説明

反射光学素子及びその生産方法

EUVリソグラフィー装置において反射性に対する金属汚染の負の効果を制限すべく、最上層(56)を備えた反射面(59)を有する極端紫外線及び軟X線の波長範囲のための反射光学素子(50)が提案され、反射光学素子(50)の最上層(56)は、炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最上層を備えた反射面を有する、極端紫外線及び軟X線の波長範囲のための反射光学素子に関する。本発明は、さらに、反射光学素子を備えたEUVリソグラフィー装置、反射光学素子を備えた特にEUVリソグラフィー装置のための照明システム、及び反射光学素子を備えた特にEUVリソグラフィー装置のための投影システムに関する。本発明は、さらに、最上層を備えた反射面を有する反射光学素子を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
EUVリソグラフィー装置では、例えばフォトマスク又は多層ミラーのような極端紫外線(EUV)又は軟X線(SX)の波長範囲(例えば約5nm〜20nmの間の波長)のための反射光学素子が半導体部品のリソグラフィーのために使用される。EUVリソグラフィー装置が通常複数の反射光学素子を具備するので、複数の反射光学素子は、十分高いレベルの全反射率を保証すべく可能な範囲で最も大きな反射率を有しなければならない。反射光学素子の反射率及び使用寿命は反射光学素子の光学的に使用される反射面の汚染によって減らされることがあり、反射面の汚染は、作動雰囲気における残留ガスと組み合わされた短波長放射のせいで生じる。複数の反射光学素子が通常EUVリソグラフィー装置内に次々に配置されるので、個別の各反射光学素子のミラー汚染であったとしても全反射率に対して比較的大きな影響を与える。
【0003】
汚染は例えば水分の残留物のせいで生じうる。この場合、水分子はEUV放射及びSX放射によって分裂され、結果として生じる酸素ラジカルは反射光学素子の光学活性表面を酸化させる。汚染の更なる源はポリマーであり、作動放射の影響下で反射光学素子上に炭素汚染を引き起こすポリマーは、例えばEUVリソグラフィー装置において使用される真空ポンプ又は(構成される半導体基板上に使用される)レジストの残留物に源を発しうる。これら種類の汚染に対処するための試みが、第一にEUVリソグラフィー装置内の残留ガス雰囲気のターゲット調整(targeted adjustment)を通して、第二に反射光学素子の光学活性表面上の保護層を通してなされる。
【0004】
酸化汚染は通常不可逆的であるが、特に炭素汚染は原子状水素を用いた処理によって除去されることができ、ここでは原子状水素は、揮発性化合物を生成すべく炭素残留物と反応する。原子状水素はEUVリソグラフィー装置内の作動放射の影響下で分子状水素の分裂を通して形成されうる。主に、イオンがEUV/SX放射によって残余のガス雰囲気において発生せしめられ、これらイオンは水素分子と相互作用して水素分子を原子状水素に分裂させる。しかしながら、特恵(preference)がクリーニングユニットの使用に与えられ、クリーニングユニットでは例えばグローフィラメント(glow filament)において分子状水素が原子状水素に分裂される。これらは、原子状水素の量が制御されることと、原子状水素が、クリーニングを必要とする反射光学素子の光学活性表面にできるだけ近接してEUVリソグラフィー装置内に導入されることとを可能にする。
【0005】
しかしながら、クリーニングユニットも特に金属のせいで汚染を引き起こすことがあり、金属は、主にクリーニングユニット自体に源を発し又はEUVリソグラフィー装置内の材料又は部品から原子状水素との化学反応中に特に揮発性金属水素化物(metal hydride)として溶解され、その後、反射光学素子上に金属の形態で堆積されることが分かってきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、例えば原子状水素を用いたクリーニングによってもたらされるような金属堆積による汚染を制御するための措置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、最上層を備えた反射面を有する、極端紫外線及び軟X線の波長範囲のための反射光学素子であって、最上層が、炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物を含む、反射光学素子によって実現される。
【0008】
