説明

原子発振器

【課題】環境温度に関わらず、ガスセルおよび光出射部を所定温度範囲に保つことができ、安定して所望の特性を発揮することのできる原子発振器を提供すること。
【解決手段】原子発振器1は、ガスセル2、ガスセル2を温調する第1の温度可変部41、光出射部5および光出射部5を温調する第2の温度可変部42を収納する第1のパッケージ6と、第1のパッケージ6を温調する第3の温度可変部43と、温調部41〜43の駆動を制御する制御部8とを有する。第1の温度可変部41がガスセル2を所定温度Taに温調することができるとともに、第2の温度可変部42が光出射部5を所定温度Tbに温調することができる環境温度の下限値をTLとし、上限値をTHとしたとき、制御部8は、環境温度がTLより低いかTHより高い場合に、第3の温度可変部43を駆動し、第1のパッケージ6の温度をTL以上、TH以下に維持するよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属の原子のエネルギー遷移に基づいて周波数安定度の高い発振信号を得る原子発振器が知られている(例えば、特許文献1)。
特許文献1に記載の原子発振器は、励起光を出射する光源と、励起光に光学的処理を施す光学レンズおよび偏光板を備える光学系と、ガス状のアルカリ金属原子が封入されたガスセルと、ガスセルを通過した励振光を検出する光検出部とを有している。また、この原子発振器は、所望の特性を安定して発揮するために、ガスセルを所定温度に保つ第1温調手段(例えば、ヒーター)と、光源を所定温度に保つ第2温調手段(例えば、ペルチェ素子)とを有している。
【0003】
ところで、今後、原子発振器の利用分野が拡大し、幅広い温度域(現状では、−50℃〜+80℃)で使用されることが想定される。しかしながら、第1温調手段や第2温調手段は、その温度制御能力に限りがあり、環境温度によっては、ガスセルや光源を所定温度に保つことが困難な場合もある。例えば、環境温度が−50℃と極めて低い場合には、ガスセルおよび光源を充分に加熱することができずに、ガスセルおよび光源を所定温度に保持することができない場合がある。
このように、特許文献1の原子発振器では、環境温度に影響されて所望の特性を発揮することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許6320472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、環境温度に関わらず、ガスセルおよび光出射部を所定温度範囲に保つことができ、安定して所望の特性を発揮することのできる原子発振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本発明の原子発振器は、ガスセルと、
前記ガスセルの温度を変化させる手段を有する第1の温度可変部と、
前記ガスセル中の気体の原子を励起する励起光を出射する光出射部と、
前記光出射部の温度を変化させる手段を有する第2の温度可変部と、
前記ガスセルと前記第1の温度可変部と前記光出射部と前記第2の温度可変部を収納する第1のパッケージと、
前記第1のパッケージの温度を変化させる手段を有する第3の温度可変部と、
前記第1の温度可変部、前記第2の温度可変部および前記第3の温度可変部の駆動を制御し、前記ガスセルの温度と前記光出射部の温度と前記第1のパッケージの温度を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、環境温度が所定温度TLより低いか、或いは前記TLよりも高温の所定温度THより高い場合に、前記第3の温度可変部を駆動することを特徴とする。
これにより、環境温度に関わらず、ガスセルおよび光出射部を所定温度範囲に保つことができ、安定して所望の特性を発揮することのできる原子発振器を提供することができる。
【0007】
[適用例2]
本発明の原子発振器では、前記制御部は、前記環境温度が前記TL以上、且つ前記TH以下の場合に、前記第3の温度可変部の駆動を停止させ、前記第1の温度可変部および前記第2の温度可変部を駆動し、前記ガスセルおよび前記光出射部をそれぞれ所定温度に制御することが好ましい。
