剤は、天然物又は合成物いずれも使用できるが、合成物とすることが、少ない配合量で流動化物を得ることができる点で好ましい。これらの高分子剤は、特公昭34−10644号公報などに記載の公知の方法で製造することができる。
【0018】
好ましい高分子剤は、分子量が100万以上、好ましくは200万以上、1000万以下であり、イオン化度が0〜100モル%のアクリル系高分子からなる粉末状と分散粒子径が100μm以下の油中水型エマルジョン形態のものである。
【0019】
1液系掘削液において、ベントナイトまたは粘土鉱物、水およびチクソ発現剤の配合割合は、掘削液の比重が1.01〜1.3となるように配合すればよい。具体的には、掘削液中、ベントナイトまたは粘土鉱物(V)と水(W)との重量配合比(V):(W)が、1:1.5〜1:70、好ましくは1:1.6〜1:59.5とすればよい。また、掘削液中のチクソ発現剤の配合割合は、掘削地盤により添加量が変わるため、一概に決定できないものの、概ね、ベントナイトまたは粘土鉱物と水1m当たり、0.1〜50kg、好ましくは1〜10kg程度である。このような掘削液は、水中にベントナイトまたは粘土鉱物およびチクソ発現剤を添加し、撹拌混合して得ることができ、得られた掘削液は、ベントナイトまたは粘土鉱物とチクソ発現剤からなる20〜50μmの団粒体が均一に分散している。このような1液系掘削液は、原位置土と撹拌混合されることで混合土はチクソトロピー性を発現する。また、掘削液には、任意成分として、セメントが配合されていてもよい。
【0020】
2液系掘削液の掘削液Iにおいて、ベントナイトまたは粘土鉱物(V)と水(W)との重量配合比(V):(W)が、1:1.5〜1:70、好ましくは1:1.6〜1:59.5とすればよい。また、掘削液Iに対するチクソ発現剤配合液の使用割合は、掘削地盤により使用量が変わるため、一概に決定できないものの、概ね、掘削液I 1m当たり、チクソ発現剤が0.1〜50kg、好ましくは1〜10kgとなるように使用すればよい。掘削液I、チクソ発現剤配合液および原位置土の混合土は、ベントナイトまたは粘土鉱物とチクソ発現剤からなる20〜50μmの団粒体が均一に分散している。このような2液系掘削液と原位置土の混合土は、チクソトロピー性を発現する。また、掘削液1には、任意成分として、セメントが配合されていてもよい。
【0021】
原位置土14としては、施工する地盤の不撹乱土を言い、例えば粘土地盤、砂礫地盤、砂地盤、腐植土、有機質土等が挙げられる。
【0022】
本発明において、原位置土14と掘削液の混合土の撹乱時のポケットベーン試験によるベーンせん断応力値が、不撹乱時のポケットベーン試験によるベーンせん断応力値の10%〜85%、好ましくは20〜70%である。このような混合土は、高チクソトロピー性を有する。上記数値は、ベーンせん断応力相対値と言う。ベーンせん断応力相対値が10%未満では、チクソ発現剤の添加量が多い割にチクソトロピー性が上がらず、85%を超えるものは、高チクソトロピー性にならず、カッター切削時のカッタートルク値を十分小さくすることができない。
【0023】
ポケットベーン試験装置は、原位置ベーンせん断試験(JGS 1411)の基準に基づいた手動式ベーンせん断試験装置であり、ベーンの回転抵抗から測定試料のせん断応力の最大歪値と最小歪値を求め、この比率よりチクソトロピー性を求めるものである。
【0024】
ポケットベーン試験装置を用いて測定試料のチクソトロピー性を測定する方法を図4を参照して説明する。図4(A)はポケットベーン試験装置の概略図である。ポケットベーン試験装置40は、手動回転ハンドル41、上端が手動回転ハンドル41に接続し、下方部にベーンブレード43を有するベーンシャフト42とから構成され、ベーンブレード43は、長方形の4枚羽根を平面視で十字型となるように組み合わせたもので、羽根の高さと幅の比は2.0である。なお、符号45はベーン回転トルク表示円であり、符号46はベーン回転トルク指示針である。また、符号42と43をベーンと言う。図4(A)は、ビーカーに入れた試料土44の中心部にベーンブレード43を貫入する状態を示す図であり、図4(B)は不撹乱試料にてベーンを回している概略図、図4(C)は(B)にてベーンを回したことにより撹乱試料となり、その撹乱試料にてベーンを回している概略図である。