これら種類の有機ケイ素化合物を含有する、EUV及びSXの波長範囲のための反射光学素子上の保護層が、驚くべきことに、原子状水素を用いたクリーニングに対する良好な耐性及び金属水素化物又は金属についての低い粘着率を呈することが分かってきた。ケイ素、二酸化ケイ素、又は炭素の最上層と同様に、これら保護層について、金属汚染は通常の表面分析法の精度の範囲内において検出されない。しかしながら、一般的に知られているように、ケイ素、二酸化ケイ素、又は炭素の最上層は原子状水素による非常に厳しい攻撃を受け、このことは、炭素汚染を除去するのに原子状水素を使用する理由の一つでもある。驚くべきことに、EUV波長又はSX波長のための反射光学素子と共に使用されることが多い金属又は金属合金から作られた最上層を用いると、炭素・ケイ素化合物及び/又はケイ素・酸素化合物を有する有機ケイ素化合物が、原子状水素を用いたクリーニングによって取るに足らない程度にのみ攻撃されることが明らかになってきた。
【0009】
炭素・ケイ素化合物及び/又はケイ素・酸素化合物を有する有機ケイ素化合物の場合、これらは、反射光学素子の表面上に凝集層(coherent layer)を形成することができる限り、例えば任意の有機ケイ素化合物又はシロキサン及び/若しくはポリシロキサンを含みうる。好ましくは、ケイ素、酸素、及び炭化水素又は水素から作られる化合物が含まれる。
【0010】
本目的は、さらに、上述されたような反射光学素子を有する、EUVリソグラフィー装置、照明システム及び投影システム、並びに特にEUVリソグラフィー装置のための照明システム及び投影システムによって実現される。
【0011】
加えて、本目的は、ここで記述されるような、反射面を有する反射光学素子をチャンバー内に導入するステップと、炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物を含有するガスを導入するステップと、反射面に電磁放射及び/又は荷電粒子を衝突させるステップとを含む、反射光学素子を生産する方法によって実現される。
【0012】
有利な実施形態が従属項において見出される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、照明システム及び投影システムを備えたEUVリソグラフィー装置の概略的な実施形態を示す。
【図2a】図2aは、反射光学素子の一つの実施形態の概略図を示す。
【図2b】図2bは、反射光学素子の一つの実施形態の概略図を示す。
【図2c】図2cは、反射光学素子の一つの実施形態の概略図を示す。
【図3a】図3aは、反射光学素子を生産するための方法の一つの実施形態についてのフローチャートを示す。
【図3b】図3bは、反射光学素子を生産するための方法の一つの実施形態についてのフローチャートを示す。
【図4】図4は、炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物を含有する保護コーティングにおける原子状水素の影響を描写するグラフを示す。
【図5a】図5aは、炭素汚染の関数として、種々の材料の最上層を備えた反射光学素子について、13.5nmの波長についての反射率曲線を示す。
【図5b】図5bは、炭素汚染の関数として、種々の材料の最上層を備えた反射光学素子について、13.5nmの波長についての反射率曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、好ましい模範的な実施形態を参照してより詳細に説明される。図1はEUVリソグラフィー装置10の例を概略的に示す。必須の構成要素は、ビーム成形システム11、照明システム14、フォトマスク17、及び投影システム20である。EUVリソグラフィー装置10は、EUV放射又はSX放射ができるだけ少なく内部で吸収されるように、真空条件の下で作動せしめられる。
【0015】
例として、プラズマ源又はシンクロトロンが放射源12として作用することができる。おおよそ5nm〜20nmの波長範囲について、出射放射が最初にコリメーター13bにおいて集束される。加えて、所望の作動波長が、入射角を変化させることによってモノクロメーター13aの補助でフィルタリングされる。前述された波長範囲において、コリメーター13b及びモノクロメーター13aは通常反射光学素子として具現化される。コリメーターは、集束効果又はコリメート効果を実現すべく、シェル形状の態様(shell-shaped fashion)において具現化される反射光学素子であることが多い。放射は凹面に反射され、ここで、できるだけ広い波長範囲が反射されるべきなので、多層システムは、凹面における反射を実現するのに使用されないことが多い。反射による狭い波長域のフィルタリングが格子構造又は多層システムの補助でモノクロメーターにおいて起こることが多い。
【0016】
ビーム成形システム11において波長及び空間分布に関して調整された作動ビームは、その後、照明システム14内に導入される。図1において示される例では、照明システム14は二つのミラー15、16を有する。ミラー15、16はビームをフォトマスク17上に向け、フォトマスク17は、ウエハー21上に画像形成されることが予定されている構造を示す。フォトマスク17は同様にEUV波長範囲及びSX波長範囲のための反射光学素子であり、該反射光学素子は生産プロセスに依存して取り替えられる。投影システム20の補助で、フォトマスク17から反射されたビームはウエハー21上に投影され、このことによってフォトマスクの構造は前記ウエハー上に画像形成される。示される例では、投影システム20は二つのミラー18、19を有する。投影システム20及び照明システム14の両方が同様にたった一つ若しくは三つ、四つ、又は五つ以上のミラーをそれぞれ有しうることが指摘されるべきである。