これにより、省電力駆動が可能となる。
【0008】
[適用例3]
本発明の原子発振器では、前記ガスセルの前記所定温度をTaとし、前記光出射部の前記所定温度をTbとしたとき、前記制御部は、前記第1のパッケージの温度をTaとTbの間の温度に制御することが好ましい。
これにより、より効率的かつ確実に、第1の温度可変部によってガスセルを所定温度とするとともに、第2の温度可変部によって光出射部を所定温度とすることができる。また、第1の温度可変部、第2の温度可変部および第3の温度可変部をバランスよく駆動させること、すなわち第1の温度可変部、第2の温度可変部、第3の温度可変部のうちのいずれかの温調部が他の温調部に対して過度に駆動することを防止できるため、省電力駆動が可能となる。また、これにより、各温調部の仕事量を抑えることができ、各温調部の小型化、すなわち原子発振器の小型化を図ることができる。
【0009】
[適用例4]
本発明の原子発振器では、前記第3の温度可変部は、ペルチェ素子を有し、
前記ペルチェ素子は、一方の面が前記第1のパッケージの外側の面に接触して設けられていることが好ましい。
これにより、第1のパッケージをより精度よく温調することができる。
【0010】
[適用例5]
本発明の原子発振器では、前記第1のパッケージおよび前記第3の温度可変部を収納する第2のパッケージを有することが好ましい。
これにより、第3の温度可変部によって、第1のパッケージとともに、第2のパッケージの内部空間(すなわち第1のパッケージの周囲)を温調することができるため、より効率的に、第3の温度可変部によって第1のパッケージを温調することができる。
【0011】
[適用例6]
本発明の原子発振器では、前記第2のパッケージは、前記ペルチェ素子の他方の面と接触して設けられていることが好ましい。
これにより、吸発熱体から発生する熱を原子発振器の外部へ効率的に放出することができる。
[適用例7]
本発明の原子発振器では、前記第2のパッケージは、熱伝導率が14(W・m−1・K−1)以上の材料で構成されていることが好ましい。
これにより、より効率的に、吸発熱体から発生する熱を原子発振器の外部へ効率的に放出することができる。
【0012】
[適用例8]
本発明の原子発振器では、前記第1のパッケージは、前記ガスセルおよび前記第1の温度可変部が位置する空間と、前記光出射部および前記第2の温度可変部が位置する空間とを仕切る仕切部を有しており、該仕切部は、光透過性を有していることが好ましい。
ガスセルおよび光出射部をそれぞれ効率的にかつ安定して所定温度に温調することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の好適な実施形態に係る原子発振器の概略構成を示す断面図である。
【図2】図1に示す原子発振器に備えられたガスセル内のアルカリ金属のエネルギー状態を説明するための図である。
【図3】図1に示す原子発振器に備えられた光出射部および光検出部について、光出射部からの2つの光の周波数差と、光検出部の検出強度との関係を示すグラフである。
【図4】環境温度、第2のパッケージの温度、第1のパッケージの温度、ガスセルおよび光出射部の温度の関係の一例を図示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の原子発振器を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の好適な実施形態に係る原子発振器の概略構成を示す断面図、図2は、図1に示す原子発振器に備えられたガスセル内のアルカリ金属のエネルギー状態を説明するための図、図3は、図1に示す原子発振器に備えられた光出射部および光検出部について、光出射部からの2つの光の周波数差と、光検出部の検出強度との関係を示すグラフ、図4は、環境温度、第2のパッケージの温度、第1のパッケージの温度、ガスセルおよび光出射部の温度の関係の一例を図示したグラフである。なお、以下では、説明の便宜上、図1中の上側を「上」、下側を「下」、左側を「左」、右側を「右」と言う。
【0015】
1.原子発振器の構成
まず、原子発振器1の構成について説明する。
