説明

原料供給装置、及び蒸着装置

【課題】粉末原料がクロッド状の塊になる現象や供給過程で目詰まりを起こす現象が効果的に抑制され、粉末原料の供給を確実に行うことができる原料供給装置を提供する。また、その原料供給装置を用いた蒸着装置を提供する。
【解決手段】原料供給装置1は、内部に粉末原料28を収容可能な貯蔵タンク30と、貯蔵タンク30から排出された粉末原料28が供給されるボールフィーダ40と、上面にボールフィーダ本体50が設置され、必要に応じて振動するバイブレータ60とにより構成されている。そして、ボールフィーダ40は、ボールフィーダ本体50と、ボールフィーダ本体50の底面54からボールフィーダ本体50の外方向に延びる供給路51とを備える。バイブレータ60が振動することでボールフィーダ40から粉末原料28が排出され、停止することで排出が停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末原料を蒸発皿に供給するための原料供給装置、及び、その原料供給装置を用いた蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックレンズの表面に反射防止膜を形成する技術が知られている。このような反射防止膜は、低屈折率層と高屈折率層を交互に積み重ねて構成される。反射防止膜は、真空蒸着法によって成膜されるものが多い。
【0003】
プラスチックレンズの製造方法に用いられる一般的な蒸着装置では、蒸着源を昇華若しくは蒸発させるためのルツボに供給し、ルツボを加熱することにより蒸着源をプラスチックレンズなどの蒸着対象に向けて蒸散する。蒸着源としては成膜される膜の屈折率に対応した物質が用いられ、その蒸着源の形態は、例えば、錠剤状、プレート状、そして、粉末状のものがある。
【0004】
ところで、蒸着源として、粉末状の蒸着源を使用する場合、粉末原料がルツボに供給される量を制御する必要がある。ルツボへの供給量が少ない場合、蒸散する量が減少し、反射防止膜を構成する層の厚さに不足が生じる。一方、ルツボへの供給量が過剰な場合、過剰量の原料が蒸発装置内に散らかる恐れがある。粉末状の蒸着源をルツボに供給する原料供給装置としては、例えば、特許文献1及び2に記載された構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−321768号公報
【特許文献2】特開2001−115254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2に記載の原料供給装置は、漏斗状のノズルを有する貯蔵タンクと、貯蔵タンクから原料が供給されるボールフィーダと、ボールフィーダを振動させるバイブレータとから構成されている。この供給装置では、貯蔵タンクの内壁面にらせん状の溝が形成されており、ボールフィーダの底からボールフィーダの材料排出口に向けて溝を通じて原料が移動するように構成されている。
【0007】
このような原料供給装置は、蒸着装置内に組み込まれるものであるため、原料供給装置に収納されている粉末原料は、真空状態にさらされる。粉末状態の原料が真空環境にさらされると、粒子間にあったわずかな気体が脱気され過密状態になる。過密状態が継続すると、クロッド状の塊が出現するおそれがある。例えば、特許文献1及び2に記載の原料供給装置を使用すると、過密になった粉末がらせん状の溝を移動していくうちにさらに圧縮され、結果的に目詰まりを起こすおそれがある。さらに、クロッド状の塊が溝に押し込まれた場合、材料供給に滞りが生じる。この場合、当然として粉末原料をルツボに送り込むことができず、蒸着することができなくなる。反射防止膜の成膜において、このような現象が生じると反射防止膜としての光学特性が低下するほか、膜強度など、当初の製膜設計と異なる事態が生じる。
また、特許文献1、2に記載のボールフィーダは、その構造が複雑である。このため、作業者は、材料排出量を均一化するために煩雑な作業を要求される。たとえば、バイブレータとボールフィーダをつなぐ板ばねの調整や、オシロスコープを使用したバイブレータの振動条件設定や、減圧速度や真空度などの真空条件、さらには、粉末原料の粒度といった、厳しい条件設定をする必要がある。
【0008】