【0017】
ここで示される例では、汚染のビーム経路において照明システム14の第1ミラー15又は投影システム20の第1ミラー18をクリーニングすべく、クリーニングヘッド22、23が提供される。各々の場合、最も大きなビーム負荷がビーム経路におけるモジュールの第1ミラーに適用されるので、特に炭素汚染に関して言えば最も大きな汚染がそこにおいて予想されうる。クリーニングヘッドが、他の反射光学素子、例えば全てのミラーにおいても提供されうることは言うまでもない。ここで示される例では、クリーニングヘッド22、23は、白熱光を発するグローフィラメントの高温によって分子状水素が原子状水素に分裂されるように、分子状水素と、例えば分子状水素が流れるグローフィラメントとについての導管(intake)を呈する。このことによって生成される原子状水素は、ミラー15、18上の炭素汚染を揮発性炭化水素化合物に変換するように、クリーニングされるべきミラー15、18に近接してEUVリソグラフィー装置10の残留ガス雰囲気内に、すなわち好ましくはクリーニングされるべきミラーのミラー面の直ぐ上に放出される。原子状水素は、EUVリソグラフィー装置の作動中に使用されるEUV放射及びSX放射の相互作用、又はそれによって発生せしめられた、残留ガス雰囲気内に含有された分子状水素を有するイオンによって発達することもできる。
【0018】
クリーニングヘッド22、23が作動せしめられると、亜鉛、マンガン、銀、鉛、ナトリウム、又はスズのような金属が、残留ガス雰囲気内に漏れ、又は結果として生じる水素ラジカルによって又はEUVリソグラフィー装置10内の構成要素、例えばクリーニングヘッド22、23のハウジング、ミラーホルダー、ミラー基材、コンタクト等からの他の高エネルギー粒子によってスパッタされうる。これらは、かなりの程度まで、化学プロセスによる現存の原子状水素によって例えば合成物(hybrid)の形態で溶解されうる。したがって、例えば、亜鉛又はマンガンはクリーニングヘッド自体に源を発することが多く、一方、鉛又は銀は例えば半田接合のようなコンタクトから生じうる。ナトリウム及びスズは特にプラズマ放射源から生じうる。金属は、次いで反射光学素子の光学活性表面上に堆積されることがあり、このことによって大きさに関して反射光学素子の反射率に影響し且つ照射領域に亘る均一性に影響し、このことは画像欠陥を引き起こす。
【0019】
斯かる金属汚染の反射率に対する負の効果を制限すべく、反射光学素子であって、反射面の最上層が、炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物を呈する、反射光学素子がEUVリソグラフィー装置10において使用される。図1において示される例では、この反射光学素子は、特にクリーニングヘッド22、23の近接部からの危険にさらされているミラー16、18である。必要であれば、他のミラー又は全てのミラー及び他の反射素子、例えば可能性としてフォトマスク17、コリメーター13b、又はモノクロメーター13aもこの態様で備えられてもよい。
【0020】
図2a、図2bは斯かる反射光学素子50の模範的な実施形態を概略的に示す。示される例では、反射光学素子は多層システム51に基づく。これは、作動波長において屈折率のより高い実部を有する材料(スペーサー55とも称される)と、作動波長において屈折率のより低い実部を有する材料(吸収体54とも称される)との交互層を含み、吸収体/スペーサーの対はスタック(stack)53を形成する。これはある程度結晶のように振る舞い、ここで、吸収体層は、ブラッグ反射が起こる格子面に対応する。個々の層54、55の厚さ及び繰り返しのスタック53の厚さは、多層システム51全体に亘って一定であり、又は実現されるべき反射プロファイルに依存して変化してもよい。また、反射プロファイルは、それぞれの作動波長における可能な最大反射率を増加させるべく、吸収体54及びスペーサー55から成る基本構造に多かれ少なかれ追加の吸収材料を加えることによってターゲット態様(targeted manner)において影響されてもよい。加えて、多くのスタックでは吸収体材料及び/又はスペーサー材料は互いに交換されることができ、又はスタックは、一つよりも多い吸収体材料及び/又はスペーサー材料から構築されてもよい。吸収体材料及びスペーサー材料は、反射率を最適化すべく全てのスタックに亘って一定の厚さ又は変化する厚さを呈しうる。加えて、中間層が例えば拡散障壁として提供されてもよい。
【0021】
