説明

反射体およびその製造方法

【課題】従来、音源や光源と対向するように反射体を配置して音や光などの電磁波を反射し、指向性や光輝性を付与する反射体があるが、形状変化の大きな取付部に追従できずに、反射体と取付部との間に隙間が生じて取付強度が低下するなどの問題があった。
【解決手段】基材の表層部に音や電磁波を反射する反射層を設けた反射体において、前記基材は、弾性ゴムより構成すると共に、前記反射層は、複数の反射粒子を前記表層部内に偏在させる構成とし、好ましくは、弾性ゴムを熱硬化型シリコンゴム、反射粒子をAl又はAl合金とする。更に、このような反射体は、弾性ゴムの原料に加硫剤と平均粒子径が10〜300μmの反射粒子を加えたゴム組成物の加硫工程にて、該ゴム組成物を加硫して形成する反射体の最大厚がtmax(mm)の場合、加硫曲線から得られるゲルタイムTGを、0.1×tmax+0.3(分)以上に設定することで製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音や光などの電磁波を反射可能な反射体、特に、形状が変化する部位に追従可能な弾性を有する反射体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、超音波によるセンサ・通信機などの音響機器、照明機器、装飾具などにおいては、反射体を音源や光源と対向するように配置することにより、音や光などの電磁波を反射して指向性・光輝性などを付与する反射体として、金属製や樹脂製の一体物によって反射させる一体タイプ(例えば、特許文献1参照)、樹脂などの基材上に設けた金属製の薄い反射膜によって反射させる薄膜タイプ(例えば、特許文献2参照)、弾性ゴム製の基材上に散布した上で加圧して埋め込んだ金属などの粒子によって反射させる埋込タイプ(例えば、特許文献3参照)が公知となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−135212号公報
【特許文献2】特開2000−348514号公報
【特許文献3】特開2000−320122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、このような反射体はその用途が拡大するに伴い、反射体を取り付けるための取付部に、軟質ビニールなどのように変形容易な素材や、ヒンジなどによって折り畳み収納可能な構造なども使用されるようになってきている。
このような形状変化の大きな取付部(以下、「可変型取付部」とする。)に対して、前記一体タイプでは、反射体全体が金属や硬質の樹脂で構成されているが、変形能が小さいために反射体が取付部の形状変化に追従できずに反射体と取付部との間に隙間が生じて取付強度が低下し、この隙間が拡大すると反射体が取付部から脱落してしまう、という問題があった。特に、反射体全体が金属で構成されている場合には、反射体の重量が重くなって取り付け時の作業性が悪化したり、金・銀などのように高価な金属ではコストアップが避けられない、という問題があった。
そして、前記薄膜タイプでは、基材表面に真空蒸着などによって金属製の薄膜が形成されているが、該薄膜自体の変形能が小さいために、取付部の形状変化に伴って反射体が変形すると、その変形に薄膜が追従できずに破損したり、基材との界面で剥離して脱落する、という問題があった。
更に、前記埋込タイプでは、粒子が基材表面に露出して分布しているため、取付部の形状変化に追従して弾性ゴム製の基材が弾性変形すると、特に、粒子埋込側が凸状となるように基材が湾曲すると、粒子−基材間の結合力が不十分な場合には粒子が脱落する、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、前記可変型取付部に用いる反射体として、弾性ゴムの表層部の内部に反射粒子を偏在させた反射体が、取付性、取付作業性、製造コスト、耐破損性、耐脱落性などの観点から最適であることを見出した。
すなわち、請求項1においては、基材の表層部に音や電磁波を反射する反射層を設けた反射体において、前記基材は、弾性ゴムより構成すると共に、前記反射層は、複数の反射粒子を前記表層部内に偏在させて成るものである。
請求項2において、前記弾性ゴムは、熱硬化型シリコンゴムから成るものである。