【0025】
ポケットベーン試験装置40を用いて測定試料44のチクソトロピー性を測定する方法としては、先ず図4(A)に示すようにポケットベーンブレード43が不撹乱試料の中心部に位置するようにゆっくり貫入する。次に図4(B)に示すようにベーン手動回転ハンドル45を出来るだけゆっくり符号Xの方向に回転させる。このときのベーン回転トルク表示の値が符号47で示される最大歪値(不撹乱時のベーンせん断応力値)である。図4(B)の状態から更に回転を加えた試料は、図4(C)に示すように撹乱試料となり、最大歪値から収束し約3回転後の値が符号48で示されるものが最小歪値(撹乱時のベーンせん断応力値)である。この最大歪値に対する最小歪値の比率を求め、これをベーンせん断応力相対値とする。
【0026】
混合土のベーンせん断応力相対値を上記数値範囲とするには、対象地盤(原位置土)から採取した土を、実験室において掘削液と配合割合を変えて混合して数種のサンプルを作成し、この数種の混合土について、ポケットベーン試験装置40を用いてベーンせん断応力相対値を求め、その結果から掘削液の使用量を決定すればよい(以下、「実験室的掘削液決定方法」とも言う)。
【0027】
次に、原位置土12と掘削液の混合土のチクソトロピー性について図3を参照して説明する。図3(A)は現位置土の模式図である。原位置土30は粗礫分31と細粒分32を含んでいる。(B)は(A)の原位置土に掘削液を投入し撹拌混合した後の模式図である。(B)の混合土は、粗礫分31と団粒体33が混在している。団粒体33は、掘削液中のベントナイトまたは粘土鉱物および原位置土の細粒分が結合して団粒化したものであり、この団粒体中に水が内包される。従って、(B)の混合土は、不撹乱状態では粘性が高くなっている。このため、溝13の溝壁151の崩落を防止すると共に、粗礫分31が沈降し難くなっている。粗礫分31が沈降すると、溝13の溝底に粗礫分31が堆積して、芯材16の先が深く入らないことがあるが、本発明においては、粗礫分31が沈降しないため、図1(C)工程に示すように、芯材16の挿入が容易となる。
【0028】
図3(C)は、(B)の原位置土14と掘削液の混合土に対して矢印方向に力が作用したものであり、当該混合土はチクソトロピー性を発現する。チクソトロピー性とは、不撹乱時は、団粒体が水を内包しているため粘性が高まり、撹拌時には応力が加わるため団粒体に閉じ込められた水が開放されて混合土の粘性が低下し流動性が高まる現象を言う。すなわち、図3(C)に示すように、当該混合土に力が作用すると、団粒体33に閉じ込められた水を開放されて混合土の粘性が低下し流動性が向上する。このようなチクソトロピー性は、図1(B)の混合土中、力が作用するカッター11近傍や芯材挿入部分で発現する。このため、掘削抵抗が低減し、芯材16の挿入が容易となる(図1(C))。
【0029】
本発明の比較例となる従来における原位置土14と掘削液の混合土の挙動について図5を参照して説明する。図5(A)は現位置土の模式図である。原位置土60は粗礫分61と細粒分62を含んでいる。(B)は(A)の原位置土にチクソ発現剤が配合されていない掘削液を投入し撹拌混合した後の模式図である。(B)の混合土は、粗礫分61と細粒分62と、掘削液中に存在していた微粒子63が混在している。従って、(B)の混合土中、粗礫分61は本発明のように水を内包した団粒体がないため、矢印で示すように、自由に動くことができ、不撹乱状態では粘性が低くなっている。このため、溝13の溝壁151の崩落を防止することができず、また、粗礫分61が沈降し易くなっている。粗礫分61が沈降すると、溝13の溝底に粗礫分61が堆積して、芯材16の先が深く入らないことがある。
【0030】