特に好ましい実施形態では、反射光学素子50は、極端紫外線及び軟X線の波長範囲の波長において屈折率の異なる実部を有する少なくとも二つの材料の交互層54、55に基づく多層システム51を含む反射面59を有し、前記多層システム51は、極端紫外線及び軟X線の波長範囲の波長において良好な反射率を有するように設計される。反射光学素子50が特に極端紫外線及び軟X線波長範囲におけるリソグラフィーのためにこの波長において作動されることは有利である。
【0022】
多層システム51は基材52上に適用されて反射面59を生成する。好ましくは、低い熱膨張係数を有する材料が基材材料として選択される。例えばガラスセラミックスが適切である。しかしながら、ガラスセラミックスは、EUV放射又はSX放射の下、又は特に光学表面をクリーニングするのに使用される原子状水素の影響の下、同様に金属についての汚染源となりうる。
【0023】
反射面59上の最上層は、炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物を有し、保護層56として適用される。
【0024】
炭素・ケイ素化合物及び/又はケイ素・酸素化合物を有する有機ケイ素化合物は、反射光学素子の表面上に凝集層を形成することができる限り、例えば任意の有機ケイ素化合物でありうる。これらは、好ましくは、ケイ素、酸素、及び炭化水素又は水素から成る化合物である。シロキサン特にポリシロキサンが特に好ましく、ここでは長鎖重合性シロキサン及び/又は短鎖重合性シロキサン並びにシロキサン単量体が反射光学素子において互いに並んで存在しうる。
【0025】
シロキサンの基本構造はケイ素・酸素結合に基づく。ケイ素原子が一個〜四個の間の酸素原子と結合されうる。したがって、シロキサンユニットは、単官能基、二官能基、三官能基、又は四官能基と称される。ケイ素は、酸素結合で飽和されていない価電子を介して炭化水素残留物又は水素原子と結合される。アルキル残留物又はフェニル残留物が好ましい。
【0026】
重合の場合、線状ポリシロキサンが二官能性シロキサンユニット及び単官能性シロキサンユニットの鎖から端ユニット(end unit)として形成されうる。
【0027】
環状ポリシロキサンが二官能性シロキサンユニットの連鎖から形成される。分岐ポリシロキサンが形成されるとき、三官能性シロキサンユニット又は四官能性シロキサンユニットが分岐点として使用される。線状ポリシロキサンユニット又は環状ポリシロキサンユニットが二次元又は三次元においてかなり多数の三官能性シロキサンユニット又は四官能性シロキサンユニットを介して接続される場合、これらは架橋ポリシロキサンと称される。
【0028】
四官能性シロキサンユニットのみに基づく構造は、従来の二酸化ケイ素であるだろうから、本開示のフレームワークの範囲内には含まれないことに留意すべきである。
【0029】
最上層56は好ましくは反射光学素子50の生産中に適用される。このことは、表面の不均一性を回避すべく、最上層56が反射面59全体又は少なくとも使用中に照射される反射面59の領域を覆うことを容易に確実なものとする。さらに、最上層56の与えられる厚さは、最上層56が、反射率に過剰に影響することなく保護効果を発揮するように、より容易に正確に設定されることができる。
【0030】
また、反射光学素子が、EUVリソグラフィー装置において、特にその照明システム又は投影システムにおいて、炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物をその場に(in-situ)備えた最上層が、既に取り入れられた反射光学素子の表面上に有機ケイ素化合物から形成されるように有機ケイ素化合物の導入及び照射によって反射光学素子に備えられることは有利である。この態様では、既存のシステム又は既存のEUVリソグラフィー装置も改良されうる。
【0031】
図2aは、炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物の最上層が、多層システム51の最終層、この例ではスペーサー層55の直ぐ上に適用される実施形態を示す。同様に、多層システム51における最終層が吸収体層54であってもよい。
【0032】
最上層59と、それよりも下の多層システム51の最終層との間の境界面において拡散反応又は化学反応が起きる多くの材料の組合せが見出されうる。前記拡散反応又は化学反応は、反射率が悪化するように、特に反射光学素子50の寿命に亘って反射率が減少するように、多層システムのこの領域において構造及び厚さを変化させる。これに対抗すべく、追加の層57が、図2bにおいて示される実施形態において、化学反応に対する拡散障壁及び/又は保護として提供される。ちなみに、斯かる障壁層は、反射率が構造的な変化のせいで時間と共に減少しないように、多層システム51において個々の層間又はスタック間にも提供されうる。
【0033】
図2cにおいて示される変形例は、炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物の最上層と、多層システム51との間に中間層58が提供される実施形態であり、該中間層は、保護層として、多層に基づく反射光学素子のために通常使用される材料から作られる。これによって反射光学素子50の寿命は更に増大されうる。
