説明

原子スケール金属ワイヤもしくは金属ナノクラスター、およびこれらの製造方法

【課題】原子的に完全な原子スケール金属ワイヤ及び原子スケール金属クラスタをシリコン基板上に形成する新規な方法を提供する。
【解決手段】(1)鋳型としての自己組織化ナノラインを有する表面を調製し、(2)自己組織化ナノライン以外の表面をマスク材で被覆し、(3)自己組織化ナノラインに対して選択的に濡れ性を有する金属を適切な温度で自己組織化ナノライン上に堆積させて、その金属で構成される原子スケール金属ワイヤを成長させる工程により、1原子または数原子の幅の原子スケール金属ワイヤからなり、電子素子あるいは固体量子情報素子に有用な原子スケール金属ワイヤまたは原子スケール金属ナノクラスターのアレイの製造方法。尚、濡れ性を有する金属としては、インジウム、アルミニウム、ガリウムが好適に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、電子デバイスや固体量子情報デバイスにおいて使用される原子サイズのワイヤもしくはナノクラスターアレイとして有用な、原子スケール金属ワイヤもしくは金属ナノクラスター、およびこれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のナノスケールの電子デバイスと固体量子情報デバイスとは、次の十年間で最も重要な技術のうちの二つになるであろう。原子スケールの相互接続(interconnects)は、
これらの技術において特に重要であり、このような相互接続を作製する現実的な手段は現在のところ無い。Chen及びAhmed [1993]は、リソグラフィー技術の解像度を改良することに成功し、100keV電子ビームのリソグラフィーとポリメチルメタクリレート(PMMA)レジストとを用い、エッチングにより5−7nm幅の線を製造した(非特許文献1参照)。この成功にも関わらず、この方法による金属堆積法によって得られたワイヤは必然的に多結晶であり、更には、粒径がワイヤの幅に匹敵するにつれてワイヤが本質的に非均質となり、欠陥が生じやすくなる。このような寸法において高度に均質なワイヤを成長させる新技術が望まれているところであり、そのような技術はリソグラフィーではなく、例えば、カーボンナノチューブ、有機半導体、半導体ナノワイヤのような、寸法および特性がより一層均質な自己組織的部材(self-assembled components)から出現するように
思われる。
【0003】
(ナノワイヤの製造)
ナノメータスケールのワイヤを製造するために多くの異なった方法が試みられている。数十nmスケールでは、ナノ・インプリントおよび電子ビームリソグラフィーを使うことができる。そのような従来のレジストを使う方法の限界は、超音波支援による方法では5nm幅まで低減できるものの [Chen and Ahmed, 1993]、およそ10nm幅である。また
、ラングミュア−ブロジェット膜やマイクロ流路(micro-fluidics)がカーボンナノチューブや他のex-situナノワイヤを整列させるために使用されている [Whang, Jin and Leiber, 2004]。より小さなスケールでは、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いる直接書
込み技術が開発されている [Shen, Wang and Tucker 1997、非特許文献2参照]。この方
法は、(1)基板を、対象金属が付着しないマスクとして機能するHで終端し、(2)STM探針を使って水素原子に線を書いてシリコンを露出させ、そして(3)表面上に金属(例えば、アルミニウム)を堆積して、書いた線に拡散させ、図10に示したようなワイヤを形成する工程からなる。これは、アルミニウム、銀、ガリウム、その他の金属で行われている。この方法は、書き込み速度がSTMにより制約されるため非常に遅く、書込み時間は所望のワイヤ長さに伴って線形的に長くなる。
【0004】
(ナノライン鋳型)
しかし、より直接的な手法は、既に金属であるナノワイヤをSi(001)表面上に自己組織的に成長させることである。ここで、「自己組織的」とは、外部から規定されるどんな鋳型も必要とせずに1Dまたは2D構造を形成することを意味する。Chenらは、自己組織的に形成したケイ化エルビウムのナノワイヤが、平均2.8nmの幅でSi(001)基板上に成長することを報告している(非特許文献3参照)。最近、Raganらは、この系を鋳型として使えること、すなわち、白金はシリコン基板に優先してケイ化物ナノワイヤの上に吸着するので、マスク材なしにそのケイ化物上に他の物質を堆積できることを見出している(非特許文献4参照)。