なお、以下では、量子干渉効果を利用した原子発振器に本発明を適用した場合を一例として説明するが、本発明は、これに限定されるものでななく、二重共鳴効果を利用した原子発振器にも適用可能である。
図1に示すように、原子発振器1は、ガス状の金属原子を封入したガスセル2と、光検出部3と、ガスセル2の温度を変化させる手段を有する第1の温度可変部41と、励起光を出射する光出射部5と、光出射部5の温度を変化させる手段を有する第2の温度可変部42と、これらを収納する第1のパッケージ6と、第1のパッケージ6の温度を変化させる手段を有する第3の温度可変部43と、第1のパッケージ6および第3の温度可変部43を収納する第2のパッケージ7と、各温調部41、42、43の駆動を制御する制御部8と、環境温度(原子発振器1の周辺温度)を検知する環境温度検知部9とを有している。以下、これら各部について順次詳細に説明する。
【0016】
(ガスセル)
ガスセル2は、筒状の本体21と、その本体21の両端開口部を封鎖する窓部22、23とを有しており、その内部に、密閉されたキャビティが形成されている。このキャビティ内には、ガス状のルビジウム、セシウム、ナトリウム等のアルカリ金属原子が封入される。
【0017】
窓部22、23は、金属原子ガスを励起する励起光の光路の入射面および出射面を構成する。そのため、各窓部22、23は、例えばガラスなどの光透過性を有する材料で構成されている。一方、本体21は、光透過性を必要としないので、各種金属材料、各種樹脂材料などにより構成されていてもよく、また、窓部22、23と同じガラスなどの光透過性材料により構成されていてもよい。
【0018】
(光検出部)
光検出部3は、ガスセル2の右側に設けられている。この光検出部3は、ガスセル2を透過した励起光(後述する共鳴光1、2)の強度を検出する機能を有している。光検出部3としては、特に限定されず、例えば、太陽電池やフォトダイオードなどを用いることができる。
【0019】
(第1の温度可変部)
第1の温度可変部41は、ガスセル2を加熱する加熱部411(ガスセル2の温度を変化させる手段)と、ガスセル2の温度(本体21の外表面の温度)を検知する温度検知部412とを有している。
加熱部411は、窓部22の外側の面に設けられた第1ヒーター411aと、窓部23の外側の面に設けられた第2ヒーター411bとを有している。これらヒーター411a、411bは、それぞれ、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、In、SnO、Sb含有SnO、Al含有ZnO等の酸化物等の透明電極材料で構成された透明電極膜である。
【0020】
ヒーター411a、411bがそれぞれ透明電極材料で構成されていると、これらヒーター411a、411bをガスセル2の外表面の励起光の光路となる部分に設けることができる。そのため、ガスセル2の励起光の入射部および出射部をヒーター411a、411bにより効率的に加熱することができる。その結果、ガスセル2の内壁面の励起光の光路となる部分にアルカリ金属原子が析出(結露)するのを防止することができ、原子発振器1の長寿命化を図ることができる。
【0021】
温度検知部412は、例えば、ガスセル2の本体21の外表面に設けられたサーミスタで構成される。これにより、ガスセル2の温度をより正確に検知することができる。
第1、第2ヒーター411a、412bおよび温度検知部412は、それぞれ、制御手段(制御回路)8に電気的に接続されている。制御部8は、温度検知部412の検知結果に基づいて、第1、第2ヒーター411a、412bの駆動(出力)を制御することにより、ガスセル2を所定温度に保つように構成されている。なお、ガスセル2は、第1、第2ヒーター411a、411bによって、例えば約60℃以上、80℃以下程度に温度制御される。
【0022】
(光出射部)
光出射部5は、ガスセル2中のアルカリ金属原子を励起する励起光を出射する機能を有している。より具体的には、光出射部5は、レーザー光のような干渉性を有するコヒーレント光として、周波数の異なる2種の光(共鳴光1、2)を出射する。このような光出射部5としては、例えば、垂直共振器面発光レーザー(VCSEL)を用いることができる。