上述の点に鑑み、本発明は、粉末原料がクロッド状の塊になる現象や供給過程で目詰まりを起こす現象が効果的に抑制され、粉末原料の供給を確実に行うことができる原料供給装置を提供することを目的とする。また、その原料供給装置を用いた蒸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の原料供給装置は、貯蔵タンクと、ボールフィーダと、バイブレータとを備える。貯蔵タンクは、内部に粉末原料を収容可能な容器部と、容器部の一端に設けられ、粉末原料を外部に排出するノズル部とで構成されている。ボールフィーダは、上部にノズル部が挿入可能な開口部を有し、貯蔵タンクから排出された粉末原料が供給されるボールフィーダ本体と、ボールフィーダ本体の底面から、ボールフィーダ本体の外方向に延びる供給路とで構成されている。バイブレータは、上面にボールフィーダ本体が設置され、必要に応じて振動する。そして、本発明の原料供給装置では、バイブレータを発振したときに、ボールフィーダ本体の粉末原料が供給路から排出されると共に、貯蔵タンクからボールフィーダ本体に粉末原料が供給される。また、バイブレータの振動を停止したときに、ボールフィーダ本体の粉末原料が供給路から排出されるのが停止すると共に、貯蔵タンクからボールフィーダ本体への粉末原料の供給が停止される。
【0010】
本発明の原料供給装置では、バイブレータの振動の停止時においては、ボールフィーダ本体に排出された粉末原料によりノズル部の開口が閉塞してノズル部からの供給が中断する。このため、ボールフィーダ本体に貯まる粉末原料の量は、ボールフィーダ本体の底面からノズル部までの距離で決定される。また、供給路はボールフィーダ本体の底面からボールフィーダ本体の外方向に延びるため、ボールフィーダ本体の底に長時間粉末原料が蓄積されることがない。このため、ボールフィーダ本体内部で過剰に圧縮された状態の粉末原料が残りにくい。
【0011】
また、本発明の原料供給装置は、ボールフィーダ本体の底面からノズル部の先端までの高さが、ノズル部の先端と、ボールフィーダ本体と供給路との境界と、ボールフィーダ本体の底面を結ぶ角度θが45度以下となるように設定されている。これにより、バイブレータの非稼働時において、供給口から粉末原料が不測に排出されることが効果的に抑制される。
【0012】
また、本発明の蒸着装置は、被蒸着物支持面に、複数の被蒸着物を支持するドームと、蒸発皿に粉末原料を供給する原料供給装置と、被蒸着物に飛散される粉末原料が配置される蒸発皿を備える。そして、原料供給装置は、貯蔵タンクと、ボールフィーダと、バイブレータとを備える。貯蔵タンクは、内部に粉末原料を収容可能な容器部と、容器部の一端に設けられ、粉末原料を外部に排出するノズル部とで構成されている。ボールフィーダは、上部にノズル部が挿入可能な開口部を有し、貯蔵タンクから排出された粉末原料が供給されるボールフィーダ本体と、ボールフィーダ本体の底面から、ボールフィーダ本体の外方向に延びる供給路とで構成されている。バイブレータは、上面にボールフィーダ本体が設置され、必要に応じて振動する。そして、原料供給装置では、バイブレータを発振したときに、ボールフィーダ本体の粉末原料が供給路から排出されると共に、貯蔵タンクからボールフィーダ本体に粉末原料が供給される。また、バイブレータの振動を停止したときに、ボールフィーダ本体の粉末原料が供給路から排出されるのが停止すると共に、貯蔵タンクからボールフィーダ本体への粉末原料の供給が停止される。
【0013】
本発明の蒸着装置では、原料供給装置において、供給路はボールフィーダ本体の底面からボールフィーダ本体の外方向に延びるため、ボールフィーダ本体の底に長時間粉末原料が蓄積されることがない。このため、ボールフィーダ本体内部で過剰に圧縮された状態の粉末原料が残りにくく、粉末原料がクロッド状に凝集することがない。これにより、粉末原料を滞りなく蒸発皿に供給することができ、成膜精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、原料供給装置において、真空内で粉末原料を蒸発皿に供給する際に、粉末原料がクロッド状の塊になる現象や、供給過程において、原料供給装置内で目詰まりを起こす現象が抑制される。これにより、粉末原料の供給を円滑に行うことができる。また、この原料供給装置を用いた蒸着装置によれば、蒸着源となる粉末原料が円滑に供給されるので、成膜精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1、本発明の第1の実施形態に係る蒸着装置の概略構成図である。
【図2】図2は、本発明の第1の実施形態に係る原料供給装置の構成を示す断面図である。
【図3】図3は、バイブレータ停止時における原料供給装置の概略構成図である。
【図4】図4は、バイブレータ作動時の原料供給装置の概略構成図である。
【図5】図5は、本発明の第2の実施形態に係る原料供給装置の概略構成図である。
【図6】図6は、本発明の第3の実施形態に係る原料供給装置の概略構成図である。