【0034】
中間層58についての材料及び厚さの適切な選択によって、反射率を僅かに増加させることもできる。示される例では、拡散反応及び/又は化学反応を妨げるべく中間層58と多層システム51との間に追加の障壁層57が存在し、反射率は同様に障壁層57の厚さによって影響されうる。
【0035】
最上層56について、約0.1nm〜2.5nmの範囲の厚さが好ましい。分子単層にほぼ相当する厚さが特に好ましい。
【0036】
本明細書において記述された、EUVリソグラフィー装置又はEUVリソグラフィー装置の照明システム若しくは投影システムにおける反射光学素子の生産が図3a、図3bに関してより詳細に記述され、図3a、図3bは、このタイプの反射光学素子を生産するための方法の二つの実施形態を概略的に描写する。
【0037】
第1ステップ101、111では、最初に、反射面を備えた反射光学素子がチャンバー内に導入される。チャンバーは、図3aにおいて示される例ではコーティングチャンバーであり、図3bにおいて示される例ではEUVリソグラフィー装置の部分であるチャンバーである。図3bに係る例における反射光学素子は、好ましくはその後の作動において使用される場所の直ぐ近くに収められる。両方の例において、反射光学素子には、前述されたように反射面、例えば多層システムが提供されうる。本明細書において前述されたように、特に、EUVリソグラフィー装置において既に存在している反射光学素子は、改良されて最上層が組み込まれうる。図3aにおいて示される例の場合、代替案として、基材がコーティングチャンバー内に導入され、最初に前記基材上に反射面がコーティングによって作られ、その後、反射面には保護層として最上層が提供され、最上層は、炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物を有する。
【0038】
この種類の最上層を生産すべく、更なるステップ103、113では、炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物を含有するガスがそれぞれのチャンバー内に導入される。この例では、ヘキサメチルジシロキサンがこのために選択された。この気体のシロキサンガスは、容易且つ安価に得られることができ、さらに人間への健康リスクも有しない。しかしながら、炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する任意の他の多くのシロキサン含有ガス又は有機物質を有するガスが使用されてもよい。斯かる物質を固体又は液体の形態でそれぞれのチャンバー内に導入して、これらを一旦そこで気体状態に変換することも可能である。
【0039】
これら物質は反射面の表面上にそれ自体堆積しうる。電磁放射及び/又は荷電粒子を反射面に衝突させることによる追加のエネルギーの適用を通して、これら物質はより小さなフラグメント(fragment)に変換され、又はラジカルが形成されることがあり、このことは、更なる反応を通したフラグメントの長鎖ユニット内への重合及び/又は物質の長鎖ユニット内への重合を可能とするので、できるだけ凝集した層が、炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を呈する様々な物質の集合体から生成されることが想定される。開始物質又は開始物質の混合物及びエネルギーの適用に依存して、層は組成が異なるであろう。
【0040】
開始物質としてのヘキサメチルジシロキサンと、例えば電子ビームを用いた反射面の走査(ステップ105)又はEUV放射又はSX放射を用いた照射(ステップ115)によるエネルギーの適用とを用いてここで示される例では、基本構造[R2SiO]nを有する種々のポリシロキサンが最上層において存在していたことがTOF−SIMS分析によって判定され、ここで、残留物Rは主にメチル基、エチル基、及びフェニル基であり、nは1以上の自然数である。ポリシロキサンはケイ素・炭素結合及びケイ素・酸素結合の両方を呈する。さらに、基本構造H2n+1Sin3n+1(nは1以上の自然数)を有する様々なケイ酸が検出され、このため、様々なケイ酸はケイ素・酸素結合を呈し、ここで酸素は部分的に水酸基に属する。
【0041】
エネルギーの適用(ステップ105、115)に関して、電子ビームの代わりにイオンビームが使用されてもよいことが指摘されるべきである。荷電粒子を用いた放射は、適用されるビームの位置及び寸法並びにそのエネルギーに関して非常に正確に制御されることができるという利点を有する。電磁放射に立ち戻ることは、特にEUVリソグラフィー装置において既に取り入れられた反射光学素子の場合、追加の粒子源のための部屋がないことが多いので、有利である。好ましくはEUV放射又はSX放射が使用され、ここでは、必須ではないが作動波長が照射される必要がある。したがって、所定の状況下ではUV放射を使用して最上層を十分形成することができる場合がある。その作動位置に収められた反射光学素子が通常ビーム経路に位置するので、適用される放射が、本明細書において記述されたような最上層を受容すべき反射面に影響を及ぼし、且つ、ケイ素・炭素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する物質の存在下においてこの最上層の形成を引き起こすことが保証される。代替的に、場合により生じる散乱照射がこのために十分である場合がある。導入された対応する固体物質又は液体物質が、散乱放射を通してガス状態に変換され、又はラジカルの形態及び/又はフラグメントにおいて既に存在しているガス状態に変換されてもよい。