【0023】
ここで、ガスセル2中のアルカリ金属原子は、図2に示すように、3準位系のエネルギー準位を有しており、エネルギー準位の異なる2つの基底状態(基底状態1、2)と、励起状態との3つの状態をとり得る。ここで、基底状態1は、基底状態2よりも低いエネルギー状態である。
共鳴光1の周波数ω1は、ガスセル2中のアルカリ金属原子を前述した基底状態1から励起状態に励起し得るものであり、共鳴光2の周波数ω2は、ガスセル2中のアルカリ金属原子を前述した基底状態2から励起状態に励起し得るものである。
【0024】
ガスセル2中のアルカリ金属原子に対して周波数の異なる2種の共鳴光1、2を照射すると、共鳴光1の周波数ω1と共鳴光2の周波数ω2との差(ω1−ω2)に応じて、共鳴光1、2のアルカリ金属原子における光吸収率(光透過率)が変化する。そして、共鳴光1の周波数ω1と共鳴光2の周波数ω2との差(ω1−ω2)が基底状態1と基底状態2とのエネルギー差に一致したとき、基底状態1、2から励起状態への励起がそれぞれ停止する。このとき、共鳴光1、2は、いずれも、アルカリ金属原子に吸収されずに透過する。このような現象をCPT現象または電磁誘起透明化現象(EIT:Electromagnetically Induced Transparency)と呼ぶ。
【0025】
例えば、共鳴光1の周波数ω1を固定したまま、共鳴光2の周波数ω2を変化させていくと、共鳴光1の周波数ω1と共鳴光2の周波数ω2との差(ω1−ω2)が基底状態1と基底状態2とのエネルギー差に相当する周波数ω0に一致したときに、光検出部3の検出強度は、図3に示すように、急峻に上昇する。このような急峻な信号をEIT信号として検出する。このEIT信号は、アルカリ金属の種類によって決まった固有値をもっている。したがって、このようなEIT信号を用いることにより、周波数安定性の高い発振器を構成することができる。
【0026】
ここで、光出射部5とガスセル2との間には、図示しない光学部品が設けられていてもよい。光学部品としては、例えば、励起光を平行光とするためのコリメータレンズや、励起光LLのうち不要な光成分を取り除いて必要な光成分のみを通過させる分光を行ったり、光の強度を調整したりする光学素子層が挙げられる。前記光学素子層は、例えば、減光フィルター(NDフィルター)と、λ/4波長板とを積層してなるものを用いることができる。このような光学部品を配置することによって、励起光に所望の光学的処理を施すことができるため、原子発振器1の特性が向上する。
【0027】
(第2の温度可変部)
第2の温度可変部42は、光出射部5を加熱・冷却する加熱・冷却部421(光出射部5の温度を変化させる手段)と、光出射部5の温度(表面温度)を検知する温度検知部422とを有している。
加熱・冷却部421は、板状(面状)のペルチェ素子421aで構成されており、このペルチェ素子421aの上面に光出射部5が設けられている。ペルチェ素子421aは、流れる電流の向きを制御することにより、その上面を発熱面または吸熱面として機能させることができる。そのため、ペルチェ素子421aの上面に光出射部5を設けることにより、光出射部5をより精度よく温度制御することができる。このようなペルチェ素子421aで光出射部5を温度制御することによって、所望の特性の励起光を出射することができ、原子発振器1の信頼性が向上する。
【0028】
温度検知部422は、例えば、ペルチェ素子421aの上面に設けられたサーミスタで構成される。これにより、ペルチェ素子421aの上面の温度を正確に検知でき、例えば、この温度を光出射部5の温度とすることにより、光出射部5の温度を簡単に検知することができる。
ペルチェ素子421aおよび温度検知部422は、それぞれ、制御部8に電気的に接続されている。制御部8は、温度検知部422の検知結果に基づいて、ペルチェ素子421aの駆動(電流の方向や強さ)を制御することにより、光出射部5を所定温度に保つように構成されている。なお、光出射部5は、ペルチェ素子421aによって、例えば約20℃以上、40℃以下程度に温度制御される。
【0029】
(第1のパッケージ)