【図7】図7は、図6の方向Aから見たときのボールフィーダ本体の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態に係る原料供給装置及び蒸着装置の一例を、図面を参照しながら説明する。本発明の実施形態は以下の順で説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではない。
1.第1の実施形態
1−1 蒸着装置
1−2 原料供給装置の構成、及び動作
1−3 プラスチックレンズの製造方法
2.第2の実施形態:原料供給装置の他の例
3.第3の実施形態:原料供給装置の他の例
【0017】
〈1.第1の実施形〉
[1−1 蒸着装置]
図1に、本発明の第1の実施形態に係る蒸着装置11の概略構成を示す。
図1に示すように、本実施形態例の蒸着装置11は、曲面を有するレンズなどの被蒸着物14を複数支持するドーム12と、所望の蒸着材料である粉末原料28が上部に配置された蒸発皿70と、減圧手段16を有する真空チャンバー15と、原料供給装置1とを備える。ドーム12、蒸発皿70、原料供給装置1は、真空が維持された真空チャンバー15内に配置されている。
【0018】
ドーム12は、粉末原料28側に面して所定の曲率を有する被蒸着物支持面12aを有するドーム型の部材で構成されている。ドーム12の被蒸着物支持面12aには、レンズなどの被蒸着物14を支持するホルダー(図示せず)が複数個設けられている。また、ドーム12の頂上部には、円筒形状のドームヘッド10が取り付けられている。このドームヘッド10は、ドーム12を真空チャンバー15内に保持するために設けられているものである。そして、ドーム12は、ドームヘッド10により、ドーム12の中心軸周りに回転可能に構成されている。
【0019】
蒸発皿70は、例えば金属材料で構成されており、後述する原料供給装置1から粉末原料28が排出される位置に配置されている。蒸発皿70に配置された粉末原料28は、粉末の蒸着材料で構成されており、原料供給装置1から蒸発皿70に必要な量だけ供給される。蒸発皿70に供給された粉末原料28は蒸着源となり、ドーム12の被蒸着物支持面12aに備えられた被蒸着物14に向けて飛散するように構成されている。このとき、粉末原料28は、蒸発皿70の下方側に設置された電子ビーム(図示せず)の照射によって飛散する。
【0020】
原料供給装置1は、貯蔵タンク30と、ボールフィーダ40と、バイブレータ60とで構成されている。図2は、本実施形態例の蒸着装置11に用いられる原料供給装置1の構成を示す断面図である。また、図3は、バイブレータ停止時における原料供給装置1の概略構成図であり、図4は、バイブレータ作動時の原料供給装置1の概略構成図である。図3及び図4では、構成をわかりやすくするため、一部を断面図で示し、その他を斜視図で示している。図2〜図4を用いて、原料供給装置1と、その動作について説明する。
【0021】
[1−2 原料供給装置の構成、及び動作]
貯蔵タンク30は、容器部32とノズル部38とから構成されており、ステンレス等の金属材料で形成されている。容器部32は、円筒形の側壁部35と、側壁部35の一端に形成された上底31と、他端に形成されたノズル部本体36とで構成され、内部には、所望の量の粉末原料28が収容されている。上底31は、側壁部35の一端を塞ぐような平板状の部材で構成されており、一部に、粉末原料28を容器部32内部に供給するための開口34を有している。開口34は、粉末原料28の供給時以外は、蓋部33で封止されている。
【0022】
また、ノズル部本体36は、漏斗状の部材で構成されている。そして、このノズル部本体36は、ノズル部本体36の中央に形成された円筒形状のノズル部38が容器部32の外側に突出するように、側壁部35の他端に形成されている。本実施形態例では、容器部32とノズル部38とは一体に形成されており、所望の金属材料によって構成されている。
貯蔵タンク30では、必要に応じて、容器部32内部に収容された粉末原料28がノズル部38の先端から排出され、ボールフィーダ40に供給される。
【0023】
ボールフィーダ40は、ボールフィーダ本体50と、供給路51とで構成されている。ボールフィーダ本体50は、四角形状の底部53と、底部53を囲んで一方向に立設し、所定の位置に供給口48を有する側壁42とを有し、底部53に対向する側壁42側の上面が全面開口された開口部41とされた有底箱形状とされている。供給口48は、ボールフィーダ本体50の内部と供給路51とを連通するための開口であり、底部53の側壁42側の面(以下、底面54)から、側壁42の高さ分の開口とされている。すなわち、本実施形態例では、供給口48において、側壁42が形成されていない。ボールフィーダ本体50は、開口部41側が貯蔵タンク30のノズル部38に対向するように、後述するバイブレータ60上部に配置されている。