【0005】
(クロスバー構造)
一般的には、このような小さな長さ尺度では、正確な位置決めの制御は途方も無く難しく、したがって平行なナノワイヤのアレイをつくるほうがまだ容易である。この利点を活かして、ヒューレット−パッカード社では、クロスバー構造が提案され、開発されている。複数のナノワイヤからなる第1のアレイを基板表面に成長させ、そして、これらのワイヤの上に活性分子を堆積させる。その後、第2のナノワイヤを第1のナノワイヤに対して直交するように配設すると、活性分子はそれぞれの分子の第2接点として使うことができる。このようにして、分子デバイスの二次元配列(ヒューレット−パッカード・クロスバー)はつくられる(特許文献1参照)。個々のワイヤの全てにアドレスをとる(address
)様々な技術が提案されている。
【0006】
(Si(001)上のビスマスライン)
そして、Si(001)上の原子的に完全なビスマスナノラインが、三木らにより報告されている(例えば、特許文献2、非特許文献5および6参照)。Biナノラインが示す自己組織化特性は、それらが互いに接触することなく、非常に長く非常に真っすぐであって、1Dアレイを形成することを意味している。Biナノラインは、上記ケイ化物ワイヤと多くの特徴を共有しているが、線幅はずっと細い。しかしながら、シリコン基板と同様に、その上にも他の物質が堆積されてしまうのであった。
【特許文献1】米国特許第6,459,095号公報
【特許文献2】日本国特許第2929004号公報
【非特許文献1】W. Chen and H. Ahmed, Appl. Phys. Lett., vol.62(13), 29 March, 1499-1501(1993)
【非特許文献2】T. -C. Shen, C. Wang, and J. R. Tucker: Phys. Rev. Lett., vol.78(7), 1271-1274(1997)
【非特許文献3】Y. Chen and D. A. A. Ohlberg and G. Medeiros-Ribeiro and Y. A. Chang and R. S. Williams: Appl. Phys. Lett. 76, 4004-4006 (2000)
【非特許文献4】R. Ragan, S. Kim, X. Li and R. S. Williams: Appl. Phys. A80, 1339-1342(2005)
【非特許文献5】K. Miki, K. Sakamoto and T. Sakamoto: Surf. Sci., vol.421(1999) 397-418
【非特許文献6】K. Miki, D. R. Bowler, J. H. G. Owen, G. A. D. Brigs and K. Sakamoto: Phys. Rev., vol.59(23),15 June, 14868-14871(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、例えば約1nmで高度に均一なワイヤ幅のような、原子的に完全な原子スケール金属ワイヤ、および、例えば粒径が約1nmの、原子スケール金属クラスターを、Si(001)基板上に製造する新規な方法を開発することである。そのような方法は、いわゆる前記の「クロスバー構造」を含めた、実用的な電子デバイスや固体量子情報デバイスの分野で利用されるであろう。
【0008】
上記課題を達成するために、この出願の発明者らは、STMチップの遅い書き込み速度を回避し、三木らが約10年前に発見したBiナノラインを原子スケール金属ワイヤもしくはナノクラスターの鋳型として使用することを着想した。そして、Biナノラインが上に造られているシリコンを被覆するためのマスク材が、必然的に使用される。この出願の発明者らは、マスク材として要求される特性、すなわち、Biナノラインの上には決して付着せずに、他の金属類を決して付着しない特性を備えた適切なマスク材を見出し、これにより、以下の特徴をもつ発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、まず第1には、鋳型としてのビスマスナノラインの上に形成され
た金属ワイヤを含み、前記金属ワイヤの幅は前記ビスマスナノラインの幅の約2倍又はそれ以下である原子スケール金属ワイヤを提供する。本発明は、第2には、前記ビスマスナノラインは、中心間距離が約0.65nmの2本のビスマス原子細線からなる上記の原子スケール金属ワイヤを提供する。本発明は、第3には、前記金属ワイヤは1原子又は数原子の幅を有している上記の原子スケール金属ワイヤを提供する。本発明は、第4には、前記金属ワイヤを構成する金属が、ビスマスに対して濡れ性を有する濡れ性金属である上記の原子スケール金属ワイヤを提供する。本発明は、第5には、濡れ性金属が、インジウム、アルミニウムまたはガリウムである原子スケール上記の原子スケール金属ワイヤを提供する。