【0042】
炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物の最上層を備えた反射光学素子が金属汚染の発生について試験された。図3aにおいて示された例に従って生産されたサンプルが代表して調査された。反射光学素子は個々に真空チャンバー内に導入された。ルテニウムがコーティングされた水晶板が参照として並んで配置された。一般的に知られているように、ルテニウムは、炭素汚染をクリーニングするのに使用される原子状水素に対する良好な耐性を呈するので、従来の反射光学素子において最上層として使用されることが多い。金属源として、3mmの直径を有するキャビティ(cavity)が反射光学素子から短い距離においてスズで満たされた。12回のクリーニングサイクルが0.02ミリバールの水素の部分圧力において10分間隔に亘って行われた。おおよそ2000℃の温度に加熱されたフィラメントが、原子状水素を発生させるのに使用された。12回のクリーニングサイクルの完了時に、反射光学素子の表面と、ルテニウムの最上層を備えた比較サンプルの表面とがX線光電子分光法(XPS)によって分析された。7〜8%程度の顕著なスズ汚染が比較サンプル上に検出されたが、炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物を備えた反射光学素子上におけるあらゆる可能なスズ汚染は検出閾値よりも小さかった。炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物の最上層は(炭素又は酸化ケイ素の最上層と同程度である)金属汚染に対する良好な耐性をもたらし、この最上層ではとりわけ合成物の解離が抑制されることが想定される。
【0043】
しかしながら、炭素又は二酸化ケイ素の最上層の欠点は、これらが原子状水素による非常に厳しい攻撃を受けがちであるということであり、こういう訳で原子状水素は、反射光学素子の反射面から炭素汚染を除去するのに使用される。そこで、炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物の最上層を備えた反射光学素子が、原子状水素に対するこれらの耐性についても調査された。要約された結果が図4において示される。
【0044】
最初に、上述されたように、厚さが25nmよりも僅かに下の多種多様なポリシロキサンの最上層を備えたサンプルがコーティングチャンバー内において生産された。初期状態は図4における文字Aに対応する。このサンプルは最初に各15分のクリーニングサイクルを二回受けた(文字B)。原子状水素を発生すべく、おおよそ2000℃の温度のグローフィラメントが0.02ミリバールの部分的な水素圧力において使用された。最上層の厚さが結果として24.86nmから24.79nmへ微かに降下した。15分のクリーニングサイクルがその後四回実行され(文字C)、このことによって21.99nmへのより明らかな減少が引き起こされた。サンプルは最後に15分のクリーニングサイクルを11回連続して受け(文字D)、このことは、驚くべきことに22.86nmへの最上層の厚みの僅かな再上昇さえも引き起こした。これら結果が、同じ試験条件で実現され且つ同じ数のクリーニングサイクルで3nm、6nm、及び16.5nmだけ層を減少させるであろう0.1nm/分の炭素についてのクリーニング率と比較される場合、驚くべきことに、原子状水素を用いたクリーニングについての本発明における反射光学素子の良好な耐性が明らかになる。
【0045】
EUV波長範囲又はSX波長範囲について、反射光学素子のための特定の材料の最上層の有用性を判定する更なる基準が、この種類の最上層で実現される作動波長における最大反射率である。このため、反射率は結果としてより綿密に調査された。
【0046】
サンプルは、反射面を生成すべくスペーサーとしてのケイ素及び吸収体としてのモリブデンに基づく多層システムが全体に提供される反射光学素子である。吸収体層、スペーサー層、各場合における最上層、及び可能性として中間層の厚さが、各場合における最大反射率が13.5nm付近にあるように、示される例では選択される。
【0047】