請求項3において、前記反射粒子は、Al又はAl合金から成るものである。
請求項4において、前記反射層は、前記基材中に反射粒子が面積比で50%以上存在する層であって、表面からの厚さが0.1〜1mmのものである。
請求項5において、原料ゴムに、加硫剤と、平均粒子径10〜300μmで前記原料ゴム100重量部に対して1〜20重量部の反射粒子とを加えて成るゴム組成物の加硫工程において、該ゴム組成物を加硫して形成する反射体の最大厚がtmax(mm)の場合、加硫曲線から得られるゲルタイムを0.1×tmax+0.3(分)以上に設定する方法である。
請求項6において、前記弾性ゴムが、熱硬化型シリコンゴムから成る方法である。
請求項7において、前記反射粒子が、Al又はAl合金から成る方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、以上のように構成したので、以下に示す効果を奏する。
すなわち、請求項1により、弾性ゴムによって取付部の形状変化に容易に追従することができ、反射体と取付部との間に隙間が生じることなく取付部からの脱落を防止し、取付性の向上を図ることができる。更に、反射体を弾性ゴムと微細な反射粒子から構成することによって、反射体全体を金属で構成する場合よりも軽量化しコストダウンも図ることができ、反射体の取付作業性の向上や製造コストの低減を図ることができる。そして、この反射粒子は表層部内に偏在させるので、取付部の形状変化に伴って弾性ゴムが変形中であっても反射粒子を弾性ゴム内に封入状態で保持することができ、反射粒子の耐破損性や耐脱落性を向上することができるのである。
請求項2において、熱硬化型とすることで、ゴム組成やその熱硬化条件の調整により弾性ゴム内の反射粒子の分布を制御して、弾性ゴムの表層部に反射粒子を確実に偏在させることができる。しかも、シリコンゴムを使用することで、反射体に良好な耐熱性、耐寒性、耐候性が付与できると共に、配合設計を変えることで広範囲の硬度の弾性ゴムを得ることができ、反射体の用途拡大を更に進めることができる。
請求項3により、反射層を軽量化できると共に良好な反射特性も付与することができ、軽くて反射特性に優れた反射体を提供することができる。
請求項4により、反射層に十分な大きさの反射面積を付与して十分な反射効率が得られると共に、反射層全体での弾性の減少を防いで取付部の形状変化への追従性の低下を防止することができる。
請求項5により、加硫開始からゴム組成物の硬化が始まるまでの半流動状態にある時間であるゲルタイムを、反射体の厚みに応じて適正化することができ、反射粒子が表層部に偏在するのに必要な時間を確保することにより、ばらつきが小さくて十分な厚さを有し弾性にも富んだ反射層を確実に形成することができる。
請求項6において、熱硬化型とすることで、ゴム組成やその熱硬化条件の変更により弾性ゴム内の反射粒子の分布を制御することができ、弾性ゴムの表層部に反射粒子を確実に偏在させることができる。更に、シリコンゴムを使用することで、反射体に良好な耐熱性、耐寒性、耐候性が付与できると共に、配合設計を変えることで広範囲の硬度の弾性ゴムを得ることができ、反射体の用途拡大を更に進めることができる。
請求項7により、反射層を軽量化できると共に良好な反射特性も付与することができ、軽くて反射特性に優れた反射体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係わる反射体の製造工程を示すフローチャート図である。
【図2】加硫曲線を示す説明図である。
【図3】有効反射層厚に及ぼすゲルタイムの影響を示す説明図である。
【図4】最小ゲルタイムに及ぼす反射体の最大厚の影響を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本明細書では、硫黄以外の有機過酸化物や白金化合物などの熱硬化剤も「加硫剤」と称し、それによるゴムの熱硬化のことも「加硫」と称するものである。
まず、本発明に用いる弾性ゴムとしては、ポリイソプレンを主成分とするいわゆる天然ゴム、シリコンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴムのような合成ゴム、及びこれらを二種以上混合したものなど、適正な弾性を有するものであればよく、限定されるものではない。
【0009】