【0010】
本発明は、第6には、金、銀および白金からなる群から選ばれる第二の金属を含む原子スケール金属ワイヤであって、前記原子金属ワイヤは、鋳型としてのビスマスナノラインの上に形成された第一の金属としてのInから成る金属ワイヤの上に形成されている原子スケール金属ワイヤを提供する。本発明は、第7には、前記原子スケール金属ワイヤが、1原子または数原子の幅を有している上記の原子スケール金属ワイヤを提供する。
【0011】
本発明は、第8には、鋳型としてのビスマスナノラインの上に形成された金属ナノクラスターを含み、前記金属ナノクラスターの径がビスマスナノラインの幅の約10倍またはそれ以下である原子スケール金属ナノクラスターを提供する。本発明は、第9には、前記ビスマスナノラインが、中心間距離が約0.65nmの2本のビスマス原子細線から成る上記の原子スケール金属ナノクラスターを提供する。本発明は、第10には、前記金属ナノクラスターは、10〜80個の金属原子から成る上記の原子スケール金属ナノクラスターを提供する。本発明は、第11には、前記金属ナノクラスターを構成する金属が、ビスマスに対して非濡れ性を有する非濡れ性金属である上記の原子スケール金属ナノクラスターを提供する。本発明は、第12には、非濡れ性金属が、銀、金、白金または鉄である上記の原子スケール金属ナノクラスターを提供する。
【0012】
さらに、本発明は、第13には、(1)鋳型としてのナノラインを有する表面を調製し、(2)ナノライン以外の表面をマスク材で被覆し、(3)ナノラインに対して選択的に濡れ性を有する金属を適切な温度でナノライン上に堆積させて、その金属で構成される金属ワイヤを成長させる工程を含む原子スケールの金属ワイヤの製造方法を提供する。本発明は、第14には、ナノラインを有する表面が、ビスマスナノラインを有するシリコン(001)基板である上記の製造方法を提供する。本発明は、第15には、金属が、インジウム、アルミニウムまたはガリウムである上記の製造方法を提供する。本発明は、第16には、前記金属がインジウムである場合、(4)金、銀および白金からなる群から選ばれる第二の金属を、インジウムで構成される金属ワイヤの上に堆積させる工程を含む上記の製造方法を提供する。本発明は、マスク材が水素またはアンモニアである上記の製造方法を提供する。
【0013】
本発明は、第18には、(1)鋳型としてのナノラインを有する表面を調製し、(2)前記鋳型としてのナノライン以外の表面を、マスク材を用いて被覆し、(3)前記ナノラインに対して選択的に濡れ性を有する金属を、適切な温度で、ナノライン上に堆積させて、その金属で構成される金属ナノクラスターを成長させる工程を含む、原子スケール金属ナノクラスターの製造方法を提供する。本発明は、第19には、ナノラインを有する表面が、ビスマスナノラインを有するシリコン(001)基板である上記の製造方法を提供する。本発明は、第20には、前記金属が、銀、金、白金または鉄である上記の製造方法を提供する。本発明は、第21には、前記マスク材が、水素またはアンモニアである上記の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
シリコン基板上の自己組織化ビスマスナノライン鋳型の上に形成された本発明の原子スケール金属ワイヤは、電子デバイスに有用であろう。本発明の原子スケール金属ナノクラスターは、電荷またはスピンキュービットを具現化するものとして量子情報デバイスに有用となるであろう。
【0015】
原子スケールのワイヤ又はナノクラスターを基板上に成長させる本発明の方法によると、シリコン上の自己組織化ビスマステンプレートの上に、上記原子スケールの金属ワイヤまたは金属ナノクラスターを、容易かつ正確に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
上述の特徴をもつ本発明を、以下に更に具体的に説明する。
【0017】
本発明の原子スケール金属ワイヤは、鋳型としてのBi(ビスマス)ナノラインの上に形成された金属ワイヤを含んでいる。原子スケール金属ワイヤの線幅は、所望の金属原子の種類によって異なるが、通常は、上記Biナノラインの線幅の約2倍またはそれ以下である。その線幅は、一原子または数原子のサイズに対応し、具体的には、2nm以下、好ましくは約1nmであると考えることができる。原子スケール金属ワイヤの長さは任意である。そのような原子スケール金属ワイヤの形態は、鋳型としてのBiナノラインに対応する。