図5a、図5bは、炭素汚染の関数として、炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物を備えた最上カバー層を有する反射光学素子の様々な例について約13.5nmの波長における反射率曲線を示す。炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物を備えた反射光学素子の例として、ここでの結果は、最上層が種々のポリシロキサンといくつかのケイ酸との混合物のおおよそ1.5nm厚の層であるサンプルについてである。比較として、従来のルテニウムのコーティング層を備えた反射光学素子の結果も示され、前記コーティング層もおおよそ1.5nm厚である。
【0048】
異なる二つの反射光学素子について測定された反射率曲線が図5aにおいて比較される。一方では、前述されたポリシロキサン含有保護層が多層システムのモリブデン終端層上に配設される(黒線)。他方の比較要素は多層システムのモリブデンの終端層上にルテニウムの保護層を有する(灰色線)。汚染されていない反射光学素子の場合、言い換えれば0nmの炭素汚染の厚さの場合、ポリシロキサン含有保護層を備えた反射光学素子の最大反射率は従来の比較要素の最大反射率よりも著しく低い。これは2.5%よりも僅かに下だけ低い。炭素汚染が増加した場合でさえ、ポリシロキサン保護層を備えた反射光学素子の反射率は、ルテニウム保護層を備えた反射光学素子の最大反射率よりも著しく小さいままである。
【0049】
異なる四つの反射光学素子について測定された反射率曲線が図5bにおいて比較される。ポリシロキサン含有最上層がケイ素終端層の直ぐ上に適用され(黒の太線)、又は窒化ケイ素がケイ素層とポリシロキサン含有層との間に配置され(暗い灰色の太線)、又は窒化ケイ素層及びルテニウム層が配置される(明るい灰色の太線)。窒化ケイ素及びルテニウムの両方は、エネルギーの適用及びクリーニングガスに関して、これらよりも下の多層システムの材料、特にケイ素よりも不活性であるので、反射面は更に保護される。この例における窒化ケイ素層(おおよそ1.5nm厚)は多層システムから真空への遷移における反射電磁放射についての位相調整としても使用される。窒化ケイ素層はケイ素とルテニウムとの間の拡散障壁としても作用する。比較目的のために、多層システムのケイ素層上にルテニウムの最上層及び窒化ケイ素の中間層を備えた反射光学素子が調査される(細線)。
【0050】
炭素汚染がない状態では、ケイ素上に直ぐにポリシロキサンを備えた素子が従来の反射光学素子と同一の最大反射率を呈する。炭素汚染の高い厚さでは、例えば約60〜70nmの汚染厚では、従来の反射光学素子よりも更に高い最大反射率が実現される。低い最大反射率では、最上層を有しない反射光学素子の最大反射率からの偏差は2%よりも大きくなることはない。多層システムの設計について慣例の最適化手法によって、特に層厚の選択、炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物を備えた最上層の厚さの選択、及び可能性として中間層の導入によって、示された汚染分布に亘って最大反射率の減少が1%未満にまで減らされうる。
【0051】
反射光学素子が多層システムのケイ素層とポリシロキサン含有最上層との間に窒化ケイ素の中間層を有する場合、炭素汚染無しの状態の最大反射率は参照要素についての最大反射率よりも低い。しかしながら、偏差は1%未満である。炭素汚染が上昇すると、偏差はあちこちで2%よりも僅かに下にまで増大しうる。炭素汚染を有しない状態及び炭素汚染が上昇した状態の最大反射率の改善は更にルテニウムの中間層を導入することによって実現されうる。このことは、ポリシロキサン含有最上層を有しない反射光学素子と比較されたポリシロキサン含有最上層を有する反射光学素子の最大反射率の減少が炭素汚染の全分布に亘って2%よりもはるかに下にまで減少されうることを意味する。慣習の最適化手法を用いると、炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物を備えた最上層の真下に中間層を備えた反射光学素子の場合でさえも、全分布に亘って1%未満の最大反射率の減少が実現されうる。
【0052】
反射光学素子であって、その反射面上に炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物を備えた最上層を有する反射光学素子は、原子状水素を用いたクリーニング及び金属汚染に対する高い耐性によって特徴付けられ、このことによって、従来の反射光学素子と同程度の最大反射率を容易にする。このことによって、これら反射光学素子は、EUV放射又はSX放射を用いるEUVリソグラフィー装置における使用、特にEUVリソグラフィー装置の照明システム及び投影システムにおける使用に特に適するようになる。
【符号の説明】
【0053】
10 EUVリソグラフィー装置
11 ビーム成形システム
12 EUV放射源
13a モノクロメーター
13b コリメーター
14 照明システム
15 第1ミラー
16 第2ミラー
17 マスク
18 第3ミラー
19 第4ミラー
20 投影システム
21 ウエハー
22 クリーニングヘッド