図5(C)は、(B)の原位置土14と掘削液の混合土に力が作用したものであり、当該混合土はチクソトロピー性を有さない。すなわち、図5(C)に示すように、当該混合土に力が作用すると、粗礫分61同士の摩擦で、流動性が悪くなり、掘削抵抗は大きくなる。このように、地中連続体造成方法においては、原位置土14と掘削液の混合土にチクソトロピー性がある場合とない場合とでは、奏する効果が顕著に相違する。
【0031】
本発明においては、原位置土と掘削液を原位置で撹拌混合し、地中連続体15を造成するが、撹拌混合の際、掘削液と同量の混合土が排泥される。本発明で使用する掘削液は、チクソ発現剤が配合されているため、掘削液量が同一の場合、ベントナイトまたは粘土鉱物については、従来に比べて、少量投入で済む。このため、排泥も少量となり、環境負荷が低減する。
【0032】
本発明においては、掘削液と硬化液をそれぞれ独立して同時に供給することもでき、また硬化液の供給後、掘削液を供給することもできる。掘削液と硬化液をそれぞれ独立して供給する場合、一方を本発明に係るベントナイトまたは粘土鉱物、水およびチクソ発現剤で形成される掘削液とし、他方を水およびセメントで形成される硬化液とすることができる。
【0033】
本発明において、掘削液と硬化液をそれぞれ独立して供給する方法としては、例えば、原位置土と硬化液を原位置で撹拌混合する。この時、掘削液の供給は停止している。そして、地上における撹拌混合状態のモニタリングにより、カッターが原位置土を噛み込み、掘削抵抗が増加した場合、本発明の掘削液を供給して、原位置土と掘削液の混合土を上記ベーンせん断応力相対値の範囲として、撹拌混合抵抗を低減する。この方法においては、ベーンせん断応力相対値を決定するための実験室的掘削液決定方法において、掘削液が配合される対象土は、セメントミルク等の硬化剤が配合されたものとなる。
【0034】
本発明における地中連続体造成方法においては、掘削(1パス)、戻り(2パス)、硬化液注入(3パス)および芯材挿入という従来の3パス施工方法を行う場合、掘削時の掘削液を本発明の1液系掘削液または2液系掘削液として使用すればよい。また、掘削、硬化液注入、芯材挿入を一連作業とする従来の1パス施工を行う場合、本発明に係る掘削液と硬化液をそれぞれ独立して同時に供給すればよい。
【0035】
(実施例)
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0036】
参考例
(本発明の工法を適用する地盤の調査)
K駅高架工事において本発明の工法を適用する地盤(原位置土)を採取し、実験室的に調製した該原位置土と掘削液の混合土について、ポケットベーン試験装置を用いてベーンせん断応力相対値を測定した。なお、掘削液Aは、粒径1〜5μmのベントナイト29.6kgと水988kgとアクリル酸とアクリルアミドとの共重合体(チクソ発現剤)の混合物を使用し、ベーンせん断応力相対値の測定は、チクソ発現剤の量が、掘削液1m当たり、0、5、7.6、10kgのものについて行った。なお、ポケットベーン試験装置のベーンブレードの直径は2cmであり、ベーンせん断応力(N/m)は式;(6×Mf)/(7πB)より算出した。式中、Mfは回転モーメント(N・cm)、Bはベーンブレードの直径(cm)を示す。なお、地盤(原位置土)は、ナンバー1は、施工1日目の対象地盤、ナンバー2は、施工2日目の対象地盤、ナンバー3は、施工3日目の対象地盤である。その結果を表1に示した。なお、ベーンせん断応力相対値20%〜83%のものは、高チクソトロピー性を示すものであり、TRD工法におけるカッター切削時のカッタートルク値を小さくでき、芯材建て込む時には粘性が回復し溝壁の安定が確保されることを確認した。
【0037】
【表1】

【実施例1】
【0038】
(掘削液の調製)
比重2.5、粒径1〜5μmのベントナイト155kgと水938kgとの混合物に対して、混合物1m当たり、1.5kgのアクリル酸とアクリルアミドとの共重合体(チクソ発現剤)を配合して、掘削液を調製した。掘削液の比重は1.1であった。
【0039】
(硬化液の調製)
粒径1〜5μmの粘土鉱物50kgと水800kgと比重3.04の高炉セメントB種547.2kgを混合して、硬化液を調製した。
【0040】
(地中連続体の造成)