【0018】
Biナノラインは、ビスマス原子が隙間なく一列に整列したビスマス原子線と定義できる。実際に、そのようなBiナノラインは、本発明者らが提案した方法によって、非常に真っすぐで長く、互いに接触することがない一対のビスマス原子細線として容易に得ることができる。ここで、Biナノラインは、限定的には、自己組織的に形成した一対のビスマス原子細線からなるナノラインであり、各ナノラインの中心間距離は約0.65nm離れており、そして、多数のBi原子が数百nmほどの長さに亘って完全に直線的に、1Dアレイのように整列している。Bi原子線間の距離の0.65nmは、図9に示すように4つのシリコンダイマーの空間を占有するシリコン基板上の一対のBiダイマーの距離に対応している。Biナノラインは、典型的には、約500nm程度の長さであり、隣接するBiナノラインの最近接距離は約2.5nmである。
【0019】
本発明において、前記金属ワイヤを構成する金属は、ビスマスに対して濡れ性を有する濡れ性金属であることが好ましい。濡れ性とは、一般的な概念として、他の金属で被覆された場合に表面エネルギーが減少する状態を意味すると考えることができる。それゆえ、濡れ性金属とは、自身に対してよりもBiナノラインに対して強い相互作用のある金属を示すと理解することができる。相互作用の相対的な強さは、個々の金属または組み合わせに依存しており、この濡れ性は最近ではコンピュータ科学や金属データベースを用いて高精度で計算されている。そのような濡れ性を有する金属は、好ましくは、In(インジウム)、Al(アルミニウム)またはGa(ガリウム)とすることができる。
【0020】
そして、本発明では、インジウム、アルミニウムまたはガリウムからなる原子スケール金属ワイヤが得られる。
【0021】
さらに、本発明の原子スケール金属ナノクラスターは、鋳型としてのBiナノラインの上に形成された金属ナノクラスターを含み、前記金属ナノクラスターの径が前記Biナノラインの幅の10倍またはそれ以下である。金属ナノクラスターの径は、所望の金属原子の種類によって異なり、金属ナノクラスターは10〜100個の金属原子からなり、径は2nm以下、より好ましくは、1.5nm以下であると考えることができる。原子スケール金属ワイヤのそのような形態は、上で述べたように、鋳型としてのBiナノラインに対応している。
【0022】
本発明において、原子スケール金属ナノクラスターを構成する金属は、ビスマスに対して非濡れ性を有する非濡れ性金属であることが好ましい。さらに具体的には、非濡れ性金属とは、Biナノラインに対してよりも自身に対して強い相互作用のある金属を意味する。そのような非濡れ性金属は、好ましくは、Ag(銀)、Au(金)、Pt(白金)またはFe(鉄)とすることができる。
【0023】
そして、本発明では、銀、金、白金または鉄からなる原子スケール金属ナノクラスターを得ることができる。
【0024】
加えて、本発明における原子スケールAuナノクラスターは、官能基化分子に対する鎖(tethers)としても使用できる。分子は、Auと反応してAu−S結合を形成するチオ
ール基(−SH)で官能基化されていても。このように、原子スケールAuナノクラスターのアレイは、活性分子のアレイの形成に利用することができる。図4に、Biナノラインを鋳型として用いたシリコン基板上に繋がれた分子からなるアレイの概念を示す。
【0025】
更に、本発明においては、Biに対しては濡れ性を有しないが、Biに対して濡れ性をもつ金属に対して濡れ性を有する金属からなる原子スケールワイヤが提供される。そのような原子スケール金属ワイヤは、例えば、金、銀および白金からなる群から選ばれる第2の金属を含み、この原子スケール金属ワイヤは、鋳型としてのBiナノラインの上に形成された第1の金属としてのインジウムから成る金属ワイヤの上に形成される。原子スケール金属ワイヤの線幅は、上記の原子スケール金属ワイヤと同様に、Biナノラインの線幅の約2倍またはそれ以下である。
【0026】
上記の原子スケール金属ワイヤもしくは金属クラスターは、例えば、本発明の方法によって適切に製造することができる。すなわち、原子スケール金属ワイヤの製造方法は、
(1)鋳型としてのナノラインを有する表面を準備し、
(2)ナノライン以外の表面をマスク材で被覆し、
(3)ナノラインに対して選択的に濡れ性を有する金属を適切な温度でナノライン上に堆積させて、その金属で構成される金属ワイヤを成長させる
工程を含んでいる。
【0027】