そして、このうち、シリコンゴムであって熱硬化型のものが、弾性ゴムとしては特に好ましい。熱硬化型とすることで、ゴム組成やその熱硬化条件、つまり加硫条件を調整することにより、後述するようにして弾性ゴム内の反射粒子の分布を制御し、弾性ゴムの表層部に反射粒子を適切に偏在できるからである。しかも、シリコンゴムを使用することで、反射体に対して良好な耐熱性、耐寒性、耐候性が付与できると共に、配合設計を変えることで広範囲の硬度の弾性ゴムを得ることができ、反射体の用途拡大を更に進めることができるからである。
【0010】
また、前記反射粒子の素材には、音や光などの電磁波に対する反射特性に優れたもの、例えば、Al、Ni、Au、Ag、Cu、Wなどの金属やその合金、炭化ケイ素のような無機化合物、酸化Alを主成分とするコランダムなどの鉱物などが挙げられるが、前述の如く、音や電磁波に対する反射特性に優れたものであればよく、限定されるものではない。
【0011】
このうちのAl又はAl合金が、反射粒子の素材としては特に好ましい。Al又はAl合金は、金属の中でも比重が小さく、音と電磁波のいずれに対しても反射特性が優れており、このような反射粒子が弾性ゴムの表層部に偏在することにより、反射層を軽量化できると共に良好な反射特性も付与することができ、軽くて反射特性に優れた反射体が提供できるからである。
【0012】
また、前記反射層による音や電磁波の反射特性に適した反射粒子の分布密度や反射層の厚さについて調査した結果、面積比で50%以上の反射粒子が存在する層(以下、「有効反射層」とする。)の表面からの厚さが0.1〜1mmであるのが特に好ましいことが判明した。
【0013】
反射粒子が面積比で50%未満では、入射した音や電磁波の大部分が、反射粒子間に充填された弾性ゴムに吸収されたり弾性ゴムを透過するため、反射粒子による十分な反射効率が得られないからである。なお、ここで反射粒子の面積比とは、垂直断面を、深さ毎に表面に平行に光学顕微鏡によって走査し、走査した視野内における反射粒子の占める割合として求めたものである。
【0014】
このような有効反射層による音や電磁波の反射には、最も外側に位置する最外反射粒子だけでなく、表面から見て該最外反射粒子と重なるようにして反射層の内部に存在する内部反射粒子も大きく寄与する。つまり、弾性ゴムが弾性変形、特に反射層側が凸状となるように湾曲して大きく伸び、最外反射粒子間の隙間が拡大した場合であっても、該隙間は表面から見ると前記内部反射粒子によって部分的に閉塞された状態となり、反射効率の低下を抑制できる。
【0015】
しかしながら、有効反射層の表面からの厚さが0.1mm未満では、前記内部反射粒子の個数が少ないために前述の閉塞効果が小さく、反射効率の低下が抑制できない。一方、反射層の表面からの厚さが1mmを越えると、反射効率の低下は抑制できるものの、反射層全体では弾性が小さくなり、取付部の形状変化への追従が困難となる。
【0016】
すなわち、前記反射層は、前記基材中に反射粒子が面積比で50%以上存在する層であって、表面からの厚さが0.1〜1mmであるので、反射層に十分な大きさの反射面積を付与して十分な反射効率が得られると共に、反射層全体での弾性の減少を防いで取付部の形状変化への追従性の低下を防止することができる。
【0017】
以上のように、基材の表層部に音や電磁波を反射する反射層を設けた反射体において、前記基材は、弾性ゴムより構成すると共に、前記反射層は、複数の反射粒子を前記表層部内に偏在させて成るので、弾性ゴムによって取付部の形状変化に容易に追従することができ、反射体と取付部との間に隙間が生じることなく取付部からの脱落を防止し、取付性の向上を図ることができる。更に、反射体を弾性ゴムと微細な反射粒子から構成することによって、反射体全体を金属で構成する場合よりも軽量化しコストダウンも図ることができ、反射体の取付作業性の向上や製造コストの低減を図ることができる。そして、この反射粒子は表層部内に偏在させるので、取付部の形状変化に伴って弾性ゴムが変形中であっても反射粒子を弾性ゴム内に封入状態で保持することができ、反射粒子の耐破損性や耐脱落性を向上することができるのである。
【0018】
次に、このような反射体の製造方法について、図1と図2により説明する。