図1に示すように、第1のパッケージ6は、ガスセル2と、光検出部3と、第1の温度可変部41と、光出射部5と、第2の温度可変部42とを収納している。また、第1のパッケージ6は、その内部空間を2つの空間S1、S2に仕切る仕切部61を有している。空間S1には、ガスセル2、光検出部3および第1の温度可変部41が位置しており、空間S2には、光出射部5と第2の温度可変部42とが収納されている。前述したように、ガスセル2の温度(60℃〜80℃)と、光出射部5の温度(20℃〜40℃)とが異なっているため、仕切部61によって、これらを空間的に分離(熱的に分離)することにより、ガスセル2および光出射部5をそれぞれ効率的にかつ安定して所定温度に温調することができる。
【0030】
なお、仕切部61は、励起光の光路上に位置するため、例えばガラスなどの光透過性を有する材料で構成されている。
第1のパッケージ6内の空間S1、S2のうちの、少なくとも空間S2、好ましくは両空間S1、S2は、減圧状態またはアルゴンガス等の希ガスを充填した状態であるのが好ましい。これにより、原子発振器1の信頼性が向上する。
【0031】
第1のパッケージ6の構成材料は、特に限定されないが、比較的熱伝導率の高い材料、好ましくは熱伝導率が14(W・m−1・K−1)以上の材料であるのが好ましい。これにより、第3の温度可変部43の後述するペルチェ素子431aによって、効率的に第1のパッケージ6を加熱または冷却することができる。このような材料としては、特に限定されず、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、金、白金、銀、銅、マンガン、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、鉛、錫、チタン、タングステン等の各種金属、またはこれらのうちの少なくとも1種を含む合金等が挙げられる。
なお、第1のパッケージ6の構成としては、特に限定されず、例えば、内部に空間S1を有する第1パッケージと、内部に空間S2を有する第2パッケージとを接合して構成されていてもよい。
【0032】
(第3の温度可変部)
第3の温度可変部43は、第1のパッケージ6を加熱・冷却する加熱・冷却部431と、第1のパッケージ6の温度(表面温度)を検知する温度検知部432とを有している。
加熱・冷却部431は、第2の温度可変部42と同様に、ペルチェ素子431aで構成されている。また、ペルチェ素子431aは、その上面(すなわち、発熱面または吸熱面となる面)が第1のパッケージ6の外表面と接触するように設けられている。これより、ペルチェ素子431aによって、第1のパッケージ6をより精度よく温度制御することができる。
【0033】
また、第1のパッケージ6のガスセル2が設けられている面を頂面とし、光出射部5が設けられている面を底面としたとき、ペルチェ素子431aは、第1のパッケージ6の側面6aに接触するように設けられている。これにより、ペルチェ素子431aをガスセル2および光出射部5からなるべく遠ざけることができるため、ペルチェ素子431aの駆動によってガスセル2および光出射部5の温度が不本意に変動するのを抑制することができる。
【0034】
温度検知部432は、例えば、第1のパッケージ6の外表面に設けられたサーミスタで構成される。これにより、第1のパッケージ6の温度を正確に検知できる。
ペルチェ素子431aおよび温度検知部432は、それぞれ、制御部8に電気的に接続されている。制御部8は、温度検知部432の検知結果に基づいて、ペルチェ素子431aの駆動(電流の方向や強さ)を制御することにより、第1のパッケージ6を所定温度範囲内に保つように構成されている。
【0035】
(第2のパッケージ)
第2のパッケージ7は、第1のパッケージ6と、第3の温度可変部43とを収納している。これにより、第3の温度可変部43によって、第1のパッケージ6とともに、第2のパッケージ7の内部空間(すなわち第1のパッケージ6の周囲)を温度制御することができるため、より効率的に、第3の温度可変部43によって第1のパッケージ6を温度制御することができる。
【0036】