工程(1)において、鋳型としてのナノラインを有する表面は、図1のステップ1に示すように、ナノライン(2)を有する非伝導性基板(1)とすることができる。非伝導性基板(1)としては、微細加工技術をデバイスに応用しやすいとの理由で、シリコンや、シリコンとゲルマニウムとの混晶を使用するのが好ましい。ナノライン(2)は、種々の金属原子によってつくることができ、ナノワイヤの鋳型となるため、所望の大きさあるいはアレイとすることができる。ナノライン(2)は、自己組織化的に形成されることが好ましく、更には1Dアレイを形成することが好ましい。本発明において、Biナノラインを有するシリコン基板(001)が、かなり典型的な例として例示できる。ナノライン(2)は、種々の方法により表面上につくることができ、上記の特許文献2あるいは非特許文献5,6で示したような本発明者らが提案した方法によって、正確につくることができる。例えば、具体的には、Biナノラインのアレーを有する表面は、Biをシリコン(001)表面上に速度約0.1原子層(ML)/分、温度約570℃で、10−20分間堆積し、余分なBiがほぼ全て蒸発するまでアニールすることによって、つくることができる。MOCVD、CVD、スパッタリング法、LPE、MBE、電子銃蒸着法等のような種々の金属蒸着技術を利用することができる。基板は約600℃まで加熱することが好ましい。雰囲気は、真空やアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気が好ましい。これにより、残存するBiが、シリコン(001)表面上で自己組織的にBiナノラインを形成する。1Dアレイは、シリコンダイマーがすべて同じ方向に連続して延びるように、段階的な表面
を使って実現することができる。
【0028】
工程(2)では、図1のステップ2に示すように、ナノライン(2)以外の表面を、マスク材(3)でマスクする。マスク材(3)はナノライン(2)以外のバックグラウンドをマスクする。マスク材(3)については、ナノライン(2)の上には決して吸着しないことが要求され、また、原子スケールの金属ワイヤを構成する金属は、そのマスク材の上に付着しないことが要求される。本発明において特徴的なそのようなマスク材(3)は、水素やアンモニアとすることができる。例えば、水素を堆積させるとき、水素はBiナノライン上に吸着せずに、その周りのシリコン基板表面に吸着し、それをマスクする。アンモニアは、マスク材としてのみ機能する水素の代用となるが、表面がSi(001)の場合は、Biナノラインの周りに窒化ケイ素物を成長させることを約束する。マスキングは、マスク材ガスが供給できるのであれば、その手法は限定されない。雰囲気は、真空あるいはアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気、マスク材ガス雰囲気、もしくはマスク材ガスとNやHのようなキャリアーガスとの混合雰囲気とすることができる。マスキングは、例えば、基板の表面を1×10-6Paのアンモニアに、室温で、10分間、十分に晒すことで行うことができる。
【0029】
工程(3)では、図1のステップ3に示すように、金属(4)をナノライン(2)上に適切な温度で堆積させる。金属(4)は、ナノライン(2)に対して選択的に濡れ性を有することが要求され、マスキングされた表面に付着するものであってはならない。金属(4)の好ましいものは、インジウム、アルミニウムまたはガリウムである。適切な温度とは、堆積した金属が安定である領域の温度を意味し、堆積した金属の拡散を促進するためには室温より上の温度が好ましい。例えば、インジウムを堆積させる場合は、約400Kである。この温度を越えると、インジウムはBiナノラインから離れて液滴をつくる。堆積方法は特に限定されず、MOCVD、CVD、スパッタリング法、LPE、MBE、電子銃蒸着法等のような種々の金属蒸着技術が利用できる。堆積させる金属の最大量は鋳型の面積と同じであって、これは単原子層(ML)の約5−10%である。0.005原子層/分で10分間の堆積により、ほぼ完全な鋳型の被覆を行うことができる。ゆっくり、例えば、約0.01原子層/分の堆積は、金属がマスキング背景上に島をつくることなく、Biナノライン上へ拡散する時間を与えるために好ましい。この制限量を越えた堆積は、表面上に金属(4)の大きな液滴を形成し始めるようになるだろう。金属はランダムに落着し、鋳型、すなわち、Biナノラインの上を拡散するだろう。そして、原子スケール金属ワイヤ(5)がBiナノライン(2)の上に形成される。
【0030】