図1に示すように、本発明に係わる弾性ゴムを基材とした反射体の製造方法は、該弾性ゴムの原料となる未加硫ゴム(以下、「原料ゴム」とする。)・加硫剤・反射粒子の種類と量を選択する配合工程(ステップS1)と、この配合に基づいて原料ゴム・加硫剤・反射粒子を混合・圧延・押出しなどしてゴム組成物を作り必要な形状に成形する加工工程(ステップS2)と、成形されたゴム組成物を金型に入れてプレス又は加硫缶などで加熱して反射体とする加硫工程(ステップS3)とから成るが、このうちの後で詳述する加硫工程の加硫条件を所定条件に設定することにより、本発明に係わる反射体を製造することができる。
【0019】
前記配合工程で選択する加硫剤としては、後の加硫工程において長いゲルタイムTGを確保できるものであれば特に限定されないが、後述する実施例に用いる熱硬化型シリコンゴムに対しては、優れた熱硬化特性の観点から、硫黄や白金化合物などではなく有機過酸化物が特に好ましい。ここで、ゲルタイムTGとは、熱硬化型の原料ゴムが加熱開始からゲル化するまで半流動状態に保たれている時間であり、具体的には、JIS K 6300−2に記載された測定方法に基づいて求めた図2に示す加硫曲線1において、加硫開始から、最大トルクNmaxに対して10%硬化したトルクN10に到達するまでの加硫時間を示す。
【0020】
前記加工工程は、混合工程(ステップS4)、圧延・押出し工程(ステップS5)、成形工程(ステップS6)の順に行われる。このうちの混合工程においては、オープンロールを使って、練りつぶして原料ゴムの分子を分断し加工しやすくする素練りを行い、引き続き、この素練りした原料ゴムに加硫剤・反射粒子を混合して機械的なせん断力を加えて原料ゴムに可塑性を与えると共に、加硫剤・反射粒子をゴム中に均一に分散させる混練りを行う。圧延・押出し工程においては、前記混合工程によって得たゴム組成物をオープンロールを使ってシート状とするシーティングなどを行う。成形工程においては、前記圧延・押出し工程によって得たシートを後工程の加硫工程に適した大きさや形状に裁断するなどの予備成形を行う。
【0021】
そして、本発明者が前記反射体を製造するのに適正な条件について詳細に検討した結果、例えば、前記加工工程において、原料ゴムに、加硫剤と、平均粒子径10〜300μmで前記原料ゴム100重量部に対して1〜20重量部の反射粒子とを加えてゴム組成物を作り、次の加硫工程において、反射体の最大厚がtmax(mm)の場合に、ゲルタイムTGを0.1×tmax+0.3(分)以上となるように設定して加硫することにより、本発明に係わる反射体、つまり、前記有効反射層を表面から0.1〜1mmの厚さで弾性ゴムの表層部に形成して成る反射体を、確実に製造できることが判明した。
【0022】
なお、これ以外に、反射粒子を弾性ゴムの表層部内に偏在させる方法としては、有機溶媒中に反射粒子を分散させた塗布液を弾性ゴムの表面に塗布した後、加熱乾燥処理を施すことによって反射層を形成する方法、あるいは、反射粒子を原料ゴムの表面に散布し、その上から同じ原料ゴムを薄く塗布して加硫することによって反射層を形成する方法も考えられる。しかし、前者の反射層は、弾性ゴムとの密着性が十分ではなく、前述した薄膜タイプにおける金属製の薄い反射膜の場合と同様、反射層が剥離して脱落しやすく、後者では、工程数が増える上に反射層の厚み調整が困難である。
【0023】
ここで、前記加硫工程における反射粒子の挙動は、明確ではないが次のように考えられる。すなわち、金型に入れられたゴム組成物は、前記ゲルタイムTGの間は半流動状態で流動しながら金型内の空間に充填されていくが、このゲルタイムTGが短くて硬化速度が速いと、流動中に高温の金型と接触するゴム組成物の表層部から内部に向けて高速で硬化が進行するため、ゴム組成物内に反射粒子が均一分散したままで硬化が完了し、反射粒子が内部から表層部まで移動して表層部に偏在することができない。一方、ゲルタイムTGが長くて硬化速度が遅いと、流動中にゴム組成物の表層部が高温の金型と接触しても、該表層部は即座には硬化が進まずに粘性が増加するだけであり、この高い粘性を持つ表層部内領域(以下、「高粘性域」とする。)に、長いゲルタイムTG中にゴム組成物の内部から表層部まで移動してきた反射粒子が巻き込まれるなどして捕らえられ、反射粒子がそこにそのまま偏在して反射層が形成されると考えられる。
【0024】