23 クリーニングヘッド
50 反射光学素子
51 多層システム
52 基材
53 層の対
54 吸収体
55 スペーサー
56 保護層
57 障壁層
58 中間層
59 反射面
101−105 プロセスステップ
111−115 プロセスステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最上層を備えた反射面を有する、極端紫外線及び軟X線の波長範囲のための反射光学素子であって、前記最上層(56)が、炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物を含む、反射光学素子。
【請求項2】
前記最上層(56)が一つ以上のシロキサン及び/又はポリシロキサンを含む、請求項1に記載の反射光学素子。
【請求項3】
前記最上層(56)が約0.1nm〜2.5nmの範囲の厚さを有する、請求項1又は2に記載の反射光学素子。
【請求項4】
前記最上層(56)が、この最上層(56)を有しない状態の最大反射率と比較されたこの最上層(56)を有する状態の最大反射率の減少が2%未満であるような厚さを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の反射光学素子。
【請求項5】
前記反射面(59)が多層システム(51)を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の反射光学素子。
【請求項6】
前記反射面(59)が、極端紫外線及び軟X線の波長範囲の波長において屈折率の異なる実部を有する少なくとも二つの材料の交互層(54、55)に基づく多層システム(51)を含み、該多層システム(51)が極端紫外線及び軟X線の波長範囲の波長において良好な反射率を有するように設計される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の反射光学素子。
【請求項7】
前記多層システム(51)がケイ素とモリブデンとの交互層(54、55)に基づく、請求項1〜6のいずれか1項に記載の反射光学素子。
【請求項8】
前記最上層(56)の下方にルテニウム(58)及び/又は窒化ケイ素(57)の層を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の反射光学素子。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の反射光学素子を備えたEUVリソグラフィー装置。
【請求項10】
請求項1〜8に記載の反射光学素子を備えた、特にEUVリソグラフィー装置のための照明システム。
【請求項11】
請求項1〜8に記載の反射光学素子を備えた、特にEUVリソグラフィー装置のための投影システム。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の反射光学素子を生産する方法において、
反射面を備えた反射光学素子をチャンバー内に導入するステップと、
炭素・ケイ素結合及び/又はケイ素・酸素結合を有する一つ以上の有機ケイ素化合物を含有するガスを導入するステップと、
電磁放射及び/又は荷電粒子を前記反射面に衝突させるステップと
を含む、方法。
【請求項13】
コーティングチャンバーが前記チャンバーとして使用される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
EUVリソグラフィー装置のチャンバーが前記チャンバーとして使用される、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
極端紫外線照射、軟X線照射、又は電子ビームが使用される、請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
シロキサン含有ガスが導入される、請求項12〜15のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【公表番号】特表2013−502705(P2013−502705A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525093(P2012−525093)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【国際出願番号】PCT/EP2010/005121
【国際公開番号】WO2011/020623
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(503263355)カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー (435)
【出願人】(306025156)アーエスエムエル・ネザーランズ・ベスローテン・フェンノートシャップ (3)
【氏名又は名称原語表記】ASML Netherlands B.V.
【Fターム(参考)】