【0024】
供給路51は、平板状の底部56と、底部56の対向する二辺に立設された側壁52とで構成され、その底部56の側壁52側の面(以下、底面57)は、ボールフィーダ本体50の底面54と連続して形成されている。供給路51の底部56は、ボールフィーダ本体50の供給口48に接続された一端から、他端側に向けて重力方向に下がる傾斜を有して構成されている。また、供給路51の他端は、蒸発皿70の上部に位置するように配置される。本実施形態例では、ボールフィーダ本体50及び供給路51は一体に形成されており、ボールフィーダ40は、貯蔵タンク30と同様、ステンレス等の所望の金属材料で構成されている。
ボールフィーダ40では、ボールフィーダ本体50に貯蔵タンク30から粉末原料28が供給され、また、ボールフィーダ本体50に供給された粉末原料28を、供給路51を介して蒸発皿70に供給する。
【0025】
バイブレータ60は、上面が平坦面とされた円柱状の部材で構成され、必要に応じて、振動する構成とされている。バイブレータ60は、上面にボールフィーダ40を配置できる構成であればどのような形状でもよい。
【0026】
次に、ボールフィーダ40と貯蔵タンク30のノズル部38の位置関係、及び原料供給装置1の動作について説明する。前述したように、貯蔵タンク30のノズル部38は、ボールフィーダ本体50の開口部41側に配置される。図2に示すように、本実施形態例では、ノズル部38は、ボールフィーダ本体50の底面54から高さHの位置に調整され、この高さHは、底面54から立設する側壁42の高さよりも小さい値とされる。このように、ノズル部38は、ボールフィーダ本体50の開口部41から底面54側に少し入り込んだ位置とされることが好ましい。そして、ノズル部38の先端と、ボールフィーダ本体50の底面54と供給路51との境界55と、ボールフィーダ本体50の底面54が形成する角度θが45度以下となるように調整される。すなわち、ノズル部38先端位置と、ボールフィーダ本体50の底面54と供給路51の底面57との境界55までの距離Sが以下の式を満たすように調整される。
【0027】
【数1】

【0028】
このような位置関係が維持されることにより、バイブレータ60の振動が停止している状態では、図3に示すように、粉末原料28はボールフィーダ本体50の底面54上に維持される。そして、バイブレータ60が発振している状態においては、図4に示すように、供給路51に粉末原料28が誘導される。誘導された粉末原料28は、蒸発皿70に供給され、蒸着源となる。このとき、供給路51に誘導された量とほぼ同量の粉末原料28が貯蔵タンク30からボールフィーダ本体50に供給される。バイブレータ60を停止すると、貯蔵タンク30のノズル部38内は、ボールフィーダ本体50に供給された粉末原料28により閉塞するため、貯蔵タンク30からボールフィーダ本体50への粉末原料28の供給も停止する。
【0029】
ところで、図2に示す角度θを45度に調整することで、ノズル部からボールフィーダ本体50に供給される粉末原料28は、母線と底面の形成する角度が45度の円錐形状に蓄積される。角度θが45度よりも大きい角度である場合、ボールフィーダ本体50に盛られた粉末材料28の傾斜が急になり、バイブレータ60の停止時においても粉末原料28がボールフィーダ本体50から供給路51側に誘導される可能性がある。そうすると、蒸発皿70に過剰に粉末原料28が供給され、粉末原料28が溢れてしまう。このため、ノズル部38の先端と、ボールフィーダ本体50の底面54と供給路51の底面57との境界55と、ボールフィーダ本体50の底面54が形成する角度θを45度以下に調整するのが好ましい。
【0030】
また、ボールフィーダ本体50の底面54の縁部全てにおいて、ノズル部38先端からの距離Sが上述の[数1]を満たすように構成されることが好ましい。ボールフィーダ本体50の底面54全域に渡ってこのような条件が満たされることで、バイブレータ60の停止時では、粉末原料28の円錐形状が崩れず、粉末原料28が不測に供給路51に誘導されるのをより効果的に抑制することができる。
【0031】
また、ノズル部38は、ボールフィーダ本体50の底面54から高さHの位置に調整され、この高さHが、底面54から立設する側壁42の高さよりも小さい値とされることにより、ボールフィーダ本体50から粉末原料28が溢れるのを防ぐことができる。
【0032】