加えて、図7に示すように、ナノラインに対して非濡れ性金属の原子スケール金属ワイヤを得るために、上記工程に続いて以下の工程(4)を行うことができる。
【0031】
工程(4)では、第二の金属(19)を形成された原子スケール金属ワイヤ(5)の上に堆積させる。第二の金属(19)は、鋳型としてのナノライン(2)に対して非濡れ性金属とすることができ、形成された原子スケール金属ワイヤ(5)に対しては選択的に濡れ性を有することが要求される。形成された原子スケール金属ワイヤ(5)がインジウムワイヤである場合には、第二の金属(19)として、金、銀、白金等が例示される。これら第二の金属(19)は、インジウムワイヤに対して濡れ、したがって、インジウムワイヤの上に金属の第二の層を形成して、それ自身の原子スケール金属ワイヤ(20)を完成させることになる。堆積は、例えば、約0.005原子層/分の速度で好適に行なわれる。
【0032】
本発明の、原子スケール金属ナノクラスターの製造方法は、図3に示したように、
(1)鋳型としてのナノラインを有する表面を調製し、
(2)前記鋳型としてのナノライン以外の表面を、マスク材を用いて被覆し、
(3)前記ナノラインに対して選択的に濡れ性を有する金属を、適切な温度で、ナノライン上に堆積させて、その金属で構成される金属ナノクラスターを成長させる
工程を含んでいる。
【0033】
すなわち、原子スケール金属ナノクラスターの製造は、上記の原子スケール金属ワイヤの方法における濡れ性金属(4)を、非濡れ性金属(6)に置き換えることによって可能となる。それゆえ、上で述べたように、ナノライン(2)の表面は、Biナノラインをもつシリコン(001)結晶基板とすることができ、マスク材は水素又はアンモニアとすることができる。また、上記方法と違って、工程(3)では、金属(6)はナノライン(2)に対して選択的に非濡れ性を有することが要求される。非濡れ性金属(6)は、別の言い方をすれば、ナノライン(2)に対してよりも自身に対して強い相互作用を持つ金属を意味する。そのような金属(6)は、銀、金、白金、鉄等とすることができる。好適な温度とは、堆積された金属が安定な範囲の温度を意味し、これは室温よりわずかに上で約350K以下の範囲の温度と考えられる。そのような温度で、堆積金属の拡散が促進される。これを越えると、金属(6)はナノラインから浮き上がり、200原子又はそれ以上の大きな液滴を形成してしまう。堆積はゆっくりと、例えば、約0.001原子層/分の速度で行い、マスクされたバックグラウンンドの上にクラスターが形成する前に、金属原子がBiナノライン鋳型の上を拡散するように行なうことが望ましい。金属(6)は堆積し、ナノラインの上に拡散し、互いに付着して約10−100個の原子からなる小滴をつくる。そして、一連の原子スケール金属ナノクラスター(7)が、ナノライン(2)に沿って形成される。原子スケール金属ナノクラスター(7)のピークサイズは、堆積の速度およびその総量を変えることで制御することができる。0.5nmのクラスターを多く高密度につくろうとすれば、例えば、0.001原子層/分の速度で、2−3分で十分である。
【0034】
本発明の実施の形態について、実施例を示して、さらに詳しく説明する。
【実施例】
【0035】
[実施例1] 金属(インジウム)ナノワイヤの成長
図5および図6に、金属(インジウム)ナノワイヤの成長の一例を示した。ワイヤ(16)を、JEOL 4500XT型の超真空(UHV)走査型トンネル顕微鏡(STM)システム内で成長させた。基板(11)としての比抵抗0.01Ω/cmのホウ素ドープSi(001)を、標準的な方法(非特許文献4参照)で清浄化し、上記UHVシステム内に設置した。Si(001)清浄面を、圧力が1×10-6Pa以下に維持されるまで、1150℃で30秒間の繰り返し加熱処理を施した。その後、サンプルを570℃まで冷やした。Biを、クヌドセン室(Knudsen cell)から0.1原子層(ML)/分の速度で堆積させた(工程1)。これは、われわれの系におけるクヌドセン室温度の450℃に対応する。表面を、アニーリングのあいだ中、表面上のナノライン以外のBiが全て蒸発するまで、STMで観察した。これは、堆積された金属がBiナノライン上にのみ付着するために重要であり、これに約20分かかった。
【0036】
次いで、サンプルを室温に冷却し、ここで、表面をマスク剤(13)としてのアンモニアの層(14)で覆った(工程2)。アンモニアへの暴露(exposure)は約4ラングミュア、すなわち、1×10-6Pa×10分とした。金属堆積の前に、サンプルを350Kで1時間の処理で安定させた。インジウム(15)を、電子ビーム蒸発器から約0.01原子層/分の速度で堆積した(工程3)。インジウム(15)は、1分という短い時間に堆積させ、その堆積の間、表面をSTPで観察して、堆積された金属の量を測定した。約5線量のインジウム15の照射の後、Biナノライン(12)はインジウム(15)で完全に覆われ、そして原子スケールのワイヤ(16)が形成されたのが確認された。これらのワイヤ(16)は、ナノラインテンプレート(12)と同じ線幅の、1.5nm幅であった。