このような第2のパッケージ7は、その内面がペルチェ素子431aの下面と接触するように設けられている。これにより、ペルチェ素子431aの下面から発生する熱を原子発振器1の外部へ効率的に放出することができる。このような観点から、第2のパッケージ7は、比較的熱伝導率の高い材料、好ましくは熱伝導率が14(W・m−1・K−1)以上の材料で構成されているのが好ましい。これにより、上記効果がより顕著となる。このような材料としては、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、金、白金、銀、銅、マンガン、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、鉛、錫、チタン、タングステン等の各種金属、またはこれらのうちの少なくとも1種を含む合金等が挙げられる。
【0037】
また、第2のパッケージ7は、透磁率の高い材料、好ましくは透磁率が100(N/A)以上の材料で構成されているのが好ましい。これにより、第2のパッケージ7に磁気遮蔽効果を付与することができ、特に、ガスセル2に不本意な磁界が作用してしまうことを防止することができる。これにより、種々の回路素子が集積された基板上にガスセル2が配置されても、所望の特性を安定して発揮することのできる原子発振器1となる。このような材料としては、特に限定されないが、前述した熱伝導のパラメータを考慮すると、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、またはこれらのうちの少なくとも1種を含む合金等が挙げられる。
【0038】
(環境温度検知部9)
環境温度検知部9は、原子発振器1の外部に露出するように第2のパッケージ7に設けられている。これにより、環境温度検知部9によって、正確に、環境温度を検知することができる。環境温度検知9としては、特に限定されず、例えば、サーミスタや、サーモパイル等を用いることができる。
環境温度検知部9は、制御部8に接続されており、環境温度検知部9の検知結果は、制御部8に送信される。
以上、原子発振器1の構成について説明した。
【0039】
2.原子発振器の制御方法
次いで、原子発振器1の制御方法について図4に基づいて説明する。図4は、環境温度、第2のパッケージ7の温度、第1のパッケージ6の温度、ガスセル2および光出射部5の温度の関係の一例を図示したグラフである。
前述したように、原子発振器1では、第1の温度可変部41によってガスセル2を温度制御し、第2の温度可変部42によって光出射部5を温度制御し、第3の温度可変部43によって第1のパッケージ6を温度制御するように構成されている。ここで、第1の温度可変部41、第2の温度可変部42の能力には限界があり、原子発振器1の小型化を図る観点からもその能力は充分に高いものでもない。そのため、例えば、原子発振器1が置かれる環境温度(原子発振器1の周辺温度)が低すぎると、第1の温度可変部41を最大出力で駆動させてもガスセル2を所定温度まで加熱することができない場合がある。第2の温度可変部42についても同様である。
【0040】
そこで、原子発振器1では、環境温度に関わらずに、ガスセル2および光出射部5を所定温度とすることができるように構成されている。以下、具体的に説明するが、第1の温度可変部41がガスセル2を60℃〜80℃の範囲の任意の所定温度Ta(例えば65℃±0.5℃)に温度制御することができるとともに、第2の温度可変部42が光出射部5を20℃〜40℃の範囲の任意の所定温度Tb(例えば25℃±0.5℃)に温度制御することができる環境温度の下限値をTLとし、上限値をTHとする。言い換えれば、環境温度がTL以上、且つTH以下の場合には、第1、第2の温度可変部41、42によって、ガスセル2および光出射部5を所定温度とすることができることとする。なお、本実施形態では、第1の温度可変部41が冷却機能を有していないため、温度Taと温度THとは、ほぼ同じ温度に設定される。
原子発振器1では、環境温度がTL以上、且つTH以下の場合(第1の場合)と、それ以外の場合(第2の場合)とで制御方法が異なるため、以下では、これらの場合について順次説明する。
【0041】
(第1の場合)
第1の場合の環境温度、第2のパッケージ7の温度、第1のパッケージ6の温度、ガスセル2および光出射部5の温度の関係は、図4中の二点鎖線Cで示されるものとなる。