本実施形態例の原料供給装置1では、供給路51はボールフィーダ本体50の底面54からボールフィーダ本体50の外方向に延びるため、ボールフィーダ本体50の底に長時間粉末原料28が蓄積されることがない。このため、ボールフィーダ本体50内部で過剰に圧縮された状態の粉末原料28が残りにくい。これにより、粉末原料28がクロッド状に凝集するのを防ぐことができる。
【0033】
また、本実施形態例の原料供給装置1では、ボールフィーダ40は金属材料で構成されているため、ボールフィーダ40そのものが帯電しないことから、粉末原料28の帯電によるボールフィーダ40側面への付着などが生じない。また、帯電状態にある粉末原料28は、ボールフィーダ40に帯電電流がリークするため、粉末同士の電着現象も抑制される。また、ボールフィーダ本体50のノズル部38に対向する側の上面は、全域に渡って開口された開口部41とされており、また、その開口部41は、供給口48に連続している。供給口48とボールフィーダ本体50の開口部41との間に仕切りが生じないため、供給口48に向かう粉末原料28が不規則な動きをしにくくなる。
【0034】
さらに、供給口48から延びる供給路51には、両側に側壁52が形成されている。両側に側壁52を有することにより、バイブレータ60の振動の揺らぎで供給路51を移動する粉末原料28が進行方向に対して直交する方向にはみ出すことが抑制される。また、供給路51は、重力方向に下がるように傾斜して形成されているため、供給路51に粉末原料28が貯まることなく、バイブレータ60の振動でボールフィーダ本体50に蓄積された粉末原料28が容易に蒸発皿70まで誘導される。
【0035】
そして、本実施形態例の原料供給装置1によれば、ボールフィーダ40には、ボールフィーダ本体50の底面54とノズル部38との距離で決まる量の粉末原料28が随時供給されるので、粉末原料28がボールフィーダ本体50に堆積している時間を短時間とすることができる。このため、粉末原料28がボールフィーダ40上でクロッド状の塊になることが大幅に抑制される。また、供給路51の長さを調整することにより、貯蔵タンク30から蒸発皿70までの粉末原料28の移動経路を短くすることができるため、原料移動時の摩擦による静電気の発生を抑制することができる。このため、静電気により粉末原料が散乱する現象や、真空チャンバー15内に電着することが抑制される。
【0036】
[1−3 プラスチックレンズの製造方法]
次に、図1の蒸着装置11を用いたプラスチックレンズの製造方法について説明する。以下では、被蒸着物14であるプラスチックレンズの表面に、SiOからなる反射防止膜を形成する例を説明する。
【0037】
まず、ドーム12の被蒸着物支持面12aに被蒸着物14を支持させ、減圧手段16を用いて、真空チャンバー15内を真空に維持する。
次に、バイブレータ60を発振させることにより、ボールフィーダ40を振動させ、ボールフィーダ本体50の粉末原料28を供給路51を介して蒸発皿70に誘導させる。本実施形態例では、粉末原料28として、SiOの粉末を用いる。粉末原料28が蒸発皿70に誘導されることにより、蒸発皿70に誘導された量とほぼ同量の粉末原料28が、貯蔵タンク30からボールフィーダ本体50に供給される。
【0038】
そして、蒸発皿70に所望の量だけ粉末原料28が供給されたら、バイブレータ60の振動を停止する。これにより、蒸発皿70への粉末原料28の供給が停止し、ボールフィーダ本体50の底面54に貯まった粉末原料28により、貯蔵タンク30のノズル部38が閉塞されるため、貯蔵タンク30からのボールフィーダ本体50への粉末原料28の供給が停止する。
【0039】
次に、ドームヘッド10を回転駆動することにより、ドーム12を回転させながら、電子銃を用いて蒸発皿70上部の粉末原料28を飛散させる。これにより、ドーム12の被蒸着物支持面12aに支持された被蒸着物14であるプラスチックレンズ表面に、粉末原料28が被着する。そして、被蒸着物14の表面に、SiOからなる反射防止膜が生成される。
【0040】
本実施形態例では、蒸発皿70上の粉末原料28が足りなくなった場合、再度、バイブレータ60を発振することにより、粉末原料28を必要な分だけボールフィーダ本体50から蒸発皿70に供給する。また、蒸発皿70に十分な量の粉末原料28が供給された後はバイブレータ60を停止することにより、粉末原料28の供給を停止することができる。これにより、随時、必要な量の粉末原料28を蒸発皿70に供給することができるので、反射防止膜の厚みを一定に保つことができ、また、余分な粉末原料28が蒸着装置11内に散乱することを防ぐことができる。
【0041】