【0037】
[実施例2] 金属(銀)ナノクラスターの成長
金属(銀)ナノクラスターの成長の一例を図7および図8に示した。
【0038】
金属(銀)ナノクラスター(18)を、JEOL 4500XT形の超真空(UHV)走査型トンネル顕微鏡(STM)システム内で成長させた。基板(11)としてのホウ素をドープした比抵抗0.01Ω/cmのSi(001)試料を標準的な方法(非特許文献4参照)で清浄化し、これを上記UHVシステム内に設置した。Si(001)清浄表面を、1150℃で30秒間、30秒後に1x10-6Pa以下に留まるまで、繰り返し加熱処理を施した。サンプルを570℃まで冷却した。ビスマスをクヌドセン室から0.1原子層/分の速度で堆積させた(工程1)。これは、われわれの系におけるクヌドセン室温度の450℃に対応する。表面にあるナノライン以外の全てのBiが蒸発するまで、アニーリングの間中、表面をSTM中で観察した。これに約20分かかった。堆積した金属がBiナノライン上にのみ付着するために、このことは重要である。次に、サンプルを室温に冷やし、表面をアンモニア(13)の層(14)で被覆した(工程2)。アンモニア(13)への暴露は、約4ラングミュア、すなわち、1x10-6Pax10分であった。サンプルは、金属堆積の前に、350Kで1時間の処理で安定化された。銀(17)を、電子ビーム蒸発器から約0.005 ML/minの速度で堆積した(工程3)。銀(17)は、1分という短い時間に堆積させ、その堆積の間に表面をSTPで観察し、堆積された金属の量を測定した。約1−2線量の銀(17)の照射の後には、高さ0.5nmの小さな原子スケール金属ナノクラスター(18)がBiナノライン(12)の上に形成されたのが観察された。約5−10線量の銀(17)の照射の後には、これらのクラスター(18)の数は増えたが、その大きさは概ねそのままであった。単一ピークの粒径分布が得られた。銀(17)の流速を約0.01 ML/minにまで増加することにより、より大きなクラスター(18)が得られ、さ
らに、表面温度を350Kまで上げると、ピークサイズが、0.7nm、1.1nmおよび1.4nmの三峰性の粒径分布が見られた。これはクラスター(18)における原子数が150程度であることに対応する。
【0039】
本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、濡れ性の場合の本発明の概念を示している。
【図2】図2は、鋳型としてインジウムナノワイヤを用い、シリコン基板上に白金ナノワイヤを製造する工程の一例を示している。
【図3】図3は、濡れ性の場合の本発明の概念を示している。
【図4】図4は、鋳型としてBiナノライン上の金ナノクラスターを用い、繋がれた分子のアレイをシリコン基板上に製造する工程の一例を示している。
【図5】図5は、自己組織的に形成されたBiナノラインを鋳型として用い、シリコン基板上にインジウム・ナノワイヤを製造する工程の一例を示している。
【図6】図6は、本発明のインジウムナノワイヤのSTM像の一例であって、各々の像は図3の写真に対応する。
【図7】図7は、自己組織的に形成されたBiナノラインを鋳型として用い、シリコン基板上に銀ナノクラスターを製造する工程の一例を示している。
【図8】図8は、本発明の銀ナノクラスターのSTM像の一例であって、各々の像は図5の写真に対応する。
【図9】図9は、Biナノラインの大縮尺像であって、通常の最近接距離が約2.5nmで、長さが数百nmであることを示し、拡大像は、水素終端したシリコン(001)表面上のBiナノラインを示している。
【図10】図10は、SPMリソグラフィーを使った、従来のシリコン基板上への金属ナノワイヤの製造方法を示している。
【符号の説明】
【0041】
1 非導電性基板
2 自己組織化ナノライン
3 マスク材
4 金属、濡れ性金属
5 原子スケール金属ワイヤ
6 金属、非濡れ性金属
7 原子スケール金属ナノクラスター
11 シリコン基板
12 自己組織化Biナノライン
13 窒化剤およびマスキング試薬(NH
14 非導電性表面層
15 ワイヤ金属(インジウム)
16 原子スケールインジウムワイヤ
17 金属(Ag)
18 原子スケール銀ナノクラスター
19 第二の金属