環境温度検知部9によって検知された環境温度がTL以上、且つTH以下の場合には、前述したように、第1、第2ヒーター411a、411bおよびペルチェ素子421aによって、ガスセル2および光出射部5を所定温度とすることができる。そのため、制御部8は、第3の温度可変部43の駆動を停止し、第1、第2ヒーター411a、411bおよびペルチェ素子421aを駆動させ、ガスセル2、光出射部5を所定温度Ta、Tbに温度制御する。このような温度制御は、温度検知部412、422の検知結果を制御部8にフィードバックしながら行うことができる。
なお、環境温度がTHとほぼ等しい場合には、第1、第2ヒーター411a、411bを駆動しなくても、ガスセル2を所定温度Taとすることができるため、このような場合には、制御部8は、第1の温度可変部41の駆動を停止させてもよい。
【0042】
(第2の場合)
第2の場合の環境温度、第2のパッケージ7の温度、第1のパッケージ6の温度、ガスセル2および光出射部5の温度の関係は、図4中の実線A、一点鎖線Bで示されるものとなる。
環境温度検知部9によって検知された環境温度がTLより低いか、THより高い場合には、第1、第2ヒーター411a、411bおよびペルチェ素子421aの駆動だけではガスセル2および光出射部5を所定温度Ta、Tbとすることができない。
【0043】
そこで、第2の場合には、制御部8は、第1、第2ヒーター411a、411bおよびペルチェ素子421aとともに、ペルチェ素子431aも駆動させる。このとき、制御部8は、例えば、まず、第1のパッケージ6の温度(温度検知部432の検知温度)がTL以上、且つTH以下となるように第3の温度可変部43の駆動を制御し、第1、第2ヒーター411a、411bおよびペルチェ素子421aによって、ガスセル2および光出射部5を所定温度Ta、Tbとすることができる状態とする。このような温度制御は、温度検知部432の検知結果を制御部8にフィードバックしながら行うことができる。
【0044】
ここで、より好ましくは、制御部8は、第1のパッケージ6の温度がTb以上、且つTa以下となるように第3の温度可変部43の駆動を制御する。さらに具体的に説明すれば、制御部8は、環境温度がTLよりも低い場合は、第1のパッケージ6の温度がTb付近となるように第3の温度可変部43の駆動を制御し、環境温度がTHよりも高い場合は、第1のパッケージ6の温度がTa付近となるように第3の温度可変部43の駆動を制御するこが好ましい。第1のパッケージ6の温度をこの範囲とすることにより、第1、第2ヒーター411a、411bおよびペルチェ素子421aの負担(仕事量)が減り、第1、第2ヒーター411a、411bおよびペルチェ素子421aの小型化を図ることができるとともに、省電力駆動が可能となる。また、第1、第2ヒーター411a、411b、ペルチェ素子421a、431aの駆動バランス(仕事量のバランス)に優れる、すなわち、例えばペルチェ素子421a、431aで仕事量に大きな差が生じないため、第1、第2ヒーター411a、411b、ペルチェ素子421a、431aを一律に小型化することもでき、この点でも、省電力駆動が可能となる。
【0045】
次いで、制御部8は、第1、第2ヒーター411a、411bおよびペルチェ素子421aの駆動を制御して、ガスセル2および光出射部5を所定温度Ta、Tbとする。このように、第3の温度可変部43によって第1のパッケージ6の温度を制御してから、第1、第2ヒーター411a、411bおよびペルチェ素子421aの駆動を開始することにより、第1、第2ヒーター411a、411bおよびペルチェ素子421aの無駄な駆動が無くなり省電力駆動が可能となる。
【0046】
以上、原子発振器1の制御方法について説明した。この原子発振器1によれば、環境温度によらずにガスセル2および光出射部5を所定温度に制御することができるため、安定して所望の特性を発揮することができる。また、第1の場合には、ペルチェ素子431aを駆動させないため、省電力化を図ることもできる。また、第1、第2ヒーター411a、411bおよびペルチェ素子421aの仕事量の増加を防げるため、装置の小型化を図ることもできる。