また、本実施形態例では、原料供給装置1において、粉末原料28がクロッド状の塊になる現象や供給過程で目詰まりを起こす現象が抑制されるため、蒸発皿70への粉末原料28の供給を滞り無く行うことができ、蒸着工程を円滑に行うことができる。これにより、被蒸着物14表面に形成される反射防止膜の光学特性を維持することができ、膜強度の製膜設計を精度良く行うことができる。本実施形態例では、SiOの粉末原料を用いて成膜する例としたが、本実施形態例の原料供給装置1及び蒸着装置11に用いることのできる粉末原料はSiOに限られるものではない。
【0042】
〈2.第2の実施形態〉
次に、本発明の第2の実施形態に係る原料供給装置について説明する。図5は、本実施形態例の原料供給装置101の断面を示す構成図である。本実施形態例の原料供給装置101も、第1の実施形態と同様、図1の蒸着装置11に用いることができるものである。本実施形態例の原料供給装置101は、ボールフィーダ40を設置する架台158と、ボールフィーダ40の周囲を包囲するガイド部180が構成されている点で、第1の実施形態に係る原料供給装置1と異なり、その他の構成は、第1の実施形態と同様である。図5において、図2に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0043】
架台158は、金属材料で構成されており、バイブレータ60の上面に設置されている。架台158は、バイブレータ60の上面から貯蔵タンク30が配置された方向に所定の高さまで延びる棒状の部材と、棒状の部材の端部に接合された、図示しない平板部材とで構成されており、その平板部材の上部にボールフィーダ40が設置されている。ボールフィーダ40が架台158に設置されることにより、ボールフィーダ40とバイブレータ60との距離が離れるので、バイブレータ60に粉末原料28が直接飛散することを抑制することができる。
【0044】
ガイド部180は、バイブレータ60及びボールフィーダ40を囲むように形成された円筒形状のガイド部本体181と、ガイド部本体181の外周に取り付けられた外側ノズル部185とで構成されている。ガイド部本体181は、ボールフィーダ40の供給路51をガイド部本体181の外側に露出させる窓部183を有している。ガイド部本体181の底部には、図示しない容器が設置されており、バイブレータ60の振動などにより飛散した粉末原料28が回収できるように構成されている。また、外側ノズル部185は、筒状の部材で構成されており、ガイド部本体181に形成された窓部183を覆うように、ガイド部本体181に取り付けられている。
【0045】
外側ノズル部185は、外側ノズル部本体184と箱部182とで構成されている。外側ノズル部本体184は、ガイド部本体181の窓部183と連通し、供給路51から誘導された粉末原料28を連続してガイド部180の外側に誘導可能な筒状とされ、筒内部がガイド部本体181の外側に配置された蒸発皿70に向けて、重力方向に傾斜して形成されている。外側ノズル部本体184は、ガイド部本体181の窓部183を介して供給路51と連通しており、ボールフィーダ40の供給路51に誘導された粉末原料28は、外側ノズル部本体184を通じて、ガイド部180の外側に設置された蒸発皿70に供給される。
【0046】
箱部182は、ガイド部本体181の外周面との間に、密閉された所望の空間を得るために構成されており、ガイド部本体181に形成された窓部183の上側の領域を覆うことのできる箱形状に形成されている。箱部182とガイド部本体181の外周面とで囲まれた空間は、ガイド部本体181の窓部183及び外側ノズル部本体184の内部と連通している。本実施形態例では、箱部182とガイド部本体181との間の空間は、供給路51から外側ノズル部185に排出された粉末原料28が、外側ノズル部本体184の内壁に衝突した場合に、衝突による粉末原料28の巻き上がりを緩衝する領域として機能する。
【0047】
そして、本実施形態例では、ガイド部180は金属材料で構成されている。このため、仮に粉末原料28が帯電していたとしても、外側ノズル部185により放電が完了する。外側ノズル部本体184から排出された粉末原料28は、帯電防止されているので、飛散することなく、速やかに蒸発皿70に供給される。
【0048】
本実施形態例の原料供給装置101も、第1の実施形態と同様、蒸着装置11の真空チャンバー15内に設置して用いる。
本実施形態例の原料供給装置101では、粉末原料28のクロッド化を抑制できることに加え、蒸発皿70へ粉末原料28を供給する際における蒸着装置11内へ粉末原料28の飛散を効果的に抑制することができる。
その他、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0049】