20 原子スケール第二金属ワイヤ
21 チオール機能化分子
31 半導体基板
32 SPMチップ(探査針)
33 マスキング試薬(H)
34 ワイヤ金属(Al)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型としてのビスマスナノラインの上に形成された金属ワイヤを含み、前記金属ワイヤの幅は前記ビスマスナノラインの幅の約2倍又はそれ以下である原子スケール金属ワイヤ。
【請求項2】
前記ビスマスナノラインは、中心間距離が約0.65nmの2本のビスマス原子細線からなる請求項1の原子スケール金属ワイヤ。
【請求項3】
前記金属ワイヤは1原子又は数原子の幅を有している請求項1または2の原子スケール金属ワイヤ。
【請求項4】
前記金属ワイヤを構成する金属が、ビスマスに対して濡れ性を有する濡れ性金属である請求項1ないし3のいずれかの原子スケール金属ワイヤ。
【請求項5】
濡れ性金属が、インジウム、アルミニウムまたはガリウムである原子スケール請求項4の原子スケール金属ワイヤ。
【請求項6】
金、銀および白金からなる群から選ばれる第二の金属を含む原子スケール金属ワイヤであって、前記原子金属ワイヤは、鋳型としてのビスマスナノラインの上に形成された
第一の金属としてのInから成る金属ワイヤの上に形成されている原子スケール金属ワイヤ。
【請求項7】
前記原子スケール金属ワイヤが、1原子または数原子の幅を有している請求項6の原子スケール金属ワイヤ。
【請求項8】
鋳型としてのビスマスナノラインの上に形成された金属ナノクラスターを含み、前記金属ナノクラスターの径がビスマスナノラインの幅の約10倍またはそれ以下である原子スケール金属ナノクラスター。
【請求項9】
前記ビスマスナノラインが、中心間距離が約0.65nmの2本のビスマス原子細線から成る請求項8の原子スケール金属ナノクラスター。
【請求項10】
前記金属ナノクラスターは、10〜80個の金属原子から成る請求項8または9の原子スケール金属ナノクラスター。
【請求項11】
前記金属ナノクラスターを構成する金属が、ビスマスに対して非濡れ性を有する非濡れ性金属である請求項8ないし10いずれかの原子スケール金属ナノクラスター。
【請求項12】
非濡れ性金属が、銀、金、白金または鉄である請求項11の原子スケール金属ナノクラスター。
【請求項13】
(1)鋳型としてのナノラインを有する表面を調製し、
(2)ナノライン以外の表面をマスク材で被覆し、
(3)ナノラインに対して選択的に濡れ性を有する金属を適切な温度でナノライン上に堆積させて、その金属で構成される金属ワイヤを成長させる
工程を含む原子スケールの金属ワイヤの製造方法。
【請求項14】
ナノラインを有する表面が、ビスマスナノラインを有するシリコン(001)基板である請求項13の製造方法。
【請求項15】
金属が、インジウム、アルミニウムまたはガリウムである請求項13または14の製造方法。
【請求項16】
前記金属がインジウムである場合、
(4)金、銀および白金からなる群から選ばれる第二の金属を、インジウムで構成される金属ワイヤの上に堆積させる工程を含む、請求項15の製造方法。
【請求項17】
マスク材が水素またはアンモニアである請求項13ないし16のいずれかの製造方法。
【請求項18】
(1)鋳型としてのナノラインを有する表面を調製し、
(2)前記鋳型としてのナノライン以外の表面を、マスク材を用いて被覆し、
(3)前記ナノラインに対して選択的に濡れ性を有する金属を、適切な温度で、ナノライン上に堆積させて、その金属で構成される金属ナノクラスターを成長させる工程を含む、原子スケール金属ナノクラスターの製造方法。
【請求項19】
ナノラインを有する表面が、ビスマスナノラインを有するシリコン(001)基板である請求項18の製造方法。
【請求項20】
前記金属が、銀、金、白金または鉄である請求項18または19の製造方法。
【請求項21】
前記マスク材が、水素またはアンモニアである請求項18ないし20のいずれかの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−105822(P2007−105822A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−298225(P2005−298225)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度文部科学省 若手国際イノベーション特区委託研究 産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】