この反射粒子の大きさは、前述の如く、平均粒子径10〜300μmであるのが好ましい。平均粒子径が10μm未満では、反射粒子の移動が極めて容易となり、早期に粘性が増加した部分に反射粒子の大部分が集中して偏在するようになり、有効反射層の厚さ分布にばらつきが生じるからである。一方、平均粒子径が300μmを越えると、反射粒子が重く、表層部への移動に時間がかかりすぎるようになり、加硫完了までに反射粒子を表層部内に偏在させることができず、十分な厚さの有効反射層を確保できないからである。
【0025】
更に、反射粒子の配合量は、原料ゴム100重量部に対して1〜20重量部とするのが好ましい。反射粒子の配合量が1重量部未満では、表層部へ移動する反射粒子の量が不足し、十分な厚さの有効反射層を確保できないからである。一方、反射粒子の配合量が20重量部を越えると、有効反射層が厚くなりすぎて反射層全体での弾性が小さくなり、取付部の形状変化への追従が困難となるからである。
【0026】
更に、適正な厚さ、例えば、前述のような、表面からの厚さが0.1mmの有効反射層形成に必要なゲルタイムTGmin(以下、「最小ゲルタイム」とする。)について調査したところ、該最小ゲルタイムTGmin(分)は、反射体の最大厚tmax(mm)が厚くなるほど、すなわち内部から表層部への反射粒子の移動距離が長くなるほど長時間側に移行し、ゲルタイムTGは0.1×tmax+0.3(分)以上あるのが好ましいことが判明した。ゲルタイムTGが0.1×tmax+0.3(分)未満では、移動のための時間が短すぎ、加硫完了までに反射粒子を表層部内に偏在させることができず、十分な厚さの有効反射層を確保できないからである。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、該本発明は必ずしも本実施例に限定されるものではない。
【0028】
まず、所定のゴム組成物を前述した図1に示す製造工程に従って作製して加硫し、本発明に係わる反射体を製造する。具体的には、前記配合工程では、原料ゴムとしての熱硬化型シリコンゴム(商品名:KE951−U、メーカー:信越化学工業株式会社)の100重量部に対して、加硫剤としての有機過酸化物(商品名:C−8A、主成分:2.5ジメチル−2.5ビスヘキサン、メーカー:信越化学工業株式会社)を0.5重量部、反射粒子としてのAl粒子(商品名:噴霧アルミニウム粉、メーカー:ミナルコ株式会社)を5重量部配合し、その後の前記加工工程では、これら熱硬化型シリコンゴム・有機過酸化物・Al粒子を直径14インチのオープンロールを使って混合してゴム組成物を作成し、該ゴム組成物を、シーティング後に裁断機で所定の大きさに切り出してシートサンプルを作製する。
【0029】
次に、前記加硫工程で、前記シートサンプルを金型に入れた状態で加圧した後、加熱温度を種々変化させて加硫処理を施すことにより、最大厚tmaxが2mm、10mm、20mmの3種の反射体A、B、Cを作製する。そして、前述の如く、該反射体A、B、Cの垂直断面を光学顕微鏡で観察することにより、深さ毎の反射層の面積比を測定し、該面積比が50%以上の部分を有効反射層として測定した。なお、反射体A、B、Cのいずれも、前記シートサンプルからの加圧による厚み方向の変形率が略80%となるように、シートサンプルの厚みが調整されている。
【0030】
同時に、同じ前記シートサンプルからは、加硫試験機(機種名:キュラストメーターFII、メーカー:JSRトレーディング株式会社)を使用して、加熱温度を種々変化させた場合の図2に示す加硫曲線1を求める。そして、求めた加硫曲線1からゲルタイムTGを測定し、所定のゲルタイムTGを得るのに必要な加熱温度を求める。
【0031】
図3には、加熱温度を130〜210℃まで変えてゲルタイムTGを0.3〜3.5分まで変化させた場合に得られる、反射体A、B、Cにおける有効反射層厚の変化を、それぞれ曲線2、3、4として示す。
【0032】
いずれの曲線2、3、4においても、ゲルタイムTGが長くなるに従って有効反射層厚が増加し、その増加傾向は、曲線2、3、4の順に緩やかとなっている。そして、曲線2ではゲルタイムTGが0.5分以上、曲線3ではゲルタイムTGが1.3分以上、曲線4ではゲルタイムTGが2.3分以上になると、反射体A、B、Cのいずれも、有効反射層厚が0.1mm以上となって適正厚範囲に移行し、十分な反射効率を有する反射層が得られるのがわかる。