適用壁深度30m、適用壁厚550〜850mmのTRD-III型機を使用し、粘土混じりの砂礫地盤に対して、TRD工法を行った。すなわち、掘削、硬化液の注入および芯材の建て込みを1パスで一連作業として行なった。なお、掘削液と硬化液は独立して供給し、カッターの掘削抵抗も施工機のモニタリングで確認した。
【0041】
先ず、掘削液を使用せず、硬化液を砂礫地盤に対して、91.4リットル/mで投入しつつ施工を行った。その結果、施工途中、溝壁が崩落してカッターに噛み込んで、掘削不能となった。このため、施工を中止し、芯材の設置までには至らなかった。
【0042】
流動化改善のためと芯材建て込み時の流動性を確保するため新たに、水938kgと粘土分155kgを混合したものを、硬化液とは別経路で180リットル/m投入したが、今度は粗礫分が分離沈降し、芯材の建て込みが困難となった。
【0043】
そこで、上記調製された掘削液を、別経路にて、砂礫地盤に対して、150リットル/m投入しつつ施工を行った。この時の混合土のベーンせん断応力相対値は36%であった。この数値から、混合土は高チクソトロピー性を示すものであった。
【0044】
その結果、溝壁の崩落は解消し、掘削抵抗がTRD―III型機のトルク値が250kN・mから180kN・mへ著しくに低下した。そして、引き続き行った芯材の挿入は、極めて円滑に行うことができた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、撹乱時、掘削抵抗を低減でき、不撹乱時、高粘度となり、溝壁の崩落を防止する。また、粗礫分の分離がないため、芯材の挿入が容易である。このため、効率的なTRD工法の実施が可能となった。
【符号の説明】
【0046】
10 掘削装置
11 カッター
12 地盤
13 溝
14、30、60 原位置土
15 地中連続体
16 芯材
20 回転粘度計
31、61 粗粒分
32、62 細粒分
33 団粒分
40 ポケットベーン試験装置
43 ベーンブレード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に挿入した回転式カッターにより、地盤を切削しながら水平方向に連続した溝を掘削し、同時に原位置土と掘削液を原位置で撹拌混合し、地中連続体を造成する方法において、該原位置土と掘削液の混合土は、撹乱時のポケットベーン試験によるベーンせん断応力値が、不撹乱時のポケットベーン試験によるベーンせん断応力値の10%〜85%であることを特徴とする原位置土を用いた地中連続体造成方法。
【請求項2】
該掘削液は、ベントナイトまたは粘土鉱物、水およびチクソ発現剤を含有することを特徴とする請求項1記載の原位置土を用いた地中連続体造成方法。
【請求項3】
該掘削液は、ベントナイトまたは粘土鉱物および水を含む掘削液Iと、チクソ発現剤および水を含むチクソ発現剤配合液とをそれぞれ別系統で原位置土に供給するものであることを特徴とする請求項1記載の原位置土を用いた地中連続体造成方法。
【請求項4】
該チクソ発現剤が、アニオン系高分子剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の原位置土を用いた地中連続体造成方法。
【請求項5】
粒径1〜5μmのベントナイトまたは粘土鉱物が、チクソ発現剤により、粒径20〜50μmの団粒体となっていることを特徴とする請求項2または3記載の原位置土を用いた地中連続体造成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−96210(P2013−96210A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243058(P2011−243058)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【特許番号】特許第5133450号(P5133450)
【特許公報発行日】平成25年1月30日(2013.1.30)
【出願人】(000236610)株式会社不動テトラ (136)
【Fターム(参考)】