〈3.第3の実施形態〉
次に、本発明の第3の実施形態に係る原料供給装置について説明する。図6は、本実施形態例の原料供給装置201の概略構成図である。本実施形態例の原料供給装置201は、ボールフィーダの構成が、第1の実施形態に係る原料供給装置と異なり、その他の構成は、第1の実施形態の原料供給装置と同様の構成を有する。図6において、図2に対応する部分には、同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0050】
図6に示すように、本実施形態例の原料供給装置201のボールフィーダ240は、円筒形状のボールフィーダ本体244と、ボールフィーダ本体244の側面に接続された供給路51とで構成されている。ボールフィーダ本体44は、所定の領域に供給口250を有する円筒形状の側壁243と、側壁243の一端を封止する円盤状の底部(図示せず)と、側壁243の他端に設けられ、中央部に開口部241を有する円盤状の蓋部245とで構成されている。側壁243の他端に設けられた蓋部245に形成された開口部241は、ノズル部38が挿入可能なように、ノズル部38の外径よりも少し大きい径を有して形成されている。
供給口250は、側壁243の一部が、底部の蓋部245に面する側の面(以下、底面254)側から所定の高さまで開口されることにより形成されている。
【0051】
図7に、図6の原料供給装置201におけるボールフィーダ240を、方向Aから見たときの構成を示す。図7に示すように、本実施形態例の原料供給装置201では、蓋部245の開口部241からノズル部38がボールフィーダ本体244の内部に挿入されるように、貯蔵タンク30のノズル部38側にボールフィーダ240が配置される。本実施形態例においても、ノズル部38先端からボールフィーダ本体244と供給路551との境界までの距離と、底面254からノズル部38先端までの高さとの関係は、第1の実施形態と同様とすることが望ましい。
【0052】
本実施形態例では、ノズル部38がボールフィーダ本体244内部に挿入され、かつ、ボールフィーダ本体244に蓋部245が形成されている。このため、ボールフィーダ240に貯蔵タンク30から粉末原料28が供給されるときや、バイブレータ60の振動刺激により粉末原料が供給路51側に誘導されるとき、ボールフィーダ本体244の外部に粉末原料28が飛散しにくくなる。
【0053】
そして、本実施形態例では、ボールフィーダ本体244の供給口250の開口高さTが、ボールフィーダ本体244の底面254からノズル部38の先端までの高さHの0.7倍以上に形成されるのが好ましい。供給口250の開口高さTが、ボールフィーダ本体244の底面254からノズル部38の先端までの高さHに対して70%よりも小さい場合、バイブレータ60の振動刺激による排出のとき、粉末原料28が供給口250の上部に形成された側壁に接触し、蒸着源への供給量が不規則に変化するおそれがある。
【0054】
また、本実施形態例では、ボールフィーダ本体244が円筒形状とされているため、ボールフィーダ本体244内の粉末原料28の振動挙動が均質になり、粉末原料28は一定の振動挙動が示される。これにより、原料供給量の定量性を向上させることができる。その他、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0055】
以上、本発明について、第1〜第3の実施形態を示して詳細に示したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に記載した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0056】
例えば、上述した第1〜第3の実施形態では、原料供給装置は金属製であるとしたが、セラミックス製、ガラス製等、真空環境下において使用できる素材であれば各種使用することができる。また、ボールフィーダ本体から延びる供給路は、上面が開放された形状で示したが、上面が覆われる筒状で構成してもよい。また、第1〜第3の実施形態で示したボールフィーダ本体の形状は、円筒型又は矩形箱型としたが、これに限定されない。例えば、側壁が、底面側から開口部側にかけて広がるように形成された皿型形状であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、真空蒸着装置において、蒸着源として、粉末を使用する技術に対して有効である。
【符号の説明】
【0058】