【0033】
なお、このうちの曲線2の比較データとして、プロット5・6・7・8を併記する。曲線2とプロット5・6を比較すると、反射粒子が平均粒子径が10μm未満で小さすぎると有効反射層厚のばらつきが大きくなる一方、反射粒子が平均粒子径が300μm越えで大きすぎると有効反射層が薄くなるのがわかる。
【0034】
更に、曲線2とプロット7・8を比較すると、反射粒子の配合量が1重量部未満で少なすぎると有効反射層が薄くなり、反射粒子の配合量が20重量部を越えて多すぎると有効反射層が厚くなりすぎることがわかる。
【0035】
図4には、前述した図3のデータを基に、反射体の最大厚tmaxを変化させた場合に、0.1mm以上の有効反射層厚が得られるゲルタイムTGの範囲を斜線部により示す。前記下限ゲルタイムTGminは、0.1×tmax+0.3の直線9によって示されるのがわかる。なお、ゲルタイムTGの上限値については、特に限定されるものではないが、生産性の観点から15分以下であるのが好ましい。
【0036】
すなわち、原料ゴムに、加硫剤と、平均粒子径10〜300μmで前記原料ゴム100重量部に対して1〜20重量部の反射粒子とを加えて成るゴム組成物の加硫工程において、該ゴム組成物を加硫して形成する反射体の最大厚がtmax(mm)の場合、加硫曲線1から得られるゲルタイムTGを0.1×tmax+0.3(分)以上に設定するので、加硫開始からゴム組成物の硬化が始まるまでの半流動状態にある時間であるゲルタイムTGを、反射体の厚みに応じて適正化することができ、反射粒子が表層部に偏在するのに必要な時間を確保することにより、ばらつきが小さくて十分な厚さを有し弾性にも富んだ反射層を確実に形成することができるのである。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、基材の表層部に音や光などの電磁波を反射する反射層を設けた、全ての反射体、及びその製造方法に適用することができる。なお、以上の説明では、電磁波としては光を例に説明しているが、光以外にX線、マイクロ波でもよく、本発明に係わる反射層によって反射可能な電磁波であれば特には限定されない。
【符号の説明】
【0038】
1 加硫曲線
TG ゲルタイム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表層部に音や電磁波を反射する反射層を設けた反射体において、前記基材は、弾性ゴムより構成すると共に、前記反射層は、複数の反射粒子を前記表層部内に偏在させて成ることを特徴とする反射体。
【請求項2】
前記弾性ゴムは、熱硬化型シリコンゴムから成ることを特徴とする請求項1に記載の反射体。
【請求項3】
前記反射粒子は、Al又はAl合金から成ることを特徴とする請求項1に記載の反射体。
【請求項4】
前記反射層は、前記基材中に反射粒子が面積比で50%以上存在する層であって、表面からの厚さが0.1〜1mmであることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか一項に記載の反射体。
【請求項5】
原料ゴムに、加硫剤と、平均粒子径10〜300μmで前記原料ゴム100重量部に対して1〜20重量部の反射粒子とを加えて成るゴム組成物の加硫工程において、該ゴム組成物を加硫して形成する反射体の最大厚がtmax(mm)の場合、加硫曲線から得られるゲルタイムを0.1×tmax+0.3(分)以上に設定することを特徴とする反射体の製造方法。
【請求項6】
前記弾性ゴムは、熱硬化型シリコンゴムから成ることを特徴とする請求項5に記載の反射体の製造方法。
【請求項7】
前記反射粒子は、Al又はAl合金から成ることを特徴とする請求項5に記載の反射体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−5665(P2011−5665A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148959(P2009−148959)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(501376866)
【Fターム(参考)】