以上、本発明の原子発振器を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、他の任意の構成物や、工程が付加されていてもよい。
【0047】
また、前述した実施形態では、第1のパッケージが仕切部によって2つの空間に仕切られているが、これに限定されず、仕切部を省略してもよい。
また、前述した実施形態では、第2のパッケージを有していたが、これに限定されず、第2のパッケージを省略してもよい。この場合には、環境温度検知部は、第1のパッケージに設ければよく、また、第3の温度可変部の温度検知部が環境温度検知部を兼ねていてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1‥‥原子発振器 2‥‥ガスセル 21‥‥本体 22、23‥‥窓部 3‥‥光検出部 41‥‥第1の温度可変部 411‥‥加熱部 411a‥‥第1ヒーター 411b‥‥第2ヒーター 412‥‥温度検知部 42‥‥第2の温度可変部 421‥‥加熱・冷却部 421a‥‥ペルチェ素子 422‥‥温度検知部 43‥‥第3の温度可変部 431‥‥加熱・冷却部 431a‥‥ペルチェ素子 432‥‥温度検知部 5‥‥光出射部 6‥‥第1のパッケージ 6a‥‥側面 61‥‥仕切部 7‥‥第2のパッケージ 8‥‥制御部 9‥‥環境温度検知部 S1、S2‥‥空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスセルと、
前記ガスセルの温度を変化させる手段を有する第1の温度可変部と、
前記ガスセル中の気体の原子を励起する励起光を出射する光出射部と、
前記光出射部の温度を変化させる手段を有する第2の温度可変部と、
前記ガスセルと前記第1の温度可変部と前記光出射部と前記第2の温度可変部を収納する第1のパッケージと、
前記第1のパッケージの温度を変化させる手段を有する第3の温度可変部と、
前記第1の温度可変部、前記第2の温度可変部および前記第3の温度可変部の駆動を制御し、前記ガスセルの温度と前記光出射部の温度と前記第1のパッケージの温度を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、環境温度が所定温度TLより低いか、或いは前記TLよりも高温の所定温度THより高い場合に、前記第3の温度可変部を駆動することを特徴とする原子発振器。
【請求項2】
前記制御部は、前記環境温度が前記TL以上、且つ前記TH以下の場合に、前記第3の温度可変部の駆動を停止させ、前記第1の温度可変部および前記第2の温度可変部を駆動し、前記ガスセルおよび前記光出射部をそれぞれ所定温度に制御する請求項1に記載の原子発振器。
【請求項3】
前記ガスセルの前記所定温度をTaとし、前記光出射部の前記所定温度をTbとしたとき、前記制御部は、前記第1のパッケージの温度をTaとTbの間の温度に制御する請求項1または2に記載の原子発振器。
【請求項4】
前記第3の温度可変部は、ペルチェ素子を有し、
前記ペルチェ素子は、一方の面が前記第1のパッケージの外側の面に接触して設けられている請求項1ないし3のいずれかに記載の原子発振器。
【請求項5】
前記第1のパッケージおよび前記第3の温度可変部を収納する第2のパッケージを有する請求項4に記載の原子発振器。
【請求項6】
前記第2のパッケージは、前記ペルチェ素子の他方の面と接触して設けられている請求項5に記載の原子発振器。
【請求項7】
前記第2のパッケージは、熱伝導率が14(W・m−1・K−1)以上の材料で構成されている請求項5または6に記載の原子発振器。
【請求項8】
前記第1のパッケージは、前記ガスセルおよび前記第1の温度可変部が位置する空間と、前記光出射部および前記第2の温度可変部が位置する空間とを仕切る仕切部を有しており、該仕切部は、光透過性を有している請求項1ないし7のいずれかに記載の原子発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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