1・・・原料供給装置、10・・・ドームヘッド、11・・・蒸着装置、12・・・ドーム、12a・・・被蒸着物支持面、14・・・被蒸着物、15・・・真空チャンバー、16・・・減圧手段、28・・・粉末原料、30・・・貯蔵タンク、31・・・上底、32・・・容器部、33・・・蓋部、34・・・開口、35・・・側壁部、36・・・ノズル部本体、38・・・ノズル部、40・・・ボールフィーダ、41・・・開口部、42・・・側壁、44・・・ボールフィーダ本体、48・・・供給口、50・・・ボールフィーダ本体、51・・・供給路、52・・・側壁、53・・・底部、54・・・底面、55・・・境界、56・・・底部、57・・・底面、60・・・バイブレータ、70・・・蒸発皿、101・・・原料供給装置、158・・・架台、180・・・ガイド部、181・・・ガイド部本体、182・・・箱部、183・・・窓部、184・・・外側ノズル部本体、185・・・外側ノズル部、201・・・原料供給装置、240・・・ボールフィーダ、241・・・開口部、243・・・側壁、244・・・ボールフィーダ本体、245・・・蓋部、250・・・供給口、254・・・底面




【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に粉末原料を収容可能な容器部と、前記容器部の一端に設けられ、前記粉末原料を外部に排出するノズル部とからなる貯蔵タンクと、
上部に前記ノズル部が挿入可能な開口部を有し、前記貯蔵タンクから排出された粉末原料が供給されるボールフィーダ本体と、前記ボールフィーダ本体の底面から前記ボールフィーダ本体の外方向に延びる供給路とからなるボールフィーダと、
上面に前記ボールフィーダ本体が設置され、必要に応じて振動するバイブレータとを備え、
前記バイブレータを発振したときに、前記ボールフィーダ本体の粉末原料が供給路から排出されると共に、前記貯蔵タンクから前記ボールフィーダ本体に粉末原料が供給され、
前記バイブレータの振動を停止したときに、前記ボールフィーダ本体の粉末原料が供給路から排出されるのが停止すると共に、前記貯蔵タンクから前記ボールフィーダ本体への粉末原料の供給が停止される
ことを特徴とする原料供給装置。
【請求項2】
前記ボールフィーダ本体の底面からノズル部の先端までの高さは、前記ノズル部の先端と、前記ボールフィーダ本体と前記供給路との境界と、前記ボールフィーダ本体の底面を結ぶ角度θが、45度以下となるように設定されている
請求項1に記載の原料供給装置。
【請求項3】
前記バイブレータ上部には、所望の高さの架台が設けられ、前記ボールフィーダ本体は架台上部に設置されている
請求項1又は2に記載の原料供給装置。
【請求項4】
前記バイブレータ及び前記ボールフィーダの周囲を囲むと共に、前記供給路の先端を外部に露出させる開口を有するガイド部本体と、前記ガイド部本体の開口と連通し、供給路から誘導された粉末原料を連続してガイド部本体の外側に誘導可能な筒状の外側ノズル部とからなるガイド部を備える
請求項3に記載の原料供給装置。
【請求項5】
被蒸着物支持面に、複数の被蒸着物を支持するドームと、
内部に粉末原料を収容可能な容器部と、容器部の一端に設けられ、前記粉末原料を外部に排出するノズル部とからなる貯蔵タンクと、上部に前記ノズル部が挿入可能な開口部を有し、前記貯蔵タンクから排出された粉末原料が供給されるボールフィーダ本体と、前記ボールフィーダ本体の底面から前記ボールフィーダ本体の外方向に延びる供給路とからなるボールフィーダと、上面に前記ボールフィーダ本体が設置され、必要に応じて振動するバイブレータとを備え、前記バイブレータを発振したときに、前記ボールフィーダ本体の粉末原料が供給路から排出されると共に、前記貯蔵タンクから前記ボールフィーダ本体に粉末原料が供給され、前記バイブレータの振動を停止したときに、前記ボールフィーダ本体の粉末原料が供給路から排出されるのが停止すると共に、前記貯蔵タンクから前記ボールフィーダ本体への粉末原料の供給が停止される原料供給装置と、
前記原料供給装置から前記粉末原料が供給される蒸発皿とを備え、
前記蒸発皿上の粉末原料が前記被蒸着物に飛散される
ことを特徴とする蒸着装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−97298(P2012−97298A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243982(P2010−243982)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(509333807)ホヤ レンズ タイランド リミテッド (25)
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
【Fターム(参考)】